七夕鞠


データ番号085_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説文月七日は七夕とて、昔ならば堂上家などにて乞巧奠などすめるを、今は民家に笹たつるだに泯びゆくは口惜し。さあれ華侯会館(かこうかいかん)にては古へ七遊とて詩歌音楽鞠など七種の遊びせし名残とて、華侯地下の人々昔ながらに鳥帽子かぶり色とりどりの装束きて鴨沓はき、かかりの庭につどひ、先づ精大明神に供ふべく梶の技に鞠かけて手向くる儀あり。それより四人かかりの木の下に分れて、ありやの掛声とともに鞠を蹴あふ。あるは高くあるは低くあるは遠くあるは近く、その技千態万化し、その音も清きありうるさきあり。巧を尽し技をたくみて蹴わたす。折ふし紅緑の長袖飜りて胡蝶の舞ふが如く、藤原時代(ふじわらじだい)のてぶりをさながらに見る心地してゆかしともゆかし。昼とはいへ二星照覧あらばいかばかり心を慰めぬらむと、見る人この篤志なる御催しに喩し感ぜぬはなし。