鞍馬火祭


データ番号048_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説午後十一時過ぐる頃より、先づ少年の一隊向鉢巻友禅染の衣裳に同じ前掛、肩に雲斎織をあて、三尺より四五尺の長さの松明をコワ(屋根板の如きもの)にて巻き藤葛にて束ねしものに點火して、サイレヤサイレウと叫びつつ、上より下へ下より上へ行きかふ。時経るままにその数を増し、長さ一丈もあらむずる大炬火を火ながらに肩にしゆくもの数しられず。焔々として鞍馬(くらま)の全山火を以て包まれ、焦熱地獄のごときも心ゆくばかりなりや。午前一時に第二の注連を刀にて切り、人々本社なる靭社へ炬火擔ひて参拝、やがて社より二社の神輿は裸形の男が奉じ、甲冑よろひしもの後見し、神輿の綱は全村の女ども引きあるは縋る。山門過ぐる時十本の幸鉾を先だてて神幸、御旅所には着御と共に甘酒を供へ、神楽は巫女によりて奏せらる。広前にては大松に竹二十本ほど末広にさしたるを焼き、果ては之を舁ぎて七度半めぐることあり。かく全山火にて埋れども、古より火災ありしことなしとかや。例年十月廿二日の夜より始り、あけの日こめわたりたる霧のひまより朝日の洩れくれば、全山静りて寂寥にかへること死したるがごとし。