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草根集_正徹


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作品集名草根集_正徹 
作品集名読みそうこんしゅう_しょうてつ 
作成年月日文明五年七月(※1459年)
場所 
備考但し、それ以前に正徹自身の手控をもとにして、正広が編纂し終えた集が流布していた。[内閣文庫本草根抄] 

草根集 春
草根集 夏
草根集 秋
草根集 冬
草根集 恋
草根集 雑

草根集 春

00001
未入力 正徹 (xxx)

冬に先あひやとりしてくる春の霞や年の中へたつらん

ふゆにまつ−あひやとりして−くるはるの−かすみやとしの−なかへたつらむ


00002
未入力 正徹 (xxx)

ささ浪や津による舟も大伴の三の春きてかすむ冬かな

ささなみや−つによるふねも−おほともの−みつのはるきて−かすむふゆかな


00003
未入力 正徹 (xxx)

冬に立つ春の子の日の松きるも千世の年木のためしにや摘む

ふゆにたつ−はるのねのひの−まつきるも−ちよのとしきの−ためしにやつむ


00004
未入力 正徹 (xxx)

かすめ空年立ちくれは年くるるいさよひの月や春の曙

かすめそら−としたちくれは−としくるる−いさよひのつきや−はるのあけほの


00005
未入力 正徹 (xxx)

月も日も半をめくる久堅の山のみなみに春や立つらむ

つきもひも−なかはをめくる−ひさかたの−やまのみなみに−はるやたつらむ


00006
未入力 正徹 (xxx)

年のをのなかき春日の初とやいつる光ものとけかるらむ

としのをの−なかきはるひの−はしめとや−いつるひかりも−のとけかるらむ


00007
未入力 正徹 (xxx)

雪のうちに出つる日影のさしなから今日を春とやのとけかるらし

ゆきのうちに−いつるひかけの−さしなから−けふをはるとや−のとけかるらし


00008
未入力 正徹 (xxx)

かきりなくむかふる年を送りても行末遠き春や立つらん

かきりなく−むかふるとしを−おくりても−ゆくすゑとほき−はるやたつらむ


00009
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高砂の梢の風に聞ゆらし春たつこゑの住よしの松

たかさこの−こすゑのかせに−きこゆらし−はるたつこゑの−すみよしのまつ


00010
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いつくをか又ふる郷となしはてて今日は都に春のきぬらん

いつくをか−またふるさとと−なしはてて−けふはみやこに−はるのきぬらむ


00011
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今朝みれは世は久堅もあらかねも春ををさむる四方の色かな

けさみれは−よはひさかたも−あらかねも−はるををさむる−よものいろかな


00012
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立ちかへる春の日吉の影たかき山はふしのね雪もけなくに

たちかへる−はるのひよしの−かけたかき−やまはふしのね−ゆきもけなくに


00013
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年こゆる空にかそへてしらすともかすむや春のたつ日なるらん

としこゆる−そらにかそへて−しらすとも−かすむやはるの−たつひなるらむ


00014
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若菜摘むけふを待ちてや荒玉の春さへ野へに立ちわたるらん

わかなつむ−けふをまちてや−あらたまの−はるさへのへに−たちわたるらむ


00015
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八幡山はるさへ三の衣手にうつる日影やかすみ初むらむ

やはたやま−はるさへみつの−ころもてに−うつるひかけや−かすみそむらむ


00016
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雪のうちに春たつことや久かたの神代ふりにし天のかく山

ゆきのうちに−はるたつことや−ひさかたの−かみよふりにし−あまのかくやま


00017
未入力 正徹 (xxx)

はつ春の初市いそく民の袖今日や霞に立ちましるらん

はつはるの−はついちいそく−たみのそて−けふやかすみに−たちましるらむ


00018
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春きぬと豊芦原に立帰り年なみこゆる四方の海かな

はるきぬと−とよあしはらに−たちかへり−としなみこゆる−よものうみかな


00019
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今朝みれは雲そ色なる天の原雪け霞みて春や立つらん

けさみれは−くもそいろなる−あまのはら−ゆきけかすみて−はるやたつらむ


00020
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末とほき世にうちはへて立ちこむる露や春のすかたなるらん

すゑとほき−よにうちはへて−たちこむる−かすみやはるの−すかたなるらむ


00021
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空にしる春の霞のはた物をたつやをとめのあまの羽衣

そらにしる−はるのかすみの−はたものを−たつやをとめの−あまのはころも


00022
未入力 正徹 (xxx)

くりかへし限しられぬ年のをのなかきをけふの春日にそみる

くりかへし−かきりしられぬ−としのをの−なかきをけふの−はるひにそみる


00023
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万代をめくりくれとも老せぬや春をつれたるけふのわか年

よろつよを−めくりくれとも−おいせぬや−はるをつれたる−けふのわかとし


00024
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かすむなりけふもろこしに日本をふりさけみてや春をしるらん

かすむなり−けふもろこしに−ひのもとを−ふりさけみてや−はるをしるらむ


00025
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来る春は神代や契り天地の中の衣をたつ霞かな

くるはるは−かみよやちきり−あめつちの−なかのころもを−たつかすみかな


00026
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よもの海春や立つらし老のなみ心のとけき御代の年かな

よものうみ−はるやたつらし−おいのなみ−こころのとけき−みよのとしかな


00027
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる神のいかきに年越えて大宮人や春をしるらん

あけわたる−かみのいかきに−としこえて−おほみやひとや−はるをしるらむ


00028
未入力 正徹 (xxx)

うちなひき年と春とのけふしはや友なひきたる御代そのとけき

うちなひき−としとはるとの−けふしはや−ともなひきたる−みよそのとけき


00029
未入力 正徹 (xxx)

嶺こゆる霞やひなの長路より春たちのほるしるしなるらん

みねこゆる−かすみやひなの−なかちより−はるたちのほる−しるしなるらむ


00030
未入力 正徹 (xxx)

明けわたるたかまか原そ霞みくるあまくたりてや春のたつらん

あけわたる−たかまかはらそ−かすみくる−あまくたりてや−はるのたつらむ


00031
未入力 正徹 (xxx)

おしなへて霞みにけりな海山もみなわか時と春やたつらん

おしなへて−かすみにけりな−うみやまも−みなわかときと−はるやたつらむ


00032
未入力 正徹 (xxx)

跡たるる北国なれはおしなへて今日神風に春や立つらむ

あとたるる−きたくになれは−おしなへて−けふかみかせに−はるやたつらむ


00033
未入力 正徹 (xxx)

今朝のまにあつき氷をみなとくや春たつ風もはけしかるらん

けさのまに−あつきこほりを−みなとくや−はるたつかせも−はけしかるらむ


00034
未入力 正徹 (xxx)

天の原明くる岩戸の関越えていまた旅なる春やきぬらん

あまのはら−あくるいはとの−せきこえて−いまたたひなる−はるやきぬらむ


00035
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春にたつ浪のかさしのわたつみも今朝は霞をかけやそふらん

はるにたつ−なみのかさしの−わたつみも−けさはかすみを−かけやそふらむ


00036
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大伴の三津の白波春や立つかすみをかけて遠き浜松

おほともの−みつのしらなみ−はるやたつ−かすみをかけて−とほきはままつ


00037
未入力 正徹 (xxx)

今朝霞み山もそこらのわたつ海に浪をはふかすたてる春かな

けさかすみ−やまもそこらの−わたつうみに−なみをはふかす−たてるはるかな


00038
未入力 正徹 (xxx)

此地に神のきにける初とや立かへる年も天くたるらむ

このくにに−かみのきにける−はしめとや−たちかへるとしも−あまくたるらむ


00039
未入力 正徹 (xxx)

朝かすみしき津の浪に立つ春を松は昨日の住よしの霜

あさかすみ−しきつのなみに−たつはるを−まつはきのふの−すみよしのしも


00040
未入力 正徹 (xxx)

つらなれる山の霞やくる年に春立ちならふさころもの袖

つらなれる−やまのかすみや−くるとしに−はるたちならふ−さころものそて


00041
未入力 正徹 (xxx)

松たかき雪のしらゆふかすむなり神の御山に春やたつらん

まつたかき−ゆきのしらゆふ−かすむなり−かみのみやまに−はるやたつらむ


00042
未入力 正徹 (xxx)

天地のひらけし花の都より春立初めていく世なるらん

あめつちの−ひらけしはなの−みやこより−はるたちそめて−いくよなるらむ


00043
未入力 正徹 (xxx)

む月てふ世は人ことに新しきけふの衣に春やたつらん

むつきてふ−よはひとことに−あたらしき−けふのころもに−はるやたつらむ


00044
未入力 正徹 (xxx)

霞とく都はたつみのとけきや此神風に春のたつらむ

かすみとく−みやこはたつみ−のとけきや−このかみかせに−はるのたつらむ


00045
未入力 正徹 (xxx)

あらかねの土はしまらぬ青海の浪の色にや春の立ちけん

あらかねの−つちはしまらぬ−あをうみの−なみのいろにや−はるのたちけむ


00046
未入力 正徹 (xxx)

七十に四方の山風かすむなり老もろともに春やたつらむ

ななそちに−よものやまかせ−かすむなり−おいもろともに−はるやたつらむ


00047
未入力 正徹 (xxx)

やはらくる光のかけに春や立つちりもかすまぬ神の国かな

やはらくる−ひかりのかけに−はるやたつ−ちりもかすまぬ−かみのくにかな


00048
未入力 正徹 (xxx)

雲風を空になひけて四方に立つ春や世をしるあるしなるらん

くもかせを−そらになひけて−よもにたつ−はるやよをしる−あるしなるらむ


00049
未入力 正徹 (xxx)

天の戸を明くるはたてる春の色に霞出つるや羽衣のそて

あまのとを−あくるはたてる−はるのいろに−かすみいてつるや−はころものそて


00050
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年こえて十日あまりの二見かた春立つ浪の後そかすめる

としこえて−とをかあまりの−ふたみかた−はるたつなみの−のちそかすめる


00051
未入力 正徹 (xxx)

家家に入りくる春をまつらめや夜ふかき庭の朝清めして

いへいへに−いりくるはるを−まつらめや−よふかきにはの−あさきよめして


00052
未入力 正徹 (xxx)

春や先たかまか原の神代にも土はしまらぬ海に立つらん

はるやまつ−たかまかはらの−かみよにも−つちはしまらぬ−うみにたつらむ


00053
未入力 正徹 (xxx)

玉そよる浪に霞をしきたへの袖しのうらの春の初風

たまそよる−なみにかすみを−しきたへの−そてしのうらの−はるのはつかせ


00054
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫の春をふくめるいきのをや年にうちはへ霞いつらん

さほひめの−はるをふくめる−いきのをや−としにうちはへ−かすみいつらむ


00055
未入力 正徹 (xxx)

百花も弥継に見ん今朝霞み年ひらけ行く色そこもれる

ももはなも−いやつきにみむ−けさかすみ−としひらけゆく−いろそこもれる


00056
未入力 正徹 (xxx)

水も木も春立つ庭の雪氷きくに浪なしみるに花あり

みつもきも−はるたつにはの−ゆきこほり−きくになみなし−みるにはなあり


00057
未入力 正徹 (xxx)

のとかなる日影も風も春立つといはぬにしるき世の気色かな

のとかなる−ひかけもかせも−はるたつと−いはぬにしるき−よのけしきかな


00058
未入力 正徹 (xxx)

氷よりうちいつる浪の初尾花春立つ今日のまのの秋かせ

こほりより−うちいつるなみの−はつをはな−はるたつけふの−まののあきかせ


00059
未入力 正徹 (xxx)

影とめしみたらし川のをみの袖ふる年つもる春や立つらん

かけとめし−みたらしかはの−をみのそて−ふるとしつもる−はるやたつらむ


00060
未入力 正徹 (xxx)

限なき神代のむかし天地のひらけ初めしそ春のはつはな

かきりなき−かみよのむかし−あめつちの−ひらけそめしそ−はるのはつはな


00061
未入力 正徹 (xxx)

さ夜ふかく嶺にあつまる雲わかれ星のかす消え明くる年かな

さよふかく−みねにあつまる−くもわかれ−ほしのかすきえ−あくるとしかな


00062
未入力 正徹 (xxx)

冬と春と今夜行合ふ衣衣の袖と見ゆるや霞みそむらん

ふゆとはると−こよひゆきあふ−きぬきぬの−そてとみゆるや−かすみそむらむ


00063
未入力 正徹 (xxx)

くる春の光か年もあけ星を鳥のこゑさへうたふとそ聞く

くるはるの−ひかりかとしも−あけほしを−とりのこゑさへ−うたふとそきく


00064
未入力 正徹 (xxx)

氷より春立ちわたる朝川のけふりや水のかすみなるらん

こほりより−はるたちわたる−あさかはの−けふりやみつの−かすみなるらむ


00065
未入力 正徹 (xxx)

うこきなき世世の山とし高ねより春立ちのほる朝日影かな

うこきなき−よよのやまとし−たかねより−はるたちのほる−あさひかけかな


00066
未入力 正徹 (xxx)

神代にや緑を空のはしめにて立ちくる春の色となりけん

かみよにや−みとりをそらの−はしめにて−たちくるはるの−いろとなりけむ


00067
未入力 正徹 (xxx)

名にたかき天のは衣冬さえてけふや春日の影にあふらん

なにたかき−あまのはころも−ふゆさえて−けふやはるひの−かけにあふらむ


00068
未入力 正徹 (xxx)

山のはの今朝は見えぬや春立つといふにもあまる霞なるらん

やまのはの−けさはみえぬや−はるたつと−いふにもあまる−かすみなるらむ


00069
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あふきみん今朝や霞も諸共に春たちのほる久かたの山

あふきみむ−けさやかすみも−もろともに−はるたちのほる−ひさかたのやま


00070
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くもりなき御代の鏡か山鳥の尾上かすまぬ今朝の朝日は

くもりなき−みよのかかみか−やまとりの−をのへかすまぬ−けさのあさひは


00071
未入力 正徹 (xxx)

海山もあれにし四方の冬の空風をさまりて春や立つらむ

うみやまも−あれにしよもの−ふゆのそら−かせをさまりて−はるやたつらむ


00072
未入力 正徹 (xxx)

御笠山春たつ色に出つる日の光もなひく峰の松かせ

みかさやま−はるたついろに−いてつるひの−ひかりもなひく−みねのまつかせ


00073
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おき出てて世のこゑ聞けはのとけきや風の心に春の立つらむ

おきいてて−よのこゑきけは−のとけきや−かせのこころに−はるのたつらむ


00074
未入力 正徹 (xxx)

をさまれる国つよろつの神風にけさうちなひき春はきにけり

をさまれる−くにつよろつの−かみかせに−けさうちなひき−はるはきにけり


00075
未入力 正徹 (xxx)

天の原春立つ雰の浪こえて風のかけたるしからみもなし

あまのはら−はるたつくもの−なみこえて−かせのかけたる−しからみもなし


00076
未入力 正徹 (xxx)

敷島の道もろ共に今朝や立つ六種も春も風をはしめに

しきしまの−みちもろともに−けさやたつ−むくさもはるも−かせをはしめに


00077
未入力 正徹 (xxx)

吹きかはり春たつ道の追風に旅なる冬や遠さかるらん

ふきかはり−はるたつみちの−おひかせに−たひなるふゆや−とほさかるらむ


00078
未入力 正徹 (xxx)

吹あれし風をさまりて立つ春の山も時しる朝かすみかな

ふきあれし−かせをさまりて−たつはるの−やまもときしる−あさかすみかな


00079
未入力 正徹 (xxx)

尋来てたれくみそめん山の井を霞のつつむ春のわか水

たつねきて−たれくみそめむ−やまのゐを−かすみのつつむ−はるのわかみつ


00080
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影きよき岩まの水のひも鏡とけても春にむかふけふかな

かけきよき−いはまのみつの−ひもかかみ−とけてもはるに−むかふけふかな


00081
未入力 正徹 (xxx)

川口をとちし氷も声立てて関もる浪に春やたつらん

かはくちを−とちしこほりも−こゑたてて−せきもるなみに−はるやたつらむ


00082
未入力 正徹 (xxx)

くる春にあふ坂なから白川の関の戸あくる山の雪かな

くるはるに−あふさかなから−しらかはの−せきのとあくる−やまのゆきかな


00083
未入力 正徹 (xxx)

今朝みれはたてつつけたる門なみに松原遠き都なりけり

けさみれは−たてつつけたる−かとなみに−まつはらとほき−みやこなりけり


00084
未入力 正徹 (xxx)

海士小舟初せ川浪うち出てて氷そうかふ春のこもり江

あまをふね−はつせかはなみ−うちいてて−こほりそうかふ−はるのこもりえ


00085
未入力 正徹 (xxx)

つもりこし雪のしら山うちかすみ冬のとまりに春はきにけり

つもりこし−ゆきのしらやま−うちかすみ−ふゆのとまりに−はるはきにけり


00086
未入力 正徹 (xxx)

くる春は冬のかへりし跡しめて世はわかやとと霞をそしく

くるはるは−ふゆのかへりし−あとしめて−よはわかやとと−かすみをそしく


00087
未入力 正徹 (xxx)

さくを待つ花の都にこし春は霞のうちやすみ家なるらん

さくをまつ−はなのみやこに−こしはるは−かすみのうちや−すみかなるらむ


00088
未入力 正徹 (xxx)

天の原あふけはたかく霞む日も光ある世の春の色かな

あまのはら−あふけはたかく−かすむひも−ひかりあるよの−はるのいろかな


00089
未入力 正徹 (xxx)

けふは又後の子日の野へことに松もかすみも引きかさぬらん

けふはまた−のちのねのひの−のへことに−まつもかすみも−ひきかさぬらむ


00090
未入力 正徹 (xxx)

古年の涙のつららとけしより袖行く水のたゆる日もなし

ふるとしの−なみたのつらら−とけしより−そてゆくみつの−たゆるひもなし


00091
未入力 正徹 (xxx)

神のます山の南の宮柱春たちめくりかすむ空かな

かみのます−やまのみなみの−みやはしら−はるたちめくり−かすむそらかな


00092
未入力 正徹 (xxx)

いもせ山春の霞の衣たに中にあらすは年もへたてし

いもせやま−はるのかすみの−ころもたに−なかにあらすは−としもへたてし


00093
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曇りくる霞の下の雪こほりかたへ冬なる春の山川

くもりくる−かすみのしたの−ゆきこほり−かたへふゆなる−はるのやまかは


00094
未入力 正徹 (xxx)

雪のうちにたた年はかりくる春を待かね山はかすむともなし

ゆきのうちに−たたとしはかり−くるはるを−まちかねやまは−かすむともなし


00095
未入力 正徹 (xxx)

天つ空春の霞もこほれるや打出つる雲の浪たたぬまて

あまつそら−はるのかすみも−こほれるや−うちいつるくもの−なみたたぬまて


00096
未入力 正徹 (xxx)

ましはれる神や染めなす紅の塵にかすめる世は春にして

ましはれる−かみやそめなす−くれなゐの−ちりにかすめる−よははるにして


00097
未入力 正徹 (xxx)

晴れくもり春はくらせる日のうちにさえみのとけみ影かはるなり

はれくもり−はるはくらせる−ひのうちに−さえみのとけみ−かけかはるなり


00098
未入力 正徹 (xxx)

のとけしや霞の光さして行く山より山の春の初かせ

のとけしや−かすみのひかり−さしてゆく−やまよりやまの−はるのはつかせ


00099
未入力 正徹 (xxx)

いかにして七十あまり七種を身につむ年の春にあふらん

いかにして−ななそちあまり−ななくさを−みにつむとしの−はるにあふらむ


00100
未入力 正徹 (xxx)

よもの海に立つ月の名もむつましと君はしら浪こゆる年かな

よものうみに−たつつきのなも−むつましと−きみはしらなみ−こゆるとしかな


00101
未入力 正徹 (xxx)

比はまた春の日なからなかからて雪けにかすむ風そ寒けき

ころはまた−はるのひなから−なかからて−ゆきけにかすむ−かせそさむけき


00102
未入力 正徹 (xxx)

鳥のこゑ霞の色もいちしるし春となつけそ嶺の松風

とりのこゑ−かすみのいろも−いちしるし−はるとなつけそ−みねのまつかせ


00103
未入力 正徹 (xxx)

かつきえし山の嵐も又さえて霞も雪も春のむらたち

かつきえし−やまのあらしも−またさえて−かすみもゆきも−はるのむらたち


00104
未入力 正徹 (xxx)

嵐さえて雪はふれれと古年におもひくらへよ春はきにけり

あらしさえて−ゆきはふれれと−ふるとしに−おもひくらへよ−はるはきにけり


00105
未入力 正徹 (xxx)

春のきる衣をさむみ重ぬらん霞のひもをとくあらしかな

はるのきる−ころもをさむみ−かさぬらむ−かすみのひもを−とくあらしかな


00106
未入力 正徹 (xxx)

春のきるよもの霞のうす衣今朝より夏のおもかけそ立つ

はるのきる−よものかすみの−うすころも−けさよりなつの−おもかけそたつ


00107
未入力 正徹 (xxx)

九重や時にあへりと住む人の心の花も春や来ぬらむ

ここのへや−ときにあへりと−すむひとの−こころのはなも−はるやきぬらむ


00108
未入力 正徹 (xxx)

白川の関の秋霧吹きのほり宮こにかすむ春のはつかせ

しらかはの−せきのあききり−ふきのほり−みやこにかすむ−はるのはつかせ


00109
未入力 正徹 (xxx)

さきいつる心の花の宮こ鳥とりさたまらぬ春の初風

さきいつる−こころのはなの−みやことり−とりさたまらぬ−はるのはつかせ


00110
未入力 正徹 (xxx)

花やとき霞の衣梅かかに袖ふれそむる春は来にけり

はなやとき−かすみのころも−うめかかに−そてふれそむる−はるはきにけり


00111
未入力 正徹 (xxx)

去年の三月たな引きつれて帰りしや今年の春に霞みきぬらん

こそのやよひ−たなひきつれて−かへりしや−ことしのはるに−かすみきぬらむ


00112
未入力 正徹 (xxx)

朝あけの山のこなたに春のきてたてるすかたや霞なるらん

あさあけの−やまのこなたに−はるのきて−たてるすかたや−かすみなるらむ


00113
未入力 正徹 (xxx)

色かへぬ霞や天のかく山に去年ほしかけし衣なるらむ

いろかへぬ−かすみやあまの−かくやまに−こそほしかけし−ころもなるらむ


00114
未入力 正徹 (xxx)

春やきる織女もしらし朝明のうすき霞の天のはころも

はるやきる−おりめもしらし−あさあけの−うすきかすみの−あまのはころも


00115
未入力 正徹 (xxx)

はるのきるしのふにすれる袖もなし限しられす世はかすめとも

はるのきる−しのふにすれる−そてもなし−かきりしられす−よはかすめとも


00116
未入力 正徹 (xxx)

しからきや外山の正木くる春の霞と共に綱手引くなり

しからきや−とやまのまさき−くるはるの−かすみとともに−つなてひくなり


00117
未入力 正徹 (xxx)

踏みわけて春来にけりとたか里に太山の雪の春のむら消

ふみわけて−はるきにけりと−たかさとに−みやまのゆきの−はるのむらきえ


00118
未入力 正徹 (xxx)

あさ衣かたへ寒けき山風に雪も霞も春の村きえ

あさころも−かたへさむけき−やまかせに−ゆきもかすみも−はるのむらきえ


00119
未入力 正徹 (xxx)

霜にさへ緑さかふる松かえに春あらはるる雪の村きえ

しもにさへ−みとりさかふる−まつかえに−はるあらはるる−ゆきのむらきえ


00120
未入力 正徹 (xxx)

あら玉の春の光を降る雪に敷島山はかすむともなし

あらたまの−はるのひかりを−ふるゆきに−しきしまやまは−かすむともなし


00121
未入力 正徹 (xxx)

松風も春をよろこふしらへにて雪をめくらす雲の袖かな

まつかせも−はるをよろこふ−しらへにて−ゆきをめくらす−くものそてかな


00122
未入力 正徹 (xxx)

けさそとふ冬の高ねにつもりしはふりて友まつ若年の雪

けさそとふ−ふゆのたかねに−つもりしは−ふりてともまつ−わかとしのゆき


00123
未入力 正徹 (xxx)

冬の色の猶つれなきをもらさしと霞みこめたる山の白雪

ふゆのいろの−なほつれなきを−もらさしと−かすみこめたる−やまのしらゆき


00124
未入力 正徹 (xxx)

春のきるみのしろ衣広くたつかすみにたまる山の白雪

はるのきる−みのしろころも−ひろくたつ−かすみにたまる−やまのしらゆき


00125
未入力 正徹 (xxx)

かねてより豊の年ある雪氷くる春あつきめくみをそしる

かねてより−とよのとしある−ゆきこほり−くるはるあつき−めくみをそしる


00126
未入力 正徹 (xxx)

春日影水なき空のこほりをもとくや草木におつる朝露

はるひかけ−みつなきそらの−こほりをも−とくやくさきに−おつるあさつゆ


00127
未入力 正徹 (xxx)

谷ふかみ古巣を冬になしはてて春の日かけにいつる鴬

たにふかみ−ふるすをふゆに−なしはてて−はるのひかけに−いつるうくひす


00128
未入力 正徹 (xxx)

春きても太山の松の雪に鳴く鴬さそへ野への梅か枝

はるきても−みやまのまつの−ゆきになく−うくひすさそへ−のへのうめかえ


00129
未入力 正徹 (xxx)

おも影そけふもかはらぬ天の原ふりにし年の春やたつらん

おもかけそ−けふもかはらぬ−あまのはら−ふりにしとしの−はるやたつらむ


00130
未入力 正徹 (xxx)

久堅の天の岩戸をあけし世も出つる日影にしるき春かな

ひさかたの−あまのいはとを−あけしよも−いつるひかけに−しるきはるかな


00131
未入力 正徹 (xxx)

いつる日も光のとけき久かたの天の宮人春をしるらし

いつるひも−ひかりのとけき−ひさかたの−あまのみやひと−はるをしるらし


00132
未入力 正徹 (xxx)

山はまたかすまぬ宮も降りかねて嵐のまへにこほる雲かな

やまはまた−かすまぬみやも−ふりかねて−あらしのまへに−こほるくもかな


00133
未入力 正徹 (xxx)

おしなへてかすむや雪け大空をわたる春日の影の寒けさ

おしなへて−かすむやゆきけ−おほそらを−わたるはるひの−かけのさむけさ


00134
未入力 正徹 (xxx)

吹くままに年そ明行く久かたの天の岩戸の関の春かせ

ふくままに−としそあけゆく−ひさかたの−あまのいはとの−せきのはるかせ


00135
未入力 正徹 (xxx)

くみそめて末をそおもふあら玉の春をむかふる宿の若水

くみそめて−すゑをそおもふ−あらたまの−はるをむかふる−やとのわかみつ


00136
未入力 正徹 (xxx)

年毎にあらぬ姿そあはれてふ老の影見よ春の若水

としことに−あらぬすかたそ−あはれてふ−おいのかけみよ−はるのわかみつ


00137
未入力 正徹 (xxx)

紙屋川今朝うちとけて水そ行く氷や神の心なるらん

かみやかは−けさうちとけて−みつそゆく−こほりやかみの−こころなるらむ


00138
未入力 正徹 (xxx)

初せ川氷なかれて岩ほうつこゑさへ鐘にたくふ春かな

はつせかは−こほりなかれて−いはほうつ−こゑさへかねに−たくふはるかな


00139
未入力 正徹 (xxx)

うしと見し春もめわたる鳥辺山もえし煙や霞みきぬらん

うしとみし−はるもめわたる−とりへやま−もえしけふりや−かすみきぬらむ


00140
未入力 正徹 (xxx)

滝の上にいそく御舟の山かつらまほにかけてや春のきぬらん

たきのうへに−いそくみふねの−やまかつら−まほにかけてや−はるのきぬらむ


00141
未入力 正徹 (xxx)

都まて春や立つらむ朝目影かかれる西の山そかすまぬ

みやこまて−はるやたつらむ−あさひかけ−かかれるにしの−やまそかすまぬ


00142
未入力 正徹 (xxx)

霞立つ春さへいまた旅にして衣や寒きむこの山かせ

かすみたつ−はるさへいまた−たひにして−ころもやさむき−むこのやまかせ


00143
未入力 正徹 (xxx)

ことうらの海士やはしらん此花の匂ふ難波の春の初を

ことうらの−あまやはしらむ−このはなの−にほふなにはの−はるのはしめを


00144
未入力 正徹 (xxx)

時をうる空もひとつに春の色の青うなはらそいととかすめる

ときをうる−そらもひとつに−はるのいろの−あをうなはらそ−いととかすめる


00145
未入力 正徹 (xxx)

春のきる衣霞の下風に山もしのふのおくそみたるる

はるのきる−ころもかすみの−したかせに−やまもしのふの−おくそみたるる


00146
未入力 正徹 (xxx)

おしなへてかすめるよりも天の原すめるを春の色そのとけき

おしなへて−かすめるよりも−あまのはら−すめるをはるの−いろそのとけき


00147
未入力 正徹 (xxx)

玉津島や春たつはまの真砂山つきせす遠くかすむ浪かな

たまつしまや−はるたつはまの−まさこやま−つきせすとほく−かすむなみかな


00148
未入力 正徹 (xxx)

君かへん千世の年のをくりかへし又はしになる春はきにけり

きみかへむ−ちよのとしのを−くりかへし−またはしになる−はるはきにけり


00149
未入力 正徹 (xxx)

夜の程にかへりし冬の春ならは名をあらためて年やきぬらん

よのほとに−かへりしふゆの−はるならは−なをあらためて−としやきぬらむ


00150
未入力 正徹 (xxx)

住吉のはまの真砂をみかく日も光春なる玉津島山

すみよしの−はまのまさこを−みかくひも−ひかりはるなる−たまつしまやま


00151
未入力 正徹 (xxx)

みとりそふ松も千世まて限なき霞そ春に色はちきれる

みとりそふ−まつもちよまて−かきりなき−かすみそはるに−いろはちきれる


00152
未入力 正徹 (xxx)

いはふなり老いてもさらに七十は逢ひかたき春にあへるけふとて

いはふなり−おいてもさらに−ななそちは−あひかたきはるに−あへるけふとて


00153
未入力 正徹 (xxx)

立初めし日かすのままにふる年のこゆれはやかて春そたけ行く

たちそめし−ひかすのままに−ふるとしの−こゆれはやかて−はるそたけゆく


00154
未入力 正徹 (xxx)

山の名の千年の坂をけふ越えて行すゑとほくかすむ春かな

やまのなの−ちとせのさかを−けふこえて−ゆくすゑとほく−かすむはるかな


00155
未入力 正徹 (xxx)

大ひえやむかしの杣木こゑかすみいまも高ねに春風そふく

おほひえや−むかしのそまき−こゑかすみ−いまもたかねに−はるかせそふく


00156
未入力 正徹 (xxx)

年こえてとへは五十日そ春としる待遠ならし初桜はな

としこえて−とへはいそかそ−はるとしる−まちとほならし−はつさくらはな


00157
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くる春をやかてしめちか原の草もゆるみとりそ松にまされる

くるはるを−やかてしめちか−はらのくさ−もゆるみとりそ−まつにまされる


00158
未入力 正徹 (xxx)

冬の色を春の霞の衣たに中にあらすは猶や逢見ん

ふゆのいろを−はるのかすみの−ころもたに−なかにあらすは−なほやあひみむ


00159
未入力 正徹 (xxx)

つつきつる子日若菜も時過きていとと春なる永き日くらし

つつきつる−ねのひわかなも−ときすきて−いととはるなる−なかきひくらし


00160
未入力 正徹 (xxx)

塩かまの浦のひかたの朝曇けふりなからや霞みそむらむ

しほかまの−うらのひかたの−あさくもり−けふりなからや−かすみそむらむ


00161
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榊葉になひく霞のあをにきてかけて春しる天のかく山

さかきはに−なひくかすみの−あをにきて−かけてはるしる−あまのかくやま


00162
未入力 正徹 (xxx)

春の浪ちかのうらわや遠からん老のみるめは霞みそめつつ

はるのなみ−ちかのうらわや−とほからむ−おいのみるめは−かすみそめつつ


00163
未入力 正徹 (xxx)

賀茂山や朽ちしいつきの宮柱たてるは春のかすみなりけり

かもやまや−くちしいつきの−みやはしら−たてるははるの−かすみなりけり


00164
未入力 正徹 (xxx)

山川や春せく瀬瀬の氷よりうちいつる浪そ音にかへれる

やまかはや−はるせくせせの−こほりより−うちいつるなみそ−おとにかへれる


00165
未入力 正徹 (xxx)

あさ氷岩にくたけて行くこゑやいすすふる世の春の川波

あさこほり−いはにくたけて−ゆくこゑや−いすすふるよの−はるのかはなみ


00166
未入力 正徹 (xxx)

長閑なる若のうら人立ちつつけ霞も浪も春はしるなり

のとかなる−わかのうらひと−たちつつけ−かすみもなみも−はるはしるなり


00167
未入力 正徹 (xxx)

うちきえしさゆる日おほき山風に霞きえては淡雪そふる

うちきえし−さゆるひおほき−やまかせに−かすみきえては−あはゆきそふる


00168
未入力 正徹 (xxx)

あさ明の山のかひより一むらの霞や春に立ちならふらむ

あさあけの−やまのかひより−ひとむらの−かすみやはるに−たちならふらむ


00169
未入力 正徹 (xxx)

今年なほ御代のとかにともろ人の心のそろふ春やきぬらん

ことしなほ−みよのとかにと−もろひとの−こころのそろふ−はるやきぬらむ


00170
未入力 正徹 (xxx)

山人のもとつ葉とりしゆつりはの三春かけてやかすみ初むらむ

やまひとの−もとつはとりし−ゆつりはの−みはるかけてや−かすみそむらむ


00171
未入力 正徹 (xxx)

日影さす霞の衣かく山の天きる雪もぬれてほすらし

ひかけさす−かすみのころも−かくやまの−あまきるゆきも−ぬれてほすらし


00172
未入力 正徹 (xxx)

あさなあさなかすむ入江の玉津島やかてや春の光そふらむ

あさなあさな−かすむいりえの−たまつしま−やかてやはるの−ひかりそふらむ


00173
未入力 正徹 (xxx)

霞たつ春の衣のしたかさねかさねて山はつもる雪かな

かすみたつ−はるのころもの−したかさね−かさねてやまは−つもるゆきかな


00174
未入力 正徹 (xxx)

浪の上松にもみゆる春の色の青きか原や霞みそむらん

なみのうへ−まつにもみゆる−はるのいろの−あをきかはらや−かすみそむらむ


00175
未入力 正徹 (xxx)

くる春は日数はかりをしるへにてかすみなれたる山の色かな

くるはるは−ひかすはかりを−しるへにて−かすみなれたる−やまのいろかな


00176
未入力 正徹 (xxx)

古き世の春にそ似たる朝ほらけいつれの年の霞なるらん

ふるきよの−はるにそにたる−あさほらけ−いつれのとしの−かすみなるらむ


00177
未入力 正徹 (xxx)

春日さす山は雪けのしつくよりたてる煙やかすみ初むらん

はるひさす−やまはゆきけの−しつくより−たてるけふりや−かすみそむらむ


00178
未入力 正徹 (xxx)

をとめ子かたえぬ霞の袖ふるや名におふ山の春のさ衣

をとめこか−たえぬかすみの−そてふるや−なにおふやまの−はるのさころも


00179
未入力 正徹 (xxx)

春のくる雲路さやかに明けてけり霞や天の岩戸なるらん

はるのくる−くもちさやかに−あけてけり−かすみやあまの−いはとなるらむ


00180
未入力 正徹 (xxx)

年もまた若のうら風吹きみかけ霞のおくの春のたま松

としもまた−わかのうらかせ−ふきみかけ−かすみのおくの−はるのたままつ


00181
未入力 正徹 (xxx)

明けそ行く山はかすみを立ちきても衣やうすき春の夜のしも

あけそゆく−やまはかすみを−たちきても−ころもやうすき−はるのよのしも


00182
未入力 正徹 (xxx)

春日さす天つ空より露そちる霞の袖も氷とくらし

はるひさす−あまつそらより−つゆそちる−かすみのそても−こほりとくらし


00183
未入力 正徹 (xxx)

深山よりたなひき出てて世にそみつ去年の霞や冬こもるらん

みやまより−たなひきいてて−よにそみつ−こそのかすみや−ふゆこもるらむ


00184
未入力 正徹 (xxx)

あら玉の春に霞も立ちそひて山路こゆるやくもりきぬらん

あらたまの−はるにかすみも−たちそひて−やまちこゆるや−くもりきぬらむ


00185
未入力 正徹 (xxx)

春のうらの霞の網の糸すちもほそきやいまたくもらさるらん

はるのうらの−かすみのあみの−いとすちも−ほそきやいまた−くもらさるらむ


00186
未入力 正徹 (xxx)

難波津もおなし霞に氷とく春のあさかの山の井の水

なにはつも−おなしかすみに−こほりとく−はるのあさかの−やまのゐのみつ


00187
未入力 正徹 (xxx)

雪きゆる南の山の松風やちかき軒はの霞とくらん

ゆききゆる−みなみのやまの−まつかせや−ちかきのきはの−かすみとくらむ


00188
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく霞のみをそさかのほるなかれそむらん花の日数に

あらしふく−かすみのみをそ−さかのはる−なかれそむらむ−はなのひかすに


00189
未入力 正徹 (xxx)

真木の戸をあくる夜ことに古年の夢路へたててかすむ春かな

まきのとを−あくるよことに−ふるとしの−ゆめちへたてて−かすむはるかな


00190
未入力 正徹 (xxx)

泊瀬山霞をしのきくる春も岩ほの雪にあとやつくらん

はつせやま−かすみをしのき−くるはるも−いはほのゆきに−あとやつくらむ


00191
未入力 正徹 (xxx)

千世の春をやかて見するや軒近き松にたな引く霞なるらん

ちよのはるを−やかてみするや−のきちかき−まつにたなひく−かすみなるらむ


00192
未入力 正徹 (xxx)

山そ先みとりにかすむ有間すけなかしとまてはしらぬ春日に

やまそまつ−みとりにかすむ−ありますけ−なかしとまては−しらぬはるひに


00193
未入力 正徹 (xxx)

消えやらて去年の霞や立出つる見し色かへぬはつ春の山

きえやらて−こそのかすみや−たちいつる−みしいろかへぬ−はつはるのやま


00194
未入力 正徹 (xxx)

わたつうみのかさしの霞ちる玉も春立つ浪のあらき浜かせ

わたつうみの−かさしのかすみ−ちるたまも−はるたつなみの−あらきはまかせ


00195
未入力 正徹 (xxx)

四方にくる春の心の色こきやふかくかすめる所なるらん

よもにくる−はるのこころの−いろこきや−ふかくかすめる−ところなるらむ


00196
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫のかすみのうちの海山や春のあやおる衣なるらん

さほひめの−かすみのうちの−うみやまや−はるのあやおる−ころもなるらむ


00197
未入力 正徹 (xxx)

霞しく日影を寒み棹姫の袖ももすそも雪にぬれつつ

かすみしく−ひかけをさむみ−さほひめの−そてももすそも−ゆきにぬれつつ


00198
未入力 正徹 (xxx)

敷島の道の春風霞みきてたかことのはも色そ添行く

しきしまの−みちのはるかせ−かすみきて−たかことのはも−いろそそひゆく


00199
未入力 正徹 (xxx)

山はみな春の霞に鳥のこゑ宮この花はむめかかそする

やまはみな−はるのかすみに−とりのこゑ−みやこのはなは−うめかかそする


00200
未入力 正徹 (xxx)

としきてもむ月の月の弓張にたつ春しるく川霞を

としきても−むつきのつきの−ゆみはりに−たつはるしるく−хххかすみを


00201
未入力 正徹 (xxx)

春のきる衣の色のあさ妻や浪におりはへ霞立つらむ

はるのきる−ころものいろの−あさつまや−なみにおりはへ−かすみたつらむ


00202
未入力 正徹 (xxx)

滝川の水の心もとけてけりこほるいもせの山の下ひも

たきかはの−みつのこころも−とけてけり−こほるいもせの−やまのしたひも


00203
未入力 正徹 (xxx)

年きても春をはらめるおもひかな氷のうちにこもるわか水

としきても−はるをはらめる−おもひかな−こほりのうちに−こもるわかみつ


00204
未入力 正徹 (xxx)

朝日さす嶺の雪消や山川のこほりの上の水の白浪

あさひさす−みねのゆきけや−やまかはの−こほりのうへの−みつのしらなみ


00205
未入力 正徹 (xxx)

高ねよりくもるを春の霞ともわかぬ光につもるしら雪

たかねより−くもるをはるの−かすみとも−わかぬひかりに−つもるしらゆき


00206
未入力 正徹 (xxx)

くる春の光そ見えぬ空もまた雪けにかすむ霞はかりは

くるはるの−ひかりそみえぬ−そらもまた−ゆきけにかすむ−かすみはかりは


00207
未入力 正徹 (xxx)

月と日とめくる所となり初めて空もいく世の春にあふらん

つきとひと−めくるところと−なりそめて−そらもいくよの−はるにあふらむ


00208
未入力 正徹 (xxx)

神代かもかすむもすめる天の原春の雪けの池そにこれる

かみよかも−かすむもすめる−あまのはら−はるのゆきけの−いけそにこれる


00209
未入力 正徹 (xxx)

春をしるこれそ一花久かたの天ひらけ行く夜はのしののめ

はるをしる−これそひとはな−ひさかたの−そらひらけゆく−よはのしののめ


00210
未入力 正徹 (xxx)

曇なき鏡なりけり山鳥の尾上の松にかかるはる日は

くもりなき−かかみなりけり−やまとりの−をのへのまつに−かかるはるひは


00211
未入力 正徹 (xxx)

山のはの影を霞につつみても朝日うらこき春の衣手

やまのはの−かけをかすみに−つつみても−あさひうらこき−はるのころもて


00212
未入力 正徹 (xxx)

春のくる山のかひより吹く風にかすみなかれてこほる川浪

はるのくる−やまのかひより−ふくかせに−かすみなかれて−こほるかはなみ


00213
未入力 正徹 (xxx)

薄煙はるの霞をもよほして松をこめたる塩かまの浦

うすけふり−はるのかすみを−もよほして−まつをこめたる−しほかまのうら


00214
未入力 正徹 (xxx)

くる春のたかねの松に明行くを千世の初と誰かみさらん

くるはるの−たかねのまつに−あけゆくを−ちよのはしめと−たれかみさらむ


00215
未入力 正徹 (xxx)

野も山も霞を春の古巣とや又鴬のこゑこもるらん

のもやまも−かすみをはるの−ふるすとや−またうくひすの−こゑこもるらむ


00216
未入力 正徹 (xxx)

世は春と霞も空に立つ鶴のは風のとかにわたる日の影

よははると−かすみもそらに−たつつるの−はかせのとかに−わたるひのかけ


00217
未入力 正徹 (xxx)

水わかくなりぬる年に浪のしわのふるやにほのうら風もなし

みつわかく−なりぬるとしに−なみのしわ−のふるやにほの−うらかせもなし


00218
未入力 正徹 (xxx)

氷とく袖の春風やはらかにぬる夜はしるや貫川のなみ

こほりとく−そてのはるかせ−やはらかに−ぬるよはしるや−ぬきかはのなみ


00219
未入力 正徹 (xxx)

夜や寒き春は雪まの松にきて風のやとりにこもる声かな

よやさむき−はるはゆきまの−まつにきて−かせのやとりに−こもるこゑかな


00220
未入力 正徹 (xxx)

吹く風は音にもききて猶そしるめにみぬ春は立つ名のみして

ふくかせは−おとにもききて−なほそしる−めにみぬはるは−たつなのみして


00221
未入力 正徹 (xxx)

東おり氷ときもてくる風や宮この川にあさわたるらん

あつまより−こほりときもて−くるかせや−みやこのかはに−あさわたるらむ


00222
未入力 正徹 (xxx)

さかふへき色こそ見ゆれもろ人のことのはことや春の若草

さかふへき−いろこそみゆれ−もろひとの−ことのはことや−はるのわかくさ


00223
未入力 正徹 (xxx)

誰もみな新桑ならぬまゆひらけくる年のをも手にはかからし

たれもみな−にひくはならぬ−まゆひらけ−くるとしのをも−てにはかからし


00224
未入力 正徹 (xxx)

此春はほしやをしやの人心うすく成りゆけ国そさかへん

このはるは−ほしやをしやの−ひとこころ−うすくなりゆけ−くにそさかへむ


00225
未入力 正徹 (xxx)

結ひこし契も久しよろつ度春をむかへん法のわか水

むすひこし−ちきりもひさし−よろつたひ−はるをむかへむ−のりのわかみつ


00226
未入力 正徹 (xxx)

松か枝に弥年のはの数そへて千世にもあまる御代の春かな

まつかえに−いやとしのはの−かすそへて−ちよにもあまる−みよのはるかな


00227
未入力 正徹 (xxx)

春といへとことそともなき朝かな世にもつかへすよをも渡らす

はるといへと−ことそともなき−あしたかな−よにもつかへす−よをもわたらす


00228
未入力 正徹 (xxx)

風さゆる春の霞のたちとたに猶さためなきよもの浮雲

かせさゆる−はるのかすみの−たちとたに−なほさためなき−よものうきくも


00229
未入力 正徹 (xxx)

八十島や興つしほせの春霞立ちものこらぬ浪のうへかな

やそしまや−おきつしほせの−はるかすみ−たちものこらぬ−なみのうへかな


00230
未入力 正徹 (xxx)

おき出てし夜ふかき鐘のかすみつつ声より色に明くる山かな

おきいてし−よふかきかねの−かすみつつ−こゑよりいろに−あくるやまかな


00231
未入力 正徹 (xxx)

かすむより緑をそへて敷島の大和にもあらぬから崎の松

かすむより−みとりをそへて−しきしまの−やまとにもあらぬ−からさきのまつ


00232
未入力 正徹 (xxx)

春寒み霞をかれるあま衣いかかしか津のうら風そふく

はるさむみ−かすみをかれる−あまころも−いかかしかつの−うらかせそふく


00233
未入力 正徹 (xxx)

すまのあまのうら風なからなれぬとや霞の衣まとほなるらん

すまのあまの−うらかせなから−なれぬとや−かすみのころも−まとほなるらむ


00234
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる空もみとりの色こきや春のかすみのしるしなるらん

あけわたる−そらもみとりの−いろこきや−はるのかすみの−しるしなるらむ


00235
未入力 正徹 (xxx)

夜をこめてかすめる天のとのくもりやかてへたてす明くる春かな

よをこめて−かすめるそらの−とのくもり−やかてへたてす−あくるはるかな


00236
未入力 正徹 (xxx)

へたつとて春のかくるるかたもなしかすむそいととあらはなりける

へたつとて−はるのかくるる−かたもなし−かすむそいとと−あらはなりける


00237
未入力 正徹 (xxx)

石見かた明くれはこれそ筆の海する墨うすくかすむ浪かな

いはみかた−あくれはこれそ−ふてのうみ−するすみうすく−かすむなみかな


00238
未入力 正徹 (xxx)

都より先色みえて秋津すの海山とほくかすむ春かな

みやこより−まついろみえて−あきつすの−うみやまとほく−かすむはるかな


00239
未入力 正徹 (xxx)

松たてる嶺をほのかにのこしてそ空まて高き霞をもしる

まつたてる−みねをほのかに−のこしてそ−そらまてたかき−かすみをもしる


00240
未入力 正徹 (xxx)

みとりなる色をかさねて筑波根の陰よりしけく霞む春かな

みとりなる−いろをかさねて−つくはねの−かけよりしけく−かすむはるかな


00241
未入力 正徹 (xxx)

天の戸を出てし神代の常暗や春のかすみに晴れのこるらむ

あまのとを−いてしかみよの−とこやみや−はるのかすみに−はれのこるらむ


00242
未入力 正徹 (xxx)

さえわたる朝けの霞むら消えて雪まもよほす春の山風

さえわたる−あさけのかすみ−むらきえて−ゆきまもよほす−はるのやまかせ


00243
未入力 正徹 (xxx)

くる春の霞も山をかくせはや去年の雪まを又埋むらん

くるはるの−かすみもやまを−かくせはや−こそのゆきまを−またうつむらむ


00244
未入力 正徹 (xxx)

たえまなくたなひく春の霞かなひとつの袖や世におほふらん

たえまなく−たなひくはるの−かすみかな−ひとつのそてや−よにおほふらむ


00245
未入力 正徹 (xxx)

春をへてかすむ塩干の王津島松にいく世の年ひろふらん

はるをへて−かすむしほひの−たまつしま−まつにいくよの−としひろふらむ


00246
未入力 正徹 (xxx)

雲うつむ山の霞の下風に春日色こき野へのわか草

くもうつむ−やまのかすみの−したかせに−はるひいろこき−のへのわかくさ


00247
未入力 正徹 (xxx)

春日よき雲井のたつを芹川の霞にすれるかり衣かな

はるひよき−くもゐのたつを−せりかはの−かすみにすれる−かりころもかな


00248
未入力 正徹 (xxx)

山姫のときあらひ衣かけほすや日影にかすむ棹の川岸

やまひめの−ときあらひきぬ−かけほすや−ひかけにかすむ−さをのかはきし


00249
未入力 正徹 (xxx)

川上の霞のみをにまほかけてうかふ三室の山かつらせり

かはかみの−かすみのみをに−まほかけて−うかふみむろの−やまかつらせり


00250
未入力 正徹 (xxx)

浪に引くかすみの網のうら人のほすとしもなき春日をそみる

なみにひく−かすみのあみの−うらひとの−ほすとしもなき−はるひをそみる


00251
未入力 正徹 (xxx)

あさ霞しつはた山は花鳥の色に綾おる春のさころも

あさかすみ−しつはたやまは−はなとりの−いろにあやおる−はるのさころも


00252
未入力 正徹 (xxx)

鳥のこゑかすめる滝の音羽川おき出ててみれは山のはもなし

とりのこゑ−かすめるたきの−おとはかは−おきいててみれは−やまのはもなし


00253
未入力 正徹 (xxx)

雪きえし敏の衣ほしはてて春日とさらす天のかく山

ゆききえし−かすみのころも−ほしはてて−はるひとさらす−あまのかくやま


00254
未入力 正徹 (xxx)

世にまよふ春の霞やへたてある人の心となりはしめけん

よにまよふ−はるのかすみや−へたてある−ひとのこころと−なりはしめけむ


00255
未入力 正徹 (xxx)

世世を引くこれもきつなか野山にも春は霞の思ひはなれぬ

よよをひく−これもきつなか−のやまにも−はるはかすみの−おもひはなれぬ


00256
未入力 正徹 (xxx)

日もなかし道行人のこゑもせす霞にうとき遠近のさと

ひもなかし−みちゆくひとの−こゑもせす−かすみにうとき−をちこちのさと


00257
未入力 正徹 (xxx)

かすめともありとしられて高砂の尾上の松に春風そ吹く

かすめとも−ありとしられて−たかさこの−をのへのまつに−はるかせそふく


00258
未入力 正徹 (xxx)

棹姫のたつや霞の衣手に山下風吹きてさゆる春かな

さほひめの−たつやかすみの−ころもてに−やまおろしふきて−さゆるはるかな


00259
未入力 正徹 (xxx)

氷とく山下水にたつ煙のほるもかすむ朝日影かな

こほりとく−やましたみつに−たつけふり−のほるもかすむ−あさひかけかな


00260
未入力 正徹 (xxx)

天の戸を明かたかけて芦引の山よりたかくかすむ春かな

あまのとを−あけかたかけて−あしひきの−やまよりたかく−かすむはるかな


00261
未入力 正徹 (xxx)

世世をへし年のをしほの山かつらなかき日かけてかすむ春かな

よよをへし−としのをしほの−やまかつら−なかきひかけて−かすむはるかな


00262
未入力 正徹 (xxx)

よもに見し山遠さかり九重の都をひろく立つかすみかな

よもにみし−やまとほさかり−ここのへの−みやこをひろく−たつかすみかな


00263
未入力 正徹 (xxx)

名そのこる煙を山の霞とも誰みよしのの春の里人

なそのこる−けふりをやまの−かすみとも−たれみよしのの−はるのさとひと


00264
未入力 正徹 (xxx)

浜ゆふやうら浪たかく春かけて百重かすめるき路の遠山

はまゆふや−うらなみたかく−はるかけて−ももへかすめる−きちのとほやま


00265
未入力 正徹 (xxx)

春の色にいつる朝日のうす曇光そにほふ遠近の山

はるのいろに−いつるあさひの−うすくもり−ひかりそにほふ−をちこちのやま


00266
未入力 正徹 (xxx)

朝みとりかさす袖とも霞むかなこや春のきる衣笠の山

あさみとり−かさすそてとも−かすむかな−こやはるのきる−きぬかさのやま


00267
未入力 正徹 (xxx)

山姫の春の衣のあさつまをかさねて浪にたつ霞かな

やまひめの−はるのころもの−あさつまを−かさねてなみに−たつかすみかな


00268
未入力 正徹 (xxx)

なほさえて霞かさねぬ山風に衣やうすき春の杣人

なほさえて−かすみかさねぬ−やまかせに−ころもやうすき−はるのそまひと


00269
未入力 正徹 (xxx)

春きても都の山のかすむ日はまれのみ雪にさゆる空かな

はるきても−みやこのやまの−かすむひは−まれのみゆきに−さゆるそらかな


00270
未入力 正徹 (xxx)

いふき山もゆる煙に立ちなれてさしもかすまぬ春の色かな

いふきやま−もゆるけふりに−たちなれて−さしもかすまぬ−はるのいろかな


00271
未入力 正徹 (xxx)

朝ほらけしくや霞にのこるなり大和島ねの春のむら山

あさほらけ−しくやかすみに−のこるなり−やまとしまねの−はるのむらやま


00272
未入力 正徹 (xxx)

春や猶わしの高ねをしたひきて法の莚を霞敷くらん

はるやなほ−わしのたかねを−したひきて−のりのむしろを−かすみしくらむ


00273
未入力 正徹 (xxx)

かすむとも緑にや見ん山もまた塵なりし世の春の明ほの

かすむとも−みとりにやみむ−やまもまた−ちりなりしよの−はるのあけほの


00274
未入力 正徹 (xxx)

綱手縄ひけるやかすみまきもくのひ原の山の春の杣人

つなてなは−ひけるやかすみ−まきもくの−ひはらのやまの−はるのそまひと


00275
未入力 正徹 (xxx)

をちかたの霞の光あらはれて雨にかくれぬ山の色かな

をちかたの−かすみのひかり−あらはれて−あまにかくれぬ−やまのいろかな


00276
未入力 正徹 (xxx)

大和島かすみもいまたむら山に雪たちのこしさゆる春かな

やまとしま−かすみもいまた−むらやまに−ゆきたちのこし−さゆるはるかな


00277
未入力 正徹 (xxx)

春霞天のはらまて曇りきて雪におよはぬふしの四方山

はるかすみ−あまのはらまて−くもりきて−ゆきにおよはぬ−ふしのよもやま


00278
未入力 正徹 (xxx)

染めてけり霞の衣色をうすみ山のすそこの春の若草

そめてけり−かすみのころも−いろをうすみ−やまのすそこの−はるのわかくさ


00279
未入力 正徹 (xxx)

袖と見しかすみのみたれ雪そけつ名におふ山の忍もちすり

そてとみし−かすみのみたれ−ゆきそけつ−なにおふやまの−しのふもちすり


00280
未入力 正徹 (xxx)

坂こゆる人の袖かとみかの原国の都は山そかすめる

さかこゆる−ひとのそてかと−みかのはら−くにのみやこは−やまそかすめる


00281
未入力 正徹 (xxx)

時しらぬ色にもしるし春はきてふもとにかすむ富士の白雪

ときしらぬ−いろにもしるし−はるはきて−ふもとにかすむ−ふしのしらゆき


00282
未入力 正徹 (xxx)

いつくにも春を見せんと足引の山つたひして行く霞かな

いつくにも−はるをみせむと−あしひきの−やまつたひして−ゆくかすみかな


00283
未入力 正徹 (xxx)

春さむき霞のみをにけふしこそ御舟の山もうかふあは雪

はるさむき−かすみのみをに−けふしこそ−みふねのやまも−うかふあはゆき


00284
未入力 正徹 (xxx)

あし引の山たち花の袖のかもむかしにかすむ春のふる郷

あしひきの−やまたちはなの−そてのかも−むかしにかすむ−はるのふるさと


00285
未入力 正徹 (xxx)

春の色を日比見せつと足引の山たちはなれ行く霞かな

はるのいろを−ひころみせつと−あしひきの−やまたちはなれ−ゆくかすみかな


00286
未入力 正徹 (xxx)

棹姫のとほ山まゆもうす墨の夕ほのかにかすむ春かな

さほひめの−とほやままゆも−うすすみの−ゆふへほのかに−かすむはるかな


00287
未入力 正徹 (xxx)

あさ霞かかれとてしもむは玉の黒髪山に春やこさらむ

あさかすみ−かかれとてしも−むはたまの−くろかみやまに−はるやこさらむ


00288
未入力 正徹 (xxx)

朝日影ふもとの塵にかすめるをみぬ世の年も遠き山かな

あさひかけ−ふもとのちりに−かすめるを−みぬよのとしも−とほきやまかな


00289
未入力 正徹 (xxx)

いつる日のかすめる色もあさか山かけさへ雪にさゆる春かな

いつるひの−かすめるいろも−あさかやま−かけさへゆきに−さゆるはるかな


00290
未入力 正徹 (xxx)

霞たつ衣かせ山いつみ川舟のりさむし春のあさあけ

かすみたつ−ころもかせやま−いつみかは−ふなのりさむし−はるのあさあけ


00291
未入力 正徹 (xxx)

木の葉なき秋の朝霧思出てぬ山たちかすむ春の初霜

このはなき−あきのあさきり−おもひいてぬ−やまたちかすむ−はるのはつしも


00292
未入力 正徹 (xxx)

朝ことに大内山の宮木をや春のかすみも綱手引くらん

あさことに−おほうちやまの−みやきをや−はるのかすみも−つなてひくらむ


00293
未入力 正徹 (xxx)

嶺出ててかすむ朝日の麓川くれなゐくくる浪もこほらす

みねいてて−かすむあさひの−ふもとかは−くれなゐくくる−なみもこほらす


00294
未入力 正徹 (xxx)

あさ明の嶺にそかすむ花さかぬ山さくら戸の春の白雪

あさあけの−みねにそかすむ−はなさかぬ−やまさくらとの−はるのしらゆき


00295
未入力 正徹 (xxx)

のほる日の光をこめて足引の山よりたかくかすむ空かな

のほるひの−ひかりをこめて−あしひきの−やまよりたかく−かすむそらかな


00296
未入力 正徹 (xxx)

山風の霞をまくや棹姫のおくるあしたの床のさむしろ

やまかせの−かすみをまくや−さほひめの−おくるあしたの−とこのさむしろ


00297
未入力 正徹 (xxx)

あまのきる春の衣のあさ妻やうら風なからかすむ山かな

あまのきる−はるのころもの−あさつまや−うらかせなから−かすむやまかな


00298
未入力 正徹 (xxx)

たかためそ霞のうちに出つる日のくれなゐそむる春のさ衣

たかためそ−かすみのうちに−いつるひの−くれなゐそむる−はるのさころも


00299
未入力 正徹 (xxx)

主やたれかすみのうちの松か枝も遠山すりの春のさ衣

ぬしやたれ−かすみのうちの−まつかえも−とほやますりの−はるのさころも


00300
未入力 正徹 (xxx)

よそにしてなひく霞や心あてに猶わきもこか二かみの山

よそにして−なひくかすみや−こころあてに−なほわきもこか−ふたかみのやま


00301
未入力 正徹 (xxx)

立ちこむるをちの山人それも見はわか住むさとや又霞むらん

たちこむる−をちのやまひと−それもみは−わかすむさとや−またかすむらむ


00302
未入力 正徹 (xxx)

雪そちる霞を山と御吉野のふる郷人の春の衣手

ゆきそちる−かすみをやまと−みよしのの−ふるさとひとの−はるのころもて


00303
未入力 正徹 (xxx)

行末も遠山鳥のをしほ山神代へたてすかすむ春かな

ゆくすゑも−とほやまとりの−をしほやま−かみよへたてす−かすむはるかな


00304
未入力 正徹 (xxx)

うつもれし我か身の霧はかつ晴れて今朝遠山の霞むをそみる

うつもれし−わかみのきりは−かつはれて−けさとほやまの−かすむをそみる


00305
未入力 正徹 (xxx)

難波かた霞も山もうす墨の絵島そにしの海にうかへる

なにはかた−かすみもやまも−うすすみの−えしまそにしの−うみにうかへる


00306
未入力 正徹 (xxx)

見えさりし霞かかれる色なから朝日にいつる春のとほ山

みえさりし−かすみかかれる−いろなから−あさひにいつる−はるのとほやま


00307
未入力 正徹 (xxx)

あさ明のかすみのおくに山ありとかねてしらすは海かとそみむ

あさあけの−かすみのおくに−やまありと−かねてしらすは−うみかとそみむ


00308
未入力 正徹 (xxx)

朝みとりかすめる山の松杉もおなしよそ目にさゆる春かな

あさみとり−かすめるやまの−まつすきも−おなしよそめに−さゆるはるかな


00309
未入力 正徹 (xxx)

かすましな衣たちきるすまのあまや寒き都の山路こゆらん

かすましな−ころもたちきる−すまのあまや−さむきみやこの−やまちこゆらむ


00310
未入力 正徹 (xxx)

明けぬまにほすや霞のかり衣ぬく日もしらぬ天のかく山

あけぬまに−ほすやかすみの−かりころも−ぬくひもしらぬ−あまのかくやま


00311
未入力 正徹 (xxx)

朝日さす山の霞もくれなゐのこ染や春の衣なるらむ

あさひさす−やまのかすみも−くれなゐの−こそめやはるの−ころもなるらむ


00312
未入力 正徹 (xxx)

かすみきぬ夕山姫のたか春にくもる契の色をそふらん

かすみきぬ−ゆふやまひめの−たかはるに−くもるちきりの−いろをそふらむ


00313
未入力 正徹 (xxx)

春なれはふしの高ねの雪の上もかすむかたつか天の羽衣

はるなれは−ふしのたかねの−ゆきのうへも−かすむかたつか−あまのはころも


00314
未入力 正徹 (xxx)

ぬしやたれ山わけ衣みたれくる春のかすみの袖の追風

ぬしやたれ−やまわけころも−みたれくる−はるのかすみの−そてのおひかせ


00315
未入力 正徹 (xxx)

雲の浪かからぬ松もあらはれす霞や千重の嶺のはまゆふ

くものなみ−かからぬまつも−あらはれす−かすみやちへの−みねのはまゆふ


00316
未入力 正徹 (xxx)

朝日さす天の岩戸の関よりも山はかすみをいてぬ春かな

あさひさす−あまのいはとの−せきよりも−やまはかすみを−いてぬはるかな


00317
未入力 正徹 (xxx)

雪の色のきえぬもきえつ真砂山はまゆふ霞幾重立つらむ

ゆきのいろの−きえぬもきえつ−まさこやま−はまゆふかすみ−いくへたつらむ


00318
未入力 正徹 (xxx)

山は人かすみは山をへたてても行く旅とほしふる郷のはる

やまはひと−かすみはやまを−へたてても−ゆくたひとほし−ふるさとのはる


00319
未入力 正徹 (xxx)

朝かすみもも重をかくるうら風に浜ゆふたかき三くまのの山

あさかすみ−ももへをかくる−うらかせに−はまゆふたかき−みくまののやま


00320
未入力 正徹 (xxx)

ありとみし松杉なからははききのかすみにきゆる山のあけほの

ありとみし−まつすきなから−ははききの−かすみにきゆる−やまのあけほの


00321
未入力 正徹 (xxx)

松たてる嶺の緑も見えぬかな雪をやうつむ霞なるらん

まつたてる−みねのみとりも−みえぬかな−ゆきをやうつむ−かすみなるらむ


00322
未入力 正徹 (xxx)

霞みこめつらなる峰の塵はかり残るかわたる雁のおも影

かすみこめ−つらなるみねの−ちりはかり−のこるかわたる−かりのおもかけ


00323
未入力 正徹 (xxx)

雪消えて峰の霞やたつか弓春の関もるき路の遠山

ゆききえて−みねのかすみや−たつかゆみ−はるのせきもる−きちのとほやま


00324
未入力 正徹 (xxx)

なかれ行く霞のみをにかけてけりつつく高ねの雲の梯

なかれゆく−かすみのみをに−かけてけり−つつくたかねの−くものかけはし


00325
未入力 正徹 (xxx)

春よまた太山嵐の峰つたひ雪も霞の色はけすらん

はるよまた−みやまあらしの−みねつたひ−ゆきもかすみの−いろはけすらむ


00326
未入力 正徹 (xxx)

朝みとり若葉の松も色そこき山染めいたす春の霞に

あさみとり−わかはのまつも−いろそこき−やまそめいたす−はるのかすみに


00327
未入力 正徹 (xxx)

天地やなにの上にもくる春の色を千種にかすむ山かな

あめつちや−なにのうへにも−くるはるの−いろをちくさに−かすむやまかな


00328
未入力 正徹 (xxx)

野も山もおなし緑の色そこきふらぬ霞や木のめはるさめ

のもやまも−おなしみとりの−いろそこき−ふらぬかすみや−きのめはるさめ


00329
未入力 正徹 (xxx)

こすと見し浪は霞にしかれけり春の色こき末の松山

こすとみし−なみはかすみに−しかれけり−はるのいろこき−すゑのまつやま


00330
未入力 正徹 (xxx)

春の色に出雲八雲そあかねさす日の川上のあさ霞かも

はるのいろに−いつもやくもそ−あかねさす−ひのかはかみの−あさかすみかも


00331
未入力 正徹 (xxx)

春の色にうらなれにけり棹姫の霞の衣ころもへすして

はるのいろに−うらなれにけり−さほひめの−かすみのころも−ころもへすして


00332
未入力 正徹 (xxx)

春のきる衣さむしろ今朝そみる降りしく雪の山の霞に

はるのきる−ころもさむしろ−けさそみる−ふりしくゆきの−やまのかすみに


00333
未入力 正徹 (xxx)

世にひろく立つや霞の衣手にもれてみえたる山のはもなし

よにひろく−たつやかすみの−ころもてに−もれてみえたる−やまのはもなし


00334
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫の春のかすみをおりはへてたれにともなくたつ衣かな

さほひめの−はるのかすみを−おりはへて−たれにともなく−たつころもかな


00335
未入力 正徹 (xxx)

川浪にもすそぬらすや霞立つ棹山姫の衣なるらん

かはなみに−もすそぬらすや−かすみたつ−さほやまひめの−ころもなるらむ


00336
未入力 正徹 (xxx)

聞ゆるや杣山人の斧ならん春もかすみの衣うつこゑ

きこゆるや−そまやまひとの−をのならむ−はるもかすみの−ころもうつこゑ


00337
未入力 正徹 (xxx)

かすむ日の松浦か興のから衣もろこし人やたち霞ぬらん

かすむひの−まつらかおきの−からころも−もろこしひとや−たちかさぬらむ


00338
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫の衣の玉を春みせて霞のしたにかかる日のかけ

さほひめの−ころものたまを−はるみせて−かすみのしたに−かかるひのかけ


00339
未入力 正徹 (xxx)

霞たつ春は大津の宮人のふるき衣にうら風そふく

かすみたつ−はるはおほつの−みやひとの−ふるきころもに−うらかせそふく


00340
未入力 正徹 (xxx)

袖はへて梅かかうつすぬしや誰かすめる庭の春のさころも

そてはへて−うめかかうつす−ぬしやたれ−かすめるにはの−はるのさころも


00341
未入力 正徹 (xxx)

古の春のかすみをたちきるも猶身にあまるけふの袂そ

いにしへの−はるのかすみを−たちきるも−なほみにあまる−けふのたもとそ


00342
未入力 正徹 (xxx)

世は春の霞の衣きる人もあらし吹く日やぬきわかるらん

よははるの−かすみのころも−きるひとも−あらしふくひや−ぬきわかるらむ


00343
未入力 正徹 (xxx)

色色の衣はあれと世は春のかすみのうはききぬ人もなし

いろいろの−ころもはあれと−よははるの−かすみのうはき−きぬひともなし


00344
未入力 正徹 (xxx)

八幡山三の衣の玉くしけふたつはたてる雲よ霞よ

やはたやま−みつのころもの−たまくしけ−ふたつはたてる−くもよかすみよ


00345
未入力 正徹 (xxx)

天の川星合の空は程遠したれに霞の衣かすらむ

あまのかは−ほしあひのそらは−ほととほし−たれにかすみの−ころもかすらむ


00346
未入力 正徹 (xxx)

空にたつ衣のうらの玉かしはかすむ春日はなにはならねと

そらにたつ−ころものうらの−たまかしは−かすむはるひは−なにはならねと


00347
未入力 正徹 (xxx)

川社七日ひさらん衣ほせかすみそかかるあまのかく山

かはやしろ−なぬかひさらむ−ころもほせ−かすみそかかる−あまのかくやま


00348
未入力 正徹 (xxx)

春きても猶山姫の夜や寒き衣やうすきかすむともなし

はるきても−なほやまひめの−よやさむき−ころもやうすき−かすむともなし


00349
未入力 正徹 (xxx)

春のきる衣を寒みぬくとなき霞のひもをとく嵐かな

はるのきる−ころもをさむみ−ぬくとなき−かすみのひもを−とくあらしかな


00350
未入力 正徹 (xxx)

春はまたあさしや六のくらゐ山かすむみとりの衣をそきる

はるはまた−あさしやむつの−くらゐやま−かすむみとりの−ころもをそきる


00351
未入力 正徹 (xxx)

棹姫の袖ももすそもわきてみす衣といはん霞ともなし

さほひめの−そてももすそも−わきてみす−ころもといはむ−かすみともなし


00352
未入力 正徹 (xxx)

杣人の綱手ならねと山路より都に春を引くかすみかな

そまひとの−つなてならねと−やまちより−みやこにはるを−ひくかすみかな


00353
未入力 正徹 (xxx)

四方にたつ霞も春になれすとや山風吹けは遠さかるらん

よもにたつ−かすみもはるに−なれすとや−やまかせふけは−とほさかるらむ


00354
未入力 正徹 (xxx)

春のきるこや羽衣の天つひれふりはへなかしかすみ初むらん

はるのきる−こやはころもの−あまつひれ−ふりはへなかし−かすみそむらむ


00355
未入力 正徹 (xxx)

九重の山の霞ももろ人も今朝たなひくや春のきぬらん

ここのへの−やまのかすみも−もろひとも−けさたなひくや−はるのきぬらむ


00356
未入力 正徹 (xxx)

海山もたなひくしたに顕れぬいくかかすめる長路なるらん

うみやまも−たなひくしたに−あらはれぬ−いくかかすめる−なかちなるらむ


00357
未入力 正徹 (xxx)

けさみれはたな引ききえぬ夜の程は霞のなれる興つ島山

けさみれは−たなひききえぬ−よのほとは−かすみのなれる−おきつしまやま


00358
未入力 正徹 (xxx)

朝みとり春のかすみの山めくりしくれし秋に染めし色かな

あさみとり−はるのかすみの−やまめくり−しくれしあきに−そめしいろかな


00359
未入力 正徹 (xxx)

久かたの天つかすみの橋立を空にもかくるよさのうらなみ

ひさかたの−あまつかすみの−はしたてを−そらにもかくる−よさのうらなみ


00360
未入力 正徹 (xxx)

道辺をへたつる程もみえわかてかすみにちかきをちの里人

みちのへを−へたつるほとも−みえわかて−かすみにちかき−をちのさとひと


00361
未入力 正徹 (xxx)

かまとよりたつや煙も高き屋にのほる霞の色とみゆらん

かまとより−たつやけふりも−たかきやに−のほるかすみの−いろとみゆらむ


00362
未入力 正徹 (xxx)

朝霞空にみつはのむら雲やたつ川上の浪と見ゆらん

あさかすみ−そらにみつはの−むらくもや−たつかはかみの−なみとみゆらむ


00363
未入力 正徹 (xxx)

もしほ火の煙もみちてあまの住む村の朝けはかすむ春かな

もしほひの−けふりもみちて−あまのすむ−むらのあさけは−かすむはるかな


00364
未入力 正徹 (xxx)

大和路やさとはとをちの村山もありとはみえすかすむ春かな

やまとちや−さとはとをちの−むらやまも−ありとはみえす−かすむはるかな


00365
未入力 正徹 (xxx)

大和川音はかりして遠近のかすみにのこる春のむら山

やまとかは−おとはかりして−をちこちの−かすみにのこる−はるのむらやま


00366
未入力 正徹 (xxx)

吹きはらへ宿たちかくす村霞をちかた人の袖の春かせ

ふきはらへ−やとたちかくす−むらかすみ−をちかたひとの−そてのはるかせ


00367
未入力 正徹 (xxx)

杜たかき千枝を草葉とみるはかりしのたの方のかすむ野へかな

もりたかき−ちえをくさはと−みるはかり−しのたのかたの−かすむのへかな


00368
未入力 正徹 (xxx)

遠かたの梢の風やさわくらむかすみの衣しのふもちすり

をちかたの−こすゑのかせや−さわくらむ−かすみのころも−しのふもちすり


00369
未入力 正徹 (xxx)

たちのこす霞の袖につく墨はたかため恋の杜となるらん

たちのこす−かすみのそてに−つくすみは−たかためこひの−もりとなるらむ


00370
未入力 正徹 (xxx)

わたの原霞のうちもくもらぬや興の玉藻の光なるらん

わたのはら−かすみのうちも−くもらぬや−おきのたまもの−ひかりなるらむ


00371
未入力 正徹 (xxx)

春霞光そうすき伊勢の海の塩干の玉やけさひろひけん

はるかすみ−ひかりそうすき−いせのうみの−しほひのたまや−けさひろひけむ


00372
未入力 正徹 (xxx)

よもの海に二の袖やおほふらん霞の衣かきりなくして

よものうみに−ふたつのそてや−おほふらむ−かすみのころも−かきりなくして


00373
未入力 正徹 (xxx)

浪にしく霞の色もわかめ刈るあまの磯菜や雪の下もえ

なみにしく−かすみのいろも−わかめかる−あまのいそなや−ゆきのしたもえ


00374
未入力 正徹 (xxx)

春やくる浪に霞を敷たへの床のうら人おきはわかれし

はるやくる−なみにかすみを−しきたへの−とこのうらひと−おきはわかれし


00375
未入力 正徹 (xxx)

四方の海かすみおよはぬ興もあらは春のとまりを浪にみてまし

よものうみ−かすみおよはぬ−おきもあらは−はるのとまりを−なみにみてまし


00376
未入力 正徹 (xxx)

紅のゆたかにたてる袂かな霞によする春のうら人

くれなゐの−ゆたかにたてる−たもとかな−かすみによする−はるのうらひと


00377
未入力 正徹 (xxx)

わたの原春たちかへる雲の波霞の浪も風そのとけき

わたのはら−はるたちかへる−くものなみ−かすみのなみも−かせそのとけき


00378
未入力 正徹 (xxx)

春はいまうらこく舟の路の草玉ももえ出ててかすむ浪かな

はるはいま−うらこくふねの−みちのくさ−たまももえいてて−かすむなみかな


00379
未入力 正徹 (xxx)

わたの原山を見あてにとり梶もかすみにたゆる春の船人

わたのはら−やまをみあてに−とりかちも−かすみにたゆる−はるのふなひと


00380
未入力 正徹 (xxx)

そことなき霞は晴れてわたつ海に残るも曇る八重のしほかせ

そことなき−かすみははれて−わたつうみに−のこるもくもる−やへのしほかせ


00381
未入力 正徹 (xxx)

わたつ海のかさしの浪の花かつら霞をかけて浦風そ吹く

わたつうみの−かさしのなみの−はなかつら−かすみをかけて−うらかせそふく


00382
未入力 正徹 (xxx)

わたつ海の浪そとことは夕なきに霞や春の色をしくらん

わたつうみの−なみそとことは−ゆふなきに−かすみやはるの−いろをしくらむ


00383
未入力 正徹 (xxx)

白妙の浪のかさしのわたつ海に又さしはへてかすむ春かな

しろたへの−なみのかさしの−わたつうみに−またさしはへて−かすむはるかな


00384
未入力 正徹 (xxx)

うちはふる霞の網のめも春に入江のあしはうら風そ吹く

うちはふる−かすみのあみの−めもはるに−いりえのあしは−うらかせそふく


00385
未入力 正徹 (xxx)

石見かた山も高津のうら波にひれふる袖や霞なるらん

いはみかた−やまもたかつの−うらなみに−ひれふるそてや−かすみなるらむ


00386
未入力 正徹 (xxx)

淡路かた山のかさしのわたつ海は波さへしろくかすむ春かな

あはちかた−やまのかさしの−わたつうみは−なみさへしろく−かすむはるかな


00387
未入力 正徹 (xxx)

うら風におもひきえぬもみゆるかな世を海わたる霞ならねと

うらかせに−おもひきえぬも−みゆるかな−よをうみわたる−かすみならねと


00388
未入力 正徹 (xxx)

わたの原八百日行くともはてしらぬ浪と霞の遠つしらはま

わたのはら−やほかゆくとも−はてしらぬ−なみとかすみの−とほつしらはま


00389
未入力 正徹 (xxx)

伊勢の海や渚の玉の光かも霞をみかく興つしら浪

いせのうみや−なきさのたまの−ひかりかも−かすみをみかく−おきつしらなみ


00390
未入力 正徹 (xxx)

波の上の霞をわけて引く塩に夕日くらしぬ玉津しまやま

なみのうへの−かすみをわけて−ひくしほに−ゆふひくらしぬ−たまつしまやま


00391
未入力 正徹 (xxx)

興つなみ雲のはたてにかけておれ霞のぬきのあまのさ衣

おきつなみ−くものはたてに−かけておれ−かすみのぬきの−あまのさころも


00392
未入力 正徹 (xxx)

むろの木のみとりを分けて霞むなりこき出つる舟のともの浦浪

むろのきの−みとりをわけて−かすむなり−こきいつるふねの−とものうらなみ


00393
未入力 正徹 (xxx)

春日さす氷は消えし霞にも遠さかり行くしかのうら浪

はるひさす−こほりはきえし−かすみにも−とほさかりゆく−しかのうらなみ


00394
未入力 正徹 (xxx)

山風もかすむふもとの夕波にたてるやいつこしかの浜松

やまかせも−かすむふもとの−ゆふなみに−たてるやいつこ−しかのはままつ


00395
未入力 正徹 (xxx)

さくらあさも見ぬ名におふのうらなしに霞みこめたる浪の音かな

さくらあさも−みぬなにおふの−うらなしに−かすみこめたる−なみのおとかな


00396
未入力 正徹 (xxx)

梶をたえ行末もしらす由良の戸をわたる舟路の春の霞に

かちをたえ−ゆくへもしらす−ゆらのとを−わたるふなちの−はるのかすみに


00397
未入力 正徹 (xxx)

あさ明の霞のかたほかけすててうら風遠くわたる舟人

あさあけの−かすみのかたほ−かけすてて−うらかせとほく−わたるふなひと


00398
未入力 正徹 (xxx)

あらはるる時をはいつとしら浪の浜松かねも猶かすむらん

あらはるる−ときをはいつと−しらなみの−はままつかねも−なほかすむらむ


00399
未入力 正徹 (xxx)

霞にもはなれ小島はあらはれて又うつもるる沖つとほ山

かすみにも−はなれこしまは−あらはれて−またうつもるる−おきつとほやま


00400
未入力 正徹 (xxx)

今朝そしるいふきおろしは波間よりみゆる小島の見えぬ霞に

けさそしる−いふきおろしは−なみまより−みゆるこしまの−みえぬかすみに


00401
未入力 正徹 (xxx)

雲井にそけさほかすめる久かたの天つをとめの沖つしま松

くもゐにそ−けさほかすめる−ひさかたの−あまつをとめの−おきつしままつ


00402
未入力 正徹 (xxx)

朝ほらけ興行く舟のほのほのと霞にのこるあとのしら浪

あさほらけ−おきゆくふねの−ほのほのと−かすみにのこる−あとのしらなみ


00403
未入力 正徹 (xxx)

行く舟のとものうら浪あと消えてむろの一木そ霞みのこれる

ゆくふねの−とものうらなみ−あときえて−むろのひときそ−かすみのこれる


00404
未入力 正徹 (xxx)

行く舟のあとの白浪かすむ日ほ此世中をなににたとへん

ゆくふねの−あとのしらなみ−かすむひほ−このよのなかを−なににたとへむ


00405
未入力 正徹 (xxx)

あつさ弓八十の湊のあまを舟おしてささ浪今朝そかすめる

あつさゆみ−やそのみなとの−あまをふね−おしてささなみ−けさそかすめる


00406
未入力 正徹 (xxx)

朝ほらけ霞や八重のしほならぬ浦風なから空にみつらん

あさほらけ−かすみややへの−しほならぬ−うらかせなから−そらにみつらむ


00407
未入力 正徹 (xxx)

うきて行く春の霞のうらつたひ浜風しるしにほのささ浪

うきてゆく−はるのかすみの−うらつたひ−はまかせしるし−にほのささなみ


00408
未入力 正徹 (xxx)

下くくるにほ冬こもるうら風のたつうは浪にかすむ春かな

したくくる−にほふゆこもる−うらかせの−たつうはなみに−かすむはるかな


00409
未入力 正徹 (xxx)

うちなひきかすむ春日もにほてるやささ浪清く風そのとけき

うちなひき−かすむはるひも−にほてるや−ささなみきよく−かせそのとけき


00410
未入力 正徹 (xxx)

志賀のうらやみるめなきさに磯菜摘むあまのま袖もかすむ春かな

しかのうらや−みるめなきさに−いそなつむ−あまのまそても−かすむはるかな


00411
未入力 正徹 (xxx)

霞さへあれ行く比良のみなと風かへるやあまの袖ならぬ浪

かすみさへ−あれゆくひらの−みなとかせ−かへるやあまの−そてならぬなみ


00412
未入力 正徹 (xxx)

あまのきぬ霞の袖のみなと江はもろこし船のから衣かも

あまのきぬ−かすみのそての−みなとえは−もろこしふねの−からころもかも


00413
未入力 正徹 (xxx)

朝日影さすや霞の下風に玉江をみかく春のしら浪

あさひかけ−さすやかすみの−したかせに−たまえをみかく−はるのしらなみ


00414
未入力 正徹 (xxx)

三島江や枯葉なからに立つ芦の色も緑にかすむ春かな

みしまえや−かれはなからに−たつあしの−いろもみとりに−かすむはるかな


00415
未入力 正徹 (xxx)

朝あけの入江のさ浪音消えて霞のうちは浦風もなし

あさあけの−いりえのさなみ−おときえて−かすみのうちは−うらかせもなし


00416
未入力 正徹 (xxx)

伊勢の海やをのの古江の朝霞長閑になひく春の神風

いせのうみや−をののふるえの−あさかすみ−のとかになひく−はるのかみかせ


00417
未入力 正徹 (xxx)

しら浪の玉津島江にかすむなり真砂吹上の春の浜風

しらなみの−たまつしまえに−かすむなり−まさこふきあけの−はるのはまかせ


00418
未入力 正徹 (xxx)

まのの浦の入江の春の初尾花袖に見ゆるや霞なるらん

まののうらの−いりえのはるの−はつをはな−そてにみゆるや−かすみなるらむ


00419
未入力 正徹 (xxx)

ふりにける影やみさらん鏡山かすむ朝けのしかのはま松

ふりにける−かけやみさらむ−かかみやま−かすむあさけの−しかのはままつ


00420
未入力 正徹 (xxx)

むかしたかすみけん床の莚とて春の霞を敷島の宮

むかしたか−すみけむゆかの−むしろとて−はるのかすみを−しきしまのみや


00421
未入力 正徹 (xxx)

世は春とたつや霞も君すめは都のよもや光そふらん

よははると−たつやかすみも−きみすめは−みやこのよもや−ひかりそふらむ


00422
未入力 正徹 (xxx)

百敷や春のこすもる薫のにほふけふりも霞そふらん

ももしきや−はるのこすもる−たきものの−にほふけふりも−かすみそふらむ


00423
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる春の霞にことの葉のありと聞ゆる百千鳥かな

あけわたる−はるのかすみに−ことのはの−ありときこゆる−ももちとりかな


00424
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる霞ににほひくる春の空はみとりの色もかはらて

あけわたる−かすみににほひ−くるはるの−そらはみとりの−いろもかはらて


00425
未入力 正徹 (xxx)

あけほのの霞も春に心ひく色そかさなる嶺のよこ雲

あけほのの−かすみもはるに−こころひく−いろそかさなる−みねのよこくも


00426
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焼きすてし冬野の煙年越えてかすみとなるも遠き山かな

たきすてし−ふゆののけふり−としこえて−かすみとなるも−とほきやまかな


00427
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山よりも冬をそ遠くへたて行く霞や春の心なるらん

やまよりも−ふゆをそとほく−へたてゆく−かすみやはるの−こころなるらむ


00428
未入力 正徹 (xxx)

野へとほき霞にましり行人の袖より袖に梅か香そする

のへとほき−かすみにましり−ゆくひとの−そてよりそてに−うめかかそする


00429
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春やとき花なき関の藤川や松にかかるは霞なりけり

はるやとき−はななきせきの−ふちかはや−まつにかかるは−かすみなりけり


00430
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古年の心のうらもあふ坂の関路まさしくかすむ山かな

ふるとしの−こころのうらも−あふさかの−せきちまさしく−かすむやまかな


00431
未入力 正徹 (xxx)

関屋ふく霞のひさしあれまくもをしみそあへぬ不破の山風

せきやふく−かすみのひさし−あれまくも−をしみそあへぬ−ふはのやまかせ


00432
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すすか山春の霞のすゑおくや八十関こゆる四方の旅人

すすかやま−はるのかすみの−すゑおくや−やそせきこゆる−よものたひひと


00433
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行く浪もこゑ高からぬ袖なれや川口おほふ関の霞に

ゆくなみも−こゑたかからぬ−そてなれや−かはくちおほふ−せきのかすみに


00434
未入力 正徹 (xxx)

清見かた君もる浪も春はきるかすみの衣ぬれぬ日そなき

きよみかた−きみもるなみも−はるはきる−かすみのころも−ぬれぬひそなき


00435
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守る関のあら垣かこふ霞より氷なかるる春の川くち

もるせきの−あらかきかこふ−かすみより−こほりなかるる−はるのかはくち


00436
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ふるき世の春待ちこふる難波人かすむや遠き三つの浜松

ふるきよの−はるまちこふる−なにはひと−かすむやとほき−みつのはままつ


00437
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山かくす霞の袖もほしあへすよを鴬のこゑたてて啼く

やまかくす−かすみのそても−ほしあへす−よをうくひすの−こゑたててなく


00438
未入力 正徹 (xxx)

都にも春のかすみの古巣をはいてぬこゑしく鴬そ鳴く

みやこにも−はるのかすみの−ふるすをは−いてぬこゑしく−うくひすそなく


00439
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くもれとも空たちのこす村霞あらはれ消えて雁そ行くなる

くもれとも−そらたちのこす−むらかすみ−あらはれきえて−かりそゆくなる


00440
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雁のくるさとや玉川遠かたの天つかすみをゐての下帯

かりのくる−さとやたまかは−をちかたの−あまつかすみを−ゐてのしたおひ


00441
未入力 正徹 (xxx)

なくさむる老の涙のひまはあれと霞忘れぬ春のよの月

なくさむる−おいのなみたの−ひまはあれと−かすみわすれぬ−はるのよのつき


00442
未入力 正徹 (xxx)

くもらしな霞の袖の中川になかれての名をつつむ月かけ

くもらしな−かすみのそての−なかかはに−なかれてのなを−つつむつきかけ


00443
未入力 正徹 (xxx)

立ちそひて花にわかれし春霞はかなや月のくもるかたみは

たちそひて−はなにわかれし−はるかすみ−はかなやつきの−くもるかたみは


00444
未入力 正徹 (xxx)

めくれとも春のそらをは出てやらぬ霞や月のうき世なるらん

めくれとも−はるのそらをは−いてやらぬ−かすみやつきの−うきよなるらむ


00445
未入力 正徹 (xxx)

有明の月出ててこそ春の夜の千里も山もかすむとはみれ

ありあけの−つきいててこそ−はるのよの−ちさともやまも−かすむとはみれ


00446
未入力 正徹 (xxx)

たか中にぬきてわかれしさ夜衣草葉の床にしく霞かな

たかなかに−ぬきてわかれし−さよころも−くさはのとこに−しくかすみかな


00447
未入力 正徹 (xxx)

朝あけの嵐も春もしかの浦に山こえしてや霞みしくらん

あさあけの−あらしもはるも−しかのうらに−やまこえしてや−かすみしくらむ


00448
未入力 正徹 (xxx)

程遠く四方にみえつる山もなしかすむやいつこ春の明ほの

ほととほく−よもにみえつる−やまもなし−かすむやいつこ−はるのあけほの


00449
未入力 正徹 (xxx)

嶺に見し松もこふらく横雲のきゆる朝は引く霞かな

みねにみし−まつもこふらく−よこくもの−きゆるあしたは−ひくかすみかな


00450
未入力 正徹 (xxx)

棹姫のささわくる朝の袖かとも深山路遠く立つ霞かな

さほひめの−ささわくるあさの−そてかとも−みやまちとほく−たつかすみかな


00451
未入力 正徹 (xxx)

氷りつつ今朝やかすみもあさか山やまのゐうつむ水の白雪

こほりつつ−けさやかすみも−あさかやま−やまのゐうつむ−みつのしらゆき


00452
未入力 正徹 (xxx)

春はまた蛙もなかす朝霞かひやか上の山そくもれる

はるはまた−かはつもなかす−あさかすみ−かひやかうへの−やまそくもれる


00453
未入力 正徹 (xxx)

立ちこゆるかすみの衣山風にささわくるあさの袖かへすなり

たちこゆる−かすみのころも−やまかせに−ささわくるあさの−そてかへすなり


00454
未入力 正徹 (xxx)

春の色はかすみの朝戸あけわたる天つ関路に急く日の影

はるのいろは−かすみのあさと−あけわたる−あまつせきちに−いそくひのかけ


00455
未入力 正徹 (xxx)

とほくみる春のあさけの窓の戸に霞つつける花鳥の声

とほくみる−はるのあさけの−まとのとに−かすみつつける−はなとりのこゑ


00456
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ふもと行く霞の袖の朝しめり篠分くる嶺の日影やはしる

ふもとゆく−かすみのそての−あさしめり−ささわくるみねの−ひかけやはしる


00457
未入力 正徹 (xxx)

暮れわたる遠山まゆのかたみたれのほる霞や先かくすらん

くれわたる−とほやままゆの−かたみたれ−のほるかすみや−まつかくすらむ


00458
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人の世のくもる契を夕かすみ春にかけてや立ちわたるらん

ひとのよの−くもるちきりを−ゆふかすみ−はるにかけてや−たちわたるらむ


00459
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花にさけ紅さくらうゑてみん入日色こき嶺の霞に

はなにさけ−くれなゐさくら−うゑてみむ−いりひいろこき−みねのかすみに


00460
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あとふかきわしのみ山の苔の洞霞に法のこゑそのこれる

あとふかき−わしのみやまの−こけのほら−かすみにのりの−こゑそのこれる


00461
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ぬしやたれ霞の袖に引く弓のかけあらはるる春の三日月

ぬしやたれ−かすみのそてに−ひくゆみの−かけあらはるる−はるのみかつき


00462
未入力 正徹 (xxx)

月のきる霞の衣あけほのの光にそむる春のくれなゐ

つきのきる−かすみのころも−あけほのの−ひかりにそむる−はるのくれなゐ


00463
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秋もみす有明の月のかつらまてかすみにそむる春の紅

あきもみす−ありあけのつきの−かつらまて−かすみにそむる−はるのくれなゐ


00464
未入力 正徹 (xxx)

橋姫の待つゆふ暮も中たえて霞はてぬるうちの川浪

はしひめの−まつゆふくれも−なかたえて−かすみはてぬる−うちのかはなみ


00465
未入力 正徹 (xxx)

春のきる霞の袖もまきほさぬ山風よわみ淡雪そ降る

はるのきる−かすみのそても−まきほさぬ−やまかせよわみ−あはゆきそふる


00466
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杣木引くと山の正木春くれはたゆるやかすむ綱手なるらん

そまきひく−とやまのまさき−はるくれは−たゆるやかすむ−つなてなるらむ


00467
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引きううる子日の小松いく千世の陰を二葉にやとし初むらん

ひきううる−ねのひのこまつ−いくちよの−かけをふたはに−やとしそむらむ


00468
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いかなりしいつの子日の行末にいま老松の神となるらん

いかなりし−いつのねのひの−ゆくすゑに−いまおいまつの−かみとなるらむ


00469
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二葉さす子日の小松まつかひもありへん物そ千世の生末

ふたはさす−ねのひのこまつ−まつかひも−ありへむものそ−ちよのおひすゑ


00470
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千年とも身には思はす松をおきてこと葉の色に引く露かな

ちとせとも−みにはおもはす−まつをおき−てことはのいろ−にひくつゆかな


00471
未入力 正徹 (xxx)

千世の色を人もみよとや消えぬらんあすの子日を松の白雪

ちよのいろを−ひともみよとや−きえぬらむ−あすのねのひを−まつのしらゆき


00472
未入力 正徹 (xxx)

春はけふきのえねの日と逢ひと合ひて松も千年の初とそしる

はるはけふ−きのえねのひと−あひとあひて−まつもちとせの−はしめとそしる


00473
未入力 正徹 (xxx)

玉ははきてに取りもちて子の年のをとめやけふの塵はらふらん

たまははき−てにとりもちて−ねのとしの−をとめやけふの−ちりはらふらむ


00474
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うらわかみまた初草の妻やとふ春の野に出てて鴬そなく

うらわかみ−またはつくさの−つまやとふ−はるののにいてて−うくひすそなく


00475
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我か庵のそのふの竹に朝な夕な世を鴬となくそ友なる

わかいほの−そのふのたけに−あさなゆふな−よをうくひすと−なくそともなる


00476
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さく梅の色とはなしに鴬のこゑの匂ひや友さそふらん

さくうめの−いろとはなしに−うくひすの−こゑのにほひや−ともさそふらむ


00477
未入力 正徹 (xxx)

くる春をさやかにや見む鴬の声はかりしてかすむ野へかな

くるはるを−さやかにやみむ−うくひすの−こゑはかりして−かすむのへかな


00478
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花やとき涙の氷梅かかに今朝うちとくる鴬のこゑ

はなやとき−なみたのこほり−うめかかに−けさうちとくる−うくひすのこゑ


00479
未入力 正徹 (xxx)

岩浪もさへつるこゑやかへすらん巣たちし谷の鴬の滝

いはなみも−さへつるこゑや−かへすらむ−すたちしたにの−うくひすのたき


00480
未入力 正徹 (xxx)

春寒みさそふへき花を松のはに猶冬こもる鴬の声

はるさむみ−さそふへきはなを−まつのはに−なほふゆこもる−うくひすのこゑ


00481
未入力 正徹 (xxx)

いつの春たれかはききし鴬のかひ子をいてし竹姫の声

いつのはる−たれかはききし−うくひすの−かひこをいてし−たけひめのこゑ


00482
未入力 正徹 (xxx)

鴬のさへつり出す初音より猶色わかき朝かすみかな

うくひすの−さへつりいたす−はつねより−なほいろわかき−あさかすみかな


00483
未入力 正徹 (xxx)

箸鷹の狩はの小野に巣立ちてやなら柴かくれ鴬の啼く

はしたかの−かりはのをのに−すたちてや−ならしはかくれ−うくひすのなく


00484
未入力 正徹 (xxx)

梅はまたしつく小枝も花遠し鴬さそへ水のうき草

うめはまた−しつくさえたも−はなとほし−うくひすさそへ−みつのうきくさ


00485
未入力 正徹 (xxx)

鴬の初音の春に契りてや千世を八千代とゆらくたま松

うくひすの−はつねのはるに−ちきりてや−ちよをやちよと−ゆらくたままつ


00486
未入力 正徹 (xxx)

鴬のおのか涙のおつるにや氷とけ行く春をつくらむ

うくひすの−おのかなみたの−おつるにや−こほりとけゆく−はるをつくらむ


00487
未入力 正徹 (xxx)

声すなり鴬あをき鳥とてや春のつかひに山路越えきて

こゑすなり−うくひすあをき−とりとてや−はるのつかひに−やまちこえきて


00488
未入力 正徹 (xxx)

かへりこぬ鴬したふむもれ木の雪の花けつ谷川の浪

かへりこぬ−うくひすしたふ−うもれきの−ゆきのはなけつ−たにかはのなみ


00489
未入力 正徹 (xxx)

咲きてちる花そ川浪さそひてや谷にも春の鴬のこゑ

さきてちる−はなそかはなみ−さそひてや−たににもはるの−うくひすのこゑ


00490
未入力 正徹 (xxx)

氷とけ上こす花のささ浪にうくひすさそふ谷の埋木

こほりとけ−うへこすはなの−ささなみに−うくひすさそふ−たにのうもれき


00491
未入力 正徹 (xxx)

今はとてさそふか雪の花園にこゑひらけ行く春の鴬

いまはとて−さそふかゆきの−はなそのに−こゑひらけゆく−はるのうくひす


00492
未入力 正徹 (xxx)

消えのこる梢の雪の花にたにさそはれやすき春のうくひす

きえのこる−こすゑのゆきの−はなにたに−さそはれやすき−はるのうくひす


00493
未入力 正徹 (xxx)

春やとき都の雪の朝もよひ木ことに花と鴬そ鳴く

はるやとき−みやこのゆきの−あさもよひ−きことにはなと−うくひすそなく


00494
未入力 正徹 (xxx)

ふる雪に梅の花笠かたふけて梢やしのく鴬の声

ふるゆきに−うめのはなかさ−かたふけて−こすゑやしのく−うくひすのこゑ


00495
未入力 正徹 (xxx)

うくひすやかとりおるらん霞む日に木つたふ野への糸の乱は

うくひすや−かとりおるらむ−かすむひに−こつたふのへの−いとのみたれは


00496
未入力 正徹 (xxx)

春は又とけ行く松の霜の後ねにあらはるる野への鴬

はるはまた−とけゆくまつの−しもののち−ねにあらはるる−のへのうくひす


00497
未入力 正徹 (xxx)

さく梅の花の林にうくひすの老いたるわかき声そこもれる

さくうめの−はなのはやしに−うくひすの−おいたるわかき−こゑそこもれる


00498
未入力 正徹 (xxx)

その色とさたかならねとすまのうらのあまのさへつる鴬の声

そのいろと−さたかならねと−すまのうらの−あまのさへつる−うくひすのこゑ


00499
未入力 正徹 (xxx)

谷川の岩こす浪もこゑ高き真柴枯はに鴬そなく

たにかはの−いはこすなみも−こゑたかき−ましはかれはに−うくひすそなく


00500
未入力 正徹 (xxx)

こゑの綾おるかと見ゆる氷とけなく鴬の滝川の浪

こゑのあや−おるかとみゆる−こほりとけ−なくうくひすの−たきかはのなみ


00501
未入力 正徹 (xxx)

うくひすもまた出てやらね太山路の小川の浪の花に啼くなり

うくひすも−またいてやらね−みやまちの−おかわのなみの−はなになくなり


00502
未入力 正徹 (xxx)

有明の月かけ消えて鴬のこゑのにほひにかすむ山かな

ありあけの−つきかけきえて−うくひすの−こゑのにほひに−かすむやまかな


00503
未入力 正徹 (xxx)

朝戸あけはおとろきぬへし呉竹のちかきさ枝に来ゐる鴬

あさとあけは−おとろきぬへし−くれたけの−ちかきさえたに−きゐるうくひす


00504
未入力 正徹 (xxx)

かつにほふ花なき里の朝またき日影やさそふ鴬の声

かつにほふ−はななきさとの−あさまたき−ひかけやさそふ−うくひすのこゑ


00505
未入力 正徹 (xxx)

朝またき軒のつららもまたとけぬ雪の梢に鴬そなく

あさまたき−のきのつららも−またとけぬ−ゆきのこすゑに−うくひすそなく


00506
未入力 正徹 (xxx)

あさけたつ煙のうちの村竹に啼く音そむせふさとの鴬

あさけたつ−けふりのうちの−むらたけに−なくねそむせふ−さとのうくひす


00507
未入力 正徹 (xxx)

朝露もちりかひなひく柳風うくひすさそへ池のうき草

あさつゆも−ちりかひなひく−やなきかせ−うくひすさそへ−いけのうきくさ


00508
未入力 正徹 (xxx)

これそ春あかつきつけし庭鳥のそらねもしらぬけさの鴬

これそはる−あかつきつけし−にはとりの−そらねもしらぬ−けさのうくひす


00509
未入力 正徹 (xxx)

世は春といかてしるらん篭の内にねての朝けの鴬のこゑ

よははると−いかてしるらむ−このうちに−ねてのあさけの−うくひすのこゑ


00510
未入力 正徹 (xxx)

鴬の上毛の色も墨染のゆふへの山にこゑそのこれる

うくひすの−うはけのいろも−すみそめの−ゆふへのやまに−こゑそのこれる


00511
未入力 正徹 (xxx)

霞みしくそののむら竹くらき日も夕まとひせぬうくひすの声

かすみしく−そののむらたけ−くらきひも−ゆふまとひせぬ−うくひすのこゑ


00512
未入力 正徹 (xxx)

雪とちる羽風ををしめ鴬はきすともぬれし梅の花笠

ゆきとちる−はかせををしめ−うくひすは−きすともぬれし−うめのはなかさ


00513
未入力 正徹 (xxx)

たたならす霞のうちに声もせて鴬こもるそののむら竹

たたならす−かすみのうちに−こゑもせて−うくひすこもる−そののむらたけ


00514
未入力 正徹 (xxx)

雪はらふ竹のはすさふ風をいたみ園の垣根に鴬そなく

ゆきはらふ−たけのはすさふ−かせをいたみ−そののかきねに−うくひすそなく


00515
未入力 正徹 (xxx)

緑なるそのの林の竹のはに花もさそはぬうくひすそ啼く

みとりなる−そののはやしの−たけのはに−はなもさそはぬ−うくひすそなく


00516
未入力 正徹 (xxx)

うくひすも千世へん声をひらくなり木つたふ松や春の初はな

うくひすも−ちよへむこゑを−ひらくなり−こつたふまつや−はるのはつはな


00517
未入力 正徹 (xxx)

松か枝に千とせのかすを百千鳥とくさへつれときゐる鴬

まつかえに−ちとせのかすを−ももちとり−とくさへつれと−きゐるうくひす


00518
未入力 正徹 (xxx)

木つたひに鳴けとも妻は声たてすおなし巣立のをのの鴬

こつたひに−なけともつまは−こゑたてす−おなしすたちの−をののうくひす


00519
未入力 正徹 (xxx)

あまさかるひなの鴬声はかり老行く春のおくの深山路

あまさかる−ひなのうくひす−こゑはかり−おいゆくはるの−おくのみやまち


00520
未入力 正徹 (xxx)

みとりそふ木陰も苔の太山路や春なき谷にかへる鴬

みとりそふ−こかけもこけの−みやまちや−はるなきたにに−かへるうくひす


00521
未入力 正徹 (xxx)

山路にて声やあはせん時鳥いつれはかへる春のうくひす

やまちにて−こゑやあはせむ−ほとときす−いつれはかへる−はるのうくひす


00522
未入力 正徹 (xxx)

なくなくも山路やたのむ鴬の住みこし花の宿にわかれて

なくなくも−やまちやたのむ−うくひすの−すみこしはなの−やとにわかれて


00523
未入力 正徹 (xxx)

袖寒みかたみのわか菜沢水に摘みもたまらぬあわ雪そ降る

そてさむみ−かたみのわかな−さはみつに−つみもたまらぬ−あわゆきそふる


00524
未入力 正徹 (xxx)

きえかての春の氷をうちはらひたれ蓬生に若なつむらん

きえかての−はるのこほりを−うちはらひ−たれよもきふに−わかなつむらむ


00525
未入力 正徹 (xxx)

しつのめか雪まの野へを立ちかへり荒行く庭に若なをそ摘む

しつのめか−ゆきまののへを−たちかへり−あれゆくにはに−わかなをそつむ


00526
未入力 正徹 (xxx)

雪も消えのこる氷もあさ沢にまた水かくるるねせりをそ摘む

ゆきもきえ−のこるこほりも−あささはに−またみかくるる−ねせりをそつむ


00527
未入力 正徹 (xxx)

さと人や早苗とりてし古小田に又おり立ちてわかなつむらん

さとひとや−さなへとりてし−ふるをたに−またおりたちて−わかなつむらむ


00528
未入力 正徹 (xxx)

人めより古葉はかれぬ朝ことに若菜つむのの雪寒くして

ひとめより−ふるははかれぬ−あさことに−わかなつむのの−ゆきさむくして


00529
未入力 正徹 (xxx)

はむらめや雪野の駒の跡よきてよその若なを猶やたつねん

はむらめや−ゆきののこまの−あとよきて−よそのわかなを−なほやたつねむ


00530
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つむ若な野へのままとや埋むらん帰るかたみの春のしらゆき

つむわかな−のへのままとや−うつむらむ−かへるかたみの−はるのしらゆき


00531
未入力 正徹 (xxx)

あらさらん後をしのふの種ならは春はかたみに摘むわかなかな

あらさらむ−のちをしのふの−たねならは−はるはかたみに−つむわかなかな


00532
未入力 正徹 (xxx)

雪のうちに老いたるしつか摘むとてや若なも手にはたまらさるらん

ゆきのうちに−おいたるしつか−つむとてや−わかなもてには−たまらさるらむ


00533
未入力 正徹 (xxx)

春やときここら出てつる里人の手ことにつめる野への若草

はるやとき−ここらいてつる−さとひとの−てことにつめる−のへのわかくさ


00534
未入力 正徹 (xxx)

うつめとも生ふる所をかねてしる野守や雪に若菜つむらん

うつめとも−おふるところを−かねてしる−のもりやゆきに−わかなつむらむ


00535
未入力 正徹 (xxx)

しつのめか声ききしらて鳥や立つ若菜かりくる野への雪間を

しつのめか−こゑききしらて−とりやたつ−わかなかりくる−のへのゆきまを


00536
未入力 正徹 (xxx)

春日野も大和にはあれとからなつなもろこし人のつむとこもなし

かすかのも−やまとにはあれと−からなつな−もろこしひとの−つむとこもなし


00537
未入力 正徹 (xxx)

あしたつのすりかり衣袖はへてたれ芹川にわかなつむらん

あしたつの−すりかりころも−そてはへて−たれせりかはに−わかなつむらむ


00538
未入力 正徹 (xxx)

摘むのみか野へのわかなの七種をしつくもたたく雪の松陰

つむのみか−のへのわかなの−ななくさを−しつくもたたく−ゆきのまつかけ


00539
未入力 正徹 (xxx)

春日影さすや若菜も紅の雪のすゑつむ花かたみかな

はるひかけ−さすやわかなも−くれなゐの−ゆきのすゑつむ−はなかたみかな


00540
未入力 正徹 (xxx)

雪なから先もそいれむかたみくむ竹田川原にわかな摘むなり

ゆきなから−まつもそいれむ−かたみくむ−たけたかはらに−わかなつむなり


00541
未入力 正徹 (xxx)

ふみわくる雪の跡より氷りつつ猶うつもるる若菜をそ摘む

ふみわくる−ゆきのあとより−こほりつつ−なほうつもるる−わかなをそつむ


00542
未入力 正徹 (xxx)

尋ねても雪のふる葉の下萌はあるにもあらぬ若菜をそ摘む

たつねても−ゆきのふるはの−したもえは−あるにもあらぬ−わかなをそつむ


00543
未入力 正徹 (xxx)

おりたてはこほる雪けの沢水に若菜もかけの見えぬ比かな

おりたては−こほるゆきけの−さはみつに−わかなもかけの−みえぬころかな


00544
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三笠山雪けの沢に求子の名をかるしつか若菜とやせん

みかさやま−ゆきけのさはに−もとめこの−なをかるしつか−わかなとやせむ


00545
未入力 正徹 (xxx)

里人やわかなつむらし沢の上の松もたわわに鶴そむれゐる

さとひとや−わかなつむらし−さはのうへの−まつもたわわに−つるそむれゐる


00546
未入力 正徹 (xxx)

沢にゐる氷を人にくたかせてのこる若菜をたつあさるなり

さはにゐる−こほりをひとに−くたかせて−のこるわかなを−たつあさるなり


00547
未入力 正徹 (xxx)

さと人もはるはるきてや八橋のあたりの沢にわかなつむらん

さとひとも−はるはるきてや−やつはしの−あたりのさはに−わかなつむらむ


00548
未入力 正徹 (xxx)

見し秋のわさ田なりせは尋行く春の若菜も先やもえなん

みしあきの−わさたなりせは−たつねゆく−はるのわかなも−まつやもえなむ


00549
未入力 正徹 (xxx)

見し雪も都のたつみしかそなき八十うち人もわかなつむらし

みしゆきも−みやこのたつみ−しかそなき−やそうちひとも−わかなつむらし


00550
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けさみれは夕陰草の露たかく春のよのまに生ふる野へかな

けさみれは−ゆふかけくさの−つゆたかく−はるのよのまに−おふるのへかな


00551
未入力 正徹 (xxx)

御吉野を立つや葛人九重の都のほかもわかなつむなり

みよしのを−たつやくすひと−ここのへの−みやこのほかも−わかなつむなり


00552
未入力 正徹 (xxx)

かきわくる岡の萱生の枯葉たにみえぬ雪間の若な摘むなり

かきわくる−をかのかやふの−かれはたに−みえぬゆきまの−わかなつむなり


00553
未入力 正徹 (xxx)

おきて行くたか手枕のおのつから別路に生ふる若なつむらん

おきてゆく−たかたまくらの−おのつから−わかれちにおふる−わかなつむらむ


00554
未入力 正徹 (xxx)

時過きぬ生田の小野は昨日たにとほぬは稀の若菜をそつむ

ときすきぬ−いくたのをのは−きのふたに−とほぬはまれの−わかなをそつむ


00555
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かつつもる梢の雪の花のえはしつくに消ゆる朝日影かな

かつつもる−こすゑのゆきの−はなのえは−しつくにきゆる−あさひかけかな


00556
未入力 正徹 (xxx)

ときやらぬ氷の上にまよふなり滝の白淡の雪のむら消

ときやらぬ−こほりのうへに−まよふなり−たきのしらあわの−ゆきのむらきえ


00557
未入力 正徹 (xxx)

月に猶こほりにけりな日影にもつもりし庭の春のあわ雪

つきになほ−こほりにけりな−ひかけにも−つもりしにはの−はるのあわゆき


00558
未入力 正徹 (xxx)

雲さむみ春のみ友を松の戸は誰をともなき春の山路

くもさむみ−はるのみともを−まつのとは−たれをともなき−はるのやまみち


00559
未入力 正徹 (xxx)

木陰まていま消えはつる雪とみえて水なき庭の淡そ残れる

こかけまて−いまきえそむる−ゆきとみえて−みつなきにはの−あわそのこれる


00560
未入力 正徹 (xxx)

春さむみ杜の木のまをしのききてもとの朽はをしたふ雪かな

はるさむみ−もりのこのまを−しのききて−もとのくちはを−したふゆきかな


00561
未入力 正徹 (xxx)

消えのこる雪の太山の村からすたえたえおのか色そかくるる

きえのこる−ゆきのみやまの−むらからす−たえたえおのか−いろそかくるる


00562
未入力 正徹 (xxx)

松の葉のしつくは落ちて山風のさゆるやのこる雪の下柴

まつのはの−しつくはおちて−やまかせの−さゆるやのこる−ゆきのしたしは


00563
未入力 正徹 (xxx)

雲うすき日影の空にふり消えてしつくそつもる雪の山水

くもうすき−ひかけのそらに−ふりきえて−しつくそつもる−ゆきのやまみつ


00564
未入力 正徹 (xxx)

かつきえて岩根をあらふ淡雪の雫ににこる春の山の井

かつきえて−いはねをあらふ−あはゆきの−しつくににこる−はるのやまのゐ


00565
未入力 正徹 (xxx)

淡雪の空より消えて露とふり雫と落ちてこほる庭かな

あはゆきの−そらよりきえて−つゆとふり−しつくとおちて−こほるにはかな


00566
未入力 正徹 (xxx)

高砂や尾上の松にさく花も春にあひ生の雪の浦風

たかさこや−をのへのまつに−さくはなも−はるにあひおひの−ゆきのうらかせ


00567
未入力 正徹 (xxx)

今朝まても雪のきえつる色とたにみえぬ太山の松の夕風

けさまても−ゆきのきえつる−いろとたに−みえぬみやまの−まつのゆふかせ


00568
未入力 正徹 (xxx)

岡のへや松の雪消の春の水落葉なかれて又こほる比

をかのへや−まつのゆきけの−はるのみつ−おちはなかれて−またこほるころ


00569
未入力 正徹 (xxx)

とけて行く雪の雫も落はとちつららに高き岸の松かけ

とけてゆく−ゆきのしつくも−おちはとち−つららにたかき−きしのまつかけ


00570
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山かつの垣ほの雪のむら消は枝にも見ゆる梅の初はな

やまかつの−かきほのゆきの−むらきえは−えたにもみゆる−うめのはつはな


00571
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朝日さす宿の南のかきほかけ雪にきはある庭の草かな

あさひさす−やとのみなみの−かきほかけ−ゆきにきはある−にはのくさかな


00572
未入力 正徹 (xxx)

かささきのわたせる橋は滝の上のあさ野に白き春の淡雪

かささきの−わたせるはしは−たきのうへの−あさのにしろき−はるのあはゆき


00573
未入力 正徹 (xxx)

松かねの岩井の氷雪なから夏なき年の春のままなる

まつかねの−いはゐのこほり−ゆきなから−なつなきとしの−はるのままなる


00574
未入力 正徹 (xxx)

春きてもふしのは山のゆつりははとる人なしに雪にこもれる

はるきても−ふしのはやまの−ゆつりはは−とるひとなしに−ゆきにこもれる


00575
未入力 正徹 (xxx)

影みえぬ湊の小田ににこるなり春の雪けの水くきの岡

かけみえぬ−みなとのをたに−にこるなり−はるのゆきけの−みつくきのをか


00576
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かけろふのもゆる春日のおのつからつもれは消えて淡雪そふる

かけろふの−もゆるはるひの−おのつから−つもれはきえて−あはゆきそふる


00577
未入力 正徹 (xxx)

花のひも水の氷もときなから春の心の淡雪そふる

はなのひも−みつのこほりも−ときなから−はるのこころの−あはゆきそふる


00578
未入力 正徹 (xxx)

天つ風はや雲雪をめくらすや春のつかひのたもとなるらん

あまつかせ−はやくもゆきを−めくらすや−はるのつかひの−たもとなるらむ


00579
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新桑をかふこもまたき春の雪とくやしつ屋の軒の糸水

にひくはを−かふこもまたき−はるのゆき−とくやしつやの−のきのいとみつ


00580
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むらむらに残りしままに残りける今朝の雪消の庭のしら淡

むらむらに−のこりしままに−のこりける−けさのゆきけの−にはのしらあわ


00581
未入力 正徹 (xxx)

長閑なる日影とともにちる雪の露のみつもる庭の若草

のとかなる−ひかけとともに−ちるゆきの−つゆのみつもる−にはのわかくさ


00582
未入力 正徹 (xxx)

いまも猶心つくしにうつろひし梅を哀と神や見るらん

いまもなほ−こころつくしに−うつろひし−うめをあはれと−かみやみるらむ


00583
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住む人の心とめよと梅かかをうき世にしめて春風そふく

すむひとの−こころとめよと−うめかかを−うきよにしめて−はるかせそふく


00584
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人はいさ心もしらすとはかりににほひ忘れぬ宿の梅かか

ひとはいさ−こころもしらす−とはかりに−にほひわすれぬ−やとのうめかか


00585
未入力 正徹 (xxx)

梅かえもほの見し夢のうつり香も行末かすめる月の衣手

うめかえも−ほのみしゆめの−うつりかも−ゆくへかすめる−つきのころもて


00586
未入力 正徹 (xxx)

よもの風吹きつたへける梅かかはいく世うつろふかたみなるらん

よものかせ−ふきつたへける−うめかかは−いくようつろふ−かたみなるらむ


00587
未入力 正徹 (xxx)

鴬の宿はととはぬ梅かかもさそふ嵐のこゑそこたふる

うくひすの−やとはととはぬ−うめかかも−さそふあらしの−こゑそこたふる


00588
未入力 正徹 (xxx)

三日月にむかへる岡の梅かかもかすむ夕の春の山かせ

みかつきに−むかへるをかの−うめかかも−かすむゆふへの−はるのやまかせ


00589
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いつくとも木のもとしらぬみか月のうすき霞に匂ふ梅か香

いつくとも−このもとしらぬ−みかつきの−うすきかすみに−にほふうめかか


00590
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そのそこにしろくさけるを梅そともしらぬ霞の匂ふ春風

そのそこに−しろくさけるを−うめそとも−しらぬかすみの−にほふはるかせ


00591
未入力 正徹 (xxx)

影うかふ山川あさみ水すみて夕の月ににほふむめかえ

かけうかふ−やまかはあさみ−みつすみて−ゆふへのつきに−にほふうめかえ


00592
未入力 正徹 (xxx)

かけにさへはねをならふる契あれやうかへる池のをしの梅かえ

かけにさへ−はねをならふる−ちきりあれや−うかへるいけの−をしのうめかえ


00593
未入力 正徹 (xxx)

春の色に鴬あをき鳥やきて枝にかくらん梅のはな笠

はるのいろに−うくひすあをき−とりやきて−えたにかくらむ−うめのはなかさ


00594
未入力 正徹 (xxx)

梅か枝の花は去年より花なから今朝さきそふる春の白雪

うめかえの−はなはこそより−はななから−けささきそふる−はるのしらゆき


00595
未入力 正徹 (xxx)

枕とふにほひもさむしさく梅の雪にとちたる窓の北風

まくらとふ−にほひもさむし−さくうめの−ゆきにとちたる−まとのきたかせ


00596
未入力 正徹 (xxx)

まとに今よみつる文を巻きもては眠そさむる梅のした風

まとにいま−よみつるふみを−まきもては−ねふりそさむる−うめのしたかせ


00597
未入力 正徹 (xxx)

袖ふれて遠かた人の心ひけ糸ならぬ梅の風ほそくとも

そてふれて−をちかたひとの−こころひけ−いとならぬうめの−かせほそくとも


00598
未入力 正徹 (xxx)

にほへなほとひくる人をわかためと思はぬ宿の梅の初花

にほへなほ−とひくるひとを−わかためと−おもはぬやとの−うめのはつはな


00599
未入力 正徹 (xxx)

梅花閨ちかくしてうつみ火のもとつ枝とくる露の下紐

うめのはな−ねやちかくして−うつみひの−もとつえとくる−つゆのしたひも


00600
未入力 正徹 (xxx)

宿の梅衣にほほせかつそとく人の心の花のしたひも

やとのうめ−ころもにほほせ−かつそとく−ひとのこころの−はなのしたひも


00601
未入力 正徹 (xxx)

庭となす土さへいまたあらかねに梅の匂ひのこまやかにして

にはとなす−つちさへいまた−あらかねに−うめのにほひの−こまやかにして


00602
未入力 正徹 (xxx)

さく梅の花の木陰のうす曇霞や袖に香をうつすらん

さくうめの−はなのこかけの−うすくもり−かすみやそてに−かをうつすらむ


00603
未入力 正徹 (xxx)

霞みきて梅の匂にむすはほれ風もきこえぬ苔の庭かな

かすみきて−うめのにほひに−むすほほれ−かせもきこえぬ−こけのにはかな


00604
未入力 正徹 (xxx)

古りにける梅のにほひを年年の若はにしむる庭の春草

ふりにける−うめのにほひを−としとしの−わかはにしむる−にはのはるくさ


00605
未入力 正徹 (xxx)

梅かえの匂の淵そなかれ行く千世の春せく花の遣水

うめかえの−にほひのふちそ−なかれゆく−ちよのはるせく−はなのやりみつ


00606
未入力 正徹 (xxx)

猶そまつ軒はの梅のさきしより匂ふあらしを宿の物とて

なほそまつ−のきはのうめの−さきしより−にほふあらしを−やとのものとて


00607
未入力 正徹 (xxx)

うつりきて軒端の花に成りにけり嵐にふかきよもの梅か香

うつりきて−のきはのはなに−なりにけり−あらしにふかき−よものうめかか


00608
未入力 正徹 (xxx)

梅かかも苔のみたれて匂ふまてふるき軒はに春風そ吹く

うめかかも−こけのみたれて−にほふまて−ふるきのきはに−はるかせそふく


00609
未入力 正徹 (xxx)

軒しろき月かとみれは更くるよの衣にほほす梅の下風

のきしろき−つきかとみれは−ふくるよの−ころもにほほす−うめのしたかせ


00610
未入力 正徹 (xxx)

身にそしむ軒のしのふも咲く梅の花に色つく春の秋風

みにそしむ−のきのしのふも−さくうめの−はなにいろつく−はるのあきかせ


00611
未入力 正徹 (xxx)

もえいうるる軒のしのふをかこととや袖にみたれてにほふ梅かか

もえいつる−のきのしのふを−かこととや−そてにみたれて−にほふうめかか


00612
未入力 正徹 (xxx)

むら鳥の羽風けちかき朝床に夢は軒はの梅かかそする

むらとりの−はかせけちかき−あさとこに−ゆめはのきはの−うめかかそする


00613
未入力 正徹 (xxx)

梅かえに其名もしらぬ鳥か鳴くあつまやかをる軒の春風

うめかえに−そのなもしらぬ−とりかなく−あつまやかをる−のきのはるかせ


00614
未入力 正徹 (xxx)

吹きおくる泊瀬おろしにさと人の袖にやとらぬ春の梅か香

ふきおくる−はつせおろしに−さとひとの−そてにやとらぬ−はるのうめかか


00615
未入力 正徹 (xxx)

梅かかもえやさそはれんなほさりに里とひすくる春の山風

うめかかも−えやさそはれむ−なほさりに−さととひすくる−はるのやまかせ


00616
未入力 正徹 (xxx)

難波かた小屋のもしほ火うら風に煙も春は梅かかそする

なにはかた−こやのもしほひ−うらかせに−けふりもはるは−うめかかそする


00617
未入力 正徹 (xxx)

なにはめか袖のかたしき梅かかも小屋のしのひにかよふうら風

なにはめか−そてのかたしき−うめかかも−こやのしのひに−かよふうらかせ


00618
未入力 正徹 (xxx)

すすふきししの屋は荒れて草莚吹きしく風は梅かかそする

すすふきし−しのやはあれて−くさむしろ−ふきしくかせは−うめかかそする


00619
未入力 正徹 (xxx)

鴬の屋との梅かえ隣とや手枕にほふ野へのはるかせ

うくひすの−やとのうめかえ−となりとや−たまくらにほふ−のへのはるかせ


00620
未入力 正徹 (xxx)

さく梅の花吹きちらす笛の音に風を恨みぬ木のもとの宿

さくうめの−はなふきちらす−ふえのねに−かせをうらみぬ−このもとのやと


00621
未入力 正徹 (xxx)

難波津のむかしの宮の跡そとや民のかまとに梅にほふらん

なにはつの−むかしのみやの−あとそとや−たみのかまとに−うめにほふらむ


00622
未入力 正徹 (xxx)

わけくらす遠かた野へに匂ふなりしろくさけるや梅の初花

わけくらす−をちかたのへに−にほふなり−しろくさけるや−うめのはつはな


00623
未入力 正徹 (xxx)

なには人ゆく袖ぬらせ玉鉾のみちくる塩も梅かかそする

なにはひと−ゆくそてぬらせ−たまほこの−みちくるしほも−うめかかそする


00624
未入力 正徹 (xxx)

袖のみか梅かかふるる駒の毛も香をしめぬとや道いさむらん

そてのみか−うめかかふるる−こまのけも−かをしめぬとや−みちいさむらむ


00625
未入力 正徹 (xxx)

風もをし道行ふりの梅かかや心なき人の袖したふらん

かせもをし−みちゆきふりの−うめかかや−こころなきひとの−そてしたふらむ


00626
未入力 正徹 (xxx)

行きかへる山路の梅に山人の此ころ袖は花のかそする

ゆきかへる−やまちのうめに−やまひとの−このころそては−はなのかそする


00627
未入力 正徹 (xxx)

ぬれつつそてゆくての梅の花笠はありてかひなき袖の春雨

ぬれつつそ−ゆくてのうめの−はなかさは−ありてかひなき−そてのはるさめ


00628
未入力 正徹 (xxx)

宿出てておほくの梅かかをしめはあたなる袖と花も頼まし

やといてて−おほくのうめか−かをしめは−あたなるそてと−はなもたのまし


00629
未入力 正徹 (xxx)

をとめ子も此世のむめの花のかを天のほ袖に春やしむらん

をとめこも−このよのうめの−はなのかを−あまのほそてに−はるやしむらむ


00630
未入力 正徹 (xxx)

梅かかの千しほの衣いつれとも色さたまらぬ袖の春風

うめかかの−ちしほのころも−いつれとも−いろさたまらぬ−そてのはるかせ


00631
未入力 正徹 (xxx)

ちる梅のにほひの淵となかれてもぬれぬ衣におつる春風

ちるうめの−にほひのふちと−なかれても−ぬれぬころもに−おつるはるかせ


00632
未入力 正徹 (xxx)

舟よせぬ春風なから梅かかのとまるや袖のみなとなるらん

ふねよせぬ−はるかせなから−うめかかの−とまるやそての−みなとなるらむ


00633
未入力 正徹 (xxx)

梅花さくや難波のあま衣塩なれし袖も匂ふ春風

うめのはな−さくやなにはの−あまころも−しほなれしそても−にほふはるかせ


00634
未入力 正徹 (xxx)

雨かをる雫を袖にかけてけり道行ふりのむめの花笠

あめかをる−しつくをそてに−かけてけり−みちゆきふりの−うめのはなかさ


00635
未入力 正徹 (xxx)

木間より袖もる月に梅かかのかすみてかよふ夜はの春風

このまより−そてもるつきに−うめかかの−かすみてかよふ−よはのはるかせ


00636
未入力 正徹 (xxx)

いく千世そ梅の花かめさしなから水のうき木にあへる匂ひは

いくちよそ−うめのはなかめ−さしなから−みつのうききに−あへるにほひは


00637
未入力 正徹 (xxx)

浮鳥のつかひはなれぬ池水に影そふ鮎の梅かかそする

うきとりの−つかひはなれぬ−いけみつに−かけそふをしの−うめかかそする


00638
未入力 正徹 (xxx)

滝つ浪かけ見ぬ梅も花のかもみわたにとまる春の川風

たきつなみ−かけみぬうめも−はなのかも−みわたにとまる−はるのかはかせ


00639
未入力 正徹 (xxx)

初瀬川花のやとりもさたかにて尾上の梅にかをる春かせ

はつせかは−はなのやとりも−さたかにて−をのへのうめに−かをるはるかせ


00640
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立田山梅かかむかふ初瀬風ゆふつけ鳥やこゑにほふらん

たつたやま−うめかかむかふ−はつせかせ−ゆふつけとりや−こゑにほふらむ


00641
未入力 正徹 (xxx)

むら雨に覚めてそにほふ夢人にきせてかへさぬ梅の花かさ

むらさめに−さめてそにほふ−ゆめひとに−きせてかへさぬ−うめのはなかさ


00642
未入力 正徹 (xxx)

春の夜の木のまの月の有明は思出あれやむめかかそする

はるのよの−このまのつきの−ありあけは−おもひいてあれや−うめかかそする


00643
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天つ風光も色も吹きわけて梅の匂ひにかすむ夜の月

あまつかせ−ひかりもいろも−ふきわけて−うめのにほひに−かすむよのつき


00644
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いとふなと梅のにほひを世にしめて霞に色を染むる月かけ

いとふなと−うめのにほひを−よにしめて−かすみにいろを−そむるつきかけ


00645
未入力 正徹 (xxx)

春の夜の枕の梅のうつり香にしくかた惜しきうたたねの袖

はるのよの−まくらのうめの−うつりかに−しくかたをしき−うたたねのそて


00646
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袖の上もかすめる閨にもる月を梅かかなから手枕にせむ

そてのうへも−かすめるねやに−もるつきを−うめかかなから−たまくらにせむ


00647
未入力 正徹 (xxx)

おもほえすやみはあやなき梅かかにねてか覚めてか袖をかしつる

おもほえす−やみはあやなき−うめかかに−ねてかさめてか−そてをかしつる


00648
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いく春そ木の間の月の有明に松のはかをるむめの下かせ

いくはるそ−このまのつきの−ありあけに−まつのはかをる−うめのしたかせ


00649
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袖しめし行へを人にこととひてさめぬ夢路ににほふ梅かか

そてしめし−ゆくへをひとに−こととひて−さめぬゆめちに−にほふうめかか


00650
未入力 正徹 (xxx)

風やしるいつくにさける梅ならんたた香はかりの春のよの闇

かせやしる−いつくにさける−うめならむ−たたかはかりの−はるのよのやみ


00651
未入力 正徹 (xxx)

梅かかもかすめる月のさ夜中に見はてぬ夢やわさと覚むらん

うめかかも−かすめるつきの−さよなかに−みはてぬゆめや−わさとさむらむ


00652
未入力 正徹 (xxx)

見し人の袖の香まかふ梅かえにかすめる月も深きよの夢

みしひとの−そてのかまかふ−うめかえに−かすめるつきも−ふかきよのゆめ


00653
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風ふけはさき初めし春も遠からぬ梅や千里ににほひ行くらん

かせふけは−さきそめしはるも−とほからぬ−うめやちさとに−にほひゆくらむ


00654
未入力 正徹 (xxx)

色香をも誰かかれとはをしへけん今年花しる梅の若枝に

いろかをも−たれかかれとは−をしへけむ−ことしはなしる−うめのわかえに


00655
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おく霜の氷吹きとく松風にうちいつる浪や梅の初はな

おくしもの−こほりふきとく−まつかせに−うちいつるなみや−うめのはつはな


00656
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散りうせぬこと葉の花を春うゑてさくや梅かえ匂ふ松かせ

ちりうせぬ−ことはのはなを−はるうゑて−さくやうめかえ−にほふまつかせ


00657
未入力 正徹 (xxx)

かたえさく梅の匂ひもたえたえに松の香ふかし庭の春風

かたえさく−うめのにほひも−たえたえに−まつのかふかし−にはのはるかせ


00658
未入力 正徹 (xxx)

宿にさく松の葉わけの梅かえも千代をはよそに匂ひやはせん

やとにさく−まつのはわけの−うめかえも−ちよをはよそに−にほひやはせむ


00659
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住吉の松の葉分の梅かかや難波のかたの春のうらかせ

すみよしの−まつのはわけの−うめかかや−なにはのかたの−はるのうらかせ


00660
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わつかなる春の胡蝶の羽風にも匂をちらす花そのの梅

わつかなる−はるのこてふの−はかせにも−にほひをちらす−はなそののうめ


00661
未入力 正徹 (xxx)

わか屋ととわきてはうゑしこの比の世はおしなへて梅かかそする

わかやとと−わきてはうゑし−このころの−よはおしなへて−うめかかそする


00662
未入力 正徹 (xxx)

ふかぬまそ袖にもとまる梅かえの匂や風のあと送るらん

ふかぬまそ−そてにもとまる−うめかえの−にほひやかせの−あとおくるらむ


00663
未入力 正徹 (xxx)

梅花にほふ朝日の山風や八十うち人の袖たつぬらむ

うめのはな−にほふあさひの−やまかせや−やそうちひとの−そてたつぬらむ


00664
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さく梅の星のまきれもくらき夜のやみのうつつは匂ふ春風

さくうめの−ほしのまきれも−くらきよの−やみのうつつは−にほふはるかせ


00665
未入力 正徹 (xxx)

なへて世のうらにみちぬる梅かかや天つをとめの袖の春風

なへてよの−うらにみちぬる−うめかかや−あまつをとめの−そてのはるかせ


00666
未入力 正徹 (xxx)

月出つる夕やみ晴れて家の風いまはたにほへ世世の梅か枝

つきいつる−ゆふやみはれて−いへのかせ−いまはたにほへ−よよのうめかえ


00667
未入力 正徹 (xxx)

わか宿と誰かしめゆふ梅かかを吹きくる風も遠つさと人

わかやとと−たれかしめゆふ−うめかかを−ふきくるかせも−とほつさとひと


00668
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かけなから梅の匂ひをおくりきぬ霞の末の月のした風

かけなから−うめのにほひを−おくりきぬ−かすみのすゑの−つきのしたかせ


00669
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嵐ふく遠き梅かえちらぬまも花にそはぬは匂なりけり

あらしふく−とほきうめかえ−ちらぬまも−はなにそはぬは−にほひなりけり


00670
未入力 正徹 (xxx)

よのつわの梅かえならすもろこしの南の江より風や吹くらん

よのつわの−うめかえならす−もろこしの−みなみのえより−かせやふくらむ


00671
未入力 正徹 (xxx)

梅かかもふりせぬ花のちらぬまにしらすいく世を宿にへぬらん

うめかかも−ふりせぬはなの−ちらぬまに−しらすいくよを−やとにへぬらむ


00672
未入力 正徹 (xxx)

梅かかに春は千里そこもり行くいくらの花に嵐吹くらむ

うめかかに−はるはちさとそ−こもりゆく−いくらのはなに−あらしふくらむ


00673
未入力 正徹 (xxx)

さく梅も松と竹とのよはひにて色香そ三の友にまされる

さくうめも−まつとたけとの−よはひにて−いろかそみつの−ともにまされる


00674
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家の風吹きまされなと香をとめて四代まてあふく梅の初花

いへのかせ−ふきまされなと−かをとめて−よよまてあふく−うめのはつはな


00675
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冬と春と行きかふ梅の花かたみめならぬ年をつむ匂かな

ふゆとはると−ゆきかふうめの−はなかたみ−めならぬとしを−つむにほひかな


00676
未入力 正徹 (xxx)

さかへ行く宿のかさしと成りぬとやほほゑむ梅の花のかほはせ

さかへゆく−やとのかさしと−なりぬとや−ほほゑむうめの−はなのかほはせ


00677
未入力 正徹 (xxx)

誰かしる梅の色香に染めおきしはしめの年の遠き心を

たれかしる−うめのいろかに−そめおきし−はしめのとしの−とほきこころを


00678
未入力 正徹 (xxx)

春ことにわれをいとはぬ色かゆゑ梅を手折りて老となりぬる

はることに−われをいとはぬ−いろかゆゑ−うめをたをりて−おいとなりぬる


00679
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匂ふとも色をはわかし行人の山路つつかぬやとの梅か枝

にほふとも−いろをはわかし−ゆくひとの−やまちつつかぬ−やとのうめかえ


00680
未入力 正徹 (xxx)

深かれとさらは思はし梅かかをしるはかりなる風にまかせて

ふかかれと−さらはおもはし−うめかかを−しるはかりなる−かせにまかせて


00681
未入力 正徹 (xxx)

袖の上にかつさく梅の花の香をふかくそしむる庭の春風

そてのうへに−かつさくうめの−はなのかを−ふかくそしむる−にはのはるかせ


00682
未入力 正徹 (xxx)

遠近の霞吹きとく春風にむすはほれたるむめかかそする

をちこちの−かすみふきとく−はるかせに−むすはほれたる−うめかかそする


00683
未入力 正徹 (xxx)

香そをしきかた山林むめならてましる木もなき花の春風

かそをしき−かたやまはやし−うめならて−ましるきもなき−はなのはるかせ


00684
未入力 正徹 (xxx)

梅かえの月をにほひのあるしにてかすむ色とふ花の春風

うめかえの−つきをにほひの−あるしにて−かすむいろとふ−はなのはるかせ


00685
未入力 正徹 (xxx)

みる夢のさむる枕の梅かかやむかしの風のかたみなるらん

みるゆめの−さむるまくらの−うめかかや−むかしのかせの−かたみなるらむ


00686
未入力 正徹 (xxx)

鴬のなみたの雨も紅に落ちそふむめの花のした露

うくひすの−なみたのあめも−くれなゐに−おちそふうめの−はなのしたつゆ


00687
未入力 正徹 (xxx)

吹きのほる尾上の松に浪そこす梅さく谷の春の川風

ふきのほる−をのへのまつに−なみそこす−うめさくたにの−はるのかはかせ


00688
未入力 正徹 (xxx)

おのかぬふ梅の花笠糸たえて散りかふ雨にぬるるうくひす

おのかぬふ−うめのはなかさ−いとたえて−ちりかふあめに−ぬるるうくひす


00689
未入力 正徹 (xxx)

むめなれや花のみそれの庭たつみあま風かをる雪のささ浪

うめなれや−はなのみそれの−にはたつみ−あまかせかをる−ゆきのささなみ


00690
未入力 正徹 (xxx)

つつみおく春の雪消の露もなし嵐の梅の春の衣手

つつみおく−はるのゆきけの−つゆもなし−あらしのうめの−はるのころもて


00691
未入力 正徹 (xxx)

初瀬風谷吹きのほる梅かかにかすむ尾上の月そいさよふ

はつせかせ−たにふきのほる−うめかかに−かすむをのへの−つきそいさよふ


00692
未入力 正徹 (xxx)

あすか川瀬による梅の花の春にもすそはぬらす春のたをやめ

あすかかは−せによるうめの−はなのはるに−もすそはぬらす−はるのたをやめ


00693
未入力 正徹 (xxx)

こん春も水にはさかし散る梅のなにうき草のねにかへるらん

こむはるも−みつにはさかし−ちるうめの−なにうきくさの−ねにかへるらむ


00694
未入力 正徹 (xxx)

行く河のみなきはふかくよりそくる梅ちる風の花のしら淡

ゆくかはの−みなきはふかく−よりそくる−うめちるかせの−はなのしらあわ


00695
未入力 正徹 (xxx)

ちる梅もあわとうかひてととまらす真砂をなかすいさら小河に

ちるうめも−あわとうかひて−ととまらす−まさこをなかす−いさらおかわに


00696
未入力 正徹 (xxx)

梅花ちらすか匂ふ飛鳥風君かあたりもみえぬ霞に

うめのはな−ちらすかにほふ−あすかかせ−きみかあたりも−みえぬかすみに


00697
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朝川の岸の藪梅ちりやせし水の煙にたつにほひかな

あさかはの−きしのやふうめ−ちりやせし−みつのけふりに−たつにほひかな


00698
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫のかくる柳の花かつらみたれぬすちにまゆそこもれる

さほひめの−かくるやなきの−はなかつら−みたれぬすちに−まゆそこもれる


00699
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陰清き此川岸の糸柳むすふ契も世世にたえせし

かけきよき−このかはきしの−いとやなき−むすふちきりも−よよにたえせし


00700
未入力 正徹 (xxx)

老いぬれは柳のめさへかすむらん哀はかけよ春の川浪

おいぬれは−やなきのめさへ−かすむらむ−あはれはかけよ−はるのかはなみ


00701
未入力 正徹 (xxx)

立ちならふ柳のめにはさやかにも見ゆるやかすむ春の初花

たちならふ−やなきのめには−さやかにも−みゆるやかすむ−はるのはつはな


00702
未入力 正徹 (xxx)

春ことに柳のめにも恥ちぬへし老いてみたるる髪しありせは

はることに−やなきのめにも−はちぬへし−おいてみたるる−かみしありせは


00703
未入力 正徹 (xxx)

山もとの小川の水の淡と見しねしろの柳かすみ消えつつ

やまもとの−おかわのみつの−あわとみし−ねしろのやなき−かすみきえつつ


00704
未入力 正徹 (xxx)

民の戸にたてる柳の糸まゆを先引きはへて末いはふらん

たみのとに−たてるやなきの−いとまゆを−まつひきはへて−すゑいはふらむ


00705
未入力 正徹 (xxx)

日影さす一もと柳色そひてならふ春なき野への朝霜

ひかけさす−ひともとやなき−いろそひて−ならふはるなき−のへのあさしも


00706
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陰たかみ柳の糸につなく日のなかきも落ちて急く山のは

かけたかみ−やなきのいとに−つなくひの−なかきもおちて−いそくやまのは


00707
未入力 正徹 (xxx)

春にあふ柳もまゆをひらく門戸ささて御代のめくみまてとや

はるにあふ−やなきもまゆを−ひらくかと−とささてみよの−めくみまてとや


00708
未入力 正徹 (xxx)

ふる川や玉藻かくれの糸柳よるかたなしと身をも思はし

ふるかはや−たまもかくれの−いとやなき−よるかたなしと−みをもおもはし


00709
未入力 正徹 (xxx)

みなと川もろこし舟や陰にきてから藍そめし青柳の糸

みなとかは−もろこしふねや−かけにきて−からあゐそめし−あをやきのいと


00710
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春はまた浅せになひく藻上川岸の柳も色みえぬ比

はるはまた−あさせになひく−もかみかは−きしのやなきも−いろみえぬころ


00711
未入力 正徹 (xxx)

宇治川やたてる柳を橋姫の春の姿にたとへてや見ん

うちかはや−たてるやなきを−はしひめの−はるのすかたに−たとへてやみむ


00712
未入力 正徹 (xxx)

若草の野への緑もまたみえす一もと柳川風そふく

わかくさの−のへのみとりも−またみえす−ひともとやなき−かはかせそふく


00713
未入力 正徹 (xxx)

朽ちもせぬ岸の柳の花かつらむかしやかけし宇治のはし姫

くちもせぬ−きしのやなきの−はなかつら−むかしやかけし−うちのはしひめ


00714
未入力 正徹 (xxx)

川岸や柳の陰もうち霞みめくむか水のよとのわかこも

かはきしや−やなきのかけも−うちかすみ−めくむかみつの−よとのわかこも


00715
未入力 正徹 (xxx)

はし姫のみたす柳の花かつらまゆさへかすむ宇治の川風

はしひめの−みたすやなきの−はなかつら−まゆさへかすむ−うちのかはかせ


00716
未入力 正徹 (xxx)

いつからむ川戸の柳花落ちてうき草うつむ淀のわかこも

いつからむ−かはとのやなき−はなおちて−うきくさうつむ−よとのわかこも


00717
未入力 正徹 (xxx)

柳かも遠山姫のあさねかみみたれてたてる宿かともみゆ

やなきかも−とほやまひめの−あさねかみ−みたれてたてる−やとかともみゆ


00718
未入力 正徹 (xxx)

外山なる柳の目路のかすむより煙をたたぬ春の里人

とやまなる−やなきのめちの−かすむより−けふりをたたぬ−はるのさとひと


00719
未入力 正徹 (xxx)

山かつのおとろのかみにましりてもまよふすちなき青柳のいと

やまかつの−おとろのかみに−ましりても−まよふすちなき−あをやきのいと


00720
未入力 正徹 (xxx)

宿からのおもひありとやもえぬらん葎の門の春の青柳

やとからの−おもひありとや−もえぬらむ−むくらのかとの−はるのあをやき


00721
未入力 正徹 (xxx)

あふ坂や春にそあくる柳陰し水なかるる関の岩かと

あふさかや−はるにそあくる−やなきかけ−しみつなかるる−せきのいはかと


00722
未入力 正徹 (xxx)

色かへぬ千年の竹の世世の門たかき柳もまゆひらくなり

いろかへぬ−ちとせのたけの−よよのかと−たかきやなきも−まゆひらくなり


00723
未入力 正徹 (xxx)

ふかみとり杉たつ門の古柳めくむも春のしるしなりけり

ふかみとり−すきたつかとの−ふるやなき−めくむもはるの−しるしなりけり


00724
未入力 正徹 (xxx)

めも春をひらくか桑の門柳おなしみとりの苔の袖まて

めもはるを−ひらくかくはの−かとやなき−おなしみとりの−こけのそてまて


00725
未入力 正徹 (xxx)

春はなほたつや緑のめかれせす門もる柳いく世へぬらん

はるはなほ−たつやみとりの−めかれせす−かともるやなき−いくよへぬらむ


00726
未入力 正徹 (xxx)

朝かすみ煙の色にかけてけりかひ屋かつまの春の青柳

あさかすみ−けふりのいろに−かけてけり−かひやかつまの−はるのあをやき


00727
未入力 正徹 (xxx)

うちけふり野中の柳もゆるまて緑もみえぬ荻の焼原

うちけふり−のなかのやなき−もゆるまて−みとりもみえぬ−をきのやけはら


00728
未入力 正徹 (xxx)

あさみとり霞の中の小山田にかひ屋のけふり立つ柳かな

あさみとり−かすみのうちの−をやまたに−かひやのけふり−たつやなきかな


00729
未入力 正徹 (xxx)

煙をは木のめにみせてかけろふのもゆる春日にたつ柳かな

けふりをは−このめにみせて−かけろふの−もゆるはるひに−たつやなきかな


00730
未入力 正徹 (xxx)

浪にうく岸の柳の陰よりも猶なひきもの春の川風

なみにうく−きしのやなきの−かけよりも−なほなひきもの−はるのかはかせ


00731
未入力 正徹 (xxx)

柳かけふけはみたるる糸すちにやとりかねてや風の行くらん

やなきかけ−ふけはみたるる−いとすちに−やとりかねてや−かせのゆくらむ


00732
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫の柳のかみのさかりはも衣のもすそにかすむ春風

さほひめの−やなきのかみの−さかりはも−きぬのもすそに−かすむはるかせ


00733
未入力 正徹 (xxx)

里とほみたかせの行て恋佗ひて野原の柳朽ちのこるちむ

さととほみ−たかせのゆくて−こひわひて−のはらのやなき−くちのこるちむ


00734
未入力 正徹 (xxx)

柳かけゆきやすらふをいな莚我しきほすと誰かみるらん

やなきかけ−ゆきやすらふを−いなむしろ−われしきほすと−たれかみるらむ


00735
未入力 正徹 (xxx)

かすむ日も柳にあそふ糸ゆふの消えぬみとりに春風そ吹く

かすむひも−やなきにあそふ−いとゆふの−きえぬみとりに−はるかせそふく


00736
未入力 正徹 (xxx)

春日さす柳の露の玉のをもみたれて空にあそふ糸ゆふ

はるひさす−やなきのつゆの−たまのをも−みたれてそらに−あそふいとゆふ


00737
未入力 正徹 (xxx)

をとめ子かかくる柳の玉かつらかさしの玉は露そこほるる

をとめこか−かくるやなきの−たまかつら−かさしのたまは−つゆそこほるる


00738
未入力 正徹 (xxx)

おしなへて春の錦や立田川入江の柳花にさかせて

おしなへて−はるのにしきや−たつたかは−いりえのやなき−はなにさかせて


00739
未入力 正徹 (xxx)

水草ゐる古江の柳朽ちすとももゆる緑のかけやなからん

みくさゐる−ふるえのやなき−くちすとも−もゆるみとりの−かけやなからむ


00740
未入力 正徹 (xxx)

氷とく古江の水草かたよりに糸もてはらふ青柳の風

こほりとく−ふるえのみくさ−かたよりに−いともてはらふ−あをやきのかせ


00741
未入力 正徹 (xxx)

江をめくる燕あまたの水すみて春日ゆるかぬ青柳の糸

えをめくる−つはめあまたの−みつすみて−はるひゆるかぬ−あをやきのいと


00742
未入力 正徹 (xxx)

川岸の大江の柳いつ朽ちて松はかりなる春のしるしそ

かはきしの−おほえのやなき−いつくちて−まつはかりなる−はるのしるしそ


00743
未入力 正徹 (xxx)

枝しつく岸の柳の糸水に又吹きみたす春の川かせ

えたしつく−きしのやなきの−いとみつに−またふきみたす−はるのかはかせ


00744
未入力 正徹 (xxx)

川岸やなかるる水のあわ糸をよるにはあらぬ春の青柳

かはきしや−なかるるみつの−あわいとを−よるにはあらぬ−はるのあをやき


00745
未入力 正徹 (xxx)

紙屋川水すむ岸の柳陰春はみとりの色そかさなる

かみやかは−みつすむきしの−やなきかけ−はるはみとりの−いろそかさなる


00746
未入力 正徹 (xxx)

はや川のあやふき岸の臥柳ことしもあれは緑そへつつ

はやかはの−あやふききしの−ふしやなき−ことしもあれは−みとりそへつつ


00747
未入力 正徹 (xxx)

なひけとも陰見ぬ野への山岸に川浪ほしくたつ柳かな

なひけとも−かけみぬのへの−やまきしに−かはなみほしく−たつやなきかな


00748
未入力 正徹 (xxx)

かれかれに見ゆへき色を忘草生ふてふ岸の春の青柳

かれかれに−みゆへきいろを−わすれくさ−おふてふきしの−はるのあをやき


00749
未入力 正徹 (xxx)

柳原舟行く岸のあさみとりいつるもかすむ末の川浪

やなきはら−ふねゆくきしの−あさみとり−いつるもかすむ−すゑのかはなみ


00750
未入力 正徹 (xxx)

わたつ海の南の岸の玉柳まゆのひかりや北のうら浪

わたつうみの−みなみのきしの−たまやなき−まゆのひかりや−きたのうらなみ


00751
未入力 正徹 (xxx)

春雨に野田の柳のいなむしろしくとはみれともる人もなし

はるさめに−のたのやなきの−いなむしろ−しくとはみれと−もるひともなし


00752
未入力 正徹 (xxx)

