彼岸会


データ番号011_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説弥生も央をすぎぬれば、吹く風もいとど長閑に、折ふしおとづるる春雨に木の芽もかつかつ延びゆきて、薄緑映えある若葉もねびまされば、人の心もあはただしうなりまさる。彼岸ともなれは、早咲の花は諸寺の伽藍の間より霞の中に浮みいでて、東山わたりは殊に目もあやなり。その頃洛中諸寺にては彼岸の法要あり。そもそも彼岸とは昼夜等分の時にて、観無量寿経の善導大師(ぜんどうだいし)の註に、仲春は太陽正東よりいでて正西に没す。阿弥陀如来の国土は直西日没の処にあたれば、仏の在所を衆生に示さむため法要を催さるるよし記せり。されば遠国よりふりはえて観光のかたはら洛の中外の寺々に詣づる人も少なからず。わけて自然形勝の地を占むる清水寺(きよみずでら)は、いづれの宗旨のわいだめもなく賽客踵をつぎ、彼岸期中洛中第一の盛況を呈すといふ。