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人物名

人物名尼 破鏡 
人物名読みはきょう 
場所近江膳所藩 
生年 
没年 

本文

破鏡は、膳所の士菅沼外記が妻也。外記はばせを門人にて、馬指堂曲翠といひて、俳諧をもて世にしらる。妻は和泉岸和田の士の女にして、和歌を好み、つくし箏の妙手也。一とせ夫とゝもに故郷に趣き、播磨路を行めぐりし道の記をかけるなど、文章もいとよしと、見しる人語られき。予も見んとほりすれど、いまだ探得ず。外記は、傍輩の曾我権大夫といへるもの寵を恃て、上下のためよからぬことゞも重り、人皆悪めどもせんかたなく歯を噛しを、己が家に招き入、悪事を責て殺害し、其身も心静に腹切て失しが、主君の非なる名を忌ミて、私の争論にもてなしたれば、侯怒て、その子内記といへるが江戸に有けるも、自尽を命ぜられて家亡びぬ。されば今もかしこには語つたへて、忠誠を悲しむとぞ。かゝれば妻は尼になりて、堺津に隠れ住ミ、もとより好めるうたをよみ、糸をならして、悶を遺リける。その箏の手今もそこに残りて、破鏡流といへりとなん。破鏡再び照さず、といふ心をもて、薙髪の名につきけるも、貞操の意に風流みゆ。曲翠の名は聞えても忠誠の実はかくれぬ。まして妻は俳諧によらざれば、その徒も知らぬ人多ければをしくて聞まゝにしるす。