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西行法師家集


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作品集名西行法師家集 
作品集名読みさいぎょうほうしかしゅう 
作成年月日成立年時未詳(※1190年)
場所 

西行法師家集 春
西行法師家集 夏
西行法師家集 秋
西行法師家集 冬
西行法師家集 恋
西行法師家集 雑
西行法師家集 追加

西行法師家集 春

00001
未入力 西行 (xxx)

岩間とちし氷も今朝はとけそめて苔の下水みちもとむらん

いはまとちし−こほりもけさは−とけそめて−こけのしたみつ−みちもとむらむ


00002
未入力 西行 (xxx)

ふりつみし高ねのみ雪とけにけり波滝川の水の白浪

ふりつみし−たかねのみゆき−とけにけり−なみたきかはの−みつのしらなみ


00003
未入力 西行 (xxx)

立ちかはる春をしれとも見せかほに年をへたつる霞なりけり

たちかはる−はるをしれとも−みせかほに−としをへたつる−かすみなりけり


00004
未入力 西行 (xxx)

くる春は嶺の霞をさきたてて谷のかけひをつたふなりけり

くるはるは−みねのかすみを−さきたてて−たにのかけひを−つたふなりけり


00005
未入力 西行 (xxx)

こせりつむ沢の氷のひま見えて春めきわたる桜井の里

こせりつむ−さはのこほりの−ひまみえて−はるめきわたる−さくらゐのさと


00006
未入力 西行 (xxx)

春あさみすすのまかきに風さえてまた雪きえぬしからきの里

はるあさみ−すすのまかきに−かせさえて−またゆききえぬ−しからきのさと


00007
未入力 西行 (xxx)

春になる桜かえたは何となく花なけれともむつましきかな

はるになる−さくらかえたは−なにとなく−はななけれとも−むつましきかな


00008
未入力 西行 (xxx)

すきて行く羽風なつかし鴬よなつさひけりな梅の立えに

すきてゆく−はかせなつかし−うくひすよ−なつさひけりな−うめのたちえに


00009
未入力 西行 (xxx)

鴬はゐなかの谷の巣なれともたみたる音をは鳴かぬなりけり

うくひすは−ゐなかのたにの−すなれとも−たみたるねをは−なかぬなりけり


00010
未入力 西行 (xxx)

かすめとも春をはよその空にみてとけんともなき雪の下水

かすめとも−はるをはよその−そらにみて−とけむともなき−ゆきのしたみつ


00011
未入力 西行 (xxx)

森しれと谷の細水もりそ行く岩間の氷ひまたえにけり

もりしれと−たにのほそみつ−もりそゆく−いはまのこほり−ひまたえにけり


00012
未入力 西行 (xxx)

鴬のこゑそ霞にもれてくる人目ともしき春の山里

うくひすの−こゑそかすみに−もれてくる−ひとめともしき−はるのやまさと


00013
未入力 西行 (xxx)

我なきて鹿秋なりと思ひけり春をもさてや鴬のしる

われなきて−しかあきなりと−おもひけり−はるをもさてや−うくひすのしる


00014
未入力 西行 (xxx)

雲にまかふ花のさかりをおもはせてかつかつかすむみ吉野の山

くもにまかふ−はなのさかりを−おもはせて−かつかつかすむ−みよしののやま


00015
未入力 西行 (xxx)

浪こすとふたみの松の見えつるは梢にかかる霞なりけり

なみこすと−ふたみのまつの−みえつるは−こすゑにかかる−かすみなりけり


00016
未入力 西行 (xxx)

春ことに野辺の小松をひく人はいくらの千代のふへきなるらん

はることに−のへのこまつを−ひくひとは−いくらのちよの−ふへきなるらむ


00017
未入力 西行 (xxx)

若なつむけふははつねのあひぬれはまつにや人のこころひくらん

わかなつむ−けふははつねの−あひぬれは−まつにやひとの−こころひくらむ


00018
未入力 西行 (xxx)

けふはたたおもひもよらて帰りなん雪つむ野への若菜なりけり

けふはたた−おもひもよらて−かへりなむ−ゆきつむのへの−わかななりけり


00019
未入力 西行 (xxx)

春雨のふる野の若菜おひぬらしぬれぬれつまんかたみぬきいれ

はるさめの−ふるののわかな−おひぬらし−ぬれぬれつまむ−かたみぬきいれ


00020
未入力 西行 (xxx)

若菜おふ春の野守に我なりて浮世を人につみしらせはや

わかなおふ−はるののもりに−われなりて−うきよをひとに−つみしらせはや


00021
未入力 西行 (xxx)

ふるすうとく谷の鴬なりはては我やかはりてなかんとすらん

ふるすうとく−たにのうくひす−なりはては−われやかはりて−なかむとすらむ


00022
未入力 西行 (xxx)

梅かかにたくへて聞けは鴬のこゑなつかしき春の明ほの

うめかかに−たくへてきけは−うくひすの−こゑなつかしき−はるのあけほの


00023
未入力 西行 (xxx)

独ぬる草のまくらのうつり香はかきねの梅の匂ひなりけり

ひとりぬる−くさのまくらの−うつりかは−かきねのうめの−にほひなりけり


00024
未入力 西行 (xxx)

ぬしいかに風わたるとていとふらんよそにうれしき梅の匂ひを

ぬしいかに−かせわたるとて−いとふらむ−よそにうれしき−うめのにほひを


00025
未入力 西行 (xxx)

おひかはる春の若草待ちわひて原のかれ野にききすなくなり

おひかはる−はるのわかくさ−まちわひて−はらのかれのに−ききすなくなり


00026
未入力 西行 (xxx)

もえ出つる若菜あさるときこゆなり雉子鳴くのの春の明ほの

もえいつる−わかなあさると−きこゆなり−ききすなくのの−はるのあけほの


00027
未入力 西行 (xxx)

何となくおほつかなきは天の原霞にきえて帰る雁かね

なにとなく−おほつかなきは−あまのはら−かすみにきえて−かへるかりかね


00028
未入力 西行 (xxx)

玉つさのはしかきかとも見ゆるかなとひおくれつつ帰るかりかね

たまつさの−はしかきかとも−みゆるかな−とひおくれつつ−かへるかりかね


00029
未入力 西行 (xxx)

いかて我とこ世の花のさかりみてことわりしらむ帰るかりかね

いかてわれ−とこよのはなの−さかりみて−ことわりしらむ−かへるかりかね


00030
未入力 西行 (xxx)

帰る雁にちかふ雲路の燕めこまかにこれやかける玉章

かへるかりに−ちかふくもちの−つはくらめ−こまかにこれや−かけるたまつさ


00031
未入力 西行 (xxx)

色よりも香はこきものを梅の花かくれんものかうつむ白雪

いろよりも−かはこきものを−うめのはな−かくれむものか−うつむしらゆき


00032
未入力 西行 (xxx)

とめゆきてぬしなき宿の梅ならは勅ならすともをりて帰らん

とめゆきて−ぬしなきやとの−うめならは−ちよくならすとも−をりてかへらむ


00033
未入力 西行 (xxx)

梅をのみ我か垣ねには植置きて見に来ん人に跡しのはれん

うめをのみ−わかかきねには−うゑおきて−みにこむひとに−あとしのはれむ


00034
未入力 西行 (xxx)

とめこかし梅さかりなる我か宿をうときも人はをりにこそよれ

とめこかし−うめさかりなる−わかやとを−うときもひとは−をりにこそよれ


00035
未入力 西行 (xxx)

見わたせはさほの川原にくりかけて風によらるる青柳の糸

みわたせは−さほのかはらに−くりかけて−かせによらるる−あをやきのいと


00036
未入力 西行 (xxx)

山かつのかたをかかけてしむる野のさかひにたてる玉のを柳

やまかつの−かたをかかけて−しむるのの−さかひにたてる−たまのをやなき


00037
未入力 西行 (xxx)

君こすは霞にけふも暮れなまし花待ちかぬる物かたりせよ

きみこすは−かすみにけふも−くれなまし−はなまちかぬる−ものかたりせよ


00038
未入力 西行 (xxx)

吉野山桜かえたに雪ちりて花おそけなる年にも有るかな

よしのやま−さくらかえたに−ゆきちりて−はなおそけなる−としにもあるかな


00039
未入力 西行 (xxx)

山さむみ花さくへくもなかりけりあまりかねてそ尋ねきにける

やまさむみ−はなさくへくも−なかりけり−あまりかねてそ−たつねきにける


00040
未入力 西行 (xxx)

山人に花さきぬやと尋ぬれはいさ白雲とこたへてそ行く

やまひとに−はなさきぬやと−たつぬれは−いさしらくもと−こたへてそゆく


00041
未入力 西行 (xxx)

吉野山こそのしをりの道かへてまたみぬかたの花を尋ねん

よしのやま−こそのしをりの−みちかへて−またみぬかたの−はなをたつねむ


00042
未入力 西行 (xxx)

よしの山人にこころをつけかほに花よりさきにかかる白雲

よしのやま−ひとにこころを−つけかほに−はなよりさきに−かかるしらくも


00043
未入力 西行 (xxx)

咲きやらぬものゆゑかねて物そおもふ花に心のたえぬならひに

さきやらぬ−ものゆゑかねて−ものそおもふ−はなにこころの−たえぬならひに


00044
未入力 西行 (xxx)

花を待つ心こそなほ昔なれ春にはうとくなりにしものを

はなをまつ−こころこそなほ−むかしなれ−はるにはうとく−なりにしものを


00045
未入力 西行 (xxx)

かたはかりつほむと花を思ふより空また風の物になるらん

かたはかり−つほむとはなを−おもふより−そらまたかせの−ものになるらむ


00046
未入力 西行 (xxx)

またれつる吉野の桜さきにけり心をちらせ雪の山風

またれつる−よしののさくら−さきにけり−こころをちらせ−ゆきのやまかせ


00047
未入力 西行 (xxx)

さきそむる花を一えたまつ折りて昔の人のためとおもはん

さきそむる−はなをひとえた−まつをりて−むかしのひとの−ためとおもはむ


00048
未入力 西行 (xxx)

あはれわかおほくの春の花をみてそめおく心誰にゆつらん

あはれわか−おほくのはるの−はなをみて−そめおくこころ−たれにゆつらむ


00049
未入力 西行 (xxx)

山人よ吉野のおくのしるへせよ花もたつねんまた思ひあり

やまひとよ−よしののおくの−しるへせよ−はなもたつねむ−またおもひあり


00050
未入力 西行 (xxx)

おしなへて花のさかりになりにけり山の端ことにかかる白雲

おしなへて−はなのさかりに−なりにけり−やまのはことに−かかるしらくも


00051
未入力 西行 (xxx)

春をへて花のさかりにあひきつつ思ひておほき我か身なりけり

はるをへて−はなのさかりに−あひきつつ−おもひておほき−わかみなりけり


00052
未入力 西行 (xxx)

ねかはくは花の下にて春しなんその着更衣のもち月のころ

ねかはくは−はなのもとにて−はるしなむ−そのきさらきの−もちつきのころ


00053
未入力 西行 (xxx)

花にそむ心のいかて残りけんすてはててきと思ふ我かみに

はなにそむ−こころのいかて−のこりけむ−すてはててきと−おもふわかみに


00054
未入力 西行 (xxx)

よしの山やかて出てしとおもふみを花ちりなはと人や侍つらん

よしのやま−やかていてしと−おもふみを−はなちりなはと−ひとやまつらむ


00055
未入力 西行 (xxx)

ちらぬまはさかりに人もかよひつつ花に春あるみよしのの山

ちらぬまは−さかりにひとも−かよひつつ−はなにはるある−みよしののやま


00056
未入力 西行 (xxx)

あくかるる心はさても山桜ちりなん後やみにかへるへき

あくかるる−こころはさても−やまさくら−ちりなむのちや−みにかへるへき


00057
未入力 西行 (xxx)

仏には桜の花をたてまつれ我か後の世を人とふらはは

ほとけには−さくらのはなを−たてまつれ−わかのちのよを−ひととふらはは


00058
未入力 西行 (xxx)

花さかり梢をさそふ風なくてのとかにちらん春にあははや

はなさかり−こすゑをさそふ−かせなくて−のとかにちらむ−はるにあははや


00059
未入力 西行 (xxx)

白河の木すゑをみてそなくさむる吉野の山にかよふ心を

しらかはの−こすゑをみてそ−なくさむる−よしののやまに−かよふこころを


00060
未入力 西行 (xxx)

わきて見ん老木は花もあはれなり今幾たひか春にあふへき

わきてみむ−おいきははなも−あはれなり−いまいくたひか−はるにあふへき


00061
未入力 西行 (xxx)

おいつとに何をかせましこの暮の花待ちつけぬ我かみなりせは

おいつとに−なにをかせまし−このくれの−はなまちつけぬ−わかみなりせは


00062
未入力 西行 (xxx)

よしの山花をのとかに見ましやはうきかうれしき我か身なりけり

よしのやま−はなをのとかに−みましやは−うきかうれしき−わかみなりけり


00063
未入力 西行 (xxx)

山路わけ花をたつねて日は暮れぬ宿かし鳥の声もかすみて

やまちわけ−はなをたつねて−ひはくれぬ−やとかしとりの−こゑもかすみて


00064
未入力 西行 (xxx)

鴬のこゑを山路のしるへにて花みてつたふ岩のかけ道

うくひすの−こゑをやまちの−しるへにて−はなみてつたふ−いはのかけみち


00065
未入力 西行 (xxx)

ちらはまたなけきやそはん山桜さかりになるはうれしけれとも

ちらはまた−なけきやそはむ−やまさくら−さかりになるは−うれしけれとも


00066
未入力 西行 (xxx)

白川の関路の桜咲きにけりあつまよりくる人のまれなる

しらかはの−せきちのさくら−さきにけり−あつまよりくる−ひとのまれなる


00067
未入力 西行 (xxx)

谷風の花の波をし吹きこせはゐせきにたてる嶺の村まつ

たにかせの−はなのなみをし−ふきこせは−ゐせきにたてる−みねのむらまつ


00068
未入力 西行 (xxx)

ちらてまてと都の花をおもはまし春かへるへき我かみなりせは

ちらてまてと−みやこのはなを−おもはまし−はるかへるへき−わかみなりせは


00069
未入力 西行 (xxx)

いにしへの人の心のなさけをはふる木の花の梢にそしる

いにしへの−ひとのこころの−なさけをは−ふるきのはなの−こすゑにそしる


00070
未入力 西行 (xxx)

春といへは誰も吉野の山とおもふ心にふかきゆゑやあるらん

はるといへは−たれもよしのの−やまとおもふ−こころにふかき−ゆゑやあるらむ


00071
未入力 西行 (xxx)

あかつきとおもはまほしき音なれや花に暮れぬる入あひのかね

あかつきと−おもはまほしき−おとなれや−はなにくれぬる−いりあひのかね


00072
未入力 西行 (xxx)

今の我も昔の人も花みてん心の色はかはらしものを

いまのわれも−むかしのひとも−はなみてむ−こころのいろは−かはらしものを


00073
未入力 西行 (xxx)

花いかに我を哀と思ふらん見て過きにける春をかそへて

はないかに−われをあはれと−おもふらむ−みてすきにける−はるをかそへて


00074
未入力 西行 (xxx)

何となく暮になりぬと聞く日より心にかかるみよしのの山

なにとなく−くれになりぬと−きくひより−こころにかかる−みよしののやま


00075
未入力 西行 (xxx)

さかぬまの花には雲のまかふとも雲とは花のみえすもあらなん

さかぬまの−はなにはくもの−まかふとも−くもとははなの−みえすもあらなむ


00076
未入力 西行 (xxx)

今さらに春をわするる花もあらしおもひのとめてけふもくらさん

いまさらに−はるをわするる−はなもあらし−おもひのとめて−けふもくらさむ


00077
未入力 西行 (xxx)

吉野山木すゑの花を見し日より心は身にもそはすなりにき

よしのやま−こすゑのはなを−みしひより−こころはみにも−そはすなりにき


00078
未入力 西行 (xxx)

勅とかやくたす御かとのいませかしさらはおそれて花やちらぬと

ちよくとかや−くたすみかとの−いませかし−さらはおそれて−はなやちらぬと


00079
未入力 西行 (xxx)

かさこしの嶺のつつきにさく花はいつさかりともなくやちるらん

かさこしの−みねのつつきに−さくはなは−いつさかりとも−なくやちるらむ


00080
未入力 西行 (xxx)

芳野山風こすくきに花さけは人のをるさへをしまれぬかな

よしのやま−かせこすくきに−はなさけは−ひとのをるさへ−をしまれぬかな


00081
未入力 西行 (xxx)

散りそむる花のはつ雪ふりぬれはふみわけまうきしかの山こえ

ちりそむる−はなのはつゆき−ふりぬれは−ふみわけまうき−しかのやまこえ


00082
未入力 西行 (xxx)

春風の花の錦にうつもれてゆきもやられぬしかの山越

はるかせの−はなのにしきに−うつもれて−ゆきもやられぬ−しかのやまこえ


00083
未入力 西行 (xxx)

吉野山たにへたなひく白雲は嶺の桜のちるにやあるらん

よしのやま−たにへたなひく−しらくもは−みねのさくらの−ちるにやあるらむ


00084
未入力 西行 (xxx)

たちまかふ嶺の雲をははらふとも花を散らさぬ嵐なりせは

たちまかふ−みねのくもをは−はらふとも−はなをちらさぬ−あらしなりせは


00085
未入力 西行 (xxx)

木のもとに旅ねをすれは芳野山花の衾をきする春風

このもとに−たひねをすれは−よしのやま−はなのふすまを−きするはるかせ


00086
未入力 西行 (xxx)

峰にちる花は谷なる木にそさくいたくいとはし春の山風

みねにちる−はなはたになる−きにそさく−いたくいとはし−はるのやまかせ


00087
未入力 西行 (xxx)

風あらみ木すゑの花のなかれ来て庭に浪たつ白川の里

かせあらみ−こすゑのはなの−なかれきて−にはになみたつ−しらかはのさと


00088
未入力 西行 (xxx)

雪ふかみえたもゆるかてちる花は風のとかにはあらぬなるへし

ゆきふかみ−えたもゆるかて−ちるはなは−かせのとかには−あらぬなるへし


00089
未入力 西行 (xxx)

おもへたた花のなからん木の本になにをかけにて我かみすみなん

おもへたた−はなのなからむ−このもとに−なにをかけにて−わかみすみなむ


00090
未入力 西行 (xxx)

灯にちる花の行へはしらねともをしむ心はみにとまりけり

かせにちる−はなのゆくへは−しらねとも−をしむこころは−みにとまりけり


00091
未入力 西行 (xxx)

何とかくあたなる花の色をしも心にふかくおもひそめけん

なにとかく−あたなるはなの−いろをしも−こころにふかく−おもひそめけむ


00092
未入力 西行 (xxx)

花もちり人も都へかへりなは山さひしくやならんとすらん

はなもちり−ひともみやこへ−かへりなは−やまさひしくや−ならむとすらむ


00093
未入力 西行 (xxx)

よしの山一村見ゆる白雲は咲きおくれたるさくらなるへし

よしのやま−ひとむらみゆる−しらくもは−さきおくれたる−さくらなるへし


00094
未入力 西行 (xxx)

ひきかへて花見る春はよるもなく月みる秋はひるなからなん

ひきかへて−はなみるはるは−よるもなく−つきみるあきは−ひるなからなむ


00095
未入力 西行 (xxx)

打ちはるる雲なかりけり吉野山花もてわたる風と見たれは

うちはるる−くもなかりけり−よしのやま−はなもてわたる−かせとみたれは


00096
未入力 西行 (xxx)

初花のひらけはしむる梢よりそはへて風のわたるなるかな

はつはなの−ひらけはしむる−こすゑより−そはへてかせの−わたるなるかな


00097
未入力 西行 (xxx)

