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人物名

人物名室町宗甫 
人物名読みむろまちそうほ 
場所 
生年 
没年 

本文

宗甫は京師室町四条街に、何がしといへる豪商なりしが、男子二人倶に無頼なるがゆゑに勘当す。然りし後、世中うるせくおぼえて、他の子を嗣として家をゆづるとも、此二人のわろもの来りまつはらば心よからじとて、其家をはじめ、ある所の調度ども皆売たてしに、弐万金になりぬ。おのれはかごかなる所にこもりて、世の交もせず。彼金はまどしき人に施す料とす。さればかうかうなる人いと悲しきさまなるを、銭すこしあたへ給へなどいふ人あれば、いな、われもまどし、と口にはいひて、ひそかに金五両つゝみて其家に投入ル。あるじ此人ならんと推して、謝に来れば、いな、われにはあらずといふ。不意に人に与ふる金は必五片に定む。もし又貧にして家を売人ありと聞ば、価高く買、損ジたる所をつくろひてうつり住かと見れば、やがて価賎売りはなつ。常に陰徳を行ふこと此類にて、二万金残なくなりぬ。またをかしきことは、河豚を好めども、世にありし時はおそれてくらはず、いまはあるもなきも同じ身なりとて、あけくれ是を喰ふ。貧しくなりて好物は唯これ斗也。常に鼠色の綿衣、墨染めの布衣を著たるまゝにて、病て死んとする時、纔に銭三百文、米二合あるのみ。されども此人の恩によりて富たる人々、これかれ聞きつけてとひ来り、ねもごろに介抱して、終をやすくせり。廿余年心のゆくまゝに過して、七十有余なりしとなん。