データ番号 | 057_2 |
作者名 | 江馬務(えまつとむ) |
解説 | 年たちて未だ幾日もあらぬ七日の朝まだき、暁天にとどろく鐘の音にすは火事ぞと屋根に駈けのぼる人あるもをかし。この鐘こそは消防出初の合図とて、市内各消防は片時も猶予ならじと、刺しこの消防制服に着がへ手ごとに鳶口持ち、梯子を擔ぎ蒸気喞筒を牽き、纏を先頭に岡崎公園(おかざきこうえん)に繰出す。近き頃は最新式による自動車喞筒使用せられ、服装も改りて旧制かつかつ泯びゆくもさることなり。公園にては検閲官の機械用具の検閲の後、分隊行進を行ひ、模擬消火の演習をなし、日頃の手練をここに競ふ。やがて検閲官の訓辞ありて酒肴料を受け余興などあり。此の日この盛儀を見むとて公園に集る人多く、何れも空高く立ちのぼる水柱の美しさ、手並の巧妙さに嘆賞の声を洩らさぬはなく、ここにも新春の長閑なる情景の見えてをかし。 |