おなしくは月の折さけ山桜花みるよひのたえまあらせし

おなしくは−つきのをりさけ−やまさくら−はなみるよひの−たえまあらせし


00098
未入力 西行 (xxx)

木すゑふく風の心はいかかせんしたかふ花のうらめしきかな

こすゑふく−かせのこころは−いかかせむ−したかふはなの−うらめしきかな


00099
未入力 西行 (xxx)

いかてかはちらてあれともおもふへきしはしとしたふなさけしれ花

いかてかは−ちらてあれとも−おもふへき−しはしとしたふ−なさけしれはな


00100
未入力 西行 (xxx)

あなかちに庭をさへはく嵐かなさこそ心に花をまかせめ

あなかちに−にはをさへはく−あらしかな−さこそこころに−はなをまかせめ


00101
未入力 西行 (xxx)

をしむ人の心をさへにちらすかな花をさそへる春の山風

をしむひとの−こころをさへに−ちらすかな−はなをさそへる−はるのやまかせ


00102
未入力 西行 (xxx)

浪もなく風ををさめし白川のきみのをりもや花はちりけん

なみもなく−かせををさめし−しらかはの−きみのをりもや−はなはちりけむ


00103
未入力 西行 (xxx)

をしまれぬ身たにも世にはあるものをあなあやにくの花の心や

をしまれぬ−みたにもよには−あるものを−あなあやにくの−はなのこころや


00104
未入力 西行 (xxx)

うき世にはととめおかしと春風のちらすは花ををしむなりけり

うきよには−ととめおかしと−はるかせの−ちらすははなを−をしむなりけり


00105
未入力 西行 (xxx)

世の中をおもへはなへてちる花の我かみをさてもいつちかもせん

よのなかを−おもへはなへて−ちるはなの−わかみをさても−いつちかもせむ


00106
未入力 西行 (xxx)

花さへに世をうき草になりにけりちるををしめはさそふ山水

はなさへに−よをうきくさに−なりにけり−ちるををしめは−さそふやまみつ


00107
未入力 西行 (xxx)

風もよし花をもちらせいかかせんおもひはつれはあらまうきよそ

かせもよし−はなをもちらせ−いかかせむ−おもひはつれは−あらまうきよそ


00108
未入力 西行 (xxx)

鴬の声に桜そちりまかふ花のこと葉を聞く心ちして

うくひすの−こゑにさくらそ−ちりまかふ−はなのことはを−きくここちして


00109
未入力 西行 (xxx)

もろともに我をもくしてちりね花浮世をいとふ心あるみそ

もろともに−われをもくして−ちりねはな−うきよをいとふ−こころあるみそ


00110
未入力 西行 (xxx)

なかむとて花にもいたくなれぬれはちる別こそかなしかりけれ

なかむとて−はなにもいたく−なれぬれは−ちるわかれこそ−かなしかりけれ


00111
未入力 西行 (xxx)

ちる花ををしむこころやととまりて又こんはるのたねとなるへき

ちるはなを−をしむこころや−ととまりて−またこむはるの−たねとなるへき


00112
未入力 西行 (xxx)

花もちりなみたももろき春なれやまたやはとおもふ夕暮の空

はなもちり−なみたももろき−はるなれや−またやはとおもふ−ゆふくれのそら


00113
未入力 西行 (xxx)

さらに又霞に暮るる山路かな花をたつぬる春の明ほの

さらにまた−かすみにくるる−やまちかな−はなをたつぬる−はるのあけほの


00114
未入力 西行 (xxx)

誰か又花をたつねて芳野山こけふみわくる岩つたふらん

たれかまた−はなをたつねて−よしのやま−こけふみわくる−いはつたふらむ


00115
未入力 西行 (xxx)

吉野山雲をはかりに尋ねいりて心にかけし花をみるかな

よしのやま−くもをはかりに−たつねいりて−こころにかけし−はなをみるかな


00116
未入力 西行 (xxx)

待ちきつるやかみの桜さきにけりあらくおろすなみすの山かせ

まちきつる−やかみのさくら−さきにけり−あらくおろすな−みすのやまかせ


00117
未入力 西行 (xxx)

見る人に花も昔を思ひ出てて恋しかるらし雨にしをるる

みるひとに−はなもむかしを−おもひいてて−こひしかるらし−あめにしをるる


00118
未入力 上西門院兵衛の局 (xxx)

いにしへを忍ふる雨と誰か見ん花もその世のともしなけれは

いにしへを−しのふるあめと−たれかみむ−はなもそのよの−ともしなけれは


00119
未入力 西行 (xxx)

雲にまかふ花のしたにてなかむれはおほろに月のみゆるなりけり

くもにまかふ−はなのしたにて−なかむれは−おほろにつきの−みゆるなりけり


00120
未入力 西行 (xxx)

年をへておなし木すゑに向へとも花こそ人にあかれさりけれ

としをへて−おなしこすゑに−むかへとも−はなこそひとに−あかれさりけれ


00121
未入力 西行 (xxx)

ちるをみてかへる心や桜花昔にかはるしるしなるらん

ちるをみて−かへるこころや−さくらはな−むかしにかはる−しるしなるらむ


00122
未入力 西行 (xxx)

古郷の昔の庭を思出ててすみれつみにとくる人もかな

ふるさとの−むかしのにはを−おもひいてて−すみれつみにと−くるひともかな


00123
未入力 西行 (xxx)

つくりすてあらしはてたる沢を田にさかりにさけるうらわかみかな

つくりすて−あらしはてたる−さはをたに−さかりにさける−うらわかみかな


00124
未入力 西行 (xxx)

なほさりにやきすてしののさわらひはをる人なくてほとろとやなる

なほさりに−やきすてしのの−さわらひは−をるひとなくて−ほとろとやなる


00125
未入力 西行 (xxx)

山ふきの花のさかりに成りぬれはここにもゐてとおもほゆるかな

やまふきの−はなのさかりに−なりぬれは−ここにもゐてと−おもほゆるかな


00126
未入力 西行 (xxx)

ますけおふる荒田に水をまかすれはうれしかほにも鳴く蛙かな

ますけおふる−あらたにみつを−まかすれは−うれしかほにも−なくかはつかな


00127
未入力 西行 (xxx)

うれしともおもひそはてぬ郭公春きくことのならひなけれは

うれしとも−おもひそはてぬ−ほとときす−はるきくことの−ならひなけれは


00128
未入力 西行 (xxx)

春ゆゑにせめても物をおもへとやみそかにたにもたらて暮れぬる

はるゆゑに−せめてもものを−おもへとや−みそかにたにも−たらてくれぬる


00129
未入力 西行 (xxx)

春くれて人ちりぬめり芳野山花のわかれをおもふのみかは

はるくれて−ひとちりぬめり−よしのやま−はなのわかれを−おもふのみかは



西行法師家集 夏

00130
未入力 西行 (xxx)

青葉さへみれは心のとまるかなちりにし花の名残と思へは

あをはさへ−みれはこころの−とまるかな−ちりにしはなの−なこりとおもへは


00131
未入力 西行 (xxx)

草しけるみちかりあけて山里は花みし人の心をそ見る

くさしける−みちかりあけて−やまさとは−はなみしひとの−こころをそみる


00132
未入力 西行 (xxx)

神かきのあたりに咲くもたよりあれやゆふかけたりとみゆる卯の花

かみかきの−あたりにさくも−たよりあれや−ゆふかけたりと−みゆるうのはな


00133
未入力 西行 (xxx)

時鳥人にかたらぬ折にしもはつね聞くこそかひなかりけれ

ほとときす−ひとにかたらぬ−をりにしも−はつねきくこそ−かひなかりけれ


00134
未入力 西行 (xxx)

里なるるたそかれときの郭公聞かすかほにて又名のらせん

さとなるる−たそかれときの−ほとときす−きかすかほにて−またなのらせむ


00135
未入力 西行 (xxx)

時鳥なかて明けぬとつけかほにまたれぬ鳥の音こそ聞ゆれ

ほとときす−なかてあけぬと−つけかほに−またれぬとりの−ねこそきこゆれ


00136
未入力 西行 (xxx)

郭公聞かぬものゆゑまよはまし花をたつねし山路ならねは

ほとときす−きかぬものゆゑ−まよはまし−はなをたつねし−やまちならねは


00137
未入力 西行 (xxx)

時鳥おもひもわかぬ一こゑをききつと人にいかかかたらん

ほとときす−おもひもわかぬ−ひとこゑを−ききつとひとに−いかかかたらむ


00138
未入力 西行 (xxx)

聞きおくる心をくして郭公たかまの山の嶺こえぬなり

ききおくる−こころをくして−ほとときす−たかまのやまの−みねこえぬなり


00139
未入力 西行 (xxx)

五月雨のはれまも見えぬ雲路より山時鳥鳴きて過くなり

さみたれの−はれまもみえぬ−くもちより−やまほとときす−なきてすくなり


00140
未入力 西行 (xxx)

我か宿に花橘をうゑてこそ山郭公待つへかりけれ

わかやとに−はなたちはなを−うゑてこそ−やまほとときす−まつへかりけれ


00141
未入力 西行 (xxx)

聞かすともここをせにせん時鳥山田の原の杉の村立

きかすとも−ここをせにせむ−ほとときす−やまたのはらの−すきのむらたち


00142
未入力 西行 (xxx)

世のうきをおもひし知れはやすきねをあまりこめたる郭公かな

よのうきを−おもひししれは−やすきねを−あまりこめたる−ほとときすかな


00143
未入力 西行 (xxx)

うき身しりて我とはまたし時鳥橘にほふとなりたのみて

うきみしりて−われとはまたし−ほとときす−たちはなにほふ−となりたのみて


00144
未入力 西行 (xxx)

橘のさかりしらなん郭公ちりなん後にこゑはかるとも

たちはなの−さかりしらなむ−ほとときす−ちりなむのちに−こゑはかるとも


00145
未入力 西行 (xxx)

待ちかねてねたらはいかにうからまし山時鳥夜をのこしけり

まちかねて−ねたらはいかに−うからまし−やまほとときす−よをのこしけり


00146
未入力 西行 (xxx)

郭公花橘になりにけり梅にかをりし鴬のこゑ

ほとときす−はなたちはなに−なりにけり−うめにかをりし−うくひすのこゑ


00147
未入力 西行 (xxx)

鴬の古巣より立つ時鳥あゐよりもこきこゑの色かな

うくひすの−ふるすよりたつ−ほとときす−あゐよりもこき−こゑのいろかな


00148
未入力 西行 (xxx)

時鳥こゑのさかりになりにけりたつねぬ人にさ月つくらし

ほとときす−こゑのさかりに−なりにけり−たつねぬひとに−さつきつくらし


00149
未入力 西行 (xxx)

浮世おもふわれかはあやな時鳥あはれもこもるしのひねのこゑ

うきよおもふ−われかはあやな−ほとときす−あはれもこもる−しのひねのこゑ


00150
未入力 西行 (xxx)

郭公いかなるゆゑの契りにてかかるこゑある鳥となるらん

ほとときす−いかなるゆゑの−ちきりにて−かかるこゑある−とりとなるらむ


00151
未入力 西行 (xxx)

時鳥ふかき嶺より出てにけり外山のすそにこゑのおちくる

ほとときす−ふかきみねより−いてにけり−とやまのすそに−こゑのおちくる


00152
未入力 西行 (xxx)

高砂の尾上を行けと人もあはす山郭公里なれにけり

たかさこの−をのへをゆけと−ひともあはす−やまほとときす−さとなれにけり


00153
未入力 西行 (xxx)

早瀬川つなての岸をよそにみてのほりわつらふ五月雨の比

はやせかは−つなてのきしを−よそにみて−のほりわつらふ−さみたれのころ


00154
未入力 西行 (xxx)

河はたのよとみにとまるなかれ木のうき橋になる五月雨の比

かははたの−よとみにとまる−なかれきの−うきはしになる−さみたれのころ


00155
未入力 西行 (xxx)

水なしとききてふりにしかつまたの池あらたむる五月雨のころ

みつなしと−ききてふりにし−かつまたの−いけあらたむる−さみたれのころ


00156
未入力 西行 (xxx)

五月雨に水まさるらしうち橋のくもてにかくるなみの白糸

さみたれに−みつまさるらし−うちはしの−くもてにかくる−なみのしらいと


00157
未入力 西行 (xxx)

軒ちかき花橘に袖しめて昔を忍ふ涙つつまん

のきちかき−はなたちはなに−そてしめて−むかしをしのふ−なみたつつまむ


00158
未入力 西行 (xxx)

夏山の夕下風の涼しさにならの木陰のたたまうきかな

なつやまの−ゆふしたかせの−すすしさに−ならのこかけの−たたまうきかな


00159
未入力 西行 (xxx)

解のほる蘆の若葉に月さえて秋をあらそふ難波江のうら

つゆのほる−あしのわかはに−つきさえて−あきをあらそふ−なにはえのうら


00160
未入力 西行 (xxx)

夕立のはるれは月そやとりける玉ゆりすうる荷の上はに

ゆふたちの−はるれはつきそ−やとりける−たまゆりすうる−はすのうははに


00161
未入力 西行 (xxx)

むすふてに涼しき影をそふるかなしみつにやとる夏のよの月

むすふてに−すすしきかけを−そふるかな−しみつにやとる−なつのよのつき


00162
未入力 西行 (xxx)

みまくさのはらのすすきをしかふとてふしとあせぬとしかおもふらん

みまくさの−はらのすすきを−しかふとて−ふしとあせぬと−しかおもふらむ


00163
未入力 西行 (xxx)

たひ人のわくる夏のの草しけみはすゑにすけのをかさはつれて

たひひとの−わくるなつのの−くさしけみ−はすゑにすけの−をかさはつれて


00164
未入力 西行 (xxx)

山郷は外面の真葛はをしけみうらふき返す秋を待つかな

やまさとは−そとものまくす−はをしけみ−うらふきかへす−あきをまつかな



西行法師家集 秋

00165
未入力 西行 (xxx)

さまさまにあはれを篭めて木すゑふく風に秋しる太山辺のさと

さまさまに−あはれをこめて−こすゑふく−かせにあきしる−みやまへのさと


00166
未入力 西行 (xxx)

つねよりもあきになるをの松風はわきてみにしむ物にそ有りける

つねよりも−あきになるをの−まつかせは−わきてみにしむ−ものにそありける


00167
未入力 西行 (xxx)

おしなへて物をおもはぬ人にさへ心をつくる秋のはつ風

おしなへて−ものをおもはぬ−ひとにさへ−こころをつくる−あきのはつかせ


00168
未入力 西行 (xxx)

舟よする天の川瀬の夕暮は涼しき風や吹きわたすらん

ふねよする−あまのかはせの−ゆふくれは−すすしきかせや−ふきわたすらむ


00169
未入力 西行 (xxx)

七夕のなかき思ひもくるしきにこの瀬をかきれ天の川なみ

たなはたの−なかきおもひも−くるしきに−このせをかきれ−あまのかはなみ


00170
未入力 西行 (xxx)

あはれいかに草葉の露のこほるらん秋風立ちぬ宮城野の原

あはれいかに−くさはのつゆの−こほるらむ−あきかせたちぬ−みやきののはら


00171
未入力 西行 (xxx)

たへぬみにあはれおもふもくるしきに秋のこさらん山里もかな

たへぬみに−あはれおもふも−くるしきに−あきのこさらむ−やまさともかな


00172
未入力 西行 (xxx)

心なきみにも哀はしられけり鴫たつ沢の秋の夕暮

こころなき−みにもあはれは−しられけり−しきたつさはの−あきのゆふくれ


00173
未入力 西行 (xxx)

足引の山陰なれはとおもふまに木すゑにつくる日くらしのこゑ

あしひきの−やまかけなれはと−おもふまに−こすゑにつくる−ひくらしのこゑ


00174
未入力 西行 (xxx)

大かたの露には何のなるならん袂におくは涙なりけり

おほかたの−つゆにはなにの−なるならむ−たもとにおくは−なみたなりけり


00175
未入力 西行 (xxx)

みにしみてあはれしらする風よりも月にそ秋の色は見えける

みにしみて−あはれしらする−かせよりも−つきにそあきの−いろはみえける


00176
未入力 西行 (xxx)

山陰にすまぬこころのいかなれやをしまれて入る月もある世に

やまかけに−すまぬこころの−いかなれや−をしまれている−つきもあるよに


00177
未入力 西行 (xxx)

待出ててくまなきよひの月みれは雲そ心にまつかかりける

まちいてて−くまなきよひの−つきみれは−くもそこころに−まつかかりける


00178
未入力 西行 (xxx)

いかにそや残りおほかる心地して雲にかくるる秋のよの月

いかにそや−のこりおほかる−ここちして−くもにかくるる−あきのよのつき


00179
未入力 西行 (xxx)

打ちつけに又来む秋のこよひまて月ゆゑをしくなる命かな

うちつけに−またこむあきの−こよひまて−つきゆゑをしく−なるいのちかな


00180
未入力 西行 (xxx)

人も見ぬよしなき山の末まてもすむらん月のかけをこそ思へ

ひともみぬ−よしなきやまの−すゑまても−すむらむつきの−かけをこそおもへ


00181
未入力 西行 (xxx)

なかなかに心つくすもくるしきに曇らはいりね秋のよの月

なかなかに−こころつくすも−くるしきに−くもらはいりね−あきのよのつき


00182
未入力 西行 (xxx)

夜もすから月こそ袖にやとりけれ昔の秋を思ひ出つれは

よもすから−つきこそそてに−やとりけれ−むかしのあきを−おもひいつれは


00183
未入力 西行 (xxx)

播磨かたなたのみおきにこき出ててにしに山なき月をみるかな

はりまかた−なたのみおきに−こきいてて−にしにやまなき−つきをみるかな


00184
未入力 西行 (xxx)

わたの原浪にも月はかくれけり都の山を何いとひけん

わたのはら−なみにもつきは−かくれけり−みやこのやまを−なにいとひけむ


00185
未入力 西行 (xxx)

あはれしる人見たらはとおもふかな旅ねの袖にやとる月影

あはれしる−ひとみたらはと−おもふかな−たひねのそてに−やとるつきかけ


00186
未入力 西行 (xxx)

月見はとちきりおきてし古郷の人もやこよひ抽ぬらすらん

つきみはと−ちきりおきてし−ふるさとの−ひともやこよひ−そてぬらすらむ


00187
未入力 西行 (xxx)

くまもなき折しも人をおもひ出てて心と月をやつしつるかな

くまもなき−をりしもひとを−おもひいてて−こころとつきを−やつしつるかな


00188
未入力 西行 (xxx)

物おもふ心のたけそしられける夜な夜な月をなかめ明して

ものおもふ−こころのたけそ−しられける−よなよなつきを−なかめあかして


00189
未入力 西行 (xxx)

月のためこころやすきは雲なれや浮世にすめる影をかくせは

つきのため−こころやすきは−くもなれや−うきよにすめる−かけをかくせは


00190
未入力 西行 (xxx)

わひ人のすむ山里のとかならんくもらしものを秋のよの月

わひひとの−すむやまさとの−とかならむ−くもらしものを−あきのよのつき


00191
未入力 西行 (xxx)

うきみこそいとひなからも哀なれ月を詠めて年をへぬれは

うきみこそ−いとひなからも−あはれなれ−つきをなかめて−としをへぬれは


00192
未入力 西行 (xxx)

世のうさに一かたならすうかれゆく心さためよ秋のよの月

よのうさに−ひとかたならす−うかれゆく−こころさためよ−あきのよのつき


00193
未入力 西行 (xxx)

なにこともかはりのみ行く世の中におなし影にもすめる月かな

なにことも−かはりのみゆく−よのなかに−おなしかけにも−すめるつきかな


00194
未入力 西行 (xxx)

