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人物名

人物名 端文仲 
人物名読み たんぶんちゅう 
場所 江戸  近江神崎郡相谷  京都 
生年  
没年  

追記
人物名 氏家伯寿 
人物名読み うじいえはくじゅ 
場所  
生年  
没年  
本文

端隆、字文仲、通名順助、春荘と号す。書林なりしかど、隠操ある人にて、詩を能して名あり。天明の火にあひて大に零落す。しかれども、 春荘帖と名付る書画帖を懐にして、知己の諸名家に乞てしるさしめ、此帖はおのが別荘なりとたのしめり。発心集に家の図をかきてよろこびけるおとこ有しに似 たり。その作、彼帖の首にかけるは、 半開全盛競フ春光ヲ。日日帰レバ家ニ衣袖香ハシ。 酒館ノ佳招僧院ノ約。人情一月為ニ花ノ忙。 (半開全盛春光ヲ競フ、日日家二帰レバ衣袖香ハシ。 酒館ノ佳招僧院ノ約、人情一月花ノ為ニ忙ハシ。) 又 偸ンデ閑ヲ午日惜シム芳菲ヲ。惆帳ス花前旧友ノ非ナルヲ。 酔後縦トヒ能ク紅照ラストモ面ヲ。時々作シテ雪ト飛ブ鬢辺ニ。 (又 閑ヲ偸ンデ午日芳菲ヲ惜シム、惆帳ス花前旧友ノ非ナルヲ。 酎後縦トヒ能ク紅面ヲ照ラストモ、時々雪ト作シテ鬢辺ニ飛ブ。) 六如上人、多年此人を憐ぶ故に、死を哭して次ギテ其絶筆ノ詩韻ヲ曰ク、 文仲戊申罹リ災ニ。家産蕩尽シ。尋復タ得疾ヲ。其病中立秋ノ詩ニ曰ク。閏ハ接シテ林鐘ニ暑更ニ獰。上蒸シ下湿シテ瘧瘟并。墦間芻具医調護シ。棺後ノ詩名天 ノ寵栄。老雀引キテ雛ヲ窮巷寂タリ。新篁灑月ヲ敗簾清シ。五更ノ行雨交リ金吹ニ。秋ハ自リ白川水北生ズ。作リテ此詩ヲ後遂ニ不復タ起タ。終ニ為ル絶筆ト。 先廬委シテ燼ニ鬱攸獰。錯莫賃居貧病并。 一盎粮支フ百銭ノ卜。数篇詩敵ス五侯ノ栄。 舟移ル夜壑ニ命何ゾ促セマル。墓傍シテ青山ニ骨モ亦清シ。 得テ句ヲ猶思ヒ来リテ質ス我ニ。毎ニ逢フ風景ニ感逾ニ生ズ。 上人末句自註曰。生毎得詩。或有推敲末穏者。輒来詢之余。余曰。某字可。若称 其意則低頭合掌謝不置喜形于色。若不称意。則頭也不 低。掌也不合。傲然掉頭曰。厚字尚勝也。其真率若此。交遊中能有若人乎。此事今尚往来于胸中也。 (文仲戊申災ニ罹リ、家産蕩尽シ、尋イデ復タ疾ヲ得。其ノ病中立秋ノ詩ニ曰ク、閏ハ林鐘ニ接シテ暑サ更ニ獰シ。上蒸シ下湿シテ瘧瘟并ハス。墦間ノ芻具医調 護シ、棺後ノ詩名天ノ寵栄。老雀雛ヲ引キテ窮巷寂タリ。新篁月ヲ灑シテ敗簾清シ。五更ノ行雨金吹ニ交リ、秋ハ白川水北自リ生ズ。此詩ヲ作リテ後遂ニ復タ起 タズ、終ニ絶筆トナル。 先盧燼ニ委シテ鬱攸獰シ、錯莫賃居貧病并ス。 一盎粮支フ百銭ノ卜、数篇詩敵ス五侯ノ栄。 舟夜壑ニ移ル命何ゾ促ル、墓青山ニ傍シテ骨モ亦清シ。 句ヲ得テ猶思ヒ来リテ我ニ質ス、風景二逢フ毎ニ感逾ト生ズ。 上人末句ノ自註ニ曰ク。生、詩ヲ得ル毎ニ、或ハ推敲末ダ穏ナラザル有レバ。輒 チ来リテ之ヲ余ニ詢フ。余曰ク。某ノ字可ナリト。若 シ其ノ意ニ称ヘバ、則チ低頭合掌謝シテ喜ビヲ置カズ、色ニ形ハル。