小山田のさかひの柳一かたにぬしさたまらすなひく春風

をやまたの−さかひのやなき−ひとかたに−ぬしさたまらす−なひくはるかせ


00753
未入力 正徹 (xxx)

真柴とる岩もとわらひ折りそへて行手ひまなき春の山人

ましはとる−いはもとわらひ−をりそへて−ゆくてひまなき−はるのやまひと


00754
未入力 正徹 (xxx)

わらひをるかた山ききす立ちかへりのこるほとろの陰やたのまん

わらひをる−かたやまききす−たちかへり−のこるほとろの−かけやたのまむ


00755
未入力 正徹 (xxx)

うつろひし山路の菊は紫のちりにそのこる春のさわらひ

うつろひし−やまちのきくは−むらさきの−ちりにそのこる−はるのさわらひ


00756
未入力 正徹 (xxx)

下蕨おへる薪にをりそへて花にやすらふ春のやま人

うちむれて−このしたわらひ−やまかつの−をるひやさとの−けふりともしき


00757
未入力 正徹 (xxx)

うちむれて木の下蕨山かつの折る日やさとの煙ともしき

したわらひ−おへるたききに−をりそへて−はなにやすらふ−はるのやまひと


00758
未入力 正徹 (xxx)

山かつの衣の色に紫のゆかりそ遠き道のさわらひ

やまかつの−ころものいろに−むらさきの−ゆかりそとほき−みちのさわらひ


00759
未入力 正徹 (xxx)

折よくもかた山林下草を先焼きすてき春のさわらひ

をりよくも−かたやまはやし−したくさを−まつたきすてき−はるのさわらひ


00760
未入力 正徹 (xxx)

末の世の人の心そとけかたき春の氷はしたにむすはて

すゑのよの−ひとのこころそ−とけかたき−はるのこほりは−したにむすはて


00761
未入力 正徹 (xxx)

氷とく沖中川も春の色にうち出つる浪の花の初しほ

こほりとく−おきなかかはも−はるのいろに−うちいつるなみの−はなのはつしほ


00762
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浪ともに氷の関をこえきてもいまた旅立つ春の川かせ

なみともに−こほりのせきを−こえきても−いまたたひたつ−はるのかはかせ


00763
未入力 正徹 (xxx)

朝ことに花そまさらぬ山風の霞吹きとく雪のしたひも

あさことに−はなそまさらぬ−やまかせの−かすみふきとく−ゆきのしたひも


00764
未入力 正徹 (xxx)

春の色の一しほ染の山ならぬ山こそなけれ霞そむらし

はるのいろの−ひとしほそめの−やまならぬ−やまこそなけれ−かすみそむらし


00765
未入力 正徹 (xxx)

民のため袖せはからす世におほへのこる山なき春の霞そ

たみのため−そてせはからす−よにおほへ−のこるやまなき−はるのかすみそ


00766
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朝霞所もわかぬ春の色をひとりよそなるふしの白雪

あさかすみ−ところもわかぬ−はるのいろを−ひとりよそなる−ふしのしらゆき


00767
未入力 正徹 (xxx)

色ふかき空の緑をうかへても水の心に春やあまれる

いろふかき−そらのみとりを−うかへても−みつのこころに−はるやあまれる


00768
未入力 正徹 (xxx)

高ねよりなひく霞やにほの海の浪の花おる春の衣手

たかねより−なひくかすみや−にほのうみの−なみのはなおる−はるのころもて


00769
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松陰そ千とせのあるし花鳥の春をうかふる宿の池水

まつかけそ−ちとせのあるし−はなとりの−はるをうかふる−やとのいけみつ


00770
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わかみとり色こき松の下染も藍よりいてぬ春のまし水

わかみとり−いろこきまつの−したそめも−あゐよりいてぬ−はるのましみつ


00771
未入力 正徹 (xxx)

松の色は四の常葉の春なからいかにおくりて千とせへぬらん

まつのいろは−よつのときはの−はるなから−いかにおくりて−ちとせへぬらむ


00772
未入力 正徹 (xxx)

春日さす緑や紅葉松のはの千世に千しほの色そまされる

はるひさす−みとりやもみち−まつのはの−ちよにちしほの−いろそまされる


00773
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行末もあへる君かな千千の春十度生ひかはる松のはしめに

ゆくすゑも−あへるきみかな−ちちのはると−たひおひかはる−まつのはしめに


00774
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八千とせの春ふる松や天地を二葉にわけし緑なるらん

やちとせの−はるふるまつや−あめつちを−ふたはにわけし−みとりなるらむ


00775
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宿しるき松もあるしの万代にかつそ千年の春を契れる

やとしるき−まつもあるしの−よろつよに−かつそちとせの−はるをちきれる


00776
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限なき此世に松したえせすは契かはらしゆくすゑのはる

かきりなき−このよにまつし−たえせすは−ちきりかはらし−ゆくすゑのはる


00777
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君はたた花に花さく松か枝の千世を弥継の年に逢見ん

きみはたた−はなにはなさく−まつかえの−ちよをやゆきの−としにあひみむ


00778
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此春は松に小松をならへみむ千とせの後も千世を契れと

このはるは−まつにこまつを−ならへみむ−ちとせののちも−ちよをちきれと


00779
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若葉さす松のありへむ千年山動なき色も春そ陰そふ

わかはさす−まつのありへむ−ちとせやま−うこきなきいろも−はるそかけそふ


00780
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古りにける軒はの松の若みとり立出ててまさる春の色かな

ふりにける−のきはのまつの−わかみとり−たちいててまさる−はるのいろかな


00781
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手向草松も花さくもくしら浜の庭の真砂やよろつ代の数

たむけくさ−まつもはなさく−しらはまの−にはのまさこや−よろつよのかす


00782
未入力 正徹 (xxx)

葉をかへぬ花さく春も万代を八尾の椿かけそふりせぬ

はをかへぬ−はなさくはるも−よろつよを−やつをのつはき−かけそふりせぬ


00783
未入力 正徹 (xxx)

呉竹そ先世になひく春の色は草にもあらす木にもなき比

くれたけそ−まつよになひく−はるのいろは−くさにもあらす−きにもなきころ


00784
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猶さえて雪けにかへる二月の雲やかすみを又かくすらん

なほさえて−ゆきけにかへる−きさらきの−くもやかすみを−またかくすらむ


00785
未入力 正徹 (xxx)

ふる年はのとかにこえし空さえて又二月に春やたつらん

ふるとしは−のとかにこえし−そらさえて−またきさらきに−はるやたつらむ


00786
未入力 正徹 (xxx)

風さゆる春の霞のむら消に又もえいつる野へのわか草

かせさゆる−はるのかすみの−むらきえに−またもえいつる−のへのわかくさ


00787
未入力 正徹 (xxx)

野も山も消ゆれはかてにふる雪の春日うらみてのこる木からし

のもやまも−きゆれはかてに−ふるゆきの−はるひうらみて−のこるこからし


00788
未入力 正徹 (xxx)

わひぬれはたたひとへのみきさらきの春もさえぬる苔のそてかな

わひぬれは−たたひとへのみ−きさらきの−はるもさえぬる−こけのそてかな


00789
未入力 正徹 (xxx)

雪さそふ嵐もさゆる衣手に今はた冬やきさらきの空

ゆきさそふ−あらしもさゆる−ころもてに−いまはたふゆや−きさらきのそら


00790
未入力 正徹 (xxx)

春の日も俄にさゆる風をいたみ花さきとまる二月の霜

はるのひも−にはかにさゆる−かせをいたみ−はなさきとまる−きさらきのしも


00791
未入力 正徹 (xxx)

さえかへるよもの桜も霜をいたみ又さきかぬる二月のはな

さえかへる−よものさくらも−しもをいたみ−またさきかぬる−きさらきのはな


00792
未入力 正徹 (xxx)

二月の雪に山風又さえて一むらかかる松のしら雪

きさらきの−ゆきにやまかせ−またさえて−ひとむらかかる−まつのしらゆき


00793
未入力 正徹 (xxx)

又さえて吹きのほる谷の春風にいくへの雪をきそのあさ衣

またさえて−ふきのほるたにの−はるかせに−いくへのゆきを−きそのあさきぬ


00794
未入力 正徹 (xxx)

猶さえて降りしく雪の光なき霞をほらふ春の谷風

なほさえて−ふりしくゆきの−ひかりなき−かすみをほらふ−はるのたにかせ


00795
未入力 正徹 (xxx)

天つ空よもの霞を吹きとちて春の嵐や冬こもるらむ

あまつそら−よものかすみを−ふきとちて−はるのあらしや−ふゆこもるらむ


00796
未入力 正徹 (xxx)

袖さむみ朝戸たてよとちる雪の又ふふき入る庭の春風

そてさむみ−あさとたてよと−ちるゆきの−またふふきいる−にはのはるかせ


00797
未入力 正徹 (xxx)

寒けさは秋にそまさる若草の霜の花さくをのの朝風

さむけさは−あきにそまさる−わかくさの−しものはなさく−をののあさかせ


00798
未入力 正徹 (xxx)

立ちかへり春の嵐の冬の霜たかもとゆひにみたれそふらん

たちかへり−はるのあらしの−ふゆのしも−たかもとゆひに−みたれそふらむ


00799
未入力 正徹 (xxx)

今はとて一重ぬきおく衣をも又きさらきの霜の朝風

いまはとて−ひとへぬきおく−ころもをも−またきさらきの−しものあさかせ


00800
未入力 正徹 (xxx)

降りきゆる雪の日影に松のはのしつくもこほる春の山風

ふりきゆる−ゆきのひかけに−まつのはの−しつくもこほる−はるのやまかせ


00801
未入力 正徹 (xxx)

春はまた嶺のささ原風さやきむら雲まよひ雪そ降りくる

はるはまた−みねのささはら−かせさやき−むらくもまよひ−ゆきそふりくる


00802
未入力 正徹 (xxx)

けぬか上に越路の嵐さえかへり雪をかさぬる春のしら山

けぬかうへに−こしちのあらし−さえかへり−ゆきをかさぬる−はるのしらやま


00803
未入力 正徹 (xxx)

早瀬川氷にせきて春さへも日数なかれぬ水のみなかみ

はやせかは−こほりにせきて−はるさへも−ひかすなかれぬ−みつのみなかみ


00804
未入力 正徹 (xxx)

かすむへきならひもしらす晴れくもり春のふふきをわたる月かけ

かすむへき−ならひもしらす−はれくもり−はるのふふきを−わたるつきかけ


00805
未入力 正徹 (xxx)

天つ風とけにし月のうは氷結ふかさゆる春の夜のかけ

あまつかせ−とけにしつきの−うはこほり−むすふかさゆる−はるのよのかけ


00806
未入力 正徹 (xxx)

かすみてそ猶さえかへる天つ風春のふふきをわたる月影

かすみてそ−なほさえかへる−あまつかせ−はるのふふきを−わたるつきかけ


00807
未入力 正徹 (xxx)

春寒み我か身霜ふるはかりこそ昔にもあらねかすむ月影

はるさむみ−わかみしもふる−はかりこそ−むかしにもあらね−かすむつきかけ


00808
未入力 正徹 (xxx)

さえかへる春やいつそも霞みつつくもるは晴るる月の雪けを

さえかへる−はるやいつそも−かすみつつ−くもるははるる−つきのゆきけを


00809
未入力 正徹 (xxx)

さゆる夜の雪の雫は音たてて軒のたるひにおつる月影

さゆるよの−ゆきのしつくは−おとたてて−のきのたるひに−おつるつきかけ


00810
未入力 正徹 (xxx)

天の原春の緑の色にすむ月の光はかすむともなし

あまのはら−はるのみとりの−いろにすむ−つきのひかりは−かすむともなし


00811
未入力 正徹 (xxx)

霞行く光そうつる春の夜の月のかつらの花染の袖

かすみゆく−ひかりそうつる−はるのよの−つきのかつらの−はなそめのそて


00812
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから嵐に晴れぬ光かな月や霞をいとはさるらん

よもすから−あらしにはれぬ−ひかりかな−つきやかすみを−いとはさるらむ


00813
未入力 正徹 (xxx)

かすめとも空行く月の都にはしらす光を春やそふらん

かすめとも−そらゆくつきの−みやこには−しらすひかりを−はるやそふらむ


00814
未入力 正徹 (xxx)

中空にしはしやすらへ山のははいとと霞もふかきよの月

なかそらに−しはしやすらへ−やまのはは−いととかすみも−ふかきよのつき


00815
未入力 正徹 (xxx)

久かたの月のかつらももえいつる若葉のかけや猶かすむらん

ひさかたの−つきのかつらも−もえいつる−わかはのかけや−なほかすむらむ


00816
未入力 正徹 (xxx)

春のよの我かねし夢のうき橋をわたりにけりとのこる月かな

はるのよの−わかねしゆめの−うきはしを−わたりにけりと−のこるつきかな


00817
未入力 正徹 (xxx)

月にたにうかひそいてぬ興つしほかすめる浪の淡路島山

つきにたに−うかひそいてぬ−おきつしほ−かすめるなみの−あはちしまやま


00818
未入力 正徹 (xxx)

かすむへきならひはなにのゆゑそともなるる月さへしらぬ春のよ

かすむへき−ならひはなにの−ゆゑそとも−なるるつきさへ−しらぬはるのよ


00819
未入力 正徹 (xxx)

春ならす老いては月のくもる夜を霞みけりともいつまてかみし

はるならす−おいてはつきの−くもるよを−かすみけりとも−いつまてかみし


00820
未入力 正徹 (xxx)

うたたねの袖に落ちくる山風に花の香なからやとる月影

うたたねの−そてにおちくる−やまかせに−はなのかなから−やとるつきかけ


00821
未入力 正徹 (xxx)

月そすむ霞のうちになかれてもつひによる瀬ほ有明のかけ

つきそすむ−かすみのうちに−なかれても−つひによるせほ−ありあけのかけ


00822
未入力 正徹 (xxx)

天の川霞のみをにさかのほるうたかた消えて月や澄むらん

あまのかは−かすみのみをに−さかのほる−うたかたきえて−つきやすむらむ


00823
未入力 正徹 (xxx)

二月や春のよさむのうす氷空にのみしてのこる月かけ

きさらきや−はるのよさむの−うすこほり−そらにのみして−のこるつきかけ


00824
未入力 正徹 (xxx)

天つ風又や霞にたゆむらん月の氷の夜はのむらきえ

あまつかせ−またやかすみに−たゆむらむ−つきのこほりの−よはのむらきえ


00825
未入力 正徹 (xxx)

春はたたかすむならひの月影をさやかにみるや空めなるらん

はるはたた−かすむならひの−つきかけを−さやかにみるや−そらめなるらむ


00826
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫の霞の袖の中なるやたかねし玉ののこる月かけ

さほひめの−かすみのそての−うちなるや−たかねしたまの−のこるつきかけ


00827
未入力 正徹 (xxx)

世世かけてうつまぬ春の光かなむかしの月のいまの霞に

よよかけて−うつまぬはるの−ひかりかな−むかしのつきの−いまのかすみに


00828
未入力 正徹 (xxx)

月ゆゑは霞もさこそいとふらめくもる名たての老の涙を

つきゆゑは−かすみもさこそ−いとふらめ−くもるなたての−おいのなみたを


00829
未入力 正徹 (xxx)

いとへ月花にうつりし春なからちるとて空にかへるこころを

いとへつき−はなにうつりし−はるなから−ちるとてそらに−かへるこころを


00830
未入力 正徹 (xxx)

老か身の昔見しにもかはらすは今夜の月やかすまさるらん

おいかみの−むかしみしにも−かはらすは−こよひのつきや−かすまさるらむ


00831
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さやかなる月のかつらの花かつら霞なかけそ天つはる風

さやかなる−つきのかつらの−はなかつら−かすみなかけそ−あまつはるかせ


00832
未入力 正徹 (xxx)

天つ空やみのうつつといふ程の夢路にちかくかすむ月かな

あまつそら−やみのうつつと−いふほとの−ゆめちにちかく−かすむつきかな


00833
未入力 正徹 (xxx)

立ちこむる霞の上の天の原おもへは月に春やなからむ

たちこむる−かすみのうへの−あまのはら−おもへはつきに−はるやなからむ


00834
未入力 正徹 (xxx)

老いてみる身はことわりの月の影秋なりともとかすむ春かな

おいてみる−みはことわりの−つきのかけ−あきなりともと−かすむはるかな


00835
未入力 正徹 (xxx)

天つ空月の光をうつしもて霞やひろく世をてらすらん

あまつそら−つきのひかりを−うつしもて−かすみやひろく−よをてらすらむ


00836
未入力 正徹 (xxx)

開きちるもえやは見えまし春霞月のかつらの花なかくしそ

さきちるも−えやはみえまし−はるかすみ−つきのかつらの−はななかくしそ


00837
未入力 正徹 (xxx)

天の川春の霞のみをつくし月の御舟そ立ちわかれ行く

あまのかは−はるのかすみの−みをつくし−つきのみふねそ−たちわかれゆく


00838
未入力 正徹 (xxx)

春のよをくもると見つつまとろめは夢路かすめる有明の月

はるのよを−くもるとみつつ−まとろめは−ゆめちかすめる−ありあけのつき


00839
未入力 正徹 (xxx)

わすられぬむかしの袖の影ならてかすめは遠き春のよの月

わすられぬ−むかしのそての−かけならて−かすめはとほき−はるのよのつき


00840
未入力 正徹 (xxx)

春はたた開きちる花に暮しても心やすめすかすむよの月

はるはたた−さきちるはなに−くらしても−こころやすめす−かすむよのつき


00841
未入力 正徹 (xxx)

花さかり望月の夜にめくりあへさてこそ春の最中ともみめ

はなさかり−もちつきのよに−めくりあへ−さてこそはるの−もなかともみめ


00842
未入力 正徹 (xxx)

空たかき中なへたてそ我か方を月のみるめもさそかすむらん

そらたかき−なかなへたてそ−わかかたを−つきのみるめも−さそかすむらむ


00843
未入力 正徹 (xxx)

限なく老いすはかすむ角やみんありやなしやもしらぬよの空

かきりなく−おいすはかすむ−つきやみむ−ありやなしやも−しらぬよのそら


00844
未入力 正徹 (xxx)

なかれくる氷も波も高島や此川上にかすむつきかけ

なかれくる−こほりもなみも−たかしまや−このかはかみに−かすむつきかけ


00845
未入力 正徹 (xxx)

春はたた月も霞を出てやらぬうき世の山や秋のよのそら

はるはたた−つきもかすみを−いてやらぬ−うきよのやまや−あきのよのそら


00846
未入力 正徹 (xxx)

さらしなを春の秋にてなかむれは霞もはてぬをはすての月

さらしなを−はるのあきにて−なかむれは−かすみもはてぬ−をはすてのつき


00847
未入力 正徹 (xxx)

老いらくのむかしをおもふ面影そみなものことにかすむ夜の月

おいらくの−むかしをおもふ−おもかけそ−みなものことに−かすむよのつき


00848
未入力 正徹 (xxx)

なれ行くを月もおもひの外なりと見るらん老の末の世の春

なれゆくを−つきもおもひの−ほかなりと−みるらむおいの−すゑのよのはる


00849
未入力 正徹 (xxx)

影もらてかすむ尾上の夕月よ深けてそ頼む空そすくなき

かけもらて−かすむをのへの−ゆふつくよ−ふけてそたのむ−そらそすくなき


00850
未入力 正徹 (xxx)

暮れぬまにかすむ光を待ちとるや入日にむかふ山の端の月

くれぬまに−かすむひかりを−まちとるや−いりひにむかふ−やまのはのつき


00851
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮かすみし梅の匂さへうす雲かかる月のかけかな

ゆふまくれ−かすみしうめの−にほひさへ−うすくもかかる−つきのかけかな


00852
未入力 正徹 (xxx)

緑そふ草を冬野の春さえて夕霜かすむ月の影かな

みとりそふ−くさをふゆのの−はるさえて−ゆふしもかすむ−つきのかけかな


00853
未入力 正徹 (xxx)

空にみて海士やはをしむ行く月の舟をなかして霞む夕風

そらにみて−あまやはをしむ−ゆくつきの−ふねをなかして−かすむゆふかせ


00854
未入力 正徹 (xxx)

めつらしき春たつ空の三日月を暮れなは誰か出てて見すらん

めつらしき−はるたつそらの−みかつきを−くれなはたれか−いててみすらむ


00855
未入力 正徹 (xxx)

さやかなる月をおほろにみるはてはやみともたとる老の春かな

さやかなる−つきをおほろに−みるはては−やみともたとる−おいのはるかな


00856
未入力 正徹 (xxx)

春の夜の袖そ朧のし水せく老の涙や大はらの月

はるのよの−そてそおほろの−しみつせく−おいのなみたや−おほはらのつき


00857
未入力 正徹 (xxx)

若草の末野の風の音もせて月そ霞のつまにこもれる

わかくさの−すゑののかせの−おともせて−つきそかすみの−つまにこもれる


00858
未入力 正徹 (xxx)

天つたふ道さまたけの霞ゆゑ月のあよみもいそくとはみす

あまつたふ−みちさまたけの−かすみゆゑ−つきのあよみも−いそくとはみす


00859
未入力 正徹 (xxx)

みすもあらす見もせぬ月の深くるまて無益空のかすむ夜はかな

みすもあらす−みもせぬつきの−ふくるまて−つれなくそらの−かすむよはかな


00860
未入力 正徹 (xxx)

村霞くもりみはれみ行く月に見し世の事もつつきやはする

むらかすみ−くもりみはれみ−ゆくつきに−みしよのことも−つつきやはする


00861
未入力 正徹 (xxx)

春の夜の晴れたる星の影ほとも袖にやとらてかすむ月かな

はるのよの−はれたるほしの−かけほとも−そてにやとらて−かすむつきかな


00862
未入力 正徹 (xxx)

行く春の山のはこえて朝日影にほふ雲間に残る月かな

ゆくはるの−やまのはこえて−あさひかけ−にほふくもまに−のこるつきかな


00863
未入力 正徹 (xxx)

うたたねの袖とふ月のかたはらに人こそみえね春のよの夢

うたたねの−そてとふつきの−かたはらに−ひとこそみえね−はるのよのゆめ


00864
未入力 正徹 (xxx)

しかの浦の春のかすみに残るらしふる郷人のそての月影

しかのうらの−はるのかすみに−のこるらし−ふるさとひとの−そてのつきかけ


00865
未入力 正徹 (xxx)

里はあれぬいととうき世と住佗ひて月や霞に身をかくすらん

さとはあれぬ−いととうきよと−すみわひて−つきやかすみに−みをかくすらむ


00866
未入力 正徹 (xxx)

世をうちのむなし涙や霞みけん難波の春の月のむかしに

よをうちの−むなしなみたや−かすみけむ−なにはのはるの−つきのむかしに


00867
未入力 正徹 (xxx)

くるるまはかすみし山も月出ててみれはさやけき春の色かな

くるるまは−かすみしやまも−つきいてて−みれはさやけき−はるのいろかな


00868
未入力 正徹 (xxx)

はるる夜は軒のしのふの山やみんみたれて霞む月の下風

はるるよは−のきのしのふの−やまやみむ−みたれてかすむ−つきのしたかせ


00869
未入力 正徹 (xxx)

夕霞月のかかみのうらなるや見し山鳥のをのへなるらん

ゆふかすみ−つきのかかみの−うらなるや−みしやまとりの−をのへなるらむ


00870
未入力 正徹 (xxx)

もしほやく海士のたくへき霞かは月を煙におほせさらなん

もしほやく−あまのたくへき−かすみかは−つきをけふりに−おほせさらなむ


00871
未入力 正徹 (xxx)

さ夜ふかく霞の網に入る月をひくや湊のあまのよひこゑ

さよふかく−かすみのあみに−いるつきを−ひくやみなとの−あまのよひこゑ


00872
未入力 正徹 (xxx)

行く春のかすみの袖のなかに入る玉かみなとにしたふ月かけ

ゆくはるの−かすみのそての−なかにいる−たまかみなとに−したふつきかけ


00873
未入力 正徹 (xxx)

ひらの海や雪吹きおろす山風に霞みてしつむみなと江の月

ひらのうみや−ゆきふきおろす−やまかせに−かすみてしつむ−みなとえのつき


00874
未入力 正徹 (xxx)

かすむ夜の月は真砂にうと浜や照すをとめの袖そ数そふ

かすむよの−つきはまさこに−うとはまや−てらすをとめの−そてそかすそふ


00875
未入力 正徹 (xxx)

興つ風あらき浜辺の白浪に霞をりふせやとる月影

おきつかせ−あらきはまへの−しらなみに−かすみをりふせ−やとるつきかけ


00876
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いもに恋ひたか折りしきし浜荻の春の枯葉に月やとるらん

いもにこひ−たかをりしきし−はまをきの−はるのかれはに−つきやとるらむ


00877
未入力 正徹 (xxx)

はまゆふもめくむはかりの月影をうすくへたててかすむ浪かな

はまゆふも−めくむはかりの−つきかけを−うすくへたてて−かすむなみかな


00878
未入力 正徹 (xxx)

玉よする玉津島江にかすむなり波を光の春の夜の月

たまよする−たまつしまえに−かすむなり−なみをひかりの−はるのよのつき


00879
未入力 正徹 (xxx)

春の夜のいさら小川の音深けてこほらぬ浪にくたく月かけ

はるのよの−いさらをかはの−おとふけて−こほらぬなみに−くたくつきかけ


00880
未入力 正徹 (xxx)

田上や川浪かけてやとるなりうすきかすみの衣手の月

たなかみや−かはなみかけて−やとるなり−うすきかすみの−ころもてのつき


00881
未入力 正徹 (xxx)

明かたの入野のかすみたなひくや弓張月の末そかくるる

あけかたの−いるののかすみ−たなひくや−ゆみはりつきの−すゑそかくるる


00882
未入力 正徹 (xxx)

おも影の猶うとまれぬ有明にゆかりかすめる月のうす雲

おもかけの−なほうとまれぬ−ありあけに−ゆかりかすめる−つきのうすくも


00883
未入力 正徹 (xxx)

山かつらかけのたれをのなかき夜は春にもありと月そ残れる

やまかつら−かけのたれをの−なかきよは−はるにもありと−つきそのこれる


00884
未入力 正徹 (xxx)

二月の在明の比も開きあはぬ月の木の間は花そつれなき

きさらきの−ありあけのころも−さきあはぬ−つきのこのまは−はなそつれなき


00885
未入力 正徹 (xxx)

のこるなりちりて花なき有明に春の心はとはかりの月

のこるなり−ちりてはななき−ありあけに−はるのこころは−とはかりのつき


00886
未入力 正徹 (xxx)

風そうき月な恨みそいもとせの山のかすみのきぬきぬの空

かせそうき−つきなうらみそ−いもとせの−やまのかすみの−きぬきぬのそら


00887
未入力 正徹 (xxx)

あひに逢ひて春行く色を染川の淵の緑にかすむ月影

あひにあひて−はるゆくいろを−そめかはの−ふちのみとりに−かすむつきかけ


00888
未入力 正徹 (xxx)

さためすよ秋の夕のことわりも又明ほのの春のあはれに

さためすよ−あきのゆふへの−ことわりも−またあけほのの−はるのあはれに


00889
未入力 正徹 (xxx)

見す聞かぬ山の花鳥色も音も霞にこもる春の明ほの

みすきかぬ−やまのはなとり−いろもねも−かすみにこもる−はるのあけほの


00890
未入力 正徹 (xxx)

雲鳥の色ねもにたる時やなき花に明行く春ならすとも

くもとりの−いろねもにたる−ときやなき−はなにあけゆく−はるならすとも


00891
未入力 正徹 (xxx)

春のよの花も匂はす月もなき霞そ明くる光なりける

はるのよの−はなもにほはす−つきもなき−かすみそあくる−ひかりなりける


00892
未入力 正徹 (xxx)

行く月も霞をわくる山風に花の香ほしき春の明ほの

ゆくつきも−かすみをわくる−やまかせに−はなのかほしき−はるのあけほの


00893
未入力 正徹 (xxx)

あくる夜の月と花との哀をもたたおし篭めて霞む春かな

あくるよの−つきとはなとの−あはれをも−たたおしこめて−かすむはるかな


00894
未入力 正徹 (xxx)

曙も花にあへるやをしからん木すゑわかれぬ嶺の横くも

あけほのも−はなにあへるや−をしからむ−こすゑわかれぬ−みねのよこくも


00895
未入力 正徹 (xxx)

花に月霞に鳥はさへつりて山もとくらき春の明ほの

はなにつき−かすみにとりは−さへつりて−やまもとくらき−はるのあけほの


00896
未入力 正徹 (xxx)

比はまた花も匂はす月もなし行末そかすむ春の明ほの

ころはまた−はなもにほはす−つきもなし−ゆくへそかすむ−はるのあけほの


00897
未入力 正徹 (xxx)

山風も花の香なから真木の戸をおして春雨曙の空

やまかせも−はなのかなから−まきのとを−おしてはるさめ−あけほののそら


00898
未入力 正徹 (xxx)

百千鳥ふかき霞に声消えぬ山は軒端の春の明ほの

ももちとり−ふかきかすみに−こゑきえぬ−やまはのきはの−はるのあけほの


00899
未入力 正徹 (xxx)

明ほのも花そ夜ふかき百千鳥さへつりいたす山の霞に

あけほのも−はなそよふかき−ももちとり−さへつりいたす−やまのかすみに


00900
未入力 正徹 (xxx)

山さくら色わく程の明ほのに霞をいつる鳥のこゑかな

やまさくら−いろわくほとの−あけほのに−かすみをいつる−とりのこゑかな


00901
未入力 正徹 (xxx)

いたつらにかすむ山かな曙の花もにほはす月も無きころ

いたつらに−かすむやまかな−あけほのの−はなもにほはす−つきもなきころ


00902
未入力 正徹 (xxx)

かくなから見はや鴬の雲霞嶺たちのこす明ほのの松

かくなから−みはやうくひすの−くもかすみ−みねたちのこす−あけほののまつ


00903
未入力 正徹 (xxx)

にほふ花かすめる山を形見にて又遠さかる月の明ほの

にほふはな−かすめるやまを−かたみにて−またとほさかる−つきのあけほの


00904
未入力 正徹 (xxx)

春ならぬ山とはなりぬ雪消えてさく花おそくさゆる曙

はるならぬ−やまとはなりぬ−ゆききえて−さくはなおそく−さゆるあけほの


00905
未入力 正徹 (xxx)

漁火のかすむそ見ゆるあまのたくなはの浦わの春の明ほの

いさりひの−かすむそみゆる−あまのたく−なはのうらわの−はるのあけほの


00906
未入力 正徹 (xxx)

春の夜のうら島かすみ雲そ立つこや玉くしけあけほのの空

はるのよの−うらしまかすみ−くもそたつ−こやたまくしけ−あけほののそら


00907
未入力 正徹 (xxx)

浦風もかすみのほりて高塩の曙おそきすまの山もと

うらかせも−かすみのほりて−たかしほの−あけほのおそき−すまのやまもと


00908
未入力 正徹 (xxx)

わたの原かすむ限はしら浪のへたてもとほし春の明ほの

わたのはら−かすむかきりは−しらなみの−へたてもとほし−はるのあけほの


00909
未入力 正徹 (xxx)

かすむ夜の花に枕をそはたてて曙しらぬすまの浦人

かすむよの−はなにまくらを−そはたてて−あけほのしらぬ−すまのうらひと


00910
未入力 正徹 (xxx)

霞みしく興つ白浪うら風に匂はぬ花の春の明ほの

かすみしく−おきつしらなみ−うらかせに−にほはぬはなの−はるのあけほの


00911
未入力 正徹 (xxx)

明けにけりあらましかはの春の花なきさにかすむしかの山本

あけにけり−あらましかはの−はるのはな−なきさにかすむ−しかのやまもと


00912
未入力 正徹 (xxx)

木のもとは花にむらむら明けそめて霞にくらき春の深山路

このもとは−はなにむらむら−あけそめて−かすみにくらき−はるのみやまち


00913
未入力 正徹 (xxx)

天地に雲をかさねて花そみつこれや神代の春の明ほの

あめつちに−くもをかさねて−はなそみつ−これやかみよの−はるのあけほの


00914
未入力 正徹 (xxx)

明ほのを花にゆつりて横雲のわかれてきゆる嶺の春風

あけほのを−はなにゆつりて−よこくもの−わかれてきゆる−みねのはるかせ


00915
未入力 正徹 (xxx)

散るよりも先そあたなるかつ消えて花にわかるる峰のよこ雲

ちるよりも−まつそあたなる−かつきえて−はなにわかるる−みねのよこくも


00916
未入力 正徹 (xxx)

あけすとも花さく嶺の横雲になかはかくして月は見まほし

あけすとも−はなさくみねの−よこくもに−なかはかくして−つきはみまほし


00917
未入力 正徹 (xxx)

百千鳥かすめる雨の花の香にぬれてさへつる曙の山

ももちとり−かすめるあめの−はなのかに−ぬれてさへつる−あけほののやま


00918
未入力 正徹 (xxx)

鳥かなくいまそ時しる山のはによひよりかけし花の横雲

とりかなく−いまそときしる−やまのはに−よひよりかけし−はなのよこくも


00919
未入力 正徹 (xxx)

命をやにしかへん庭鳥のおのれあらそふ春の比かな

いのちをや−あふにしかへむ−にはとりの−おのれあらそふ−はるのころかな


00920
未入力 正徹 (xxx)

雲ま行く月に木のめもかすむらんはらへ老その杜の春風

くもまゆく−つきにこのめも−かすむらむ−はらへおいその−もりのはるかせ


00921
未入力 正徹 (xxx)

なからふる我か世の年の春ことにかすむやとほき昔なるらん

なからふる−わかよのとしの−はることに−かすむやとほき−むかしなるらむ


00922
未入力 正徹 (xxx)

むら雨の梢の露も置きとめぬ花のやとりに山風そふく

むらさめの−こすゑのつゆも−おきとめぬ−はなのやとりに−やまかせそふく


00923
未入力 正徹 (xxx)

しからきや遠山の正木うつ紐をたな引きそむる春霞かな

しからきや−とほやまのまさき−うつひもを−たなひきそむる−はるかすみかな


00924
未入力 正徹 (xxx)

名にたかき尾上の鐘の声は猶かすみにさえてあくる春かな

なにたかき−をのへのかねの−こゑはなほ−かすみにさえて−あくるはるかな


00925
未入力 正徹 (xxx)

しるしらぬ袖ともわかぬ梅かかにおなしやとりの春の夜の月

しるしらぬ−そてともわかぬ−うめかかに−おなしやとりの−はるのよのつき


00926
未入力 正徹 (xxx)

うすこほりのこるはあれと初せ川はやくもなかは過くる春かな

うすこほり−のこるはあれと−はつせかは−はやくもなかは−すくるはるかな


00927
未入力 正徹 (xxx)

めかれしよ御戸の錦のひらくるは春の花よりあふそ稀なる

めかれしよ−みとのにしきの−ひらくるは−はるのはなより−あふそまれなる


00928
未入力 正徹 (xxx)

なへて世の天つ空にも君か住む宮このかすみ光そふらし

なへてよの−あまつそらにも−きみかすむ−みやこのかすみ−ひかりそふらし


00929
未入力 正徹 (xxx)

色見ゆる春の衣をいま一重世の人ことにたつかすみかな

いろみゆる−はるのころもを−いまひとへ−よのひとことに−たつかすみかな


00930
未入力 正徹 (xxx)

いくさとの花鳥の音もかすむ日の光のうちに篭る春かな

いくさとの−はなとりのねも−かすむひの−ひかりのうちに−こもるはるかな


00931
未入力 正徹 (xxx)

ほしかくる霞の衣ひまもなしいつくの空か天のかくやま

ほしかくる−かすみのころも−ひまもなし−いつくのそらか−あまのかくやま


00932
未入力 正徹 (xxx)

あふきみぬ人こそなけれ久かたの神代の春や天くたるらん

あふきみぬ−ひとこそなけれ−ひさかたの−かみよのはるや−あまくたるらむ


00933
未入力 正徹 (xxx)

うたたねの床のさ夜風吹きかすみ月やあらぬと梅かかそする

うたたねの−とこのさよかせ−ふきかすみ−つきやあらぬと−うめかかそする


00934
未入力 正徹 (xxx)

ねかはくは過きし年年引きかへて入をかすむる霞をは見し

ねかはくは−すきしとしとし−ひきかへて−ひとをかすむる−かすみをはみし


00935
未入力 正徹 (xxx)

吹きまよふ音こそきかね花とちる雲に枝なき天つ春風

ふきまよふ−おとこそきかね−はなとちる−くもにえたなき−あまつはるかせ


00936
未入力 正徹 (xxx)

久かたのすめるは空となりし世や春の光もてらし初めけん

ひさかたの−すめるはそらと−なりしよや−はるのひかりも−てらしそめけむ


00937
未入力 正徹 (xxx)

久堅の天にましける神代には空はかりにや春も立ちけん

ひさかたの−あめにましける−かみよには−そらはかりにや−はるもたちけむ


00938
未入力 正徹 (xxx)

よろつ民つくらむ田にも畠にもまく種ことにみのりさかへよ

よろつたみ−つくらむたにも−はたけにも−まくたねことに−みのりさかへよ


00939
未入力 正徹 (xxx)

たれか見しもと此土のあらかねになひく草木の春のわか葉を

たれかみし−もとこのつちの−あらかねに−なひくくさきの−はるのわかはを


00940
未入力 正徹 (xxx)

春は今朝八百日行きてや知らすらん浜の真砂の雪にかすめる

はるはけさ−やほかゆきてや−しらすらむ−はまのまさこの−ゆきにかすめる


00941
未入力 正徹 (xxx)

春や夢さきそめしよりぬるかうちにみるにもあらぬ花そ散行く

はるやゆめ−さきそめしより−ぬるかうちに−みるにもあらぬ−はなそちりゆく


00942
未入力 正徹 (xxx)

さまさまの誰かねかひもさもあらはあれ此春かなへ敷島のみち

さまさまの−たれかねかひも−さもあらはあれ−このはるかなへ−しきしまのみち


00943
未入力 正徹 (xxx)

此春は御代にありとしあらん人上はあはれとしもはしたかへ

このはるは−みよにありとし−あらむひと−かみはあはれと−しもはしたかへ


00944
未入力 正徹 (xxx)

めくりあひてかつみる花を惜むへき命もしらぬ老の春かな

めくりあひて−かつみるはなを−をしむへき−いのちもしらぬ−おいのはるかな


00945
未入力 正徹 (xxx)

梅かかそ去年にかはらぬもろ人の心の花を先ひらけとて

うめかかそ−こそにかはらぬ−もろひとの−こころのはなを−まつひらけとて


00946
未入力 正徹 (xxx)

しかのうらやのこる石井のもと桜花もむかしの陰やすくなき

しかのうらや−のこるいしゐの−もとさくら−はなもむかしの−かけやすくなき


00947
未入力 正徹 (xxx)

ことの葉の花ともかなや鴬も梅もさそはて見ん人のため

ことのはの−はなともかなや−うくひすも−うめもさそはて−みむひとのため


00948
未入力 正徹 (xxx)

花の香に翅をしめて白雲の嶺越えやらぬ春の雁かね

はなのかに−つはさをしめて−しらくもの−みねこえやらぬ−はるのかりかね


00949
未入力 正徹 (xxx)

木の間より花にかすみて久堅の光のとけき鳥の声かな

このまより−はなにかすみて−ひさかたの−ひかりのとけき−とりのこゑかな


00950
未入力 正徹 (xxx)

塵もゐぬ天つ雲井のかすめるを朝きよめする春の風かな

ちりもゐぬ−あまつくもゐの−かすめるを−あさきよめする−はるのかせかな


00951
未入力 正徹 (xxx)

久かたの天の戸出つる日の光春をそてらす御代もくもらし

ひさかたの−あまのといつる−ひのひかり−はるをそてらす−みよもくもらし


00952
未入力 正徹 (xxx)

花の香に世はうち霞み春の日の光になひく風はゆるくて

はなのかに−よはうちかすみ−はるのひの−ひかりになひく−かせはゆるくて


00953
未入力 正徹 (xxx)

春の空のなかはめくるも冬の日の時にも絶えぬ花の陰かな

はるのそらの−なかはめくるも−ふゆのひの−ときにもたえぬ−はなのかけかな


00954
未入力 正徹 (xxx)

雪消えし春の枯野の夕霞うつめはもゆる草の色かな

ゆききえし−はるのかれのの−ゆふかすみ−うつめはもゆる−くさのいろかな


00955
未入力 正徹 (xxx)

匂ふなりなきさの海士の家桜かすみてうつる月の夕浪

にほふなり−なきさのあまの−いへさくら−かすみてうつる−つきのゆふなみ


00956
未入力 正徹 (xxx)

こまかなる星の光はみな消えて霞みのこせる夜はの夕つつ

こまかなる−ほしのひかりは−みなきえて−かすみのこせる−よはのゆふつつ


00957
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けふそみる滝つ氷の関の戸もひらくる浪の春の初花

けふそみる−たきつこほりの−せきのとも−ひらくるなみの−はるのはつはな


00958
未入力 正徹 (xxx)

木の間よりおつる雪消の水澄みて春をふかむる滝の白浪

このまより−おつるゆきけの−みつすみて−はるをふかむる−たきのしらなみ


00959
未入力 正徹 (xxx)

今そうき宿かる春の花の露きえし所もむなし山風

いまそうき−やとかるはるの−はなのつゆ−きえしところも−むなしやまかせ


00960
未入力 正徹 (xxx)

世は春の霞にこもる思ひたに晴れぬさくらの雲となる比

よははるの−かすみにこもる−おもひたに−はれぬさくらの−くもとなるころ


00961
未入力 正徹 (xxx)

色にふけ草木も春をしらぬまの人の心の花のはつ風

いろにふけ−くさきもはるを−しらぬまの−ひとのこころの−はなのはつかせ


00962
未入力 正徹 (xxx)

貫川や風の心もやはらかに氷吹きとく瀬瀬のしら浪

ぬきかはや−かせのこころも−やはらかに−こほりふきとく−せせのしらなみ


00963
未入力 正徹 (xxx)

風ませに雪ちろほひて朝戸明の日影を寒み梅かかそする

かせませに−ゆきちろほひて−あさとあけの−ひかけをさむみ−うめかかそする


00964
未入力 正徹 (xxx)

篠むすふ庵の戸細も明けぬよに霰音して春風そ吹く

ささむすふ−いほのとほそも−あけぬよに−あられおとして−はるかせそふく


00965
未入力 正徹 (xxx)

ゆふかけてひくやしめ野の神風も長き草葉も春をしるらし

ゆふかけて−ひくやしめのの−かみかせも−なかきくさはも−はるをしるらし


00966
未入力 正徹 (xxx)

山おろし初瀬の霞吹きまよひこもりもはてぬ花の色色

やまおろし−はつせのかすみ−ふきまよひ−こもりもはてぬ−はなのいろいろ


00967
未入力 正徹 (xxx)

過きかての野への小松の末の世も花にや春の鴬のこゑ

すきかての−のへのこまつの−すゑのよも−はなにやはるの−うくひすのこゑ


00968
未入力 正徹 (xxx)

夢となる人にみせはや芦のはのもゆる難波の春のうつつを

ゆめとなる−ひとにみせはや−あしのはの−もゆるなにはの−はるのうつつを


00969
未入力 正徹 (xxx)

めくる江のなかれ洲崎のはなれ屋に燕出入る春日のとけし

めくるえの−なかれすさきの−はなれやに−つはめいている−はるひのとけし


00970
未入力 正徹 (xxx)

穂にいてて麦の秋風待つころは田かへす春とみるそすくなき

ほにいてて−むきのあきかせ−まつころは−たかへすはると−みるそすくなき


00971
未入力 正徹 (xxx)

すさましやあらすく牛のつく息もかすむ朝の春の小山田

すさましや−あらすくうしの−つくいきも−かすむあしたの−はるのをやまた


00972
未入力 正徹 (xxx)

道辺の鳥井も今そあひにあふみしめはへたる小田の苗代

みちのへの−とりゐもいまそ−あひにあふ−みしめはへたる−をたのなはしろ


00973
未入力 正徹 (xxx)

土かたき春のあら田の一かへしくるしきしつか初とそ見る

つちかたき−はるのあらたの−ひとかへし−くるしきしつか−はしめとそみる


00974
未入力 正徹 (xxx)

山もとの風ならねとますらをか霞をかへす春のあら小田

やまもとの−あらしならねと−ますらをか−かすみをかへす−はるのあらをた


00975
未入力 正徹 (xxx)

種まきし山田のくろに里の子の鳥おふ春の暮そさひしき

たねまきし−やまたのくろに−さとのこの−とりおふはるの−くれそさひしき


00976
未入力 正徹 (xxx)

種おろす苗代水にゐる鷺のいさなとるをもたつる里の子

たねおろす−なはしろみつに−ゐるさきの−いさなとるをも−たつるさとのこ


00977
未入力 正徹 (xxx)

鳴きつくす花の香かすむ大空も風ゆるき日の春のうくひす

なきつくす−はなのかかすむ−おほそらも−かせゆるきひの−はるのうくひす


00978
未入力 正徹 (xxx)

梢より羽風をふれて桜さく野への雲雀もおつる花かな

こすゑより−はかせをふれて−さくらさく−のへのひはりも−おつるはなかな


00979
未入力 正徹 (xxx)

春山や色音をかくす明くれに花も百千の鳥そこもれる

はるやまや−いろねをかくす−あけくれに−はなもももちの−とりそこもれる


00980
未入力 正徹 (xxx)

かひやなき遠山もとの雲霞おりたつ田子のかへす嵐は

かひやなき−とほやまもとの−くもかすみ−おりたつたこの−かへすあらしは


00981
未入力 正徹 (xxx)

山路行く夕のあらし松にかれ花こそあらめしら雲の宿

やまちゆく−ゆふへのあらし−まつにかれ−はなこそあらめ−しらくものやと


00982
未入力 正徹 (xxx)

しかのうらの霞をしのきいまもさそ山立ちのほる五色の雲

しかのうらの−かすみをしのき−いまもさそ−やまたちのほる−いついろのくも


00983
未入力 正徹 (xxx)

松の藤岩もとつつし下わらひ山をさなから折りやつす比

まつのふち−いはもとつつし−したわらひ−やまをさなから−をりやつすころ


00984
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降る雪もしはしな消えそ春たにも猶花さかぬいささむら竹

ふるゆきも−しはしなきえそ−はるたにも−なほはなさかぬ−いささむらたけ


00985
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春は先あらすきかへす小山田のすくなき水に蛙なくなり

はるはまつ−あらすきかへす−をやまたの−すくなきみつに−かはつなくなり


00986
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野へとほくもゆる千草のうす緑かすむ夕の松むしもかな

のへとほく−もゆるちくさの−うすみとり−かすむゆふへの−まつむしもかな


00987
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影もらぬ月のかりねの花の宿霞の光明けてかへらむ

かけもらぬ−つきのかりねの−はなのやと−かすみのひかり−あけてかへらむ


00988
未入力 正徹 (xxx)

松の上に春たちきてや千世の宿今朝よりしめて霞みしくらん

まつのうへに−はるたちきてや−ちよのやと−けさよりしめて−かすみしくらむ


00989
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夕ま暮野かひの牛は歩みきてかすめる道に逢ふ人もなし

ゆふまくれ−のかひのうしは−あゆみきて−かすめるみちに−あふひともなし


00990
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夕間暮春の野かひのうしとたに住むよをしらてたてる哀さ

ゆふまくれ−はるののかひの−うしとたに−すむよをしらて−たてるあはれさ


00991
未入力 正徹 (xxx)

たのめつる人は春の夜暮れやらて先まちとほの入会の声

たのめつる−ひとははるのよ−くれやらて−まつまちとほの−いりあひのこゑ


00992
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小泊瀬や川せに嶺の灯も落ちたる鐘そかすみあらそふ

をはつせや−かはせにみねの−ともしひも−おちたるかねそ−かすみあらそふ


00993
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夕霞なほこもり江に立ちこめぬ春ははつせの外よりや行く

ゆふかすみ−なほこもりえに−たちこめぬ−はるははつせの−ほかよりやゆく


00994
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川上の浪のこゑさへかすむなり月の笠置の山寺のかね

かはかみの−なみのこゑさへ−かすむなり−つきのかさきの−やまてらのかね


00995
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野へにしく霞のもすそたれ引くも雲そかさしの山桜花

のへにしく−かすみのもすそ−たれひくも−くもそかさしの−やまさくらはな


00996
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夕日さす霞の袖も立ちましり友とそあそふ野への糸ゆふ

ゆふひさす−かすみのそても−たちましり−ともとそあそふ−のへのいとゆふ


00997
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山もとやかすむ木の間をたえたえにかかれていつる春の川浪

やまもとや−かすむこのまを−たえたえに−かかれていつる−はるのかはなみ


00998
未入力 正徹 (xxx)

山こえて千里をみれは朝霞さわくはさらに浦風そ吹く

やまこえて−ちさとをみれは−あさかすみ−さわくはさらに−うらかせそふく


00999
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花ゆゑに見し雲雪の跡もなしあすや宿もる春の古郷

はなゆゑに−みしくもゆきの−あともなし−あすややともる−はるのふるさと


01000
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うらわかき此手柏をおほふかひなら山桜あらしにそちる

うらわかき−このてかしはを−おほふかひ−ならやまさくら−あらしにそちる


01001
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しかの山ここや聖のあとならむ霞にゆらく玉のを柳

しかのやま−ここやひしりの−あとならむ−かすみにゆらく−たまのをやなき


01002
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待ちもせぬしつ山かつの家さくらちるををしまぬ春や馴れけん

まちもせぬ−しつやまかつの−いへさくら−ちるををしまぬ−はるやなれけむ


01003
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春をへて身は住みなから山なしの花にかりなる此世をそしる

はるをへて−みはすみなから−やまなしの−はなにかりなる−このよをそしる


01004
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氷ゐし竹のほそ水音たてて軒はの山にかすむ梅かか

こほりゐし−たけのほそみつ−おとたてて−のきはのやまに−かすむうめかか


01005
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人はこて霞みそわたる足引の山さくら戸の前のたな橋

ひとはこて−かすみそわたる−あしひきの−やまさくらとの−まへのたなはし


01006
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風さむしまた初春の雲とみてかへすなうつむ花の荒小田

かせさむし−またはつはるの−くもとみて−かへすなうつむ−はなのあらをた


01007
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もる人はかりほも今はつくる田の苗見ぬ程の鳥いとふとて

もるひとは−かりほもいまは−つくるたの−なへみぬほとの−とりいとふとて


01008
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ひなの空長路くるしき花の陰あひやとりせよ春の山人

ひなのそら−なかちくるしき−はなのかけ−あひやとりせよ−はるのやまひと


01009
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いかかねん春のみなとの山桜浦風にほふ梶のまくらは

いかかねむ−はるのみなとの−やまさくら−うらかせにほふ−かちのまくらは


01010
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かさなるを春の初そおとろかし今はうからぬ老の年かな

かさなるを−はるのはしめそ−おとろかし−いまはうからぬ−おいのとしかな


01011
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おろかにも野への雲雀に事よせてあからぬ道を何学ひけん

おろかにも−のへのひはりに−ことよせて−あからぬみちを−なにまなひけむ


01012
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いつの代かねこし北野の神路山したつ岩ほに老松の風

いつのよか−ねこしきたのの−かみちやま−したついはほに−おいまつのかせ


01013
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久堅の神代のままに春の袖ふりさけみよと霞む空かな

ひさかたの−かみよのままに−はるのそて−ふりさけみよと−かすむそらかな


01014
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梅かえにかつ見え初めて草も木も御法の花にひもそとけ行く

うめかえに−かつみえそめて−くさもきも−みのりのはなに−ひもそとけゆく


01015
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待惜みさき散る花のふる郷や本のさとりの都なるらん

まちをしみ−さきちるはなの−ふるさとや−もとのさとりの−みやこなるらむ


01016
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をさまれといふは中中立ちかへり事新しき御代の年かな

をさまれと−いふはなかなか−たちかへり−ことあたらしき−みよのとしかな


01017
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今年より今年よりとそいはれけるねかひおほかる世をいはふとて

ことしより−ことしよりとそ−いはれける−ねかひおほかる−よをいはふとて


01018
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豊年の春としらする民の戸を明けてや今夜雪をみるらん

とよとしの−はるとしらする−たみのとを−あけてやこよひ−ゆきをみるらむ


01019
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うちむれていさみにゆかん諸人もいさみある世のけふの白馬

うちむれて−いさみにゆかむ−もろひとも−いさみあるよの−けふのあをうま


01020
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諸人の春の初のことふきに行末あへる御代の年かな

もろひとの−はるのはしめの−ことふきに−ゆくすゑあへる−みよのとしかな


01021
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山さくらむかふ硯の水の上にちらんこと葉の花そすくなき

やまさくら−むかふすすりの−みつのうへに−ちらむことはの−はなそすくなき


01022
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霞むなりいつくの花のおくよりか匂にもれて鐘きこゆらん

かすむなり−いつくのはなの−おくよりか−にほひにもれて−かねきこゆらむ


01023
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百敷にのほるや春のつかさめし筆のつかとる人もかしこし

ももしきに−のほるやはるの−つかさめし−ふてのつかとる−ひともかしこし


01024
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新桑の木の目は春のまゆこもりいふせくもあらす遊ふ糸ゆふ

にひくはの−このめははるの−まゆこもり−いふせくもあらす−あそふいとゆふ


01025
未入力 正徹 (xxx)

見すもあらぬ心にとふもこたへぬは旅ねむなしき春のよの夢

みすもあらぬ−こころにとふも−こたへぬは−たひねむなしき−はるのよのゆめ


01026
未入力 正徹 (xxx)

春の夜のみしかくもゆる灯の色さへかへの草となり行く

はるのよの−みしかくもゆる−ともしひの−いろさへかへの−くさとなりゆく


01027
未入力 正徹 (xxx)

すか莚なかく成行く日にそへてしきしのふ夜の夢の短さ

すかむしろ−なかくなりゆく−ひにそへて−しきしのふよの−ゆめのみしかさ


01028
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最上川岸の柳のいな莚夢はよそなる春の舟をさ

もかみかは−きしのやなきの−いなむしろ−ゆめはよそなる−はるのふなをさ


01029
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宇治川の車にかけし行末とや苗代水もめくりきぬらん

うちかはの−くるまにかけし−ゆくへとや−なはしろみつも−めくりきぬらむ


01030
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閨ちかく梅かかすなり鴬もおきいつる花の床や立ちうき

ねやちかく−うめかかすなり−うくひすも−おきいつるはなの−とこやたちうき


01031
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浪の上に春をしたふやあまを舟空にもさしてつるる雁かね

なみのうへに−はるをしたふや−あまをふね−そらにもさして−つるるかりかね


01032
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うゑてこそさくに逢ひぬれ昔せしわか兼言の春の初花

うゑてこそ−さくにあひぬれ−むかしせし−わかかねことの−はるのはつはな


01033
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吉野山あかぬ心をしをりにてわけ入る花は見ぬかたもなし

よしのやま−あかぬこころを−しをりにて−わけいるはなは−みぬかたもなし


01034
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さく花の陰まてゆかぬ衣手に匂ひにあまる春の山風

さくはなの−かけまてゆかぬ−ころもてに−にほひにあまる−はるのやまかせ


01035
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たちそははやかてを消えよ白雲にまかへはつへき山桜かは

たちそはは−やかてをきえよ−しらくもに−まかへはつへき−やまさくらかは


01036
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けふも又春はうき世の外にきてあへる花かとなかめくらしつ

けふもまた−はるはうきよの−ほかにきて−あへるはなかと−なかめくらしつ


01037
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ちらぬまも枝に青葉のかすそひて盛過行く花の色かな

ちらぬまも−えたにあをはの−かすそひて−さかりすきゆく−はなのいろかな


01038
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よきて吹く風はありとも心からととまらしとや花のちるらん

よきてふく−かせはありとも−こころから−ととまらしとや−はなのちるらむ


01039
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空かけて雲のかけはしわたるなりさくや吉野と小泊瀬の花

そらかけて−くものかけはし−わたるなり−さくやよしのと−をはつせのはな


01040
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此世にてみてるはくるし桜花さきそろはぬを盛とや見ん

このよにて−みてるはくるし−さくらはな−さきそろはぬを−さかりとやみむ


01041
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跡とめぬ雲にまかふにしるかりきうき世に花は久しからしと

あととめぬ−くもにまかふに−しるかりき−うきよにはなは−ひさしからしと


01042
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人とはぬしかの花その昔たにあれしもしらすさける春かな

ひととはぬ−しかのはなその−むかしたに−あれしもしらす−さけるはるかな


01043
未入力 正徹 (xxx)

せめてふけ花の手枕よのつねのすきまの風と思ふはかりは

せめてふけ−はなのたまくら−よのつねの−すきまのかせと−おもふはかりは


01044
未入力 正徹 (xxx)

さのみなとうき夕暮そみし花のかたみの雲をちらす山風

さのみなと−うきゆふくれそ−みしはなの−かたみのくもを−ちらすやまかせ


01045
未入力 正徹 (xxx)

めかれせぬいつの人まも時過きてうつろひはつる花の春風

めかれせぬ−いつのひとまも−ときすきて−うつろひはつる−はなのはるかせ


01046
未入力 正徹 (xxx)

高ねなる花の香さそふ夕風も今朝よりふかき御吉のの山

たかねなる−はなのかさそふ−ゆふかせも−けさよりふかき−みよしののやま


01047
未入力 正徹 (xxx)

咲くままに花しちらすは白雲の消えせぬ年を立ちやかさねん

さくままに−はなしちらすは−しらくもの−きえせぬとしを−たちやかさねむ


01048
未入力 正徹 (xxx)

物ことにおとろふる世は色もかもむかしの花の程やなからむ

ものことに−おとろふるよは−いろもかも−むかしのはなの−ほとやなからむ


01049
未入力 正徹 (xxx)

又そみる花も今年は老か世に開きあひかたくさそおもふらん

またそみる−はなもことしは−おいかよに−さきあひかたく−さそおもふらむ


01050
未入力 正徹 (xxx)

見てもしれ花もうき世に宿かりて風まつ程の春の盛を

みてもしれ−はなもうきよに−やとかりて−かせまつほとの−はるのさかりを


01051
未入力 正徹 (xxx)

年年に老のすかたも面なれて花にはつへき心たになし

としとしに−おいのすかたも−おもなれて−はなにはつへき−こころたになし


01052
未入力 正徹 (xxx)

花の色もなとか此世におはさらむ空に月日の光をそみる

はなのいろも−なとかこのよに−おはさらむ−そらにつきひの−ひかりをそみる


01053
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さくとたにおもひ出さて忘れなん花のうき世の春の山風

さくとたに−おもひいたさて−わすれなむ−はなのうきよの−はるのやまかせ


01054
未入力 正徹 (xxx)

木のもとに朽ちゆく色をみせしとや遠くも風の花さそふらん

このもとに−くちゆくいろを−みせしとや−とほくもかせの−はなさそふらむ


01055
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こゑはせよ花の木玉のよふこ鳥山路まよはす見ん人のため

こゑはせよ−はなのこたまの−よふことり−やまちまよはす−みむひとのため


01056
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ふりいてむ花の雪気は空晴れて梢にあらき春風そふく

ふりいてむ−はなのゆきけは−そらはれて−こすゑにあらき−はるかせそふく


01057
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枝かくす雲かさなりて高砂の松の木立そ花のままなる

えたかくす−くもかさなりて−たかさこの−まつのこたちそ−はなのままなる


01058
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花さかり誰も心は山にありておもひそよらぬ春のうらなみ

はなさかり−たれもこころは−やまにありて−おもひそよらぬ−はるのうらなみ


01059
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あまを舟初瀬しら浪をりかけて桜にたかき春の川風

あまをふね−はつせしらなみ−をりかけて−さくらにたかき−はるのかはかせ


01060
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網代木にいさよふ花の浪越えて八十うち山にちるさくらかな

あしろきに−いさよふはなの−なみこえて−やそうちやまに−ちるさくらかな


01061
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天つ空漕きゆく舟の白浪は散りかふ花に春の雁かね

あまつそら−こきゆくふねの−しらなみは−ちりかふはなに−はるのかりかね


01062
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此ころや色も匂も初瀬女かつくるゆふ花花にけたなむ

このころや−いろもにほひも−はつせめか−つくるゆふはな−はなにけたなむ


01063
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春はまたかた待つ比の山さくら枝をわけてや花もいそかむ

はるはまた−かたまつころの−やまさくら−えたをわけてや−はなもいそかむ


01064
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待遠の花を心にかけよとや今朝嶺こえてきさらきの雲

まちとほの−はなをこころに−かけよとや−けさみねこえて−きさらきのくも


01065
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春はまた立ちそふ嶺の雪かけて花待遠にさゆるしら雲

はるはまた−たちそふみねの−ゆきかけて−はなまちとほに−さゆるしらくも


01066
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山さくら一木は匂へおそくとも待ちそろへたる花はなくとも

やまさくら−ひときはにほへ−おそくとも−まちそろへたる−はなはなくとも


01067
未入力 正徹 (xxx)

みなと舟おひてなきさのうきねより猶いそかるる山桜かな

みなとふね−おひてなきさの−うきねより−なほいそかるる−やまさくらかな


01068
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さきやらす雨もふらなんと花ゆゑにくもる契そ先待たれける

さきやらす−あめもふらなむと−はなゆゑに−くもるちきりそ−まつまたれける


01069
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さかぬまをいそく心のいく度か花も匂はぬ山路こゆらん

さかぬまを−いそくこころの−いくたひか−はなもにほはぬ−やまちこゆらむ


01070
未入力 正徹 (xxx)

おそくとふ人ならはこそ待佗ひて恨みもやらめ春のはつ花

おそくとふ−ひとならはこそ−まちわひて−うらみもやらめ−はるのはつはな


01071
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さもあらぬ心なかさの行末とや老いても花の猶またるらん

さもあらぬ−こころなかさの−ゆくへとや−おいてもはなの−なほまたるらむ


01072
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いそかすや人まつさ夜の更かたにならひ久しき花の日数は

いそかすや−ひとまつさよの−ふけかたに−ならひひさしき−はなのひかすは


01073
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さく花を待つとせしまの有明にたくひつれなき峰の白雲

さくはなを−まつとせしまの−ありあけに−たくひつれなき−みねのしらくも


01074
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さくら咲く遠山守の使しも道さまたけの花やみるらん

さくらさく−とほやまもりの−つかひしも−みちさまたけの−はなやみるらむ


01075
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又そあらん花待つ山の時鳥色音をかへむ心つくしは

またそあらむ−はなまつやまの−ほとときす−いろねをかへむ−こころつくしは


01076
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尋ねしよいつくの春も桜花待かね山に秋風そふく

たつねしよ−いつくのはるも−さくらはな−まちかねやまに−あきかせそふく


01077
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けふ見てのおなし山路の時鳥待ちかさぬへき花の陰かな

けふみての−おなしやまちの−ほとときす−まちかさぬへき−はなのかけかな


01078
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偽の雲のみ引きてかさなれと嶺のさくらそ下につれなき

いつはりの−くものみひきて−かさなれと−みねのさくらそ−したにつれなき


01079
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つれなさをならひやすらむ初桜花まつ春の山郭公

つれなさを−ならひやすらむ−はつさくら−はなまつはるの−やまほとときす


01080
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山さくらたのめてかかるしら雲もまた偽のはれねゆふくれ

やまさくら−たのめてかかる−しらくもも−またいつはりの−はれねゆふくれ


01081
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いつまてか花よりも猶待とほに老の命をのへていそかむ

いつまてか−はなよりもなほ−まちとほに−おいのいのちを−のへていそかむ


01082
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けふもみすうきたる雲の足たゆく急雨はこふ山桜かな

けふもみす−うきたるくもの−あしたゆく−むらさめはこふ−やまさくらかな


01083
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いく春の花の下紐なかき日にめくりあひては心とくらむ

いくはるの−はなのしたひも−なかきひに−めくりあひては−こころとくらむ


01084
未入力 正徹 (xxx)

時をしる一木なからも心とき枝にや花の今朝はみゆらん

ときをしる−ひときなからも−こころとき−えたにやはなの−けさはみゆらむ


01085
未入力 正徹 (xxx)

匂ふなり花の下紐なかき日にかつとけわたる春の山かせ

にほふなり−はなのしたひも−なかきひに−かつとけわたる−はるのやまかせ


01086
未入力 正徹 (xxx)

開出てぬかそいろとなる雨をうけて先このかみの春の初花

さきいてぬ−かそいろとなる−あめをうけて−まつこのかみの−はるのはつはな


01087
未入力 正徹 (xxx)

とくおそく世はさまさまに待つ人も心そろはぬ花の下ひも

とくおそく−よはさまさまに−まつひとも−こころそろはぬ−はなのしたひも


01088
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過きにけりおもへは程も夏桜去年見し山の春の初花

すきにけり−おもへはほとも−なつさくら−こそみしやまの−はるのはつはな


01089
未入力 正徹 (xxx)

見すしらすおよはぬ里に一枝もあまりて匂へ初さくら花

みすしらす−およはぬさとに−ひとえたも−あまりてにほへ−はつさくらはな


01090
未入力 正徹 (xxx)

消えはてしたかねのみ雪又見えて世はのとけきや春の初花

きえはてし−たかねのみゆき−またみえて−よはのとけきや−はるのはつはな


01091
未入力 正徹 (xxx)

開きいつる花の色香の初染は人の心と春やしるらむ

さきいつる−はなのいろかの−はつそめは−ひとのこころと−はるやしるらむ


01092
未入力 正徹 (xxx)

さく花にあへるを春の光とや今朝は霞も色にそふらん

さくはなに−あへるをはるの−ひかりとや−けさはかすみも−いろにそふらむ


01093
未入力 正徹 (xxx)

初はなにたつや霞のうす衣つま吹きかへす春の山風

はつはなに−たつやかすみの−うすころも−つまふきかへす−はるのやまかせ


01094
未入力 正徹 (xxx)

山さくら花の下紐ときかけて苔の莚に誰をまつらん

やまさくら−はなのしたひも−ときかけて−こけのむしろに−たれをまつらむ


01095
未入力 正徹 (xxx)

しら雲の八重山遠く匂ふなり逢ふをかきりの花の春風

しらくもの−やへやまとほく−にほふなり−あふをかきりの−はなのはるかせ


01096
未入力 正徹 (xxx)

桜かり舟出してけり此ままに蓬かしまの花やたつねん

さくらかり−ふなてしてけり−このままに−よもきかしまの−はなやたつねむ


01097
未入力 正徹 (xxx)

おくれ猶また花の香もととまらぬ山路暮行く袖の月影

おくれなほ−またはなのかも−ととまらぬ−やまちくれゆく−そてのつきかけ


01098
未入力 正徹 (xxx)

山さくら初かり衣たつ日より花の香むかふ袖のはる風

やまさくら−はつかりころも−たつひより−はなのかむかふ−そてのはるかせ


01099
未入力 正徹 (xxx)

山ふかく花にあはすは帰らしと我そ入りにし雲のかよひち

やまふかく−はなにあはすは−かへらしと−われそいりにし−くものかよひち


01100
未入力 正徹 (xxx)

花の香の袖に匂ふをしるへにて霞にまよふもすの草茎

はなのかの−そてににほふを−しるへにて−かすみにまよふ−もすのくさくき


01101
未入力 正徹 (xxx)

行くもをし遠山桜めにかけていそくも浪の花の舟路は

ゆくもをし−とほやまさくら−めにかけて−いそくもなみの−はなのふなちは


01102
未入力 正徹 (xxx)

さく花のありかやいつこ白雲の空にをしへよかよふまほろし

さくはなの−ありかやいつこ−しらくもの−そらにをしへよ−かよふまほろし


01103
未入力 正徹 (xxx)

おくる霞のま袖ふりはへて山路にあふも花のかそする

かせおくる−かすみのまそて−ふりはへて−やまちにあふも−はなのかそする


01104
未入力 正徹 (xxx)

さくら花つつく山路を分行けは今朝そ雲井をかよふまほろし

さくらはな−つつくやまちを−わけゆけは−けさそくもゐを−かよふまほろし


01105
未入力 正徹 (xxx)

尋行くいつくの花ももろこしの吉野の奥にさゆる白雲

たつねゆく−いつくのはなも−もろこしの−よしののおくに−さゆるしらくも


01106
未入力 正徹 (xxx)

もろこしの吉野とおもふ花もなし秋津島ねをつくす山路に

もろこしの−よしのとおもふ−はなもなし−あきつしまねを−つくすやまちに


01107
未入力 正徹 (xxx)

さく花のやとりそ遠き分けつくす山路の鳥の声にまかせて

さくはなの−やとりそとほき−わけつくす−やまちのとりの−こゑにまかせて


01108
未入力 正徹 (xxx)

それなからむなしき雲に分暮れぬ有りてつれなき山さくらかな

それなから−むなしきくもに−わけくれぬ−ありてつれなき−やまさくらかな


01109
未入力 正徹 (xxx)

明日や見ん山ふみしても今夜まて桜にあらぬ雲の下ふし

あすやみむ−やまふみしても−こよひまて−さくらにあらぬ−くものしたふし


01110
未入力 正徹 (xxx)

暁の雲にあへるをしるへにて花を高根の月に尋ねん

あかつきの−くもにあへるを−しるへにて−はなをたかねの−つきにたつねむ


01111
未入力 正徹 (xxx)

おとろふる我か身の春の面影にのこすをうしと花やいとはん

おとろふる−わかみのはるの−おもかけに−のこすをうしと−はなやいとはむ


01112
未入力 正徹 (xxx)

軒はまてかすめる花の朝くもりあかてや花にめをきらすらん

のきはまて−かすめるはなの−あさくもり−あかてやはなに−めをきらすらむ


01113
未入力 正徹 (xxx)

こゑそうき花をみるめのまへわたりかこたんとすれは過くる松風

こゑそうき−はなをみるめの−まへわたり−かこたむとすれは−すくるまつかせ


01114
未入力 正徹 (xxx)

いにしへもなれしこと葉の花の陰色そふ春の友にあひぬる

いにしへも−なれしことはの−はなのかけ−いろそふはるの−ともにあひぬる


01115
未入力 正徹 (xxx)

二なき契もしらす山さくらなとをちこちの人に見ゆらん

ふたつなき−ちきりもしらす−やまさくら−なとをちこちの−ひとにみゆらむ


01116
未入力 正徹 (xxx)

石はしる滝ある花のをられすはみつともいはし見ぬ人のため

いしはしる−たきあるはなの−をられすは−みつともいはし−みぬひとのため


01117
未入力 正徹 (xxx)

花をのみみぬ人おほし朝霞たちましはるも都なりけり

はなをのみ−みぬひとおほし−あさかすみ−たちましはるも−みやこなりけり


01118
未入力 正徹 (xxx)

山桜花に見るめをかけぬとやうら風ならて浪はちるらん

やまさくら−はなにみるめを−かけぬとや−うらかせならて−なみはちるらむ


01119
未入力 正徹 (xxx)

人ならぬ木のめもなへてみる世とや太山の春の花はさくらん

ひとならぬ−このめもなへて−みるよとや−みやまのはるの−はなはさくらむ


01120
未入力 正徹 (xxx)

しるらめや去年見し花の春の友また世にあるもつれぬ習を

しるらめや−こそみしはなの−はるのとも−またよにあるも−つれぬならひを


01121
未入力 正徹 (xxx)

さくら花いかにあひみる心ともしらてや人にさきてちるらん

さくらはな−いかにあひみる−こころとも−しらてやひとに−さきてちるらむ


01122
未入力 正徹 (xxx)

尋ねきてけふそしつかにむかひみる千世もへぬへき花盛かな

たつねきて−けふそしつかに−むかひみる−ちよもへぬへき−はなさかりかな


01123
未入力 正徹 (xxx)

さやかなる色こそくもれ桜花みね世の春をおもふ涙に

さやかなる−いろこそくもれ−さくらはな−みねよのはるを−おもふなみたに


01124
未入力 正徹 (xxx)

霞みくる老の空めといふ事はたた雲とみる花の色かも

かすみくる−おいのそらめと−いふことは−たたくもとみる−はなのいろかも


01125
未入力 正徹 (xxx)

おも影も梢の月にかすむなり花に見し世の春の夜の夢

おもかけも−こすゑのつきに−かすむなり−はなにみしよの−はるのよのゆめ


01126
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日をかさねなれにし後はめを開きめを閉つれとも花そみえける

ひをかさね−なれにしのちは−めをひらき−めをとつれとも−はなそみえける


01127
未入力 正徹 (xxx)

山桜にほひも色もわかものとみるらん霞む木のもとの宿

やまさくら−にほひもいろも−わかものと−みるらむかすむ−このもとのやと


01128
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吹きはらふ花の朝露置きもあへす消えて世にふる雪の山風

ふきはらふ−はなのあさつゆ−おきもあへす−きえてよにふる−ゆきのやまかせ


01129
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ふかき夜の村雨かかる朝しめりまた開きしらぬ花の色かな

ふかきよの−むらさめかかる−あさしめり−またさきしらぬ−はなのいろかな


01130
未入力 正徹 (xxx)

露分けて山桜戸を出つる日のまれなる色そ花にうつろふ

つゆわけて−やまさくらとを−いつるひの−まれなるいろそ−はなにうつろふ


01131
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夕はえの色なる露も秋にして花そ身にしむ宿の春風

ゆふはえの−いろなるつゆも−あきにして−はなそみにしむ−やとのはるかせ


01132
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春も猶ひとりある人のいねかては月にかすめる花の下陰

はるもなほ−ひとりあるひとの−いねかては−つきにかすめる−はなのしたかけ


01133
未入力 正徹 (xxx)

見すや人木立も朽ちてかたふきぬ花こそ老を隔てさりけれ

みすやひと−こたちもくちて−かたふきぬ−はなこそおいを−へたてさりけれ


01134
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けふさくらめかれせぬまもそふ老を思ひも出てぬ花の陰かな

けふさくら−めかれせぬまも−そふおいを−おもひもいてぬ−はなのかけかな


01135
未入力 正徹 (xxx)

うゑし植ゑははや木高かれ山桜白雲まかふ花とみるまて

うゑしうゑは−はやこたかかれ−やまさくら−しらくもまかふ−はなとみるまて


01136
未入力 正徹 (xxx)

かたみとも見んともしらす老か世にたた花なれはうゑてけるかな

かたみとも−みむともしらす−おいかよに−たたはななれは−うゑてけるかな


01137
未入力 正徹 (xxx)

なからふる年をはならへ老か世にうゑおく花の行末の春

なからふる−としをはならへ−おいかよに−うゑおくはなの−ゆくすゑのはる


01138
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さくら花うゑけん時のしるしさへふる野の杉や生ひかはるらん

さくらはな−うゑけむときの−しるしさへ−ふるののすきや−おひかはるらむ


01139
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植ゑおくもよしなしさくら末の世の人のおもひの種をあまたに

うゑおくも−よしなしさくら−すゑのよの−ひとのおもひの−たねをあまたに


01140
未入力 正徹 (xxx)

誰もとへ人もおもひの種うゑし花もむくらの宿の夕暮

たれもとへ−ひともおもひの−たねうゑし−はなもむくらの−やとのゆふくれ


01141
未入力 正徹 (xxx)

うきなから春にあひみし老か身の年をやうゑて花にゆつらん

うきなから−はるにあひみし−おいかみの−としをやうゑて−はなにゆつらむ


01142
未入力 正徹 (xxx)

身をかへてみるともしらし桜花老いてうゑおく行末のはる

みをかへて−みるともしらし−さくらはな−おいてうゑおく−ゆくすゑのはる


01143
未入力 正徹 (xxx)

立ちかへり花の都のつとにおきてみるさへなれし友そ恋しき

たちかへり−はなのみやこの−つとにおきて−みるさへなれし−ともそこひしき


01144
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此春そかさしても見む桜花けには四十の老そかくれん

このはるそ−かさしてもみむ−さくらはな−けにはよそちの−おいそかくれむ


01145
未入力 正徹 (xxx)

かくるらむよそめそしらぬさくら花折りかさしても老は忘れす

かくるらむ−よそめそしらぬ−さくらはな−をりかさしても−おいはわすれす


01146
未入力 正徹 (xxx)

捨てしより心まかせの身にしあれと花ゆゑ行かぬかたそおほかる

すてしより−こころまかせの−みにしあれと−はなゆゑゆかぬ−かたそおほかる


01147
未入力 正徹 (xxx)

折りてさす花そ久しき玉たれのかめの上なる山さくらかも

をりてさす−はなそひさしき−たまたれの−かめのうへなる−やまさくらかも


01148
未入力 正徹 (xxx)

思ふともあはれ見ぬ世の春の花あかぬ色香や我を忘れむ

おもふとも−あはれみぬよの−はるのはな−あかぬいろかや−われをわすれむ


01149
未入力 正徹 (xxx)

さきにほふ花の春日の影もよし夜よしといひし月は霞みて

さきにほふ−はなのはるひの−かけもよし−よよしといひし−つきはかすみて


01150
未入力 正徹 (xxx)

散りちらすわくるま袖に匂ふなりさらぬかさしの花の山ふみ

ちりちらす−わくるまそてに−にほふなり−さらぬかさしの−はなのやまふみ


01151
未入力 正徹 (xxx)

梓弓この家さくら末たわに心ひかるる花さかりかな

あつさゆみ−このいへさくら−すゑたわに−こころひかるる−はなさかりかな


01152
未入力 正徹 (xxx)

ほとそなき散る桜あれは開くといふことのはたかふ花の日数は

ほとそなき−ちるさくらあれは−さくといふ−ことのはたかふ−はなのひかすは


01153
未入力 正徹 (xxx)

山さくら折りかさしても花は花老は老とやかくれなからん

やまさくら−をりかさしても−はなははな−おいはおいとや−かくれなからむ


01154
未入力 正徹 (xxx)

老か身をかくさんためと成りぬへし手折らて花を飽くまてやみん

おいかみを−かくさむためと−なりぬへし−たをらてはなを−あくまてやみむ


01155
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく花は今年も春の夢見はてん月にきゆる白雲

あらしふく−はなはことしも−はるのゆめ−みはてむつきに−きゆるしらくも


01156
未入力 正徹 (xxx)

山路行くたもとににほふ花の枝を朝露なから折りてかささむ

やまちゆく−たもとににほふ−はなのえを−あさつゆなから−をりてかささむ


01157
未入力 正徹 (xxx)

手折りつつかさす桜の花のかをうつるは老の袖にいとはす

たをりつつ−かさすさくらの−はなのかを−うつるはおいの−そてにいとはす


01158
未入力 正徹 (xxx)

をとめ子かかさしの桜かつ散りて雲の袖ふる山風そふく

をとめこか−かさしのさくら−かつちりて−くものそてふる−やまかせそふく


01159
未入力 正徹 (xxx)

開きみちて春はありとしある人のかさしの花の都ならすや

さきみちて−はるはありとし−あるひとの−かさしのはなの−みやこならすや


01160
未入力 正徹 (xxx)

あすか川花のかふれて行く袖の匂の淵よせになかはりそ

あすかかは−はなのかふれて−ゆくそての−にほひのふちよ−せになかはりそ


01161
未入力 正徹 (xxx)

心なく分入る苔の衣たに中にあらすと花やいとはむ

こころなく−わけいるこけの−ころもたに−なかにあらすと−はなやいとはむ


01162
未入力 正徹 (xxx)

ちらはうし雲をいく村あつめてか花の市なす春の山踏

ちらはうし−くもをいくむら−あつめてか−はなのいちなす−はるのやまふみ


01163
未入力 正徹 (xxx)

友と見て市のことくに立つ雲をいさわけいらん花さくら人

ともとみて−いちのことくに−たつくもを−いさわけいらむ−はなさくらひと


01164
未入力 正徹 (xxx)

山かつの行く袖すりの花のかをいとふにもあらししめむともせし

やまかつの−ゆくそてすりの−はなのかを−いとふにもあらし−しめむともせし


01165
未入力 正徹 (xxx)

しるらめや哀むかしの春の花身も盛にてみしそ忘れぬ

しるらめや−あはれむかしの−はるのはな−みもさかりにて−みしそわすれぬ


01166
未入力 正徹 (xxx)

墨染に打ちやつすとも色みえぬにほひを花の袖とまかへん

すみそめに−うちやつすとも−いろみえぬ−にほひをはなの−そてとまかへむ


01167
未入力 正徹 (xxx)

身におはぬ花をはしひて手折るとも猶家つととえこそ思はね

みにおはぬ−はなをはしひて−たをるとも−なほいへつとと−えこそおもはね


01168
未入力 正徹 (xxx)

手折りつつかさす桜の色にこそいとと老いぬる年はかくれね

たをりつつ−かさすさくらの−いろにこそ−いととおいぬる−としはかくれね


01169
未入力 正徹 (xxx)

心なくたをれる花の哀をもしらぬ翁といとと成行く

こころなく−たをれるはなの−あはれをも−しらぬおきなと−いととなりゆく


01170
未入力 正徹 (xxx)

石はしる滝をしのきて手折りこし枝とや花の浪もちるらん

いしはしる−たきをしのきて−たをりこし−えたとやはなの−なみもちるらむ


01171
未入力 正徹 (xxx)

契あれやたをれる枝にのこりきてわか閏にとく花の下ひも

ちきりあれや−たをれるえたに−のこりきて−わかねやにとく−はなのしたひも


01172
未入力 正徹 (xxx)

折りかさす花も時のまおとろへて果はかくれぬ老の春かな

をりかさす−はなもときのま−おとろへて−はてはかくれぬ−おいのはるかな


01173
未入力 正徹 (xxx)

さくら花折りてかささは中中に老いぬる人としるからむかも

さくらはな−をりてかささは−なかなかに−おいぬるひとと−しるからむかも


01174
未入力 正徹 (xxx)

色も香もまれなる花をかた人に頼みてまつもとはぬ宿かな

いろもかも−まれなるはなを−かたひとに−たのみてまつも−とはぬやとかな


01175
未入力 正徹 (xxx)

木のもとにけふうちむれてめかれせぬ花は誰にか心そむらん

このもとに−けふうちむれて−めかれせぬ−はなはたれにか−こころそむらむ


01176
未入力 正徹 (xxx)

やとりかす花のことの葉ならなくに旅ねしつけき松風の声

やとりかす−はなのことのは−ならなくに−たひねしつけき−まつかせのこゑ


01177
未入力 正徹 (xxx)

あかて行く花にかくれとかけさそふ岩まの水やさかのほるらん

あかてゆく−はなにかくれと−かけさそふ−いはまのみつや−さかのはるらむ


01178
未入力 正徹 (xxx)

われも見て花もろともに老いぬれと若枝たつなり行末の春

われもみて−はなもろともに−おいぬれと−わかえたつなり−ゆくすゑのはる


01179
未入力 正徹 (xxx)

盛なる花のよはひを思ふには老をや春の友とみさらん

さかりなる−はなのよはひを−おもふには−おいをやはるの−ともとみさらむ


01180
未入力 正徹 (xxx)

春をへし花はすかたもおとろへすわれをやもとの友とみさらん

はるをへし−はなはすかたも−おとろへす−われをやもとの−ともとみさらむ


01181
未入力 正徹 (xxx)

老いぬれはいとふならひを咲く花の心もしらすなるる春かな

おいぬれは−いとふならひを−さくはなの−こころもしらす−なるるはるかな


01182
未入力 正徹 (xxx)

年ふとも花は春にやそひはてんわかれぬへくも老いにけるかな

としふとも−はなははるにや−そひはてむ−わかれぬへくも−おいにけるかな


01183
未入力 正徹 (xxx)

ちる花に夢の枕はならへねと友なひきてし身とそ驚く

ちるはなに−ゆめのまくらは−ならへねと−ともなひきてし−みとそおとろく


01184
未入力 正徹 (xxx)

老か身を花は友とも思はてやかつは散行く庭となるらん

おいかみを−はなはともとも−おもはてや−かつはちりゆく−にはとなるらむ


01185
未入力 正徹 (xxx)

忘れなむ花に日かすのへにけるもいさしら雪の宿そふる郷

わすれなむ−はなにひかすの−へにけるも−いさしらゆきの−やとそふるさと


01186
未入力 正徹 (xxx)

尋ねきてちるまて花を水の江のうら島か子の世をやへにけん

たつねきて−ちるまてはなを−みつのえの−うらしまかこの−よをやへにけむ


01187
未入力 正徹 (xxx)

散るまては花にかへらし春の風我か家さくら咲くと告けすは

ちるまては−はなにかへらし−はるのかせ−わかいへさくら−さくとつけすは


01188
未入力 正徹 (xxx)

帰らしなうつろふまての花の陰日数かそへて人はまつとも

かへらしな−うつろふまての−はなのかけ−ひかすかそへて−ひとはまつとも


01189
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古郷を立ちぬる月のけふ出ててなれしもあかぬ花の陰かな

ふるさとを−たちぬるつきの−けふいてて−なれしもあかぬ−はなのかけかな


01190
未入力 正徹 (xxx)

あれまくも誰惜むらん花の陰日数うつろふ春のふる郷

あれまくも−たれをしむらむ−はなのかけ−ひかすうつろふ−はるのふるさと


01191
未入力 正徹 (xxx)

見る人の心の色とちる花のうつれはかはる日数をそつむ

みるひとの−こころのいろと−ちるはなの−うつれはかはる−ひかすをそつむ


01192
未入力 正徹 (xxx)

木のもとはうつろふ花の古郷にのこる日数や我を待つらん

このもとは−うつろふはなの−ふるさとに−のこるひかすや−われをまつらむ


01193
未入力 正徹 (xxx)

雪わくる山路まよふな花みつつ日をふる郷の春のよの夢

ゆきわくる−やまちまよふな−はなみつつ−ひをふるさとの−はるのよのゆめ


01194
未入力 正徹 (xxx)

暁のわかれもしらし朝霞花と春との中のころもは

あかつきの−わかれもしらし−あさかすみ−はなとはるとの−なかのころもは


01195
未入力 正徹 (xxx)

散過くる比しも花にのこる月いととつれなき在明の空

ちりすくる−ころしもはなに−のこるつき−いととつれなき−ありあけのそら


01196
未入力 正徹 (xxx)

桜花年にまれなる春をおきて時こそ有りけれ曙の空

さくらはな−としにまれなる−はるをおきて−ときこそありけれ−あけほののそら


01197
未入力 正徹 (xxx)

よのつねの鳥のさへつる声ならす此世にも似ぬ花の曙

よのつねの−とりのさへつる−こゑならす−このよにもにぬ−はなのあけほの


01198
未入力 正徹 (xxx)

光みぬ月ともわかす世は花の匂にかすむ春の明ほの

ひかりみぬ−つきともわかす−よははなの−にほひにかすむ−はるのあけほの


01199
未入力 正徹 (xxx)

山の色もうすき霞を匂にて明ほのいそく花鳥のこゑ

やまのいろも−うすきかすみを−にほひにて−あけほのいそく−はなとりのこゑ


01200
未入力 正徹 (xxx)

散らぬまと頼みやはせむ朝露の消えすはありとも花の下風

ちらぬまと−たのみやはせむ−あさつゆの−きえすはありとも−はなのしたかせ


01201
未入力 正徹 (xxx)

木のまよりいつる日影にみかくなり雲に玉ゐる花の朝露

このまより−いつるひかけに−みかくなり−くもにたまゐる−はなのあさつゆ


01202
未入力 正徹 (xxx)

香こそちれ露なき花の朝しめり枝うちなひく風ゆるくして

かこそちれ−つゆなきはなの−あさしめり−えたうちなひく−かせゆるくして


01203
未入力 正徹 (xxx)

みかけ猶朝露かすむ花のみに日数さしいつる春の白玉

みかけなほ−あさつゆかすむ−はなのみに−ひかすさしいつる−はるのしらたま


01204
未入力 正徹 (xxx)

山のはの花の梢にいつる日の朝露みかく影なかすみそ

やまのはの−はなのこすゑに−いつるひの−あさつゆみかく−かけなかすみそ


01205
未入力 正徹 (xxx)

山姫のあさ露分けて立ちいつるたもとか花のにほふ霞は

やまひめの−あさつゆわけて−たちいつる−たもとかはなの−にほふかすみは


01206
未入力 正徹 (xxx)

暮れやらてむへ山風も雪とふる花にやとらぬ入相のこゑ

くれやらて−うへやまかせも−ゆきとふる−はなにやとらぬ−いりあひのこゑ


01207
未入力 正徹 (xxx)

山さくら花吹きよわる夕嵐あすのなこりや猶のこすらん

やまさくら−はなふきよわる−ゆふあらし−あすのなこりや−なほのこすらむ


01208
未入力 正徹 (xxx)

墨染の夕かけ草の色もなし光にてらす花の木の本

すみそめの−ゆふかけくさの−いろもなし−ひかりにてらす−はなのこのもと


01209
未入力 正徹 (xxx)

花盛さやかにみかく星たにもまとほにかすむ春の夕やみ

はなさかり−さやかにみかく−ほしたにも−まとほにかすむ−はるのゆふやみ


01210
未入力 正徹 (xxx)

見し人の帰るや道にたとるらんたそかれ時の花の木の本

みしひとの−かへるやみちに−たとるらむ−たそかれときの−はなのこのもと


01211
未入力 正徹 (xxx)

色みえぬたそかれ時はかすめとも花はこたへぬ山風のこゑ

いろみえぬ−たそかれときは−かすめとも−はなはこたへぬ−やまかせのこゑ


01212
未入力 正徹 (xxx)

影みよと花の鏡を暮れぬまの梢にかけていつる月かな

かけみよと−はなのかかみを−くれぬまの−こすゑにかけて−いつるつきかな


01213
未入力 正徹 (xxx)

めくりあふ花の木のまの夕月夜又いつの世の春かかからむ

めくりあふ−はなのこのまの−ゆふつくよ−またいつのよの−はるかかからむ


01214
未入力 正徹 (xxx)

心あれや朧月夜の花の色の明くるををしむ霞はかりは

こころあれや−おほろつきよの−はなのいろの−あくるををしむ−かすみはかりは


01215
未入力 正徹 (xxx)

夜に広き夜はの嵐の花さかり心におほふ袖はせはくて

よにひろき−よはのあらしの−はなさかり−こころにおほふ−そてはせはくて


01216
未入力 正徹 (xxx)

花もさそよるの思ひの家桜いとへうき世の春の山風

はなもさそ−よるのおもひの−いへさくら−いとへうきよの−はるのやまかせ


01217
未入力 正徹 (xxx)

風ふけは花ちる山におもひ入る夢路の雪も深きよの空

かせふけは−はなちるやまに−おもひいる−ゆめちのゆきも−ふかきよのそら


01218
未入力 正徹 (xxx)

深き夜の花の木陰にそむけ置きてともにあはれむ春の灯

ふかきよの−はなのこかけに−そむけおきて−ともにあはれむ−はるのともしひ


01219
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木の本の雪に光をそへんとや朧月夜に花はちるらむ

このもとの−ゆきにひかりを−そへむとや−おほろつきよに−はなはちるらむ


01220
未入力 正徹 (xxx)

おのつからさくは雲井にすめるかな花の都の月の宮人

おのつから−さくはくもゐに−すめるかな−はなのみやこの−つきのみやひと


01221
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世は春の花にかすめる月のかに幾里人の袖のせはけむ

よははるの−はなにかすめる−つきのかに−いくさとひとの−そてのせはけむ


01222
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色そそふ月も木の間にうつりきて花の香つたふ在明の影

いろそそふ−つきもこのまに−うつりきて−はなのかつたふ−ありあけのかけ


01223
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光ありと見しは霞の空めにて木の間の月そ花に色そふ

ひかりありと−みしはかすみの−そらめにて−このまのつきそ−はなにいろそふ


01224
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色もかもけふを盛の花の枝ゆるくはかりの風たにもなし

いろもかも−けふをさかりの−はなのえた−ゆるくはかりの−かせたにもなし


01225
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さきてちる花のよはひも程なきを盛の色に心とめつつ

さきてちる−はなのよはひも−ほとなきを−さかりのいろに−こころとめつつ


01226
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庭の苔空のみとりもひとつにて花開きのほる春の白雲

にはのこけ−そらのみとりも−ひとつにて−はなさきのほる−はるのしらくも


01227
未入力 正徹 (xxx)

開きにほふ嶺のさくらの花かつらあかてそむかふ永き日くらし

さきにほふ−みねのさくらの−はなかつら−あかてそむかふ−なかきひくらし


01228
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今朝は猶見し白雲も高からす開きてかたふく峰の桜木

けさはなほ−みししらくもも−たかからす−さきてかたふく−みねのさくらき


01229
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雨風も心ある年の春なれや日数そちらぬ花にうつろふ

あめかせも−こころあるとしの−はるなれや−ひかすそちらぬ−はなにうつろふ


01230
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あらかねの土にも天つ白雲のたねはありける花さかりかな

あらかねの−つちにもあまつ−しらくもの−たねはありける−はなさかりかな


01231
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今年さく若木の桜行末の春にまさらん花をしそ思ふ

ことしさく−わかきのさくら−ゆくすゑの−はるにまさらむ−はなをしそおもふ


01232
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山風もにほひ色こき白雲のあつきはおくの花盛かも

やまかせも−にほひいろこき−しらくもの−あつきはおくの−はなさかりかも


01233
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花のえも風さへゆらく玉たれの簾にかかる庭の白雲

はなのえも−かせさへゆらく−たまたれの−すたれにかかる−にはのしらくも


01234
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桜さく山分衣袖の上に匂ひそおもきはなの下かせ

さくらさく−やまわけころも−そてのうへに−にほひそおもき−はなのしたかせ


01235
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露そちる花の色香をしめて行く山路の雲の中の衣手

つゆそちる−はなのいろかを−しめてゆく−やまちのくもの−なかのころもて


01236
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われそうきむかしの花の面影はいととさかりにかはるすかたを

われそうき−むかしのはなの−おもかけは−いととさかりに−かはるすかたを


01237
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風ふかぬ春日のとけみ開匂ふ花に心をあはせてそ見る

かせふかぬ−はるひのとけみ−さきにほふ−はなにこころを−あはせてそみる


01238
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身にしめて春の日くらしむかふとや花の心に秋風の吹く

みにしめて−はるのひくらし−むかふとや−はなのこころに−あきかせのふく


01239
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朝露はかかれとてしも消えさりし夕の風に散るさくらかな

あさつゆは−かかれとてしも−きえさりし−ゆふへのかせに−ちるさくらかな


01240
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いかにせんをはすて山の月の秋かかる桜のさく世なりせは

いかにせむ−をはすてやまの−つきのあき−かかるさくらの−さくよなりせは


01241
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玉ゆらの花に心をやすめてそ露けき老のさかも残らん

たまゆらの−はなにこころを−やすめてそ−つゆけきおいの−さかものこらむ


01242
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わか庵は老をなくさの浜ひさし袖によりくる花のしら浪

わかいほは−おいをなくさの−はまひさし−そてによりくる−はなのしらなみ


01243
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袖ふれつ老を忘れてなるるをも花はいとはぬならひはかりに

そてふれつ−おいをわすれて−なるるをも−はなはいとはぬ−ならひはかりに


01244
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をしめとも庭に散りしく花莚それも心をのふる老かな

をしめとも−にはにちりしく−はなむしろ−それもこころを−のふるおいかな


01245
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春の花都のつとにつつみおく山のかすみを風なおくりそ

はるのはな−みやこのつとに−つつみおく−やまのかすみを−かせなおくりそ


01246
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うすもののあやなき春の衣かな霞にすける山桜はな

うすものの−あやなきはるの−ころもかな−かすみにすける−やまさくらはな


01247
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霞かはかねて煙の色なから花に立ちそひし松もうらめし

かすみかは−かねてけふりの−いろなから−はなにたちそひし−まつもうらめし


01248
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さほ姫の霞のま袖ふりはへてあかすやたてる花の木の本

さほひめの−かすみのまそて−ふりはへて−あかすやたてる−はなのこのもと


01249
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木のもとに心なとめそ桜かりかりの此世に匂ふ山かせ

このもとに−こころなとめそ−さくらかり−かりのこのよに−にほふやまかせ


01250
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紅ににほふか上と見し菊の遠山さくらかすむ君かな

くれなゐに−にほふかうへと−みしきくの−とほやまさくら−かすむきみかな


01251
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御吉野の出した風そ匂ひくる霞のおくの花盛かも

みよしのの−やましたかせそ−にほひくる−かすみのおくの−はなさかりかも


01252
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さくら花匂みちくるしほつ山浪も春なる浦風そ吹く

さくらはな−にほひみちくる−しほつやま−なみもはるなる−うらかせそふく


01253
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榊葉にかけし神代や水も又花の鏡と成りはしめけん

さかきはに−かけしかみよや−みつもまた−はなのかかみと−なりはしめけむ


01254
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玉くしけあけてそ見まし桜さく遠山鳥のをろの鏡を

たまくしけ−あけてそみまし−さくらさく−とほやまとりの−をろのかかみを


01255
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にほの海のなきさの桜花もねに帰る白波春なあらしそ

にほのうみの−なきさのさくら−はなもねに−かへるしらなみ−はるなあらしそ


01256
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こゑ聞けは古すをいそく鳥もなしまたきも花のねに帰るらん

こゑきけは−ふるすをいそく−とりもなし−またきもはなの−ねにかへるらむ


01257
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時しもあれおつる梢の花そちる在明の月のわさならねとも

ときしもあれ−おつるこすゑの−はなそちる−ありあけのつきの−わさならねとも


01258
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白雲のさくらかもとと立行くや盛に花のさきおもるらん

しらくもの−さくらかもとと−たちゆくや−さかりにはなの−さきおもるらむ


01259
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風ゆるく日はのとけくて開く花の枝もたわわに匂ふ比かな

かせゆるく−ひはのとけくて−さくはなの−えたもたわわに−にほふころかな


01260
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吹く風そちらはやうしと思ひたつ花の心のたよりなるらむ

ふくかせそ−ちらはやうしと−おもひたつ−はなのこころの−たよりなるらむ


01261
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ぬししらぬ花の錦木千つかまて立つ春もなくちらさすもかな

ぬししらぬ−はなのにしきき−ちつかまて−たつはるもなく−ちらさすもかな


01262
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朝あけの雲の浪分け嶺こえて花の初しほさす日影かな

あさあけの−くものなみわけ−みねこえて−はなのはつしほ−さすひかけかな


01263
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春のきる霞の衣くれなゐのこ染や花の色かさぬらん

はるのきる−かすみのころも−くれなゐの−こそめやはなの−いろかさぬらむ


01264
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梢にてうつろひはてし桜花又色かはる庭のはる風

こすゑにて−うつろひはてし−さくらはな−またいろかはる−にはのはるかせ


01265
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まれにきて此世にほはぬ花のかをしむらん物そ天の羽衣

まれにきて−このよにほはぬ−はなのかを−しむらむものそ−あまのはころも


01266
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苔むしろ誰かためつらき色みせてうつろふ花の塵つもるらん

こけむしろ−たかためつらき−いろみせて−うつろふはなの−ちりつもるらむ


01267
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泊瀬山花よりいつる鐘はなとくもる契をよそに告くらむ

はつせやま−はなよりいつる−かねはなと−くもるちきりを−よそにつくらむ


01268
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散る花の雪の夜さむの衣とや今朝も霞の立ちのこるらん

ちるはなの−ゆきのよさむの−ころもとや−けさもかすみの−たちのこるらむ


01269
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石はしる滝なき花をかさしても猶あらはるる老の浪かな

いしはしる−たきなきはなを−かさしても−なほあらはるる−おいのなみかな


01270
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舟人もはやぬさまつれかさはやのみほの磯山花さかりかも

ふなひとも−はやぬさまつれ−かさはやの−みほのいそやま−はなさかりかも


01271
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花さかり世はおしなへて雲にあけ雲にくるるは天つ空かも

はなさかり−よはおしなへて−くもにあけ−くもにくるるは−あまつそらかも


01272
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あかさりし雲と雨とのかたみかは花の滴ににこる山の井

あかさりし−くもとあめとの−かたみかは−はなのしつくに−にこるやまのゐ


01273
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海士小舟初せやいつこさく花の雲の浪路にみる山もなし

あまをふね−はつせやいつこ−さくはなの−くものなみちに−みるやまもなし


01274
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ほのみつる遠山さくら白雲のすすむる花になる心かな

ほのみつる−とほやまさくら−しらくもの−すすむるはなに−なるこころかな


01275
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山さくら枝のうこくや白雲の今朝わき出つる花の下風

やまさくら−えたのうこくや−しらくもの−けさわきいつる−はなのしたかせ


01276
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吉野川高ねの花のかたしろも散らぬにうかふ瀬瀬の白雲

よしのかは−たかねのはなの−かたしろも−ちらぬにうかふ−せせのしらくも


01277
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をちかたに今朝見し雲のかへらぬを入日や嶺の花になすらん

をちかたに−けさみしくもの−かへらぬを−いりひやみねの−はなになすらむ


01278
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花なれや日影にちるも雫とはならてそやかて雪に落ちくる

はななれや−ひかけにちるも−しつくとは−ならてそやかて−ゆきにおちくる


01279
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日影にも消えぬを花と猶や見む風に友まつ雪の木の本

ひかけにも−きえぬをはなと−なほやみむ−かせにともまつ−ゆきのこのもと


01280
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なかめつつ木陰にむすふ山の井におもふ心を花やしるらん

なかめつつ−こかけにむすふ−やまのゐに−おもふこころを−はなやしるらむ


01281
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けふさくらわくともわかし散る花の庭も梢もおなし盛を

けふさくら−わくともわかし−ちるはなの−にはもこすゑも−おなしさかりを


01282
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わか心春の霞に染めおかはしらぬ野山に色やまよはむ

わかこころ−はるのかすみに−そめおかは−しらぬのやまに−いろやまよはむ


01283
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うゑさりしなへて此世の花もしれせはき袂になつる心を

うゑさりし−なへてこのよの−はなもしれ−せはきたもとに−なつるこころを


01284
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花さかり深山かくれに音はしてちらぬをいとふ春の風かな

はなさかり−みやまかくれに−おとはして−ちらぬをいとふ−はるのかせかな


01285
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まてしはしやとる朝露朝風にもろく散りてな花にをしへそ

まてしはし−やとるあさつゆ−あさかせに−もろくちりてな−はなにをしへそ


01286
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雨風に心あはせて春の花うつろほんとやおもひ立つらん

あめかせに−こころあはせて−はるのはな−うつろはむとや−おもひたつらむ


01287
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しるらめやあまた日数をさきたてて花におくるる春のかたみを

しるらめや−あまたひかすを−さきたてて−はなにおくるる−はるのかたみを


01288
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山さくら松よりうつる嵐とも見えぬ緑の花のしらゆき

やまさくら−まつよりうつる−あらしとも−みえぬみとりの−はなのしらゆき


01289
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木のもとの形見の水のみ草とや花を忍ふの種は生ふらん

このもとの−かたみのみつの−みくさとや−はなをしのふの−たねはおふらむ


01290
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山さくらつらき嵐の嶺の雲しをるも形見ちるもゆかりを

やまさくら−つらきあらしの−みねのくも−しをるもかたみ−ちるもゆかりを


01291
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のこしおく花の鏡は手にたにもとらぬ形見の水からそうき

のこしおく−はなのかかみは−てにたにも−とらぬかたみの−みつからそうき


01292
未入力 正徹 (xxx)

さそはれし花のなき世の雲にふけうきを形見の春の山風

さそはれし−はなのなきよの−くもにふけ−うきをかたみの−はるのやまかせ


01293
未入力 正徹 (xxx)

かすむなよ花の光をゆつりおきて散りしかたみの有明の月

かすむなよ−はなのひかりを−ゆつりおきて−ちりしかたみの−ありあけのつき


01294
未入力 正徹 (xxx)

さく花にうつる心やうらむらん去年の桜のふかき面影

さくはなに−うつるこころや−うらむらむ−こそのさくらの−ふかきおもかけ


01295
未入力 正徹 (xxx)

見し色を忘れし花の貌鳥も音に啼く山の春の面影

みしいろを−わすれしはなの−かほとりも−ねになくやまの−はるのおもかけ


01296
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わすられね去年のおも影あらそははいつれの花を身にはそへまし

わすられね−こそのおもかけ−あらそはは−いつれのはなを−みにはそへまし


01297
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忘れはや見しおも影を老か身にそふるもうしと花やいとはむ

わすれはや−みしおもかけを−おいかみに−そふるもうしと−はなやいとはむ


01298
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昔見し花も我か身も物いはてむかへは涙露そこほるる

むかしみし−はなもわかみも−ものいはて−むかへはなみた−つゆそこほるる


01299
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なおそます庭にうつして年をふる松より遠き花のにほひは

なおそます−にはにうつして−としをふる−まつよりとほき−はなのにほひは


01300
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皇の代代になれにしいにしへの春をみはしの花にとははや

すめらきの−よよになれにし−いにしへの−はるをみはしの−はなにとははや


01301
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のこりなく雨ははれつる庭たつみ猶雲うつす花の下陰

のこりなく−あめははれつる−にはたつみ−なほくもうつす−はなのしたかけ


01302
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大井河花のうきはし遠近にわたしてたゆる春の山風

おほゐかは−はなのうきはし−をちこちに−わたしてたゆる−はるのやまかせ


01303
未入力 正徹 (xxx)

古郷の花の中道春過きて雪にあとなきふるの高はし

ふるさとの−はなのなかみち−はるすきて−ゆきにあとなき−ふるのたかはし


01304
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花園の花のうき浪風こえて匂ひにしつむ竹川の橋

はなそのの−はなのうきなみ−かせこえて−にほひにしつむ−たけかはのはし


01305
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ぬさちらし関もる神の相坂を花に旅たつ春の山かせ

ぬさちらし−せきもるかみの−あふさかを−はなにたひたつ−はるのやまかせ


01306
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神もいまみるめよいかに散る花の木の島こゆる春のささ浪

かみもいま−みるめよいかに−ちるはなの−きのしまこゆる−はるのささなみ


01307
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色はゆる淵の緑も竹川の橋のまへなる花そののはな

いろはゆる−ふちのみとりも−たけかはの−はしのまへなる−はなそののはな


01308
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開く花の雲の衣も袖ほさす朝露かけし夕暮の雨

さくはなの−くものころもも−そてほさす−あさつゆかけし−ゆふくれのあめ


01309
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かそいろとやしなひたてしかひもなくあらくも雨の花をうつ声

かそいろと−やしなひたてし−かひもなく−あらくもあめの−はなをうつこゑ


01310
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あらかりし雨の名残の花の露吹きほす程も風やいとはむ

あらかりし−あめのなこりの−はなのつゆ−ふきほすほとも−かせやいとはむ


01311
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ちらぬまも青葉立ちいつる花の枝の色おとろへてはるる雨かな

ちらぬまも−あをはたちいつる−はなのえの−いろおとろへて−はるるあめかな


01312
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惜しむらし折りもかこはぬ松かきのおのれと風を花にへたてて

をしむらし−をりもかこはぬ−まつかきの−おのれとかせを−はなにへたてて


01313
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木にもあらす草にもあらぬ竹そとや雲か花かの枝ましるらむ

きにもあらす−くさにもあらぬ−たけそとや−くもかはなかの−えたましるらむ


01314
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天つ風にほひを分けて匂ふなり雲間の雲や桜なるらむ

あまつかせ−にほひをわけて−にほふなり−くもまのくもや−さくらなるらむ


01315
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うらつつく桜のおくつの嵐かも山のかひよりいつるしら浪

うらつつく−さくらのおくの−あらしかも−やまのかひより−いつるしらなみ


01316
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今夜かせ玉もかるをの磯まくらねての朝けの花をみるまて

こよひかせ−たまもかるをの−いそまくら−ねてのあさけの−はなをみるまて


01317
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くらき夜の磯山さくら木のしたに篝みせたるあまのいさり火

くらきよの−いそやまさくら−このしたに−かかりみせたる−あまのいさりひ


01318
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長閑なる塩ひのかたの夕浪にあまそ釣せぬ花やちるらん

のとかなる−しほひのかたの−ゆふなみに−あまそつりせぬ−はなやちるらむ


01319
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これも又神代の雲やこり初めておのころ島の花と成りけん

これもまた−かみよのくもや−こりそめて−おのころしまの−はなとなりけむ


01320
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桜花ちるや松風いほ崎のみほの興つに浪たかくみゆ

さくらはな−ちるやまつかせ−いほさきの−みほのおきつに−なみたかくみゆ


01321
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匂ふてふたれに心をくみしれとあくる川戸に花のまつらん

にほふてふ−たれにこころを−くみしれと−あくるかはとに−はなのまつらむ


01322
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音もせすむれゐる鷺の色もみす花の古江の雪の下波

おともせす−むれゐるさきの−いろもみす−はなのふるえの−ゆきのしたなみ


01323
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岸にます神のみけしか住の江に花の錦をあらふしら浪

きしにます−かみのみけしか−すみのえに−はなのにしきを−あらふしらなみ


01324
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谷川の瀬瀬にかたよる白淡や滝のうへなる山さくらはな

たにかはの−せせにかたよる−しらあわや−たきのうへなる−やまさくらはな


01325
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かたえさし磯屋匂はす花もをし塩焼く煙あまはいとはて

かたえさし−いそやにほはす−はなもをし−しほやくけふり−あまはいとはて


01326
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かすむなよ山の桜戸明けぬよの花よりいつるふし待の月

かすむなよ−やまのさくらと−あけぬよの−はなよりいつる−ふしまちのつき


01327
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ふしのねにうつみしよりや水ならぬ花の鏡もまとほなるらん

ふしのねに−うつみしよりや−みつならぬ−はなのかかみも−まとほなるらむ


01328
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つくは山はやまの里に開きしよりしけき人めとなる桜かな

つくはやま−はやまのさとに−さきしより−しけきひとめと−なるさくらかな


01329
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花さかり雲か雪かとまかへみし情ゆるさぬ春の山風

はなさかり−くもかゆきかと−まかへみし−こころゆるさぬ−はるのやまかせ


01330
未入力 正徹 (xxx)

又寒き嵐にとちて雪もなし消えすは花と嶺のさくら戸

またさむき−あらしにとちて−ゆきもなし−きえすははなと−みねのさくらと


01331
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さくら山雲に春風吹きさえて猶あらましの花そ雪ちる

さくらやま−くもにはるかせ−ふきさえて−なほあらましの−はなそゆきちる


01332
未入力 正徹 (xxx)

山川もこほる下紐ときやらて花にかけたる風のしからみ

やまかはも−こほるしたひも−ときやらて−はなにかけたる−かせのしからみ


01333
未入力 正徹 (xxx)

梅かかも衣におつる雪なからさくらを手折る春の山ふみ

うめかかも−ころもにおつる−ゆきなから−さくらをたをる−はるのやまふみ


01334
未入力 正徹 (xxx)

開きつくせ四方の嵐も吹きこさす花にめくれる山たかくして

さきつくせ−よものあらしも−ふきこさす−はなにめくれる−やまたかくして


01335
未入力 正徹 (xxx)

神ならて風にまかすな開く花におほふはかりの山そめくれる

かみならて−かせにまかすな−さくはなに−おほふはかりの−やまそめくれる


01336
未入力 正徹 (xxx)

なかめやる程も雲井の山桜生ひけむ年の春やはるけき

なかめやる−ほともくもゐの−やまさくら−おひけむとしの−はるやはるけき


01337
未入力 正徹 (xxx)

昨日かも遠山さくら春きにけり所もさらぬ雲の一むら

きのふかも−とほやまさくら−はるきにけり−ところもさらぬ−くものひとむら


01338
未入力 正徹 (xxx)

雲ふかき花のあたりの入相に峰の奥しる春の山てら

くもふかき−はなのあたりの−いりあひに−みねのおくしる−はるのやまてら


01339
未入力 正徹 (xxx)

花をそへ花をのこして行きかへる嵐のをちの峰のしら雲

はなをそへ−はなをのこして−ゆきかへる−あらしのをちの−みねのしらくも


01340
未入力 正徹 (xxx)

夕時雨音も外山の松のははうつもれきゆる花のした風

ゆふしくれ−おともとやまの−まつのはは−うつもれきゆる−はなのしたかせ


01341
未入力 正徹 (xxx)

高ねこす木のまの夕日影消えて桜にかへる花の色かな

たかねこす−このまのゆふひ−かけきえて−さくらにかへる−はなのいろかな


01342
未入力 正徹 (xxx)

まきなかす袖こそ匂へ散りかかる浪さへ花ににふの杣人

まきなかす−そてこそにほへ−ちりかかる−なみさへはなに−にふのそまひと


01343
未入力 正徹 (xxx)

開く花の春は雲のみなりのほる物とそみゆるかつらきの山

さくはなの−はるはくものみ−なりのほる−ものとそみゆる−かつらきのやま


01344
未入力 正徹 (xxx)

あたに見し此世の色を雲にさへまかへもはてぬ山さくらかな

あたにみし−このよのいろを−くもにさへ−まかへもはてぬ−やまさくらかな


01345
未入力 正徹 (xxx)

色もをし初時鳥興にいててなかはかくやと深山辺の花

いろもをし−はつほとときす−おきにいてて−なかはかくやと−みやまへのはな


01346
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枝なからなひき初めてや山さくらおもふ嵐と花のちるらん

えたなから−なひきそめてや−やまさくら−おもふあらしと−はなのちるらむ


01347
未入力 正徹 (xxx)

それをこそとふにはなさめさくら花散りなむ後の春の山踏

それをこそ−とふにはなさめ−さくらはな−ちりなむのちの−はるのやまふみ


01348
未入力 正徹 (xxx)

とちぬとも風の便やこえゆかむ山桜戸の雲の関守

とちぬとも−かせのたよりや−こえゆかむ−やまさくらとの−くものせきもり


01349
未入力 正徹 (xxx)

花さかりしつ心なき山里は物のさひしき春やしられぬ

はなさかり−しつこころなき−やまさとは−もののさひしき−はるやしられぬ


01350
未入力 正徹 (xxx)

山里は花におもひそかへさるる世のうきよりの春の夕風

やまさとは−はなにおもひそ−かへさるる−よのうきよりの−はるのゆふかせ


01351
未入力 正徹 (xxx)

法とはぬ此山さとの人そくるふるせる寺の花の一木に

のりとはぬ−このやまさとの−ひとそくる−ふるせるてらの−はなのひときに


01352
未入力 正徹 (xxx)

おく山の花の錦のくらき夜はみる人もこぬ春の日くらし

おくやまの−はなのにしきの−くらきよは−みるひともこぬ−はるのひくらし


01353
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待つ人に遠き尾上の初桜関きぬとみえむ雲なかくしそ

まつひとに−とほきをのへの−はつさくら−さきぬとみえむ−くもなかくしそ


01354
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匂ふなり花のあるしは山かつの垣ほの桜春をあらさて

にほふなり−はなのあるしは−やまかつの−かきほのさくら−はるをあらさて


01355
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軒はまて開入る山の花の枝に簾うこかし人おともせす

のきはまて−さきいるやまの−はなのえに−すたれうこかし−ひとおともせす


01356
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出てぬるか暮れぬに松の戸を閉ちて花の宿もる人音もせす

いてぬるか−くれぬにまつの−とをとちて−はなのやともる−ひとおともせす


01357
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明けわたる山桜戸のかはさくらとちける雲をとく嵐かな

あけわたる−やまさくらとの−かはさくら−とちけるくもを−とくあらしかな


01358
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とふ人のなきにつけても奥山の花の戸さしそさし忘れぬる

とふひとの−なきにつけても−おくやまの−はなのとさしそ−さしわすれぬる


01359
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さきてちる花にうき世やさとるらん幾春か見し鷲の山人

さきてちる−はなにうきよや−さとるらむ−いくはるかみし−わしのやまひと


01360
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くろにさく一もと桜おのつから花のあるしの小田のかり庵

くろにさく−ひともとさくら−おのつから−はなのあるしの−をたのかりいほ


01361
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春の花もるとしもなき木の本に荒れてそのこる小田のかり庵

はるのはな−もるとしもなき−このもとに−あれてそのこる−をたのかりいほ


01362
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まきるへき風さへふかて散りかかる花の音きく窓の内かな

まきるへき−かせさへふかて−ちりかかる−はなのおときく−まとのうちかな


01363
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松風の吹く日そ宿に声はせししはしも花のありやわふらん

まつかせの−ふくひそやとに−こゑはせし−しはしもはなの−ありやわふらむ


01364
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しつかなる所やいつこ春の花風にしらるる夕暮のやと

しつかなる−ところやいつこ−はるのはな−かせにしらるる−ゆふくれのやと


01365
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開きてちる花の日数の程はかり宿を立ちいてて春にしられし

さきてちる−はなのひかすの−ほとはかり−やとをたちいてて−はるにしられし


01366
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此春は都なからにたれこめて太山桜そおも影にたつ

このはるは−みやこなからに−たれこめて−みやまさくらそ−おもかけにたつ


01367
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袖にほふ花の雲井のさと人は春やたちきる天の羽衣

そてにほふ−はなのくもゐの−さとひとは−はるやたちきる−あまのはころも


01368
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雲そゐる此手柏は青によきなら山さくらいまさかりかも

くもそゐる−このてかしはは−あをによき−ならやまさくら−いまさかりかも


01369
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山路こしあまた旅ねの花の香も袖の別の野への朝露

やまちこし−あまたたひねの−はなのかも−そてのわかれの−のへのあさつゆ


01370
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木のもとの旅ねなりとも花莚こよひなしきそ春の山風

このもとの−たひねなりとも−はなむしろ−こよひなしきそ−はるのやまかせ


01371
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日数ふるひなの長路の花に花おとろへ行くそわれにまされる

ひかすふる−ひなのなかちの−はなにはな−おとろへゆくそ−われにまされる


01372
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春ことの道の行てに折りすててもとあらの桜花そすくなき

はることの−みちのゆくてに−をりすてて−もとあらのさくら−はなそすくなき


01373
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すまの山や陰なる花にくもるなり関路こえくる春の塩かせ

すまのやまや−かけなるはなに−くもるなり−せきちこえくる−はるのしほかせ


01374
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逢坂や浪も岩ほもちる花の行く春さそふ関の走ゐ

あふさかや−なみもいはほも−ちるはなの−ゆくはるさそふ−せきのはしりゐ


01375
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あふ坂やゆふつけ鳥のゆふしても関路の花に春はかけつつ

あふさかや−ゆふつけとりの−ゆふしても−せきちのはなに−はるはかけつつ


01376
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逢坂や関もる神も惜むらし老木となりぬ山さくらはな

あふさかや−せきもるかみも−をしむらし−おいきとなりぬ−やまさくらはな


01377
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初瀬女か春の手染の糸桜かつ色ふかき峰のあけほの

はつせめか−はるのてそめの−いとさくら−かついろふかき−みねのあけほの


01378
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はつせ山尾上の名もさく花の匂ひの淵にしつむこゑかな

はつせやま−をのへのはなも−さくはなの−にほひのふちに−しつむこゑかな


01379
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清水さへもとの心の花の陰みゆる野中の杜のさくら木

しみつさへ−もとのこころの−はなのかけ−みゆるのなかの−もりのさくらき


01380
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雨の日は池やよりこし木の本の真砂にのこる花のみなきは

あめのひは−いけやよりこし−このもとの−まさこにのこる−はなのみなきは


01381
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行く春もおくれぬ花の木の間よりことをあまたの有明の月

ゆくはるも−おくれぬはなの−このまより−ことをあまたの−ありあけのつき


01382
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のこるなりたかうたたねの山桜みはてぬ夢の雲の一むら

のこるなり−たかうたたねの−やまさくら−みはてぬゆめの−くものひとむら


01383
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太山陰なへての花の春もをし心おくれてさくさくらかな

みやまかけ−なへてのはなの−はるもをし−こころおくれて−さくさくらかな


01384
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吹く風の心のやみのうつつをは夢にもなさて花そちり行く

ふくかせの−こころのやみの−うつつをは−ゆめにもなさて−はなそちりゆく


01385
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青柳のなひくはちらてさくら花さそはれ安き庭の春風

あをやきの−なひくはちらて−さくらはな−さそはれやすき−にはのはるかせ


01386
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嶺はらふ霞のひまにうち出てし雲の浪ちる花の山風

みねはらふ−かすみのひまに−うちいてし−くものなみちる−はなのやまかせ


01387
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又もみん老にはあらねと花に今猶うらめしき嶺の松風

またもみむ−おいにはあらねと−はなにいま−なほうらめしき−みねのまつかせ


01388
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散りぬらんさくを尋ねし花の山踏みちかへてやのこるをも見む

ちりぬらむ−さくをたつねし−はなのやま−ふみちかへてや−のこるをもみむ


01389
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初瀬山尾上の鐘も川浪も花のためとや春はのとけき

はつせやま−をのへのかねも−かはなみも−はなのためとや−はるはのとけき


01390
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おくふかき軒のかはらに松ふりて花にかすめる春のともしひ

おくふかき−のきのかはらに−まつふりて−はなにかすめる−はるのともしひ


01391
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色うつむ初せの桧原くもりかね花に緑もきゆる山かな

いろうつむ−はつせのひはら−くもりかね−はなにみとりも−きゆるやまかな


01392
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木の本にちるをしみてや歎きつつあかぬ心の花もしをれむ

このもとに−ちるをしみてや−なけきつつ−あかぬこころの−はなもしをれむ


01393
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いかにしてまかせさらなむ散りやすき花をうき世の風の心に

いかにして−まかせさらなむ−ちりやすき−はなをうきよの−かせのこころに


01394
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心せよ花も花をや惜むらん吹くほとちらぬ春の山かせ

こころせよ−はなもはなをや−をしむらむ−ふくほとちらぬ−はるのやまかせ


01395
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散る花におほふ霞も荒き風ふせきかねたる春の衣手

ちるはなに−おほふかすみも−あらきかせ−ふせきかねたる−はるのころもて


01396
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したひ佗ひみるもうらめしさくら花風のためなる心よわさを

したひわひ−みるもうらめし−さくらはな−かせのためなる−こころよわさを


01397
未入力 正徹 (xxx)

ととまらぬ花に心をつくしきていよいよ春や老をそふらむ

ととまらぬ−はなにこころを−つくしきて−いよいよはるや−おいをそふらむ


01398
未入力 正徹 (xxx)

又あはん花はありともいかさまに名残すくなき老の春かな

またあはむ−はなはありとも−いかさまに−なこりすくなき−おいのはるかな


01399
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花みよとならふ林にてる月のくもるもかすむ春の山風

はなみよと−ならふはやしに−てるつきの−くもるもかすむ−はるのやまかせ


01400
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風にちる花そ一日に限りけるをしまれて入る月はよなよな

かせにちる−はなそひとひに−かきりける−をしまれている−つきはよなよな


01401
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惜ますやちらす物そと立ちそめしうき名のままの花の春風

をしますや−ちらすものそと−たちそめし−うきなのままの−はなのはるかせ


01402
未入力 正徹 (xxx)

吹く風も花ちる里のわかれにてつらさそ嶺の松にかへれる

ふくかせも−はなちるさとの−わかれにて−つらさそみねの−まつにかへれる


01403
未入力 正徹 (xxx)

花そちるあはれなれきて池にすむ鳥のなつらき庭の春かせ

はなそちる−あはれなれきて−いけにすむ−とりのなつらき−にはのはるかせ


01404
未入力 正徹 (xxx)

あとのこる此水茎に散る花のあわと消えにし人や恋しき

あとのこる−このみつくきに−ちるはなの−あわときえにし−ひとやこひしき


01405
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ことしさはかほりてちらせ桜木の木の葉を春に花を秋風

ことしさは−かほりてちらせ−さくらきの−このはをはるに−はなをあきかせ


01406
未入力 正徹 (xxx)

春の花おもふは別いとふにはそふをうき世のあとの山風

はるのはな−おもふはわかれ−いとふには−そふをうきよの−あとのやまかせ


01407
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わかるるはなにか此世に惜しからむ思ひ捨てなん花の音かせ

わかるるは−なにかこのよに−をしからむ−おもひすてなむ−はなのはるかせ


01408
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老いはてぬことしはかりとしたひてもあまたの春の花に逢ひねる

おいはてぬ−ことしはかりと−したひても−あまたのはるの−はなにあひねる


01409
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風そうき人待つ時を夕暮のならひもしらす花のわかるる

かせそうき−ひとまつときを−ゆふくれの−ならひもしらす−はなのわかるる


01410
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相かたき人は今夜を契るとも花にな暮れそ雲も霞も

あひかたき−ひとはこよひを−ちきるとも−はなになくれそ−くももかすみも


01411
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嵐ふく花はちりかひくもる世をよそにやかすむ春のよの月

あらしふく−はなはちりかひ−くもるよを−よそにやかすむ−はるのよのつき


01412
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比しもあれ風もさそはす風もなし恨なくてや花のちるらん

ころしもあれ−かせもさそはす−かせもなし−うらみなくてや−はなのちるらむ


01413
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住みわひぬ花散るさとのあれまくも有りしにまさる春の暮かた

すみわひぬ−はなちるさとの−あれまくも−ありしにまさる−はるのくれかた


01414
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ちらはちれ惜まし花よ世中の心まかせになきはくるしき

ちらはちれ−をしましはなよ−よのなかの−こころまかせに−なきはくるしき


01415
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のとかなる春日もなかき谷風に心みしかくちる桜かな

のとかなる−はるひもなかき−たにかせに−こころみしかく−ちるさくらかな


01416
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今はとて枝に別れてちる花をのこるさくらや先惜むらん

いまはとて−えたにわかれて−ちるはなを−のこるさくらや−まつをしむらむ


01417
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かへりきてねくらあれぬと鳴く鳥のちる花の枝に暮るる春かな

かへりきて−ねくらあれぬと−なくとりの−ちるはなのえに−くるるはるかな


01418
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みたれ行く霞の袖にこき入れてちるかたみせぬ花の山風

みたれゆく−かすみのそてに−こきいれて−ちるかたみせぬ−はなのやまかせ


01419
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梢にも庭にものこせ花ちらす風の心の石木ならすは

こすゑにも−にはにものこせ−はなちらす−かせのこころの−いはきならすは


01420
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老いにける滝の水上ならなくに黒きすちなく花そ落ちちる

おいにける−たきのみなかみ−ならなくに−くろきすちなく−はなそおちちる


01421
未入力 正徹 (xxx)

さくら花ちるにさそはぬ風もなしいつくの春をわきて恨みん

さくらはな−ちるにさそはぬ−かせもなし−いつくのはるを−わきてうらみむ


01422
未入力 正徹 (xxx)

わかためや嵐の末の春の花なかれての世のうきをみすらん

わかためや−あらしのすゑの−はるのはな−なかれてのよの−うきをみすらむ


01423
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此春の花より後は開きてちるならひなくとも風や恨みむ

このはるの−はなよりのちは−さきてちる−ならひなくとも−かせやうらみむ


01424
未入力 正徹 (xxx)

色もなき人の心の末の世にあへるをうしと花やちるらん

いろもなき−ひとのこころの−すゑのよに−あへるをうしと−はなやちるらむ


01425
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開けはちる夜のまの花の夢のうちにやかてまきれぬ嶺の白雲

さけはちる−よのまのはなの−ゆめのうちに−やかてまきれぬ−みねのしらくも


01426
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さくら花ちるも心にまかせねは雪とふり行く春の山かせ

さくらはな−ちるもこころに−まかせねは−ゆきとふりゆく−はるのやまかせ


01427
未入力 正徹 (xxx)

まとろまてこその桜の塵の世をおもふ枕につもるおもかけ

まとろまて−こそのさくらの−ちりのよを−おもふまくらに−つもるおもかけ


01428
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哀とや散行く花を嶺の雲はしめまかひし色のゆかりを

あはれとや−ちりゆくはなを−みねのくも−はしめまかひし−いろのゆかりを


01429
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限なくみまくほしかる我かためやさらぬ別の花の山かせ

かきりなく−みまくほしかる−わかためや−さらぬわかれの−はなのやまかせ


01430
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かりの世の色をはかなみ散る花にましるこ蝶も夢をみよとや

かりのよの−いろをはかなみ−ちるはなに−ましるこてふも−ゆめをみよとや


01431
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跡とふも袖そ露ちる春の風さそひし花の木の本の宿

あととふも−そてそつゆちる−はるのかせ−さそひしはなの−このもとのやと


01432
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しらさりしけふも命のうちにして又さきたつる花の春風

しらさりし−けふもいのちの−うちにして−またさきたつる−はなのはるかせ


01433
未入力 正徹 (xxx)

山と成るふもとの桜塵の世にまよふ嵐そやむ時もなき

やまとなる−ふもとのさくら−ちりのよに−まよふあらしそ−やむときもなき


01434
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吉野川岩浪たかくなる神に山風きほふ花の夕たち

よしのかは−いはなみたかく−なるかみに−やまかせきほふ−はなのゆふたち


01435
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嵐ふく霞の袖の別さへ花ちるみねのあり明の月

あらしふく−かすみのそての−わかれさへ−はなちるみねの−ありあけのつき


01436
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かへらめや梢わかれし花莚山の霞のしきしのふとも

かへらめや−こすゑわかれし−はなむしろ−やまのかすみの−しきしのふとも


01437
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吹きさそふ嵐の庭の花よりもわか身世にふる春そつもれる

ふきさそふ−あらしのにはの−はなよりも−わかみよにふる−はるそつもれる


01438
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散りましる空ものとけき春の日にあそふ糸かの山桜花

ちりましる−そらものとけき−はるのひに−あそふいとかの−やまさくらはな


01439
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先たえぬけふも命のうちにしてあらまし花のなきそ数そふ

まつたえぬ−けふもいのちの−うちにして−あらましはなの−なきそかすそふ


01440
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散りて行く花の所もさりあへぬ野山の末の道のはる風

ちりてゆく−はなのところも−さりあへぬ−のやまのすゑの−みちのはるかせ


01441
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荒ち山花の雪折しかすかに音せぬ嶺の春の木からし

あらちやま−はなのゆきをれ−しかすかに−おとせぬみねの−はるのこからし


01442
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月にとふ庭の嵐にちる花のやとりむなしき暁の露

つきにとふ−にはのあらしに−ちるはなの−やとりむなしき−あかつきのつゆ


01443
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さくら花こしのしらねの冬の雪つもりかさなるよもきふの宿

さくらはな−こしのしらねの−ふゆのゆき−つもりかさなる−よもきふのやと


01444
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のとかなる嶺の朝日にあそふ糸のみたれて共に散る桜かな

のとかなる−みねのあさひに−あそふいとの−みたれてともに−ちるさくらかな


01445
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散りかかる夕かけ草やうつもれて露をへたつる花をうらみん

ちりかかる−ゆふかけくさや−うつもれて−つゆをへたつる−はなをうらみむ


01446
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花のえにねくら尋ぬる鳥もあらはいかかこたへん春の山風

はなのえに−ねくらたつぬる−とりもあらは−いかかこたへむ−はるのやまかせ


01447
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はやくあけ夕暮おそき色もみす花はかたかたうき別かな

はやくあけ−ゆふくれおそき−いろもみす−はなはかたかた−うきわかれかな


01448
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さくら花ちりかひかくす高ねより嵐をこえていつる月かけ

さくらはな−ちりかひかくす−たかねより−あらしをこえて−いつるつきかけ


01449
未入力 正徹 (xxx)

出つるまの月のかつらの花とちる高ねの桜嵐ふくらし

いつるまの−つきのかつらの−はなとちる−たかねのさくら−あらしふくらし


01450
未入力 正徹 (xxx)

はかなくも花はうき世のことわりにまかせてちるをととめかぬらん

はかなくも−はなはうきよの−ことわりに−まかせてちるを−ととめかぬらむ


01451
未入力 正徹 (xxx)

香をしめて花にそふ夜の衣衣はあるにもあらぬ春の山風

かをしめて−はなにそふよの−きぬきぬは−あるにもあらぬ−はるのやまかせ


01452
未入力 正徹 (xxx)

東路にありとそききし花もそふ風の心のままのつきはし

あつまちに−ありとそききし−はなもそふ−かせのこころの−ままのつきはし


01453
未入力 正徹 (xxx)

よしやふけちるを見さらん花は猶あかぬ心の春の山かせ

よしやふけ−ちるをみさらむ−はなはなほ−あかぬこころの−はるのやまかせ


01454
未入力 正徹 (xxx)

吉野山花も嵐に荒れしより木すゑそ春の古郷のそら

よしのやま−はなもあらしに−あれしより−こすゑそはるの−ふるさとのそら


01455
未入力 正徹 (xxx)

ねにかへる雲も嵐も花ならす雪とわかれし嶺の桜木

ねにかへる−くももあらしも−はなならす−ゆきとわかれし−みねのさくらき


01456
未入力 正徹 (xxx)

散るとたにわきてはみえす久堅のあまきりかすむ花の山風

ちるとたに−わきてはみえす−ひさかたの−あまきりかすむ−はなのやまかせ


01457
未入力 正徹 (xxx)

里はあれぬしのふの簾糸絶えて袖もあらはに花そみたるる

さとはあれぬ−しのふのすたれ−いとたえて−そてもあらはに−はなそみたるる


01458
未入力 正徹 (xxx)

軒ふるきこすのあみ糸絶絶に花ちる閨は春風そふく

のきふるき−こすのあみいと−たえたえに−はなちるねやは−はるかせそふく


01459
未入力 正徹 (xxx)

山さくらちらても人はとひかたみ花や身をしる夕暮の雨

やまさくら−ちらてもひとは−とひかたみ−はなやみをしる−ゆふくれのあめ


01460
未入力 正徹 (xxx)

雨とふり暮と世にちる白雪のありてはてうき春の花かな

あめとふり−ゆきとよにちる−しらくもの−ありてはてうき−はるのはなかな


01461
未入力 正徹 (xxx)

夕嵐あらく吹くとも花はなと惜む心の道うつむらん

ゆふあらし−あらくふくとも−はなはなと−をしむこころの−みちうつむらむ


01462
未入力 正徹 (xxx)

敷島の道まよひきぬ無き跡の我か名もうつめ花の白雪

しきしまの−みちまよひきぬ−なきあとの−わかなもうつめ−はなのしらゆき


01463
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開きいてて花に世やうき吉野山入りにし人のあとうつむなり

さきいてて−はなによやうき−よしのやま−いりにしひとの−あとうつむなり


01464
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梢にはなきかおほかる花の陰あらましかはの雪も消えつつ

こすゑには−なきかおほかる−はなのかけ−あらましかはの−ゆきもきえつつ


01465
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花やこれ雪葉にすかくささかにの糸にかかれる宮の一むら

はなやこれ−ゆきはにすかく−ささかにの−いとにかかれる−みやのひとむら


01466
未入力 正徹 (xxx)

山かくれつひに嵐の音きかて心と花のいくかちるらん

やまかくれ−つひにあらしの−おときかて−こころとはなの−いくかちるらむ


01467
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花そなきさめたる松は嶺に明けてまかひし雲も春のよの夢

はなそなき−さめたるまつは−みねにあけて−まかひしくもも−はるのよのゆめ


01468
未入力 正徹 (xxx)

あとみえぬ雪の朝となるはかり花の夢路をうつむ春風

あとみえぬ−ゆきのあしたと−なるはかり−はなのゆめちを−うつむはるかせ


01469
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咲きにほへならへる庭の松か枝に千世の年かる花の付すゑ

さきにほへ−ならへるにはの−まつかえに−ちよのとしかる−はなのゆくすゑ


01470
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色も香も山の霞にむすほほれとけしもしらぬ花の下ひも

いろもかも−やまのかすみに−むすほほれ−とけしもしらぬ−はなのしたひも


01471
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あさ明の日影ちかつく山のはも紅さくら露しろくして

あさあけの−ひかけちかつく−やまのはも−くれなゐさくら−つゆしろくして


01472
未入力 正徹 (xxx)

さくら咲く花の錦をあらふなり入江の雨の露のはる風

さくらさく−はなのにしきを−あらふなり−いりえのあめの−つゆのはるかせ


01473
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嶺こえし花の錦をみてかへる雲ともみえぬ古郷のくれ

みねこえし−はなのにしきを−みてかへる−くもともみえぬ−ふるさとのくれ


01474
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おく露かなにそは花の玉のをにみたれやすくもちる桜かな

おくつゆか−なにそははなの−たまのをに−みたれやすくも−ちるさくらかな


01475
未入力 正徹 (xxx)

此世にはとまらぬ花の春ことにふるき枕の夢そ数そふ

このよには−とまらぬはなの−はることに−ふるきまくらの−ゆめそかすそふ


01476
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春は猶花の香さそへ玉琴のしらへにかよふ嶺の松風

はるはなほ−はなのかさそへ−たまことの−しらへにかよふ−みねのまつかせ


01477
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山つとに手折りてのする花筏あらくおろすな春の川風

やまつとに−たをりてのする−はないかた−あらくおろすな−はるのかはかせ


01478
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さほ姫や錦おりさす露のぬき霞のたての花の山風

さほひめや−にしきおりさす−つゆのぬき−かすみのたての−はなのやまかせ


01479
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七十の夢に開きちる春の花眠のうちにいつまてか見ん

ななそちの−ゆめにさきちる−はるのはな−ねふりのうちに−いつまてかみむ


01480
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山さくら苔の莚にちりそしく夢はふたたひかへる枕を

やまさくら−こけのむしろに−ちりそしく−ゆめはふたたひ−かへるまくらを


01481
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待ちいつる日の川上の山さくらいつももかくや花の八重雲

まちいつる−ひのかはかみの−やまさくら−いつももかくや−はなのやへくも


01482
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にほふらむはらふ霞のおくなきも程は雲井の花の山風

にほふらむ−はらふかすみの−おくなきも−ほとはくもゐの−はなのやまかせ


01483
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さきのほる山の一木のさくら花巌より立つ雲とみるらん

さきのほる−やまのひときの−さくらはな−いはほよりたつ−くもとみるらむ


01484
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花やいむさかりの色にむかふにも老の涙はちりやすき身を

はなやいむ−さかりのいろに−むかふにも−おいのなみたは−ちりやすきみを


01485
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老いはてぬ山さくら花又やみむ又はみすともさのみやはへん

おいはてぬ−やまさくらはな−またやみむ−またはみすとも−さのみやはへむ


01486
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春の花月に開きあふ年まれに友なふ人のおほきよはかな

はるのはな−つきにさきあふ−としまれに−ともなふひとの−おほきよはかな


01487
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花にても身は心なきけたものの雲に吠えけんためしをそしる

はなにても−みはこころなき−けたものの−くもにほえけむ−ためしをそしる


01488
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雨風もをしほのさくら立ちかへり其日みすはとおもふ夢かな

あめかせも−をしほのさくら−たちかへり−そのひみすはと−おもふゆめかな


01489
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月のかほ花の姿にいにしへのおも影のこすすまのすら浪

つきのかほ−はなのすかたに−いにしへの−おもかけのこす−すまのすらなみ


01490
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花をまつ世は春しるき木の本の袖とふ月に秋風そふく

はなをまつ−よははるしるき−このもとの−そてとふつきに−あきかせそふく


01491
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なさけなく吹きてそ老の坂くたるのこる心の花の追風

なさけなく−ふきてそおいの−さかくたる−のこるこころの−はなのおひかせ


01492
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今よりそこと葉の花の宿の庭山とつもらん適を分けこむ

いまよりそ−ことはのはなの−やとのには−やまとつもらむ−みちをわけこむ


01493
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高ねより花の木の間を見くたせは千里に霞む春の雲水

たかねより−はなのこのまを−みくたせは−ちさとにかすむ−はるのくもみつ


01494
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暮れぬとてととむる人の声せねと花あれは入る道辺の宿

くれぬとて−ととむるひとの−こゑせねと−はなあれはいる−みちのへのやと


01495
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千千の手にみるめもあかし春の花入の心を哀とやしる

ちちのてに−みるめもあかし−はるのはな−ひとのこころを−あはれとやしる


01496
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春ことに花物いはてとく法の心しられてちるあらしかな

はることに−はなものいはて−とくのりの−こころしられて−ちるあらしかな


01497
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みたれゆく心のままに手折りてそ花をかはらぬ仏とも見ん

みたれゆく−こころのままに−たをりてそ−はなをかはらぬ−ほとけともみむ


01498
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今も世につたへやすらん法の師の一花見せしふかきさとりを

いまもよに−つたへやすらむ−のりのしの−ひとはなみせし−ふかきさとりを


01499
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此ころのこと葉の花をみもしらぬ身は山人に猶そおとれる

このころの−ことはのはなを−みもしらぬ−みはやまひとに−なほそおとれる


01500
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松程やこたへさらましつたへきくむかしの風を花にとふとも

まつほとや−こたへさらまし−つたへきく−むかしのかせを−はなにとふとも


01501
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我なくは花やあらむと誰こひむ春や昔の名はのこるとも

われなくは−はなやあらむと−たれこひむ−はるやむかしの−なはのこるとも


01502
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遠さかる程は雲井の春の花此世の旅のわかれたにうし

とほさかる−ほとはくもゐの−はるのはな−このよのたひの−わかれたにうし


01503
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いく度か生ひかはりけむ天くたる神代の春の花のさくら木

いくたひか−おひかはりけむ−あまくたる−かみよのはるの−はなのさくらき


01504
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さそはれん風の心を先しるやふかき梢の花そちり行く

さそはれむ−かせのこころを−まつしるや−ふかきこすゑの−はなそちりゆく


01505
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いかかあらむおもひを花にのこすとも我か後の世の夕暮の空

いかかあらむ−おもひをはなに−のこすとも−わかのちのよの−ゆふくれのそら


01506
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匂ふなり嵐の下のかり衣花の旅ねのこしのしらゆき

にほふなり−あらしのしたの−かりころも−はなのたひねの−こしのしらゆき


01507
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山さくら春はなかはの日数にもあまりてにほふ花の色かな

やまさくら−はるはなかはの−ひかすにも−あまりてにほふ−はなのいろかな


01508
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世中にちらすしほれぬ花もあらはたた松杉の色やまさらん

よのなかに−ちらすしほれぬ−はなもあらは−たたまつすきの−いろやまさらむ


01509
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見ても世におもひまきるる事そなき捨てしは花のためならねとも

みてもよに−おもひまきるる−ことそなき−すてしははなの−ためならねとも


01510
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世にみちてさけるを花のあるしとや桜になひくよもの里人

よにみちて−さけるをはなの−あるしとや−さくらになひく−よものさとひと


01511
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山かつのそのの垣うち程せはき春をしめたる花もある世を

やまかつの−そののかきうち−ほとせはき−はるをしめたる−はなもあるよを


01512
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岩か根の滝のしら淡幾めくり年にあたなる花にましらむ

いはかねの−たきのしらあわ−いくめくり−としにあたなる−はなにましらむ


01513
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春とたにふかぬ嵐の山さくら光のとけき花の色かな

はるとたに−ふかぬあらしの−やまさくら−ひかりのとけき−はなのいろかな


01514
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ふもと寺杉の庵の山さくら今朝おも影そ在明の月

ふもとてら−すきのいほりの−やまさくら−けさおもかけそ−ありあけのつき


01515
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山風の吹きしくならて桜花さくや川辺の里のしら雲

やまかせの−ふきしくならて−さくらはな−さくやかはへの−さとのしらくも


01516
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一さかり過きにし後に花さくや花のおくての春のさくら田

ひとさかり−すきにしのちに−はなさくや−はなのおくての−はるのさくらた


01517
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山のはの夕日の色はさやかにてかすめる庭にのこる春雨

やまのはの−ゆふひのいろは−さやかにて−かすめるにはに−のこるはるさめ


01518
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いたつらにあるは過きうき春雨の降る日をひまとなしやはてまし

いたつらに−あるはすきうき−はるさめの−ふるひをひまと−なしやはてまし


01519
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いたつらにふる野の草そ色まさる哀都の花の春雨

いたつらに−ふるののくさそ−いろまさる−あはれみやこの−はなのはるさめ


01520
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軒はにも音せぬ雨の遠かたにちりかひかすむ春の色かな

のきはにも−おとせぬあめの−をちかたに−ちりかひかすむ−はるのいろかな


01521
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庭の面にくもる日影を猶みせてかすめるかたに春雨そ降る

にはのおもに−くもるひかけを−なほみせて−かすめるかたに−はるさめそふる


01522
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ふる春は花を養ひうるとしれ親のいさめのうたたねの雨

ふるはるは−はなをやしなひ−うるとしれ−おやのいさめの−うたたねのあめ


01523
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草の露木木のしつくにしられけり川音高き春雨の空

くさのつゆ−ききのしつくに−しられけり−かはおとたかき−はるさめのそら


01524
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梅かかも星のまきれはすくなくて春雨そそく深きよの闇

うめかかも−ほしのまきれは−すくなくて−はるさめそそく−ふかきよのやみ


01525
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閨ちかくよるひかるてふ玉水や月影かすむ軒の春雨

ねやちかく−よるひかるてふ−たまみつや−つきかけかすむ−のきのはるさめ


01526
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草も木もめくみにもれぬ春の雨苔の袂をよそに過すな

くさもきも−めくみにもれぬ−はるのあめ−こけのたもとを−よそにすくすな


01527
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近からし空よりおほれ降る雨に月のある夜のかすむとほ山

ちかからし−そらよりおほれ−ふるあめに−つきのあるよの−かすむとほやま


01528
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雪消えし野原の雨の下縁草も枯葉をうつむ色かな

ゆききえし−のはらのあめの−したみとり−くさもかれはを−うつむいろかな


01529
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朝日さすかた空はれて吹く風に山もと遠くかすむ春雨

あさひさす−かたそらはれて−ふくかせに−やまもととほく−かすむはるさめ


01530
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紐ときし花のねくらの鳥のこゑにほふ雨夜の明ほのの山

ひもときし−はなのねくらの−とりのこゑ−にほふあまよの−あけほののやま


01531
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もる庵にさむる涙をそふるかなうき春雨のふるき世の夢

もるいほに−さむるなみたを−そふるかな−うきはるさめの−ふるきよのゆめ


01532
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日をへつつ宿をは出てすまゆこもりいふせくもあるか春雨の空

ひをへつつ−やとをはいてす−まゆこもり−いふせくもあるか−はるさめのそら


01533
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軒はなるしのふの枯葉ぬれ延ひて紅葉にかへる春雨そふる

のきはなる−しのふのかれは−ぬれのひて−もみちにかへる−はるさめそふる


01534
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いつくよりさそひて庭の春雨を花のみそれと風のなすらん

いつくより−さそひてにはの−はるさめを−はなのみそれと−かせのなすらむ


01535
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露はらふ色しをれても春雨は猶山なしの花の一枝

つゆはらふ−いろしをれても−はるさめは−なほやまなしの−はなのひとえた


01536
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軒はなる有明の月の影なから霞みておつる袖のはる雨

のきはなる−ありあけのつきの−かけなから−かすみておつる−そてのはるさめ


01537
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山風の松に木ふかき音はして花の香くらき明ほのの雨

やまかせの−まつにこふかき−おとはして−はなのかくらき−あけほののあめ


01538
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花はちりぬ夕の雨にふりはてよ鳥の入るてふ雲のなきまて

はなはちりぬ−ゆふへのあめに−ふりはてよ−とりのいるてふ−くものなきまて


01539
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いかはかり夕の雨の遠かたにかすむさと人袖しほるらむ

いかはかり−ゆふへのあめの−をちかたに−かすむさとひと−そてしほるらむ


01540
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遠かたの霞の衣たれかきるあまつつみせり夕暮の空

をちかたの−かすみのころも−たれかきる−あまつつみせり−ゆふくれのそら


01541
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のこるなり夕山かつらかすみかけふる春雨にあくるおもかけ

のこるなり−ゆふやまかつら−かすみかけ−ふるはるさめに−あくるおもかけ


01542
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春雨のくるる軒はにいくすちかいとゆふみたすしつのをた巻

はるさめの−くるるのきはに−いくすちか−いとゆふみたす−しつのをたまき


01543
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春はたた嶺に夕ゐる雲もなし大かた空のかすむ雨かな

はるはたた−みねにゆふゐる−くももなし−おほかたそらの−かすむあめかな


01544
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雨も又たか手枕に明けぬらん雲そとたゆる春のよの夢

あめもまた−たかたまくらに−あけぬらむ−くもそとたゆる−はるのよのゆめ


01545
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枕とふ雨と成りてや絶えぬらん月も春の夜夢のうき雲

まくらとふ−あめとなりてや−たえぬらむ−つきもはるのよ−ゆめのうきくも


01546
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雨そそく円田の草に花そ咲くおくてになしてしはしかへすな

あめそそく−かとたのくさに−はなそさく−おくてになして−しはしかへすな


01547
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過きぬるか閨のあれまにもる雨の雫もかすむ袖の月かけ

すきぬるか−ねやのあれまに−もるあめの−しつくもかすむ−そてのつきかけ


01548
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春の雨晴行くしもつ出雲寺のこるは雲やはつさくら花

はるのあめ−はれゆくしもつ−いつもてら−のこるはくもや−はつさくらはな


01549
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草の庵ねぬにそおもふ春雨のこまかに遠き世世の古こと

くさのいほ−ねぬにそおもふ−はるさめの−こまかにとほき−よよのふること


01550
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さもそ世はうき山風の音たえて春の花なき夕暮の雨

さもそよは−うきやまかせの−おとたえて−はるのはななき−ゆふくれのあめ


01551
未入力 正徹 (xxx)

わか袖も春の老その杜のはも涙かきくらす雨そ色つく

わかそても−はるのおいその−もりのはも−なみたかきくらす−あめそいろつく


01552
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江の上の水のうき草紅にふりいてて松をそむる春雨

