東寺御影供


データ番号017_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説承和二年(じょうわにねん)三月廿一日、我が国真言宗の開祖藝術累々先覚弘法大師(こうぼうだいし)入寂せらるされば、今も一月遅れて四月廿一日、大本山東寺(とうじ)にては御影堂に大師の御像を開扉し百味飯食を供へ、外陣にては一山の僧侶荘厳なる勤行の式を営む。けだしこの東寺は教王護国寺(きょうおうごこくじ)と称し、大師が寵遇を忝ふせし嵯峨天皇(さがてんのう)より大師に下賜せられし東鴻臚館(ひがしこうろかん)を寺院に改められしものなり。当日同寺に参詣するもの貴賤男女幾万と註せらる。この境内潅頂院の門内に井戸あり。大師が雨を祈りし神泉苑(しんせんえん)の神龍池に通ずと伝へらる。井上に縦一尺横一尺五寸あまりの馬の絵馬三枚掲げあり。その中央なるが本年の分なり。この馬の姿勢より相して、本年の風雨をトし吉凶を占ふ。若し馬荒るれば、本年は荒れありと判ずるなり。この判定一もあやまつことはなきは、世に不可思議なる真言の御しるしにや。されば遠近の農夫どもわれ一にと井戸に駈けつけ、悦ぶあり恐しむあり。年によりて夫々異なり、この馬の絵はその年正月元旦、前年の分と取易ふるなりと。いかなる由緒あることならむ。今は知りがたし。