いとふ世も月すむ秋になりぬれはなからへすはと思ひけるかな

いとふよも−つきすむあきに−なりぬれは−なからへすはと−おもひけるかな


00195
未入力 西行 (xxx)

世の中のうきをもしらてすむ月の影は我かみの心ちにそある

よのなかの−うきをもしらて−すむつきの−かけはわかみの−ここちにそある


00196
未入力 西行 (xxx)

すつとならは浮世をいとふしるしあらん我にはくもれ秋のよの月

すつとならは−うきよをいとふ−しるしあらむ−われにはくもれ−あきのよのつき


00197
未入力 西行 (xxx)

いにしへのかた見に月そなれとなるさらてのことはあるは有るかは

いにしへの−かたみにつきそ−なれとなる−さらてのことは−あるはあるかは


00198
未入力 西行 (xxx)

なかめつつ月にこころそおいにける今いくたひか世をもすさめん

なかめつつ−つきにこころそ−おいにける−いまいくたひか−よをもすさめむ


00199
未入力 西行 (xxx)

いつくとてあはれならすはなけれともあれたる宿そ月はさひしき

いつくとて−あはれならすは−なけれとも−あれたるやとそ−つきはさひしき


00200
未入力 西行 (xxx)

山里をとへかし人にあはれみせん露しく庭にすめる月かけ

やまさとを−とへかしひとに−あはれみせむ−つゆしくにはに−すめるつきかけ


00201
未入力 西行 (xxx)

水の面にやとる月さへ入りぬれは池の底にも山や有りける

みつのおもに−やとるつきさへ−いりぬれは−いけのそこにも−やまやありける


00202
未入力 西行 (xxx)

有明の月のころにしなりぬれは秋はよるなき心ちこそすれ

ありあけの−つきのころにし−なりぬれは−あきはよるなき−ここちこそすれ


00203
未入力 西行 (xxx)

かそへねとこよひの月のけしきにて秋のなかはを空にしるかな

かそへねと−こよひのつきの−けしきにて−あきのなかはを−そらにしるかな


00204
未入力 西行 (xxx)

秋はたたこよひ一よの名なりけりおなし雲井に月はすめとも

あきはたた−こよひひとよの−ななりけり−おなしくもゐに−つきはすめとも


00205
未入力 西行 (xxx)

さやかなる影にてしるし秋の月とよにあまりていつかなりけり

さやかなる−かけにてしるし−あきのつき−とよにあまりて−いつかなりけり


00206
未入力 西行 (xxx)

老いもせぬ十五の年もあるものをこよひの月のかからましかは

おいもせぬ−しふこのとしも−あるものを−こよひのつきの−かからましかは


00207
未入力 西行 (xxx)

月まては影なく雲につつまれてこよひならすはやみに見えまし

つきまては−かけなくくもに−つつまれて−こよひならすは−やみにみえまし


00208
未入力 西行 (xxx)

雲きえし秋の中はの空よりも月はこよひそ名に出てにける

くもきえし−あきのなかはの−そらよりも−つきはこよひそ−なにいてにける


00209
未入力 西行 (xxx)

こよひはと心得かほにすむ月のひかりもてなす菊の白露

こよひはと−こころえかほに−すむつきの−ひかりもてなす−きくのしらつゆ


00210
未入力 西行 (xxx)

月みれはあきくははれる年は又あかぬ心もそふにそ有りける

つきみれは−あきくははれる−としはまた−あかぬこころも−そふにそありける


00211
未入力 西行 (xxx)

秋のよの空にいつてふ名のみして影ほのかなる夕月よかな

あきのよの−そらにいつてふ−なのみして−かけほのかなる−ゆふつくよかな


00212
未入力 西行 (xxx)

うれしとや待つ人ことにおもふらん山の端出つる秋のよの月

うれしとや−まつひとことに−おもふらむ−やまのはいつる−あきのよのつき


00213
未入力 西行 (xxx)

あつまには入りぬと人やおもふらん都にいつる山のはの月

あつまには−いりぬとひとや−おもふらむ−みやこにいつる−やまのはのつき


00214
未入力 西行 (xxx)

天のはらおなし岩とをいつれともひかりことなる秋のよの月

あまのはら−おなしいはとを−いつれとも−ひかりことなる−あきのよのつき


00215
未入力 西行 (xxx)

行末の月をはしらす過来ぬる秋またかかる影はなかりき

ゆくすゑの−つきをはしらす−すききぬる−あきまたかかる−かけはなかりき


00216
未入力 西行 (xxx)

なかむるもまことしからぬここ地して世にあまりたる月の影かな

なかむるも−まことしからぬ−ここちして−よにあまりたる−つきのかけかな


00217
未入力 西行 (xxx)

月のためひるとおもふはかひなきにしはしくもりてよるをしらせよ

つきのため−ひるとおもふは−かひなきに−しはしくもりて−よるをしらせよ


00218
未入力 西行 (xxx)

さためなく鳥や鳴くらん秋のよは月のひかりを思ひまかへて

さためなく−とりやなくらむ−あきのよは−つきのひかりを−おもひまかへて


00219
未入力 西行 (xxx)

月さゆる明石のせとに風吹けは氷の上にたたむしらなみ

つきさゆる−あかしのせとに−かせふけは−こほりのうへに−たたむしらなみ


00220
未入力 西行 (xxx)

清見かた沖の岩こす白波にひかりをかはす秋のよの月

きよみかた−おきのいはこす−しらなみに−ひかりをかはす−あきのよのつき


00221
未入力 西行 (xxx)

なかむれはほかの影こそゆかしけれかはらしものを秋のよの月

なかむれは−ほかのかけこそ−ゆかしけれ−かはらしものを−あきのよのつき


00222
未入力 西行 (xxx)

秋風やあまつ雲ゐをはらふらんふけ行くままに月のさやけき

あきかせや−あまつくもゐを−はらふらむ−ふけゆくままに−つきのさやけき


00223
未入力 西行 (xxx)

中中にくもると見えてはるる夜の月は光のそふ心ちする

なかなかに−くもるとみえて−はるるよの−つきはひかりの−そふここちする


00224
未入力 西行 (xxx)

月を見て心うかれしいにしへの秋にもさらにめくりあひぬる

つきをみて−こころうかれし−いにしへの−あきにもさらに−めくりあひぬる


00225
未入力 西行 (xxx)

ゆくへなく月に心のすみすみてはてはいかにかならんとすらん

ゆくへなく−つきにこころの−すみすみて−はてはいかにか−ならむとすらむ


00226
未入力 西行 (xxx)

すゑはふく風は野もせにわたるともあらくはわけし萩の下露

すゑはふく−かせはのもせに−わたるとも−あらくはわけし−はきのしたつゆ


00227
未入力 西行 (xxx)

夕露をはらへは袖に玉ちりて道わけわふるをのの萩原

ゆふつゆを−はらへはそてに−たまちりて−みちわけわふる−をののはきはら


00228
未入力 西行 (xxx)

をらて行く袖にも露はかかりけり萩かえしけき野ちのほそ道

をらてゆく−そてにもつゆは−かかりけり−はきかえしけき−のちのほそみち


00229
未入力 西行 (xxx)

花すすき心あてにそ分けて行くほの見し道のあとしなけれは

はなすすき−こころあてにそ−わけてゆく−ほのみしみちの−あとしなけれは


00230
未入力 西行 (xxx)

けふそしるそのえにあらふから錦萩さく野へに有りけるものを

けふそしる−そのえにあらふ−からにしき−はきさくのへに−ありけるものを


00231
未入力 西行 (xxx)

花の色を影にうつせは秋の夜の月そ野守の鏡なりける

はなのいろを−かけにうつせは−あきのよの−つきそのもりの−かかみなりける


00232
未入力 西行 (xxx)

花かえに露の白玉ぬきかけてをる袖ぬらすをみなへしかな

はなかえに−つゆのしらたま−ぬきかけて−をるそてぬらす−をみなへしかな


00233
未入力 西行 (xxx)

たくひなき花のすかたををみなへし池のかかみにうつしてそみる

たくひなき−はなのすかたを−をみなへし−いけのかかみに−うつしてそみる


00234
未入力 西行 (xxx)

庭さゆる月なりけりなをみなへし霜にあひたる花とみたれは

にはさゆる−つきなりけりな−をみなへし−しもにあひたる−はなとみたれは


00235
未入力 西行 (xxx)

花をこそ野への物とは見にきつれ暮るれは虫の音をもききけり

はなをこそ−のへのものとは−みにきつれ−くるれはむしの−ねをもききけり


00236
未入力 西行 (xxx)

小萩さく山田のくろの虫の音に庵もる人や袖ぬらすらん

こはきさく−やまたのくろの−むしのねに−いほもるひとや−そてぬらすらむ


00237
未入力 西行 (xxx)

ひとりねの友にはならてきりきりす鳴く音を聞けは物おもひそふ

ひとりねの−ともにはならて−きりきりす−なくねをきけは−ものおもひそふ


00238
未入力 西行 (xxx)

池にすむ月にかかれる浮雲ははらひ残せる水さひなりけり

いけにすむ−つきにかかれる−うきくもは−はらひのこせる−みさひなりけり


00239
未入力 西行 (xxx)

くもりなき山にて海の月見れは島そ氷のたえまなりける

くもりなき−やまにてうみの−つきみれは−しまそこほりの−たえまなりける


00240
未入力 西行 (xxx)

山おろし月に木の葉を吹きためて光にまかふ影をみるかな

やまおろし−つきにこのはを−ふきためて−ひかりにまかふ−かけをみるかな


00241
未入力 西行 (xxx)

鹿の音をかきねにこめて聞くのみか月もすみける秋の山里

しかのねを−かきねにこめて−きくのみか−つきもすみける−あきのやまさと


00242
未入力 西行 (xxx)

庵にもる月の影こそさひしけれ山田はひたの音はかりして

いほにもる−つきのかけこそ−さひしけれ−やまたはひたの−おとはかりして


00243
未入力 西行 (xxx)

おもふにも過きて哀に聞ゆるは荻のはわくる秋の夕賞

おもふにも−すきてあはれに−きこゆるは−をきのはわくる−あきのゆふくれ


00244
未入力 西行 (xxx)

なにとなく物かなしくそ見えわたるとはたの面の秋の夕くれ

なにとなく−ものかなしくそ−みえわたる−とはたのおもの−あきのゆふくれ


00245
未入力 西行 (xxx)

山郷は秋のすゑにそ思ひしるかなしかりけり木からしの風

やまさとは−あきのすゑにそ−おもひしる−かなしかりけり−こからしのかせ


00246
未入力 西行 (xxx)

独ねの夜さむになるにかさねはや誰かためにうつ衣なるらん

ひとりねの−よさむになるに−かさねはや−たかためにうつ−ころもなるらむ


00247
未入力 西行 (xxx)

そめてけり紅葉の色のくれなゐをしくると見えし太山辺の里

そめてけり−もみちのいろの−くれなゐを−しくるとみえし−みやまへのさと


00248
未入力 西行 (xxx)

さまさまの錦有りけるみやまかな花見し峰を時雨そめつつ

さまさまの−にしきありける−みやまかな−はなみしみねを−しくれそめつつ


00249
未入力 西行 (xxx)

秋風に穂すゑなみよるかるかやの下葉に虫のこゑみたるなり

あきかせに−ほすゑなみよる−かるかやの−したはにむしの−こゑみたるなり


00250
未入力 西行 (xxx)

夜もすから袂に虫の音をかけてはらひわつらふ袖の白露

よもすから−たもとにむしの−ねをかけて−はらひわつらふ−そてのしらつゆ


00251
未入力 西行 (xxx)

虫の音にさのみぬるへき袂かはあやしや心物おもふへく

むしのねに−さのみぬるへき−たもとかは−あやしやこころ−ものおもふへく


00252
未入力 西行 (xxx)

横雲の風にわかるるしののめに山とひこゆるはつかりのこゑ

よこくもの−かせにわかるる−しののめに−やまとひこゆる−はつかりのこゑ


00253
未入力 西行 (xxx)

白雲をつはさにかけてとふかりの門田の面の友したふなり

しらくもを−つはさにかけて−とふかりの−かとたのおもの−ともしたふなり


00254
未入力 西行 (xxx)

晴へれやらぬ太山の霧のたえたえにほのかに鹿の声聞ゆなり

はれやらぬ−みやまのきりの−たえたえに−ほのかにしかの−こゑきこゆなり


00255
未入力 西行 (xxx)

しの原やきりにまとひて鳴く鹿の声かすかなる秋の夕暮

しのはらや−きりにまとひて−なくしかの−こゑかすかなる−あきのゆふくれ


00256
未入力 西行 (xxx)

夜をのこすねさめに聞くそ哀なる夢のの鹿もかくやなくらん

よをのこす−ねさめにきくそ−あはれなる−ゆめののしかも−かくやなくらむ


00257
未入力 西行 (xxx)

なにとなくすままほしくそおもほゆる鹿あはれなる秋の山里

なにとなく−すままほしくそ−おもほゆる−しかあはれなる−あきのやまさと


00258
未入力 西行 (xxx)

夕露の玉しくを田の稲莚かけほすすゑに月そやとれる

ゆふつゆの−たましくをたの−いなむしろ−かけほすすゑに−つきそやとれる


00259
未入力 西行 (xxx)

くもりなき月のひかりにさそはれて幾雲ゐまて行く心そも

くもりなき−つきのひかりに−さそはれて−いくくもゐまて−ゆくこころそも


00260
未入力 西行 (xxx)

我なれや松の梢に月たけてみとりの色に霜ふりにけり

われなれや−まつのこすゑに−つきたけて−みとりのいろに−しもふりにけり


00261
未入力 西行 (xxx)

ふりさけし人の心そしられけるこよひ三笠の月をなかめて

ふりさけし−ひとのこころそ−しられける−こよひみかさの−つきをなかめて


00262
未入力 西行 (xxx)

からす羽にかく玉つさの心地して雁なきわたる夕やみの空

からすはに−かくたまつさの−ここちして−かりなきわたる−ゆふやみのそら


00263
未入力 西行 (xxx)

三笠山月さしのほる影さえて鹿鳴きそむる春日のの原

みかさやま−つきさしのほる−かけさえて−しかなきそむる−かすかののはら


00264
未入力 西行 (xxx)

かねてより心そいととすみのほる月待つ嶺のさをしかのこゑ

かねてより−こころそいとと−すみのほる−つきまつみねの−さをしかのこゑ


00265
未入力 西行 (xxx)

山里はあはれなりやと人とはは鹿の鳴く音をきけとこたへん

やまさとは−あはれなりやと−ひととはは−しかのなくねを−きけとこたへむ


00266
未入力 西行 (xxx)

小倉山ふもとをこむる秋霧に立ちもらさるるさをしかのこゑ

をくらやま−ふもとをこむる−あききりに−たちもらさるる−さをしかのこゑ


00267
未入力 西行 (xxx)

を山たの庵ちかく鳴く鹿の音におとろかされておとろかすかな

をやまたの−いほちかくなく−しかのねに−おとろかされて−おとろかすかな


00268
未入力 西忍入道 (xxx)

しかのねや心ならねはとまるらんさらては野へをみなみするかな

しかのねや−こころならねは−とまるらむ−さらてはのへを−みなみするかな


00269
未入力 西行 (xxx)

鹿のたつ野への錦のきりはらは残おほかる心ちこそすれ

しかのたつ−のへのにしきの−きりはらは−のこりおほかる−ここちこそすれ


00270
未入力 西行 (xxx)

きりきりす夜さむに秋のなるままによわるかこゑのとほさかり行く

きりきりす−よさむにあきの−なるままに−よわるかこゑの−とほさかりゆく


00271
未入力 西行 (xxx)

誰すみてあはれしるらん山郷の雨降りすさむ夕暮の空

たれすみて−あはれしるらむ−やまさとの−あめふりすさむ−ゆふくれのそら


00272
未入力 西行 (xxx)

雲かかる遠山はたの秋されは思ひやるたにかなしきものを

くもかかる−とほやまはたの−あきされは−おもひやるたに−かなしきものを


00273
未入力 西行 (xxx)

たつた山時雨しぬへくくもる空に心のいろをそめはしめつる

たつたやま−しくれしぬへく−くもるそらに−こころのいろを−そめはしめつる


00274
未入力 西行 (xxx)

なにとなく心をさへはつくすらん我かなけきにて暮るる秋かは

なにとなく−こころをさへは−つくすらむ−わかなけきにて−くるるあきかは


00275
未入力 西行 (xxx)

をしめとも鐘の音さへかはるかな霜にや露を結ひかゆらん

をしめとも−かねのおとさへ−かはるかな−しもにやつゆを−むすひかゆらむ



西行法師家集 冬

00276
未入力 西行 (xxx)

初時雨あはれしらせてすきぬなりおとに心の色をそめつつ

はつしくれ−あはれしらせて−すきぬなり−おとにこころの−いろをそめつつ


00277
未入力 西行 (xxx)

かねてより木すゑの色をおもふかな時雨れはしむるみやまへのさと

かねてより−こすゑのいろを−おもふかな−しくれはしむる−みやまへのさと


00278
未入力 西行 (xxx)

月をまつ高ねの雲は晴れにけり心ありけるはつ時雨かな

つきをまつ−たかねのくもは−はれにけり−こころありける−はつしくれかな


00279
未入力 西行 (xxx)

霜うつむ葎かしたのきりきりすあるかなきかの声きこゆなり

しもうつむ−むくらかしたの−きりきりす−あるかなきかの−こゑきこゆなり


00280
未入力 西行 (xxx)

時雨かとねさめの床にきこゆるは嵐にたへぬ木のはなりけり

しくれかと−ねさめのとこに−きこゆるは−あらしにたへぬ−このはなりけり


00281
未入力 西行 (xxx)

霜にあひて色あらたむる蘆のはのさひしくみゆる難波江の浦

しもにあひて−いろあらたむる−あしのはの−さひしくみゆる−なにはえのうら


00282
未入力 西行 (xxx)

かきこめしすそのの薄霜かれてさひしさまさる柴の庵かな

かきこめし−すそののすすき−しもかれて−さひしさまさる−しはのいほかな


00283
未入力 西行 (xxx)

霜さゆる庭の木のはをふみ分けて月はみるやととふ人もかな

しもさゆる−にはのこのはを−ふみわけて−つきはみるやと−とふひともかな


00284
未入力 西行 (xxx)

あはち島せとの塩干の夕暮にすまよりかよふ千鳥鳴くなり

あはちしま−せとのしほひの−ゆふくれに−すまよりかよふ−ちとりなくなり


00285
未入力 西行 (xxx)

さゆれとも心やすくそ聞きあかす川瀬の千鳥友くしてけり

さゆれとも−こころやすくそ−ききあかす−かはせのちとり−ともくしてけり


00286
未入力 西行 (xxx)

せとわたるたななしを舟心せよあられみたるるしまきよこきる

せとわたる−たななしをふね−こころせよ−あられみたるる−しまきよこきる


00287
未入力 西行 (xxx)

木からしに木のはのおつる山郷は涙さへこそもろく成りぬれ

こからしに−このはのおつる−やまさとは−なみたさへこそ−もろくなりぬれ


00288
未入力 西行 (xxx)

くれなゐの木のはの色をおろしつつあくまて人にみゆる山風

くれなゐの−このはのいろを−おろしつつ−あくまてひとに−みゆるやまかせ


00289
未入力 西行 (xxx)

瀬にたたむ岩のしからみ浪かけて錦をなかす山川のみつ

せにたたむ−いはのしからみ−なみかけて−にしきをなかす−やまかはのみつ


00290
未入力 西行 (xxx)

秋すきて庭のよもきのすゑみれは月も昔になる心ちする

あきすきて−にはのよもきの−すゑみれは−つきもむかしに−なるここちする


00291
未入力 西行 (xxx)

