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人物名 |
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本文 |
土佐国侯に仕へし天学者、川谷貞六といへるは、其道に通じて、しかも風顚漢也。はた神学を兼たれば駿台雑話を難じてかけるものあり。其奥に一首の歌を添ふ。 うまれこしかひある国としらねばやこと浦にのみひろふあま人 これは国君へ奉りしとぞ。一日天象を見て俄に親族をつどへていふ、吾明後日死ぬべし。たゞし其日の早天、公より吾を召て天文のことを尋給ふべし。其事終りて城外に出て、必身まかるべし。各其所に来り給れ、といふ。例の奇をいふにやと信ぜずながら、いとま乞の盃とて出したるを呑て帰りぬ。はたして其日の寅の刻召有て、卯刻に登城す。天学の仰ごとに答へて、未の半刻に及び事終て、竹輿に乗て、城下十町斗出、其約したる人々の来れるにあひ、即逝す。術の奇、古人に恥ずといふべし。 |