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人物名 |
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本文 |
備前国岡山に津田某といへる経済に長じたる士有。新田を開んとするに、かたかたは山にそひ、かたかたは海に添地なれば、其海のかたに石をたゝみ界とせば、十万の米を得べけれども、其初メに人柱とて男女にかぎらず、一人を竜宮に貢せざれば成就せず。されども罪科を犯せしものは用ず、誤て海中に落たるもの又用にあたらずといひ伝ふ。さればせんかたなく其事やみけるに、きたといへる孀女きゝ及て、もしおのれが命にてもくるしからずば奉らんといふまゝ、其女を召てとひ給ふに、さして何をうしとおもふにもあらねど、生て益なき命なれば、死て世のためにならんと思ふ也ともうす。ひとへに思ひ入たる趣なれば、志神妙也。死せば新地の産土神にあふがんと仰ありければ、斎戒沐浴して潔く海に入ぬ。かゝればその地主ノ神に祠り、今も於幾多明神と称ふとぞ。 (追記) 華顚云、道入は憑仏ニて死生を一つにす。義観は義のために隕命ヲ、皆奇とすべきを、わきて此きた女、故なく国のために大洋に沈む節操、智勇の士も及ばず、奇のまた奇なるものなり。 |