さひしさは秋見し空にかはりけりかれ野をてらす有明の月

さひしさは−あきみしそらに−かはりけり−かれのをてらす−ありあけのつき


00292
未入力 西行 (xxx)

小倉山ふもとの里に木のはちれは梢にはるる月をみるかな

をくらやま−ふもとのさとに−このはちれは−こすゑにはるる−つきをみるかな


00293
未入力 西行 (xxx)

ひとりすむ片山陰の友なれや嵐にはるる冬のよの月

ひとりすむ−かたやまかけの−ともなれや−あらしにはるる−ふゆのよのつき


00294
未入力 西行 (xxx)

まきの屋の時雨の音を聞く袖に月のもり来てやとりぬるかな

まきのやの−しくれのおとを−きくそてに−つきのもりきて−やとりぬるかな


00295
未入力 西行 (xxx)

水上に水や氷をむすふらんくるとも見えぬ滝の白糸

みなかみに−みつやこほりを−むすふらむ−くるともみえぬ−たきのしらいと


00296
未入力 西行 (xxx)

雪うつむ園の呉竹をれ伏してねくらもとむる村すすめかな

ゆきうつむ−そののくれたけ−をれふして−ねくらもとむる−むらすすめかな


00297
未入力 西行 (xxx)

打返すをみの衣と見ゆるかな竹の上葉にふれる白露

うちかへす−をみのころもと−みゆるかな−たけのうははに−ふれるしらつゆ


00298
未入力 西行 (xxx)

道とちて人とはすなる山郷のあはれは雪にうつもれにけり

みちとちて−ひととはすなる−やまさとの−あはれはゆきに−うつもれにけり


00299
未入力 西行 (xxx)

千鳥鳴くふけひのかたを見わたせは月影さひし難波江のうら

ちとりなく−ふけひのかたを−みわたせは−つきかけさひし−なにはえのうら


00300
未入力 西行 (xxx)

さひしさにたへたる人の又もあれな庵ならへん冬の山郷

さひしさに−たへたるひとの−またもあれな−いほりならへむ−ふゆのやまさと


00301
未入力 西行 (xxx)

花もかれ紅葉もちりぬ山里はさひしさを又とふ人もかな

はなもかれ−もみちもちりぬ−やまさとは−さひしさをまた−とふひともかな


00302
未入力 西行 (xxx)

玉かけし花のかつらもおろへて霜をいたたく女郎花かな

たまかけし−はなのかつらも−おとろへて−しもをいたたく−をみなへしかな


00303
未入力 西行 (xxx)

つの国の蘆のまろ屋のさひしさは冬こそわきてとふへかりけれ

つのくにの−あしのまろやの−さひしさは−ふゆこそわきて−とふへかりけれ


00304
未入力 西行 (xxx)

山桜はつ雪ふれは咲きにけり芳野はさらに冬こもれとも

やまさくら−はつゆきふれは−さきにけり−よしのはさらに−ふゆこもれとも


00305
未入力 西行 (xxx)

よもすから嵐の山に風さえて大井のよとに氷をそしく

よもすから−あらしのやまに−かせさえて−おほゐのよとに−こほりをそしく


00306
未入力 西行 (xxx)

風さえてよすれはやかて氷りつつかへるなみなき志賀のからさき

かせさえて−よすれはやかて−こほりつつ−かへるなみなき−しかのからさき


00307
未入力 西行 (xxx)

山郷は時雨れし比のさひしさにあられの音はややまさりけり

やまさとは−しくれしころの−さひしさに−あられのおとは−ややまさりけり


00308
未入力 西行 (xxx)

芳野山ふもとにふらぬ雪ならは花かとみてやたつね入らまし

よしのやま−ふもとにふらぬ−ゆきならは−はなかとみてや−たつねいらまし


00309
未入力 西行 (xxx)

立ちのほる朝日のかけのさすままに都の雪はきえみきえすみ

たちのほる−あさひのかけの−さすままに−みやこのゆきは−きえみきえすみ


00310
未入力 西行 (xxx)

とふ人も初雪をこそ分けこしか道たえにけりみやまへの里

とふひとも−はつゆきをこそ−わけこしか−みちたえにけり−みやまへのさと


00311
未入力 西行 (xxx)

年くれしそのいとなみはわすられてあらぬさまなるいそきをそする

としくれし−そのいとなみは−わすられて−あらぬさまなる−いそきをそする


00312
未入力 西行 (xxx)

おしなへておなし月日の過きゆけは都もかくや年は暮れぬる

おしなへて−おなしつきひの−すきゆけは−みやこもかくや−としはくれぬる


00313
未入力 西行 (xxx)

昔おもふ庭に浮木をつみおきて見し世にもにぬ年のくれかな

むかしおもふ−にはにうききを−つみおきて−みしよにもにぬ−としのくれかな



西行法師家集 恋

00314
未入力 西行 (xxx)

弓はりの月にはつれて見しかけのやさしかりしはいつか忘れん

ゆみはりの−つきにはつれて−みしかけの−やさしかりしは−いつかわすれむ


00315
未入力 西行 (xxx)

しらさりき雲井のよそに見し月の影を袂にやとすへしとは

しらさりき−くもゐのよそに−みしつきの−かけをたもとに−やとすへしとは


00316
未入力 西行 (xxx)

月待つといひなされつるよひのまの心の色を袖に見えぬる

つきまつと−いひなされつる−よひのまの−こころのいろを−そてにみえぬる


00317
未入力 西行 (xxx)

あはれとも見る人あらはおもはなん月のおもてにやとす心を

あはれとも−みるひとあらは−おもはなむ−つきのおもてに−やとすこころを


00318
未入力 西行 (xxx)

数ならぬ心のとかになしはててしらせてこそはみをもうらみめ

かすならぬ−こころのとかに−なしはてて−しらせてこそは−みをもうらみめ


00319
未入力 西行 (xxx)

難波かた浪のみいとと数そひてうらみのひまや袖のかわかん

なにはかた−なみのみいとと−かすそひて−うらみのひまや−そてのかわかむ


00320
未入力 西行 (xxx)

日をふれは涙の雨のあらそひてはるへくもなき我か心かな

ひをふれは−なみたのあめの−あらそひて−はるへくもなき−わかこころかな


00321
未入力 西行 (xxx)

かきくらす涙の雨のあししけみさかりにもののなけかしきかな

かきくらす−なみたのあめの−あししけみ−さかりにものの−なけかしきかな


00322
未入力 西行 (xxx)

いかかせんその五月雨の名残よりやかてをやまぬ袖のしつくを

いかかせむ−そのさみたれの−なこりより−やかてをやまぬ−そてのしつくを


00323
未入力 西行 (xxx)

さまさまにおもひみたるる心をは君かもとにそつかねあつむる

さまさまに−おもひみたるる−こころをは−きみかもとにそ−つかねあつむる


00324
未入力 西行 (xxx)

みをしれは人のとかとはおもはぬにうらみかほにもぬるる袖かな

みをしれは−ひとのとかとは−おもはぬに−うらみかほにも−ぬるるそてかな


00325
未入力 西行 (xxx)

かかるみにおほしたてけんたらちねのおやさへつらき恋もするかな

かかるみに−おほしたてけむ−たらちねの−おやさへつらき−こひもするかな


00326
未入力 西行 (xxx)

とにかくにいとはまほしき世なれとも君かすむにもひかれぬるかな

とにかくに−いとはまほしき−よなれとも−きみかすむにも−ひかれぬるかな


00327
未入力 西行 (xxx)

むかはらは我かなけきのむくいにて誰ゆゑ君か物をおもはん

むかはらは−われかなけきの−むくいにて−たれゆゑきみか−ものをおもはむ


00328
未入力 西行 (xxx)

あやめつつ人しるとてもいかかせんしのひはつへき袂ならねは

あやめつつ−ひとしるとても−いかかせむ−しのひはつへき−たもとならねは


00329
未入力 西行 (xxx)

けふこそはけしきを人に知られぬれさてのみやはとおもふあまりに

けふこそは−けしきをひとに−しられぬれ−さてのみやはと−おもふあまりに


00330
未入力 西行 (xxx)

物おもへは袖になかるる涙川いかなるみをにあふせありなん

ものおもへは−そてになかるる−なみたかは−いかなるみをに−あふせありなむ


00331
未入力 西行 (xxx)

もらさしと袖にあまるをつつままし情を忍ふ涙なりせは

もらさしと−そてにあまるを−つつままし−なさけをしのふ−なみたなりせは


00332
未入力 西行 (xxx)

こと付けて今朝の別はやすらはん時雨をさへや袖にかくへき

ことつけて−けさのわかれは−やすらはむ−しくれをさへや−そてにかくへき


00333
未入力 西行 (xxx)

きえかへり暮待つ柚そしをれぬるおきつる人は露ならねとも

きえかへり−くれまつそてそ−しをれぬる−おきつるひとは−つゆならねとも


00334
未入力 西行 (xxx)

なかなかにあはぬ思ひのままならはうらみはかりやみにつもらまし

なかなかに−あはぬおもひの−ままならは−うらみはかりや−みにつもらまし


00335
未入力 西行 (xxx)

さらに又むすほほれ行く心かなとけなはとこそおもひしかとも

さらにまた−むすほほれゆく−こころかな−とけなはとこそ−おもひしかとも


00336
未入力 西行 (xxx)

昔より物おもふ人やなからまし心にかなふなけきなりせは

むかしより−ものおもふひとや−なからまし−こころにかなふ−なけきなりせは


00337
未入力 西行 (xxx)

夏草のしけりのみ行くおもひかなまたるる秋の思ひしられて

なつくさの−しけりのみゆく−おもひかな−またるるあきの−おもひしられて


00338
未入力 西行 (xxx)

くれなゐの色に袂の時雨れつつ袖に秋ある心地こそすれ

くれなゐの−いろにたもとの−しくれつつ−そてにあきある−ここちこそすれ


00339
未入力 西行 (xxx)

今そしるおもひ出てよとちきりしは忘れんとての情なりけり

いまそしる−おもひいてよと−ちきりしは−わすれむとての−なさけなりけり


00340
未入力 西行 (xxx)

日にそへてうらみはいととおほ海のゆたかなりける我か涙かな

ひにそへて−うらみはいとと−おほうみの−ゆたかなりける−わかなみたかな


00341
未入力 西行 (xxx)

わりなしや我も人日をつつむまにしひてもいはぬ心つくしは

わりなしや−われもひとひを−つつむまに−しひてもいはぬ−こころつくしは


00342
未入力 西行 (xxx)

山かつのあら野をしめてすみそむるかたたよりなき恋もするかな

やまかつの−あらのをしめて−すみそむる−かたたよりなき−こひもするかな


00343
未入力 西行 (xxx)

うとかりし恋もしられぬいかにして人をわするることをならはん

うとかりし−こひもしられぬ−いかにして−ひとをわするる−ことをならはむ


00344
未入力 西行 (xxx)

中中に忍ふけしきやしるからんかかる思ひにならひなきみは

なかなかに−しのふけしきや−しるからむ−かかるおもひに−ならひなきみは


00345
未入力 西行 (xxx)

いくほともなからふましき世の中に物をおもはてふるよしもかな

いくほとも−なからふましき−よのなかに−ものをおもはて−ふるよしもかな


00346
未入力 西行 (xxx)

よしさらはたれかは世にもなからへんと思ふをりにそ人はうからぬ

よしさらは−たれかはよにも−なからへむと−おもふをりにそ−ひとはうからぬ


00347
未入力 西行 (xxx)

風になひく富士の煙の空にきえて行へも知らぬ我か思ひかな

かせになひく−ふしのけふりの−そらにきえて−ゆくへもしらぬ−わかおもひかな


00348
未入力 西行 (xxx)

あはれとてとふ人のなとなかるらん物おもふ宿の荻の上風

あはれとて−とふひとのなと−なかるらむ−ものおもふやとの−をきのうはかせ


00349
未入力 西行 (xxx)

思ひ知る人あり明の世なりせはつきせすみをはうらみさらまし

おもひしる−ひとありあけの−よなりせは−つきせすみをは−うらみさらまし


00350
未入力 西行 (xxx)

あふと見しその夜の夢のさめてあれななかきねふりはうかるへけれと

あふとみし−そのよのゆめの−さめてあれな−なかきねふりは−うかるへけれと


00351
未入力 西行 (xxx)

あはれあはれこの世はよしやさもあらはあれこんよもかくやくるしかるへき

あはれあはれ−このよはよしや−さもあらはあれ−こむよもかくや−くるしかるへき


00352
未入力 西行 (xxx)

物おもへとかからぬ人もあるものを哀なりける身のちきりかな

ものおもへと−かからぬひとも−あるものを−あはれなりける−みのちきりかな


00353
未入力 西行 (xxx)

歎けとて月やは物をおもはするかこちかほなる我か涙かな

なけけとて−つきやはものを−おもはする−かこちかほなる−わかなみたかな


00354
未入力 西行 (xxx)

七な草にせりありけりとみるからにぬれけん袖のつまれぬるかな

ななくさに−せりありけりと−みるからに−ぬれけむそての−つまれぬるかな


00355
未入力 西行 (xxx)

ときは山しひの下柴かりすてんかくれておもふかひのなきかと

ときはやま−しひのしたしは−かりすてむ−かくれておもふ−かひのなきかと


00356
未入力 西行 (xxx)

我かおもふいもかりゆきて郭公ね覚の袖のあはれつたへよ

わかおもふ−いもかりゆきて−ほとときす−なさめのそての−あはれつたへよ


00357
未入力 西行 (xxx)

人はうしなけきは露もなくさますさはこはいかかすへき思ひそ

ひとはうし−なけきはつゆも−なくさます−さはこはいかか−すへきおもひそ


00358
未入力 西行 (xxx)

浮世にはあはれはあるにまかせつつ心よいたく物なおもひそ

うきよには−あはれはあるに−まかせつつ−こころよいたく−ものなおもひそ


00359
未入力 西行 (xxx)

今さらに何と人目をつつむらんしほらは袖のかわくへきかは

いまさらに−なにとひとめを−つつむらむ−しほらはそての−かわくへきかは


00360
未入力 西行 (xxx)

うきみしる心にもにぬ涙かなうらみんとしもおもはぬものを

うきみしる−こころにもにぬ−なみたかな−うらみむとしも−おもはぬものを


00361
未入力 西行 (xxx)

なとか我ことのほかなるなけきせてみさをなるみに生れさりけん

なとかわれ−ことのほかなる−なけきせて−みさをなるみに−うまれさりけむ


00362
未入力 西行 (xxx)

袖の上の人目しられし折まてはみさをなりける我か心かな

そてのうへの−ひとめしられし−をりまては−みさをなりける−わかこころかな


00363
未入力 西行 (xxx)

とへかしななさけは人のみのためをうき我とても心やはなき

とへかしな−なさけはひとの−みのためを−うきわれとても−こころやはなき


00364
未入力 西行 (xxx)

うらみしとおもふ我さへつらきかなとはて過きぬる心つよさを

うらみしと−おもふわれさへ−つらきかな−とはてすきぬる−こころつよさを


00365
未入力 西行 (xxx)

なかめこそうき身のくせになりはてて夕暮ならぬをりもわかれね

なかめこそ−うきみのくせに−なりはてて−ゆふくれならぬ−をりもわかれね


00366
未入力 西行 (xxx)

わりなしやいつを思ひのはてにして月日を送る我かみなるらん

わりなしや−いつをおもひの−はてにして−つきひをおくる−わかみなるらむ


00367
未入力 西行 (xxx)

心から心に物をおもはせて身をくるしむる我かみなりけり

こころから−こころにものを−おもはせて−みをくるしむる−わかみなりけり


00368
未入力 西行 (xxx)

かつすすく沢のこせりのねをしろみ清けに物をおもはすもかな

かつすすく−さはのこせりの−ねをしろみ−きよけにものを−おもはすもかな


00369
未入力 西行 (xxx)

身のうさのおもひしらるることわりにおさへられぬは涙なりけり

みのうさの−おもひしらるる−ことわりに−おさへられぬは−なみたなりけり


00370
未入力 西行 (xxx)

ことつくるみあれのほとをすくしてもなほや卯月の心なるへき

ことつくる−みあれのほとを−すくしても−なほやうつきの−こころなるへき


00371
未入力 西行 (xxx)

なほさりのなさけは人のあるものをたゆるはつねのならひなれとも

なほさりの−なさけはひとの−あるものを−たゆるはつねの−ならひなれとも


00372
未入力 西行 (xxx)

何となくさすかにをしき命かなありへは人や思ひしるとて

なにとなく−さすかにをしき−いのちかな−ありへはひとや−おもひしるとて


00373
未入力 西行 (xxx)

心さしありてのみやは人をとふなさけはなととおもふはかりそ

こころさし−ありてのみやは−ひとをとふ−なさけはなとと−おもふはかりそ


00374
未入力 西行 (xxx)

あひみてはとはれぬうさそ忘れぬるうれしきをのみまつおもふまて

あひみては−とはれぬうさそ−わすれぬる−うれしきをのみ−まつおもふまて


00375
未入力 西行 (xxx)

今朝よりそ人の心はつらからて明けはなれ行く空をなかむる

けさよりそ−ひとのこころは−つらからて−あけはなれゆく−そらをなかむる


00376
未入力 西行 (xxx)

あふまての命もかなとおもひしはくやしかりける我か心かな

あふまての−いのちもかなと−おもひしは−くやしかりける−わかこころかな


00377
未入力 西行 (xxx)

うとくなる人を何とてうらむらんしられすしらぬ折も有りしを

うとくなる−ひとをなにとて−うらむらむ−しられすしらぬ−をりもありしを



西行法師家集 雑

00378
未入力 西行 (xxx)

かたそきのゆきあはぬまよりもる月やさえてみそての霜におくらん

かたそきの−ゆきあはぬまより−もるつきや−さえてみそての−しもにおくらむ


00379
未入力 西行 (xxx)

なかれたえぬ浪にや世をはをさむらん神風涼しみもすその川

なかれたえぬ−なみにやよをは−をさむらむ−かみかせすすし−みもすそのかは


00380
未入力 西行 (xxx)

たえたりし君かみゆきを待ちつけて神いかはかりうれしかるらん

たえたりし−きみかみゆきを−まちつけて−かみいかはかり−うれしかるらむ


00381
未入力 西行 (xxx)

いにしへの松のしつえをあらひけん浪を心にかけてこそみれ

いにしへの−まつのしつえを−あらひけむ−なみをこころに−かけてこそみれ


00382
未入力 西行 (xxx)

住吉のまつの根あらふ浪のおとを梢にかくるおきつしほ風

すみよしの−まつのねあらふ−なみのおとを−こすゑにかくる−おきつしほかせ


00383
未入力 西行 (xxx)

かしこまるしてに涙のかかるかなまたいつかはとおもふ哀に

かしこまる−してになみたの−かかるかな−またいつかはと−おもふあはれに


00384
未入力 西行 (xxx)

ひろむらん法にはあはぬみなりとも名を聞く数にいらさらめやは

ひろむらむ−のりにはあはぬ−みなりとも−なをきくかすに−いらさらめやは


00385
未入力 西行 (xxx)

つらなりし昔に露もかはらしとおもひしられし法の庭かな

つらなりし−むかしにつゆも−かはらしと−おもひしられし−のりのにはかな


00386
未入力 西行 (xxx)

ちりまかふ花の匂ひをさきたてて光を法の莚にそしく

ちりまかふ−はなのにほひを−さきたてて−ひかりをのりの−むしろにそしく


00387
未入力 西行 (xxx)

こりもせすうき世のやみにまとふかなみを思はぬは心なりけり

こりもせす−うきよのやみに−まとふかな−みをおもはぬは−こころなりけり


00388
未入力 西行 (xxx)

あま雲のはるるみ空の月影にうらみなくさむをはすての山

あまくもの−はるるみそらの−つきかけに−うらみなくさむ−をはすてのやま


00389
未入力 西行 (xxx)