若シ意ニ称ハズバ、則チ頭マタ低カラズ。掌マタ合ハサズ。傲然頭ヲ掉シテ曰ク。原ノ字尚 勝レリト。其ノ真率此ノ如シ。交遊ノ中能ク若キ人有ランヤ。此ノ事今尚胸中ニ往来スル也。) 〇九齢、字伯寿、号ス蓋山人ト。本姓は加藤、近江佐々木山の麓、清水邑の人、詩を好み歌をも嗜む。若くして家産に疎きゆゑ、家弟に業を継しめ他邦に遊ぶ。 後京師、氏家柳園なる人、母家の縁あるによりて、其女に配し、其家を継グ。柳園は医人にて多能、有賀下流の歌をよみし人なり。伯寿は漢学を教授し、すこぶ る歌をも唱ふ。然もみづから所作ルの詩歌すべて書もとゞめず散リ失たるを、歿後、知己の人はつかに集るもの有、其二三首左に挙ぐ。性瓢逸風韻有、且古詩を 説話することを得て、人を絶倒せしむ。晩年には王陽明の学を信じたり。京師中にしてやゝ名をなすにおよび、久しく病て歿す、をしむべし。 琵琶湖二首 万頃ノ煙波涵大清ヲ。琵琶何レノ歳ゾ作ス湖ノ名ト。 園ハ存ス石鹿皇都ノ跡。藩ハ壮ナリ金亀侯国ノ城。 諸島争ヒテ奇ヲ盤上ニ峙チテ。千山浸シテ秀ヲ鏡中ニ平ナリ。 淊淊タル八百余川ノ水。向ヒテ此ニ朝宗ス日夜ノ声。 西北ノ名山数十峰。巍然トシテ紫翠画中ニ濃カナリ。 風前ノ唫鳳笙洲ノ竹。礒上ノ臥竜琴館ノ松。 天接シテ中流ニ涵シ日月ヲ。地開キテ東海ニ吐ク芙蓉ヲ。 丈夫不バ識ラ名区ノ壮ヲ。宇宙何ニ由リテ披カン矌胸ヲ。 (琵琶湖二首 万頃ノ煙波大清ヲ涵タス。琵琶何レノ歳ゾ湖ノ名トナス。 園ハ存ス石鹿皇都ノ跡。藩ハ壮ナリ金亀侯国ノ城。 諸島奇ヲ争ヒテ盤上ニ峙チテ、千山秀ヲ浸シテ鏡中ニ平ナリ。 淊淊タル八百余川ノ水、此ニ向ヒテ朝宗ス日夜ノ声。 西北ノ名山数十峰、巍然トシテ紫翠画中ニ濃カナリ。 風前ノ唫鳳笙洲ノ竹。礒上ノ臥竜琴館ノ松。 天中流ニ接シテ日月ヲ涵シ、地東海ニ開キテ芙蓉ヲ吐ク。 丈夫名区ノ壮ヲ識ラズバ、宇宙何ニ由リテ矌胸ヲ披カン。) 寄ス東適禅師ニ 高僧ノ丈室倚ル岧嶤。千仞ノ機鋒凌グ碧宵ヲ。 講法台前馴ル猛虎ニ。参禅会上斬ル児猫ヲ。 寒渓ノ明月敲キテ氷ヲ汲ミ。暮嶺ノ白雲分ケテ雪ヲ樵ス。 久シク抱キテ煙霞ヲ負ク蓮社ニ。思フテ師ヲ永夜夢塊遥ナリ。 (東適禅師ニ寄ス 高僧ノ丈室山岧嶤ニ倚ル。千仞ノ機鋒碧宵ヲ凌グ。 講法台前猛虎ニ馴ル。参禅会上児猫ヲ斬ル。 寒渓ノ明月氷ヲ敲キテ汲ミ、暮嶺ノ白雲雪ヲ分ケテ樵ス。 久シク煙霞ヲ抱キテ蓮社二負ク。師ヲ思フテ永夜夢魂遥ナリ。) 明妃曲 氈帳ノ秋ノ風憶フ漢都ヲ。君主命ジテ妾ニ和セシム単于ヲ。 此身空シク解ス誤ルコトヲ明鏡ニ。恨ハ在テ娥眉ニ不画図ニアラ。 (明妃曲 氈帳ノ秋ノ風漢都ヲ憶フ。君主妾ニ命ジテ単于ヲ和セシム。 此身空シク明鏡ニ誤ルコトヲ解ス。恨ハ娥眉ニ在リテ画図ニアラズ。) 右二生はさして奇のいふべきこともなけれど、生涯意を得ずして歿するを憐がうへに、前編の著をふかく称して、世にしられぬ人のしらるゝをよろこびしかば、 こたび花顚は春荘が伝を挙、おのれ又伯寿をあはせていさゝか友誼を終ふ。