えのうへの−みつのうきくさ−くれなゐに−ふりいててまつを−そむるはるさめ


01553
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わかかたをしのふの軒の春雨に古郷人も袖しほるらむ

わかかたを−しのふののきの−はるさめに−ふるさとひとも−そてしほるらむ


01554
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主やたれ春の苗代つくる雨に田面の雲をかへす山かせ

ぬしやたれ−はるのなはしろ−つくるあめに−たのものくもを−かへすやまかせ


01555
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ぬれつつもあへる時かな雨の足もあらすき返す春の小山田

ぬれつつも−あへるときかな−あめのあしも−あらすきかへす−はるのをやまた


01556
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夜の雨にあさのさ衣かへす田を夢にもみるやいそくしつのを

よるのあめに−あさのさころも−かへすたを−ゆめにもみるや−いそくしつのを


01557
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すさむらむ御牧の草の古葉さへ又駒かへる春とみえつつ

すさむらむ−みまきのくさの−ふるはさへ−またこまかへる−はるとみえつつ


01558
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程ちかき手馴の駒を放ちおきてなれも草かる野へのあけまき

ほとちかき−たなれのこまを−はなちおきて−なれもくさかる−のへのあけまき


01559
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あれそ行く御牧の駒のしたりかみおきふし野への草にみたれて

あれそゆく−みまきのこまの−したりかみ−おきふしのへの−くさにみたれて


01560
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野辺の駒つなける縄に草そふすいたくな引きそ秋の花みん

のへのこま−つなけるなはに−くさそふす−いたくなひきそ−あきのはなみむ


01561
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駒はみな春の御牧の野へにひく霞の色をかす毛はかりそ

こまはみな−はるのみまきの−のへにひく−かすみのいろを−かすけはかりそ


01562
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春はまつ心なき駒の形代をいたたきいはふこゑもいさめる

はるはまつ−こころなきこまの−かたしろを−いたたきいはふ−こゑもいさめる


01563
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春日よみ遠き野原の放駒ねふりたてるも哀とそみる

はるひよみ−とほきのはらの−はなれこま−ねふりたてるも−あはれとそみる


01564
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二葉ともみつの御牧の春の草もゆれはやかて駒そすさむる

ふたはとも−みつのみまきの−はるのくさ−もゆれはやかて−こまそすさむる


01565
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秋は又民も草葉にいさまなん御牧にいはふのへの春駒

あきはまた−たみもくさはに−いさまなむ−みまきにいはふ−のへのはるこま


01566
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春ふかみ草おふ駒もかる人もかへるみつ野の夕暮の雨

はるふかみ−くさおふこまも−かるひとも−かへるみつのの−ゆふくれのあめ


01567
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草もまた古葉の色をはむ駒の毛さへ栗栖の野へそ春なき

くさもまた−ふるはのいろを−はむこまの−けさへくるすの−のへそはるなき


01568
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駒の毛のひはり立つなりくるすのの御牧の草やはみあらすらん

こまのけの−ひはりたつなり−くるすのの−みまきのくさや−はみあらすらむ


01569
未入力 正徹 (xxx)

御牧より春草おひてくる駒のおのれやせたる世中のうさ

みまきより−はるくさおひて−くるこまの−おのれやせたる−よのなかのうさ


01570
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哀にもかすむ夕の広き野に静に立ちて駒そかへらぬ

あはれにも−かすむゆふへの−ひろきのに−しつかにたちて−こまそかへらぬ


01571
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立ちこむる野への霞をはむ駒にもゆるそしるき春の若草

たちこむる−のへのかすみを−はむこまに−もゆるそしるき−はるのわかくさ


01572
未入力 正徹 (xxx)

春ふかみ沢におり立つつるふちの駒のすさむる草そ荒行く

はるふかみ−さはにおりたつ−つるふちの−こまのすさむる−くさそあれゆく


01573
未入力 正徹 (xxx)

いそくらん心もさそなあれわたる春の田面の雁のとこよを

いそくらむ−こころもさそな−あれわたる−はるのたのもの−かりのとこよを


01574
未入力 正徹 (xxx)

ととめこし子をおもふ雁や春のよのくらきやみ路に猶かへるらん

ととめこし−こをおもふかりや−はるのよの−くらきやみちに−なほかへるらむ


01575
未入力 正徹 (xxx)

空になとおもひたつらん春の雁おのか床よの塵ならぬ身を

そらになと−おもひたつらむ−はるのかり−おのかとこよの−ちりならぬみを


01576
未入力 正徹 (xxx)

こととはむしらすとこよは此比を秋にさためて雁や行くらん

こととはむ−しらすとこよは−このころを−あきにさためて−かりやゆくらむ


01577
未入力 正徹 (xxx)

二月の午ならねとも稲荷山さかの名しるくこゆる雁か音

きさらきの−うまならねとも−いなりやま−さかのなしるく−こゆるかりかね


01578
未入力 正徹 (xxx)

春の色を空にそしらぬ雁の行くとこよや花の都なるらん

はるのいろを−そらにそしらぬ−かりのゆく−とこよやはなの−みやこなるらむ


01579
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かきつらね秋こし数のそのままにかへるやかたき春のかりかね

かきつらね−あきこしかすの−そのままに−かへるやかたき−はるのかりかね


01580
未入力 正徹 (xxx)

都にてむすひし雁の玉章もとくやとこよの花の下紐

みやこにて−むすひしかりの−たまつさも−とくやとこよの−はなのしたひも


01581
未入力 正徹 (xxx)

あとつくる真砂の鳥を形見とや又もし消えて帰る雁か音

あとつくる−まさこのとりを−かたみとや−またもしきえて−かへるかりかね


01582
未入力 正徹 (xxx)

霞たつしのふもちすり衣手にみたれて帰る春の雁か音

かすみたつ−しのふもちすり−ころもてに−みたれてかへる−はるのかりかね


01583
未入力 正徹 (xxx)

春のきる霞の衣した帯をひきてわかるる雁の一むら

はるのきる−かすみのころも−したおひを−ひきてわかるる−かりのひとむら


01584
未入力 正徹 (xxx)

古郷にいまた思ひやたえさらん南にいそく春のかりか音

ふるさとに−いまたおもひや−たえさらむ−みなみにいそく−はるのかりかね


01585
未入力 正徹 (xxx)

燕くるかた岡の辺の柳原なひく梢にかへるかりかね

つはめくる−かたをかのへの−やなきはら−なひくこすゑに−かへるかりかね


01586
未入力 正徹 (xxx)

みこし路にいまゆかすとも春の雁北にむかふをかへるとやみん

みこしちに−いまゆかすとも−はるのかり−きたにむかふを−かへるとやみむ


01587
未入力 正徹 (xxx)

風吹けは駒もいはふる古郷をいそくか北にむかふかりかね

かせふけは−こまもいはふる−ふるさとを−いそくかきたに−むかふかりかね


01588
未入力 正徹 (xxx)

天つ雁秋の衣をぬきすてて帰るに似たる雲そのこれる

あまつかり−あきのころもを−ぬきすてて−かへるににたる−くもそのこれる


01589
未入力 正徹 (xxx)

春の雁ゆふへの雲に声すなり哀かへらぬ老のなみかな

はるのかり−ゆふへのくもに−こゑすなり−あはれかへらぬ−おいのなみかな


01590
未入力 正徹 (xxx)

なかき日の空に正木の綱はへてと山を遠みかすむ雁かね

なかきひの−そらにまさきの−つなはへて−とやまをとほみ−かすむかりかね


01591
未入力 正徹 (xxx)

真葛葉もたえすかへりし秋風の行へはしるや春のかりかね

まくすはも−たえすかへりし−あきかせの−ゆくへはしるや−はるのかりかね


01592
未入力 正徹 (xxx)

こえて行く嶺のま葛の若葉さへ雁の羽風にいまかへるなり

こえてゆく−みねのまくすの−わかはさへ−かりのはかせに−いまかへるなり


01593
未入力 正徹 (xxx)

雁に又めくりあふらし小車のとこよの花の春のさと人

かりにまた−めくりあふらし−をくるまの−とこよのはなの−はるのさとひと


01594
未入力 正徹 (xxx)

比良の海の浪に釣するあまの袖かへるも雁の羽風とそみる

ひらのうみの−なみにつりする−あまのそて−かへるもかりの−はかせとそみる


01595
未入力 正徹 (xxx)

雁なれや雲にことちを立つとみてかへりこゑする春のしらへは

かりなれや−くもにことちを−たつとみて−かへりこゑする−はるのしらへは


01596
未入力 正徹 (xxx)

行く雁の都の夢もかへるらんこしの浪路の荒き旅ねに

ゆくかりの−みやこのゆめも−かへるらむ−こしのなみちの−あらきたひねに


01597
未入力 正徹 (xxx)

春いてて冬にそむかふ天つ雁都の霞こしのしら雪

はるいてて−ふゆにそむかふ−あまつかり−みやこのかすみ−こしのしらゆき


01598
未入力 正徹 (xxx)

毛衣に花の錦も立ちあへすかへるかいそくかりのふる郷

けころもに−はなのにしきも−たちあへす−かへるかいそく−かりのふるさと


01599
未入力 正徹 (xxx)

待てしはしとこ世も此よ花ならぬ花やはさかん春の雁か音

まてしはし−とこよもこのよ−はなならぬ−はなやはさかむ−はるのかりかね


01600
未入力 正徹 (xxx)

春をあさみまた北海や荒れぬらん漕きかへるなり雁のとも舟

はるをあさみ−またきたうみや−あれぬらむ−こきかへるなり−かりのともふね


01601
未入力 正徹 (xxx)

行く雁は啼きてもさそふ有明の月そおもはぬ空に残れる

ゆくかりは−なきてもさそふ−ありあけの−つきそおもはぬ−そらにのこれる


01602
未入力 正徹 (xxx)

星合は秋そわかるみ天の川かはたれ時にかへるかりかね

ほしあひは−あきそわかるみ−あまのかは−かはたれときに−かへるかりかね


01603
未入力 正徹 (xxx)

鳴きて行く雁の涙もかくれあらし雲も霞も袖につつまて

なきてゆく−かりのなみたも−かくれあらし−くももかすみも−そてにつつまて


01604
未入力 正徹 (xxx)

梢にも宿やはからん霞わけねに行く鳥につるる雁か音

こすゑにも−やとやはからむ−かすみわけ−ねにゆくとりに−つるるかりかね


01605
未入力 正徹 (xxx)

玉章は中中見えし墨染のゆふへをかけて帰る雁かね

たまつさは−なかなかみえし−すみそめの−ゆふへをかけて−かへるかりかね


01606
未入力 正徹 (xxx)

三日月もわか有明かくるるまとたのむる比の雁の別は

みかつきも−わかありあけか−くるるまと−たのむるころの−かりのわかれは


01607
未入力 正徹 (xxx)

ねに行くもましる鳥かな明けはとも雁はたのめぬ春の夕暮

ねにゆくも−ましるとりかな−あけはとも−かりはたのめぬ−はるのゆふくれ


01608
未入力 正徹 (xxx)

古郷に今夜なつきそ花にふれてやみの錦をかりの毛衣

ふるさとに−こよひなつきそ−はなにふれて−やみのにしきを−かりのけころも


01609
未入力 正徹 (xxx)

いるとみる弓張月もおとろかす雁や霞に身をかくすらん

いるとみる−ゆみはりつきも−おとろかす−かりやかすみに−みをかくすらむ


01610
未入力 正徹 (xxx)

霞にも雲にもまよふ空なから春をしるへと雁や行くらん

かすみにも−くもにもまよふ−そらなから−はるをしるへと−かりやゆくらむ


01611
未入力 正徹 (xxx)

玉章のこすみ薄墨かきつらね今遠近にかへる雁か音

たまつさの−こすみうすすみ−かきつらね−いまをちこちに−かへるかりかね


01612
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮かすみて雁もとふさ立つ足から山にかへる雲かな

ゆふまくれ−かすみてかりも−とふさたつ−あしからやまに−かへるくもかな


01613
未入力 正徹 (xxx)

みなの川霞のうちに音はして今よりおつる春の雁か音

みなのかは−かすみのうちに−おとはして−いまよりおつる−はるのかりかね


01614
未入力 正徹 (xxx)

朽ちねたた花ちる嶺に行く雁のなこりもしらぬ谷の埋木

くちねたた−はなちるみねに−ゆくかりの−なこりもしらぬ−たにのうもれき


01615
未入力 正徹 (xxx)

おくれとや夕へは北に吹く風のむかしの谷をしたふかりかね

おくれとや−ゆふへはきたに−ふくかせの−むかしのたにを−したふかりかね


01616
未入力 正徹 (xxx)

はしたての松もかくとや浪の上に霞みてならふ春のかりかね

はしたての−まつもかくとや−なみのうへに−かすみてならふ−はるのかりかね


01617
未入力 正徹 (xxx)

春とてや雁かへるらん海松や時そともなき浪にならはて

はるとてや−かりかへるらむ−うみまつや−ときそともなき−なみにならはて


01618
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浪の上につはさならへてうけ縄の長きに似たる春の雁か音

なみのうへに−つはさならへて−うけなはの−なかきににたる−はるのかりかね


01619
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蘆辺より浪よる磯にみつ塩のいやましにのみ帰る雁か音

あしへより−なみよるいそに−みつしほの−いやましにのみ−かへるかりかね


01620
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ひらの海や湊の春の荒小田に夕浪こえて雁そむれゐる

ひらのうみや−みなとのはるの−あらをたに−ゆふなみこえて−かりそむれゐる


01621
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かへるかりわたれとぬれぬえそしらぬ翅の雨に春のささ浪

かへるかり−わたれとぬれぬ−えそしらぬ−つはさのあめに−はるのささなみ


01622
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帰るらし浪にうち出の浜つつらつらなる雁もはねかつらして

かへるらし−なみにうちての−はまつつら−つらなるかりも−はねかつらして


01623
未入力 正徹 (xxx)

雁かゐし春の渚のあととめてかへりつくさぬにほのうら浪

かりかゐし−はるのなきさの−あととめて−かへりつくさぬ−にほのうらなみ


01624
未入力 正徹 (xxx)

かすかすに筑波根こえてから衣すそわの田井にかすむ雁か音

かすかすに−つくはねこえて−からころも−すそわのたゐに−かすむかりかね


01625
未入力 正徹 (xxx)

すきかへす春の荒田はすむ程の水さへなしと雁や行くらむ

すきかへす−はるのあらたは−すむほとの−みつさへなしと−かりやゆくらむ


01626
未入力 正徹 (xxx)

雁そ行く又わたらしともろこしの橋にかきてし文字をつらねて

かりそゆく−またわたらしと−もろこしの−はしにかきてし−もしをつらねて


01627
未入力 正徹 (xxx)

春のきる雲の衣の帯にしてかへるをつるる雁の一すち

はるのきる−くものころもの−おひにして−かへるをつるる−かりのひとすち


01628
未入力 正徹 (xxx)

かすむ日にこえ行く雲の一枝は雁のつらぬるみねの松はら

かすむひに−こえゆくくもの−ひとえたは−かりのつらぬる−みねのまつはら


01629
未入力 正徹 (xxx)

遠かたの霞のみをになかれ行く雁のはの字や書くかひもなき

をちかたの−かすみのみをに−なかれゆく−かりのはのしや−かくかひもなき


01630
未入力 正徹 (xxx)

なかれ行く水なき空に水茎のあとさへ消えてかすむ雁かね

なかれゆく−みつなきそらに−みつくきの−あとさへきえて−かすむかりかね


01631
未入力 正徹 (xxx)

春のよはかりねの夢のうき橋もみしかき雲に渡る雁かね

はるのよは−かりねのゆめの−うきはしも−みしかきくもに−わたるかりかね


01632
未入力 正徹 (xxx)

影うつる苗代水やさそふらん遠山もとにおつるかりかね

かけうつる−なはしろみつや−さそふらむ−とほやまもとに−おつるかりかね


01633
未入力 正徹 (xxx)

霞行く翅の風や寒き日のとほ山すりのころも雁か音

かすみゆく−つはさのかせや−さむきひの−とほやますりの−ころもかりかね


01634
未入力 正徹 (xxx)

むかしたかかきける筆のあととてか消えつつ遠く雁帰るらん

むかしたか−かきけるふての−あととてか−きえつつとほく−かりかへるらむ


01635
未入力 正徹 (xxx)

棹姫のかすみの袖につく墨のおつるやこゆる春の雁かね

さほひめの−かすみのそてに−つくすみの−おつるやこゆる−はるのかりかね


01636
未入力 正徹 (xxx)

春の雁帰るも空に遠き世をわれそ心に思ひつらぬる

はるのかり−かへるもそらに−とほきよを−われそこころに−おもひつらぬる


01637
未入力 正徹 (xxx)

さほ姫の遠山まゆのおも形に今朝そみたれて帰る雁かね

さほひめの−とほやままゆの−おもかけに−けさそみたれて−かへるかりかね


01638
未入力 正徹 (xxx)

いくつらと見ゆるものからあま雲のよそにのみして帰る雁かね

いくつらと−みゆるものから−あまくもの−よそにのみして−かへるかりかね


01639
未入力 正徹 (xxx)

かすめやる心雲路をしのけとや昔にかすむ春のかりかね

かすめやる−こころくもちを−しのけとや−むかしにかすむ−はるのかりかね


01640
未入力 正徹 (xxx)

いさ今夜うれしき道にともなはむ我も昔にかへる雁かね

いさこよひ−うれしきみちに−ともなはむ−われもむかしに−かへるかりかね


01641
未入力 正徹 (xxx)

かへりこぬ空に心を送れはやむかしにかすむ春のかりかね

かへりこぬ−そらにこころを−おくれはや−むかしにかすむ−はるのかりかね


01642
未入力 正徹 (xxx)

春の雁まてニかたにしたふとも花ちる嶺のこゆるをそみむ

はるのかり−まてふたかたに−したふとも−はなちるみねの−こゆるをそみむ


01643
未入力 正徹 (xxx)

ゐるかたやかすむ嵐の末ならん塵に立行く春のかりかね

ゐるかたや−かすむあらしの−すゑならむ−ちりにたちゆく−はるのかりかね


01644
未入力 正徹 (xxx)

友なはぬ昨日の雁の雲ゐ路に鳴きて帰るをあすやしたはん

ともなはぬ−きのふのかりの−くもゐちに−なきてかへるを−あすやしたはむ


01645
未入力 正徹 (xxx)

巣をいてて山の霞にまよへはや子を呼ふ鳥の鳴きくらすらん

すをいてて−やまのかすみに−まよへはや−こをよふとりの−なきくらすらむ


01646
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いとへとやうき世の人を喚子鳥ひとり太山にねを尽すらん

いとへとや−うきよのひとを−よふことり−ひとりみやまに−ねをつくすらむ


01647
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こたふるをきかてやさのみ呼子鳥太山の滝の近きひひきに

こたふるを−きかてやさのみ−よふことり−みやまのたきの−ちかきひひきに


01648
未入力 正徹 (xxx)

そことなく子を喚ふ鳥のこゑきくを鷲のみ山と思はましかは

そことなく−こをよふとりの−こゑきくを−わしのみやまと−おもはましかは


01649
未入力 正徹 (xxx)

朽ちてこそ種をもとめめ水底に水草かりしく春の苗代

くちてこそ−たねをもとめめ−みなそこに−みくさかりしく−はるのなはしろ


01650
未入力 正徹 (xxx)

あつさ弓五十串のみしめ引きはへて種まく小田は鳥もかよはす

あつさゆみ−いくしのみしめ−ひきはへて−たねまくをたは−とりもかよはす


01651
未入力 正徹 (xxx)

神楽とはよも苗代のみな口に川頭やうたふ春のささ浪

かくらとは−よもなはしろの−みなくちに−かはつやうたふ−はるのささなみ


01652
未入力 正徹 (xxx)

おもへとや鳥おふ水の苗代に鹿立つ嶺のかけもみゆらむ

おもへとや−とりおふみつの−なはしろに−しかたつみねの−かけもみゆらむ


01653
未入力 正徹 (xxx)

花なれや苗代小田にしめ越えて御ぬさ手向くる春の山風

はななれや−なはしろをたに−しめこえて−みぬさたむくる−はるのやまかせ


01654
未入力 正徹 (xxx)

春の田の苗の牆代いくしたて鳥驚かすしめのゆふして

はるのたの−なへのかきしろ−いくしたて−とりおとろかす−しめのゆふして


01655
未入力 正徹 (xxx)

五十串たてまつるとなしの水口にうすの玉まく春の苗代

いくしたて−まつるとなしの−みなくちに−うすのたままく−はるのなはしろ


01656
未入力 正徹 (xxx)

白妙になひくみしめの夕つくひさすや岡辺の小田の苗代

しろたへに−なひくみしめの−ゆふつくひ−さすやをかへの−をたのなはしろ


01657
未入力 正徹 (xxx)

あら小田や野へによろつなつむ賎は知らすやこれも民の草はと

あらをたや−のへによろつな−つむしつは−しらすやこれも−たみのくさはと


01658
未入力 正徹 (xxx)

野を寒みまた新草は手にたにもたまらぬ雪の下に萌えつつ

のをさむみ−またにひくさは−てにたにも−たまらぬゆきの−したにもえつつ


01659
未入力 正徹 (xxx)

末遠き野への若葉の新草にやとり初めたる春の朝露

すゑとほき−のへのわかはの−にひくさに−やとりそめたる−はるのあさつゆ


01660
未入力 正徹 (xxx)

若草の花さくそのの初蝶も春日のとけみ遊ふ糸ゆふ

わかくさの−はなさくそのの−はつてふも−はるひのとけみ−あそふいとゆふ


01661
未入力 正徹 (xxx)

松陰のをかの屋かたの雪間より秋風しるき葛の下萌

まつかけの−をかのやかたの−ゆきまより−あきかせしるき−くすのしたもえ


01662
未入力 正徹 (xxx)

春は又落葉かきても松陰の礒菜摘むなりあまのをとめ子

はるはまた−おちはかきても−まつかけの−いそなつむなり−あまのをとめこ


01663
未入力 正徹 (xxx)

なかめすよ花さく春の草はあれとめかり塩焼く磯のあま人

なかめすよ−はなさくはるの−くさはあれと−めかりしほやく−いそのあまひと


01664
未入力 正徹 (xxx)

たか春の草のたもとそあさ緑しなくたりてもみえぬ色かな

たかはるの−くさのたもとそ−あさみとり−しなくたりても−みえぬいろかな


01665
未入力 正徹 (xxx)

冬かれし遠かた野へに小松原ありとみゆるや春のむら草

ふゆかれし−をちかたのへに−こまつはら−ありとみゆるや−はるのむらくさ


01666
未入力 正徹 (xxx)

ふる雨のうるほす庭にむす苔とみるはかりなる春の草かな

ふるあめの−うるほすにはに−むすこけと−みるはかりなる−はるのくさかな


01667
未入力 正徹 (xxx)

消えはをし野への若葉の初もえき染めいたす春の雪の一入

きえはをし−のへのわかはの−はつもえき−そめいたすはるの−ゆきのひとしほ


01668
未入力 正徹 (xxx)

秋かけてたちそつつけん若草の花の錦のおくの色色

あきかけて−たちそつつけむ−わかくさの−はなのにしきの−おくのいろいろ


01669
未入力 正徹 (xxx)

春も猶山にはもえす若草のつま木こる男の道芝にして

はるもなほ−やまにはもえす−わかくさの−つまきこるをの−みちしはにして


01670
未入力 正徹 (xxx)

初みとり色もこもらす宿に咲くこや若草のつまなしの花

はつみとり−いろもこもらす−やとにさく−こやわかくさの−つまなしのはな


01671
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みとりしく春のわか草やはらかにぬるよしらるる庭の夕露

みとりしく−はるのわかくさ−やはらかに−ぬるよしらるる−にはのゆふつゆ


01672
未入力 正徹 (xxx)

若草につまもかくさて朝明の霞もしかもわたるのへかな

わかくさに−つまもかくさて−あさあけの−かすみもしかも−わたるのへかな


01673
未入力 正徹 (xxx)

摘むもをしわかむらさきの菫草しのふのみたれのこるあさ露

つむもをし−わかむらさきの−すみれくさ−しのふのみたれ−のこるあさつゆ


01674
未入力 正徹 (xxx)

たた一夜ねての朝けの露さむし菫摘むのの春の衣手

たたひとよ−ねてのあさけの−つゆさむし−すみれつむのの−はるのころもて


01675
未入力 正徹 (xxx)

菫つむ沢辺の水の春さむみ一夜ねはかせ鶴の毛ころも

すみれつむ−さはへのみつの−はるさむみ−ひとよねはかせ−つるのけころも


01676
未入力 正徹 (xxx)

つますとも菫ましりの若草の野をなつかしみ宿やからまし

つますとも−すみれましりの−わかくさの−のをなつかしみ−やとやからまし


01677
未入力 正徹 (xxx)

行人も野へのしの屋に一夜ねぬつまぬ菫の春の名たてに

ゆくひとも−のへのしのやに−ひとよねぬ−つまぬすみれの−はるのなたてに


01678
未入力 正徹 (xxx)

うゑおきて花さへ春を三ちとせになるてふ桃のよはひをそしる

うゑおきて−はなさへはるを−みちとせに−なるてふももの−よはひをそしる


01679
未入力 正徹 (xxx)

めくりきぬけふさく花もももちとりさへつる宿の春の杯

めくりきぬ−けふさくはなも−ももちとり−さへつるやとの−はるのさかつき


01680
未入力 正徹 (xxx)

山里にあさてかけおくはつきより桃の林とさける花かな

やまさとに−あさてかけおく−はつきより−もものはやしと−さけるはなかな


01681
未入力 正徹 (xxx)

あさてほす棹かけわたす山奴のそのふの竹に桃そ交れる

あさてほす−さをかけわたす−やまかつの−そのふのたけに−ももそましれる


01682
未入力 正徹 (xxx)

山さとのそのの垣ほにさく桃の枝をはつ木とあさてほすみゆ

やまさとの−そののかきほに−さくももの−えたをはつきと−あさてほすみゆ


01683
未入力 正徹 (xxx)

なかれきて桃の杯過くるとも手もさへきらし飲む身ならねは

なかれきて−もものさかつき−すくるとも−てもさへきらし−のむみならねは


01684
未入力 正徹 (xxx)

紅にしろき花さく薗の桃むへ山かつもこころありけり

くれなゐに−しろきはなさく−そののもも−うへやまかつも−こころありけり


01685
未入力 正徹 (xxx)

よくしれは夕かけまたぬあさかほもたた三千とせそ桃園の花

よくしれは−ゆふかけまたぬ−あさかほも−たたみちとせそ−ももそののはな


01686
未入力 正徹 (xxx)

杯の石にさはるもことの葉もせかるる程ほまたれやはせん

さかつきの−いしにさはるも−ことのはも−せかるるほとほ−またれやはせむ


01687
未入力 正徹 (xxx)

稀なれやけふの巳の日の御祓川めくりあふてふももの杯

まれなれや−けふのみのひの−みそきかは−めくりあふてふ−もものさかつき


01688
未入力 正徹 (xxx)

まちけめや弥生の三日の水の上にうきたる鳥の春のさか月

まちけめや−やよひのみかの−みつのうへに−うきたるとりの−はるのさかつき


01689
未入力 正徹 (xxx)

花さけは錦かけほす桃そのの春のふる宮人しなけれと

はなさけは−にしきかけほす−ももそのの−はるのふるみや−ひとしなけれと


01690
未入力 正徹 (xxx)

たちわたる春のまといのともねまてきこえて高き雲の上人

たちわたる−はるのまといの−ともねまて−きこえてたかき−くものうへひと


01691
未入力 正徹 (xxx)

九重に春の霞も引く弓の影見ぬ庭はともねとそしる

ここのへに−はるのかすみも−ひくゆみの−かけみぬにはは−ともねとそしる


01692
未入力 正徹 (xxx)

ささ波もかすめる池のかきつはたいつれかつひに春をへたてん

ささなみも−かすめるいけの−かきつはた−いつれかつひに−はるをへたてむ


01693
未入力 正徹 (xxx)

花の色をかたみとやみしたとへけん人ははかなし一枝の雨

はなのいろを−かたみとやみし−たとへけむ−ひとははかなし−ひとえたのあめ


01694
未入力 正徹 (xxx)

わたのはらうち出ててみれは山なしの花とやいはん沖つ白浪

わたのはら−うちいててみれは−やまなしの−はなとやいはむ−おきつしらなみ


01695
未入力 正徹 (xxx)

浪こゆる入江にかすむ蘆の子のわか葉もいまたみえぬ春かな

なみこゆる−いりえにかすむ−あしのこの−わかはもいまた−みえぬはるかな


01696
未入力 正徹 (xxx)

夕霞野かひの牛のあよみくる入江の蘆もかつそ角くむ

ゆふかすみ−のかひのうしの−あよみくる−いりえのあしも−かつそつのくむ


01697
未入力 正徹 (xxx)

天の世のはしめは神も蘆牙の姿なりける江にや角くむ

あまのよの−はしめはかみも−あしかひの−すかたなりける−えにやつのくむ


01698
未入力 正徹 (xxx)

哀にも軒はの燕きなくなり去年も巣かけし宿を尋ねて

あはれにも−のきはのつはめ−きなくなり−こそもすかけし−やとをたつねて


01699
未入力 正徹 (xxx)

永き日の柳の糸にみたれきてつはめあまたの庭の春風

なかきひの−やなきのいとに−みたれきて−つはめあまたの−にはのはるかせ


01700
未入力 正徹 (xxx)

あまたこゑ簾にかかる春の日のかすめる庭にちるつはめかな

あまたこゑ−すたれにかかる−はるのひの−かすめるにはに−ちるつはめかな


01701
未入力 正徹 (xxx)

庭めくる燕入るなりなかはあけておしはるみすの下もあらはに

にはめくる−つはめいるなり−なかはあけて−おしはるみすの−したもあらはに


01702
未入力 正徹 (xxx)

つはくらめ簾うこかす羽風にもかつ散る庭の花そ匂へる

つはくらめ−すたれうこかす−はかせにも−かつちるにはの−はなそにほへる


01703
未入力 正徹 (xxx)

子をおもふ野へのおとろの下蕨折りてなふれそききす鳴くなり

こをおもふ−のへのおとろの−したわらひ−をりてなふれそ−ききすなくなり


01704
未入力 正徹 (xxx)

行ふりに聞けはのとけし永き日のかすむ春野に雉なくこゑ

ゆきふりに−きけはのとけし−なかきひの−かすむはるのに−ききすなくこゑ


01705
未入力 正徹 (xxx)

子を思ふ心しるらし雉鳴くかすみも袖をおほふ野へかな

こをおもふ−こころしるらし−ききすなく−かすみもそてを−おほふのへかな


01706
未入力 正徹 (xxx)

おもふらん子をいかにとも今そ聞く焼野を行けは雉なくこゑ

おもふらむ−こをいかにとも−いまそきく−やけのをゆけは−ききすなくこゑ


01707
未入力 正徹 (xxx)

若草のもゆる春日も猶さゆるうたの枯野にききす鳴くなり

わかくさの−もゆるはるひも−なほさゆる−うたのかれのに−ききすなくなり


01708
未入力 正徹 (xxx)

あつさ弓山桜かりわれならぬことわりしらて立つききすかな

あつさゆみ−やまさくらかり−われならぬ−ことわりしらて−たつききすかな


01709
未入力 正徹 (xxx)

子をおもふ道のささ原岡越に誰ふみたてて雉なくらん

こをおもふ−みちのささはら−をかこしに−たれふみたてて−ききすなくらむ


01710
未入力 正徹 (xxx)

子をおもふききす鳴くなりかの岡に草刈るをのこ春なくもかな

こをおもふ−ききすなくなり−かのをかに−くさかるをのこ−はるなくもかな


01711
未入力 正徹 (xxx)

さくらちるかた野の原に立つ雉の羽風も春は花のかそする

さくらちる−かたののはらに−たつきしの−はかせもはるは−はなのかそする


01712
未入力 正徹 (xxx)

真柴もて草葉そよかす山人のおりくる野へに雉立つなり

ましはもて−くさはそよかす−やまひとの−おりくるのへに−ききすたつなり


01713
未入力 正徹 (xxx)

啼くききす子を思ひ草秋かけて涙や春の野へを染むらん

なくききす−こをおもひくさ−あきかけて−なみたやはるの−のへをそむらむ


01714
未入力 正徹 (xxx)

雪そちる草のはら野の朝かしはぬるや雉の声はまたせて

ゆきそちる−くさのはらのの−あさかしは−ぬるやききすの−こゑはまたせて


01715
未入力 正徹 (xxx)

おなしえに子をおもふ雉うらふれて鴫くや沢へのたつのもろこゑ

おなしえに−こをおもふききす−うらふれて−しきくやさはへの−たつのもろこゑ


01716
未入力 正徹 (xxx)

秋の鴫春のききすの立つ沢に哀こもれる霧かすみかな

あきのしき−はるのききすの−たつさはに−あはれこもれる−きりかすみかな


01717
未入力 正徹 (xxx)

むら薄のこるを陰とねせりつむ沢田のくろにふす雉かな

むらすすき−のこるをかけと−ねせりつむ−さはたのくろに−ふすききすかな


01718
未入力 正徹 (xxx)

鶴のすむ入江の沢に鳴く雉もろ心にや子をおもふらん

つるのすむ−いりえのさはに−なくききす−もろこころにや−こをおもふらむ


01719
未入力 正徹 (xxx)

子をおもふ心しれとやかけろふのもゆる春日にききす啼くらん

こをおもふ−こころしれとや−かけろふの−もゆるはるひに−ききすなくらむ


01720
未入力 正徹 (xxx)

あらき風わか葉な吹きそ鳴くききす子を思ふ野への末の芝生そ

あらきかせ−わかはなふきそ−なくききす−こをおもふのへの−すゑのしはふそ


01721
未入力 正徹 (xxx)

のかれこしうき世わするる山陰に子を思ふ雉の声なをしへそ

のかれこし−うきよわするる−やまかけに−こをおもふきしの−こゑなをしへそ


01722
未入力 正徹 (xxx)

消えかねし雪の跡とや雉鳴くかた山かくれ草もみしかき

きえかねし−ゆきのあととや−ききすなく−かたやまかくれ−くさもみしかき


01723
未入力 正徹 (xxx)

こゑさへもあるかなきかを糸ゆふにまかへてあかる夕雲雀かな

こゑさへも−あるかなきかを−いとゆふに−まかへてあかる−ゆふひはりかな


01724
未入力 正徹 (xxx)

さしのほる春日の上の空しめてかすむ雲雀の野へのこゑこゑ

さしのほる−はるひのうへの−そらしめて−かすむひはりの−のへのこゑこゑ


01725
未入力 正徹 (xxx)

春日よくかすめる空の村鳥や野辺のひはりの皆あかるらん

はるひよく−かすめるそらの−むらとりや−のへのひはりの−みなあかるらむ


01726
未入力 正徹 (xxx)

かささきの橋に鳴くまて天の川かたのの雲雀あかるとそみし

かささきの−はしになくまて−あまのかは−かたののひはり−あかるとそみし


01727
未入力 正徹 (xxx)

空たかくあかる雲雀もにくからす哀わか身の程知らぬ世に

そらたかく−あかるひはりも−にくからす−あはれわかみの−ほとしらぬよに


01728
未入力 正徹 (xxx)

野への床草葉をあらす駒の毛の雲雀や空に声恨むらん

のへのとこ−くさはをあらす−こまのけの−ひはりやそらに−こゑうらむらむ


01729
未入力 正徹 (xxx)

つまこめし野守の鏡面影のかすめる空になくひはりかな

つまこめし−のもりのかかみ−おもかけの−かすめるそらに−なくひはりかな


01730
未入力 正徹 (xxx)

影清き野守の鏡折折にくもるはあかるむら雲雀かも

かけきよき−のもりのかかみ−をりをりに−くもるはあかる−むらひはりかも


01731
未入力 正徹 (xxx)

玉鉾の野へのひはりもねをそ鳴くあかりての世の道や恋しき

たまほこの−のへのひはりも−ねをそなく−あかりてのよの−みちやこひしき


01732
未入力 正徹 (xxx)

夕雲雀こゑの雲井に高島やかちのの草は嵐たつらし

ゆふひはり−こゑのくもゐに−たかしまや−かちののくさは−あらしたつらし


01733
未入力 正徹 (xxx)

若葉たつ末野の茅原かくろへて巣のうちふかく鳴く雲雀かな

わかはたつ−すゑののちはら−かくろへて−すのうちふかく−なくひはりかな


01734
未入力 正徹 (xxx)

啼くひはり空にあるまにすき返す田面の草に床はなくして

なくひはり−そらにあるまに−すきかへす−たのものくさに−とこはなくして


01735
未入力 正徹 (xxx)

かへすよりあれにし野田の草の原むなしき床をとふひはりかな

かへすより−あれにしのたの−くさのはら−むなしきとこを−とふひはりかな


01736
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山もとの夕かけ草を吹く風におく露またてたつ雲雀かな

やまもとの−ゆふかけくさを−ふくかせに−おくつゆまたて−たつひはりかな


01737
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夕雲雀空にこゑして落ちこぬやなれし床なき荻の焼原

ゆふひはり−そらにこゑして−おちこぬや−なれしとこなき−をきのやけはら


01738
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野辺の草はねもしをれし夕露の結はぬ先に雲雀落つなり

のへのくさ−はねもしをれし−ゆふつゆの−むすはぬさきに−ひはりおつなり


01739
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野への露夕かけ草にのほるさへおつる雲雀の床のかたしき

のへのつゆ−ゆふかけくさに−のほるさへ−おつるひはりの−とこのかたしき


01740
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菫つむ遠かた人もいそくらし春の野に出ててあそふ糸ゆふ

すみれつむ−をちかたひとも−いそくらし−はるののにいてて−あそふいとゆふ


01741
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春日影をちかた野への若草に里の子ましりあそふ糸ゆふ

はるひかけ−をちかたのへの−わかくさに−さとのこましり−あそふいとゆふ


01742
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世にかくてあるかなきかの身をしるもたくひむなしき春の糸ゆふ

よにかくて−あるかなきかの−みをしるも−たくひむなしき−はるのいとゆふ


01743
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天つ人かさしにむすふ糸ゆふやみとりの空にみたれゆくらん

あまつひと−かさしにむすふ−いとゆふや−みとりのそらに−みたれゆくらむ


01744
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蘆のやの野への春風くりかへしたか糸ゆふをしつのをた巻

あしのやの−のへのはるかせ−くりかへし−たかいとゆふを−しつのをたまき


01745
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若みとりまた長からぬ初草に春日をつなく野へのいとゆふ

わかみとり−またなかからぬ−はつくさに−はるひをつなく−のへのいとゆふ


01746
未入力 正徹 (xxx)

草もゆる野島か崎の永き日にあまや約する棹の糸ゆふ

くさもゆる−のしまかさきの−なかきひに−あまやつりする−さをのいとゆふ


01747
未入力 正徹 (xxx)

老か身はあるかなきかの糸ゆふになひく日影をはらふ春風

おいかみは−あるかなきかの−いとゆふに−なひくひかけを−はらふはるかせ


01748
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世中はけに事しけき春の野の草葉にあそふ糸まなの身や

よのなかは−けにことしけき−はるののの−くさはにあそふ−いとまなのみや


01749
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はれくもりわたる春日もかけろふのあるかなきかの小野の糸ゆふ

はれくもり−わたるはるひも−かけろふの−あるかなきかの−をののいとゆふ


01750
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風わたる野への緑のみたるるもあそふも草の糸そみしかき

かせわたる−のへのみとりの−みたるるも−あそふもくさの−いとそみしかき


01751
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春の夜も初はひとりまきの戸の水鶏に似たる蛙なくなり

はるのよも−はしめはひとり−まきのとの−くひなににたる−かはつなくなり


01752
未入力 正徹 (xxx)

おもふらむ山田の水に数しらぬ子はこゑたてす鳴く川頭かな

おもふらむ−やまたのみつに−かすしらぬ−こはこゑたてす−なくかはつかな


01753
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木の本の山田の水にすみなから蛙や春の花になくらむ

このもとの−やまたのみつに−すみなから−かはつやはるの−はなになくらむ


01754
未入力 正徹 (xxx)

うきて鳴く水の蛙のいきのをもよるやさ浪のしけき小やま田

うきてなく−みつのかはつの−いきのをも−よるやさなみの−しけきをやまた


01755
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おりたちて田歌の声をならすなり水の蛙の春のゆふくれ

おりたちて−たうたのこゑを−ならすなり−みつのかはつの−はるのゆふくれ


01756
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手もふれぬ荒田の草の水かくれに初こゑいたす蛙なくなり

てもふれぬ−あらたのくさの−みかくれに−はつこゑいたす−かはつなくなり


01757
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小山田やまかする水の萍にかくれあらはれかはつなくなり

をやまたや−まかするみつの−うきくさに−かくれあらはれ−かはつなくなり


01758
未入力 正徹 (xxx)

鳥をこそおふ人もあれ苗代の水の蛙のなにうらむらん

とりをこそ−おふひともあれ−なはしろの−みつのかはつの−なにうらむらむ


01759
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春の夜の苗代水に秋田もるいねかてにしてなく蛙かな

はるのよの−なはしろみつに−あきたもる−いねかてにして−なくかはつかな


01760
未入力 正徹 (xxx)

山もとの夕の鐘も霞消えて寺の前田に蛙なくなり

やまもとの−ゆふへのかねも−かすみきえて−てらのまへたに−かはつなくなり


01761
未入力 正徹 (xxx)

数しらぬ子は蛙とも苗代の水のあはれむ声かとそ聞く

かすしらぬ−こはかはつとも−なはしろの−みつのあはれむ−こゑかとそきく


01762
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数しらすすたく蛙のこゑことに玉うきいつる水の苗代

かすしらす−すたくかはつの−こゑことに−たまうきいつる−みつのなはしろ


01763
未入力 正徹 (xxx)

なく蛙身をうき草にかくしてもねをこそたえね水の苗代

なくかはつ−みをうきくさに−かくしても−ねをこそたえね−みつのなはしろ


01764
未入力 正徹 (xxx)

水にすむ名のみなかれて苗代の外面の草に鳴くかはつかな

みつにすむ−なのみなかれて−なはしろの−そとものくさに−なくかはつかな


01765
未入力 正徹 (xxx)

苗代の水の蛙のうたかたにこぬさをとめのこゑならすなり

なはしろの−みつのかはつの−うたかたに−こぬさをとめの−こゑならすなり


01766
未入力 正徹 (xxx)

春はまた苗代水のうたかたに消えて蛙のこゑそまれなる

はるはまた−なはしろみつの−うたかたに−きえてかはつの−こゑそまれなる


01767
未入力 正徹 (xxx)

散る花にましる蛙のうたかたも色なる川の水のしらあわ

ちるはなに−ましるかはつの−うたかたも−いろなるかはの−みつのしらあわ


01768
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水ひろきすみかもしらす底みえぬ板井にひとり鳴く蛙かな

みつひろき−すみかもしらす−そこみえぬ−いたゐにひとり−なくかはつかな


01769
未入力 正徹 (xxx)

蛙かも水の下にてなく声にうかひ出てたる淡そなかるる

かはつかも−みつのしたにて−なくこゑに−うかひいてたる−あわそなかるる


01770
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水の上に蛙の鳴くも山川の瀬のなるなみのよるそまきるる

みつのうへに−かはつのなくも−やまかはの−せのなるなみの−よるそまきるる


01771
未入力 正徹 (xxx)

夕暮の春行く水に啼く蛙風にはれせぬ声そかすめる

ゆふくれの−はるゆくみつに−なくかはつ−かせにはれせぬ−こゑそかすめる


01772
未入力 正徹 (xxx)

夕川やなかるる淡と消えそ行く水の蛙のはるの初こゑ

ゆふかはや−なかるるあわと−きえそゆく−みつのかはつの−はるのはつこゑ


01773
未入力 正徹 (xxx)

湊川しほに瀬のなる夕浪に小田の蛙そこゑけたれ行く

みなとかは−しほにせのなる−ゆふなみに−をたのかはつそ−こゑけたれゆく


01774
未入力 正徹 (xxx)

夕かすみ山田の川にたつ袖の中なるよとに蛙啼くなり

ゆふかすみ−やまたのかはに−たつそての−うちなるよとに−かはつなくなり


01775
未入力 正徹 (xxx)

池まれにつくる田もなき都たに暮るれはしけく蛙鳴くこゑ

いけまれに−つくるたもなき−みやこたに−くるれはしけく−かはつなくこゑ


01776
未入力 正徹 (xxx)

玉のをの長かりけるも春の日の暮れかたきこそ思ひしらるる

たまのをの−なかかりけるも−はるのひの−くれかたきこそ−おもひしらるる


01777
未入力 正徹 (xxx)

なつるまの岩ほも雪と成りぬへし春日そ秋のいなつまのかけ

なつるまの−いはほもゆきと−なりぬへし−はるひそあきの−いなつまのかけ


01778
未入力 正徹 (xxx)

春の日のまた出てぬまの秋ならはかたふく影に入相のかね

はるのひの−またいてぬまの−あきならは−かたふくかけに−いりあひのかね


01779
未入力 正徹 (xxx)

花そ雪またかたふかね春の日に冬の一日をおくる山風

はなそゆき−またかたふかね−はるのひに−ふゆのひとひを−おくるやまかせ


01780
未入力 正徹 (xxx)

なへて世も花の色かに霞む日のやすらふ空や道まよふらん

なへてよも−はなのいろかに−かすむひの−やすらふそらや−みちまよふらむ


01781
未入力 正徹 (xxx)

朝日影いつる高ねに程遠してらしかへさむ西の山の端

あさひかけ−いつるたかねに−ほととほし−てらしかへさむ−にしのやまのは


01782
未入力 正徹 (xxx)

今朝のまの昨日をけふとおもふにはあすもや過きし春の夕暮

けさのまの−きのふをけふと−おもふには−あすもやすきし−はるのゆふくれ


01783
未入力 正徹 (xxx)

猶そちる高ねのつつしさく花の色に入日の跡のうき雲

なほそちる−たかねのつつし−さくはなの−いろにいりひの−あとのうきくも


01784
未入力 正徹 (xxx)

道辺の岩もとつつし紅のあか裳ぬきすて誰かいにけむ

みちのへの−いはもとつつし−くれなゐの−あかもぬきすて−たれかいにけむ


01785
未入力 正徹 (xxx)

山ふかくさくや蓮の花つつししましうき世ににこる心は

やまふかく−さくやはちすの−はなつつし−しましうきよに−にこるこころは


01786
未入力 正徹 (xxx)

いそくなよ手折るつつしの灯によるの山路はかへりいてなん

いそくなよ−たをるつつしの−ともしひに−よるのやまちは−かへりいてなむ


01787
未入力 正徹 (xxx)

嶺たかき松の下てるひめつつし花開きわたせ天のうき橋

みねたかき−まつのしたてる−ひめつつし−はなさきわたせ−あめのうきはし


01788
未入力 正徹 (xxx)

にこりにもします蓮の花つつし池をよそなる岩根にそ咲く

にこりにも−しますはちすの−はなつつし−いけをよそなる−いはねにそさく


01789
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川上にたく火をけちて滝つ浪こゆる岩ほにさくつつしかな

かはかみに−たくひをけちて−たきつなみ−こゆるいはほに−さくつつしかな


01790
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夜こえむ人のためにとくらふ山木の下つつし折りもつくさし

よるこえむ−ひとのためにと−くらふやま−このしたつつし−をりもつくさし


01791
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心せよ柴おふ駒もむれて行く山路おしなみつつしさくなり

こころせよ−しはおふこまも−むれてゆく−やまちおしなみ−つつしさくなり


01792
未入力 正徹 (xxx)

岩根ふむ隣に今朝も火やこはむ松の煙もおそのつつしに

いはねふむ−となりにけさも−ひやこはむ−まつのけふりも−おそのつつしに


01793
未入力 正徹 (xxx)

雲なれや木たかき松の末こえてみとりの空になひく藤なみ

くもなれや−こたかきまつの−すゑこえて−みとりのそらに−なひくふちなみ


01794
未入力 正徹 (xxx)

こりしきて巌そはたつ山岸に落ちたる滝やかかる藤なみ

こりしきて−いはほそはたつ−やまきしに−おちたるたきや−かかるふちなみ


01795
未入力 正徹 (xxx)

池の上にさきちる藤の花かたみ色をつつくる鴛の毛ころも

いけのうへに−さきちるふちの−はなかたみ−いろをつつくる−をしのけころも


01796
未入力 正徹 (xxx)

花かつらかけまく浪もあら妙の藤江のうらの海士のをとめ子

はなかつら−かけまくなみも−あらたへの−ふちえのうらの−あまのをとめこ


01797
未入力 正徹 (xxx)

さく藤の松を憑むもあるものをなににかかれる人の命そ

さくふちの−まつをたのむも−あるものを−なににかかれる−ひとのいのちそ


01798
未入力 正徹 (xxx)

いかかみる藤江のうらの藤浪をかつきもしらね春のあま人

いかかみる−ふちえのうらの−ふちなみを−かつきもしらね−はるのあまひと


01799
未入力 正徹 (xxx)

さく瀬の花のかつらか棹姫の袖のみとりの松にかかれる

さくふしの−はなのかつらか−さほひめの−そてのみとりの−まつにかかれる


01800
未入力 正徹 (xxx)

紫の色こき春の時過きてちるか水なき池の藤なみ

むらさきの−いろこきはるの−ときすきて−ちるかみつなき−いけのふちなみ


01801
未入力 正徹 (xxx)

色たへにさける藤なみ世世かけて春の名たかの浦風そ吹く

いろたへに−さけるふちなみ−よよかけて−はるのなたかの−うらかせそふく


01802
未入力 正徹 (xxx)

花にたつ松のうら葉の若みとり又藤浪をこゆるはるかな

はなにたつ−まつのうらはの−わかみとり−またふちなみを−こゆるはるかな


01803
未入力 正徹 (xxx)

さく藤の色こき時や玉かつらはふ木あまたに秋を待つらん

さくふちの−いろこきときや−たまかつら−はふきあまたに−あきをまつらむ


01804
未入力 正徹 (xxx)

開く藤もかかれとてこそなひきけめしつえ枯れぬる岸の松かな

さくふちも−かかれとてこそ−なひきけめ−しつえかれぬる−きしのまつかな


01805
未入力 正徹 (xxx)

あまも見しうらの八島にむかふとも松の藤戸をとつる霞に

あまもみし−うらのやしまに−むかふとも−まつのふちとを−とつるかすみに


01806
未入力 正徹 (xxx)

興つ風ふきもふかすも住吉の松かえあらふ春の藤波

おきつかせ−ふきもふかすも−すみよしの−まつかえあらふ−はるのふちなみ


01807
未入力 正徹 (xxx)

わか花の色にもあらぬ松のはをゆかりとかかる春の藤波

わかはなの−いろにもあらぬ−まつのはを−ゆかりとかかる−はるのふちなみ


01808
未入力 正徹 (xxx)

春のみと滝の水上あらはれて松よりおつる嶺の藤浪

はるのみと−たきのみなかみ−あらはれて−まつよりおつる−みねのふちなみ


01809
未入力 正徹 (xxx)

からろおす雁の舟路はのこりけり雲ゐに嶺の松の藤波

からろおす−かりのふなちは−のこりけり−くもゐにみねの−まつのふちなみ


01810
未入力 正徹 (xxx)

風ふけは浪より下の波の声松なりけりな藤のうら葉は

かせふけは−なみよりしたの−なみのこゑ−まつなりけりな−ふちのうらはは


01811
未入力 正徹 (xxx)

さく藤の花のかつらもみたれなき松の葉分けて春風そ吹く

さくふちの−はなのかつらも−みたれなき−まつのはわけて−はるかせそふく


01812
未入力 正徹 (xxx)

高砂の山松かえの藤なみにおくれてわたる雁の友舟

たかさこの−やままつかえの−ふちなみに−おくれてわたる−かりのともふね


01813
未入力 正徹 (xxx)

藤浪の花そ十かへり松のはもおよはぬ千世の色やわくらん

ふちなみの−はなそとかへり−まつのはも−およはぬちよの−いろやわくらむ


01814
未入力 正徹 (xxx)

緑そふ若葉をこめて開く藤の花のませゆふ松そ木高き

みとりそふ−わかはをこめて−さくふちの−はなのませゆふ−まつそこたかき


01815
未入力 正徹 (xxx)

子をおもふ鶴そ鳴くなる浜松の梢の藤の浪のうき巣に

こをおもふ−つるそなくなる−はままつの−こすゑのふちの−なみのうきすに


01816
未入力 正徹 (xxx)

露そちる梢の藤は浪こえてみなそこならぬ杜の下草

つゆそちる−こすゑのふちは−なみこえて−みなそこならぬ−もりのしたくさ


01817
未入力 正徹 (xxx)

高砂の尾上に匂ふ松の藤夕そかねのこゑにかかれる

たかさこの−をのへににほふ−まつのふち−ゆふへそかねの−こゑにかかれる


01818
未入力 正徹 (xxx)

さく藤の花のかつらもなひきもの春の名たかの浦風そ吹く

さくふちの−はなのかつらも−なひきもの−はるのなたかの−うらかせそふく


01819
未入力 正徹 (xxx)

いつまてそ山路の岸のかたくつれ残る岩根の松の藤波

いつまてそ−やまちのきしの−かたくつれ−のこるいはねの−まつのふちなみ


01820
未入力 正徹 (xxx)

川音もきこえぬ滝や高ねより藤開きくたる花の岩波

かはおとも−きこえぬたきや−たかねより−ふちさきくたる−はなのいはなみ


01821
未入力 正徹 (xxx)

陰おほふ松のはひ枝にさく藤に岩浪まさる滝の水上

かけおほふ−まつのはひえに−さくふちに−いはなみまさる−たきのみなかみ


01822
未入力 正徹 (xxx)

岩こえて音なき浪も立水のなかれあまたにさける藤かな

いはこえて−おとなきなみも−たつみつの−なかれあまたに−さけるふちかな


01823
未入力 正徹 (xxx)

月も日も関やはすゑむ雲水のうき世をさそふ春の藤浪

つきもひも−せきやはすゑむ−くもみつの−うきよをさそふ−はるのふちなみ


01824
未入力 正徹 (xxx)

月そもる関屋のひさし開く花もひまあら妙の藤川の浪

つきそもる−せきやのひさし−さくはなも−ひまあらたへの−ふちかはのなみ


01825
未入力 正徹 (xxx)

花の枝も細谷川をうちわたりむかひの庵に松の藤波

はなのえも−ほそたにかはを−うちわたり−むかひのいほに−まつのふちなみ


01826
未入力 正徹 (xxx)

水の上のしけみさ枝やかのみゆる池辺にかかる春の藤なみ

みつのうへの−しけみさえたや−かのみゆる−いけへにかかる−はるのふちなみ


01827
未入力 正徹 (xxx)

風ふけは池のうき草かたよりに又影さわく春の藤なみ

かせふけは−いけのうきくさ−かたよりに−またかけさわく−はるのふちなみ


01828
未入力 正徹 (xxx)

かせふけは池に影せぬ鴛の毛も玉藻にあそふ花の藤波

かせふけは−いけにかけせぬ−をしのけも−たまもにあそふ−はなのふちなみ


01829
未入力 正徹 (xxx)

藤なれや堤の下樋朽ちはてて水なき池に浪そまされる

ふちなれや−つつみのしたひ−くちはてて−みつなきいけに−なみそまされる


01830
未入力 正徹 (xxx)

鳰鳥や藤さく春の池水にうきても浪の下くくるなり

にほとりや−ふちさくはるの−いけみつに−うきてもなみの−したくくるなり


01831
未入力 正徹 (xxx)

かの池にうつろふ色のそか菊を春もかけたる松の藤なみ

かのいけに−うつろふいろの−そかきくを−はるもかけたる−まつのふちなみ


01832
未入力 正徹 (xxx)

紫の塵をそよする藤の花ちりかひうかふ池のささ浪

むらさきの−ちりをそよする−ふちのはな−ちりかひうかふ−いけのささなみ


01833
未入力 正徹 (xxx)

春日山峰にさく藤うつりきて池に浪たつさる沢の岸

かすかやま−みねにさくふち−うつりきて−いけになみたつ−さるさはのきし


01834
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住吉の松の葉うつむ藤の花岸に生ふてふ草にやつるな

すみよしの−まつのはうつむ−ふちのはな−きしにおふてふ−くさにやつるな


01835
未入力 正徹 (xxx)

松にはふ末の世遠くさかふなり南の岸の北の藤なみ

まつにはふ−すゑのよとほく−さかふなり−みなみのきしの−きたのふちなみ


01836
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谷の松いつまちとらむ開きにほふ高ねの岸の藤のさかり枝

たにのまつ−いつまちとらむ−さきにほふ−たかねのきしの−ふちのさかりえ


01837
未入力 正徹 (xxx)

花さかていつかは春を忘草生ふてふきしにかかる藤波

はなさかて−いつかははるを−わすれくさ−おふてふきしに−かかるふちなみ


01838
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山奴のわたりそをしき開く藤の花のませゆふ嶺のかけはし

やまかつの−わたりそをしき−さくふちの−はなのませゆふ−みねのかけはし


01839
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開きかかる軒はの藤を横雲になして明行く鐘のこゑかな

さきかかる−のきはのふちを−よこくもに−なしてあけゆく−かねのこゑかな


01840
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寺よりも西にかかりてさく藤のかつらき山の雲をしそ思ふ

てらよりも−にしにかかりて−さくふちの−かつらきやまの−くもをしそおもふ


01841
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木のもとの庵をせはみはふ藤や垣ほの柴のねりそゆふらん

このもとの−いほりをせはみ−はふふちや−かきほのしはの−ねりそゆふらむ


01842
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手折りつつかさしてゆかん藤なみを浪そふ老のしわとやはみむ

たをりつつ−かさしてゆかむ−ふちなみを−なみそふおいの−しわとやはみむ


01843
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かつそちる夜のまの藤の初花に結ひもなれぬ春の朝露

かつそちる−よのまのふちの−はつはなに−むすひもなれぬ−はるのあさつゆ


01844
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吹きおつる山松風やあらたへの藤なみこゆる滝のいはかと

ふきおつる−やままつかせや−あらたへの−ふちなみこゆる−たきのいはかと


01845
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池ふるき松の経にける年なみをかけてそ匂ふ宿の藤か枝

いけふるき−まつのへにける−としなみを−かけてそにほふ−やとのふちかえ


01846
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手折るとも人にかたるな山吹の花にわけくる露はおちにき

たをるとも−ひとにかたるな−やまふきの−はなにわけくる−つゆはおちにき


01847
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露かけてむすふやいかに款冬の花はひもとく井ての下帯

つゆかけて−むすふやいかに−やまふきの−はなはひもとく−ゐてのしたおひ


01848
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し水せく八重山吹の花の露いとと浪こす井てのしからみ

しみつせく−やへやまふきの−はなのつゆ−いととなみこす−ゐてのしからみ


01849
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女良花秋やかたみの色にいてん朽行く庭の春の山吹

をみなへし−あきやかたみの−いろにいてむ−くちゆくにはの−はるのやまふき


01850
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行く春をしたふとみえて山吹の花も散りあへぬ露そこほるる

ゆくはるを−したふとみえて−やまふきの−はなもちりあへぬ−つゆそこほるる


01851
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人もかくおもふをいはぬ色こそはあらまほしけれ山吹のはな

ひともかく−おもふをいはぬ−いろこそは−あらまほしけれ−やまふきのはな


01852
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思川千しほの木の葉ととまらてあさき色せく山吹の花

おもひかは−ちしほのこのは−ととまらて−あさきいろせく−やまふきのはな


01853
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かけ行くもこゑする水に山吹の花ものいふに人やきかまし

かけゆくも−こゑするみつに−やまふきの−はなものいふに−ひとやきかまし


01854
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あやふしや花のよはひも行く春に開きてかたふく岸の山吹

あやふしや−はなのよはひも−ゆくはるに−さきてかたふく−きしのやまふき


01855
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かつそ見る井ての蛙のこゑこゑを花やききうき春の山吹

かつそみる−ゐてのかはつの−こゑこゑを−はなやききうき−はるのやまふき


01856
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思川かけても見せぬ山吹を花にしら淡よるそかなしき

おもひかは−かけてもみせぬ−やまふきを−はなにしらあわ−よるそかなしき


01857
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山城のゐてこす浪に橘の実さへ恋しき山ふきの花

やましろの−ゐてこすなみに−たちはなの−みさへこひしき−やまふきのはな


01858
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山里の春の木の下紅葉葉や岩かきこむる山吹の花

やまさとの−はるのこのした−もみちはや−いはかきこむる−やまふきのはな


01859
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鐘つきて暮行く春の山吹はたかししまをか色にみすらん

かねつきて−くれゆくはるの−やまふきは−たかししまをか−いろにみすらむ


01860
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時しらぬ籬の上の白雪やうつろふ色の山吹のはな

ときしらぬ−まかきのうへの−しらゆきや−うつろふいろの−やまふきのはな


01861
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つつしさく山の千しほの下染も花にそ浅き水の山吹

つつしさく−やまのちしほの−したそめも−はなにそあさき−みつのやまふき


01862
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橘の花さく比の実そまかふ宿の軒はの山吹のいろ

たちはなの−はなさくころの−みそまかふ−やとののきはの−やまふきのいろ


01863
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春は又たれめてさらむ女郎花おなし色そふ山吹の花

はるはまた−たれめてさらむ−をみなへし−おなしいろそふ−やまふきのはな


01864
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ちりかかるさくらか本の山吹やうき紅葉はの雪のおもかけ

ちりかかる−さくらかもとの−やまふきや−うきもみちはの−ゆきのおもかけ


01865
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川浪になひく玉藻を染めかねて色になかるる水の款冬

かはなみに−なひくたまもを−そめかねて−いろになかるる−みつのやまふき


01866
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山吹もさくや川辺に行く春の花に休らふ宇治の中宿

やまふきも−さくやかはへに−ゆくはるの−はなにやすらふ−うちのなかやと


01867
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春もをし又川浪にくちなしのあせ行く色の山ふきの花

はるもをし−またかはなみに−くちなしの−あせゆくいろの−やまふきのはな


01868
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川長もかけをそからん行く水の玉藻にうつる山吹の花

かはをさも−かけをそからむ−ゆくみつの−たまもにうつる−やまふきのはな


01869
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こゑたてぬ水の心をくむ花やたた色にのみゐての山吹

こゑたてぬ−みつのこころを−くむはなや−たたいろにのみ−ゐてのやまふき


01870
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池水もこゑをはたてすなに事をつつみにさける山吹の花

いけみつも−こゑをはたてす−なにことを−つつみにさける−やまふきのはな


01871
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山吹のうつれる池の水底に花はこかねのいさこをそしく

やまふきの−うつれるいけの−みなそこに−はなはこかねの−いさこをそしく


01872
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こゑたてぬそこに心や川島の水にかたふく山吹はな

こゑたてぬ−そこにこころや−かはしまの−みつにかたふく−やまふきのはな


01873
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身にかかる法の衣の色をかるこや彼岸の山吹のはな

みにかかる−のりのころもの−いろをかる−こやかのきしの−やまふきのはな


01874
未入力 正徹 (xxx)

水のあわもたくひあやふき川岸に開きてかたふく山吹の露

みつのあわも−たくひあやふき−かはきしに−さきてかたふく−やまふきのつゆ


01875
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薄くこく咲くや籬の山つつし紅ましるやまふきのはな

うすくこく−さくやまかきの−やまつつし−くれなゐましる−やまふきのはな


01876
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過きかてにたれとはさらん山吹の花のさかりの玉川の里

すきかてに−たれとはさらむ−やまふきの−はなのさかりの−たまかはのさと


01877
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契あれな井ての下帯花のひもときかさねたる水の山吹

ちきりあれな−ゐてのしたおひ−はなのひも−ときかさねたる−みつのやまふき


01878
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籬こす夏の草葉の露のかすならす夕の山吹のはな

まかきこす−なつのくさはの−つゆのかす−ならすゆふへの−やまふきのはな


01879
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散るままにあかてや露は桔ふ手のしつくににこる山吹のはな

ちるままに−あかてやつゆは−むすふての−しつくににこる−やまふきのはな


01880
未入力 正徹 (xxx)

日に染むる八重山吹は朝露のへたつる色もをしき花かな

ひにそむる−やへやまふきは−あさつゆの−へたつるいろも−をしきはなかな


01881
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折りかさす心そいはぬかくせ花八十にちかし八重の山ふき

をりかさす−こころそいはぬ−かくせはな−やそちにちかし−やへのやまふき


01882
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山吹のこと葉の花を水茎にいはてやかきてゐての玉川

やまふきの−ことはのはなを−みつくきに−いはてやかきて−ゐてのたまかは


01883
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うこかさて心のやとる身をしけはけふの春日に過くる百年

うこかさて−こころのやとる−みをしけは−けふのはるひに−すくるももとせ


01884
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鴬のかへる山路の遅さくら春の色音をよそにうつすな

うくひすの−かへるやまちの−おそさくら−はるのいろねを−よそにうつすな


01885
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いまもをし此三日月の山のはをいてむ弥生の有明の夜は

いまもをし−このみかつきの−やまのはを−いてむやよひの−ありあけのよは


01886
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月のこる嶺の朝けの花鳥に別れかねてや春も行くらむ

つきのこる−みねのあさけの−はなとりに−わかれかねてや−はるもゆくらむ


01887
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暮れて行く春の日数をかそふれは又三日月を朝にそみる

くれてゆく−はるのひかすを−かそふれは−またみかつきを−あしたにそみる


01888
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行く春の朝ひく雲の糸すちにかかるも細き山のはの月

ゆくはるの−あさひくくもの−いとすちに−かかるもほそき−やまのはのつき


01889
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とくさける弥生の山の卯花やのこるさくらの木木の下陰

とくさける−やよひのやまの−うのはなや−のこるさくらの−ききのしたかけ


01890
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山月山尾上の雲の糸すちをならへていつる月そ明行く

やよひやま−をのへのくもの−いとすちを−ならへていつる−つきそあけゆく


01891
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比良の山消えさりけりとみる程もあかぬ三月をのこす雪かな

ひらのやま−きえさりけりと−みるほとも−あかぬやよひを−のこすゆきかな


01892
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行く春も家路わすれよ軒はまて幾重霞みて山なしの花

ゆくはるも−いへちわすれよ−のきはまて−いくへかすみて−やまなしのはな


01893
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いつかたと行へしられぬ花鳥の跡をや春の猶したふらん

いつかたと−ゆくへしられぬ−はなとりの−あとをやはるの−なほしたふらむ


01894
未入力 正徹 (xxx)

雲に入り又ねにかへる花をめて鳥をうらやむ春や行くらん

くもにいり−またねにかへる−はなをめて−とりをうらやむ−はるやゆくらむ


01895
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この夕吹きくる風を便にておもふかたにや春の行くらむ

このゆふへ−ふきくるかせを−たよりにて−おもふかたにや−はるのゆくらむ


01896
未入力 正徹 (xxx)

ふけ嵐春行く野への夕ま暮若葉の葛も恨みかぬらん

ふけあらし−はるゆくのへの−ゆふまくれ−わかはのくすも−うらみかぬらむ


01897
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人ことに別れなれにし春をなとをしむならひと思初めけん

ひとことに−わかれなれにし−はるをなと−をしむならひと−おもひそめけむ


01898
未入力 正徹 (xxx)

したはしよおもへは夏の花鳥にかはらんまての春の名残を

したはしよ−おもへはなつの−はなとりに−かはらむまての−はるのなこりを


01899
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しらさりき春の限の夕暮を尾上の鐘にしたふへしとは

しらさりき−はるのかきりの−ゆふくれを−をのへのかねに−したふへしとは


01900
未入力 正徹 (xxx)

今はとて雲に入りにし鳥の子のかへるや春のかたみなるらん

いまはとて−くもにいりにし−とりのこの−かへるやはるの−かたみなるらむ


01901
未入力 正徹 (xxx)

いつかたに道ふみわけし跡をみんむなしき空に春のゆかすは

いつかたに−みちふみわけし−あとをみむ−むなしきそらに−はるのゆかすは


01902
未入力 正徹 (xxx)

ととまらぬ春の湊の川淵に望たえてや山吹のちる

ととまらぬ−はるのみなとの−かはふちに−のそみたえてや−やまふきのちる


01903
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暮れて行くしるしもみえす遠かたの霞に春や立ちかくすらん

くれてゆく−しるしもみえす−をちかたの−かすみにはるや−たちかくすらむ


01904
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引きとめよ暮るる三月の末たわに弓張月の影そのこれる

ひきとめよ−くるるやよひの−すゑたわに−ゆみはりつきの−かけそのこれる


01905
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くるかたもかへる所もなき春を送りむかふと何おもふらん

くるかたも−かへるところも−なきはるを−おくりむかふと−なにおもふらむ


01906
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花はちり鳥も古巣に入相の鐘なる山にかへる春かな

はなはちり−とりもふるすに−いりあひの−かねなるやまに−かへるはるかな


01907
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まちをしむ花鳥の音の後さきに霞そ春の匂なりける

まちをしむ−はなとりのねの−あとさきに−かすみそはるの−にほひなりける


01908
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しはしまてかへる鴬うかるへし春にわかれん谷の古巣は

しはしまて−かへるうくひす−うかるへし−はるにわかれむ−たにのふるすは


01909
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けふのこる花のかとりの白かさねあすたちかへむ春そすくなき

けふのこる−はなのかとりの−しらかさね−あすたちかへむ−はるそすくなき


01910
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雲に入る鳥よりも猶心なき嵐や花を根にかへすらん

くもにいる−とりよりもなほ−こころなき−あらしやはなを−ねにかへすらむ


01911
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吹く風のめに見ぬかたに行く春を消えてもをしめ山吹の露

ふくかせの−めにみぬかたに−ゆくはるを−きえてもをしめ−やまふきのつゆ


01912
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藤波のかかる巌をうつたへにととまりかたく帰る春かな

ふちなみの−かかるいはほを−うつたへに−ととまりかたく−かへるはるかな


01913
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藤の花夏にかかるを行く春やうらむらさきの色かはるらん

ふちのはな−なつにかかるを−ゆくはるや−うらむらさきの−いろかはるらむ


01914
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散りてなき花もわかれの春よりはうらみ所のあり明の月

ちりてなき−はなもわかれの−はるよりは−うらみところの−ありあけのつき


01915
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天の川あかつき出つる月の舟春の湊にこきなかくれそ

あまのかは−あかつきいつる−つきのふね−はるのみなとに−こきなかくれそ


01916
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雁そ鳴く有明の空に月の舟さしかへる春の湊をしへよ

かりそなく−ありあけのそらに−つきのふね−さしかへるはるの−みなとをしへよ


01917
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月か舟湊におくれ行く春の別路にかすむ有明の空

つきかふね−みなとにおくれ−ゆくはるの−わかれちにかすむ−ありあけのそら


01918
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雲もけふ袖のみぬれてふる雨のさはるもしらすかへる春かな

くももけふ−そてのみぬれて−ふるあめの−さはるもしらす−かへるはるかな


01919
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夕暮は朝の雲の立ちわかれ雨と成りてや春のゆくらむ

ゆふくれは−あしたのくもの−たちわかれ−あめとなりてや−はるのゆくらむ


01920
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なこりをもしはしととめし花鳥の入りにし雪をさそふ春かな

なこりをも−しはしととめし−はなとりの−いりにしゆきを−さそふはるかな


01921
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吹く風にかさねて春を惜しめとや鳥の入りにし雲そ飛行く

ふくかせに−かさねてはるを−をしめとや−とりのいりにし−くもそとひゆく


01922
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おくれしと春行く空やしたふらんおりゐる雲のみえぬ山かな

おくれしと−はるゆくそらや−したふらむ−おりゐるくもの−みえぬやまかな


01923
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花ちりし雪にあとなく行く春にいつはりならぬ嶺の白雲

はなちりし−ゆきにあとなく−ゆくはるに−いつはりならぬ−みねのしらくも


01924
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霞みつつ夕ゐる嶺を立別れ春よりさきにかへる雲かな

かすみつつ−ゆふゐるみねを−たちわかれ−はるよりさきに−かへるくもかな


01925
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日数へてさきつく花の陰ことにうかりし風も過くる春かな

ひかすへて−さきつくはなの−かけことに−うかりしかせも−すくるはるかな


01926
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春にたに契あさはの野へにたつすけなや今日は行くもしたはて

はるにたに−ちきりあさはの−のへにたつ−すけなやけふは−ゆくもしたはて


01927
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霞さへ日のたてぬきにおる雲のはたても薄く暮るる春かな

かすみさへ−ひのたてぬきに−おるくもの−はたてもうすく−くるるはるかな


01928
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うかりけるたか待つさとを契るとて夕の鐘に春の行くらん

うかりける−たかまつさとを−ちきるとて−ゆふへのかねに−はるのゆくらむ


01929
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此夕いり会の鐘のかすむかな音せぬかたに春やゆくらん

このゆふへ−いりあひのかねの−かすむかな−おとせぬかたに−はるやゆくらむ


01930
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心なく暁かねもなりたかしみそかに春やゆかむとすらん

こころなく−あかつきかねも−なりたかし−みそかにはるや−ゆかむとすらむ


01931
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よもさめしこ蝶も花もそのの外にさりて帰らぬ春のよの夢

よもさめし−こてふもはなも−そののほかに−さりてかへらぬ−はるのよのゆめ


01932
未入力 正徹 (xxx)

草の原こ蝶うち散り尋ぬなりむなしきあとの春の花園

くさのはら−こてふうちちり−たつぬなり−むなしきあとの−はるのはなその


01933
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思ひたつ春の太山になく猿のことわりしるき夕くれの雨

おもひたつ−はるのみやまに−なくさるの−ことわりしるき−ゆふくれのあめ


01934
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みしかしな春のひま行く駒にむち打ちわたすまの前のたな橋

みしかしな−はるのひまゆく−こまにむち−うちわたすまの−まへのたなはし


01935
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日数のみふる江の蘆のいま一夜のこるも夢にくるる春かな

ひかすのみ−ふるえのあしの−いまひとよ−のこるもゆめに−くるるはるかな


01936
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末遠き玉江に生ふるまろ小菅永き日なからくるる春かな

すゑとほき−たまえにおふる−まろこすけ−なかきひなから−くるるはるかな


01937
未入力 正徹 (xxx)

陸人のわたる裳すそもぬれぬ江に契あさくもかへる春かな

かちひとの−わたるもすそも−ぬれぬえに−ちきりあさくも−かへるはるかな


01938
未入力 正徹 (xxx)

春ははやいなさ細江に住む鳥のこは世にしらぬ別路もうし

はるははや−いなさほそえに−すむとりの−こはよにしらぬ−わかれちもうし


01939
未入力 正徹 (xxx)

夕日影入江のあまの釣の糸にかかるともなく春や行くらむ

ゆふひかけ−いりえのあまの−つりのいとに−かかるともなく−はるやゆくらむ


01940
未入力 正徹 (xxx)

海士もうし湊の小舟行く春をこきもかへさぬ浪にかすみて

あまもうし−みなとのをふね−ゆくはるを−こきもかへさぬ−なみにかすみて


01941
未入力 正徹 (xxx)

したへ猶暮行く春を忘貝それもなきさのよその舟人

したへなほ−くれゆくはるを−わすれかひ−それもなきさの−よそのふなひと


01942
未入力 正徹 (xxx)

ゆくへなき春をおひてに漕く舟のほかけかすむをそれと知らすや

ゆくへなき−はるをおひてに−こくふねの−ほかけかすむを−それとしらすや


01943
未入力 正徹 (xxx)

旅の空春行く行にやすらひていさ待ちつれむかへる雲鳥

たひのそら−はるゆくみちに−やすらひて−いさまちつれむ−かへるくもとり


01944
未入力 正徹 (xxx)

春もいぬ鳥の入りにし雲消えて見ゆらん嶺の宿をかたみは

はるもいぬ−とりのいりにし−くもきえて−みゆらむみねの−やとをかたみは


01945
未入力 正徹 (xxx)

けふもをし花のかとりの声のうちにあすの日影の春の限は

けふもをし−はなのかとりの−こゑのうちに−あすのひかけの−はるのかきりは


01946
未入力 正徹 (xxx)

暮れてゆく霞の袖はひかふとも春の衣はてにもかからし

くれてゆく−かすみのそては−ひかふとも−はるのころもは−てにもかからし


01947
未入力 正徹 (xxx)

春そ猶ひま行く駒の行くことはまさきの綱もつなきととめし

はるそなほ−ひまゆくこまの−ゆくことは−まさきのつなも−つなきととめし


01948
未入力 正徹 (xxx)

やすらひて世を卯月にはあはしとやけふの夕に春の行くらん

やすらひて−よをうつきには−あはしとや−けふのゆふへに−はるのゆくらむ


01949
未入力 正徹 (xxx)

春は又去年もかへりし古路を尋ねてけふやおもひ立つらん

はるはまた−こそもかへりし−ふるみちを−たつねてけふや−おもひたつらむ


01950
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さしも夜の長月のはてを思ふにも三月の夢の今日の夕くれ

さしもよの−なかつきのはてを−おもふにも−やよひのゆめの−けふのゆふくれ


01951
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しのひにや夜ふかき空にうかれゆかむなれし三月のみそか心は

しのひにや−よふかきそらに−うかれゆかむ−なれしやよひの−みそかこころは


01952
未入力 正徹 (xxx)

常よりもをしき春かな時守のうつやつつみもけふなきかせそ

つねよりも−をしきはるかな−ときもりの−うつやつつみも−けふなきかせそ


01953
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先そおもふあすの朝気の春の道遠くはゆかし野にも山にも

まつそおもふ−あすのあさけの−はるのみち−とほくはゆかし−のにもやまにも


01954
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春も此ゆふへはかりの山の端にのこる霞や立ちおくれまし

はるもこの−ゆふへはかりの−やまのはに−のこるかすみや−たちおくれまし



草根集 夏

01955
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けふも又青葉の桜雪とふる山路かけてや夏のきぬらん

けふもまた−あをはのさくら−ゆきとふる−やまちかけてや−なつのきぬらむ


01956
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見しやいつ開きちる花の春の夢覚むるともなく夏はきにけり

みしやいつ−さきちるはなの−はるのゆめ−さむるともなく−なつはきにけり


01957
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しけれたた春におくれてひとりとも思ふ色なきみ山木の陰

しけれたた−はるにおくれて−ひとりとも−おもふいろなき−みやまきのかけ


01958
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榊とる卯月のいみのさしなから立ちくる夏になひくしらゆふ

さかきとる−うつきのいみの−さしなから−たちくるなつに−なひくしらゆふ


01959
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宮人の卯月の袖も榊葉の神さひにける夏衣かな

みやひとの−うつきのそても−さかきはの−かみさひにける−なつころもかな


01960
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卯花のほかにや夏はきさらきの雪まにかへる山の下柴

うのはなの−ほかにやなつは−きさらきの−ゆきまにかへる−やまのしたしは


01961
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花もまたのこる梢の初もえき夏と春との色やわくらん

はなもまた−のこるこすゑの−はつもえき−なつとはるとの−いろやわくらむ


01962
未入力 正徹 (xxx)

行く春のすみれ咲く野に朝立つやたた一夜ねて夏はきにけり

ゆくはるの−すみれさくのに−あさたつや−たたひとよねて−なつはきにけり


01963
未入力 正徹 (xxx)

けふならは卯月のいみにさしとめて春をもやらぬ夏に逢ふらん

けふならは−うつきのいみに−さしとめて−はるをもやらぬ−なつにあふらむ


01964
未入力 正徹 (xxx)

榊とる心のしめにかけ置きし神わさしるく夏はきにけり

さかきとる−こころのしめに−かけおきし−かみわさしるく−なつはきにけり


01965
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春暮れて夏なき宿をけふそとふ見さりし桐の風の広はに

はるくれて−なつなきやとを−けふそとふ−みさりしきりの−かせのひろはに


01966
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今朝そみる弥生のうちに立つ夏の日かすはかりにかふる衣を

けさそみる−やよひのうちに−たつなつの−ひかすはかりに−かふるころもを


01967
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花に見し卯月のよひの月にそふ霞や春のにほひなるらん

はなにみし−うつきのよひの−つきにそふ−かすみやはるの−にほひなるらむ


01968
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けふみれは卯月の花の下紐もはやときかくる衣かへかな

けふみれは−うつきのはなの−したひもも−はやときかくる−ころもかへかな


01969
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いつくにもけふあけそむる氷室ゆゑ夏のくる日の風そ涼しき

いつくにも−けふあけそむる−ひむろゆゑ−なつのくるひの−かせそすすしき


01970
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あかさりし春は夜のまの夢路にもとほくはゆかし夏の曙

あかさりし−はるはよのまの−ゆめちにも−とほくはゆかし−なつのあけほの


01971
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春はいぬ花のかかみもくもりなき夏の陰見る宿のまし水

はるはいぬ−はなのかかみも−くもりなき−なつのかけみる−やとのましみつ


01972
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今朝そ見る春をとなりの中垣に衣かけほしさける卯花

けさそみる−はるをとなりの−なかかきに−ころもかけほし−さけるうのはな


01973
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埋火のもとの夜床もわすられす又朝さむき夏衣かな

うつみひの−もとのよとこも−わすられす−またあささむき−なつころもかな


01974
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朝またき夏のはつ風吹初めぬいかはかりかは袖にまたまし

あさまたき−なつのはつかせ−ふきそめぬ−いかはかりかは−そてにまたまし


01975
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夏きても春はありその海松や猶ときそとも浪に霞みて

なつきても−はるはありその−うみまつや−なほときそとも−なみにかすみて


01976
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竹の子も世のうきふしをそへかほに窓につのくむ夏はきにけり

たけのこも−よのうきふしを−そへかほに−まとにつのくむ−なつはきにけり


01977
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今朝かすみ春をへたてて立ちかふる天つ衣のうら風そ吹く

けさかすみ−はるをへたてて−たちかふる−あまつころもの−うらかせそふく


01978
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佗ひぬれは朽ちはつるまて立ちかへぬ苔の衣に夏はきにけり

わひぬれは−くちはつるまて−たちかへぬ−こけのころもに−なつはきにけり


01979
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夏きても匂ふ藤浪あらたへの衣かへせぬ山かとそ見る

なつきても−にほふふちなみ−あらたへの−ころもかへせぬ−やまかとそみる


01980
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しけりゆくうらはの下に咲く藤の春にかへらぬ花のなみかな

しけりゆく−うらはのしたに−さくふちの−はるにかへらぬ−はなのなみかな


01981
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咲きそむる卯花月にみかの夜のかけ天地をてらす夏かな

さきそむる−うのはなつきに−みかのよの−かけあめつちを−てらすなつかな


01982
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夏きては袖をかさねて薄からす卯花山の雲のさころも

なつきては−そてをかさねて−うすからす−うのはなやまの−くものさころも


01983
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八幡山あふくめくみの陰しけき嶺のたつ木に夏はきにけり

やはたやま−あふくめくみの−かけしけき−みねのたつきに−なつはきにけり


01984
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三日月の中にかつらはしけるともかた枝に夏の影やしくらん

みかつきの−うちにかつらは−しけるとも−かたえになつの−かけやしくらむ


01985
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夜もすから月のきせつる白かさねあくれはうすき夏衣かな

よもすから−つきのきせつる−しらかさね−あくれはうすき−なつころもかな


01986
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声たかし卯月のけふの忍音といふへくもあらぬ郭公かな

こゑたかし−うつきのけふの−しのひねと−いふへくもあらぬ−ほとときすかな


01987
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夏きても花にまかへししら雲を送りつくさぬよその春風

なつきても−はなにまかへし−しらくもを−おくりつくさぬ−よそのはるかせ


01988
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蝉のはの衣手よりも猶うすく匂ふ桜にのこる春風

せみのはの−ころもてよりも−なほうすく−にほふさくらに−のこるはるかせ


01989
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夏にけふ扇の風そいそかるる吹くともあかし六月の空

なつにけふ−あふきのかせそ−いそかるる−ふくともあかし−みなつきのそら


01990
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夏衣袖にまちえついにしへの風の心を今も伝へて

なつころも−そてにまちえつ−いにしへの−かせのこころを−いまもつたへて


01991
未入力 正徹 (xxx)

行く春を送りし川のいつへよりさそふ水ありて夏のきねらん

ゆくはるを−おくりしかはの−いつへより−さそふみつありて−なつのきねらむ


01992
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神山の卯月の雲も引くしめの夕の雨ににほふ榊葉

かみやまの−うつきのくもも−ひくしめの−ゆふへのあめに−にほふさかきは


01993
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もろ人のかふる衣の一重山うすくは見えぬ夏木立かな

もろひとの−かふるころもの−ひとへやま−うすくはみえぬ−なつこたちかな


01994
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いまよりの手引もたえし桜麻は夏そに成りぬうな上の山

いまよりの−てひきもたえし−さくらあさは−なつそになりぬ−うなかみのやま


01995
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ま柴とり入る山人の夏衣うすきやのこる霞なるらん

ましはとり−いるやまひとの−なつころも−うすきやのこる−かすみなるらむ


01996
未入力 正徹 (xxx)

袖かろし此山たつに杣板のすくなる道を夏や来にけん

そてかろし−このやまたつに−そまいたの−すくなるみちを−なつやきにけむ


01997
未入力 正徹 (xxx)

郭公これや卯月の都鳥軒く音こととふ雲の上人

ほとときす−これやうつきの−みやことり−なくねこととふ−くものうへひと


01998
未入力 正徹 (xxx)

ことの葉はいつれかしけき夏きぬとゆふしてかくる杜の下草

ことのはは−いつれかしけき−なつきぬと−ゆふしてかくる−もりのしたくさ


01999
未入力 正徹 (xxx)

惜むかな花の林の春の陰あるるはしける夏のこすゑを

をしむかな−はなのはやしの−はるのかけ−あるるはしける−なつのこすゑを


02000
未入力 正徹 (xxx)

かけしけくならふ梢のふか緑あさくは夏を契らさりけり

かけしけく−ならふこすゑの−ふかみとり−あさくはなつを−ちきらさりけり


02001
未入力 正徹 (xxx)

しろたへも茂る林にかくろへてかふるか夏の鷺の毛衣

しろたへも−しけるはやしに−かくろへて−かふるかなつの−さきのけころも


02002
未入力 正徹 (xxx)

榊たて卯月のしめの外になす春遠さかるかもの神山

さかきたて−うつきのしめの−ほかになす−はるとほさかる−かものかみやま


02003
未入力 正徹 (xxx)

立ちかふるならひもしらぬ墨染の衣はいつのかたみなるらん

たちかふる−ならひもしらぬ−すみそめの−ころもはいつの−かたみなるらむ


02004
未入力 正徹 (xxx)

たちかへて袖になれにし名残たにいさ白かさね花の香もなし

たちかへて−そてになれにし−なこりたに−いさしらかさね−はなのかもなし


02005
未入力 正徹 (xxx)

花の春もかへはかへなん惜むへき袖にもあらね麻のさ衣

はなのはるも−かへはかへなむ−をしむへき−そてにもあらね−あさのさころも


02006
未入力 正徹 (xxx)

けふよりも涼しくかふる衣手を知るらむものそ六月の風

けふよりも−すすしくかふる−ころもてを−しるらむものそ−みなつきのかせ


02007
未入力 正徹 (xxx)

夏衣人こそかふれ花の香ををしむににたる苔の袖かな

なつころも−ひとこそかふれ−はなのかを−をしむににたる−こけのそてかな


02008
未入力 正徹 (xxx)

織りいたす香取をとめもひまやなきけふもろ人のかふる衣に

おりいたす−かとりをとめも−ひまやなき−けふもろひとの−かふるころもに


02009
未入力 正徹 (xxx)

思はすにけさぬきかへて花のかをうつし心もなきたもとかな

おもはすに−けさぬきかへて−はなのかを−うつしこころも−なきたもとかな


02010
未入力 正徹 (xxx)

しろたへにかふるを見ても墨染の袖のよそなる夏そしらるる

しろたへに−かふるをみても−すみそめの−そてのよそなる−なつそしらるる


02011
未入力 正徹 (xxx)

あかすしてなれにし春の衣手も花の香取にうつる夏かな

あかすして−なれにしはるの−ころもても−はなのかとりに−うつるなつかな


02012
未入力 正徹 (xxx)

榊とるけふ神山に入る人やいもひのために衣かふらん

さかきとる−けふかみやまに−いるひとや−いもひのために−ころもかふらむ


02013
未入力 正徹 (xxx)

立残る山の霞もたた一重衣かへするけふにあひぬる

たちのこる−やまのかすみも−たたひとへ−ころもかへする−けふにあひぬる


02014
未入力 正徹 (xxx)

水にすむたくひを見ても今しはしかへまく袖の鴛の毛衣

みつにすむ−たくひをみても−いましはし−かへまくそての−をしのけころも


02015
未入力 正徹 (xxx)

見し花の香取のうらのあま衣立ちかふる日もぬれつつやふる

みしはなの−かとりのうらの−あまころも−たちかふるひも−ぬれつつやふる


02016
未入力 正徹 (xxx)

つつりさす衣はなにか惜しからんかへはや春の花のかもなし

つつりさす−ころもはなにか−をしからむ−かへはやはるの−はなのかもなし


02017
未入力 正徹 (xxx)

遅桜のこるにほひをさそひきてかふる衣に春風そふく

おそさくら−のこるにほひを−さそひきて−かふるころもに−はるかせそふく


02018
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八重霞山も七重をぬき捨ててうすき衣になる朝かな

やへかすみ−やまもななへを−ぬきすてて−うすきころもに−なるあしたかな


02019
未入力 正徹 (xxx)

雲路にてけふやはかへん行く春の花の香しめし鳥の毛衣

くもちにて−けふやはかへむ−ゆくはるの−はなのかしめし−とりのけころも


02020
未入力 正徹 (xxx)

したひつる春いかなれはぬきかふる衣にうすき契なるらん

したひつる−はるいかなれは−ぬきかふる−ころもにうすき−ちきりなるらむ


02021
未入力 正徹 (xxx)

壁代もみすにそへたるうす物も今朝立ちかへて袖や涼しき

かへしろも−みすにそへたる−うすものも−けさたちかへて−そてやすすしき


02022
未入力 正徹 (xxx)

猶もをし花の香のこる朝露のぬれてひるまにかふる衣は

なほもをし−はなのかのこる−あさつゆの−ぬれてひるまに−かふるころもは


02023
未入力 正徹 (xxx)

誰かけふあはてねしよの春過きてさえ分くるあさの衣かふらん

たれかけふ−あはてねしよの−はるすきて−さえわくるあさの−ころもかふらむ


02024
未入力 正徹 (xxx)

立ちかふる衣の袖の朝しめり露も夏にやうつりきぬらん

たちかふる−ころものそての−あさしめり−つゆもなつにや−うつりきぬらむ


02025
未入力 正徹 (xxx)

花の香を惜むにもあらす夏衣朝寒くしてかへまくはうし

はなのかを−をしむにもあらす−なつころも−あささむくして−かへまくはうし


02026
未入力 正徹 (xxx)

このねぬる朝露なからぬき置きて猶袖かろき夏衣かな

このねぬる−あさつゆなから−ぬきおきて−なほそてかろき−なつころもかな


02027
未入力 正徹 (xxx)

卯花の木の下てらす夕月夜春にまされる山さくらかな

うのはなの−このしたてらす−ゆふつくよ−はるにまされる−やまさくらかな


02028
未入力 正徹 (xxx)

山さくら花こそのこれ一枝をけふのかつらに折りやうゑまし

やまさくら−はなこそのこれ−ひとえたを−けふのかつらに−をりやうゑまし


02029
未入力 正徹 (xxx)

尋見ん春にあはぬを恨にてさくや卯月の山桜花

たつねみむ−はるにあはぬを−うらみにて−さくやうつきの−やまさくらはな


02030
未入力 正徹 (xxx)

夏もみる春の湊かさし藤の波に雲ゐる山さくら花

なつもみる−はるのみなとか−さしふちの−なみにくもゐる−やまさくらはな


02031
未入力 正徹 (xxx)

しけるなりさけるやいつこ御吉野の山桜はに花のかそする

しけるなり−さけるやいつこ−みよしのの−やまさくらはに−はなのかそする


02032
未入力 正徹 (xxx)

あかて見し人のためとや夏きても桜かさせる山の井の水

あかてみし−ひとのためとや−なつきても−さくらかさせる−やまのゐのみつ


02033
未入力 正徹 (xxx)

三月たにさえつるふしの山桜ふもとの雲そ夏にかかれる

やよひたに−さえつるふしの−やまさくら−ふもとのくもそ−なつにかかれる


02034
未入力 正徹 (xxx)

咲く藤も夏にかかるをしるへにて又たつねつる山桜かな

さくふちも−なつにかかるを−しるへにて−またたつねつる−やまさくらかな


02035
未入力 正徹 (xxx)

夏山に猶花ありとよふこ鳥声にも春を忘れやはする

なつやまに−なほはなありと−よふことり−こゑにもはるを−わすれやはする


02036
未入力 正徹 (xxx)

桜かりゆけとも花は夏山のしけみか上に雪そちりくる

さくらかり−ゆけともはなは−なつやまの−しけみかうへに−ゆきそちりくる


02037
未入力 正徹 (xxx)

尋見ん卯月の山の桜かりしけきの風に花のかそする

たつねみむ−うつきのやまの−さくらかり−しけきのかせに−はなのかそする


02038
未入力 正徹 (xxx)

夏山のしけみかおくにかくろへて春をやとせる花の陰かな

なつやまの−しけみかおくに−かくろへて−はるをやとせる−はなのかけかな


02039
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夏衣きその朝露袖かけて桜にほはせつるる山風

なつころも−きそのあさつゆ−そてかけて−さくらにほはせ−つるるやまかせ


02040
未入力 正徹 (xxx)

夏きてそしけれる谷の埋木も人にしらるる花の下陰

なつきてそ−しけれるたにの−うもれきも−ひとにしらるる−はなのしたかけ


02041
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けふとるやま榊の葉のかをしめて袂に春の花を忘れし

けふとるや−まさかきのはの−かをしめて−たもとにはるの−はなをわすれし


02042
未入力 正徹 (xxx)

うすけれと袖さむからす夏衣たちあはせたる白かさねかな

うすけれと−そてさむからす−なつころも−たちあはせたる−しらかさねかな


02043
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夏衣かふるともなく立つ波の花の香取のうら風そふく

なつころも−かふるともなく−たつなみの−はなのかとりの−うらかせそふく


02044
未入力 正徹 (xxx)

松風の色もかすまて千重による木のまの浪に夏や立つらん

まつかせの−いろもかすまて−ちへによる−このまのなみに−なつやたつらむ


02045
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夏はまた遠山鳥も見し雲のしたり尾なかくこゆる嶺かな

なつはまた−とほやまとりも−みしくもの−したりをなかく−こゆるみねかな


02046
未入力 正徹 (xxx)

しけり行く色は緑の夏山になにの花そものこる白雲

しけりゆく−いろはみとりの−なつやまに−なにのはなそも−のこるしらくも


02047
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若葉たつ嶺の林の薄雲も秋の色かる夏そきにける

わかはたつ−みねのはやしの−うすくもも−あきのいろかる−なつそきにける


02048
未入力 正徹 (xxx)

ねにかへり鳥の入りぬと見し雲もききの林の茂る夏かな

ねにかへり−とりのいりぬと−みしくもも−ききのはやしの−しけるなつかな


02049
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茂りあふ木の下遠き夕やみに道はまよはすさける卯花

しけりあふ−このもととほき−ゆふやみに−みちはまよはす−さけるうのはな


02050
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夕ま暮月は此比有明の影先きたつる庭の卯花

ゆふまくれ−つきはこのころ−ありあけの−かけさきたつる−にはのうのはな


02051
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垣ほなる卯花月夜ふけぬともそらにしられぬ木の本の宿

かきほなる−うのはなつきよ−ふけぬとも−そらにしられぬ−このもとのやと


02052
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山かつの垣ほにさける卯花や玉しく庭に猶まさるらん

やまかつの−かきほにさける−うのはなや−たましくにはに−なほまさるらむ


02053
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木の本の卯花月の出入をまちもをしまぬ遠近の山

このもとの−うのはなつきの−いていりを−まちもをしまぬ−をちこちのやま


02054
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しろたへに卯花さける氷室山うつみし雪や色に出つらん

しろたへに−うのはなさける−ひむろやま−うつみしゆきや−いろにいつらむ


02055
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久かたの雲まの影はくもる夜を卯月そてらす花の下みち

ひさかたの−くもまのかけは−くもるよを−うつきそてらす−はなのしたみち


02056
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夏きてもまた三日の夜は卯花のさける光そ月にまされる

なつきても−またみかのよは−うのはなの−さけるひかりそ−つきにまされる


02057
未入力 正徹 (xxx)

影うすき卯花山の夕月よしくれにきえぬ嶺の松風

かけうすき−うのはなやまの−ゆふつくよ−しくれにきえぬ−みねのまつかせ


02058
未入力 正徹 (xxx)

つひに世を卯花山におもひ入る雪のふるすは鴬そなく

つひによを−うのはなやまに−おもひいる−ゆきのふるすは−うくひすそなく


02059
未入力 正徹 (xxx)

山やみなしけりはつらん木の下の卯月の花の雪のむらきえ

やまやみな−しけりはつらむ−このもとの−うつきのはなの−ゆきのむらきえ


02060
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氷室山こほりにさゆる川風にふらぬ雪ちる岸の卯花

ひむろやま−こほりにさゆる−かはかせに−ふらぬゆきちる−きしのうのはな


02061
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初春の卯つちにきりし枝もをし夏の垣ほに先さける花

はつはるの−うつちにきりし−えたもをし−なつのかきほに−まつさけるはな


02062
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春過きて卯花さける氷室山こほらぬ雪をいたすとそみる

はるすきて−うのはなさける−ひむろやま−こほらぬゆきを−いたすとそみる


02063
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咲きあまる卯花山の山人や月またさらむ此月はかり

さきあまる−うのはなやまの−やまひとや−つきまたさらむ−このつきはかり


02064
未入力 正徹 (xxx)

見てもあかぬ大宮人もたをれとや神の井垣をうゆる卯花

みてもあかぬ−おほみやひとも−たをれとや−かみのゐかきを−うゆるうのはな


02065
未入力 正徹 (xxx)

時過きてうつろふ杜の卯花やゆふしてくつる色にみゆらん

ときすきて−うつろふもりの−うのはなや−ゆふしてくつる−いろにみゆらむ


02066
未入力 正徹 (xxx)

山かつの霧の籬はあれはてて又雪かこふ庭の卯花

やまかつの−きりのまかきは−あれはてて−またゆきかこふ−にはのうのはな


02067
未入力 正徹 (xxx)

遠かたやさらすあさ衣一むらを月まてかくるさとの卯花

をちかたや−さらすあさきぬ−ひとむらを−つきまてかくる−さとのうのはな


02068
未入力 正徹 (xxx)

これや此あな卯花とおもへとも立ちかへり見る敷島の道

これやこの−あなうのはなと−おもへとも−たちかへりみる−しきしまのみち


02069
未入力 正徹 (xxx)

山風や宮の直路も寒からすかへしま袖にわくる卯花

やまかせや−みやのたたちも−さむからす−かへしまそてに−わくるうのはな


02070
未入力 正徹 (xxx)

分けゆかは山路の雪のすり衣卯花散りて露そみたれん

わけゆかは−やまちのゆきの−すりころも−うのはなちりて−つゆそみたれむ


02071
未入力 正徹 (xxx)

山ふかみ世を卯花に分けいらは更にわか身をすつるとやみん

やまふかみ−よをうのはなに−わけいらは−さらにわかみを−すつるとやみむ


02072
未入力 正徹 (xxx)

春過きて木の下雪そたとらるる花に卯杖を又やきらまし

はるすきて−このしたゆきそ−たとらるる−はなにうつゑを−またやきらまし


02073
未入力 正徹 (xxx)

雨そそく木の下露も卯花の雪の光をみかくしら玉

あめそそく−このしたつゆも−うのはなの−ゆきのひかりを−みかくしらたま


02074
未入力 正徹 (xxx)

うつ木原木の下おくる夕月よ花としらてやかへる山人

うつきはら−このもとおくる−ゆふつくよ−はなとしらてや−かへるやまひと


02075
未入力 正徹 (xxx)

夏来てもくるる色なき卯花にいまもあけおく山の桜戸

なつきても−くるるいろなき−うのはなに−いまもあけおく−やまのさくらと


02076
未入力 正徹 (xxx)

雪かともえそ見えわかぬ川舟ののはれはくたる岸の卯花

ゆきかとも−えそみえわかぬ−かはふねの−のはれはくたる−きしのうのはな


02077
未入力 正徹 (xxx)

雪の色を高ねにつつく卯花の岸に棹さすふしの川船

ゆきのいろを−たかねにつつく−うのはなの−きしにさをさす−ふしのかはふね


02078
未入力 正徹 (xxx)

早川やくたす鵜舟に岸うつりとふ白鳥やさける卯花

はやかはや−くたすうふねに−きしうつり−とふしらとりや−さけるうのはな


02079
未入力 正徹 (xxx)

卯花のさける淡路をあわとみて塩あひよくるせとの舟人

うのはなの−さけるあはちを−あわとみて−しほあひよくる−せとのふなひと


02080
未入力 正徹 (xxx)

川上の滝のしら淡なかれきて雪をあらそふ岸の卯花

かはかみの−たきのしらあわ−なかれきて−ゆきをあらそふ−きしのうのはな


02081
未入力 正徹 (xxx)

なつみ川山陰にして見し雪ののこるかさくか岸の卯花

なつみかは−やまかけにして−みしゆきの−のこるかさくか−きしのうのはな


02082
未入力 正徹 (xxx)

影うつす卯花さける木の本に消ゆとはなしの雪の下水

かけうつす−うのはなさける−このもとに−きゆとはなしの−ゆきのしたみつ


02083
未入力 正徹 (xxx)

岸たかみ牆ほつつきの卯花に川辺の里をうつむ白波

きしたかみ−かきほつつきの−うのはなに−かはへのさとを−うつむしらなみ


02084
未入力 正徹 (xxx)

天つ空光は見えす卯花の咲くや卯月の夕やみの庭

あまつそら−ひかりはみえす−うのはなの−さくやうつきの−ゆふやみのには


02085
未入力 正徹 (xxx)

卯花のさける山路の夕ま暮送らぬ月にいつる里人

うのはなの−さけるやまちの−ゆふまくれ−おくらぬつきに−いつるさとひと


02086
未入力 正徹 (xxx)

ねくらなき身をうの花の雪の山月ともわかす鳥や鳴くらん

ねくらなき−みをうのはなの−ゆきのやま−つきともわかす−とりやなくらむ


02087
未入力 正徹 (xxx)

杣木きる嵐やたくふ山岸に咲く卯花や雪折のこゑ

そまききる−あらしやたくふ−やまきしに−さくうのはなや−ゆきをれのこゑ


02088
未入力 正徹 (xxx)

郭公わか名をもらせ人とはは床の山なるいさとこたへん

ほとときす−わかなをもらせ−ひととはは−とこのやまなる−いさとこたへむ


02089
未入力 正徹 (xxx)

ほのかにそ月はのこれる郭公今一こゑを面影にして

ほのかにそ−つきはのこれる−ほとときす−いまひとこゑを−おもかけにして


02090
未入力 正徹 (xxx)

待見つる山郭公一こゑの後にそなかき夏のよの空

まちみつる−やまほとときす−ひとこゑの−のちにそなかき−なつのよのそら


02091
未入力 正徹 (xxx)

立ちかへり老をたのみしかひありて山郭公ね覚にそきく

たちかへり−おいをたのみし−かひありて−やまほとときす−ねさめにそきく


02092
未入力 正徹 (xxx)

をしか待つは山をいつる郭公ともすほくしの影に鳴くなり

をしかまつ−はやまをいつる−ほとときす−ともすほくしの−かけになくなり


02093
未入力 正徹 (xxx)

郭公鳴きてやすらふ山すけのなかき日くらしあかすもあるかな

ほとときす−なきてやすらふ−やますけの−なかきひくらし−あかすもあるかな


02094
未入力 正徹 (xxx)

四月まちてそのまにもなけ郭公道たとたとし夕やみの空

つきまちて−そのまにもなけ−ほとときす−みちたとたとし−ゆふやみのそら


02095
未入力 正徹 (xxx)

かたらはんなれもまた世に出てやらて鳴く音そこもる山郭公

かたらはむ−なれもまたよに−いてやらて−なくねそこもる−やまほとときす


02096
未入力 正徹 (xxx)

晴れやらて八重たつ雲に郭公なくやよ川のすきかての空

はれやらて−やへたつくもに−ほとときす−なくやよかはの−すきかてのそら


02097
未入力 正徹 (xxx)

こゑそきく山郭公なのりそを磯にはよせぬにほのうら波

こゑそきく−やまほとときす−なのりそを−いそにはよせぬ−にほのうらなみ


02098
未入力 正徹 (xxx)

鳴きすかる声を聞けとも郭公あかてそむすふ山の井の水

なきすかる−こゑをきけとも−ほとときす−あかてそむすふ−やまのゐのみつ


02099
未入力 正徹 (xxx)

郭公わかなをたてて忍ねをたかもらしつと世をはうらみん

ほとときす−わかなをたてて−しのひねを−たかもらしつと−よをはうらみむ


02100
未入力 正徹 (xxx)

とくいてしわかはらからの鴬や卯月もさらぬ山郭公

とくいてし−わかはらからの−うくひすや−うつきもさらぬ−やまほとときす


02101
未入力 正徹 (xxx)

老いにけりいまこん年の一こゑを鳴きてはなとか山郭公

おいにけり−いまこむとしの−ひとこゑを−なきてはなとか−やまほとときす


02102
未入力 正徹 (xxx)

郭公初鳥やこめの箸鷹に心あはせて出てぬ山かな

ほとときす−はつとやこめの−はしたかに−こころあはせて−いてぬやまかな


02103
未入力 正徹 (xxx)

うたたねをやかておき出つる一声はおやのいさめの郭公かな

うたたねを−やかておきいつる−ひとこゑは−おやのいさめの−ほとときすかな


02104
未入力 正徹 (xxx)

むら雨は山田の杉のもとかしはぬれぬかけしる郭公かな

むらさめは−やまたのすきの−もとかしは−ぬれぬかけしる−ほとときすかな


02105
未入力 正徹 (xxx)

しはしまて木幡の山の郭公こゑ此ころや口なしの花

しはしまて−こはたのやまの−ほとときす−こゑこのころや−くちなしのはな


02106
未入力 正徹 (xxx)

橘のちるは色かををしむなりきなれしものを山ほとときす

たちはなの−ちるはいろかを−をしむなり−きなれしものを−やまほとときす


02107
未入力 正徹 (xxx)

ををよわみ涙の玉もおちかへりみたれてをなけ山郭公

ををよわみ−なみたのたまも−おちかへり−みたれてをなけ−やまほとときす


02108
未入力 正徹 (xxx)

郭公こゑもこよひの影なから窓もる竹の臥待の月

ほとときす−こゑもこよひの−かけなから−まともるたけの−ふしまちのつき


02109
未入力 正徹 (xxx)

郭公稀なるこゑを恨みてや夕の雲も立ちかへるらん

ほとときす−まれなるこゑを−うらみてや−ゆふへのくもも−たちかへるらむ


02110
未入力 正徹 (xxx)

榊とる山路をいてて郭公鳴くや卯月のしめの外まて

さかきとる−やまちをいてて−ほとときす−なくやうつきの−しめのほかまて


02111
未入力 正徹 (xxx)

郭公おほえぬ夜の一こゑの後そ心をつけのをまくら

ほとときす−おほえぬよるの−ひとこゑの−のちそこころを−つけのをまくら


02112
未入力 正徹 (xxx)

一こゑをうたかひあへる人ことにものいひとまる郭公かな

ひとこゑを−うたかひあへる−ひとことに−ものいひとまる−ほとときすかな


02113
未入力 正徹 (xxx)

五月かも麦の秋風蝉のこゑましはる杜になく郭公

さつきかも−むきのあきかせ−せみのこゑ−ましはるもりに−なくほとときす


02114
未入力 正徹 (xxx)

落ちくるも声しら淡にききてけり滝の上なる山郭公

おちくるも−こゑしらあわに−ききてけり−たきのうへなる−やまほとときす


02115
未入力 正徹 (xxx)

しのふとも思はてしもや郭公深山かくれに初音鳴くらん

しのふとも−おもはてしもや−ほとときす−みやまかくれに−はつねなくらむ


02116
未入力 正徹 (xxx)

夜もすからやすらへ空の郭公月に鳴くとも涙くもらし

よもすから−やすらへそらの−ほとときす−つきになくとも−なみたくもらし


02117
未入力 正徹 (xxx)

おやよりも世に名そたかき鴬のかひこの中の鳥の一こゑ

おやよりも−よになそたかき−うくひすの−かひこのうちの−とりのひとこゑ


02118
未入力 正徹 (xxx)

駒とむるひのくま川の夕浪にささめことせぬ郭公かな

こまとむる−ひのくまかはの−ゆふなみに−ささめことせぬ−ほとときすかな


02119
未入力 正徹 (xxx)

郭公まつにつけてもまとろます蚊の初こゑの渡る枕は

ほとときす−まつにつけても−まとろます−かのはつこゑの−わたるまくらは


02120
未入力 正徹 (xxx)

郭公すかたはしらす年へてもきくに老いせぬこゑの色かな

ほとときす−すかたはしらす−としへても−きくにおいせぬ−こゑのいろかな


02121
未入力 正徹 (xxx)

またれつる心のうらもあひねとや此夕とふ郭公かな

またれつる−こころのうらも−あひねとや−このゆふへとふ−ほとときすかな


02122
未入力 正徹 (xxx)

郭公心にかけて思ふ夜は雲まの月のおも影のこゑ

ほとときす−こころにかけて−おもふよは−くもまのつきの−おもかけのこゑ


02123
未入力 正徹 (xxx)

雲まよふいさよひの月の村雨を先まちいつる郭公かな

くもまよふ−いさよひのつきの−むらさめを−まつまちいつる−ほとときすかな


02124
未入力 正徹 (xxx)

時鳥きかぬ山路に分けいれは心あらはすみねの松風

ほとときす−きかぬやまちに−わけいれは−こころあらはす−みねのまつかせ


02125
未入力 正徹 (xxx)

郭公しれかし山の尾の上にもひとつ心の一木たつなり

ほとときす−しれかしやまの−をのへにも−ひとつこころの−ひときたつなり


02126
未入力 正徹 (xxx)

年もへぬまつに心はみしかくて玉のをなかき郭公かな

としもへぬ−まつにこころは−みしかくて−たまのをなかき−ほとときすかな


02127
未入力 正徹 (xxx)

時鳥わか松山をこえてなけ契りし末はそれそかはらぬ

ほとときす−わかまつやまを−こえてなけ−ちきりしすゑは−それそかはらぬ


02128
未入力 正徹 (xxx)

郭公雨の名残もつれなくてまたぬに出つる山のはの雲

ほとときす−あめのなこりも−つれなくて−またぬにいつる−やまのはのくも


02129
未入力 正徹 (xxx)

きかし猶老いて名をかるみみなしの山郭公なきふるすとも

きかしなほ−おいてなをかる−みみなしの−やまほとときす−なきふるすとも


02130
未入力 正徹 (xxx)

時鳥鳴くや涙のはつ染に木木の若葉や色に出つらん

ほとときす−なくやなみたの−はつそめに−ききのわかはや−いろにいつらむ


02131
未入力 正徹 (xxx)

郭公なかなく声の初しほは色なき袖に涙おちつつ

ほとときす−なかなくこゑの−はつしほは−いろなきそてに−なみたおちつつ


02132
未入力 正徹 (xxx)

郭公卯月に手折る榊葉の色もかはらぬ初音をそ聞く

ほとときす−うつきにたをる−さかきはの−いろもかはらぬ−はつねをそきく


02133
未入力 正徹 (xxx)

郭公初音のけふの玉手箱この明かたや太山出つらん

ほとときす−はつねのけふの−たまてはこ−このあけかたや−みやまいつらむ


02134
未入力 正徹 (xxx)

手にとらぬ初音のけふの郭公これにも又やゆらく玉のを

てにとらぬ−はつねのけふの−ほとときす−これにもまたや−ゆらくたまのを


02135
未入力 正徹 (xxx)

初こゑになれもめててや時鳥けふのうつきに落ちかへりなく

はつこゑに−なれもめててや−ほとときす−けふのうつきに−おちかへりなく


02136
未入力 正徹 (xxx)

時鳥人もことはのおほかるは品すくなしと又そこゑせぬ

ほとときす−ひともことはの−おほかるは−しなすくなしと−またそこゑせぬ


02137
未入力 正徹 (xxx)

郭公たかねの月も二こゑとなかて色そふ松の夕かせ

ほとときす−たかねのつきも−ふたこゑと−なかていろそふ−まつのゆふかせ


02138
未入力 正徹 (xxx)

もりいつる雲まの月の一こゑに声なかさねそ山郭公

もりいつる−くもまのつきの−ひとこゑに−こゑなかさねそ−やまほとときす


02139
未入力 正徹 (xxx)

山のはに雲あつまりぬ郭公しはしかたらへ一こゑそせし

やまのはに−くもあつまりぬ−ほとときす−しはしかたらへ−ひとこゑそせし


02140
未入力 正徹 (xxx)

神まつる卯月のしめのうちにたにこといみしける山郭公

かみまつる−うつきのしめの−うちにたに−こといみしける−やまほとときす


02141
未入力 正徹 (xxx)

神山の卯月のしめのよそにたにゆふかけてなく郭公かな

かみやまの−うつきのしめの−よそにたに−ゆふかけてなく−ほとときすかな


02142
未入力 正徹 (xxx)

此夕一こゑ過きぬほとときすかへさを契れあかつきの空

このゆふへ−ひとこゑすきぬ−ほとときす−かへさをちきれ−あかつきのそら


02143
未入力 正徹 (xxx)

よしさらはあかすは老のひかききもましれと思ふ郭公かな

よしさらは−あかすはおいの−ひかききも−ましれとおもふ−ほとときすかな


02144
未入力 正徹 (xxx)

いくこゑと人のいふにそ郭公遅く聞きつる数もくやしき

いくこゑと−ひとのいふにそ−ほとときす−おそくききつる−かすもくやしき


02145
未入力 正徹 (xxx)

郭公老の枕にかすかなるこゑいかはかりさやけかるらん

ほとときす−おいのまくらに−かすかなる−こゑいかはかり−さやけかるらむ


02146
未入力 正徹 (xxx)

きけは先心そらなる郭公たのますとてや遠さかるらん

きけはまつ−こころそらなる−ほとときす−たのますとてや−とほさかるらむ


02147
未入力 正徹 (xxx)

聞きあへす人にかたれは我かための初音ふりねる郭公かな

ききあへす−ひとにかたれは−わかための−はつねふりねる−ほとときすかな


02148
未入力 正徹 (xxx)

郭公又あひかたしこれや此わしの高ねの法の一こゑ

ほとときす−またあひかたし−これやこの−わしのたかねの−のりのひとこゑ


02149
未入力 正徹 (xxx)

時鳥鳴く山ことに山ひこのあらまほしきもあるそまれなる

ほとときす−なくやまことに−やまひこの−あらまほしきも−あるそまれなる


02150
未入力 正徹 (xxx)

桜かり夏やのこると初音をも尋ぬる山に鳴く郭公

さくらかり−なつやのこると−はつねをも−たつぬるやまに−なくほとときす


02151
未入力 正徹 (xxx)

時鳥とほさかるなり覚めつるは近き夢路にこゑや行くらん

ほとときす−とほさかるなり−さめつるは−ちかきゆめちに−こゑやゆくらむ


02152
未入力 正徹 (xxx)

郭公ききても老と思はぬやことしはかりのね覚ならまし

ほとときす−ききてもおいと−おもはぬや−ことしはかりの−ねさめならまし


02153
未入力 正徹 (xxx)

夢さめておきいつる閨の郭公いま一こゑは月にきくなり

ゆめさめて−おきいつるねやの−ほとときす−いまひとこゑは−つきにきくなり


02154
未入力 正徹 (xxx)

うき夢の床の涙のよそなからなきおとろかす郭公かな

うきゆめの−とこのなみたの−よそなから−なきおとろかす−ほとときすかな


02155
未入力 正徹 (xxx)

横雲を空にすゑおく関と見てやすらひあかす郭公かな

よこくもを−そらにすゑおく−せきとみて−やすらひあかす−ほとときすかな


02156
未入力 正徹 (xxx)

つれなさは暁はかりうき物とおもひもはてぬ郭公かな

つれなさは−あかつきはかり−うきものと−おもひもはてぬ−ほとときすかな


02157
未入力 正徹 (xxx)

郭公たか衣衣のあかつきにしたはぬ声の落ちかへるらん

ほとときす−たかきぬきぬの−あかつきに−したはぬこゑの−おちかへるらむ


02158
未入力 正徹 (xxx)

雲まよふ山郭公こゑ過きて青葉にあくる木木のむら立

くもまよふ−やまほとときす−こゑすきて−あをはにあくる−ききのむらたち


02159
未入力 正徹 (xxx)

郭公又もきかれぬ里の子の夕ととろきに声ましりつつ

ほとときす−またもきかれぬ−さとのこの−ゆふととろきに−こゑましりつつ


02160
未入力 正徹 (xxx)

雨かかる山のはきえて郭公鳴くや夕にまよふ浮雲

あめかかる−やまのはきえて−ほとときす−なくやゆふへに−まよふうきくも


02161
未入力 正徹 (xxx)

鳴きぬなり卯花月夜すみ染のゆふ暮あさき山郭公

なきぬなり−うのはなつきよ−すみそめの−ゆふくれあさき−やまほとときす


02162
未入力 正徹 (xxx)

思はすにねに行くからすなかめやる雲路にきなく郭公かな

おもはすに−ねにゆくからす−なかめやる−くもちにきなく−ほとときすかな


02163
未入力 正徹 (xxx)

時鳥ときのつつみの九こゑきかて過きぬるさ夜中もうし

ほとときす−ときのつつみの−ここのこゑ−きかてすきぬる−さよなかもうし


02164
未入力 正徹 (xxx)

郭公雲のいつくの月とたにしらぬやとりのあくる一こゑ

ほとときす−くものいつくの−つきとたに−しらぬやとりの−あくるひとこゑ


02165
未入力 正徹 (xxx)

さむるとていかなる夢か惜しからむ声おとろかせ山ほとときす

さむるとて−いかなるゆめか−をしからむ−こゑおとろかせ−やまほとときす


02166
未入力 正徹 (xxx)

郭公心のやみも晴れぬとや山のはいつる月になくらん

ほとときす−こころのやみも−はれぬとや−やまのはいつる−つきになくらむ


02167
未入力 正徹 (xxx)

雲路行く月のこゑかとたとるまて光にちかき郭公かな

くもちゆく−つきのこゑかと−たとるまて−ひかりにちかき−ほとときすかな


02168
未入力 正徹 (xxx)

明けぬるかおなしたかねの郭公なく一こゑにいつる月かけ

あけぬるか−おなしたかねの−ほとときす−なくひとこゑに−いつるつきかけ


02169
未入力 正徹 (xxx)

一こゑはまたすしもあらす月影に夜よしとつくる郭公かな

ひとこゑは−またすしもあらす−つきかけに−よよしとつくる−ほとときすかな


02170
未入力 正徹 (xxx)

郭公月や雲まに出てぬらんひかりもおつる一こゑの空

ほとときす−つきやくもまに−いてぬらむ−ひかりもおつる−ひとこゑのそら


02171
未入力 正徹 (xxx)

をちかへりなくへきそらを郭公いつれの雲に声かくすらん

をちかへり−なくへきそらを−ほとときす−いつれのくもに−こゑかくすらむ


02172
未入力 正徹 (xxx)

衣かも雲のはたてのぬきを辞み声もたまらぬほとときナかな

ころもかも−くものはたての−ぬきをうすみ−こゑもたまらぬ−ほとときすかな


02173
未入力 正徹 (xxx)

吹きまよふ風もうらめし郭公鳴くやなこりをみねのむら雲

ふきまよふ−かせもうらめし−ほとときす−なくやなこりを−みねのむらくも


02174
未入力 正徹 (xxx)

恨みても恋ひてもなけと郭公こゑする雲のきゆる空かな

うらみても−こひてもなけと−ほとときす−こゑするくもの−きゆるそらかな


02175
未入力 正徹 (xxx)

をちかへりたひたひきなく時鳥いつれの雲に羽をやすむらん

をちかへり−たひたひきなく−ほとときす−いつれのくもに−はをやすむらむ


02176
未入力 正徹 (xxx)

又きかまほしのまきれの郭公のこるは軒のむら雨のこゑ

またきかま−ほしのまきれの−ほとときす−のこるはのきの−むらさめのこゑ


02177
未入力 正徹 (xxx)

さおりする田長をおのかしるへとやしつやに近き郭公かな

さおりする−たをさをおのか−しるへとや−しつやにちかき−ほとときすかな


02178
未入力 正徹 (xxx)

雲とちてねん山やなき五月やみくらせるよひに鳴く郭公

くもとちて−ねむやまやなき−さつきやみ−くらせるよひに−なくほとときす


02179
未入力 正徹 (xxx)

風わたる岡のま草の夕露に落ちかへりなく郭公かな

かせわたる−をかのまくさの−ゆふつゆに−おちかへりなく−ほとときすかな


02180
未入力 正徹 (xxx)

夕波にこゑをちかへれ入海の松のむかひの山郭公

ゆふなみに−こゑをちかへれ−いりうみの−まつのむかひの−やまほとときす


02181
未入力 正徹 (xxx)

すまのうらの山郭公わくらはにこゑしほちまてかへる波かな

すまのうらの−やまほとときす−わくらはに−こゑしほちまて−かへるなみかな


02182
未入力 正徹 (xxx)

松風も心ありけるさとの名のね覚うれしき郭公かな

まつかせも−こころありける−さとのなの−ねさめうれしき−ほとときすかな


02183
未入力 正徹 (xxx)

たれかきくあたら初音を里とよむ市はの上の山郭公

たれかきく−あたらはつねを−さととよむ−いちはのうへの−やまほとときす


02184
未入力 正徹 (xxx)

郭公なくや涙の露も見すゆふ暮ふかき森の下草

ほとときす−なくやなみたの−つゆもみす−ゆふくれふかき−もりのしたくさ


02185
未入力 正徹 (xxx)

郭公田中の杜にをちかへり生ふるさなへのねをつくすなり

ほとときす−たなかのもりに−をちかへり−おふるさなへの−ねをつくすなり


02186
未入力 正徹 (xxx)

鳴行くをかそへんとすれは遠かたにこゑまきらはす郭公かな

なきゆくを−かそへむとすれは−をちかたに−こゑまきらはす−ほとときすかな


02187
未入力 正徹 (xxx)

落ちかへり野にも山にも郭公こゑのたねまけこん年のため

おちかへり−のにもやまにも−ほとときす−こゑのたねまけ−こむとしのため


02188
未入力 正徹 (xxx)

むら雨も村山めくる郭公こゑにさとわくかたやなからん

むらさめも−むらやまめくる−ほとときす−こゑにさとわく−かたやなからむ


02189
未入力 正徹 (xxx)

夏をしる世におしなへて郭公こゑをふらせる夕暮の雨

なつをしる−よにおしなへて−ほとときす−こゑをふらせる−ゆふくれのあめ


02190
未入力 正徹 (xxx)

今は世にこゑききのこす里人も稀なる比のほとときすかな

いまはよに−こゑききのこす−さとひとも−まれなるころの−ほとときすかな


02191
未入力 正徹 (xxx)

たちきかむ心はやます山の井のあかても過くる郭公かな

たちきかむ−こころはやます−やまのゐの−あかてもすくる−ほとときすかな


02192
未入力 正徹 (xxx)

つまこめになくやね山の郭公八雲のおくの夕暮のこゑ

つまこめに−なくやねやまの−ほとときす−やくものおくの−ゆふくれのこゑ


02193
未入力 正徹 (xxx)

夏ふかみ花ちる山の遅さくら見しより稀の郭公かな

なつふかみ−はなちるやまの−おそさくら−みしよりまれの−ほとときすかな


02194
未入力 正徹 (xxx)

うたたねのこれは夢路か郭公おとつれたえし後の一こゑ

うたたねの−これはゆめちか−ほとときす−おとつれたえし−のちのひとこゑ


02195
未入力 正徹 (xxx)

郭公なくや五月の玉さかになるは程なき有明の空

ほとときす−なくやさつきの−たまさかに−なるはほとなき−ありあけのそら


02196
未入力 正徹 (xxx)

ほとときす時に一たひさく花にきかまほしきは声の色かな

ほとときす−ときにひとたひ−さくはなに−きかまほしきは−こゑのいろかな


02197
未入力 正徹 (xxx)

郭公まれなる中の契ゆゑこゑをまとほにおもふ夜もなし

ほとときす−まれなるなかの−ちきりゆゑ−こゑをまとほに−おもふよもなし


02198
未入力 正徹 (xxx)

芹川やまれの御幸の跡たえし初音をさかの山ほとときす

せりかはや−まれのみゆきの−あとたえし−はつねをさかの−やまほとときす


02199
未入力 正徹 (xxx)

つれなくて有明過きぬ郭公此三か月にきえし一こゑ

つれなくて−ありあけすきぬ−ほとときす−このみかつきに−きえしひとこゑ


02200
未入力 正徹 (xxx)

花ちりて茂る桜の陰にさへ年にまれなる山郭公

はなちりて−しけるさくらの−かけにさへ−としにまれなる−やまほとときす


02201
未入力 正徹 (xxx)

よろつ木のおなし緑も天地のめくみたかくやしけりそふらん

よろつきの−おなしみとりも−あめつちの−めくみたかくや−しけりそふらむ


02202
未入力 正徹 (xxx)

夏そひくうなての杜の葉をしけみまとりすむともみえぬ陰かな

なつそひく−うなてのもりの−はをしけみ−まとりすむとも−みえぬかけかな


02203
未入力 正徹 (xxx)

ふか緑夏もたけ行く木木の葉のうらわかからぬ風の音かな

ふかみとり−なつもたけゆく−ききのはの−うらわかからぬ−かせのおとかな


02204
未入力 正徹 (xxx)

水鳥の苛羽の山の色そこきおなしうは毛としける梢に

みつとりの−あをはのやまの−いろそこき−おなしうはけと−しけるこすゑに


02205
未入力 正徹 (xxx)

見し春にかはらぬ岡の常盤木もよその緑に茂る夏かな

みしはるに−かはらぬをかの−ときはきも−よそのみとりに−しけるなつかな


02206
未入力 正徹 (xxx)

松風も千世の緑をかしは木のひろはにあまる夏の声かな

まつかせも−ちよのみとりを−かしはきの−ひろはにあまる−なつのこゑかな


02207
未入力 正徹 (xxx)

夏草の末野の森そたかからぬ茂りかたふく露の梢に

なつくさの−すゑののもりそ−たかからぬ−しけりかたふく−つゆのこすゑに


02208
未入力 正徹 (xxx)

庭ちかくしけりつつきてひまもなし都も山もひとつ木すゑに

にはちかく−しけりつつきて−ひまもなし−みやこもやまも−ひとつこすゑに


02209
未入力 正徹 (xxx)

葛の葉のかからぬ嶺のしけみにもはふきあまたの横雲のそら

くすのはの−かからぬみねの−しけみにも−はふきあまたの−よこくものそら


02210
未入力 正徹 (xxx)

夏山の若葉にましるふか緑もとの松とも見えぬ松かな

なつやまの−わかはにましる−ふかみとり−もとのまつとも−みえぬまつかな


02211
未入力 正徹 (xxx)

いにしへの林にしけきたくひにもおよはすあさき心ことのは

いにしへの−はやしにしけき−たくひにも−およはすあさき−こころことのは


02212
未入力 正徹 (xxx)

花なくて見るかひなくは思はれす青葉の山にかかるしら雲

はななくて−みるかひなくは−おもはれす−あをはのやまに−かかるしらくも


02213
未入力 正徹 (xxx)

しける木の若葉の色や紅の一花そめの山ひめの袖

しけるきの−わかはのいろや−くれなゐの−ひとはなそめの−やまひめのそて


02214
未入力 正徹 (xxx)

よもの木に朝おく露の玉のえも茂るよもきか庭の島かな

よものきに−あさおくつゆの−たまのえも−しけるよもきか−にはのしまかな


02215
未入力 正徹 (xxx)

露しける木下はらひ吹く風のめに見ぬ色や秋のおも影

つゆしける−このもとはらひ−ふくかせの−めにみぬいろや−あきのおもかけ


02216
未入力 正徹 (xxx)

山風も梢をわたるむら猿のこゑさへふかくしける夏かな

やまかせも−こすゑをわたる−むらさるの−こゑさへふかく−しけるなつかな


02217
未入力 正徹 (xxx)

花ならぬ山の林になる梅の実さへ若葉の色に匂へる

はなならぬ−やまのはやしに−なるうめの−みさへわかはの−いろににほへる


02218
未入力 正徹 (xxx)

にほの海にこきいててみれは茂るらん若葉波よるひらのねおろし

にほのうみに−こきいててみれは−しけるらむ−わかはなみよる−ひらのねおろし


02219
未入力 正徹 (xxx)

時しもあれ卯月の嶺の緑さへうすき木の葉の衣ほすなり

ときしもあれ−うつきのみねの−みとりさへ−うすきこのはの−ころもほすなり


02220
未入力 正徹 (xxx)

筑波根やしけれはいととみなの川峰よりおつる音はかりして

つくはねや−しけれはいとと−みなのかは−みねよりおつる−おとはかりして


02221
未入力 正徹 (xxx)

まきもくもしけりまさきの綱たえて杣木引くなり嶺のよこ雲

まきもくも−しけりまさきの−つなたえて−そまきひくなり−みねのよこくも


02222
未入力 正徹 (xxx)

つくはねの嶺そ緑の淵となるおつるやいつこみなの川波

つくはねの−みねそみとりの−ふちとなる−おつるやいつこ−みなのかはなみ


02223
未入力 正徹 (xxx)

筑波山茂りかさねてみなの川嶺よりおつと見えぬ夏かな

つくはやま−しけりかさねて−みなのかは−みねよりおつと−みえぬなつかな


02224
未入力 正徹 (xxx)

ゆふしてを茂りかくしてかた岡の森もみしめも見えぬ比かな

ゆふしてを−しけりかくして−かたをかの−もりもみしめも−みえぬころかな


02225
未入力 正徹 (xxx)

木のもとの岡の屋かたの妻見えてこもりもはてす茂る夏かな

このもとの−をかのやかたの−つまみえて−こもりもはてす−しけるなつかな


02226
未入力 正徹 (xxx)

えそみえぬねにこしからす幾つれかとまる林は木の葉のみして

えそみえぬ−ねにこしからす−いくつれか−とまるはやしは−このはのみして


02227
未入力 正徹 (xxx)

夕間暮ねにくるからすいくむらかしける林に身をかくすらん

ゆふまくれ−ねにくるからす−いくむらか−しけるはやしに−みをかくすらむ


02228
未入力 正徹 (xxx)

深草や杜の嵐にちる藤のうら葉あらはに茂る夏かな

ふかくさや−もりのあらしに−ちるふちの−うらはあらはに−しけるなつかな


02229
未入力 正徹 (xxx)

深緑ましる若葉の薄もえき夏の色わく山の朝露

ふかみとり−ましるわかはの−うすもえき−なつのいろわく−やまのあさつゆ


02230
未入力 正徹 (xxx)

しけりあふわか葉かたふきふる雨に木のまの山そしはし見え行く

しけりあふ−わかはかたふき−ふるあめに−このまのやまそ−しはしみえゆく


02231
未入力 正徹 (xxx)

夏のくる床に葉風のこゑ涼し竹の庵のすとの明ほの

なつのくる−とこにはかせの−こゑすすし−たけのいほりの−すとのあけほの


02232
未入力 正徹 (xxx)

宿の藤夏にかかるも紫の竹の夜のまは色もかはらす

やとのふち−なつにかかるも−むらさきの−たけのよのまは−いろもかはらす


02233
未入力 正徹 (xxx)

竹の子も世のうきふしをそへかほに窓につのくむ夏はきにけり

たけのこも−よのうきふしを−そへかほに−まとにつのくむ−なつはきにけり


02234
未入力 正徹 (xxx)

宿ふかきそのふに生ふる竹の子の蝉こそなかね夏はきにけり

やとふかき−そのふにおふる−たけのこの−せみこそなかね−なつはきにけり


02235
未入力 正徹 (xxx)

春くれし木の下やみを卯花の光も露もはらふ夏かな

はるくれし−このしたやみを−うのはなの−ひかりもつゆも−はらふなつかな


02236
未入力 正徹 (xxx)

春暮れて雲に入りにし鳥の子のひなの長路に夏も来にけり

はるくれて−くもにいりにし−とりのこの−ひなのなかちに−なつもきにけり


02237
未入力 正徹 (xxx)

葵草露も二葉におく程はいく程ならしみかけしら玉

あふひくさ−つゆもふたはに−おくほとは−いくほとならし−みかけしらたま


02238
未入力 正徹 (xxx)

もろ葉草二葉の露のたまたまも神めつる日にめくり逢ひぬる

もろはくさ−ふたはのつゆの−たまたまも−かみめつるひに−めくりあひぬる


02239
未入力 正徹 (xxx)

天地の友神男神の二柱二葉ゆゑあるあふひなるらん

あめつちの−めかみをかみの−ふたはしら−ふたはゆゑある−あふひなるらむ


02240
未入力 正徹 (xxx)

年年になれにしものを葵草けふほ哀にかくる露かな

としとしに−なれにしものを−あふひくさ−けふほあはれに−かくるつゆかな


02241
未入力 正徹 (xxx)

水鳥の青葉の簾葵つけけふかけわたせかもの川波

みつとりの−あをはのすたれ−あふひつけ−けふかけわたせ−かものかはなみ


02242
未入力 正徹 (xxx)

宮ひけり玉をあむより葵草ふりたるみすの青き二葉は

みやひけり−たまをあむより−あふひくさ−ふりたるみすの−あをきふたはは


02243
未入力 正徹 (xxx)

葵草けふより後の宮ひをもみすの枯葉に猶やのこさん

あふひくさ−けふよりのちの−みやひをも−みすのかれはに−なほやのこさむ


02244
未入力 正徹 (xxx)

あふひこそあひ生ならね神山の昔の二葉松はふりつつ

あふひこそ−あひおひならね−かみやまの−むかしのふたは−まつはふりつつ


02245
未入力 正徹 (xxx)

もる月に枝もさはらぬ竹の子のまたみしか夜の窓そ涼しき

もるつきに−えたもさはらぬ−たけのこの−またみしかよの−まとそすすしき


02246
未入力 正徹 (xxx)

天の原さやかに月の明くる夜を雪のいつくと誰かたとらん

あまのはら−さやかにつきの−あくるよを−ゆきのいつくと−たれかたとらむ


02247
未入力 正徹 (xxx)

猶もをし山郭公一こゑに出入る月の夜はならねとも

なほもをし−やまほとときす−ひとこゑに−いているつきの−よはならねとも


02248
未入力 正徹 (xxx)

行く水をむすふ手玉にくたけても底にいつみの月そ涼しき

ゆくみつを−むすふてたまに−くたけても−そこにいつみの−つきそすすしき


02249
未入力 正徹 (xxx)

明けはをしわか老いらくの白髪に夏の霜夜の月そやとれる

あけはをし−わかおいらくの−しろかみに−なつのしもよの−つきそやとれる


02250
未入力 正徹 (xxx)

やとるさへあかてそあかすしろたへの我か衣手のみしか夜の月

やとるさへ−あかてそあかす−しろたへの−わかころもての−みしかよのつき


02251
未入力 正徹 (xxx)

てる月の玉江のかけも夏かりに生ひいつる蘆の短夜の月

てるつきの−たまえのかけも−なつかりに−おひいつるあしの−みしかよのつき


02252
未入力 正徹 (xxx)

いつのまに千町の水をわたるらん植ゑし早苗の短夜の月

いつのまに−ちまちのみつを−わたるらむ−うゑしさなへの−みしかよのつき


02253
未入力 正徹 (xxx)

行く月の天の岩戸の関の戸をよひのまなから明くる比かな

ゆくつきの−あまのいはとの−せきのとを−よひのまなから−あくるころかな


02254
未入力 正徹 (xxx)

水あさき蘆まにすたつ鴫の足のみしかくうかふ夏の月影

みつあさき−あしまにすたつ−しきのあしの−みしかくうかふ−なつのつきかけ


02255
未入力 正徹 (xxx)

みしかくもまたふし見えぬ竹の子のよわたりかぬる園の月影

みしかくも−またふしみえぬ−たけのこの−よわたりかぬる−そののつきかけ


02256
未入力 正徹 (xxx)

山のはの木をうこかせる風涼し扇をあけて出つる月よに

やまのはの−きをうこかせる−かせすすし−あふきをあけて−いつるつきよに


02257
未入力 正徹 (xxx)

しつの屋そ明くるも知らぬ夏はきの麻のをからの白き月よに

しつのやそ−あくるもしらぬ−なつはきの−あさのをからの−しろきつきよに


02258
未入力 正徹 (xxx)

郭公なく一こゑは杉の戸にあけんともせぬ月の影かな

ほとときす−なくひとこゑは−すきのとに−あけむともせぬ−つきのかけかな


02259
未入力 正徹 (xxx)

形見をはならす扇にのこし置きてかさなる山に月そかくるる

かたみをは−ならすあふきに−のこしおきて−かさなるやまに−つきそかくるる


02260
未入力 正徹 (xxx)

夏引のいそく手引のいとなみもよることたえね月のみしかさ

なつひきの−いそくてひきの−いとなみも−よることたえね−つきのみしかさ


02261
未入力 正徹 (xxx)

光もて卯月の月のしらかさねかさねようすし夜はのさ衣

ひかりもて−うつきのつきの−しらかさね−かさねようすし−よはのさころも


02262
未入力 正徹 (xxx)

夏衣うらなく月は身にそそふ雲なへたてそ夜もみしかし

なつころも−うらなくつきは−みにそそふ−くもなへたてそ−よるもみしかし


02263
未入力 正徹 (xxx)

そのままにほすやはつきの短夜は月にもぬれぬ賎かあさてを

そのままに−ほすやはつきの−みしかよは−つきにもぬれぬ−しつかあさてを


02264
未入力 正徹 (xxx)

しつほ猶月影のこせ夏はきの麻のをからのしろき牆ほに

しつほなほ−つきかけのこせ−なつはきの−あさのをからの−しろきかきほに


02265
未入力 正徹 (xxx)

短夜をうなての杜の木の間にも月くらからしま鳥すますは

みしかよを−うなてのもりの−このまにも−つきくらからし−まとりすますは


02266
未入力 正徹 (xxx)

いかにして底もふか井にやとるらんふりわけ髪の短よの月

いかにして−そこもふかゐに−やとるらむ−ふりわけかみの−みしかよのつき


02267
未入力 正徹 (xxx)

しはしなる影もたまらす夏衣すすのしの鷺の月のさよかせ

しはしなる−かけもたまらす−なつころも−すすのしのやの−つきのさよかせ


02268
未入力 正徹 (xxx)

滝川のはや瀬の月も夕波になかれもあへす明くる夏の夜

たきかはの−はやせのつきも−ゆふなみに−なかれもあへす−あくるなつのよ


02269
未入力 正徹 (xxx)

くるるまの玉江の月は夏かりの蘆のみしかき夜のまたになし

くるるまの−たまえのつきは−なつかりの−あしのみしかき−よのまたになし


02270
未入力 正徹 (xxx)

夏のよの暁しらぬ夕月も入会のかねによこ雲の空

なつのよの−あかつきしらぬ−ゆふつきも−いりあひのかねに−よこくものそら


02271
未入力 正徹 (xxx)

天の原雲路を遠み足はやき色やくるしきみしか夜の比

あまのはら−くもちをとほみ−あしはやき−つきやくるしき−みしかよのころ


02272
未入力 正徹 (xxx)

手にまきてくり返すまも夏のよの月そみしかきしつのをたまき

てにまきて−くりかへすまも−なつのよの−つきそみしかき−しつのをたまき


02273
未入力 正徹 (xxx)

短夜をいとになかけそ草そ引くうなかみ山にいそく月かけ

みしかよを−いとになかけそ−くさそひく−うなかみやまに−いそくつきかけ


02274
未入力 正徹 (xxx)

ひるとよるとあへる夏かな冬の日のわたりし道に月や行くらん

ひるとよると−あへるなつかな−ふゆのひの−わたりしみちに−つきやゆくらむ


02275
未入力 正徹 (xxx)

袖の上に契そうすき夏衣なれてわかるる有明の影

そてのうへに−ちきりそうすき−なつころも−なれてわかるる−ありあけのかけ


02276
未入力 正徹 (xxx)

橋柱ふりぬる名のみなから江や蘆のよのまの月そ短かき

はしはしら−ふりぬるなのみ−なからえや−あしのよのまの−つきそみしかき


02277
未入力 正徹 (xxx)

夏のよの月にこほるる声涼し秋風またぬ荻のした露

なつのよの−つきにこほるる−こゑすすし−あきかせまたぬ−をきのしたつゆ


02278
未入力 正徹 (xxx)

秋なれや岩まの水もわく月の玉よる風に蝉の羽衣

あきなれや−いはまのみつも−わくつきの−たまよるかせに−せみのはころも


02279
未入力 正徹 (xxx)

天つ風月のかつらを吹分けてたもとの影をはらふ涼しさ

あまつかせ−つきのかつらを−ふきわけて−たもとのかけを−はらふすすしさ


02280
未入力 正徹 (xxx)

涼しさは空をみかきて吹く風に雲の波ちる月のしら玉

すすしさは−そらをみかきて−ふくかせに−くものなみちる−つきのしらたま


02281
未入力 正徹 (xxx)

吹きかへす荻の上葉を霜と見て風に夏なき庭の月影

ふきかへす−をきのうははを−しもとみて−かせになつなき−にはのつきかけ


02282
未入力 正徹 (xxx)

夏衣すす吹く野へのさ夜風に月も袖うつ露のしらなみ

なつころも−すすふくのへの−さよかせに−つきもそてうつ−つゆのしらなみ


02283
未入力 正徹 (xxx)

涼しさは夕立はるる庭たつみ月をみたしてさ波ふく風

すすしさは−ゆふたちはるる−にはたつみ−つきをみたして−さなみふくかせ


02284
未入力 正徹 (xxx)

むすはぬも衣手涼し夏か秋かいさら小川にやとる月影

むすはぬも−ころもてすすし−なつかあきか−いさらをかはに−やとるつきかけ


02285
未入力 正徹 (xxx)

涼しさは夏そ秋にも真砂山雪にみかける月のさよ風

すすしさは−なつそあきにも−まさこやま−ゆきにみかける−つきのさよかせ


02286
未入力 正徹 (xxx)

よひのまに明けなは明けよ天つ空雪のいつくと月はたとらし

よひのまに−あけなはあけよ−あまつそら−ゆきのいつくと−つきはたとらし


02287
未入力 正徹 (xxx)

いかかみるたたおしひねる玉章の明けやすき月はことのはもなし

いかかみる−たたおしひねる−たまつさの−あけやすきつきは−ことのはもなし


02288
未入力 正徹 (xxx)

うたたねの袖さへうすき夕月よ影もまさらて明くるしののめ

うたたねの−そてさへうすき−ゆふつくよ−かけもまさらて−あくるしののめ


02289
未入力 正徹 (xxx)

見る程もなつの夜わたる竹川の橋つめなから明くる月かけ

みるほとも−なつのよわたる−たけかはの−はしつめなから−あくるつきかけ


02290
未入力 正徹 (xxx)

岩ほこす浦水のあわの一めくり空行く月に明けそあらそふ

いはほこす−しみつのあわの−ひとめくり−そらゆくつきに−あけそあらそふ


02291
未入力 正徹 (xxx)

天の戸をたたく水鶏の二こゑときかぬに明くる夏のよの月

あまのとを−たたくくひなの−ふたこゑと−きかぬにあくる−なつのよのつき


02292
未入力 正徹 (xxx)

夏の池の汀にたてるかもの足のみしかく明くる水の月影

なつのいけの−みきはにたてる−かものあしの−みしかくあくる−みつのつきかけ


02293
未入力 正徹 (xxx)

夜はの月みしかき筆のつかのまに明くる恨はかきもつくさし

よはのつき−みしかきふての−つかのまに−あくるうらみは−かきもつくさし


02294
未入力 正徹 (xxx)

うなゐ子かふり分髪のみしか夜を月なとやみにむすほほるらん

うなゐこか−ふりわけかみの−みしかよを−つきなとやみに−むすほほるらむ


02295
未入力 正徹 (xxx)

波はやみ月影わくる川島をめくりあふまに明くる夏の夜

なみはやみ−つきかけわくる−かはしまを−めくりあふまに−あくるなつのよ


02296
未入力 正徹 (xxx)

川社しのに月影神さひてうたはぬ瀬瀬のささ波のこゑ

かはやしろ−しのにつきかけ−かみさひて−うたはぬせせの−ささなみのこゑ


02297
未入力 正徹 (xxx)

影おちて月も岩こす滝川のなみよりはやく明くる夏のよ

かけおちて−つきもいはこす−たきかはの−なみよりはやく−あくるなつのよ


02298
未入力 正徹 (xxx)

滝川やさかまく水のみなわよりめくるそはやき夏のよの月

たきかはや−さかまくみつの−みなわより−めくるそはやき−なつのよのつき


02299
未入力 正徹 (xxx)

夏のよの水のさ波は月にみえて入江のさとに秋風そふく

なつのよの−みつのさなみは−つきにみえて−いりえのさとに−あきかせそふく


02300
未入力 正徹 (xxx)

涼しさはまし水あさみさされ石もなかるる月の有明のこゑ

すすしさは−ましみつあさみ−さされいしも−なかるるつきの−ありあけのこゑ


02301
未入力 正徹 (xxx)

六月の月すむ天の川社秋や衣をほしあひのそら

みなつきの−つきすむあまの−かはやしろ−あきやころもを−ほしあひのそら


02302
未入力 正徹 (xxx)

音になかぬせみの小川のは衣や夕暮うすき浪の月影

ねになかぬ−せみのをかはの−はころもや−ゆふくれうすき−なみのつきかけ


02303
未入力 正徹 (xxx)

川島のなかれをわくる月の影めくりあふまに明くる夏のよ

かはしまの−なかれをわくる−つきのかけ−めくりあふまに−あくるなつのよ


02304
未入力 正徹 (xxx)

影すすし春はいなさの山のはにかかる細江の波の三か月

かけすすし−はるはいなさの−やまのはに−かかるほそえの−なみのみかつき


02305
未入力 正徹 (xxx)

にほの海や国つ御かみのささ波にうちいててみれは月そ涼しき

にほのうみや−くにつみかみの−ささなみに−うちいててみれは−つきそすすしき


02306
未入力 正徹 (xxx)

興つ舟雲まの月のおもかちもとりあへす明くる夜はの短かさ

おきつふね−くもまのつきの−おもかちも−とりあへすあくる−よはのみしかさ


02307
未入力 正徹 (xxx)

浜つつら月も涼しき夕露に夏やこぬみのうら風そふく

はまつつら−つきもすすしき−ゆふつゆに−なつやこぬみの−うらかせそふく


02308
未入力 正徹 (xxx)

明けぬるかうらわのさとの蚊遣火にかすみもあへぬ浪の上の月

あけぬるか−うらわのさとの−かやりひに−かすみもあへぬ−なみのうへのつき


02309
未入力 正徹 (xxx)

いつれうき入りぬる磯の夏の夜はみらくすくなき月と夢とに

いつれうき−いりぬるいその−なつのよは−みらくすくなき−つきとゆめとに


02310
未入力 正徹 (xxx)

月やとる真砂の霜の花かつらみしかくかけて明くる夏の夜

つきやとる−まさこのしもの−はなかつら−みしかくかけて−あくるなつのよ


02311
未入力 正徹 (xxx)

おくにある滝のしら玉涼しくやみかくいさこの山のはの月

おくにある−たきのしらたま−すすしくや−みかくいさこの−やまのはのつき


02312
未入力 正徹 (xxx)

てる日影ひるは真砂をむし明の月に霜おくせとの浜風

てるひかけ−ひるはまさこを−むしあけの−つきにしもおく−せとのはまかせ


02313
未入力 正徹 (xxx)

さ浪行く洲なかし遠く影見えて浜風涼し夏の夜の月

さなみゆく−すなかしとほく−かけみえて−はまかせすすし−なつのよのつき


02314
未入力 正徹 (xxx)

霜雪や弥かたまれる真砂ちに夏なき月そ冬のままなる

しもゆきや−いやかたまれる−まさこちに−なつなきつきそ−ふゆのままなる


02315
未入力 正徹 (xxx)

涼しさはあかる真砂の霜くもり月に夏なきさ夜の浜風

すすしさは−あかるまさこの−しもくもり−つきになつなき−さよのはまかせ


02316
未入力 正徹 (xxx)

月そ秋真砂の上の霜かれは一葉も見えぬ庭の夏草

つきそあき−まさこのうへの−しもかれは−ひとはもみえぬ−にはのなつくさ


02317
未入力 正徹 (xxx)

夏の夜のまさこの霜の花染をいくしほ月の庭にしくらん

なつのよの−まさこのしもの−はなそめを−いくしほつきの−にはにしくらむ


02318
未入力 正徹 (xxx)

御祓川夏をさそひて行く月の影まてとまる瀬瀬のゆふして

みそきかは−なつをさそひて−ゆくつきの−かけまてとまる−せせのゆふして


02319
未入力 正徹 (xxx)

