壬生大念仏


データ番号018_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説鑑真大徳(がんじんたいとく)が開基なる壬生寺(みぶでら)にては、例年四月廿一日より五月十日まで同寺舞台にて大念仏会とて狂言を催す。番組は桶取花盗人炮烙割愛宕詣閻魔角力など廿九番を古しとすれど、今は五十番にも余り、何れも特趣なる風俗を扮し、鰐口笛太鼓の調子面白き囃子につれて無言の所作劇を演ずるものにて、寺傍の檀家に若者など奉侍する所なりとぞ。此の狂言の由来を繹ぬるに、同寺の縁起には中興円覚上人(えんかくしょうにん)が早く母に別れ、会ひたき方便にとて踴躍念仏を起し、兼ねて世人にも勧善懲悪の理を悟らしめしことより始りしとあれど、狂言は未だその頃にはなく、江戸時代の始めつかた、簡易なる因果応報の理を悟らしめ、地蔵の摂化に預らしめむ善行方便より遊戯即念仏の妙理により、念仏の間の田楽猿楽の能狂言を参酌して起されしものにて、千本閻魔堂(せんぼんえんまどう)嵯峨釈迦堂(さがしゃかどう)神泉苑(しんせんえん)にも亦同様の狂言行はる。本図は桶取にて松並照子(まつなみてるこ)といふ三つ指の女、尼が池の水を壬生地蔵に捧げ具足再生を祈りし中、和気俊清(わけのとしきよ)と馴れ染めしが、本妻の死霊に祟られしを円覚上人に救はれ得度せし物語を演ぜるなり。開場中大小人の観覧客立錐の地なく、家苞に面・木刀など求め寺よりいづる。福面は頭痛の呪とて諸人乞ひうけ家内に吊すといふ。