鷲の山月を入りぬと見る人はくらきにまよふ心なりけり

わしのやま−つきをいりぬと−みるひとは−くらきにまよふ−こころなりけり


00390
未入力 西行 (xxx)

やみはれて心のうちにすむ月は西の山辺やちかくなるらん

やみはれて−こころのうちに−すむつきは−にしのやまへや−ちかくなるらむ


00391
未入力 西行 (xxx)

なにこともむなしき法の心にて罪ある身とも今はおもはし

なにことも−むなしきのりの−こころにて−つみあるみとも−いまはおもはし


00392
未入力 西行 (xxx)

けふや君おほふ五の雲はれて心の月をみかきいつらん

けふやきみ−おほふいつつの−くもはれて−こころのつきを−みかきいつらむ


00393
未入力 西行 (xxx)

なき人をかそふる秋のよもすからしをるる袖や鳥へのの露

なきひとを−かそふるあきの−よもすから−しをるるそてや−とりへののつゆ


00394
未入力 西行 (xxx)

道かはるみゆきかなしきこよひかな限のたひと見るにつけても

みちかはる−みゆきかなしき−こよひかな−かきりのたひと−みるにつけても


00395
未入力 西行 (xxx)

かたかたにはかなかるへきこの世かな有るを思ふもなきを忍ふも

かたかたに−はかなかるへき−このよかな−あるをおもふも−なきをしのふも


00396
未入力 西行 (xxx)

こととなくけふ暮れにけりあすも又かはらすこそはひますくるかけ

こととなく−けふくれにけり−あすもまた−かはらすこそは−ひますくるかけ


00397
未入力 西行 (xxx)

世の中のうきもうからす思ひとけはあさちにむすふ露の白玉

よのなかの−うきもうからす−おもひとけは−あさちにむすふ−つゆのしらたま


00398
未入力 西行 (xxx)

鳥へ野を心のうちにわけ行けはいそちの露に袖そそほつる

とりへのを−こころのうちに−わけゆけは−いそちのつゆに−そてそそほつる


00399
未入力 西行 (xxx)

年月をいかて我かみもおくりけんきのふの人もけふはなき世に

としつきを−いかてわかみも−おくりけむ−きのふのひとも−けふはなきよに


00400
未入力 西行 (xxx)

ちるとみて又さく花の匂ひにもおくれさきたつためし有りけり

ちるとみて−またさくはなの−にほひにも−おくれさきたつ−ためしありけり


00401
未入力 西行 (xxx)

つきはてんその入あひの程なきをこのあかつきにおもひしりぬる

つきはてむ−そのいりあひの−ほとなきを−このあかつきに−おもひしりぬる


00402
未入力 西行 (xxx)

そのをりのよもきかもとの枕にもかくこそ虫の音にはむつれめ

そのをりの−よもきかもとの−まくらにも−かくこそむしの−ねにはむつれめ


00403
未入力 西行 (xxx)

月をみていつれの年の秋まてかこの世の中にたのみあるらん

つきをみて−いつれのとしの−あきまてか−このよのなかに−たのみあるらむ


00404
未入力 西行 (xxx)

哀とも心におもふ程はかりいはれぬへくはいひこそはせめ

あはれとも−こころにおもふ−ほとはかり−いはれぬへくは−いひこそはせめ


00405
未入力 西行 (xxx)

世の中を夢と見る見るはかなくもなほおとろかぬ我か心かな

よのなかを−ゆめとみるみる−はかなくも−なほおとろかぬ−わかこころかな


00406
未入力 西行 (xxx)

桜花ちりちりになる木のもとに名残ををしむ鴬のこゑ

さくらはな−ちりちりになる−このもとに−なこりををしむ−うくひすのこゑ


00407
未入力 西行 (xxx)

きえにける本のしつくをおもふにもたれかは末の露のみならぬ

きえにける−もとのしつくを−おもふにも−たれかはすゑの−つゆのみならぬ


00408
未入力 西行 (xxx)

つの国の難波の春は夢なれや蘆のかれはに風わたるなり

つのくにの−なにはのはるは−ゆめなれや−あしのかれはに−かせわたるなり


00409
未入力 西行 (xxx)

かさねきる藤の衣をたよりにて心の色をそめよとそおもふ

かさねきる−ふちのころもを−たよりにて−こころのいろを−そめよとそおもふ


00410
未入力 西行 (xxx)

このたひはさきに見えけん夢よりもさめすや物はかなしかるらん

このたひは−さきにみえけむ−ゆめよりも−さめすやものは−かなしかるらむ


00411
未入力 西行 (xxx)

涙をやしのはん人はなかすへき哀に見ゆる水くきの跡

なみたをや−しのはむひとは−なかすへき−あはれにみゆる−みつくきのあと


00412
未入力 西行 (xxx)

とりへ野や鷲の高ねのすそならん煙を分けて出つる月かけ

とりへのや−わしのたかねの−すそならむ−けふりをわけて−いつるつきかけ


00413
未入力 寂然 (xxx)

とへかしな別の袖に露ふかきよもきかもとの心ほそさを

とへかしな−わかれのそてに−つゆふかき−よもきかもとの−こころほそさを


00414
未入力 西行 (xxx)

よそにおもふ別ならねは誰をかはみよりほかにはとふへかりける

よそにおもふ−わかれならねは−たれをかは−みよりほかには−とふへかりける


00415
未入力 寂然 (xxx)

みたれすとをはり聞くこそうれしけれさても別はなくさまねとも

みたれすと−をはりきくこそ−うれしけれ−さてもわかれは−なくさまねとも


00416
未入力 西行 (xxx)

この世にて又あふましきかなしさにすすめし人そ心みたれし

このよにて−またあふましき−かなしさに−すすめしひとそ−こころみたれし


00417
未入力 寂然 (xxx)

いるさにはひろふ形見も残りけり帰る山路の友は涙か

いるさには−ひろふかたみも−のこりけり−かへるやまちの−ともはなみたか


00418
未入力 西行 (xxx)

いかにともおもひわかてそ過きにける夢に山路を行く心地して

いかにとも−おもひわかてそ−すきにける−ゆめにやまちを−ゆくここちして


00419
未入力 西行 (xxx)

かきりなくかなしかりけりとりへ山なきを送りてかへる心は

かきりなく−かなしかりけり−とりへやま−なきをおくりて−かへるこころは


00420
未入力 西行 (xxx)

おくり置きてかへりし野への朝露を袖にうつすは涙なりけり

おくりおきて−かへりしのへの−あさつゆを−そてにうつすは−なみたなりけり


00421
未入力 西行 (xxx)

ふなをかのすそののつかの数そひて昔の人に君をなしつる

ふなをかの−すそののつかの−かすそひて−むかしのひとに−きみをなしつる


00422
未入力 西行 (xxx)

後の世をとへと契りしことのはやわすらるましきかた見なるらん

のちのよを−とへとちきりし−ことのはや−わすらるましき−かたみなるらむ


00423
未入力 西行 (xxx)

とははやと思ひよらてそなけかまし昔なからの我かみなりせは

とははやと−おもひよらてそ−なけかまし−むかしなからの−わかみなりせは


00424
未入力 西行 (xxx)

たつぬとも風のつてにもさかしかし花とちりにし君か行へは

たつぬとも−かせのつてにも−さかしかし−はなとちりにし−きみかゆくへは


00425
未入力 しりたりける人 (xxx)

ふく風の行へしらする物ならは花とちるともおくれさらまし

ふくかせの−ゆくへしらする−ものならは−はなとちるとも−おくれさらまし


00426
未入力 西行 (xxx)

みかかれし玉のうてなを露ふかき野へにうつして見るそかなしき

みかかれし−たまのうてなを−つゆふかき−のへにうつして−みるそかなしき


00427
未入力 西行 (xxx)

いにしへにかはらぬ君か姿こそけふはときはのかた見なりけれ

いにしへに−かはらぬきみか−すかたこそ−けふはときはの−かたみなりけれ


00428
未入力 前伊賀守為業 (xxx)

色かへて独残れる常盤木はいつをまつとか人のみるらん

いろかへて−ひとりのこれる−ときはきは−いつをまつとか−ひとのみるらむ


00429
未入力 西行 (xxx)

なき人のかた見にたてし寺に入りて跡ありけりと見て帰りぬる

なきひとの−かたみにたてし−てらにいりて−あとありけりと−みてかへりぬる


00430
未入力 西行 (xxx)

おもひおきしあさちか露をわけ入れはたたわつかなるすすむしのこゑ

おもひおきし−あさちかつゆを−わけいれは−たたわつかなる−すすむしのこゑ


00431
未入力 西行 (xxx)

野へに成りてしけきあさちをわけ入れは君か住みける石すゑの跡

のへになりて−しけきあさちを−わけいれは−きみかすみける−いしすゑのあと


00432
未入力 西行 (xxx)

露ふかき野辺になり行く古郷はおもひやるたに袖しをれけり

つゆふかき−のへになりゆく−ふるさとは−おもひやるたに−そてしをれけり


00433
未入力 西行 (xxx)

山里は庭の木すゑのおとまても世をすさみたるけしきなるかな

やまさとは−にはのこすゑの−おとまても−よをすさみたる−けしきなるかな


00434
未入力 西行 (xxx)

浦島かこは何ものと人とははあけてかひあるはことこたへよ

うらしまか−こはなにものと−ひととはは−あけてかひある−はことこたへよ


00435
未入力 西行 (xxx)

夜るの鶴の都のうちを出ててあれなこのおもひにはまとはさらまし

よるのつるの−みやこのうちを−いててあれな−このおもひには−まとはさらまし


00436
未入力 西行 (xxx)

雲のうへやふるき都に成りにけりすむらん月の影はかはらて

くものうへや−ふるきみやこに−なりにけり−すむらむつきの−かけはかはらて


00437
未入力 西行 (xxx)

いにしへを何に付けてか思ひ出てん月さへかはる世ならましかは

いにしへを−なににつけてか−おもひいてむ−つきさへかはる−よならましかは


00438
未入力 西行 (xxx)

今よりは昔かたりは心せんあやしきまてに袖しをれけり

いまよりは−むかしかたりは−こころせむ−あやしきまてに−そてしをれけり


00439
未入力 西行 (xxx)

露しけくあさちしけれる野に成りてありし都は見し心地せぬ

つゆしけく−あさちしけれる−のになりて−ありしみやこは−みしここちせぬ


00440
未入力 西行 (xxx)

これや見し昔すみけん跡ならんよもきか露に月のやとれる

これやみし−むかしすみけむ−あとならむ−よもきかつゆに−つきのやとれる


00441
未入力 西行 (xxx)

月すみし宿も昔の宿ならて我かみもあらぬ我かみなりけり

つきすみし−やともむかしの−やとならて−わかみもあらぬ−わかみなりけり


00442
未入力 西行 (xxx)

身のうさを思ひしらてややみなましそむくならひのなきよなりせは

みのうさを−おもひしらてや−やみなまし−そむくならひの−なきよなりせは


00443
未入力 西行 (xxx)

世の中をそむきはてぬといひおかん思ひ知るへき人はなくとも

よのなかを−そむきはてぬと−いひおかむ−おもひしるへき−ひとはなくとも


00444
未入力 西行 (xxx)

程ふれはおなし都の中たにもおほつかなさはとはまほしきを

ほとふれは−おなしみやこの−うちたにも−おほつかなさは−とはまほしきを


00445
未入力 西行 (xxx)

旅ねする嶺の嵐につたひきて哀なりけるかねのおとかな

たひねする−みねのあらしに−つたひきて−あはれなりける−かねのおとかな


00446
未入力 西行 (xxx)

すてて出てしうき世に月のすまてあれなさらは心のとまらさらまし

すてていてし−うきよにつきの−すまてあれな−さらはこころの−とまらさらまし


00447
未入力 西行 (xxx)

世の中をいとふまてこそかたからめかりの宿をもをしむ君かな

よのなかを−いとふまてこそ−かたからめ−かりのやとをも−をしむきみかな


00448
未入力 遊女たへ (xxx)

世をいとふ人とし聞けはかりの宿に心とむなと思ふはかりそ

よをいとふ−ひととしきけは−かりのやとに−こころとむなと−おもふはかりそ


00449
未入力 西行 (xxx)

めくりあはて雲のよそにはなりぬとも月になれ行くむつひ忘るな

めくりあはて−くものよそには−なりぬとも−つきになれゆく−むつひわするな


00450
未入力 西行 (xxx)

もろともになかめなかめて秋の月ひとりにならんことそかなしき

もろともに−なかめなかめて−あきのつき−ひとりにならむ−ことそかなしき


00451
未入力 西行 (xxx)

くやしきはよしなく人になれそめていとふ都のしのはれぬへき

くやしきは−よしなくひとに−なれそめて−いとふみやこの−しのはれぬへき


00452
未入力 西行 (xxx)

大原やまたすみ釜もならはすといひけん人を今あらせはや

おほはらや−またすみかまも−ならはすと−いひけむひとを−いまあらせはや


00453
未入力 西行 (xxx)

涙をは衣川にそなかしつるふるきみやこをおもひ出てつつ

なみたをは−ころもかはにそ−なかしつる−ふるきみやこを−おもひいてつつ


00454
未入力 西行 (xxx)

君いなは月まつとてもなかめやらん東のかたの夕暮の空

きみいなは−つきまつとても−なかめやらむ−あつまのかたの−ゆふくれのそら


00455
未入力 西行 (xxx)

くちもせぬその名はかりをととめおきてかれののすすきかたみにそみる

くちもせぬ−そのなはかりを−ととめおきて−かれののすすき−かたみにそみる


00456
未入力 西行 (xxx)

松山の浪になかれてこし船のやかてむなしく成りにけるかな

まつやまの−なみになかれて−こしふねの−やかてむなしく−なりにけるかな


00457
未入力 西行 (xxx)

よしや君昔の玉のゆかとてもかからん後は何にかはせん

よしやきみ−むかしのたまの−ゆかとても−かからむのちは−なににかはせむ


00458
未入力 西行 (xxx)

ひさにへて我か後の世をとへよ松跡忍ふへき人もなきみそ

ひさにへて−わかのちのよを−とへよまつ−あとしのふへき−ひともなきみそ


00459
未入力 西行 (xxx)

ここを又我すみうくてうかれなは松やひとりにならんとすらん

ここをまた−われすみうくて−うかれなは−まつやひとりに−ならむとすらむ


00460
未入力 西行 (xxx)

露もらぬ窟も袖はぬれけりときかすはいかにあやしからまし

つゆもらぬ−いはほもそては−ぬれけりと−きかすはいかに−あやしからまし


00461
未入力 西行 (xxx)

名におひて紅葉の色のふかき山を心にそむる秋にも有るかな

なにおひて−もみちのいろの−ふかきやまを−こころにそむる−あきにもあるかな


00462
未入力 西行 (xxx)

庵さす草のまくらにともなひてささの露にもやとる月かな

いほりさす−くさのまくらに−ともなひて−ささのつゆにも−やとるつきかな


00463
未入力 西行 (xxx)

ふかき山に住みける月を見さりせは思ひてもなき我かみならまし

ふかきやまに−すみけるつきを−みさりせは−おもひてもなき−わかみならまし


00464
未入力 西行 (xxx)

月すめる谷にそ春はしつみける嶺吹きはらふ母にしられて

つきすめる−たににそはるは−しつみける−みねふきはらふ−かせにしられて


00465
未入力 西行 (xxx)

をはすてはしなのならねといつくにも月すむ峰の名にこそ有りけれ

をはすては−しなのならねと−いつくにも−つきすむみねの−なにこそありけれ


00466
未入力 西行 (xxx)

梢もる月もあはれを思ふへし光にくして露もこほるる

こすゑもる−つきもあはれを−おもふへし−ひかりにくして−つゆもこほるる


00467
未入力 西行 (xxx)

松かねのいはたの川の夕すすみ君かあれなとおもほゆるかな

まつかねの−いはたのかはの−ゆふすすみ−きみかあれなと−おもほゆるかな


00468
未入力 西行 (xxx)

昔見し野中の清水かはらねは我か影をもや思ひ出つらん

むかしみし−のなかのしみつ−かはらねは−わかかけをもや−おもひいつらむ


00469
未入力 西行 (xxx)

つの国のなからの橋のかたもなし名はととまりて聞えわたれと

つのくにの−なからのはしの−かたもなし−なはととまりて−きこえわたれと


00470
未入力 西行 (xxx)

白川のせきやを月のもる影は人の心をとむるなりけり

しらかはの−せきやをつきの−もるかけは−ひとのこころを−とむるなりけり


00471
未入力 西行 (xxx)

浪の音を心にかけてあかすかなとまもる月の影を友にて

なみのおとを−こころにかけて−あかすかな−とまもるつきの−かけをともにて


00472
未入力 西行 (xxx)

月のみやうはの空なるかた見にて思ひも出ては心かよはん

つきのみや−うはのそらなる−かたみにて−おもひもいては−こころかよはむ


00473
未入力 西行 (xxx)

見しままに姿も影もかはらねは月そ都のかた見なりける

みしままに−すかたもかけも−かはらねは−つきそみやこの−かたみなりける


00474
未入力 西行 (xxx)

都にて月を哀と思ひしは数にもあらぬすさひなりけり

みやこにて−つきをあはれと−おもひしは−かすにもあらぬ−すさひなりけり


00475
未入力 西行 (xxx)

たのめおかむ君も心やなくさむとかへらんことはいつとなけれと

たのめおかむ−きみもこころや−なくさむと−かへらむことは−いつとなけれと


00476
未入力 西行 (xxx)

年たけて又こゆへしと思ひきや命なりけりさやの中山

としたけて−またこゆへしと−おもひきや−いのちなりけり−さやのなかやま


00477
未入力 西行 (xxx)

霧ふかきけふのわたりのわたし守岸の船つきおもひさためよ

きりふかき−けふのわたりの−わたしもり−きしのふなつき−おもひさためよ


00478
未入力 西行 (xxx)

嵐吹く嶺の木の葉にさそはれていつちうかるる心なるらん

あらしふく−みねのこのはに−さそはれて−いつちうかるる−こころなるらむ


00479
未入力 侍従の大納言成道 (xxx)

なにとなくおつる木のはも吹く風にちり行くかたはしられやはせぬ

なにとなく−おつるこのはも−ふくかせに−ちりゆくかたは−しられやはせぬ


00480
未入力 西行 (xxx)

さりともとなほあふことを憑むかなしての山路をこえぬ別は

さりともと−なほあふことを−たのむかな−してのやまちを−こえぬわかれは


00481
未入力 西行 (xxx)

世の中に心有明の人はみなかくてやみにはまとはさらなん

よのなかに−こころありあけの−ひとはみな−かくてやみには−まとはさらなむ


00482
未入力 知りたる人 (xxx)

世をそむく心はかりは有明のつきせぬやみは君にはるけん

よをそむく−こころはかりは−ありあけの−つきせぬやみは−きみにはるけむ


00483
未入力 西行 (xxx)

いかかせん世にあらはやは世をもすててあなうの世やとさらにおもはん

いかかせむ−よにあらはやは−よをもすてて−あなうのよやと−さらにおもはむ


00484
未入力 西行 (xxx)

かひありな君かみ袖におほはれてこころにあはぬこともなきかな

かひありな−きみかみそてに−おほはれて−こころにあはぬ−こともなきかな


00485
未入力 西行 (xxx)

風吹けは花さくなみのをるたひに桜かひあるみしまえのうら

かせふけは−はなさくなみの−をるたひに−さくらかひある−みしまえのうら


00486
未入力 西行 (xxx)

浪あらふ衣のうらの袖かひをみきはに風のたたみおくかな

なみあらふ−ころものうらの−そてかひを−みきはにかせの−たたみおくかな


00487
未入力 西行 (xxx)

