いづこの人といふことをしらず。乞丐の如くにて、近江愛知川のわたり、高宮のほとりを狂ありく僧あり。あるとき彦根某寺の和尚に行あふ。狂僧問て曰、和尚法味は如何。答て日、如シ流るゝ。詰日、塞如何。和尚答ることあたはず。狂僧頓に和尚を推倒し、柱杖を奪ひて背を春うたふ、一夜ちんちんちがはゞ、いく夜さちがふもしれませぬ、和尚什麼、と。即走去ル。是其比の童謡を用るなり。彼師家も恥て寺に帰らずといふ。