宇治縣祭


データ番号028_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説六月五日は宇治外祭の日なれば、入相の鐘ひびく頃より神幸の街はいづこの家も解放して拝観の家を迎へぬるに、男も女も老も若きも家々に泊り込み、己が名をあかさず人の姓もたださず談りあふ。夜子の刻も過ぎぬれば、早や男女のわいだめもなく手枕して臥するあり。怪しきまでに見ず知らずの男女の睡れあふはいかなるゑにしのありてか。午前三時頃、太鼓の響は華胥の夢と驚かして、あらゆる燈火を消しあやめも分かぬ闇の中を、猿田彦の御面ISO/IEC(7DAA)櫃獅子頭御鏡つりし榊御供箱御渡りあり。之に梵天とて神霊の移り給ふなる御幣は多勢に舁がれて神幸あり。これ当地の名流長者氏にて調進する度なりと。男女皆顔に手をあて手を打ちおろがむはそも何の祈ぞや。この祭いにしへは男子全くの裸体にて之を舁ぎ裸祭の名あり。祭神も木花咲耶媛(このはなさくやひめ)、応神天皇妃宮主宅媛(みやぬしおれひめ)あるは宇治悪左府頼長(うじあくさふよりなが)、道鏡(どうきょう)の霊などいひ伝へ侍るままに、祭礼のいとも神秘なるはことわりとぞ覚えし。