むら薄みとりもまかふ春雨の山田のくろにとるさなへかな

むらすすき−みとりもまかふ−はるさめの−やまたのくろに−とるさなへかな


02320
未入力 正徹 (xxx)

もるまてもくるしからしとしつのをやわか家の門に早苗とるらん

もるまても−くるしからしと−しつのをや−わかいへのかとに−さなへとるらむ


02321
未入力 正徹 (xxx)

小山田におり立つ比も時過きてさなへも水もみとりにそすむ

をやまたに−おりたつころも−ときすきて−さなへもみつも−みとりにそすむ


02322
未入力 正徹 (xxx)

うつり行く水も緑の杜の陰うき田のさなへとりはつくさし

うつりゆく−みつもみとりの−もりのかけ−うきたのさなへ−とりはつくさし


02323
未入力 正徹 (xxx)

なかき日の千町のさなへうゑつかれ山田のくろにやすむさ乙女

なかきひの−ちまちのさなへ−うゑつかれ−やまたのくろに−やすむさをとめ


02324
未入力 正徹 (xxx)

又やみん緑のさなへ松陰のみとしろ小田にさかへ行くころ

またやみむ−みとりのさなへ−まつかけの−みとしろをたに−さかへゆくころ


02325
未入力 正徹 (xxx)

いそくとも山田の早苗取りのこせあすのゆひめやきつつうらみん

いそくとも−やまたのさなへ−とりのこせ−あすのゆひめや−きつつうらみむ


02326
未入力 正徹 (xxx)

うゑはててかへり見すれは湊田に秋のほなみは早苗にそたつ

うゑはてて−かへりみすれは−みなとたに−あきのほなみは−さなへにそたつ


02327
未入力 正徹 (xxx)

みしめ縄引くはさなへのためなから田中の杜の神もうくらん

みしめなは−ひくはさなへの−ためなから−たなかのもりの−かみもうくらむ


02328
未入力 正徹 (xxx)

山もとの沢田の早苗とらぬまもおり立つ雲のふかき比かな

やまもとの−さはたのさなへ−とらぬまも−おりたつくもの−ふかきころかな


02329
未入力 正徹 (xxx)

汲むひまもなたのしはやき湊田にほす袖ぬれてとる早苗かな

くむひまも−なたのしはやき−みなとたに−ほすそてぬれて−とるさなへかな


02330
未入力 正徹 (xxx)

雨はるる山田の雲にさをとめかかくれあらはれとる早苗かな

あめはるる−やまたのくもに−さをとめか−かくれあらはれ−とるさなへかな


02331
未入力 正徹 (xxx)

けふは先田中の杜の蝉のはのうすくうゑたるさなへとそ見る

けふはまつ−たなかのもりの−せみのはの−うすくうゑたる−さなへとそみる


02332
未入力 正徹 (xxx)

小山田やしつかさおりのあさ衣をみしふに染めてとる早苗かな

をやまたや−しつかさおりの−あさきぬを−みしふにそめて−とるさなへかな


02333
未入力 正徹 (xxx)

一木たつ岡への小田のくろの松さなへうゑての後そ色こき

ひときたつ−をかへのをたの−くろのまつ−さなへうゑての−のちそいろこき


02334
未入力 正徹 (xxx)

ますけよき笠のかりてのかりしほを早苗にいそくしつか小山田

ますけよき−かさのかりての−かりしほを−さなへにいそく−しつかをやまた


02335
未入力 正徹 (xxx)

小乙女かもすそのみしふしはしみて湊の小田にとるさなへかな

さをとめか−もすそのみしふ−しはしみて−みなとのをたに−とるさなへかな


02336
未入力 正徹 (xxx)

かすおほきおくてのうゑめよそにみてひとりさなへの田草とるなり

かすおほき−おくてのうゑめ−よそにみて−ひとりさなへの−たくさとるなり


02337
未入力 正徹 (xxx)

旅ゆけはさおりの田歌国により所につけて声そかはれる

たひゆけは−さおりのたうた−くににより−ところにつけて−こゑそかはれる


02338
未入力 正徹 (xxx)

山もとのみとりのさなへむらむらに色付きそむる麦の秋かせ

やまもとの−みとりのさなへ−むらむらに−いろつきそむる−むきのあきかせ


02339
未入力 正徹 (xxx)

水ひろき田面のさなへむらむらに先おきわたしうゑめまつなり

みつひろき−たのものさなへ−むらむらに−まつおきわたし−うゑめまつなり


02340
未入力 正徹 (xxx)

郭公五月も末の小山田に田長こゑせてとる早苗かな

ほとときす−さつきもすゑの−をやまたに−たをさこゑせて−とるさなへかな


02341
未入力 正徹 (xxx)

たつ民も山田のくろの社とや取りし早苗を手向けては行く

たつたみも−やまたのくろの−やしろとや−とりしさなへを−たむけてはゆく


02342
未入力 正徹 (xxx)

芹つみし沢田の水そ又にこるとるやさなへのねをあらふらん

せりつみし−さはたのみつそ−またにこる−とるやさなへの−ねをあらふらむ


02343
未入力 正徹 (xxx)

うゑのほる田子そ見え行く山たかくあせかさなれる跡のさなへに

うゑのほる−たこそみえゆく−やまたかく−あせかさなれる−あとのさなへに


02344
未入力 正徹 (xxx)

田中なる社の御戸にしつかとる早苗うちつけに手向けてそ行く

たなかなる−やしろのみとに−しつかとる−さなへうちつけに−たむけてそゆく


02345
未入力 正徹 (xxx)

水かるる田中の神の雨こひにとらぬさなへを先手向くなり

みつかるる−たなかのかみの−あまこひに−とらぬさなへを−まつたむくなり


02346
未入力 正徹 (xxx)

今そとるたねまかぬ世に生ひいてて三度かりてし稲のさなへは

いまそとる−たねまかぬよに−おひいてて−みたひかりてし−いねのさなへは


02347
未入力 正徹 (xxx)

しつのをか沢田さし行く板舟をおりたたすしてとる早苗かな

しつのをか−さはたさしゆく−いたふねを−おりたたすして−とるさなへかな


02348
未入力 正徹 (xxx)

ゆひにいてとるや湊の早苗ゆゑめかり塩やく海士そ稀なる

ゆひにいて−とるやみなとの−さなへゆゑ−めかりしほやく−あまそまれなる


02349
未入力 正徹 (xxx)

時きぬとわさ田の露の玉たすきゆひめかけつれ早苗とるなり

とききぬと−わさたのつゆの−たまたすき−ゆひめかけつれ−さなへとるなり


02350
未入力 正徹 (xxx)

立ちならふ田子の小笠も雨風にそかひになひく早苗をそとる

たちならふ−たこのをかさも−あめかせに−そかひになひく−さなへをそとる


02351
未入力 正徹 (xxx)

立ちならふ田子のうゑめか早苗より空にて玉もしけき雨かな

たちならふ−たこのうゑめか−さなへより−そらにてたまも−しけきあめかな


02352
未入力 正徹 (xxx)

早苗もており立つうゑめひまなきに猶取りはこふ小田のますらを

さなへもて−おりたつうゑめ−ひまなきに−なほとりはこふ−をたのますらを


02353
未入力 正徹 (xxx)

こらかてに早苗そのこる空に立つとりこの池田いまやうゑけん

こらかてに−さなへそのこる−そらにたつ−とりこのいけた−いまやうゑけむ


02354
未入力 正徹 (xxx)

さなへとるあとの山田の水そめはもとの緑を峰の松かえ

さなへとる−あとのやまたの−みつそめは−もとのみとりを−みねのまつかえ


02355
未入力 正徹 (xxx)

ぬれてほす露のあさての玉たすき夕日をかけて早苗取るなり

ぬれてほす−つゆのあさての−たまたすき−ゆふひをかけて−さなへとるなり


02356
未入力 正徹 (xxx)

しめのうちもおなし田面の外ならて早苗取りはて又やうゑてん

しめのうちも−おなしたのもの−ほかならて−さなへとりはて−またやうゑてむ


02357
未入力 正徹 (xxx)

秋風にあらぬみしふを身にしめてほきの沢田に取るさなへかな

あきかせに−あらぬみしふを−みにしめて−ほきのさはたに−とるさなへかな


02358
未入力 正徹 (xxx)

まとゐする山田のくろのかれ飯にひるま過きぬととる早苗かな

まとゐする−やまたのくろの−かれいひに−ひるますきぬと−とるさなへかな


02359
未入力 正徹 (xxx)

田中なるしつか垣ほの竹の子もともにふし立つさなへとるなり

たなかなる−しつかかきほの−たけのこも−ともにふしたつ−さなへとるなり


02360
未入力 正徹 (xxx)

水広きふもとの小田の山風にゆふなみたててとる早苗かな

みつひろき−ふもとのをたの−やまかせに−ゆふなみたてて−とるさなへかな


02361
未入力 正徹 (xxx)

とる袖に夕露ちりてみたるるやうゑぬ早苗の手玉なるらん

とるそてに−ゆふつゆちりて−みたるるや−うゑぬさなへの−てたまなるらむ


02362
未入力 正徹 (xxx)

夕暮は雲のはたてにおり立ちてそはの山田にとる早苗かな

ゆふくれは−くものはたてに−おりたちて−そはのやまたに−とるさなへかな


02363
未入力 正徹 (xxx)

里人の手ことに取りし跡見えてなへ田すくなきふるの山本

さとひとの−てことにとりし−あとみえて−なへたすくなき−ふるのやまもと


02364
未入力 正徹 (xxx)

取りのこす早苗のひまを引きすてて五月にうゑぬ小田も有りけり

とりのこす−さなへのひまを−ひきすてて−さつきにうゑぬ−をたもありけり


02365
未入力 正徹 (xxx)

しつか屋にさなへ取りつみ日は暮れぬ小田のうゑめや明日を待つらん

しつかやに−さなへとりつみ−ひはくれぬ−をたのうゑめや−あすをまつらむ


02366
未入力 正徹 (xxx)

あさてぬふこや新針の早苗草かつもる庵のしつのをたまき

あさてぬふ−こやにひはりの−さなへくさ−かつもるいほの−しつのをたまき


02367
未入力 正徹 (xxx)

さし入の小屋のはにふはあれにけり早苗とるまの雨のみかさに

さしいりの−こやのはにふは−あれにけり−さなへとるまの−あめのみかさに


02368
未入力 正徹 (xxx)

御田屋もる民の戸張のすか莚長き日かけてとる早苗かな

みたやもる−たみのとはりの−すかむしろ−なかきひかけて−とるさなへかな


02369
未入力 正徹 (xxx)

田子のすむ庵に早苗を積置きてもえぬ比さへねんかたやなき

たこのすむ−いほにさなへを−つみおきて−もえぬころさへ−ねむかたやなき


02370
未入力 正徹 (xxx)

水の上の影すむ山の松のはにうゑぬ早苗をうつす小田かな

みつのうへの−かけすむやまの−まつのはに−うゑぬさなへを−うつすをたかな


02371
未入力 正徹 (xxx)

うゑのほる山の岨田の水落ちてしつか早苗のねをすすくみゆ

うゑのはる−やまのそはたの−みつおちて−しつかさなへの−ねをすすくみゆ


02372
未入力 正徹 (xxx)

湊田のをくろの上にむれゐるやいきつく海士の早苗取るらん

みなとたの−をくろのうへに−むれゐるや−いきつくあまの−さなへとるらむ


02373
未入力 正徹 (xxx)

事しけきことのはなから夏草の花もましらぬ道そ物うき

ことしけき−ことのはなから−なつくさの−はなもましらぬ−みちそものうき


02374
未入力 正徹 (xxx)

すゑはまてのほるも涼し夏草のまかきを山の庭の夕露

すゑはまて−のはるもすすし−なつくさの−まかきをやまの−にはのゆふつゆ


02375
未入力 正徹 (xxx)

なれなれていつかは花におくとみん秋まち遠の百草の露

なれなれて−いつかははなに−おくとみむ−あきまちとほの−ももくさのつゆ


02376
未入力 正徹 (xxx)

夏ことに草葉を広み宿はあれと朝夕露のかるそ稀なる

なつことに−くさはをひろみ−やとはあれと−あさゆふつゆの−かるそまれなる


02377
未入力 正徹 (xxx)

露おかぬ夏野の草のかたなひきいかなる風の夜はに吹きけん

つゆおかぬ−なつののくさの−かたなひき−いかなるかせの−よはにふきけむ


02378
未入力 正徹 (xxx)

夏草のしけみか上のおも影よ霜かれはつる野への木からし

なつくさの−しけみかうへの−おもかけよ−しもかれはつる−のへのこからし


02379
未入力 正徹 (xxx)

したつえそ緑かくるる松陰の手草もたかく茂りのほりて

したつえそ−みとりかくるる−まつかけの−てくさもたかく−しけりのほりて


02380
未入力 正徹 (xxx)

めくる日も風もこゑせす哀てふ事も夏野の荻の上かな

めくるひも−かせもこゑせす−あはれてふ−こともなつのの−をきのうへかな


02381
未入力 正徹 (xxx)

さゆり花さくやなてしこましるとも茂りかくすな野への夏草

さゆりはな−さくやなてしこ−ましるとも−しけりかくすな−のへのなつくさ


02382
未入力 正徹 (xxx)

しけりあふ葎の庭の草莚ひしき物には露のしら玉

しけりあふ−むくらのにはの−くさむしろ−ひしきものには−つゆのしらたま


02383
未入力 正徹 (xxx)

茂るらし花咲く比のさゆりはにしられぬ山のおくのかけ草

しけるらし−はなさくころの−さゆりはに−しられぬやまの−おくのかけくさ


02384
未入力 正徹 (xxx)

日かすへん草のは山はかさなりて夏は分くへきむさし野もなし

ひかすへむ−くさのはやまは−かさなりて−なつはわくへき−むさしのもなし


02385
未入力 正徹 (xxx)

山ふかく入れははてなて夏草の事しけき世をわたる風かな

やまふかく−いれははてなて−なつくさの−ことしけきよを−わたるかせかな


02386
未入力 正徹 (xxx)

小百合葉のしられぬし水くみたえて野中の草を結ふ山風

さゆりはの−しられぬしみつ−くみたえて−のなかのくさを−むすふやまかせ


02387
未入力 正徹 (xxx)

茂りつつしられぬ草そおほからんさゆりは花の色にしるくて

しけりつつ−しられぬくさそ−おほからむ−さゆりははなの−いろにしるくて


02388
未入力 正徹 (xxx)

庵むすふ茂みかおくのさゆり花たかともす火の光なるらん

いほむすふ−しけみかおくの−さゆりはな−たかともすひの−ひかりなるらむ


02389
未入力 正徹 (xxx)

夏草のしけき葉ことのましはりも猶所せき世のならひかな

なつくさの−しけきはことの−ましはりも−なほところせき−よのならひかな


02390
未入力 正徹 (xxx)

夏草の露のぬきのみいそけとも花の錦はおるたてもなし

なつくさの−つゆのぬきのみ−いそけとも−はなのにしきは−おるたてもなし


02391
未入力 正徹 (xxx)

しほらしな夏野をしけみ置きかねて草葉もたへぬ露の衣手

しほらしな−なつのをしけみ−おきかねて−くさはもたへぬ−つゆのころもて


02392
未入力 正徹 (xxx)

夏草のしけみか底にすむ水を忘れすとても誰かむすはん

なつくさの−しけみかそこに−すむみつを−わすれすとても−たれかむすはむ


02393
未入力 正徹 (xxx)

遊ふとは見えぬ野中に夏草の糸ゆふみたれてる日影かな

あそふとは−みえぬのなかに−なつくさの−いとゆふみたれ−てるひかけかな


02394
未入力 正徹 (xxx)

時しらすいたたく霜を夏草の末はにかけて分くるのへかな

ときしらす−いたたくしもを−なつくさの−すゑはにかけて−わくるのへかな


02395
未入力 正徹 (xxx)

影見えし野守鏡ちりたかくつもるになして茂る草かな

かけみえし−のもりのかかみ−ちりたかく−つもるになして−しけるくさかな


02396
未入力 正徹 (xxx)

夏草のみとりの淵の身をつくしたてる野中の松の一本

なつくさの−みとりのふちの−みをつくし−たてるのなかの−まつのひともと


02397
未入力 正徹 (xxx)

夢路をも人しらめやは蓬生のふかき心の底のまろねに

ゆめちをも−ひとしらめやは−よもきふの−ふかきこころの−そこのまろねに


02398
未入力 正徹 (xxx)

影すみて行くや川瀬のなひきもも茂る生田の杜の下暮

かけすみて−ゆくやかはせの−なひきもも−しけるいくたの−もりのしたくさ


02399
未入力 正徹 (xxx)

柏木の杜の広葉の陰の草いまた春野と茂りかねつつ

かしはきの−もりのひろはの−かけのくさ−いまたはるのと−しけりかねつつ


02400
未入力 正徹 (xxx)

鳰鳥のうきすにかよふ道も見す茂る草葉の広沢の水

にほとりの−うきすにかよふ−みちもみす−しけるくさはの−ひろさはのみつ


02401
未入力 正徹 (xxx)

世にふりし寺も名のみの水たえて夏草しけき広沢の跡

よにふりし−てらもなのみの−みつたえて−なつくさしけき−ひろさはのあと


02402
未入力 正徹 (xxx)

雨にますみつの御牧の草かくれからても駒のやすむ日はなし

あめにます−みつのみまきの−くさかくれ−からてもこまの−やすむひはなし


02403
未入力 正徹 (xxx)

行人に袖もかりあへす初尾花ほに出てぬ夏の野への上風

ゆくひとに−そてもかりあへす−はつをはな−ほにいてぬなつの−のへのうはかせ


02404
未入力 正徹 (xxx)

ぬさまつる神風涼し旅衣日もゆふしての森のした風

ぬさまつる−かみかせすすし−たひころも−ひもゆふしての−もりのしたかせ


02405
未入力 正徹 (xxx)

袖そうき峰の下草分けいつる日影はぬれぬ野への朝露

そてそうき−みねのしたくさ−わけいつる−ひかけはぬれぬ−のへのあさつゆ


02406
未入力 正徹 (xxx)

世にしけき言の葉見はや敷島の道の芝草夏に逢ふまて

よにしけき−ことのはみはや−しきしまの−みちのしはくさ−なつにあふまて


02407
未入力 正徹 (xxx)

おとろきぬ夏はめちなき高萱に俄にあへる野へのたひ人

おとろきぬ−なつはめちなき−たかかやに−にはかにあへる−のへのたひひと


02408
未入力 正徹 (xxx)

うちなひくしけみそ高き東野の草や夕の煙なるらん

うちなひく−しけみそたかき−あつまのの−くさやゆふへの−けふりなるらむ


02409
未入力 正徹 (xxx)

草ふかきふもとの野への山風に緑の波をおくるしら露

くさふかき−ふもとののへの−やまかせに−みとりのなみを−おくるしらつゆ


02410
未入力 正徹 (xxx)

咲く花の露も心もふかみ草たたなほさりの色とやは見る

さくはなの−つゆもこころも−ふかみくさ−たたなほさりの−いろとやはみる


02411
未入力 正徹 (xxx)

ともに見んことわりあれやもろこしの師子を絵かけはほうたんの花

ともにみむ−ことわりあれや−もろこしの−ししをえかけは−ほうたむのはな


02412
未入力 正徹 (xxx)

早くきぬきそひの馬の足なみに猶かち鞭をあけん老かな

はやくきぬ−きそひのうまの−あしなみに−なほかちむちを−あけむおいかな


02413
未入力 正徹 (xxx)

ひかぬより長き根見えて刈こもにあらぬやけふのあやめなるらん

ひかぬより−なかきねみえて−かりこもに−あらぬやけふの−あやめなるらむ


02414
未入力 正徹 (xxx)

なかきねのあやめの車世世かけて誰か九重に引きはしめけん

なかきねの−あやめのくるま−よよかけて−たかここのへに−ひきはしめけむ


02415
未入力 正徹 (xxx)

ねをたえてふきしあやめの其ままに生ふる軒はと茂る草かな

ねをたえて−ふきしあやめの−そのままに−おふるのきはと−しけるくさかな


02416
未入力 正徹 (xxx)

けふこそはしつ屋の軒も菖蒲ゆゑやつるるよりはめにかかりぬれ

けふこそは−しつやののきも−あやめゆゑ−やつるるよりは−めにかかりぬれ


02417
未入力 正徹 (xxx)

ふきすてしあやめの枯葉おとたてて匂ひのこらぬ軒の下風

ふきすてし−あやめのかれは−おとたてて−にほひのこらぬ−のきのしたかせ


02418
未入力 正徹 (xxx)

旅にしてあやめもしかぬ人やあらん都なからの草枕かな

たひにして−あやめもしかぬ−ひとやあらむ−みやこなからの−くさまくらかな


02419
未入力 正徹 (xxx)

哀にも水のあやめをかりの世に身はなかきねをなくなくそふる

あはれにも−みつのあやめを−かりのよに−みはなかきねを−なくなくそふる


02420
未入力 正徹 (xxx)

菖蒲草けふ九重に九のふしある根をや猶尋ぬらん

あやめくさ−けふここのへに−ここのつの−ふしあるねをや−なほたつぬらむ


02421
未入力 正徹 (xxx)

宿ことのあやめのにほひ花やかに今朝ふく風も都なりけり

やとことの−あやめのにほひ−はなやかに−けさふくかせも−みやこなりけり


02422
未入力 正徹 (xxx)

けふとてやたかのりしらぬ雲の上にあやめのこしをかきならふらん

けふとてや−たかのりしらぬ−くものうへに−あやめのこしを−かきならふらむ


02423
未入力 正徹 (xxx)

けふみかけかかる五月の玉たれやすかるあやめの軒の朝露

けふみかけ−かかるさつきの−たまたれや−すかるあやめの−のきのあさつゆ


02424
未入力 正徹 (xxx)

こやの池に今朝はあやめをかりこもやありて夕の露を待つらん

こやのいけに−けさはあやめを−かりこもや−ありてゆふへの−つゆをまつらむ


02425
未入力 正徹 (xxx)

水にすむすかたはいける物ならてあやめの角のねこそ長けれ

みつにすむ−すかたはいける−ものならて−あやめのつのの−ねこそなかけれ


02426
未入力 正徹 (xxx)

引きのこすあやめの草のたもとにも五月の玉をかくるしら露

ひきのこす−あやめのくさの−たもとにも−さつきのたまを−かくるしらつゆ


02427
未入力 正徹 (xxx)

ふかき江にけふはあやめを引まゆの糸まつなかきねに乱れつつ

ふかきえに−けふはあやめを−ひきまゆの−いとまつなかき−ねにみたれつつ


02428
未入力 正徹 (xxx)

根をたゆるよとののあやめ引きわかれさひしくもあるか水のうき草

ねをたゆる−よとののあやめ−ひきわかれ−さひしくもあるか−みつのうきくさ


02429
未入力 正徹 (xxx)

いまは又しつか手引のいとなみを沼のあやめのねにやかふらん

いまはまた−しつかてひきの−いとなみを−ぬまのあやめの−ねにやかふらむ


02430
未入力 正徹 (xxx)

けふならてねそあらはれぬあやめ草かねてもひきしささかにの糸

けふならて−ねそあらはれぬ−あやめくさ−かねてもひきし−ささかにのいと


02431
未入力 正徹 (xxx)

けふとてや沼のあやめも刈こもの軒は契らぬねをのこすらん

けふとてや−ぬまのあやめも−かりこもの−のきはちきらぬ−ねをのこすらむ


02432
未入力 正徹 (xxx)

よと野より川浪かけてかをるなりあやめかりつむ舟の追風

よとのより−かはなみかけて−かをるなり−あやめかりつむ−ふねのおひかせ


02433
未入力 正徹 (xxx)

あやめ引く沼江にかけし鳥の巣の今朝あらはなるねをもそへつつ

あやめひく−ぬまえにかけし−とりのすの−けさあらはなる−ねをもそへつつ


02434
未入力 正徹 (xxx)

五月雨はあやめにすかくささかにの糸さへなかき軒の玉水

さみたれは−あやめにすかく−ささかにの−いとさへなかき−のきのたまみつ


02435
未入力 正徹 (xxx)

花に咲くおなし軒はの橘もけふやあやめのにほひかるらん

はなにさく−おなしのきはの−たちはなも−けふやあやめの−にほひかるらむ


02436
未入力 正徹 (xxx)

ねをかけよ鳴くや軒はの山鳥のしたり尾なかきあやめをそふく

ねをかけよ−なくやのきはの−やまとりの−したりをなかき−あやめをそふく


02437
未入力 正徹 (xxx)

けふさくも軒の忍にふきそふるあやめをよその庭の蓬生

けふさくも−のきのしのふに−ふきそふる−あやめをよその−にはのよもきふ


02438
未入力 正徹 (xxx)

風わたる軒のあやめの落ちぬまを頼むともなきささかにの糸

かせわたる−のきのあやめの−おちぬまを−たのむともなき−ささかにのいと


02439
未入力 正徹 (xxx)

五月雨にわれとねさすや葺きすててうゑぬあやめの軒も緑に

さみたれに−われとねさすや−ふきすてて−うゑぬあやめの−のきもみとりに


02440
未入力 正徹 (xxx)

閨にしくあやめゆゑともえそしらぬなかき夢みし短夜の空

ねやにしく−あやめゆゑとも−えそしらぬ−なかきゆめみし−みしかよのそら


02441
未入力 正徹 (xxx)

けふとてや猶引きのこす水の上の雲のは袖もあやめかくらん

けふとてや−なほひきのこす−みつのうへの−くものはそても−あやめかくらむ


02442
未入力 正徹 (xxx)

夜をかさね水鶏そたたく天の戸もとちたる雲の五月雨の比

よをかさね−くひなそたたく−あまのとも−とちたるくもの−さみたれのころ


02443
未入力 正徹 (xxx)

岩たたくこゑに明行く川浪もわかれてかへる水の庭鳥

いはたたく−こゑにあけゆく−かはなみも−わかれてかへる−みつのにはとり


02444
未入力 正徹 (xxx)

稲荷山杉に水鶏の声すなり神の戸ほそや打ちたたくらん

いなりやま−すきにくひなの−こゑすなり−かみのとほそや−うちたたくらむ


02445
未入力 正徹 (xxx)

をちこちの村の蚊遣火うちけふり水鶏なくなり森の木隠

をちこちの−むらのかやりひ−うちけふり−くひななくなり−もりのこかくれ


02446
未入力 正徹 (xxx)

舟はたを夜はにそたたくにほの海に網おく磯の杜の水鶏は

ふなはたを−よはにそたたく−にほのうみに−あみおくいその−もりのくひなは


02447
未入力 正徹 (xxx)

稲荷山社の戸口うちたたく水鶏そかへる杉のむらたち

いなりやま−やしろのとくち−うちたたく−くひなそかへる−すきのむらたち


02448
未入力 正徹 (xxx)

家家に門もとささぬ世なりせは夜ことにきくや水鶏ならまし

いへいへに−かともとささぬ−よなりせは−よことにきくや−くひなならまし


02449
未入力 正徹 (xxx)

あけぬ戸をたたくかひなきおのれのみ千度水鶏のくらきよになく

あけぬとを−たたくかひなき−おのれのみ−ちたひくひなの−くらきよになく


02450
未入力 正徹 (xxx)

水鶏なく杜の木陰の夕ま暮水の蛙もこゑあはすなり

くひななく−もりのこかけの−ゆふまくれ−みつのかはつも−こゑあはすなり


02451
未入力 正徹 (xxx)

八千度と聞くそ身にしるなれさへも老その杜を水鶏鳴くこゑ

やちたひと−きくそみにしる−なれさへも−おいそのもりを−くひななくこゑ


02452
未入力 正徹 (xxx)

こぬ妻をまつ夜むなしき明ほのに身をや八千度水鶏なくらん

こぬつまを−まつよむなしき−あけほのに−みをややちたひ−くひななくらむ


02453
未入力 正徹 (xxx)

松風も岩かとたたくあふ坂の山陰くれて水鶏なくなり

まつかせも−いはかとたたく−あふさかの−やまかけくれて−くひななくなり


02454
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮入江にかかる舟はたをたたくやいつれ水の庭鳥

ゆふまくれ−いりえにかかる−ふなはたを−たたくやいつれ−みつのにはとり


02455
未入力 正徹 (xxx)

あかつきの八こゑもしらて夕ま暮さす門たたく水の庭鳥

あかつきの−やこゑもしらて−ゆふまくれ−さすかとたたく−みつのにはとり


02456
未入力 正徹 (xxx)

夜寒き氷とけにし山川に又岩たたく水の庭鳥

よるさむき−こほりとけにし−やまかはに−またいはたたく−みつのにはとり


02457
未入力 正徹 (xxx)

水鶏のみなくとそきかん逢坂やたたきならさぬ関の岩かと

くひなのみ−なくとそきかむ−あふさかや−たたきならさぬ−せきのいはかと


02458
未入力 正徹 (xxx)

袖のかのなきをかたみとうゑおかは花たちはなを人やすさめん

そてのかの−なきをかたみと−うゑおかは−はなたちはなを−ひとやすさめむ


02459
未入力 正徹 (xxx)

むかしをははな橘にわすれなんいかなる夢かにほひくるとて

むかしをは−はなたちはなに−わすれなむ−いかなるゆめか−にほひくるとて


02460
未入力 正徹 (xxx)

りうの子のささけし玉も橘の実に光そふ花やなからん

りうのこの−ささけしたまも−たちはなの−みにひかりそふ−はなやなからむ


02461
未入力 正徹 (xxx)

昔をやたれものこさん橘のにほふあたりのもろ人の袖

むかしをや−たれものこさむ−たちはなの−にほふあたりの−もろひとのそて


02462
未入力 正徹 (xxx)

秋まちて雁の羽風に匂はなんおなし常世をいてし橘

あきまちて−かりのはかせに−にほはなむ−おなしとこよを−いてしたちはな


02463
未入力 正徹 (xxx)

哀にもわれそふり行く橘のみさへのこりて花にあふ世を

あはれにも−われそふりゆく−たちはなの−みさへのこりて−はなにあふよを


02464
未入力 正徹 (xxx)

わか方の世世につたへよ橘の氏人のみや袖の香もせん

わかかたの−よよにつたへよ−たちはなの−うちひとのみや−そてのかもせむ


02465
未入力 正徹 (xxx)

香をそへよなれしも桜あさの袖花橘の春のかたみに

かをそへよ−なれしもさくら−あさのそて−はなたちはなの−はるのかたみに


02466
未入力 正徹 (xxx)

夏そ引くしつのをた巻よそにして昔を今ににほふ橘

なつそひく−しつのをたまき−よそにして−むかしをいまに−にほふたちはな


02467
未入力 正徹 (xxx)

風さそふ花橘をそらにしておほふも雲の袖の香やせん

かせさそふ−はなたちはなを−そらにして−おほふもくもの−そてのかやせむ


02468
未入力 正徹 (xxx)

花も香もなれし常世やしたふらん南の風の北のたち花

はなもかも−なれしとこよや−したふらむ−みなみのかせの−きたのたちはな


02469
未入力 正徹 (xxx)

秋ならぬ袖そ色つく橘のにほふむかしをしたふ涙に

あきならぬ−そてそいろつく−たちはなの−にほふむかしを−したふなみたに


02470
未入力 正徹 (xxx)

木の本のかけふむ月は橘のちりしきけりなにほふしら雪

このもとの−かけふむつきは−たちはなの−ちりしきけりな−にほふしらゆき


02471
未入力 正徹 (xxx)

袖のかも花にうつろふ橘の身をしる雨そはるるまもなき

そてのかも−はなにうつろふ−たちはなの−みをしるあめそ−はるるまもなき


02472
未入力 正徹 (xxx)

物そおもふ花橘のむかしとふ雲のはたての袖のゆふ風

ものそおもふ−はなたちはなの−むかしとふ−くものはたての−そてのゆふかせ


02473
未入力 正徹 (xxx)

古郷は庭にをしかもたち花にわけしを花か袖の香そする

ふるさとは−にはにをしかも−たちはなに−わけしをはなか−そてのかそする


02474
未入力 正徹 (xxx)

袖にふけ花たちはなのうつりかは時過きぬとも風はいとはし

そてにふけ−はなたちはなの−うつりかは−ときすきぬとも−かせはいとはし


02475
未入力 正徹 (xxx)

久かたの天つをとめの袖ふれて雲吹く風ににほふたち花

ひさかたの−あまつをとめの−そてふれて−くもふくかせに−にほふたちはな


02476
未入力 正徹 (xxx)

吹く風のめに見ぬ人の袖の香はかくこそありけれ軒の橘

ふくかせの−めにみぬひとの−そてのかは−かくこそありけれ−のきのたちはな


02477
未入力 正徹 (xxx)

人はこぬむかしの風の使たに袖のかしるき宿のたち花

ひとはこぬ−むかしのかせの−つかひたに−そてのかしるき−やとのたちはな


02478
未入力 正徹 (xxx)

をとめ子かそれもむかしのかをとめて袖振山にたち花もかな

をとめこか−それもむかしの−かをとめて−そてふるやまに−たちはなもかな


02479
未入力 正徹 (xxx)

にほへとも老いぬる袖のたち花に末吹きよわる風そすくなき

にほへとも−おいぬるそての−たちはなに−すゑふきよわる−かせそすくなき


02480
未入力 正徹 (xxx)

吹きくるもそれにはあらぬ匂ひかなむかしの風のいまのたち花

ふきくるも−それにはあらぬ−にほひかな−むかしのかせの−いまのたちはな


02481
未入力 正徹 (xxx)

ととめおくたひねのやとの橘にわか袖のかを誰かいとはん

ととめおく−たひねのやとの−たちはなに−わかそてのかを−たれかいとはむ


02482
未入力 正徹 (xxx)

行ふりの八十氏人の袖のかも小島にのこる世世のたち花

ゆきふりの−やそうちひとの−そてのかも−こしまにのこる−よよのたちはな


02483
未入力 正徹 (xxx)

橘にちかくぬる夜の岩枕撫てなむ天つ袖の香そする

たちはなに−ちかくぬるよの−いはまくら−なてなむあまつ−そてのかそする


02484
未入力 正徹 (xxx)

しるといふ枕にとふも橘のたか袖ならぬ風そ匂へる

しるといふ−まくらにとふも−たちはなの−たかそてならぬ−かせそにほへる


02485
未入力 正徹 (xxx)

橘はちかき若木そうゑぬ世の枕やふるきむかしなるらん

たちはなは−ちかきわかきそ−うゑぬよの−まくらやふるき−むかしなるらむ


02486
未入力 正徹 (xxx)

香をとめし花橘にたか袖の涙のこりて露みたるらん

かをとめし−はなたちはなに−たかそての−なみたのこりて−つゆみたるらむ


02487
未入力 正徹 (xxx)

風かをる花たち花のよるの夢身にさへさむる鈴の音かな

かせかをる−はなたちはなの−よるのゆめ−みにさへさむる−すすのおとかな


02488
未入力 正徹 (xxx)

人すます荒れたる宿の橘はにほひも袖や尋ねわふらん

ひとすます−あれたるやとの−たちはなは−にほひもそてや−たつねわふらむ


02489
未入力 正徹 (xxx)

たか香とかとははこたへんわれひとり袖かけさりし軒の橘

たかかとか−とははこたへむ−われひとり−そてかけさりし−のきのたちはな


02490
未入力 正徹 (xxx)

さされ石も巌とならて橘のかけふむ庭に年そかすそふ

さされいしも−いはほとならて−たちはなの−かけふむにはに−としそかすそふ


02491
未入力 正徹 (xxx)

しらぬ世の猶おも影に橘の雪ふる苔の袖の香そする

しらぬよの−なほおもかけに−たちはなの−ゆきふるこけの−そてのかそする


02492
未入力 正徹 (xxx)

袖のかのたそかれ時の花のえに見ぬ世そちかき軒の橘

そてのかの−たそかれときの−はなのえに−みぬよそちかき−のきのたちはな


02493
未入力 正徹 (xxx)

猶見よと花橘や匂ふらんむかしの夢のみしか夜の空

なほみよと−はなたちはなや−にほふらむ−むかしのゆめの−みしかよのそら


02494
未入力 正徹 (xxx)

木のもとにかよひし道は跡もなし花橘の雪の夜の夢

このもとに−かよひしみちは−あともなし−はなたちはなの−ゆきのよのゆめ


02495
未入力 正徹 (xxx)

橘の風のにほひにふきかへせむかしの夢やよるのさ衣

たちはなの−かせのにほひに−ふきかへせ−むかしのゆめや−よるのさころも


02496
未入力 正徹 (xxx)

しろたへに匂ひそまさる橘に月の宮人袖おほふらし

しろたへに−にほひそまさる−たちはなに−つきのみやひと−そておほふらし


02497
未入力 正徹 (xxx)

古郷にうゑし若木の橘にしらぬむかしを心にそとふ

ふるさとに−うゑしわかきの−たちはなに−しらぬむかしを−こころにそとふ


02498
未入力 正徹 (xxx)

えやはいふそこらむかしをしる花の名にこそたてれ軒の橘

えやはいふ−そこらむかしを−しるはなの−なにこそたてれ−のきのたちはな


02499
未入力 正徹 (xxx)

雨そそく花橘にいにしへをとふにつらさの涙おつやと

あめそそく−はなたちはなに−いにしへを−とふにつらさの−なみたおつやと


02500
未入力 正徹 (xxx)

橘のかけふむ庭の苔の上にこれもむかしのあとやのこらん

たちはなの−かけふむにはの−こけのうへに−これもむかしの−あとやのこらむ


02501
未入力 正徹 (xxx)

橘のさける軒はの苔衣ふるき板間に袖の香そする

たちはなの−さけるのきはの−こけころも−ふるきいたまに−そてのかそする


02502
未入力 正徹 (xxx)

庭のおもは結ふはかりにしけりあふ草のふもとに匂ふ橘

にはのおもは−むすふはかりに−しけりあふ−くさのふもとに−にほふたちはな


02503
未入力 正徹 (xxx)

ちり過くる花橘に宿はあれて庭のまさこも草そ見え行く

ちりすくる−はなたちはなに−やとはあれて−にはのまさこも−くさそみえゆく


02504
未入力 正徹 (xxx)

吹く風に花橘もあへぬとや軒のしのふにみたれちるらん

ふくかせに−はなたちはなも−あへぬとや−のきのしのふに−みたれちるらむ


02505
未入力 正徹 (xxx)

匂ふなりむかしの袖の雨やこれ花橘の軒のしつくほ

にほふなり−むかしのそての−あめやこれ−はなたちはなの−のきのしつくほ


02506
未入力 正徹 (xxx)

里はあれねたか袖の香と知らぬをそ花橘にとほまほしけれ

さとはあれぬ−たかそてのかと−しらぬをそ−はなたちはなに−とほまほしけれ


02507
未入力 正徹 (xxx)

古郷の庭にのこりて橘の花にましはる身さへつれなし

ふるさとの−にはにのこりて−たちはなの−はなにましはる−みさへつれなし


02508
未入力 正徹 (xxx)

里は荒れぬ今まて人の袖の香はあらしまことに匂ふ橘

さとはあれぬ−いままてひとの−そてのかは−あらしまことに−にほふたちはな


02509
未入力 正徹 (xxx)

あれしより人もかよはぬ古郷のたきの都の五月雨の比

あれしより−ひともかよはぬ−ふるさとの−たきのみやこの−さみたれのころ


02510
未入力 正徹 (xxx)

日かすふるうらのひかたはさす塩の程をみかさの五月雨の比

ひかすふる−うらのひかたは−さすしほの−ほとをみかさの−さみたれのころ


02511
未入力 正徹 (xxx)

うき雲は猶も高ねをうつむなりはれても晴れぬ五月雨の空

うきくもは−なほもたかねを−うつむなり−はれてもはれぬ−さみたれのそら


02512
未入力 正徹 (xxx)

ちくま川にこれる水の五月雨にきえていく夜の有明のかけ

ちくまかは−にこれるみつの−さみたれに−きえていくよの−ありあけのかけ


02513
未入力 正徹 (xxx)

日をふれとわきてたまれる水もなし浜のま砂の五月雨の比

ひをふれと−わきてたまれる−みつもなし−はまのまさこの−さみたれのころ


02514
未入力 正徹 (xxx)

晴行くか吹く方かはる朝風に雲も五月雨の雨そそきして

はれゆくか−ふくかたかはる−あさかせに−くももさみたれの−あまそそきして


02515
未入力 正徹 (xxx)

水かさこす広せに立つや五月雨のふる川のへの杉の二本

みかさこす−ひろせにたつや−さみたれの−ふるかはのへの−すきのふたもと


02516
未入力 正徹 (xxx)

五月雨はささ波こえて高島や陸野の水に駒もわたらて

さみたれは−ささなみこえて−たかしまや−かちののみつに−こまもわたらて


02517
未入力 正徹 (xxx)

道のへや人もかよはぬ五月雨の空に行きの雲そひまなき

みちのへや−ひともかよはぬ−さみたれの−そらにゆききの−くもそひまなき


02518
未入力 正徹 (xxx)

天の川今そ八十瀬にあまるともいさしら波の落つる五月雨

あまのかは−いまそやそせに−あまるとも−いさしらなみの−おつるさみたれ


02519
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高ねには見さりし滝の五月雨になかれて落つるふしの白雪

たかねには−みさりしたきの−さみたれに−なかれておつる−ふしのしらゆき


02520
未入力 正徹 (xxx)

はるるにもふるにもあらぬ浮雲も身を中空の五月雨の比

はるるにも−ふるにもあらぬ−うきくもも−みをなかそらの−さみたれのころ


02521
未入力 正徹 (xxx)

浮雲のみをさかのほる五月雨にわたらてしるき四方の川波

うきくもの−みをさかのほる−さみたれに−わたらてしるき−よものかはなみ


02522
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夕ま暮雲まのみとりかつ見るは月にそまさる五月雨の空

ゆふまくれ−くもまのみとり−かつみるは−つきにそまさる−さみたれのそら


02523
未入力 正徹 (xxx)

木のもとに見えし川との川すかきもくつにしつむ五月雨の比

このもとに−みえしかはとの−かはすかき−もくつにしつむ−さみたれのころ


02524
未入力 正徹 (xxx)

五月雨のみなきは見ゆる垣ねまてなかれし川そさとのよそなる

さみたれの−みなきはみゆる−かきねまて−なかれしかはそ−さとのよそなる


02525
未入力 正徹 (xxx)

池はらふ風の立葉も下折れぬ蓮のいとのさみたれのころ

いけはらふ−かせのたちはも−したをれぬ−はちすのいとの−さみたれのころ


02526
未入力 正徹 (xxx)

落滝つ岩ほなかるる深山川去年の木つみや五月雨の比

おちたきつ−いはほなかるる−みやまかは−こそのこつみや−さみたれのころ


02527
未入力 正徹 (xxx)

ふる日をは中中いはす晴れやらてくもるをいとふ五月雨の比

ふるひをは−なかなかいはす−はれやらて−くもるをいとふ−さみたれのころ


02528
未入力 正徹 (xxx)

大空もいつくか雲のみをつくし浅き江になき五月雨の比

おほそらも−いつくかくもの−みをつくし−あさきえになき−さみたれのころ


02529
未入力 正徹 (xxx)

五月雨のしかまの川の朝市に水こそいつれ立つ人はなし

さみたれの−しかまのかはの−あさいちに−みつこそいつれ−たつひとはなし


02530
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五月雨はそはの真砂のかたくつれ生ふる草木やねをはなるらん

さみたれは−そはのまさこの−かたくつれ−おふるくさきや−ねをはなるらむ


02531
未入力 正徹 (xxx)

五月雨の袖打ちしめり夏衣ときあらふへき日数をそえぬ

さみたれの−そてうちしめり−なつころも−ときあらふへき−ひかすをそえぬ


02532
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は入江の川のみをつくしみしかくなりぬ残る夏の日

さみたれは−いりえのかはの−みをつくし−みしかくなりぬ−のこるなつのひ


02533
未入力 正徹 (xxx)

湊川しほひしほみち波こえぬ海まてまさる五月雨の空

みなとかは−しほひしほみち−なみこえぬ−うみまてまさる−さみたれのそら


02534
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は夏のしつ屋にかふまゆを引くよりなかき軒の糸水

さみたれは−なつのしつやに−かふまゆを−ひくよりなかき−のきのいとみつ


02535
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は空ことしけりささ雲に又雲みてる峰のした柴

さみたれは−そらことしけり−ささくもに−またくもみてる−みねのしたしは


02536
未入力 正徹 (xxx)

五月雨の水かさ落行く太山川もくつにうつむ岸のささ原

さみたれの−みかさおちゆく−みやまかは−もくつにうつむ−きしのささはら


02537
未入力 正徹 (xxx)

晴まなくふりこめられて友もみなうとき心の五月雨の宿

はれまなく−ふりこめられて−とももみな−うときこころの−さみたれのやと


02538
未入力 正徹 (xxx)

おりのほる雲にかくされあらはれて心にもあらし五月雨の山

おりのほる−くもにかくされ−あらはれて−こころにもあらし−さみたれのやま


02539
未入力 正徹 (xxx)

日数へて晴れぬ五月の雨しめりたわつく髪やみたれわふらん

ひかすへて−はれぬさつきの−あましめり−たわつくかみや−みたれわふらむ


02540
未入力 正徹 (xxx)

川舟の水底見れは陸なりし木すゑそなひく五月雨の比

かはふねの−みなそこみれは−くかなりし−こすゑそなひく−さみたれのころ


02541
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は晴れせぬ風に露こほす竹のさ枝にかはつ鳴くなり

さみたれは−はれせぬかせに−つゆこほす−たけのさえたに−かはつなくなり


02542
未入力 正徹 (xxx)

なかき日の雲のみなわにうちはへて空にさかまく五月雨の比

なかきひの−くものみなわに−うちはへて−そらにさかまく−さみたれのころ


02543
未入力 正徹 (xxx)

雲くたる南の海の五月雨におくれてのほる嶺の一むら

くもくたる−みなみのうみの−さみたれに−おくれてのほる−みねのひとむら


02544
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は過くるかあらき声の後日比の雲もかはりてそ行く

さみたれは−すくるかあらき−こゑののち−ひころのくもも−かはりてそゆく


02545
未入力 正徹 (xxx)

五月雨はむら雲いててくらき夜の北になかるる星のかけかな

さみたれは−むらくもいてて−くらきよの−きたになかるる−ほしのかけかな


02546
未入力 正徹 (xxx)

五月雨の水すみぬとや洗ひほすしつかあさても里にみつらん

さみたれの−みつすみぬとや−あらひほす−しつかあさても−さとにみつらむ


02547
未入力 正徹 (xxx)

最上川遠き都にいつる日ものほれはくたる五月雨の雲

もかみかは−とほきみやこに−いつるひも−のほれはくたる−さみたれのくも


02548
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は水落見えてなかれけんま砂にうつむ山の下柴

さみたれは−みつおちみえて−なかれけむ−まさこにうつむ−やまのしたしは


02549
未入力 正徹 (xxx)

丹生の川みをにそにこる杣つくりうつすみなはの五月雨の比

にふのかは−みをにそにこる−そまつくり−うつすみなはの−さみたれのころ


02550
未入力 正徹 (xxx)

ひまをあらみ雲に埋むもかひそなき嶺の庵の五月雨の比

ひまをあらみ−くもにうつむも−かひそなき−みねのいほりの−さみたれのころ


02551
未入力 正徹 (xxx)

しけりつつくもる日をふる五月雨に朽つる色なき衣手のもり

しけりつつ−くもるひをふる−さみたれに−くつるいろなき−ころもてのもり


02552
未入力 正徹 (xxx)

蝉の羽も涙ほしあへしま鳥すむ杜のすかのねなか雨の比

せみのはも−なみたほしあへし−まとりすむ−もりのすかのね−なかあめのころ


02553
未入力 正徹 (xxx)

宮こ鳥ありやなしやもしら波の堀江の川にあまる五月雨

みやことり−ありやなしやも−しらなみの−ほりえのかはに−あまるさみたれ


02554
未入力 正徹 (xxx)

契りてはうきかち人のぬれぬ江も此比ほしき道のさみたれ

ちきりては−うきかちひとの−ぬれぬえも−このころほしき−みちのさみたれ


02555
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は水の入江の川堤こゆるか浅き舟のさを

さみたれは−みつのいりえの−かはつつみ−こゆるかあさき−ふねのひとさを


02556
未入力 正徹 (xxx)

深山川岩ほなかれてとまる瀬のしからみ高き水の五月雨

みやまかは−いはほなかれて−とまるせの−しからみたかき−みつのさみたれ


02557
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は興中川に行く水の速くにこるや日かすふるらん

さみたれは−おきなかかはに−ゆくみつの−はやくにこるや−ひかすふるらむ


02558
未入力 正徹 (xxx)

水すめはたらひにもみつ天の川里の影なきさみたれの雲

みつすめは−たらひにもみつ−あまのかは−さとのかけなき−さみたれのくも


02559
未入力 正徹 (xxx)

みな底のくらきやささのくまならんひのくま川の五月雨の比

みなそこの−くらきやささの−くまならむ−ひのくまかはの−さみたれのころ


02560
未入力 正徹 (xxx)

五月雨はまさる川戸のふし柳しからみあへすこゆる波かな

さみたれは−まさるかはとの−ふしやなき−しからみあへす−こゆるなみかな


02561
未入力 正徹 (xxx)

日かすさへ遠きひかたの五月雨にまさこなひかぬうら風そ吹く

ひかすさへ−とほきひかたの−さみたれに−まさこなひかぬ−うらかせそふく


02562
未入力 正徹 (xxx)

真砂ゆく川波たかき浜松のねにあらはれん五月雨の比

まさこゆく−かはなみたかき−はままつの−ねにあらはれむ−さみたれのころ


02563
未入力 正徹 (xxx)

老のなみ一夜にこえつさ月やみ雨うつまとのしたの舟人

おいのなみ−ひとよにこえつ−さつきやみ−あめうつまとの−したのふなひと


02564
未入力 正徹 (xxx)

亀の上の山を見さりし舟人も五月雨よりや老と成りけん

かめのうへの−やまをみさりし−ふなひとも−さみたれよりや−おいとなりけむ


02565
未入力 正徹 (xxx)

山のはも又川波も分けて見すみな雲水の五月雨の比

やまのはも−またかはなみも−わけてみす−みなくもみつの−さみたれのころ


02566
未入力 正徹 (xxx)

吉野川岩もと落つる水底の玉藻かくれの五月雨の比

よしのかは−いはもとおつる−みなそこの−たまもかくれの−さみたれのころ


02567
未入力 正徹 (xxx)

五月雨の晴行く雲をかつらきの山人のみやよそに見るらん

さみたれの−はれゆくくもを−かつらきの−やまひとのみや−よそにみるらむ


02568
未入力 正徹 (xxx)

宿出てて見さりし川の淵も瀬もみちになかるる五月雨の比

やといてて−みさりしかはの−ふちもせも−みちになかるる−さみたれのころ


02569
未入力 正徹 (xxx)

雪と見し花にたかひて梅かえの実を紅にそむる雨かな

ゆきとみし−はなにたかひて−うめかえの−みをくれなゐに−そむるあめかな


02570
未入力 正徹 (xxx)

五月雨は庭になかるる水かきのひさしの板も朽つる東屋

さみたれは−にはになかるる−みつかきの−ひさしのいたも−くつるあつまや


02571
未入力 正徹 (xxx)

五月雨の身のうき雲も世にふれせ思ひはれゆく時をこそみれ

さみたれの−みのうきくもも−よにふれせ−おもひはれゆく−ときをこそみれ


02572
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吹きおくる風にまかせて山のはの雲に先立つゆふたちの雨

ふきおくる−かせにまかせて−やまのはの−くもにさきたつ−ゆふたちのあめ


02573
未入力 正徹 (xxx)

吹きとつる空にもあらす風こえて夕立はるる雲のかよひち

ふきとつる−そらにもあらす−かせこえて−ゆふたちはるる−くものかよひち


02574
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また晴れぬ雲そと見せて岩かねのこりしく嶺にすくる夕立

またはれぬ−くもそとみせて−いはかねの−こりしくみねに−すくるゆふたち


02575
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雲はやみ風もしをらぬ夏の日のかけまてなひく夕立の空

くもはやみ−かせもしをらぬ−なつのひの−かけまてなひく−ゆふたちのそら


02576
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あらき風先吹きあけて玉鉾の塵さへくもる夕立のそら

あらきかせ−まつふきあけて−たまほこの−ちりさへくもる−ゆふたちのそら


02577
未入力 正徹 (xxx)

尾上より一むら見えてわく雲の千里にくたる夕立の雨

をのへより−ひとむらみえて−わくくもの−ちさとにくたる−ゆふたちのあめ


02578
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こりしける嶺の巌にわく雲の山たちかくす夕立の空

こりしける−みねのいはほに−わくくもの−やまたちかくす−ゆふたちのそら


02579
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風はやみ雲をへたてて夕立のこゆれは峰にかかる日の影

かせはやみ−くもをへたてて−ゆふたちの−こゆれはみねに−かかるひのかけ


02580
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くもるより山風吹きて夕立のやかてこゑする嶺のしひ柴

くもるより−やまかせふきて−ゆふたちの−やかてこゑする−みねのしひしは


02581
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音はしてふりこぬ先にゆふ立の雲鳥さわく木木の山風

おとはして−ふりこぬさきに−ゆふたちの−くもとりさわく−ききのやまかせ


02582
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まきの戸に吹入る風の程もなくこすのまとほに過くる夕立

まきのとに−ふきいるかせの−ほともなく−こすのまとほに−すくるゆふたち


02583
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あつま屋の軒はの雲もかたかけてむね分にふる夕立の雨

あつまやの−のきはのくもも−かたかけて−むねわけにふる−ゆふたちのあめ


02584
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山もとの園の竹原吹きしをり下葉ふりそふ夕立の風

やまもとの−そののたけはら−ふきしをり−したはふりそふ−ゆふたちのかせ


02585
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かよひちは隣のほとのひち笠も取りあへすぬるる夕立の空

かよひちは−となりのほとの−ひちかさも−とりあへすぬるる−ゆふたちのそら


02586
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嶺わたる山のかせきの柴分けてくたると聞くそ夕立のこゑ

みねわたる−やまのかせきの−しはわけて−くたるときくそ−ゆふたちのこゑ


02587
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雲くらきかた空晴れて山きはの日影にしろき夕立の雨

くもくらき−かたそらはれて−やまきはの−ひかけにしろき−ゆふたちのあめ


02588
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空見れは色なる橋の夕立や虹たちわたる天の川波

そらみれは−いろなるはしの−ゆふたちや−にしたちわたる−あまのかはなみ


02589
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うきて行く雲さへとほく天さかるひなのいくかそ夕立の雨

うきてゆく−くもさへとほく−あまさかる−ひなのいくかそ−ゆふたちのあめ


02590
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さやくなりあられましりの夕立に色もかしけぬ道の玉ささ

さやくなり−あられましりの−ゆふたちに−いろもかしけぬ−みちのたまささ


02591
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ふもとなる山そ消行くわきのほる雲に峰なす夕立の空

ふもとなる−やまそきえゆく−わきのほる−くもにみねなす−ゆふたちのそら


02592
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涼しさは夕立過きてのこる日の雲に影すく紙屋川波

すすしさは−ゆふたちすきて−のこるひの−くもにかけすく−かみやかはなみ


02593
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染めてふれ今も木の葉をちらすなり時雨のあらき夕立の風

そめてふれ−いまもこのはを−ちらすなり−しくれのあらき−ゆふたちのかせ


02594
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入日さす夕立なからたつ虹の色もみとりにはるる山かな

いりひさす−ゆふたちなから−たつにしの−いろもみとりに−はるるやまかな


02595
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日影さすま砂をむして煙たつうらの浜路のゆふ立の跡

ひかけさす−まさこをむして−けふりたつ−うらのはまちの−ゆふたちのあと


02596
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引きたつる槙の板戸もとほるやと打つ音あらき夕立の風

ひきたつる−まきのいたとも−とほるやと−うつおとあらき−ゆふたちのかせ


02597
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なる神もまたこゑたてぬ雲まより夕立まねく遠の稲雲

なるかみも−またこゑたてぬ−くもまより−ゆふたちまねく−をちのいなつま


02598
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峰うつむ雲の下柴ふく風にうつるかよその夕立のこゑ

みねうつむ−くものしたしは−ふくかせに−うつるかよその−ゆふたちのこゑ


02599
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吹きしをり野分をならす夕立の風の上なる雲よ木の葉よ

ふきしをり−のわきをならす−ゆふたちの−かせのうへなる−くもよこのはよ


02600
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夕立の嶺のうき雲風こしにきほふも涼しきそのあさ衣

ゆふたちの−みねのうきくも−かせこしに−きほふもすすし−きそのあさきぬ


02601
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吹きのほる風のしからみ雲きえて夕立すなり川上の山

ふきのほる−かせのしからみ−くもきえて−ゆふたちすなり−かはかみのやま


02602
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夕たたみ雲の行てもまきもくの山風はけし夕立の空

ゆふたたみ−くものゆくても−まきもくの−やまかせはけし−ゆふたちのそら


02603
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てる日影むかへる壁に夕立のかかりてかわく風そ匂へる

てるひかけ−むかへるかへに−ゆふたちの−かかりてかわく−かせそにほへる


02604
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夕立は蝉のは袖もたちしらぬ衣そあつき浮雲のそら

ゆふたちは−せみのはそても−たちしらぬ−ころもそあつき−うきくものそら


02605
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送りくる風よりはやき夕立にふりこめられてさわく雲かな

おくりくる−かせよりはやき−ゆふたちに−ふりこめられて−さわくくもかな


02606
未入力 正徹 (xxx)

夕立はあらく落ちきてむら林雲鳥さわく遠の山もと

ゆふたちは−あらくおちきて−むらはやし−くもとりさわく−をちのやまもと


02607
未入力 正徹 (xxx)

時ならぬ木の葉みたれて夕立の雲鳥さわく山風のこゑ

ときならぬ−このはみたれて−ゆふたちの−くもとりさわく−やまかせのこゑ


02608
未入力 正徹 (xxx)

雲はらふ風に音せす過きてけり岩根こりしく嶺の夕立

くもはらふ−かせにおとせす−すきてけり−いはねこりしく−みねのゆふたち


02609
未入力 正徹 (xxx)

草も木もぬれて色こき山なれや見しより近き夕立のあと

くさもきも−ぬれていろこき−やまなれや−みしよりちかき−ゆふたちのあと


02610
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たつか弓いるよりはやく夕立のきの関こえて過くる山かせ

たつかゆみ−いるよりはやく−ゆふたちの−きのせきこえて−すくるやまかせ


02611
未入力 正徹 (xxx)

夕立は山のかせきか稲妻のまねけはいとととほさかり行く

ゆふたちは−やまのかせきか−いなつまの−まねけはいとと−とほさかりゆく


02612
未入力 正徹 (xxx)

早川を空になかして絶えにけり雲吹く風の夕たちの雨

はやかはを−そらになかして−たえにけり−くもふくかせの−ゆふたちのあめ


02613
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雲は猶空かた分けて夕立の日影さやけき西の山のは

くもはなほ−そらかたわけて−ゆふたちの−ひかけさやけき−にしのやまのは


02614
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おのつから空吹く風の朝清めちりものこらね夕立の雲

おのつから−そらふくかせの−あさきよめ−ちりものこらね−ゆふたちのくも


02615
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天つ人のこふか薄き雲消えて玉ゆかみかく夕立の風

あまつひと−のこふかうすき−くもきえて−たまゆかみかく−ゆふたちのかせ


02616
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神無月かくこそありしか夕立の雲も都の山めくりして

かみなつき−かくこそありしか−ゆふたちの−くももみやこの−やまめくりして


02617
未入力 正徹 (xxx)

袖も木も糸に玉ぬくささかにの雲田の村の夕立の跡

そてもきも−いとにたまぬく−ささかにの−くもたのむらの−ゆふたちのあと


02618
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なひくなり夕立きほふしほ風に雲もかさなる浦のはまゆふ

なひくなり−ゆふたちきほふ−しほかせに−くももかさなる−うらのはまゆふ


02619
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潮ふく鯨のいきと見えぬへし興にむらくたる夕立

うしほふく−くちらのいきと−みえぬへし−おきにひとむら−くたるゆふたち


02620
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湊風あら塩こえて川浪のくたれはのほる夕立のあと

みなとかせ−あらしほこえて−かはなみの−くたれはのほる−ゆふたちのあと


02621
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水かさます都のよもの夕立にまつしら川の波そ聞ゆる

みかさます−みやこのよもの−ゆふたちに−まつしらかはの−なみそきこゆる


02622
未入力 正徹 (xxx)

あつさ弓水かさ引きこすやまと川いるよりはやき夕立の波

あつさゆみ−みかさひきこす−やまとかは−いるよりはやき−ゆふたちのなみ


02623
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都人たか宿しらぬ門ことに夕立すくすほとのちきりも

みやこひと−たかやとしらぬ−かとことに−ゆふたちすくす−ほとのちきりも


02624
未入力 正徹 (xxx)

道のへや笠のかりてを結ふまに雲そ吹きとく夕立の風

みちのへや−かさのかりてを−むすふまに−くもそふきとく−ゆふたちのかせ


02625
未入力 正徹 (xxx)

軒せはみ人はかさなる夕立に憑むもぬるる道のへの庵

のきせはみ−ひとはかさなる−ゆふたちに−たのむもぬるる−みちのへのいほ


02626
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行きつかれさてたにあれと夕立のはるるをまたぬ道の中宿

ゆきつかれ−さてたにあれと−ゆふたちの−はるるをまたぬ−みちのなかやと


02627
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さととほき市のかり屋の出ゐにもくらせは暮す夕立の空

さととほき−いちのかりやの−いてゐにも−くらせはくらす−ゆふたちのそら


02628
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坂くたる木曽のあさ衣身をうてはいたむはかりに荒き夕立

さかくたる−きそのあさきぬ−みをうては−いたむはかりに−あらきゆふたち


02629
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跡先も遠き野原の人やとりかりねせよとや晴れぬ夕立

あとさきも−とほきのはらの−ひとやとり−かりねせよとや−はれぬゆふたち


02630
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山のはにかたふく程は夏の日のかけとほさかる夕立の空

やまのはに−かたふくほとは−なつのひの−かけとほさかる−ゆふたちのそら


02631
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天の川紅葉のはしか立つ虹のとほきわたりの夕立の空

あまのかは−もみちのはしか−たつにしの−とほきわたりの−ゆふたちのそら


02632
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衣ても風や涼しき夕立の雲のした行くをちの山人

ころもても−かせやすすしき−ゆふたちの−くものしたゆく−をちのやまひと


02633
未入力 正徹 (xxx)

旅人の袖しほりてや八百日行くはまち宿なきすゑの夕立

たひひとの−そてしほりてや−やほかゆく−はまちやとなき−すゑのゆふたち


02634
未入力 正徹 (xxx)

山もとの杜の一むら色きえてをちの日影になひく夕立

やまもとの−もりのひとむら−いろきえて−をちのひかけに−なひくゆふたち


02635
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山つたひ夕立うつる風さきに木の葉も鳥もふかれてそ行く

やまつたひ−ゆふたちうつる−かせさきに−このはもとりも−ふかれてそゆく


02636
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声きくは夕立涼し波たかみにこりてくたる川上の山

こゑきくは−ゆふたちすすし−なみたかみ−にこりてくたる−かはかみのやま


02637
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蓮さく池をしみれはにこる世も猶たのまるる花の露かな

はちすさく−いけをしみれは−にこるよも−なほたのまるる−はなのつゆかな


02638
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涼しとや引くは蓮の露ならてかり家つくる池のささかに

すすしとや−ひくははちすの−つゆならて−かりいへつくる−いけのささかに


02639
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かるの池の蓮の糸や初せめか手染にもれて花にほふらん

かるのいけの−はちすのいとや−はつせめか−てそめにもれて−はなにほふらむ


02640
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山もとや茂る林のまへの池に蓮も白き鷺そむれゐる

やまもとや−しけるはやしの−まへのいけに−はちすもしろき−さきそむれゐる


02641
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彼岸の池辺に見はや小車の輪にたとへとく花の蓮葉

かのきしの−いけへにみはや−をくるまの−わにたとへとく−はなのはちすは


02642
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くもりなく池の鏡をみかかなんたた水銀そ蓮はの露

くもりなく−いけのかかみを−みかかなむ−たたみつかねそ−はちすはのつゆ


02643
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葉も青く蓮の花のさかりにて燕飛ひかふ池の涼しさ

はもあをく−はちすのはなの−さかりにて−つはめとひかふ−いけのすすしさ


02644
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葉をしけみさくや蓮の花鳥も春にこえたる池のささ波

はをしけみ−さくやはちすの−はなとりも−はるにこえたる−いけのささなみ


02645
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花と実とは橘いつれ軒ちかく蓮葉かをる池の夕風

はなとみとは−たちはないつれ−のきちかく−はちすはかをる−いけのゆふかせ


02646
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音あらき池の蓮のまくりはに玉もたまらぬ夕立の露

おとあらき−いけのはちすの−まくりはに−たまもたまらぬ−ゆふたちのつゆ


02647
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これなくはなににたとへん花も実もおなし時しる池の蓮は

これなくは−なににたとへむ−はなもみも−おなしときしる−いけのはちすは


02648
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水清みさける蓮の花の露池のこころもにこるとはみす

みつきよみ−さけるはちすの−はなのつゆ−いけのこころも−にこるとはみす


02649
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ふる雨にちるやしら玉ひまもなくあつめてこほす池の蓮は

ふるあめに−ちるやしらたま−ひまもなく−あつめてこほす−いけのはちすは


02650
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すむ鳥もいかかねふらん風わたり雨打つ池のほちすはのこゑ

すむとりも−いかかねふらむ−かせわたり−あめうついけの−はちすはのこゑ


02651
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氷とそさなから見ゆる夕立の露をおとさぬ池の蓮葉

こほりとそ−さなからみゆる−ゆふたちの−つゆをおとさぬ−いけのはちすは


02652
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池水のにこりにしまぬ花の露むねの蓮の玉みかくなり

いけみつの−にこりにしまぬ−はなのつゆ−むねのはちすの−たまみかくなり


02653
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朝露のまろひあふまに白たへの玉のをなかくおつる蓮葉

あさつゆの−まろひあふまに−しろたへの−たまのをなかく−おつるはちすは


02654
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露むすふ池の蓮のまくりはの今朝ひらくるそ花にまされる

つゆむすふ−いけのはちすの−まくりはの−けさひらくるそ−はなにまされる


02655
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蛍ゐる蓮の上のしら露や色をかへたる玉みかくらん

ほたるゐる−はちすのうへの−しらつゆや−いろをかへたる−たまみかくらむ


02656
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池広きはすの立葉のうつり行く玉の林の露の下風

いけひろき−はすのたちはの−うつりゆく−たまのはやしの−つゆのしたかせ


02657
未入力 正徹 (xxx)

玉とのみ花にわきてや結ふらん籬も草のなてしこの露

たまとのみ−はなにわきてや−むすふらむ−まかきもくさの−なてしこのつゆ


02658
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しをれてそ籬にかかるおく露のしけきをいたむ撫子の花

しをれてそ−まかきにかかる−おくつゆの−しけきをいたむ−なてしこのはな


02659
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手折るなよまたいときなき黒髪をなつるにまさる撫子の花

たをるなよ−またいときなき−くろかみを−なつるにまさる−なてしこのはな


02660
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今朝の雲夕は雨となる山もおなしかたみのなてしこの露

けさのくも−ゆふへはあめと−なるやまも−おなしかたみの−なてしこのつゆ


02661
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一もとのゆかりやいつれ紫の竹のませゆふなてしこの花

ひともとの−ゆかりやいつれ−むらさきの−たけのませゆふ−なてしこのはな


02662
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草のかけたかなてしこの花のかほ見せはや思ひおく露のまに

くさのかけ−たかなてしこの−はなのかほ−みせはやおもひ−おくつゆのまに


02663
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行く水の哀をかくる人もなし大和にはあれと川原なてしこ

ゆくみつの−あはれをかくる−ひともなし−やまとにはあれと−かはらなてしこ


02664
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かからんと思ひおきてや露きえし色かしけたるなてしこの花

かからむと−おもひおきてや−つゆきえし−いろかしけたる−なてしこのはな


02665
未入力 正徹 (xxx)

今こそあれ秋の千草の花さかはうつりやはてんなてしこの花

いまこそあれ−あきのちくさの−はなさかは−うつりやはてむ−なてしこのはな


02666
未入力 正徹 (xxx)

あはれにも花のかさしをたらちねの仏もかくそなてしこの露

あはれにも−はなのかさしを−たらちねの−ほとけもかくそ−なてしこのつゆ


02667
未入力 正徹 (xxx)

神をとめふるきかさしの玉やおく山のうてなの撫子の露

かみをとめ−ふるきかさしの−たまやおく−やまのうてなの−なてしこのつゆ


02668
未入力 正徹 (xxx)

たてぬきもはかなきませにかかるさへ露いたはしき撫子の花

たてぬきも−はかなきませに−かかるさへ−つゆいたはしき−なてしこのはな


02669
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開もをし海士の磯屋に焼くしほのからなてしこの花の夕露

さくもをし−あまのいそやに−やくしほの−からなてしこの−はなのゆふつゆ


02670
未入力 正徹 (xxx)

しはしほせ夏野を遠み袖ぬれぬささ分けし朝の床夏の露

しはしほせ−なつのをとほみ−そてぬれぬ−ささわけしあさの−とこなつのつゆ


02671
未入力 正徹 (xxx)

まかきにも稀なる色そ天つ袖今や岩ほをなてしこの花

まかきにも−まれなるいろそ−あまつそて−いまやいはほを−なてしこのはな


02672
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらすたか形見そとかきこしにとははや庭のなてしこの花

そてぬらす−たかかたみそと−かきこしに−とははやにはの−なてしこのはな


02673
未入力 正徹 (xxx)

ふりのこれなへての花のかそいろもわきて哀む撫テの雨

ふりのこれ−なへてのはなの−かそいろも−わきてあはれむ−なてしこのあめ


02674
未入力 正徹 (xxx)

わきてみゆ一もと樗紫の色こき時の野なる草木に

わきてみゆ−ひともとあふち−むらさきの−いろこきときの−のなるくさきに


02675
未入力 正徹 (xxx)

紫の一もとあふちさく野への草はみなからみとりをそしく

むらさきの−ひともとあふち−さくのへの−くさはみなから−みとりをそしく


02676
未入力 正徹 (xxx)

ちり過きし外面の桐の花の色におも影近く開く樗かな

ちりすきし−そとものきりの−はなのいろに−おもかけちかく−さくあふちかな


02677
未入力 正徹 (xxx)

栴嶺といふ名はありて花樗二はもなとかかうはしくなき

せむたむと−いふなはありて−はなあふち−ふたはもなとか−かうはしくなき


02678
未入力 正徹 (xxx)

手折りてもいたくは人のめてさらむ木に花見えぬ比の樗を

たをりても−いたくはひとの−めてさらむ−きにはなみえぬ−ころのあふちを


02679
未入力 正徹 (xxx)

あふちちり雲そ消行く箸鷹のたか軒はうつ雨恨むらむ

あふちちり−くもそきえゆく−はしたかの−たかのきはうつ−あめうらむらむ


02680
未入力 正徹 (xxx)

樗ちる一むら雲のむらさきをくたきておとす野への春風

あふちちる−ひとむらくもの−むらさきを−くたきておとす−のへのはるかせ


02681
未入力 正徹 (xxx)

開く花の林をかさる樗かなあれにしさとに人はまたねと

さくはなの−はやしをかさる−あふちかな−あれにしさとに−ひとはまたねと


02682
未入力 正徹 (xxx)

夏草のしけみの花とかつ見えて野中の杜にちる樗かな

なつくさの−しけみのはなと−かつみえて−のなかのもりに−ちるあふちかな


02683
未入力 正徹 (xxx)

尋ねはや鶴の林に春きえし色なる雲にあふちなるらん

たつねはや−つるのはやしに−はるきえし−いろなるくもに−あふちなるらむ


02684
未入力 正徹 (xxx)

折りはてし林のわらひ紫のちりの行へにちるあふちかな

をりはてし−はやしのわらひ−むらさきの−ちりのゆくへに−ちるあふちかな


02685
未入力 正徹 (xxx)

紫の一もとあふちちらはをしさとはみなから匂ふ山風

むらさきの−ひともとあふち−ちらはをし−さとはみなから−にほふやまかせ


02686
未入力 正徹 (xxx)

むらさきのゆかりの色もかうはしき嶺の庵にあふち咲く比

むらさきの−ゆかりのいろも−かうはしき−みねのいほりに−あふちさくころ


02687
未入力 正徹 (xxx)

こととへよなにの花とかしら露の遠かた人の宿のゆふかほ

こととへよ−なにのはなとか−しらつゆの−をちかたひとの−やとのゆふかほ


02688
未入力 正徹 (xxx)

しつか屋のおやのかふこかしろたへにまゆひらけたる夕かほのはな

しつかやの−おやのかふこか−しろたへに−まゆひらけたる−ゆふかほのはな


02689
未入力 正徹 (xxx)

しつかやそ花にかたふく夕かほのなれるや重き軒はなるらん

しつかやそ−はなにかたふく−ゆふかほの−なれるやおもき−のきはなるらむ


02690
未入力 正徹 (xxx)

夕かほの花もちりうせぬ松のかき青葉ひまある山かつの宿

ゆふかほの−はなもちりうせぬ−まつのかき−あをはひまある−やまかつのやと


02691
未入力 正徹 (xxx)

里つつくみつのやいつこ夕かほの花の波よる淀の川きし

さとつつく−みつのやいつこ−ゆふかほの−はなのなみよる−よとのかはきし


02692
未入力 正徹 (xxx)

里つつく水の入江のおもたかもさく色しろき夕かほの花

さとつつく−みつのいりえの−おもたかも−さくいろしろき−ゆふかほのはな


02693
未入力 正徹 (xxx)

いつれかとあらそふ秋のしら露は扇におきつ夕かほの花

いつれかと−あらそふあきの−しらつゆは−あふきにおきつ−ゆふかほのはな


02694
未入力 正徹 (xxx)

秋かけてたのむ軒はもかたふきぬ古屋にさける夕貌の露

あきかけて−たのむのきはも−かたふきぬ−ふるやにさける−ゆふかほのつゆ


02695
未入力 正徹 (xxx)

一枝の花をそおける夕かほのかきほの月のしろき扇に

ひとえたの−はなをそおける−ゆふかほの−かきほのつきの−しろきあふきに


02696
未入力 正徹 (xxx)

さかぬまもかきねつつきの夕かほをみつのにかくる淀の川波

さかぬまも−かきねつつきの−ゆふかほを−みつのにかくる−よとのかはなみ


02697
未入力 正徹 (xxx)

咲きぬへき花はけぬへき雪にして夕かほおもき軒そかたふく

さきぬへき−はなはけぬへき−ゆきにして−ゆふかほおもき−のきそかたふく


02698
未入力 正徹 (xxx)

こかひしてえひらおくやの軒はとやまゆひらけたる花の夕貌

こかひして−えひらおくやの−のきはとや−まゆひらけたる−はなのゆふかほ


02699
未入力 正徹 (xxx)

山かつの庭にはかなきくひ垣もみやひかにさく夕かほの花

やまかつの−にはにはかなき−くひかきも−みやひかにさく−ゆふかほのはな


02700
未入力 正徹 (xxx)

しつかすむわら屋にかかる夕顔の実さへ花さへあくる軒かな

しつかすむ−わらやにかかる−ゆふかほの−みさへはなさへ−あくるのきかな


02701
未入力 正徹 (xxx)

暮れやらぬ日影にしほむ夕かほの葉風の花や露を待つらん

くれやらぬ−ひかけにしほむ−ゆふかほの−はかせのはなや−つゆをまつらむ


02702
未入力 正徹 (xxx)

しつか屋に糸くりはてし新桑の又まゆひらく夕かほの花

しつかやに−いとくりはてし−にひくはの−またまゆひらく−ゆふかほのはな


02703
未入力 正徹 (xxx)

さるかたに見そ捨てられぬ夕かほはしつか垣ほの花に咲くとも

さるかたに−みそすてられぬ−ゆふかほは−しつかかきほの−はなにさくとも


02704
未入力 正徹 (xxx)

かきこむるみつのの岸による淡のきえぬもさける夕顔の花

かきこむる−みつののきしに−よるあわの−きえぬもさける−ゆふかほのはな


02705
未入力 正徹 (xxx)

板まもる露さへ涼しあかねさすひかきにたゆる夕かほの花

いたまもる−つゆさへすすし−あかねさす−ひかきにたゆる−ゆふかほのはな


02706
未入力 正徹 (xxx)

夕貌の花のえたかき籬よりしろきあふきをいたす月影

ゆふかほの−はなのえたかき−まかきより−しろきあふきを−いたすつきかけ


02707
未入力 正徹 (xxx)

夕顔の花のかつらやあらてくむ賎か垣ほのねりそなるらん

ゆふかほの−はなのかつらや−あらてくむ−しつかかきほの−ねりそなるらむ


02708
未入力 正徹 (xxx)

枝もふす賎かぬる屋のわらふきにもたれてあまたなれる夕顔

えたもふす−しつかぬるやの−わらふきに−もたれてあまた−なれるゆふかほ


02709
未入力 正徹 (xxx)

はてしなき宮もかはらぬうき世とやわら屋にかかる夕顔の花

はてしなき−みやもかはらぬ−うきよとや−わらやにかかる−ゆふかほのはな


02710
未入力 正徹 (xxx)

思ひあらは空まてかよふ蛍をや雲の衣の袖につつまむ

おもひあらは−そらまてかよふ−ほたるをや−くものころもの−そてにつつまむ


02711
未入力 正徹 (xxx)

山たかみ見おろす谷の家家にともす光や蛍そふらん

やまたかみ−みおろすたにの−いへいへに−ともすひかりや−ほたるそふらむ


02712
未入力 正徹 (xxx)

たか方によるの蛍の思川もえ行く水の淡もけたすて

たかかたに−よるのほたるの−おもひかは−もえゆくみつの−あわもけたすて


02713
未入力 正徹 (xxx)

あつめおけ窓のほたるも九の枝の光そことのはの花

あつめおけ−まとのほたるも−ここのつの−えたのひかりそ−ことのはのはな


02714
未入力 正徹 (xxx)

とふ蛍光は雲の上なから秋風ふくとつけのをまくら

とふほたる−ひかりはくもの−うへなから−あきかせふくと−つけのをまくら


02715
未入力 正徹 (xxx)

山陰の草も朽木の杣川におのれもいてて行く蛍かな

やまかけの−くさもくちきの−そまかはに−おのれもいてて−ゆくほたるかな


02716
未入力 正徹 (xxx)

道辺やふりたてて行く松の火の遠きはやみの蛍なりけり

みちのへや−ふりたててゆく−まつのひの−とほきはやみの−ほたるなりけり


02717
未入力 正徹 (xxx)

ゐる蛍あまた梢のしけみよりこほれて匂ふ影そ散行く

ゐるほたる−あまたこすゑの−しけみより−こほれてにほふ−かけそちりゆく


02718
未入力 正徹 (xxx)

夏あさの糸にぬくとは見えなくに玉をつらねてくる蛍かな

なつあさの−いとにぬくとは−みえなくに−たまをつらねて−くるほたるかな


02719
未入力 正徹 (xxx)

蛍とふ山のしけみにすたきあひてちらぬ光や朽木なるらん

ほたるとふ−やまのしけみに−すたきあひて−ちらぬひかりや−くちきなるらむ


02720
未入力 正徹 (xxx)

雲ちかく蛍もたかく飛ふ鳥のあすか川風暮そ涼しき

くもちかく−ほたるもたかく−とふとりの−あすかかはかせ−くれそすすしき


02721
未入力 正徹 (xxx)

夜もすからもゆるほたるのこゑたては物うかる音を鳴きやあかさん

よもすから−もゆるほたるの−こゑたては−ものうかるねを−なきやあかさむ


02722
未入力 正徹 (xxx)

此世にてもゆる蛍はおもひ川うたかた誰にあはて消えけん

このよにて−もゆるほたるは−おもひかは−うたかたたれに−あはてきえけむ


02723
未入力 正徹 (xxx)

ほにいつる夏野を広み糸みたれ蛍の玉をぬくつ花かな

ほにいつる−なつのをひろみ−いとみたれ−ほたるのたまを−ぬくつはなかな


02724
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから思ひのなきに思ひありもえぬをもゆる蛍とそみる

よもすから−おもひのなきに−おもひあり−もえぬをもゆる−ほたるとそみる


02725
未入力 正徹 (xxx)

世をうらの玉よる磯の夕波も袖にくたけてちる蛍かな

よをうらの−たまよるいその−ゆふなみも−そてにくたけて−ちるほたるかな


02726
未入力 正徹 (xxx)

草わけてとらはけぬへくほの見えし露のもえつつとふ蛍かな

くさわけて−とらはけぬへく−ほのみえし−つゆのもえつつ−とふほたるかな


02727
未入力 正徹 (xxx)

いなり山うつみし玉やほたるとも見えてを杉の窓てらすらん

いなりやま−うつみしたまや−ほたるとも−みえてをすきの−まとてらすらむ


02728
未入力 正徹 (xxx)

夕やみはこれもゆけたの数しらすいよすの外にとふ蛍かな

ゆふやみは−これもゆけたの−かすしらす−いよすのほかに−とふほたるかな


02729
未入力 正徹 (xxx)

ともしけてこすのあみ糸たえたえに蛍そあらすくらき夜のやみ

ともしけて−こすのあみいと−たえたえに−ほたるそあらす−くらきよのやみ


02730
未入力 正徹 (xxx)

中たえしふるき簾のひまにきてかたみの水に入る蛍かな

なかたえし−ふるきすたれの−ひまにきて−かたみのみつに−いるほたるかな


02731
未入力 正徹 (xxx)

またすやは秋の星合の天の川もよほす波に行く蛍かな

またすやは−あきのほしあひの−あまのかは−もよほすなみに−ゆくほたるかな


02732
未入力 正徹 (xxx)

滝川や波もくたけて石の火の出てける物とちる蛍かな

たきかはや−なみもくたけて−いしのひの−いてけるものと−ちるほたるかな


02733
未入力 正徹 (xxx)

蛍さへ飛ふ火かくれはよるは見すはるる伊駒の西の川浪

ほたるさへ−とふひかくれは−よるはみす−はるるいこまの−にしのかはなみ


02734
未入力 正徹 (xxx)

水鳥の波のうきねもくらからす蛍玉ものとこのともし火

みつとりの−なみのうきねも−くらからす−ほたるたまもの−とこのともしひ


02735
未入力 正徹 (xxx)

これも猶かけたにあらはとふと見んかたみの水にゐる蛍かな

これもなほ−かけたにあらは−とふとみむ−かたみのみつに−ゐるほたるかな


02736
未入力 正徹 (xxx)

水の上にうきて此世をすくしけんあまの玉みる蛍とそみる

みつのうへに−うきてこのよを−すくしけむ−あまのたまみる−ほたるとそみる


02737
未入力 正徹 (xxx)

鳰鳥の下のおもひやあらはれん興中川にとふほたるかな

にほとりの−したのおもひや−あらはれむ−おきなかかはに−とふほたるかな


02738
未入力 正徹 (xxx)

行く蛍なかるる川をつくすとも猶身を海にもえやわたらん

ゆくほたる−なかるるかはを−つくすとも−なほみをうみに−もえやわたらむ


02739
未入力 正徹 (xxx)

とふ蛍神のよるへの水の上にきよき心の玉や見すらん

とふほたる−かみのよるへの−みつのうへに−きよきこころの−たまやみすらむ


02740
未入力 正徹 (xxx)

吉野川たきつ心も焼く火とや岩きりとほし蛍とふらん

よしのかは−たきつこころも−たくひとや−いはきりとほし−ほたるとふらむ


02741
未入力 正徹 (xxx)

よるもみゆ入江の里の芦かくれ蛍のともす光おほくて

よるもみゆ−いりえのさとの−あしかくれ−ほたるのともす−ひかりおほくて


02742
未入力 正徹 (xxx)

夕波のかくるもしらす芦辺よりなきたる興に行く蛍かな

ゆふなみの−かくるもしらす−あしへより−なきたるおきに−ゆくほたるかな


02743
未入力 正徹 (xxx)

ふかからて影なき程の夕暮はたた夏虫のとふ蛍かな

ふかからて−かけなきほとの−ゆふくれは−たたなつむしの−とふほたるかな


02744
未入力 正徹 (xxx)

夕暮の思ひか袖の蛍かも天つをとめの玉のかさしか

ゆふくれの−おもひかそての−ほたるかも−あまつをとめの−たまのかさしか


02745
未入力 正徹 (xxx)

しろたへの真砂の月の霜の夜を時そともなく飛ふ蛍かな

しろたへの−まさこのつきの−しものよを−ときそともなく−とふほたるかな


02746
未入力 正徹 (xxx)

波を行くいさり火遠き駅路による山すきてとふ蛍かな

なみをゆく−いさりひとほき−うまやちに−よるやますきて−とふほたるかな


02747
未入力 正徹 (xxx)

さのみ子を思ひし人のなき玉や蛍と成りてやみにもゆらん

さのみこを−おもひしひとの−なきたまや−ほたるとなりて−やみにもゆらむ


02748
未入力 正徹 (xxx)

まよふへき心のやみもしらすとやよるの蛍の身を照すらん

まよふへき−こころのやみも−しらすとや−よるのほたるの−みをてらすらむ


02749
未入力 正徹 (xxx)

いくさとの光をやみのうつつにて夢路さたかに蛍とふらん

いくさとの−ひかりをやみの−うつつにて−ゆめちさたかに−ほたるとふらむ


02750
未入力 正徹 (xxx)

いつよりかおのか心のやみ晴れて空くもる夜に蛍とふらん

いつよりか−おのかこころの−やみはれて−そらくもるよに−ほたるとふらむ


02751
未入力 正徹 (xxx)

雲風もとまらぬ物と夕立のふるにまかせて行く蛍かな

くもかせも−とまらぬものと−ゆふたちの−ふるにまかせて−ゆくほたるかな


02752
未入力 正徹 (xxx)

草かくれよるは蛍の焼く火ゆゑ野中のし水さそぬるむらん

くさかくれ−よるはほたるの−たくひゆゑ−のなかのしみつ−さそぬるむらむ


02753
未入力 正徹 (xxx)

わかさりき夏野の月のしら玉とみたるる露かゐる蛍かも

わかさりき−なつののつきの−しらたまと−みたるるつゆか−ゐるほたるかも


02754
未入力 正徹 (xxx)

春日野に妻もこもらぬ夏草をやくかと見えてとふ蛍かな

かすかのに−つまもこもらぬ−なつくさを−やくかとみえて−とふほたるかな


02755
未入力 正徹 (xxx)

ゐる蛍草のたもとにつつみてももゆるおもひをけたぬ露かな

ゐるほたる−くさのたもとに−つつみても−もゆるおもひを−けたぬつゆかな


02756
未入力 正徹 (xxx)

谷川にそこら蛍のすたくかな苔の埋木朽ちやはつらん

たにかはに−そこらほたるの−すたくかな−こけのうもれき−くちやはつらむ


02757
未入力 正徹 (xxx)

月清みいさり火そはぬ蛍さへ波にみちたるにほの水海

つききよみ−いさりひそはぬ−ほたるさへ−なみにみちたる−にほのみつうみ


02758
未入力 正徹 (xxx)

波くらき入江の芦にみかくれて有るかなきかの蛍火の影

なみくらき−いりえのあしに−みかくれて−あるかなきかの−ほたるひのかけ


02759
未入力 正徹 (xxx)

友君のむかしのよるの思ひとやみしま江口にほたるもゆらん

ともきみの−むかしのよるの−おもひとや−みしまえくちに−ほたるもゆらむ


02760
未入力 正徹 (xxx)

影とめん世をにこり江の水とみてさめたる松にゐる蛍かな

かけとめむ−よをにこりえの−みつとみて−さめたるまつに−ゐるほたるかな


02761
未入力 正徹 (xxx)

誰ここによるは蛍をたよりにて玉つくり江に玉みかくらん

たれここに−よるはほたるを−たよりにて−たまつくりえに−たまみかくらむ


02762
未入力 正徹 (xxx)

すたきゐる萍なからみさひ江にさそふ水あれは行く蛍かな

すたきゐる−うきくさなから−みさひえに−さそふみつあれは−ゆくほたるかな


02763
未入力 正徹 (xxx)

なかれ江の葉分の月も芦つつの影さへうすく行く蛍かな

なかれえの−はわけのつきも−あしつつの−かけさへうすく−ゆくほたるかな


02764
未入力 正徹 (xxx)

夏かりの汀の芦の末はれて蛍数そふみしま江のなみ

なつかりの−みきはのあしの−すゑはれて−ほたるかすそふ−みしまえのなみ


02765
未入力 正徹 (xxx)

鳴く音かるおもひにもえて木陰行く蝉の小川にとふ蛍かな

なくねかる−おもひにもえて−こかけゆく−せみのをかはに−とふほたるかな


02766
未入力 正徹 (xxx)

泉川衣かせ山つつめとも袖にあまるや蛍とふらん

いつみかは−ころもかせやま−つつめとも−そてにあまるや−ほたるとふらむ


02767
未入力 正徹 (xxx)

滝の上の御舟のかかり影落ちて吉野の川にとふ蛍かな

たきのうへの−みふねのかかり−かけおちて−よしののかはに−とふほたるかな


02768
未入力 正徹 (xxx)

夏川に子を思ふ鳰のゐる玉やうきすの芦に蛍みゆらん

なつかはに−こをおもふにほの−ゐるたまや−うきすのあしに−ほたるみゆらむ


02769
未入力 正徹 (xxx)

橋姫のかさしの玉と川波に蛍みたるるうちの山興

はしひめの−かさしのたまと−かはなみに−ほたるみたるる−うちのやまおく


02770
未入力 正徹 (xxx)

山人はたえぬる嶺のかけはしに夜わたる星と蛍とそ行く

やまひとは−たえぬるみねの−かけはしに−よわたるほしと−ほたるとそゆく


02771
未入力 正徹 (xxx)

いさりするあまの焼縄たく火とやとつなの橋に蛍もゆらん

いさりする−あまのたくなは−たくひとや−とつなのはしに−ほたるもゆらむ


02772
未入力 正徹 (xxx)

かつらきや夜の契やあらはれん蛍みたれてくめの岩はし

かつらきや−よるのちきりや−あらはれむ−ほたるみたれて−くめのいははし


02773
未入力 正徹 (xxx)

橋はしら朽ちて蛍となから江に猶中たえてとふ蛍かな

はしはしら−くちてほたると−なからえに−なほなかたえて−とふほたるかな


02774
未入力 正徹 (xxx)

みしか夜に今もなからの橋あらはわたりもはてぬ蛍をそみん

みしかよに−いまもなからの−はしあらは−わたりもはてぬ−ほたるをそみむ


02775
未入力 正徹 (xxx)

川淵にしつみし玉か蛍かもしらす夜わたるなから江のはし

かはふちに−しつみしたまか−ほたるかも−しらすよわたる−なからえのはし


02776
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから床にそもゆる里は荒れて住みけん人の袖の蛍は

よもすから−とこにそもゆる−さとはあれて−すみけむひとの−そてのほたるは


02777
未入力 正徹 (xxx)

我にますおもひやあると暮るるよの里をはかれすとふ蛍かな

われにます−おもひやあると−くるるよの−さとをはかれす−とふほたるかな


02778
未入力 正徹 (xxx)

とふ蛍かへなる草にきゐるなり光あつめぬ窓としらすや

とふほたる−かへなるくさに−きゐるなり−ひかりあつめぬ−まととしらすや


02779
未入力 正徹 (xxx)

身にそしる蛍もまとに入る月の影けつ程のやみの心を

みにそしる−ほたるもまとに−いるつきの−かけけつほとの−やみのこころを


02780
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川岸の蛍もあし火今夜たけ鵜舟のかかり影そすくなき

かはきしの−ほたるもあしひ−こよひたけ−うふねのかかり−かけそすくなき


02781
未入力 正徹 (xxx)

もしほやく影とそまかふ浦ちかくいつる夜川にもやす篝火

もしほやく−かけとそまかふ−うらちかく−いつるよかはに−もやすかかりひ


02782
未入力 正徹 (xxx)

ますら男か夜な夜な出つるうかひ火に夕やみしらぬうちの川波

ますらをか−よなよないつる−うかひひに−ゆふやみしらぬ−うちのかはなみ


02783
未入力 正徹 (xxx)

ますらをか鵜舟のかかりさしとくも綱手くるしき後の世のやみ

ますらをか−うふねのかかり−さしとくも−つなてくるしき−のちのよのやみ


02784
未入力 正徹 (xxx)

島つ鳥おのか手縄のくるしきもしらてや浪の下にくくらん

しまつとり−おのかたなはの−くるしきも−しらてやなみの−したにくくらむ


02785
未入力 正徹 (xxx)

広瀬川一せにかよふ鵜飼火の跡先くらき夕やみの空

ひろせかは−ひとせにかよふ−うかひひの−あとさきくらき−ゆふやみのそら


02786
未入力 正徹 (xxx)

神代にもかくやは秋津島つ鳥うきたる波に夜川立ちけん

かみよにも−かくやはあきつ−しまつとり−うきたるなみに−よかはたちけむ


02787
未入力 正徹 (xxx)

かかり火を鵜のゐる石に焼きすてて明くる夜川にかへる舟人

かかりひを−うのゐるいしに−たきすてて−あくるよかはに−かへるふなひと


02788
未入力 正徹 (xxx)

おり立ちてさわかす波にけたれけりかちうくるしき篝火の影

おりたちて−さわかすなみに−けたれけり−かちうくるしき−かかりひのかけ


02789
未入力 正徹 (xxx)

頼むらん鵜の入る魚も山川の底に岩戸の関はこえしと

たのむらむ−うのいるうをも−やまかはの−そこにいはとの−せきはこえしと


02790
未入力 正徹 (xxx)

夏川の水のけふりや鵜飼舟今朝まてたきし篝なるらん

なつかはの−みつのけふりや−うかひふね−けさまてたきし−かかりなるらむ


02791
未入力 正徹 (xxx)

川波に影そやすらふしまつ鳥うつせにかかる夜はの篝火

かはなみに−かけそやすらふ−しまつとり−うつせにかかる−よはのかかりひ


02792
未入力 正徹 (xxx)

友舟ののほれはくたるうかひ縄たかひにいとふ夜川立つらし

ともふねの−のほれはくたる−うかひなは−たかひにいとふ−よかはたつらし


02793
未入力 正徹 (xxx)

いとはすや闇をつはさの色にかる鵜舟あらはにかかりたく夜を

いとはすや−やみをつはさの−いろにかる−うふねあらはに−かかりたくよを


02794
未入力 正徹 (xxx)

はかなしと見てそ哀むつかふ鵜のわかくひはてぬ魚の命を

はかなしと−みてそあはれむ−つかふうの−わかくひはてぬ−うをのいのちを


02795
未入力 正徹 (xxx)

鳥の名も夜もうは玉の毛衣をあらふもくらき波に入るなり

とりのなも−よもうはたまの−けころもを−あらふもくらき−なみにいるなり


02796
未入力 正徹 (xxx)

とにかくに鵜舟のかかりさしとくも手縄くるしくむすふ川風

とにかくに−うふねのかかり−さしとくも−たなはくるしく−むすふかはかせ


02797
未入力 正徹 (xxx)

かつら大御調の小舟漕きつれて鵜飼の長のいつる夜の空

かつらかは−みつきのをふね−こきつれて−うかひのをさの−いつるよのそら


02798
未入力 正徹 (xxx)

鵜川なる水にも火にも飼ふ人のいらん所そあはれたたいま

うかはなる−みつにもひにも−かふひとの−いらむところそ−あはれたたいま


02799
未入力 正徹 (xxx)

川上のむらの蚊いとふ煙にも暮るる夜いそく瀬瀬のうかひ火

かはかみの−むらのかいとふ−けふりにも−くるるよいそく−せせのうかひひ


02800
未入力 正徹 (xxx)

かかり火に翅もほさて島つ鳥うきたる波をいく瀬行くらん

かかりひに−つはさもほさて−しまつとり−うきたるなみを−いくせゆくらむ


02801
未入力 正徹 (xxx)

鵜かひ舟かかり焼きすてし朝川やささぬも水の煙たつらん

うかひふね−かかりたきすてし−あさかはや−ささぬもみつの−けふりたつらむ


02802
未入力 正徹 (xxx)

ひまもなく波に入るなり島つ鳥うち松そへよくらき篝火

ひまもなく−なみにいるなり−しまつとり−うちまつそへよ−くらきかかりひ


02803
未入力 正徹 (xxx)

水底にめくるやいかに島つ鳥うたかたうかふ篝火のかけ

みなそこに−めくるやいかに−しまつとり−うたかたうかふ−かかりひのかけ


02804
未入力 正徹 (xxx)

川上にうつかと見ゆる石の火の出つるや鵜舟夕やみの空

かはかみに−うつかとみゆる−いしのひの−いつるやうふね−ゆふやみのそら


02805
未入力 正徹 (xxx)

松浦川う舟のかかりけちて見よ鏡の影のそこ照すかに

まつらかは−うふねのかかり−けちてみよ−かかみのかけの−そこてらすかに


02806
未入力 正徹 (xxx)

うかひ舟この瀬はかりと横雲に月をかくしてかかりさすなり

うかひふね−このせはかりと−よこくもに−つきをかくして−かかりさすなり


02807
未入力 正徹 (xxx)

河戸ゆく暁やみのうかひ火にわかれ路やおくるうちの橋姫

かはとゆく−あかつきやみの−うかひひに−わかれちやおくる−うちのはしひめ


02808
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横雲にかかりそ見ゆる川上のほしか鵜舟かくたる山のは

よこくもに−かかりそみゆる−かはかみの−ほしかうふねか−くたるやまのは


02809
未入力 正徹 (xxx)

舟人の袖にまちかき鵜飼火も深けて涼しき瀬瀬の川風

ふなひとの−そてにまちかき−うかひひも−ふけてすすしき−せせのかはかせ


02810
未入力 正徹 (xxx)

よひなから明くる川戸も出てやらて鵜舟のかかりともしけつなり

よひなから−あくるかはとも−いてやらて−うふねのかかり−ともしけつなり


02811
未入力 正徹 (xxx)

たか中にかよふおもひのもやとみん波によかれぬ鵜飼火のかけ

たかなかに−かよふおもひの−もやとみむ−なみによかれぬ−うかひひのかけ


02812
未入力 正徹 (xxx)

かかり火のならひてくたる影をみてよそに広瀬をしる夜川かな

かかりひの−ならひてくたる−かけをみて−よそにひろせを−しるよかはかな


02813
未入力 正徹 (xxx)

すゑせはみ広瀬にならふうかひ舟ひとりひとりそ又おちて行く

すゑせはみ−ひろせにならふ−うかひふね−ひとりひとりそ−またおちてゆく


02814
未入力 正徹 (xxx)

夜川立つ瀬ふしの魚も影をみて淵にかくるる水のかかり火

よかはたつ−せふしのうをも−かけをみて−ふちにかくるる−みつのかかりひ


02815
未入力 正徹 (xxx)

あらちをか川せの鵜舟かかりけつ山風ふけぬいもこふらしも

あらちをか−かはせのうふね−かかりけつ−やまかせふけぬ−いもこふらしも


02816
未入力 正徹 (xxx)

かかり火も二の鵜舟さしわかれめくりあふまに明くる川島

かかりひも−ふたつのうふね−さしわかれ−めくりあふまに−あくるかはしま


02817
未入力 正徹 (xxx)

めくるともむかしにはあらし橘のこしまににほふかかり火の影

めくるとも−むかしにはあらし−たちはなの−こしまににほふ−かかりひのかけ


02818
未入力 正徹 (xxx)

なく蝉のは山の夕日影見えてみとりも薄き木木の色かな

なくせみの−はやまのゆふひ−かけみえて−みとりもうすき−ききのいろかな


02819
未入力 正徹 (xxx)

うつりくる梢の鳥に驚きて杜の陰とふせみの一こゑ

うつりくる−こすゑのとりに−おとろきて−もりのかけとふ−せみのひとこゑ


02820
未入力 正徹 (xxx)

うき身をはしけきさ月の木の下にもぬけてなとか蝉の鳴くらん

うきみをは−しけきさつきの−このもとに−もぬけてなとか−せみのなくらむ


02821
未入力 正徹 (xxx)

身をかへてもぬけしからを前の世の我と知りてや蝉の鳴くらん

みをかへて−もぬけしからを−さきのよの−われとしりてや−せみのなくらむ


02822
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鳴きつくす蝉のこゑかな深山路やまた末遠き夏の日数を

なきつくす−せみのこゑかな−みやまちや−またすゑとほき−なつのひかすを


02823
未入力 正徹 (xxx)

鳴くこゑも日影にきえて蝉のはのうす雲かへるゆふ暮の山

なくこゑも−ひかけにきえて−せみのはの−うすくもかへる−ゆふくれのやま


02824
未入力 正徹 (xxx)

ふる雨の木下はらひ吹く風にきほひおくるる山のむら蝉

ふるあめの−このもとはらひ−ふくかせに−きほひおくるる−やまのむらせみ


02825
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五月山むなしき物ともぬけてしからを見つつや蝿の鳴くらん

さつきやま−むなしきものと−もぬけてし−からをみつつや−せみのなくらむ


02826
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ひとりまつ梢をたかみ鳴きそめて山めくりする蝉のもろこゑ

ひとりまつ−こすゑをたかみ−なきそめて−やまめくりする−せみのもろこゑ


02827
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滝の上の蝉の羽衣おりあましみたれにけらしおつる白糸

たきのうへの−せみのはころも−おりあまし−みたれにけらし−おつるしらいと


02828
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杣山や峰の嵐のこゑことに木の菜も蝉も宮木引くなり

そまやまや−みねのあらしの−こゑことに−このはもせみも−みやきひくなり


02829
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蝉のこゑおとろかせとも朝かしはぬるや川辺のさよのみしかさ

せみのこゑ−おとろかせとも−あさかしは−ぬるやかはへの−さよのみしかさ


02830
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いく度か太山の杜に鳴く蝉のしをる嵐に遠さかるらん

いくたひか−みやまのもりに−なくせみの−しをるあらしに−とほさかるらむ


02831
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杣人のきる木をよそに立つ蝉も鳴きておとろくをののこゑかな

そまひとの−きるきをよそに−たつせみも−なきておとろく−をののこゑかな


02832
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伊駒山雲の林になく蝉や見さりし春の花をこふらん

いこまやま−くものはやしに−なくせみや−みさりしはるの−はなをこふらむ


02833
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夕風に木ふかき杜のうつせみに又なきましる日くらしの声

ゆふかせに−こふかきもりの−うつせみに−またなきましる−ひくらしのこゑ


02834
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夏くるる日影をのこす杜のはも秋に色つく蝉そ鳴くなる

なつくるる−ひかけをのこす−もりのはも−あきにいろつく−せみそなくなる


02835
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衣手もあさ夕涼しなく蝉のは山につつく杜の下草

ころもても−あさゆふすすし−なくせみの−はやまにつつく−もりのしたくさ


02836
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山風も涼しく落ちて日くらしの鳴く音にゆつる杜の空蝉

やまかせも−すすしくおちて−ひくらしの−なくねにゆつる−もりのうつせみ


02837
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なかき日のうき田のみしめ杜のはもくるしくしける蝉のこゑかな

なかきひの−うきたのみしめ−もりのはも−くるしくしける−せみのこゑかな


02838
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まとりすむうつ蝉のはもほさしとや秋かけて鳴く杜の下露

まとりすむ−うつせみのはも−ほさしとや−あきかけてなく−もりのしたつゆ


02839
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鳴く蝉のこゑにゆるきの杜のはにふかても風の姿をそみる

なくせみの−こゑにゆるきの−もりのはに−ふかてもかせの−すかたをそみる


02840
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杜のはの雨をふくめる朝風に露よりもろき蝉の諸こゑ

もりのはの−あめをふくめる−あさかせに−つゆよりもろき−せみのもろこゑ


02841
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山もとの入日色こくたつ杉に蝉なきましる日くらしのこゑ

やまもとの−いりひいろこく−たつすきに−せみなきましる−ひくらしのこゑ


02842
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のこる日は木のますくなく影きえて空行く雲も村蝉のこゑ

のこるひは−このますくなく−かけきえて−そらゆくくもも−むらせみのこゑ


02843
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過きぬるか木の葉の陰の雨やとりいてて空とふ蝉の一こゑ

すきぬるか−このはのかけの−あまやとり−いててそらとふ−せみのひとこゑ


02844
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風わたる梢の露やかかるらん月におとろく蝉の一こゑ

かせわたる−こすゑのつゆや−かかるらむ−つきにおとろく−せみのひとこゑ


02845
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家家にふきしあやめの長きねを梢の蝉にのこす比かな

いへいへに−ふきしあやめの−なかきねを−こすゑのせみに−のこすころかな


02846
未入力 正徹 (xxx)

五月山名におふ雨のみたれよりしけき梢の蝉のもろこゑ

さつきやま−なにおふあめの−みたれより−しけきこすゑの−せみのもろこゑ


02847
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をちかたに鴨きたつ蝉の声過きて梢しつかにくるる夏かな

をちかたに−なきたつせみの−こゑすきて−こすゑしつかに−くるるなつかな


02848
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置きそへよ空蝉の世を鳴暮す木末の露そ秋に先たつ

おきそへよ−うつせみのよを−なきくらす−こすゑのつゆそ−あきにさきたつ


02849
未入力 正徹 (xxx)

川の瀬にうたふささ波露かけて木陰すすしき蝉のもろ声

かはのせに−うたふささなみ−つゆかけて−こかけすすしき−せみのもろこゑ


02850
未入力 正徹 (xxx)

せみの羽の此世にうすき契をやまちかき秋の音には鳴くらん

せみのはの−このよにうすき−ちきりをや−まちかきあきの−ねにはなくらむ


02851
未入力 正徹 (xxx)

秋近きこゑそさやけき蝉のはの色うす墨の夕暮の山

あきちかき−こゑそさやけき−せみのはの−いろうすすみの−ゆふくれのやま


02852
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こかしけん扇はしらす蚊遣火の煙そ見ゆる夕かほの宿

こかしけむ−あふきはしらす−かやりひの−けふりそみゆる−ゆふかほのやと


02853
未入力 正徹 (xxx)

焼きたつる煙のうへにくもる蚊は空に晴行く夕暮のやと

たきたつる−けふりのうへに−くもるかは−そらにはれゆく−ゆふくれのやと


02854
未入力 正徹 (xxx)

浦風も煙をはこふ蚊遣火に塩くむさとのあまやくるしき

うらかせも−けふりをはこふ−かやりひに−しほくむさとの−あまやくるしき


02855
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蚊遣たく道行ふりの煙さへ宿うらめしき袖のうつりか

かやりたく−みちゆきふりの−けふりさへ−やとうらめしき−そてのうつりか


02856
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すく藻たく煙もすみて深き夜に蚊の声かへるしつか家家

すくもたく−けふりもすみて−ふかきよに−かのこゑかへる−しつかいへいへ


02857
未入力 正徹 (xxx)

しはし先庭にかたよる蚊の声は煙にすめる夕暮の宿

しはしまつ−にはにかたよる−かのこゑは−けふりにすめる−ゆふくれのやと


02858
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たかぬよりおのれ煙とたつる蚊に夕暮くもる木隠の宿

たかぬより−おのれけふりと−たつるかに−ゆふくれくもる−こかくれのやと


02859
未入力 正徹 (xxx)

煙ゆゑさととよみつる蚊のこゑはすめるもくもる夕月夜かな

けふりゆゑ−さととよみつる−かのこゑは−すめるもくもる−ゆふつくよかな


02860
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山ふかく心かよふもふすへかね蚊をこそいとへ世をはいとはす

やまふかく−こころかよふも−ふすへかね−かをこそいとへ−よをはいとはす


02861
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木隠のむらの煙を吹きいたし蚊のこゑおくる野への夕風

こかくれの−むらのけふりを−ふきいたし−かのこゑおくる−のへのゆふかせ


02862
未入力 正徹 (xxx)

煙ゆゑ空にむら立のほる蚊に影うすくもる夕月夜かな

けふりゆゑ−そらにむらたち−のほるかに−かけうすくもる−ゆふつくよかな


02863
未入力 正徹 (xxx)

蚊遣火もたてぬ里にやたなひかん煙吹きやる宿の夕風

かやりひも−たてぬさとにや−たなひかむ−けふりふきやる−やとのゆふかせ


02864
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮杣木もしらぬ蚊柱をたつるはあるる夏の古郷

ゆふまくれ−そまきもしらぬ−かはしらを−たつるはあるる−なつのふるさと


02865
未入力 正徹 (xxx)

す戸おろす賎屋の軒の妻ことに煙をこめていとふかやり火

すとおろす−しつやののきの−つまことに−けふりをこめて−いとふかやりひ


02866
未入力 正徹 (xxx)

山もとの遠の柴屋の蚊柱やけふりの上に煙りたつらん

やまもとの−をちのしはやの−かはしらや−けふりのうへに−けふりたつらむ


02867
未入力 正徹 (xxx)

よる鹿の星かともしの光かも嶺たつ雲に明くる短か夜

よるしかの−ほしかともしの−ひかりかも−みねたつくもに−あくるみしかよ


02868
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの上毛の星はくらくとも照射によりて影ななかりそ

さをしかの−うはけのほしは−くらくとも−ともしによりて−かけななかりそ


02869
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さしこもるまふしの影も明けそ行くさつをの弓末みしか夜のそら

さしこもる−まふしのかけも−あけそゆく−さつをのゆすゑ−みしかよのそら


02870
未入力 正徹 (xxx)

夜はによるともしの鹿を哀とも知らてふすゐの夢な覚しそ

よはによる−ともしのしかを−あはれとも−しらてふすゐの−ゆめなさましそ


02871
未入力 正徹 (xxx)

のこるらんは山の照射もえつきてよらぬをしかの思ひはかりは

のこるらむ−はやまのともし−もえつきて−よらぬをしかの−おもひはかりは


02872
未入力 正徹 (xxx)

よる鹿はは山の陰にあらはれぬともしの松かねになかねとも

よるしかは−はやまのかけに−あらはれぬ−ともしのまつか−ねになかねとも


02873
未入力 正徹 (xxx)

猶たのめもゆるともしの松山に波こす鹿のおのか契を

なほたのめ−もゆるともしの−まつやまに−なみこすしかの−おのかちきりを


02874
未入力 正徹 (xxx)

木の間もる嶺の庵の蚊遣火をともしとみてや鹿のよるらん

このまもる−みねのいほりの−かやりひを−ともしとみてや−しかのよるらむ


02875
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夏山のほくしの鹿の身を捨ては秋のおもひや薪つきなん

なつやまの−ほくしのしかの−みをすては−あきのおもひや−たききつきなむ


02876
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立つ鹿の深山やつらき春たにも雪消えなくの松のほくしに

たつしかの−みやまやつらき−はるたにも−ゆききえなくの−まつのほくしに


02877
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たつ鹿の上毛の星かほたるかも夜のさつをの嶺にたく火か

たつしかの−うはけのほしか−ほたるかも−よるのさつをの−みねにたくひか


02878
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鹿は見てよるやほくしをさしも草もゆるいふきの嶺の夕やみ

しかはみて−よるやほくしを−さしもくさ−もゆるいふきの−みねのゆふやみ


02879
未入力 正徹 (xxx)

鹿は毛もぬれて夏野の草にふせほさし木陰はほくしもゆとも

しかはけも−ぬれてなつのの−くさにふせ−ほさしこかけは−ほくしもゆとも


02880
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横雲にはや引きかくせともしたつは山か峰に鹿そよるなる

よこくもに−はやひきかくせ−ともしたつ−はやまかみねに−しかそよるなる


02881
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暁のわかれはしかもつらしとやもゆるともしに身をは捨つらん

あかつきの−わかれはしかも−つらしとや−もゆるともしに−みをはすつらむ


02882
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明けぬるかのほる煙もみしか夜の嶺のともしのまつとせしまに

あけぬるか−のほるけふりも−みしかよの−みねのともしの−まつとせしまに


02883
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山に入る月ありとてもたとへめや雨くらき夜の閨のかはほり

やまにいる−つきありとても−たとへめや−あめくらきよの−ねやのかはほり


02884
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夕顔の花のゆくへそおもひちるやとれる露もしろき扇に

ゆふかほの−はなのゆくへそ−おもひちる−やとれるつゆも−しろきあふきに


02885
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まよひける道をおもへは動かさて扇に風を尋ねこしかな

まよひける−みちをおもへは−うこかさて−あふきにかせを−たつねこしかな


02886
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月しろき扇の色に夏過きは嶺の紅葉やつまをこかさん

つきしろき−あふきのいろに−なつすきは−みねのもみちや−つまをこかさむ


02887
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人とははかさなる山にかくるとも扇にかける月やこたへん

ひととはは−かさなるやまに−かくるとも−あふきにかける−つきやこたへむ


02888
未入力 正徹 (xxx)

木の間より影もる宿のあつき日にかさす扇につまこかすらん

このまより−かけもるやとの−あつきひに−かさすあふきに−つまこかすらむ


02889
未入力 正徹 (xxx)

たれかしる手を動かせはおのつから扇の風のいつる所を

たれかしる−てをうこかせは−おのつから−あふきのかせの−いつるところを


02890
未入力 正徹 (xxx)

夏衣そら吹く風にまかせてや日影にかさすあふきなるらん

なつころも−そらふくかせに−まかせてや−ひかけにかさす−あふきなるらむ


02891
未入力 正徹 (xxx)

秋を引く手にはならさす涼しさを月の扇の風にまかせて

あきをひく−てにはならさす−すすしさを−つきのあふきの−かせにまかせて


02892
未入力 正徹 (xxx)

秋の閨のあふきの風をいたみ月よりけなる床の露かな

あかつきの−ねやのあふきの−かせをいたみ−つきよりけなる−とこのつゆかな


02893
未入力 正徹 (xxx)

宿ふりてくらき閨とふかはほりを又手にならす風もうるさし

やとふりて−くらきねやとふ−かはほりを−またてにならす−かせもうるさし


02894
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壁に生ふる草をおもへは閨の中の扇に風の種はありけり

かへにおふる−くさをおもへは−ねやのうちの−あふきにかせの−たねはありけり


02895
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身にそへはあふきも閨にかれそ行くたか秋風のはしした・ふらん

みにそへは−あふきもねやに−かれそゆく−たかあきかせの−はししたふらむ


02896
未入力 正徹 (xxx)

たとふらん閨もる月を手にならす風やかへりて空に涼しき

たとふらむ−ねやもるつきを−てにならす−かせやかへりて−そらにすすしき


02897
未入力 正徹 (xxx)

閨のうちのしろき扇やこかすらんすたく蛍のもゆるおもひに

ねやのうちの−しろきあふきや−こかすらむ−すたくほたるの−もゆるおもひに


02898
未入力 正徹 (xxx)

手ならせは閨の小莚ちりもなし扇や人のちきりなるらん

てならせは−ねやのさむしろ−ちりもなし−あふきやひとの−ちきりなるらむ


02899
未入力 正徹 (xxx)

あれわたる閨の扇の色にもる月をかくすな夜はの村雲

あれわたる−ねやのあふきの−いろにもる−つきをかくすな−よはのむらくも


02900
未入力 正徹 (xxx)

もる月もしろき扇は夏のよの閨にも雪をあつめてそみる

もるつきも−しろきあふきは−なつのよの−ねやにもゆきを−あつめてそみる


02901
未入力 正徹 (xxx)

山のはにまたさし出てぬ日扇も風ぬるからぬ閨の朝露

やまのはに−またさしいてぬ−ひあふきも−かせぬるからぬ−ねやのあさつゆ


02902
未入力 正徹 (xxx)

てにならす外にそいとふかほほりの荒れたる閨にさわく羽風は

てにならす−ほかにそいとふ−かほほりの−あれたるねやに−さわくはかせは


02903
未入力 正徹 (xxx)

六月も秋たつ風はぬるからし閨の扇を手にやまかせん

みなつきも−あきたつかせは−ぬるからし−ねやのあふきを−てにやまかせむ


02904
未入力 正徹 (xxx)

身にならす閨の扇に結ふ糸のひかれぬ秋の風ぬるくして

みにならす−ねやのあふきに−むすふいとの−ひかれぬあきの−かせぬるくして


02905
未入力 正徹 (xxx)

かはほりの風よき閨にもる月の影も扇の色そ涼しき

かはほりの−かせよきねやに−もるつきの−かけもあふきの−いろそすすしき


02906
未入力 正徹 (xxx)

いてしまの月のゆかりか紫の扇を雲のね屋の一むら

いてしまの−つきのゆかりか−むらさきの−あふきをくもの−ねやのひとむら


02907
未入力 正徹 (xxx)

手にむすふ岩まのし水ちる玉にかつかついそく秋の白露

てにむすふ−いはまのしみつ−ちるたまに−かつかついそく−あきのしらつゆ


02908
未入力 正徹 (xxx)

岩枕し水に秋をよせ来なりむすふたもとのしたのささ波

いはまくら−しみつにあきを−よせきなり−むすふたもとの−したのささなみ


02909
未入力 正徹 (xxx)

うら風も吹飯の波に幾夜ねぬ閨の泉を庭にたたへて

うらかせも−ふけひのなみに−いくよねぬ−ねやのいつみを−にはにたたへて


02910
未入力 正徹 (xxx)

岩まもる水の心にあひの風ふくや夏なき松のこゑかな

いはまもる−みつのこころに−あひのかせ−ふくやなつなき−まつのこゑかな


02911
未入力 正徹 (xxx)

むすふまは夏こそよそに忘水わすれさりけり冬の氷は

むすふまは−なつこそよそに−わすれみつ−わすれさりけり−ふゆのこほりは


02912
未入力 正徹 (xxx)

とへかしなし水の上のかりやかたかりそめならぬ夏のふるさと

とへかしな−しみつのうへの−かりやかた−かりそめならぬ−なつのふるさと


02913
未入力 正徹 (xxx)

みな月や山のし水の音かきに春のとなりの秋風のこゑ

みなつきや−やまのしみつの−いはかきに−はるのとなりの−あきかせのこゑ


02914
未入力 正徹 (xxx)

岩かくれ波こす山の滝のもとよりこぬ夏をはらふしら玉

いはかくれ−なみこすやまの−たきのもと−よりこぬなつを−はらふしらたま


02915
未入力 正徹 (xxx)

滝をたて嵐をぬきの苔衣なつる岩ほもぬれて涼しき

たきをたて−あらしをぬきの−こけころも−なつるいはほも−ぬれてすすしき


02916
未入力 正徹 (xxx)

暮るるまてあかす泉にむかふ日は思ひわすれぬ埋火のもと

くるるまて−あかすいつみに−むかふひは−おもひわすれぬ−うつみひのもと


02917
未入力 正徹 (xxx)

夏そなき玉ちる滝の岩波に日かすしくるる松の下風

なつそなき−たまちるたきの−いはなみに−ひかすしくるる−まつのしたかせ


02918
未入力 正徹 (xxx)

都まて涼しかれとやかよふらんうたの氷室にくるる山風

みやこまて−すすしかれとや−かよふらむ−うたのひむろに−くるるやまかせ


02919
未入力 正徹 (xxx)

山陰やうたの氷室のうたかたも夏なき水の上そ涼しき

やまかけや−うたのひむろの−うたかたも−なつなきみつの−うへそすすしき


02920
未入力 正徹 (xxx)

夏とたにいさしら波も川風にさゆる氷室のつもる雪かな

なつとたに−いさしらなみも−かはかせに−さゆるひむろの−つもるゆきかな


02921
未入力 正徹 (xxx)

六月の夜半に涼しき所とや氷室戸たたく水鶏なるらん

みなつきの−よはにすすしき−ところとや−ひむろとたたく−くひななるらむ


02922
未入力 正徹 (xxx)

山風のたたくも涼し松の陰氷のこもる室の戸口は

やまかせの−たたくもすすし−まつのかけ−こほりのこもる−むろのとくちは


02923
未入力 正徹 (xxx)

松か崎いそく都のつとにおきて氷をはこふ氷室守かな

まつかさき−いそくみやこの−つとにおきて−こほりをはこふ−ひむろもりかな


02924
未入力 正徹 (xxx)

氷室山たかつの宮のさためしや消えぬ氷のはしめなりけん

ひむろやま−たかつのみやの−さためしや−きえぬこほりの−はしめなりけむ


02925
未入力 正徹 (xxx)

松か崎これも都の草つとに氷をつつむ夏の山人

まつかさき−これもみやこの−くさつとに−こほりをつつむ−なつのやまひと


02926
未入力 正徹 (xxx)

よもあけし冬のこもれる氷室戸を照る日の夏の風なたたきそ

よもあけし−ふゆのこもれる−ひむろとを−てるひのなつの−かせなたたきそ


02927
未入力 正徹 (xxx)

夏は又せき入れておとす氷室川氷や波の下をとつらん

なつはまた−せきいれておとす−ひむろかは−こほりやなみの−したをとつらむ


02928
未入力 正徹 (xxx)

夏の日の影を都のつとにおきていそく氷のしつくにそしる

なつのひの−かけをみやこの−つとにおきて−いそくこほりの−しつくにそしる


02929
未入力 正徹 (xxx)

山岸のしつくの露か氷室風さえぬ時なくこほるした柴

やまきしの−しつくのつゆか−ひむろかせ−さえぬときなく−こほるしたしは


02930
未入力 正徹 (xxx)

さすか猶此世をうたの氷室守夏なき山に心とむらん

さすかなほ−このよをうたの−ひむろもり−なつなきやまに−こころとむらむ


02931
未入力 正徹 (xxx)

夕波そ夏の冬なる氷室山せき入れし川や下こほるらん

ゆふなみそ−なつのふゆなる−ひむろやま−せきいれしかはや−したこほるらむ


02932
未入力 正徹 (xxx)

風さむき氷室のかけの山人はいててやよそに夏をしるらん

かせさむき−ひむろのかけの−やまひとは−いててやよそに−なつをしるらむ


02933
未入力 正徹 (xxx)

氷室山いたすこほりのしつくかも露ふく野への風そ涼しき

ひむろやま−いたすこほりの−しつくかも−つゆふくのへの−かせそすすしき


02934
未入力 正徹 (xxx)

みな月の川波さえて氷室山しをる立木そちらぬ木からし

みなつきの−かはなみさえて−ひむろやま−しをるたちきそ−ちらぬこからし


02935
未入力 正徹 (xxx)

木の間もる朝日に出たす氷室守やかてしつくや袖に涼しき

このまもる−あさひにいたす−ひむろもり−やかてしつくや−そてにすすしき


02936
未入力 正徹 (xxx)

氷室戸にせきいるる水の朝氷さゆるや冬のふもとなるらん

ひむろとに−せきいるるみつの−あさこほり−さゆるやふゆの−ふもとなるらむ


02937
未入力 正徹 (xxx)

あさのまは都のつとに袖ぬれぬ氷や夏の思ひなるらん

あさのまは−みやこのつとに−そてぬれぬ−こほりやなつの−おもひなるらむ


02938
未入力 正徹 (xxx)

室いたす朝けのまにもかつとけてひ水になりぬ六月の空

むろいたす−あさけのまにも−かつとけて−ひみつになりぬ−みなつきのそら


02939
未入力 正徹 (xxx)

松か崎都のつとのしつくかも朝露こほるみちの夏草

まつかさき−みやこのつとの−しつくかも−あさつゆこほる−みちのなつくさ


02940
未入力 正徹 (xxx)

松か崎氷室あさ吹く北風にいはひてむかふ駒や涼しき

まつかさき−ひむろあさふく−きたかせに−いはひてむかふ−こまやすすしき


02941
未入力 正徹 (xxx)

みな月の氷をいたす衣手に吹くやあさけの山の木からし

みなつきの−こほりをいたす−ころもてに−ふくやあさけの−やまのこからし


02942
未入力 正徹 (xxx)

いつの世に岩ほに生ふる松か崎雪もこほりの種となりけん

いつのよに−いはほにおふる−まつかさき−ゆきもこほりの−たねとなりけむ


02943
未入力 正徹 (xxx)

松か崎さゆる氷室の川風にをのの山田も水そ涼しき

まつかさき−さゆるひむろの−かはかせに−をののやまたも−みつそすすしき


02944
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらし守る身やうたの氷室川こん世涼しき瀬をも思はて

そてぬらし−もるみやうたの−ひむろかは−こむよすすしき−せをもおもはて


02945
未入力 正徹 (xxx)

島つ鳥うた山川にむれそゐる氷室涼しき槙のした陰

しまつとり−うたやまかはに−むれそゐる−ひむろすすしき−まきのしたかけ


02946
未入力 正徹 (xxx)

六月の東路涼し氷室にもをさめぬ雪のふしの根颪

みなつきの−あつまちすすし−ひむろにも−をさめぬゆきの−ふしのねおろし


02947
未入力 正徹 (xxx)

氷室戸はあけおくものをつけの野にうけらか花そ開く世もなき

ひむろとは−あけおくものを−つけののに−うけらかはなそ−ひらくよもなき


02948
未入力 正徹 (xxx)

日数さへつもる岩井にすむ水の底の心もしらぬ夏かな

ひかすさへ−つもるいはゐに−すむみつの−そこのこころも−しらぬなつかな


02949
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夏の日も消えてそ結ふ風そよくならの陰もる水のうたかた

なつのひも−きえてそむすふ−かせそよく−ならのかけもる−みつのうたかた


02950
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露かかる蝉のは袖の朝しめりほすかぬらすか柞の下風

つゆかかる−せみのはそての−あさしめり−ほすかぬらすか−ならのしたかせ


02951
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下陰の岩かきし水苔莚ほかゆく夏をしき忍ふとて

したかけの−いはかきしみつ−こけむしろ−ほかゆくなつを−しきしのふとて


02952
未入力 正徹 (xxx)

涼しさは波の玉ちるみな月の真砂に秋やとつの浜風

すすしさは−なみのたまちる−みなつきの−まさこにあきや−とつのはまかせ


02953
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山おろし谷の川かせ吹きのほり簾にとほる暮そ涼しき

やまおろし−たにのかはかせ−ふきのほり−すたれにとほる−くれそすすしき


02954
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もり出つる音そ涼しき岩枕し水を袖のうちにまかせて

もりいつる−おとそすすしき−いはまくら−しみつをそての−うちにまかせて


02955
未入力 正徹 (xxx)

みな月の夕暮かけてもろこしの風なき山も水や涼しき

みなつきの−ゆふくれかけて−もろこしの−かせなきやまも−みつやすすしき


02956
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立ちよらん木陰まれなる都にもし水はありて汲むそ涼しき

たちよらむ−こかけまれなる−みやこにも−しみつはありて−くむそすすしき


02957
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むすふまの手にまく水の玉ゆらも消えて夏なき山のいさら井

むすふまの−てにまくみつの−たまゆらも−きえてなつなき−やまのいさらゐ


02958
未入力 正徹 (xxx)

夏衣身につく程の朝しめりほすなよしはし木木の下風

なつころも−みにつくほとの−あさしめり−ほすなよしはし−ききのしたかせ


02959
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涼しさほと山の谷の水のこゑ秋にまさ木をしをる松風

すすしさは−とやまのたにの−みつのこゑ−あきにまさきを−しをるまつかせ


02960
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池すすし広葉柏に風ためてし水かきやる山の岩かけ

いけすすし−ひろはかしはに−かせためて−しみつかきやる−やまのいはかけ


02961
未入力 正徹 (xxx)

山隠岩ほそはたつ松かねの枕椋しきそてのした水

やまかくれ−いはほそはたつ−まつかねの−まくらすすしき−そてのしたみつ


02962
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秋もこす夏ともいかか岩ね松苔もみとりのあらし吹くかけ

あきもこす−なつともいかか−いはねまつ−こけもみとりの−あらしふくかけ


02963
未入力 正徹 (xxx)

山陰の水と風とになかれくる秋の日数や夏をこゆらん

やまかけの−みつとかせとに−なかれくる−あきのひかすや−なつをこゆらむ


02964
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くるる夜は夢にかへらん宿もうしすすむ木陰の秋風にして

くるるよは−ゆめにかへらむ−やともうし−すすむこかけの−あきかせにして


02965
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滝のもとよりゐる岩は水よりも身にとほるまてさゆる夏かな

たきのもと−よりゐるいはは−みつよりも−みにとほるまて−さゆるなつかな


02966
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いとまなみ玉藻かるをの夏衣涼しくかをるなたの塩風

いとまなみ−たまもかるをの−なつころも−すすしくかをる−なたのしほかせ


02967
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静なる心にすめは身は涼し光にやとれ夏のよの月

しつかなる−こころにすめは−みはすすし−ひかりにやとれ−なつのよのつき


02968
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日の影ももらぬ深山の真砂川あさきなかれの風そ涼しき

ひのかけも−もらぬみやまの−まさこかは−あさきなかれの−かせそすすしき


02969
未入力 正徹 (xxx)

そなれ松水なき陰も涼しきはしける草葉を結ふ山風

そなれまつ−みつなきかけも−すすしきは−しけるくさはを−むすふやまかせ


02970
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深山木の色かけ涼し苔莚しきみにかをる露の朝風

みやまきの−いろかけすすし−こけむしろ−しきみにかをる−つゆのあさかせ


02971
未入力 正徹 (xxx)

夕風も杉のふもとの三輪川にすすむともなくかへる市人

ゆふかせも−すきのふもとの−みわかはに−すすむともなく−かへるいちひと


02972
未入力 正徹 (xxx)

嵐をも露をもうけて夏衣袖に涼しき松のした陰

あらしをも−つゆをもうけて−なつころも−そてにすすしき−まつのしたかけ


02973
未入力 正徹 (xxx)

いつかたかわきて涼しき風かよふもやも下屋もおなし木の本

いつかたか−わきてすすしき−かせかよふ−もやもしもやも−おなしこのもと


02974
未入力 正徹 (xxx)

下荻のはや吹きこゆる夕風をうけて涼しき木のもとの宿

したをきの−はやふきこゆる−ゆふかせを−うけてすすしき−このもとのやと


02975
未入力 正徹 (xxx)

衣手にあさ露おつる松の陰立ちさる夏を送る山かせ

ころもてに−あさつゆおつる−まつのかけ−たちさるなつを−おくるやまかせ


02976
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涼しさは雨か露かと袖しめるしけ木の中のかせのした道

すすしさは−あめかつゆかと−そてしめる−しけきのうちの−かせのしたみち


02977
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岡辺の夕かけ草の露の上に夏なき秋のかよふ松風

をかへのゆ−ふかけくさのつ−ゆのうへに−なつなきあきの−かよふまつかせ


02978
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奥山の雲の夕波滝の糸風こそむすへ夏はよりこす

おくやまの−くものゆふなみ−たきのいと−かせこそむすへ−なつはよりこす


02979
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氷れるか夏も深井のつるへ縄くりあくる水におつるしら玉

こほれるか−なつもふかゐの−つるへなは−くりあくるみつに−おつるしらたま


02980
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夕波に夏もやいなの湊風秋をよせくる興つ舟人

ゆふなみに−なつもやいなの−みなとかせ−あきをよせくる−おきつふなひと


02981
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清滝やいつくを夏と岩波もはやく身にしむ袖の川風

きよたきや−いつくをなつと−いはなみも−はやくみにしむ−そてのかはかせ


02982
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夕波に夏の日数はなかれつきぬ秋風うかふ天の川上

ゆふなみに−なつのひかすは−なかれつきぬ−あきかせうかふ−あまのかはかみ


02983
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うたかたそ消えて涼しきふしの根も雪六月の中川の水

うたかたそ−きえてすすしき−ふしのねも−ゆきみなつきの−なかかはのみつ


02984
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鳰の海や袖こす波にこきむかふ舟人涼し興つ島風

にほのうみや−そてこすなみに−こきむかふ−ふなひとすすし−おきつしまかせ


02985
未入力 正徹 (xxx)

涼しさそ風にもまさる太山陰木の下はらふ滝のしら波

すすしさそ−かせにもまさる−みやまかけ−このもとはらふ−たきのしらなみ


02986
未入力 正徹 (xxx)

たえす立つ煙の色も涼しきや水の心を川しまの松

たえすたつ−けふりのいろも−すすしきや−みつのこころを−かはしまのまつ


02987
未入力 正徹 (xxx)

太山路の松の奥よりなかれ出つるいさら小川も夏のためとや

みやまちの−まつのおくより−なかれいつる−いさらをかはも−なつのためとや


02988
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結ふ手のしつくにそそく松かねの苔も色こき夏の山の井

むすふての−しつくにそそく−まつかねの−こけもいろこき−なつのやまのゐ


02989
未入力 正徹 (xxx)

松か枝の葉かけ涼しき萍はさそふ水あれといなんともせす

まつかえの−はかけすすしき−うきくさは−さそふみつあれと−いなむともせす


02990
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松たてる山あひの水は藍よりも色こき夏にそむ心かな

まつたてる−やまあひのみつは−あゐよりも−いろこきなつに−そむこころかな


02991
未入力 正徹 (xxx)

夏かりの藍より出てぬ松陰の岩まの水もみとり染めつつ

なつかりの−あゐよりいてぬ−まつかけの−いはまのみつも−みとりそめつつ


02992
未入力 正徹 (xxx)

六月ややとる日影も山水の春のままなる松風のおく

みなつきや−やとるひかけも−やまみつの−はるのままなる−まつかせのおく


02993
未入力 正徹 (xxx)

山松のしつえうこかしうつ風に小波かたよる池の涼しさ

やままつの−しつえうこかし−うつかせに−さなみかたよる−いけのすすしさ


02994
未入力 正徹 (xxx)

蓬生やみそきにちかき茅原風夕つけて吹く川辺涼しも

よもきふや−みそきにちかき−ちはらかせ−ゆふつけてふく−かはへすすしも


02995
未入力 正徹 (xxx)

六月の雲のはたてにみたれきてあさの衣に秋風そ吹く

みなつきの−くものはたてに−みたれきて−あさのころもに−あきかせそふく


02996
未入力 正徹 (xxx)

水無月のゆふつけ行くも秋にして心露けき荻の下風

みなつきの−ゆふつけゆくも−あきにして−こころつゆけき−をきのしたかせ


02997
未入力 正徹 (xxx)

夏ならぬこゑこそましれ秋やきて先やとり木になるる松風

なつならぬ−こゑこそましれ−あきやきて−まつやとりきに−なるるまつかせ


02998
未入力 正徹 (xxx)

涼しさは松の落葉のちりもゐす木下はらふ滝つ川風

すすしさは−まつのおちはの−ちりもゐす−このもとはらふ−たきつかはかせ


02999
未入力 正徹 (xxx)

玉鉾の道行ふりも涼しきは山川はやき杉の本立

たまほこの−みちゆきふりも−すすしきは−やまかははやき−すきのもとたち


03000
未入力 正徹 (xxx)

茂りたつ木の本とほき山水のなかれのおくは秋風そ吹く

しけりたつ−このもととほき−やまみつの−なかれのおくは−あきかせそふく


03001
未入力 正徹 (xxx)

百草のたもとも夏はせはからて広葉の柞の木木の下風

ももくさの−たもともなつは−せはからて−ひろはのならの−ききのしたかせ


03002
未入力 正徹 (xxx)

夏きてそ世をすて人もあひに合ふ木下石の上のすまひ

なつきてそ−よをすてひとも−あひにあふ−きのしたいしの−うへのすまひは


03003
未入力 正徹 (xxx)

袖ふれて心秋なりみな月のゆふつけて行く水と風とに

そてふれて−こころあきなり−みなつきの−ゆふつけてゆく−みつとかせとに


03004
未入力 正徹 (xxx)

松の陰すすめとなれるゆふへかな風と水とのこころくらへに

まつのかけ−すすめとなれる−ゆふへかな−かせとみつとの−こころくらへに


03005
未入力 正徹 (xxx)

岩かねの水も草なし秋の風かくれてやとる谷の松陰

いはかねの−みつもくさなし−あきのかせ−かくれてやとる−たにのまつかけ


03006
未入力 正徹 (xxx)

夕立は玉みる露とみたれきぬ末野の草の袖の追風

ゆふたちは−たまみるつゆと−みたれきぬ−すゑののくさの−そてのおひかせ


03007
未入力 正徹 (xxx)

みな月のてる日もしらぬ太山風滝の岩屋に秋やこもれる

みなつきの−てるひもしらぬ−みやまかせ−たきのいはやに−あきやこもれる


03008
未入力 正徹 (xxx)

秋やくる二のほしもいててきけみそきする夜の天川風

あきやくる−ふたつのほしも−いててきけ−みそきするよの−あまのかはかせ


03009
未入力 正徹 (xxx)

六月の御祓にちかき山川の瀬のなる声やうたふささ波

みなつきの−みそきにちかき−やまかはの−せのなるこゑや−うたふささなみ


03010
未入力 正徹 (xxx)

うらむらんかきほのま葛夏なから秋に吹く風の心かはりを

うらむらむ−かきほのまくす−なつなから−あきにふくかせの−こころかはりを


03011
未入力 正徹 (xxx)

夏の空にのこる有明もおもふらん今いくか有りて秋のよの月

なつのそらに−のこるありあけも−おもふらむ−いまいくかありて−あきのよのつき


03012
未入力 正徹 (xxx)

夕暮は庭の蓬か杣山にたつ蚊の声や宮木引くらん

ゆふくれは−にはのよもきか−そまやまに−たつかのこゑや−みやきひくらむ


03013
未入力 正徹 (xxx)

しつかにと身をもちなせはし水より心掠しき松のした庵

しつかにと−みをもちなせは−しみつより−こころすすしき−まつのしたいほ


03014
未入力 正徹 (xxx)

六月のやすの川風網代木に秋はいさよふ風そ涼しき

みなつきの−やすのかはかせ−あしろきに−あきはいさよふ−かせそすすしき


03015
未入力 正徹 (xxx)

夕立は山より晴れて鳰の海の漕く舟こえてわたる雲かな

ゆふたちは−やまよりはれて−にほのうみの−こくふねこえて−わたるくもかな


03016
未入力 正徹 (xxx)

しけき野の朝露分くる夏衣ぬるるもすそに秋風そ吹く

しけきのの−あさつゆわくる−なつころも−ぬるるもすそに−あきかせそふく


03017
未入力 正徹 (xxx)

あつき日の雲も衣は一重山いさ行きつれん身になかさねそ

あつきひの−くももころもは−ひとへやま−いさゆきつれむ−みになかさねそ


03018
未入力 正徹 (xxx)

嶺こゆる雲の衣をぬきすててくたれはうすき袖の上風

みねこゆる−くものころもを−ぬきすてて−くたれはうすき−そてのうはかせ


03019
未入力 正徹 (xxx)

夏衣今朝の山路の袖ほせはもすそにのほる野への夕露

なつころも−けさのやまちの−そてほせは−もすそにのほる−のへのゆふつゆ


03020
未入力 正徹 (xxx)

風涼しあさのさ衣たてぬきも薄き雲路のみねの梯

かせすすし−あさのさころも−たてぬきも−うすきくもちの−みねのかけはし


03021
未入力 正徹 (xxx)

うちわたす遠かた人の旅衣日も夕かほの寝やとふらん

うちわたす−をちかたひとの−たひころも−ひもゆふかほの−やとやとふらむ


03022
未入力 正徹 (xxx)

明くる夜の山郭公こゑ過きてかはらぬ嶺の松そのこれる

あくるよの−やまほとときす−こゑすきて−かはらぬみねの−まつそのこれる


03023
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あらはなる入江の芦の夏よりも青葉かさなる鴨のむら立

あらはなる−いりえのあしの−なつよりも−あをはかさなる−かものむらたち


03024
未入力 正徹 (xxx)

すさの江の波に色かれ鳥の名もあちさへさけるあつまのの原

すさのえの−なみにいろかれ−とりのなも−あちさへさける−あつまののはら


03025
未入力 正徹 (xxx)

影なからいつる高根に匂ふなり卯月の花の雪のしら雲

かけなから−いつるたかねに−にほふなり−うつきのはなの−ゆきのしらくも


03026
未入力 正徹 (xxx)

しろたへの雲の糸すちみたるなり天つをとめや夏そ引くらし

しろたへの−くものいとすち−みたるなり−あまつをとめや−なつそひくらし


03027
未入力 正徹 (xxx)

涼しさは昨日の道の夕立に塵もあからぬ袖のあさ風

すすしさは−きのふのみちの−ゆふたちに−ちりもあからぬ−そてのあさかせ


03028
未入力 正徹 (xxx)

誰もみな見はてぬ夢のみしか夜に秋のね覚のしけき老かな

たれもみな−みはてぬゆめの−みしかよに−あきのねさめの−しけきおいかな


03029
未入力 正徹 (xxx)

さそはれん秋風いそく桐の葉や身をうき草の心しるらん

さそはれむ−あきかせいそく−きりのはや−みをうきくさの−こころしるらむ


03030
未入力 正徹 (xxx)

玉くしけ二毛の塵にゐる星もかつあらはるる野への曙

たまくしけ−ふたけのちりに−ゐるほしも−かつあらはるる−のへのあけほの


03031
未入力 正徹 (xxx)

涼しくも今朝そ手ならす夏のよの雲のいつくの月の扇を

すすしくも−けさそてならす−なつのよの−くものいつくの−つきのあふきを


03032
未入力 正徹 (xxx)

露もまた置きあへぬ床の朝しめりおほえすかろき夏衣かな

つゆもまた−おきあへぬとこの−あさしめり−おほえすかろき−なつころもかな


03033
未入力 正徹 (xxx)

玉とちる露吹く風に出つる日もすすむか涼し嶺の木の本

たまとちる−つゆふくかせに−いつるひも−すすむかすすし−みねのこのもと


03034
未入力 正徹 (xxx)

草茂る野守の鏡春日野になかはみかける夕月の影

くさしける−のもりのかかみ−かすかのに−なかはみかける−ゆふつきのかけ


03035
未入力 正徹 (xxx)

おほつかなそこらの事を見し夢のさむる沈は夏のよにして

おほつかな−そこらのことを−みしゆめの−さむるまくらは−なつのよにして


03036
未入力 正徹 (xxx)

五月闇くらき枕の蚊のこゑにいとふ煙もなかき夏のよ

さつきやみ−くらきまくらの−かのこゑに−いとふけふりも−なかきなつのよ


03037
未入力 正徹 (xxx)

葉をしけみ木のもとかかり遠く焼くほかけ涼しき庭の夕やみ

はをしけみ−このもとかかり−とほくたく−ほかけすすしき−にはのゆふやみ


03038
未入力 正徹 (xxx)

雲うかれ風まよふ夜の橘にやみのうつつの袖のかそする

くもうかれ−かせまよふよの−たちはなに−やみのうつつの−そてのかそする


03039
未入力 正徹 (xxx)

中川の宿のひさしのこすのまに風吹きとほせ夏の夕やみ

なかかはの−やとのひさしの−こすのまに−かせふきとほせ−なつのゆふやみ


03040
未入力 正徹 (xxx)

わたとのの泉涼しきうたたねに風吹きとほせ中川のやと

わたとのの−いつみすすしき−うたたねに−かせふきとほせ−なかかはのやと


03041
未入力 正徹 (xxx)

山のはに出つるを見んと槙の戸をあくれは明くる夏のよの月

やまのはに−いつるをみむと−まきのとを−あくれはあくる−なつのよのつき


03042
未入力 正徹 (xxx)

夏衣たもとにとほる蚊のこゑを打ちはらふまに明くる夜はかな

なつころも−たもとにとほる−かのこゑを−うちはらふまに−あくるよはかな


03043
未入力 正徹 (xxx)

夏のよの夢のわたりの川波は袖に涼しき涙なりけり

なつのよの−ゆめのわたりの−かはなみは−そてにすすしき−なみたなりけり


03044
未入力 正徹 (xxx)

朝のまに明くるは五月さまさまに見えてのこらぬ夢は秋の夜

あさのまに−あくるはさつき−さまさまに−みえてのこらぬ−ゆめはあきのよ


03045
未入力 正徹 (xxx)

夏の夜の明くるおもへは枕せぬねふりのうちの夢そ久しき

なつのよの−あくるおもへは−まくらせぬ−ねふりのうちの−ゆめそひさしき


03046
未入力 正徹 (xxx)

ぬれてほす伊勢男のあまのしほたれて夏は日毎にしる衣かな

ぬれてほす−いせをのあまの−しほたれて−なつはひことに−しるころもかな


03047
未入力 正徹 (xxx)

夏衣身にかかるともしら波の岩こす滝のうへの松風

なつころも−みにかかるとも−しらなみの−いはこすたきの−うへのまつかせ


03048
未入力 正徹 (xxx)

むすひても猶身におもし行く水の淡はかりなるうすものの袖

むすひても−なほみにおもし−ゆくみつの−あわはかりなる−うすもののそて


03049
未入力 正徹 (xxx)

あま人のしほたれ衣ほす網もかわくまはやき夏のうら風

あまひとの−しほたれころも−ほすあみも−かわくまはやき−なつのうらかせ


03050
未入力 正徹 (xxx)

猶涼し大宮人の夏衣氷水に風のいとまある日も

なほすすし−おほみやひとの−なつころも−ひみつにかせの−いとまあるひも


03051
未入力 正徹 (xxx)

夏衣うらなる玉とちるあせをわするはかりの秋風もかな

なつころも−うらなるたまと−ちるあせを−わするはかりの−あきかせもかな


03052
未入力 正徹 (xxx)

花ちりし雲の衣のしらかさねそれさへ今はうすき夏かな

はなちりし−くものころもの−しらかさね−それさへいまは−うすきなつかな


03053
未入力 正徹 (xxx)

かつはるる緑の空か夕立の雲の衣のふたあゐの帯

かつはるる−みとりのそらか−ゆふたちの−くものころもの−ふたあゐのおひ


03054
未入力 正徹 (xxx)

清水せく山松かねの苔むしろ枕も夏もしらぬ夢かな

しみつせく−やままつかねの−こけむしろ−まくらもなつも−しらぬゆめかな


03055
未入力 正徹 (xxx)

ふしなからなるるし水の岩枕むすひそへたるうたたねの夢

ふしなから−なるるしみつの−いはまくら−むすひそへたる−うたたねのゆめ


03056
未入力 正徹 (xxx)

夏の夜の夢のうきはし橋板は閨にみしかき枕なりけり

なつのよの−ゆめのうきはし−はしいたは−ねやにみしかき−まくらなりけり


03057
未入力 正徹 (xxx)

人はこてわれのみとふのすか莚みしかく明くる夏の夜もなし

ひとはこて−われのみとふの−すかむしろ−みしかくあくる−なつのよもなし


03058
未入力 正徹 (xxx)

やすくぬる夜はになのへそ一夏もとくへき法の莚ならすは

やすくぬる−よはになのへそ−ひとなつも−とくへきのりの−むしろならすは


03059
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夕立になかれきにけり中川やせき入れぬ水も方たかへして

ゆふたちに−なかれきにけり−なかかはや−せきいれぬみつも−かたたかへして


03060
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むらむらに小波をたてて夏の池の水の上うつ庭の松風

むらむらに−さなみをたてて−なつのいけの−みつのうへうつ−にはのまつかせ


03061
未入力 正徹 (xxx)

吹くも描くもる空よりみな月のてる日そ風はよもに涼しき

ふくもなほ−くもるそらより−みなつきの−てるひそかせは−よもにすすしき


03062
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軒はまて茂る木陰やとはさらん花よりなれし風ならすは

のきはまて−しけるこかけや−とはさらむ−はなよりなれし−あらしならすは


03063
未入力 正徹 (xxx)

夏をなみ吹くや嵐の山川に秋をたつねてよる一葉かな

なつをなみ−ふくやあらしの−やまかはに−あきをたつねて−よるひとはかな


03064
未入力 正徹 (xxx)

風ふけは結ひて袖にかくる花軒のあやめも匂ふけふかな

かせふけは−むすひてそてに−かくるはな−のきのあやめも−にほふけふかな


03065
未入力 正徹 (xxx)

学ひえよこひねかほしきみな月の風のすかたを大和ことのは

まなひえよ−こひねかほしき−みなつきの−かせのすかたを−やまとことのは


03066
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箭のことく浅茅なかれてあつさ弓いくしのしてになひく川風

やのことく−あさちなかれて−あつさゆみ−いくしのしてに−なひくかはかせ


03067
未入力 正徹 (xxx)

いくみそき浅瀬にとまる麻のはの見ぬ川島となれる夕は

いくみそき−あさせにとまる−あさのはの−みぬかはしまと−なれるゆふへは


03068
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夏河に鵜はひとりゐて飛ふ鷺のかす限なき滝の岩波

なつかはに−うはひとりゐて−とふさきの−かすかきりなき−たきのいはなみ


03069
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ともしたつさつをの弓すゑほのみてやおとろきいつる山郭公

ともしたつ−さつをのゆすゑ−ほのみてや−おとろきいつる−やまほとときす


03070
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夏川の浅瀬にあさるはなれ鵜にむらかりあかぬ鷺の一つれ

なつかはの−あさせにあさる−はなれうに−むらかりあかぬ−さきのひとつれ


03071
未入力 正徹 (xxx)

橋姫の待つ夜もうちの島つ鳥うきてや波にあかしはつらん

はしひめの−まつよもうちの−しまつとり−うきてやなみに−あかしはつらむ


03072
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榊葉の香をかくはしみ郭公卯月のいみをさして鳴くこゑ

さかきはの−かをかくはしみ−ほとときす−うつきのいみを−さしてなくこゑ


03073
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ねにゆきしかへさや遠き朝からす雀なくまて夏そ声せぬ