こよひこそあはれみあつき心ちして嵐の音はよそに聞きつれ

こよひこそ−あはれみあつき−ここちして−あらしのおとは−よそにききつれ


00488
未入力 宮法印 (xxx)

けさの色やわかむらさきにそめてけるこけの袂を思ひかへして

けさのいろや−わかむらさきに−そめてける−こけのたもとを−おもひかへして


00489
未入力 西行 (xxx)

君すまぬ御うちはあれてありすかはいむすかたをもうつしつるかな

きみすまぬ−みうちはあれて−ありすかは−いむすかたをも−うつしつるかな


00490
未入力 宣旨のつほね (xxx)

おもひきやいみこし人のつてににてなれし御うちをきかんものとは

おもひきや−いみこしひとの−つてににて−なれしみうちを−きかむものとは


00491
未入力 新院 (xxx)

もかみ川つなてひくらんいな舟のしはしかほとはいかりおろさん

もかみかは−つなてひくらむ−いなふねの−しはしかほとは−いかりおろさむ


00492
未入力 西行 (xxx)

つよくひくつなてと見せよもかみ川その稲舟のいかりおろさめ

つよくひく−つなてとみせよ−もかみかは−そのいなふねの−いかりおろさめ


00493
未入力 西行 (xxx)

かかる世に影もかはらすすむ月を見る我かみさへうらめしきかな

かかるよに−かけもかはらす−すむつきを−みるわかみさへ−うらめしきかな


00494
未入力 西行 (xxx)

なにことにとまる心のありけれはさらにしも又世のいとはしき

なにことに−とまるこころの−ありけれは−さらにしもまた−よのいとはしき


00495
未入力 西行 (xxx)

なれきにし都もうとくなりはててかなしさそふる秋の山里

なれきにし−みやこもうとく−なりはてて−かなしさそふる−あきのやまさと


00496
未入力 中院の右大臣 (xxx)

夜もすから月をなかめて契置きしそのむつことにやみははれにき

よもすから−つきをなかめて−ちきりおきし−そのむつことに−やみははれにき


00497
未入力 西行 (xxx)

すむと見し心の月しあらはれはこのよのやみははれさらめやは

すむとみし−こころのつきし−あらはれは−このよのやみは−はれさらめやは


00498
未入力 侍賢門院の堀川局 (xxx)

しほなれしとまやもあれてうき浪によるかたもなきあまとしらすや

しほなれし−とまやもあれて−うきなみに−よるかたもなき−あまとしらすや


00499
未入力 西行 (xxx)

とまの屋に浪立ちよらぬけしきにてあまり住みうき程は見えにき

とまのやに−なみたちよらぬ−けしきにて−あまりすみうき−ほとはみえにき


00500
未入力 西行 (xxx)

山おろす嵐のおとのはけしさはいつならひけん君かすみかそ

やまおろす−あらしのおとの−はけしさは−いつならひけむ−きみかすみかそ


00501
未入力 侍賢門院兵衛局 (xxx)

浮世をは嵐のかせにさそはれて家をいてにしすみかとそみる

うきよをは−あらしのかせに−さそはれて−いへをいてにし−すみかとそみる


00502
未入力 西行 (xxx)

すむ人の心くまるる泉かな昔をいかに思ひいつらん

すむひとの−こころくまるる−いつみかな−むかしをいかに−おもひいつらむ


00503
未入力 西行 (xxx)

紅葉見て君か袂や時雨るらん昔の秋の風をしたひて

もみちみて−きみかたもとや−しくるらむ−むかしのあきの−かせをしたひて


00504
未入力 侍賢門院兵衛局 (xxx)

色ふかき木すゑをみても時雨れつつふりにしことをかけぬまそなき

いろふかき−こすゑをみても−しくれつつ−ふりにしことを−かけぬまそなき


00505
未入力 西行 (xxx)

今たにもかかりといひしたきつせのその折まては昔なりけん

いまたにも−かかりといひし−たきつせの−そのをりまては−むかしなりけむ


00506
未入力 西行 (xxx)

いにしへはついゐしやともあるものを何をかけふのかたみにはせん

いにしへは−ついゐしやとも−あるものを−なにをかけふの−かたみにはせむ


00507
未入力 西行 (xxx)

しけき野をいく一むらに分けなしてさらに昔をしのひかへさん

しけきのを−いくひとむらに−わけなして−さらにむかしを−しのひかへさむ


00508
未入力 西行 (xxx)

なかなかに谷のほそ道うつめ雪ありとて人のかよふへきかは

なかなかに−たにのほそみち−うつめゆき−ありとてひとの−かよふへきかは


00509
未入力 西行 (xxx)

折しもあれうれしく雪のつもるかなかきこもりなんとおもふ山路に

をりしもあれ−うれしくゆきの−つもるかな−かきこもりなむと−おもふやまちに


00510
未入力 西行 (xxx)

しきみおくあかのをしきのふちなくはなにに霰の玉とならまし

しきみおく−あかのをしきの−ふちなくは−なににあられの−たまとならまし


00511
未入力 西行 (xxx)

花ならぬことの葉なれとおのつから色もやあると君ひろはなん

はなならぬ−ことのはなれと−おのつから−いろもやあると−きみひろはなむ


00512
未入力 五条三位 (xxx)

三世をすてて入りにし道のことのはそ哀もふかき色は見えける

よをすてて−いりにしみちの−ことのはそ−あはれもふかき−いろはみえける


00513
未入力 西行 (xxx)

分けて入る袖にあはれをかけよとて露けき庭に虫さへそなく

わけている−そてにあはれを−かけよとて−つゆけきにはに−むしさへそなく


00514
未入力 西行 (xxx)

花ををしむ心の色の匂ひをは子を思ふおやの袖にかさねん

はなををしむ−こころのいろの−にほひをは−こをおもふおやの−そてにかさねむ


00515
未入力 堀河の局 (xxx)

この世にてかたらひおかん郭公しての山路のしるへともなれ

このよにて−かたらひおかむ−ほとときす−してのやまちの−しるへともなれ


00516
未入力 西行 (xxx)

郭公鳴く鳴くこそはかたらはめしての山路に君しかからは

ほとときす−なくなくこそは−かたらはめ−してのやまちに−きみしかからは


00517
未入力 西行 (xxx)

あさく出てし心の水や湛ふらんすみゆくままにふかくなるかな

あさくいてし−こころのみつや−たたふらむ−すみゆくままに−ふかくなるかな


00518
未入力 西行 (xxx)

夢さむる鐘のひひきに打ちそへて十たひのみなをとなへつるかな

ゆめさむる−かねのひひきに−うちそへて−とたひのみなを−となへつるかな


00519
未入力 西行 (xxx)

すすか山うき世の中をふりすてていかになり行く我か身なるらん

すすかやま−うきよのなかを−ふりすてて−いかになりゆく−わかみなるらむ


00520
未入力 西行 (xxx)

折につけて人の心もかはりつつ世にあるかひもなきさなりけり

をりにつけて−ひとのこころも−かはりつつ−よにあるかひも−なきさなりけり


00521
未入力 西行 (xxx)

撫子のませにそはへるあこたうりおなしつらなるなをしたひつつ

なてしこの−ませにそはへる−あこたうり−おなしつらなる−なをしたひつつ


00522
未入力 西行 (xxx)

かつみふくくまのまうてのとまりをはこもくろめとやいふへかるらん

かつみふく−くまのまうての−とまりをは−こもくろめとや−いふへかるらむ


00523
未入力 西行 (xxx)

家の風吹きつたへたるかひありてちることの葉のめつらしきかな

いへのかせ−ふきつたへたる−かひありて−ちることのはの−めつらしきかな


00524
未入力 西行 (xxx)

千代ふへき物をさなからあつめてや君かよはひの数にとるへき

ちよふへき−ものをさなから−あつめてや−きみかよはひの−かすにとるへき


00525
未入力 西行 (xxx)

わか葉さすひらのの松はさらに又えたにや千代の数をそふらん

わかはさす−ひらののまつは−さらにまた−えたにやちよの−かすをそふらむ


00526
未入力 西行 (xxx)

君か代のためしになにを思はましかはらぬまつの色なかりせは

きみかよの−ためしになにを−おもはまし−かはらぬまつの−いろなかりせは


00527
未入力 西行 (xxx)

なにことにつけてか世をはいとふへきうかりし人そけふはうれしき

なにことに−つけてかよをは−いとふへき−うかりしひとそ−けふはうれしき


00528
未入力 西行 (xxx)

よしさらは涙の池に袖なして心のままに月をやとさん

よしさらは−なみたのいけに−そてなして−こころのままに−つきをやとさむ


00529
未入力 西行 (xxx)

くやしくもしつのふせやの戸をしめて月のもるをもしらて過きぬる

くやしくも−しつのふせやの−とをしめて−つきのもるをも−しらてすきぬる


00530
未入力 西行 (xxx)

とたえせていつまて人のかよひけん嵐そわたる谷のかけはし

とたえせて−いつまてひとの−かよひけむ−あらしそわたる−たにのかけはし


00531
未入力 西行 (xxx)

人しらてつひのすみかに憑むへき山のおくにもとまりそめぬる

ひとしらて−つひのすみかに−たのむへき−やまのおくにも−とまりそめぬる


00532
未入力 西行 (xxx)

うきふしをまつおもひしる涙かなさのみこそはとなくさむれとも

うきふしを−まつおもひしる−なみたかな−さのみこそはと−なくさむれとも


00533
未入力 西行 (xxx)

とふ人もおもひたえたる山郷のさひしさなくはすみうからまし

とふひとも−おもひたえたる−やまさとの−さひしさなくは−すみうからまし


00534
未入力 西行 (xxx)

ときはなる太山にふかく入りにしを花咲きなはとおもひけるかな

ときはなる−みやまにふかく−いりにしを−はなさきなはと−おもひけるかな


00535
未入力 西行 (xxx)

世をすつる人はまことにすつるかはすてぬ人こそすつるなりけれ

よをすつる−ひとはまことに−すつるかは−すてぬひとこそ−すつるなりけれ


00536
未入力 西行 (xxx)

時雨かは山めくりする心かないつまてとなく打ちしをれつつ

しくれかは−やまめくりする−こころかな−いつまてとなく−うちしをれつつ


00537
未入力 西行 (xxx)

浮世とて月すますなることもあらはいかかはすへき天の下人

うきよとて−つきすますなる−こともあらは−いかかはすへき−あめのしたひと


00538
未入力 西行 (xxx)

来ん世には心のうちにあらはさんあかてやみぬる月のひかりを

こむよには−こころのうちに−あらはさむ−あかてやみぬる−つきのひかりを


00539
未入力 西行 (xxx)

ふけにける我か世の影を思ふまにはるかに月のかたふきにける

ふけにける−わかよのかけを−おもふまに−はるかにつきの−かたふきにける


00540
未入力 西行 (xxx)

しをりせてなほ山ふかく分入らんうきこときかぬ所ありやと

しをりせて−なほやまふかく−わけいらむ−うきこときかぬ−ところありやと


00541
未入力 西行 (xxx)

暁の嵐にたくふ鐘の音を心のそこにこたへてそきく

あかつきの−あらしにたくふ−かねのおとを−こころのそこに−こたへてそきく


00542
未入力 西行 (xxx)

あらはさぬ我か心をそうらむへき月やはうときをはすての山

あらはさぬ−わかこころをそ−うらむへき−つきやはうとき−をはすてのやま


00543
未入力 西行 (xxx)

たのもしな君君にますをりにあひて心の色を筆にそめつる

たのもしな−きみきみにます−をりにあひて−こころのいろを−ふてにそめつる


00544
未入力 西行 (xxx)

今よりはいとはし命あれはこそかかるすまひの哀をもしれ

いまよりは−いとはしいのち−あれはこそ−かかるすまひの−あはれをもしれ


00545
未入力 西行 (xxx)

身のうさのかくれかにせん山里は心ありてそ住むへかりける

みのうさの−かくれかにせむ−やまさとは−こころありてそ−すむへかりける


00546
未入力 西行 (xxx)

いつくにかみをかくさましいとひ出てて浮世にふかき山なかりせは

いつくにか−みをかくさまし−いとひいてて−うきよにふかき−やまなかりせは


00547
未入力 西行 (xxx)

山里にうき世いとはん人もかなくやしく過きし昔かたらん

やまさとに−うきよいとはむ−ひともかな−くやしくすきし−むかしかたらむ


00548
未入力 西行 (xxx)

足引の山のあなたに君すまは入るとも月ををしまさらまし

あしひきの−やまのあなたに−きみすまは−いるともつきを−をしまさらまし


00549
未入力 西行 (xxx)

浮世いとふ山のおくにもしたひ来て月そ住家の哀をもしる

うきよいとふ−やまのおくにも−したひきて−つきそすみかの−あはれをもしる


00550
未入力 西行 (xxx)

朝日まつ程はやみにやまよはまし有明の月の影なかりせは

あさひまつ−ほとはやみにや−まよはまし−ありあけのつきの−かけなかりせは


00551
未入力 西行 (xxx)

古郷は見し世にもにすあせにけりいつち昔の人は行きけん

ふるさとは−みしよにもにす−あせにけり−いつちむかしの−ひとはゆきけむ


00552
未入力 西行 (xxx)

昔見し宿の小松に年ふりて嵐の音を梢にそ聞く

むかしみし−やとのこまつに−としふりて−あらしのおとを−こすゑにそきく


00553
未入力 西行 (xxx)

山郷は谷のかけ樋のたえたえに水こひとりのこゑ聞ゆなり

やまさとは−たにのかけひの−たえたえに−みつこひとりの−こゑきこゆなり


00554
未入力 西行 (xxx)

ふるはたのそはのたつ木にゐるはとの友よふこゑのすこき夕暮

ふるはたの−そはのたつきに−ゐるはとの−ともよふこゑの−すこきゆふくれ


00555
未入力 西行 (xxx)

見れはけに心もそれになりそ行くかれのの薄有明の月

みれはけに−こころもそれに−なりそゆく−かれののすすき−ありあけのつき


00556
未入力 西行 (xxx)

なさけありし昔のみなほしのはれてなからへまうき世にも有るかな

なさけありし−むかしのみなほ−しのはれて−なからへまうき−よにもあるかな


00557
未入力 西行 (xxx)

世を出てて渓に住みけるうれしさはふるすに残る鴬のこゑ

よをいてて−たににすみける−うれしさは−ふるすにのこる−うくひすのこゑ


00558
未入力 西行 (xxx)

あはれ行くしはのふたては山里に心すむへきすまひなりけり

あはれゆく−しはのふたては−やまさとに−こころすむへき−すまひなりけり


00559
未入力 西行 (xxx)

いつくにもすまれすはたたすまてあらん柴の庵のしはしなる世に

いつくにも−すまれすはたた−すまてあらむ−しはのいほりの−しはしなるよに


00560
未入力 西行 (xxx)

いつなけきいつおもふへきことなれはのちのよしらて人のすくらん

いつなけき−いつおもふへき−ことなれは−のちのよしらて−ひとのすくらむ


00561
未入力 西行 (xxx)

さてもこはいかかはすへき世の中に有るにもあらすなきにしもなし

さてもこは−いかかはすへき−よのなかに−あるにもあらす−なきにしもなし


00562
未入力 西行 (xxx)

花ちらて月はくもらぬ世なりせは物を思はぬ我かみならまし

はなちらて−つきはくもらぬ−よなりせは−ものをおもはぬ−わかみならまし


00563
未入力 西行 (xxx)

たのもしなよひあかつきの鐘の音に物おもふつみはくしてつくらん

たのもしな−よひあかつきの−かねのおとに−ものおもふつみは−くしてつくらむ


00564
未入力 西行 (xxx)

なにとなくせりと聞くこそあはれなれつみけん人の心しられて

なにとなく−せりときくこそ−あはれなれ−つみけむひとの−こころしられて


00565
未入力 西行 (xxx)

はらはらとおつる涙そ哀なるたまらす物のかなしかるへし

はらはらと−おつるなみたそ−あはれなる−たまらすものの−かなしかるへし


00566
未入力 西行 (xxx)

わひ人の涙ににたる桜かな風みにしめはまつこほれつつ

わひひとの−なみたににたる−さくらかな−かせみにしめは−まつこほれつつ


00567
未入力 西行 (xxx)

つくつくと物をおもふに打ちそへてをり哀なる鐘のおとかな

つくつくと−ものをおもふに−うちそへて−をりあはれなる−かねのおとかな


00568
未入力 西行 (xxx)

谷の戸に独そ松もたてりける我のみ友はなきかと思へは

たにのとに−ひとりそまつも−たてりける−われのみともは−なきかとおもへは


00569
未入力 西行 (xxx)

松風のおとあはれなる山里にさひしさそふる日くらしのこゑ

まつかせの−おとあはれなる−やまさとに−さひしさそふる−ひくらしのこゑ


00570
未入力 西行 (xxx)

みくまののはまゆふおふる浦さひて人なみなみに年そかさなる

みくまのの−はまゆふおふる−うらさひて−ひとなみなみに−としそかさなる


00571
未入力 西行 (xxx)

いそのかみふるきをしたふ世なりせはあれたる宿に人すみなまし

いそのかみ−ふるきをしたふ−よなりせは−あれたるやとに−ひとすみなまし


00572
未入力 西行 (xxx)

風吹けはあたにやれ行くはせうはのあれはとみをもたのむへきかは

かせふけは−あたにやれゆく−はせうはの−あれはとみをも−たのむへきかは


00573
未入力 西行 (xxx)

またれつる入あひの鐘の音すなりあすもやあらはきかんとすらん

またれつる−いりあひのかねの−おとすなり−あすもやあらは−きかむとすらむ


00574
未入力 西行 (xxx)

入日さす山のあなたはしらねとも心をかねておくりおきつる

いりひさす−やまのあなたは−しらねとも−こころをかねて−おくりおきつる


00575
未入力 西行 (xxx)

しはの庵はすみうきこともあらましを友なふ月の影なかりせは

しはのいほは−すみうきことも−あらましを−ともなふつきの−かけなかりせは


00576
未入力 西行 (xxx)

わつらはて月には夜るもかよひけりとなりへつたふあせのほそ道

わつらはて−つきにはよるも−かよひけり−となりへつたふ−あせのほそみち


00577
未入力 西行 (xxx)

ひかりをはくもらぬ月そみかきけるいなはにかくるあさひこのため

ひかりをは−くもらぬつきそ−みかきける−いなはにかくる−あさひこのため


00578
未入力 西行 (xxx)

影消えては山の月はもりもこす谷は木末の雪と見えつつ

かけきえて−はやまのつきは−もりもこす−たにはこすゑの−ゆきとみえつつ


00579
未入力 西行 (xxx)

嵐こす嶺の木の間を分けきつつ谷の清水にやとる月かけ

あらしこす−みねのこのまを−わけきつつ−たにのしみつに−やとるつきかけ


00580
未入力 西行 (xxx)

月を見るよそもさこそはいとふらめ雲たたここの空にたたよへ

つきをみる−よそもさこそは−いとふらめ−くもたたここの−そらにたたよへ


00581
未入力 西行 (xxx)

雲にたたこよひは月をやとしてんいとふとてしも晴れぬものゆゑ

くもにたた−こよひはつきを−やとしてむ−いとふとてしも−はれぬものゆゑ


00582
未入力 西行 (xxx)

打ちはるる雲なかりけり吉野山花もてわたる風とみたれは

うちはるる−くもなかりけり−よしのやま−はなもてわたる−かせとみたれは


00583
未入力 西行 (xxx)

なにとなく汲むたひにすむ心かな岩井の水に影うつしつつ

なにとなく−くむたひにすむ−こころかな−いはゐのみつに−かけうつしつつ


00584
未入力 西行 (xxx)

谷風は戸を吹きあけて入るものをなにと嵐のまとたたくらん

たにかせは−とをふきあけて−いるものを−なにとあらしの−まとたたくらむ


00585
未入力 西行 (xxx)

