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人物名

人物名 白幽子 
人物名読み  
場所  
生年  
没年  

本文

此人、前編の予が評に、其人実にありや、白隠禅師其説を述んがために仮に此人をまうけられしも知べからず、と疑しが、後に相州金沢の僧 若霖若霖、字桃蹊、四方に来 往して錫を留るところを知ず。詩をもて白石と方外の遊びをなすとなん。 詩集、宜遊草を書肆竹苞楼示さる。其中に訪フ白幽子ヲ詩二首あり。 秋興招キテ吾ヲ沂リ白水ニ。嵐光踏破シテ訪フ幽踪ヲ。 山村籬外一枝ノ菊。石径耳辺十里ノ松。 ■戸不厭遊客ノ扣クヲ。岩■只有リ懶雲ノ封ズル。 遠ク来テ為ニ問フ山居ノ好キコトヲ。冷露未ダ晞鳴ク草蛩。 (秋興吾ヲ招キテ白水ニ沂リ、嵐光踏破シテ幽踪ヲ訪フ。 山村籬外一枝ノ菊、石径耳辺十里ノ松。 ■戸厭ハズ遊客ノ扣クヲ。岩■只懶雲ノ封ズル有リ。 遠ク来テ為ニ問フ山居ノ好キコトヲ。冷露未ダ晞カズ草蛩鳴ク。) 又 羨ミ看ル幾時カ隠ルヲ清時ニ。独リ倚ツテ石屏ニ借ル二晩曦ヲ。 一径苺苔余シ兎跡ヲ。半肩ノ薪棘対ス仙碁ニ。 市寰ノ日月本ト非ズ別ニ。洞裏ノ景光稍似タリ遅キニ。 除却シテ山中松柏ノ翠ヲ。秋風揺落更ニ無シ私。 (又 羨ミ看ル幾ク時カ清時ニ隠ルヲ、独リ石屏ニ倚ツテ晩曦ヲ借ル。 一径苺苔兎跡ヲ余シ、半肩ノ薪棘仙碁ニ対ス。 市寰ノ日月本ト別ニ非ズ、洞裏ノ景光稍遅キニ似タリ。 山中松柏ノ翠ヲ除却シテ、秋風揺落更ニ私無シ。) 後又、白幽子自筆の作文を或人の蔵せるを借出て見せられしかば、其まゝにうつして左に掲ぐ。其高趣もまたみるべし。

又其墓を同じ人探得たり。真如堂の北、芝の墓といへるにて、方石に刻す。

表 松風窟白幽子之墓 横 白川山居隠士 背 宝永六己丑初秋二十五日 かゝれば其人の実有は論なし。竹苞主人が此翁につきて重畳功あるもをかし。しかるに猶いぶかしきは、白隠和尚の訪れしは庚寅正月なること前編に挙るがごと し。墓碑は前年己丑也。若生存の日に建しかともいふべけれど、二十五日とあるは其歿日なるべきことわりなり。畢竟、隠士の名をかりて丈山の師也。寿二百歳 にも過たらんなど、仙のごとく取なして、其示説を神にせらるといはんか。あるひは老後、とし月の空記得のまゝに録したまふといはんは難なし。猶世によく識 人もあらん。

閑田子録ス之ヲ

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