ねにゆきし−かへさやとほき−あさからす−すすめなくまて−なつそこゑせぬ


03074
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郭公又一こゑに成りにけりおのか五月の杉の木隠

ほとときす−またひとこゑに−なりにけり−おのかさつきの−すきのこかくれ


03075
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おのか毛を花とたに見ん夏草の籬にあされ宿の庭鳥

おのかけを−はなとたにみむ−なつくさの−まかきにあされ−やとのにはとり


03076
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むれゐたる蛍そ玉江草かりのあしたつはみな空にのみして

むれゐたる−ほたるそたまえ−くさかりの−あしたつはみな−そらにのみして


03077
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下折は夏そきこえぬ村鷺のおもる川辺の松の白雪

したをれは−なつそきこえぬ−むらさきの−おもるかはへの−まつのしらゆき


03078
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行く蛍秋風吹くとつけん日もまた程遠き雲のうへかな

ゆくほたる−あきかせふくと−つけむひも−またほととほき−くものうへかな


03079
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蝉さへも身はもぬけけり生きなから老の姿をかへぬ世そうき

せみさへも−みはもぬけけり−いきなから−おいのすかたを−かへぬよそうき


03080
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竹のはによるは蛍の火をみれとすたきし蝉は一声もせす

たけのはに−よるはほたるの−ひをみれと−すたきしせみは−ひとこゑもせす


03081
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俄なる夏の雨風くもりきて木末の蛙こゑしきるなり

にはかなる−なつのあめかせ−くもりきて−こすゑのかはつ−こゑしきるなり


03082
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宮城野に立つやをしかの思草葉末のともし消ゆる夜もなし

みやきのに−たつやをしかの−おもひくさ−はすゑのともし−きゆるよもなし


03083
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御牧よりかる草おひて行く駒のあせもしほほの五月雨の比

みまきより−かるくさおひて−ゆくこまの−あせもしほほの−さみたれのころ


03084
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賀茂山やくらへし駒の道はかり草を冬ののみな月の比

かもやまや−くらへしこまの−みちはかり−くさをふゆのの−みなつきのころ


03085
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やすむまも夏のおも荷を引く牛のいきの小車はやめすもかな

やすむまも−なつのおもにを−ひくうしの−いきのをくるま−はやめすもかな


03086
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放ちかふ野飼の牛のわたり行く入江のさとも夏そ引くなり

はなちかふ−のかひのうしの−わたりゆく−いりえのさとも−なつそひくなり


03087
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なる神は空にしられぬ道辺に小車過きて夕立もなし

なるかみは−そらにしられぬ−みちのへに−をくるますきて−ゆふたちもなし


03088
未入力 正徹 (xxx)

足よわき牛のやり縄ゆるきくる車そ夏も見るはくるしき

あしよわき−うしのやりなは−ゆるきくる−くるまそなつも−みるはくるしき


03089
未入力 正徹 (xxx)

風あつく照る日の道にゆるきくる車の牛のあよむゆたけさ

かせあつく−てるひのみちに−ゆるきくる−くるまのうしの−あよむゆたけさ


03090
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よそなから見るさへ涼し柳陰川との風によする舟人

よそなから−みるさへすすし−やなきかけ−かはとのかせに−よするふなひと


03091
未入力 正徹 (xxx)

岸つかけ茂る柳にまこもつむ舟みたれそふ遠の川波

きしつかけ−しけるやなきに−まこもつむ−ふねみたれそふ−をちのかはなみ


03092
未入力 正徹 (xxx)

月はまた高瀬のよとのみなれさを袖こさぬまに明くるしののめ

つきはまた−たかせのよとの−みなれさを−そてこさぬまに−あくるしののめ


03093
未入力 正徹 (xxx)

浦ちかく落ちあふ水の湊川にこるやあまの田草とるらん

うらちかく−おちあふみつの−みなとかは−にこるやあまの−たくさとるらむ


03094
未入力 正徹 (xxx)

夏ふかき沢辺のね芹生ひぬれは鳥こそあされ摘む人はなし

なつふかき−さはへのねせり−おひぬれは−とりこそあされ−つむひとはなし


03095
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打ちなひく玉藻かくれにふす魚も淵に入るまて照すZの日

うちなひく−たまもかくれに−ふすうをも−ふちにいるまて−てらすなつのひ


03096
未入力 正徹 (xxx)

難は江の芦のよのまの夏かりにむれゐるこ鳥もこやも隠れす

なにはえの−あしのよのまの−なつかりに−むれゐるとりも−こやもかくれす


03097
未入力 正徹 (xxx)

夏ふかき沼水あつく照す日にみくり菱の葉色そつれなき

なつふかき−ぬまみつあつく−てらすひに−みくりひしのは−いろそつれなき


03098
未入力 正徹 (xxx)

臥すほとも夏の雨夜のしなか鳥いかにさためてかるもかくらん

ふすほとも−なつのあまよの−しなかとり−いかにさためて−かるもかくらむ


03099
未入力 正徹 (xxx)

ふらぬまもくもる五月の雨しめりたもとやおもき蝉のは衣

ふらぬまも−くもるさつきの−あましめり−たもとやおもき−せみのはころも


03100
未入力 正徹 (xxx)

山風の雲吹くこゑも荒く成りて五月雨あかる夕立の空

やまかせの−くもふくこゑも−あらくなりて−さみたれあかる−ゆふたちのそら


03101
未入力 正徹 (xxx)

むら消し春もかかりき卯花の雪をくたしてふれる雨かな

むらきえし−はるもかかりき−うのはなの−ゆきをくたして−ふれるあめかな


03102
未入力 正徹 (xxx)

よるふりし庭の小草の朝しめりこまかにおくも露そ涼しき

よるふりし−にはのこくさの−あさしめり−こまかにおくも−つゆそすすしき


03103
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五月雨の後せにくもる夕立も椎柴見えてはるる山風

さみたれの−のちせにくもる−ゆふたちも−しひしはみえて−はるるやまかせ


03104
未入力 正徹 (xxx)

雨しをる花橘におつるかなむかしの人の袖のしつくは

あめしをる−はなたちはなに−おつるかな−むかしのひとの−そてのしつくは


03105
未入力 正徹 (xxx)

橘の花はちりにし木のもとに袖のかうとき風そ涼しき

たちはなの−はなはちりにし−このもとに−そてのかうとき−かせそすすしき


03106
未入力 正徹 (xxx)

雨過くる雲の衣の行すゑに花たちはなの袖の香やせん

あめすくる−くものころもの−ゆくすゑに−はなたちはなの−そてのかやせむ


03107
未入力 正徹 (xxx)

年にとる梶のもとつ葉一秋もちらぬをうしと夏や色つく

としにとる−かちのもとつは−ひとあきも−ちらぬをうしと−なつやいろつく


03108
未入力 正徹 (xxx)

葉かくれの実も色つかす橘の花の香ちりて夏深き比

はかくれの−みもいろつかす−たちはなの−はなのかちりて−なつふかきころ


03109
未入力 正徹 (xxx)

古葉こき田中の杉の若みとり植ゑし早苗に色そあらそふ

ふるはこき−たなかのすきの−わかみとり−うゑしさなへに−いろそあらそふ


03110
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はかなくそ水の淡津に空蝉のからのみとまる杜の木かくれ

はかなくそ−みつのあわつに−うつせみの−からのみとまる−もりのこかくれ


03111
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六月の夏の日数も竹の子の枝さす園そふかく成行く

みなつきの−なつのひかすも−たけのこの−えたさすそのそ−ふかくなりゆく


03112
未入力 正徹 (xxx)

里はあれぬ竹のこの世のうきふしをしれかし草の陰頼むらん

さとはあれぬ−たけのこのよの−うきふしを−しれかしくさの−かけたのむらむ


03113
未入力 正徹 (xxx)

こゑそする住むや田中の杜のはも茂る早苗のおくの里人

こゑそする−すむやたなかの−もりのはも−しけるさなへの−おくのさとひと


03114
未入力 正徹 (xxx)

佗人のは山かくれの宿の窓夏やともしの影頼むらん

わひひとの−はやまかくれの−やとのまと−なつやともしの−かけたのむらむ


03115
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新しき夏毛色こき筆を見て照射の鹿のよるそかなしき

あたらしき−なつけいろこき−ふてをみて−ともしのしかの−よるそかなしき


03116
未入力 正徹 (xxx)

月ならぬ山のはもうし夕つつの入りぬる夏のやみふかくして

つきならぬ−やまのはもうし−ゆふつつの−いりぬるなつの−やみふかくして


03117
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岩かねやなるるし水にみたれても秋の露まつ袖のしら玉

いはかねや−なるるしみつに−みたれても−あきのつゆまつ−そてのしらたま


03118
未入力 正徹 (xxx)

あやにくに早苗あらそひ種まかぬ水の田草やとれは生ふらん

あやにくに−さなへあらそひ−たねまかぬ−みつのたくさや−とれはおふらむ


03119
未入力 正徹 (xxx)

道辺にちりこそあかれ天つ風いもせある宿のとこ夏の花

みちのへに−ちりこそあかれ−あまつかせ−いもせあるやとの−とこなつのはな


03120
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しろたへの雲の衣の五月雨に朽ちにし色をさらす空かな

しろたへの−くものころもの−さみたれに−くちにしいろを−さらすそらかな


03121
未入力 正徹 (xxx)

山たかみ花にまかへししら雲の衣そうすき夏やきぬらん

やまたかみ−はなにまかへし−しらくもの−ころもそうすき−なつやきぬらむ


03122
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わたる日の空行く雲の一むらもおほへは夏をへたてけるかな

わたるひの−そらゆくくもの−ひとむらも−おほへはなつを−へたてけるかな


03123
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一むらも夏の日影にまたれつる心かはりの月のうき雲

ひとむらも−なつのひかけに−またれつる−こころかはりの−つきのうきくも


03124
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雲水のならひに跡はとめすとも夏のてる日の下にやすらへ

くもみつの−ならひにあとは−とめすとも−なつのてるひの−もとにやすらへ


03125
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雲うすき衣のうらの玉柳夏をかけたるかつらきの山

くもうすき−ころものうらの−たまやなき−なつをかけたる−かつらきのやま


03126
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天つ人すすむやいかにわきのほる雲を泉の嶺の滝波

あまつひと−すすむやいかに−わきのほる−くもをいつみの−みねのたきなみ


03127
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夕立の晴れぬる山の岩ねよりのほるも消ゆる雲の一むら

ゆふたちの−はれぬるやまの−いはねより−のほるもきゆる−くものひとむら


03128
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今見るも夢のわたりか月の舟雲浅き江にあくる夏の夜

いまみるも−ゆめのわたりか−つきのふね−くもあさきえに−あくるなつのよ


03129
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影そもる天つをとめの夏衣雲にうらなき有明の月

かけそもる−あまつをとめの−なつころも−くもにうらなき−ありあけのつき


03130
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又ゆかむ道の朝かけ夕すすみひるまを夏の宿にすくして

またゆかむ−みちのあさかけ−ゆふすすみ−ひるまをなつの−やとにすくして


03131
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都まて結ふし水やつとならん行てにつつむ袖のしら玉

みやこまて−むすふしみつや−つとならむ−ゆくてにつつむ−そてのしらたま


03132
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木のもとのし水をひるの宿として朝夕かけに道いそくなり

このもとの−しみつをひるの−やととして−あさゆふかけに−みちいそくなり


03133
未入力 正徹 (xxx)

むせかへりねんかたそなき夏かりの芦火たく屋にもえぬ煙は

むせかへり−ねむかたそなき−なつかりの−あしひたくやに−もえぬけふりは


03134
未入力 正徹 (xxx)

ふしのねの煙やともしよるとなき鹿子またらの雪のしは山

ふしのねの−けふりやともし−よるとなき−かのこまたらの−ゆきのしはやま


03135
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杣木きる遠き嵐やまかふらん卯花山の雪の下折

そまききる−とほきあらしや−まかふらむ−うのはなやまの−ゆきのしたをれ


03136
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太山風蚊のこゑ遠き宿のゆか夕枕して明けぬこの夜は

みやまかせ−かのこゑとほき−やとのゆか−ゆふまくらして−あけぬこのよは


03137
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石はしる滝の白淡わきかへり水の心や五月雨の空

いしはしる−たきのしらあわ−わきかへり−みつのこころや−さみたれのそら


03138
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川の瀬にいさ取りそへて捨てはてん我かことのはのあさのゆふして

かはのせに−いさとりそへて−すてはてむ−わかことのはの−あさのゆふして


03139
未入力 正徹 (xxx)

一重なる身におふ程のたのしみやあさの衣の夏の夕風

ひとへなる−みにおふほとの−たのしみや−あさのころもの−なつのゆふかせ


03140
未入力 正徹 (xxx)

夏こしにもはらひは捨てし此世には身のうからては住むへくもなし

なこしにも−はらひはすてし−このよには−みのうからては−すむへくもなし


03141
未入力 正徹 (xxx)

水上やいく里人の御祓川瀬をせくまての麻のゆふして

みなかみや−いくさとひとの−みそきかは−せをせくまての−あさのゆふして


03142
未入力 正徹 (xxx)

立田川けふこそあらぬ麻のはにゆふつけ鳥の御祓ともなき

たつたかは−けふこそあらぬ−あさのはに−ゆふつけとりの−みそきともなき


03143
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御祓川入江にすつるあさの葉もすくなる水を尋ねてそゆく

みそきかは−いりえにすつる−あさのはも−すくなるみつを−たつねてそゆく


03144
未入力 正徹 (xxx)

みそきしてけふすかぬきついつくにも茂る浅茅やまはらなるらん

みそきして−けふすかぬきつ−いつくにも−しけるあさちや−まはらなるらむ


03145
未入力 正徹 (xxx)

秋やくる半年行く庭にいてて御祓する夜の荻の上風

あきやくる−なかはとしゆく−にはにいてて−みそきするよの−をきのうはかせ


03146
未入力 正徹 (xxx)

折ふしもしらぬ田蓑の島人もけふはなこしの御祓すらしも

をりふしも−しらぬたみのの−しまひとも−けふはなこしの−みそきすらしも


03147
未入力 正徹 (xxx)

御祓川暮るれは夏の日影さへ七瀬のよとにのこるゆふして

みそきかは−くるれはなつの−ひかけさへ−ななせのよとに−のこるゆふして


03148
未入力 正徹 (xxx)

七瀬川あさにひかれて行く水の心しらるるゆふはらへかな

ななせかは−あさにひかれて−ゆくみつの−こころしらるる−ゆふはらへかな


03149
未入力 正徹 (xxx)

ゆふしてもなかれてはやき御祓川麻にひかれて夏や行くらん

ゆふしても−なかれてはやき−みそきかは−あさにひかれて−なつやゆくらむ


03150
未入力 正徹 (xxx)

おりはへて夏神楽せし川波になかしつつくるあさのゆふして

おりはへて−なつかくらせし−かはなみに−なかしつつくる−あさのゆふして


03151
未入力 正徹 (xxx)

よりやこん蓬か島も御祓川海に出てたるあまにひかれて

よりやこむ−よもきかしまも−みそきかは−うみにいてたる−あまにひかれて


03152
未入力 正徹 (xxx)

ならひたつかもの川原の小車にかけぬ茅のわをこゆる諸人

ならひたつ−かものかはらの−をくるまに−かけぬちのわを−こゆるもろひと


03153
未入力 正徹 (xxx)

麻のわをすかぬきこゆる度ことに三の男をいつるとそおもふ

あさのわを−すかぬきこゆる−たひことに−みつのをとこを−いつるとそおもふ


03154
未入力 正徹 (xxx)

岩こすけせくや御祓の夕は川麻のしからみたかくかけつつ

いはこすけ−せくやみそきの−ゆふはかは−あさのしからみ−たかくかけつつ


03155
未入力 正徹 (xxx)

夜はにたつ鹿もさこそは道辺に茅の輪を切りて土を打つこゑ

よはにたつ−しかもさこそは−みちのへに−ちのわをきりて−つちをうつこゑ


03156
未入力 正徹 (xxx)

岩波もならの小川の広は陰ここを御祓の瀬瀬のゆふして

いはなみも−ならのをかはの−ひろはかけ−ここをみそきの−せせのゆふして


03157
未入力 正徹 (xxx)

立ちいてて夕すすみせし木の本もいもゐの庭そ麻のゆふして

たちいてて−ゆふすすみせし−このもとも−いもゐのにはそ−あさのゆふして


03158
未入力 正徹 (xxx)

御祓川ゆふしてしろし鴨のはの色そふ杜の木木の下陰

みそきかは−ゆふしてしろし−かものはの−いろそふもりの−ききのしたかけ


03159
未入力 正徹 (xxx)

鷺の毛もけふゆふかけて社なき杜さへあへる夏祓かな

さきのけも−けふゆふかけて−やしろなき−もりさへあへる−なつはらへかな


03160
未入力 正徹 (xxx)

ふくる夜の御祓川原にけふ人の捨てし浅茅にかよふ秋風

ふくるよの−みそきかはらに−けふひとの−すてしあさちに−かよふあきかせ


03161
未入力 正徹 (xxx)

朝川やあさの葉なかすしかまかた立つ市人や御祓しつらん

あさかはや−あさのはなかす−しかまかた−たついちひとや−みそきしつらむ


03162
未入力 正徹 (xxx)

いくしさすしてにあらふる神やますなこやかならぬ瀬瀬の川波

いくしさす−してにあらふる−かみやます−なこやかならぬ−せせのかはなみ


03163
未入力 正徹 (xxx)

御祓川此輪のうちにめくりきて我より先に秋やこゆらん

みそきかは−このわのうちに−めくりきて−われよりさきに−あきやこゆらむ


03164
未入力 正徹 (xxx)

涼しくも御祓の波にかへりきぬ時雨ふりおきしならの小川は

すすしくも−みそきのなみに−かへりきぬ−しくれふりおきし−ならのをかはは


03165
未入力 正徹 (xxx)

御祓川うき瀬たえねとなかしやる身をなて物や麻のゆふして

みそきかは−うきせたえねと−なかしやる−みをなてものや−あさのゆふして


03166
未入力 正徹 (xxx)

御祓して川戸にすつるなかれわに中はめくれる年もこえつつ

みそきして−かはとにすつる−なかれわに−なかはめくれる−としもこえつつ


03167
未入力 正徹 (xxx)

みな月もニの星の契さへ麻の葉すつる瀬によとむらん

みなつきも−ふたつのほしの−ちきりさへ−あさのはすつる−せによとむらむ


03168
未入力 正徹 (xxx)

すかぬきし茅のわきりすて玉鉾に又めくりくる秋や待つらん

すかぬきし−ちのわきりすて−たまほこに−まためくりくる−あきやまつらむ


03169
未入力 正徹 (xxx)

思ふ事さしてなき身や夏をけふすつるはかりのあさのゆふして

おもふこと−さしてなきみや−なつをけふ−すつるはかりの−あさのゆふして


03170
未入力 正徹 (xxx)

なかしけん幾里人の御祓川見さりし島や麻のゆふして

なかしけむ−いくさとひとの−みそきかは−みさりししまや−あさのゆふして


03171
未入力 正徹 (xxx)

御祓川瀬瀬になかるる麻の葉にすかぬきかかる波のしらゆふ

みそきかは−せせになかるる−あさのはに−すかぬきかかる−なみのしらゆふ


03172
未入力 正徹 (xxx)

めくりきて又逢ひかたき御祓かな茅のわすかぬくしかのうらなみ

めくりきて−またあひかたき−みそきかな−ちのわすかぬく−しかのうらなみ


03173
未入力 正徹 (xxx)

ゆふはちへしかまになかす麻のはや塩やくあまの焼くもなるらん

ゆふはちへ−しかまになかす−あさのはや−しほやくあまの−たくもなるらむ


03174
未入力 正徹 (xxx)

河社うたひ捨てつるささ波に又あさのはをなかすけふかな

かはやしろ−うたひすてつる−ささなみに−またあさのはを−なかすけふかな


03175
未入力 正徹 (xxx)

御祓川のほるや魚のなて物もなかるる瀬瀬の浅茅とそみる

みそきかは−のほるやうをの−なてものも−なかるるせせの−あさちとそみる


03176
未入力 正徹 (xxx)

引きまする麻のよもきのすくなるもけふの御祓の山やうくらん

ひきまする−あさのよもきの−すくなるも−けふのみそきの−やまやうくらむ


03177
未入力 正徹 (xxx)

みな月の七七瀬川原のから蓬なかすあさにやひかれ行くらん

みなつきの−ななせかはらの−からよもき−なかすあさにや−ひかれゆくらむ


03178
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あさなかす川にうつまきしつむなり御祓やうくる水にます神

あさなかす−かはにうつまき−しつむなり−みそきやうくる−みつにますかみ



草根集 秋

03179
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身にしめてけふとそ告くる袖の上の露にはなれし秋のはつ風

みにしめて−けふとそつくる−そてのうへの−つゆにはなれし−あきのはつかせ


03180
未入力 正徹 (xxx)

露もみすなにの一葉も散りあへぬきのふの風に秋はきにけり

つゆもみす−なにのひとはも−ちりあへぬ−きのふのかせに−あきはきにけり


03181
未入力 正徹 (xxx)

秋のかせたてるやいつこみそきせし昨日も涼しよもの川浪

あきのかせ−たてるやいつこ−みそきせし−きのふもすすし−よものかはなみ


03182
未入力 正徹 (xxx)

まつかえた秋たつ風の乙女子か袖ふる山もけふや涼しき

まつかえた−あきたつかせの−をとめこか−そてふるやまも−けふやすすしき


03183
未入力 正徹 (xxx)

秋もけふたつの市大涼しさをなににかへけん袖の初風

あきもけふ−たつのいちひと−すすしさを−なににかへけむ−そてのはつかせ


03184
未入力 正徹 (xxx)

きてもまた旅なる秋のぬききする衣手なれや暁の空

きてもまた−たひなるあきの−ぬききする−ころもてなれや−あかつきのそら


03185
未入力 正徹 (xxx)

秋の風夢ちさたかに吹きこすや暁やみのうつつなるらん

あきのかせ−ゆめちさたかに−ふきこすや−あかつきやみの−うつつなるらむ


03186
未入力 正徹 (xxx)

わかれつる時をはかへす秋はきぬ去年の長月のつきし曙

わかれつる−ときをはかへす−あきはきぬ−こそのなかつきの−つきしあけほの


03187
未入力 正徹 (xxx)

又やみん秋たつ嶺の暁にあふはわかれの長月の雲

またやみむ−あきたつみねの−あかつきに−あふはわかれの−なかつきのくも


03188
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朝日影くもる梢に結ひきてはつ秋みかく露のしら玉

あさひかけ−くもるこすゑに−むすひきて−はつあきみかく−つゆのしらたま


03189
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秋もけさたつそ鳴くなるねくらせし松の嵐や吹きかはるらん

あきもけさ−たつそなくなる−ねくらせし−まつのあらしや−ふきかはるらむ


03190
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たたならぬ夕まくれともまた知らぬ朝けの露に秋風そ吹く

たたならぬ−ゆふまくれとも−またしらぬ−あさけのつゆに−あきかせそふく


03191
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荻原やすゑこす風になかは行く年のはしめに秋そ立ちくる

をきはらや−すゑこすかせに−なかはゆく−としのはしめに−あきそたちくる


03192
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いかにせんうき秋風の荻はらやうつす袂の露のはしめを

いかにせむ−うきあきかせの−をきはらや−うつすたもとの−つゆのはしめを


03193
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友そなき四十余のこの山に初風なれし秋もわすれす

ともそなき−よそちあまりの−このやまに−はつかせなれし−あきもわすれす


03194
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くるとたに先しらさらむうき秋を忘れんと思ふ心忘れて

くるとたに−まつしらさらむ−うきあきを−わすれむとおもふ−こころわすれて


03195
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吹く風のこゑそ身にしむ老か世のうきをもととや秋はきぬらん

ふくかせの−こゑそみにしむ−おいかよの−うきをもととや−あきはきぬらむ


03196
未入力 正徹 (xxx)

一葉ちりひと花開きて春をつけ秋をしらせし秋はきにけり

ひとはちり−ひとはなさきて−はるをつけ−あきをしらせし−あきはきにけり


03197
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外面なる桐の一葉を吹く風のたよりすくさぬ荻の音かな

そともなる−きりのひとはを−ふくかせの−たよりすくさぬ−をきのおとかな


03198
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露となる風となりてやなへて世の人わひさする秋はきぬらん

つゆとなる−かせとなりてや−なへてよの−ひとわひさする−あきはきぬらむ


03199
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本つ枝や秋ふかき露もおかさらむ星合ちかしかちの初風

もとつえや−あきふかきつゆも−おかさらむ−ほしあひちかし−かちのはつかせ


03200
未入力 正徹 (xxx)

人心こころやすくや秋のこし夏をはしたふならひなき世に

ひとこころ−こころやすくや−あきのこし−なつをはしたふ−ならひなきよに


03201
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山かつもあまもいかてか秋にあひてありしにかはる心なからむ

やまかつも−あまもいかてか−あきにあひて−ありしにかはる−こころなからむ


03202
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庭の面も汀ににほのうら風に桐の一葉の舟そよりくる

にはのおもも−みきはににほの−うらかせに−きりのひとはの−ふねそよりくる


03203
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六月やはつ風きかぬ荻みても思ひそ出てし秋のおとつれ

みなつきや−はつかせきかぬ−をきみても−おもひそいてし−あきのおとつれ


03204
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法の庭秋の草木もけふにあひてなき玉結ふ露かとそみる

のりのには−あきのくさきも−けふにあひて−なきたまむすふ−つゆかとそみる


03205
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末遠き小松かうへの千世のこゑ秋たつ風を始とそきく

すゑとほき−こまつかうへの−ちよのこゑ−あきたつかせを−はしめとそきく


03206
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さひしさはいつも秋津のをのの露此ころ草にかはる色かな

さひしさは−いつもあきつの−をののつゆ−このころくさに−かはるいろかな


03207
未入力 正徹 (xxx)

しののめやたもとの露にきえかはるはつ秋風のまへの灯

しののめや−たもとのつゆに−きえかはる−はつあきかせの−まへのともしひ


03208
未入力 正徹 (xxx)

秋のきてさそふ嵐にちる露も一葉の上やはしめなるらん

あきのきて−さそふあらしに−ちるつゆも−ひとはのうへや−はしめなるらむ


03209
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一葉ちる軒端の桐の下草にふみ分けかたき秋の露かな

ひとはちる−のきはのきりの−したくさに−ふみわけかたき−あきのつゆかな


03210
未入力 正徹 (xxx)

秋もまたおきこそあへね消残る命や露の始なるらん

あきもまた−おきこそあへね−きえのこる−いのちやつゆの−はしめなるらむ


03211
未入力 正徹 (xxx)

秋きての影とや見えん老いぬれは時そともなき袖の時雨を

あききての−かけとやみえむ−おいぬれは−ときそともなき−そてのしくれを


03212
未入力 正徹 (xxx)

山のはも秋や立ちくるのほる日の光をいつる風そ涼しき

やまのはも−あきやたちくる−のほるひの−ひかりをいつる−かせそすすしき


03213
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心あるたくひややかてうちま山またあさ風の秋のさと人

こころある−たくひややかて−うちまやま−またあさかせの−あきのさとひと


03214
未入力 正徹 (xxx)

身にしむもありしにまさる思ひかなまして四十の秋のはつかせ

みにしむも−ありしにまさる−おもひかな−ましてよそちの−あきのはつかせ


03215
未入力 正徹 (xxx)

結ふこそさそははおちめ袖の露いたたく霜の秋の初風

むすふこそ−さそははおちめ−そてのつゆ−いたたくしもの−あきのはつかせ


03216
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音たえす吹上になひく真砂さへ心やくたく秋のはつ風

おとたえす−ふきあけになひく−まさこさへ−こころやくたく−あきのはつかせ


03217
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秋とたに青葉の山はかはらぬに身にしむ声のかもの川かせ

あきとたに−あをはのやまは−かはらぬに−みにしむこゑの−かものかはかせ


03218
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ささ分くる道ならなくに都人声さわかしきあきのはつ風

ささわくる−みちならなくに−みやこひと−こゑさわかしき−あきのはつかせ


03219
未入力 正徹 (xxx)

秋にふくきそちの風のはふりこもすきまいとはぬ風や涼しき

あきにふく−きそちのかせの−はふりこも−すきまいとはぬ−かせやすすしき


03220
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ほのかにも麓のを花雲のなみたつ舟岡の秋のはつかせ

ほのかにも−ふもとのをはな−くものなみ−たつふなをかの−あきのはつかせ


03221
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後にこむ冬の心のいそけはやあまり涼しき秋のはつ風

のちにこむ−ふゆのこころの−いそけはや−あまりすすしき−あきのはつかせ


03222
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今もうしみそきにすてしあさちふの残おほかる秋の初かせ

いまもうし−みそきにすてし−あさちふの−のこりおほかる−あきのはつかせ


03223
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なか月のすゑ吹きかはり身にさむし涙しくるる秋のはつかせ

なかつきの−すゑふきかはり−みにさむし−なみたしくるる−あきのはつかせ


03224
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木のもとはいつくをとふも身につるる老その杜の秋の初風

このもとは−いつくをとふも−みにつるる−おいそのもりの−あきのはつかせ


03225
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身にとひて心に秋をしることは風よりはやき朝明の床

みにとひて−こころにあきを−しることは−かせよりはやき−あさあけのとこ


03226
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天乙女引くや玉琴秋風のしらへそかよふとほ山の松

あまをとめ−ひくやたまこと−あきかせの−しらへそかよふ−とほやまのまつ


03227
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秋のくる音をそはこふ石見かた松も高津の沖つ塩風

あきのくる−おとをそはこふ−いはみかた−まつもたかつの−おきつしほかせ


03228
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七夕の雲路秋たつことのねに先かよふらし嶺の松かせ

たなはたの−くもちあきたつ−ことのねに−まつかよふらし−みねのまつかせ


03229
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くる秋も分くるかをきのはつ嵐ふけは影入る閨の三か月

くるあきも−わくるかをきの−はつあらし−ふけはかけいる−ねやのみかつき


03230
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草も木もとふらむ秋の初嵐松そこたふる千世へたりとて

くさもきも−とふらむあきの−はつあらし−まつそこたふる−ちよへたりとて


03231
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夕日影さすかなひくか涼しきは雲のはたての秋の初かせ

ゆふひかけ−さすかなひくか−すすしきは−くものはたての−あきのはつかせ


03232
未入力 正徹 (xxx)

天つ風おちくる袖そしほたるる雲の浪分け秋や立つらん

あまつかせ−おちくるそてそ−しほたるる−くものなみわけ−あきやたつらむ


03233
未入力 正徹 (xxx)

涼しくもゆふつけて行く秋の日の色そ梢のうすき紅葉は

すすしくも−ゆふつけてゆく−あきのひの−いろそこすゑの−うすきもみちは


03234
未入力 正徹 (xxx)

いつしかに昨日の夏を風かはる衣も秋もへたててそおもふ

いつしかに−きのふのなつを−かせかはる−ころももあきも−へたててそおもふ


03235
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けふも猶昨日のままの夏衣かろきやかはる秋のはつかせ

けふもなほ−きのふのままの−なつころも−かろきやかはる−あきのはつかせ


03236
未入力 正徹 (xxx)

身にとまる秋の思ひを蝉のはの袖にたまらぬ露のしら玉

みにとまる−あきのおもひを−せみのはの−そてにたまらぬ−つゆのしらたま


03237
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吹きかへしうらめつらしき程もみす衣のすその秋の初風

ふきかへし−うらめつらしき−ほともみす−ころものすその−あきのはつかせ


03238
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夏衣けさ身にかろく風たちてあさのをからにかへる秋かな

なつころも−けさみにかろく−かせたちて−あさのをからに−かへるあきかな


03239
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日をかさね一葉つつちる木の本を秋風たたむ扇にそしる

ひをかさね−ひとはつつちる−このもとを−あきかせたたむ−あふきにそしる


03240
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風ならぬこゑにそ秋をしらせける一葉もおつる桐のはの雨

かせならぬ−こゑにそあきを−しらせける−ひとはもおつる−きりのはのあめ


03241
未入力 正徹 (xxx)

軒ふかき夕日かくれは山ならぬ家ゐも涼し秋のはつ風

のきふかき−ゆふひかくれは−やまならぬ−いへゐもすすし−あきのはつかせ


03242
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うき雲にほのみか月のまゆ篭いふせくもあるか秋の遠山

うきくもに−ほのみかつきの−まゆこもり−いふせくもあるか−あきのとほやま


03243
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下荻も初風ならす夕暮に秋をそへたるみか月のかけ

したをきも−はつかせならす−ゆふくれに−あきをそへたる−みかつきのかけ


03244
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たちそむる雲の衣の秋風はよそなる月も身にやしむらん

たちそむる−くものころもの−あきかせは−よそなるつきも−みにやしむらむ


03245
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秋きての草木の上はしらねとも月に色つくよものしら露

あききての−くさきのうへは−しらねとも−つきにいろつく−よものしらつゆ


03246
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秋の色もあるかなきかの三か月の影吹きはらふ荻のうは風

あきのいろも−あるかなきかの−みかつきの−かけふきはらふ−をきのうはかせ


03247
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空は猶涼しくなりぬくる秋のはつ風吹きて三日の夜の月

そらはなほ−すすしくなりぬ−くるあきの−はつかせふきて−みかのよのつき


03248
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よひのまの雲の浪ちによる月の舟のりしてや秋はきぬらん

よひのまの−くものなみちに−よるつきの−ふなのりしてや−あきはきぬらむ


03249
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天の川うかひそ出つる月の舟あすわたるへき瀬やならすらん

あまのかは−うかひそいつる−つきのふね−あすわたるへき−せやならすらむ


03250
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吹きかはる風はありとも荻なくはなににか秋の声をからまし

ふきかはる−かせはありとも−をきなくは−なににかあきの−こゑをからまし


03251
未入力 正徹 (xxx)

秋の声を聞きわく人のためにこそやかてもうけれ荻の初風

あきのこゑを−ききわくひとの−ためにこそ−やかてもうけれ−をきのはつかせ


03252
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をきのはに入りたつ風の心にもうき秋しるや露こほるらん

をきのはに−いりたつかせの−こころにも−うきあきしるや−つゆこほるらむ


03253
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夏過きぬ風ふかぬまの荻のはとははや秋の声やこもれる

なつすきぬ−かせふかぬまの−をきのはに−とははやあきの−こゑやこもれる


03254
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吹きみたす岩もと薄うこきなき所もしらぬ秋の初風

ふきみたす−いはもとすすき−うこきなき−ところもしらぬ−あきのはつかせ


03255
未入力 正徹 (xxx)

みたれにしもとの心の花薄又ほにいてむ秋のはつかせ

みたれにし−もとのこころの−はなすすき−またほにいてむ−あきのはつかせ


03256
未入力 正徹 (xxx)

はらふなよすそ野の露の玉匣あくるさ山の秋の初風

はらふなよ−すそののつゆの−たまくしけ−あくるさやまの−あきのはつかせ


03257
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吹く風も山をおしなみくる秋にしられぬ軒の草かくれつつ

ふくかせも−やまをおしなみ−くるあきに−しられぬのきの−くさかくれつつ


03258
未入力 正徹 (xxx)

時をえて風さへ秋にうつりくる宮古の宿はいまや住みよき

ときをえて−かせさへあきに−うつりくる−みやこのやとは−いまやすみよき


03259
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秋はきぬ嶺の葛葉の夕嵐おろす岡辺の松にうらみて

あきはきぬ−みねのくすはの−ゆふあらし−おろすをかへの−まつにうらみて


03260
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から崎や松に吹くさへくる秋の色しほしまぬにほのうらかせ

からさきや−まつにふくさへ−くるあきの−いろしほしまぬ−にほのうらかせ


03261
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七夕のいそくやいつこ川岸の一葉そはやく舟出してける

たなはたの−いそくやいつこ−かはきしの−ひとはそはやく−ふなてしてける


03262
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いくさとを過きこし袖にかはるらん道行ふりの秋のはつ風

いくさとを−すきこしそてに−かはるらむ−みちゆきふりの−あきのはつかせ


03263
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わきてけふ身にしみまさるおともなしいつもうき世の秋の初風

わきてけふ−みにしみまさる−おともなし−いつもうきよの−あきのはつかせ


03264
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置きなれしたもとの露の身にしむも今さらならぬ秋の初かせ

おきなれし−たもとのつゆの−みにしむも−いまさらならぬ−あきのはつかせ


03265
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露はらふまた初風も秋ふかく身にほおほゆる老の袖かな

つゆはらふ−またはつかせも−あきふかく−みにほおほゆる−おいのそてかな


03266
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たえすうき老の心は去年よりもよわるにまさる秋の初風

たえすうき−おいのこころは−こそよりも−よわるにまさる−あきのはつかせ


03267
未入力 正徹 (xxx)

猶そうき老を心にのとめても身をせめきたる秋のはつかせ

なほそうき−おいをこころに−のとめても−みをせめきたる−あきのはつかせ


03268
未入力 正徹 (xxx)

露や知る思ひしことにかすこえて猶身をしはる秋のはつ風

つゆやしる−おもひしことに−かすこえて−なほみをしはる−あきのはつかせ


03269
未入力 正徹 (xxx)

咲きてちる思ひの色そかはりくる春の一花秋の一葉に

さきてちる−おもひのいろそ−かはりくる−はるのひとはな−あきのひとはに


03270
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都にもたえぬ日はなし久かたの天の川原の秋のはつ風

みやこにも−たえぬひはなし−ひさかたの−あまのかはらの−あきのはつかせ


03271
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庭たつみ柳のかけの一葉身こき出ててくる秋のはつかせ

にはたつみ−やなきのかけの−ひとはふね−こきいててくる−あきのはつかせ


03272
未入力 正徹 (xxx)

秋風そわつかにそよくささかにの糸もみたれぬ軒の下荻

あきかせそ−わつかにそよく−ささかにの−いともみたれぬ−のきのしたをき


03273
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にほふなり色を六種に分けくれはこと葉の花の秋のはつかせ

にほふなり−いろをむくさに−わけくれは−ことはのはなの−あきのはつかせ


03274
未入力 正徹 (xxx)

白露も扇もおきてとる梶にむすひし夢をおくる秋風

しらつゆも−あふきもおきて−とるかちに−むすひしゆめを−おくるあきかせ


03275
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みをつくし浪をたつきの山風に一はそしるし秋の舟のり

みをつくし−なみをたつきの−やまかせに−ひとはそしるし−あきのふなのり


03276
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秋の水ささけもちてや年ことに御手洗の夜の御戸ひらくらん

あきのみつ−ささけもちてや−としことに−みたらしのよの−みとひらくらむ


03277
未入力 正徹 (xxx)

袖にさへ心かはりの秋風に露も草木やうれへそむらん

そてにさへ−こころかはりの−あきかせに−つゆもくさきや−うれへそむらむ


03278
未入力 正徹 (xxx)

さやかなる夕日させとも時つ風西より吹けは秋そ涼しき

さやかなる−ゆふひさせとも−ときつかせ−にしよりふけは−あきそすすしき


03279
未入力 正徹 (xxx)

天の川またき紅葉の橋守にこととひわたる秋のはつかせ

あまのかは−またきもみちの−はしもりに−こととひわたる−あきのはつかせ


03280
未入力 正徹 (xxx)

ひろき世の木の本ことに一葉つつ散るもいくらそ秋のはつ風

ひろきよの−このもとことに−ひとはつつ−ちるもいくらそ−あきのはつかせ


03281
未入力 正徹 (xxx)

秋はきて世のうきさまに聞ゆとも思ひもいれしよもの初かせ

あきはきて−よのうきさまに−きこゆとも−おもひもいれし−よものはつかせ


03282
未入力 正徹 (xxx)

西ふけは人の心も涼しきや彼国よりの秋のはつかせ

にしふけは−ひとのこころも−すすしきや−かのくによりの−あきのはつかせ


03283
未入力 正徹 (xxx)

めに見えぬ風はきこえていつくより音せぬ露の結ひきぬらん

めにみえぬ−かせはきこえて−いつくより−おとせぬつゆの−むすひきぬらむ


03284
未入力 正徹 (xxx)

わか心わすれね秋はきにけりとおもふよりこそうきをあつむれ

わかこころ−わすれねあきは−きにけりと−おもふよりこそ−うきをあつむれ


03285
未入力 正徹 (xxx)

消ちわひぬうき世中の哀をもおほくみすくす秋の初風

けちわひぬ−うきよのなかの−あはれをも−おほくみすくす−あきのはつかせ


03286
未入力 正徹 (xxx)

はちすはに露をちらさぬ宿もあらし哀秋きて望月の比

はちすはに−つゆをちらさぬ−やともあらし−あはれあききて−もちつきのころ


03287
未入力 正徹 (xxx)

今朝のまに秋をのせくるを舟とや一葉も風の便まちけん

けさのまに−あきをのせくる−をふねとや−ひとはもかせの−たよりまちけむ


03288
未入力 正徹 (xxx)

秋ははや桐のはおつる軒はとてよそにやはみん梶の下風

あきははや−きりのはおつる−のきはとて−よそにやはみむ−かちのしたかせ


03289
未入力 正徹 (xxx)

梢より先しる物や下荻の葉もちらぬ秋のはつかせ

こすゑより−まつしるものや−したをきの−ひとはもちらぬ−あきのはつかせ


03290
未入力 正徹 (xxx)

吹く風のおとにしれとは荻のはのいつれの秋か契りそめけん

ふくかせの−おとにしれとは−をきのはの−いつれのあきか−ちきりそめけむ


03291
未入力 正徹 (xxx)

いく里のあかつき露にたちぬれて朝戸あけよと秋のきぬらん

いくさとの−あかつきつゆに−たちぬれて−あさとあけよと−あきのきぬらむ


03292
未入力 正徹 (xxx)

秋の風けさはかくこそはらふらめおなし草木のもろこしの露

あきのかせ−けさはかくこそ−はらふらめ−おなしくさきの−もろこしのつゆ


03293
未入力 正徹 (xxx)

しをれつつ袖そ待ちとる空にして露ふく風の秋のおとつれ

しをれつつ−そてそまちとる−そらにして−つゆふくかせの−あきのおとつれ


03294
未入力 正徹 (xxx)

わか袖のふるき露のみ消えやらて又結ひくる秋にあふかな

わかそての−ふるきつゆのみ−きえやらて−またむすひくる−あきにあふかな


03295
未入力 正徹 (xxx)

あらためて結ふもしらす露はまたふるき袖とふ秋の初風

あらためて−むすふもしらす−つゆはまた−ふるきそてとふ−あきのはつかせ


03296
未入力 正徹 (xxx)

花もはも草木をかさる露の玉みかきいたせる秋のはつかせ

はなもはも−くさきをかさる−つゆのたま−みかきいたせる−あきのはつかせ


03297
未入力 正徹 (xxx)

光あれや心の泉秋かけてむすひつらぬる玉のことのは

ひかりあれや−こころのいつみ−あきかけて−むすひつらぬる−たまのことのは


03298
未入力 正徹 (xxx)

草木にもいたりいたらぬ秋やこれ結ふ露さへむら雨の空

くさきにも−いたりいたらぬ−あきやこれ−むすふつゆさへ−むらさめのそら


03299
未入力 正徹 (xxx)

風もいま秋たつにしの山のはに雲十さ涼しき三か月の影

かせもいま−あきたつにしの−やまのはに−くもますすしき−みかつきのかけ


03300
未入力 正徹 (xxx)

夏と秋と二かみ山の朝鴬におきわかれてや風も身にしむ

なつとあきと−ふたかみやまの−あさつゆに−おきわかれてや−かせもみにしむ


03301
未入力 正徹 (xxx)

あふけとやこのかも山の神風に涼しき秋も世におほふらん

あふけとや−このかもやまの−かみかせに−すすしきあきも−よにおほふらむ


03302
未入力 正徹 (xxx)

うき雲もいささおしなみさわくなり深山吹きこす秋のはつ風

うきくもも−いささおしなみ−さわくなり−みやまふきこす−あきのはつかせ


03303
未入力 正徹 (xxx)

時しもあれ夏の後せの山風や松に千秋のこゑ向ふらん

ときしもあれ−なつののちせの−やまかせや−まつにちあきの−こゑむかふらむ


03304
未入力 正徹 (xxx)

秋も先都にきてや吹きかはる風の便を四方にたつらむ

あきもまつ−みやこにきてや−ふきかはる−かせのたよりを−よもにたつらむ


03305
未入力 正徹 (xxx)

わきてけふたちくる風も秋草の花の都の野へやとふらん

わきてけふ−たちくるかせも−あきくさの−はなのみやこの−のへやとふらむ


03306
未入力 正徹 (xxx)

賀茂川やみそきにすてし麻のはのかはらぬ色に秋風そ吹く

かもかはや−みそきにすてし−あさのはの−かはらぬいろに−あきかせそふく


03307
未入力 正徹 (xxx)

興つ風西ふく浪そ音かはる海の宮古も秋やたつらん

おきつかせ−にしふくなみそ−おとかはる−うみのみやこも−あきやたつらむ


03308
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塩ならぬ日影のさして行く舟も浪ち涼しきにほの秋かせ

しほならぬ−ひかけのさして−ゆくふねも−なみちすすしき−にほのあきかせ


03309
未入力 正徹 (xxx)

ささ浪の音さへ涼し箱根山秋に明行くみねの松かせ

ささなみの−おとさへすすし−はこねやま−あきにあけゆく−みねのまつかせ


03310
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露なからわさ田のほなみかつみえて秋をよせくるふるの山かせ

つゆなから−わさたのほなみ−かつみえて−あきをよせくる−ふるのやまかせ


03311
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庭の松軒のかけひにつたひきて涼しくおつる嶺の秋風

にはのまつ−のきのかけひに−つたひきて−すすしくおつる−みねのあきかせ


03312
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見し月も先夏の夜の霜とけて結ふか秋のま砂ちの露

みしつきも−まつなつのよの−しもとけて−むすふかあきの−まさこちのつゆ


03313
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秋はきぬさらはなへての露やおくとへとしら玉うすけ乱れて

あきはきぬ−さらはなへての−つゆやおく−とへとしらたま−うすけみたれて


03314
未入力 正徹 (xxx)

秋はきぬ去年の草木の夕露も根にかへりしや又のほるらん

あきはきぬ−こそのくさきの−ゆふつゆも−ねにかへりしや−またのほるらむ


03315
未入力 正徹 (xxx)

やとりをは草とも木とも露やまた思ひさためぬ秋の初風

やとりをは−くさともきとも−つゆやまた−おもひさためぬ−あきのはつかせ


03316
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秋もはや草葉吹きほす初風にわか袖たのむ宿の朝露

あきもはや−くさはふきほす−はつかせに−わかそてたのむ−やとのあさつゆ


03317
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袂にそ先うつりくる朝てあらふ露のぬきすの秋のはつ風

たもとにそ−まつうつりくる−あさてあらふ−つゆのぬきすの−あきのはつかせ


03318
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松たてる本あらの露の玉ゆらにかかる荻原秋そ見え行く

まつたてる−もとあらのつゆの−たまゆらに−かかるをきはら−あきそみえゆく


03319
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風も猶のこすか荻の一もとにこゑかる秋のおもふことのは

かせもなほ−のこすかをきの−ひともとに−こゑかるあきの−おもふことのは


03320
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草も木もまた白露の入日影秋に色つく西の山のは

くさもきも−またしらつゆの−いりひかけ−あきにいろつく−にしのやまのは


03321
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天つ風今朝や涼しき乙女子か秋の衣の雲のかよひち

あまつかせ−けさやすすしき−をとめこか−あきのころもの−くものかよひち


03322
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天つ風秋たつ暮や猶もろき一葉のさきにおつる雨かな

あまつかせ−あきたつくれや−なほもろき−ひとはのさきに−おつるあめかな


03323
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音たつる雨のみ落ちて一葉たにまたもろからぬ桐の朝風

おとたつる−あめのみおちて−ひとはたに−またもろからぬ−きりのあさかせ


03324
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雲さそふ初秋風にふる雨の時雨はそれも木からしの声

くもさそふ−はつあきかせに−ふるあめの−しくれはそれも−こからしのこゑ


03325
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うきものとくるをいとひし人ゆゑや秋も身をしる夕暮の雨

うきものと−くるをいとひし−ひとゆゑや−あきもみをしる−ゆふくれのあめ


03326
未入力 正徹 (xxx)

風涼し草木を分けてくる秋もまたむら雨の露の下行

かせすすし−くさきをわけて−くるあきも−またむらさめの−つゆのしたみち


03327
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猶涼し雨にたもとをまかすれはぬれての後の秋の初風

なほすすし−あめにたもとを−まかすれは−ぬれてののちの−あきのはつかせ


03328
未入力 正徹 (xxx)

わかるへき日数なりけり手を折りてあひみしよりの秋のうきふし

わかるへき−ひかすなりけり−てををりて−あひみしよりの−あきのうきふし


03329
未入力 正徹 (xxx)

行く秋はあすの衣の新わたを中にへたつる日数たになし

ゆくあきは−あすのころもの−にひわたを−なかにへたつる−ひかすたになし


03330
未入力 正徹 (xxx)

むかしみき篠をかさしてまふ人の神おくりせし出雲八重垣

むかしみき−ささをかさして−まふひとの−かみおくりせし−いつもやへかき


03331
未入力 正徹 (xxx)

あくるまを朝たちかねて暮るる日にいつくとまりと秋の行くらん

あくるまを−あさたちかねて−くるるひに−いつくとまりと−あきのゆくらむ


03332
未入力 正徹 (xxx)

風なから西よりたちし秋なれは入日にかへるところなるらん

かせなから−にしよりたちし−あきなれは−いりひにかへる−ところなるらむ


03333
未入力 正徹 (xxx)

わかさりきいかなる秋の雲つきて冬の紅葉にあすはしくれん

わかさりき−いかなるあきの−くもつきて−ふゆのもみちに−あすはしくれむ


03334
未入力 正徹 (xxx)

たたいまの夕の雲やかへる秋しくれてきえね山のこなたに

たたいまの−ゆふへのくもや−かへるあき−しくれてきえね−やまのこなたに


03335
未入力 正徹 (xxx)

長月や夕をかけて吹く風のめにみぬ秋もかへる雲かな

なかつきや−ゆふへをかけて−ふくかせの−めにみぬあきも−かへるくもかな


03336
未入力 正徹 (xxx)

今はとてわかるる秋の袖もあらはなほこのくれを引きやととめん

いまはとて−わかるるあきの−そてもあらは−なほこのくれを−ひきやととめむ


03337
未入力 正徹 (xxx)

秋をしる風のあるしといまそなるすすみなれにし杜の夕陰

あきをしる−かせのあるしと−いまそなる−すすみなれにし−もりのゆふかけ


03338
未入力 正徹 (xxx)

袖涼し岩まの水の秋の露風に心をあはせてそちる

そてすすし−いはまのみつの−あきのつゆ−かせにこころを−あはせてそちる


03339
未入力 正徹 (xxx)

おきやらてとるかはほりもぬるからす身におほゆるや秋のはつ風

おきやらて−とるかはほりも−ぬるからす−みにおほゆるや−あきのはつかせ


03340
未入力 正徹 (xxx)

身にとほる程こそなけれうす衣袖の日影をはらふ秋風

みにとほる−ほとこそなけれ−うすころも−そてのひかけを−はらふあきかせ


03341
未入力 正徹 (xxx)

いかか吹くむすひし水に袖ふれて夏なき年の秋のはつかせ

いかかふく−むすひしみつに−そてふれて−なつなきとしの−あきのはつかせ


03342
未入力 正徹 (xxx)

山風そ昨日にも似ぬ秋にたにしられしと思ふ木かくれの宿

やまかせそ−きのふにもにぬ−あきにたに−しられしとおもふ−こかくれのやと


03343
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音もせす庵は山の岩かくれ苔路たちくる秋のはつ風

おともせす−いほりはやまの−いはかくれ−こけちたちくる−あきのはつかせ


03344
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尋ねこん秋たにしらぬ露の宿今朝そひもとく百草の花

たつねこむ−あきたにしらぬ−つゆのやと−けさそひもとく−ももくさのはな


03345
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秋の風まつ荻のほにたちよりて四方の草木につけねとそ吹く

あきのかせ−まつをきのほに−たちよりて−よものくさきに−つけねとそふく


03346
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秋になる風の初こゑ聞ゆなりのちに一はのちるはなくとも

あきになる−かせのはつこゑ−きこゆなり−のちにひとはの−ちるはなくとも


03347
未入力 正徹 (xxx)

空ふくはしられぬ物と尋ねきて荻に声かる秋のはつかせ

そらふくは−しられぬものと−たつねきて−をきにこゑかる−あきのはつかせ


03348
未入力 正徹 (xxx)

たかためにやますも秋をしたふらん木をうこかさぬ秋のはつかせ

たかために−やますもあきを−したふらむ−きをうこかさぬ−あきのはつかせ


03349
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とことはの心に秋を又告けてたもとにおもる風のしら露

とことはの−こころにあきを−またつけて−たもとにおもる−かせのしらつゆ


03350
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一葉舟うかふや嶺の木すゑより秋を吹きこす雲の波風

ひとはふね−うかふやみねの−こすゑより−あきをふきこす−くものなみかせ


03351
未入力 正徹 (xxx)

草も木も友にそなひくおしなへて露と風とに秋や立つらん

くさもきも−ともにそなひく−おしなへて−つゆとかせとに−あきやたつらむ


03352
未入力 正徹 (xxx)

みるままにむなしき空の秋の風さはる声なき雲そ身にしむ

みるままに−むなしきそらの−あきのかせ−さはるこゑなき−くもそみにしむ


03353
未入力 正徹 (xxx)

あはらやに山かつのあさてほすはつきの嵐身にやしむらん

あはらやに−すむやまかつの−あさてほす−はつきのあらし−みにやしむらむ


03354
未入力 正徹 (xxx)

身ひとつの物とこたへん吹く風もうきはたれその秋の夕くれ

みひとつの−ものとこたへむ−ふくかせも−うきはたれその−あきのゆふくれ


03355
未入力 正徹 (xxx)

たえすうき此夕くれも秋風の身はのこれとや吹きよわるらん

たえすうき−このゆふくれも−あきかせの−みはのこれとや−ふきよわるらむ


03356
未入力 正徹 (xxx)

いつくにも夕の色はいたるともうき宿のこせ秋のむら風

いつくにも−ゆふへのいろは−いたるとも−うきやとのこせ−あきのむらかせ


03357
未入力 正徹 (xxx)

秋のかせたもとにみてる夕くれの涙こきませ露そ身にしむ

あきのかせ−たもとにみてる−ゆふくれの−なみたこきませ−つゆそみにしむ


03358
未入力 正徹 (xxx)

心なきあまの家居も秋風になりて思ひやおほのうらなし

こころなき−あまのいへゐも−あきかせに−なりておもひや−おほのうらなし


03359
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ふみ分けぬならの落葉もふるき世の国の都に秋風そ吹く

ふみわけぬ−ならのおちはも−ふるきよの−くにのみやこに−あきかせそふく


03360
未入力 正徹 (xxx)

なひきふす荻のみありと人そ見ん風にしかるる山の下庵

なひきふす−をきのみありと−ひとそみむ−かせにしかるる−やまのしたいほ


03361
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知るしらす遠きをのへの松にとへふりにし人を宿の秋かせ

しるしらす−とほきをのへの−まつにとへ−ふりにしひとを−やとのあきかせ


03362
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さよ衣二のほしの天つひれふるき秋にやかさねそめけん

さよころも−ふたつのほしの−あまつひれ−ふるきあきにや−かさねそめけむ


03363
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御舟こく天に川との明ほのにかちをかくさぬあとのしら浪

みふねこく−あまのかはとの−あけほのに−かちをかくさぬ−あとのしらなみ


03364
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人の世のさらぬわかれを七夕のなかき契にいく度か見ん

ひとのよの−さらぬわかれを−たなはたの−なかきちきりに−いくたひかみむ


03365
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手をたゆく織るとはすれと七夕になほ衣かすけふのもろ人

てをたゆく−おるとはすれと−たなはたに−なほころもかす−けふのもろひと


03366
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てもたゆき五百はた衣七夕のかく数数になにいそくらん

てもたゆき−いほはたころも−たなはたの−かくかすかすに−なにいそくらむ


03367
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いくとせかならひきぬらむ七夕の秋さり衣さらぬわかれに

いくとせか−ならひきぬらむ−たなはたの−あきさりころも−さらぬわかれに


03368
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なかきをに契や結ふ玉手箱二のほしのあふさきるさを

なかきをに−ちきりやむすふ−たまてはこ−ふたつのほしの−あふさきるさを


03369
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今夜よも二のほしの水もらぬ中はへたてし天の川霧

こよひよも−ふたつのほしの−みつもらぬ−なかはへたてし−あまのかはきり


03370
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七夕にわかれのほしもよこ雲の車引きいつるしののめやうき

たなはたに−わかれのほしも−よこくもの−くるまひきいつる−しののめやうき


03371
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待ちとほき年にはたへて天つ星けふのくれ行くほとや久しき

まちとほき−としにはたへて−あまつほし−けふのくれゆく−ほとやひさしき


03372
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遠かりし一とせよりも七夕のくるるをまつや千世もへぬらん

とほかりし−ひととせよりも−たなはたの−くるるをまつや−ちよもへぬらむ


03373
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よりくるをまつらか興になりにけり心つくしの天の川舟

よりくるを−まつらかおきに−なりにけり−こころつくしの−あまのかはふね


03374
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いそけ星秋たつ天の川長もつくり出さぬ月の御舟を

いそけほし−あきたつあまの−かはをさも−つくりいたさぬ−つきのみふねを


03375
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七夕のあふ夜の床の天つ風まれにや雲のちりはらふらん

たなはたの−あふよのとこの−あまつかせ−まれにやくもの−ちりはらふらむ


03376
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ゆふ浪にほしのやとりを尋ねてもむかふかあまの川上の雲

ゆふなみに−ほしのやとりを−たつねても−むかふかあまの−かはかみのくも


03377
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くるる夜の舟まちかねて七夕の雲のひれふる天の川岸

くるるよの−ふねまちかねて−たなはたの−くものひれふる−あまのかはきし


03378
未入力 正徹 (xxx)

七夕の妻まつけふの夕くれにいふせさそふるあまの川きり

たなはたの−つままつけふの−ゆふくれに−いふせさそふる−あまのかはきり


03379
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たちかくせ妻むかへ舟よりきてもまた夜にならす天の川霧

たちかくせ−つまむかへふね−よりきても−またよにならす−あまのかはきり


03380
未入力 正徹 (xxx)

さす花のかさしもひれも錦たつ露のまきれの天つ川かせ

さすはなの−かさしもひれも−にしきたつ−つゆのまきれの−あまつかはかせ


03381
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織女のおるや五百はたたてぬきは露霜しらぬ天のはころも

たなはたの−おるやいほはた−たてぬきは−つゆしもしらぬ−あまのはころも


03382
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河橋やかへるなみたのむら雨にぬれて星合の秋の紅葉は

かははしや−かへるなみたの−むらさめに−ぬれてほしあひの−あきのもみちは


03383
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君に行く綱手もいそけ川浪にはやのりうけぬ天の岩舟

きみにゆく−つなてもいそけ−かはなみに−はやのりうけぬ−あめのいはふね


03384
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星やけふつくりおきけん久かたの天つ神代の天の川はし

ほしやけふ−つくりおきけむ−ひさかたの−あまつかみよの−あまのかははし


03385
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此夕ふりさけみれは雲はれて先星きよし天の川風

このゆふへ−ふりさけみれは−くもはれて−まつほしきよし−あまのかはかせ


03386
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よひのまに渡りて月の舟なかせえやはかへらん天の川浪

よひのまに−わたりてつきの−ふねなかせ−えやはかへらむ−あまのかはなみ


03387
未入力 正徹 (xxx)

天の河わたりし月の舟なかしこきもかへらてなとわかるらん

あまのかは−わたりしつきの−ふねなかし−こきもかへらて−なとわかるらむ


03388
未入力 正徹 (xxx)

あまの川こえつる月の舟なかし別や星のかちわたりせん

あまのかは−こえつるつきの−ふねなかし−わかれやほしの−かちわたりせむ


03389
未入力 正徹 (xxx)

つれもなき星も心やうつすらん思ひよわれる秋の日かけを

つれもなき−ほしもこころや−うつすらむ−おもひよわれる−あきのひかけを


03390
未入力 正徹 (xxx)

かちの葉におきけるものをよしやさは水かけ草の露の玉つさ

かちのはに−おきけるものを−よしやさは−みつかけくさの−つゆのたまつさ


03391
未入力 正徹 (xxx)

空にさへねかひの糸を引く雲のほそきや綱手天の川舟

そらにさへ−ねかひのいとを−ひくくもの−ほそきやつなて−あまのかはふね


03392
未入力 正徹 (xxx)

行きめくるあふせや遠き七夕の車をあらふ秋の川水

ゆきめくる−あふせやとほき−たなはたの−くるまをあらふ−あきのかはみつ


03393
未入力 正徹 (xxx)

あまの川今朝足よわきを車をあらふもつらくかへる浪かな

あまのかは−けさあしよわき−をくるまを−あらふもつらく−かへるなみかな


03394
未入力 正徹 (xxx)

天つ空けさ露とらぬ玉章をかくやわかれの涙なるらん

あまつそら−けさつゆとらぬ−たまつさを−かくやわかれの−なみたなるらむ


03395
未入力 正徹 (xxx)

七夕の雲の車はあらふへき輪たちの塵もあらし河なみ

たなはたの−くものくるまは−あらふへき−わたちのちりも−あらしかはなみ


03396
未入力 正徹 (xxx)

星合の露の玉ゆかけさはまたつもらぬちりのたてる名やうき

ほしあひの−つゆのたまゆか−けさはまた−つもらぬちりの−たてるなやうき


03397
未入力 正徹 (xxx)

七夕の待つや夕もいそかれす先うき秋にむかふ心は

たなはたの−まつやゆふへも−いそかれす−まつうきあきに−むかふこころは


03398
未入力 正徹 (xxx)

此夕にほへる雲やほし合の空たきものの煙なるらん

このゆふへ−にほへるくもや−ほしあひの−そらたきものの−けふりなるらむ


03399
未入力 正徹 (xxx)

露結ふ此手拍もうらなくやふたつの星の影うつすらん

つゆむすふ−このてかしはも−うらなくや−ふたつのほしの−かけうつすらむ


03400
未入力 正徹 (xxx)

たき初めよけふ星合の浜ひさしさして夜をまつあまのいさり火

たきそめよ−けふほしあひの−はまひさし−さしてよをまつ−あまのいさりひ


03401
未入力 正徹 (xxx)

かへりてはむなしき浪に七夕のあふ衣かさねよ浦のはまゆふ

かへりては−むなしきなみに−たなはたの−あふよかさねよ−うらのはまゆふ


03402
未入力 正徹 (xxx)

天つ星ささ分くる露や仙人の千ひろの竹のすゑはなるらん

あまつほし−ささわくるつゆや−やまひとの−ちひろのたけの−すゑはなるらむ


03403
未入力 正徹 (xxx)

今夜あふほしか川辺に影なひく芦屋の里にすくる蛍は

こよひあふ−ほしかかはへに−かけなひく−あしやのさとに−すくるほたるは


03404
未入力 正徹 (xxx)

星のためあらふ硯も紫の色こき程のことのはもかな

ほしのため−あらふすすりも−むらさきの−いろこきほとの−ことのはもかな


03405
未入力 正徹 (xxx)

ほしのかけなかれて水もめくりあふ今夜そしるや天の川島

ほしのかけ−なかれてみつも−めくりあふ−こよひそしるや−あまのかはしま


03406
未入力 正徹 (xxx)

いかてけふわか時えたる梶の木の枝もまはらにもとつ葉もなき

いかてけふ−わかときえたる−かちのきの−えたもまはらに−もとつはもなき


03407
未入力 正徹 (xxx)

七夕の玉のかさしにさす櫛もおちてぬる夜や心とくらん

たなはたの−たまのかさしに−さすくしも−おちてぬるよや−こころとくらむ


03408
未入力 正徹 (xxx)

おちそせん七夕つめのくろかみにさすや別のくしも涙も

おちそせむ−たなはたつめの−くろかみに−さすやわかれの−くしもなみたも


03409
未入力 正徹 (xxx)

彦ほしのひれふりはへてくるならん夕の空になひく白露

ひこほしの−ひれふりはへて−くるならむ−ゆふへのそらに−なひくしらつゆ


03410
未入力 正徹 (xxx)

八十瀬こく舟路あさくほひこ星にかさはや天の川原毛の駒

やそせこく−ふなちあさくほ−ひこほしに−かさはやあまの−かはらけのこま


03411
未入力 正徹 (xxx)

七夕のたもとに落ちてささかにのあさ引く糸のくるるまてとや

たなはたの−たもとにおちて−ささかにの−あさひくいとの−くるるまてとや


03412
未入力 正徹 (xxx)

わか中の契はしらすさをしかの上毛かはらぬほし合のころ

わかなかの−ちきりはしらす−さをしかの−うはけかはらぬ−ほしあひのころ


03413
未入力 正徹 (xxx)

星合の道とししらは獣の雲にはほえしさ夜ふけぬとも

ほしあひの−みちとししらは−けたものの−くもにはほえし−さよふけぬとも


03414
未入力 正徹 (xxx)

かるもかくふすゐの床に玉のゆか思へはほしもかりの契を

かるもかく−ふすゐのとこに−たまのゆか−おもへはほしも−かりのちきりを


03415
未入力 正徹 (xxx)

かり衣しくまにもあらて天つ星今夜にあふやえものなるらん

かりころも−しくまにもあらて−あまつほし−こよひにあふや−えものなるらむ


03416
未入力 正徹 (xxx)

人の世そくもる契を猶もまつ暮れぬにわたせ天の川ふね

ひとのよそ−くもるちきりを−なほもまつ−くれぬにわたせ−あまのかはふね


03417
未入力 正徹 (xxx)

七夕のあふ夜の窓に文をさへひもときおきてこよひかしつる

たなはたの−あふよのまとに−ふみをさへ−ひもときおきて−こよひかしつる


03418
未入力 正徹 (xxx)

いかたしも天のふみ木にしはしかせなれもそ星のあふ瀬しら浪

いかたしも−あめのふみきに−しはしかせ−なれもそほしの−あふせしらなみ


03419
未入力 正徹 (xxx)

くりいたす天つ織女の糸ならぬたかはた薄秋みたるらん

くりいたす−あまつたなはたの−いとならぬ−たかはたすすき−あきみたるらむ


03420
未入力 正徹 (xxx)

あやしくも舟そよりくる天の川風の心もほそき綱手に

あやしくも−ふねそよりくる−あまのかは−かせのこころも−ほそきつなてに


03421
未入力 正徹 (xxx)

天の川えやはまさらむ七夕の契むなしき雨ときけとも

あまのかは−えやはまさらむ−たなはたの−ちきりむなしき−あめときけとも


03422
未入力 正徹 (xxx)

人の世の思ひや空に浅からむ年に一夜を契るほしかな

ひとのよの−おもひやそらに−あさからむ−としにひとよを−ちきるほしかな


03423
未入力 正徹 (xxx)

なかれてのほしの契のはてもなく初もしらぬ天の川なみ

なかれての−ほしのちきりの−はてもなく−はしめもしらぬ−あまのかはなみ


03424
未入力 正徹 (xxx)

仙人の千ひろの竹の庭鳥や星の別の夜半を告くらん

やまひとの−ちひろのたけの−にはとりや−ほしのわかれの−よはをつくらむ


03425
未入力 正徹 (xxx)

くもりつる君か秋霧けふ晴れて千年まてみよ星合の空

くもりつる−きみかあききり−けふはれて−ちとせまてみよ−ほしあひのそら


03426
未入力 正徹 (xxx)

今夜あふ七夕つめにやとりさし天の川原にかかるたひ人

こよひあふ−たなはたつめに−やとりさし−あまのかはらに−かかるたひひと


03427
未入力 正徹 (xxx)

天の川うき木の亀のあひかたき御法の影を星にみるかな

あまのかは−うききのかめの−あひかたき−みのりのかけを−ほしにみるかな


03428
未入力 正徹 (xxx)

鵲の翅をほしの天の川ほしよりさきにわたる秋かせ

かささきの−つはさをほしの−あまのかは−ほしよりさきに−わたるあきかせ


03429
未入力 正徹 (xxx)

星合の橋ともかさぬかささきや宇治の川洲にねふり立つらん

ほしあひの−はしともかさぬ−かささきや−うちのかはすに−ねふりたつらむ


03430
未入力 正徹 (xxx)

ふけにけりねぬ夜の後の酉の日を鳴きてな告けそ星合の空

ふけにけり−ねぬよののちの−とりのひを−なきてなつけそ−ほしあひのそら


03431
未入力 正徹 (xxx)

七夕にしつかあさてもかけてかせは月なるへきのちのあしたそ

たなはたに−しつかあさても−かけてかせ−はつきなるへき−のちのあしたそ


03432
未入力 正徹 (xxx)

天の河去年のあさ瀬や忘るらんわたりわつらふ星のかけかな

あまのかは−こそのあさせや−わするらむ−わたりわつらふ−ほしのかけかな


03433
未入力 正徹 (xxx)

天の川なかれ初めにしむかしより契そたえぬ星合の空

あまのかは−なかれそめにし−むかしより−ちきりそたえぬ−ほしあひのそら


03434
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花もをし朝霧たつる玉くもる日影みかかぬ野へのしら露

はなもをし−あさきりたつる−たまくもる−ひかけみかかぬ−のへのしらつゆ


03435
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袖ならてかからむかたも七十にあまりて消えぬ露もうらめし

そてならて−かからむかたも−ななそちに−あまりてきえぬ−つゆもうらめし


03436
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袖をかる露は心にあるものをよそけにぬるる草のうへかな

そてをかる−つゆはこころに−あるものを−よそけにぬるる−くさのうへかな


03437
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秋草の露とこたふる風もなしたたしら玉をみかく月かけ

あきくさの−つゆとこたふる−かせもなし−たたしらたまを−みかくつきかけ


03438
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いく世まてふるのの小篠かからまし都のおくの秋の夕露

いくよまて−ふるののをささ−かからまし−みやこのおくの−あきのゆふつゆ


03439
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かかりけむ昔の秋の宮人もたもとや色にならのはの露

かかりけむ−むかしのあきの−みやひとも−たもとやいろに−ならのはのつゆ


03440
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さとはあれぬ露はむかしの秋かけて誰になれにし袖したふらん

さとはあれぬ−つゆはむかしの−あきかけて−たれになれにし−そてしたふらむ


03441
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たか世よりささ葉分けけんいそのかみ都の秋の夕くれの露

たかよより−ささはわけけむ−いそのかみ−みやこのあきの−ゆふくれのつゆ


03442
未入力 正徹 (xxx)

袖のみかはては草にもととまらす恨みやおくるふるさとの露

そてのみか−はてはくさにも−ととまらす−うらみやおくる−ふるさとのつゆ


03443
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ささかにも露もあさちか末の世にかかれとてしもすみし宿かは

ささかにも−つゆもあさちか−すゑのよに−かかれとてしも−すみしやとかは


03444
未入力 正徹 (xxx)

露やあらぬ秋や昔の古郷にわか身ひとつのもとあらの萩

つゆやあらぬ−あきやむかしの−ふるさとに−わかみひとつの−もとあらのはき


03445
未入力 正徹 (xxx)

宿そなきすみけん人の思ひおく露やあさちに古郷ののへ

やとそなき−すみけむひとの−おもひおく−つゆやあさちに−ふるさとののへ


03446
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契りてきその暁の露の身をてらさん月にめくりあへとは

ちきりてき−そのあかつきの−つゆのみを−てらさむつきに−めくりあへとは


03447
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たのむそよ又世に出てん望月の其暁の露のちきりを

たのむそよ−またよにいてむ−もちつきの−そのあかつきの−つゆのちきりを


03448
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衣衣の人の涙もまこるらん此方彼方の道芝のつゆ

きぬきぬの−ひとのなみたも−まこるらむ−こなたかなたの−みちしはのつゆ


03449
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天の川かほたれ時の浪やちる露ふりくたる草のうへかな

あまのかは−かはたれときの−なみやちる−つゆふりくたる−くさのうへかな


03450
未入力 正徹 (xxx)

しほたれぬ袖やなからむ暁の露の玉手のさとのうら人

しほたれぬ−そてやなからむ−あかつきの−つゆのたまての−さとのうらひと


03451
未入力 正徹 (xxx)

秋の田の新はの露の玉ゆらにまちうる民も心なかくや

あきのたの−にひはのつゆの−たまゆらに−まちうるたみも−こころなかくや


03452
未入力 正徹 (xxx)

行く月のたよりは契れ鶉さへかれにし床のふか草のつゆ

ゆくつきの−たよりはちきれ−うつらさへ−かれにしとこの−ふかくさのつゆ


03453
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草の原風そ分けくる花すすき手にまきかくす露の白玉

くさのはら−かせそわけくる−はなすすき−てにまきかくす−つゆのしらたま


03454
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草毎に見し末の露もと柏色にかつちる原のあきかせ

くさことに−みしすゑのつゆ−もとかしは−いろにかつちる−はらのあきかせ


03455
未入力 正徹 (xxx)

白妙のあさけの袖に露きえぬ身や夕くれの野への秋風

しろたへの−あさけのそてに−つゆきえぬ−みやゆふくれの−のへのあきかせ


03456
未入力 正徹 (xxx)

老そ猶かせまつ程の夕くれにいのちかけたる袖のしら露

おいそなほ−かせまつほとの−ゆふくれに−いのちかけたる−そてのしらつゆ


03457
未入力 正徹 (xxx)

かさしては夏の日影そへたて行く秋風いたす月の扇に

かさしては−なつのひかけそ−へたてゆく−あきかせいたす−つきのあふきに


03458
未入力 正徹 (xxx)

秋はまたてる日もつよく吹く風の身にしむへくもあらぬ空かな

あきはまた−てるひもつよく−ふくかせの−みにしむへくも−あらぬそらかな


03459
未入力 正徹 (xxx)

日影なきあさ夕露は秋にして袖のひるまにのこる夏かな

ひかけなき−あさゆふつゆは−あきにして−そてのひるまに−のこるなつかな


03460
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秋にたつ雲の衣の天つ風てる日を草にかへす袖かな

あきにたつ−くものころもの−あまつかせ−てるひをくさに−かへすそてかな


03461
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山もとの田面はるかに風さわきむら雲まよふ秋のいなつま

やまもとの−たのもはるかに−かせさわき−むらくもまよふ−あきのいなつま


03462
未入力 正徹 (xxx)

風渡る山田のくろの花汀まねけはまねくよひのいなつま

かせわたる−やまたのくろの−はなみきは−まねけはまねく−よひのいなつま


03463
未入力 正徹 (xxx)

暮れわたる山きは晴れて一村のにかけする秋のいなつま

くれわたる−やまきははれて−ひとむらの−くもにかけする−あきのいなつま


03464
未入力 正徹 (xxx)

春秋は夢にもあらす稲妻の光のうちにすめる世中

はるあきは−ゆめにもあらす−いなつまの−ひかりのうちに−すめるよのなか


03465
未入力 正徹 (xxx)

星きよき夕やみなからいなつまの光にみれはむら雲の空

ほしきよき−ゆふやみなから−いなつまの−ひかりにみれは−むらくものそら


03466
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行末も昔も今もいなつまのひかりにすきぬあはれ世中

ゆくすゑも−むかしもいまも−いなつまの−ひかりにすきぬ−あはれよのなか


03467
未入力 正徹 (xxx)

いにしへは心にちかしいな妻のひかりのまにもいく世へねらん

いにしへは−こころにちかし−いなつまの−ひかりのまにも−いくよへねらむ


03468
未入力 正徹 (xxx)

秋の田をほのめかしつる夕より稲の妻しる雲のかよひち

あきのたを−ほのめかしつる−ゆふへより−いねのつましる−くものかよひち


03469
未入力 正徹 (xxx)

見さりつる遠き山きはあらはれて雲のは匂ふよひの稲妻

みさりつる−とほきやまきは−あらはれて−くものはにほふ−よひのいなつま


03470
未入力 正徹 (xxx)

行く舟をまねくとみえてひれふるや松浦の山の秋のいなつま

ゆくふねを−まねくとみえて−ひれふるや−まつらのやまの−あきのいなつま


03471
未入力 正徹 (xxx)

心からたたいなつまのかけに見て千年は過きぬ遠山の松

こころから−たたいなつまの−かけにみて−ちとせはすきぬ−とほやまのまつ


03472
未入力 正徹 (xxx)

くらき夜のたれに心をあはすらん雲そまたたく秋の稲妻

くらきよの−たれにこころを−あはすらむ−くもそまたたく−あきのいなつま


03473
未入力 正徹 (xxx)

さしも草もゆる光はつれもなき雲もいふきの袖の稲妻

さしもくさ−もゆるひかりは−つれもなき−くももいふきの−そてのいなつま


03474
未入力 正徹 (xxx)

なる神はならぬ山田のいなつまにひたうつ秋の鹿そおとろく

なるかみは−ならぬやまたの−いなつまに−ひたうつあきの−しかそおとろく


03475
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のよひのいなつまさ夜更けて遠山はたの雲にのこれる

あきのたの−よひのいなつま−さよふけて−とほやまはたの−くもにのこれる


03476
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をしむとや向ふ雲まの山の端に入日をまねく秋のいな妻

をしむとや−むかふくもまの−やまのはに−いりひをまねく−あきのいなつま


03477
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照しても心はやみのままなれはわか身のよそのさ夜の稲つま

てらしても−こころはやみの−ままなれは−わかみのよその−さよのいなつま


03478
未入力 正徹 (xxx)

長月や秋の日影の初霜の露とおくまて残るあさかほ

なかつきや−あきのひかけの−はつしもの−つゆとおくまて−のこるあさかほ


03479
未入力 正徹 (xxx)

身にそあらぬ秋の日かけの日にそへてよわれはつよき槿の花

みにそあらぬ−あきのひかけの−ひにそへて−よわれはつよき−あさかほのはな


03480
未入力 正徹 (xxx)

しはしまてあさかほおそき花のひもとかぬに結ふあかつきの露

しはしまて−あさかほおそき−はなのひも−とかぬにむすふ−あかつきのつゆ


03481
未入力 正徹 (xxx)

露なから日の出てやらむ程はかり月かけ契るあさかほの花

つゆなから−ひのいてやらむ−ほとはかり−つきかけちきる−あさかほのはな


03482
未入力 正徹 (xxx)

夕くれの露をはなににかかれとてけさあさかほのしをれはつらん

ゆふくれの−つゆをはなにに−かかれとて−けさあさかほの−しをれはつらむ


03483
未入力 正徹 (xxx)

あしかきの夜ふかき月に開初めている影したふあさかほの花

あしかきの−よふかきつきに−さきそめて−いるかけしたふ−あさかほのはな


03484
未入力 正徹 (xxx)

哀にそかきほにみゆるあさかほのあすひらくへき花とかるると

あはれにそ−かきほにみゆる−あさかほの−あすひらくへき−はなとかるると


03485
未入力 正徹 (xxx)

消えとまる露こそなけれ槿の夕かけまたぬ花のまかきに

きえとまる−つゆこそなけれ−あさかほの−ゆふかけまたぬ−はなのまかきに


03486
未入力 正徹 (xxx)

あさかほの露の籬の花かつら夕日をかけて見る秋もかな

あさかほの−つゆのまかきの−はなかつら−ゆふひをかけて−みるあきもかな


03487
未入力 正徹 (xxx)

中垣のかけものこらすしをるるや朝日すゑこす槿の花

なかかきの−かけものこらす−しをるるや−あさひすゑこす−あさかほのはな


03488
未入力 正徹 (xxx)

折りとらぬ色こそあかね中垣の花のぬしある宿のあさかほ

をりとらぬ−いろこそあかね−なかかきの−はなのぬしある−やとのあさかほ


03489
未入力 正徹 (xxx)

垣ほよりこなたに枝を引きとるや人つまならぬあさかほのはな

かきほより−こなたにえたを−ひきとるや−ひとつまならぬ−あさかほのはな


03490
未入力 正徹 (xxx)

一枝もをりはやつさし開く花のあるしよそなる庭のあさかほ

ひとえたも−をりはやつさし−さくはなの−あるしよそなる−にはのあさかほ


03491
未入力 正徹 (xxx)

ひともともうゑぬ宿とは誰かみんかきほは人のあさかほのほな

ひともとも−うゑぬやととは−たれかみむ−かきほはひとの−あさかほのほな


03492
未入力 正徹 (xxx)

葉かくれてつもれる露のみなそこに花そしをれぬ庭の槿

はかくれて−つもれるつゆの−みなそこに−はなそしをれぬ−にはのあさかほ


03493
未入力 正徹 (xxx)

たかわけし都の野へそ磯の上ふる枝にさける秋萩の露

たかわけし−みやこののへそ−いそのかみ−ふるえにさける−あきはきのつゆ


03494
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色色の花の中なる白妙は露のさきける草も有りけり

いろいろの−はなのうちなる−しろたへは−つゆのさきける−くさもありけり


03495
未入力 正徹 (xxx)

ちらはをし秋風よきよ百草に一花急く萩のうは露

ちらはをし−あきかせよきよ−ももくさに−ひとはないそく−はきのうはつゆ


03496
未入力 正徹 (xxx)

あさ嵐野への錦をあらふなり花の千種の露のしら浪

あさあらし−のへのにしきを−あらふなり−はなのちくさの−つゆのしらなみ


03497
未入力 正徹 (xxx)

そのの名のもも草分くる道ふりてみし世すくなく残るあさかほ

そののなの−ももくさわくる−みちふりて−みしよすくなく−のこるあさかほ


03498
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小萩さく麓の野への山颪おきける露の限をそみる

こはきさく−ふもとののへの−やまおろし−おきけるつゆの−かきりをそみる


03499
未入力 正徹 (xxx)

花のひもときあらひ衣露ちるや萩のえこゆる野ちの川なみ

はなのひも−ときあらひきぬ−つゆちるや−はきのえこゆる−のちのかはなみ


03500
未入力 正徹 (xxx)

萩かえのむもれし露はみなおちて花の香かろき庭の朝かせ

はきかえの−むもれしつゆは−みなおちて−はなのかかろき−にはのあさかせ


03501
未入力 正徹 (xxx)

置く露の色をあさちか一もとも花にましらぬ野への秋草

おくつゆの−いろをあさちか−ひともとも−はなにましらぬ−のへのあきくさ


03502
未入力 正徹 (xxx)

いとへ風千草なからの夕露にひもときわたす花のいろいろ

いとへかせ−ちくさなからの−ゆふつゆに−ひもときわたす−はなのいろいろ


03503
未入力 正徹 (xxx)

秋草の花のひろ野のひろはたはおりめも知らぬから錦かも

あきくさの−はなのひろのの−ひろはたは−おりめもしらぬ−からにしきかも


03504
未入力 正徹 (xxx)

すゑ遠き千草に千世の松の風花の宿とふ声もたえせし

すゑとほき−ちくさにちよの−まつのかせ−はなのやととふ−こゑもたえせし


03505
未入力 正徹 (xxx)

野辺の草花の錦のうら風になりてそこゆる露の白浪

のへのくさ−はなのにしきの−うらかせに−なりてそこゆる−つゆのしらなみ


03506
未入力 正徹 (xxx)

色たへの秋の花野をむら草に吹きあらはせる露のあさかせ

いろたへの−あきのはなのを−むらくさに−ふきあらはせる−つゆのあさかせ


03507
未入力 正徹 (xxx)

秋もはやふるき軒はの萩の露下葉うつろひ花そあれ行く

あきもはや−ふるきのきはの−はきのつゆ−したはうつろひ−はなそあれゆく


03508
未入力 正徹 (xxx)

山颪俄にあらきのへの草花飛ひ露もくたけてそ行く

やまおろし−にはかにあらき−のへのくさ−はなとひつゆも−くたけてそゆく


03509
未入力 正徹 (xxx)

はな薄まねけはとてやかへるらんうらみまくすか原の秋風

はなすすき−まねけはとてや−かへるらむ−うらみまくすか−はらのあきかせ


03510
未入力 正徹 (xxx)

秋の霜しはしなおきそ蓬生の露たにからす松むしの声

あきのしも−しはしなおきそ−よもきふの−つゆたにからす−まつむしのこゑ


03511
未入力 正徹 (xxx)

あさちふや古郷人の秋風をなほ身にしめとまつ虫のなく

あさちふや−ふるさとひとの−あきかせを−なほみにしめと−まつむしのなく


03512
未入力 正徹 (xxx)

霜はまた浅茅かくれの蛬わかなきからす声なうらみそ

しもはまた−あさちかくれの−きりきりす−わかなきからす−こゑなうらみそ


03513
未入力 正徹 (xxx)

わけ行けは草はにねをそ鳴きとむるたれ松虫の心おくらむ

わけゆけは−くさはにねをそ−なきとむる−たれまつむしの−こころおくらむ


03514
未入力 正徹 (xxx)

露そちるなひく草葉はそよかねと虫鳴きとまる野への夕風

つゆそちる−なひくくさはは−そよかねと−むしなきとまる−のへのゆふかせ


03515
未入力 正徹 (xxx)

山ふかみおこなふ鈴とききなせはしきみか本に虫そ鳴くなる

やまふかみ−おこなふすすと−ききなせは−しきみかもとに−むしそなくなる


03516
未入力 正徹 (xxx)

あれわたる壁に影なき灯にあらはれてなくきりきりすかな

あれわたる−かへにかけなき−ともしひに−あらはれてなく−きりきりすかな


03517
未入力 正徹 (xxx)

野への霜にみな声たえて篭の内に露かふ虫ののこるはかなさ

のへのしもに−みなこゑたえて−このうちに−つゆかふむしの−のこるはかなさ


03518
未入力 正徹 (xxx)

あやにくに草むらことの虫のねもわくれはきゆるのへの夕露

あやにくに−くさむらことの−むしのねも−わくれはきゆる−のへのゆふつゆ


03519
未入力 正徹 (xxx)

夕露に又みかくれて松むしのなくねや秋のもすの草くき

ゆふつゆに−またみかくれて−まつむしの−なくねやあきの−もすのくさくき


03520
未入力 正徹 (xxx)

露分けて草の原をやとふとせんやかてきえ行く虫の声かな

つゆわけて−くさのはらをや−とふとせむ−やかてきえゆく−むしのこゑかな


03521
未入力 正徹 (xxx)

草の原すゑはの秋の霜をいたみかるるをみれは虫のねもなし

くさのはら−すゑはのあきの−しもをいたみ−かるるをみれは−むしのねもなし


03522
未入力 正徹 (xxx)

もにすまぬ思ひも秋やふかからむ虫啼く草の原の池水

もにすまぬ−おもひもあきや−ふかからむ−むしなくくさの−はらのいけみつ


03523
未入力 正徹 (xxx)

吹きまよふかたもさためす草の原野風のままにきほふ虫の音

ふきまよふ−かたもさためす−くさのはら−のかせのままに−きほふむしのね


03524
未入力 正徹 (xxx)

秋の虫草を冬野の松のもとふみからされぬねをや鳴くらん

あきのむし−くさをふゆのの−まつのもと−ふみからされぬ−ねをやなくらむ


03525
未入力 正徹 (xxx)

なく虫も露霜さむき秋草のふかき所にのこる声かな

なくむしも−つゆしもさむき−あきくさの−ふかきところに−のこるこゑかな


03526
未入力 正徹 (xxx)

駅路をよるやすくるとこととへは草のは山にすすむしの声

うまやちを−よるやすくると−こととへは−くさのはやまに−すすむしのこゑ


03527
未入力 正徹 (xxx)

すみなれし秋をまくさのかりふよりこゑあらはれて虫うらむらん

すみなれし−あきをまくさの−かりふより−こゑあらはれて−むしうらむらむ


03528
未入力 正徹 (xxx)

秋なから落葉もしらぬ松虫の声うつもるる野への初霜

あきなから−おちはもしらぬ−まつむしの−こゑうつもるる−のへのはつしも


03529
未入力 正徹 (xxx)

野への霜よわかなつますは草かくれありもやせんと虫や鳴くらん

のへのしもよ−わかなつますは−くさかくれ−ありもやせむと−むしやなくらむ


03530
未入力 正徹 (xxx)

影見えぬ野守のかかみよそなからなほかくれなき虫の声かな

かけみえぬ−のもりのかかみ−よそなから−なほかくれなき−むしのこゑかな


03531
未入力 正徹 (xxx)

しほみてはなるみの野へにすす舟をよる漕きわたる虫の声かな

しほみては−なるみののへに−すすふねを−よるこきわたる−むしのこゑかな


03532
未入力 正徹 (xxx)

虫のねは猶そひまなき松かきをへたつる野への秋の暮かた

むしのねは−なほそひまなき−まつかきを−へたつるのへの−あきのくれかた


03533
未入力 正徹 (xxx)

秋を猶しめちかはらに鳴く虫の霜ふらぬまや露たのむらん

あきをなほ−しめちかはらに−なくむしの−しもふらぬまや−つゆたのむらむ


03534
未入力 正徹 (xxx)

露霜にあへすかれ行く秋草の糸よりよわき虫のこゑかな

つゆしもに−あへすかれゆく−あきくさの−いとよりよわき−むしのこゑかな


03535
未入力 正徹 (xxx)

此秋も露きえやらて虫の音のよわるををしむ老の暮かな

このあきも−つゆきえやらて−むしのねの−よわるををしむ−おいのくれかな


03536
未入力 正徹 (xxx)

草の原やかてまきるるむしのねはいつれの露のやとりなるらん

くさのはら−やかてまきるる−むしのねは−いつれのつゆの−やとりなるらむ


03537
未入力 正徹 (xxx)

野へのかせこなたに吹くやぬる床にきほひおくるるむしの声かな

のへのかせ−こなたにふくや−ぬるとこに−きほひおくるる−むしのこゑかな


03538
未入力 正徹 (xxx)

あすしらぬ野原の虫も世にふれはことのはしけき夕暮の声

あすしらぬ−のはらのむしも−よにふれは−ことのはしけき−ゆふくれのこゑ


03539
未入力 正徹 (xxx)

在明の月のかつらの影にさへかたへかれゆくむしのこゑかな

ありあけの−つきのかつらの−かけにさへ−かたへかれゆく−むしのこゑかな


03540
未入力 正徹 (xxx)

草葉にも哀はかけよ松虫のなく夕かけの秋の初霜

くさはにも−あはれはかけよ−まつむしの−なくゆふかけの−あきのはつしも


03541
未入力 正徹 (xxx)

草のはにきゆる日影を限にて夕露またぬ松むしのこゑ

くさのはに−きゆるひかけを−かきりにて−ゆふつゆまたぬ−まつむしのこゑ


03542
未入力 正徹 (xxx)

風ぬるく夕霜おかぬ秋の程草葉にすかる虫の声かな

かせぬるく−ゆふしもおかぬ−あきのほと−くさはにすかる−むしのこゑかな


03543
未入力 正徹 (xxx)

なかき夜をあかすときくも鳴く虫の心しられぬ野への露霜

なかきよを−あかすときくも−なくむしの−こころしられぬ−のへのつゆしも


03544
未入力 正徹 (xxx)

虫のねは野へにそさむる秋の夢やとりはせはきあさちふの床

むしのねは−のへにそさむる−あきのゆめ−やとりはせはき−あさちふのとこ


03545
未入力 正徹 (xxx)

蛬なくねからすなわか方によるの衣の袖のはつ霜

きりきりす−なくねからすな−わかかたに−よるのころもの−そてのはつしも


03546
未入力 正徹 (xxx)

秋の虫なくや思ひの草葉より出行く玉ととふほたるかな

あきのむし−なくやおもひの−くさはより−いてゆくたまと−とふほたるかな


03547
未入力 正徹 (xxx)

いてぬまは草のはしけく啼く虫のまはらになりぬ月やさゆらん

いてぬまは−くさのはしけく−なくむしの−まはらになりぬ−つきやさゆらむ


03548
未入力 正徹 (xxx)

人はなとうしと聞くらん秋の虫鳴くはよろこふ声ふかき夜を

ひとはなと−うしときくらむ−あきのむし−なくはよろこふ−こゑふかきよを


03549
未入力 正徹 (xxx)

宮木引くこゑにはあらてさ夜中に蓬か杣はむしそ鳴くなる

みやきひく−こゑにはあらて−さよなかに−よもきかそまは−むしそなくなる


03550
未入力 正徹 (xxx)

あさちふや袖とふ月の秋風も夜渡りあかす虫の声かな

あさちふや−そてとふつきの−あきかせも−よわたりあかす−むしのこゑかな


03551
未入力 正徹 (xxx)

夜半の虫なにをつくとか駅路のよそのね覚に鈴ならすらん

よはのむし−なにをつくとか−うまやちの−よそのねさめに−すすならすらむ


03552
未入力 正徹 (xxx)

月はとへよるの蛍の玉きえし人も枕もふるき世の秋

つきはとへ−よるのほたるの−たまきえし−ひともまくらも−ふるきよのあき


03553
未入力 正徹 (xxx)

わかためにはたおる虫や閨にきて壁なる草の糸に鳴くらん

わかために−はたおるむしや−ねやにきて−かへなるくさの−いとになくらむ


03554
未入力 正徹 (xxx)

鳴くむしの思ひの露もふかからぬ秋を草はにかろき声かな

なくむしの−おもひのつゆも−ふかからぬ−あきをくさはに−かろきこゑかな


03555
未入力 正徹 (xxx)

草のもとつもりし露のみな底に身をしつめても虫や鳴くらん

くさのもと−つもりしつゆの−みなそこに−みをしつめても−むしやなくらむ


03556
未入力 正徹 (xxx)

淵となる底の草葉を玉藻にてなかるる露に虫そ鳴くなる

ふちとなる−そこのくさはを−たまもにて−なかるるつゆに−むしそなくなる


03557
未入力 正徹 (xxx)

よをこめて庭の蓬を杣木とやきりきりすなく声いそくらん

よをこめて−にはのよもきを−そまきとや−きりきりすなく−こゑいそくらむ


03558
未入力 正徹 (xxx)

庭草に秋風たつを松むしの人けありとや啼きとまるらん

にはくさに−あきかせたつを−まつむしの−ひとけありとや−なきとまるらむ


03559
未入力 正徹 (xxx)

虫の音も庭の草葉もからさすよ有明の月の霜の下露

むしのねも−にはのくさはも−からさすよ−ありあけのつきの−しものしたつゆ


03560
未入力 正徹 (xxx)

草はみないつくか霜の下ならぬ身にしられけりよわる虫の音

くさはみな−いつくかしもの−したならぬ−みにしられけり−よわるむしのね


03561
未入力 正徹 (xxx)

秋ふかき虫のうらみにまくす葉の心あはせてかへる野へかな

あきふかき−むしのうらみに−まくすはの−こころあはせて−かへるのへかな


03562
未入力 正徹 (xxx)

誰をかもこやのにかるる松虫のこゑもうらみて浪かへるらん

たれをかも−こやのにかるる−まつむしの−こゑもうらみて−なみかへるらむ


03563
未入力 正徹 (xxx)

秋すてにふけ行くのへも霜おかておのかねの日の松虫や啼く

あきすてに−ふけゆくのへも−しもおかて−おのかねのひの−まつむしやなく


03564
未入力 正徹 (xxx)

野へやうき蓬かねやの蛬露のまろねはわれそ寒けき

のへやうき−よもきかねやの−きりきりす−つゆのまろねは−われそさむけき


03565
未入力 正徹 (xxx)

きりきりす千草の露もまろひ逢ひて思ひの淵に声そしつめる

きりきりす−ちくさのつゆも−まろひあひて−おもひのふちに−こゑそしつめる


03566
未入力 正徹 (xxx)

うき秋のなみたかつとほおもはてや枕の下にきりきりすなく

うきあきの−なみたかつとほ−おもはてや−まくらのしたに−きりきりすなく


03567
未入力 正徹 (xxx)

蛬野にもふすならぬ手枕の下はふくすのうらみてそなく

きりきりす−のにもふすならぬ−たまくらの−したはふくすの−うらみてそなく


03568
未入力 正徹 (xxx)

声のみそねやの枕にきりきりす庭なる壁のもとに鳴く夜を

こゑのみそ−ねやのまくらに−きりきりす−にはなるかへの−もとになくよを


03569
未入力 正徹 (xxx)

知るといふ枕やつけて蛬秋の思ひのうきをとふらん

しるといふ−まくらやつけて−きりきりす−あきのおもひの−うきをとふらむ


03570
未入力 正徹 (xxx)

露霜も嵐にちりて行く秋を恨たえたる葛の紅葉は

つゆしもも−あらしにちりて−ゆくあきを−うらみたえたる−くすのもみちは


03571
未入力 正徹 (xxx)

嵐吹くかきほのまくすかれかれに恨あるやとの秋をあらすな

あらしふく−かきほのまくす−かれかれに−うらみあるやとの−あきをあらすな


03572
未入力 正徹 (xxx)

垣にむす苔の衣のうらふれて玉まきいつる露のまくす葉

かきにむす−こけのころもの−うらふれて−たままきいつる−つゆのまくすは


03573
未入力 正徹 (xxx)

かた岡の松の雪まのおも影にかへる葛はの月の下かせ

かたをかの−まつのゆきまの−おもかけに−かへるくすはの−つきのしたかせ


03574
未入力 正徹 (xxx)

露の身をいつくに岡の葛はらや一葉もやすき秋の風か

つゆのみを−いつくにをかの−くすはらや−ひとはもやすき−あきのかせかは


03575
未入力 正徹 (xxx)

秋風にたちいてし人はしらねとも葛のはかへる岡のへの宿

あきかせに−たちいてしひとは−しらねとも−くすのはかへる−をかのへのやと


03576
未入力 正徹 (xxx)

松やしるかかれる葛の花かつら下葉の風の秋のうらみを

まつやしる−かかれるくすの−はなかつら−したはのかせの−あきのうらみを


03577
未入力 正徹 (xxx)

蔦ちらす風秋なから松になともとのみさをの色いそくらむ

つたちらす−かせあきなから−まつになと−もとのみさをの−いろいそくらむ


03578
未入力 正徹 (xxx)

しくれてもともにみたるる露はなし松よりおつる蔦の秋風

しくれても−ともにみたるる−つゆはなし−まつよりおつる−つたのあきかせ


03579
未入力 正徹 (xxx)

秋風に思ひやまさるまくすはのかくれと落つる蔦のうらみは

あきかせに−おもひやまさる−まくすはの−かくれとおつる−つたのうらみは


03580
未入力 正徹 (xxx)

宇津の山夢にも秋の色にそむ蔦の下ふし風心せよ

うつのやま−ゆめにもあきの−いろにそむ−つたのしたふし−かせこころせよ


03581
未入力 正徹 (xxx)

松にはふ蔦ちる軒の葛のはにさそひてかへる庭の秋風

まつにはふ−つたちるのきの−くすのはに−さそひてかへる−にはのあきかせ


03582
未入力 正徹 (xxx)

秋はいぬ時雨ふる宮のときは木に蔦のはおつる宇治の山風

あきはいぬ−しくれふるみやの−ときはきに−つたのはおつる−うちのやまかせ


03583
未入力 正徹 (xxx)

山岸の松のはひえも色さひて蔦の落はに水の秋かせ

やまきしの−まつのはひえも−いろさひて−つたのおちはに−みつのあきかせ


03584
未入力 正徹 (xxx)

世をうちと思ひはてぬる常盤木に蔦のは惜しき秋の川かせ

よをうちと−おもひはてぬる−ときはきに−つたのはをしき−あきのかはかせ


03585
未入力 正徹 (xxx)

色かはる岡のくすやの蔦かつらはふ木あまたに秋風そふく

いろかはる−をかのくすやの−つたかつら−はふきあまたに−あきかせそふく


03586
未入力 正徹 (xxx)

宇津の山たかねもふしの陰さむし雪のふもとの蔦の秋風

うつのやま−たかねもふしの−かけさむし−ゆきのふもとの−つたのあきかせ


03587
未入力 正徹 (xxx)

秋風に蔦のはおちてうつのやのむなしき山に猿叫ふこゑ

あきかせに−つたのはおちて−うつのやの−むなしきやまに−さるさけふこゑ


03588
未入力 正徹 (xxx)

松そうきかかりて久にたのむかひなきや世中蔦の秋風

まつそうき−かかりてひさに−たのむかひ−なきやよのなか−つたのあきかせ


03589
未入力 正徹 (xxx)

霧はれぬいかなるみちかくらからむ蔦の色ちるうつの山風

きりはれぬ−いかなるみちか−くらからむ−つたのいろちる−うつのやまかせ


03590
未入力 正徹 (xxx)

色にそめ松にやとりをかりの世もかくこそ有りけれつたの紅葉は

いろにそめ−まつにやとりを−かりのよも−かくこそありけれ−つたのもみちは


03591
未入力 正徹 (xxx)

松の木の衣の色のくれなゐもふり出てておつる蔦の秋風

まつのきの−ころものいろの−くれなゐも−ふりいてておつる−つたのあきかせ


03592
未入力 正徹 (xxx)

宿からとちらは軒端もあれぬへき紅葉かなしき蔦の下かせ

やとからと−ちらはのきはも−あれぬへき−もみちかなしき−つたのしたかせ


03593
未入力 正徹 (xxx)

あかねさす目かきも軒もあらはれて蔦にあれ行く宿の秋かせ

あかねさす−めかきものきも−あらはれて−つたにあれゆく−やとのあきかせ


03594
未入力 正徹 (xxx)

松葉しき蔦はふ軒の長月や風にまかせてあるる庵かな

まつはしき−つたはふのきの−なかつきや−かせにまかせて−あるるいほかな


03595
未入力 正徹 (xxx)

白妙の色とも見えす朝ほらけ音行く水のあやの川霧

しろたへの−いろともみえす−あさほらけ−おとゆくみつの−あやのかはきり


03596
未入力 正徹 (xxx)

朝朗麓の霧も川浪の上になかるるうちの山かせ

あさほらけ−ふもとのきりも−かはなみの−うへになかるる−うちのやまかせ


03597
未入力 正徹 (xxx)

色かへぬひはらのうへは秋風にくもるもはるる嶺のあさ霧

いろかへぬ−ひはらのうへは−あきかせに−くもるもはるる−みねのあさきり


03598
未入力 正徹 (xxx)

あけ渡る山もとふかくゐる霧のそこの心よをちこちの里

あけわたる−やまもとふかく−ゐるきりの−そこのこころよ−をちこちのさと


03599
未入力 正徹 (xxx)

朝ほらけ千さとの浪のうき草や霧にうかへる梢なるらん

あさほらけ−ちさとのなみの−うきくさや−きりにうかへる−こすゑなるらむ


03600
未入力 正徹 (xxx)

山もとの杉の本たち松かねをのこしてくたる嶺のあさ霧

やまもとの−すきのもとたち−まつかねを−のこしてくたる−みねのあさきり


03601
未入力 正徹 (xxx)

夕暮はそれしもかなし秋の色のかくれかねたる山のうす霧

ゆふくれは−それしもかなし−あきのいろの−かくれかねたる−やまのうすきり


03602
未入力 正徹 (xxx)

深けぬるか月に嵐の声たえて霧にしつまる夜はの山本

ふけぬるか−つきにあらしの−こゑたえて−きりにしつまる−よはのやまもと


03603
未入力 正徹 (xxx)

吹きはらへ山はよし野の秋霧にこもりかつても見えぬ神かせ

ふきはらへ−やまはよしのの−あききりに−こもりかつても−みえぬかみかせ


03604
未入力 正徹 (xxx)

松の葉の煙をそへて朝ほらけ立つやをしほの山の秋きり

まつのはの−けふりをそへて−あさほらけ−たつやをしほの−やまのあききり


03605
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる月の麓の色もみすいくへの霧のおくの山ふみ

あけわたる−つきのふもとの−いろもみす−いくへのきりの−おくのやまふみ


03606
未入力 正徹 (xxx)

すまの浦にたれつくり絵を明ほのの麓の霧をまく嵐かな

すまのうらに−たれつくりえを−あけほのの−ふもとのきりを−まくあらしかな


03607
未入力 正徹 (xxx)

たつ鴫のしをれてはねやかかさらん霧ふる沢のあかつきの空

たつしきの−しをれてはねや−かかさらむ−きりふるさはの−あかつきのそら


03608
未入力 正徹 (xxx)

嶺ちかくのこる光そみたれ行く霧ふりくたる有明の月

みねちかく−のこるひかりそ−みたれゆく−きりふりくたる−ありあけのつき


03609
未入力 正徹 (xxx)

さらにいまもみちをなかせ朝霧に日影もしろき秋の川浪

さらにいま−もみちをなかせ−あさきりに−ひかけもしろき−あきのかはなみ


03610
未入力 正徹 (xxx)

宇治川やもみちの御舟引きつるも絶絶のこる水のあさ霧

うちかはや−もみちのみふね−ひきつるも−たえたえのこる−みつのあさきり


03611
未入力 正徹 (xxx)

朝ほらけ麓の霧のいもせ川中なるよともいつくとはなし

あさほらけ−ふもとのきりの−いもせかは−なかなるよとも−いつくとはなし


03612
未入力 正徹 (xxx)

もかみ川みなきる水にたつ煙のほれはくたる嶺の朝霧

もかみかは−みなきるみつに−たつけふり−のほれはくたる−みねのあさきり


03613
未入力 正徹 (xxx)

あけわたる川戸の水のはつ煙霧に立ちそふ秋さむくして

あけわたる−かはとのみつの−はつけふり−きりにたちそふ−あきさむくして


03614
未入力 正徹 (xxx)

嶺はるるふもとの霧にかち人のあさ川わたるこゑはかりして

みねはるる−ふもとのきりに−かちひとの−あさかはわたる−こゑはかりして


03615
未入力 正徹 (xxx)

たのむ夜の涙もくらき川霧に瀬のなるこゑやうちの橋姫

たのむよの−なみたもくらき−かはきりに−せのなるこゑや−うちのはしひめ


03616
未入力 正徹 (xxx)

小舟さす宇治の川長わたるらし棹の音する水のあさ霧

をふねさす−うちのかはをさ−わたるらし−さをのおとする−みつのあさきり


03617
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芦の葉も翅もほさし島つ鳥うとのの堤霧ふかくして

あしのはも−つはさもほさし−しまつとり−うとののつつみ−きりふかくして


03618
未入力 正徹 (xxx)

鷺のゐる古江の堤霧こめて柳は見えぬ雪のむら立

さきのゐる−ふるえのつつみ−きりこめて−やなきはみえぬ−ゆきのむらたち


03619
未入力 正徹 (xxx)

もしほくむ渚のあまのしわさかは夕霧はこふ秋のうら風

もしほくむ−なきさのあまの−しわさかは−ゆふきりはこふ−あきのうらかせ


03620
未入力 正徹 (xxx)

浪くらきあまのいさり火今や焼くゆふ霧にほふ秋のいり海

なみくらき−あまのいさりひ−いまやたく−ゆふきりにほふ−あきのいりうみ


03621
未入力 正徹 (xxx)

わたつ海の竜の宮古の朝もよひ霧の浪まのけふりなるらん

わたつうみの−たつのみやこの−あさもよひ−きりのなみまの−けふりなるらむ


03622
未入力 正徹 (xxx)

たのむらん霧の戸はりもはかなきは浦の苫やの秋のしほ風

たのむらむ−きりのとはりも−はかなきは−うらのとまやの−あきのしほかせ


03623
未入力 正徹 (xxx)

淡路かた浪の緑もうすくこき絵島かさきの松のむら霧

あはちかた−なみのみとりも−うすくこき−えしまかさきの−まつのむらきり


03624
未入力 正徹 (xxx)

わたの崎浪に夕霧さわくなりむこ山風吹きにけらしも

わたのさき−なみにゆふきり−さわくなり−むこやまおろし−ふきにけらしも


03625
未入力 正徹 (xxx)

三輪か崎家はなくして杉の本かつあらはるる秋のあさ霧

みわかさき−いへはなくして−すきのもと−かつあらはるる−あきのあさきり


03626
未入力 正徹 (xxx)

をくろ崎都のつとはやふれにき霧につつみしみつの浦風

をくろさき−みやこのつとは−やふれにき−きりにつつみし−みつのうらかせ


03627
未入力 正徹 (xxx)

たえたえにあまの家島あらはれて浦わの霧に浪のよるみゆ

たえたえに−あまのいへしま−あらはれて−うらわのきりに−なみのよるみゆ


03628
未入力 正徹 (xxx)

よる舟もたく火をみせよみをつくしたてるは霧の興のうら人

よるふねも−たくひをみせよ−みをつくし−たてるはきりの−おきのうらひと


03629
未入力 正徹 (xxx)

山ち行く苔の莚にこよひねて麓の霧を敷きしのへとや

やまちゆく−こけのむしろに−こよひねて−ふもとのきりを−しきしのへとや


03630
未入力 正徹 (xxx)

霧渡る山はかさしのすすか川八十瀬ふみ行く水の駅路

きりわたる−やまはかさしの−すすかかは−やそせふみゆく−みつのうまやち


03631
未入力 正徹 (xxx)

めにもみすなるとはすれとよる舟のすすの綱手のすまの夕きり

めにもみす−なるとはすれと−よるふねの−すすのつなての−すまのゆふきり


03632
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる霧にうつみて関もなしこゆるやいつこすまのうら浪

あけわたる−きりにうつみて−せきもなし−こゆるやいつこ−すまのうらなみ


03633
未入力 正徹 (xxx)

誰こえん嶺の梯あさ霧もわたりわつらふ雲の下かせ

たれこえむ−みねのかけはし−あさきりも−わたりわつらふ−くものしたかせ


03634
未入力 正徹 (xxx)

旅人のあさ行くのへにそそくらん袖よりおつる霧のしつくを

たひひとの−あさゆくのへに−そそくらむ−そてよりおつる−きりのしつくを


03635
未入力 正徹 (xxx)

あさ日影いまさしくるやほの上の霧に色つく秋の小山田

あさひかけ−いまさしくるや−ほのうへの−きりにいろつく−あきのをやまた


03636
未入力 正徹 (xxx)

立出つる山田の日影ほのほのと霧に色こき稲のかりしほ

たちいつる−やまたのひかけ−ほのほのと−きりにいろこき−いねのかりしほ


03637
未入力 正徹 (xxx)

秋も又いなはの上におりそたつ鹿の霧や田子のおもかけ

あきもまた−いなはのうへに−おりそたつ−ふもとのきりや−たこのおもかけ


03638
未入力 正徹 (xxx)

村村に四方の梢はまた見えて夕の霧にまよふ秋風

むらむらに−よものこすゑは−またみえて−ゆふへのきりに−まよふあきかせ


03639
未入力 正徹 (xxx)

秋の色のふかきあはれは埋むらむ夕の霧のしたの山さと

あきのいろの−ふかきあはれは−うつむらむ−ゆふへのきりの−したのやまさと


03640
未入力 正徹 (xxx)

世中を思ひすてつる心さへ猶身にそはぬ秋のゆふくれ

よのなかを−おもひすてつる−こころさへ−なほみにそはぬ−あきのゆふくれ


03641
未入力 正徹 (xxx)

思ひなき人にとははやさしもうき身はことわりの秋の夕暮

おもひなき−ひとにとははや−さしもうき−みはことわりの−あきのゆふくれ


03642
未入力 正徹 (xxx)

うき物とかねてしりにきわか心思ひもいれし秋の夕くれ

うきものと−かねてしりにき−わかこころ−おもひもいれし−あきのゆふくれ


03643
未入力 正徹 (xxx)

露の身のうきをもとにて世にふるもたへぬ末はの秋の夕暮

つゆのみの−うきをもとにて−よにふるも−たへぬすゑはの−あきのゆふくれ


03644
未入力 正徹 (xxx)

つれなしや昨日も秋を忍ひきてけふの夕のうきにあひぬる

つれなしや−きのふもあきを−しのひきて−けふのゆふへの−うきにあひぬる


03645
未入力 正徹 (xxx)

今さらにいとはしよしやうしとても身はかきりある秋の夕くれ

いまさらに−いとはしよしや−うしとても−みはかきりある−あきのゆふくれ


03646
未入力 正徹 (xxx)

うしとてもよもいとはれしわか身世にあらむ限の秋の夕暮

うしとても−よもいとはれし−わかみよに−あらむかきりの−あきのゆふくれ


03647
未入力 正徹 (xxx)

うかひきぬうきを心にかさぬれは去年の夕の秋の面かけ

うかひきぬ−うきをこころに−かさぬれは−こそのゆふへの−あきのおもかけ


03648
未入力 正徹 (xxx)

いかにしてうきにもたへん老いぬれは身によわり行く秋の夕暮

いかにして−うきにもたへむ−おいぬれは−みによわりゆく−あきのゆふくれ


03649
未入力 正徹 (xxx)

うきをさへ思ひおくかな露の身はきえてみぬ世の秋の夕くれ

うきをさへ−おもひおくかな−つゆのみは−きえてみぬよの−あきのゆふくれ


03650
未入力 正徹 (xxx)

あふそうきなからへんともしらさりき心のほかの秋の夕くれ

あふそうき−なからへむとも−しらさりき−こころのほかの−あきのゆふくれ


03651
未入力 正徹 (xxx)

よしや袖比も秋なり夕なりことわりしらぬなみたとは見し

よしやそて−ころもあきなり−ゆふへなり−ことわりしらぬ−なみたとはみし


03652
未入力 正徹 (xxx)

老いゆかはたれか涙のかたからんありしにまさる秋の夕くれ

おいゆかは−たれかなみたの−かたからむ−ありしにまさる−あきのゆふくれ


03653
未入力 正徹 (xxx)

たれそ此うき夕暮をあるしにのとへとこたへぬやとの秋風

たれそこの−うきゆふくれを−あるしにの−とへとこたへぬ−やとのあきかせ


03654
未入力 正徹 (xxx)

うき世をもなくさめきてし身のためにするわさなれや秋の夕暮

うきよをも−なくさめきてし−みのために−するわさなれや−あきのゆふくれ


03655
未入力 正徹 (xxx)

うきをしる袖をはらひて立ちさらむ涙にやとれ秋の夕くれ

うきをしる−そてをはらひて−たちさらむ−なみたにやとれ−あきのゆふくれ


03656
未入力 正徹 (xxx)

なからへて身にうきかすを知る事も今年はまさる秋の夕暮

なからへて−みにうきかすを−しることも−ことしはまさる−あきのゆふくれ


03657
未入力 正徹 (xxx)

身のうさも今いくほととなくさめて思ひすつれは秋の夕くれ

みのうさも−いまいくほとと−なくさめて−おもひすつれは−あきのゆふくれ


03658
未入力 正徹 (xxx)

袖はなとひとつ涙そあはれともうしとも思ふ秋のゆふくれ

そてはなと−ひとつなみたそ−あはれとも−うしともおもふ−あきのゆふくれ


03659
未入力 正徹 (xxx)

くる秋の思ひはむねにみつ雲の立ちいてん空もなき夕かな

くるあきの−おもひはむねに−みつくもの−たちいてむそらも−なきゆふへかな


03660
未入力 正徹 (xxx)

めにふるる岩木も物はをしへけりしらしと思ふ秋の夕くれ

めにふるる−いはきもものは−をしへけり−しらしとおもふ−あきのゆふくれ


03661
未入力 正徹 (xxx)

うきをしるたか心にもかよふらしひとりのうへの秋の夕くれ

うきをしる−たかこころにも−かよふらし−ひとりのうへの−あきのゆふくれ


03662
未入力 正徹 (xxx)

なかめてはたれかうき身にならさらん人をはわかす秋の夕くれ

なかめては−たれかうきみに−ならさらむ−ひとをはわかす−あきのゆふくれ


03663
未入力 正徹 (xxx)

世のうきめ見えぬ山ちの秋も猶夕やおなし思ひならまし

よのうきめ−みえぬやまちの−あきもなほ−ゆふへやおなし−おもひならまし


03664
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二かたになとせめくらん世もうくて秋と夕の中にある身を

ふたかたに−なとせめくらむ−よもうくて−あきとゆふへの−なかにあるみを


03665
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くるるまの秋の思ひよかすつきし野山に袖の露をかすとも

くるるまの−あきのおもひよ−かすつきし−のやまにそての−つゆをかすとも


03666
未入力 正徹 (xxx)

ことわりのなきはいかなる思ひとも我たにしらぬ秋の夕くれ

ことわりの−なきはいかなる−おもひとも−われたにしらぬ−あきのゆふくれ


03667
未入力 正徹 (xxx)

秋ならぬいく夕暮をあつめてもうきをくらへんかたやなからん

あきならぬ−いくゆふくれを−あつめても−うきをくらへむ−かたやなからむ


03668
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たたいまの夕のうさのことならはすまれんものか秋のこの世は

たたいまの−ゆふへのうさの−ことならは−すまれむものか−あきのこのよは


03669
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うしとたに猶いひしらぬ夕暮の色に音そふころの秋風

うしとたに−なほいひしらぬ−ゆふくれの−いろにおとそふ−ころのあきかせ


03670
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たかために秋の夕のとひくらん哀もしらぬ人となる世を

たかために−あきのゆふへの−とひくらむ−あはれもしらぬ−ひととなるよを


03671
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人ことにうきを分けてもやらまほしひとりの上の秋の夕くれ

ひとことに−うきをわけても−やらまほし−ひとりのうへの−あきのゆふくれ


03672
未入力 正徹 (xxx)

うき時と知る人さへやまれならんくたり行く世の秋の夕くれ

うきときと−しるひとさへや−まれならむ−くたりゆくよの−あきのゆふくれ


03673
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うき身にはいつも秋なる心にも思ひわきぬる夕暮の空

うきみには−いつもあきなる−こころにも−おもひわきぬる−ゆふくれのそら


03674
未入力 正徹 (xxx)

うき事の此世にきたるはしめとはいつかなりけん秋の夕くれ

うきことの−このよにきたる−はしめとは−いつかなりけむ−あきのゆふくれ


03675
未入力 正徹 (xxx)

世のならひ秋のためしも身のうさにあまる夕そいととせめくる

よのならひ−あきのためしも−みのうさに−あまるゆふへそ−いととせめくる


03676
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身そたへぬ秋を心のあるしにてとはれにけりな夕暮の空

みそたへぬ−あきをこころの−あるしにて−とはれにけりな−ゆふくれのそら


03677
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いとせめて秋と夕の一かたもわすれんとすれは木の間もる月

いとせめて−あきとゆふへの−ひとかたも−わすれむとすれは−このまもるつき


03678
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なとやうきかねて涙の身にそふもいつちいにけん秋の夕暮

なとやうき−かねてなみたの−みにそふも−いつちいにけむ−あきのゆふくれ


03679
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草の庵うきにまかせて出てぬへし夕と秋の便なくとも

くさのいほ−うきにまかせて−いてぬへし−ゆふへとあきの−たよりなくとも


03680
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かくれはや夕も秋も心よりほかなるうさそわれを尋ぬる

かくれはや−ゆふへもあきも−こころより−ほかなるうさそ−われをたつぬる


03681
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雲風もとほき思ひの家つとは道行ふりの秋の夕くれ

くもかせも−とほきおもひの−いへつとは−みちゆきふりの−あきのゆふくれ


03682
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みるままに夕の雲の色そそふ秋の思ひの露や染むらむ

みるままに−ゆふへのくもの−いろそそふ−あきのおもひの−つゆやそむらむ


03683
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のかれしなこまもろこしの夕暮もおなしうき世の秋の涙は

のかれしな−こまもろこしの−ゆふくれも−おなしうきよの−あきのなみたは


03684
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思ひわく涙はなとかおちさらむあてなる人の秋の夕くれ

おもひわく−なみたはなとか−おちさらむ−あてなるひとの−あきのゆふくれ


03685
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秋山や面かけはかり先そめて梢色なき夕時雨かな

あきやまや−おもかけはかり−まつそめて−こすゑいろなき−ゆふしくれかな


03686
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秋のこゑ草葉かなしき夕風におちたる庭の桐のはの雨

あきのこゑ−くさはかなしき−ゆふかせに−おちたるにはの−きりのはのあめ


03687
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秋そこれきゆる小花かすゑの露もとあらの萩に結ふ夕霜

あきそこれ−きゆるをはなか−すゑのつゆ−もとあらのはきに−むすふゆふしも


03688
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かくはかりいとふ命も消えやらて身におきそふる秋のゆふ露

かくはかり−いとふいのちも−きえやらて−みにおきそふる−あきのゆふつゆ


03689
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奥つ風あらす浪かなへたてつる夕霧たのむ浦の苫やを

おきつかせ−あらすなみかな−へたてつる−ゆふきりたのむ−うらのとまやを


03690
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いさりすと出つるあま人心あれや枝もたをらぬをふの浦なし

いさりすと−いつるあまひと−こころあれや−えたもたをらぬ−をふのうらなし


03691
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夕暮もうきをかたみのうら風に遠さかり行く秋の舟人

ゆふくれも−うきをかたみの−うらかせに−とほさかりゆく−あきのふなひと


03692
未入力 正徹 (xxx)

あまのすむ思ひの家も秋たちて夕になりぬをふのうらなし

あまのすむ−おもひのいへも−あきたちて−ゆふへになりぬ−をふのうらなし


03693
未入力 正徹 (xxx)

世にすめはあまも思ひやいとまなみ芦屋のなたの秋の夕暮

よにすめは−あまもおもひや−いとまなみ−あしやのなたの−あきのゆふくれ


03694
未入力 正徹 (xxx)

秋の露にうつろふ山もうす霧のくるる色にそふかくなり行く

あきのつゆに−うつろふやまも−うすきりの−くるるいろにそ−ふかくなりゆく


03695
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野への露袖の涙をひとつにてうき身そやかて秋の夕くれ

のへのつゆ−そてのなみたを−ひとつにて−うきみそやかて−あきのゆふくれ


03696
未入力 正徹 (xxx)

袖したふかたのの露や天の川遠きわたりの秋の夕暮

そてしたふ−かたののつゆや−あまのかは−とほきわたりの−あきのゆふくれ


03697
未入力 正徹 (xxx)

笠置山おくの岩やも袖ぬれぬ此川上の秋の夕くれ

かさきやま−おくのいはやも−そてぬれぬ−このかはかみの−あきのゆふくれ


03698
未入力 正徹 (xxx)

夕うき雲にへたてはあらし吹くその山もとの秋のさと人

ゆふへうき−くもにへたては−あらしふく−そのやまもとの−あきのさとひと


03699
未入力 正徹 (xxx)

山こえて思ひやわれにかよふらんみぬさと人の秋の夕暮

やまこえて−おもひやわれに−かよふらむ−みぬさとひとの−あきのゆふくれ


03700
未入力 正徹 (xxx)

哀ともあすか川霧みせすかも君かあたりの秋の夕暮

あはれとも−あすかかはきり−みせすかも−きみかあたりの−あきのゆふくれ


03701
未入力 正徹 (xxx)

いかかもるこえてみるめもかるかやの関やをかくす秋の夕霧

いかかもる−こえてみるめも−かるかやの−せきやをかくす−あきのゆふきり


03702
未入力 正徹 (xxx)

あれぬともわらふきかゆなあふ坂のふるき関やを夕霧にみん

あれぬとも−わらふきかゆな−あふさかの−ふるきせきやを−ゆふきりにみむ


03703
未入力 正徹 (xxx)

世に出ててうきやいつれと心みん山さとならぬ秋の夕くれ

よにいてて−うきやいつれと−こころみむ−やまさとならぬ−あきのゆふくれ


03704
未入力 正徹 (xxx)

よのうきめみぬはよのつねのかれすむ山の色けつ秋の夕きり

よのうきめ−みぬはよのつね−のかれすむ−やまのいろけつ−あきのゆふきり


03705
未入力 正徹 (xxx)

夕暮の秋の思ひそかさなれる落葉か下の草のかりいほ

ゆふくれの−あきのおもひそ−かさなれる−おちはかしたの−くさのかりいほ


03706
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身にそしむ下葉色つく萩はらや猶今よりの荻のうほ風

みにそしむ−したはいろつく−はきはらや−なほいまよりの−をきのうはかせ


03707
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たもとにもあまる涙はせはくともうき世の月よ身をなはなれそ

たもとにも−あまるなみたは−せはくとも−うきよのつきよ−みをなはなれそ


03708
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小山田の露吹きたててなひくほの色こき時とわたる秋かせ

をやまたの−つゆふきたてて−なひくほの−いろこきときと−わたるあきかせ


03709
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夕日さすをのの山田の露かけていろこき稲の花かつらかな

ゆふひさす−をののやまたの−つゆかけて−いろこきいねの−はなかつらかな


03710
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ほにいつるくろの薄も山田かる袖かと見えて秋風そふく

ほにいつる−くろのすすきも−やまたかる−そてかとみえて−あきかせそふく


03711
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日本もさすかにひろき秋の田の一ほをたにもうる事はなし

ひのもとも−さすかにひろき−あきのたの−ひとほをたにも−うることはなし


03712
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秋の田のほの上くらき山もとの夕の霧にかかるむら雨

あきのたの−ほのうへくらき−やまもとの−ゆふへのきりに−かかるむらさめ


03713
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秋の田のほきの沢水みしふゐてかるをのあさのもすそまつらん

あきのたの−ほきのさはみつ−みしふゐて−かるをのあさの−もすそまつらむ


03714
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あまを舟おしねのほなみうち出てぬ稲葉を渡る秋の浦風

あまをふね−おしねのほなみ−うちいてぬ−いなはをわたる−あきのうらかせ


03715
未入力 正徹 (xxx)

かたよりに見えしほなみはみなふしてひとりいねかての小田のさ莚

かたよりに−みえしほなみは−みなふして−ひとりいねかての−をたのさむしろ


03716
未入力 正徹 (xxx)

一かたに露もそなひく秋の田の昨日の風のほむけかはらて

ひとかたに−つゆもそなひく−あきのたの−きのふのかせの−ほむけかはらて


03717
未入力 正徹 (xxx)

おそくとき秋のいなほの花さかり民の心や春にあふらむ

おそくとき−あきのいなほの−はなさかり−たみのこころや−はるにあふらむ


03718
未入力 正徹 (xxx)

鳥もこす鹿おとろかす弓影ゆゑやつかほ長き秋の小山田

とりもこす−しかおとろかす−ゆかけゆゑ−やつかほなかき−あきのをやまた


03719
未入力 正徹 (xxx)

田中なる民の戸みれはしつのめかいねこく庭にするうすの声

たなかなる−たみのとみれは−しつのめか−いねこくにはに−するうすのこゑ


03720
未入力 正徹 (xxx)

露なからさわく稲つまにとふ虫のかす限なき小田の秋かせ

つゆなから−さわくいなつまに−とふむしの−かすかきりなき−をたのあきかせ


03721
未入力 正徹 (xxx)

道をえん秋田もる男のいねかてに誰も此世を思ひあかさは

みちをえむ−あきたもるをの−いねかてに−たれもこのよを−おもひあかさは


03722
未入力 正徹 (xxx)

梢よりみなたちつれて小山田のみしめにならふ秋の色鳥

こすゑより−みなたちつれて−をやまたの−みしめにならふ−あきのいろとり


03723
未入力 正徹 (xxx)

あけ行くやいな葉のかせもたつの鳴くあへの田面に月かたふきぬ

あけゆくや−いなはのかせも−たつのなく−あへのたのもに−つきかたふきぬ


03724
未入力 正徹 (xxx)

雲まよふあへの坂田に雁鳴きてほなみにくたる秋の夕かせ

くもまよふ−あへのさかたに−かりなきて−ほなみにくたる−あきのゆふかせ


03725
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のかりほの窓にこゑたてていねてふ事をとふ時雨かな

あきのたの−かりほのまとに−こゑたてて−いねてふことを−とふしくれかな


03726
未入力 正徹 (xxx)

早苗よりいなはにかはる秋の田にしつか手玉を残す自露

さなへより−いなはにかはる−あきのたに−しつかてたまを−のこすしらつゆ


03727
未入力 正徹 (xxx)

露なからさわくいなはにとふ虫の数かきりなきを田の秋風

つゆなから−さわくいなはに−とふむしの−かすかきりなき−をたのあきかせ


03728
未入力 正徹 (xxx)

あら田より民のくるしむあせや猶かすまさるらんほの上の露

あらたより−たみのくるしむ−あせやなほ−かすまさるらむ−ほのうへのつゆ


03729
未入力 正徹 (xxx)

雲路よりほなみにおつるしら鳥のとは田に消ゆる秋の夕霧

くもちより−ほなみにおつる−しらとりの−とはたにきゆる−あきのゆふきり


03730
未入力 正徹 (xxx)

松風もそよくとそきく足引の名さへいなはの山田もる庵

まつかせも−そよくとそきく−あしひきの−なさへいなはの−やまたもるいほ


03731
未入力 正徹 (xxx)

色色のいなほにみかく朝ひこの玉の露ちるを田の秋かせ

いろいろの−いなほにみかく−あさひこの−たまのつゆちる−をたのあきかせ


03732
未入力 正徹 (xxx)

時雨行くかけのかり田に秋山の梢の露やおちほそむらむ

しくれゆく−かけのかりたに−あきやまの−こすゑのつゆや−おちほそむらむ


03733
未入力 正徹 (xxx)

をしかなく老の枕のいねかてを山田もるをに今夜かしつる

をしかなく−おいのまくらの−いねかてを−やまたもるをに−こよひかしつる


03734
未入力 正徹 (xxx)

さそふともいなはにさむき初霜よからすは何の夢の秋かせ

さそふとも−いなはにさむき−はつしもよ−からすはなにの−ゆめのあきかせ


03735
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秋の夜もはつ穂もなかきいな莚心のへたる民のころかな

あきのよも−はつほもなかき−いなむしろ−こころのへたる−たみのころかな


03736
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秋の田の夜はのかりほの煙まてともしにあかぬ鹿やよるらん

あきのたの−よはのかりほの−けふりまて−ともしにあかぬ−しかやよるらむ


03737
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民の戸の小田のかり生のむら雨に雲ををさめしいなはならすや

たみのとの−をたのかりふの−むらさめに−くもををさめし−いなはならすや


03738
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ふれはいとひふらねはねかふ世中を秋田もるをも雨に知るらん

ふれはいとひ−ふらねはねかふ−よのなかを−あきたもるをも−あめにしるらむ


03739
未入力 正徹 (xxx)

岡へなる早田霜おきさをしかの妻とひはてて秋や行くらん

をかへなる−はやたしもおき−さをしかの−つまとひはてて−あきやゆくらむ


03740
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思ふ事きれは心の秋にひく玉のをそむるなかき夜の雨

おもふこと−きれはこころの−あきにひく−たまのをそむる−なかきよのあめ


03741
未入力 正徹 (xxx)

はれぬへき雲かとみれは長月の時雨もしらぬ雨となり行く

はれぬへき−くもかとみれは−なかつきの−しくれもしらぬ−あめとなりゆく


03742
未入力 正徹 (xxx)

色そこき時雨れぬ比の秋の雨そむる夕のそこのこころは

いろそこき−しくれぬころの−あきのあめ−そむるゆふへの−そこのこころは


03743
未入力 正徹 (xxx)

空みれは村雲ならすさ夜時雨あすやもみちぬ山もなからん

そらみれは−むらくもならす−さよしくれ−あすやもみちぬ−やまもなからむ


03744
未入力 正徹 (xxx)

老か身もしらす玉のを秋の日のみしかくなひく村雨のかけ

おいかみも−しらすたまのを−あきのひの−みしかくなひく−むらさめのかけ


03745
未入力 正徹 (xxx)

籬なる秋の日影をうつしもてうす霧そむる庭のむら雨

まかきなる−あきのひかけを−うつしもて−うすきりそむる−にはのむらさめ


03746
未入力 正徹 (xxx)

秋の日をそむれはうすき村雨の草木にかへる山そ色そふ

あきのひを−そむれはうすき−むらさめの−くさきにかへる−やまそいろそふ


03747
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染めのこせしくるる山をとふ嵐あらし今はの秋の紅葉は

そめのこせ−しくるるやまを−とふあらし−あらしいまはの−あきのもみちは


03748
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しくれ行く梢も袖のよそならてわか身霜ふる長月の空

しくれゆく−こすゑもそての−よそならて−わかみしもふる−なかつきのそら


03749
未入力 正徹 (xxx)

此秋も時雨の露と消えやらて猶さためなき身をそ恨むる

このあきも−しくれのつゆと−きえやらて−なほさためなき−みをそうらむる


03750
未入力 正徹 (xxx)

ほす世なき袖よりほかの秋の空今そまことの時雨ふるらん

ほすよなき−そてよりほかの−あきのそら−いまそまことの−しくれふるらむ


03751
未入力 正徹 (xxx)

山路行く袖の時雨にふりなりて木の葉をそめぬ秋の雲かな

やまちゆく−そてのしくれに−ふりなりて−このはをそめぬ−あきのくもかな


03752
未入力 正徹 (xxx)

草も木もほさし枕に時雨れきてしはしの夢も長月のすゑ

くさもきも−ほさしまくらに−しくれきて−しはしのゆめも−なかつきのすゑ


03753
未入力 正徹 (xxx)

秋の風なみた時雨のあさの袖空より染めぬ色なたつねそ

あきのかせ−なみたしくれの−あさのそて−そらよりそめぬ−いろなたつねそ


03754
未入力 正徹 (xxx)

程もなく過くる時雨の糸すちを引ののつつらくるる秋かな

ほともなく−すくるしくれの−いとすちを−ひくののつつら−くるるあきかな


03755
未入力 正徹 (xxx)

袖にふる露も昔の軒の草わすれし秋をとふ時雨かな

そてにふる−つゆもむかしの−のきのくさ−わすれしあきを−とふしくれかな


03756
未入力 正徹 (xxx)

もる山のしくれの雨の下もみち染めもわたさて行く嵐かな

もるやまの−しくれのあめの−したもみち−そめもわたさて−ゆくあらしかな


03757
未入力 正徹 (xxx)

露のぬき時雨のたてにおるとなきしつはた山の雲↓色付く

つゆのぬき−しくれのたてに−おるとなき−しつはたやまの−くもそいろつく


03758
未入力 正徹 (xxx)

長月のすゑ野の浅茅むらむらに朝霜けたて行く時雨かな

なかつきの−すゑののあさち−むらむらに−あさしもけたて−ゆくしくれかな


03759
未入力 正徹 (xxx)

おく露をかれる身なから朝ことに草に消ゆるをあはれとそみる

おくつゆを−かれるみなから−あさことに−くさにきゆるを−あはれとそみる


03760
未入力 正徹 (xxx)

松のかけ明行く露も玉しきの真砂にまさる苔の庭かな

まつのかけ−あけゆくつゆも−たましきの−まさこにまさる−こけのにはかな


03761
未入力 正徹 (xxx)

日影さす松に朝露しけく落ちて宜にみたるる岡の村名

ひかけさす−まつにあさつゆ−しけくおちて−かやにみたるる−をかのむらきり


03762
未入力 正徹 (xxx)

まさきくる外山の秋の松のはに時雨れて霜をけつ嵐かな

まさきくる−とやまのあきの−まつのはに−しくれてしもを−けつあらしかな


03763
未入力 正徹 (xxx)

初霜の世にふるかひや長月の木の葉も草もかるる秋かな

はつしもの−よにふるかひや−なかつきの−このはもくさも−かるるあきかな


03764
未入力 正徹 (xxx)

秋におく草木や家をあはれまむいたたく霜はとことはにして

あきにおく−くさきやいへを−あはれまむ−いたたくしもは−とことはにして


03765
未入力 正徹 (xxx)

秋はへぬわか若かみの初霜におもひしすちはなき世なれとも

あきはへぬ−わかわかかみの−はつしもに−おもひしすちは−なきよなれとも


03766
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秋の風たかくろかみに初霜のふるよりさきにむすほほるらん

あきのかせ−たかくろかみに−はつしもの−ふるよりさきに−むすほほるらむ


03767
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秋寒き有明の月につく鐘や霜にこゑそふはしめなるらん

あきさむき−ありあけのつきに−つくかねや−しもにこゑそふ−はしめなるらむ


03768
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枕うきたかもとゆひの秋の霜けさは草葉にむすほほるらん

まくらうき−たかもとゆひの−あきのしも−けさはくさはに−むすほほるらむ


03769
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山のはに朝ゐる雲は霧はれて後の日影にたちわかるなり

やまのはに−あさゐるくもは−きりはれて−のちのひかけに−たちわかるなり


03770
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村村にしくれんためか秋の日をかねて里わく遠近の雲

むらむらに−しくれむためか−あきのひを−かねてさとわく−をちこちのくも


03771
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立田姫染めもおよはしわたの原秋行く雲の秋のくれなゐ

たつたひめ−そめもおよはし−わたのはら−あきゆくくもの−あきのくれなゐ


03772
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まのの浦のを花やあへすぬれてふす夕浪たかし秋の浜風

まののうらの−をはなやあへす−ぬれてふす−ゆふなみたかし−あきのはまかせ


03773
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秋そみん浦の苫やにたえすたく色をもみちのあまのもしほ火

あきそみむ−うらのとまやに−たえすたく−いろをもみちの−あまのもしほひ


03774
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さやかにも見えしやかかみ山鳥の長月の尾のなかき夜の夢

さやかにも−みえしやかかみ−やまとりの−なかつきのをの−なかきよのゆめ


03775
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老いらくの床も枕も秋のよのなかきをしるは涙なりけり

おいらくの−とこもまくらも−あきのよの−なかきをしるは−なみたなりけり


03776
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今さらに老の命のなかき夜もおとろかれぬる夢の後かな

いまさらに−おいのいのちの−なかきよも−おとろかれぬる−ゆめののちかな


03777
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長月やねにふしとらにおくるまも春の一夜の程はへにけり

なかつきや−ねにふしとらに−おくるまも−はるのひとよの−ほとはへにけり


03778
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明けやらぬ秋の枕に思はすや身の後しらぬなかき夜のやみ

あけやらぬ−あきのまくらに−おもはすや−みののちしらぬ−なかきよのやみ


03779
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秋そうきすゑをみはやと思ふ夢にわさとぬる夜は長くめ覚めて

あきそうき−すゑをみはやと−おもふゆめに−わさとぬるよは−なかくめさめて


03780
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涼しくも秋くる西の山かせにあらまほしきは有明の月

すすしくも−あきくるにしの−やまかせに−あらまほしきは−ありあけのつき


03781
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松一木月にならへる嶺はかり霧たちのこすあかつきの山

まつひとき−つきにならへる−みねはかり−きりたちのこす−あかつきのやま


03782
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もろ共にききそあかさん行末も長月の夜のかねに契りて

もろともに−ききそあかさむ−ゆくすゑも−なかつきのよの−かねにちきりて


03783
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夕暮のこゑもききしはそれなから林のかねをさそふあきかせ

ゆふくれの−こゑもききしは−それなから−はやしのかねを−さそふあきかせ


03784
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しけき野も暁むしのこゑはせす秋の霜おく月の下草

しけきのも−あかつきむしの−こゑはせす−あきのしもおく−つきのしたくさ


03785
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色ふかみ此敷島の大和川もみちや秋の人のことの葉

いろふかみ−このしきしまの−やまとかは−もみちやあきの−ひとのことのは


03786
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すみなれてあくるうれしきせをそみる霧はれにけり堀川の水

すみなれて−あくるうれしき−せをそみる−きりはれにけり−ほりかはのみつ


03787
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かへるさは露そこほるる玉かつらはふ木あまたの秋のなこりに

かへるさは−つゆそこほるる−たまかつら−はふきあまたの−あきのなこりに


03788
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人の世は色かはり行く秋のはにかかるも末の露の山かせ

ひとのよは−いろかはりゆく−あきのはに−かかるもすゑの−つゆのやまかせ


03789
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梅かえのいそく心をしら菊や花より後の花をゆつらん

うめかえの−いそくこころを−しらきくや−はなよりのちの−はなをゆつらむ


03790
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秋さむき岡の屋かたやうつむらん葛の下はふ夕煙かな

あきさむき−をかのやかたや−うつむらむ−くすのしたはふ−ゆふけふりかな


03791
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ひまそなき霧晴れやらぬまきのはに山路しくるる露も雫も

ひまそなき−きりはれやらぬ−まきのはに−やまちしくるる−つゆもしつくも


03792
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妻やまつふすゐのかるもかきこめて花のの秋の床そ色なる

つまやまつ−ふすゐのかるも−かきこめて−はなののあきの−とこそいろなる


03793
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山田もる庵のたく火におとろくやともしかなしき秋のさをしか

やまたもる−いほのたくひに−おとろくや−ともしかなしき−あきのさをしか


03794
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春のみか草木色つき都にも人めにたたぬ秋のにしきは

はるのみか−くさきいろつき−みやこにも−ひとめにたたぬ−あきのにしきは


03795
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明渡るすゑ野の山の入海に霧吹残す秋のしほかせ

あけわたる−すゑののやまの−いりうみに−きりふきのこす−あきのしほかせ


03796
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西川や遠かた人の心さへはれぬかつらの宮の秋きり

にしかはや−をちかたひとの−こころさへ−はれぬかつらの−みやのあききり


03797
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松かけも落葉そうつむ秋はいつかへりくすはの宮の古道

まつかけも−おちはそうつむ−あきはいつ−かへりくすはの−みやのふるみち


03798
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世を秋の心みたるる折もあらしかやか軒はの松の嵐に

よをあきの−こころみたるる−をりもあらし−かやかのきはの−まつのあらしに


03799
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入りきてもかへらむ日をや急くらんあれにし後のふるさとの秋

いりきても−かへらむひをや−いそくらむ−あれにしのちの−ふるさとのあき


03800
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秋山はまたうつろはぬ木の葉ちる嵐に軒の松そしくるる

あきやまは−またうつろはぬ−このはちる−あらしにのきの−まつそしくるる


03801
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秋の窓の光はそひて夜はおそしを車にさす油ならねは

あきのまとの−ひかりはそひて−よはおそし−をくるまにさす−あふらならねは


03802
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露なからいねかり入れししつかやにほなみかたしきさねぬ此夜を

つゆなから−いねかりいれし−しつかやに−ほなみかたしき−さねぬこのよを


03803
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古郷の秋に色つけ嶺こゆる思ひをせかぬ雲のしからみ

ふるさとの−あきにいろつけ−みねこゆる−おもひをせかぬ−くものしからみ


03804
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宮古にて露をはかたれささ分くる袖の上こす嶺のかりかね

みやこにて−つゆをはかたれ−ささわくる−そてのうへこす−みねのかりかね


03805
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あふ人もかたみに心おくはかりやかてかくるる野へのあさきり

あふひとも−かたみにこころ−おくはかり−やかてかくるる−のへのあさきり


03806
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見すしらし此世の夢のわたり川そのうきはしの秋の夕暮

みすしらし−このよのゆめの−わたりかは−そのうきはしの−あきのゆふくれ


03807
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わたりけんたか涙にかひつ川の橋さへねるる秋のゆふ暮

わたりけむ−たかなみたにか−ひつかはの−はしさへねるる−あきのゆふくれ


03808
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秋の霜空にみつなりかささきのわたせる橋はいつくなるらん

あきのしも−そらにみつなり−かささきの−わたせるはしは−いつくなるらむ


03809
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玉章をくる雁ことにかけてこはおはつかなさや誰もなからん

たまつさを−くるかりことに−かけてこは−おほつかなさや−たれもなからむ


03810
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長月や紅葉かつちる鳰鳥のくれなゐくくる池の月かけ

なかつきや−もみちかつちる−にほとりの−くれなゐくくる−いけのつきかけ


03811
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明かたのうらの朝霧たつそなく島かくれせぬ秋のこゑかな

あけかたの−うらのあさきり−たつそなく−しまかくれせぬ−あきのこゑかな


03812
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秋の浪さむき汀とおのか毛の雪をもしらて鷺やとふらん

あきのなみ−さむきみきはと−おのかけの−ゆきをもしらて−さきやとふらむ


03813
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難波江の秋のほ浪にへたてきぬ芦かひなりし神の代の春

なにはえの−あきのほなみに−へたてきぬ−あしかひなりし−かみのよのはる


03814
未入力 正徹 (xxx)

秋やなきあさちか底は秋の霜結ひからさぬ古郷の夢

あきやなき−あさちかそこは−あきのしも−むすひからさぬ−ふるさとのゆめ


03815
未入力 正徹 (xxx)

山かけや庵かなしき秋風にめくれる霧のかきほあれつつ

やまかけや−いほりかなしき−あきかせに−めくれるきりの−かきほあれつつ


03816
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よもかさしむこ山颪川かせに秋さり衣雁はなけとも

よもかさし−むこやまおろし−かはかせに−あきさりころも−かりはなけとも


03817
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橋姫のもゆる思ひをなかき夜にたきもつくさしうちの柴舟

はしひめの−もゆるおもひを−なかきよに−たきもつくさし−うちのしはふね


03818
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さひしさは花もにほほす鳥もゐす苔にふりたる園の秋風

さひしさは−はなもにほはす−とりもゐす−こけにふりたる−そののあきかせ


03819
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ならのはに時雨ふる秋をしたひても跡なき風のうつろふはをし

ならのはに−しくれふるあきを−したひても−あとなきかせの−うつろふはをし


03820
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秋の花を軒はのたなに折りちらしあかさらならすかはらやのおく

あきのはなを−のきはのたなに−をりちらし−あかさらならす−かはらやのおく


03821
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川上は笠置の岩戸霧とちぬ向ふあらしを寺にかせやま

かはかみは−かさきのいはと−きりとちぬ−むかふあらしを−てらにかせやま


03822
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影そみぬ風は夕になら坂やこの手柏のまねくみか月

かけそみぬ−かせはゆふへに−ならさかや−このてかしはの−まねくみかつき


03823
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身にそしむふけ行く月も秋風の声すみのほる夜はの笛竹

みにそしむ−ふけゆくつきも−あきかせの−こゑすみのはる−よはのふえたけ


03824
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かきならすことのをかけて秋風のしらへそ松にうれへ初めぬる

かきならす−ことのをかけて−あきかせの−しらへそまつに−うれへそめぬる


03825
未入力 正徹 (xxx)

行きてみぬしかのそのふの秋の花むなしき露を月みかくらん

ゆきてみぬ−しかのそのふの−あきのはな−むなしきつゆを−つきみかくらむ


03826
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山本の梢色つき秋深けてまへのの尾花まねく手もなし

やまもとの−こすゑいろつき−あきふけて−まへののをはな−まねくてもなし


03827
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浦つつく上野のかたのすす虫を舟に声かるすまの山かせ

うらつつく−うへののかたの−すすむしを−ふねにこゑかる−すまのやまかせ


03828
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秋されはさく夕かほの花過きてみつのの浪の色そあせゆく

あきされは−さくゆふかほの−はなすきて−みつののなみの−いろそあせゆく


03829
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露霜もしらぬ夕日を秋の色になにそは染めて影かはるらん

つゆしもも−しらぬゆふひを−あきのいろに−なにそはそめて−かけかはるらむ


03830
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出つる日に光をゆつる有明のいらまくつらき秋の山の端

いつるひに−ひかりをゆつる−ありあけの−いらまくつらき−あきのやまのは


03831
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嵐ふく嶺の下葛うらふれて松かけささぬ鹿そ鳴くなる

あらしふく−みねのしたくす−うらふれて−まつかけささぬ−しかそなくなる


03832
未入力 正徹 (xxx)

あさ露はこまかにおちて村すすき霧ふる野へは風もなひかす

あさつゆは−こまかにおちて−むらすすき−きりふるのへは−かせもなひかす


03833
未入力 正徹 (xxx)

橋ひめのかたしく袖に染めいたす山も朝日の秋のさころも

はしひめの−かたしくそてに−そめいたす−やまもあさひの−あきのさころも


03834
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散りうせよ世にもあらしにととまらぬ秋の木の葉をことのはにして

ちりうせよ−よにもあらしに−ととまらぬ−あきのこのはを−ことのはにして


03835
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しくれ行くしはしか秋の雲風に身をあるもののなきになしつつ

しくれゆく−しはしかあきの−くもかせに−みをあるものの−なきになしつつ


03836
未入力 正徹 (xxx)

わすられぬ昔の秋に今ぬらす涙もふかき袖やこふらん

わすられぬ−むかしのあきに−いまぬらす−なみたもふかき−そてやこふらむ


03837
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夜そなかき枕のみねの松風に野田のひたうつ秋の山さと

よそなかき−まくらのみねの−まつかせに−のたのひたうつ−あきのやまさと


03838
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玉かしは秋なき浪を染めかねてなには入江にふる時雨かな

たまかしは−あきなきなみを−そめかねて−なにはいりえに−ふるしくれかな


03839
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鐘たえしならのあすかにとふ鳥のひとりも鳴きてしたふ秋かな

かねたえし−ならのあすかに−とふとりの−ひとりもなきて−したふあきかな


03840
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ふみ分けて入るや野口のかりこゑに山もとさわく秋のむら鳥

ふみわけて−いるやのくちの−かりこゑに−やまもとさわく−あきのむらとり


03841
未入力 正徹 (xxx)

露なから花ふみしたく駒ゆゑも秋の野守やつらきかり人

つゆなから−はなふみしたく−こまゆゑも−あきののもりや−つらきかりひと


03842
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露分くる野への千種の花鳥に又色そふるかり衣かな

つゆわくる−のへのちくさの−はなとりに−またいろそふる−かりころもかな


03843
未入力 正徹 (xxx)

はかなしやかりはの風の荻のえに心をつけぬ小鳥はかりは

はかなしや−かりはのかせの−をきのえに−こころをつけぬ−ことりはかりは


03844
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山の端にむら雲さわくかり衣すそのの野分かつ心せよ

