寒念仏


データ番号005_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説寒念仏とは寒三十日の間、僧俗暁天に床をいでて山野市井をめぐり、高らかに念仏を唱へ修行することなり。夫れ念仏とは仏の功徳を憶念帰命し、その仏名を唱する謂なり。この称名念仏は浄土教の発達につれて盛となり、法然上人(ほうねんしょうにん)などより弥陀の名号を称すれば、光明立ところに影向して正覚を得ること、万善万行に勝る易行なりと教へて、念仏宗の要諦となりぬ。寒中念仏に巡行するは、朔風に面し雪を踏み、能く寒威に堪ふる道心の修練と、仏への心からなる奉仕を如実に示すものなるが、又家々の無事息災を祈念するなるべし。身も心も墨染の衣に包み、白の手甲白の脛巾草鞋がけ珠数をつまぐり、金鼓を打ち称名しつつ、霜夜更たけて街をいそぐ一心専念の寒行を見ては、心なきものすら何すれぞそぞろに胸ふたがりて、一掬の涙を濺がざらめや。