盧山寺鬼やらひ


データ番号062_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説節分の鬼やらひの中、一入興深きは盧山寺(ろざんじ)の鬼やらひなるべし。同寺は元三大師(げんさんたいし)の草創なれば、大師の行はれし儺会に則り昭和元年(しょうわがんねん)始められしところなり。節分の日午後二時といふに、同寺境内に赤・青・黒に扮したる鬼現はれ、赤鬼は松明と剱、青鬼は鉞、黒鬼は槌を持つ。是れ人生の災禍を火にて焼き剱にて突き、鉞にて断ち、槌にて潰す意なりと。山伏法螺・太鼓の合図をすれば、導師以下本堂に入る。本堂にてはこの時檜葉を盛んに焼き、烟濛々として堂に満ち、瞬時も堪へざらむとす。流石の鬼も堂外に逃げ出づれば、山伏は豆を投げて之を追ひ鬼気を攘ふ。やがて導師は悪魔退散の真如一巻を誦してこの式を終る。此の日この式を観むとて参詣の人踵をつぎ、撒かれし豆を厄払の験ありとて乞ひうけて家苞にする人も多かり。なやらひの式としていと珍らかなる行事なりけり。