つかはねとうつれる影を友としてをしすみけりな山川のみつ

つかはねと−うつれるかけを−ともとして−をしすみけりな−やまかはのみつ


00586
未入力 西行 (xxx)

おとはせて岩にたはしる霰こそよもきか宿の友となりけれ

おとはせて−いはにたはしる−あられこそ−よもきかやとの−ともとなりけれ


00587
未入力 西行 (xxx)

熊のすむこけの岩山おそろしやむへなりけりな人もかよはぬ

くまのすむ−こけのいはやま−おそろしや−むへなりけりな−ひともかよはぬ


00588
未入力 西行 (xxx)

里人のおほぬさこぬさたてなめてむまかたむすふ野へになりけり

さとひとの−おほぬさこぬさ−たてなめて−むまかたむすふ−のへになりけり


00589
未入力 西行 (xxx)

くれなゐの色なりなからたてのほのからしや人のめにもたてねは

くれなゐの−いろなりなから−たてのほの−からしやひとの−めにもたてねは


00590
未入力 西行 (xxx)

ひさ木おひてすすめとなれるかけなれや波うつ岸に風わたりつつ

ひさきおひて−すすめとなれる−かけなれや−なみうつきしに−かせわたりつつ


00591
未入力 西行 (xxx)

をりかくるなみの立つかと見ゆるかなすさきにきゐるささの村鳥

をりかくる−なみのたつかと−みゆるかな−すさきにきゐる−ささのむらとり


00592
未入力 西行 (xxx)

浦ちかみかれたる松の梢には波の音をや風はかるらん

うらちかみ−かれたるまつの−こすゑには−なみのおとをや−かせはかるらむ


00593
未入力 西行 (xxx)

しほ風にいせの浜荻ふけはまつほすゑ浪のあらたなるかな

しほかせに−いせのはまをき−ふけはまつ−ほすゑをなみの−あらたなるかな


00594
未入力 西行 (xxx)

ふもと行く舟人いかにさむからんくま山たけをおろす嵐に

ふもとゆく−ふなひといかに−さむからむ−くまやまたけを−おろすあらしに


00595
未入力 西行 (xxx)

おほつかないふきおろしのかささきにあさつま舟はあひやしぬらん

おほつかな−いふきおろしの−かささきに−あさつまふねは−あひやしぬらむ


00596
未入力 西行 (xxx)

いたちもるあまみかせきに成りにけりえそかちしまを煙こめたり

いたちもる−あまみかせきに−なりにけり−えそかちしまを−けふりこめたり


00597
未入力 西行 (xxx)

もののふのならすすさみはおひたたしあけとのしさりかもの入くひ

もののふの−ならすすさみは−おひたたし−あけとのしさり−かものいりくひ


00598
未入力 西行 (xxx)

山里は人こさせしとおもはねととはるることそうとくなり行く

やまさとは−ひとこさせしと−おもはねと−とはるることそ−うとくなりゆく



西行法師家集 追加

00599
未入力 西行 (xxx)

花見にとむれつつ人のくるのみそあたら桜のとかには有りける

はなみにと−むれつつひとの−くるのみそ−あたらさくらの−とかにはありける


00600
未入力 西行 (xxx)

山ふかみ霞こめたる柴の戸に友なふ物は谷の鴬

やまふかみ−かすみこめたる−しはのとに−ともなふものは−たにのうくひす


00601
未入力 西行 (xxx)

宮はしらしたつ岩ねにしきたてて露もくもらぬ日の御影かな

みやはしら−したついはねに−しきたてて−つゆもくもらぬ−ひのみかけかな


00602
未入力 西行 (xxx)

神路山月さやかなるかひありて天の下をはてらすなりけり

かみちやま−つきさやかなる−かひありて−あめのしたをは−てらすなりけり


00603
未入力 西行 (xxx)

さか木はに心をかけてゆふしてのおもへは神も仏なりけり

さかきはに−こころをかけて−ゆふしての−おもへはかみも−ほとけなりけり


00604
未入力 西行 (xxx)

おもひきやふた見のうらの月をみて明暮袖に浪かけんとは

おもひきや−ふたみのうらの−つきをみて−あけくれそてに−なみかけむとは


00605
未入力 西行 (xxx)

岩戸あけしあまつみことのそのかみに桜を誰か植始めけん

いはとあけし−あまつみことの−そのかみに−さくらをたれか−うゑはしめけむ


00606
未入力 西行 (xxx)

爰も又都のたつみ鹿そすむ山こそかはれ名は宇治の里

ここもまた−みやこのたつみ−しかそすむ−やまこそかはれ−なはうちのさと


00607
未入力 西行 (xxx)

この春は花ををしまてよそならん心を風の宮にまかせて

このはるは−はなををしまて−よそならむ−こころをかせの−みやにまかせて


00608
未入力 西行 (xxx)

梢見れは秋にかはらぬ名なりけり花おもしろき月よみの宮

こすゑみれは−あきにかはらぬ−ななりけり−はなおもしろき−つきよみのみや


00609
未入力 西行 (xxx)

神風に心やすくそまかせつる桜の宮の花のさかりを

かみかせに−こころやすくそ−まかせつる−さくらのみやの−はなのさかりを


00610
未入力 西行 (xxx)

かみ路山みしめにこむる花さかりこはいかはかりうれしからまし

かみちやま−みしめにこむる−はなさかり−こはいかはかり−うれしからまし


00611
未入力 西行 (xxx)

かすますは何をか春とおもはましまた雪きえぬみよしのの山

かすますは−なにをかはると−おもはまし−またゆききえぬ−みよしののやま


00612
未入力 西行 (xxx)

さやかなる鷲のたかねの雲ゐより影やはらくる月よみの森

さやかなる−わしのたかねの−くもゐより−かけやはらくる−つきよみのもり


00613
未入力 西行 (xxx)

鷲の山くもる心のなかりせは誰も見るへき有明の月

わしのやま−くもるこころの−なかりせは−たれもみるへき−ありあけのつき


00614
未入力 西行 (xxx)

年をへてまつもをしむも山桜花に心をつくすなりけり

としをへて−まつもをしむも−やまさくら−はなにこころを−つくすなりけり


00615
未入力 西行 (xxx)

なにことをいかにおもふとなけれとも袂かわかぬ秋の夕暮

なにことを−いかにおもふと−なけれとも−たもとかわかぬ−あきのゆふくれ


00616
未入力 西行 (xxx)

秋ふかみよわるは虫のこゑのみか聞く我とてもたのみやはある

あきふかみ−よわるはむしの−こゑのみか−きくわれとても−たのみやはある


00617
未入力 西行 (xxx)

秋の夜をひとりやなきてあかさまし友なふ虫のこゑなかりせは

あきのよを−ひとりやなきて−あかさまし−ともなふむしの−こゑなかりせは


00618
未入力 西行 (xxx)

おほつかな秋はいかなるゆゑのあれはすすろにもののかなしかるらん

おほつかな−あきはいかなる−ゆゑのあれは−すすろにものの−かなしかるらむ


00619
未入力 西行 (xxx)

松にはふまさきのかつらちりぬなり外山の秋は風すさむらん

まつにはふ−まさきのかつら−ちりぬなり−とやまのあきは−かせすさむらむ


00620
未入力 西行 (xxx)

秋しのや外山のさとや時雨るらんいこまのたけに雲のかかれる

あきしのや−とやまのさとや−しくるらむ−いこまのたけに−くものかかれる


00621
未入力 西行 (xxx)

あつまやのあまりにもふる時雨かな誰かはしらぬ神無月とは

あつまやの−あまりにもふる−しくれかな−たれかはしらぬ−かみなつきとは


00622
未入力 西行 (xxx)

道のへの清水なかるる柳影しはしとてこそ立ちとまりつれ

みちのへの−しみつなかるる−やなきかけ−しはしとてこそ−たちとまりつれ


00623
未入力 西行 (xxx)

よられつる野もせのくさの影ろひて涼しくくもる夕立の空

よられつる−のもせのくさの−かけろひて−すすしくくもる−ゆふたちのそら


00624
未入力 西行 (xxx)

花におく露にやとりし影よりもかれのの月はあはれなりけり

はなにおく−つゆにやとりし−かけよりも−かれののつきは−あはれなりけり


00625
未入力 西行 (xxx)

冬かれのすさましけなる山里に月のすむこそ哀なりけれ

ふゆかれの−すさましけなる−やまさとに−つきのすむこそ−あはれなりけれ


00626
未入力 西行 (xxx)

ふかく入りて神路のおくを尋ぬれは又うへもなき峰のまつかせ

ふかくいりて−かみちのおくを−たつぬれは−またうへもなき−みねのまつかせ


00627
未入力 西行 (xxx)

山ふかみなるるかせきのけちかさに世にとほさかる程そしらるる

やまふかみ−なるるかせきの−けちかさに−よにとほさかる−ほとそしらるる


00628
未入力 西行 (xxx)

たのむらんしるへもいさやひとつ世の別にたにもまとふ心は

たのむらむ−しるへもいさや−ひとつよの−わかれにたにも−まとふこころは


00629
未入力 西行 (xxx)

わたの原はるかに浪をへたてきて都に出てし月をみるかな

わたのはら−はるかになみを−へたてきて−みやこにいてし−つきをみるかな


00630
未入力 西行 (xxx)

しかまつのくすのしけみにつまこめてとかみか原にをしか鳴くなり

しかまつの−くすのしけみに−つまこめて−とかみかはらに−をしかなくなり


00631
未入力 西行 (xxx)

郭公都へゆかはことつてんこえくらしたる山の哀を

ほとときす−みやこへゆかは−ことつてむ−こえくらしたる−やまのあはれを


00632
未入力 西行 (xxx)

立ちそめてかへる心は錦木のちつか待つへき心ちこそせめ

たちそめて−かへるこころは−にしききの−ちつかまつへき−ここちこそせめ


00633
未入力 西行 (xxx)

風あらき柴の庵はつねよりもねさめて物はかなしかりけり

かせあらき−しはのいほりは−つねよりも−ねさめてものは−かなしかりけり


00634
未入力 西行 (xxx)

なへて見る君か歎をとふ数におもひなされぬ言のはもかな

なへてみる−きみかなけきを−とふかすに−おもひなされぬ−ことのはもかな


00635
未入力 西行 (xxx)

なき跡の面影をのみみにそへてさこそは人の恋しかるらめ

なきあとの−おもかけをのみ−みにそへて−さこそはひとの−こひしかるらめ


00636
未入力 西行 (xxx)

なかれ行く水に玉なすうたかたのあはれあたなるこの世なりけり

なかれゆく−みつにたまなす−うたかたの−あはれあたなる−このよなりけり


00637
未入力 西行 (xxx)

なき人もあるをおもふも世の中はねふりのうちの夢とこそなれ

なきひとも−あるをおもふも−よのなかは−ねふりのうちの−ゆめとこそなれ


00638
未入力 西行 (xxx)

をしむとてをしまれぬへきこの世かはみをすててこそみをもたすけめ

をしむとて−をしまれぬへき−このよかは−みをすててこそ−みをもたすけめ


00639
未入力 西行 (xxx)

いとふへきかりのやとりはいてぬなり今はまことの道を尋ねよ

いとふへき−かりのやとりは−いてぬなり−いまはまことの−みちをたつねよ


00640
未入力 西行 (xxx)

いとといかに山を出てしとおもふらん心の月を独すまして

いとといかに−やまをいてしと−おもふらむ−こころのつきを−ひとりすまして


00641
未入力 前大僧正慈鎮 (xxx)

うきみこそなほ山陰にしつめとも心にうかふ月をみせはや

うきみこそ−なほやまかけに−しつめとも−こころにうかふ−つきをみせはや


00642
未入力 西行 (xxx)

ことのねになみたをそへてなかすかなたえなましかはとおもふあはれに

ことのねに−なみたをそへて−なかすかな−たえなましかはと−おもふあはれに


00643
未入力 西行 (xxx)

かくれなくもにすむ虫の見ゆれとも我からくもる秋のよの月

かくれなく−もにすむむしの−みゆれとも−われからくもる−あきのよのつき


00644
未入力 西行 (xxx)

したはるる心やゆくと山のはにしはしな入りそ秋のよの月

したはるる−こころやゆくと−やまのはに−しはしないりそ−あきのよのつき


00645
未入力 西行 (xxx)

あま雲のわりなきひまをもる月の影はかりたにあひみてしかな

あまくもの−わりなきひまを−もるつきの−かけはかりたに−あひみてしかな


00646
未入力 西行 (xxx)

うらみてもなくさみてまし中中につらくて人のあはぬと思はは

うらみても−なくさみてまし−なかなかに−つらくてひとの−あはぬとおもはは


00647
未入力 西行 (xxx)

今よりはあはて物をはおもふとも後うき人にみをはまかせし

いまよりは−あはてものをは−おもふとも−のちうきひとに−みをはまかせし


00648
未入力 西行 (xxx)

はるかなる岩のはさまにひとりゐて人目つつまて物思ははや

はるかなる−いはのはさまに−ひとりゐて−ひとめつつまて−ものおもははや


00649
未入力 西行 (xxx)

面影のわすらるましき別かな名残を人の月にととめて

おもかけの−わすらるましき−わかれかな−なこりをひとの−つきにととめて


00650
未入力 西行 (xxx)

有明はおもひてあれやよこ雲のたたよはれつるしののめの空

ありあけは−おもひてあれや−よこくもの−たたよはれつる−しののめのそら


00651
未入力 西行 (xxx)

から衣立ちはなれにしままならはかさねて物はおもはさらまし

からころも−たちはなれにし−ままならは−かさねてものは−おもはさらまし


00652
未入力 西行 (xxx)

我か袖をたこのもすそにくらへはやいつれかいたくぬれはまさると

わかそてを−たこのもすそに−くらへはや−いつれかいたく−ぬれはまさると


00653
未入力 西行 (xxx)

人はこて風のけしきのふけぬるに哀に雁のおとつれて行く

ひとはこて−かせのけしきの−ふけぬるに−あはれにかりの−おとつれてゆく


00654
未入力 西行 (xxx)

たのめぬに君くやとまつよひのまはふけゆかてたた明けなましものを

たのめぬに−きみくやとまつ−よひのまは−ふけゆかてたた−あけなましものを


00655
未入力 西行 (xxx)

あはれとて人の心の情あれや数ならぬにはよらぬなけきを

あはれとて−ひとのこころの−なさけあれや−かすならぬには−よらぬなけきを


00656
未入力 西行 (xxx)

物おもひてなかむるころの月の色にいかはかりなる哀そふらん

ものおもひて−なかむるころの−つきのいろに−いかはかりなる−あはれそふらむ


00657
未入力 西行 (xxx)

みさをなる涙なりせはから衣かけても人にしられさらまし

みさをなる−なみたなりせは−からころも−かけてもひとに−しられさらまし


00658
未入力 西行 (xxx)

まつしまやをしまの磯も何ならすたたきさかたの秋のよの月

まつしまや−をしまのいそも−なにならす−たたきさかたの−あきのよのつき


00659
未入力 西行 (xxx)

月の色に心をふかくそめましや都を出てぬ我かxなりせは

つきのいろに−こころをふかく−そめましや−みやこをいてぬ−わかхなりせは


00660
未入力 西行 (xxx)

風さむみいせの浜荻分けゆけは衣かりかね浪に鳴くなり

かせさむみ−いせのはまをき−わけゆけは−ころもかりかね−なみになくなり


00661
未入力 西行 (xxx)

月影のしららのはまのしろかひはなみもひとつに見えわたるかな

つきかけの−しららのはまの−しろかひは−なみもひとつに−みえわたるかな


00662
未入力 西行 (xxx)

しほ煙るますほのをかひひろふとていろの浜とは言ふにやあるらん

しほけふる−ますほのをかひ−ひろふとて−いろのはまとは−いふにやあるらむ


00663
未入力 西行 (xxx)

浪よする竹のとまりのすすめ貝うれしき世世にあひにけるかな

なみよする−たけのとまりの−すすめかひ−うれしきよよに−あひにけるかな


00664
未入力 西行 (xxx)

なみよする吹上の浜のすたれかひ風もそおろすいそにひろはは

なみよする−ふきあけのはまの−すたれかひ−かせもそおろす−いそにひろはは


00665
未入力 西行 (xxx)

我か恋はほそ谷川の水なれやすゑにくははる音聞ゆなり

わかこひは−ほそたにかはの−みつなれや−すゑにくははる−おときこゆなり


00666
未入力 西行 (xxx)

よこの海の君をみしまにひくあみのめにもかからぬあちの村鳥

よこのうみの−きみをみしまに−ひくあみの−めにもかからぬ−あちのむらとり


00667
未入力 西行 (xxx)

我か恋はみしまか浪にこき出ててなころわつらふあまのつり舟

わかこひは−みしまかなみに−こきいてて−なころわつらふ−あまのつりふね


00668
未入力 西行 (xxx)

なこの海かれたるあさの島かくれ風にかたよるすかの村鳥

なこのうみ−かれたるあさの−しまかくれ−かせにかたよる−すかのむらとり


00669
未入力 西行 (xxx)

とちそむる氷をいかにいとふらんあちむらわたるすはの水うみ

とちそむる−こほりをいかに−いとふらむ−あちむらわたる−すはのみつうみ


00670
未入力 西行 (xxx)

波にちる紅葉の色をあらふゆゑに錦の島といふにやあるらん

なみにちる−もみちのいろを−あらふゆゑに−にしきのしまと−いふにやあるらむ


00671
未入力 西行 (xxx)

山ふかくさこそ心はかよふともすまて哀は知らんものかは

やまふかく−さこそこころは−かよふとも−すまてあはれは−しらむものかは


00672
未入力 西行 (xxx)

数ならぬみをも心のもちかほにうかれても又帰りきにけり

かすならぬ−みをもこころの−もちかほに−うかれてもまた−かへりきにけり


00673
未入力 西行 (xxx)

おろかなる心のひくにまかせてもさてさはいかにつひの住かは

おろかなる−こころのひくに−まかせても−さてさはいかに−つひのすみかは


00674
未入力 西行 (xxx)

うけかたき人のすかたにうかひ出ててこりすや誰も又しつむらん

うけかたき−ひとのすかたに−うかひいてて−こりすやたれも−またしつむらむ


00675
未入力 西行 (xxx)

世をいとふ名をたにもさはととめおきて数ならぬみの思出にせん

よをいとふ−なをたにもさは−ととめおきて−かすならぬみの−おもひてにせむ


00676
未入力 西行 (xxx)

おのつからいはぬをもとふ人やあるとやすらふ程に年そ暮れぬる

おのつから−いはぬをもとふ−ひとやあると−やすらふほとに−としそくれぬる


00677
未入力 西行 (xxx)

すゑの世もこの情のみかはらすと見し夢なくはよそに聞かまし

すゑのよも−このなさけのみ−かはらすと−みしゆめなくは−よそにきかまし


00678
未入力 西行 (xxx)

たち入らて雲まを分けし月影はまたぬけしきや空に見えけん

たちいらて−くもまをわけし−つきかけは−またぬけしきや−そらにみえけむ


00679
未入力 西行 (xxx)

年くれぬ春くへしとはおもはねとまさしく見えてかなふはつ夢

としくれぬ−はるくへしとは−おもはねと−まさしくみえて−かなふはつゆめ


00680
未入力 西行 (xxx)

とけそむるはつ若水の氷にて春たつことのまつくまれぬる

とけそむる−はつわかみつの−こほりにて−はるたつことの−まつくまれぬる


00681
未入力 西行 (xxx)

磯なつむあまのさをとめ心せよおきふく風に浪たかくみゆ

いそなつむ−あまのさをとめ−こころせよ−おきふくかせに−なみたかくみゆ


00682
未入力 西行 (xxx)

山桜かさしの花に折りそへてかきりの春のいへつとにせん

やまさくら−かさしのはなに−をりそへて−かきりのはるの−いへつとにせむ


00683
未入力 西行 (xxx)

