粟田十二座


データ番号092_2
作者名江馬務(えまつとむ)
解説東山(ひがしやま)の翠峯を南に負ひてとこしへに鎮ります粟田の社(あわたのやしろ)の御祭は、古へ長月十五日に行はれにしが、今は神無月十五日に執行せらる。昼は数ある鉾の渡御あり、かの白川(しらかわ)の石橋の上にて曲差するは、呼物の一にこそあめれ。夜は神輿動座あるままに、氏子の此丁いづれも揃の浴衣に向う鉢巻して高張を先だて、高さ数間の竿に大提灯十二を組立て上に鈴あり風流あり、神輿の前列を承りてゆく手を照す。この組立ての奇巧装飾の優婉まこと全国にも比類稀なるべし。しかるに廿年前よりこの事頓に衰へ、電線の切断の恐れもあれば形も小くして、ここらの少年打ちつどひ昔忘れぬ姿にて「よつさい、よつさい」と勇ましく舁ぎて社に詣づ。町皎々たるその光は星づく夜を照して、夜を飾る洛中の事々の中にもめづらかなる行事としてたたへぬものもあらざるべし。