壬生狂言


データ番号073_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説地蔵尊を祀れる壬生寺(みぶでら)に例年四月廿一日より五月十日まで行はるる狂言は、鎌倉時代(かまくらじだい)に円覚上人(えんかくしょうにん)が融通念仏を弘め、勧善懲悪因果応報の理を無学の男女に無言の所為によりて悟らしめしに起り、兎もすれば幼時棄てられし母にも観衆中に会ふを得むと楽みしが、上人は果してその所願を達せりといふ。最初は念仏即遊戯の妙理による踊躍念仏なりしが、江戸時代(えどじだい)よりは猿楽の狂言に倣ひ全然古への態を改め、鰐口笛太鼓の音によりて梵字イ、カイを手振として様々の戯曲を演ず。古曲廿九番新作とも五十余番、その古曲中の白眉には桶取あり。その梗概は昔白拍子照子(てるこ)生来三本指なるを悲しみ、壬生寺に具足再生を祈れるうち、日参の和気俊清(わけのとしきよ)といふものその色香に迷ひ、終に両人わりなき仲となりしが、俊清の本妻嫉妬して狂死し悪霊祟りけるを、上人成仏せしめ両人を訓戒して得度せしめし筋なり。その妙技を見むと参詣するもの、今も境内に充満するもげに理なり。