鞍馬初寅


データ番号002_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説七福神の福徳を受けむとて年の始の七福神詣もさるものながら、わけて霊験いやちこなる鞍馬(くらま)の初寅詣にても事は足りぬべし。鞍馬寺(くらまでら)は桓武天皇延暦年中(えんりゃくねんちゅう)藤伊勢人(とうのいせんど)おのが乗れる白馬に鞍を置きて放ちしに、馬駐りし叢の中より初寅の日毘沙門天の尊像を発見し、こを本尊として創建せし所と伝へられ、爾来寅の日をその縁日となしぬ。虎は千里を走るもの、商売また金銀を利するを走るといへば、殊に商人この縁由を喜び、正月初寅の日鞍馬寺に詣づ。此の日寺にては寅刻法華懺法護摩供を修し、参詣者には御剱福富牛王の宝印並びに小判を授与す。いにしへは村人毘沙門天の御使なりといふ蜈蚣大福帳・福等木にて作りし鎰、さては山上より畚下しにて下せし砥石などを売りしが、今はこの風全くすたれぬ。さあれ初寅詣のみは益賑はひ、峯より吹き下す山風身を擘き、白雪のふり積みて膝を没するをも物ともせず、をちこちの人々この山にまうづるは、流石にこの本尊の霊威の成すわざなるべし。