十日夷


データ番号003_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説十日夷の売物は、はぜ袋に取鉢・銭かます、小判に金箱・立烏帽子・湯出蓮・才槌・束ね熨斗、お笹をかたげて千鳥足正月十日の夷詣売物の歌は何人も知れる所、はぜ袋はISO/IEC(7CB6)即ち餅米を煎りしを入れし袋、取鉢は米をすくふ鉢、ゆで蓮は蓮根を水煮せしものにて、野蓮を金をのばすに通はして縁起を祝ふもの。昔は是等くさぐさの宝物を笹につけて十日夷の売物とせしを、現今はこの中泯びしもあり。俵、大福帳、升などの加へられらるるあり。大宝小宝など称へて売る伝へいふ。此の十日夷といふは夷の本躰を蛭子命に擬へ、命御年三才に余りて脚立たざりしより、天磐樟船に乗せて海に流されしが、波のまにまに摂津西宮(せっつにしのみや)に漂着し、正月十日広田社(ひろたしゃ)へ幸せしより、十日夷とて祭るといふ。京都にては栄西禅師(えいさいぜんじ)が渡宋に海上の安全を祈り、帰朝して祀りし建仁寺(けんにんじ)夷子社に参詣す。当日大宝小宝の外に箕入福面住吉人形をも売れるが、こは新しきためしにて、住吉人形は一家団欒舞踊の愛たき縁起を祝ひて、住吉初卯詣の売物に倣ひしならむといふ。「吉慶の」「吉慶の」の売声に夷と同じく詣人の耳も聾して、立どころに福運玉るかとぞ覚えしむる。