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人物名

人物名遊女某尼 
人物名読み 
場所 
生年 
没年 

本文

書林木村生、富春叟儒士の詩集に出たる趣をしめさるゝ所、先に聞しに異なることあれば録す。妓たりし時の名は鴎洲、性聡恵、色芸第一に推し、俊逸たる士にあらざれば相親しむことを得ず。銭清調といへるが銭やといへる家号なるべし。 贖ひて妾とし、惑ふこと甚しく、つひに其妻を出すに及ぶ。こゝにおいて親族僉清調を責、鴎洲を一室の中にとりこめしに、妻これをきゝてかへりて鴎洲を憐み、ひとかに人をしてとひ慰め、贈り物など絶ることなし。鴎洲其貞良妬ことなき志に恥、情郎にこひて遁れて北山寂光院に入て尼となり、名を智雲といふとなん。是は、春叟、北山の勝を探るついで、寂光院に至り、智雲にまみえしといへる詩の小引に記さるゝ旨也。其詩にいはく、 綺羅叢裡脱ス迷沈ヲ。絃管何ゾ如カン鐘磬ノ音ニ。 細雨残花山院寂タリ。想フニ応無カル夢ノ乱ル禅心ヲ。 (綺羅叢裡迷沈ヲ脱ス、絃管何ゾ如カン鐘磬ノ音ニ。 細雨残花山院寂タリ、想フニ夢ノ禅心ヲ乱ル無カルベシ。) 木村生は彼院にもよしみありてしる所、撞鐘も此尼の造立にて銘に智雲の名有。生涯清修弗懈とぞ。先キに聞しは妻を迎ふるがために障ならんと出されしといふ。是は妻の貞良に感じて発心すといふ。是ことなる所にして、其余、清調が老母との応対、病に臨みて医薬を辞し、はた大橋に其志を告しなどは違はざるべし。