やまのはに−むらくもさわく−かりころも−すそのののわき−かつこころせよ


03845
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野へ遠き都のつとか荻の上に小鳥とりつけかへるかり人

のへとほき−みやこのつとか−をきのうへに−ことりとりつけ−かへるかりひと


03846
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長月や草ふみたてて花鳥のいのちもしらぬのへのかり人

なかつきや−くさふみたてて−はなとりの−いのちもしらぬ−のへのかりひと


03847
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あふ坂や引く駒おそき望月も山たちいつる雲のうへ人

あふさかや−ひくこまおそき−もちつきも−やまたちいつる−くものうへひと


03848
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逢坂に雲の上人むかへとも月毛の駒はくもるともみす

あふさかに−くものうへひと−むかへとも−つきけのこまは−くもるともみす


03849
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八幡山ふもとの秋の神わさにひとり宮もる嶺の松かせ

やはたやま−ふもとのあきの−かみわさに−ひとりみやもる−みねのまつかせ


03850
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きの海の浪につつかぬひろ沢も月の南は山の端もなし

きのうみの−なみにつつかぬ−ひろさはも−つきのみなみは−やまのはもなし


03851
未入力 正徹 (xxx)

西の海に今すむ月や雲の上の秋をしたひし名残なるらん

にしのうみに−いますむつきや−くものうへの−あきをしたひし−なこりなるらむ


03852
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こととはんたそかれ時の山のはにおもかけしるく出つる月かな

こととはむ−たそかれときの−やまのはに−おもかけしるく−いつるつきかな


03853
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しかの浦やあれし都の月ひとりすむとはしるやから崎の松

しかのうらや−あれしみやこの−つきひとり−すむとはしるや−からさきのまつ


03854
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ふるき世の月をかたみの鏡ともみよとや空に猶のこるらん

ふるきよの−つきをかたみの−かかみとも−みよとやそらに−なほのこるらむ


03855
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さのみわれつもらむ年のよもあらし老いてそ月をみつへかりける

さのみわれ−つもらむとしの−よもあらし−おいてそつきを−みつへかりける


03856
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つひに身のさらむ此世のなこりまておし明かたの月もわするな

つひにみの−さらむこのよの−なこりまて−おしあけかたの−つきもわするな


03857
未入力 正徹 (xxx)

山のはの月を招きて庵ふりぬいつるを待つと入るををしむと

やまのはの−つきをまねきて−いほふりぬ−いつるをまつと−いるををしむと


03858
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しるかりき出つる木の間の夕月よ心つくしを秋にとはねと

しるかりき−いつるこのまの−ゆふつくよ−こころつくしを−あきにとはねと


03859
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秋も夜も深行く月の宮木守かつらををらぬ光をしむな

あきもよも−ふけゆくつきの−みやきもり−かつらををらぬ−ひかりをしむな


03860
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山たかみわか立つ杣のひかし坂のほらぬ月をふもとにそみる

やまたかみ−わかたつそまの−ひかしさか−のほらぬつきを−ふもとにそみる


03861
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やとれ身は七十三の秋の月影みん袖もしらぬなみたに

やとれみは−ななそちみつの−あきのつき−かけみむそても−しらぬなみたに


03862
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世をまもる神と光を分けきてもわしの高根に有明の月

よをまもる−かみとひかりを−わけきても−わしのたかねに−ありあけのつき


03863
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天の川やとかす人もあらしとや秋のよわたる月の行くらん

あまのかは−やとかすひとも−あらしとや−あきのよわたる−つきのゆくらむ


03864
未入力 正徹 (xxx)

見るからそ秋やは人をなくさめて光をそへんさらしなの月

みるからそ−あきやはひとを−なくさめて−ひかりをそへむ−さらしなのつき


03865
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月も又われをめてける行へともしらてや人を老となすらん

つきもまた−われをめてける−ゆくへとも−しらてやひとを−おいとなすらむ


03866
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久かたのたたその中にすみなれて月の宮人月やみさらん

ひさかたの−たたそのうちに−すみなれて−つきのみやひと−つきやみさらむ


03867
未入力 正徹 (xxx)

久かたの月の宮人我なれや光のうちにすむこころかな

ひさかたの−つきのみやひと−われなれや−ひかりのうちに−すむこころかな


03868
未入力 正徹 (xxx)

一とせの春の花程月をみはねむ秋の日やみしか夜の空

ひととせの−はるのはなほと−つきをみは−ねむあきのひや−みしかよのそら


03869
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なかめつつ哀と思ひつらしとも人のままにや月はすむらん

なかめつつ−あはれとおもひ−つらしとも−ひとのままにや−つきはすむらむ


03870
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久堅の月の宮古を都にてみるはいかなる契なるらむ

ひさかたの−つきのみやこを−みやこにて−みるはいかなる−ちきりなるらむ


03871
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いかにして世にすむ物そ人心むかしにもあらぬ秋の夜の月

いかにして−よにすむものそ−ひとこころ−むかしにもあらぬ−あきのよのつき


03872
未入力 正徹 (xxx)

ねかはくはこむ世も秋の月をみてかく思ひおくいまをわすれし

ねかはくは−こむよもあきの−つきをみて−かくおもひおく−いまをわすれし


03873
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都にもおなしかかみをかけ出つる遠山とりのをは捨の月

みやこにも−おなしかかみを−かけいつる−とほやまとりの−をはすてのつき


03874
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うき身をはかへてもなとかあはさらんさらぬわかれの有明の月

うきみをは−かへてもなとか−あはさらむ−さらぬわかれの−ありあけのつき


03875
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はるる夜の老の涙にくもるをは袖にゆるして月をみるかな

はるるよの−おいのなみたに−くもるをは−そてにゆるして−つきをみるかな


03876
未入力 正徹 (xxx)

さやけさを手にとるはかり久かたの月の宮人月やみるらん

さやけさを−てにとるはかり−ひさかたの−つきのみやひと−つきやみるらむ


03877
未入力 正徹 (xxx)

影やとす月に思ひをかさねても衣手うすし秋のうたたね

かけやとす−つきにおもひを−かさねても−ころもてうすし−あきのうたたね


03878
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秋の月しのに衣そぬれまさるこれもなみたの川やしろかも

あきのつき−しのにころもそ−ぬれまさる−これもなみたの−かはやしろかも


03879
未入力 正徹 (xxx)

行きめくり月のぬる夜のなきにたに雲の床しく空の秋風

ゆきめくり−つきのぬるよの−なきにたに−くものとこしく−そらのあきかせ


03880
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なかめけん此坂もとの松島やをしまの月の秋をしそ思ふ

なかめけむ−このさかもとの−まつしまや−をしまのつきの−あきをしそおもふ


03881
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雲まよりおちたる月もなかれもの水底みゆる秋の川浪

くもまより−おちたるつきも−なかれもの−みなそこみゆる−あきのかはなみ


03882
未入力 正徹 (xxx)

秋の月めてすはなににつもるそと心なき身の老にとははや

あきのつき−めてすはなにに−つもるそと−こころなきみの−おいにとははや


03883
未入力 正徹 (xxx)

人ことの思ひは雲とかさなれと月そむくはぬ影にさやけき

ひとことの−おもひはくもと−かさなれと−つきそむくはぬ−かけにさやけき


03884
未入力 正徹 (xxx)

衣たつしのふのみたれ雲きえてかきりしられぬ月の行末

ころもたつ−しのふのみたれ−くもきえて−かきりしられぬ−つきのゆくすゑ


03885
未入力 正徹 (xxx)

にほの海の浪も七度あせはてていつ桑原に月のすみけん

にほのうみの−なみもななたひ−あせはてて−いつくははらに−つきのすみけむ


03886
未入力 正徹 (xxx)

あれわたる床のかかみはたかおける形見ともなき古郷の月

あれわたる−とこのかかみは−たかおける−かたみともなき−ふるさとのつき


03887
未入力 正徹 (xxx)

久かたの月のかつらの秋の花にほひはつれす光ちるなり

ひさかたの−つきのかつらの−あきのはな−にほひはつれす−ひかりちるなり


03888
未入力 正徹 (xxx)

いく世ともいはねこりしき谷ふかき山としたかくいつる月影

いくよとも−いはねこりしき−たにふかき−やまとしたかく−いつるつきかけ


03889
未入力 正徹 (xxx)

出つるまの月のうちよりこゑそするかねやいこまの嶺の山寺

いつるまの−つきのうちより−こゑそする−かねやいこまの−みねのやまてら


03890
未入力 正徹 (xxx)

雲そなき空はなかはの秋の名に一夜へたつる山のはの月

くもそなき−そらはなかはの−あきのなに−ひとよへたつる−やまのはのつき


03891
未入力 正徹 (xxx)

夜はの月かならすいつる山のはに雲あつまりて又そきえ行く

よはのつき−かならすいつる−やまのはに−くもあつまりて−またそきえゆく


03892
未入力 正徹 (xxx)

夕くれの山きははれてさしのほる月より上の雲そ色こき

ゆふくれの−やまきははれて−さしのほる−つきよりうへの−くもそいろこき


03893
未入力 正徹 (xxx)

ふもととも一の塵のなりし世やいつる嶺なき秋の夜の月

ふもととも−ひとつのちりの−なりしよや−いつるみねなき−あきのよのつき


03894
未入力 正徹 (xxx)

木のまよりむかふ伊駒の雲に影さすやみかさの山のはの月

このまより−むかふいこまの−くもにかけ−さすやみかさの−やまのはのつき


03895
未入力 正徹 (xxx)

物ことにきははなるるはかたき世にやすくも月のあかる山かな

ものことに−きははなるるは−かたきよに−やすくもつきの−あかるやまかな


03896
未入力 正徹 (xxx)

出てけりなあはれうき世と思ひいる身の夕くれの山のはの月

いてけりな−あはれうきよと−おもひいる−みのゆふくれの−やまのはのつき


03897
未入力 正徹 (xxx)

うき雲の袖かへるなり海士を舟空にをすての山のはの月

うきくもの−そてかへるなり−あまをふね−そらにをすての−やまのはのつき


03898
未入力 正徹 (xxx)

おく露にやとるはしらす山松の下草みえて出つる月かけ

おくつゆに−やとるはしらす−やままつの−したくさみえて−いつるつきかけ


03899
未入力 正徹 (xxx)

すみのほる月にもれたる草かくれ嵐そわたる峰の松かえ

すみのほる−つきにもれたる−くさかくれ−あらしそわたる−みねのまつかえ


03900
未入力 正徹 (xxx)

たちいてて今の都をもる月の世世にくもらぬ大ひえの山

たちいてて−いまのみやこを−もるつきの−よよにくもらぬ−おほひえのやま


03901
未入力 正徹 (xxx)

照りまさる月の桂のもみちははちらぬ高根に秋風そふく

てりまさる−つきのかつらの−もみちはは−ちらぬたかねに−あきかせそふく


03902
未入力 正徹 (xxx)

山となる麓のちりも今夜ゐは数さへ見えん月の影かな

やまとなる−ふもとのちりも−こよひゐは−かすさへみえむ−つきのかけかな


03903
未入力 正徹 (xxx)

かさならむ山となるへき塵もゐは今夜そ見えん出つる月影

かさならむ−やまとなるへき−ちりもゐは−こよひそみえむ−いつるつきかけ


03904
未入力 正徹 (xxx)

松風の声にそましる中空のふもとをのほる嶺の月かけ

まつかせの−こゑにそましる−なかそらの−ふもとをのほる−みねのつきかけ


03905
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湊山かけをうつして月の舟漕きいつる嶺の天の川なみ

みなとやま−かけをうつして−つきのふね−こきいつるみねの−あまのかはなみ


03906
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影ともにふもとの海に落ちてけりあつまの月のいつの山かせ

かけともに−ふもとのうみに−おちてけり−あつまのつきの−いつのやまかせ


03907
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山にすむ昔かしこき人もかなまたれて出つる月もある世に

やまにすむ−むかしかしこき−ひともかな−またれていつる−つきもあるよに


03908
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日の御影いてし岩戸を又照す月おもしろき天のかく山

ひのみかけ−いてしいはとを−またてらす−つきおもしろき−あまのかくやま


03909
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立ちこむる霧より出ててすみのほる月のおくなる秋の遠山

たちこむる−きりよりいてて−すみのはる−つきのおくなる−あきのとほやま


03910
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滝浪を霧に吹きなす深山風なにの草木も秋の月影

たきなみを−きりにふきなす−みやまかせ−なにのくさきも−あきのつきかけ


03911
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柴の戸に秋風ふけて月寒き梢の浪の山わたる声

しはのとに−あきかせふけて−つきさむき−こすゑのなみの−やまわたるこゑ


03912
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深山路や木の間をみれはわたるなり色やはかはる大うみのなみ

みやまちや−このまをみれは−わたるなり−いろやはかはる−おほうみのなみ


03913
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木の間もるならひはかりにいかか見る秋の太山の月の里人

このまもる−ならひはかりに−いかかみる−あきのみやまの−つきのさとひと


03914
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きりはてぬ思ひの河やまさきちる秋の外山の月の宮人

きりはてぬ−おもひのかはや−まさきちる−あきのとやまの−つきのみやひと


03915
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遠方にかたふく影は夜ふかくて月の外山のみねそ明行く

をちかたに−かたふくかけは−よふかくて−つきのとやまの−みねそあけゆく


03916
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み山木の秋のこの実もおつるはも音せぬ谷にふくる夜の月

みやまきの−あきのこのみも−おつるはも−おとせぬたにに−ふくるよのつき


03917
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ささのやに太山の松の一葉たにおつる声なき月のさ夜中

ささのやに−みやまのまつの−ひとはたに−おつるこゑなき−つきのさよなか


03918
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落葉かと四方にきこゆるおともなし太山の松の月のさよ中

おちはかと−よもにきこゆる−おともなし−みやまのまつの−つきのさよなか


03919
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かかれとそ世をも人をも祈りおかむ深山の空にふくるよの月

かかれとそ−よをもひとをも−いのりおかむ−みやまのそらに−ふくるよのつき


03920
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秋ふかき山風きかて木のまもる月に落椎の霜をうつこゑ

あきふかき−やまかせきかて−このまもる−つきにおちしひの−しもをうつこゑ


03921
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すみのほる月の夕の山かつらかくるににたる雲そのこれる

すみのほる−つきのゆふへの−やまかつら−かくるににたる−くもそのこれる


03922
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雲にほふ色そふ月の出所夜ことにかはる嶺つつきかな

くもにほふ−いろそふつきの−いてところ−よことにかはる−みねつつきかな


03923
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嶺におふる松はまことに久堅の月出てぬまも千代やへぬらん

みねにおふる−まつはまことに−ひさかたの−つきいてぬまも−ちよやへぬらむ


03924
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月まつと人にいふへき左もなし契れるかたのほしき夜はかな

つきまつと−ひとにいふへき−とももなし−ちきれるかたの−ほしきよはかな


03925
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うしや猶いさよひの後はまちえても夜ことにかるる月の宮人

うしやなほ−いさよひののちは−まちえても−よことにかるる−つきのみやひと


03926
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たか中に契りそめてか三日の夜をねやにあらはし月の出つらん

たかなかに−ちきりそめてか−みかのよを−ねやにあらはし−つきのいつらむ


03927
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まとかなるすかたはかりはあらはれて下に色こき秋の三か月

まとかなる−すかたはかりは−あらはれて−したにいろこき−あきのみかつき


03928
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玉くしけなかはの秋の三日のよにあらはしいたす望月もかな

たまくしけ−なかはのあきの−みかのよに−あらはしいたす−もちつきもかな


03929
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てらせ猶弓張月のよひのまに入る山のはの秋のもみち葉

てらせなほ−ゆみはりつきの−よひのまに−いるやまのはの−あきのもみちは


03930
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更けにけり月のかけたるあつさ弓いり江浪こす興つしほ風

ふけにけり−つきのかけたる−あつさゆみ−いりえなみこす−おきつしほかせ


03931
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むかしにも光そこえん秋をそへ名をかさね行く夜半のもち月

むかしにも−ひかりそこえむ−あきをそへ−なをかさねゆく−よはのもちつき


03932
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星合は過きても秋の名にたかき月こそわたれ天の川なみ

ほしあひは−すきてもあきの−なにたかき−つきこそわたれ−あまのかはなみ


03933
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名こそあれわか身の年も半にてみし世の月の秋そかへらぬ

なこそあれ−わかみのとしも−なかはにて−みしよのつきの−あきそかへらぬ


03934
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すきし空あすのいさよひの光をもかるや名たかき月をますとて

すきしそら−あすのいさよひの−ひかりをも−かるやなたかき−つきをますとて


03935
未入力 正徹 (xxx)

白菊はわか時過きて月に又あすの名ちらす露のあきかせ

しらきくは−わかときすきて−つきにまた−あすのなちらす−つゆのあきかせ


03936
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袖にもる雲まの影そ猶ほそき夜は長月の中の三か月

そてにもる−くもまのかけそ−なほほそき−よはなかつきの−なかのみかつき


03937
未入力 正徹 (xxx)

行きかへる秋もはてなき月の名にいく長月かめくりあはまし

ゆきかへる−あきもはてなき−つきのなに−いくなかつきか−めくりあはまし


03938
未入力 正徹 (xxx)

風わたる初霜さむし秋の月望に二夜のまへのたなはし

かせわたる−はつしもさむし−あきのつき−もちにふたよの−まへのたなはし


03939
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たれもみよやかてみてるをかく月のいさよひの空そ人の世中

たれもみよ−やかてみてるを−かくつきの−いさよひのそらそ−ひとのよのなか


03940
未入力 正徹 (xxx)

光をも名をも昨日をゆつるらしいさよひの空に出つる望月

ひかりをも−なをもきのふを−ゆつるらし−いさよひのそらに−いつるもちつき


03941
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花にみんやとりあらさし秋草の露ふむ庭にたちまちの月

はなにみむ−やとりあらさし−あきくさの−つゆふむにはに−たちまちのつき


03942
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千草ふく野への嵐にさをしかもおき臥待の月や知るらん

ちくさふく−のへのあらしに−さをしかも−おきふしまちの−つきやしるらむ


03943
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戸を明けてひとりねまちの月夜よし人をこてふににたる宿かな

とをあけて−ひとりねまちの−つきよよし−ひとをこてふに−にたるやとかな


03944
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民の戸も出てて照さぬかたやなき廿日ゐ中の月の都に

たみのとも−いてててらさぬ−かたやなき−はつかゐなかの−つきのみやこに


03945
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空にいる同しはは箭は見えねとも月や神代の天のこの弓

そらにいる−おなしははやは−みえねとも−つきやかみよの−あまのこのゆみ


03946
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色もをし月の桂の枝分に夜をへてかるる有明のかけ

いろもをし−つきのかつらの−えたわけに−よをへてかるる−ありあけのかけ


03947
未入力 正徹 (xxx)

朝ほらけむなしき秋の中空に月ものこりて影やこふらん

あさほらけ−むなしきあきの−なかそらに−つきものこりて−かけやこふらむ


03948
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覚めてみるわか長月の有明はまた初霜のさ夜中の空

さめてみる−わかなかつきの−ありあけは−またはつしもの−さよなかのそら


03949
未入力 正徹 (xxx)

有明の残るにたへぬ長き夜の月より西は空そはるけき

ありあけの−のこるにたへぬ−なかきよの−つきよりにしは−そらそはるけき


03950
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消えやらて猶もわか世に有明を月につれなき恨とやみん

きえやらて−なほもわかよに−ありあけを−つきにつれなき−うらみとやみむ


03951
未入力 正徹 (xxx)

月はいまをはすて山の有明にしなののま弓かけていてつつ

つきはいま−をはすてやまの−ありあけに−しなののまゆみ−かけていてつつ


03952
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらすあかつきおきは恋ちにも法の道にも契る月かけ

そてぬらす−あかつきおきは−こひちにも−のりのみちにも−ちきるつきかけ


03953
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから雲なき空をおくりきて心かたふく有明の月

よもすから−くもなきそらを−おくりきて−こころかたふく−ありあけのつき


03954
未入力 正徹 (xxx)

秋の夜にわかれて月や残るらんさきたつ友の跡の身そうき

あきのよに−わかれてつきや−のこるらむ−さきたつともの−あとのみそうき


03955
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あくるまはこゑそうらむる中空の月まちとらぬ峰の松かせ

あくるまは−こゑそうらむる−なかそらの−つきまちとらぬ−みねのまつかせ


03956
未入力 正徹 (xxx)

よそにして月そさやかにおくりける雲の衣の嶺のきぬきぬ

よそにして−つきそさやかに−おくりける−くものころもの−みねのきぬきぬ


03957
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あくるまの月にそみつる此世にもをしめは残るならひありとは

あくるまの−つきにそみつる−このよにも−をしめはのこる−ならひありとは


03958
未入力 正徹 (xxx)

道しらぬ月とやはみん秋なかは名をとけし世に有明の空

みちしらぬ−つきとやはみむ−あきなかは−なをとけしよに−ありあけのそら


03959
未入力 正徹 (xxx)

長き夜をおくりすててや行末ののこれる空に月とまるらん

なかきよを−おくりすててや−ゆくすゑの−のこれるそらに−つきとまるらむ


03960
未入力 正徹 (xxx)

うす雲のかけ行く月は明くる夜の光にかはる窓のともし火

うすくもの−かけゆくつきは−あくるよの−ひかりにかはる−まとのともしひ


03961
未入力 正徹 (xxx)

天の原明行くままに影きえてうす雲渡る山のはの月

あまのはら−あけゆくままに−かけきえて−うすくもわたる−やまのはのつき


03962
未入力 正徹 (xxx)

雲にあくる月より西のはるる夜はなに心なき空もうらめし

くもにあくる−つきよりにしの−はるるよは−なにこころなき−そらもうらめし


03963
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春の花うきにそまさる入る月の光ちらさて送る秋かせ

はるのはな−うきにそまさる−いるつきの−ひかりちらさて−おくるあきかせ


03964
未入力 正徹 (xxx)

あくる戸の月やかへりてしたふらんかたふく閨の奥にやとれる

あくるとの−つきやかへりて−したふらむ−かたふくねやの−おくにやとれる


03965
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したへとや月のかたふく山をしもたかく神代にうみはおきけん

したへとや−つきのかたふく−やまをしも−たかくかみよに−うみはおきけむ


03966
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世にいてん事は夜のまそをしまれて入る山ふかく月ほなるとも

よにいてむ−ことはよのまそ−をしまれて−いるやまふかく−つきほなるとも


03967
未入力 正徹 (xxx)

いねかては萩の下葉もなれしらすひとりある人の月の名残に

いねかては−はきのしたはも−なれしらす−ひとりあるひとの−つきのなこりに


03968
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秋の月かくこそあらめと老か身のみさらん秋をしる涙かな

あきのつき−かくこそあらめと−おいかみの−みさらむあきを−しるなみたかな


03969
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わすれめや露おく秋の初よりなれにし袖の長月の月

わすれめや−つゆおくあきの−はしめより−なれにしそての−なかつきのつき


03970
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老か身はなき世の秋の月を見てしのはん人や今もとほまし

おいかみは−なきよのあきの−つきをみて−しのはむひとや−いまもとほまし


03971
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物そ思ふ月なき秋の夕たになかめやすてし雲のはたては

ものそおもふ−つきなきあきの−ゆふへたに−なかめやすてし−くものはたては


03972
未入力 正徹 (xxx)

秋の空みしかかりつる日の影の月にそへはや色まさるらん

あきのそら−みしかかりつる−ひのかけの−つきにそへはや−いろまさるらむ


03973
未入力 正徹 (xxx)

わすれても秋こぬ年のめくりこは空行く月や光かはらむ

わすれても−あきこぬとしの−めくりこは−そらゆくつきや−ひかりかはらむ


03974
未入力 正徹 (xxx)

秋ふとも月の心にそむかすは袖にくもらぬしるしをそみむ

あきふとも−つきのこころに−そむかすは−そてにくもらぬ−しるしをそみむ


03975
未入力 正徹 (xxx)

あひに合ふ空を契りし秋こすはかはりにけりと月やうらみん

あひにあふ−そらをちきりし−あきこすは−かはりにけりと−つきやうらみむ


03976
未入力 正徹 (xxx)

空に名をいひはたてねと浮雲や月と秋との中をさふらん

そらになを−いひはたてねと−うきくもや−つきとあきとの−なかをさふらむ


03977
未入力 正徹 (xxx)

老の坂のほりてくたる道すから空行く月をつれぬ夜tなし

おいのさか−のほりてくたる−みちすから−そらゆくつきを−つれぬよもなし


03978
未入力 正徹 (xxx)

ならひありてあはれ手にとる物ならはわか世に秋の色やみさらん

ならひありて−あはれてにとる−ものならは−わかよにあきの−いろやみさらむ


03979
未入力 正徹 (xxx)

いつくにもうれへある人をなくさめて此世に月や行きめくるらん

いつくにも−うれへあるひとを−なくさめて−このよにつきや−ゆきめくるらむ


03980
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秋をへて月にぬれにし衣手のひぬ夜そつもる露のかたしき

あきをへて−つきにぬれにし−ころもての−ひぬよそつもる−つゆのかたしき


03981
未入力 正徹 (xxx)

なかめてもしつかをた巻長き夜と月にはしはし秋の宮人

なかめても−しつかをたまき−なかきよと−つきにはしはし−あきのみやひと


03982
未入力 正徹 (xxx)

身のうさもみれは思はす月の内におふるかいさや物わすれ草

みのうさも−みれはおもはす−つきのうちに−おふるかいさや−ものわすれくさ


03983
未入力 正徹 (xxx)

すみかたき世にうき秋のせめつるをはらふかむかふ月の下風

すみかたき−よにうきあきの−せめつるを−はらふかむかふ−つきのしたかせ


03984
未入力 正徹 (xxx)

よもすからふけともかはる色もみす月とふたりの中の秋かせ

よもすから−ふけともかはる−いろもみす−つきとふたりの−なかのあきかせ


03985
未入力 正徹 (xxx)

なほさりにかたり捨てつる人はこて月とふたりの床そ更行く

なほさりに−かたりすてつる−ひとはこて−つきとふたりの−とこそふけゆく


03986
未入力 正徹 (xxx)

友そなきさらむ此世も生れしもよしや独と月をのみみて

ともそなき−さらむこのよも−うまれしも−よしやひとりと−つきをのみみて


03987
未入力 正徹 (xxx)

なかめても猶そ夜ふかき久かたの月とふたりのありのすさみに

なかめても−なほそよふかき−ひさかたの−つきとふたりの−ありのすさみに


03988
未入力 正徹 (xxx)

ともなへと月のみせたるわか影の身にしたかふも心なくして

ともなへと−つきのみせたる−わかかけの−みにしたかふも−こころなくして


03989
未入力 正徹 (xxx)

千千の秋思ひを月につくすなり今夜わか世や深けまさるらん

ちちのあき−おもひをつきに−つくすなり−こよひわかよや−ふけまさるらむ


03990
未入力 正徹 (xxx)

すみのほる心にすめる月をみて月をわするる秋のさ夜中

すみのほる−こころにすめる−つきをみて−つきをわするる−あきのさよなか


03991
未入力 正徹 (xxx)

何ゆゑにうしとも思ひつらしともみなさぬ月に涙おつらん

なにゆゑに−うしともおもひ−つらしとも−みなさぬつきに−なみたおつらむ


03992
未入力 正徹 (xxx)

あきらけく此九重に影しけは月の宮古をならへてそ見る

あきらけく−このここのへに−かけしけは−つきのみやこを−ならへてそみる


03993
未入力 正徹 (xxx)

世の人の夜半のみるめそ限なき色やしのはんかたなかるらん

よのひとの−よはのみるめそ−かきりなき−いろやしのはむ−かたなかるらむ


03994
未入力 正徹 (xxx)

長月の月にそくらす此秋も命のうちのあり明の空

なかつきの−つきにそくらす−このあきも−いのちのうちの−ありあけのそら


03995
未入力 正徹 (xxx)

雲は猶うきたる物そ月よ世に身をかくすへき宿な尋ねそ

くもはなほ−うきたるものそ−つきよよに−みをかくすへき−やとなたつねそ


03996
未入力 正徹 (xxx)

やとりきてうらみぬ袖をしほるかな雲路の浪にかかる月かけ

やとりきて−うらみぬそてを−しほるかな−くもちのなみに−かかるつきかけ


03997
未入力 正徹 (xxx)

色そそふすみけん天の昔より秋に契やふかき夜の月

いろそそふ−すみけむあめの−むかしより−あきにちきりや−ふかきよのつき


03998
未入力 正徹 (xxx)

老の浪月のみるめにみくやともしらすよるよる向ふころかな

おいのなみ−つきのみるめに−みくやとも−しらすよるよる−むかふころかな


03999
未入力 正徹 (xxx)

覚めてみる空もむかしの秋ならし夢の面かけ月にそはすは

さめてみる−そらもむかしの−あきならし−ゆめのおもかけ−つきにそはすは


04000
未入力 正徹 (xxx)

久かたの月のさかりのさ夜中もわれ山のはに有明のそら

ひさかたの−つきのさかりの−さよなかも−われやまのはに−ありあけのそら


04001
未入力 正徹 (xxx)

ひとりみていく秋過きぬ世の人のいむてふものか深き夜の月

ひとりみて−いくあきすきぬ−よのひとの−いむてふものか−ふかきよのつき


04002
未入力 正徹 (xxx)

荻の葉に風も音せぬさ夜ふけて月に千草の露おもるなり

をきのはに−かせもおとせぬ−さよふけて−つきにちくさの−つゆおもるなり


04003
未入力 正徹 (xxx)

おきあまり更行く月に露は落ちて一葉もならぬ庭の荻はら

おきあまり−ふけゆくつきに−つゆはおちて−ひとはもならぬ−にはのをきはら


04004
未入力 正徹 (xxx)

身にそしむさ夜も半に秋更けて音せぬ風にやとる月かけ

みにそしむ−さよもなかはに−あきふけて−おとせぬかせに−やとるつきかけ


04005
未入力 正徹 (xxx)

宵のまに明けぬとみるをたかために長してふ夜の月となるらん

よひのまに−あけぬとみるを−たかために−なかしてふよの−つきとなるらむ


04006
未入力 正徹 (xxx)

秋のよのなかきをおくる月はあれと命そ人をしたはさりける

あきのよの−なかきをおくる−つきはあれと−いのちそひとを−したはさりける


04007
未入力 正徹 (xxx)

かくて夜をあかしそはてん思ふとち月の円居に似たる空かな

かくてよを−あかしそはてむ−おもふとち−つきのまとゐに−にたるそらかな


04008
未入力 正徹 (xxx)

月も又夢や見さらんうき雲の閨へもいらてよそに明行く

つきもまた−ゆめやみさらむ−うきくもの−ねやへもいらて−よそにあけゆく


04009
未入力 正徹 (xxx)

出つるより入るまて空をみすてねは月のうらみん時のまもなし

いつるより−いるまてそらを−みすてねは−つきのうらみむ−ときのまもなし


04010
未入力 正徹 (xxx)

思ひ出てて水上遠き舟いそけあけなは月に漕きかへるとも

おもひいてて−みなかみとほき−ふねいそけ−あけなはつきに−こきかへるとも


04011
未入力 正徹 (xxx)

秋をへて老は友なくなりにけりみすてかたくや月のとふらん

あきをへて−おいはともなく−なりにけり−みすてかたくや−つきのとふらむ


04012
未入力 正徹 (xxx)

行く月に中中雲の一むらはかけみまほしくすめる空かな

ゆくつきに−なかなかくもの−ひとむらは−かけみまほしく−すめるそらかな


04013
未入力 正徹 (xxx)

中空にてる日のかけか望月ののほれは午の時もかはらす

なかそらに−てるひのかけか−もちつきの−のほれはうまの−ときもかはらす


04014
未入力 正徹 (xxx)

すゑの世も影かはらしと見し人にみせまくほしき月そさやけき

すゑのよも−かけかはらしと−みしひとに−みせまくほしき−つきそさやけき


04015
未入力 正徹 (xxx)

さまさまに秋の思ひの色そわくうれへを月のもとの身にして

さまさまに−あきのおもひの−いろそわく−うれへをつきの−もとのみにして


04016
未入力 正徹 (xxx)

あやにくにいとひし雲の一村はてる月ちかくありてみまほし

あやにくに−いとひしくもの−ひとむらは−てるつきちかく−ありてみまほし


04017
未入力 正徹 (xxx)

ねくらとふそれにもあらぬ鳥のねにゆふつけて行く秋の月かけ

ねくらとふ−それにもあらぬ−とりのねに−ゆふつけてゆく−あきのつきかけ


04018
未入力 正徹 (xxx)

天つ人雲のはたてのうすものをおりいたすみれは夕月の影

あまつひと−くものはたての−うすものを−おりいたすみれは−ゆふつきのかけ


04019
未入力 正徹 (xxx)

やとれ影月なき秋の夕暮もうきを初とぬれし袂に

やとれかけ−つきなきあきの−ゆふくれも−うきをはしめと−ぬれしたもとに


04020
未入力 正徹 (xxx)

白浪のたつたの山路くらからし入日をおくる弓張の月

しらなみの−たつたのやまち−くらからし−いりひをおくる−ゆみはりのつき


04021
未入力 正徹 (xxx)

月出つる嶺の林の夕からすしはしねくらをとりてさためぬ

つきいつる−みねのはやしの−ゆふからす−しはしねくらを−とりてさためぬ


04022
未入力 正徹 (xxx)

まちいてむ月の光かたく火かも山のあなたにむかふ白雲

まちいてむ−つきのひかりか−たくひかも−やまのあなたに−むかふしらくも


04023
未入力 正徹 (xxx)

霜そ置くさ夜はなかはに更けはつるわか世の月の秋の衣手

しもそおく−さよはなかはに−ふけはつる−わかよのつきの−あきのころもて


04024
未入力 正徹 (xxx)

ふけにけりいつくの夢の枕をかむなしく夜はの月渡るらん

ふけにけり−いつくのゆめの−まくらをか−むなしくよはの−つきわたるらむ


04025
未入力 正徹 (xxx)

ことしけき都のみちに人こゑも聞えぬ月に風そふけ行く

ことしけき−みやこのみちに−ひとこゑも−きこえぬつきに−かせそふけゆく


04026
未入力 正徹 (xxx)

深けにけり嶺吹きこゆる松風のおとさへたかくのほる月かな

ふけにけり−みねふきこゆる−まつかせの−おとさへたかく−のほるつきかな


04027
未入力 正徹 (xxx)

まちとらむ心なきをや恨むらんかたふく月の行末の山

まちとらむ−こころなきをや−うらむらむ−かたふくつきの−ゆくすゑのやま


04028
未入力 正徹 (xxx)

千里まてまちや出つらむ月入りし山のあなたの秋のもろ人

ちさとまて−まちやいつらむ−つきいりし−やまのあなたの−あきのもろひと


04029
未入力 正徹 (xxx)

松かえに千とせの秋を友なひて入りにし嶺の月もしたはし

まつかえに−ちとせのあきを−ともなひて−いりにしみねの−つきもしたはし


04030
未入力 正徹 (xxx)

山人のこらぬかつらの枝そそふかへる薪のうへの月かけ

やまひとの−こらぬかつらの−えたそそふ−かへるたききの−うへのつきかけ


04031
未入力 正徹 (xxx)

いく浦か浪に釣竿なかき夜の月みぬあまの漕きめくるらん

いくうらか−なみにつりさを−なかきよの−つきみぬあまの−こきめくるらむ


04032
未入力 正徹 (xxx)

秋やときはしめは秋をしくれとも思はぬ月のはれくもり行く

あきやとき−はしめはあきを−しくれとも−おもはぬつきの−はれくもりゆく


04033
未入力 正徹 (xxx)

すみはてぬ此世や思ひしらるらんしくるる秋にあへる月かけ

すみはてぬ−このよやおもひ−しらるらむ−しくるるあきに−あへるつきかけ


04034
未入力 正徹 (xxx)

八重葎はらふ野分に空はれて影さしこもる月の閨かな

やへむくら−はらふのわきに−そらはれて−かけさしこもる−つきのねやかな


04035
未入力 正徹 (xxx)

くたけちる月に白玉数しらす秋の花のの露のさ夜風

くたけちる−つきにしらたま−かすしらす−あきのはなのの−つゆのさよかせ


04036
未入力 正徹 (xxx)

はれくもる影を嵐やかへすらん雲なき月の嶺の誰しは

はれくもる−かけをあらしや−かへすらむ−くもなきつきの−みねのしひしは


04037
未入力 正徹 (xxx)

こえかかる夕の雪やうつむらん月に嶺なき遠方の山

こえかかる−ゆふへのゆきや−うつむらむ−つきにみねなき−をちかたのやま


04038
未入力 正徹 (xxx)

心して嵐のおくる夕とや峰こす程はいそく月かけ

こころして−あらしのおくる−ゆふへとや−みねこすほとは−いそくつきかけ


04039
未入力 正徹 (xxx)

浪の上の淡とそうかふあはちかた向ふいこまの嶺の月影

なみのうへの−あわとそうかふ−あはちかた−むかふいこまの−みねのつきかけ


04040
未入力 正徹 (xxx)

出てぬより月の光をまつかけて嶺の梢に秋風そ吹く

いてぬより−つきのひかりを−まつかけて−みねのこすゑに−あきかせそふく


04041
未入力 正徹 (xxx)

あふくなりわか立つ杣のたかねよりふもとの塵にましる月かけ

あふくなり−わかたつそまの−たかねより−ふもとのちりに−ましるつきかけ


04042
未入力 正徹 (xxx)

入かたの月の後せの山かせにうら吹きかへす峰のしひしは

いりかたの−つきののちせの−やまかせに−うらふきかへす−みねのしひしは


04043
未入力 正徹 (xxx)

松風も高ねの光さしそへてくもらぬ月のかさとりの山

まつかせも−たかねのひかり−さしそへて−くもらぬつきの−かさとりのやま


04044
未入力 正徹 (xxx)

やとすらむうつ火はきえてかつらきの嶺入る人の袖の月かけ

やとすらむ−うつひはきえて−かつらきの−みねいるひとの−そてのつきかけ


04045
未入力 正徹 (xxx)

すむ人やいつるも遠き空とみん嶺のいほりにならふ月かけ

すむひとや−いつるもとほき−そらとみむ−みねのいほりに−ならふつきかけ


04046
未入力 正徹 (xxx)

峰たかき山はいこまのあしなみに月の歩をいそくともみす

みねたかき−やまはいこまの−あしなみに−つきのあゆみを−いそくともみす


04047
未入力 正徹 (xxx)

塵ほとも秋やかくるる所なきたかねにみかく月のかかみに

ちりほとも−あきやかくるる−ところなき−たかねにみかく−つきのかかみに


04048
未入力 正徹 (xxx)

うらむらん嶺のくす葉に月出てぬさそ山かけの秋のさと人

うらむらむ−みねのくすはに−つきいてぬ−さそやまかけの−あきのさとひと


04049
未入力 正徹 (xxx)

ちりのなる山よりたかく出ててけりつもりし老の秋のよの月

ちりのなる−やまよりたかく−いててけり−つもりしおいの−あきのよのつき


04050
未入力 正徹 (xxx)

山人のきそのあさ衣秋さむく月衣きいたす風こしの嶺

やまひとの−きそのあさきぬ−あきさむく−つきふきいたす−かさこしのみね


04051
未入力 正徹 (xxx)

嶺におふる松しなけれはいつるまもさはらぬ月そやかてくまなき

みねにおふる−まつしなけれは−いつるまも−さはらぬつきそ−やかてくまなき


04052
未入力 正徹 (xxx)

たちいつる高ねの月の秋風になひく光を千里にそしく

たちいつる−たかねのつきの−あきかせに−なひくひかりを−ちさとにそしく


04053
未入力 正徹 (xxx)

明石かた岡へも浜も見し人のたえたるみねに月そ残れる

あかしかた−をかへもはまも−みしひとの−たえたるみねに−つきそのこれる


04054
未入力 正徹 (xxx)

つもりけん塵をつくして嶺となる山風きよく出つる月影

つもりけむ−ちりをつくして−みねとなる−やまかせきよく−いつるつきかけ


04055
未入力 正徹 (xxx)

神世よりいく世の月をやとすらんすめるみ室の谷川の水

かみよより−いくよのつきを−やとすらむ−すめるみむろの−たにかはのみつ


04056
未入力 正徹 (xxx)

あらはるる影をや秋の色とみん月すむ谷の下の埋木

あらはるる−かけをやあきの−いろとみむ−つきすむたにの−したのうもれき


04057
未入力 正徹 (xxx)

雲霧はおりてもとちす谷の戸をあけおく夜はの月の影かな

くもきりは−おりてもとちす−たにのとを−あけおくよはの−つきのかけかな


04058
未入力 正徹 (xxx)

月に玉ひろふはかりと伊勢の海の清き渚のあまもみるらん

つきにたま−ひろふはかりと−いせのうみの−きよきなきさの−あまもみるらむ


04059
未入力 正徹 (xxx)

わたの原浪の千さとに月はあれと人は声せす秋のしほ風

わたのはら−なみのちさとに−つきはあれと−ひとはこゑせす−あきのしほかせ


04060
未入力 正徹 (xxx)

浪の上に此世をすくすあまの子は宿もさためぬ月やみるらん

なみのうへに−このよをすくす−あまのこは−やともさためぬ−つきやみるらむ


04061
未入力 正徹 (xxx)

伊せの海の渚の月もみかくらし人のこと葉の玉ひろふ世に

いせのうみの−なきさのつきも−みかくらし−ひとのことはの−たまひろふよに


04062
未入力 正徹 (xxx)

わたつ海の千いろの底にかつきても月をみるめりかすはくもらし

わたつうみの−ちいろのそこに−かつきても−つきをみるめり−かすはくもらし


04063
未入力 正徹 (xxx)

いたつらに興の小島の浜ひさし指入る月のひかりはかりや

いたつらに−おきのこしまの−はまひさし−さしいるつきの−ひかりはかりや


04064
未入力 正徹 (xxx)

空にたつあまのたく縄煙さへ猶なかき夜の月にのこれる

そらにたつ−あまのたくなは−けふりさへ−なほなかきよの−つきにのこれる


04065
未入力 正徹 (xxx)

空かけてはてなき海も行く月の光にこもる浪の上かな

そらかけて−はてなきうみも−ゆくつきの−ひかりにこもる−なみのうへかな


04066
未入力 正徹 (xxx)

伊勢島やきよき渚に玉やなす何そは月によする白浪

いせしまや−きよきなきさに−たまやなす−なにそはつきに−よするしらなみ


04067
未入力 正徹 (xxx)

いつくかはきよき渚の月ならぬこよひやいせの海となるらん

いつくかは−きよきなきさの−つきならぬ−こよひやいせの−うみとなるらむ


04068
未入力 正徹 (xxx)

夕しほの入りぬる磯に影みちて見らくおほかる秋の望月

ゆふしほの−いりぬるいそに−かけみちて−みらくおほかる−あきのもちつき


04069
未入力 正徹 (xxx)

たのむ夜の月のかつらの木の本も浪の枕におきつ舟人

たのむよの−つきのかつらの−このもとも−なみのまくらに−おきつふなひと


04070
未入力 正徹 (xxx)

わたの原影をうけける色なからかへりて月をてらす浪かな

わたのはら−かけをうけける−いろなから−かへりてつきを−てらすなみかな


04071
未入力 正徹 (xxx)

しはしたに浪の千さとも宿かさす身をうら風と月や入るらん

しはしたに−なみのちさとも−やとかさす−みをうらかせと−つきやいるらむ


04072
未入力 正徹 (xxx)

ふくる夜のうらわをみれはもしほ草しき津に月そ影をやとせる

ふくるよの−うらわをみれは−もしほくさ−しきつにつきそ−かけをやとせる


04073
未入力 正徹 (xxx)

夜にほさす露のやとりは跡もなし浦になるみののへの月影

よにほさす−つゆのやとりは−あともなし−うらになるみの−のへのつきかけ


04074
未入力 正徹 (xxx)

うら人のしほくむ袖にやとりても猶かけはこふ浪の月かな

うらひとの−しほくむそてに−やとりても−なほかけはこふ−なみのつきかな


04075
未入力 正徹 (xxx)

まちこふる人はなけれと大伴の三津のうらわの月をしそ思ふ

まちこふる−ひとはなけれと−おほともの−みつのうらわの−つきをしそおもふ


04076
未入力 正徹 (xxx)

興つ浪床にうき藻をかたしきて月もぬる夜の浪なあらしそ

おきつなみ−とこにうきもを−かたしきて−つきもぬるよの−なみなあらしそ


04077
未入力 正徹 (xxx)

人による浪の月かは難波江に心あるあまもなとかなからん

ひとによる−なみのつきかは−なにはえに−こころあるあまも−なとかなからむ


04078
未入力 正徹 (xxx)

すまの浦にのこりて月のかほよきや住みこし人の形見なるらん

すまのうらに−のこりてつきの−かほよきや−すみこしひとの−かたみなるらむ


04079
未入力 正徹 (xxx)

浪ち行く月にみてこそ色まされ煙はたてよしほかまのうら

なみちゆく−つきにみてこそ−いろまされ−けふりはたてよ−しほかまのうら


04080
未入力 正徹 (xxx)

露霜のふり行く秋を身にとめて月に老いたるすまの関守

つゆしもの−ふりゆくあきを−みにとめて−つきにおいたる−すまのせきもり


04081
未入力 正徹 (xxx)

明けやらてむへ心ある天の戸の月に夜ふかき松かうらしま

あけやらて−うへこころある−あまのとの−つきによふかき−まつかうらしま


04082
未入力 正徹 (xxx)

かつきてもほすなよ秋はたはれ島袖かる月のあまのぬれ衣

かつきても−ほすなよあきは−たはれしま−そてかるつきの−あまのぬれきぬ


04083
未入力 正徹 (xxx)

月やとる浪の手玉もゆらのとにまかちしけぬき渡る舟人

つきやとる−なみのてたまも−ゆらのとに−まかちしけぬき−わたるふなひと


04084
未入力 正徹 (xxx)

夜もすからきかはや月にうと浜の天つ乙女の秋のしらへを

よもすから−きかはやつきに−うとはまの−あまつをとめの−あきのしらへを


04085
未入力 正徹 (xxx)

月にいててさかなもとめよ玉たれのこかめを中の磯のまとゐに

つきにいてて−さかなもとめよ−たまたれの−こかめをなかの−いそのまとゐに


04086
未入力 正徹 (xxx)

秋そ猶うきねの袖の湊川よそになかれぬ床の月かけ

あきそなほ−うきねのそての−みなとかは−よそになかれぬ−とこのつきかけ


04087
未入力 正徹 (xxx)

ちる浪の玉に光をかすゐかた月にたゆむな秋のはまかせ

ちるなみの−たまにひかりを−かすゐかた−つきにたゆむな−あきのはまかせ


04088
未入力 正徹 (xxx)

秋のうらのしほひのかたのま砂風あかれはふふく雪の月かけ

あきのうらの−しほひのかたの−まさこかせ−あかれはふふく−ゆきのつきかけ


04089
未入力 正徹 (xxx)

いとふへき出雲八雲をしたふらしひの川上に出つる月かけ

いとふへき−いつもやくもを−したふらし−ひのかはかみに−いつるつきかけ


04090
未入力 正徹 (xxx)

天の川八十の淵せやわたるらん遠きわたりの長き夜の月

あまのかは−やそのふちせや−わたるらむ−とほきわたりの−なかきよのつき


04091
未入力 正徹 (xxx)

月のよはしつかますけをかり鳴きて千鳥たつなりそかの川浪

つきのよは−しつかますけを−かりなきて−ちとりたつなり−そかのかはなみ


04092
未入力 正徹 (xxx)

駒とめてみれともあかすひのくまやささのくまなき月の川浪

こまとめて−みれともあかす−ひのくまや−ささのくまなき−つきのかはなみ


04093
未入力 正徹 (xxx)

更けにけり瀬のなる声も高島や此川上に月かたふきぬ

ふけにけり−せのなるこゑも−たかしまや−このかはかみに−つきかたふきぬ


04094
未入力 正徹 (xxx)

里はあれて君かあたりのあすか川わたらぬ淵にすめる月かけ

さとはあれて−きみかあたりの−あすかかは−わたらぬふちに−すめるつきかけ


04095
未入力 正徹 (xxx)

浪こゆる汀のますけ水かくれて月かけなひくそかの川かせ

なみこゆる−みきはのますけ−みかくれて−つきかけなひく−そかのかはかせ


04096
未入力 正徹 (xxx)

月をこそみわたにたため鳰鳥の玉藻にあそふ秋の川淀

つきをこそ−みわたにたため−にほとりの−たまもにあそふ−あきのかはよと


04097
未入力 正徹 (xxx)

なかれての世を宇治山の月やしる河の遠なる秋のさと人

なかれての−よをうちやまの−つきやしる−かはのをちなる−あきのさとひと


04098
未入力 正徹 (xxx)

御祓せしみたらし川の月をみて世世をこふるは神やうくらん

みそきせし−みたらしかはの−つきをみて−よよをこふるは−かみやうくらむ


04099
未入力 正徹 (xxx)

竹川のみとりの玉もかたよりになかれて淵にしつむ月かけ

たけかはの−みとりのたまも−かたよりに−なかれてふちに−しつむつきかけ


04100
未入力 正徹 (xxx)

しほこさぬつたの細江を行く水にみちたる月をうかへてそみる

しほこさぬ−つたのほそえを−ゆくみつに−みちたるつきを−うかへてそみる


04101
未入力 正徹 (xxx)

みせはやな松のはつたふ有明もほそ江の橋にたかくのこるを

みせはやな−まつのはつたふ−ありあけも−ほそえのはしに−たかくのこるを


04102
未入力 正徹 (xxx)

里もみな古江のこすけうきぬなはやとりさひたる月の庭かな

さともみな−ふるえのこすけ−うきぬなは−やとりさひたる−つきのにはかな


04103
未入力 正徹 (xxx)

秋の霜剣やふりて朽ちぬらんさひ江の水にくもる月かけ

あきのしも−つるきやふりて−くちぬらむ−さひえのみつに−くもるつきかけ


04104
未入力 正徹 (xxx)

さ夜ふかき水草か上の秋の霜結ふか月を古江にそしく

さよふかき−みくさかうへの−あきのしも−むすふかつきを−ふるえにそしく


04105
未入力 正徹 (xxx)

舟とむる松かねこえてさしそくる入江の塩にうかふ月かけ

ふねとむる−まつかねこえて−さしそくる−いりえのしほに−うかふつきかけ


04106
未入力 正徹 (xxx)

あし分くる月の舟かけかち人のわたれはぬるる露の玉えに

あしわくる−つきのふなかけ−かちひとの−わたれはぬるる−つゆのたまえに


04107
未入力 正徹 (xxx)

むは玉のやみなるす鳥夜みえていり江の秋の浪にてる月

むはたまの−やみなるすとり−よるみえて−いりえのあきの−なみにてるつき


04108
未入力 正徹 (xxx)

玉津島江もあさからす思ふとちいさみにゆかむふかきよの月

たまつしま−えもあさからす−おもふとち−いさみにゆかむ−ふかきよのつき


04109
未入力 正徹 (xxx)

み草をはかるもになしてしなか鳥いなさほそ江にやとる月かけ

みくさをは−かるもになして−しなかとり−いなさほそえに−やとるつきかけ


04110
未入力 正徹 (xxx)

秋の月入江の霧に交るもひかりさひたる浪のうへかな

あきのつき−いりえのきりに−ましはるも−ひかりさひたる−なみのうへかな


04111
未入力 正徹 (xxx)

老か身のあはれこのよにすめる江は木の葉ふりしく水の月かけ

おいかみの−あはれこのよに−すめるえは−このはふりしく−みつのつきかけ


04112
未入力 正徹 (xxx)

白露の玉江の浪も秋かけて芦のいとなくこほる月かな

しらつゆの−たまえのなみも−あきかけて−あしのいとなく−こほるつきかな


04113
未入力 正徹 (xxx)

影うすきさひえの月の有明に霜ふく芦の末の秋かせ

かけうすき−さひえのつきの−ありあけに−しもふくあしの−すゑのあきかせ


04114
未入力 正徹 (xxx)

有明のかけもほそ江の秋ふけて氷にならふあまのすて舟

ありあけの−かけもほそえの−あきふけて−こほりにならふ−あまのすてふね


04115
未入力 正徹 (xxx)

秋ふかきほそ江の月のまゆの霜水のかかみにふりてさむけき

あきふかき−ほそえのつきの−まゆのしも−みつのかかみに−ふりてさむけき


04116
未入力 正徹 (xxx)

おく霜の花もみくりも秋風にみたれてさゆるみしま江の月

おくしもの−はなもみくりも−あきかせに−みたれてさゆる−みしまえのつき


04117
未入力 正徹 (xxx)

いつくにかむれゐし舟はいなさ江の月かけほそき水の秋かせ

いつくにか−むれゐしふねは−いなさえの−つきかけほそき−みつのあきかせ


04118
未入力 正徹 (xxx)

あちむらの立ちゐるすさのいり江なみ音冷しき秋の月かけ

あちむらの−たちゐるすさの−いりえなみ−おとすさましき−あきのつきかけ


04119
未入力 正徹 (xxx)

秋ふけぬ暁月もなかれ江にかたふく芦の霜のしたかせ

あきふけぬ−あかつきつきも−なかれえに−かたふくあしの−しものしたかせ


04120
未入力 正徹 (xxx)

月のこる入江のす鳥よそにたて翅のやみはならへても見し

つきのこる−いりえのすとり−よそにたて−つはさのやみは−ならへてもみし


04121
未入力 正徹 (xxx)

夏かりの沼の菖蒲にのこるねの長き夜ふかくすめる月かな

なつかりの−ぬまのあやめに−のこるねの−なかきよふかく−すめるつきかな


04122
未入力 正徹 (xxx)

春は見し雪けの沢の忘水たえ行く秋もすめる月かな

はるはみし−ゆきけのさはの−わすれみつ−たえゆくあきも−すめるつきかな


04123
未入力 正徹 (xxx)

霧はれぬかたふく月にたつの鳴く其山もとの秋の沢水

きりはれぬ−かたふくつきに−たつのなく−そのやまもとの−あきのさはみつ


04124
未入力 正徹 (xxx)

すましおく心の水をひとつにてあか井をひろみ結ふ月かけ

すましおく−こころのみつを−ひとつにて−あかゐをひろみ−むすふつきかけ


04125
未入力 正徹 (xxx)

をの山のにしになるより行く月の影おちやまぬおとなしの滝

をのやまの−にしになるより−ゆくつきの−かけおちやまぬ−おとなしのたき


04126
未入力 正徹 (xxx)

梢よりおちくる月を結ひとめて紅なかす滝のしら糸

こすゑより−おちくるつきを−むすひとめて−くれなゐなかす−たきのしらいと


04127
未入力 正徹 (xxx)

川浪に影もうかひて滝の上の御舟こき出つる山のはの月

かはなみに−かけもうかひて−たきのうへの−みふねこきいつる−やまのはのつき


04128
未入力 正徹 (xxx)

浪にちる月はいさこの山よりもくたけておつる布引の滝

なみにちる−つきはいさこの−やまよりも−くたけておつる−ぬのひきのたき


04129
未入力 正徹 (xxx)

石はしる浪の花枝をらすとも滝なかれとは月におもはし

いしはしる−なみのはなえた−をらすとも−たきなかれとは−つきにおもはし


04130
未入力 正徹 (xxx)

川上の滝の上野の草にさへ落ちたる月の露のしら玉

かはかみの−たきのうへのの−くさにさへ−おちたるつきの−つゆのしらたま


04131
未入力 正徹 (xxx)

月かけにさすともみゆる塩ならぬにほの入江の秋のささ浪

つきかけに−さすともみゆる−しほならぬ−にほのいりえの−あきのささなみ


04132
未入力 正徹 (xxx)

にほの海やもちしほならぬ浪の上に今夜みちたる月のかけかな

にほのうみや−もちしほならぬ−なみのうへに−こよひみちたる−つきのかけかな


04133
未入力 正徹 (xxx)

漕きわたる舟こそ見えねにほのうみの月にま近き興の島山

こきわたる−ふねこそみえね−にほのうみの−つきにまちかき−おきのしまやま


04134
未入力 正徹 (xxx)

空にさへ秋のもなかの遠けれは月こそ見えね塩ならぬうみ

そらにさへ−あきのもなかの−とほけれは−つきこそみえね−しほならぬうみ


04135
未入力 正徹 (xxx)

にほの海や夜半のもしほの煙をもしほりなそへそ袖の秋風

にほのうみや−よはのもしほの−けふりをも−しほりなそへそ−そてのあきかせ


04136
未入力 正徹 (xxx)

高島やかちののを花面かけにたつや興行く浪の上の月

たかしまや−かちののをはな−おもかけに−たつやおきゆく−なみのうへのつき


04137
未入力 正徹 (xxx)

にほの海の霧吹きたつる程はかり月に見えたる秋のしほかせ

にほのうみの−きりふきたつる−ほとはかり−つきにみえたる−あきのしほかせ


04138
未入力 正徹 (xxx)

庵しめてみしさ三とせの秋過きぬ哀淡津の浪の上の月

いほしめて−みしはみとせの−あきすきぬ−あはれあはつの−なみのうへのつき


04139
未入力 正徹 (xxx)

すはの海や影に氷を先しきてひとりそわたる秋の夜の月

すはのうみや−かけにこほりを−まつしきて−ひとりそわたる−あきのよのつき


04140
未入力 正徹 (xxx)

浪の上に秋は氷そわたり行く月影さゆるすはのみつうみ

なみのうへに−あきはこほりそ−わたりゆく−つきかけさゆる−すはのみつうみ


04141
未入力 正徹 (xxx)

あま衣うら風ふけは浪に花さくやこのはま月は秋にて

あまころも−うらかせふけは−なみにはな−さくやこのはま−つきはあきにて


04142
未入力 正徹 (xxx)

島めくる浪まの月になかき夜のあけのそほ舟別れてそ行く

しまめくる−なみまのつきに−なかきよの−あけのそほふね−わかれてそゆく


04143
未入力 正徹 (xxx)

西追風にほはあけまくもおしてるや難波の興の月に行く舟

おひかせに−ほはあけまくも−おしてるや−なにはのおきの−つきにゆくふね


04144
未入力 正徹 (xxx)

いつるまもさはらされとや浪の上の月にほおろす興つ舟人

いつるまも−さはらされとや−なみのうへの−つきにほおろす−おきつふなひと


04145
未入力 正徹 (xxx)

影おつる月も浪ちやいそくらんまかちしけぬく興つ舟人

かけおつる−つきもなみちや−いそくらむ−まかちしけぬく−おきつふなひと


04146
未入力 正徹 (xxx)

跡になし枕になしてみる月に舟まはり行く浪ちをそしる

あとになし−まくらになして−みるつきに−ふねまはりゆく−なみちをそしる


04147
未入力 正徹 (xxx)

窓の月にいとまありともむかはめやおのれにくらき文字の関守

まとのつきに−いとまありとも−むかはめや−おのれにくらき−もしのせきもり


04148
未入力 正徹 (xxx)

あふ坂の山路の月はのこるともいさしら川の関の明ほの

あふさかの−やまちのつきは−のこるとも−いさしらかはの−せきのあけほの


04149
未入力 正徹 (xxx)

かけをしき月にあら垣あらくたに送りなおきそ川口の関

かけをしき−つきにあらかき−あらくたに−おくりなおきそ−かはくちのせき


04150
未入力 正徹 (xxx)

むかしたに跡とそいひし秋の月いつかはすまの関屋守りけん

むかしたに−あととそいひし−あきのつき−いつかはすまの−せきやもりけむ


04151
未入力 正徹 (xxx)

おのつから秋はくき田の関守や稲葉の月におきあかすらん

おのつから−あきはくきたの−せきもりや−いなはのつきに−おきあかすらむ


04152
未入力 正徹 (xxx)

ふるき世も月やもるらむ旅人の板とりあらす不破の関やは

ふるきよも−つきやもるらむ−たひひとの−いたとりあらす−ふはのせきやは


04153
未入力 正徹 (xxx)

月のもる軒ふきあらせ芦葺のすまの関やの八重の塩風

つきのもる−のきふきあらせ−あしふきの−すまのせきやの−やへのしほかせ


04154
未入力 正徹 (xxx)

あらはなる不破の関屋の板ひさしあれしも今は昔なりけり

あらはなる−ふはのせきやの−いたひさし−あれしもいまは−むかしなりけり


04155
未入力 正徹 (xxx)

おく露にあたら光ややとすらむ人なきのへの草の上の月

おくつゆに−あたらひかりや−やとすらむ−ひとなきのへの−くさのうへのつき


04156
未入力 正徹 (xxx)

月見にと遠さと人のくるもなしうつろひかはれをのの秋萩

つきみにと−とほさとひとの−くるもなし−うつろひかはれ−をののあきはき


04157
未入力 正徹 (xxx)

月も又枕とやせむ一夜せし野へのすみれの秋のかれ葉を

つきもまた−まくらとやせむ−ひとよせし−のへのすみれの−あきのかれはを


04158
未入力 正徹 (xxx)

月も又雲になのりそ行く人もかち野はおそし露の下道

つきもまた−くもになのりそ−ゆくひとも−かちのはおそし−つゆのしたみち


04159
未入力 正徹 (xxx)

高島やかち野の月に分行けは秋風さむしふけぬこの夜は

たかしまや−かちののつきに−わけゆけは−あきかせさむし−ふけぬこのよは


04160
未入力 正徹 (xxx)

よるはぬるいとまなきまてくるす野にま草かるをも月やみるらん

よるはぬる−いとまなきまて−くるすのに−まくさかるをも−つきやみるらむ


04161
未入力 正徹 (xxx)

草の原遠近人の玉たすきみちをあまたに送る月かけ

くさのはら−をちこちひとの−たまたすき−みちをあまたに−おくるつきかけ


04162
未入力 正徹 (xxx)

露ふかし明けなは分くる人そあらむ月に夜わたれすすの下風

つゆふかし−あけなはわくる−ひとそあらむ−つきによわたれ−すすのしたかせ


04163
未入力 正徹 (xxx)

あさち原たか世に分けし道芝に忘れす月の跡したふらん

あさちはら−たかよにわけし−みちしはに−わすれすつきの−あとしたふらむ


04164
未入力 正徹 (xxx)

友なふと思ふはしらす末野行く遠かた人に月そならへる

ともなふと−おもふはしらす−すゑのゆく−をちかたひとに−つきそならへる


04165
未入力 正徹 (xxx)

声たゆる鹿や恋しきともしせし宮きか原の萩の上の月

こゑたゆる−しかやこひしき−ともしせし−みやきかはらの−はきのうへのつき


04166
未入力 正徹 (xxx)

夕露も月に色そふまくす原うらみぬよそにかへる雲かな

ゆふつゆも−つきにいろそふ−まくすはら−うらみぬよそに−かへるくもかな


04167
未入力 正徹 (xxx)

あかしかたうら風くもる高しほもおよはぬ岡にすめる月かけ

あかしかた−うらかせくもる−たかしほも−およはぬをかに−すめるつきかけ


04168
未入力 正徹 (xxx)

月まてと雲もよこほるかひかねに光さきたつ秋の白雪

つきまてと−くももよこほる−かひかねに−ひかりさきたつ−あきのしらゆき


04169
未入力 正徹 (xxx)

ならへみむ秋は千草の露にさく花の都と月の宮古と

ならへみむ−あきはちくさの−つゆにさく−はなのみやこと−つきのみやこと


04170
未入力 正徹 (xxx)

秋風も光そ匂ふ久かたの月の桂のはなの宮古は

あきかせも−ひかりそにほふ−ひさかたの−つきのかつらの−はなのみやこは


04171
未入力 正徹 (xxx)

影さへやみし世の人を恋ひかねてあさちにくもるふるさとの月

かけさへや−みしよのひとを−こひかねて−あさちにくもる−ふるさとのつき


04172
未入力 正徹 (xxx)

昔よりいく世の人かあかすしてなかめすてけん古郷の月

むかしより−いくよのひとか−あかすして−なかめすてけむ−ふるさとのつき


04173
未入力 正徹 (xxx)

すみはてぬ古郷入も世世をへてうつれはかはる月のむら雲

すみはてぬ−ふるさとひとも−よよをへて−うつれはかはる−つきのむらくも


04174
未入力 正徹 (xxx)

うつろひし代代の都の秋の月いく古郷にすみかはるらん

うつろひし−よよのみやこの−あきのつき−いくふるさとに−すみかはるらむ


04175
未入力 正徹 (xxx)

すむ人もさてそなくさむ月の中の都へたてぬ秋の古郷

すむひとも−さてそなくさむ−つきのうちの−みやこへたてぬ−あきのふるさと


04176
未入力 正徹 (xxx)

今夜たれふしみの里のあれまくらすか原さむき露の月かけ

こよひたれ−ふしみのさとの−あれまくら−すかはらさむき−つゆのつきかけ


04177
未入力 正徹 (xxx)

橋ひめの袖とふ月の露霜をよそにはらはぬ宇治の里人

はしひめの−そてとふつきの−つゆしもを−よそにはらはぬ−うちのさとひと


04178
未入力 正徹 (xxx)

あすか風ぬるや川への音深けて君かあたりは月そかたふく

あすかかせ−ぬるやかはへの−おとふけて−きみかあたりは−つきそかたふく


04179
未入力 正徹 (xxx)

袖の上にしくれぬ影のくもるかなひはらを渡る山のはの月

そてのうへに−しくれぬかけの−くもるかな−ひはらをわたる−やまのはのつき


04180
未入力 正徹 (xxx)

いなり山ふもとの庵のうき秋も半は杉の木のまもる月

いなりやま−ふもとのいほの−うきあきも−なかははすきの−このまもるつき


04181
未入力 正徹 (xxx)

うかれきて嶺にそあかす松風も人なき月の宿をあらすな

うかれきて−みねにそあかす−まつかせも−ひとなきつきの−やとをあらすな


04182
未入力 正徹 (xxx)

影も猶世にななひきそ身をかくす山立ちいつる秋のよの月

かけもなほ−よにななひきそ−みをかくす−やまたちいつる−あきのよのつき


04183
未入力 正徹 (xxx)

木のまもる深山の露の苔むしろやとる夜まれに月をみるかな

このまもる−みやまのつゆの−こけむしろ−やとるよまれに−つきをみるかな


04184
未入力 正徹 (xxx)

はるる夜のなきにそへてやかこつらん槙のは山の月のうす霧

はるるよの−なきにそへてや−かこつらむ−まきのはやまの−つきのうすきり


04185
未入力 正徹 (xxx)

入りにきとみる里人そおほからむ嶺の柴やに月のかかれる

いりにきと−みるさとひとそ−おほからむ−みねのしはやに−つきのかかれる


04186
未入力 正徹 (xxx)

まろ竹の中行く水の音聞くもふけてさひしき月の山里

まろたけの−なかゆくみつの−おときくも−ふけてさひしき−つきのやまさと


04187
未入力 正徹 (xxx)

涙こそなほもかはらめ山さとは世のうきよりの月のあはれに

なみたこそ−なほもかはらめ−やまさとは−よのうきよりの−つきのあはれに


04188
未入力 正徹 (xxx)

枕とふ月にむかしを尋ぬともこたへしよしや庭の松かせ

まくらとふ−つきにむかしを−たつぬとも−こたへしよしや−にはのまつかせ


04189
未入力 正徹 (xxx)

秋の月しののは草のかりの戸にしはし出ていれわれすますとも

あきのつき−しののはくさの−かりのとに−しはしいていれ−われすますとも


04190
未入力 正徹 (xxx)

月そとふ尾花かりふく古宮を思ふね覚の秋の枕に

つきそとふ−をはなかりふく−ふるみやを−おもふねさめの−あきのまくらに


04191
未入力 正徹 (xxx)

形見ともたれかは見まし今はとてあらさらん世の古やもる月

かたみとも−たれかはみまし−いまはとて−あらさらむよの−ふるやもるつき


04192
未入力 正徹 (xxx)

宿は猶燕ならひしうつはりにあれてそ月のひとりかかれる

やとはなほ−つはめならひし−うつはりに−あれてそつきの−ひとりかかれる


04193
未入力 正徹 (xxx)

わすれすも軒のしのふにやつれきて昔をとへる月の影かな

わすれすも−のきのしのふに−やつれきて−むかしをとへる−つきのかけかな


04194
未入力 正徹 (xxx)

心をもおかてや床のさむしろにわかねぬよひの月やとるらん

こころをも−おかてやとこの−さむしろに−わかねぬよひの−つきやとるらむ


04195
未入力 正徹 (xxx)

まつ人の影まちゐてはかへりねむ閨に夜をへてかかる月かな

まつひとの−かけまちゐては−かへりねむ−ねやによをへて−かかるつきかな


04196
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のかりほの苫にふく稲のほの上渡る軒の月かけ

あきのたの−かりほのとまに−ふくいねの−ほのうへわたる−のきのつきかけ


04197
未入力 正徹 (xxx)

山田もるすこかかりほはあれにけり竹の戸ほそのおくの月影

やまたもる−すこかかりほは−あれにけり−たけのとほその−おくのつきかけ


04198
未入力 正徹 (xxx)

いなはもる芦のまろやの夜もすからかたもさためぬ月をみるかな

いなはもる−あしのまろやの−よもすから−かたもさためぬ−つきをみるかな


04199
未入力 正徹 (xxx)

月のさす竹のあみ戸のかり庵をいなはそたたく露の秋風

つきのさす−たけのあみとの−かりいほを−いなはそたたく−つゆのあきかせ


04200
未入力 正徹 (xxx)

かりはてし田中のわらやふきかへて夜めにもしるき月の遠かた

かりはてし−たなかのわらや−ふきかへて−よめにもしるき−つきのをちかた


04201
未入力 正徹 (xxx)

これそ此つもりのうらの浪のしわ月をめてこし老にはあらねと

これそこの−つもりのうらの−なみのしわ−つきをめてこし−おいにはあらねと


04202
未入力 正徹 (xxx)

古江もる水にも月はわれ舟のたくひつれなき有明のかけ

ふるえもる−みつにもつきは−われふねの−たくひつれなき−ありあけのかけ


04203
未入力 正徹 (xxx)

末遠き野寺の月に鐘の声尋ねは草の露のふる道

すゑとほき−のてらのつきに−かねのこゑ−たつねはくさの−つゆのふるみち


04204
未入力 正徹 (xxx)

はつせ山みあかし文もあきらかに今夜や見えん秋のよの月

はつせやま−みあかしふみも−あきらかに−こよひやみえむ−あきのよのつき


04205
未入力 正徹 (xxx)

かつらきやにしなる月にのこるなり遠山鳥のをはつせのかね

かつらきや−にしなるつきに−のこるなり−とほやまとりの−をはつせのかね


04206
未入力 正徹 (xxx)

すかはらや伏見にあくる鐘とほきをのへの寺に月そかかれる

すかはらや−ふしみにあくる−かねとほき−をのへのてらに−つきそかかれる


04207
未入力 正徹 (xxx)

つとむらし山松風もふく貝のこゑ冷しき月に起きゐて

つとむらし−やままつかせも−ふくかひの−こゑすさましき−つきにおきゐて


04208
未入力 正徹 (xxx)

八幡山ふもとの川に御幸してかへる坂路にいつる望月

やはたやま−ふもとのかはに−みゆきして−かへるさかちに−いつるもちつき


04209
未入力 正徹 (xxx)

水底もみたらし川の瀬になひく玉も光をそふる月かけ

みなそこも−みたらしかはの−せになひく−たまもひかりを−そふるつきかけ


04210
未入力 正徹 (xxx)

露はらふ庭のよもきか杣人の袖とや我を月もとふらん

つゆはらふ−にはのよもきか−そまひとの−そてとやわれを−つきもとふらむ


04211
未入力 正徹 (xxx)

ふりにける夢路をしたふ庭にいてて立ちやすらへは有明の月

ふりにける−ゆめちをしたふ−にはにいてて−たちやすらへは−ありあけのつき


04212
未入力 正徹 (xxx)

うつり行く籬の菊の霜の上下葉の露に月そのこれる

うつりゆく−まかきのきくの−しものうへ−したはのつゆに−つきそのこれる


04213
未入力 正徹 (xxx)

白菊のはなれやすきを此世とやまかきの露に月そわかるる

しらきくの−はなれやすきを−このよとや−まかきのつゆに−つきそわかるる


04214
未入力 正徹 (xxx)

谷ふかき苔の雫におちそくる松のは渡る嶺の月かけ

たにふかき−こけのしつくに−おちそくる−まつのはわたる−みねのつきかけ


04215
未入力 正徹 (xxx)

やたののにあさちかたしき月そぬるこしの里人宿もかさすや

やたののに−あさちかたしき−つきそぬる−こしのさとひと−やともかさすや


04216
未入力 正徹 (xxx)

哀をも見すくすらめや住む人の秋の心のあさちふの月

あはれをも−みすくすらめや−すむひとの−あきのこころの−あさちふのつき


04217
未入力 正徹 (xxx)

秋の月空に光をしきたへの袖まてあまる夜はの初霜

あきのつき−そらにひかりを−しきたへの−そてまてあまる−よはのはつしも


04218
未入力 正徹 (xxx)

さ夜風もえそ山姫のさむしろに月の影しく秋のはつ霜

さよかせも−えそやまひめの−さむしろに−つきのかけしく−あきのはつしも


04219
未入力 正徹 (xxx)

神かきにちかき林の松の葉の塵にましはる月もさやけし

かみかきに−ちかきはやしの−まつのはの−ちりにましはる−つきもさやけし


04220
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから空行く月も松のはをわたりつくさぬ木の本の庵

よもすから−そらゆくつきも−まつのはを−わたりつくさぬ−このもとのいほ


04221
未入力 正徹 (xxx)

をのへにはかくる浪なき松かねに影あらはるるいさよひの月

をのへには−かくるなみなき−まつかねに−かけあらはるる−いさよひのつき


04222
未入力 正徹 (xxx)

いつるまのをのへにたてる松の陰ひろく麓におほふ月かな

いつるまの−をのへにたてる−まつのかけ−ひろくふもとに−おほふつきかな


04223
未入力 正徹 (xxx)

ふりけるか竹のはしたる秋の霜月おもからぬかけやしくらん

ふりけるか−たけのはしたる−あきのしも−つきおもからぬ−かけやしくらむ


04224
未入力 正徹 (xxx)

程もなくこえて葉分もいとはれす月にかたふく竹の一むら

ほともなく−こえてはわけも−いとはれす−つきにかたふく−たけのひとむら


04225
未入力 正徹 (xxx)

とふ人よ雪のうちなる竹の子をえしは昔の秋の夜の月

とふひとよ−ゆきのうちなる−たけのこを−えしはむかしの−あきのよのつき


04226
未入力 正徹 (xxx)

松かけもあくるふしみの岡のへに竹のよなかく月そのこれる

まつかけも−あくるふしみの−をかのへに−たけのよなかく−つきそのこれる


04227
未入力 正徹 (xxx)

これそ此老その杜は世の人の月をめてこし名にこそ有りけれ

これそこの−おいそのもりは−よのひとの−つきをめてこし−なにこそありけれ


04228
未入力 正徹 (xxx)

露はみなききの林の秋風に月をやとしてすくるうき雲

つゆはみな−ききのはやしの−あきかせに−つきをやとして−すくるうきくも


04229
未入力 正徹 (xxx)

秋さむしかた山林木の本のをささか原の月のむらきえ

あきさむし−かたやまはやし−このもとの−をささかはらの−つきのむらきえ


04230
未入力 正徹 (xxx)

月やしる此天地の玉くしけあけぬ鏡のかけまさるをは

つきやしる−このあめつちの−たまくしけ−あけぬかかみの−かけまさるをは


04231
未入力 正徹 (xxx)

夜をへてそむかはまほしきくまなくて老のかけみぬ月の鏡は

よをへてそ−むかはまほしき−くまなくて−おいのかけみぬ−つきのかかみは


04232
未入力 正徹 (xxx)

手にとらは月をあけてやたとへましおき忘れにし秋の扇に

てにとらは−つきをあけてや−たとへまし−おきわすれにし−あきのあふきに


04233
未入力 正徹 (xxx)

やとせ袖ふりぬる人の面かけも見しよのままの月の涙を

やとせそて−ふりぬるひとの−おもかけも−みしよのままの−つきのなみたを


04234
未入力 正徹 (xxx)

いにしへのかたみとみつつなき人の数こそしらね月はかはらす

いにしへの−かたみとみつつ−なきひとの−かすこそしらね−つきはかはらす


04235
未入力 正徹 (xxx)

はれくもる時こそ有りけれ人ことの心や月のすかたなるらん

はれくもる−ときこそありけれ−ひとことの−こころやつきの−すかたなるらむ


04236
未入力 正徹 (xxx)

すはの海や月に氷を敷きなから秋とて人も駒もわたらす

すはのうみや−つきにこほりを−しきなから−あきとてひとも−こまもわたらす


04237
未入力 正徹 (xxx)

うきねとふ月に吹きこす塩風も夢の関もるむしあけの松

うきねとふ−つきにふきこす−しほかせも−ゆめのせきもる−むしあけのまつ


04238
未入力 正徹 (xxx)

篷おほひいかりおろしつはし舟にのり別れてや月にこかまし

とまおほひ−いかりおろしつ−はしふねに−のりわかれてや−つきにこかまし


04239
未入力 正徹 (xxx)

しほ月も松のしらへもからことのとまりし浪に月そ袖こす

しほつきも−まつのしらへも−からことの−とまりしなみに−つきそそてこす


04240
未入力 正徹 (xxx)

袖に見ん夢をはかなみ待つとても程は雲井のおなし月かけ

そてにみむ−ゆめをはかなみ−まつとても−ほとはくもゐの−おなしつきかけ


04241
未入力 正徹 (xxx)

なるる夜夢路ゆるさぬかり枕月の都の下ふしもうし

なるるよる−ゆめちゆるさぬ−かりまくら−つきのみやこの−したふしもうし


04242
未入力 正徹 (xxx)

明石かた月に里人立出てて秋は浜風ひかぬ夜もなし

あかしかた−つきにさとひと−たちいてて−あきははまかせ−ひかぬよもなし


04243
未入力 正徹 (xxx)

かきりなき秋もいく世の影ならんあふくも高き広沢の月

かきりなき−あきもいくよの−かけならむ−あふくもたかき−ひろさはのつき


04244
未入力 正徹 (xxx)

天つたふ月も道行ふりとてや草木の露にやとりすつらん

あまつたふ−つきもみちゆき−ふりとてや−くさきのつゆに−やとりすつらむ


04245
未入力 正徹 (xxx)

八幡山おなしふもとの川浪に御幸待ちとる秋のもち月

やはたやま−おなしふもとの−かはなみに−みゆきまちとる−あきのもちつき


04246
未入力 正徹 (xxx)

月ともに出ててそなひく紫の糸にたわつく荻の初しほ

つきともに−いててそなひく−むらさきの−いとにたわつく−をきのはつしほ


04247
未入力 正徹 (xxx)

下荻の風のやとりをとひくれは露も契もあり明の月

したをきの−かせのやとりを−とひくれは−つゆもちきりも−ありあけのつき


04248
未入力 正徹 (xxx)

月のもる荻の末葉の影なから袖にみたるる床のしら露

つきのもる−をきのすゑはの−かけなから−そてにみたるる−とこのしらつゆ


04249
未入力 正徹 (xxx)

荻はらや月に天とふ雁鳴きて秋風さむしほの上の霜

をきはらや−つきにあまとふ−かりなきて−あきかせさむし−ほのうへのしも


04250
未入力 正徹 (xxx)

くらからぬ軒はとみれは荻のはにかくれてほそき月の夕暮

くらからぬ−のきはとみれは−をきのはに−かくれてほそき−つきのゆふくれ


04251
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく庭におきふしぬかつくやてる月あふく宿の荻はら

あらしふく−にはにおきふし−ぬかつくや−てるつきあふく−やとのをきはら


04252
未入力 正徹 (xxx)

薄ちる秋風ふけは宿もなし袖をたつぬる有明の月

すすきちる−あきかせふけは−やともなし−そてをたつぬる−ありあけのつき


04253
未入力 正徹 (xxx)

霧こめしこすの大野の女良花月のはしゐになして晴れぬる

きりこめし−こすのおほのの−をみなへし−つきのはしゐに−なしてはれぬる


04254
未入力 正徹 (xxx)

忘れすはたれか昔のかたみともはほその月の影をみさらん

わすれすは−たれかむかしの−かたみとも−はほそのつきの−かけをみさらむ


04255
未入力 正徹 (xxx)

月なから三世の覚の母そはらたてりとしれは色そまされる

つきなから−みよのさとりの−ははそはら−たてりとしれは−いろそまされる


04256
未入力 正徹 (xxx)

古郷の月にかけおくさほ山の柞の錦くらき夜もなし

ふるさとの−つきにかけおく−さほやまの−ははそのにしき−くらきよもなし


04257
未入力 正徹 (xxx)

月すめはなにを吹くとも白雲の残るかたなきよもの秋風

つきすめは−なにをふくとも−しらくもの−のこるかたなき−よものあきかせ


04258
未入力 正徹 (xxx)

秋そかしいさしら雲か行く月の氷にましる雪のむらきえ

あきそかし−いさしらくもか−ゆくつきの−こほりにましる−ゆきのむらきえ


04259
未入力 正徹 (xxx)

うす霧も浪よる小花吹きませて月はれくもる野への秋かせ

うすきりも−なみよるをはな−ふきませて−つきはれくもる−のへのあきかせ


04260
未入力 正徹 (xxx)

浪の上にあかつき出つる星崎やむかひの磯に月かたふきぬ

なみのうへに−あかつきいつる−ほしさきや−むかひのいそに−つきかたふきぬ


04261
未入力 正徹 (xxx)

なれきつるわか袖なくは宿の月やとせよ庭の露のをすすき

なれきつる−わかそてなくは−やとのつき−やとせよにはの−つゆのをすすき


04262
未入力 正徹 (xxx)

塵そよく嵐や露の玉ははきはらへと庭の月は残りて

ちりそよく−あらしやつゆの−たまははき−はらへとにはの−つきはのこりて


04263
未入力 正徹 (xxx)

秋風もはらはす月も宿からぬ思ひの露は心にそおく

あきかせも−はらはすつきも−やとからぬ−おもひのつゆは−こころにそおく


04264
未入力 正徹 (xxx)

久かたの月の桂やおもるらんひかりにおつる露のしら玉

ひさかたの−つきのかつらや−おもるらむ−ひかりにおつる−つゆのしらたま


04265
未入力 正徹 (xxx)

秋の露やかてきえなは尋ねても草葉にやとる月やなからん

あきのつゆ−やかてきえなは−たつねても−くさはにやとる−つきやなからむ


04266
未入力 正徹 (xxx)

ま弓ちるやたのの浅茅露はあれと月に秋なき嶺の初雪

まゆみちる−やたののあさち−つゆはあれと−つきにあきなき−みねのはつゆき


04267
未入力 正徹 (xxx)

秋萩の露の下葉もかはらぬをひとりある月の影そうつろふ

あきはきの−つゆのしたはも−かはらぬを−ひとりあるつきの−かけそうつろふ


04268
未入力 正徹 (xxx)

秋草の袂にかかるあさかほの花田の帯そ月にとけ行く

あきくさの−たもとにかかる−あさかほの−はなたのおひそ−つきにとけゆく


04269
未入力 正徹 (xxx)

露なから光はおつる月草の色に染めなす天つ空かな

つゆなから−ひかりはおつる−つきくさの−いろにそめなす−あまつそらかな


04270
未入力 正徹 (xxx)

久かたの月のかつらの下草も宿からたかき庭のよもきふ

ひさかたの−つきのかつらの−したくさも−やとからたかき−にはのよもきふ


04271
未入力 正徹 (xxx)

山もとの紅葉の木のまもる月の光をそむる秋のむら雨

やまもとの−もみちのこのま−もるつきの−ひかりをそむる−あきのむらさめ


04272
未入力 正徹 (xxx)

空にたつふしの煙の浪の上に光をくたす秋のよの月

そらにたつ−ふしのけふりの−なみのうへに−ひかりをくたす−あきのよのつき


04273
未入力 正徹 (xxx)

にきはへる民の家ゐを空にみて煙の上に月やすむらん

にきはへる−たみのいへゐを−そらにみて−けふりのうへに−つきやすむらむ


04274
未入力 正徹 (xxx)

月みんとおのか出ゐにしくこもの長きよへぬるしつのをた巻

つきみむと−おのかいてゐに−しくこもの−なかきよへぬる−しつのをたまき


04275
未入力 正徹 (xxx)

芦そよく月に浜風さひしさもまさこの上のあまの捨舟

あしそよく−つきにはまかせ−さひしさも−まさこのうへの−あまのすてふね


04276
未入力 正徹 (xxx)

浦ち行く月をのせしは昔にてわれて洲にゐる浜の捨舟

うらちゆく−つきをのせしは−むかしにて−われてすにゐる−はまのすてふね


04277
未入力 正徹 (xxx)

さやかにも色やみさらん天とふも此世をかりの涙くもらは

さやかにも−いろやみさらむ−あまとふも−このよをかりの−なみたくもらは


04278
未入力 正徹 (xxx)

うす墨の翅の色をくもりなき月にそへたる雁の一つら

うすすみの−つはさのいろを−くもりなき−つきにそへたる−かりのひとつら


04279
未入力 正徹 (xxx)

荻の葉もめつらしけなき秋風の月の南に初雁の声

をきのはも−めつらしけなき−あきかせの−つきのみなみに−はつかりのこゑ


04280
未入力 正徹 (xxx)

みこしちの雲の浪分けしをれきて月にやさらす雁の羽衣

みこしちの−くものなみわけ−しをれきて−つきにやさらす−かりのはころも


04281
未入力 正徹 (xxx)

月の行く空にを舟を漕きつれて雲の浪ちに雁ほきにけり

つきのゆく−そらにをふねを−こきつれて−くものなみちに−かりほきにけり


04282
未入力 正徹 (xxx)

過きて行く初かりかねをまつらめや月の南のとほつさと人

すきてゆく−はつかりかねを−まつらめや−つきのみなみの−とほつさとひと


04283
未入力 正徹 (xxx)

秋の雁まつよの月のまへわたりうたて雲路に声はかりして

あきのかり−まつよのつきの−まへわたり−うたてくもちに−こゑはかりして


04284
未入力 正徹 (xxx)

行く月の光をなににかくすらん数さへ見えし初雁のこゑ

ゆくつきの−ひかりをなにに−かくすらむ−かすさへみえし−はつかりのこゑ


04285
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おのつから小鷹かり野の跡の月ふせし鶉の床にわかれて

おのつから−こたかかりのの−あとのつき−ふせしうつらの−とこにわかれて


04286
未入力 正徹 (xxx)

月みてもすみかたき世のうきかすを鴫の百羽にかきそそへぬる

つきみても−すみかたきよの−うきかすを−しきのももはに−かきそそへぬる


04287
未入力 正徹 (xxx)

声すなりたてるやいつこ暁の鴫のは山は月そのこれる

こゑすなり−たてるやいつこ−あかつきの−しきのはやまは−つきそのこれる


04288
未入力 正徹 (xxx)

うき名のみたつそ鳴くなるよしさらは月とは契れ雲の通路

うきなのみ−たつそなくなる−よしさらは−つきとはちきれ−くものかよひち


04289
未入力 正徹 (xxx)

思ふともあはれ霜夜の月まては恨たにせし松むしの声

おもふとも−あはれしもよの−つきまては−うらみたにせし−まつむしのこゑ


04290
未入力 正徹 (xxx)

秋の夜はおこなふ人のふる声も野寺の月にすす虫のなく

あきのよは−おこなふひとの−ふるこゑも−のてらのつきに−すすむしのなく


04291
未入力 正徹 (xxx)

袖の上枕の下にきりきりす庭は霜夜の色やさむけき

そてのうへ−まくらのしたに−きりきりす−にははしもよの−いろやさむけき


04292
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふくまくすか影もかくれなき月に恨みて鹿や鳴くらん

あらしふく−まくすかかけも−かくれなき−つきにうらみて−しかやなくらむ


04293
未入力 正徹 (xxx)

嶺近き月の桂の下風に上毛にほはし鹿そ鳴くなる

みねちかき−つきのかつらの−したかせに−うはけにほはし−しかそなくなる


04294
未入力 正徹 (xxx)

さをしかのわか身ひとつはうき秋に月やあらぬと妻やこふらん

さをしかの−わかみひとつは−うきあきに−つきやあらぬと−つまやこふらむ


04295
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの有明の月に妻まつもわかつれなさにかへる山のは

さをしかの−ありあけのつきに−つままつも−わかつれなさに−かへるやまのは


04296
未入力 正徹 (xxx)

をしか入るは山の月に角さはる声もすさましま柴椎柴

をしかいる−はやまのつきに−つのさはる−こゑもすさまし−ましはしひしは


04297
未入力 正徹 (xxx)

契りしはさ山か月に鹿そ鳴く妻なき草の床のあらしに

ちきりしは−さやまかつきに−しかそなく−つまなきくさの−とこのあらしに


04298
未入力 正徹 (xxx)

嶺こゆる影にむかひて鹿そなく月の都に妻やこふらん

みねこゆる−かけにむかひて−しかそなく−つきのみやこに−つまやこふらむ


04299
未入力 正徹 (xxx)

今夜たにこと葉の玉をみかかすは光そへたる色やうらみん

こよひたに−ことはのたまを−みかかすは−ひかりそへたる−いろやうらみむ


04300
未入力 正徹 (xxx)

いそのかみふるき枕もしらぬ世の秋をとへとや月のこるらん

いそのかみ−ふるきまくらも−しらぬよの−あきをとへとや−つきのこるらむ


04301
未入力 正徹 (xxx)

影きよき河辺をちかみぬるかうちにみるさへ夢のうき橋の月

かけきよき−かはへをちかみ−ぬるかうちに−みるさへゆめの−うきはしのつき


04302
未入力 正徹 (xxx)

ふくる夜の空に聞えて天つたふ月よりたかきかねの声かな

ふくるよの−そらにきこえて−あまつたふ−つきよりたかき−かねのこゑかな


04303
未入力 正徹 (xxx)

影そなき月のなのみはくらからす心にすめる夜半の雨かな

かけそなき−つきのなのみは−くらからす−こころにすめる−よはのあめかな


04304
未入力 正徹 (xxx)

椎のはを床に打ちしく宿もなき旅にしあれは月をみるかな

しひのはを−とこにうちしく−やともなき−たひにしあれは−つきをみるかな


04305
未入力 正徹 (xxx)

さ夜更けぬ身にさむからし玉ほこに行く人おくる月の秋風

さよふけぬ−みにさむからし−たまほこに−ゆくひとおくる−つきのあきかせ


04306
未入力 正徹 (xxx)

吹く風のめにみす遠き海山も月にさやけき秋のおもかけ

ふくかせの−めにみすとほき−うみやまも−つきにさやけき−あきのおもかけ


04307
未入力 正徹 (xxx)

枝わけし松をはなれてをのへこす風の上なる月そさやけき

えたわけし−まつをはなれて−をのへこす−かせのうへなる−つきそさやけき


04308
未入力 正徹 (xxx)

秋風のこととふ月の都鳥ありともきかぬ天の川原に

あきかせの−こととふつきの−みやことり−ありともきかぬ−あまのかはらに


04309
未入力 正徹 (xxx)

夜半の嵐しほるま袖の秋の霜ふりさけみれは月そかたふく

よはのあらし−しほるまそての−あきのしも−ふりさけみれは−つきそかたふく


04310
未入力 正徹 (xxx)

空きよき風の光を秋そへて長き夜わたる月そさやけき

そらきよき−かせのひかりを−あきそへて−なかきよわたる−つきそさやけき


04311
未入力 正徹 (xxx)

今夜世にひろくそおほふ名にたかき月より出つる風の光も

こよひよに−ひろくそおほふ−なにたかき−つきよりいつる−かせのひかりも


04312
未入力 正徹 (xxx)

いく秋の月に契らんたちよるも風をたよりのわかのうら浪

いくあきの−つきにちきらむ−たちよるも−かせをたよりの−わかのうらなみ


04313
未入力 正徹 (xxx)

はらひあへぬ露を袂に吹きこめて月まてとほるさ夜の秋風

はらひあへぬ−つゆをたもとに−ふきこめて−つきまてとほる−さよのあきかせ


04314
未入力 正徹 (xxx)

しほれたた月のかつらの木の間より光吹きいたす空の秋かせ

しほれたた−つきのかつらの−このまより−ひかりふきいたす−そらのあきかせ


04315
未入力 正徹 (xxx)

花や開く袖こそにほへ月の中の桂を出つる秋のさ夜風

はなやさく−そてこそにほへ−つきのうちの−かつらをいつる−あきのさよかせ


04316
未入力 正徹 (xxx)

山めくる時雨のこゑをもちなから月をそみかく夜はの松風

やまめくる−しくれのこゑを−もちなから−つきをそみかく−よはのまつかせ


04317
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月やとる千いろの竹の露のまに風もいく世の秋をおくらし

つきやとる−ちいろのたけの−つゆのまに−かせもいくよの−あきをおくらし


04318
未入力 正徹 (xxx)

色かへぬ心に月もつたひきぬ松の嵐の竹をうつ夜は

いろかへぬ−こころにつきも−つたひきぬ−まつのあらしの−たけをうつよは


04319
未入力 正徹 (xxx)

初霜の花色衣こよひたれうつろふ野への月にうつらん

はつしもの−はないろころも−こよひたれ−うつろふのへの−つきにうつらむ


04320
未入力 正徹 (xxx)

月のすむなきさのあまの捨衣うちける浪や夜寒なるらん

つきのすむ−なきさのあまの−すてころも−うちけるなみや−よさむなるらむ


04321
未入力 正徹 (xxx)

寒えのほる音そ夜ふけてしつみ行くうつや衣の月にぬれつつ

さえのほる−おとそよふけて−しつみゆく−うつやころもの−つきにぬれつつ


04322
未入力 正徹 (xxx)

袖ちかくまちとる物そ雲はれてまへ行く月の嶺のさと人

そてちかく−まちとるものそ−くもはれて−まへゆくつきの−みねのさとひと


04323
未入力 正徹 (xxx)

猿さけふみ山の月の秋風に木陰しくるる落椎の声

さるさけふ−みやまのつきの−あきかせに−こかけしくるる−おちしひのこゑ


04324
未入力 正徹 (xxx)

猿さけふ太山の月もおち椎の音冷しき玉ささの霜

さるさけふ−みやまのつきも−おちしひの−おとすさましき−たまささのしも


04325
未入力 正徹 (xxx)

これそ此つもれは老となりはてぬ又後の世も色やめてまし

これそこの−つもれはおいと−なりはてぬ−またのちのよも−いろやめてまし


04326
未入力 正徹 (xxx)

月もしれ八十年にちかきことのはの色染めやらぬ袖しくるとは

つきもしれ−やそちにちかき−ことのはの−いろそめやらぬ−そてしくるとは


04327
未入力 正徹 (xxx)

昔思ふたか心にもうかひ来ぬ月やかたみのひまなかるらん

むかしおもふ−たかこころにも−うかひきぬ−つきやかたみの−ひまなかるらむ


04328
未入力 正徹 (xxx)

しのふらんわかみし程の昔たに思へはとほき秋のよの月

しのふらむ−わかみしほとの−むかしたに−おもへはとほき−あきのよのつき


04329
未入力 正徹 (xxx)

月の舟こきもかくれすよるそ行く世はしら浪のおそれある比

つきのふね−こきもかくれす−よるそゆく−よはしらなみの−おそれあるころ


04330
未入力 正徹 (xxx)

秋の月あきらかなりと今夜みし其夢人も我を哀め

あきのつき−あきらかなりと−こよひみし−そのゆめひとも−われをあはれめ


04331
未入力 正徹 (xxx)

行暮れて里ありとても宿にねし月とあかすはのへそまされる

ゆきくれて−さとありとても−やとにねし−つきとあかすは−のへそまされる


04332
未入力 正徹 (xxx)

宿からむいまたねぬ声聞ゆなり月の夜みちの末の里人

やとからむ−いまたねぬこゑ−きこゆなり−つきのよみちの−すゑのさとひと


04333
未入力 正徹 (xxx)

月も又ふたりすましとやとりこはこよひいつくに床をうつさん

つきもまた−ふたりすましと−やとりこは−こよひいつくに−とこをうつさむ


04334
未入力 正徹 (xxx)

海山も都の月にかさなりて心につつくもろこしのあき

うみやまも−みやこのつきに−かさなりて−こころにつつく−もろこしのあき


04335
未入力 正徹 (xxx)

なへてよも麻にはあらし都人うつはいかなる衣なるらむ

なへてよも−あさにはあらし−みやこひと−うつはいかなる−ころもなるらむ


04336
未入力 正徹 (xxx)

長月の秋の霜夜の手をさむみなににまかせて衣うたまし

なかつきの−あきのしもよの−てをさむみ−なににまかせて−ころもうたまし


04337
未入力 正徹 (xxx)

たかまとのをのへの小萩うらかれて秋風さむし衣うつらし

たかまとの−をのへのこはき−うらかれて−あきかせさむし−ころもうつらし


04338
未入力 正徹 (xxx)

秋にうき伊駒おろしも夜寒にて君かあたりは衣打つなり

あきにうき−いこまおろしも−よさむにて−きみかあたりは−ころもうつなり


04339
未入力 正徹 (xxx)

ときあらひ衣うたせむ人そなきくち行くままに秋もへぬへし

ときあらひ−ころもうたせむ−ひとそなき−くちゆくままに−あきもへぬへし


04340
未入力 正徹 (xxx)

うちめよくかさねん色を思はてやしつかきぬたの声急くらん

うちめよく−かさねむいろを−おもはてや−しつかきぬたの−こゑいそくらむ


04341
未入力 正徹 (xxx)

初せ女か手にまく糸をくりかへし長き夜ことにうつ衣かな

はつせめか−てにまくいとを−くりかへし−なかきよことに−うつころもかな


04342
未入力 正徹 (xxx)

しのはらやしのひし秋も夜寒にて衣打つらむ野ちの里人

しのはらや−しのひしあきも−よさむにて−ころもうつらむ−のちのさとひと


04343
未入力 正徹 (xxx)

うつ音もかはらさりけりしきたへの枕もふるき秋の衣は

うつおとも−かはらさりけり−しきたへの−まくらもふるき−あきのころもは


04344
未入力 正徹 (xxx)

くれなゐに染めし八しほの衣とやおなし紅葉の陰そうつらん

くれなゐに−そめしやしほの−ころもとや−おなしもみちの−かけそうつらむ


04345
未入力 正徹 (xxx)

此秋は都なからの旅衣うつとしもなき宿もならはす

このあきは−みやこなからの−たひころも−うつとしもなき−やともならはす


04346
未入力 正徹 (xxx)

のかれきてすむてふ山の岩ほにもひとりや苔の衣うつらん

のかれきて−すむてふやまの−いはほにも−ひとりやこけの−ころもうつらむ


04347
未入力 正徹 (xxx)

つたひくる嵐も雲も猶のこる遠山すりの衣うつこゑ

つたひくる−あらしもくもも−なほのこる−とほやますりの−ころもうつこゑ


04348
未入力 正徹 (xxx)

秋風に衣うつなりしからきの外山のまさき色かはるらん

あきかせに−ころもうつなり−しからきの−とやまのまさき−いろかはるらむ


04349
未入力 正徹 (xxx)

さ夜ふけてこゑこそよわれ古郷に老いたる人や衣うつらん

さよふけて−こゑこそよわれ−ふるさとに−おいたるひとや−ころもうつらむ


04350
未入力 正徹 (xxx)

霜なからうてとも秋の色見えぬ衣そ人に夜かれかさぬる

しもなから−うてともあきの−いろみえぬ−ころもそひとに−よかれかさぬる


04351
未入力 正徹 (xxx)

あつま路にききし衣の関すゑて都の夢をもるひひきかな

あつまちに−ききしころもの−せきすゑて−みやこのゆめを−もるひひきかな


04352
未入力 正徹 (xxx)

外面なる林あれ行く秋風にたれ落栗のころもうつらん

そともなる−はやしあれゆく−あきかせに−たれおちくりの−ころもうつらむ


04353
未入力 正徹 (xxx)

さ夜ふかくおき出ててきけは衣うつ里はとほちの村雲の月

さよふかく−おきいててきけは−ころもうつ−さとはとほちの−むらくものつき


04354
未入力 正徹 (xxx)

花ならぬ衣して打つさくら麻のこゑさへ秋はちる嵐かな

はなならぬ−ころもしてうつ−さくらあさの−こゑさへあきは−ちるあらしかな


04355
未入力 正徹 (xxx)

うらなくもうつや衣の二おもてこの手柏に風さむきころ

うらなくも−うつやころもの−ふたおもて−このてかしはに−かせさむきころ


04356
未入力 正徹 (xxx)

夜をかさね霜に衣をうつせみの羽袖たえにし秋の木からし

よをかさね−しもにころもを−うつせみの−はそてたえにし−あきのこからし


04357
未入力 正徹 (xxx)

石川や花田の帯のなかき夜にたか中たえて衣うつらん

いしかはや−はなたのおひの−なかきよに−たかなかたえて−ころもうつらむ


04358
未入力 正徹 (xxx)

くれなゐのこ染の袖をのこしてやうへにとりきし衣うつらん

くれなゐの−こそめのそてを−のこしてや−うへにとりきし−ころもうつらむ


04359
未入力 正徹 (xxx)

長月の花の綿つむ今夜とや籬に菊の衣うつらむ

なかつきの−はなのわたつむ−こよひとや−まかきにきくの−ころもうつらむ


04360
未入力 正徹 (xxx)

草の原しをるる霜の花衣うつこゑちらす秋の木からし

くさのはら−しをるるしもの−はなころも−うつこゑちらす−あきのこからし


04361
未入力 正徹 (xxx)

かさねきる衣ありてや難波女か芦の夜ことに打ちあかすらん

かさねきる−ころもありてや−なにはめか−あしのよことに−うちあかすらむ


04362
未入力 正徹 (xxx)

木かくれの遠山かつのすむ里をあらはし衣月に打つこゑ

こかくれの−とほやまかつの−すむさとを−あらはしころも−つきにうつこゑ


04363
未入力 正徹 (xxx)

しひしはの嵐のかけに声すなり色に染めてや衣うつらん

しひしはの−あらしのかけに−こゑすなり−いろにそめてや−ころもうつらむ


04364
未入力 正徹 (xxx)

立ちよりてたれもうてとやすさむらん道行ふりの宿のさ衣

たちよりて−たれもうてとや−すさむらむ−みちゆきふりの−やとのさころも


04365
未入力 正徹 (xxx)

月草のはなたの衣うつたへに秋そうつろふよもきふの宿

つきくさの−はなたのころも−うつたへに−あきそうつろふ−よもきふのやと


04366
未入力 正徹 (xxx)

たはれ島浪のぬれ衣いつほして打つらん声そ秋のあま人

たはれしま−なみのぬれきぬ−いつほして−うつらむこゑそ−あきのあまひと


04367
未入力 正徹 (xxx)

たか中をいととまとほになしほてて夕の霧に衣うつらん

たかなかを−いととまとほに−なしほてて−ゆふへのきりに−ころもうつらむ


04368
未入力 正徹 (xxx)

さと人のあらふ衣も朝かしはぬるや川辺に打つ音もせす

さとひとの−あらふころもも−あさかしは−ぬるやかはへに−うつおともせす


04369
未入力 正徹 (xxx)

時しもあれ梢うつろふ月影にね覚めてきくの衣うつこゑ

ときしもあれ−こすゑうつろふ−つきかけに−ねさめてきくの−ころもうつこゑ


04370
未入力 正徹 (xxx)

めに見えぬ遠山すりのかり衣うつ声おくる秋の木からし

めにみえぬ−とほやますりの−かりころも−うつこゑおくる−あきのこからし


04371
未入力 正徹 (xxx)

月みても秋の心を忘れすはうてかしたゆむあさのさ衣

つきみても−あきのこころを−わすれすは−うてかしたゆむ−あさのさころも


04372
未入力 正徹 (xxx)

うつ声に色はなくとも夜をさむみね覚めてきくの衣とやせん

うつこゑに−いろはなくとも−よをさむみ−ねさめてきくの−ころもとやせむ


04373
未入力 正徹 (xxx)

声そちる野へのかりほの夕露にひもとく花の衣うつらし

こゑそちる−のへのかりほの−ゆふつゆに−ひもとくはなの−ころもうつらし


04374
未入力 正徹 (xxx)

明ぬまにたれまきおきて横雲の衣うつらん嶺の里人

あけぬまに−たれまきおきて−よこくもの−ころもうつらむ−みねのさとひと


04375
未入力 正徹 (xxx)

乙女子も夜を長月の月にうて明かたさむし天のは衣

をとめこも−よをなかつきの−つきにうて−あけかたさむし−あまのはころも


04376
未入力 正徹 (xxx)

横雲をよそなる嶺の里人やおきてわかれし衣うつらん

よこくもを−よそなるみねの−さとひとや−おきてわかれし−ころもうつらむ


04377
未入力 正徹 (xxx)

あまもなく所もすまの浦ならて夢をまとほにうつ衣かな

あまもなく−ところもすまの−うらならて−ゆめをまとほに−うつころもかな


04378
未入力 正徹 (xxx)

うつままに音をそさそふ秋の風もろき木の葉の衣ならねと

うつままに−おとをそさそふ−あきのかせ−もろきこのはの−ころもならねと


04379
未入力 正徹 (xxx)

山ひこのこたふる松も衣うつ風や夜寒の秋のさと人

やまひこの−こたふるまつも−ころもうつ−かせやよさむの−あきのさとひと


04380
未入力 正徹 (xxx)

かたふかて月すむかたの枕にも跡にもちかくうつ衣かな

かたふかて−つきすむかたの−まくらにも−あとにもちかく−うつころもかな


04381
未入力 正徹 (xxx)

薪とりしあした夕の谷の風こゑをひとつに打つころもかな

たききとりし−あしたゆふへの−たにのかせ−こゑをひとつに−うつころもかな


04382
未入力 正徹 (xxx)

秋さむききぬたは風に駒いはへ枝にすむ鳥に声合すなり

あきさむき−きぬたはかせに−こまいはへ−えにすむとりに−こゑあはすなり


04383
未入力 正徹 (xxx)

いつくそと空に心のうつろふや色つき草のころもうつらん

いつくそと−そらにこころの−うつろふや−いろつきくさの−ころもうつらむ


04384
未入力 正徹 (xxx)

さそひくる風もしのふの衣とや空にみたれて声迷ふらん

さそひくる−かせもしのふの−ころもとや−そらにみたれて−こゑまよふらむ


04385
未入力 正徹 (xxx)

から衣おとよりも猶うつ人の袖は枕にさはる夢かな

からころも−おとよりもなほ−うつひとの−そてはまくらに−さはるゆめかな


04386
未入力 正徹 (xxx)

うつ里の声のうすきや夏衣秋のきぬたに猶残るらん

うつさとの−こゑのうすきや−なつころも−あきのきぬたに−なほのこるらむ


04387
未入力 正徹 (xxx)

老の浪よるの衣をうつたへに声うらかなしをちの秋風

おいのなみ−よるのころもを−うつたへに−こゑうらかなし−をちのあきかせ


04388
未入力 正徹 (xxx)

をかやふくふせやはくらきこも簾月にあけてや衣打つらん

をかやふく−ふせやはくらき−こもすたれ−つきにあけてや−ころもうつらむ


04389
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣うつてのつちやおもからぬあくるもしらす音聞ゆなり

さよころも−うつてのつちや−おもからぬ−あくるもしらす−おときこゆなり


04390
未入力 正徹 (xxx)

手をたゆみとほさかるなりうつ衣よひにきほひし暁のこゑ

てをたゆみ−とほさかるなり−うつころも−よひにきほひし−あかつきのこゑ


04391
未入力 正徹 (xxx)

今はとて打つこゑなきもあくる夜の袖のわかれの衣なるらん

いまはとて−うつこゑなきも−あくるよの−そてのわかれの−ころもなるらむ


04392
未入力 正徹 (xxx)

まとほなる秋さり衣きその夜を中にへたてて打ちあかす声

まとほなる−あきさりころも−きそのよを−なかにへたてて−うちあかすこゑ


04393
未入力 正徹 (xxx)

おとろかす程はなけれと秋のよの夢をはかなみうつ衣かな

おとろかす−ほとはなけれと−あきのよの−ゆめをはかなみ−うつころもかな


04394
未入力 正徹 (xxx)

秋をへてききしもさらに遠き世の昔の声に打つ衣かな

あきをへて−ききしもさらに−とほきよの−むかしのこゑに−うつころもかな


04395
未入力 正徹 (xxx)

ささ分くる嵐の末にきえてけりあはてぬる夜の衣うつらん

ささわくる−あらしのすゑに−きえてけり−あはてぬるよの−ころもうつらむ


04396
未入力 正徹 (xxx)

から衣はつるる糸かうつこゑもむすほほれくるさ夜の秋かせ

からころも−はつるるいとか−うつこゑも−むすほほれくる−さよのあきかせ


04397
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はらふらし夜半に衣をうちわたす遠かた人の袖のはつ霜

はらふらし−よはにころもを−うちわたす−をちかたひとの−そてのはつしも


04398
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うちあかす夜はの衣はたか中に遠さかり行く声きこゆらん

うちあかす−よはのころもは−たかなかに−とほさかりゆく−こゑきこゆらむ


04399
未入力 正徹 (xxx)

月にうつ音にてしれは雲かかるとほ山すりの衣なるらむ

つきにうつ−おとにてしれは−くもかかる−とほやますりの−ころもなるらむ


04400
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吉野山すす分けしあさのすり衣うつや雲まの嶺の嵐に

よしのやま−すすわけしあさの−すりころも−うつやくもまの−みねのあらしに


04401
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衣うつ音もゆつはの村雲にたえたえつつく秋の川なみ

ころもうつ−おともゆつはの−むらくもに−たえたえつつく−あきのかはなみ


04402
未入力 正徹 (xxx)

さとこえて嵐のおくる秋のよに声さへなかくうつ衣かな

さとこえて−あらしのおくる−あきのよに−こゑさへなかく−うつころもかな


04403
未入力 正徹 (xxx)

音きくもしらぬ里人たか中にこぬ夜へたつる衣うつらん

おときくも−しらぬさとひと−たかなかに−こぬよへたつる−ころもうつらむ


04404
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はつ霜の古郷人にかれそ行くうつや衣のなか月の夢

はつしもの−ふるさとひとに−かれそゆく−うつやころもの−なかつきのゆめ


04405
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かすかなるあさちかおくのやとりにもすむ人ありと打つ衣かな

かすかなる−あさちかおくの−やとりにも−すむひとありと−うつころもかな


04406
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かさねよと子を思ふ人やいそくらん夜を長岡に衣うつ声

かさねよと−こをおもふひとや−いそくらむ−よをなかをかに−ころもうつこゑ


04407
未入力 正徹 (xxx)

秋の風ふせくやかたき松陰の岩ほの中もうつ衣かな

あきのかせ−ふせくやかたき−まつかけの−いはほのうちも−うつころもかな


04408
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やみになる月のかつらのさと人や子を思ふ夜の衣うつらん

やみになる−つきのかつらの−さとひとや−こをおもふよの−ころもうつらむ


04409
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あさ衣きなれの里は秋にたにうつ夜まれなるつちの音かな

あさころも−きなれのさとは−あきにたに−うつよまれなる−つちのおとかな


04410
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山鳥の秋のすゑ尾の里人はへたてて夜はの衣うつらん

やまとりの−あきのすゑをの−さとひとは−へたててよはの−ころもうつらむ


04411
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衣うつこやの里人芦のはにかくれてすまぬ声そ聞ゆる

ころもうつ−こやのさとひと−あしのはに−かくれてすまぬ−こゑそきこゆる


04412
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風あらす古郷人やうつかひもあらぬ夜さむの秋のさ衣

かせあらす−ふるさとひとや−うつかひも−あらぬよさむの−あきのさころも


04413
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ひたかくる稲葉を遠みもる月を嶺のいほりにうつ衣かな

ひたかくる−いなはをとほみ−もるつきを−みねのいほりに−うつころもかな


04414
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かからすは夢をやみつの浜つつらくるれはあまの打つ衣かな

かからすは−ゆめをやみつの−はまつつら−くるれはあまの−うつころもかな


04415
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宿見えぬ川辺の秋の霜のよに浪もあやうつ衣をそきく

やとみえぬ−かはへのあきの−しものよに−なみもあやうつ−ころもをそきく


04416
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秋山の木の葉も草も妻こひになくやをしかの涙そむらし

あきやまの−このはもくさも−つまこひに−なくやをしかの−なみたそむらし


04417
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妻こふる秋やなからむ法ききし鹿の苑生に鹿はすむとも

つまこふる−あきやなからむ−のりききし−しかのそのふに−しかはすむとも


04418
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さをしかの契り外山か秋かけてかはるまさきの色恨むらん

さをしかの−ちきりとやまか−あきかけて−かはるまさきの−いろうらむらむ


04419
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よそに見しともしを秋は妻恋の心にもゆと鹿や鳴くらん

よそにみし−ともしをあきは−つまこひの−こころにもゆと−しかやなくらむ


04420
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松山の色はかはらてうき中の契を秋と鹿や鳴くらむ

まつやまの−いろはかはらて−うきなかの−ちきりをあきと−しかやなくらむ


04421
未入力 正徹 (xxx)

きく人の心もしらす夕暮はわかうきままに鹿や鳴くらん

きくひとの−こころもしらす−ゆふくれは−わかうきままに−しかやなくらむ


04422
未入力 正徹 (xxx)

尋ねはや御法のこゑに音をそへしむかしの鹿のそのの古道

たつねはや−みのりのこゑに−ねをそへし−むかしのしかの−そののふるみち


04423
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柴ましるそはの枯木とかつみれは角ふりたてて鹿そ鳴くなる

しはましる−そはのかれきと−かつみれは−つのふりたてて−しかそなくなる


04424
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秋山の鹿やともしの跡にきてなかくわかれし妻になくらん

あきやまの−しかやともしの−あとにきて−なかくわかれし−つまになくらむ


04425
未入力 正徹 (xxx)

秋はしかつれなき妻を松かけにともしの煙むねに恋ひつつ

あきはしか−つれなきつまを−まつかけに−ともしのけふり−むねにこひつつ


04426
未入力 正徹 (xxx)

秋山の木の葉色つきから衣たつやすそ野にをしかなくなり

あきやまの−このはいろつき−からころも−たつやすそのに−をしかなくなり


04427
未入力 正徹 (xxx)

外山なるまさきの綱やつなきおく秋ふけ行くにさをしかの声

とやまなる−まさきのつなや−つなきおく−あきふけゆくに−さをしかのこゑ


04428
未入力 正徹 (xxx)

露はらふみ山の苔のさ莚をしきしのふ夜やをしか鳴くらん

つゆはらふ−みやまのこけの−さむしろを−しきしのふよや−をしかなくらむ


04429
未入力 正徹 (xxx)

ふす鹿の秋のみ山の苔莚いつくの妻にしきしのふらん

ふすしかの−あきのみやまの−こけむしろ−いつくのつまに−しきしのふらむ


04430
未入力 正徹 (xxx)

世に遠き太山の秋のさをしかは妻恋ならぬねをやなくらん

よにとほき−みやまのあきの−さをしかは−つまこひならぬ−ねをやなくらむ


04431
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外山なるまさきのかけにたつ鹿も散るをかきりの声そかれ行く

とやまなる−まさきのかけに−たつしかも−ちるをかきりの−こゑそかれゆく


04432
未入力 正徹 (xxx)

杣木きると山のまさきよる綱にひかれぬ妻ををしか鳴くなり

そまききる−とやまのまさき−よるつなに−ひかれぬつまを−をしかなくなり


04433
未入力 正徹 (xxx)

妻恋の外山を鹿や出てさらんまさきのきつな秋にたえすは

つまこひの−とやまをしかや−いてさらむ−まさきのきつな−あきにたえすは


04434
未入力 正徹 (xxx)

さむからし外山色つき鹿そ鳴くおくてもる庵の袖の露霜

さむからし−とやまいろつき−しかそなく−おくてもるいほの−そてのつゆしも


04435
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なく鹿の思ひの色やまさきはふと山のくれの松の下柴

なくしかの−おもひのいろや−まさきはふ−とやまのくれの−まつのしたしは


04436
未入力 正徹 (xxx)

杣山やくれ行くをのの音たえてひとりなけきををしか鳴くなり

そまやまや−くれゆくをのの−おとたえて−ひとりなけきを−をしかなくなり


04437
未入力 正徹 (xxx)

外山なるまさきの綱のくるるまは秋にたへすや鹿のなくらん

とやまなる−まさきのつなの−くるるまは−あきにたへすや−しかのなくらむ


04438
未入力 正徹 (xxx)

おのか毛はきえ行くほしを空にみて夕の嶺にしかや鳴くらん

おのかけは−きえゆくほしを−そらにみて−ゆふへのみねに−しかやなくらむ


04439
未入力 正徹 (xxx)

その山と契らぬ妻にうちわひて入あひのかねに鹿や鳴くらん

そのやまと−ちきらぬつまに−うちわひて−いりあひのかねに−しかやなくらむ


04440
未入力 正徹 (xxx)

時雨るらむ末野の峰のしかのねに夕やたへぬをちのさと人

しくるらむ−すゑののみねの−しかのねに−ゆふへやたへぬ−をちのさとひと


04441
未入力 正徹 (xxx)

妻そなき岡辺の早田霜八度おきて鳴きたつ鹿はあれとも

つまそなき−をかへのはやた−しもやたひ−おきてなきたつ−しかはあれとも


04442
未入力 正徹 (xxx)

淡路かた山路の鹿も妻こめて恋渡る瀬戸の秋の舟人

あはちかた−やまちのしかも−つまこめて−こひわたるせとの−あきのふなひと


04443
未入力 正徹 (xxx)

しかのねもうきねの床に高砂の松風なからよするうら浪

しかのねも−うきねのとこに−たかさこの−まつかせなから−よするうらなみ


04444
未入力 正徹 (xxx)

あはちかた島山風も早しほに鹿の音うかふせとの夕浪

あはちかた−しまやまかせも−はやしほに−しかのねうかふ−せとのゆふなみ


04445
未入力 正徹 (xxx)

しなか鳥ふすさへゐなの湊田に又たちあかすさをしかの声

しなかとり−ふすさへゐなの−みなとたに−またたちあかす−さをしかのこゑ


04446
未入力 正徹 (xxx)

秋ふくるをのの山田にさをしかの涙色こき稲そのこれる

あきふくる−をののやまたに−さをしかの−なみたいろこき−いねそのこれる


04447
未入力 正徹 (xxx)

を山田のをしかも声をからし行くいなほのかつら長き夜のしも

をやまたの−をしかもこゑを−からしゆく−いなほのかつら−なかきよのしも


04448
未入力 正徹 (xxx)

なれも名やをしねかり田の初霜に妻とふ鹿の跡そ残れる

なれもなや−をしねかりたの−はつしもに−つまとふしかの−あとそのこれる


04449
未入力 正徹 (xxx)

山もとのかりほの小萩露ほさて野田のほなみに鹿そ鳴くなる

やまもとの−かりほのこはき−つゆほさて−のたのほなみに−しかそなくなる


04450
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの涙時雨れて秋の田のほの上染むる夕霧のこゑ

さをしかの−なみたしくれて−あきのたの−ほのうへそむる−ゆふきりのこゑ


04451
未入力 正徹 (xxx)

妻しらてひとりたたすむ小男鹿の思ひ色こき秋のはつ稲

つましらて−ひとりたたすむ−さをしかの−おもひいろこき−あきのはついね


04452
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの秋の草ふし夜かれしてもる声たかき野田のかりいほ

さをしかの−あきのくさふし−よかれして−もるこゑたかき−のたのかりいほ


04453
未入力 正徹 (xxx)

鹿もこす夢路もたえぬ岡へなる早田かりねの霜の曙

しかもこす−ゆめちもたえぬ−をかへなる−はやたかりねの−しものあけほの


04454
未入力 正徹 (xxx)

秋すくるおのか草ふし夜や寒き野田のかりほにをしか鳴くなり

あきすくる−おのかくさふし−よやさむき−のたのかりほに−をしかなくなり


04455
未入力 正徹 (xxx)

かり庵ももらぬいなはのあれまくもをしか鳴きよる秋の小山田

かりいほも−もらぬいなはの−あれまくも−をしかなきよる−あきのをやまた


04456
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稲葉ふく風もめくりてかたしらす芦の丸屋のさをしかの声

いなはふく−かせもめくりて−かたしらす−あしのまろやの−さをしかのこゑ


04457
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの妻とふ夜はの山かつらかけはなれ行くなかに鳴くなり

さをしかの−つまとふよはの−やまかつら−かけはなれゆく−なかになくなり


04458
未入力 正徹 (xxx)

音にそなく暁露に立ちぬれて月にもほさぬ鹿の上毛を

ねにそなく−あかつきつゆに−たちぬれて−つきにもほさぬ−しかのうはけを


04459
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鹿そなく草の原野の有明に月にとへはや妻もつれなき

しかそなく−くさのはらのの−ありあけに−つきにとへはや−つまもつれなき


04460
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明けわたるをのへの鹿や妻こめに雲をのこしてこゑわかるらん

あけわたる−をのへのしかや−つまこめに−くもをのこして−こゑわかるらむ


04461
未入力 正徹 (xxx)

鹿はたたうきを心にしらすとも鳴くねにたへぬ暮とおもはん

しかはたた−うきをこころに−しらすとも−なくねにたへぬ−くれとおもはむ


04462
未入力 正徹 (xxx)

月まつと人にいふへき道もなしくるれは妻にしかや鳴くらん

つきまつと−ひとにいふへき−みちもなし−くるれはつまに−しかやなくらむ


04463
未入力 正徹 (xxx)

たれも此うき身さをなる夕暮も猶まつかけに鹿は鳴くなり

たれもこの−うきみさをなる−ゆふくれも−なほまつかけに−しかはなくなり


04464
未入力 正徹 (xxx)

をしかなく夕の霧に立ちかくす矢野のかみ山色付きぬらん

をしかなく−ゆふへのきりに−たちかくす−やののかみやま−いろつきぬらむ


04465
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの妻やたのめしのへにきて夕かけ草の露にふすなり

さをしかの−つまやたのめし−のへにきて−ゆふかけくさの−つゆにふすなり


04466
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小男鹿のおのれ夜かれていかかなく待ちえぬ妻はねにもたてぬを

さをしかの−おのれよかれて−いかかなく−まちえぬつまは−ねにもたてぬを


04467
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妻恋のこゑをしのふる道やなきやみにかくれてをしか鳴くなり

つまこひの−こゑをしのふる−みちやなき−やみにかくれて−をしかなくなり


04468
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寝覚して鹿のねきけは月に霧萩さくのへの露の面かけ

なさめして−しかのねきけは−つきにきり−はきさくのへの−つゆのおもかけ


04469
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なく鹿もともしせし夜の秋ならはうき妻恋に身をや捨てまし

なくしかも−ともしせしよの−あきならは−うきつまこひに−みをやすてまし


04470
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秋山の月の夜霧の妻こめて思ひやはれぬをしか鳴くなり

あきやまの−つきのよきりの−つまこめて−おもひやはれぬ−をしかなくなり


04471
未入力 正徹 (xxx)

秋の夜の心なかさのつらさまて鹿なく嶺に残るよこ雲

あきのよの−こころなかさの−つらさまて−しかなくみねに−のこるよこくも


04472
未入力 正徹 (xxx)

夜をさむみたか枕香の木枯に秋行く鹿の声わたるらん

よをさむみ−たかまくらかの−こからしに−あきゆくしかの−こゑわたるらむ


04473
未入力 正徹 (xxx)

妻恋のもりのすかのね枝き夜もふさてや鹿の鳴きあかすらん

つまこひの−もりのすかのね−なかきよも−ふさてやしかの−なきあかすらむ


04474
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの心のやみの妻こひにあひみまほしの毛をやうらむる

さをしかの−こころのやみの−つまこひに−あひみまほしの−けをやうらむる


04475
未入力 正徹 (xxx)

其山としらぬ嵐にまよふなり木のはにつるるさをしかの声

そのやまと−しらぬあらしに−まよふなり−このはにつるる−さをしかのこゑ


04476
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きくままに谷の庵に声そする後や手かひの鹿とならまし

きくままに−たにのいほりに−こゑそする−のちやてかひの−しかとならまし


04477
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夜そふかき月に秋風たつ鹿の声吹きかへす霧の山もと

よそふかき−つきにあきかせ−たつしかの−こゑふきかへす−きりのやまもと


04478
未入力 正徹 (xxx)

なほさりに妻とふしかの秋の声うつろひ行くや遠さかるらん↓

なほさりに−つまとふしかの−あきのこゑ−うつろひゆくや−とほさかるらむ


04479
未入力 正徹 (xxx)

さをしかのよるの契もうす霧になくや朝けの秋の山もと

さをしかの−よるのちきりも−うすきりに−なくやあさけの−あきのやまもと


04480
未入力 正徹 (xxx)

声もせす月をもいとへ野への鹿夕の霧に妻そこもれる

こゑもせす−つきをもいとへ−のへのしか−ゆふへのきりに−つまそこもれる


04481
未入力 正徹 (xxx)

から錦しかはたたまくをしまてや野への秋萩おのれふすらん

からにしき−しかはたたまく−をしまてや−のへのあきはき−おのれふすらむ


04482
未入力 正徹 (xxx)

まちそ見る思ひつきせぬ玉章ののこりおほかる雁の一行

まちそみる−おもひつきせぬ−たまつさの−のこりおほかる−かりのひとつら


04483
未入力 正徹 (xxx)

日雲にたに宿なきさののわたりくる雁かねさむし秋の村雨

ひくれたに−やとなきさのの−わたりくる−かりかねさむし−あきのむらさめ


04484
未入力 正徹 (xxx)

いさふたりねむともたれか岩の上の苔の衣をかりや鳴くらん

いさふたり−ねむともたれか−いはのうへの−こけのころもを−かりやなくらむ


04485
未入力 正徹 (xxx)

このねぬる朝けの床に風立ちて衣手さむし初かりの声

このねぬる−あさけのとこに−かせたちて−ころもてさむし−はつかりのこゑ


04486
未入力 正徹 (xxx)

都たにいまた旅なる初雁のいつくをやとと鳴きて行くらん

みやこたに−いまたたひなる−はつかりの−いつくをやとと−なきてゆくらむ


04487
未入力 正徹 (xxx)

秋風をつけし蛍の影もなき野沢におちて雁そ啼くなる

あきかせを−つけしほたるの−かけもなき−のさはにおちて−かりそなくなる


04488
未入力 正徹 (xxx)

時しもあれ夕の風に雁のくる峰のくす葉もかへる雲かな

ときしもあれ−ゆふへのかせに−かりのくる−みねのくすはも−かへるくもかな


04489
未入力 正徹 (xxx)

声たつる風も冷し雁鳴きて菊の花さく秋のはま松

こゑたつる−かせもすさまし−かりなきて−きくのはなさく−あきのはままつ


04490
未入力 正徹 (xxx)

しつかおるはたてを雲にこととひて鳴くや夕の衣かりかね

しつかおる−はたてをくもに−こととひて−なくやゆふへの−ころもかりかね


04491
未入力 正徹 (xxx)

夕日影空にうつろふ初雁のなみた染めなす雲のいろかな

ゆふひかけ−そらにうつろふ−はつかりの−なみたそめなす−くものいろかな


04492
未入力 正徹 (xxx)

はし鷹の初かり衣雁そなくほさてやかさむ野への夕露

はしたかの−はつかりころも−かりそなく−ほさてやかさむ−のへのゆふつゆ


04493
未入力 正徹 (xxx)

声声に遠山鳥のをのへより翅もなかくかりそつらなる

こゑこゑに−とほやまとりの−をのへより−つはさもなかく−かりそつらなる


04494
未入力 正徹 (xxx)

いつくにも去年のねくらは荒れぬらん尋ねなわひそ秋の初雁

いつくにも−こそのねくらは−あれぬらむ−たつねなわひそ−あきのはつかり


04495
未入力 正徹 (xxx)

明けぬとて夜の床世を立ちわかれかへるやきたる秋のかりかね

あけぬとて−よるのとこよを−たちわかれ−かへるやきたる−あきのかりかね


04496
未入力 正徹 (xxx)

都路に去年こし雁のさき立ちてまたみぬひなのしるへとやなる

みやこちに−こそこしかりの−さきたちて−またみぬひなの−しるへとやなる


04497
未入力 正徹 (xxx)

池にすむ手かひの鳥も雲路より友待ちえたるはつ雁のこゑ

いけにすむ−てかひのとりも−くもちより−ともまちえたる−はつかりのこゑ


04498
未入力 正徹 (xxx)

久かたの天の川舟からろをやおし明かたの初かりの声

ひさかたの−あまのかはふね−からろをや−おしあけかたの−はつかりのこゑ


04499
未入力 正徹 (xxx)

秋そかし雁は初声菊はまたつほめる比も花になくむし

あきそかし−かりははつこゑ−きくはまた−つほめるころも−はなになくむし


04500
未入力 正徹 (xxx)

なきてくる雁の羽衣我にかせ秋の夜寒は空にますらん

なきてくる−かりのはころも−われにかせ−あきのよさむは−そらにますらむ


04501
未入力 正徹 (xxx)

やとやしるいにし燕のことつてを軒はにつけて渡る雁かね

やとやしる−いにしつはめの−ことつてを−のきはにつけて−わたるかりかね


04502
未入力 正徹 (xxx)

かさしまて天つ乙女に衣かれはねかつらする雁の一行

かさしまて−あまつをとめに−ころもかれ−はねかつらする−かりのひとつら


04503
未入力 正徹 (xxx)

霧たちてははそ色付く山もとのさほの川原にわたる雁かね

きりたちて−ははそいろつく−やまもとの−さほのかはらに−わたるかりかね


04504
未入力 正徹 (xxx)

あさ衣しつか手なるるをた巻のくる秋なかき夜はのはつ雁

あさころも−しつかてなるる−をたまきの−くるあきなかき−よはのはつかり


04505
未入力 正徹 (xxx)

舟人の浪にからろをおしあてにくる雁しるき浦のあさ霧

ふなひとの−なみにからろを−おしあてに−くるかりしるき−うらのあさきり


04506
未入力 正徹 (xxx)

おのかなく涙も露も置きそへす袂をすくる雁のは風に

おのかなく−なみたもつゆも−おきそへす−たもとをすくる−かりのはかせに


04507
未入力 正徹 (xxx)

なく雁の涙の玉をぬきもあへすみたれて消ゆる雲の糸すち

なくかりの−なみたのたまを−ぬきもあへす−みたれてきゆる−くものいとすち


04508
未入力 正徹 (xxx)

みぬ秋のむかしのことを空にかけ雁は其世も都にそこし

みぬあきの−むかしのことを−そらにかけ−かりはそのよも−みやこにそこし


04509
未入力 正徹 (xxx)

月にぬる天つ乙女の下帯をとくかとみるは衣かりかね

つきにぬる−あまつをとめの−したおひを−とくかとみるは−ころもかりかね


04510
未入力 正徹 (xxx)

天つかりつらなりくるや山のはの月にかかれるよひの横雲

あまつかり−つらなりくるや−やまのはの−つきにかかれる−よひのよこくも


04511
未入力 正徹 (xxx)

みなの川ふちにはよらし筑波根の嶺よりおつる雁の一つら

みなのかは−ふちにはよらし−つくはねの−みねよりおつる−かりのひとつら


04512
未入力 正徹 (xxx)

こえてくる雁の涙の下染にかつ色付くや秋の太山木

こえてくる−かりのなみたの−したそめに−かついろつくや−あきのみやまき


04513
未入力 正徹 (xxx)

鳴きてくるかりの涙もおきとめぬ嶺のを花の袖の秋風

なきてくる−かりのなみたも−おきとめぬ−みねのをはなの−そてのあきかせ


04514
未入力 正徹 (xxx)

煙ともなせや玉章世にちらはいかかいふきの嶺にとふかり

けふりとも−なせやたまつさ−よにちらは−いかかいふきの−みねにとふかり


04515
未入力 正徹 (xxx)

くれゆかは遠山ひめのまゆを引く雁さへきえておもかけもなし

くれゆかは−とほやまひめの−まゆをひく−かりさへきえて−おもかけもなし


04516
未入力 正徹 (xxx)

秋さむき浪にをりはへ川の名の衣かりかね今そ鳴くなる

あきさむき−なみにをりはへ−かはのなの−ころもかりかね−いまそなくなる


04517
未入力 正徹 (xxx)

玉章をまつとはなしの初かりもまたをちかたに秋の音信

たまつさを−まつとはなしの−はつかりも−またをちかたに−あきのおとつれ


04518
未入力 正徹 (xxx)

こゑきかは雲の浪分けくる雁にしほたるらめや袖の浦人

こゑきかは−くものなみわけ−くるかりに−しほたるらめや−そてのうらひと


04519
未入力 正徹 (xxx)

夕日さす時雨の雲に行く雁の涙吹きほす嶺の秋かせ

ゆふひさす−しくれのくもに−ゆくかりの−なみたふきほす−みねのあきかせ


04520
未入力 正徹 (xxx)

露をとく雁の涙や待ちえけむなく夕かけの草そ色つく

つゆをとく−かりのなみたや−まちえけむ−なくゆふかけの−くさそいろつく


04521
未入力 正徹 (xxx)

色かはる秋風さむし初雁のなく夕かけの山のした柴

いろかはる−あきかせさむし−はつかりの−なくゆふかけの−やまのしたしは


04522
未入力 正徹 (xxx)

天とふも翅つかれて夕気立つ尾上の里に雁やおつらん

あまとふも−つはさつかれて−ゆふけたつ−をのへのさとに−かりやおつらむ


04523
未入力 正徹 (xxx)

みたれくる初かり金のこゑのあや雲のはたてにおりやかくらん

みたれくる−はつかりかねの−こゑのあや−くものはたてに−おりやかくらむ


04524
未入力 正徹 (xxx)

霧うすき梢の色もほのかなる山のなかはを雁わたるみゆ

きりうすき−こすゑのいろも−ほのかなる−やまのなかはを−かりわたるみゆ


04525
未入力 正徹 (xxx)

名もしるし岡のうへこす雁の羽も立つやきりふの色にみたれて

なもしるし−をかのうへこす−かりのはも−たつやきりふの−いろにみたれて


04526
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嶺越えて落ちくる雁のしほれ羽も霧にかくるる野へのはきはら

みねこえて−おちくるかりの−しほれはも−きりにかくるる−のへのはきはら


04527
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雲のはにわたるや雁の玉章を袖より袖にうつすとそみゆ

くものはに−わたるやかりの−たまつさを−そてよりそてに−うつすとそみゆ


04528
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鳴きてくる雁のなみたやおさふらん翅にかかる雲のは袖は

なきてくる−かりのなみたや−おさふらむ−つはさにかかる−くものはそては


04529
未入力 正徹 (xxx)

雁のくる嵐につけて飛ふ雲のきえすほ有りとも友と落ちめや

かりのくる−あらしにつけて−とふくもの−きえすはありとも−ともとおちめや


04530
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よひのまにぬきてわかるる雁そなくふけてや寒き雲のは衣

よひのまに−ぬきてわかるる−かりそなく−ふけてやさむき−くものはころも


04531
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初時雨天とふ雁の涙にもそめぬ夕の雲そ色つく

はつしくれ−あまとふかりの−なみたにも−そめぬゆふへの−くもそいろつく


04532
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数しらぬ雲の衣にいかかせんつらなる雁の一すちの帯

かすしらぬ−くものころもに−いかかせむ−つらなるかりの−ひとすちのおひ


04533
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みこしちの露のしほれ羽うちはふき都の霧にわたる雁かね

みこしちの−つゆのしほれは−うちはふき−みやこのきりに−わたるかりかね


04534
未入力 正徹 (xxx)

いくつらそ雁なきわたるわたつ海にうちかへてけりあまのたく縄

いくつらそ−かりなきわたる−わたつうみに−うちかへてけり−あまのたくなは


04535
未入力 正徹 (xxx)

浪の上は秋くる雁の玉章をかきける筆の海かとそみる

なみのうへは−あきくるかりの−たまつさを−かきけるふての−うみかとそみる


04536
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こく舟のからろを雁のともねとやうら浪ちかく鳴きておつらん

こくふねの−からろをかりの−ともねとや−うらなみちかく−なきておつらむ


04537
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はむ程のおちほもあらし雁はきて秋の田ならぬいなさ細江は

はむほとの−おちほもあらし−かりはきて−あきのたならぬ−いなさほそえは


04538
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あまのかる早田のいなの湊舟こきわかるるやわたる雁かね

あまのかる−はやたのいなの−みなとふね−こきわかるるや−わたるかりかね


04539
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玉章を袖のみなとにつたへおきてしのひにすくる沖つ雁金

たまつさを−そてのみなとに−つたへおきて−しのひにすくる−おきつかりかね


04540
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からろおすもろこし舟を雁そなくあまの衣の袖の湊に

からろおす−もろこしふねを−かりそなく−あまのころもの−そてのみなとに


04541
未入力 正徹 (xxx)

風そよく声は昨日のかり田行く雁の涙やおちほそむらん

かせそよく−こゑはきのふの−かりたゆく−かりのなみたや−おちほそむらむ


04542
未入力 正徹 (xxx)

露そちるを田のほかつらくる雁もともにかけたるおのか玉章

つゆそちる−をたのほかつら−くるかりも−ともにかけたる−おのかたまつさ


04543
未入力 正徹 (xxx)

明渡る山田の杉は霧こめて空にむら立つ秋のかりかね

あけわたる−やまたのすきは−きりこめて−そらにむらたつ−あきのかりかね


04544
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のさかひのくぬき色付きて同への霧に渡る雁かね

あきのたの−さかひのくぬき−いろつきて−をかへのきりに−わたるかりかね


04545
未入力 正徹 (xxx)

いそけなほほなみをわたる稲舟の此月はかり秋のはつ雁

いそけなほ−ほなみをわたる−いなふねの−このつきはかり−あきのはつかり


04546
未入力 正徹 (xxx)

くる雁はほなみにきえて夕まくれ山田もる男そ独のこれる

くるかりは−ほなみにきえて−ゆふまくれ−やまたもるをそ−ひとりのこれる


04547
未入力 正徹 (xxx)

こしちより雁の翅を吹きおくる風とはなりぬ駒いはふらし

こしちより−かりのつはさを−ふきおくる−かせとはなりぬ−こまいはふらし


04548
未入力 正徹 (xxx)

吹きみたす野分のそこに先落ちて翅をたためかりの一行

ふきみたす−のわきのそこに−まつおちて−つはさをたため−かりのひとつら


04549
未入力 正徹 (xxx)

くる雁よたれかうらみの玉章もみるめなきさの浪にぬらすな

くるかりよ−たれかうらみの−たまつさも−みるめなきさの−なみにぬらすな


04550
未入力 正徹 (xxx)

よこの海の夕浪さむく雁そ鳴く秋風いかかしほつすか原

よこのうみの−ゆふなみさむく−かりそなく−あきかせいかか−しほつすかはら


04551
未入力 正徹 (xxx)

鳴きてくる雲井の雁の玉章も袖まきほさぬ秋の夕風

なきてくる−くもゐのかりの−たまつさも−そてまきほさぬ−あきのゆふかせ


04552
未入力 正徹 (xxx)

あまを舟雲まの浪の夕月夜それもほのかにわたる雁かね

あまをふね−くもまのなみの−ゆふつくよ−それもほのかに−わたるかりかね


04553
未入力 正徹 (xxx)

面かけそつらなりきたるやと過くる夕の雁はいててみねとも

おもかけそ−つらなりきたる−やとすくる−ゆふへのかりは−いててみねとも


04554
未入力 正徹 (xxx)

墨染の夕の袖やしほるらん雁かねこゆる嶺の山てら

すみそめの−ゆふへのそてや−しほるらむ−かりかねこゆる−みねのやまてら


04555
未入力 正徹 (xxx)

かたわくや秋の雲ゐのこまとりにあらそひきたる雁の一行

かたわくや−あきのくもゐの−こまとりに−あらそひきたる−かりのひとつら


04556
未入力 正徹 (xxx)

二かたによるやあわをのあはぬまにこゑもわかれて雁はきにけり

ふたかたに−よるやあわをの−あはぬまに−こゑもわかれて−かりはきにけり


04557
未入力 正徹 (xxx)

橋ひめのまつ夜むなしき玉章に雁かねつらき宇治の曙

はしひめの−まつよむなしき−たまつさに−かりかねつらき−うちのあけほの


04558
未入力 正徹 (xxx)

こまとむる夕浪さひてひのくまや此川上に雁なきわたる

こまとむる−ゆふなみさひて−ひのくまや−このかはかみに−かりなきわたる


04559
未入力 正徹 (xxx)

うきねせぬ野に見えつるかち枕空にのこれる雁の声かな

うきねせぬ−ゆめにみえつる−かちまくら−そらにのこれる−かりのこゑかな


04560
未入力 正徹 (xxx)

高ねとふ杣のかりやに声みれはうつすみなはの雁の一すち

たかねとふ−そまのかりやに−こゑみれは−うつすみなはの−かりのひとすち


04561
未入力 正徹 (xxx)

秋の霜むすはん草にふすうつら衣ありとも床なたのみそ

あきのしも−むすはむくさに−ふすうつら−ころもありとも−とこなたのみそ


04562
未入力 正徹 (xxx)

深草や春こし花も墨染の夕の野へにうつら鳴くなり

ふかくさや−はるこしはなも−すみそめの−ゆふへののへに−うつらなくなり


04563
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すゑの行く袖の下よりたつ鶉あはれみなてし世もや有りけん

すゑのゆく−そてのしたより−たつうつら−あはれみなてし−よもやありけむ


04564
未入力 正徹 (xxx)

夕まくれうつら鳴くのの露ちりて入江のはしをわたる秋かせ

ゆふまくれ−うつらなくのの−つゆちりて−いりえのはしを−わたるあきかせ


04565
未入力 正徹 (xxx)

ふか草や秋のうつらの床の夢えやはふしみん野への木からし

ふかくさや−あきのうつらの−とこのゆめ−えやはふしみむ−のへのこからし


04566
未入力 正徹 (xxx)

都鳥はねかく事やすみた川田面の鴫のほとにまかはは

みやことり−はねかくことや−すみたかは−たのものしきの−ほとにまかはは


04567
未入力 正徹 (xxx)

あくるまてかくや百羽をやすめつつくるる沢田に鴫のふすらん

あくるまて−かくやももはを−やすめつつ−くるるさはたに−しきのふすらむ


04568
未入力 正徹 (xxx)

たえたえに霧吹きのこす山本の野分さひしき鴫のはねかき

たえたえに−きりふきのこす−やまもとの−のわきさひしき−しきのはねかき


04569
未入力 正徹 (xxx)

摘みのこす沢辺の若菜草立ちて鴫のふしとをかくす秋かな

つみのこす−さはへのわかな−くさたちて−しきのふしとを−かくすあきかな


04570
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あまを舟入江の沢による浪のかすかく鴫の夕くれのこゑ

あまをふね−いりえのさはに−よるなみの−かすかくしきの−ゆふくれのこゑ


04571
未入力 正徹 (xxx)

秋は又沢への蛍もえあかす思ひのかすを鴫のはねかき

あきはまた−さはへのほたる−もえあかす−おもひのかすを−しきのはねかき


04572
未入力 正徹 (xxx)

庵ちかき沢田の鴫も立ちぬれて百羽かきさすふかき夜の雨

いほちかき−さはたのしきも−たちぬれて−ももはかきさす−ふかきよのあめ


04573
未入力 正徹 (xxx)

明渡る秋の沢水霧はれて鴫の百羽もかすそさやけき

あけわたる−あきのさはみつ−きりはれて−しきのももはも−かすそさやけき


04574
未入力 正徹 (xxx)

みちてかく時やはあらん秋の月心にみかきもてる鏡は

みちてかく−ときやはあらむ−あきのつき−こころにみかき−もてるかかみは


04575
未入力 正徹 (xxx)

あはれまぬ神はいかなるちかひとかみさ山かけに鹿の鳴くらん

あはれまぬ−かみはいかなる−ちかひとか−みさやまかけに−しかのなくらむ


04576
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秋にうき庭の荻原そよかすは空吹く風をききやすくさむ

あきにうき−にはのをきはら−そよかすは−そらふくかせを−ききやすくさむ


04577
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荻原はさても何ゆゑ秋風のかなしかるへき声をもちけん

をきはらは−さてもなにゆゑ−あきかせの−かなしかるへき−こゑをもちけむ


04578
未入力 正徹 (xxx)

しをれともすゑふしはてぬ荻原にかへるをきけは葛のうら風

しをれとも−すゑふしはてぬ−をきはらに−かへるをきけは−くすのうらかせ


04579
未入力 正徹 (xxx)

秋風を待ちとる戸もすくなきはせはき軒はの荻の一本

あきかせを−まちとるこゑも−すくなきは−せはきのきはの−をきのひともと


04580
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山ち行く荻の葉風はつよくなりて木のまもる日の袖によわれる

やまちゆく−をきのはかせは−つよくなりて−このまもるひの−そてによわれる


04581
未入力 正徹 (xxx)

荻原やわか夕くれと秋風の吹きにし日より声そこたふる

をきはらや−わかゆふくれと−あきかせの−ふきにしひより−こゑそこたふる


04582
未入力 正徹 (xxx)

里わかすうき秋風の吹きくるをとはすかたりの荻の声かな

さとわかす−うきあきかせの−ふきくるを−とはすかたりの−をきのこゑかな


04583
未入力 正徹 (xxx)

いかか吹く都のやとの荻にさへ秋のこころのあらきはま風

いかかふく−みやこのやとの−をきにさへ−あきのこころの−あらきはまかせ


04584
未入力 正徹 (xxx)

秋きぬとつけの枕にしらせけりねてのあさけの荻の初かせ

あききぬと−つけのまくらに−しらせけり−ねてのあさけの−をきのはつかせ


04585
未入力 正徹 (xxx)

葛かかる庭の荻はらしほれともさのみ聞えぬ秋風の声

くすかかる−にはのをきはら−しほれとも−さのみきこえぬ−あきかせのこゑ


04586
未入力 正徹 (xxx)

風ふけはいつれの草か音たてぬ秋を待ちとる荻のはそうき

かせふけは−いつれのくさか−おとたてぬ−あきをまちとる−をきのはそうき


04587
未入力 正徹 (xxx)

玉ささにおつるそそよく秋風のふかぬ夕の荻のした露

たまささに−おつるそそよく−あきかせの−ふかぬゆふへの−をきのしたつゆ


04588
未入力 正徹 (xxx)

わか袖にやとれしら露荻はらやすゑこす風は心なくとも

わかそてに−やとれしらつゆ−をきはらや−すゑこすかせは−こころなくとも


04589
未入力 正徹 (xxx)

荻原やきけは心もみたれ葉に露をあらそふ秋のはつ風

をきはらや−きけはこころも−みたれはに−つゆをあらそふ−あきのはつかせ


04590
未入力 正徹 (xxx)

さのみなと千草の中に荻ひとりうき秋風を人に告くらん

さのみなと−ちくさのうちに−をきひとり−うきあきかせを−ひとにつくらむ


04591
未入力 正徹 (xxx)

下荻の上の思ひもほに出てて色かはり行く露の秋かせ

したをきの−うへのおもひも−ほにいてて−いろかはりゆく−つゆのあきかせ


04592
未入力 正徹 (xxx)

出ててみるわれならねとも風ふけは月におきふす庭の荻かな

いててみる−われならねとも−かせふけは−つきにおきふす−にはのをきかな


04593
未入力 正徹 (xxx)

ききてなと袖しほるらん荻にこそうき秋風の音信もあれ

ききてなと−そてしほるらむ−をきにこそ−うきあきかせの−おとつれもあれ


04594
未入力 正徹 (xxx)

をきのはにうき秋風となりそめし世のゆゑしらぬ袖の露かな

をきのはに−うきあきかせと−なりそめし−よのゆゑしらぬ−そてのつゆかな


04595
未入力 正徹 (xxx)

秋もまたたそかれ時の風なからとはぬをなのる荻の声かな

あきもまた−たそかれときの−かせなから−とはぬをなのる−をきのこゑかな


04596
未入力 正徹 (xxx)

荻原やうきはいかなるゆゑそとも猶いひしらぬ風の音かな

をきはらや−うきはいかなる−ゆゑそとも−なほいひしらぬ−かせのおとかな


04597
未入力 正徹 (xxx)

しめゆひし荻の葉もりの神風もありてやしるく秋を告くらん

しめゆひし−をきのはもりの−かみかせも−ありてやしるく−あきをつくらむ


04598
未入力 正徹 (xxx)

荻のはの風は嵐に吹きなりて日ことに秋の声そはけしき

をきのはの−かせはあらしに−ふきなりて−ひことにあきの−こゑそはけしき


04599
未入力 正徹 (xxx)

風ふかす荻のはならぬ夕暮を身のうきひまとたのむ秋かな

かせふかす−をきのはならぬ−ゆふくれを−みのうきひまと−たのむあきかな


04600
未入力 正徹 (xxx)

秋風はいかに吹くともあはれてふ声になつけそ庭の荻原

あきかせは−いかにふくとも−あはれてふ−こゑになつけそ−にはのをきはら


04601
未入力 正徹 (xxx)

風そよく荻の葉分の夕月夜月としもなき影そみたるる

かせそよく−をきのはわけの−ゆふつくよ−つきとしもなき−かけそみたるる


04602
未入力 正徹 (xxx)

