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人物名 |
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本文 |
長崎の人某氏、今遺亡す。 吉左衛門といへるは、貧にして学を好めり。生平酒を嗜むこと人に過たれば、猩々翁と称す。ひとゝせ此地米穀ともしかりし時、数日不食ハ、智院の人々食を贈れどもあへてうけず。吾此恩をかづきて報ゆべき余命なし、といひて、ついに近思録を看ながら餓死せりと。本地の儒士、西川氏の記に褒賞せり。 (追記) 私按、礼檀弓に、餓人嗟来の食をうけず、与ふるもの謝せりといへども、つひに不喰ハして死せるを評して、曾子曰ク、微与、其の嗟や去べし、とみえたるにつきておもへば、乞丐をもてみるは嗟来也。然るに是を謝せば食べしとさへいへるに、此長崎人の知音、よも礼なくして贈るにはあらざるべく、もとより朋友に財を通ずるの道あるをや。餓死に及べるは狂狷の甚しきもの歟。但し次に竜袋を評せるをあはせみるべし。世の貪人には、是等の人の毛髪の末をも吸うせばやと嘆ず。 |