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人物名 |
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本文 |
徳本は永田氏、伊豆、武蔵の間を行めぐり、薬籠を負て、かひの徳本一服十六銭、と呼て売ありく。江戸に有ける時、大樹君御病あり、典薬の諸医手を尽せどもしるしなかりけるに、誰かまうしけん、徳本を召て療ぜしめ給ふに、不日にして平がせ給ふ。されば賞としていろいろのものを下し賜りけれども、敢てうけず、たゞ例の一貼十六文に限る薬料をのみ申下したりければ、其清白を称しあへり。されば上にもしろし召けん、何にまれ願事あらば申べきよし頻に命ぜられしかば、さらば我友のうちに家なきを悲しぶものあり、是に家を賜らばなほ吾に賜はるがごとくならん、とまうしゝほどに、即甲斐国山梨郡の地に金を添て賜りぬ。やがて其ものを呼てとらせ、其身はまた薬を売て行へしらずなりぬ。彼地は徳本屋敷とて今も残れりとぞ。此老の著述、梅華無尽蔵と号す。近年刻に付り。薬方古によらず頗奇也。薬名も一家の隠名をもちゆ。 |