ふけは又わか心にもうき秋をしのひにすくる荻の夕かせ

ふけはまた−わかこころにも−うきあきを−しのひにすくる−をきのゆふかせ


04603
未入力 正徹 (xxx)

光いてむ其暁の夢覚めてうしとはきかしをきの上風

ひかりいてむ−そのあかつきの−ゆめさめて−うしとはきかし−をきのうはかせ


04604
未入力 正徹 (xxx)

露はらふ夜半の嵐に中たえぬ荻のは渡る夢の通路

つゆはらふ−よはのあらしに−なかたえぬ−をきのはわたる−ゆめのかよひち


04605
未入力 正徹 (xxx)

夢さそふ軒の嵐におとろけは荻の末はの長き夜の月

ゆめさそふ−のきのあらしに−おとろけは−をきのすゑはの−なかきよのつき


04606
未入力 正徹 (xxx)

秋風に覚めつる後は荻の葉のすゑふすひまの夢をたにみゆ

あきかせに−さめつるのちは−をきのはの−すゑふすひまの−ゆめをたにみゆ


04607
未入力 正徹 (xxx)

ぬる床もうきたる夢は荻のはの露吹く風のまへにきえつつ

ぬるとこも−うきたるゆめは−をきのはの−つゆふくかせの−まへにきえつつ


04608
未入力 正徹 (xxx)

昔こそおとろかしつれ荻のはのかせまつ夢は覚めてかへりぬ

むかしこそ−おとろかしつれ−をきのはの−かせまつゆめは−さめてかへりぬ


04609
未入力 正徹 (xxx)

跡そなき風まつ程の荻の葉にやとりし夢も露のまにして

あとそなき−かせまつほとの−をきのはに−やとりしゆめも−つゆのまにして


04610
未入力 正徹 (xxx)

かよひ行く夢ちとほさぬ声もうし人ならぬ荻のかせの関守

かよひゆく−ゆめちとほさぬ−こゑもうし−ひとならぬをきの−かせのせきもり


04611
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく秋の夢ちにおきふしてかよひかねたる宿の荻原

あらしふく−あきのゆめちに−おきふして−かよひかねたる−やとのをきはら


04612
未入力 正徹 (xxx)

さはりける夜はの夢路のあしわけは秋くる風のあらき浜をき

さはりける−よはのゆめちの−あしわけは−あきくるかせの−あらきはまをき


04613
未入力 正徹 (xxx)

ふくる夜の風の下なる荻はふせとおきゐしままの夢そさめ行く

ふくるよの−かせのしもなる−をきはふせと−おきゐしままの−ゆめそさめゆく


04614
未入力 正徹 (xxx)

秋風も後にこそきけ下荻のほなみうちこす夜はの枕は

あきかせも−のちにこそきけ−したをきの−ほなみうちこす−よはのまくらは


04615
未入力 正徹 (xxx)

吹きかへす夜半の衣のうら風に荻のほなみのうつまくらかな

ふきかへす−よはのころもの−うらかせに−をきのほなみの−うつまくらかな


04616
未入力 正徹 (xxx)

荻原や嵐はすきしみたれはの立ちなほるこゑも夜そ身にしむ

をきはらや−あらしはすきし−みたれはの−たちなほるこゑも−よるそみにしむ


04617
未入力 正徹 (xxx)

おとにさへやみほあやなし夕月夜入りぬる庭の荻のうは風

おとにさへ−やみほあやなし−ゆふつくよ−いりぬるにはの−をきのうはかせ


04618
未入力 正徹 (xxx)

秋の日は糸よりよわきささかにの雲のはたてに荻のうは風

あきのひは−いとよりよわき−ささかにの−くものはたてに−をきのうはかせ


04619
未入力 正徹 (xxx)

伊勢の海の荻の葉さそな都たに夕たつ声のあらき浜風

いせのうみの−をきのはさそな−みやこたに−ゆふたつこゑの−あらきはまかせ


04620
未入力 正徹 (xxx)

とはるるをよそにききても袖ぬれぬたか宿しらぬ荻の夕風

とはるるを−よそにききても−そてぬれぬ−たかやとしらぬ−をきのゆふかせ


04621
未入力 正徹 (xxx)

しつかなる荻の葉分の夕月夜もるとしもなき影そすくなき

しつかなる−をきのはわけの−ゆふつくよ−もるとしもなき−かけそすくなき


04622
未入力 正徹 (xxx)

ねぬる夜の風さえわたりたえて行く荻の末葉や夢のうきはし

ねぬるよの−かせさえわたり−たえてゆく−をきのすゑはや−ゆめのうきはし


04623
未入力 正徹 (xxx)

ふかき夜の野分にしをる荻はらやすゑふす露を月そかたしく

ふかきよの−のわきにしをる−をきはらや−すゑふすつゆを−つきそかたしく


04624
未入力 正徹 (xxx)

秋はたた夜半に荻原うつ雨の風にまされる音はねられす

あきはたた−よはにをきはら−うつあめの−かせにまされる−おとはねられす


04625
未入力 正徹 (xxx)

風さへもふかくは分けぬ荻原にかくれて秋をしらぬ庵かな

かせさへも−ふかくはわけぬ−をきはらに−かくれてあきを−しらぬいほかな


04626
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宿みれは昔夜ことにねし床は荻のはしけく秋風そ吹く

やとみれは−むかしよことに−ねしとこは−をきのはしけく−あきかせそふく


04627
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此庵の秋風まてはまたなれすききこしものを荻のやけ原

このいほの−あきかせまては−またなれす−ききこしものを−をきのやけはら


04628
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今さらにうきを中中えそしらぬ荻にかくれし宿の秋風

いまさらに−うきをなかなか−えそしらぬ−をきにかくれし−やとのあきかせ


04629
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すむ人も嵐のやとり荻はらにかくれもはてぬ道のへの宿

すむひとも−あらしのやとり−をきはらに−かくれもはてぬ−みちのへのやと


04630
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露やさき風や後とも秋のくるしるしもみえぬ庭の荻原

つゆやさき−かせやのちとも−あきのくる−しるしもみえぬ−にはのをきはら


04631
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夕まくれ苔ふる庭の石たたきおつる羽風そ荻に声する

ゆふまくれ−こけふるにはの−いしたたき−おつるはかせそ−をきにこゑする


04632
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苔の上におちくる鳥の羽風にも一もとそよく庭の荻原

こけのうへに−おちくるとりの−はかせにも−ひともとそよく−にはのをきはら


04633
未入力 正徹 (xxx)

をきの葉もならす扇に露おちていつれもおかぬ軒の秋風

をきのはも−ならすあふきに−つゆおちて−いつれもおかぬ−のきのあきかせ


04634
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袖とふも老はくるしき秋風におきふしやすき庭の荻かな

そてとふも−おいはくるしき−あきかせに−おきふしやすき−にはのをきかな


04635
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下荻の露も嵐もしほるなり秋にやあるるまかきならまし

したをきの−つゆもあらしも−しほるなり−あきにやあるる−まかきならまし


04636
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うちそよきちかき籬の山人のとふかときけは荻の上風

うちそよき−ちかきまかきの−やまひとの−とふかときけは−をきのうはかせ


04637
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荻はらや霧のまかきはたのむかひ嵐の庭にたへすふしつつ

をきはらや−きりのまかきは−たのむかひ−あらしのにはに−たへすふしつつ


04638
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籬よりかたふく荻のすゑの松たえすほなみをこす嵐かな

まかきより−かたふくをきの−すゑのまつ−たえすほなみを−こすあらしかな


04639
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荻をあめる野守か庵のかりの戸にあまりてそよく四方の秋風

をきをあめる−のもりかいほの−かりのとに−あまりてそよく−よものあきかせ


04640
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まきの戸をたたかぬのみや尋ねくる人にはあらぬ荻のうは風

まきのとを−たたかぬのみや−たつねくる−ひとにはあらぬ−をきのうはかせ


04641
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した荻を風はわくとも山里に人くとつけよ秋のうくひす

したをきを−かせはわくとも−やまさとに−ひとくとつけよ−あきのうくひす


04642
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初尾花ふりはへけりな荻はらや分けくる人の袖のあらしは

はつをはな−ふりはへけりな−をきはらや−わけくるひとの−そてのあらしは


04643
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立ちかへる袖かとそきく夜半の戸になひきてさはる荻の末はを

たちかへる−そてかとそきく−よはのとに−なひきてさはる−をきのすゑはを


04644
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をき原や都にうときうら浪の声を枕の遠つ秋風

をきはらや−みやこにうとき−うらなみの−こゑをまくらの−とほつあきかせ


04645
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荻原やふる江をかけて秋風のわたれとぬれぬほなみをそこす

をきはらや−ふるえをかけて−あきかせの−わたれとぬれぬ−ほなみをそこす


04646
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あくる夜の入え漕きさり行く舟に秋風おくるさとの荻はら

あくるよの−いりえこきさり−ゆくふねに−あきかせおくる−さとのをきはら


04647
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石にたつ入江のす鳥ほしあへぬ羽風も秋にそよくをきはら

いしにたつ−いりえのすとり−ほしあへぬ−はかせもあきに−そよくをきはら


04648
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露は先入江の宿の秋風に荻のはよする夜半のうら浪

つゆはまつ−いりえのやとの−あきかせに−をきのはよする−よはのうらなみ


04649
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荻原やうしともしらぬあま人はきくにもあらし秋のはま風

をきはらや−うしともしらぬ−あまひとは−きくにもあらし−あきのはまかせ


04650
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はま荻や人は旅ねもしら浪の打ちふけて行く秋のしほかせ

はまをきや−ひとはたひねも−しらなみの−うちふけてゆく−あきのしほかせ


04651
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まのの浦に浪よるを花色きえてたつ夕霧にうつら鳴くなり

まののうらに−なみよるをはな−いろきえて−たつゆふきりに−うつらなくなり


04652
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花薄しらす冬をやまねくらん暮行く秋のうきにたへつつ

はなすすき−しらすふゆをや−まねくらむ−くれゆくあきの−うきにたへつつ


04653
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松陰の岩もとすすきほのほのとあらはれきゆるみねの朝霧

まつかけの−いはもとすすき−ほのほのと−あらはれきゆる−みねのあさきり


04654
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あはれめよおもきらひせぬみとり子のさし出す手とみゆるを花そ

あはれめよ−おもきらひせぬ−みとりこの−さしいたすてと−みゆるをはなそ


04655
未入力 正徹 (xxx)

風さゆる秋のすゑののすすきはらかれなて袖の霜なうらみそ

かせさゆる−あきのすゑのの−すすきはら−かれなてそての−しもなうらみそ


04656
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のこりなく尾花ちるなり秋の袖あらはそあたに誰をまねかん

のこりなく−をはなちるなり−あきのそて−あらはそあたに−たれをまねかむ


04657
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ほにいてはまねきかへせと初秋の薄にかよふよひの稲妻

ほにいては−まねきかへせと−はつあきの−すすきにかよふ−よひのいなつま


04658
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露なれぬ初花すすき手のうちの玉なくたきそ野への秋風

つゆなれぬ−はつはなすすき−てのうちの−たまなくたきそ−のへのあきかせ


04659
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みたるなり日影も見えすくもるにも薄ちる野の秋のいとゆふ

みたるなり−ひかけもみえす−くもるにも−すすきちるのの−あきのいとゆふ


04660
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こきかへす松浦の山の花すすきいまもひれふる興つ舟人

こきかへす−まつらのやまの−はなすすき−いまもひれふる−おきつふなひと


04661
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秋ふかき尾花かもとのかすかすに思ひしのはてむしや鳴くらむ

あきふかき−をはなかもとの−かすかすに−おもひしのはて−むしやなくらむ


04662
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くるる野の一むらすすき紫の色しらねともあはれとそみる

くるるのの−ひとむらすすき−むらさきの−いろしらねとも−あはれとそみる


04663
未入力 正徹 (xxx)

村すすきまねくをみれは出てやらて秋のほならす野へのいなつま

むらすすき−まねくをみれは−いてやらて−あきのほならす−のへのいなつま


04664
未入力 正徹 (xxx)

このねぬる初花すすき紫のたかもとゆひか今朝はとくらん

このねぬる−はつはなすすき−むらさきの−たかもとゆひか−けさはとくらむ


04665
未入力 正徹 (xxx)

しけき野と今ならすともわか庵の一村すすき露な忘れそ

しけきのと−いまならすとも−わかいほの−ひとむらすすき−つゆなわすれそ


04666
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たか秋と岩もと薄いはねともまねかぬ袖の露そかれ行く

たかあきと−いはもとすすき−いはねとも−まねかぬそての−つゆそかれゆく


04667
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契りきや時を待ちえてほにいつる一花すすき秋のはつかせ

ちきりきや−ときをまちえて−ほにいつる−ひとはなすすき−あきのはつかせ


04668
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太山にはおつるかいさやわしのはのきりふの薄秋風そふく

みやまには−おつるかいさや−わしのはの−きりふのすすき−あきかせそふく


04669
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けさも猶露そこほるる主しらぬ袖のわかれの庭のを薄

けさもなほ−つゆそこほるる−ぬししらぬ−そてのわかれの−にはのをすすき


04670
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山ひめの袖やはつるるいと薄玉ぬく露をみたす秋風

やまひめの−そてやはつるる−いとすすき−たまぬくつゆを−みたすあきかせ


04671
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花すすきたかふりはてて色かはる蓬かかみに袖おほふらん

はなすすき−たかふりはてて−いろかはる−よもきかかみに−そておほふらむ


04672
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身にそしむ一村すすき秋風のまねく程たにふかぬ夕は

みにそしむ−ひとむらすすき−あきかせの−まねくほとたに−ふかぬゆふへは


04673
未入力 正徹 (xxx)

花薄わか袖ひとつたのむとてはらへはうとし露の秋風

はなすすき−わかそてひとつ−たのむとて−はらへはうとし−つゆのあきかせ


04674
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石たたきおつる羽風にみたれても音なき庭の薄一もと

いしたたき−おつるはかせに−みたれても−おとなきにはの−すすきひともと


04675
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夕露の岩もとすすき末ふしておちくる鳥のはね音もせす

ゆふつゆの−いはもとすすき−すゑふして−おちくるとりの−はねおともせす


04676
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わか袖と一もと薄まねくとも人やはとはんやとの秋かせ

わかそてと−ひともとすすき−まねくとも−ひとやはとはむ−やとのあきかせ


04677
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風渡る峰の尾花の袖さむみ雲のはたてにたれまねくらん

かせわたる−みねのをはなの−そてさむみ−くものはたてに−たれまねくらむ


04678
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ほに出つるを花みたれて遠かたの入日をまねく野への秋かせ

ほにいつる−をはなみたれて−をちかたの−いりひをまねく−のへのあきかせ


04679
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たか袖も尾花かもとにそふ草の思ひそひろきのへの夕露

たかそても−をはなかもとに−そふくさの−おもひそひろき−のへのゆふつゆ


04680
未入力 正徹 (xxx)

宿はあれぬくれなはなけと松かねの岩もと薄たれまねくらん

やとはあれぬ−くれなはなけと−まつかねの−いはもとすすき−たれまねくらむ


04681
未入力 正徹 (xxx)

雲の上ははるけき野への薄にもこき紫の袖そふれ行く

くものうへは−はるけきのへの−すすきにも−こきむらさきの−そてそふれゆく


04682
未入力 正徹 (xxx)

わか袖の露よりしけし花すすきひろ野や秋の袂なるらん

わかそての−つゆよりしけし−はなすすき−ひろのやあきの−たもとなるらむ


04683
未入力 正徹 (xxx)

花薄しをるるみれは露わけしをちかた人の袖そ残れる

はなすすき−しをるるみれは−つゆわけし−をちかたひとの−そてそのこれる


04684
未入力 正徹 (xxx)

吉野山岩もとすすきむすほほれいる人したふ袖のしからみ

よしのやま−いはもとすすき−むすほほれ−いるひとしたふ−そてのしからみ


04685
未入力 正徹 (xxx)

まねくへき人はゆけとも薄原手もさし出てぬのへの初秋

まねくへき−ひとはゆけとも−すすきはら−てもさしいてぬ−のへのはつあき


04686
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ひとりすむ草の庵の村薄たれ分けきてか心みたれん

ひとりすむ−くさのいほりの−むらすすき−たれわけきてか−こころみたれむ


04687
未入力 正徹 (xxx)

尾花ふくいつの御幸の宿ふりてつらねしのへに袖のこるらん

をはなふく−いつのみゆきの−やとふりて−つらねしのへに−そてのこるらむ


04688
未入力 正徹 (xxx)

ふもとなる岩もと薄折れそふすむへ山人の袖ふれてけり

ふもとなる−いはもとすすき−をれそふす−うへやまひとの−そてふれてけり


04689
未入力 正徹 (xxx)

野への尾花きえもてくれや夕霧にをちかた人の袖そちかつく

のへのをはな−きえもてくれや−ゆふきりに−をちかたひとの−そてそちかつく


04690
未入力 正徹 (xxx)

風かよふ薄はかりの草のはら年ことになにをまねきとむらん

かせかよふ−すすきはかりの−くさのはら−としことになにを−まねきとむらむ


04691
未入力 正徹 (xxx)

花すすき手にとりもてる露にたに契あさちか原の秋風

はなすすき−てにとりもてる−つゆにたに−ちきりあさちか−はらのあきかせ


04692
未入力 正徹 (xxx)

露霜よを花かもとの草の原思ひある袖のおほふはかりは

つゆしもよ−をはなかもとの−くさのはら−おもひあるそての−おほふはかりは


04693
未入力 正徹 (xxx)

秋の風声しのはらのしの薄しのにおく露ちらぬまもなし

あきのかせ−こゑしのはらの−しのすすき−しのにおくつゆ−ちらぬまもなし


04694
未入力 正徹 (xxx)

初尾花袖につつみもうつもれて茂るにせはき原の池みつ

はつをはな−そてにつつみも−うつもれて−しけるにせはき−はらのいけみつ


04695
未入力 正徹 (xxx)

紫の一もとゆゑの露や猶萩さくのへにおきあまるらむ

むらさきの−ひともとゆゑの−つゆやなほ−はきさくのへに−おきあまるらむ


04696
未入力 正徹 (xxx)

しらぬ野の冬の草葉とかれんまて秋をあらすな庭の村萩

しらぬのの−ふゆのくさはと−かれむまて−あきをあらすな−にはのむらはき


04697
未入力 正徹 (xxx)

かのみゆるをちかた人の分くる袖うつろふものそ露のはきはら

かのみゆる−をちかたひとの−わくるそて−うつろふものそ−つゆのはきはら


04698
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のかりほの小萩鹿のねをと山になして色かはり行く

あきのたの−かりほのこはき−しかのねを−とやまになして−いろかはりゆく


04699
未入力 正徹 (xxx)

高円のをのへに残る萩の戸の花やあれにし色をこふらん

たかまとの−をのへにのこる−はきのとの−はなやあれにし−いろをこふらむ


04700
未入力 正徹 (xxx)

うゑてみよ葉におく露もこと草のおよはぬ萩は花さかすとも

うゑてみよ−はにおくつゆも−ことくさの−およはぬはきは−はなさかすとも


04701
未入力 正徹 (xxx)

夕まくれ小萩か上の露もみすこまかにそそく秋の村雨

ゆふまくれ−こはきかうへの−つゆもみす−こまかにそそく−あきのむらさめ


04702
未入力 正徹 (xxx)

人こすは露やはえなく思はまし宿の萩原花に開くとも

ひとこすは−つゆやはえなく−おもはまし−やとのはきはら−はなにさくとも


04703
未入力 正徹 (xxx)

さく花の色もうつさす萩の葉になにそは茂る秋のしら玉

さくはなの−いろもうつさす−はきのはに−なにそはしける−あきのしらたま


04704
未入力 正徹 (xxx)

白玉かなにそととへは萩のうへの影はこたへすふるさとの月

しらたまか−なにそととへは−はきのうへの−かけはこたへす−ふるさとのつき


04705
未入力 正徹 (xxx)

秋はきの露も雫もわきてみす霧ふるのへに遠の山風

あきはきの−つゆもしつくも−わきてみす−きりふるのへに−をちのやまかせ


04706
未入力 正徹 (xxx)

花も葉もなきかおほかる秋萩に雁の涙の露そ置きそふ

はなもはも−なきかおほかる−あきはきに−かりのなみたの−つゆそおきそふ


04707
未入力 正徹 (xxx)

秋萩の露を分けきて墨染もけふや錦の袖と見ゆらん

あきはきの−つゆをわけきて−すみそめも−けふやにしきの−そてとみゆらむ


04708
未入力 正徹 (xxx)

秋はきのは山を庭の籬にて露なかれ行く花の下水

あきはきの−はやまをにはの−まかきにて−つゆなかれゆく−はなのしたみつ


04709
未入力 正徹 (xxx)

浪にふす萩の下はふ枝川のみとりも花の色そうつろふ

なみにふす−はきのしたはふ−えたかはの−みとりもはなの−いろそうつろふ


04710
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さきかかる岸の萩原かつちりてみなわ色なる玉川の浪

さきかかる−きしのはきはら−かつちりて−みなわいろなる−たまかはのなみ


04711
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影うつる萩のにしきの中絶えて水の上野に秋かせそふく

かけうつる−はきのにしきの−なかたえて−みつのうへのに−あきかせそふく


04712
未入力 正徹 (xxx)

さく萩の色なうつしそ妻とみて鹿も思ひをかくる川なみ

さくはきの−いろなうつしそ−つまとみて−しかもおもひを−かくるかはなみ


04713
未入力 正徹 (xxx)

唐あゐの色は下葉そこま錦たつや花さくのへの萩はら

からあゐの−いろはしたはそ−こまにしき−たつやはなさく−のへのはきはら


04714
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たつた姫こまのにしきを八百はたにおるや広のの秋萩の花

たつたひめ−こまのにしきを−やほはたに−おるやひろのの−あきはきのはな


04715
未入力 正徹 (xxx)

心行く秋まちえてや真萩原花のもろひもときわたすらん

こころゆく−あきまちえてや−まはきはら−はなのもろひも−ときわたすらむ


04716
未入力 正徹 (xxx)

氷室よりたねやうゑけん花の色に雪をいたせる庭の秋はき

ひむろより−たねやうゑけむ−はなのいろに−ゆきをいたせる−にはのあきはき


04717
未入力 正徹 (xxx)

しのふかは軒にみたれてみちのくの岩ほにすれる萩か花すり

しのふかは−のきにみたれて−みちのくの−いはほにすれる−はきかはなすり


04718
未入力 正徹 (xxx)

高円の宮人たえしをのへとや道もふる枝の萩そすくなき

たかまとの−みやひとたえし−をのへとや−みちもふるえの−はきそすくなき


04719
未入力 正徹 (xxx)

秋はきの下葉の露も高円の尾上の松ににほふ秋かせ

あきはきの−したはのつゆも−たかまとの−をのへのまつに−にほふあきかせ


04720
未入力 正徹 (xxx)

とはれねは庭に日影はさしなから萩の錦そくらき夜のやみ

とはれねは−にはにひかけは−さしなから−はきのにしきそ−くらきよのやみ


04721
未入力 正徹 (xxx)

なかれつつゆききの岡の萩はらに月日うつろふあすか川なみ

なかれつつ−ゆききのをかの−はきはらに−つきひうつろふ−あすかかはなみ


04722
未入力 正徹 (xxx)

苔なからふりぬる庭の小萩原あさ露かけて誰にみせまし

こけなから−ふりぬるにはの−こはきはら−あさつゆかけて−たれにみせまし


04723
未入力 正徹 (xxx)

朝霧の野へ立ちわかれ行く鹿の跡に露けき萩か花つま

あさきりの−のへたちわかれ−ゆくしかの−あとにつゆけき−はきかはなつま


04724
未入力 正徹 (xxx)

夕露に萩そ花さく紅葉せぬ下葉や雁の涙まつらん

ゆふつゆに−はきそはなさく−もみちせぬ−したはやかりの−なみたまつらむ


04725
未入力 正徹 (xxx)

まてしはし萩の下葉も色つかすひとりある人の袖の夕露

まてしはし−はきのしたはも−いろつかす−ひとりあるひとの−そてのゆふつゆ


04726
未入力 正徹 (xxx)

秋はきの花のうす霧吹きまよひ露さへくもるのへのゆふかせ

あきはきの−はなのうすきり−ふきまよひ−つゆさへくもる−のへのゆふかせ


04727
未入力 正徹 (xxx)

花も葉もうつろひそめて朝夕の露のみさむきをのの萩はら

はなもはも−うつろひそめて−あさゆふの−つゆのみさむき−をののはきはら


04728
未入力 正徹 (xxx)

手折るとてたれかもすそを引まのに朝置く露の見えぬ萩はら

たをるとて−たれかもすそを−ひくまのに−あさおくつゆの−みえぬはきはら


04729
未入力 正徹 (xxx)

花はまた遠里をのの萩かえに露たにおかは先やたをらん

はなはまた−とほさとをのの−はきかえに−つゆたにおかは−まつやたをらむ


04730
未入力 正徹 (xxx)

あつまちやわくる萩原面かけに先宮木のの露の衣手

あつまちや−わくるはきはら−おもかけに−まつみやきのの−つゆのころもて


04731
未入力 正徹 (xxx)

はきの葉に露おく玉そ花にます光なけちそのへの朝霧

はきのはに−つゆおくたまそ−はなにます−ひかりなけちそ−のへのあさきり


04732
未入力 正徹 (xxx)

つくしにも紫生ふる紫のしめのの萩も秋やわすれぬ

つくしにも−むらさきおふる−むらさきの−しめののはきも−あきやわすれぬ


04733
未入力 正徹 (xxx)

心せよいさみに行きて手折らんと人にはいひしのへの秋萩

こころせよ−いさみにゆきて−たをらむと−ひとにはいひし−のへのあきはき


04734
未入力 正徹 (xxx)

さをしかの分けつるみちの小萩原露けき花に結ふ秋萩

さをしかの−わけつるみちの−こはきはら−つゆけきはなに−むすふあきはき


04735
未入力 正徹 (xxx)

玉鉾の行ての小萩折りとらはのこれる花の色やあせなむ

たまほこの−ゆくてのこはき−をりとらは−のこれるはなの−いろやあせなむ


04736
未入力 正徹 (xxx)

高円のをのへの雲の上人もわけけん露や野への萩はら

たかまとの−をのへのくもの−うへひとも−わけけむつゆや−のへのはきはら


04737
未入力 正徹 (xxx)

たかまとのをのへの萩のすり衣みたれてくたる雲の秋風

たかまとの−をのへのはきの−すりころも−みたれてくたる−くものあきかせ


04738
未入力 正徹 (xxx)

秋の雨のいとを錦のたてぬきに玉おりいたす花の萩原

あきのあめの−いとをにしきの−たてぬきに−たまおりいたす−はなのはきはら


04739
未入力 正徹 (xxx)

をみなへしたちそかくみる玉たれのこすの大野の霧の戸張に

をみなへし−たちそかくみる−たまたれの−こすのおほのの−きりのとはりに


04740
未入力 正徹 (xxx)

風のまの霧の戸はりに立ちかくれのへおくふかき女郎花かな

かせのまの−きりのとはりに−たちかくれ−のへおくふかき−をみなへしかな


04741
未入力 正徹 (xxx)

ふちはかまぬしなき野へに匂ふをは風もあはれと立ちやよるらん

ふちはかま−ぬしなきのへに−にほふをは−かせもあはれと−たちやよるらむ


04742
未入力 正徹 (xxx)

紫の一花すりのふちはかま野風をとほみ匂ふころかな

むらさきの−ひとはなすりの−ふちはかま−のかせをとほみ−にほふころかな


04743
未入力 正徹 (xxx)

心をはいさしら菊の露霜にうつろふ色やさかりなるらん

こころをは−いさしらきくの−つゆしもに−うつろふいろや−さかりなるらむ


04744
未入力 正徹 (xxx)

百色の花のおととときくの露あはれはかけよ草のこのかみ

ももいろの−はなのおととと−きくのつゆ−あはれはかけよ−くさのこのかみ


04745
未入力 正徹 (xxx)

うつろふもさらに老せぬ色なれやわかむらさきの菊の籬は

うつろふも−さらにおいせぬ−いろなれや−わかむらさきの−きくのまかきは


04746
未入力 正徹 (xxx)

初霜のたてそふ菊の露のぬき今仙人や衣おるらむ

はつしもの−たてそふきくの−つゆのぬき−いまやまひとや−ころもおるらむ


04747
未入力 正徹 (xxx)

仙人の菊うる市か花のえの露あたたむるあさ日さすなり

やまひとの−きくうるいちか−はなのえの−つゆあたたむる−あさひさすなり


04748
未入力 正徹 (xxx)

霜そなきうつろふ菊のこむらさきたかもとゆひの露結ふらん

しもそなき−うつろふきくの−こむらさき−たかもとゆひの−つゆむすふらむ


04749
未入力 正徹 (xxx)

白菊のちらぬためしも露霜に猶うつろはぬ秋やまちけん

しらきくの−ちらぬためしも−つゆしもに−なほうつろはぬ−あきやまちけむ


04750
未入力 正徹 (xxx)

花の露うけてや年をのはへけん菊うる市の秋のもろ人

はなのつゆ−うけてやとしを−のはへけむ−きくうるいちの−あきのもろひと


04751
未入力 正徹 (xxx)

くるるまほ籬と見えし霧はれて月にかかれる庭の白菊

くるるまは−まかきとみえし−きりはれて−つきにかかれる−にはのしらきく


04752
未入力 正徹 (xxx)

かけみゆる籬の菊の花さかりま砂そ庭の月にうつろふ

かけみゆる−まかきのきくの−はなさかり−まさこそにはの−つきにうつろふ


04753
未入力 正徹 (xxx)

秋草を花のなこりと白菊のちらぬまかきそ日数へにける

あきくさを−はなのなこりと−しらきくの−ちらぬまかきそ−ひかすへにける


04754
未入力 正徹 (xxx)

さく菊のまかきはしけくかこはねと秋のととまる関とならすや

さくきくの−まかきはしけく−かこはねと−あきのととまる−せきとならすや


04755
未入力 正徹 (xxx)

色そあらぬ籬の霜の花染に染めいたす菊は紫にして

いろそあらぬ−まかきのしもの−はなそめに−そめいたすきくは−むらさきにして


04756
未入力 正徹 (xxx)

まかきこす日影も菊もくれなゐに匂ふか上の露のしら玉

まかきこす−ひかけもきくも−くれなゐに−にほふかうへの−つゆのしらたま


04757
未入力 正徹 (xxx)

さく菊のかけうく谷の下水に光なしともみえぬ秋かな

さくきくの−かけうくたにの−したみつに−ひかりなしとも−みえぬあきかな


04758
未入力 正徹 (xxx)

露おちてなかるる水に山人もすむらん谷の白菊の花

つゆおちて−なかるるみつに−やまひとも−すむらむたにの−しらきくのはな


04759
未入力 正徹 (xxx)

花の色のうつろふよりもねをあたにさす山岸の菊の一本

はなのいろの−うつろふよりも−ねをあたに−さすやまきしの−きくのひともと


04760
未入力 正徹 (xxx)

かさしてもあかぬ袂にこき入れてかへる山ちも菊を分けつつ

かさしても−あかぬたもとに−こきいれて−かへるやまちも−きくをわけつつ


04761
未入力 正徹 (xxx)

めくるまの花そしをるるさか月にうかへし菊の露なしにして

めくるまの−はなそしをるる−さかつきに−うかへしきくの−つゆなしにして


04762
未入力 正徹 (xxx)

いく秋にめくりあはましつむ菊の花をうかふるけふのさか月

いくあきに−めくりあはまし−つむきくの−はなをうかふる−けふのさかつき


04763
未入力 正徹 (xxx)

秋ふけてうつろふ菊もよもあらし霜をいたたく下の思ひは

あきふけて−うつろふきくも−よもあらし−しもをいたたく−したのおもひは


04764
未入力 正徹 (xxx)

春秋の千世を友にや契るらんちらぬ花さく菊のはま松

はるあきの−ちよをともにや−ちきるらむ−ちらぬはなさく−きくのはままつ


04765
未入力 正徹 (xxx)

吹上のはまのま砂もしら菊のまたうつろほぬ秋そまかへる

ふきあけの−はまのまさこも−しらきくの−またうつろほぬ−あきそまかへる


04766
未入力 正徹 (xxx)

すみよしや雁なく浜に菊そさく秋にも春の海へともかな

すみよしや−かりなくはまに−きくそさく−あきにもはるの−うみへともかな


04767
未入力 正徹 (xxx)

木の葉ちり菊もうつろひ行く水の心ととめぬ秋の庭かな

このはちり−きくもうつろひ−ゆくみつの−こころととめぬ−あきのにはかな


04768
未入力 正徹 (xxx)

露にたにぬれてほすまは千世そふる折る袖あらふ菊の下水

つゆにたに−ぬれてほすまは−ちよそふる−をるそてあらふ−きくのしたみつ


04769
未入力 正徹 (xxx)

露霜の染めかへぬまもなかれ出てて雲にうつろふきくのした水

つゆしもの−そめかへぬまも−なかれいてて−くもにうつろふ−きくのしたみつ


04770
未入力 正徹 (xxx)

山ち行く菊の下水海にいてて浪もよもきか島によるらん

やまちゆく−きくのしたみつ−うみにいてて−なみもよもきか−しまによるらむ


04771
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水無川秋のかたみをおきの海に開きうつろはぬしら菊の花

みなせかは−あきのかたみを−おきのうみに−さきうつろはぬ−しらきくのはな


04772
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山川やこえ行く浪に千世をせけ菊さく谷の秋のうき橋

やまかはや−こえゆくなみに−ちよをせけ−きくさくたにの−あきのうきはし


04773
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朝霜のきえし露ほすきくのえに匂ふ日影もかたふきにけり

あさしもの−きえしつゆほす−きくのえに−にほふひかけも−かたふきにけり


04774
未入力 正徹 (xxx)

長月の秋の末まてさく花のよはひはのへよきくのした露

なかつきの−あきのすゑまて−さくはなの−よはひはのへよ−きくのしたつゆ


04775
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秋はいぬうつろひのこるしら菊のはなれかたくや露むすふらん

あきはいぬ−うつろひのこる−しらきくの−はなれかたくや−つゆむすふらむ


04776
未入力 正徹 (xxx)

おく露に影なき星のにほふとも空にしられぬしら菊の花

おくつゆに−かけなきほしの−にほふとも−そらにしられぬ−しらきくのはな


04777
未入力 正徹 (xxx)

長月のたもとにほはせ紅のすゑつむ菊のはなのしたみつ

なかつきの−たもとにほはせ−くれなゐの−すゑつむきくの−はなのしたみつ


04778
未入力 正徹 (xxx)

たか袖かぬれてにほはん露なからけふつむ菊の行末の秋

たかそてか−ぬれてにほはむ−つゆなから−けふつむきくの−ゆくすゑのあき


04779
未入力 正徹 (xxx)

たか御代かけふさく菊の九重にめくり初めけん花のさかつき

たかみよか−けふさくきくの−ここのへに−めくりそめけむ−はなのさかつき


04780
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雲の上にこと葉の花をちらすけふにほひをそふる庭の白菊

くものうへに−ことはのはなを−ちらすけふ−にほひをそふる−にはのしらきく


04781
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わか心さもあさちふの宿の露ふかくは秋のなに結ふらん

わかこころ−さもあさちふの−やとのつゆ−ふかくはあきの−なにむすふらむ


04782
未入力 正徹 (xxx)

はらふとも涙露ほす世やはあらん心浅ちかやとの秋かせ

はらふとも−なみたつゆほす−よやはあらむ−こころあさちか−やとのあきかせ


04783
未入力 正徹 (xxx)

霜そうき去年の野分の後まても消えぬをたのむ浅ちふの露

しもそうき−こそののわきの−のちまても−きえぬをたのむ−あさちふのつゆ


04784
未入力 正徹 (xxx)

秋ふかき露にかたふくあさちふの末はをしたにかるるのへかな

あきふかき−つゆにかたふく−あさちふの−すゑはをしたに−かるるのへかな


04785
未入力 正徹 (xxx)

折れかへりけにことわりのみたれとも野分にゆるす庭のかるかや

をれかへり−けにことわりの−みたれとも−のわきにゆるす−にはのかるかや


04786
未入力 正徹 (xxx)

野への鹿啼くねもかれぬ露霜にたてる千種の色なうらみそ

のへのしか−なくねもかれぬ−つゆしもに−たてるちくさの−いろなうらみそ


04787
未入力 正徹 (xxx)

又や夢かれにし虫のねをしのふ霜のの草の秋のすゑ葉は

またやゆめ−かれにしむしの−ねをしのふ−しもののくさの−あきのすゑはは


04788
未入力 正徹 (xxx)

木の間行く秋の日影もくれなゐの匂ふか上にふる時雨かな

このまゆく−あきのひかけも−くれなゐの−にほふかうへに−ふるしくれかな


04789
未入力 正徹 (xxx)

たつた姫秋の手染のいとなみもまなく時雨るる梢にそみる

たつたひめ−あきのてそめの−いとなみも−まなくしくるる−こすゑにそみる


04790
未入力 正徹 (xxx)

千しほなる色に照して秋の日のよわきもしらぬ嶺の紅葉は

ちしほなる−いろにてらして−あきのひの−よわきもしらぬ−みねのもみちは


04791
未入力 正徹 (xxx)

露時雨そめすはありとも名にしおふ色や八しほの岡の紅葉は

つゆしくれ−そめすはありとも−なにしおふ−いろややしほの−をかのもみちは


04792
未入力 正徹 (xxx)

くれなゐの袖かとまかふもみち葉の下てる姫やあまくたるらん

くれなゐの−そてかとまかふ−もみちはの−したてるひめや−あまくたるらむ


04793
未入力 正徹 (xxx)

染めおきし高ねのもみちかつちるをうらむる雲はよそに時雨れて

そめおきし−たかねのもみち−かつちるを−うらむるくもは−よそにしくれて


04794
未入力 正徹 (xxx)

入日さす紅葉の上の村時雨そめやほすまや長月の空

いりひさす−もみちのうへの−むらしくれ−そめやほすまや−なかつきのそら


04795
未入力 正徹 (xxx)

露霜の山そはつ染もみちもてかけしは遠き天の川橋

つゆしもの−やまそはつそめ−もみちもて−かけしはとほき−あまのかははし


04796
未入力 正徹 (xxx)

くれなゐのすゑつむ花の下ひもをとくや八しほの岡の紅葉は

くれなゐの−すゑつむはなの−したひもを−とくややしほの−をかのもみちは


04797
未入力 正徹 (xxx)

ましりてもこは世中の人心もみちするより松そよそなる

ましりても−こはよのなかの−ひとこころ−もみちするより−まつそよそなる


04798
未入力 正徹 (xxx)

おく山にし水むすひし人たえて岩かきもみちとはぬ秋かな

おくやまに−しみつむすひし−ひとたえて−いはかきもみち−とはぬあきかな


04799
未入力 正徹 (xxx)

山風のわたれは錦中たゆる秋のこすゑや立田川なみ

やまかせの−わたれはにしき−なかたゆる−あきのこすゑや−たつたかはなみ


04800
未入力 正徹 (xxx)

夕嵐くれなゐふかき紫の梢をくたく嶺のもみちは

ゆふあらし−くれなゐふかき−むらさきの−こすゑをくたく−みねのもみちは


04801
未入力 正徹 (xxx)

しくれねと千しほの色になら坂やこのて柏は手染なるらん

しくれねと−ちしほのいろに−ならさかや−このてかしはは−てそめなるらむ


04802
未入力 正徹 (xxx)

ふかからぬ紅葉の上の染川やなかるる雲のしくれなるらむ

ふかからぬ−もみちのうへの−そめかはや−なかるるくもの−しくれなるらむ


04803
未入力 正徹 (xxx)

白雲のかかれる時やたつた山春見し花の秋のもみちは

しらくもの−かかれるときや−たつたやま−はるみしはなの−あきのもみちは


04804
未入力 正徹 (xxx)

雲の上の乙女恋ひてや天の戸にたつらむ秋の嶺の錦木

くものうへの−をとめこひてや−あまのとに−たつらむあきの−みねのにしきき


04805
未入力 正徹 (xxx)

したてらす山桜戸のもみち葉の花よりいそく明ほのの空

したてらす−やまさくらとの−もみちはの−はなよりいそく−あけほののそら


04806
未入力 正徹 (xxx)

うつり行く時雨の跡の山めくり又一しほのもみちをそ見る

うつりゆく−しくれのあとの−やまめくり−またひとしほの−もみちをそみる


04807
未入力 正徹 (xxx)

置く露にぬれてほせとや紅葉はの下染いそく夕日さすらん

おくつゆに−ぬれてほせとや−もみちはの−したそめいそく−ゆふひさすらむ


04808
未入力 正徹 (xxx)

秋もまたしくれぬ山はもみちはの色そあさはの野への下草

あきもまた−しくれぬやまは−もみちはの−いろそあさはの−のへのしたくさ


04809
未入力 正徹 (xxx)

夕日かけきゆる梢のはつ染を雲のはたてにいそく秋かな

ゆふひかけ−きゆるこすゑの−はつそめを−くものはたてに−いそくあきかな


04810
未入力 正徹 (xxx)

秋ふかき心の色の初そめを梢にいそく露のもみち葉

あきふかき−こころのいろの−はつそめを−こすゑにいそく−つゆのもみちは


04811
未入力 正徹 (xxx)

浦にやくあまのしわさも時過くる嶺のもみちの秋の初しほ

うらにやく−あまのしわさも−ときすくる−みねのもみちの−あきのはつしほ


04812
未入力 正徹 (xxx)

枝分にぬれてほすまの一しほにしくれしままの村紅葉かな

えたわけに−ぬれてほすまの−ひとしほに−しくれしままの−むらもみちかな


04813
未入力 正徹 (xxx)

八千しほにたてる紅葉は雲ときえ雨としくれし人の袖かも

やちしほに−たてるもみちは−くもときえ−あめとしくれし−ひとのそてかも


04814
未入力 正徹 (xxx)

秋の日のよわき影とやもみちはにやとるもうすき梢なるらん

あきのひの−よわきかけとや−もみちはに−やとるもうすき−こすゑなるらむ


04815
未入力 正徹 (xxx)

高根なる紅葉のかけの朝日かけのほるもはやく色そうつろふ

たかねなる−もみちのかけの−あさひかけ−のほるもはやく−いろそうつろふ


04816
未入力 正徹 (xxx)

色そふも秋の日よわき影はをし春ならましの山の紅葉は

いろそふも−あきのひよわき−かけはをし−はるならましの−やまのもみちは


04817
未入力 正徹 (xxx)

立田姫ならふ梢のかた思ひいかなる色に染めまさるらん

たつたひめ−ならふこすゑの−かたおもひ−いかなるいろに−そめまさるらむ


04818
未入力 正徹 (xxx)

山風も時雨れて染めよ長月の梢のよそに有明の月

やまかせも−しくれてそめよ−なかつきの−こすゑのよそに−ありあけのつき


04819
未入力 正徹 (xxx)

山の名のこまの錦のはしさすや苔の莚のよものもみちは

やまのなの−こまのにしきの−はしさすや−こけのむしろの−よものもみちは


04820
未入力 正徹 (xxx)

たつたひめやみのにしきの明ほのに匂ふ紅葉の秋の衣手

たつたひめ−やみのにしきの−あけほのに−にほふもみちの−あきのころもて


04821
未入力 正徹 (xxx)

あさ霧のへたて分けたるむら紅葉松はつらくもなき山ちかな

あさきりの−へたてわけたる−むらもみち−まつはつらくも−なきやまちかな


04822
未入力 正徹 (xxx)

色ふかき梢の雲の浪まよりくれなゐくくる峰の紅葉は

いろふかき−こすゑのくもの−なみまより−くれなゐくくる−みねのもみちは


04823
未入力 正徹 (xxx)

影ふかきもみちのみなわ行く秋をさかまきかへす早せ川なみ

かけふかき−もみちのみなわ−ゆくあきを−さかまきかへす−はやせかはなみ


04824
未入力 正徹 (xxx)

立田山ちらぬもみちに木かくれてゆふ付鳥のこゑそしくるる

たつたやま−ちらぬもみちに−こかくれて−ゆふつけとりの−こゑそしくるる


04825
未入力 正徹 (xxx)

あらし吹くさほ山川の浪かけてうつるもさそふ秋の紅葉は

あらしふく−さほやまかはの−なみかけて−うつるもさそふ−あきのもみちは


04826
未入力 正徹 (xxx)

村時雨しのに衣をかせ山の色や千しほに染めてほすらん

むらしくれ−しのにころもを−かせやまの−いろやちしほに−そめてほすらむ


04827
未入力 正徹 (xxx)

ふらぬまもおのれ時雨れて色なきや紅葉のおくの嶺の松風

ふらぬまも−おのれしくれて−いろなきや−もみちのおくの−みねのまつかせ


04828
未入力 正徹 (xxx)

わひ人の手折る山ちの下紅葉涙しくれて色やまさらん

わひひとの−たをるやまちの−したもみち−なみたしくれて−いろやまさらむ


04829
未入力 正徹 (xxx)

いこま山ぬるる紅紫の色も見ん時雨れて後の雲なかくしそ

いこまやま−ぬるるももちの−いろもみむ−しくれてのちの−くもなかくしそ


04830
未入力 正徹 (xxx)

さしも草しくるれは猶もゆるこそいふきのみねの紅葉なりけり

さしもくさ−しくるれはなほ−もゆるこそ−いふきのみねの−もみちなりけり


04831
未入力 正徹 (xxx)

よるはとて嶺に入日のゆつりてし月や紅葉のあるししむらん

よるはとて−みねにいりひの−ゆつりてし−つきやもみちの−あるししむらむ


04832
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嶺たかき梢は雨に色そひて谷の戸くらき秋の夕霧

みねたかき−こすゑはあめに−いろそひて−たにのとくらき−あきのゆふきり


04833
未入力 正徹 (xxx)

是も又都の秋の紅葉はをわたらは錦中川の水

これもまた−みやこのあきの−もみちはを−わたらはにしき−なかかはのみつ


04834
未入力 正徹 (xxx)

いこま山秋のもみちを吹きなかせ手染しらなみ天の川かせ

いこまやま−あきのもみちを−ふきなかせ−てそめしらなみ−あまのかはかせ


04835
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大井川御舟うかへし浪の上にかけさへ年をふる紅葉かな

おほゐかは−みふねうかへし−なみのうへに−かけさへとしを−ふるもみちかな


04836
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立田川神代もきかぬ紅葉こそ今おりいたす錦なりけれ

たつたかは−かみよもきかぬ−もみちこそ−いまおりいたす−にしきなりけれ


04837
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山もとのあけのそほ舟朝しほに満ちたる色や浦の紅葉は

やまもとの−あけのそほふね−あさしほに−みちたるいろや−うらのもみちは


04838
未入力 正徹 (xxx)

かけあらふ浪のにしきの紅葉はは磯たちならすあま人もなし

かけあらふ−なみのにしきの−もみちはは−いそたちならす−あまひともなし


04839
未入力 正徹 (xxx)

紅葉はをはたやく山となかむらん土佐のとわたる秋の舟人

もみちはを−はたやくやまと−なかむらむ−とさのとわたる−あきのふなひと


04840
未入力 正徹 (xxx)

山姫の滝のしら糸むら染になして落ちそふ嶺の紅葉は

やまひめの−たきのしらいと−むらそめに−なしておちそふ−みねのもみちは


04841
未入力 正徹 (xxx)

滝の上にうかふゆつはの村紅葉たえたえそむる秋のしら浪

たきのうへに−うかふゆつはの−むらもみち−たえたえそむる−あきのしらなみ


04842
未入力 正徹 (xxx)

露霜のをかの屋かたに色まさる紅葉のあるし誰を待つらん

つゆしもの−をかのやかたに−いろまさる−もみちのあるし−たれをまつらむ


04843
未入力 正徹 (xxx)

日影みし岡のはし原色きえて遠き垣ねに鵙の一声

ひかけみし−をかのはしはら−いろきえて−とほきかきねに−もすのひとこゑ


04844
未入力 正徹 (xxx)

遠さかり行てのもみちかへりみて杜のしめ縄ひく心かな

とほさかり−ゆくてのもみち−かへりみて−もりのしめなは−ひくこころかな


04845
未入力 正徹 (xxx)

おのか毛の色になかしそまとりすむうなての杜の秋の紅葉は

おのかけの−いろになかしそ−まとりすむ−うなてのもりの−あきのもみちは


04846
未入力 正徹 (xxx)

さしいてむかた枝もなしや秋霧にふりこめらるる山の杖葉は

さしいてむ−かたえもなしや−あききりに−ふりこめらるる−やまのもみちは


04847
未入力 正徹 (xxx)

見む人の色にそむなと秋の霧うき世へたつる山の紅葉は

みむひとの−いろにそむなと−あきのきり−うきよへたつる−やまのもみちは


04848
未入力 正徹 (xxx)

立田姫いかに契りて色かくすゆふきりそむる山のもみちは

たつたひめ−いかにちきりて−いろかくす−ゆふきりそむる−やまのもみちは


04849
未入力 正徹 (xxx)

ちらすなよ老木のははそ今一目あひみんまての露の秋風

ちらすなよ−おいきのははそ−いまひとめ−あひみむまての−つゆのあきかせ


04850
未入力 正徹 (xxx)

山ちゆけいはたのははそ色付きて鶉なくなりをのの秋きり

やまちゆけ−いはたのははそ−いろつきて−うつらなくなり−をののあききり


04851
未入力 正徹 (xxx)

もすのなく櫨のもみちの夕日影きゆるかたへや野へのむら霧

もすのなく−はしのもみちの−ゆふひかけ−きゆるかたへや−のへのむらきり


04852
未入力 正徹 (xxx)

鵙のなくみかきか原の朝露にぬれて色こき櫨の紅葉は

もすのなく−みかきかはらの−あさつゆに−ぬれていろこき−はしのもみちは


04853
未入力 正徹 (xxx)

ふり出てぬ太山かくれの思川うき水上の秋のもみちは

ふりいてぬ−みやまかくれの−おもひかは−うきみなかみの−あきのもみちは


04854
未入力 正徹 (xxx)

山もとのあけのそほ舟こきいつる雲の浪ちの嶺の紅葉は

やまもとの−あけのそほふね−こきいつる−くものなみちの−みねのもみちは


04855
未入力 正徹 (xxx)

吹きあらすもみちの山のかけの庵とはははるけし風の下みち

ふきあらす−もみちのやまの−かけのいほ−とはははるけし−かせのしたみち


04856
未入力 正徹 (xxx)

色ふかくてらす紅葉の庭はかりしはしよそなる秋の夕やみ

いろふかく−てらすもみちの−にははかり−しはしよそなる−あきのゆふやみ


04857
未入力 正徹 (xxx)

岩かくれ汀のちりとつもるともかきもはらはし宿の紅葉は

いはかくれ−みきはのちりと−つもるとも−かきもはらはし−やとのもみちは


04858
未入力 正徹 (xxx)

風わたる庭の薄のみたれほにかつちりましる秋の紅葉は

かせわたる−にはのすすきの−みたれほに−かつちりましる−あきのもみちは


04859
未入力 正徹 (xxx)

かわくなよ時雨にのこる庭たつみ影まてそむる秋のもみち葉

かわくなよ−しくれにのこる−にはたつみ−かけまてそむる−あきのもみちは


04860
未入力 正徹 (xxx)

松かけのもみちやくれてわきもこかあかもたれひき立つとみゆらん

まつかけの−もみちやくれて−わきもこか−あかもたれひき−たつとみゆらむ


04861
未入力 正徹 (xxx)

もみち葉も秋は色色にとふ鳥のあすかわかるる里の川かせ

もみちはも−あきはいろいろに−とふとりの−あすかわかるる−さとのかはかせ


04862
未入力 正徹 (xxx)

漕きいたす紅葉のかけのうき枕夜のまの床もあけのそほ舟

こきいたす−もみちのかけの−うきまくら−よのまのとこも−あけのそほふね


04863
未入力 正徹 (xxx)

露そめし千しほはちりてのこる枝に初霜いそく秋の紅葉は

つゆそめし−ちしほはちりて−のこるえに−はつしもいそく−あきのもみちは


04864
未入力 正徹 (xxx)

木からしや千しほのかきり露霜の山の嵐の秋のむら雨

こからしや−ちしほのかきり−つゆしもの−やまのあらしの−あきのむらさめ


04865
未入力 正徹 (xxx)

風ふけはもろき柞の秋の色を染むるもあさきえやは時雨れし

かせふけは−もろきははその−あきのいろを−そむるもあさき−えやはしくれし


04866
未入力 正徹 (xxx)

露のかす山のにしきか立田姫おるともみえす染むるともなし

つゆのかす−やまのにしきか−たつたひめ−おるともみえす−そむるともなし


04867
未入力 正徹 (xxx)

初時雨しのたの杜の千枝のはもまた一しほの色に染めつつ

はつしくれ−しのたのもりの−ちえのはも−またひとしほの−いろにそめつつ


04868
未入力 正徹 (xxx)

秋そみるこかね花さくみちのくの山の木の葉の色をひとつに

あきそみる−こかねはなさく−みちのくの−やまのこのはの−いろをひとつに


04869
未入力 正徹 (xxx)

いつくをも秋やかまくら山とみん金花さく下紅葉かな

いつくをも−あきやかまくら−やまとみむ−こかねはなさく−したもみちかな


04870
未入力 正徹 (xxx)

紅葉はのぬるるかほなる色そこき朝露見えぬ秋の遠山

もみちはの−ぬるるかほなる−いろそこき−あさつゆみえぬ−あきのとほやま


04871
未入力 正徹 (xxx)

秋山の時雨の露のうは染にのこる色なきよものもみちは

あきやまの−しくれのつゆの−うはそめに−のこるいろなき−よものもみちは


04872
未入力 正徹 (xxx)

しくれ行く山ちの露にぬれてほす一しほ染の秋の紅葉は

しくれゆく−やまちのつゆに−ぬれてほす−ひとしほそめの−あきのもみちは


04873
未入力 正徹 (xxx)

くもるなよ夕日の色に染めいたす山の木のはをまたぬ時雨は

くもるなよ−ゆふひのいろに−そめいたす−やまのこのはを−またぬしくれは


04874
未入力 正徹 (xxx)

さと人の秋の思ひを木木のはにかけてもうすき露の下そめ

さとひとの−あきのおもひを−ききのはに−かけてもうすき−つゆのしたそめ


04875
未入力 正徹 (xxx)

いつくそやこかね花さく山はきけとはをつくしたる林をそみる

いつくそや−こかねはなさく−やまはきけと−はをつくしたる−はやしをそみる


04876
未入力 正徹 (xxx)

夜半にせし野分うらむる村雨に朝かせかこつ庭の松むし

よはにせし−のわきうらむる−むらさめに−あさかせかこつ−にはのまつむし


04877
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たかつくる玉章ならぬ荻のはに野分の風のかへしをそみる

たかつくる−たまつさならぬ−をきのはに−のわきのかせの−かへしをそみる


04878
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風あらき庭の千草はみな臥して木のはにましるひはたふき板

かせあらき−にはのちくさは−みなふして−このはにましる−ひはたふきいた


04879
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秋の草分くるはてなきむさし野は霜にあへるや限なるらん

あきのくさ−わくるはてなき−むさしのは−しもにあへるや−かきりなるらむ


04880
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朝霜わたちそみゆるを車や長きよと野に行きかへるらん

あさしもに−わたちそみゆる−をくるまや−なかきよとのに−ゆきかへるらむ


04881
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長月の霜に跡なき草の原花ほいかにと誰にとほまし

なかつきの−しもにあとなき−くさのはら−はなほいかにと−たれにとはまし


04882
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思ふこと有明の月も老髪の千すちに霜をそふる秋かな

おもふこと−ありあけのつきも−おいかみの−ちすちにしもを−そふるあきかな


04883
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行末も湊を秋のとまりとや稲葉をさらぬを田の秋風

ゆくすゑも−みなとをあきの−とまりとや−いなはをさらぬ−をたのあきかせ


04884
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木の葉ふく音そなかるる白川に河なき山の関の秋かせ

このはふく−おとそなかるる−しらかはに−かはなきやまの−せきのあきかせ


04885
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時しあれは夜を長月の夢よりもうつつはかなく暮るる秋かな

ときしあれは−よをなかつきの−ゆめよりも−うつつはかなく−くるるあきかな


04886
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秋はけふ野山の露の下染をしくるる冬にまかせてや行く

あきはけふ−のやまのつゆの−したそめを−しくるるふゆに−まかせてやゆく


04887
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をた巻を何につけてかしたひゆかむかへる所もしらぬ秋かな

をたまきを−なににつけてか−したひゆかむ−かへるところも−しらぬあきかな


04888
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長き夜にのこされてこそのこるらめ月におくるる秋もうらめし

なかきよに−のこされてこそ−のこるらめ−つきにおくるる−あきもうらめし


04889
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うきはたたもとの身にして長月の秋をおくると思ひけるかな

うきはたた−もとのみにして−なかつきの−あきをおくると−おもひけるかな


04890
未入力 正徹 (xxx)

秋ゆかは跡をあれねと草も木もなと木枯の吹きはらふらん

あきゆかは−あとをあれねと−くさもきも−なとこからしの−ふきはらふらむ


04891
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秋そ猶行へしられぬとふ鳥の跡は夕の雲ものこれり

あきそなほ−ゆくへしられぬ−とふとりの−あとはゆふへの−くもものこれり


04892
未入力 正徹 (xxx)

つねよりも秋は長居の浜つつらをりはへ浪にかへる程なさ

つねよりも−あきはなかゐの−はまつつら−をりはへなみに−かへるほとなさ


04893
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秋やけふかへりあるしもしらさらん早くひま行く駒にまかせて

あきやけふ−かへりあるしも−しらさらむ−はやくひまゆく−こまにまかせて


04894
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長月の末のの雲の初時雨まちかき冬にあはて消えめや

なかつきの−すゑののくもの−はつしくれ−まちかきふゆに−あはてきえめや


04895
未入力 正徹 (xxx)

露霜をきえぬうき身にのこしおきて老の坂こえ秋や行くらん

つゆしもを−きえぬうきみに−のこしおきて−おいのさかこえ−あきやゆくらむ


04896
未入力 正徹 (xxx)

くみとむる秋ともかなや長月の日数なかるる菊のした水

くみとむる−あきともかなや−なかつきの−ひかすなかるる−きくのしたみつ


04897
未入力 正徹 (xxx)

暮るるまて秋にはうとき花そののこてう恋しき宿の白菊

くるるまて−あきにはうとき−はなそのの−こてうこひしき−やとのしらきく


04898
未入力 正徹 (xxx)

けふそわか袖まて匂ふ長月の末つむ菊の宿のかさしに

けふそわか−そてまてにほふ−なかつきの−すゑつむきくの−やとのかさしに


04899
未入力 正徹 (xxx)

秋やこれ紅葉の上のむら時雨そめてつくさてかへるうき雲

あきやこれ−もみちのうへの−むらしくれ−そめてつくさて−かへるうきくも


04900
未入力 正徹 (xxx)

行く秋のかたみあたなる横雲のきえはともにと残る月かけ

ゆくあきの−かたみあたなる−よこくもの−きえはともにと−のこるつきかけ


04901
未入力 正徹 (xxx)

わかれ行く秋のぬきおく露霜のかたみならねとうつ衣かな

わかれゆく−あきのぬきおく−つゆしもの−かたみならねと−うつころもかな


04902
未入力 正徹 (xxx)

今はとてかへる朝か秋のきる衣川なみきりにしをれて

いまはとて−かへるあしたか−あきのきる−ころもかはなみ−きりにしをれて


04903
未入力 正徹 (xxx)

涼しくも空に過きこし秋風を風やはけしく又おくるらん

すすしくも−そらにすきこし−あきかせを−かせやはけしく−またおくるらむ


04904
未入力 正徹 (xxx)

空もいま秋と冬とのあひのかせくるかしたふか雲そ時雨るる

そらもいま−あきとふゆとの−あひのかせ−くるかしたふか−くもそしくるる


04905
未入力 正徹 (xxx)

尋ねくる時雨も秋にあはすとや木の葉うらみて雲かへるらん

たつねくる−しくれもあきに−あはすとや−このはうらみて−くもかへるらむ


04906
未入力 正徹 (xxx)

秋はいぬ猶色のこせ雲となり雨と時雨れし行へたにうし

あきはいぬ−なほいろのこせ−くもとなり−あめとしくれし−ゆくへたにうし


04907
未入力 正徹 (xxx)

ひまもなき袖の時雨と嶺の雲あらそひかねてかへる秋かな

ひまもなき−そてのしくれと−みねのくも−あらそひかねて−かへるあきかな


04908
未入力 正徹 (xxx)

消えやらておくるる秋のかたみともせめては露の身をやたのまん

きえやらて−おくるるあきの−かたみとも−せめてはつゆの−みをやたのまむ


04909
未入力 正徹 (xxx)

暮れぬとて野にも山にも行く秋にのこりて露のあすやこほらん

くれぬとて−のにもやまにも−ゆくあきに−のこりてつゆの−あすやこほらむ


04910
未入力 正徹 (xxx)

夕露を苔のたもとに置きとめてたえし物とや秋の行くらん

ゆふつゆを−こけのたもとに−おきとめて−たえしものとや−あきのゆくらむ


04911
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく草のやとりに我を置きて袂の露ときゆる秋かな

あらしふく−くさのやとりに−われをおきて−たもとのつゆと−きゆるあきかな


04912
未入力 正徹 (xxx)

暮れやすき秋の日影のいくたひかしくるる雲の衣ほすらん

くれやすき−あきのひかけの−いくたひか−しくるるくもの−ころもほすらむ


04913
未入力 正徹 (xxx)

行く秋もわかれの涙おさへかねもらすか雲の袖にしくるる

ゆくあきも−わかれのなみた−おさへかね−もらすかくもの−そてにしくるる


04914
未入力 正徹 (xxx)

室山にのこる日影もたかつきの村雲なから時雨れてそ行く

むろやまに−のこるひかけも−たかつきの−むらくもなから−しくれてそゆく


04915
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いくとせか草はひかかる霜の松かれなてかへる秋をうらみん

いくとせか−くさはひかかる−しものまつ−かれなてかへる−あきをうらみむ


04916
未入力 正徹 (xxx)

暮れて行く秋のかたみをかささきのわたせるはしにかかる霜かな

くれてゆく−あきのかたみを−かささきの−わたせるはしに−かかるしもかな


04917
未入力 正徹 (xxx)

いたたくは秋くる風に先置きて草葉そ末の長月の霜

いたたくは−あきくるかせに−まつおきて−くさはそすゑの−なかつきのしも


04918
未入力 正徹 (xxx)

すてしよりわかもとゆひはなけれとも暮行く秋の結ふ霜かな

すてしより−わかもとゆひは−なけれとも−くれゆくあきの−むすふしもかな


04919
未入力 正徹 (xxx)

長月やたかくろかみに初霜の秋のかたみを置きわするらん

なかつきや−たかくろかみに−はつしもの−あきのかたみを−おきわするらむ


04920
未入力 正徹 (xxx)

夕霜に声なつくしそ鈴虫もふりすてかたく思ふ秋かは

ゆふしもに−こゑなつくしそ−すすむしも−ふりすてかたく−おもふあきかは


04921
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したふとや翅はやめて行く秋のみねの入日にくもる雁かね

したふとや−つはさはやめて−ゆくあきの−みねのいりひに−くもるかりかね


04922
未入力 正徹 (xxx)

おきて行く秋のかたみをうしとたに岩もとこすけ長月の霜

おきてゆく−あきのかたみを−うしとたに−いはもとこすけ−なかつきのしも


04923
未入力 正徹 (xxx)

宇治川やかけとめられて水車行きめくる秋をはてやうらやむ

うちかはや−かけとめられて−みつくるま−ゆきめくるあきを−はてやうらやむ


04924
未入力 正徹 (xxx)

夕くれも猶たのみあり秋はまた冬にうつらぬさ夜の明ほの

ゆふくれも−なほたのみあり−あきはまた−ふゆにうつらぬ−さよのあけほの


04925
未入力 正徹 (xxx)

はやき瀬の世をうき草と秋そ行く水もさそはぬ年の日数を

はやきせの−よをうきくさと−あきそゆく−みつもさそはぬ−としのひかすを


04926
未入力 正徹 (xxx)

めくり行く床の涙のうたかたに秋さへ冬にあはて消えめや

めくりゆく−とこのなみたの−うたかたに−あきさへふゆに−あはてきえめや


04927
未入力 正徹 (xxx)

あすや又秋をおくりて行く雲の冬のしくれとふりてかへらむ

あすやまた−あきをおくりて−ゆくくもの−ふゆのしくれと−ふりてかへらむ


04928
未入力 正徹 (xxx)

つれなくて今年も冬の隣まて老行く秋のやとりとりぬる

つれなくて−ことしもふゆの−となりまて−おいゆくあきの−やとりとりぬる


04929
未入力 正徹 (xxx)

きゆるをそ今年もみつる玉のをの我か長月の末の朝露

きゆるをそ−ことしもみつる−たまのをの−わかなかつきの−すゑのあさつゆ


04930
未入力 正徹 (xxx)

うら風やたれも待恋ひて浜松になれにし三の秋は行くらん

うらかせや−たれもまちこひて−はままつに−なれにしみつの−あきはゆくらむ


04931
未入力 正徹 (xxx)

色かはる木の葉は風そ身のうさをさそひてかへれ長月の秋

いろかはる−このははかせそ−みのうさを−さそひてかへれ−なかつきのあき


04932
未入力 正徹 (xxx)

しくるとも空に往来の関はなしぬれてさはらぬ秋や過くらん

しくるとも−そらにゆききの−せきはなし−ぬれてさはらぬ−あきやすくらむ


04933
未入力 正徹 (xxx)

嵐吹く夕のかねも行く秋をしたふかたにや声なひくらん

あらしふく−ゆふへのかねも−ゆくあきを−したふかたにや−こゑなひくらむ


04934
未入力 正徹 (xxx)

よしさらは声のおよはん所まて行く秋したへ入会のかね

よしさらは−こゑのおよはむ−ところまて−ゆくあきしたへ−いりあひのかね


04935
未入力 正徹 (xxx)

山風も秋のなこりもなるかねのいろなる声に行く木の葉かな

やまかせも−あきのなこりも−なるかねの−いろなるこゑに−ゆくこのはかな


04936
未入力 正徹 (xxx)

人そねぬ今夜もりきてはつ時雨秋のわかれをとふのすかこも

ひとそねぬ−こよひもりきて−はつしくれ−あきのわかれを−とふのすかこも



草根集 冬

04937
未入力 正徹 (xxx)

わきてなほ出雲八重垣けふしこそ神にしたかふ冬もきぬらめ

わきてなほ−いつもやへかき−けふしこそ−かみにしたかふ−ふゆもきぬらめ


04938
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神無月あさの衣をかさねても今日こそやかて冬もりぬれ

かみなつき−あさのころもを−かさねても−けふこそやかて−ふゆこもりぬれ


04939
未入力 正徹 (xxx)

庭草に秋より置きし宿の霜人めかれそふ冬は来にけり

にはくさに−あきよりおきし−やとのしも−ひとめかれそふ−ふゆはきにけり


04940
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たちかふる今朝の衣をかさねてや冬のかまへも身に知らるらん

たちかふる−けさのころもを−かさねてや−ふゆのかまへも−みにしらるらむ


04941
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程もなく冬たつ空と思ふにも先なけかるる年の暮かな

ほともなく−ふゆたつそらと−おもふにも−まつなけかるる−としのくれかな


04942
未入力 正徹 (xxx)

今日よりは冬たつ空とおもふにも暮れやすき日の惜しき老かな

けふよりは−ふゆたつそらと−おもふにも−くれやすきひの−をしきおいかな


04943
未入力 正徹 (xxx)

心せす入りくる冬の朝戸かせはけしや衣たちあへぬまに

こころせす−いりくるふゆの−あさとかせ−はけしやころも−たちあへぬまに


04944
未入力 正徹 (xxx)

さむく吹く冬の嵐はわかねともけふ身にあつくたつ衣かな

さむくふく−ふゆのあらしは−わかねとも−けふみにあつく−たつころもかな


04945
未入力 正徹 (xxx)

行く年の程あらしとやかくはかり暮れやすき日に冬のきぬらん

ゆくとしの−ほとあらしとや−かくはかり−くれやすきひに−ふゆのきぬらむ


04946
未入力 正徹 (xxx)

神な月冬の春日のうすくもりまなく時雨れてかすむ空かな

かみなつき−ふゆのはるひの−うすくもり−まなくしくれて−かすむそらかな


04947
未入力 正徹 (xxx)

天つ人よもたちかへし此世には冬さむくしておもき衣を

あまつひと−よもたちかへし−このよには−ふゆさむくして−おもきころもを


04948
未入力 正徹 (xxx)

袖さむし昨日の秋のあさ衣かへぬ朝気に冬やきぬらん

そてさむし−きのふのあきの−あさころも−かへぬあさけに−ふゆやきぬらむ


04949
未入力 正徹 (xxx)

松葉しく千世のふる道けふとへは昨日の風に冬はきにけり

まつはしく−ちよのふるみち−けふとへは−きのふのかせに−ふゆはきにけり


04950
未入力 正徹 (xxx)

さくら色の袖よりもをし白菊の花の香とめてかふる衣は

さくらいろの−そてよりもをし−しらきくの−はなのかとめて−かふるころもは


04951
未入力 正徹 (xxx)

八重垣の出雲の宮も神風にしたかひきてや冬の立つらん

やへかきの−いつものみやも−かみかせに−したかひきてや−ふゆのたつらむ


04952
未入力 正徹 (xxx)

いつくをか又めくりきて初時雨ふりにし年の冬にあふらん

いつくをか−まためくりきて−はつしくれ−ふりにしとしの−ふゆにあふらむ


04953
未入力 正徹 (xxx)

しらさりきむかしいかなる契にて秋にはあはす冬のきぬらん

しらさりき−むかしいかなる−ちきりにて−あきにはあはす−ふゆのきぬらむ


04954
未入力 正徹 (xxx)

冬はきてかさなる出雲八重垣に神まちとほの四方の宮人

ふゆはきて−かさなるいつも−やへかきに−かみまちとほの−よものみやひと


04955
未入力 正徹 (xxx)

ちりちらぬ菊も紅葉も色かへすきのふの秋をしたふ冬かな

ちりちらぬ−きくももみちも−いろかへす−きのふのあきを−したふふゆかな


04956
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夏衣いまやうら見むもろ人のうすきをいとふ冬のくる夜に

なつころも−いまやうらみむ−もろひとの−うすきをいとふ−ふゆのくるよに


04957
未入力 正徹 (xxx)

たちかふる今日のころものふしのわた雪をかさねる冬は来にけり

たちかふる−けふのころもの−ふしのわた−ゆきをかさねる−ふゆはきにけり


04958
未入力 正徹 (xxx)

霜さむきみののを山の松一木まれなる色をそふる冬かな

しもさむき−みののをやまの−まつひとき−まれなるいろを−そふるふゆかな


04959
未入力 正徹 (xxx)

あらし吹く峰のまくすもうき雲きも昨日の秋にかへり送るな

あらしふく−みねのまくすも−うきくもも−きのふのあきに−かへりおくるな


04960
未入力 正徹 (xxx)

法にけふ八雲をかけて七年の夢の跡とふ冬はきにけり

のりにけふ−やくもをかけて−ななとせの−ゆめのあととふ−ふゆはきにけり


04961
未入力 正徹 (xxx)

今朝のまはしくれ木の葉の音もせす世はしつかにや冬のきぬらん

けさのまは−しくれこのはの−おともせす−よはしつかにや−ふゆのきぬらむ


04962
未入力 正徹 (xxx)

木のもとの落葉か上におとつれて昨日の秋をとふ時雨かな

このもとの−おちはかうへに−おとつれて−きのふのあきを−とふしくれかな


04963
未入力 正徹 (xxx)

秋をなほきえてもしたへ冬の日のさすや岡への松の初霜

あきをなほ−きえてもしたへ−ふゆのひの−さすやをかへの−まつのはつしも


04964
未入力 正徹 (xxx)

冬たちて今日より風そ北になる古郷しのふ駒いはふらし

ふゆたちて−けふよりかせそ−きたになる−ふるさとしのふ−こまいはふらし


04965
未入力 正徹 (xxx)

神な月今朝かせ寒きしら浪に海もわたつむ冬かとそみる

かみなつき−けさかせさむき−しらなみに−うみもわたつむ−ふゆかとそみる


04966
未入力 正徹 (xxx)

神な月又しら菊の花の香に秋の衣はかへまくもをし

かみなつき−またしらきくの−はなのかに−あきのころもは−かへまくもをし


04967
未入力 正徹 (xxx)

いつる日の昨日にかはる色はみすさゆるや冬のしるしなるらん

いつるひの−きのふにかはる−いろはみす−さゆるやふゆの−しるしなるらむ


04968
未入力 正徹 (xxx)

まもるらし今朝もろもろの神な月都もさえぬ日の御影かな

まもるらし−けさもろもろの−かみなつき−みやこもさえぬ−ひのみかけかな


04969
未入力 正徹 (xxx)

こきもとるつくしの舟にわたつ海も衣かへせよ浪のよこ雲

こきもとる−つくしのふねに−わたつうみも−ころもかへせよ−なみのよこくも


04970
未入力 正徹 (xxx)

冬やたつむかへる窓の北風に今朝そなり行く駒いはふらし

ふゆやたつ−むかへるまとの−きたかせに−けさそなりゆく−こまいはふらし


04971
未入力 正徹 (xxx)

秋と冬と行きかふみちの中川は浪を分けてや今朝こほりせん

あきとふゆと−ゆきかふみちの−なかかはは−なみをわけてや−けさこほりせむ


04972
未入力 正徹 (xxx)

晴れくもるしくれを冬とかくはかり定なき世にたれさためけん

はれくもる−しくれをふゆと−かくはかり−さためなきよに−たれさためけむ


04973
未入力 正徹 (xxx)

ひまもなく空にや冬をはこふらんけふもたひたひ時雨れきにけり

ひまもなく−そらにやふゆを−はこふらむ−けふもたひたひ−しくれきにけり


04974
未入力 正徹 (xxx)

さためなく時雨れん物と今朝は先しるこそ冬の初なりけれ

さためなく−しくれむものと−けさはまつ−しるこそふゆの−はしめなりけれ


04975
未入力 正徹 (xxx)

空さむみ世はおしなへて冬きぬと時雨につけよ四方の浮雲

そらさむみ−よはおしなへて−ふゆきぬと−しくれにつけよ−よものうきくも


04976
未入力 正徹 (xxx)

空ほまつしくれて冬の立ちくるを待つにやたへぬ曙のくも

そらはまつ−しくれてふゆの−たちくるを−まつにやたへぬ−あけほののくも


04977
未入力 正徹 (xxx)

世にふれは老いぬる袖そ待しらぬ冬たちてこそ雲も時雨るれ

よにふれは−おいぬるそてそ−ときしらぬ−ふゆたちてこそ−くももしくるれ


04978
未入力 正徹 (xxx)

神な月はつ山めくり道しらて木の葉にまよふ夕時雨かな

かみなつき−はつやまめくり−みちしらて−このはにまよふ−ゆふしくれかな


04979
未入力 正徹 (xxx)

冬そとも思ひさためぬうき雲にこほれて過くる初しくれかな

ふゆそとも−おもひさためぬ−うきくもに−こほれてすくる−はつしくれかな


04980
未入力 正徹 (xxx)

木の葉ちる松にまさりて霜そまつあらはれ初むる冬やきぬらん

このはちる−まつにまさりて−しもそまつ−あらはれそむる−ふゆやきぬらむ


04981
未入力 正徹 (xxx)

神無月もみち散りしく山の名の嵐のかすにのこる秋かな

かみなつき−もみちちりしく−やまのなの−あらしのかすに−のこるあきかな


04982
未入力 正徹 (xxx)

木の葉ふく昨日の嵐山おろしつよくなるをや冬と知るらん

このはふく−きのふのあらし−やまおろし−つよくなるをや−ふゆとしるらむ


04983
未入力 正徹 (xxx)

山松の霜に嵐も吹きこほりしくれかねたる神無月かな

やままつの−しもにあらしも−ふきこほり−しくれかねたる−かみなつきかな


04984
未入力 正徹 (xxx)

けふそとふ木の葉しくれの宿の松あらはれわたる冬の嵐に

けふそとふ−このはしくれの−やとのまつ−あらはれわたる−ふゆのあらしに


04985
未入力 正徹 (xxx)

かせの名の嵐の山は昨日より寒きや冬のはしめなるらん

かせのなの−あらしのやまは−きのふより−さむきやふゆの−はしめなるらむ


04986
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふくやとの木の葉の衣かへみねはかりにそ雲をたちきる

あらしふく−やとのこのはの−ころもかへ−みねはかりにそ−くもをたちきる


04987
未入力 正徹 (xxx)

冬きての山の風そ吹きかはる木の葉しくれは秋のままにて

ふゆきての−やまのあらしそ−ふきかはる−このはしくれは−あきのままにて


04988
未入力 正徹 (xxx)

木の葉ちる昨日の秋の山あらしまさるや冬のはしめなるらん

このはちる−きのふのあきの−やまあらし−まさるやふゆの−はしめなるらむ


04989
未入力 正徹 (xxx)

身に寒き冬の嵐となりそ行く衣たちきよ天のかく山

みにさむき−ふゆのあらしと−なりそゆく−ころもたちきよ−あまのかくやま


04990
未入力 正徹 (xxx)

のこりなく秋のはおちし山風に塵もくもらぬ宿の冬かな

のこりなく−あきのはおちし−やまかせに−ちりもくもらぬ−やとのふゆかな


04991
未入力 正徹 (xxx)

冬きては都のうちの木すゑさへみな木枯の森のこゑかな

ふゆきては−みやこのうちの−こすゑさへ−みなこからしの−もりのこゑかな


04992
未入力 正徹 (xxx)

あるはなくなきはある世のさかの山冬たちくれはちる木の葉かな

あるはなく−なきはあるよの−さかのやま−ふゆたちくれは−ちるこのはかな


04993
未入力 正徹 (xxx)

神な月夜のまの秋をしたふとやしくれぬさきに木の葉ちるらん

かみなつき−よのまのあきを−したふとや−しくれぬさきに−このはちるらむ


04994
未入力 正徹 (xxx)

神無月ぬくや木の葉の衣かへ雲なたちきそ山さむくとも

かみなつき−ぬくやこのはの−ころもかへ−くもなたちきそ−やまさむくとも


04995
未入力 正徹 (xxx)

今朝は世にしくれんとして空にたつ雲こそ冬の初なりけれ

けさはよに−しくれむとして−そらにたつ−くもこそふゆの−はしめなりけれ


04996
未入力 正徹 (xxx)

冬とてやしつくも空につもるらんしくれにこほる夕月夜かな

ふゆとてや−しつくもそらに−つもるらむ−しくれにこほる−ゆふつくよかな


04997
未入力 正徹 (xxx)

冬きてそかさねんための里ことに秋よりも猶衣うつこゑ

ふゆきてそ−かさねむための−さとことに−あきよりもなほ−ころもうつこゑ


04998
未入力 正徹 (xxx)

神な月むへ山ひめも立ちかへて衣そあつき雲の袖くち

かみなつき−うへやまひめも−たちかへて−ころもそあつき−くものそてくち


04999
未入力 正徹 (xxx)

おとは山あけは錦の袖をみむ夜の紅葉に冬はきにけり

おとはやま−あけはにしきの−そてをみむ−よるのもみちに−ふゆはきにけり


05000
未入力 正徹 (xxx)

神な月秋の錦をぬく山やしくるろ雲の衣かふらむ

かみなつき−あきのにしきを−ぬくやまや−しくるろくもの−ころもかふらむ


05001
未入力 正徹 (xxx)

秋のきていにし跡ともまたしらす夜のまの山の霜の古路

あきのきて−いにしあととも−またしらす−よのまのやまの−しものふるみち


05002
未入力 正徹 (xxx)

面影もいととほそ江に木の葉ちり秋はいなさの山そ冬立つ

おもかけも−いととほそえに−このはちり−あきはいなさの−やまそふゆたつ


05003
未入力 正徹 (xxx)

なへて世の木ことに冬は木枯の杜の名うつす風のこゑかな

なへてよの−きことにふゆは−こからしの−もりのなうつす−かせのこゑかな


05004
未入力 正徹 (xxx)

冬きての色もあらしの木の葉かすときはの里のもりの下道

ふゆきての−いろもあらしの−このはかす−ときはのさとの−もりのしたみち


05005
未入力 正徹 (xxx)

われならて人なきやとにはこひおけ冬たつ嵐雲と時雨を

われならて−ひとなきやとに−はこひおけ−ふゆたつあらし−くもとしくれを


05006
未入力 正徹 (xxx)

今は身を秋よりさきの冬こもり冬のとふともしらぬ庵かな

いまはみを−あきよりさきの−ふゆこもり−ふゆのとふとも−しらぬいほかな


05007
未入力 正徹 (xxx)

神な月雪のこの花難波津にかつちる寺も冬こもるらん

かみなつき−ゆきのこのはな−なにはつに−かつちるてらも−ふゆこもるらむ


05008
未入力 正徹 (xxx)

さらに又衣かへする冬そとやのこれる菊にわたをかさねん

さらにまた−ころもかへする−ふゆそとや−のこれるきくに−わたをかさねむ


05009
未入力 正徹 (xxx)

冬草はみなからかれて紫の一もと菊に匂ふ霜かな

ふゆくさは−みなからかれて−むらさきの−ひともときくに−にほふしもかな


05010
未入力 正徹 (xxx)

つれなくて冬さく菊の霜かつき老いたる花とみるそ友なる

つれなくて−ふゆさくきくの−しもかつき−おいたるはなと−みるそともなる


05011
未入力 正徹 (xxx)

菊のはのもみちは花にまさらねと冬のまかきを猶そあらさぬ

きくのはの−もみちははなに−まさらねと−ふゆのまかきを−なほそあらさぬ


05012
未入力 正徹 (xxx)

花もたかをしへをうけて庭の菊冬の籬に猶にほふらん

はなもたか−をしへをうけて−にはのきく−ふゆのまかきに−なほにほふらむ


05013
未入力 正徹 (xxx)

年年のならひはしらす今日は先しくるる空に冬はきにけり

としとしの−ならひはしらす−けふはまつ−しくるるそらに−ふゆはきにけり


05014
未入力 正徹 (xxx)

ふりまさる袖の涙や槙の屋にやすくは過きぬ時雨なるらん

ふりまさる−そてのなみたや−まきのやに−やすくはすきぬ−しくれなるらむ


05015
未入力 正徹 (xxx)

晴れくもる空はあれとも神な月袖のしくれそまなく時なき

はれくもる−そらはあれとも−かみなつき−そてのしくれそ−まなくときなき


05016
未入力 正徹 (xxx)

おとたえぬ松の嵐やうらむらんやすく時雨の過くる心を

おとたえぬ−まつのあらしや−うらむらむ−やすくしくれの−すくるこころを


05017
未入力 正徹 (xxx)

まつこともさためなきこそさたまれる世のならひなれ雲な時雨れそ

まつことも−さためなきこそ−さたまれる−よのならひなれ−くもなしくれそ


05018
未入力 正徹 (xxx)

さためなくしくるる空は世中の人の心や雲となりけん

さためなく−しくるるそらは−よのなかの−ひとのこころや−くもとなりけむ


05019
未入力 正徹 (xxx)

たか里の空に消ゆらん神な月しくれもて行く雲の泊は

たかさとの−そらにきゆらむ−かみなつき−しくれもてゆく−くものとまりは


05020
未入力 正徹 (xxx)

空さむみ雲もうれへて神無月しくれもはてぬ袖の色かな

そらさむみ−くももうれへて−かみなつき−しくれもはてぬ−そてのいろかな


05021
未入力 正徹 (xxx)

けふも猶とほき時雨の山めくりまちとらぬ袖に降るとしらすや

けふもなほ−とほきしくれの−やまめくり−まちとらぬそてに−ふるとしらすや


05022
未入力 正徹 (xxx)

天つ風空に里わく村雲のたたそのままにふる時雨かな

あまつかせ−そらにさとわく−むらくもの−たたそのままに−ふるしくれかな


05023
未入力 正徹 (xxx)

たえてけり紅葉むなしき冬の雨村村ふりし秋の瞑は

たえてけり−もみちむなしき−ふゆのあめ−むらむらふりし−あきのうらみは


05024
未入力 正徹 (xxx)

ならのはのふるきよのとも空に今めくりあひぬるむら時雨かな

ならのはの−ふるきよのとも−そらにいま−めくりあひぬる−むらしくれかな


05025
未入力 正徹 (xxx)

窓あけてむかふ嵐の北時雨はれゆくみれは雪の山のは

まとあけて−むかふあらしの−きたしくれ−はれゆくみれは−ゆきのやまのは


05026
未入力 正徹 (xxx)

世にふるは心の外のまよひとやうき雲かこつ時雨なるらん

よにふるは−こころのほかの−まよひとや−うきくもかこつ−しくれなるらむ


05027
未入力 正徹 (xxx)

うきてたつ雲をたよりの山風に時雨も冬をはこふ空かな

うきてたつ−くもをたよりの−やまかせに−しくれもふゆを−はこふそらかな


05028
未入力 正徹 (xxx)

雲風のいつしか北にめくるより寒く日ことにふる時雨かな

くもかせの−いつしかきたに−めくるより−さむくひことに−ふるしくれかな


05029
未入力 正徹 (xxx)

軒ちかき音さへ冬にならのはの名におふ山もさそ時雨るらん

のきちかき−おとさへふゆに−ならのはの−なにおふやまも−さそしくるらむ


05030
未入力 正徹 (xxx)

神な月しくるる山の朝日影空にもそむる雲の色かな

かみなつき−しくるるやまの−あさひかけ−そらにもそむる−くものいろかな


05031
未入力 正徹 (xxx)

いかかへん軒の糸水もみしかく暮るるしつのをたまき

いかかへむ−ххххのきの−いとみつも−みしかくくるる−しつのをたまき


05032
未入力 正徹 (xxx)

冬やくる秋をとちめし天の戸の雲をひらきて今朝しくるなり

ふゆやくる−あきをとちめし−あまのとの−くもをひらきて−けさしくるなり


05033
未入力 正徹 (xxx)

きゆるまはしくれといはん程もなし日影にそそく雲の一村

きゆるまは−しくれといはむ−ほともなし−ひかけにそそく−くものひとむら


05034
未入力 正徹 (xxx)

二かたにうきたる雲も引きわかれしくれくらふるをちこちの山

ふたかたに−うきたるくもも−ひきわかれ−しくれくらふる−をちこちのやま


05035
未入力 正徹 (xxx)

神無月ふりくる夕雲寒えて雪の時雨そ山めくりする

かみなつき−ふりくるゆふへ−くもさえて−ゆきのしくれそ−やまめくりする


05036
未入力 正徹 (xxx)

古事を思ふ夜戸出に影さえぬ時雨ふり置きしならのはの月

ふることを−おもふよとてに−かけさえぬ−しくれふりおきし−ならのはのつき


05037
未入力 正徹 (xxx)

いかか見る時雨の雨の足たゆくかれなて雲のめくる里人

いかかみる−しくれのあめの−あしたゆく−かれなてくもの−めくるさとひと


05038
未入力 正徹 (xxx)

冬きてはめにたつ雲そ山めくるしくれもなれぬ袖のよそとて

ふゆきては−めにたつくもそ−やまめくる−しくれもなれぬ−そてのよそとて


05039
未入力 正徹 (xxx)

くれにけり時雨をわたる冬の日のぬるるかほなる影もひぬまに

くれにけり−しくれをわたる−ふゆのひの−ぬるるかほなる−かけもひぬまに


05040
未入力 正徹 (xxx)

さそはれし木の葉はかせのよそにして時雨もそはぬ雲そわかるる

さそはれし−このははかせの−よそにして−しくれもそはぬ−くもそわかるる


05041
未入力 正徹 (xxx)

神な月月も老行く涙とやたえすそ雲の袖にしくるる

かみなつき−つきもおいゆく−なみたとや−たえすそくもの−そてにしくるる


05042
未入力 正徹 (xxx)

空さえてこほるとみゆる浮雲をとくや日影にふる時雨かな

そらさえて−こほるとみゆる−うきくもを−とくやひかけに−ふるしくれかな


05043
未入力 正徹 (xxx)

色そめてふりにし声をかりなから時雨もしらぬ四方の松風

いろそめて−ふりにしこゑを−かりなから−しくれもしらぬ−よものまつかせ


05044
未入力 正徹 (xxx)

暮れやすき日影も雪のひまもらてしくれにおくる神な月かな

くれやすき−ひかけもゆきの−ひまもらて−しくれにおくる−かみなつきかな


05045
未入力 正徹 (xxx)

松風の時雨はもとのあるしにて冬たつ嶺の雲に降りきぬ

まつかせの−しくれはもとの−あるしにて−ふゆたつみねの−くもにふりきぬ


05046
未入力 正徹 (xxx)

ことわりになへて草木の色かはる心もしらすふる時雨かな

ことわりに−なへてくさきの−いろかはる−こころもしらす−ふるしくれかな


05047
未入力 正徹 (xxx)

色かはる冬の草木のよそなから雲さへもろくふる時雨かな

いろかはる−ふゆのくさきの−よそなから−くもさへもろく−ふるしくれかな


05048
未入力 正徹 (xxx)

よそにふけ雲に時雨の音はにすかねてまかひし峰の松風

よそにふけ−くもにしくれの−おとはにす−かねてまかひし−みねのまつかせ


05049
未入力 正徹 (xxx)

おときけとみな袖ぬらす人もなしうき世のままの村時雨かな

おときけと−みなそてぬらす−ひともなし−うきよのままの−むらしくれかな


05050
未入力 正徹 (xxx)

行く月のしくるる空の笠やとりたのむもぬるる雲の影かな

ゆくつきの−しくるるそらの−かさやとり−たのむもぬるる−くものかけかな


05051
未入力 正徹 (xxx)

冬は又うきたる雲をまちつけて時雨れんとすれははらふ木枯

ふゆはまた−うきたるくもを−まちつけて−しくれむとすれは−はらふこからし


05052
未入力 正徹 (xxx)

木の葉にも秋をうつまぬ冬の雲たつ朝霧にふる時雨かな

このはにも−あきをうつまぬ−ふゆのくも−たつあさきりに−ふるしくれかな


05053
未入力 正徹 (xxx)

いかに又野山のゆふへ人も袖ぬらさすきかの時雨ふるらん

いかにまた−のやまのゆふへ−ひともそて−ぬらさすきかの−しくれふるらむ


05054
未入力 正徹 (xxx)

さそふ風雲に木の葉を吹きませて山は時雨にあれぬ日もなし

さそふかせ−くもにこのはを−ふきませて−やまはしくれに−あれぬひもなし


05055
未入力 正徹 (xxx)

むら時雨雨も心のままならすうき世の空にふりみふらすみ

むらしくれ−あめもこころの−ままならす−うきよのそらに−ふりみふらすみ


05056
未入力 正徹 (xxx)

さゆる日の草にも木にも初時雨つもらはなにの色かうつまん

さゆるひの−くさにもきにも−はつしくれ−つもらはなにの−いろかうつまむ


05057
未入力 正徹 (xxx)

神な月けふの物とは見るらめと秋もふりにし初時雨かな

かみなつき−けふのものとは−みるらめと−あきもふりにし−はつしくれかな


05058
未入力 正徹 (xxx)

いつる日もしくるる雲の足ほ山高ねはすきよ冬の影みん

いつるひも−しくるるくもの−あしほやま−たかねはすきよ−ふゆのかけみむ


05059
未入力 正徹 (xxx)

聞くらめやしくるる冬のおとつれもかさなる山のしたの里人

きくらめや−しくるるふゆの−おとつれも−かさなるやまの−したのさとひと


05060
未入力 正徹 (xxx)

冬きぬとしらぬ里人ありなしもわかすこゑする初時雨かな

ふゆきぬと−しらぬさとひと−ありなしも−わかすこゑする−はつしくれかな


05061
未入力 正徹 (xxx)

いつとなくはれぬ雲のみおりゐるや時雨によらぬ高ねなるらん

いつとなく−はれぬくものみ−おりゐるや−しくれによらぬ−たかねなるらむ


05062
未入力 正徹 (xxx)

神な月しくるるころは晴れくもる雲も心をおかぬ日もなし

かみなつき−しくるるころは−はれくもる−くももこころを−おかぬひもなし


05063
未入力 正徹 (xxx)

ふりはてすしくるる雲をうき身にて猶この冬も世にやめくらん

ふりはてす−しくるるくもを−うきみにて−なほこのふゆも−よにやめくらむ


05064
未入力 正徹 (xxx)

風はやみはれて一村ゆく雲のしくれきゆるを日影にそみる

かせはやみ−はれてひとむら−ゆくくもの−しくれきゆるを−ひかけにそみる


05065
未入力 正徹 (xxx)

そひはてぬうき世もしらす秋過きて時雨をしたふ冬の雲かな

そひはてぬ−うきよもしらす−あきすきて−しくれをしたふ−ふゆのくもかな


05066
未入力 正徹 (xxx)

山のはの雲に時雨をさきたてて朝日まつまの冬はきにけり

やまのはの−くもにしくれを−さきたてて−あさひまつまの−ふゆはきにけり


05067
未入力 正徹 (xxx)

紅葉せし今朝の梢の日影たに色そめやすき村時雨かな

もみちせし−けさのこすゑの−ひかけたに−いろそめやすき−むらしくれかな


05068
未入力 正徹 (xxx)

のこる日を尾上にかけて山もとの夕かけ草にふる時雨かな

のこるひを−をのへにかけて−やまもとの−ゆふかけくさに−ふるしくれかな


05069
未入力 正徹 (xxx)

身のうさになかむる空の夕時雨袖より雲や立ちはしめけん

みのうさに−なかむるそらの−ゆふしくれ−そてよりくもや−たちはしめけむ


05070
未入力 正徹 (xxx)

色なりし木の葉ちりぬとうす墨に夕を染めてふる時雨かな

いろなりし−このはちりぬと−うすすみに−ゆふへをそめて−ふるしくれかな


05071
未入力 正徹 (xxx)

夕付日影を冬にやうつむらんしくるる雲も秋にかはらて

ゆふつくひ−かけをふゆにや−うつむらむ−しくるるくもも−あきにかはらて


05072
未入力 正徹 (xxx)

ふり初めし雲や千里に過きぬらん長き夜明くる村時雨かな

ふりそめし−くもやちさとに−すきぬらむ−なかきよあくる−むらしくれかな


05073
未入力 正徹 (xxx)

さゆる夜の時雨そ秋にかへりぬる木の葉たえにし夢の通路

さゆるよの−しくれそあきに−かへりぬる−このはたえにし−ゆめのかよひち


05074
未入力 正徹 (xxx)

ふるとたにしられね程に過行くや時雨も夜のこゑ忍ふらん

ふるとたに−しられねほとに−すきゆくや−しくれもよるの−こゑしのふらむ


05075
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれし夜はも忘れぬ槙の戸に又おとつるるむら時雨かな

そてぬれし−よはもわすれぬ−まきのとに−またおとつるる−むらしくれかな


05076
未入力 正徹 (xxx)

ね屋の上によるの衣をかへす雲夢やは見えん時雨もる月

ねやのうへに−よるのころもを−かへすくも−ゆめやはみえむ−しくれもるつき


05077
未入力 正徹 (xxx)

まくらよりしくれいててや里ことの人のね覚の袖ぬらすらん↓

まくらより−しくれいててや−さとことの−ひとのねさめの−そてぬらすらむ


05078
未入力 正徹 (xxx)

影くもる有明の月につれなきや時雨にのこる峰の横雲

かけくもる−ありあけのつきに−つれなきや−しくれにのこる−みねのよこくも


05079
未入力 正徹 (xxx)

はれくもる雲にみ山の月なくは時雨やはてんせせの川なみ

はれくもる−くもにみやまの−つきなくは−しくれやはてむ−せせのかはなみ


05080
未入力 正徹 (xxx)

さためなく時雨にまよふ浮雲を送迎へて山風そふく

さためなく−しくれにまよふ−うきくもを−おくりむかへて−やまかせそふく


05081
未入力 正徹 (xxx)

契かはうきたる雲もわきもこか二上山のひまそしくるる

ちきりかは−うきたるくもも−わきもこか−ふたかみやまの−ひまそしくるる


05082
未入力 正徹 (xxx)

嶺たかき山となるへき塵をたに見ぬ世も雲やかけて時雨れし

みねたかき−やまとなるへき−ちりをたに−みぬよもくもや−かけてしくれし


05083
未入力 正徹 (xxx)

千世の色を冬たつ雲に契りきて時雨なれたる峰の松風

ちよのいろを−ふゆたつくもに−ちきりきて−しくれなれたる−みねのまつかせ


05084
未入力 正徹 (xxx)

さしも草もゆるひまなきうき雲のいふきの山はふる時雨かな

さしもくさ−もゆるひまなき−うきくもの−いふきのやまは−ふるしくれかな


05085
未入力 正徹 (xxx)

神な月しくるる山の雲ともに日影もはやくめくる空かな

かみなつき−しくるるやまの−くもともに−ひかけもはやく−めくるそらかな


05086
未入力 正徹 (xxx)

跡の雲おくりし岡の松風をやかておひきて降る時雨かな

あとのくも−おくりしをかの−まつかせを−やかておひきて−ふるしくれかな


05087
未入力 正徹 (xxx)

ちらぬ枝を折りさす庭のもみち葉に時雨れて秋ののこる冬かな

ちらぬえを−をりさすにはの−もみちはに−しくれてあきの−のこるふゆかな


05088
未入力 正徹 (xxx)

しらす又色そめしとは思ひても松に時雨や年をふるらん

しらすまた−いろそめしとは−おもひても−まつにしくれや−としをふるらむ


05089
未入力 正徹 (xxx)

つつみあへぬたか衣ての杜のはのしくれとともに時雨行くらん

つつみあへぬ−たかころもての−もりのはの−しくれとともに−しくれゆくらむ


05090
未入力 正徹 (xxx)

かりはてしいなはの雲は冬たえて田中の杜にふる時雨かな

かりはてし−いなはのくもは−ふゆたえて−たなかのもりに−ふるしくれかな


05091
未入力 正徹 (xxx)

高根より雲をふもとにさそひきて時雨によわる木枯の末

たかねより−くもをふもとに−さそひきて−しくれによわる−こからしのすゑ


05092
未入力 正徹 (xxx)

山路ゆく月も時雨にぬれわひてたちよる松のかけ頼むこゑ

やまちゆく−つきもしくれに−ぬれわひて−たちよるまつの−かけたのむこゑ


05093
未入力 正徹 (xxx)

なかき夜の嵐も雲を槙の屋にいくめくりふる時雨なるらん

なかきよの−あらしもくもを−まきのやに−いくめくりふる−しくれなるらむ


05094
未入力 正徹 (xxx)

雲間よりふもとになひく夕日かもいさ山鳥の尾やしくるらん

くもまより−ふもとになひく−ゆふひかも−いさやまとりの−をやしくるらむ


05095
未入力 正徹 (xxx)

雲そ見ぬまた山ふかく霧こめて時雨は庭に杉の下露

くもそみぬ−またやまふかく−きりこめて−しくれはにはに−すきのしたつゆ


05096
未入力 正徹 (xxx)

夕日影かへしもあへす跡もなし時雨きえつる雲の一むら

ゆふひかけ−かへしもあへす−あともなし−しくれきえつる−くものひとむら


05097
未入力 正徹 (xxx)

けふもなほたかねをはらふ木枯にしくれわひてや雲帰るらん

けふもなほ−たかねをはらふ−こからしに−しくれわひてや−くもかへるらむ


05098
未入力 正徹 (xxx)

村時雨過きけん空もしら鳥の嶺うす色に雲そ成行く

むらしくれ−すきけむそらも−しらとりの−みねうすいろに−くもそなりゆく


05099
未入力 正徹 (xxx)

足はやく過きにけるかな時雨れつる雲のひま行く駒もうつらて

あしはやく−すきにけるかな−しくれつる−くものひまゆく−こまもうつらて


05100
未入力 正徹 (xxx)

ぬれさりき隣ありきのひち笠もさしあへぬまにはるる時雨は

ぬれさりき−となりありきの−ひちかさも−さしあへぬまに−はるるしくれは


05101
未入力 正徹 (xxx)

晴れゆけはしくれし道の笠やとりたか宿しらぬ名残たになし

はれゆけは−しくれしみちの−かさやとり−たかやとしらぬ−なこりたになし


05102
未入力 正徹 (xxx)

雲消ゆる空はみとりの色なからなほしら玉のふる時雨かな

くもきゆる−そらはみとりの−いろなから−なほしらたまの−ふるしくれかな


05103
未入力 正徹 (xxx)

山はみなはるる浮雲めくりきてたもとにとまる夕しくれかな

やまはみな−はるるうきくも−めくりきて−たもとにとまる−ゆふしくれかな


05104
未入力 正徹 (xxx)

足はやみまたかた空ほ雲のこる時雨をしたふ有明の月

あしはやみ−またかたそらは−くものこる−しくれをしたふ−ありあけのつき


05105
未入力 正徹 (xxx)

めくる日はしくるる雲のうちなから遠き高ねに影そかかれる

めくるひは−しくるるくもの−うちなから−とほきたかねに−かけそかかれる


05106
未入力 正徹 (xxx)

雪の上にしくるる雲の村消や日影もとかぬしつくなるらん

ゆきのうへに−しくるるくもの−むらきえや−ひかけもとかぬ−しつくなるらむ


05107
未入力 正徹 (xxx)

うきて行く雲を冬たつ使にて里をはかれすとふ時雨かな

うきてゆく−くもをふゆたつ−つかひにて−さとをはかれす−とふしくれかな


05108
未入力 正徹 (xxx)

今夜われ古郷人にならのはのおち葉かね屋に時雨をそ聞く

こよひわれ−ふるさとひとに−ならのはの−おちはかねやに−しくれをそきく


05109
未入力 正徹 (xxx)

時雨には思ひそ出てぬしら露にあらそひ置きし函閨の扇を

しくれには−おもひそいてぬ−しらつゆに−あらそひおきし−ねやのあふきを


05110
未入力 正徹 (xxx)

枕かの木からし吹きて窓うつやわたらぬ浪のしくれなるらん

まくらかの−こからしふきて−まとうつや−わたらぬなみの−しくれなるらむ


05111
未入力 正徹 (xxx)

あらむ世のすゑまて晴れよさ夜時雨ふりにし人のかへる夢路は

あらむよの−すゑまてはれよ−さよしくれ−ふりにしひとの−かへるゆめちは


05112
未入力 正徹 (xxx)

さ夜時雨おとは霰にかはるともほさしたもとのさゆるね覚を

さよしくれ−おとはあられに−かはるとも−ほさしたもとの−さゆるねさめを


05113
未入力 正徹 (xxx)

山川やあさせになひくなかれもに雲さへうきてふる時臣かな

やまかはや−あさせになひく−なかれもに−くもさへうきて−ふるしくれかな


05114
未入力 正徹 (xxx)

時雨れくるいまそ思ひもあさ川の水の煙のたちよわるまて

しくれくる−いまそおもひも−あさかはの−みつのけふりの−たちよわるまて


05115
未入力 正徹 (xxx)

笠置山さしもくもらていつみ川こまのわたりはふる時雨かな

かさきやま−さしもくもらて−いつみかは−こまのわたりは−ふるしくれかな


05116
未入力 正徹 (xxx)

しくれをはあまのを舟にさきたててくもりおくるるせとの塩風

しくれをは−あまのをふねに−さきたてて−くもりおくるる−せとのしほかせ


05117
未入力 正徹 (xxx)

日数うき山路をいてはあふ人の時雨にぬれぬ袖かとやみん

ひかすうき−やまちをいては−あふひとの−しくれにぬれぬ−そてかとやみむ


05118
未入力 正徹 (xxx)

古郷をいてし旅ねの村時雨ぬれぬそもとの袖の月影

ふるさとを−いてしたひねの−むらしくれ−ぬれぬそもとの−そてのつきかけ


05119
未入力 正徹 (xxx)

冬はなほ人めも草もかりの世を思ふ太山にとふしくれかな

ふゆはなほ−ひとめもくさも−かりのよを−おもふみやまに−とふしくれかな


05120
未入力 正徹 (xxx)

秋過きし野守のかかみ氷ゐて面かけかはる霜の下草

あきすきし−のもりのかかみ−こほりゐて−おもかけかはる−しものしたくさ


05121
未入力 正徹 (xxx)

かれはつる野への尾花の袖の霜すゑはの露もこほる冬かな

かれはつる−のへのをはなの−そてのしも−すゑはのつゆも−こほるふゆかな


05122
未入力 正徹 (xxx)

風わたるそかの川原の冬かれにのこるますけも露こほりつつ

かせわたる−そかのかはらの−ふゆかれに−のこるますけも−つゆこほりつつ


05123
未入力 正徹 (xxx)

人はこてかれのの薄霜さむみ今朝たにまねく冬そつれなき

ひとはこて−かれののすすき−しもさむみ−けさたにまねく−ふゆそつれなき


05124
未入力 正徹 (xxx)

ときは木の梢に霜をふせかせてまた色かへぬ冬の下草

ときはきの−こすゑにしもを−ふせかせて−またいろかへぬ−ふゆのしたくさ


05125
未入力 正徹 (xxx)

霜かるる庭の荻のはかつ落ちておとそよかさぬ風となり行く

しもかるる−にはのをきのは−かつおちて−おとそよかさぬ−かせとなりゆく


05126
未入力 正徹 (xxx)

葛かつら朽行く霜のまくりても寒き朝けの峰の木からし

くすかつら−くちゆくしもの−まくりても−さむきあさけの−みねのこからし


05127
未入力 正徹 (xxx)

浅茅原日かけそ霜の花さそふ冬はうらみもなき嵐かな

あさちはら−ひかけそしもの−はなさそふ−ふゆはうらみも−なきあらしかな


05128
未入力 正徹 (xxx)

ぬしやたれ草のたもとをつらねしもかれ行くかたは知らぬ野へかな

ぬしやたれ−くさのたもとを−つらねしも−かれゆくかたは−しらぬのへかな


05129
未入力 正徹 (xxx)

世のうさを思ふ心もかれせぬや冬の草葉の霜の下もえ

よのうさを−おもふこころも−かれせぬや−ふゆのくさはの−しものしたもえ


05130
未入力 正徹 (xxx)

虫のこゑ草の花のの秋の夢たえしこてふのまよふ雪かな

むしのこゑ−くさのはなのの−あきのゆめ−たえしこてふの−まよふゆきかな


05131
未入力 正徹 (xxx)

たかからぬこゑもすさまし草の原霜のかれ葉に落つる山風

たかからぬ−こゑもすさまし−くさのはら−しものかれはに−おつるやまかせ


05132
未入力 正徹 (xxx)

冬草に春のこてふの夢かれて雪そかつしく霜の花園

ふゆくさに−はるのこてふの−ゆめかれて−ゆきそかつしく−しものはなその


05133
未入力 正徹 (xxx)

霜置かぬ露よりちりし玉かつらはふ木あらはにかるる冬かな

しもおかぬ−つゆよりちりし−たまかつら−はふきあらはに−かるるふゆかな


05134
未入力 正徹 (xxx)

花みんとうゑけん人も冬の草かれていく世のふる郷の霜

はなみむと−うゑけむひとも−ふゆのくさ−かれていくよの−ふるさとのしも


05135
未入力 正徹 (xxx)

あはれにも霜の原ののあさちふにやふれてかかるささかにの糸

あはれにも−しものはらのの−あさちふに−やふれてかかる−ささかにのいと


05136
未入力 正徹 (xxx)

すすみすと草を冬野は又そみし跡なき霜の杜の下陰

すすみすと−くさをふゆのは−またそみし−あとなきしもの−もりのしたかけ


05137
未入力 正徹 (xxx)

垣ほあれてたかくろ髪の末かれし霜のおとろそうちの山里

かきほあれて−たかくろかみの−すゑかれし−しものおとろそ−うちのやまさと


05138
未入力 正徹 (xxx)

見てそしるもらぬ岩屋の奥の草霜はからさぬ冬の限を

みてそしる−もらぬいはやの−おくのくさ−しもはからさぬ−ふゆのかきりを


05139
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草の原そこと見えてもなにかせん霜かれし秋の後の形見は

くさのはら−そことみえても−なにかせむ−しもかれしあきの−のちのかたみは


05140
未入力 正徹 (xxx)

秋過きし尾花か袖の初霜にくち行く色をとふあらしかな

あきすきし−をはなかそての−はつしもに−くちゆくいろを−とふあらしかな


05141
未入力 正徹 (xxx)

草かるる冬野の霜の花そのに今もこてふのあそふ雪かな

くさかるる−ふゆののしもの−はなそのに−いまもこてふの−あそふゆきかな


05142
未入力 正徹 (xxx)

くるす野やま草かるをの人めさへいととかれねと結ふ霜かな

くるすのや−まくさかるをの−ひとめさへ−いととかれねと−むすふしもかな


05143
未入力 正徹 (xxx)

憑みこし鹿の花つまおとろへて霜そしからむ冬の萩原

たのみこし−しかのはなつま−おとろへて−しもそしからむ−ふゆのはきはら


05144
未入力 正徹 (xxx)

中半こし霜いかなれは冬草の花となりてもはをからすらん

なかはこし−しもいかなれは−ふゆくさの−はなとなりても−はをからすらむ


05145
未入力 正徹 (xxx)

あかす見る人そすくなき霜消えてぬれたる野への冬草のいろ

あかすみる−ひとそすくなき−しもきえて−ぬれたるのへの−ふゆくさのいろ


05146
未入力 正徹 (xxx)

若草の春の霜とやいたむらんかれしくち葉の冬の下もえ

わかくさの−はるのしもとや−いたむらむ−かれしくちはの−ふゆのしたもえ


05147
未入力 正徹 (xxx)

たちかへりとへよ八十の冬の霜うつろふ草のかれはてぬまに

たちかへり−とへよやそちの−ふゆのしも−うつろふくさの−かれはてぬまに


05148
未入力 正徹 (xxx)

おく霜の後は秋みし草の原夢かとたにも誰にとはまし

おくしもの−のちはあきみし−くさのはら−ゆめかとたにも−たれにとはまし


05149
未入力 正徹 (xxx)

草の原かれ行く物となり初めしゆゑこそしらねふるきよの霜

くさのはら−かれゆくものと−なりそめし−ゆゑこそしらね−ふるきよのしも


05150
未入力 正徹 (xxx)

古郷のあさちか露のこほれるに霜そつらきの原の下草

ふるさとの−あさちかつゆの−こほれるに−しもそつらきの−はらのしたくさ


05151
未入力 正徹 (xxx)

紫の一花すすきまねきたえ手にまく露もこほる冬かな

むらさきの−ひとはなすすき−まねきたえ−てにまくつゆも−こほるふゆかな


05152
未入力 正徹 (xxx)

つれなくて春のみとりや松の陰草のはつかにのこる冬かな

つれなくて−はるのみとりや−まつのかけ−くさのはつかに−のこるふゆかな


05153
未入力 正徹 (xxx)

枯れゆくを見しも跡なき夢の野に枕かりふの霜の下草

かれゆくを−みしもあとなき−ゆめののに−まくらかりふの−しものしたくさ


05154
未入力 正徹 (xxx)

一もとの薄のかれほ霜折れて草なき野へとなれる冬かな

ひともとの−すすきのかれほ−しもをれて−くさなきのへと−なれるふゆかな


05155
未入力 正徹 (xxx)

程ひろき庭のま砂の霜の上に一本薄秋やこふらん

ほとひろき−にはのまさこの−しものうへに−ひともとすすき−あきやこふらむ


05156
未入力 正徹 (xxx)

山と見し庭のよもきか杣人のたよりもたえてかるる冬かな

やまとみし−にはのよもきか−そまひとの−たよりもたえて−かるるふゆかな


05157
未入力 正徹 (xxx)

年ふかき庭のよもきかかみすちのおつるも白き霜の下風

としふかき−にはのよもきか−かみすちの−おつるもしろき−しものしたかせ


05158
未入力 正徹 (xxx)

霜さゆるかやか捨てはの下みたれあらし嵐の冬のやとりは

しもさゆる−かやかすてはの−したみたれ−あらしあらしの−ふゆのやとりは


05159
未入力 正徹 (xxx)

秋の露と消えし身ならはいかかせん霜置く草のかけの嵐を

あきのつゆと−きえしみならは−いかかせむ−しもおくくさの−かけのあらしを


05160
未入力 正徹 (xxx)

草はみなかれふの草にくちはてて冬のみひろき原の池水

くさはみな−かれふのくさに−くちはてて−ふゆのみひろき−はらのいけみつ


05161
未入力 正徹 (xxx)

秋みしはかれて霜おく草か江に花のかかみをかくるささなみ

あきみしは−かれてしもおく−くさかえに−はなのかかみを−かくるささなみ


05162
未入力 正徹 (xxx)

かれのこる薄とみれはを山田のくろに生ひたるひつちほの霜

かれのこる−すすきとみれは−をやまたの−くろにおひたる−ひつちほのしも


05163
未入力 正徹 (xxx)

冬草の霜のかれはの下もえに立つや煙の野への朝川

ふゆくさの−しものかれはの−したもえに−たつやけふりの−のへのあさかは


05164
未入力 正徹 (xxx)

さえあかす末のの霜の花薄月はよかれぬ袖のうへかな

さえあかす−すゑののしもの−はなすすき−つきはよかれぬ−そてのうへかな


05165
未入力 正徹 (xxx)

霜はらふすすみにきてし夏たにも草を冬のの杜の月影

しもはらふ−すすみにきてし−なつたにも−くさをふゆのの−もりのつきかけ


05166
未入力 正徹 (xxx)

野への月こほれはいくへとけぬらん千草の霜の花の下紐

のへのつき−こほれはいくへ−とけぬらむ−ちくさのしもの−はなのしたひも


05167
未入力 正徹 (xxx)

埋火も恋しき山の窓あけて冬たつ炭のけふりをそみる

うつみひも−こひしきやまの−まとあけて−ふゆたつすみの−けふりをそみる


05168
未入力 正徹 (xxx)

草なから人めかるへき山里になくさめとてや冬のきぬらん

くさなから−ひとめかるへき−やまさとに−なくさめとてや−ふゆのきぬらむ


05169
未入力 正徹 (xxx)

われからそ松に草葉よ置く霜のからさはなにの冬かのこらん

われからそ−まつにくさはよ−おくしもの−からさはなにの−ふゆかのこらむ


05170
未入力 正徹 (xxx)

うつの山夕霜はらふ松風に蔦のかれ葉は猶のこりけり

うつのやま−ゆふしもはらふ−まつかせに−つたのかれはは−なほのこりけり


05171
未入力 正徹 (xxx)

なからふる身はしろたへにふりはてぬ五十の霜や置所なき

なからふる−みはしろたへに−ふりはてぬ−いそちのしもや−おきところなき


05172
未入力 正徹 (xxx)

下草もみなうつもれてふり初むる雪はつかしき松の霜かな

したくさも−みなうつもれて−ふりそむる−ゆきはつかしき−まつのしもかな


05173
未入力 正徹 (xxx)

白たへの山もとくもる朝霜に日影をはらふ嶺の松かせ

しろたへの−やまもとくもる−あさしもに−ひかけをはらふ−みねのまつかせ


05174
未入力 正徹 (xxx)

ときは木の青はの太山霜ふかし都の人や初雪とみん

ときはきの−あをはのみやま−しもふかし−みやこのひとや−はつゆきとみむ


05175
未入力 正徹 (xxx)

しらす又夕の庭に雨やみむ朝霜こほりてる日影よし

しらすまた−ゆふへのにはに−あめやみむ−あさしもこほり−てるひかけよし


05176
未入力 正徹 (xxx)

明けぬるか霜ふかき夜の山のはのくもれるうへに月はかかりて

あけぬるか−しもふかきよの−やまのはの−くもれるうへに−つきはかかりて


05177
未入力 正徹 (xxx)

草も木も霜のからすといへる名のなきをつれたる松の色かな

くさもきも−しものからすと−いへるなの−なきをつれたる−まつのいろかな


05178
未入力 正徹 (xxx)

さすか猶ゆく年つもる霜の松下葉いろ付きちる嵐かな

さすかなほ−ゆくとしつもる−しものまつ−したはいろつき−ちるあらしかな


05179
未入力 正徹 (xxx)

風さえて霜のはうすき松か枝に夕日色こき影そ消えゆく

かせさえて−しものはうすき−まつかえに−ゆふひいろこき−かけそきえゆく


05180
未入力 正徹 (xxx)

さえくらしかへる雲なき空晴れて尾上の霜にさわく松風

さえくらし−かへるくもなき−そらはれて−をのへのしもに−さわくまつかせ


05181
未入力 正徹 (xxx)

行く月も夕霜しろきかささきのわたすやたとる峰の梯

ゆくつきも−ゆふしもしろき−かささきの−わたすやたとる−みねのかけはし


05182
未入力 正徹 (xxx)

あふきみて猶こそ思へ置く霜の後の鳥羽山松のむかしを

あふきみて−なほこそおもへ−おくしもの−のちのとはやま−まつのむかしを


05183
未入力 正徹 (xxx)

冬かれのみ山の霜をかしけたるを篠の色に嵐吹くなり

ふゆかれの−みやまのしもを−かしけたる−をささのいろに−あらしふくなり


05184
未入力 正徹 (xxx)

木のまもる日影に消えてささの葉のみ山は霜のくもる色かな

このまもる−ひかけにきえて−ささのはの−みやまはしもの−くもるいろかな


05185
未入力 正徹 (xxx)

猿さけふこゑさへさむし篠のはのみ山の霜に嵐ふく夜は

さるさけふ−こゑさへさむし−ささのはの−みやまのしもに−あらしふくよは


05186
未入力 正徹 (xxx)

まとろまてさ夜もはるかに竹のはの霜にさえたる風の音かな

まとろまて−さよもはるかに−たけのはの−しもにさえたる−かせのおとかな


05187
未入力 正徹 (xxx)

窓の前におきいててみれは呉竹の葉たれ霜ふり月かたふきぬ

まとのまへに−おきいててみれは−くれたけの−はたれしもふり−つきかたふきぬ


05188
未入力 正徹 (xxx)

われのみか今年生出てし竹の子も霜ふりはててたてる程なさ

われのみか−ことしおひいてし−たけのこも−しもふりはてて−たてるほとなさ


05189
未入力 正徹 (xxx)

明かたは小枝もたわにくれ竹の夜なかき霜そおもく成行く

あけかたは−さえたもたわに−くれたけの−よなかきしもそ−おもくなりゆく


05190
未入力 正徹 (xxx)

朝ほらけねくらの鳥も出てぬまて霜にとちたる窓の呉竹

あさほらけ−ねくらのとりも−いてぬまて−しもにとちたる−まとのくれたけ


05191
未入力 正徹 (xxx)

かり衣つはさもさむし箸鷹をすゑをの竹の霜の下道

かりころも−つはさもさむし−はしたかを−すゑをのたけの−しものしたみち


05192
未入力 正徹 (xxx)

竹のはの月の夜霜はみな消えてふれるはかりにさゆる朝風

たけのはの−つきのよしもは−みなきえて−ふれるはかりに−さゆるあさかせ


05193
未入力 正徹 (xxx)

ささたかき山の尾上の杉の本霜も岩ほも道そこりしく

ささたかき−やまのをのへの−すきのもと−しももいはほも−みちそこりしく


05194
未入力 正徹 (xxx)

朝日影さしもる霜も消えやらすもゆる思ひや冬はなからん

あさひかけ−さしもるしもも−きえやらす−もゆるおもひや−ふゆはなからむ


05195
未入力 正徹 (xxx)

むさしのの霜はいつくをさかふらん草葉かるるそかきりなりける

むさしのの−しもはいつくを−さかふらむ−くさはかるるそ−かきりなりける


05196
未入力 正徹 (xxx)

冬の庭千草にとけし花もなしむすほほれけり霜の下紐

ふゆのには−ちくさにとけし−はなもなし−むすほほれけり−しものしたひも


05197
未入力 正徹 (xxx)

かれのこる籬の草の一花を霜と見なから猶やめてまし

かれのこる−まかきのくさの−ひとはなを−しもとみなから−なほやめてまし


05198
未入力 正徹 (xxx)

朝霜も庭よこりしきあらかねの土さへさけてこほる冬かな

あさしもも−にはよこりしき−あらかねの−つちさへさけて−こほるふゆかな


05199
未入力 正徹 (xxx)

はしゐする衣てさむし松のはもおとせぬ庭の霜の朝風

はしゐする−ころもてさむし−まつのはも−おとせぬにはの−しものあさかせ


05200
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから松ふく庭の土こほり朝霜ふかき木枯のやと

よもすから−まつふくにはの−つちこほり−あさしもふかき−こからしのやと


05201
未入力 正徹 (xxx)

朝日さす軒はの松の陰はかりおとしておつる霜の下露

あさひさす−のきはのまつの−かけはかり−おとしておつる−しものしたつゆ


05202
未入力 正徹 (xxx)

跡もなき昔の庭のをしへかな霜をいたたく身のみふりつつ

あともなき−むかしのにはの−をしへかな−しもをいたたく−みのみふりつつ


05203
未入力 正徹 (xxx)

待つ人はよもきのかれふむら薄木の葉よたえし庭の夕霜

まつひとは−よもきのかれふ−むらすすき−このはよたえし−にはのゆふしも


05204
未入力 正徹 (xxx)

日影さすいたやの霜の村消にたてぬ朝けの煙をそみる

ひかけさす−いたやのしもの−むらきえに−たてぬあさけの−けふりをそみる


05205
未入力 正徹 (xxx)

おきいてしまきの戸あくる朝霜に音せぬ風そ身にとほりぬる

おきいてし−まきのとあくる−あさしもに−おとせぬかせそ−みにとほりぬる


05206
未入力 正徹 (xxx)

手をさむみ袖のあさ霜まくりもて行人くもる遠かたの野へ

てをさむみ−そてのあさしも−まくりもて−ゆくひとくもる−をちかたののへ


05207
未入力 正徹 (xxx)

日影さす軒はの霜のまたきよりたかぬ朝けをたつる里人

ひかけさす−のきはのしもの−またきより−たかぬあさけを−たつるさとひと


05208
未入力 正徹 (xxx)

草の原たれにとふとも此比や朝霜おきてかるとこたへん

くさのはら−たれにとふとも−このころや−あさしもおきて−かるとこたへむ


05209
未入力 正徹 (xxx)

日影さす峰のときは木露落ちて木のもと白し椎柴の霜

ひかけさす−みねのときはき−つゆおちて−このもとしろし−しひしはのしも


05210
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる峰の嵐に水鳥の羽かひの山も霜はらふなり

あけわたる−みねのあらしに−みつとりの−はかひのやまも−しもはらふなり


05211
未入力 正徹 (xxx)

かるもをはこほれる霜にかきませてふすゐやさむきのへの朝かせ

かるもをは−こほれるしもに−かきませて−ふすゐやさむき−のへのあさかせ


05212
未入力 正徹 (xxx)

山川やくちて板なきはしけたにたえたえかかる冬のあさ霜

やまかはや−くちていたなき−はしけたに−たえたえかかる−ふゆのあさしも


05213
未入力 正徹 (xxx)

かさ鷺のわたせる橋の霜消えて天つ日影や今朝しくるらん

かささきの−わたせるはしの−しもきえて−あまつひかけや−けさしくるらむ


05214
未入力 正徹 (xxx)

あさ川やを舟ならふる橋縄の長き夜のまに結ふ霜かな

あさかはや−をふねならふる−はしなはの−なかきよのまに−むすふしもかな


05215
未入力 正徹 (xxx)

あさ明の雲ゐのみねの冬も猶わたすか霜の花の梯

あさあけの−くもゐのみねの−ふゆもなほ−わたすかしもの−はなのかけはし


05216
未入力 正徹 (xxx)

おひ風もま柴をはらふ袖なからゆふ霜かろくかへる山人

おひかせも−ましはをはらふ−そてなから−ゆふしもかろく−かへるやまひと


05217
未入力 正徹 (xxx)

かれし野の薄はかりやうらやまん遠かた人の袖のゆふ霜

かれしのの−すすきはかりや−うらやまむ−をちかたひとの−そてのゆふしも


05218
未入力 正徹 (xxx)

秋をへし木の葉は霜にくちはててちるも色なき神な月かな

あきをへし−このははしもに−くちはてて−ちるもいろなき−かみなつきかな


05219
未入力 正徹 (xxx)

をしましよ木の葉よりけにかろき身はいかなる谷に朽ちはてぬとも

をしましよ−このはよりけに−かろきみは−いかなるたにに−くちはてぬとも


05220
未入力 正徹 (xxx)

風さそふしくれとともにふり落ちて庭の木の葉のかわくまそなき

かせさそふ−しくれとともに−ふりおちて−にはのこのはの−かわくまそなき


05221
未入力 正徹 (xxx)

吹きのほる谷風なから木の葉もて又うちわたす峰のかけはし

ふきのほる−たにかせなから−このはもて−またうちわたす−みねのかけはし


05222
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく空は木の葉の村立にこの比雲のゆききをも見す

あらしふく−そらはこのはの−むらたちに−このころくもの−ゆききをもみす


05223
未入力 正徹 (xxx)

をしむそよ木の葉の過くる嵐にもまさりてはやくめくる日影を

をしむそよ−このはのすくる−あらしにも−まさりてはやく−めくるひかけを


05224
未入力 正徹 (xxx)

山里は庭に木の葉を巻く風のよわれはおつるこゑもさひしき

やまさとは−にはにこのはを−まくかせの−よわれはおつる−こゑもさひしき


05225
未入力 正徹 (xxx)

木のもとにのこる朽はを吹きたてて雪まてくもる冬の山風

このもとに−のこるくちはを−ふきたてて−ゆきまてくもる−ふゆのやまかせ


05226
未入力 正徹 (xxx)

雲風もきほふ木の葉の露霜にほすまもしらぬ山の下道

くもかせも−きほふこのはの−つゆしもに−ほすまもしらぬ−やまのしたみち


05227
未入力 正徹 (xxx)

ちりまよふ嵐の上はなほさえて空に木の葉の霜やおくらん

ちりまよふ−あらしのうへは−なほさえて−そらにこのはの−しもやおくらむ


05228
未入力 正徹 (xxx)

いかかねんまよふ木の葉のちりの世を思ひめくらす庭のさ夜風

いかかねむ−まよふこのはの−ちりのよを−おもひめくらす−にはのさよかせ


05229
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふき木の葉みたれてくもる日やあれ行く冬のはしめなるらん

あらしふき−このはみたれて−くもるひや−あれゆくふゆの−はしめなるらむ


05230
未入力 正徹 (xxx)

みたれくる木の葉も空にみちのくのしのふやうつむ軒の山風

みたれくる−このはもそらに−みちのくの−しのふやうつむ−のきのやまかせ


05231
未入力 正徹 (xxx)

神な月木の葉をさそふ風たにも猶やすけなき雲そ時雨るる

かみなつき−このはをさそふ−かせたにも−なほやすけなき−くもそしくるる


05232
未入力 正徹 (xxx)

冬やうき山の木の葉のかくろへもなきかおほかる遠近のさと

ふゆやうき−やまのこのはの−かくろへも−なきかおほかる−をちこちのさと


05233
未入力 正徹 (xxx)

たつきなき野へに木の葉そふりくたる嶺の嵐やさそひすくらん

たつきなき−のへにこのはそ−ふりくたる−みねのあらしや−さそひすくらむ


05234
未入力 正徹 (xxx)

風ふけは朽ちにし木の葉よるかたもあれはあるよとたのむはかなさ

かせふけは−くちにしこのは−よるかたも−あれはあるよと−たのむはかなさ


05235
未入力 正徹 (xxx)

山はみな雲の衣をうらもなくたのみやすらんちる木の葉かな

やまはみな−くものころもを−うらもなく−たのみやすらむ−ちるこのはかな


05236
未入力 正徹 (xxx)

朝なきの浪にうちちるあま舟や朽ちし木の葉の行へなるらん

あさなきの−なみにうちちる−あまふねや−くちしこのはの−ゆくへなるらむ


05237
未入力 正徹 (xxx)

さそひ行くあらしのひまに又落つる木の葉や庭の友したふらん

さそひゆく−あらしのひまに−またおつる−このはやにはの−ともしたふらむ


05238
未入力 正徹 (xxx)

ささかにの糸にもみちをかけ置きて軒は過きゆく庭の木枯

ささかにの−いとにもみちを−かけおきて−のきはすきゆく−にはのこからし


05239
未入力 正徹 (xxx)

ちる木の葉しくれにたまる水の淡に落ちてもまさる色そはかなき

ちるこのは−しくれにたまる−みつのあわに−おちてもまさる−いろそはかなき


05240
未入力 正徹 (xxx)

太山かせふかく吹きしく冬のはに木の実も落ちて谷に行くこゑ

みやまかせ−ふかくふきしく−ふゆのはに−このみもおちて−たににゆくこゑ


05241
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく木の葉の霜の花のねにかへる雲路の鳥はなくして

あらしふく−このはのしもの−はなのねに−かへるくもちの−とりはなくして


05242
未入力 正徹 (xxx)

ちり行くを心かろしとのこるとも春のわか葉の後のときは木

ちりゆくを−こころかろしと−のこるとも−はるのわかはの−のちのときはき


05243
未入力 正徹 (xxx)

いつくにも思ひはとめし嵐ふく冬の木の葉のこころともかな

いつくにも−おもひはとめし−あらしふく−ふゆのこのはの−こころともかな


05244
未入力 正徹 (xxx)

のこらむはかた野の木の葉木からしの夕かりすつるあその山風

のこらむは−かたののこのは−こからしの−ゆふかりすつる−あそのやまかせ


05245
未入力 正徹 (xxx)

うき世には木の葉も枝をのかれつつあらかひ行くをいつまてかみん

うきよには−このはもえたを−のかれつつ−あらかひゆくを−いつまてかみむ


05246
未入力 正徹 (xxx)

おそくとくちりみちらすみ世にみてる紅葉や冬の光なるらん

おそくとく−ちりみちらすみ−よにみてる−もみちやふゆの−ひかりなるらむ


05247
未入力 正徹 (xxx)

雲そゐる冬は木の葉のかくろへもなき山ひめや袖かさすらん

くもそゐる−ふゆはこのはの−かくろへも−なきやまひめや−そてかさすらむ


05248
未入力 正徹 (xxx)

ふみ分けぬ思ひの色をかさねてや葎の庭に木の葉ちるらん

ふみわけぬ−おもひのいろを−かさねてや−むくらのにはに−このはちるらむ


05249
未入力 正徹 (xxx)

ちれはとて木の葉の衣袖なくはうき世の民におほひやはせん

ちれはとて−このはのころも−そてなくは−うきよのたみに−おほひやはせむ


05250
未入力 正徹 (xxx)

軒の雨ちるもみち葉のかかるにそいとふにも似ぬささかにの糸

のきのあめ−ちるもみちはの−かかるにそ−いとふにもにぬ−ささかにのいと


05251
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興つ風山は木の葉のかくろへもあらはに塩のひける磯かな

おきつかせ−やまはこのはの−かくろへも−あらはにしほの−ひけるいそかな


05252
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よそにして落葉かきとる里の子も時雨に憑むときは木の陰

よそにして−おちはかきとる−さとのこも−しくれにたのむ−ときはきのかけ


05253
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紅葉ちる四方の嵐もあらかねをやくやこかるる土の色かな

もみちちる−よものあらしも−あらかねを−やくやこかるる−つちのいろかな


05254
未入力 正徹 (xxx)

くれなゐのうす花色を染めまして山桜戸にちる紅葉かな

くれなゐの−うすはないろを−そめまして−やまさくらとに−ちるもみちかな


05255
未入力 正徹 (xxx)

山嵐峰の白雪ふきませてくれなゐうすく行くもみちかな

やまあらし−みねのしらゆき−ふきませて−くれなゐうすく−ゆくもみちかな


05256
未入力 正徹 (xxx)

世中はうらきもつらきままならぬ花の嵐にちる木の葉かな

よのなかは−うらきもつらき−ままならぬ−はなのあらしに−ちるこのはかな


05257
未入力 正徹 (xxx)

いこま山て染の糸の中たえてみしかき色にちる木の葉かな

いこまやま−てそめのいとの−なかたえて−みしかきいろに−ちるこのはかな


05258
未入力 正徹 (xxx)

さ夜風にちるや木の葉のさらさらとまたきに竹の霰をそ聞く

さよかせに−ちるやこのはの−さらさらと−またきにたけの−あられをそきく


05259
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神な月ちらすはありとも朽ちぬへしわか身時雨に染むる袂は

かみなつき−ちらすはありとも−くちぬへし−わかみしくれに−そむるたもとは


05260
未入力 正徹 (xxx)

たえねとそ冬は山風立田姫しくれの糸の秋のてそめを

たえねとそ−ふゆはやまかせ−たつたひめ−しくれのいとの−あきのてそめを


05261
未入力 正徹 (xxx)

時雨れゆくあとの村雲吹きませて木の葉にはるる嶺の木枯

しくれゆく−あとのむらくも−ふきませて−このはにはるる−みねのこからし


05262
未入力 正徹 (xxx)

ふりましるおとそたえせぬ神な月木の葉は風に雲は時雨に

ふりましる−おとそたえせぬ−かみなつき−このははかせに−くもはしくれに


05263
未入力 正徹 (xxx)

冬きても秋のみなとの河上に舟よそひして行く木の葉かな

ふゆきても−あきのみなとの−かはかみに−ふなよそひして−ゆくこのはかな


05264
未入力 正徹 (xxx)

はては又嵐をそめて行く木の葉しくれし雲にかへす色かな

はてはまた−あらしをそめて−ゆくこのは−しくれしくもに−かへすいろかな


05265
未入力 正徹 (xxx)

雲まよふ滝とおつるや山風に吹きすてらるる木の葉なるらん

くもまよふ−たきとおつるや−やまかせに−ふきすてらるる−このはなるらむ


05266
未入力 正徹 (xxx)

わたれ人風になかるる紅葉はは都なからの染川のなみ

わたれひと−かせになかるる−もみちはは−みやこなからの−そめかはのなみ


05267
未入力 正徹 (xxx)

松かけや嵐はふかて朝露のおつるしつくに散る木の葉かな

まつかけや−あらしはふかて−あさつゆの−おつるしつくに−ちるこのはかな


05268
未入力 正徹 (xxx)

なひけこしみとりの風そ色かはる木の葉や冬の春の若草

なひけこし−みとりのかせそ−いろかはる−このはやふゆの−はるのわかくさ


05269
未入力 正徹 (xxx)

春の花風の心のままならはむくひある世をちる木の葉かな

はるのはな−かせのこころの−ままならは−むくひあるよを−ちるこのはかな


05270
未入力 正徹 (xxx)

玉章のかみの色とも見えぬへしもみち吹きまく風のつかひに

たまつさの−かみのいろとも−みえぬへし−もみちふきまく−かせのつかひに


05271
未入力 正徹 (xxx)

ちる木の葉さそふ水なき空なからなかれて遠く行く嵐かな

ちるこのは−さそふみつなき−そらなから−なかれてとほく−ゆくあらしかな


05272
未入力 正徹 (xxx)

思ふとてさそふにもあらし吹く風のつらきやとりをかる木の葉かな

おもふとて−さそふにもあらし−ふくかせの−つらきやとりを−かるこのはかな


05273
未入力 正徹 (xxx)

かささきに一むら見えて行末の空にまはらにちる木の葉かな

かささきに−ひとむらみえて−ゆくすゑの−そらにまはらに−ちるこのはかな


05274
未入力 正徹 (xxx)

風きけは峰の木の葉の中空に吹きすてられて落つるこゑこゑ

かせきけは−みねのこのはの−なかそらに−ふきすてられて−おつるこゑこゑ


05275
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく庭にかたよる木の葉にも猶さためなき時雨をそ聞く

あらしふく−にはにかたよる−このはにも−なほさためなき−しくれをそきく


05276
未入力 正徹 (xxx)

落つる葉の霜にあたりて声すなりさゆる朝気の庭の木枯

おつるはの−しもにあたりて−こゑすなり−さゆるあさけの−にはのこからし


05277
未入力 正徹 (xxx)

ね屋の上に雨よりおもき声すなり霜おく後や木の葉ちるらん

ねやのうへに−あめよりおもき−こゑすなり−しもおくのちや−このはちるらむ


05278
未入力 正徹 (xxx)

風吹きてかへる落葉にちる雪の花の物いふふる郷の庭

かせふきて−かへるおちはに−ちるゆきの−はなのものいふ−ふるさとのには


05279
未入力 正徹 (xxx)

梢にもいまはあらしの冬のはの霜をかなしむ庭のこゑかな

こすゑにも−いまはあらしの−ふゆのはの−しもをかなしむ−にはのこゑかな


05280
未入力 正徹 (xxx)

吹きいれはね屋に衣となるはかり落葉かさねに庭の木枯

ふきいれは−ねやにころもと−なるはかり−おちはかさねに−にはのこからし


05281
未入力 正徹 (xxx)

うつもるるなさへあるしの宿かほに木の葉ふりかくす道のへの庵

うつもるる−なさへあるしの−やとかほに−このはふりかくす−みちのへのいほ


05282
未入力 正徹 (xxx)

さやきこし太山颪にかれそ行く木の葉の下の道のささ原

さやきこし−みやまおろしに−かれそゆく−このはのしたの−みちのささはら


05283
未入力 正徹 (xxx)

ちりつもる谷の木の葉のめくるかなさかまく水や下に行くらん

ちりつもる−たにのこのはの−めくるかな−さかまくみつや−したにゆくらむ


05284
未入力 正徹 (xxx)

山川やみなわさかまく水の上に落ちて木の葉や又のほるらん

やまかはや−みなわさかまく−みつのうへに−おちてこのはや−またのほるらむ


05285
未入力 正徹 (xxx)

おとまかふ木の葉も雲の色ならて時雨わけたる軒の玉水

おとまかふ−このはもくもの−いろならて−しくれわけたる−のきのたまみつ


05286
未入力 正徹 (xxx)

山ひめの涙しくれの色ならは木の葉も袖のゆかりとやみん

やまひめの−なみたしくれの−いろならは−このはもそての−ゆかりとやみむ


05287
未入力 正徹 (xxx)

ね屋の上におとする程の露もらは木の葉のそはぬ時雨ならまし

ねやのうへに−おとするほとの−つゆもらは−このはのそはぬ−しくれならまし


05288
未入力 正徹 (xxx)

木の本のくち葉の後は霜八たひおくともなにの色かかはらん

このもとの−くちはののちは−しもやたひ−おくともなにの−いろかかはらむ


05289
未入力 正徹 (xxx)

今よりは梢の霜のおき所嵐にたへてちる木の葉かな

いまよりは−こすゑのしもの−おきところ−あらしにたへて−ちるこのはかな


05290
未入力 正徹 (xxx)

たて見はやこしの山路の雪にまつ積る木の葉のさをのしるしを

たてみはや−こしのやまちの−ゆきにまつ−つもるこのはの−さをのしるしを


05291
未入力 正徹 (xxx)

冬かれの庭の風になかれきて水なき淵となる木の葉かな

ふゆかれの−にはのあらしに−なかれきて−みつなきふちと−なるこのはかな


05292
未入力 正徹 (xxx)

おともせす散りし木の葉のそこひなき淵やはさわく霜のうは浪

おともせす−ちりしこのはの−そこひなき−ふちやはさわく−しものうはなみ


05293
未入力 正徹 (xxx)

山里はのこる木の葉のかくろへもなき家かすそ冬はそひ行く

やまさとは−のこるこのはの−かくろへも−なきいへかすそ−ふゆはそひゆく


05294
未入力 正徹 (xxx)

みこし路やつもる木の葉の雪ならはしるしにたてる棹やなからん

みこしちや−つもるこのはの−ゆきならは−しるしにたてる−さをやなからむ


05295
未入力 正徹 (xxx)

冬ふかみ春の木の目におくれしやかた枝に一葉ちり残るらん

ふゆふかみ−はるのこのめに−おくれしや−かたえにひとは−ちりのこるらむ


05296
未入力 正徹 (xxx)

色そ見ぬ嶺たちいつる明かたの星のまきれにちる木の葉かな

いろそみぬ−みねたちいつる−あけかたの−ほしのまきれに−ちるこのはかな


05297
未入力 正徹 (xxx)

滝川の岩浪はやくとやかへるたかをに落ちて飛ふ木の葉かな

たきかはの−いはなみはやく−とやかへる−たかをにおちて−とふこのはかな


05298
未入力 正徹 (xxx)

霜白き嵐もさえてかささきのわたせる橋にちる木の葉かな

しもしろき−あらしもさえて−かささきの−わたせるはしに−ちるこのはかな


05299
未入力 正徹 (xxx)

ちる木の葉谷のを川をうつむよりあらはれわたる峰の梯

ちるこのは−たにのをかはを−うつむより−あらはれわたる−みねのかけはし


05300
未入力 正徹 (xxx)

橋はしらたれ錦木のたつとみて落葉にうとき冬の山姫

はしはしら−たれにしききの−たつとみて−おちはにうとき−ふゆのやまひめ


05301
未入力 正徹 (xxx)

明けは又思ひの色や染めまさん木の葉かた敷く宇治の橋ひめ

あけはまた−おもひのいろや−そめまさむ−このはかたしく−うちのはしひめ


05302
未入力 正徹 (xxx)

枕にも夢のうきはしうつもれて木の葉にたゆるふるの中道

まくらにも−ゆめのうきはし−うつもれて−このはにたゆる−ふるのなかみち


05303
未入力 正徹 (xxx)

ちる木の葉わたせる板に音はしてたゆるそあらぬ夢の浮橋

ちるこのは−わたせるいたに−おとはして−たゆるそあらぬ−ゆめのうきはし


05304
未入力 正徹 (xxx)

ふみならす跡に木のはの深くなりて中中しるき冬の太山路

ふみならす−あとにこのはの−ふかくなりて−なかなかしるき−ふゆのみやまち


05305
未入力 正徹 (xxx)

あと見えぬ庭の木の葉を立ちいててわかかく程のいとなみもなし

あとみえぬ−にはのこのはを−たちいてて−わかかくほとの−いとなみもなし


05306
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふくみねの入日の跡さえて夕霜なからふる木の葉かな

あらしふく−みねのいりひの−あとさえて−ゆふしもなから−ふるこのはかな


05307
未入力 正徹 (xxx)

時雨をはよしやいとはし手枕に木の葉もるまて閨のあれぬる

しくれをは−よしやいとはし−たまくらに−このはもるまて−ねやのあれぬる


05308
未入力 正徹 (xxx)

おくれ月嵐ふく夜の有明はのこる木の葉のきぬきぬの空

おくれつき−あらしふくよの−ありあけは−のこるこのはの−きぬきぬのそら


05309
未入力 正徹 (xxx)

みかさとも月にはいはし宮城のの時雨は夜はの木の葉なりけり

みかさとも−つきにはいはし−みやきのの−しくれはよはの−このはなりけり


05310
未入力 正徹 (xxx)

庭寒き嵐は霜をおく月の影をもそめてもる木の葉かな

にはさむき−あらしはしもを−おくつきの−かけをもそめて−もるこのはかな


05311
未入力 正徹 (xxx)

冬かれは又や氷をうつむらん草にかくれし野への沢水

ふゆかれは−またやこほりを−うつむらむ−くさにかくれし−のへのさはみつ


05312
未入力 正徹 (xxx)

朝夕の霜おかすともかれぬへき野への千草の露そこほれる

あさゆふの−しもおかすとも−かれぬへき−のへのちくさの−つゆそこほれる


05313
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篠ましる野へのこ草の冬の霜かれすは有りともわきてみましや

ささましる−のへのこくさの−ふゆのしも−かれすはありとも−わきてみましや


05314
未入力 正徹 (xxx)

草はみなかれにし野への霜の松たてる尾上の友そさひしき

くさはみな−かれにしのへの−しものまつ−たてるをのへの−ともそさひしき


05315
未入力 正徹 (xxx)

冬は世にうちはへおけと主もなし枯野のきぬと雲の衣と

ふゆはよに−うちはへおけと−ぬしもなし−かれののきぬと−くものころもと


05316
未入力 正徹 (xxx)

花にさく霜を日影にへたつとや冬のかれ野にのこる朝霧

はなにさく−しもをひかけに−へたつとや−ふゆのかれのに−のこるあさきり


05317
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あれわたる霜の冬のの草朽ちて蛍むなしき玉あられかな

あれわたる−しものふゆのの−くさくちて−ほたるむなしき−たまあられかな


05318
未入力 正徹 (xxx)

山ひめのぬくやかれ野の衣ならん蹄に朽ちたる草はみなから

やまひめの−ぬくやかれのの−きぬならむ−しもにくちたる−くさはみなから


05319
未入力 正徹 (xxx)

野へはみな煙そなひく朝日かけさしもか霜にあらぬ草はも

のへはみな−けふりそなひく−あさひかけ−さしもかしもに−あらぬくさはも


05320
未入力 正徹 (xxx)

春秋よすたきし虫もすむ鳥も夢のの鹿の跡の霜かれ

はるあきよ−すたきしむしも−すむとりも−ゆめののしかの−あとのしもかれ


05321
未入力 正徹 (xxx)

なみよりしみとりの草葉冬かれて世をうみわたるのへの山かせ

なみよりし−みとりのくさは−ふゆかれて−よをうみわたる−のへのやまかせ


05322
未入力 正徹 (xxx)

み山よりさやきてくたる木枯のこゑもかはらぬ野へのささ原

みやまより−さやきてくたる−こからしの−こゑもかはらぬ−のへのささはら


05323
未入力 正徹 (xxx)

草の原たれにとひてか篠のはのつれなき色を冬にみすらん

くさのはら−たれにとひてか−ささのはの−つれなきいろを−ふゆにみすらむ


05324
未入力 正徹 (xxx)

冬の行くあけくれ寒し霜原やむはらのしとともすの鳴くこゑ

ふゆのゆく−あけくれさむし−しもはらや−むはらのしとと−もすのなくこゑ


05325
未入力 正徹 (xxx)

冬も見つかれ野の霜の朝霧に染むる日かけの秋のくれなゐ

ふゆもみつ−かれののしもの−あさきりに−そむるひかけの−あきのくれなゐ


05326
未入力 正徹 (xxx)

つれもなき木の葉のための木枯をよそけにおける草の夕霜

つれもなき−このはのための−こからしを−よそけにおける−くさのゆふしも


05327
未入力 正徹 (xxx)

いつくにも木からしならぬ杜そなき冬や所の名をかくすらん

いつくにも−こからしならぬ−もりそなき−ふゆやところの−なをかくすらむ


05328
未入力 正徹 (xxx)

いつくにか冬こもるらん万葉のやとりあれ行く木枯のかせ

いつくにか−ふゆこもるらむ−よろつはの−やとりあれゆく−こからしのかせ


05329
未入力 正徹 (xxx)

うき世には身をかくしおく人そあらん吹きなあらしそ山の木枯

うきよには−みをかくしおく−ひとそあらむ−ふきなあらしそ−やまのこからし


05330
未入力 正徹 (xxx)

吹きちらす木の葉の後は木からしの名におふ色もなにに見えまし

ふきちらす−このはののちは−こからしの−なにおふいろも−なににみえまし


05331
未入力 正徹 (xxx)

冬のはのちる山ひめの枕かも木からしふけは舟わたるなり

ふゆのはの−ちるやまひめの−まくらかも−こからしふけは−ふねわたるなり


05332
未入力 正徹 (xxx)

春は花ちりしはかりそ木をからす風の名つらき冬のこゑかな

はるははな−ちりしはかりそ−きをからす−かせのなつらき−ふゆのこゑかな


05333
未入力 正徹 (xxx)

見し色のかはるとかはる冬のはを一葉もとめぬ山の木からし

みしいろの−かはるとかはる−ふゆのはを−ひとはもとめぬ−やまのこからし


05334
未入力 正徹 (xxx)

人もこす雲もかへらす木枯の山吹きあらす霜のふる郷

ひともこす−くももかへらす−こからしの−やまふきあらす−しものふるさと


05335
未入力 正徹 (xxx)

もみちゆゑ暮れさりし山の木枯も落つる色なき滝の岩なみ

もみちゆゑ−くれさりしやまの−こからしも−おつるいろなき−たきのいはなみ


05336
未入力 正徹 (xxx)

かこひかね消えてそかへる木からしの山吹きあらす夕暮の雲

かこひかね−きえてそかへる−こからしの−やまふきあらす−ゆふくれのくも


05337
未入力 正徹 (xxx)

松にのみくるる木枯吹きつくし冬の一葉もなき山路かな

まつにのみ−くるるこからし−ふきつくし−ふゆのひとはも−なきやまちかな


05338
未入力 正徹 (xxx)

さゆる日の屋上の松の下柴に夕霜いそく木枯のこゑ

さゆるひの−をのへのまつの−したしはに−ゆふしもいそく−こからしのこゑ


05339
未入力 正徹 (xxx)

夕暮の松にそかへる冬のはを吹きつくしたる木枯のこゑ

ゆふくれの−まつにそかへる−ふゆのはを−ふきつくしたる−こからしのこゑ


05340
未入力 正徹 (xxx)

有明の月のかつらの木枯に散るか色こき影はおとせて

ありあけの−つきのかつらの−こからしに−ちるかいろこき−かけはおとせて


05341
未入力 正徹 (xxx)