をりならぬめくりのかきの卯の花をうれしく雪のさかせけるかな

をりならぬ−めくりのかきの−うのはなを−うれしくゆきの−さかせけるかな


00684
未入力 西行 (xxx)

郭公ききにとてしもこもらねとはつせの山はたより有りけり

ほとときす−ききにとてしも−こもらねと−はつせのやまは−たよりありけり


00685
未入力 西行 (xxx)

むらさきの色なき程の野へなれやかた祭にてかけぬ葵は

むらさきの−いろなきほとの−のへなれや−かたまつりにて−かけぬあふひは


00686
未入力 西行 (xxx)

五月雨は野原の沢に水こえていつれなるらんぬまの八橋

さみたれは−のはらのさはに−みつこえて−いつれなるらむ−ぬまのやつはし


00687
未入力 西行 (xxx)

山かつの折かけかきのひまこえてとなりにもさく夕かほの花

やまかつの−をりかけかきの−ひまこえて−となりにもさく−ゆふかほのはな


00688
未入力 西行 (xxx)

露つつむ池のはちすのまくりはに衣の玉をおもひしるかな

つゆつつむ−いけのはちすの−まくりはに−ころものたまを−おもひしるかな


00689
未入力 西行 (xxx)

雲きゆるなちの高嶺に月たけて光をぬけるたきの白糸

くもきゆる−なちのたかねに−つきたけて−ひかりをぬける−たきのしらいと


00690
未入力 西行 (xxx)

みにつもることはの罪もあらはれて心すみけり三かさねのたき

みにつもる−ことはのつみも−あらはれて−こころすみけり−みかさねのたき


00691
未入力 西行 (xxx)

木のもとにすみけるあとをみつるかななちの高根の花を尋ねて

このもとに−すみけるあとを−みつるかな−なちのたかねの−はなをたつねて


00692
未入力 西行 (xxx)

三笠山春はこゑにて知られけり氷をたたく鴬のたき

みかさやま−はるはこゑにて−しられけり−こほりをたたく−うくひすのたき


00693
未入力 西行 (xxx)

浪にやとる月を汀にゆりよせて鏡にかくる住よしの岸

なみにやとる−つきをみきはに−ゆりよせて−かかみにかくる−すみよしのきし


00694
未入力 西行 (xxx)

はつ春をくまなくてらす影をみて月にまつしるみもすその岸

はつはるを−くまなくてらす−かけをみて−つきにまつしる−みもすそのきし


00695
未入力 西行 (xxx)

千鳥鳴く絵島の浦にすむ月を浪にうつしてみるこよひかな

ちとりなく−ゑしまのうらに−すむつきを−なみにうつして−みるこよひかな


00696
未入力 西行 (xxx)

すはの海に氷すらしも夜もすからきそのあさきぬさえわたるなり

すはのうみに−こほりすらしも−よもすから−きそのあさきぬ−さえわたるなり


00697
未入力 西行 (xxx)

時雨れそむる花苑山に秋暮れて錦の色をあらたむるかな

しくれそむる−はなそのやまに−あきくれて−にしきのいろを−あらたむるかな


00698
未入力 西行 (xxx)

まさ木わるひたのたくみや出てつらん村雨すきぬかさとりの山

まさきわる−ひたのたくみや−いてつらむ−むらさめすきぬ−かさとりのやま


00699
未入力 西行 (xxx)

谷あひのまきのすそ山石たては杣人いかに涼しかるらん

たにあひの−まきのすそやま−いしたては−そまひといかに−すすしかるらむ


00700
未入力 西行 (xxx)

青根山苔の莚の上にして春はしとねの心ちこそすれ

あをねやま−こけのむしろの−うへにして−はるはしとねの−ここちこそすれ


00701
未入力 西行 (xxx)

杣くたす伊吹か奥の川上にたつきうつらしこけさなみよる

そまくたす−いふきかおくの−かはかみに−たつきうつらし−こけさなみよる


00702
未入力 西行 (xxx)

吹出てて日はいふきの山の端にさそひて出つる関の藤川

ふきいてて−かせはいふきの−やまのはに−さそひていつる−せきのふちかは


00703
未入力 西行 (xxx)

雁かねはかへる道にやまよふらんこしの中山霞へたてて

かりかねは−かへるみちにや−まよふらむ−こしのなかやま−かすみへたてて


00704
未入力 西行 (xxx)

こほりわる筏の棹のたゆけれはもちやこすらんほつの山をは

こほりわる−いかたのさをの−たゆけれは−もちやこすらむ−ほつのやまをは


00705
未入力 西行 (xxx)

はこね山梢も又や冬ならんふた見は松の雪の村きえ

はこねやま−こすゑもまたや−ふゆならむ−ふたみはまつの−ゆきのむらきえ


00706
未入力 西行 (xxx)

わけて行く道のみならす梢さへちくさのたけは心すみけり

わけてゆく−みちのみならす−こすゑさへ−ちくさのたけは−こころすみけり


00707
未入力 西行 (xxx)

すみれさくよこ野のつ花生ひぬれはおもひおもひに人かよふなり

すみれさく−よこののつはな−おひぬれは−おもひおもひに−ひとかよふなり


00708
未入力 西行 (xxx)

くらふ山かこふ柴やのうちまても心をさめぬ所やはある

くらふやま−かこふしはやの−うちまても−こころをさめぬ−ところやはある


00709
未入力 西行 (xxx)

さ夜ころも入野の里に打つならし遠く聞ゆるつちの音かな

さよころも−いるののさとに−うつならし−とほくきこゆる−つちのおとかな


00710
未入力 西行 (xxx)

我か物と秋のこすゑを見つるかな小倉の山に家ゐせしより

わかものと−あきのこすゑを−みつるかな−をくらのやまに−いへゐせしより


00711
未入力 西行 (xxx)

水の音はまくらにおつる心地してねさめかちなる大原の里

みつのおとは−まくらにおつる−ここちして−ねさめかちなる−おほはらのさと


00712
未入力 西行 (xxx)

雨しのくみのふの郷のかき柴にすたちはしむる鴬のこゑ

あめしのく−みのふのさとの−かきしはに−すたちはしむる−うくひすのこゑ


00713
未入力 西行 (xxx)

ふし見過きぬ岡の屋になほととまらし日野まて行きて駒心みん

ふしみすきぬ−をかのやになほ−ととまらし−ひのまてゆきて−こまこころみむ


00714
未入力 西行 (xxx)

みちのくの奥ゆかしくそおもほゆるつほのいしふみそとのはま風

みちのくの−おくゆかしくそ−おもほゆる−つほのいしふみ−そとのはまかせ


00715
未入力 西行 (xxx)

からす崎の浜のこいしとおもふかなしろもましらぬすかしまのくろ

からすさきの−はまのこいしと−おもふかな−しろもましらぬ−すかしまのくろ


00716
未入力 西行 (xxx)

いらこ崎にかつをつる舟ならひうきはるけき浪にうかれてそよる

いらこさきに−かつをつるふね−ならひうき−はるけきなみに−うかれてそよる


00717
未入力 西行 (xxx)

杣人の真木のかり屋のあたふしに音する物はあられなりけり

そまひとの−まきのかりやの−あたふしに−おとするものは−あられなりけり


00718
未入力 西行 (xxx)

となりゐぬ畑のかり屋にあかす夜は物哀なるものにそ有りける

となりゐぬ−はたのかりやに−あかすよは−ものあはれなる−ものにそありける


00719
未入力 西行 (xxx)

くみてこそ心すむらめしつのめかいたたく水にやとる月かけ

くみてこそ−こころすむらめ−しつのめか−いたたくみつに−やとるつきかけ


00720
未入力 西行 (xxx)

そこすみて浪しつかなるさされみつわたりやしらぬ山川のかけ

そこすみて−なみしつかなる−さされみつ−わたりやしらぬ−やまかはのかけ


00721
未入力 西行 (xxx)

我もさそ庭の真砂の土あそひさて生ひたてるみこそ有りけれ

われもさそ−にはのまさこの−つちあそひ−さておひたてる−みこそありけれ


00722
未入力 西行 (xxx)

しはしこそ人目つつみにせかれけるさては涙やなる滝の川

しはしこそ−ひとめつつみに−せかれける−さてはなみたや−なるたきのかは


00723
未入力 西行 (xxx)

誰とてもとまるへきかはあたしのの草のはことにすかる白露

たれとても−とまるへきかは−あたしのの−くさのはことに−すかるしらつゆ


00724
未入力 西行 (xxx)

おほはらやひらの高根の近けれは雪ふる戸ほそおもひこそやれ

おほはらや−ひらのたかねの−ちかけれは−ゆきふるとほそ−おもひこそやれ


00725
未入力 西行 (xxx)

ひやうふにや心をたてておもふらん行者はかへりちこはとまりぬ

ひやうふにや−こころをたてて−おもふらむ−きやうしやはかへり−ちこはとまりぬ


00726
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篠ふかみ霧たつ嶺を朝立ちてなひきわつらふありのとわたり

ささふかみ−きりたつみねを−あさたちて−なひきわつらふ−ありのとわたり


00727
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一すちにおもひ入りなん吉野山又あらはこそ人もさそはめ

ひとすちに−おもひいりなむ−よしのやま−またあらはこそ−ひともさそはめ


00728
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心せんしつか垣ねの梅の花よしなく過くる人ととめけり

こころせむ−しつかかきねの−うめのはな−よしなくすくる−ひとととめけり


00729
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山たかみ岩ねをしむる柴の戸にしはしもさらは世をのかれはや

やまたかみ−いはねをしむる−しはのとに−しはしもさらは−よをのかれはや


00730
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雲にまかふ花の本にてなかむれはおほろに月はみゆるなりけり

くもにまかふ−はなのもとにて−なかむれは−おほろにつきは−みゆるなりけり


00731
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ゆふされやひはらかみねをこえ行けはすこくきこゆる山はとのこゑ

ゆふされや−ひはらかみねを−こえゆけは−すこくきこゆる−やまはとのこゑ


00732
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さらぬたに世のはかなさを思ふ身に鵺鳴きわたるしののめの空

さらぬたに−よのはかなさを−おもふみに−ぬえなきわたる−しののめのそら


00733
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秋たつと人はつけねとしられけり太山のすその風のけしきに

あきたつと−ひとはつけねと−しられけり−みやまのすその−かせのけしきに


00734
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いかに我きよくくもらぬ身と成りて心の月の影を見るへき

いかにわれ−きよくくもらぬ−みとなりて−こころのつきの−かけをみるへき


00735
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君もとへ我もしのはん先たたは月を形見におもひ出てつつ

きみもとへ−われもしのはむ−さきたたは−つきをかたみに−おもひいてつつ


00736
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何ゆゑに今日まて物をおもはまし命にかへて逢ふ世なりせは

なにゆゑに−けふまてものを−おもはまし−いのちにかへて−あふよなりせは


00737
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うきをうしとおもはさるへき我かみかは何とて人の恋しかるらん

うきをうしと−おもはさるへき−わかみかは−なにとてひとの−こひしかるらむ


00738
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待つことははつ音まてかとおもひしに聞きふるされぬ郭公かな

まつことは−はつねまてかと−おもひしに−ききふるされぬ−ほとときすかな


00739
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いかにしてうらみし袖にやとりけんいてかたく見し有明の月

いかにして−うらみしそてに−やとりけむ−いてかたくみし−ありあけのつき


00740
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西へ行く月をやよそにおもふらん心にいらぬ人のためには

にしへゆく−つきをやよそに−おもふらむ−こころにいらぬ−ひとのためには


00741
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柴の庵のしはし都へかへらしと思はんたにも哀なるへし

しはのいほの−しはしみやこへ−かへらしと−おもはむたにも−あはれなるへし


00742
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打ちたえて君にあふ人いかなれや我かみもおなし世にこそはふれ

うちたえて−きみにあふひと−いかなれや−わかみもおなし−よにこそはふれ


00743
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なかむるに花の名立のみならすは木のもとにてや春をおくらん

なかむるに−はなのなたての−みならすは−このもとにてや−はるをおくらむ


00744
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おもひ出てやかた野の御狩かりくらしかへるみなせの山のはの月

おもひいてや−かたののみかり−かりくらし−かへるみなせの−やまのはのつき


00745
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見れはまつなみたなかるる水無瀬川いつより月の独すむらん

みれはまつ−なみたなかるる−みなせかは−いつよりつきの−ひとりすむらむ


00746
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いかて我今夜の月をみにそへてしての山路の人をてらさん

いかてわれ−こよひのつきを−みにそへて−してのやまちの−ひとをてらさむ


00747
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浪たてる川原柳のあをみとり涼しくわたる岸の夕風

なみたてる−かはらやなきの−あをみとり−すすしくわたる−きしのゆふかせ


00748
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山郷の外面の岡のたかききにそそろかましき秋せみのこゑ

やまさとの−そとものをかの−たかききに−そそろかましき−あきせみのこゑ


00749
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あさてほすしつかはつ木をたよりにてまとはれてさく夕かほの花

あさてほす−しつかはつきを−たよりにて−まとはれてさく−ゆふかほのはな


00750
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しのにをるあたりも涼し川社榊にかくる浪のしらゆふ

しのにをる−あたりもすすし−かはやしろ−さかきにかくる−なみのしらゆふ


00751
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ひはりたつあら田におふる姫百合の何につくともなき我かみかな

ひはりたつ−あらたにおふる−ひめゆりの−なににつくとも−なきわかみかな


00752
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五月雨に小田の早苗やいかならんあせのうきつちあらひこされて

さみたれに−をたのさなへや−いかならむ−あせのうきつち−あらひこされて


00753
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五月雨に山たのあせの滝枕数をかさねておつるなりけり

さみたれに−やまたのあせの−たきまくら−かすをかさねて−おつるなりけり


00754
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川わたのよとみにとまるなかれ木のうき橋わたる五月雨の比

かはわたの−よとみにとまる−なかれきの−うきはしわたる−さみたれのころ


00755
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水なしとききてふりぬるかつまたの池あらたむる五月雨のころ

みつなしと−ききてふりぬる−かつまたの−いけあらたむる−さみたれのころ


00756
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橘の匂ふ梢にさみたれて山郭公こゑかをるなり

たちはなの−にほふこすゑに−さみたれて−やまほとときす−こゑかをるなり


00757
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五月雨に水まさるらし宇治橋のくもてにかかる浪の白糸

さみたれに−みつまさるらし−うちはしの−くもてにかかる−なみのしらいと


00758
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ひろせ川わたりのせきのみをしるしみかさそふへし五月雨の比

ひろせかは−わたりのせきの−みをしるし−みかさそふへし−さみたれのころ


00759
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なかれやらてつたの入江にまく水は舟をそもよふ五月雨の比

なかれやらて−つたのいりえに−まくみつは−ふねをそもよふ−さみたれのころ


00760
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五月雨は行くへき道のあてもなし小篠か原も滝になかれて

さみたれは−ゆくへきみちの−あてもなし−をささかはらも−たきになかれて


00761
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郭公なきわたるなる浪の上にこゑたたみおくしかのうらかせ

ほとときす−なきわたるなる−なみのうへに−こゑたたみおく−しかのうらかせ


00762
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誰かかたに心さすらん郭公さかひの松のうれになくなり

たかかたに−こころさすらむ−ほとときす−さかひのまつの−うれになくなり


00763
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あやめふく軒に匂へる橘にきてこゑくせよ山郭公

あやめふく−のきににほへる−たちはなに−きてこゑくせよ−やまほとときす


00764
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思ふことみあれのしめに引くすすのかなはすはよもならしとそおもふ

おもふこと−みあれのしめに−ひくすすの−かなはすはよも−ならしとそおもふ


00765
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たつた川岸のまかきを見わたせはゐせきの波にまかふ卯の花

たつたかは−きしのまかきを−みわたせは−ゐせきのなみに−まかふうのはな


00766
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思ひ出てて古巣に帰る鴬は旅のねくらやすみうかるらん

おもひいてて−ふるすにかへる−うくひすは−たひのねくらや−すみうかるらむ


00767
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つつし咲く山の岩ねにゆふはえて尾倉はよその名のみなりけり

つつしさく−やまのいはねに−ゆふはえて−をくらはよその−なのみなりけり


00768
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たれならんあら田のくろにすみれつむ人は心のわかななるへし

たれならむ−あらたのくろに−すみれつむ−ひとはこころの−わかななるへし


00769
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生ひかはる春のわか草待ちわひて原のかれのにききす鳴くなり

おひかはる−はるのわかくさ−まちわひて−はらのかれのに−ききすなくなり


00770
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片山に柴うつりして鳴く雉子たつ羽音してたかからぬかは

かたやまに−しはうつりして−なくききす−たつはおとして−たかからぬかは


00771
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梢うつ雨にしをれてちる花のをしき心を何にたとへん

こすゑうつ−あめにしをれて−ちるはなの−をしきこころを−なににたとへむ


00772
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ときはなる花もやあると吉野山おくなく入りてなほ尋ねみん

ときはなる−はなもやあると−よしのやま−おくなくいりて−なほたつねみむ


00773
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くれなゐの雪は昔のことと聞くに花の匂ひのみつる今日かな

くれなゐの−ゆきはむかしの−ことときくに−はなのにほひの−みつるけふかな


00774
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月みれは風に桜の枝たれて花よとつくる心地こそすれ

つきみれは−かせにさくらの−えたたれて−はなよとつくる−ここちこそすれ


00775
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つくりおきしこけのふすまに鴬のみにしむ花のかやうつすらん

つくりおきし−こけのふすまに−うくひすの−みにしむはなの−かやうつすらむ


00776
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年ははや月なみかけてこえてけりむへつみけらしゑくのわかたち

としははや−つきなみかけて−こえてけり−むへつみけらし−ゑくのわかたち


00777
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あはれみし袖の露をは結ひかへて霜にしみゆく冬かれののへ

あはれみし−そてのつゆをは−むすひかへて−しもにしみゆく−ふゆかれののへ


00778
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霜かれてもろくくたくる荻のはをあらくわくなる風の音かな

しもかれて−もろくくたくる−をきのはを−あらくわくなる−かせのおとかな


00779
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紅葉よりあしろのぬのの色かへてひをくくるとはみゆるなりけり

もみちより−あしろのぬのの−いろかへて−ひをくくるとは−みゆるなりけり


00780
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川わたにおのおのつくるふし柴をひとつにとつるあさ氷かな

かはわたに−おのおのつくる−ふししはを−ひとつにとつる−あさこほりかな


00781
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しのはらやみかみのたけを見渡せは一夜の程に雪は降りけり

しのはらや−みかみのたけを−みわたせは−ひとよのほとに−ゆきはふりけり


00782
未入力 西行 (xxx)

たけのほる朝日の影のさまさまに都に雪はきえみきえすみ

たけのほる−あさひのかけの−さまさまに−みやこにゆきは−きえみきえすみ


00783
未入力 西行 (xxx)

枯れはつる萱かうははに降る雪はさらに尾花の心ちこそすれ

かれはつる−かやかうははに−ふるゆきは−さらにおはなの−ここちこそすれ


00784
未入力 西行 (xxx)

うらかへすをみの衣とみゆるかな竹の葉分にふれる白雪

うらかへす−をみのころもと−みゆるかな−たけのはわけに−ふれるしらゆき


00785
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雪とくるしみみにしたく笠さきの道ゆきにくきあしからの山

ゆきとくる−しみみにしたく−かささきの−みちゆきにくき−あしからのやま


00786
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あはせつるこゐのはしたかをきとらし大かひ人のこゑしきるなり

あはせつる−こゐのはしたか−をきとらし−いぬかひひとの−こゑしきるなり


00787
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神人の庭火すすむるみかけにはまさきのかつらくりかへせとや

かみひとの−にはひすすむる−みかけには−まさきのかつら−くりかへせとや