データ番号 | 019_2 |
作者名 | 江馬務(えまつとむ) |
解説 | 西山の麓、木立ものふりしところ神社あり。松尾(まつお)といひ官弊大社に列せらる。祭神に大山昨命(おおやまくいのみこと)(火雷神)市杵島姫(いちきしまひめ)を奉祀す。命、丹塗矢となりて鴨川(かもがわ)に流れまししを、下賀茂社(しもがもじんじゃ)の祭神玉依姫(たまよりひめ)拾ひて床のへに置きておのづから姙み、上賀茂社(かみがもじんじゃ)祭神別雷神を生む。神酒をもて天を祀り昇天せしより、松尾は特に酒屋の信仰するところ中古より祭ありしが、今は四月下卯日神幸、五月上酉日還幸あり。御行列には翁の面とて榊に吊すを先だて、菊御旗太玉串御楯御弓御剱御翳楽人につぎ、六社の神輿一社の神の唐櫃は前後神人に供奉せられて練行す。七条の御旅所との間には桂川(かつらがわ)あり。神還幸共に神輿水ぬるむ川をわたるを此の祭の壮観となす。この祭神は賀茂と父母子の関係あれば、冠調度などに葵の葉をかくること古きためしなり。祭の日に武の御前とて氏子の家々の童ども別に小き神輿につくりてふることあるめり。古は桂川にすてて帰りしが、今は年々同じものを用ふるは、事を省きし今の世のためしに洩れずといふべし。 |