針供養


データ番号099_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説きさらぎ八日と師走八日は針の供養とて、都鄙の婦女終日裁縫を休み針を手にせず。これを豆腐菎蒻にさして日毎夜毎のわいだめもなくたゆまず糸を運ぶ針に、せめてもの一日の休養を与へそのいさをしを讃ふ。これ旧幕時代(きゅうばくじだい)よりの名残なり。その由緒を尋ぬるに、二月八日は釈尊誕生の日といふ異説古書にあり。師走八日は釈尊成道の日なれば、共に「お事」といひ、釈迦を供養して日ごろ読書算数をおしふる寺僧も此の日は業を休み、裁縫を教ふるその妻も針を休め、仏には「お事汁」とて豆腐菎蒻大根牛蒡人参を小豆汁にて煮て供へ、又人々も食す。豆腐・菎蒻を用ふるはこの故なり。さるを今は何の由緒も知らず、いたづらに業を休むは片腹いたきことなりかし。