たちかへり朝けの煙吹きそしく落葉かきたく宿の木枯

たちかへり−あさけのけふり−ふきそしく−おちはかきたく−やとのこからし


05342
未入力 正徹 (xxx)

さえのこる月のかつらの朝霜をはらふかうすき木枯の影

さえのこる−つきのかつらの−あさしもを−はらふかうすき−こからしのかけ


05343
未入力 正徹 (xxx)

ききすてん雲もしくれす葉もおちすね覚夜ふかき木枯の声

ききすてむ−くももしくれす−はもおちす−ねさめよふかき−こからしのこゑ


05344
未入力 正徹 (xxx)

冬の夜の月もなかれておのつからこほらぬ雲のみをそしらるる

ふゆのよの−つきもなかれて−おのつから−こほらぬくもの−みをそしらるる


05345
未入力 正徹 (xxx)

空さえて四方に氷をしく月のなかるる影といかて見ゆらん

そらさえて−よもにこほりを−しくつきの−なかるるかけと−いかてみゆらむ


05346
未入力 正徹 (xxx)

さえつくす霜や氷を月のうちにあつめて四方にくたす影かな

さえつくす−しもやこほりをつ−きのうちに−あつめてよもに−くたすかけかな


05347
未入力 正徹 (xxx)

墨染の袖におちては天つ雲こほれる月も影そみかかぬ

すみそめの−そてにおちては−あまつくも−こほれるつきも−かけそみかかぬ


05348
未入力 正徹 (xxx)

おく霜もこほれる影の物ことにきしる音してふくる夜の月

おくしもも−こほれるかけの−ものことに−きしるおとして−ふくるよのつき


05349
未入力 正徹 (xxx)

氷しく霜夜の月につくかねのこゑや千さとの外の曙

こほりしく−しもよのつきに−つくかねの−こゑやちさとの−ほかのあけほの


05350
未入力 正徹 (xxx)

戸さしせぬ月の氷の関こえて夜はに吹きくる天つ木枯

とさしせぬ−つきのこほりの−せきこえて−よはにふきくる−あまつこからし


05351
未入力 正徹 (xxx)

ならはすやかやか軒はをもる月の霜おきあかす墨染の袖

ならはすや−かやかのきはを−もるつきの−しもおきあかす−すみそめのそて


05352
未入力 正徹 (xxx)

木枯や霜も氷ももるね屋の夜とてしつとも見えぬ月かな

こからしや−しももこほりも−もるねやの−よとてしつとも−みえぬつきかな


05353
未入力 正徹 (xxx)

猶のこる月のかつらのはたれ霜ふるやかたふく影そさむけき

なほのこる−つきのかつらの−はたれしも−ふるやかたふく−かけそさむけき


05354
未入力 正徹 (xxx)

天つ風おと吹きむすふ大空の氷のうへにこほる月かけ

あまつかせ−おとふきむすふ−おほそらの−こほりのうへに−こほるつきかけ


05355
未入力 正徹 (xxx)

星なれや月すむ空の氷よりうちいつる雲の浪の白玉

ほしなれや−つきすむそらの−こほりより−うちいつるくもの−なみのしらたま


05356
未入力 正徹 (xxx)

夜はの月むら雲かくれ行く程や袖の氷を又くたくらむ

よはのつき−むらくもかくれ−ゆくほとや−そてのこほりを−またくたくらむ


05357
未入力 正徹 (xxx)

月のうちにひひきのほると思ふまて霜夜の鐘に影そさえ行く

つきのうちに−ひひきのほると−おもふまて−しもよのかねに−かけそさえゆく


05358
未入力 正徹 (xxx)

こゑにさへあらはれけりなすむ月の氷のそこの峰の松かせ

こゑにさへ−あらはれけりな−すむつきの−こほりのそこの−みねのまつかせ


05359
未入力 正徹 (xxx)

袖さゆる冬の夜とてに月はあれと心空なる人そすくなき

そてさゆる−ふゆのよとてに−つきはあれと−こころそらなる−ひとそすくなき


05360
未入力 正徹 (xxx)

いかか見む水なき空の氷とはならて袂そ月にぬれゆく

いかかみむ−みつなきそらの−こほりとは−ならてたもとそ−つきにぬれゆく


05361
未入力 正徹 (xxx)

ありとある水のなさけをあつめおく月の氷も又世にそ敷く

ありとある−みつのなさけを−あつめおく−つきのこほりも−またよにそしく


05362
未入力 正徹 (xxx)

とけん期もいさしら雲の天の原こほれるうへにこほる月影

とけむこも−いさしらくもの−あまのはら−こほれるうへに−こほるつきかけ


05363
未入力 正徹 (xxx)

空にさへ光をわたる人やなき月のみやこの霜のふる道

そらにさへ−ひかりをわたる−ひとやなき−つきのみやこの−しものふるみち


05364
未入力 正徹 (xxx)

ふみならすすのこのきしる音さへもこほるににたる宿の月影

ふみならす−すのこのきしる−おとさへも−こほるににたる−やとのつきかけ


05365
未入力 正徹 (xxx)

槙の戸をはやくたててそかへり入る老いてみぬ夜の木枯の月

まきのとを−はやくたててそ−かへりいる−おいてみぬよの−こからしのつき


05366
未入力 正徹 (xxx)

はるる夜のおとに時雨れて山のはの月の氷をはらふ松かせ

はるるよの−おとにしくれて−やまのはの−つきのこほりを−はらふまつかせ


05367
未入力 正徹 (xxx)

氷りけり山のあなたの月まてはおとによとみし滝の岩なみ

こほりけり−やまのあなたの−つきまては−おとによとみし−たきのいはなみ


05368
未入力 正徹 (xxx)

冬川の水の心や春ならん氷なかるるせせの月かけ

ふゆかはの−みつのこころや−はるならむ−こほりなかるる−せせのつきかけ


05369
未入力 正徹 (xxx)

月さゆる浦のひかたの松なれやふらぬ真砂の雪の村きえ

つきさゆる−うらのひかたの−まつなれや−ふらぬまさこの−ゆきのむらきえ


05370
未入力 正徹 (xxx)

和田の原千里の浪にしくも猶あまる氷をみかく月影

わたのはら−ちさとのなみに−しくもなほ−あまるこほりを−みかくつきかけ


05371
未入力 正徹 (xxx)

氷をもはこひそたえぬ夜塩汲むあまの袖しのうらの月影

こほりをも−はこひそたえぬ−よしほくむ−あまのそてしの−うらのつきかけ


05372
未入力 正徹 (xxx)

芦火たくこやのあま人いててみよ煙の浪も月そこほれる

あしひたく−こやのあまひと−いててみよ−けふりのなみも−つきそこほれる


05373
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明けぬるか霜のかり田のうねののに月かたふきてたつ鳴きわたる

あけぬるか−しものかりたの−うねののに−つきかたふきて−たつなきわたる


05374
未入力 正徹 (xxx)

月のすむ都のたつみ里の名をたか身にしれと時雨ふるらん

つきのすむ−みやこのたつみ−さとのなを−たかみにしれと−しくれふるらむ


05375
未入力 正徹 (xxx)

木の葉ちる里はあれぬと住みわひん人は嵐にはるる月かけ

このはちる−さとはあれぬと−すみわひむ−ひとはあらしに−はるるつきかけ


05376
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かれにけり昔の庭の苔莚月のこほりはしき忍へとも

かれにけり−むかしのにはの−こけむしろ−つきのこほりは−しきしのへとも


05377
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ふる寺とならのあすかの川もなしくむや石井にこほる月影

ふるてらと−ならのあすかの−かはもなし−くむやいしゐに−こほるつきかけ


05378
未入力 正徹 (xxx)

かも川や都のにしのなかれまてまくらにこほるあり明の月

かもかはや−みやこのにしの−なかれまて−まくらにこほる−ありあけのつき


05379
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月のしく氷のしたの思草たれかほかれんあり明の空

つきのしく−こほりのしたの−おもひくさ−たれかほかれむ−ありあけのそら


05380
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なかれ行く天つ川たれ時しらぬ月はこほりて氷をそしく

なかれゆく−あまつかはたれ−ときしらぬ−つきはこほりて−こほりをそしく


05381
未入力 正徹 (xxx)

野へにたれかりねの霜の花衣ぬき別れてか有明の月

のへにたれ−かりねのしもの−はなころも−ぬきわかれてか−ありあけのつき


05382
未入力 正徹 (xxx)

冬の月光をさまる明ほののこほりや四方の空に消ゆらん

ふゆのつき−ひかりをさまる−あけほのの−こほりやよもの−そらにきゆらむ


05383
未入力 正徹 (xxx)

いかかぬるかたふく月の夜はの袖氷にちかき遠のさと人

いかかぬる−かたふくつきの−よはのそて−こほりにちかき−をちのさとひと


05384
未入力 正徹 (xxx)

冬かれの庭に音せぬ風さえてうす雪こほる夜はの月影

ふゆかれの−にはにおとせぬ−かせさえて−うすゆきこほる−よはのつきかけ


05385
未入力 正徹 (xxx)

消えて行く雲に結はぬ霜氷空にみちたる月の影かな

きえてゆく−くもにむすはぬ−しもこほり−そらにみちたる−つきのかけかな


05386
未入力 正徹 (xxx)

春ちかき廿日の月の望の夜になかはは消えて氷のこれる

はるちかき−はつかのつきの−もちのよに−なかははきえて−こほりのこれる


05387
未入力 正徹 (xxx)

うつるさへおとする浪になかれぬや氷におもき冬川の月

うつるさへ−おとするなみに−なかれぬや−こほりにおもき−ふゆかはのつき


05388
未入力 正徹 (xxx)

影さゆる月のかつらの木枯や秋にもまさる色をしくらむ

かけさゆる−つきのかつらの−こからしや−あきにもまさる−いろをしくらむ


05389
未入力 正徹 (xxx)

さえわたる天の川せに音はせて氷をきしる月かとそみる

さえわたる−あまのかはせに−おとはせて−こほりをきしる−つきかとそみる


05390
未入力 正徹 (xxx)

久堅の月の光の行かたやかきりしられぬ氷なるらん

ひさかたの−つきのひかりの−ゆくかたや−かきりしられぬ−こほりなるらむ


05391
未入力 正徹 (xxx)

天つ風月をも玉とみかく夜の袖の氷にあられちるなり

あまつかせ−つきをもたまと−みかくよの−そてのこほりに−あられちるなり


05392
未入力 正徹 (xxx)

ふしかねて又かきおこす埋火はあれともさゆるね屋の月影

ふしかねて−またかきおこす−うつみひは−あれともさゆる−ねやのつきかけ


05393
未入力 正徹 (xxx)

暁の雲路の霜のふる道に氷をきしる冬の夜の月

あかつきの−くもちのしもの−ふるみちに−こほりをきしる−ふゆのよのつき


05394
未入力 正徹 (xxx)

かささきのはしの霜夜の天の川しろきをみれは月そこほれる

かささきの−はしのしもよの−あまのかは−しろきをみれは−つきそこほれる


05395
未入力 正徹 (xxx)

影さえし月のあよみも行きなやむ霜夜の空の霧の曙

かけさえし−つきのあよみも−ゆきなやむ−しもよのそらの−きりのあけほの


05396
未入力 正徹 (xxx)

あしはやくさゆるやいそく木枯に吹きいたさるる山のはの月

あしはやく−さゆるやいそく−こからしに−ふきいたさるる−やまのはのつき


05397
未入力 正徹 (xxx)

にふの山氷をたたく川浪も月のかつらをきるかとそ聞く

にふのやま−こほりをたたく−かはなみも−つきのかつらを−きるかとそきく


05398
未入力 正徹 (xxx)

さゆる夜の月の氷にふる霜のおのか羽風に鴨そなくなる

さゆるよの−つきのこほりに−ふるしもの−おのかはかせに−かもそなくなる


05399
未入力 正徹 (xxx)

川なみのたかせの淀に影落ちて氷をなかす冬の夜の月

かはなみの−たかせのよとに−かけおちて−こほりをなかす−ふゆのよのつき


05400
未入力 正徹 (xxx)

雪うすき芦のかれ葉に氷るなり月のほそ江の有明の影

ゆきうすき−あしのかれはに−こほるなり−つきのほそえの−ありあけのかけ


05401
未入力 正徹 (xxx)

見し鳥も浪に氷をしきはてていり江の山に月そ流るる

みしとりも−なみにこほりを−しきはてて−いりえのやまに−つきそなかるる


05402
未入力 正徹 (xxx)

難波江や夜わたる月の玉かしは藻にうつもれぬ氷をそ敷く

なにはえや−よわたるつきの−たまかしは−もにうつもれぬ−こほりをそしく


05403
未入力 正徹 (xxx)

板まあらみね屋もる月は冬なから夜はの衣の雪の村消

いたまあらみ−ねやもるつきは−ふゆなから−よはのころもの−ゆきのむらきえ


05404
未入力 正徹 (xxx)

冬の池も鳥こそうかへ閨にもる月のこほりの下の思ひよ

ふゆのいけも−とりこそうかへ−ねやにもる−つきのこほりの−したのおもひよ


05405
未入力 正徹 (xxx)

かりねする枕の峰にこほるなり雲のね屋もる月のともし火

かりねする−まくらのみねに−こほるなり−くものねやもる−つきのともしひ


05406
未入力 正徹 (xxx)

ね屋のうちに消ゆるやいつれ板まもる月の氷の埋火のかけ

ねやのうちに−きゆるやいつれ−いたまもる−つきのこほりの−うつみひのかけ


05407
未入力 正徹 (xxx)

篠のはの霜ふく夜はの太山かせ月まてさやく有明のこゑ

ささのはの−しもふくよはの−みやまかせ−つきまてさやく−ありあけのこゑ


05408
未入力 正徹 (xxx)

天の川みなわにめくる月の輪に氷やきしるさゆる明かた

あまのかは−みなわにめくる−つきのわに−こほりやきしる−さゆるあけかた


05409
未入力 正徹 (xxx)

天つ風夜はに氷をみかききてあかつき霜にくもる月かな

あまつかせ−よはにこほりを−みかききて−あかつきしもに−くもるつきかな


05410
未入力 正徹 (xxx)

あかつきの空にそ霜はみつ塩の月さし残す松の下陰

あかつきの−そらにそしもは−みつしほの−つきさしのこす−まつのしたかけ


05411
未入力 正徹 (xxx)

明しかねおきいてて見れは風すさむ霜は雪夜の月そ残れる

あかしかね−おきいててみれは−かせすさむ−しもはゆきよの−つきそのこれる


05412
未入力 正徹 (xxx)

にほはねと袖を夜風にまかすれは結ふか霜の花の上の月

にほはねと−そてをよかせに−まかすれは−むすふかしもの−はなのうへのつき


05413
未入力 正徹 (xxx)

月さゆる霜より上のうす霧になかはくもらぬかねのこゑかな

つきさゆる−しもよりうへの−うすきりに−なかはくもらぬ−かねのこゑかな


05414
未入力 正徹 (xxx)

おきまよふ霜のみちひの白玉かなにそは月をみかくはまかせ

おきまよふ−しものみちひの−しらたまか−なにそはつきを−みかくはまかせ


05415
未入力 正徹 (xxx)

月しろき薄の霜のまくりてにやとるともなき有明の影

つきしろき−すすきのしもの−まくりてに−やとるともなき−ありあけのかけ


05416
未入力 正徹 (xxx)

衣てをかさねけるかとたとるまて月影おもしふかき夜の霜

ころもてを−かさねけるかと−たとるまて−つきかけおもし−ふかきよのしも


05417
未入力 正徹 (xxx)

和田の原夜塩も今や霜空にみちたる月の影うかふらん

わたのはら−よしほもいまや−しもそらに−みちたるつきの−かけうかふらむ


05418
未入力 正徹 (xxx)

月のとふ霜夜の夢をさめねとやまくらうこかす暁のかね

つきのとふ−しもよのゆめを−さめねとや−まくらうこかす−あかつきのかね


05419
未入力 正徹 (xxx)

見し夢もをしのふすまの霜に月忘れぬ袖の氷をそとふ

みしゆめも−をしのふすまの−しもにつき−わすれぬそての−こほりをそとふ


05420
未入力 正徹 (xxx)

吹きさゆる霜に草木のこゑはあれと月の氷をしかぬまもなし

ふきさゆる−しもにくさきの−こゑはあれと−つきのこほりを−しかぬまもなし


05421
未入力 正徹 (xxx)

風さえて水なき空のこほれはや月もなかれす霜もみつらん

かせさえて−みつなきそらの−こほれはや−つきもなかれす−しももみつらむ


05422
未入力 正徹 (xxx)

水の面の氷かさねのかみや川たか玉章をかきなかすらん

みつのおもの−こほりかさねの−かみやかは−たかたまつさを−かきなかすらむ


05423
未入力 正徹 (xxx)

さゆる夜の滝の岩浪おちもあへすこほるかくたく暁のこゑ

さゆるよの−たきのいはなみ−おちもあへす−こほるかくたく−あかつきのこゑ


05424
未入力 正徹 (xxx)

月すめは冬の水なき空とちて氷をはらふ夜はの木枯

つきすめは−ふゆのみつなき−そらとちて−こほりをはらふ−よはのこからし


05425
未入力 正徹 (xxx)

すむ月の影みる水のうす氷かつはむすはぬ冬のよのゆめ

すむつきの−かけみるみつの−うすこほり−かつはむすはぬ−ふゆのよのゆめ


05426
未入力 正徹 (xxx)

ゐるの雲の袖氷となりそ行くふもとの川の峰の水上

ゐるくもの−そてのこほりと−なりそゆく−ふもとのかはの−みねのみなかみ


05427
未入力 正徹 (xxx)

すはの海の氷におも荷負ふよりもひま行く駒の足そあやふき

すはのうみの−こほりにおもに−おふよりも−ひまゆくこまの−あしそあやふき


05428
未入力 正徹 (xxx)

雪をまたをさめぬ比の氷室川こほりなれてやうすこほるらん

ゆきをまた−をさめぬころの−ひむろかは−こほりなれてや−うすこほるらむ


05429
未入力 正徹 (xxx)

すはの市にいつる馬人せきあへす氷の野へとなれる海かな

すはのいちに−いつるうまひと−せきあへす−こほりののへと−なれるうみかな


05430
未入力 正徹 (xxx)

山川や冬の氷の関守はみねよりさえてかよふ木からし

やまかはや−ふゆのこほりの−せきもりは−みねよりさえて−かよふこからし


05431
未入力 正徹 (xxx)

山河の氷のしたによするなり木の間もる日の影のささなみ

やまかはの−こほりのしたに−よするなり−このまもるひの−かけのささなみ


05432
未入力 正徹 (xxx)

昨日まて結ひし水のうす氷今朝そあさてをあらひ佗ひぬる

きのふまて−むすひしみつの−うすこほり−けさそあさてを−あらひわひぬる


05433
未入力 正徹 (xxx)

うす氷今朝見えそめぬ水草ゐてなかるる川のよとむ所に

うすこほり−けさみえそめぬ−みくさゐて−なかるるかはの−よとむところに


05434
未入力 正徹 (xxx)

夕月夜入りにし影の猶やとる水やまことのこほりなるらん

ゆふつくよ−いりにしかけの−なほやとる−みつやまことの−こほりなるらむ


05435
未入力 正徹 (xxx)

冬川の汀をぬるみ行く水の弥かたまるや氷なるらん

ふゆかはの−みきはをぬるみ−ゆくみつの−いやかたまるや−こほりなるらむ


05436
未入力 正徹 (xxx)

太山路や氷の下のささ水のさやくなかれもみゆる月影

みやまちや−こほりのしたの−ささみつの−さやくなかれも−みゆるつきかけ


05437
未入力 正徹 (xxx)

うち川や田面にせきし水車めくらぬ浪もこほる冬かな

うちかはや−たのもにせきし−みつくるま−めくらぬなみも−こほるふゆかな


05438
未入力 正徹 (xxx)

夜比へてこほれるよりはおもからすたもとの月や結はさるらん

よころへて−こほれるよりは−おもからす−たもとのつきや−むすはさるらむ


05439
未入力 正徹 (xxx)

ぬれしより氷かさねの袖口に夜比もみゆるきぬのさむけさ

ぬれしより−こほりかさねの−そてくちに−よころもみゆる−きぬのさむけさ


05440
未入力 正徹 (xxx)

冬の池のゆるき氷をくたくなり朝けの庭におつる水鳥

ふゆのいけの−ゆるきこほりを−くたくなり−あさけのにはに−おつるみつとり


05441
未入力 正徹 (xxx)

夜をかさね氷る玉藻の床せはになくやさ山か池のをし鳥

よをかさね−こほるたまもの−とこせはに−なくやさやまか−いけのをしとり


05442
未入力 正徹 (xxx)

冬きてはにこるにしまぬ蓮とも見えぬ枯はのこほる池かな

ふゆきては−にこるにしまぬ−はちすとも−みえぬかれはの−こほるいけかな


05443
未入力 正徹 (xxx)

汗より氷をふみて行く鳥のはるかにくたく末の池水

みきはより−こほりをふみて−ゆくとりの−はるかにくたく−すゑのいけみつ


05444
未入力 正徹 (xxx)

まとかなる冬の池辺の水分けてかたわれ月の程そこほれる

まとかなる−ふゆのいけへの−みつわけて−かたわれつきの−ほとそこほれる


05445
未入力 正徹 (xxx)

よる舟も昨日そちかくみしま江の入江の芦ね氷りとちつつ

よるふねも−きのふそちかく−みしまえの−いりえのあしね−こほりとちつつ


05446
未入力 正徹 (xxx)

宇治川やこほる汀の水車めくる日影にゆるくせもなし

うちかはや−こほるみきはの−みつくるま−めくるひかけに−ゆるくせもなし


05447
未入力 正徹 (xxx)

さしのほる日高の川もとけやらて氷をくたくき路の旅人

さしのほる−ひたかのかはも−とけやらて−こほりをくたく−きちのたひひと


05448
未入力 正徹 (xxx)

冬川の氷のためのあすか風いたつらならぬ梅かかそする

ふゆかはの−こほりのための−あすかかせ−いたつらならぬ−うめかかそする


05449
未入力 正徹 (xxx)

朝わたり駒とめてけりときあへぬひのくま川のあつき氷に

あさわたり−こまとめてけり−ときあへぬ−ひのくまかはの−あつきこほりに


05450
未入力 正徹 (xxx)

水の上に朝霜むすふささ川の一夜のほとにこほる冬かな

みつのうへに−あさしもむすふ−ささかはの−ひとよのほとに−こほるふゆかな


05451
未入力 正徹 (xxx)

暁か氷くたきし朝川の駒のひつめにたつけふりかな

あかつきか−こほりくたきし−あさかはの−こまのひつめに−たつけふりかな


05452
未入力 正徹 (xxx)

あさ川ややかて氷にきしるなりくたきていてし跡のとも舟

あさかはや−やかてこほりに−きしるなり−くたきていてし−あとのともふね


05453
未入力 正徹 (xxx)

山里のかけひのまへのまろ木舟たたへし水ほこほりをそつむ

やまさとの−かけひのまへの−まろきふね−たたへしみつほ−こほりをそつむ


05454
未入力 正徹 (xxx)

にほの海やあるる汀の里さひてこほらぬ浪に舟そよりこぬ

にほのうみや−あるるみきはの−さとさひて−こほらぬなみに−ふねそよりこぬ


05455
未入力 正徹 (xxx)

月そすむ野中の沢の忘水夜かれし鴨の床のこほりに

つきそすむ−のなかのさはの−わすれみつ−よかれしかもの−とこのこほりに


05456
未入力 正徹 (xxx)

山の井の水の氷や結ふてのしつくにくもるかかみなるらん

やまのゐの−みつのこほりや−むすふての−しつくにくもる−かかみなるらむ


05457
未入力 正徹 (xxx)

結ふてにあまるしつくの音すなりおつれはこほる山の井の水

むすふてに−あまるしつくの−おとすなり−おつれはこほる−やまのゐのみつ


05458
未入力 正徹 (xxx)

夜はにたか汲みししつくそ石ゐつつあまるたるひと今朝はなるらん

よはにたか−くみししつくそ−いしゐつつ−あまるたるひと−けさはなるらむ


05459
未入力 正徹 (xxx)

春は見し田な井にふるき水絶えて底のもくつのこほる冬かな

はるはみし−たなゐにふるき−みつたえて−そこのもくつの−こほるふゆかな


05460
未入力 正徹 (xxx)

あすか井の上とふ鳥のかけもみすふるきやとりとこほる冬かな

あすかゐの−うへとふとりの−かけもみす−ふるきやとりと−こほるふゆかな


05461
未入力 正徹 (xxx)

万代と亀井の水もともす火も消えすこほらぬ法の寺かな

よろつよと−かめゐのみつも−ともすひも−きえすこほらぬ−のりのてらかな


05462
未入力 正徹 (xxx)

くみあまりゐつつにかけし水落ちてつららそ茂き冬の山陰

くみあまり−ゐつつにかけし−みつおちて−つららそしけき−ふゆのやまかけ


05463
未入力 正徹 (xxx)

石たたく鳥のこゑをはやり水の氷にとまる庭の朝霜

いしたたく−とりのこゑをは−やりみつの−こほりにとまる−にはのあさしも


05464
未入力 正徹 (xxx)

木の葉なき山のすかたもおとろへてこほれる滝の音そあせ行く

このはなき−やまのすかたも−おとろへて−こほれるたきの−おとそあせゆく


05465
未入力 正徹 (xxx)

引結ふ氷そめくる谷川やきひの中山帯とかすして

ひきむすふ−こほりそめくる−たにかはや−きひのなかやま−おひとかすして


05466
未入力 正徹 (xxx)

宇治川や氷のくさひうつたへに水の車そ絶えてめくらぬ

うちかはや−こほりのくさひ−うつたへに−みつのくるまそ−たえてめくらぬ


05467
未入力 正徹 (xxx)

冬はまた石まの水のうは氷あはに結ふをとく日かけかな

ふゆはまた−いしまのみつの−うはこほり−あはにむすふを−とくひかけかな


05468
未入力 正徹 (xxx)

行く水は岩まをせはみこほりゐて雪になかるる木からしの月

ゆくみつは−いはまをせはみ−こほりゐて−ゆきになかるる−こからしのつき


05469
未入力 正徹 (xxx)

難波江や風にかれたつ芦つつのうすき氷をくたく浪かな

なにはえや−かせにかれたつ−あしつつの−うすきこほりを−くたくなみかな


05470
未入力 正徹 (xxx)

あしつつのうすき氷をかつ結ひかつくたくなり池のささなみ

あしつつの−うすきこほりを−かつむすひ−かつくたくなり−いけのささなみ


05471
未入力 正徹 (xxx)

影見よとこほる山田は山鳥のまへに鏡をみかく冬かな

かけみよと−こほるやまたは−やまとりの−まへにかかみを−みかくふゆかな


05472
未入力 正徹 (xxx)

秋はこし駒のひつめの跡よりそかり田をみれは氷りそめぬる

あきはこし−こまのひつめの−あとよりそ−かりたをみれは−こほりそめぬる


05473
未入力 正徹 (xxx)

みなの川せき入れし水やあさ衣すそわの田井に氷りはつらん

みなのかは−せきいれしみつや−あさころも−すそわのたゐに−こほりはつらむ


05474
未入力 正徹 (xxx)

水こほる山のすそ田の霜のうへにむら鳥おつる柴のあさ風

みつこほる−やまのすそたの−しものうへに−むらとりおつる−しはのあさかせ


05475
未入力 正徹 (xxx)

を山田のおち葉の上のうす氷秋をへたててもる水もなし

をやまたの−おちはのうへの−うすこほり−あきをへたてて−もるみつもなし


05476
未入力 正徹 (xxx)

塩干かた真砂吹きまくうら風に立つや千鳥の跡たにもなし

しほひかた−まさこふきまく−うらかせに−たつやちとりの−あとたにもなし


05477
未入力 正徹 (xxx)

なににかは身をなくさまむわかの浦の友なし千鳥ねにたてすして

なににかは−みをなくさまむ−わかのうらの−ともなしちとり−ねにたてすして


05478
未入力 正徹 (xxx)

浪まより見ゆる小島に行きかへり妻とふかたとなく千鳥かな

なみまより−みゆるこしまに−ゆきかへり−つまとふかたと−なくちとりかな


05479
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦の浜のま砂の百かすに跡つけかねてなく千鳥かな

わかのうらの−はまのまさこの−ももかすに−あとつけかねて−なくちとりかな


05480
未入力 正徹 (xxx)

霜さゆるかれはのますけふみしたきそかの河原に千鳥鳴くなり

しもさゆる−かれはのますけ−ふみしたき−そかのかはらに−ちとりなくなり


05481
未入力 正徹 (xxx)

あはれともたれかは見つの浜千鳥跡ちりうせぬ松のことのは

あはれとも−たれかはみつの−はまちとり−あとちりうせぬ−まつのことのは


05482
未入力 正徹 (xxx)

わたの原島めくりする夕浪に友なし千鳥うかれてや鳴く

わたのはら−しまめくりする−ゆふなみに−ともなしちとり−うかれてやなく


05483
未入力 正徹 (xxx)

渚には立ゐありとや浪よらぬとほきひかたに千鳥なくらん

なきさには−たちゐありとや−なみよらぬ−とほきひかたに−ちとりなくらむ


05484
未入力 正徹 (xxx)

とはぬまはひとりこゑして浜つつらくるる夜ことに千鳥なくなり

とはぬまは−ひとりこゑして−はまつつら−くるるよことに−ちとりなくなり


05485
未入力 正徹 (xxx)

あら磯のとほき浜すにゐる舟のかけたのむかとよる千鳥かな

あらいその−とほきはますに−ゐるふねの−かけたのむかと−よるちとりかな


05486
未入力 正徹 (xxx)

あらき風岩うつ浪のよるのこゑなきたるあさに鳴く千とりかな

あらきかせ−いはうつなみの−よるのこゑ−なきたるあさに−なくちとりかな


05487
未入力 正徹 (xxx)

下折の竹田河原の雪もよには風をさむみ千鳥立つなり

したをれの−たけたかはらの−ゆきもよに−はかせをさむみ−ちとりたつなり


05488
未入力 正徹 (xxx)

ま砂たつ塩風ふけは浜楸とことはにちるむら千鳥かな

まさこたつ−しほかせふけは−はまひさき−とことはにちる−むらちとりかな


05489
未入力 正徹 (xxx)

ふりにけり都の東西川にかよふ千鳥の月にゆくこゑ

ふりにけり−みやこのひかし−にしかはに−かよふちとりの−つきにゆくこゑ


05490
未入力 正徹 (xxx)

和歌のうらや身をすて舟も芦のはにかくれてましる友千鳥かな

わかのうらや−みをすてふねも−あしのはに−かくれてましる−ともちとりかな


05491
未入力 正徹 (xxx)

さ浪たによせこぬうらの夕なきに遠島千とりこゑ伝ふなり

さなみたに−よせこぬうらの−ゆふなきに−とほしまちとり−こゑつたふなり


05492
未入力 正徹 (xxx)

松かねのあら機なみの島めくりいつくをかけと千鳥なくらん

まつかねの−あらいそなみの−しまめくり−いつくをかけと−ちとりなくらむ


05493
未入力 正徹 (xxx)

浦ちかき磯屋の庭にいく度かおりゐるみれは千鳥立つらん

うらちかき−いそやのにはに−いくたひか−おりゐるみれは−ちとりたつらむ


05494
未入力 正徹 (xxx)

里のあまの竹のあみ戸の芦垣もうきふし茂く鳴く千鳥かな

さとのあまの−たけのあみとの−あしかきも−うきふししけく−なくちとりかな


05495
未入力 正徹 (xxx)

山路をはいさ白浪の氷みる立田川原になく千鳥かな

やまちをは−いさしらなみの−こほりみる−たつたかはらに−なくちとりかな


05496
未入力 正徹 (xxx)

河岸やこほらぬ浪にふす竹のよことにうきてなく千鳥かな

かはきしや−こほらぬなみに−ふすたけの−よことにうきて−なくちとりかな


05497
未入力 正徹 (xxx)

浜千鳥霜のは風も身にさむくたつやま砂の有明のこゑ

はまちとり−しものはかせも−みにさむく−たつやまさこの−ありあけのこゑ


05498
未入力 正徹 (xxx)

舟人も興にぬる夜の篷の上にしらすおりゐてなく千鳥かな

ふなひとも−おきにぬるよの−とまのうへに−しらすおりゐて−なくちとりかな


05499
未入力 正徹 (xxx)

和歌の浦の砂の数と年ふりて三代の跡とふ浜千鳥かな

わかのうらの−いさこのかすと−としふりて−みよのあととふ−はまちとりかな


05500
未入力 正徹 (xxx)

なく千鳥いもかりゆかぬ川かせもさゆる夜床にかよふ声かな

なくちとり−いもかりゆかぬ−かはかせも−さゆるよとこに−かよふこゑかな


05501
未入力 正徹 (xxx)

もろともに鳴くや千鳥も水鳥のかもの河原の霜のあけほの

もろともに−なくやちとりも−みつとりの−かものかはらの−しものあけほの


05502
未入力 正徹 (xxx)

浜つつらをりはへてなけうら千鳥あり明の霜も長き夜の月

はまつつら−をりはへてなけ−うらちとり−ありあけのしもも−なかきよのつき


05503
未入力 正徹 (xxx)

すまのあまのころもまとほのうら千鳥浪こす袖に声そちかつく

すまのあまの−ころもまとほの−うらちとり−なみこすそてに−こゑそちかつく


05504
未入力 正徹 (xxx)

浪たかき河辺の茅原かれしよりひろくおりゐて鳴く千鳥かな

なみたかき−かはへのちはら−かれしより−ひろくおりゐて−なくちとりかな


05505
未入力 正徹 (xxx)

をふのうらの友なし千鳥みつ塩になりもならすも浪に鳴く声

をふのうらの−ともなしちとり−みつしほに−なりもならすも−なみになくこゑ


05506
未入力 正徹 (xxx)

飛ふ千鳥した吹きはらふ浜風のま砂をあけてえやはおりゐる

とふちとり−したふきはらふ−はまかせの−まさこをあけて−えやはおりゐる


05507
未入力 正徹 (xxx)

なくこゑにわか名はまたきたつ千鳥人しれぬおくの海にすめとも

なくこゑに−わかなはまたき−たつちとり−ひとしれぬおくの−うみにすめとも


05508
未入力 正徹 (xxx)

袖ふれし天つ乙女の岩ね松かけそとはまに千鳥なくなり

そてふれし−あまつをとめの−いはねまつ−かけそとはまに−ちとりなくなり


05509
未入力 正徹 (xxx)

夕嵐たつた川原にちる柳かけなき岸に千鳥なくなり

ゆふあらし−たつたかはらに−ちるやなき−かけなききしに−ちとりなくなり


05510
未入力 正徹 (xxx)

友千鳥あはれとはしれわかの浦に年をひろふは玉ならすとも

ともちとり−あはれとはしれ−わかのうらに−としをひろふは−たまならすとも


05511
未入力 正徹 (xxx)

松にきえ浪にあらはれ磯つたひ遠きうらわに行く千鳥かな

まつにきえ−なみにあらはれ−いそつたひ−とほきうらわに−ゆくちとりかな


05512
未入力 正徹 (xxx)

旅ねする人ともしらす清見かた岩しく袖にゐる千鳥かな

たひねする−ひとともしらす−きよみかた−いはしくそてに−ゐるちとりかな


05513
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦の夜の塩干に光そふ玉のこゑかる友千鳥かな

わかのうらの−よるのしほひに−ひかりそふ−たまのこゑかる−ともちとりかな


05514
未入力 正徹 (xxx)

芦そよく難波のみつの塩こえてこと浦風に千鳥なくなり

あしそよく−なにはのみつの−しほこえて−ことうらかせに−ちとりなくなり


05515
未入力 正徹 (xxx)

世中よいつくのうらの浪風か心とまらんたつ千とりかな

よのなかよ−いつくのうらの−なみかせか−こころとまらむ−たつちとりかな


05516
未入力 正徹 (xxx)

夕千鳥妻もかれてや浜つつらくるかひなしと浪になくらん

ゆふちとり−つまもかれてや−はまつつら−くるかひなしと−なみになくらむ


05517
未入力 正徹 (xxx)

天乙女おりゐし跡もこと浜に真砂をしたふ千鳥なくらし

あまをとめ−おりゐしあとも−ことはまに−まさこをしたふ−ちとりなくらし


05518
未入力 正徹 (xxx)

真砂たつはま松かねの塩風にあらはれ消えて行く千鳥かな

まさこたつ−はままつかねの−しほかせに−あらはれきえて−ゆくちとりかな


05519
未入力 正徹 (xxx)

花はみなかれにし菊のはま千鳥あととほさかる声そうつろふ

はなはみな−かれにしきくの−はまちとり−あととほさかる−こゑそうつろふ


05520
未入力 正徹 (xxx)

したふとや天くたりにし糸竹のこゑうとはまに千鳥なくらん

したふとや−あまくたりにし−いとたけの−こゑうとはまに−ちとりなくらむ


05521
未入力 正徹 (xxx)

鳴く千とり浪のあけおくはまの石のこまかに聞くもこゑそかなしき

なくちとり−なみのあけおく−はまのいしの−こまかにきくも−こゑそかなしき


05522
未入力 正徹 (xxx)

うら千鳥今そ塩干のかたはかりつたへし道の光をも見る

うらちとり−いまそしほひの−かたはかり−つたへしみちの−ひかりをもみる


05523
未入力 正徹 (xxx)

浦つたふ千鳥も見えす夕浪の島めくりするおとはかりして

うらつたふ−ちとりもみえす−ゆふなみの−しまめくりする−おとはかりして


05524
未入力 正徹 (xxx)

さそふてふ水ならぬ浪にうち佗ひて身をうき島になく千鳥かな

さそふてふ−みつならぬなみに−うちわひて−みをうきしまに−なくちとりかな


05525
未入力 正徹 (xxx)

浪路ゆく千鳥のこゑにゆらの戸やわたらぬ夢のかへる舟人

なみちゆく−ちとりのこゑに−ゆらのとや−わたらぬゆめの−かへるふなひと


05526
未入力 正徹 (xxx)

おりゐれは磯うつ浪に玉ゆらのとわたる千鳥声そ残れる

おりゐれは−いそうつなみに−たまゆらの−とわたるちとり−こゑそのこれる


05527
未入力 正徹 (xxx)

湊いてのかいのしつくにぬれぬれす舟につれゆくむら千鳥かな

みなといての−かいのしつくに−ぬれぬれす−ふねにつれゆく−むらちとりかな


05528
未入力 正徹 (xxx)

うれしくも身をはやつさて墨染の袖のみなとによる千鳥かな

うれしくも−みをはやつさて−すみそめの−そてのみなとに−よるちとりかな


05529
未入力 正徹 (xxx)

湊川なみさかのほる満しほに声のみおちてゆく千鳥かな

みなとかは−なみさかのほる−みつしほに−こゑのみおちて−ゆくちとりかな


05530
未入力 正徹 (xxx)

むらねする鳥も生田の湊川おなし淵せになく千鳥かな

むらねする−とりもいくたの−みなとかは−おなしふちせに−なくちとりかな


05531
未入力 正徹 (xxx)

千鳥なくみなとのあまはたかためにぬるるならひのなき袂かな

ちとりなく−みなとのあまは−たかために−ぬるるならひの−なきたもとかな


05532
未入力 正徹 (xxx)

かるもかくゐなの湊になく千鳥ふし原ちかし夢やさむらん

かるもかく−ゐなのみなとに−なくちとり−ふしはらちかし−ゆめやさむらむ


05533
未入力 正徹 (xxx)

みなと川わたる千鳥も今朝みれは涙やこほる鳴くこゑもせす

みなとかは−わたるちとりも−けさみれは−なみたやこほる−なくこゑもせす


05534
未入力 正徹 (xxx)

なくなくもつまとふ千鳥憑む江をわたれとぬれぬ氷のみして

なくなくも−つまとふちとり−たのむえを−わたれとぬれぬ−こほりのみして


05535
未入力 正徹 (xxx)

さす塩のいまや入江のみをつくしたつ空こえて鳴く千鳥かな

さすしほの−いまやいりえの−みをつくし−たつそらこえて−なくちとりかな


05536
未入力 正徹 (xxx)

里人も堤おりきて明けわたる河との浪に千鳥なくなり

さとひとも−つつみおりきて−あけわたる−かはとのなみに−ちとりなくなり


05537
未入力 正徹 (xxx)

冬川の瀬による玉藻床はあれとをりゐぬ浪に鳴く千鳥かな

ふゆかはの−せによるたまも−とこはあれと−をりゐぬなみに−なくちとりかな


05538
未入力 正徹 (xxx)

やす川やひをまつ夜はの網代木にちかくよりきて鳴く千鳥かな

やすかはや−ひをまつよはの−あしろきに−ちかくよりきて−なくちとりかな


05539
未入力 正徹 (xxx)

月ふくるそかの里人音もせて河原の霜に千鳥なくなり

つきふくる−そかのさとひと−おともせて−かはらのしもに−ちとりなくなり


05540
未入力 正徹 (xxx)

ましれとも身をやきすてぬ思川水の煙に千鳥なくなり

ましれとも−みをやきすてぬ−おもひかは−みつのけふりに−ちとりなくなり


05541
未入力 正徹 (xxx)

友千鳥川せの玉もかりそめに羽うちかはし別れてそなく

ともちとり−かはせのたまも−かりそめに−はねうちかはし−わかれてそなく


05542
未入力 正徹 (xxx)

よるかたも浪にかたふく川竹のうきたる世をや千鳥なくらん

よるかたも−なみにかたふく−かはたけの−うきたるよをや−ちとりなくらむ


05543
未入力 正徹 (xxx)

心あらはむつた川せにさすさてのあはれもらすな千鳥鳴くこゑ

こころあらは−むつたかはせに−さすさての−あはれもらすな−ちとりなくこゑ


05544
未入力 正徹 (xxx)

妻こふる思ひの煙たてすてて朝川わたりゆく千鳥かな

つまこふる−おもひのけふり−たてすてて−あさかはわたり−ゆくちとりかな


05545
未入力 正徹 (xxx)

住吉のきし方つらき草の名を忘れぬねにや千鳥なくらん

すみよしの−きしかたつらき−くさのなを−わすれぬねにや−ちとりなくらむ


05546
未入力 正徹 (xxx)

にほの海やつはさにかかる磯浪になほしほたれて鳴く千鳥かな

にほのうみや−つはさにかかる−いそなみに−なほしほたれて−なくちとりかな


05547
未入力 正徹 (xxx)

はま千鳥やまとにもあらぬから泊から声になく塩や満つらん

はまちとり−やまとにもあらぬ−からとまり−からこゑになく−しほやみつらむ


05548
未入力 正徹 (xxx)

さ夜千鳥暁かたこなる滝やにしの川せの月になくなり

さよちとり−あかつきかたこ−なるたきや−にしのかはせの−つきになくなり


05549
未入力 正徹 (xxx)

暁の床のうら風よわくふけ老の浪路に千鳥なくなり

あかつきの−とこのうらかせ−よわくふけ−おいのなみちに−ちとりなくなり


05550
未入力 正徹 (xxx)

いさり火の暁かたの影消えてうら風くらくなく千鳥かな

いさりひの−あかつきかたの−かけきえて−うらかせくらく−なくちとりかな


05551
未入力 正徹 (xxx)

かよひなく千鳥もひとり水たえしふるき川原に有明の月

かよひなく−ちとりもひとり−みつたえし−ふるきかはらに−ありあけのつき


05552
未入力 正徹 (xxx)

はま千鳥なくねかなしき明暮にたか衣衣の袖のうら人

はまちとり−なくねかなしき−あけくれに−たかきぬきぬの−そてのうらひと


05553
未入力 正徹 (xxx)

風さゆる河原の千鳥おりわひて鳴くや有明の霜の白石

かせさゆる−かはらのちとり−おりわひて−なくやありあけの−しものしらいし


05554
未入力 正徹 (xxx)

明くれも河原の石のかすみゆる霜を光に行く千とりかな

あけくれも−かはらのいしの−かすみゆる−しもをひかりに−ゆくちとりかな


05555
未入力 正徹 (xxx)

ますけこす夕浪さむみ友千鳥そかひもわたるそかの川かせ

ますけこす−ゆふなみさむみ−ともちとり−そかひもわたる−そかのかはかせ


05556
未入力 正徹 (xxx)

興つなみ磯松風もうらふれて夕ゐる雲になく千鳥かな

おきつなみ−いそまつかせも−うらふれて−ゆふゐるくもに−なくちとりかな


05557
未入力 正徹 (xxx)

ねにそなく空に夜わたる友千鳥あとなき夢の行へをや知る

ねにそなく−そらによわたる−ともちとり−あとなきゆめの−ゆくへをやしる


05558
未入力 正徹 (xxx)

千鳥なき暁霜やますけふくこゑさへさゆるそかの川かせ

ちとりなき−あかつきしもや−ますけふく−こゑさへさゆる−そかのかはかせ


05559
未入力 正徹 (xxx)

月さゆる都の霜もふかき夜にいつくともなき千鳥ひとこゑ

つきさゆる−みやこのしもも−ふかきよに−いつくともなき−ちとりひとこゑ


05560
未入力 正徹 (xxx)

なく千鳥おつる涙もこほるらん河へのち原ふかき夜の霜

なくちとり−おつるなみたも−こほるらむ−かはへのちはら−ふかきよのしも


05561
未入力 正徹 (xxx)

はま千鳥あり明の霜のま砂山月にこえくる声のさむけき

はまちとり−ありあけのしもの−まさこやま−つきにこえくる−こゑのさむけき


05562
未入力 正徹 (xxx)

人みに今そさし出の磯千鳥君か八千世のこゑをしるへに

ひとなみに−いまそさしての−いそちとり−きみかやちよの−こゑをしるへに


05563
未入力 正徹 (xxx)

汀なみ塩みちのほる浜川の橋におりゐてゆく千鳥かな

みきはなみ−しほみちのほる−はまかはの−はしにおりゐて−ゆくちとりかな


05564
未入力 正徹 (xxx)

つららゐる玉藻のまくらむすほほれ夢路やまよふ池のをし鳥

つららゐる−たまものまくら−むすほほれ−ゆめちやまよふ−いけのをしとり


05565
未入力 正徹 (xxx)

いつの世かつかひはなれしをし鳥の芦のしのひにひとりなく声

いつのよか−つかひはなれし−をしとりの−あしのしのひに−ひとりなくこゑ


05566
未入力 正徹 (xxx)

そこふかき池の心を契にてつかひはなれぬ鴛のこゑこゑ

そこふかき−いけのこころを−ちきりにて−つかひはなれぬ−をしのこゑこゑ


05567
未入力 正徹 (xxx)

あし鴨のむれ立つ空の朝くもり霜のは風もなれや寒けき

あしかもの−むれたつそらの−あさくもり−しものはかせも−なれやさむけき


05568
未入力 正徹 (xxx)

寒き夜の水の氷に鴨そなく鳥の八こゑも梢なるらん

さむきよの−みつのこほりに−かもそなく−とりのやこゑも−こすゑなるらむ


05569
未入力 正徹 (xxx)

なかれても入江にあさきさされ水それにもたたぬ鴨の足かな

なかれても−いりえにあさき−さされみつ−それにもたたぬ−かものあしかな


05570
未入力 正徹 (xxx)

わか方によるへの水と憑みてや神の御池に鳥もすむらん

わかかたに−よるへのみつと−たのみてや−かみのみいけに−とりもすむらむ


05571
未入力 正徹 (xxx)

からろおす小舟をちかみ水鳥のむらねおとろく暁のこゑ

からろおす−をふねをちかみ−みつとりの−むらねおとろく−あかつきのこゑ


05572
未入力 正徹 (xxx)

鴨とりのこほらぬ淵にうかひても上毛の霜やはらひかぬらん

かもとりの−こほらぬふちに−うかひても−うはけのしもや−はらひかぬらむ


05573
未入力 正徹 (xxx)

いかはかりさえけん床そ水鳥の空に過きゆく暁のこゑ

いかはかり−さえけむとこそ−みつとりの−そらにすきゆく−あかつきのこゑ


05574
未入力 正徹 (xxx)

雪ゐとふ便におちて行く鳥の跡なき水のあはれ世中

くもゐとふ−たよりにおちて−ゆくとりの−あとなきみつの−あはれよのなか


05575
未入力 正徹 (xxx)

をし鳥のおのかつかひも池水をさらぬかかみやこほりなるらん

をしとりの−おのかつかひも−いけみつを−さらぬかかみや−こほりなるらむ


05576
未入力 正徹 (xxx)

水もなき空にめくりて聞ゆなり雲を汀のあしかものこゑ

みつもなき−そらにめくりて−きこゆなり−くもをみきはの−あしかものこゑ


05577
未入力 正徹 (xxx)

霜はらひ空にこゑする鴨の足のみしかき冬の日はさむくして

しもはらひ−そらにこゑする−かものあしの−みしかきふゆの−ひはさむくして


05578
未入力 正徹 (xxx)

霜くもる朝日もおちてくれなゐに紫ましる水のかもとり

しもくもる−あさひもおちて−くれなゐに−むらさきましる−みつのかもとり


05579
未入力 正徹 (xxx)

冬の日は入江立ちゆく鴫の足の空にみしかく暮るる比かな

ふゆのひは−いりえたちゆく−かものあしの−そらにみしかく−くるるころかな


05580
未入力 正徹 (xxx)

をりにあふさとかくらせり神のます杜の池へのすす鴨のこゑ

をりにあふ−さとかくらせり−かみのます−もりのいけへの−すすかものこゑ


05581
未入力 正徹 (xxx)

は風にそみたれてのこる水鳥の立ちにし池の冬の朝霧

はかせにそ−みたれてのこる−みつとりの−たちにしいけの−ふゆのあさきり


05582
未入力 正徹 (xxx)

人すまぬ野沢の水にかたふきてあるるささやのすす鴨の声

ひとすまぬ−のさはのみつに−かたふきて−あるるささやの−すすかものこゑ


05583
未入力 正徹 (xxx)

かも鳥のくかに足たつ水かきはあるもかひなき時をしれとや

かもとりの−くかにあしたつ−みつかきは−あるもかひなき−ときをしれとや


05584
未入力 正徹 (xxx)

鴨鳥のおのか青羽のむら紅葉みちたる池の水の木からし

かもとりの−おのかあをはの−むらもみち−みちたるいけの−みつのこからし


05585
未入力 正徹 (xxx)

をし鴨の上毛をこゆる白玉のまなくそこほる池のささなみ

をしかもの−うはけをこゆる−しらたまの−まなくそこほる−いけのささなみ


05586
未入力 正徹 (xxx)

霜こほる水のうき草かれしよりおのれたたよふ池の鴛かも

しもこほる−みつのうきくさ−かれしより−おのれたたよふ−いけのをしかも


05587
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駅路のいつくの池を立ちきてか夜出こゆるすすかものこゑ

うまやちの−いつくのいけを−たちきてか−よるやまこゆる−すすかものこゑ


05588
未入力 正徹 (xxx)

こほるより跡たちはてて水鳥もすまぬはかひの山の井の水

こほるより−あとたちはてて−みつとりも−すまぬはかひの−やまのゐのみつ


05589
未入力 正徹 (xxx)

暁の木すゑの鴛のはらふ雪池のこほりにおつるさむけさ

あかつきの−こすゑのをしの−はらふゆき−いけのこほりに−おつるさむけさ


05590
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梅かえにきゐるはうとし水鳥のうは毛の霜の花になく声

うめかえに−きゐるはうとし−みつとりの−うはけのしもの−はなになくこゑ


05591
未入力 正徹 (xxx)

氷ゐてうかふせもなし水鳥のたのむ青はの山川のなみ

こほりゐて−うかふせもなし−みつとりの−たのむあをはの−やまかはのなみ


05592
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今朝そしる恋ひつつ夢に水鳥のはかひの霜のふるきよの友

けさそしる−こひつつゆめに−みつとりの−はかひのしもの−ふるきよのとも


05593
未入力 正徹 (xxx)

をしかもの氷ふみ分けなくこゑにむすほほれつる夢そ解けゆく

をしかもの−こほりふみわけ−なくこゑに−むすほほれつる−ゆめそとけゆく


05594
未入力 正徹 (xxx)

みるもうし氷かさねてうき鳥のすむ池水もせはくなる世を

みるもうし−こほりかさねて−うきとりの−すむいけみつも−せはくなるよを


05595
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かよひこし玉もへたつる冬の池の氷にあそふかもの一つれ

かよひこし−たまもへたつる−ふゆのいけの−こほりにあそふ−かものひとつれ


05596
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秋の霜冬の氷をつるきはのよそにはなれぬ池のをし鳥

あきのしも−ふゆのこほりを−つるきはの−よそにはなれぬ−いけのをしとり


05597
未入力 正徹 (xxx)

けふもきて巌の松も水鳥もなき世の池の跡をしそ思ふ

けふもきて−いはほのまつも−みつとりも−なきよのいけの−あとをしそおもふ


05598
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氷ゐるふちせはなれてとふ鳥のあすか川かせ吹きさえぬらし

こほりゐる−ふちせはなれて−とふとりの−あすかかはかせ−ふきさえぬらし


05599
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をし鳥の妻あらそはぬ独ねも心そきよき山川の水

をしとりの−つまあらそはぬ−ひとりねも−こころそきよき−やまかはのみつ


05600
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冬もなほしつやなつみの川とみん浪にむら立つ鴨の上毛を

ふゆもなほ−しつやなつみの−かはとみむ−なみにむらたつ−かものうはけを


05601
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名取川せせの埋木水鳥のかくれんかけもあらしふく日は

なとりかは−せせのうもれき−みつとりの−かくれむかけも−あらしふくひは


05602
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人の世もかはらぬものをにこり江にすむをうしとや鴛の鳴くらん

ひとのよも−かはらぬものを−にこりえに−すむをうしとや−をしのなくらむ


05603
未入力 正徹 (xxx)

こほらすはつもりそかねん夕ま暮鳥もねぬまの水の白雪

こほらすは−つもりそかねむ−ゆふまくれ−とりもねぬまの−みつのしらゆき


05604
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芦見ゆるひかたとなりて引く塩の鴨の足たつ浪そ残れる

あしみゆる−ひかたとなりて−ひくしほの−かものあしたつ−なみそのこれる


05605
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入江なみこほらぬ程や鵜鳰とりも玉もの床に友さそふらん

いりえなみ−こほらぬほとや−にほとりも−たまものとこに−ともさそふらむ


05606
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水そこの玉藻をかつくにほ鳥にうきて友なふ池のをし鳥

みなそこの−たまもをかつく−にほとりに−うきてともなふ−いけのをしとり


05607
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川岸に鳥はかへりをさす舟の氷をくたくおとさやけとも

かはきしに−とりはかへりを−さすふねの−こほりをくたく−おとさやけとも


05608
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鳴く鴛のひとりの外は鳥もこて氷にせはき広沢の池

なくをしの−ひとりのほかは−とりもこて−こほりにせはき−ひろさはのいけ


05609
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さえわたる月も今夜はみし影のやとる水なき池のうき鳥

さえわたる−つきもこよひは−みしかけの−やとるみつなき−いけのうきとり


05610
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冬かれの山の嵐はさそはねと木の葉こきちらす池の浮鳥

ふゆかれの−やまのあらしは−さそはねと−このはこきちらす−いけのうきとり


05611
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ちりてうく木の葉も池に水鳥の色かすそふる冬の山かせ

ちりてうく−このはもいけに−みつとりの−いろかすそふる−ふゆのやまかせ


05612
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浪にふす雪の下根に床しめて雪に出入るにほの村鳥

なみにふす−ゆきのしたねに−とこしめて−ゆきにいている−にほのむらとり


05613
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いそくとや夜出こえて駅路のあり明の月にすす鴨の声

いそくとや−よるやまこえて−うまやちの−ありあけのつきに−すすかものこゑ


05614
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をし鴨のむれ行く空に満つ霜もこはるかおつる明ほのの声

をしかもの−むれゆくそらに−みつしもも−こほるかおつる−あけほののこゑ


05615
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野沢たつ霜の朝気のうす曇まよふか帰るをしの一声

のさはたつ−しものあさけの−うすくもり−まよふかかへる−をしのひとこゑ


05616
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八十瀬まてむれゐるみれは鴨の名のすすか河原のしののめの霜

やそせまて−むれゐるみれは−かものなの−すすかかはらの−しののめのしも


05617
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うす氷むねにくたきて行く鴛の跡もかくれぬ水の江の月

うすこほり−むねにくたきて−ゆくをしの−あともかくれぬ−みつのえのつき


05618
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ふかきよの霜にそさゆる水鳥のわたるはかひの山のはの月

ふかきよの−しもにそさゆる−みつとりの−わたるはかひの−やまのはのつき


05619
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鴛鴨の雲の浪わけ夜わたるもこほらぬ空にすまれやはせん

をしかもの−くものなみわけ−よわたるも−こほらぬそらに−すまれやはせむ


05620
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夜やさむき氷をきしるを車の鴨鳥くたく淀の川なみ

よやさむき−こほりをきしる−をくるまの−かもとりくたく−よとのかはなみ


05621
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さむき夜を鴛の衾もよそにして我につかはぬ村鳥の声

さむきよを−をしのふすまも−よそにして−われにつかはぬ−むらとりのこゑ


05622
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たつ鳥に独はなるる枕にも涙そおつるこゑはよそにて

たつとりに−ひとりはなるる−まくらにも−なみたそおつる−こゑはよそにて


05623
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初雪もふるや霰の玉章に翅をおもみ雁わたるなり

はつゆきも−ふるやあられの−たまつさに−つはさをおもみ−かりわたるなり


05624
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天つ雁つはさの雪やおちさらんわたる雲路のつつきならすは

あまつかり−つはさのゆきや−おちさらむ−わたるくもちの−つつきならすは


05625
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山もとのを田のいなくきふみしたきむれゐる雁も雪払ふなり

やまもとの−をたのいなくき−ふみしたき−むれゐるかりも−ゆきはらふなり


05626
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影きえてこほりし月も尾上こすふふきの奥にかすむ雁かね

かけきえて−こほりしつきも−をのへこす−ふふきのおくに−かすむかりかね


05627
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空にみつ霜夜の雁も鳴きおちて田中の杉に有明の月

そらにみつ−しもよのかりも−なきおちて−たなかのすきに−ありあけのつき


05628
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いなくきに雪ほならひて水寒き刈田をみれは雁ひとりなく

いなくきに−ゆきほならひて−みつさむき−かりたをみれは−かりひとりなく


05629
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冬の夢おとろきいつる槙の戸の霜よの月にわたる雁金

ふゆのゆめ−おとろきいつる−まきのとの−しもよのつきに−わたるかりかね


05630
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山もとにむれ行く鷺のこゑきけは翅に雪を雁そなくなみ

やまもとに−むれゆくさきの−こゑきけは−つはさにゆきを−かりそなくなみ


05631
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雁のゐる翅の色をそれとみて落つるかを田の雪の白鷺

かりのゐる−つはさのいろを−それとみて−おつるかをたの−ゆきのしらさき


05632
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雁のぬる田中の竹の雪折におとろきさわく夕暮の声

かりのぬる−たなかのたけの−ゆきをれに−おとろきさわく−ゆふくれのこゑ


05633
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明けわたる鳥羽田の雪に白鳥のおりゐるみれは雁そ鳴くなる

あけわたる−とはたのゆきに−しらとりの−おりゐるみれは−かりそなくなる


05634
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冬かれのぬなはひしつるはみすてて池の上田に雁そむれゐる

ふゆかれの−ぬなはひしつる−はみすてて−いけのうへたに−かりそむれゐる


05635
未入力 正徹 (xxx)

ふりつもる田のもの雪にかき絶えて鴫なき床を雁そ鳴くなる

ふりつもる−たのものゆきに−かきたえて−しきなきとこを−かりそなくなる


05636
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いかかねんこほる浜名の湊田に海わたりきぬくらゐかりかね

いかかねむ−こほるはまなの−みなとたに−うみわたりきぬ−くらゐかりかね


05637
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鳴きおちて田長もしらぬ霜雪の氷かさねの衣かりかね

なきおちて−たをさもしらぬ−しもゆきの−こほりかさねの−ころもかりかね


05638
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雪さそふ夕山嵐さそひきて落つる田面にまよふ雁金

ゆきさそふ−ゆふやまあらし−さそひきて−おつるたのもに−まよふかりかね


05639
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雲路ゆく雁の涙も氷りおつるをちかた人の袖の夕暮

くもちゆく−かりのなみたも−こほりおつる−をちかたひとの−そてのゆふくれ


05640
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神な月春の林のゆふ霜を花とみなから雁やかへらぬ

かみなつき−はるのはやしの−ゆふしもを−はなとみなから−かりやかへらぬ


05641
未入力 正徹 (xxx)

氷みる入江の磯のすて舟におのれ梶とる雁のこゑかな

こほりみる−いりえのいその−すてふねに−おのれかちとる−かりのこゑかな


05642
未入力 正徹 (xxx)

玉章を煙になすや冬の朝けたつ水の江に雁のなくらん

たまつさを−けふりになすや−ふゆのあさけ−たつみつのえに−かりのなくらむ


05643
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なかれ江の苗のはしろきわた衣をさむき翅にかくる雁金

なかれえの−あしのほしろき−わたきぬを−さむきつはさに−かくるかりかね


05644
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霜はらふ山松風も木ふかくて星きよき夜の雁の一声

しもはらふ−やままつかせも−こふかくて−ほしきよきよの−かりのひとこゑ


05645
未入力 正徹 (xxx)

やとりとれいつく鳥立と見えぬまて暮るる狩はに雪はふりきぬ

やとりとれ−いつくとたちと−みえぬまて−くるるかりはに−ゆきはふりきぬ


05646
未入力 正徹 (xxx)

かりくらしこよひは我もふし柴にかくるる鳥をあすやたてまし

かりくらし−こよひはわれも−ふししはに−かくるるとりを−あすやたてまし


05647
未入力 正徹 (xxx)

たとひわれかるへき身とは生るとも一も鳥をいかてたてまし

たとひわれ−かるへきみとは−うまるとも−ひとつもとりを−いかてたてまし


05648
未入力 正徹 (xxx)

ふる雪は袖のみかろしかり衣とはゆる鷹のはらふは風に

ふるゆきは−そてのみかろし−かりころも−とはゆるたかの−はらふはかせに


05649
未入力 正徹 (xxx)

あすもこんおとろか下に狩りこめて一はもたたぬ鳥や落つらん

あすもこむ−おとろかしたに−かりこめて−ひとはもたたぬ−とりやおつらむ


05650
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代代たえぬ天つひろきのかり衣ふるき御幸のあともかしこし

よよたえぬ−あまつひろきの−かりころも−ふるきみゆきの−あともかしこし


05651
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かり衣つはさもさむし箸鷹のすゑ尾の竹の霜の下道

かりころも−つはさもさむし−はしたかの−すゑをのたけの−しものしたみち


05652
未入力 正徹 (xxx)

鳥はなほおとろきふすや箸鷹のならすをふさのすすの下道

とりはなほ−おとろきふすや−はしたかの−ならすをふさの−すすのしたみち


05653
未入力 正徹 (xxx)

翅うつあられ山かせあら鷹をけふたはなすに心そらなり

つはさうつ−あられやまかせ−あらたかを−けふたはなすに−こころそらなり


05654
未入力 正徹 (xxx)

山里の垣ほの外のふか萱に犬よひこしているるかり人

やまさとの−かきほのほかの−ふかかやに−いぬよひこして−いるるかりひと


05655
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犬いるる谷のおとろの雪の上に尾を引く鳥の路や見えけん

いぬいるる−たにのおとろの−ゆきのうへに−ををひくとりの−みちやみえけむ


05656
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霜ふりて朝風さむし入る山の鷹の尾ふさのすすのしの原

しもふりて−あさかせさむし−いるやまの−たかのをふさの−すすのしのはら


05657
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鳥のふす草はかくれぬうす雪にかり声さむし夕暮のこゑ

とりのふす−くさはかくれぬ−うすゆきに−かりこゑさむし−ゆふくれのこゑ


05658
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芹川やすりかり衣きし方もふるき御幸はたつなき渡る

せりかはや−すりかりころも−きしかたも−ふるきみゆきは−たつなきわたる


05659
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はし鷹を岡の村柴吹きかへし嵐そおつる鳥はなくして

はしたかを−をかのむらしは−ふきかへし−あらしそおつる−とりはなくして


05660
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木のもとに鷹とりつなけかり衣袖もしほほに雹ふりきぬ

このもとに−たかとりつなけ−かりころも−そてもしほほに−あられふりきぬ


05661
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おとすなりは風や雪を払ふらんたはなす鷹のすすのしの原

おとすなり−はかせやゆきを−はらふらむ−たはなすたかの−すすのしのはら


05662
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かりは行く袖にそくもるはし鷹のとはへてちらす雪の一むら

かりはゆく−そてにそくもる−はしたかの−とはへてちらす−ゆきのひとむら


05663
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暮るる野のふふきはやみて箸鷹のかりこゑのこる雪の山もと

くるるのの−ふふきはやみて−はしたかの−かりこゑのこる−ゆきのやまもと


05664
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もののふを思へはなとかいてさらんはるるかりはのをののうす雪

もののふを−おもへはなとか−いてさらむ−はるるかりはの−をののうすゆき


05665
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ふす鳥をかりこゑききて思はすや今こそよその峰に立つ鹿

ふすとりを−かりこゑききて−おもはすや−いまこそよその−みねにたつしか


05666
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夕とかりかへる野風に柴さやくあられも鈴も玉の声して

ゆふとかり−かへるのかせに−しはさやく−あられもすすも−たまのこゑして


05667
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暮れわたる山路の雲をかり衣かさねに嵐さむきかへさに

くれわたる−やまちのくもを−かりころも−かさねにあらし−さむきかへさに


05668
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あらはれし緑も見えぬ霜の松さてしも年はふかき色かな

あらはれし−みとりもみえぬ−しものまつ−さてしもとしは−ふかきいろかな


05669
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さゆる日の松の古木のかは衣からまくほしき雪の朝風

さゆるひの−まつのふるきの−かはころも−からまくほしき−ゆきのあさかせ


05670
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一木たつ冬野の松の朝霜に落ちたる月をはらふ木からし

ひときたつ−ふゆののまつの−あさしもに−おちたるつきを−はらふこからし


05671
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うつみても緑かくれぬ霜の松雪よりさむき木枯の声

うつみても−みとりかくれぬ−しものまつ−ゆきよりさむき−こからしのこゑ


05672
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朝日さす雪か霜かもわかぬまにしつくにこほる岡のへの松

あさひさす−ゆきかしもかも−わかぬまに−しつくにこほる−をかのへのまつ


05673
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朝けたつ煙もたえぬ松のはの霜なから吹く山の嵐に

あさけたつ−けふりもたえぬ−まつのはの−しもなからふく−やまのあらしに


05674
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松の色に夏は涼しく冬のはに雪つもらねとあたたかにみゆ

まつのいろに−なつはすすしく−ふゆのはに−ゆきつもらねと−あたたかにみゆ


05675
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今朝ふるも氷りてさむき木の本に去年みし霜の松はたくらん

けさふるも−こほりてさむき−このもとに−こそみししもの−まつはたくらむ


05676
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山松の霜の下なるうす緑日影の露に色そそひゆく

やままつの−しものしたなる−うすみとり−ひかけのつゆに−いろそそひゆく


05677
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年さむき都の宿の松かえをきけ住吉のうらの神風

としさむき−みやこのやとの−まつかえを−きけすみよしの−うらのかみかせ


05678
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今日そ冬月の朝けの野への草嶺の松葉にさゆる嵐は

けふそふゆ−つきのあさけの−のへのくさ−みねのまつはに−さゆるあらしは


05679
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木の葉せくを川よとみて霜こほる松の嵐そむすほほれ行く

このはせく−をかはよとみて−しもこほる−まつのあらしそ−むすほほれゆく


05680
未入力 正徹 (xxx)

朝日影露となときそ松の葉にさきうる霜の花の下紐

あさひかけ−つゆとなときそ−まつのはに−さきうるしもの−はなのしたひも


05681
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雪ふらはあたたかならむ松のはのことわりしらぬ霜のあさ明

ゆきふらは−あたたかならむ−まつのはの−ことわりしらぬ−しものあさあけ


05682
未入力 正徹 (xxx)

松か枝に朝おく霜の花のやとにほふかしらす鶴の毛衣

まつかえに−あさおくしもの−はなのやと−にほふかしらす−つるのけころも


05683
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山きはの色に朝日はちかつきてこほれる霜にさわく松風

やまきはの−いろにあさひは−ちかつきて−こほれるしもに−さわくまつかせ


05684
未入力 正徹 (xxx)

松の色は霜の後とそ思ひこし先あらはれてちる木の葉かな

まつのいろは−しもののちとそ−おもひこし−まつあらはれて−ちるこのはかな


05685
未入力 正徹 (xxx)

枝ことに一葉のこさぬ霜のこゑ松よりさむし杜の木枯

えたことに−ひとはのこさぬ−しものこゑ−まつよりさむし−もりのこからし


05686
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こん年にちるへき程の花の葉も木毎の枝にこもる冬かな

こむとしに−ちるへきほとの−はなのはも−きことのえたに−こもるふゆかな


05687
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いくとせそ庭の松笠さしなから猶あらはるる霜の緑は

いくとせそ−にはのまつかさ−さしなから−なほあらはるる−しものみとりは


05688
未入力 正徹 (xxx)

杜のはののこるも見えぬ枝の霜嵐にこほるおとそはけしき

もりのはの−のこるもみえぬ−えたのしも−あらしにこほる−おとそはけしき


05689
未入力 正徹 (xxx)

山ふかみひろふ人なき落椎の下柴かくれくつる冬かな

やまふかみ−ひろふひとなき−おちしひの−したしはかくれ−くつるふゆかな


05690
未入力 正徹 (xxx)

朝けもる旅にしあれは椎のはの霜の花折る宿の山かつ

あさけもる−たひにしあれは−しひのはの−しものはなをる−やとのやまかつ


05691
未入力 正徹 (xxx)

山かせの柴吹きかへす日影にも椎のうら葉の消えぬ霜かな

やまかせの−しはふきかへす−ひかけにも−しひのうらはの−きえぬしもかな


05692
未入力 正徹 (xxx)

嶺わたる月に光をそへてけりうらよりしろき椎のはの霜

みねわたる−つきにひかりを−そへてけり−うらよりしろき−しひのはのしも


05693
未入力 正徹 (xxx)

山陰や朝霜消えぬ椎柴にさやきくらせる霰木からし

やまかけや−あさしもきえぬ−しひしはに−さやきくらせる−あられこからし


05694
未入力 正徹 (xxx)

うら葉さへ霜の色かる椎柴にむかひそへたる嶺の月影

うらはさへ−しものいろかる−しひしはに−むかひそへたる−みねのつきかけ


05695
未入力 正徹 (xxx)

網代うつ音をもいかか椎柴や庭のあらしの宇治の川なみ

あしろうつ−おとをもいかか−しひしはや−にはのあらしの−うちのかはなみ


05696
未入力 正徹 (xxx)

峰に生ふるたか椎柴の袖さえて冬の嵐のこゑいとふらん

みねにおふる−たかしひしはの−そてさえて−ふゆのあらしの−こゑいとふらむ


05697
未入力 正徹 (xxx)

吹きかへす嶺の嵐にはれくもる椎のうら葉の雪の月かけ

ふきかへす−みねのあらしに−はれくもる−しひのうらはの−ゆきのつきかけ


05698
未入力 正徹 (xxx)

うき世には嵐にたくふ椎柴の身は落ちふるる木の本の庵

うきよには−あらしにたくふ−しひしはの−みはおちふるる−このもとのいほ


05699
未入力 正徹 (xxx)

山人のひろひし後の椎か本あられおち散り木からしそふく

やまひとの−ひろひしのちの−しひかもと−あられおちちり−こからしそふく


05700
未入力 正徹 (xxx)

難波江におふるのみかはおしなへてとよ蘆原は冬かれにけり

なにはえに−おふるのみかは−おしなへて−とよあしはらは−ふゆかれにけり


05701
未入力 正徹 (xxx)

こやの池にかくれて住みし水鳥の床あらはなる蘆の霜かれ

こやのいけに−かくれてすみし−みつとりの−とこあらはなる−あしのしもかれ


05702
未入力 正徹 (xxx)

霜はらふ風もたまらぬ蘆のはにかくれわひぬるこやの里人

しもはらふ−かせもたまらぬ−あしのはに−かくれわひぬる−こやのさとひと


05703
未入力 正徹 (xxx)

霜さえてこほらぬ浪はよする江にわたれとぬれぬ蘆のうら風

しもさえて−こほらぬなみは−よするえに−わたれとぬれぬ−あしのうらかせ


05704
未入力 正徹 (xxx)

さやくなり入江の氷下とちてなひかぬ蘆の霜の風をれ

さやくなり−いりえのこほり−したとちて−なひかぬあしの−しものかさをれ


05705
未入力 正徹 (xxx)

みしま江や霜にをれふす蘆つつのあらはにうすく氷る浪かな

みしまえや−しもにをれふす−あしつつの−あらはにうすく−こほるなみかな


05706
未入力 正徹 (xxx)

えやはみん難波の蘆の冬の夢夜はにかりふの霜のあけほの

えやはみむ−なにはのあしの−ふゆのゆめ−よはにかりふの−しものあけほの


05707
未入力 正徹 (xxx)

しまつ鳥うとのの蘆そしのに立つちり葉つもりて浅き江もなし

しまつとり−うとののあしそ−しのにたつ−ちりはつもりて−あさきえもなし


05708
未入力 正徹 (xxx)

かれわたる玉江の蘆をいつる日の葉わけの影もさゆる霜かな

かれわたる−たまえのあしを−いつるひの−はわけのかけも−さゆるしもかな


05709
未入力 正徹 (xxx)

霜おけはこやにみしかき夏かりのあしのよのまにかるる霜かな

しもおけは−こやにみしかき−なつかりの−あしのよのまに−かるるしもかな


05710
未入力 正徹 (xxx)

ちりはてて入江の蘆にうく蘆のかれ葉吹きよする風そそよかぬ

ちりはてて−いりえのあしに−うくあしの−かれはふきよする−かせそそよかぬ


05711
未入力 正徹 (xxx)

難波人思ひすてなて蘆のはにしみつく霜のあはれ世間

なにはひと−おもひすてなて−あしのはに−しみつくしもの−あはれよのなか


05712
未入力 正徹 (xxx)

あまを舟霜にふしたる蘆分も氷にさはる江にそよりこぬ

あまをふね−しもにふしたる−あしわけも−こほりにさはる−えにそよりこぬ


05713
未入力 正徹 (xxx)

川浪の煙をかけてよるひをは今朝たに見えぬうちの網代木

かはなみの−けふりをかけて−よるひをは−けさたにみえぬ−うちのあしろき


05714
未入力 正徹 (xxx)

ありふるもよそにやはみん網代木によるひを虫のあたの命を

ありふるも−よそにやはみむ−あしろきに−よるひをむしの−あたのいのちを


05715
未入力 正徹 (xxx)

田上や網代のかかりちかくともなほ衣手に霜やさゆらん

たなかみや−あしろのかかり−ちかくとも−なほころもてに−しもやさゆらむ


05716
未入力 正徹 (xxx)

川浪にあしろのかかりちかけれとなほてをさむみうちあかしつつ

かはなみに−あしろのかかり−ちかけれと−なほてをさむみ−うちあかしつつ


05717
未入力 正徹 (xxx)

橋ひめの浪にかた敷く衣ての田上つつく宇治の網代木

はしひめの−なみにかたしく−ころもての−たなかみつつく−うちのあしろき


05718
未入力 正徹 (xxx)

はかなしや網代にちかき河なみの木の葉にあそふひをの心は

はかなしや−あしろにちかき−かはなみの−このはにあそふ−ひをのこころは


05719
未入力 正徹 (xxx)

かかりたく網代になるる川長は宿にぬる夜の袖やさむけき

かかりたく−あしろになるる−かはをさは−やとにぬるよの−そてやさむけき


05720
未入力 正徹 (xxx)

老そうき田上川にすむひをもなほよるかたほある世なりけり

おいそうき−たなかみかはに−すむひをも−なほよるかたは−あるよなりけり


05721
未入力 正徹 (xxx)

河かせや網代うつをのてをさむみかかりも雪に消かたの空

かはかせや−あしろうつをの−てをさむみ−かかりもゆきに−きえかたのそら


05722
未入力 正徹 (xxx)

宇治川のまきの島わけ白妙におつる網代の布引の滝

うちかはの−まきのしまわけ−しろたへに−おつるあしろの−ぬのひきのたき


05723
未入力 正徹 (xxx)

里の名もうち山颪さむき夜の河音ふけて網代うつ声

さとのなも−うちやまおろし−さむきよの−かはおとふけて−あしろうつこゑ


05724
未入力 正徹 (xxx)

こほるらし八十氏人によるひををよそにうらみぬ橋ひめの袖

こほるらし−やそうちひとに−よるひをを−よそにうらみぬ−はしひめのそて


05725
未入力 正徹 (xxx)

ひまをなみ稲はかりてし田上やひたより後はあしろうつおと

ひまをなみ−いなはかりてし−たなかみや−ひたよりのちは−あしろうつおと


05726
未入力 正徹 (xxx)

宇治川や網代の底の麻布をよ所に尋ねぬまきの島人

うちかはや−あしろのそこの−あさぬのを−よそにたつねぬ−まきのしまひと


05727
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かかり火によりてそあたる里の子の網代もる男をしる人にして

かかりひに−よりてそあたる−さとのこの−あしろもるをを−しるひとにして


05728
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みなそこの雪を照して氷りけり網代の布にやとる月影

みなそこの−ゆきをてらして−こほりけり−あしろのぬのに−やとるつきかけ


05729
未入力 正徹 (xxx)

網代もる床にたく火のかけはかり河なみ立ちてこほる夜はかな

あしろもる−とこにたくひの−かけはかり−かはなみたちて−こほるよはかな


05730
未入力 正徹 (xxx)

めくらすてたてるもさひしうち川や網代にならふ水の小車

めくらすて−たてるもさひし−うちかはや−あしろにならふ−みつのをくるま


05731
未入力 正徹 (xxx)

田上やあさ川かけてゐる雲はたか衣手の網代もるらん

たなかみや−あさかはかけて−ゐるくもは−たかころもての−あしろもるらむ


05732
未入力 正徹 (xxx)

浪による網代の木の葉かきませて氷魚もていつるうちの里人

なみによる−あしろのこのは−かきませて−ひをもていつる−うちのさとひと


05733
未入力 正徹 (xxx)

川かせにひとり網代をうつ雨のくらき夜床はもる人もなし

かはかせに−ひとりあしろを−うつあめの−くらきよとこは−もるひともなし


05734
未入力 正徹 (xxx)

田上や網代のかかりかけ消えて雨よりあかす夜半の衣て

たなかみや−あしろのかかり−かけきえて−あめよりあかす−よはのころもて


05735
未入力 正徹 (xxx)

さゆる日もたか衣ての田上に川なみなれて網代もるらん

さゆるひも−たかころもての−たなかみに−かはなみなれて−あしろもるらむ


05736
未入力 正徹 (xxx)

氷のみいふきおろしの網代木にひをさへよらぬやすの川なみ

こほりのみ−いふきおろしの−あしろきに−ひをさへよらぬ−やすのかはなみ


05737
未入力 正徹 (xxx)

待つ夜ねぬうちの橋守もりあかす網代も袖もこほる浪かな

まつよねぬ−うちのはしもり−もりあかす−あしろもそても−こほるなみかな


05738
未入力 正徹 (xxx)

里ちかき田上川のさ夜風にきぬたは絶えて網代うつこゑ

さとちかき−たなかみかはの−さよかせに−きぬたはたえて−あしろうつこゑ


05739
未入力 正徹 (xxx)

かかりたく網代に床やならふらん又うつこゑは夜はのさ衣

かかりたく−あしろにとこや−ならふらむ−またうつこゑは−よはのさころも


05740
未入力 正徹 (xxx)

宇治川や網代の布のうちはへてみなそこしろくやとる月影

うちかはや−あしろのぬのの−うちはへて−みなそこしろく−やとるつきかけ


05741
未入力 正徹 (xxx)

みなそこの雪に木の葉のよるみえて網代の布に氷る月影

みなそこの−ゆきにこのはの−よるみえて−あしろのぬのに−こほるつきかけ


05742
未入力 正徹 (xxx)

山のはの雲をはなれて網代木にいさよふ色やこほるしら浪

やまのはの−くもをはなれて−あしろきに−いさよふいろや−こほるしらなみ


05743
未入力 正徹 (xxx)

宮人か月の桂のかけの枝をりしく浪に網代うつこゑ

みやひとか−つきのかつらの−かけのえた−をりしくなみに−あしろうつこゑ


05744
未入力 正徹 (xxx)

川長のあはれ後の世網代木のくいの八千たひ身をやくたさん

かはをさの−あはれのちのよ−あしろきの−くいのやちたひ−みをやくたさむ


05745
未入力 正徹 (xxx)

朝あけや峰に雪みる炭かまの煙みしかきをのの山もと

あさあけや−みねにゆきみる−すみかまの−けふりみしかき−をののやまもと


05746
未入力 正徹 (xxx)

すみかまの雪や氷をいそきてもわか年さむきをのの山人

すみかまの−ゆきやこほりを−いそきても−わかとしさむき−をののやまひと


05747
未入力 正徹 (xxx)

やきはつるまきの炭かまぬりこめて煙たえ行く山のさひしさ

やきはつる−まきのすみかま−ぬりこめて−けふりたえゆく−やまのさひしさ


05748
未入力 正徹 (xxx)

風ふけは煙もすくにのほらぬや横山すみのしるしなるらん

かせふけは−けふりもすくに−のほらぬや−よこやますみの−しるしなるらむ


05749
未入力 正徹 (xxx)

朝またき炭やく山にいつる日のくもるとみるや煙なるらん

あさまたき−すみやくやまに−いつるひの−くもるとみるや−けふりなるらむ


05750
未入力 正徹 (xxx)

宇治川の水より立つや山颪に槙の炭やくけふりなるらん

うちかはの−みつよりたつや−やまおろしに−まきのすみやく−けふりなるらむ


05751
未入力 正徹 (xxx)

ともしせしは山の陰に鹿はこて煙たちあかす峰のすみかま

ともしせし−はやまのかけに−しかはこて−けふりたちあかす−みねのすみかま


05752
未入力 正徹 (xxx)

煙をも又ぬりこめていたさぬやすみのかまとのかまへなるらん

けふりをも−またぬりこめて−いたさぬや−すみのかまとの−かまへなるらむ


05753
未入力 正徹 (xxx)

山人のやく炭かまをぬりこめてかへる里にや煙たつらん

やまひとの−やくすみかまを−ぬりこめて−かへるさとにや−けふりたつらむ


05754
未入力 正徹 (xxx)

をの山のすみの煙も吹きとかす嵐や空にこほりはつらん

をのやまの−すみのけふりも−ふきとかす−あらしやそらに−こほりはつらむ


05755
未入力 正徹 (xxx)

山ふかく炭やくしつや衣てにおつるしつくを雪と知るらん

やまふかく−すみやくしつや−ころもてに−おつるしつくを−ゆきとしるらむ


05756
未入力 正徹 (xxx)

雪のうちに煙そたゆる焼きはてて又ぬりこむる嶺のすみかま

ゆきのうちに−けふりそたゆる−たきはてて−またぬりこむる−みねのすみかま


05757
未入力 正徹 (xxx)

とことはにふせる床山やく炭をいそく心もしらぬ冬かな

とことはに−ふせるとこやま−やくすみを−いそくこころも−しらぬふゆかな


05758
未入力 正徹 (xxx)

嶺も尾も山そにきほふ煙立つすみのかまとのあまたかまへに

みねもをも−やまそにきほふ−けふりたつ−すみのかまとの−あまたかまへに


05759
未入力 正徹 (xxx)

みねの松かた枝さしおほふすみかまの煙そむせふ雪の下露

みねのまつ−かたえさしおほふ−すみかまの−けふりそむせふ−ゆきのしたつゆ


05760
未入力 正徹 (xxx)

雪のうちにすみやく煙あかつきの雲も横山あらし吹くらし

ゆきのうちに−すみやくけふり−あかつきの−くももよこやま−あらしふくらし


05761
未入力 正徹 (xxx)

いてん日や袖さえかねんすみかまを焼く火にあたるをのの山人

いてむひや−そてさえかねむ−すみかまを−たくひにあたる−をののやまひと


05762
未入力 正徹 (xxx)

もちつるる翁かかみのしろ炭もよこ山いつる雪の下道

もちつるる−おきなかかみの−しろすみも−よこやまいつる−ゆきのしたみち


05763
未入力 正徹 (xxx)

今朝いつるを野山人のもつ炭にふらぬ都の雪をみるかな

けさいつる−をのやまひとの−もつすみに−ふらぬみやこの−ゆきをみるかな


05764
未入力 正徹 (xxx)

つきせすよをのの山田に猶たてるくぬ木の炭はいてぬ日もなし

つきせすよ−をののやまたに−なほたてる−くぬきのすみは−いてぬひもなし


05765
未入力 正徹 (xxx)

薪こり炭やく山の陰の海に煙うらやむあまのもしほ火

たききこり−すみやくやまの−かけのうみに−けふりうらやむ−あまのもしほひ


05766
未入力 正徹 (xxx)

すみかまの嶺の煙も山風になかれてくたる宇治の川なみ

すみかまの−みねのけふりも−やまかせに−なかれてくたる−うちのかはなみ


05767
未入力 正徹 (xxx)

外山にはをののおとして里人の煙をたえぬまきの炭かま

とやまには−をののおとして−さとひとの−けふりをたえぬ−まきのすみかま


05768
未入力 正徹 (xxx)

尋ぬへし遠山ひめの思ひよりもえてもたたぬすみの煙は

たつぬへし−とほやまひめの−おもひより−もえてもたたぬ−すみのけふりは


05769
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる雲もよこ山炭やくや煙かしろくたちのほるなり

あけわたる−くももよこやま−すみやくや−けふりかしろく−たちのほるなり


05770
未入力 正徹 (xxx)

風ふけはは山おく山なひきあふすみの煙や峰のかけ橋

かせふけは−はやまおくやま−なひきあふ−すみのけふりや−みねのかけはし


05771
未入力 正徹 (xxx)

薄煙くもれる前に色こきや今たきいつる山のすみかま

うすけふり−くもれるまへに−いろこきや−いまたきいつる−やまのすみかま


05772
未入力 正徹 (xxx)

雪をこひ氷をねかふ炭かまの煙や雲の波となるらん

ゆきをこひ−こほりをねかふ−すみかまの−けふりやくもの−なみとなるらむ


05773
未入力 正徹 (xxx)

雪氷さむきねかひもことたえて煙やほそき嶺の炭かま

ゆきこほり−さむきねかひも−ことたえて−けふりやほそき−みねのすみかま


05774
未入力 正徹 (xxx)

木をたちしをのの行末か炭かまの煙吹ききる太山嵐は

きをたちし−をののゆくへか−すみかまの−けふりふききる−みやまあらしは


05775
未入力 正徹 (xxx)

ふりそくるすみやく山の夕煙くもる契は雪にふかくて

ふりそくる−すみやくやまの−ゆふけふり−くもるちきりは−ゆきにふかくて


05776
未入力 正徹 (xxx)

せめてもと猶かきつめて向ふかなうつまれぬ火ののこる光を

せめてもと−なほかきつめて−むかふかな−うつまれぬひの−のこるひかりを


05777
未入力 正徹 (xxx)

灯の光そかすむ埋火のほそきけふりやねやにみつらん

ともしひの−ひかりそかすむ−うつみひの−ほそきけふりや−ねやにみつらむ


05778
未入力 正徹 (xxx)

おやの親このこの世まて山かつのほたの火けたて形見とやみる

おやのおや−このこのよまて−やまかつの−ほたのひけたて−かたみとやみる


05779
未入力 正徹 (xxx)

山入のやきもつくさぬ炭かまの煙やのこる夜はのうつみ火

やまひとの−やきもつくさぬ−すみかまの−けふりやのこる−よはのうつみひ


05780
未入力 正徹 (xxx)

埋火の灰の蛍をあつめ置きて柴たきたつる暁の窓

うつみひの−はひのほたるを−あつめおきて−しはたきたつる−あかつきのまと


05781
未入力 正徹 (xxx)

わつかにもうつむこそあれ朝毎に火を取る程の宿のあはれさ

わつかにも−うつむこそあれ−あさことに−ひをとるほとの−やとのあはれさ


05782
未入力 正徹 (xxx)

冬はなと霜雪木の葉おこす火を閨にもうつむならひなるらん

ふゆはなと−しもゆきこのは−おこすひを−ねやにもうつむ−ならひなるらむ


05783
未入力 正徹 (xxx)

さして世にすることわさのあらはこそ名を埋火の身ともうらみめ

さしてよに−することわさの−あらはこそ−なをうつみひの−みともうらみめ


05784
未入力 正徹 (xxx)

霜やおく柴たきすてて埋火はよひより消えて袖そさむけき

しもやおく−しはたきすてて−うつみひは−よひよりきえて−そてそさむけき


05785
未入力 正徹 (xxx)

みしかくはなるとも見えす焼直きしほたの丸木の丸ねせしまは

みしかくは−なるともみえす−たきおきし−ほたのまろきの−まろねせしまは


05786
未入力 正徹 (xxx)

雪のうちにたく火やたえん山里もかねてこり置く薪ならすは

ゆきのうちに−たくひやたえむ−やまさとも−かねてこりおく−たききならすは


05787
未入力 正徹 (xxx)

吹きはれぬ雪さへそちる残火の灰たちのほるこすの下かせ

ふきはれぬ−ゆきさへそちる−のこりひの−はひたちのほる−こすのしたかせ


05788
未入力 正徹 (xxx)

さえわひて閨にたく火の煙こそ冬こもりする窓の月影

さえわひて−ねやにたくひの−けふりこそ−ふゆこもりする−まとのつきかけ


05789
未入力 正徹 (xxx)

しつかにとむかへる灰のはしり火もいそかしき年を知るならはうし

しつかにと−むかへるはひの−はしりひも−いそかしきとしを−しるならはうし


05790
未入力 正徹 (xxx)

火もたかす人も影せぬあはらやにさえたる灰を払ふ山かせ

ひもたかす−ひともかけせぬ−あはらやに−さえたるはひを−はらふやまかせ


05791
未入力 正徹 (xxx)

もえぬ火のありとも見えぬほたの上に松葉かきたく冬の山かつ

もえぬひの−ありともみえぬ−ほたのうへに−まつはかきたく−ふゆのやまかつ


05792
未入力 正徹 (xxx)

ま柴たく煙をいたす槙の戸に雪ふふき入る庭の木枯

ましはたく−けふりをいたす−まきのとに−ゆきふふきいる−にはのこからし


05793
未入力 正徹 (xxx)

さえわふる民をはしらすむかふ火に夜の衣をひとへぬきぬる

さえわふる−たみをはしらす−むかふひに−よるのころもを−ひとへぬきぬる


05794
未入力 正徹 (xxx)

消えのこる火桶の灰にかく文字のてすさみうすき夜はの灯

きえのこる−ひをけのはひに−かくもしの−てすさみうすき−よはのともしひ


05795
未入力 正徹 (xxx)

明けぬなり床も衾もさえとほる霜夜の火桶身にちかくして

あけぬなり−とこもふすまも−さえとほる−しもよのひをけ−みにちかくして


05796
未入力 正徹 (xxx)

うつみ火のもとの契もあらはれて心とけたるまとゐをそする

うつみひの−もとのちきりも−あらはれて−こころとけたる−まとゐをそする


05797
未入力 正徹 (xxx)

人ならは思ふ中とも見えぬへし立ちさりかたき埋火のもと

ひとならは−おもふなかとも−みえぬへし−たちさりかたき−うつみひのもと


05798
未入力 正徹 (xxx)

なつかしくむかふ埋火人の世にかはらす老をいとはましかは

なつかしく−むかふうつみひ−ひとのよに−かはらすおいを−いとはましかは


05799
未入力 正徹 (xxx)

心ありていとははいかにおこす火の老にむかはぬ時のまもなし

こころありて−いとははいかに−おこすひの−おいにむかはぬ−ときのまもなし


05800
未入力 正徹 (xxx)

干しやらぬま柴ふすふかむかひ火はうちそむかれて又そはなれぬ

ほしやらぬ−ましはふすふか−むかひひは−うちそむかれて−またそはなれぬ


05801
未入力 正徹 (xxx)

閨の火もうつまぬさきに雪さえて氷にとまる軒の玉水

ねやのひも−うつまぬさきに−ゆきさえて−こほりにとまる−のきのたまみつ


05802
未入力 正徹 (xxx)

さえそ行くおく火の上の白灰もふるらん雪のふかき夜の空

さえそゆく−おくひのうへの−しらはひも−ふるらむゆきの−ふかきよのそら


05803
未入力 正徹 (xxx)

まきの屋にほたたく埋立ちかすみこぬ春ふかき山の色かな

まきのやに−ほたたくけふり−たちかすみ−こぬはるふかき−やまのいろかな


05804
未入力 正徹 (xxx)

春やときたえすをりたくしはしたに冬の影みぬ閨の霞は

はるやとき−たえすをりたく−しはしたに−ふゆのかけみぬ−ねやのかすみは


05805
未入力 正徹 (xxx)

埋火のあたりをぬるみまとろめは行末とほき春のよの夢

うつみひの−あたりをぬるみ−まとろめは−ゆくすゑとほき−はるのよのゆめ


05806
未入力 正徹 (xxx)

うつみ火のうすき煙の閨のうちに春の霞の衣をそきる

うつみひの−うすきけふりの−ねやのうちに−はるのかすみの−ころもをそきる


05807
未入力 正徹 (xxx)

見しやいつ心とけつるうつみ火に春のねふりの冬のよの夢

みしやいつ−こころとけつる−うつみひに−はるのねふりの−ふゆのよのゆめ


05808
未入力 正徹 (xxx)

いにしへをたとるたとるそかたりつるくらふの山のすみのほかけに

いにしへを−たとるたとるそ−かたりつる−くらふのやまの−すみのほかけに


05809
未入力 正徹 (xxx)

たきさしてたたつかのまをふし柴の煙こりしく床のうへかな

たきさして−たたつかのまを−ふししはの−けふりこりしく−とこのうへかな


05810
未入力 正徹 (xxx)

荒れわたるね屋に焼く火の影もるをかこはぬ雪はひかりかへつつ

あれわたる−ねやにたくひの−かけもるを−かこはぬゆきは−ひかりかへつつ


05811
未入力 正徹 (xxx)

すさましや閨の埋火みなつきて灰もぬるまぬ暁の袖

すさましや−ねやのうつみひ−みなつきて−はひもぬるまぬ−あかつきのそて


05812
未入力 正徹 (xxx)

暁の灰にまきるるちりのひも山とやならむ四方の炭かま

あかつきの−はひにまきるる−ちりのひも−やまとやならむ−よものすみかま


05813
未入力 正徹 (xxx)

明かたの灰すさましく石の火のいてしはかりにのこるかけかな

あけかたの−はひすさましく−いしのひの−いてしはかりに−のこるかけかな


05814
未入力 正徹 (xxx)

とにかくにさえあかすこそ埋火の影まてうすき衣なりけれ

とにかくに−さえあかすこそ−うつみひの−かけまてうすき−ころもなりけれ


05815
未入力 正徹 (xxx)

なにか世に身のあらはれんうつみ火のうつもるる名の消えははつとも

なにかよに−みのあらはれむ−うつみひの−うつもるるなの−きえははつとも


05816
未入力 正徹 (xxx)

埋火を又かきおこす閨の上のはしに音する雪の下水

うつみひを−またかきおこす−ねやのうへの−はしにおとする−ゆきのしたみつ


05817
未入力 正徹 (xxx)

閨の上の雪には猶もうつみ火をたきあかせともさゆる袖かな

ねやのうへの−ゆきにはなほも−うつみひを−たきあかせとも−さゆるそてかな


05818
未入力 正徹 (xxx)

うつみ火に炭さしそへてしつかなるね屋の光に明くるをそ待つ

うつみひに−すみさしそへて−しつかなる−ねやのひかりに−あくるをそまつ


05819
未入力 正徹 (xxx)

夜とてしてかへる閨にそ埋火のあたたかなるもさすか知らるる

よとてして−かへるねやにそ−うつみひの−あたたかなるも−さすかしらるる


05820
未入力 正徹 (xxx)

老いはてて寒き霜夜に消えぬへき我をいけ置く埋火のもと

おいはてて−さむきしもよに−きえぬへき−われをいけおく−うつみひのもと


05821
未入力 正徹 (xxx)

深けにけり戸もほそ殿の長すひつ火もいけおかす人音もせす

ふけにけり−ともほそとのの−なかすひつ−ひもいけおかす−ひとおともせす


05822
未入力 正徹 (xxx)

てもふれぬね屋の扇に冬そ思ふ又うつみ火も夏残らはと

てもふれぬ−ねやのあふきに−ふゆそおもふ−またうつみひも−なつのこらはと


05823
未入力 正徹 (xxx)

ふる霰ねやもりあへす埋火におのれも消えて光けつこゑ

ふるあられ−ねやもりあへす−うつみひに−おのれもきえて−ひかりけつこゑ


05824
未入力 正徹 (xxx)

うつみてはぬるき火桶の手すさみに煙たておく閨の焼物

うつみては−ぬるきひをけの−てすさみに−けふりたておく−ねやのたきもの


05825
未入力 正徹 (xxx)

こほるらし雹におもき蓑の毛に玉のこゑする道の山かせ

こほるらし−あられにおもき−みののけに−たまのこゑする−みちのやまかせ


05826
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬるるふもとのみそれ猶さえて山路のおくは雪のみそふる

そてぬるる−ふもとのみそれ−なほさえて−やまちのおくは−ゆきのみそふる


05827
未入力 正徹 (xxx)

たひ衣きそのかさぬのぬれこほるみそれにとまる坂の下庵

たひころも−きそのかさぬの−ぬれこほる−みそれにとまる−さかのしたいほ


05828
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その山にくらせる代代の跡ふりて雪に絶えにし江にこそ有りけれ

そのやまに−くらせるよよの−あとふりて−ゆきにたえにし−えにこそありけれ


05829
未入力 正徹 (xxx)

とにかくにとはれぬ跡は見えぬへし雪の下なる庭のよもきふ

とにかくに−とはれぬあとは−みえぬへし−ゆきのしたなる−にはのよもきふ


05830
未入力 正徹 (xxx)

雪は猶空にそふかき白雲にひかりをそふるあり明の月

ゆきはなほ−そらにそふかき−しらくもに−ひかりをそふる−ありあけのつき


05831
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つきてふるいつくほあれと富士のねにつもるや雪の泊なるらん

つきてふる−いつくほあれと−ふしのねに−つもるやゆきの−とまりなるらむ


05832
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あらち山峰の白雪やたののに浅ちをかけてうつむ比かな

あらちやま−みねのしらゆき−やたののに−あさちをかけて−うつむころかな


05833
未入力 正徹 (xxx)

いくへにかつもりそふらんとふ人のまたれしまての宿の白雪

いくへにか−つもりそふらむ−とふひとの−またれしまての−やとのしらゆき


05834
未入力 正徹 (xxx)

峰の雲ふもとの浪も白たへになかれてつもる雪の川かせ

みねのくも−ふもとのなみも−しろたへに−なかれてつもる−ゆきのかはかせ


05835
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湊舟とまもふきあへすここほしくる雪にたたよふひらのねおろし

みなとふね−とまもふきあへす−こほしくる−ゆきにたたよふ−ひらのねおろし


05836
未入力 正徹 (xxx)

うつもるるこしのひら屋の雪の中に夜ならぬ火をともすとそきく

うつもるる−こしのひらやの−ゆきのうちに−よるならぬひを−ともすとそきく


05837
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雪つもるみほの杣山下折れて消えぬ梢そあまたあれ行く

ゆきつもる−みほのそまやま−したをれて−きえぬこすゑそ−あまたあれゆく


05838
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世世ふれとためしそ消えぬ雪の山庭につくりし秋の宮人

よよふれと−ためしそきえぬ−ゆきのやま−にはにつくりし−あきのみやひと


05839
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かた岡の村柴そよき風さえて雲の行てに雪は降りきぬ

かたをかの−むらしはそよき−かせさえて−くものゆくてに−ゆきはふりきぬ


05840
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今年又心にかけて行く雲や雪をめくらす風のすかたを

ことしまた−こころにかけて−ゆくくもや−ゆきをめくらす−かせのすかたを


05841
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ときは木の梢の雪やつもるらん空くらき夜の山そさやけき

ときはきの−こすゑのゆきや−つもるらむ−そらくらきよの−やまそさやけき


05842
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風ませにあらく落しはしつまりてこまかにつもる庭の白雪

かせませに−あらくおちしは−しつまりて−こまかにつもる−にはのしらゆき


05843
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今は世に都の朝けふりいてて雪みる人の情たになし

いまはよに−みやこのあさけ−ふりいてて−ゆきみるひとの−こころたになし


05844
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身をかへぬ雪の朝も世中は見しにもあらぬ所とそなる

みをかへぬ−ゆきのあしたも−よのなかは−みしにもあらぬ−ところとそなる


05845
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降りくらす雪の白淡した折の松のうら葉そしはしくもれる

ふりくらす−ゆきのしらあわ−したをれの−まつのうらはそ−しはしくもれる


05846
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ぬしやたれ別路もしらす明くる夜の雪にかさぬる衣笠の山

ぬしやたれ−わかれちもしらす−あくるよの−ゆきにかさぬる−きぬかさのやま


05847
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雲さむみ雪をまさしきあらき風吹きしつまりてくるる空かな

くもさむみ−ゆきをまさしき−あらきかせ−ふきしつまりて−くるるそらかな


05848
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雪おもるそはの下柴岩ね松なたれてうつむ谷の篠原

ゆきおもる−そはのしたしは−いはねまつ−なたれてうつむ−たにのささはら


05849
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一あれのふふきの後は音もせて雪かきたるる世は静なり

ひとあれの−ふふきののちは−おともせて−ゆきかきたるる−よはしつかなり


05850
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玉鉾のみちの朝けを先きけは雪ふむ暮そ高くつもれる

たまほこの−みちのあさけを−まつきけは−ゆきふむくれそ−たかくつもれる


05851
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月花もかくやは有りし世中の塵を雪めてつもる冬かな

つきはなも−かくやはありし−よのなかの−ちりをゆきめて−つもるふゆかな


05852
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袖さむし雪さへ今朝はあまさかるひなのあら野は雪降るらしも

そてさむし−ゆきさへけさは−あまさかる−ひなのあらのは−ゆきふるらしも


05853
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つららよりしつくは落ちてけさやかに朝日かかれる軒の白雪

つららより−しつくはおちて−けさやかに−あさひかかれる−のきのしらゆき


05854
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空ほなほこほすかことくふりつもるを野の御室の冬の夕暮

そらはなほ−こほすかことく−ふりつもる−をののみむろの−ふゆのゆふくれ


05855
未入力 正徹 (xxx)

空さえてうちちる雪も村村につもる冬のの霜の朝かせ

そらさえて−うちちるゆきも−むらむらに−つもるふゆのの−しものあさかせ


05856
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さむけしや嵐に杉のかれはたく雪にあふ坂の関やもる人

さむけしや−あらしにすきの−かれはたく−ゆきにあふさかの−せきやもるひと


05857
未入力 正徹 (xxx)

雲したふ雪もはしめて世にふるはたつきなしとやつもりわふらん

くもしたふ−ゆきもはしめて−よにふるは−たつきなしとや−つもりわふらむ


05858
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神な月ふる初雪の下もみちわか葉色こき春の花かな

かみなつき−ふるはつゆきの−したもみち−わかはいろこき−はるのはなかな


05859
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こきませし柳さくらの春の夢見わたせは又雪の初花

こきませし−やなきさくらの−はるのゆめ−みわたせはまた−ゆきのはつはな


05860
未入力 正徹 (xxx)

降りそむる都の野へにこゑすなりきかぬ太山の松の雪折

ふりそむる−みやこののへに−こゑすなり−きかぬみやまの−まつのゆきをれ


05861
未入力 正徹 (xxx)

冬はまた行末とほき山のはの初雪をしくふる時雨かな

ふゆはまた−ゆくすゑとほき−やまのはの−はつゆきをしく−ふるしくれかな


05862
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天つ風さゆる夕に立つ雪のちかき高ねははつ雪そふる

あまつかせ−さゆるゆふへに−たつゆきの−ちかきたかねは−はつゆきそふる


05863
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あなし山嵐にとけぬ夕たたみかけて見ゆるや嶺の初雪

あなしやま−あらしにとけぬ−ゆふたたみ−かけてみゆるや−みねのはつゆき


05864
未入力 正徹 (xxx)

かつはるる雲の汀の松風になみかさなれる峰のはつ雪

かつはるる−くものみきはの−まつかせに−なみかさなれる−みねのはつゆき


05865
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ふりそむる雪さへ友を松の戸に跡みし人そ年にまれなる

ふりそむる−ゆきさへともを−まつのとに−あとみしひとそ−としにまれなる


05866
未入力 正徹 (xxx)

つもれたた庭のをしへの跡たにもあらはと思ふ宿の白雪

つもれたた−にはのをしへの−あとたにも−あらはとおもふ−やとのしらゆき


05867
未入力 正徹 (xxx)

庭の苔砌のま砂色わけてうつみもはてすはるる初雪

にはのこけ−みきりのまさこ−いろわけて−うつみもはてす−はるるはつゆき


05868
未入力 正徹 (xxx)

見もなれす所もしらぬ朝明の雲まの雪やもろこしの山

みもなれす−ところもしらぬ−あさあけの−くもまのゆきや−もろこしのやま


05869
未入力 正徹 (xxx)

今朝そみる山や浪まの外ならぬ興つ塩あひにうかふあは雪

けさそみる−やまやなみまの−ほかならぬ−おきつしほあひに−うかふあはゆき


05870
未入力 正徹 (xxx)

久かたの空よりちりて又さくや雲まの嶺の雪の初花

ひさかたの−そらよりちりて−またさくや−くもまのみねの−ゆきのはつはな


05871
未入力 正徹 (xxx)

白たへの色も所もさたまらす雲まの山や雪ふふくらん

しろたへの−いろもところも−さたまらす−くもまのやまや−ゆきふふくらむ


05872
未入力 正徹 (xxx)

遠かたの入日のかけに紅のこそめの雪と見ゆる山かな

をちかたの−いりひのかけに−くれなゐの−こそめのゆきと−みゆるやまかな


05873
未入力 正徹 (xxx)

かつらきや雲まの雪になひくなり山鳥の尾のしたり柳は

かつらきや−くもまのゆきに−なひくなり−やまとりのをの−したりやなきは


05874
未入力 正徹 (xxx)

空はれて国をへたつる山のはも雪に見えたる窓の朝明

そらはれて−くにをへたつる−やまのはも−ゆきにみえたる−まとのあさあけ


05875
未入力 正徹 (xxx)

さやかなる夕日に雪をわたりくる遠かた人の峰の梯

さやかなる−ゆふひにゆきを−わたりくる−をちかたひとの−みねのかけはし


05876
未入力 正徹 (xxx)

鷲の山四色の花のふりし世を法の莚にみねのしら雪

わしのやま−よいろのはなの−ふりしよを−のりのむしろに−みねのしらゆき


05877
未入力 正徹 (xxx)

朝日さす雪のふもとの川浪も煙にあかぬふしのしは山

あさひさす−ゆきのふもとの−かはなみも−けふりにあかぬ−ふしのしはやま


05878
未入力 正徹 (xxx)

天の戸の雪にあくるや玉手箱山はかかみをかけてむかへる

あまのとの−ゆきにあくるや−たまてはこ−やまはかかみを−かけてむかへる


05879
未入力 正徹 (xxx)

冬なから煙にかすむあさま山もえてや雪の光けつらん

ふゆなから−けふりにかすむ−あさまやま−もえてやゆきの−ひかりけつらむ


05880
未入力 正徹 (xxx)

そはたかみかけたる谷の朝ゐてに雪と土とのなたれ行くこゑ

そはたかみ−かけたるたにの−あさゐてに−ゆきとつちとの−なたれゆくこゑ


05881
未入力 正徹 (xxx)

山めの袖のわかれの明くれもひかりかくさぬ雪の色かな

やまひめの−そてのわかれの−あけくれも−ひかりかくさぬ−ゆきのいろかな


05882
未入力 正徹 (xxx)

をとめ子か袖にはあらし朝明の雪をめくらす四方の山風

をとめこか−そてにはあらし−あさあけの−ゆきをめくらす−よものやまかせ


05883
未入力 正徹 (xxx)

下折にくるるみ山の松の雪つもるをもみす聞く人もなし

したをれに−くるるみやまの−まつのゆき−つもるをもみす−きくひともなし


05884
未入力 正徹 (xxx)

梢もる入日の影は消えなからゆふくれとほきみねのしら雪

こすゑもる−いりひのかけは−きえなから−ゆふくれとほき−みねのしらゆき


05885
未入力 正徹 (xxx)

わたりかね雲も夕を猶たとる跡なき雪の嶺のかけはし

わたりかね−くももゆふへを−なほたとる−あとなきゆきの−みねのかけはし


05886
未入力 正徹 (xxx)

ふりはれて月の光の友まつや夕暮うつむ山の白雪

ふりはれて−つきのひかりの−ともまつや−ゆふくれうつむ−やまのしらゆき


05887
未入力 正徹 (xxx)

時雨まてくもりてふかくみし山の雪におくなき木木の下折

しくれまて−くもりてふかく−みしやまの−ゆきにおくなき−ききのしたをれ


05888
未入力 正徹 (xxx)

雲うつめとほくみゆとも初雪にわか住む峰と契りやはせし

くもうつめ−とほくみゆとも−はつゆきに−わかすむみねと−ちきりやはせし


05889
未入力 正徹 (xxx)

よもひかし杣作る木のとふささへちりかひくもる峰のしら雪

よもひかし−そまつくるきの−とふささへ−ちりかひくもる−みねのしらゆき


05890
未入力 正徹 (xxx)

山人の杣たつをのの音絶えてひひきそかはる雪の下折

やまひとの−そまたつをのの−おとたえて−ひひきそかはる−ゆきのしたをれ


05891
未入力 正徹 (xxx)

煙のみ柴屋をさむみ立ちやまてをのの声せぬ雪の杣山

けふりのみ−しはやをさむみ−たちやまて−をののこゑせぬ−ゆきのそまやま


05892
未入力 正徹 (xxx)

いとまなきみほの杣人やすむらしかり屋の雪に埋立つなり

いとまなき−みほのそまひと−やすむらし−かりやのゆきに−けふりたつなり


05893
未入力 正徹 (xxx)

降るままに嶺のかけはし中絶えて梢折れふす雪のときは木

ふるままに−みねのかけはし−なかたえて−こすゑをれふす−ゆきのときはき


05894
未入力 正徹 (xxx)

おとすなり峰の杣木やたほすらん下をるましきうす雪の空

おとすなり−みねのそまきや−たほすらむ−したをるましき−うすゆきのそら


05895
未入力 正徹 (xxx)

杣人の峰のときは木きりけりとみゆるはかりにうつむ雪かな

そまひとの−みねのときはき−きりけりと−みゆるはかりに−うつむゆきかな


05896
未入力 正徹 (xxx)

時雨れてもつひにもみちぬときは木の雪に色付く夕日影かな

しくれても−つひにもみちぬ−ときはきの−ゆきにいろつく−ゆふひかけかな


05897
未入力 正徹 (xxx)

嵐山秋のはちらぬときは木も世のさかしるき雪の下折

あらしやま−あきのはちらぬ−ときはきも−よのさかしるき−ゆきのしたをれ


05898
未入力 正徹 (xxx)

枝おもる嶺のときは木吹きかへし嵐におつる雪のむら立

えたおもる−みねのときはき−ふきかへし−あらしにおつる−ゆきのむらたち


05899
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二度の花たち花と開く雪にその葉そしるき庭のときは木

ふたたひの−はなたちはなと−さくゆきに−そのはそしるき−にはのときはき


05900
未入力 正徹 (xxx)

つもりかね又雪おつる松かけに一むらくもる岡の辺の里

つもりかね−またゆきおつる−まつかけに−ひとむらくもる−をかのへのさと


05901
未入力 正徹 (xxx)

たちこむるふもとの雲につもるらし尾上の松に落つる白雪

たちこむる−ふもとのくもに−つもるらし−をのへのまつに−おつるしらゆき


05902
未入力 正徹 (xxx)

ふれはかつ消えてそこほる冬の日の光につもる松の白雪

ふれはかつ−きえてそこほる−ふゆのひの−ひかりにつもる−まつのしらゆき


05903
未入力 正徹 (xxx)

降る雪のつもるにもあらて枝そふすもとよりたへぬ松の風折

ふるゆきの−つもるにもあらて−えたそふす−もとよりたへぬ−まつのかさをれ


05904
未入力 正徹 (xxx)

吹きたてし木の葉は朽ちてうす雪のこほりかさなる谷の松風

ふきたてし−このははくちて−うすゆきの−こほりかさなる−たにのまつかせ


05905
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わたの原遠き尾上の松島やをしまの浪をかくるしら雪

わたのはら−とほきをのへの−まつしまや−をしまのなみを−かくるしらゆき


05906
未入力 正徹 (xxx)

雪をれし滝のうへなるそなれ松しつく岩ほのたてる力に

ゆきをれし−たきのうへなる−そなれまつ−しつくいはほの−たてるちからに


05907
未入力 正徹 (xxx)

かきくらす尾上の嵐浪こえて松にはれたる雪のとほ島

かきくらす−をのへのあらし−なみこえて−まつにはれたる−ゆきのとほしま


05908
未入力 正徹 (xxx)

いつくにて鶴はねくらと憑むらん松のふるすの雪にこほるる

いつくにて−つるはねくらと−たのむらむ−まつのふるすの−ゆきにこほるる


05909
未入力 正徹 (xxx)

雪たかき尾上の松も下折すうら吹きのほる風のちからに

ゆきたかき−をのへのまつも−したをれす−うらふきのほる−かせのちからに


05910
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風さえて今朝ふる雪に待ちえたり五葉の松に六の初花

かせさえて−けさふるゆきに−まちえたり−いつはのまつに−むつのはつはな


05911
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笠の雪つららの杖をつく松の老いかたふきてたてる庭かな

かさのゆき−つららのつゑを−つくまつの−おいかたふきて−たてるにはかな


05912
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日をかさね雪も昔の友まつやふりにしままのたか砂の松

ひをかさね−ゆきもむかしの−ともまつや−ふりにしままの−たかさこのまつ


05913
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世はこれそ梢こそあれ松かけの雪を落葉にうつみかへすは

よはこれそ−こすゑこそあれ−まつかけの−ゆきをおちはに−うつみかへすは


05914
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こほす枝なひく梢も松ことにむらむらみゆる雪の山もと

こほすえた−なひくこすゑも−まつことに−むらむらみゆる−ゆきのやまもと


05915
未入力 正徹 (xxx)

横雲につもると見えておとすなり杉たつ嶺の雪の下折

よこくもに−つもるとみえて−おとすなり−すきたつみねの−ゆきのしたをれ


05916
未入力 正徹 (xxx)

日影さす薄雲かくれかつそみるふもとの杉の雪の村立

ひかけさす−うすくもかくれ−かつそみる−ふもとのすきの−ゆきのむらたち


05917
未入力 正徹 (xxx)

雪つもるひ原の山に入る人やにほはぬ花のかさしをるらん

ゆきつもる−ひはらのやまに−いるひとや−にほはぬはなの−かさしをるらむ


05918
未入力 正徹 (xxx)

降るとたにいさしら雪の下折にやかて窓うつ軒の呉竹

ふるとたに−いさしらゆきの−したをれに−やかてまとうつ−のきのくれたけ


05919
未入力 正徹 (xxx)

むかひみる竹のは山の雪なから窓に明けゆく芹川の里

むかひみる−たけのはやまの−ゆきなから−まとにあけゆく−せりかはのさと


05920
未入力 正徹 (xxx)

末の世にむかしの跡やしたふらんしかの園生の雪にふす竹

すゑのよに−むかしのあとや−したふらむ−しかのそのふの−ゆきにふすたけ


05921
未入力 正徹 (xxx)

さきつつく春の友まてうゑ木たつ都のそのの雪の初花

さきつつく−はるのともまて−うゑきたつ−みやこのそのの−ゆきのはつはな


05922
未入力 正徹 (xxx)

今朝そみる都の雪によもきふの宿の垣ねのこしの白山

けさそみる−みやこのゆきに−よもきふの−やとのかきねの−こしのしらやま


05923
未入力 正徹 (xxx)

うつろひし下葉も見えす萩のとや雪に絶えたるいねかての空

うつろひし−したはもみえす−はきのとや−ゆきにたえたる−いねかてのそら


05924
未入力 正徹 (xxx)

うき雲もおなしくろ戸の曙をさやかに見する庭の白雪

うきくもも−おなしくろとの−あけほのを−さやかにみする−にはのしらゆき


05925
未入力 正徹 (xxx)

庭の雪にとのへの沓の跡とめて暁いつる雲のうへ人

にはのゆきに−とのへのくつの−あととめて−あかつきいつる−くものうへひと


05926
未入力 正徹 (xxx)

猶ふりぬ里とそ見ゆる深草やあれにし後の雪の折はは

なほふりぬ−さととそみゆる−ふかくさや−あれにしのちの−ゆきのをれはは


05927
未入力 正徹 (xxx)

つま木さへともしき里の雪折にぬれたる枝をふすへかねつつ

つまきさへ−ともしきさとの−ゆきをれに−ぬれたるえたを−ふすへかねつつ


05928
未入力 正徹 (xxx)

雪のうちにあれのみまさる古郷はのこりし三の道たにもなし

ゆきのうちに−あれのみまさる−ふるさとは−のこりしみつの−みちたにもなし


05929
未入力 正徹 (xxx)

日かすふる暮にそいととさしこもる庭は葎の跡もなけれと

ひかすふる−くれにそいとと−さしこもる−にははむくらの−あともなけれと


05930
未入力 正徹 (xxx)

跡つけん人あらはともいとはれすならひなき庭の雪の朝明

あとつけむ−ひとあらはとも−いとはれす−ならひなきにはの−ゆきのあさあけ


05931
未入力 正徹 (xxx)

庭せはき雪の下なる水おとのあるかなきかの身さへふりつつ

にはせはき−ゆきのしたなる−みつおとの−あるかなきかの−みさへふりつつ


05932
未入力 正徹 (xxx)

いたつらに雪かく庭ほとふ人のあるにもあらぬすさみなりけり

いたつらに−ゆきかくにはほ−とふひとの−あるにもあらぬ−すさみなりけり


05933
未入力 正徹 (xxx)

草も木もうゑし所をわすれねは跡なき雪に残る面かけ

くさもきも−うゑしところを−わすれねは−あとなきゆきに−のこるおもかけ


05934
未入力 正徹 (xxx)

みちしあれは今日初雪に跡そみることのはつもれ宿の松陰

みちしあれは−けふはつゆきに−あとそみる−ことのはつもれ−やとのまつかけ


05935
未入力 正徹 (xxx)

いくかありて消えんとかみる九重や雪の山つく秋の宮人

いくかありて−きえむとかみる−ここのへや−ゆきのやまつく−あきのみやひと


05936
未入力 正徹 (xxx)

三のみち雪のうちにそあらはるるいかなる家の庭もさたかに

みつのみち−ゆきのうちにそ−あらはるる−いかなるいへの−にはもさたかに


05937
未入力 正徹 (xxx)

雪ふれは軒はを憑む朝鳥のこゑはかりする庭のさひしさ

ゆきふれは−のきはをたのむ−あさとりの−こゑはかりする−にはのさひしさ


05938
未入力 正徹 (xxx)

雪の中に鳴く声せぬやむら鳥のはみこし水も今朝たゆるかに

ゆきのうちに−なくこゑせぬや−むらとりの−はみこしみつも−けさたゆるかに


05939
未入力 正徹 (xxx)

柴の戸に夕日さしくる松陰の雪のしつくの音はかりして

しはのとに−ゆふひさしくる−まつかけの−ゆきのしつくの−おとはかりして


05940
未入力 正徹 (xxx)

はらへ風ふり入る雪にたれこめて松の行へもしらぬゆふへを

はらへかせ−ふりいるゆきに−たれこめて−まつのゆくへも−しらぬゆふへを


05941
未入力 正徹 (xxx)

猶そとふ雪をめくらす袖はかりふりはへ庭に跡はなけれと

なほそとふ−ゆきをめくらす−そてはかり−ふりはへにはに−あとはなけれと


05942
未入力 正徹 (xxx)

寺ふりて法のなからん世やいかに鐘もつつみもきかぬ雪かな

てらふりて−のりのなからむ−よやいかに−かねもつつみも−きかぬゆきかな


05943
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく夕のかねのこゑ落ちて松につれなき嶺のしら雪

あらしふく−ゆふへのかねの−こゑおちて−まつにつれなき−みねのしらゆき


05944
未入力 正徹 (xxx)

軒ちかき木すゑあまたの雪折に山おくあさき入相のこゑ

のきちかき−こすゑあまたの−ゆきをれに−やまおくあさき−いりあひのこゑ


05945
未入力 正徹 (xxx)

雪の上に入相のこゑはかさなれと暮るる色なき山のかけかな

ゆきのうへに−いりあひのこゑは−かさなれと−くるるいろなき−やまのかけかな


05946
未入力 正徹 (xxx)

年ふかき冬を契りてふる雪もまたあさきえと見ゆる比かな

としふかき−ふゆをちきりて−ふるゆきも−またあさきえと−みゆるころかな


05947
未入力 正徹 (xxx)

朝くもりしはしふりきて道のへのちりもかくさすはるる白雪

あさくもり−しはしふりきて−みちのへの−ちりもかくさす−はるるしらゆき


05948
未入力 正徹 (xxx)

おく霜にまかふや雪のあさは野にねさへかくれすたてるかや原

おくしもに−まかふやゆきの−あさはのに−ねさへかくれす−たてるかやはら


05949
未入力 正徹 (xxx)

日影さす冬野をあさみふれはかつ消ゆる草はの雪にぬれつつ

ひかけさす−ふゆのをあさみ−ふれはかつ−きゆるくさはの−ゆきにぬれつつ


05950
未入力 正徹 (xxx)

朝くもりうちちる野へのかせさえて霜に色わく雪の村草

あさくもり−うちちるのへの−かせさえて−しもにいろわく−ゆきのむらくさ


05951
未入力 正徹 (xxx)

吹きはらふ尾上の松もこゑおちてふもとのかねにつもる白雪

ふきはらふ−をのへのまつも−こゑおちて−ふもとのかねに−つもるしらゆき


05952
未入力 正徹 (xxx)

水いてし太山の川になかれきてつもる木積も見えぬ雪かな

みついてし−みやまのかはに−なかれきて−つもるこつみも−みえぬゆきかな


05953
未入力 正徹 (xxx)

つもるらし木木の下折遠近にひまなき山の雪の暮かな

つもるらし−ききのしたをれ−をちこちに−ひまなきやまの−ゆきのくれかな


05954
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谷川もうつもれはつる下折に雪の木積となる山路かな

たにかはも−うつもれはつる−したをれに−ゆきのこつみと−なるやまちかな


05955
未入力 正徹 (xxx)

雪の中にことのはしけし山ひこもたえすこたふる木木の下折

ゆきのうちに−ことのはしけし−やまひこも−たえすこたふる−ききのしたをれ


05956
未入力 正徹 (xxx)

嶺たかみ松の梢の木のもとになるまてたへてつもる雪かな

みねたかみ−まつのこすゑの−このもとに−なるまてたへて−つもるゆきかな


05957
未入力 正徹 (xxx)

岸による浪はしほ風うらの名もつもりてたかき松の白雪

きしによる−なみはしほかせ−うらのなも−つもりてたかき−まつのしらゆき


05958
未入力 正徹 (xxx)

めくみをもふかくはうけし降る雪のおもきそたへぬ木木の下折

めくみをも−ふかくはうけし−ふるゆきの−おもきそたへぬ−ききのしたをれ


05959
未入力 正徹 (xxx)

松杉の下折れしままうつもれて岡をならふる雪の山中

まつすきの−したをれしまま−うつもれて−をかをならふる−ゆきのやまなか


05960
未入力 正徹 (xxx)

風さえし真柴も見えす岩かねに雪そこり敷く嶺の梯

かせさえし−ましはもみえす−いはかねに−ゆきそこりしく−みねのかけはし


05961
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まてしはし関守る雪のまれの跡ふふきにとまる紀路の山こえ

まてしはし−せきもるゆきの−まれのあと−ふふきにとまる−きちのやまこえ


05962
未入力 正徹 (xxx)

河上の雪そ一村くたりくるこや山人の宇治の柴舟

かはかみの−ゆきそひとむら−くたりくる−こややまひとの−うちのしはふね


05963
未入力 正徹 (xxx)

これも又雪のしるしの棹山や柞の梢ふりかくすらん

これもまた−ゆきのしるしの−さほやまや−ははそのこすゑ−ふりかくすらむ


05964
未入力 正徹 (xxx)

風さゆる雪の芝原跡もなし天きる空の末もひとつに

かせさゆる−ゆきのしははら−あともなし−あまきるそらの−すゑもひとつに


05965
未入力 正徹 (xxx)

くもりきてつもるか松に浪そこす尾上にかかる雪のうら風

くもりきて−つもるかまつに−なみそこす−をのへにかかる−ゆきのうらかせ


05966
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みこし路やしるしの竹のふしふしを夜ことにかくすさほの雪かな

みこしちや−しるしのたけの−ふしふしを−よことにかくす−さほのゆきかな


05967
未入力 正徹 (xxx)

うき雲の空吹く風にうこかぬや岩ねこりしく嶺の白雪

うきくもの−そらふくかせに−うこかぬや−いはねこりしく−みねのしらゆき


05968
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とひこかし里はあれぬと誰かみん庭の籬も雪にかくれて

とひこかし−さとはあれぬと−たれかみむ−にはのまかきも−ゆきにかくれて


05969
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待つ人のすめる都にふらぬ日を憑みやせまし雪の山里

まつひとの−すめるみやこに−ふらぬひを−たのみやせまし−ゆきのやまさと


05970
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とはさらん程は雪にも跡付けしさらは軒はやこしのしら山

とはさらむ−ほとはゆきにも−あとつけし−さらはのきはや−こしのしらやま


05971
未入力 正徹 (xxx)

つららゐる庭のなかれは音もせて風のみかくる雪のしからみ

つららゐる−にはのなかれは−おともせて−かせのみかくる−ゆきのしからみ


05972
未入力 正徹 (xxx)

積りあへすみたるる雪に吹きくもり時雨にかへる嶺の松かせ

つもりあへす−みたるるゆきに−ふきくもり−しくれにかへる−みねのまつかせ


05973
未入力 正徹 (xxx)

見てもにす雪をめくらす面影に風のすかたをまなふことのは

みてもにす−ゆきをめくらす−おもかけに−かせのすかたを−まなふことのは


05974
未入力 正徹 (xxx)

行く雲に雪をめくらす姿をは見れともまよふわかのうらかせ

ゆくくもに−ゆきをめくらす−すかたをは−みれともまよふ−わかのうらかせ


05975
未入力 正徹 (xxx)

つれなくは影しく雪に春やみん夜わたる月の雲の村きえ

つれなくは−かけしくゆきに−はるやみむ−よわたるつきの−くものむらきえ


05976
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天の原ふふきにとまる宿もなく夜わたりはつる雪の月かけ

あまのはら−ふふきにとまる−やともなく−よわたりはつる−ゆきのつきかけ


05977
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猶さえて友まつ雪のふりはふや雪まの月の光なるらん

なほさえて−ともまつゆきの−ふりはふや−ゆきまのつきの−ひかりなるらむ


05978
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庭しろき玉をのへたる光かなこほれる雪をみかく月夜に

にはしろき−たまをのへたる−ひかりかな−こほれるゆきを−みかくつきよに


05979
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朝夕の煙を見てもしらさりし雪にかくれぬ遠つ山里

あさゆふの−けふりをみても−しらさりし−ゆきにかくれぬ−とほつやまさと


05980
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山松の梢の雪の下折をたなひきかくす嶺の白雪

やままつの−こすゑのゆきの−したをれを−たなひきかくす−みねのしらゆき


05981
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下折の雪さへふかき太山木の枝もたわわにかかる白雲

したをれの−ゆきさへふかき−みやまきの−えたもたわわに−かかるしらくも


05982
未入力 正徹 (xxx)

山もとのかやか乱や秋のはのちりし林の枝のしら雪

やまもとの−かやかみたれや−あきのはの−ちりしはやしの−えたのしらゆき


05983
未入力 正徹 (xxx)

空にまた有明の月の朝くもり光をつきて雪やちるらん

そらにまた−ありあけのつきの−あさくもり−ひかりをつきて−ゆきやちるらむ


05984
未入力 正徹 (xxx)

なるみのや雪の上浪ふきこほりさそひそたてぬ今朝の塩かせ

なるみのや−ゆきのうはなみ−ふきこほり−さそひそたてぬ−けさのしほかせ


05985
未入力 正徹 (xxx)

朝日かけ雲にうつろふ紅の雪の野山そしはし色なる

あさひかけ−くもにうつろふ−くれなゐの−ゆきののやまそ−しはしいろなる


05986
未入力 正徹 (xxx)

立ちつつく朝けの煙吹きませて千里の雪にくもる山風

たちつつく−あさけのけふり−ふきませて−ちさとのゆきに−くもるやまかせ


05987
未入力 正徹 (xxx)

あなし山嵐も雪を巻向のゆふたたみする朝けをそみる

あなしやま−あらしもゆきを−まきもくの−ゆふたたみする−あさけをそみる


05988
未入力 正徹 (xxx)

あさ明の都の四方の高ねこす雲はたつみの雪の白浪

あさあけの−みやこのよもの−たかねこす−くもはたつみの−ゆきのしらなみ


05989
未入力 正徹 (xxx)

いく村にくもり分けてかふふくらん千里の山の雪の朝風

いくむらに−くもりわけてか−ふふくらむ−ちさとのやまの−ゆきのあさかせ


05990
未入力 正徹 (xxx)

雪の色にこかね花開く山と見ついつる日影のかかる草木を

ゆきのいろに−こかねはなさく−やまとみつ−いつるひかけの−かかるくさきを


05991
未入力 正徹 (xxx)

松原のこなたの浪の朝なきに遠島めくる雪の白雲

まつはらの−こなたのなみの−あさなきに−とほしまめくる−ゆきのしらくも


05992
未入力 正徹 (xxx)

かくてこそ峰もふもとも寺寺のいらかにつもる雪の朝明

かくてこそ−みねもふもとも−てらてらの−いらかにつもる−ゆきのあさあけ


05993
未入力 正徹 (xxx)

いく里もおなしなかめのうちま山朝かせさむし雪の川なみ

いくさとも−おなしなかめの−うちまやま−あさかせさむし−ゆきのかはなみ


05994
未入力 正徹 (xxx)

いつくにかちりもかくれん雪くるる山はかかみの四の面に

いつくにか−ちりもかくれむ−ゆきくるる−やまはかかみの−よつのおもてに


05995
未入力 正徹 (xxx)

降りくたる高ねの雲の跡はれて朝日にならふ松の白雪

ふりくたる−たかねのくもの−あとはれて−あさひにならふ−まつのしらゆき


05996
未入力 正徹 (xxx)

大和歌の道に心の駒とめてさののわたりの雪をしそ思ふ

やまとうたの−みちにこころの−こまとめて−さののわたりの−ゆきをしそおもふ


05997
未入力 正徹 (xxx)

かき分けて思ひやるさへえそたへぬ雪のみ山の鳥の一声

かきわけて−おもひやるさへ−えそたへぬ−ゆきのみやまの−とりのひとこゑ


05998
未入力 正徹 (xxx)

今もちる雪のの原の朝ほらけしちをならへてたてるを車

いまもちる−ゆきののはらの−あさほらけ−しちをならへて−たてるをくるま


05999
未入力 正徹 (xxx)

くる人のむかふふふきに物いはて雪ふむ音のさゆる道のへ

くるひとの−むかふふふきに−ものいはて−ゆきふむおとの−さゆるみちのへ


06000
未入力 正徹 (xxx)

ゆく人の今朝あとつくる雪のこゑ枕にさゆる道のへのやと

ゆくひとの−けさあとつくる−ゆきのこゑ−まくらにさゆる−みちのへのやと


06001
未入力 正徹 (xxx)

なかめやる雪そまちかき降りそめし日数はるけき都路の空

なかめやる−ゆきそまちかき−ふりそめし−ひかすはるけき−みやこちのそら


06002
未入力 正徹 (xxx)

空さむみふらぬ日もなき雪つもりちりゐぬ山も雲かかるまて

そらさむみ−ふらぬひもなき−ゆきつもり−ちりゐぬやまも−くもかかるまて


06003
未入力 正徹 (xxx)

行人の暁雪をふむ音も枕にさゆる道のへのやと

ゆくひとの−あかつきゆきを−ふむおとも−まくらにさゆる−みちのへのやと


06004
未入力 正徹 (xxx)

音たえす嵐やわたるあるる日の雲まの嶺の雪の梯

おとたえす−あらしやわたる−あるるひの−くもまのみねの−ゆきのかけはし


06005
未入力 正徹 (xxx)

はま松の根さへ梢にあらはれて浪こす雲の雪の風折

はままつの−ねさへこすゑに−あらはれて−なみこすくもの−ゆきのかさをれ


06006
未入力 正徹 (xxx)

こ屋うつむ雪の八重ふきなには江に春日さしこはあれまくもをし

こやうつむ−ゆきのやへふき−なにはえに−はるひさしこは−あれまくもをし


06007
未入力 正徹 (xxx)

興つ風雪に梢をあらふなりおよはぬ浪の遠き浜まつ

おきつかせ−ゆきにこすゑを−あらふなり−およはぬなみの−とほきはままつ


06008
未入力 正徹 (xxx)

雪にこそ煙をそへねはま松の枝さしおほふあまの塩屋は

ゆきにこそ−けふりをそへね−はままつの−えたさしおほふ−あまのしほやは


06009
未入力 正徹 (xxx)

芦の屋は雪の下にて島つたふなたの波風あれくらすなり

あしのやは−ゆきのしたにて−しまつたふ−なたのなみかせ−あれくらすなり


06010
未入力 正徹 (xxx)

から人は此日本につもるをやはなれこ島の雪と見るらん

からひとは−このひのもとに−つもるをや−はなれこしまの−ゆきとみるらむ


06011
未入力 正徹 (xxx)

心ある家ゐを見はや雪つもる浪まの松かうら島のあま

こころある−いへゐをみはや−ゆきつもる−なみまのまつか−うらしまのあま


06012
未入力 正徹 (xxx)

吹きおろす高ねの雪やうつむらん嵐にたゆる富士の四方川

ふきおろす−たかねのゆきや−うつむらむ−あらしにたゆる−ふしのよもかは


06013
未入力 正徹 (xxx)

ふりとつる川との雪におりかねて汲みたえけりな賎か朝水

ふりとつる−かはとのゆきに−おりかねて−くみたえけりな−しつかあさみつ


06014
未入力 正徹 (xxx)

白たへに浪も立ちきてふる雪のつもるもにほのうら風そ吹く

しろたへに−なみもたちきて−ふるゆきの−つもるもにほの−うらかせそふく


06015
未入力 正徹 (xxx)

降るままにうかふみなわや氷るらん雪をさかまく山川のなみ

ふるままに−うかふみなわや−こほるらむ−ゆきをさかまく−やまかはのなみ


06016
未入力 正徹 (xxx)

うき雲のひま行くこまは山こえて雪に跡なき塩つすか原

うきくもの−ひまゆくこまは−やまこえて−ゆきにあとなき−しほつすかはら


06017
未入力 正徹 (xxx)

水くくる古江のよりもふり敷きてつもれる雪そ淡とたたよふ

みつくくる−ふるえのよりも−ふりしきて−つもれるゆきそ−あわとたたよふ


06018
未入力 正徹 (xxx)

山もとの嵐の雪の下もみち浪によりくるあけのそほ舟

やまもとの−あらしのゆきの−したもみち−なみによりくる−あけのそほふね


06019
未入力 正徹 (xxx)

あるる日の湊入りくる友舟はかす限なき雪のとまふき

あるるひの−みなといりくる−ともふねは−かすかきりなき−ゆきのとまふき


06020
未入力 正徹 (xxx)

ふりかかる雪の白かみ舟のうちに山を尋ねしから人やこれ

ふりかかる−ゆきのしろかみ−ふねのうちに−やまをたつねし−からひとやこれ


06021
未入力 正徹 (xxx)

朝日さすまほに鏡をかけ出てぬ松浦の興の雪の友舟

あさひさす−まほにかかみを−かけいてぬ−まつらのおきの−ゆきのともふね


06022
未入力 正徹 (xxx)

鷺のゐる舟かと見れは釣人の蓑しろたへにつもる白雪

さきのゐる−ふねかとみれは−つりひとの−みのしろたへに−つもるしらゆき


06023
未入力 正徹 (xxx)

うつもるるま柴やたゆる雪折の木をきりもちて出つる山人

うつもるる−ましはやたゆる−ゆきをれの−きをきりもちて−いつるやまひと


06024
未入力 正徹 (xxx)

あかねさす袖ふりはへてつくしにもむらさきの行く雪のたひ人

あかねさす−そてふりはへて−つくしにも−むらさきのゆく−ゆきのたひひと


06025
未入力 正徹 (xxx)

ささの屋のすすの垣ほの野への風あれまかくして雪埋むなり

ささのやの−すすのかきほの−のへのかせ−あれまかくして−ゆきうつむなり


06026
未入力 正徹 (xxx)

あさ明の末のの雪につく墨はたか夕暮の袖はらふらん

あさあけの−すゑののゆきに−つくすみは−たかゆふくれの−そてはらふらむ


06027
未入力 正徹 (xxx)

うつめとも淀野の雪に道そある暁ありしを車のあと

うつめとも−よとののゆきに−みちそある−あかつきありし−をくるまのあと


06028
未入力 正徹 (xxx)

暮るるまもしかまに染むるかち野にはあらぬ色そふ雪の高島

くるるまも−しかまにそむる−かちのには−あらぬいろそふ−ゆきのたかしま


06029
未入力 正徹 (xxx)

里人の夢のおもかけしたふとも雪に跡みしまののかや原

さとひとの−ゆめのおもかけ−したふとも−ゆきにあとみし−まののかやはら


06030
未入力 正徹 (xxx)

雪つもる都の冬をしめしたにおなし明石の岡の松かけ

ゆきつもる−みやこのふゆを−しめしたに−おなしあかしの−をかのまつかけ


06031
未入力 正徹 (xxx)

わたらしよくちめたえてし橋板をふりつつ雪もふかき山川

わたらしよ−くちめたえてし−はしいたを−ふりつつゆきも−ふかきやまかは


06032
未入力 正徹 (xxx)

たれかへと雪の花さく市柴に春をうるまの冬のさと人

たれかへと−ゆきのはなさく−いちしはに−はるをうるまの−ふゆのさとひと


06033
未入力 正徹 (xxx)

一村の雪そ落ちつる末野行くをち方人や袖はらひてん

ひとむらの−ゆきそおちつる−すゑのゆく−をちかたひとや−そてはらひてむ


06034
未入力 正徹 (xxx)

さやに見しをち方人そかきくもる野風やはらふ袖の白雪

さやにみし−をちかたひとそ−かきくもる−のかせやはらふ−そてのしらゆき


06035
未入力 正徹 (xxx)

のへわたる笠もま袖もふりはへて遠かた人の雪そちかつく

のへわたる−かさもまそても−ふりはへて−をちかたひとの−ゆきそちかつく


06036
未入力 正徹 (xxx)

駒の足とまるこしちのみ雪にもひまゆくかけそ猶はやくなる

こまのあし−とまるこしちの−みゆきにも−ひまゆくかけそ−なほはやくなる


06037
未入力 正徹 (xxx)

熊野川山の苔路はうつもれて雪にさをさすせせの杉ふね

くまのかは−やまのこけちは−うつもれて−ゆきにさをさす−せせのすきふね


06038
未入力 正徹 (xxx)

苔をふみおとろをふみて跡もなき雪に山路のあたりをそ行く

こけをふみ−おとろをふみて−あともなき−ゆきにやまちの−あたりをそゆく


06039
未入力 正徹 (xxx)

法のためもつや薪にふる雪もおもき笠置のおくの山人

のりのため−もつやたききに−ふるゆきも−おもきかさきの−おくのやまひと


06040
未入力 正徹 (xxx)

をはつせやいはほのうへの沓のあとかくれぬ程に嶺のうす雪

をはつせや−いはほのうへの−くつのあと−かくれぬほとに−みねのうすゆき


06041
未入力 正徹 (xxx)

ふるままになほ夜や寒き住吉の行合の霜の上の白雪

ふるままに−なほよやさむき−すみよしの−ゆきあひのしもの−うへのしらゆき


06042
未入力 正徹 (xxx)

住吉や二の年の行くとてと行合の松そかたへ雪なる

すみよしや−ふたつのとしの−ゆくとてと−ゆきあひのまつそ−かたへゆきなる


06043
未入力 正徹 (xxx)

松かねの枕たのまん雪ならす夕こえかかる山のした折

まつかねの−まくらたのまむ−ゆきならす−ゆふこえかかる−やまのしたをれ


06044
未入力 正徹 (xxx)

松のはの夕暮いそく色もなし雪にはれたる遠かたの山

まつのはの−ゆふくれいそく−いろもなし−ゆきにはれたる−をちかたのやま


06045
未入力 正徹 (xxx)

暮れて行くふもとの松の一ふふき高ねもしらぬ雪に晴れぬる

くれてゆく−ふもとのまつの−ひとふふき−たかねもしらぬ−ゆきにはれぬる


06046
未入力 正徹 (xxx)

思ひいつる都の夕雪ふかし山さと人はこんといふとも

おもひいつる−みやこのゆふへ−ゆきふかし−やまさとひとは−こむといふとも


06047
未入力 正徹 (xxx)

いそき行く夕そ雪に立ちかへるつもれる色の関となるらん

いそきゆく−ゆふへそゆきに−たちかへる−つもれるいろの−せきとなるらむ


06048
未入力 正徹 (xxx)

ふりくらしのこるみるめも絶えはてぬ千いろの雪の底の山松

ふりくらし−のこるみるめも−たえはてぬ−ちいろのゆきの−そこのやままつ


06049
未入力 正徹 (xxx)

誰わけん苗木もうゑぬ庭の面の夕暮うつむ雪高くして

たれわけむ−なへきもうゑぬ−にはのおもの−ゆふくれうつむ−ゆきたかくして


06050
未入力 正徹 (xxx)

猶そふるねに行くからす夕暮の色をけたれぬ雪の山もと

なほそふる−ねにゆくからす−ゆふくれの−いろをけたれぬ−ゆきのやまもと


06051
未入力 正徹 (xxx)

たのめつる槙の戸口にふる雪の夕暮はらふ袖の色かな

たのめつる−まきのとくちに−ふるゆきの−ゆふくれはらふ−そてのいろかな


06052
未入力 正徹 (xxx)

ふり敷きて雪にあやふき呉竹のたちなほる世の夕ともかな

ふりしきて−ゆきにあやふき−くれたけの−たちなほるよの−ゆふへともかな


06053
未入力 正徹 (xxx)

さ夜風はたた一足にしつまりてをち方きけは雪折の声

さよかせは−たたひとあしに−しつまりて−をちかたきけは−ゆきをれのこゑ


06054
未入力 正徹 (xxx)

ふす鳥もおとろく人も声声に雪の夜しるき木木の下折

ふすとりも−おとろくひとも−こゑこゑに−ゆきのよしるき−ききのしたをれ


06055
未入力 正徹 (xxx)

わたのへや大江の松は雪なから月すむろうの岸による舟

わたのへや−おほえのまつは−ゆきなから−つきすむろうの−きしによるふね


06056
未入力 正徹 (xxx)

思ふとち夜の月毛の駒なへて行かはやすまの山の白雪

おもふとち−よるのつきけの−こまなへて−ゆかはやすまの−やまのしらゆき


06057
未入力 正徹 (xxx)

わたのへや朝気の川にうかふなり大江の松の雪の一村

わたのへや−あさけのかはに−うかふなり−おほえのまつの−ゆきのひとむら


06058
未入力 正徹 (xxx)

河風はあたたかならす渡辺や岸に大江の松のしら雪

かはかせは−あたたかならす−わたのへや−きしにおほえの−まつのしらゆき


06059
未入力 正徹 (xxx)

すまのうらや山路も雪の水馬屋こきととまらぬすす舟の声

すまのうらや−やまちもゆきの−みつうまや−こきととまらぬ−すすふねのこゑ


06060
未入力 正徹 (xxx)

野への鳥関もる人もおとろかす雪に鈴なきすまのうら舟

のへのとり−せきもるひとも−おとろかす−ゆきにすすなき−すまのうらふね


06061
未入力 正徹 (xxx)

うちさやきふるや霰の玉ささも葉分に冬はかるる色かな

うちさやき−ふるやあられの−たまささも−はわけにふゆは−かるるいろかな


06062
未入力 正徹 (xxx)

いくたひか音は霰の玉たすき思ふにちかふ雪けなるらん

いくたひか−おとはあられの−たまたすき−おもふにちかふ−ゆきけなるらむ


06063
未入力 正徹 (xxx)

玉ささの葉分の霜にくたけても消えぬを冬とちる霰かな

たまささの−はわけのしもに−くたけても−きえぬをふゆと−ちるあられかな


06064
未入力 正徹 (xxx)

呉竹のよにふる程はうしとたにしらて霰や身をくたくらん

くれたけの−よにふるほとは−うしとたに−しらてあられや−みをくたくらむ


06065
未入力 正徹 (xxx)

あられちる朽葉か上の面かけやみぬさ手向けし杜のかしは木

あられちる−くちはかうへの−おもかけや−みぬさたむけし−もりのかしはき


06066
未入力 正徹 (xxx)

吹上やなひくま砂の玉霰ふるもふらすもくもる塩かせ

ふきあけや−なひくまさこの−たまあられ−ふるもふらすも−くもるしほかせ


06067
未入力 正徹 (xxx)

霰ともみる人からや思ふらん三代にみかきし玉かしくらん

あられとも−みるひとからや−おもふらむ−みよにみかきし−たまかしくらむ


06068
未入力 正徹 (xxx)

玉とみし蛍のなれる霰とや朽ちたる草のもとにきゆらん

たまとみし−ほたるのなれる−あられとや−くちたるくさの−もとにきゆらむ


06069
未入力 正徹 (xxx)

神やしるふりくる霰松原に塩のみちひの玉のむかしを

かみやしる−ふりくるあられ−まつはらに−しほのみちひの−たまのむかしを


06070
未入力 正徹 (xxx)

糸竹のしらへならねと月みかく玉こゑこゑにふるあられかな

いとたけの−しらへならねと−つきみかく−たまこゑこゑに−ふるあられかな


06071
未入力 正徹 (xxx)

つつりあへぬ雲の行ての高ねより霰を玉にまく嵐かな

つつりあへぬ−くものゆくての−たかねより−あられをたまに−まくあらしかな


06072
未入力 正徹 (xxx)

ひろひとる実はおちはてて椎のはに霰こはれて寒き山風

ひろひとる−みはおちはてて−しひのはに−あられこはれて−さむきやまかせ


06073
未入力 正徹 (xxx)

山風に霰の玉のををよわみみたれてかかるをちのうき雲

やまかせに−あられのたまの−ををよわみ−みたれてかかる−をちのうきくも


06074
未入力 正徹 (xxx)

窓に入るあかつき月に玉あられ竹のはたれの霜を打つこゑ

まとにいる−あかつきつきに−たまあられ−たけのはたれの−しもをうつこゑ


06075
未入力 正徹 (xxx)

おとたかくしをる嵐は竹のはにたまりて落つる玉あられかな

おとたかく−しをるあらしは−たけのはに−たまりておつる−たまあられかな


06076
未入力 正徹 (xxx)

末たわにこほれる雪やおもからん霰にをるる窓のくれ竹

すゑたわに−こほれるゆきや−おもからむ−あられにをるる−まとのくれたけ


06077
未入力 正徹 (xxx)

秋もみむいさ白玉を竹のはに露の種まくあられなりとも

あきもみむ−いさしらたまを−たけのはに−つゆのたねまく−あられなりとも


06078
未入力 正徹 (xxx)

呉竹の葉たれの霜をうつたへに花に玉ちるあられをそ聞く

くれたけの−はたれのしもを−うつたへに−はなにたまちる−あられをそきく


06079
未入力 正徹 (xxx)

ふかきよの竹のはさやき降過きし窓の霰をとふ嵐かな

ふかきよの−たけのはさやき−ふりすきし−まとのあられを−とふあらしかな


06080
未入力 正徹 (xxx)

玉みかく霰にみたせかしけたるささ葉分けきて月そあらそふ

たまみかく−あられにみたせ−かしけたる−ささはわけきて−つきそあらそふ


06081
未入力 正徹 (xxx)

み山路やささの広ほをうつ霰声よわりゆく谷の村竹

みやまちや−ささのひろほを−うつあられ−こゑよわりゆく−たにのむらたけ


06082
未入力 正徹 (xxx)

ふる霰ひろへは消ゆる恨さへのこるまくすか原の玉ささ

ふるあられ−ひろへはきゆる−うらみさへ−のこるまくすか−はらのたまささ


06083
未入力 正徹 (xxx)

玉章のたよりかかけし篠のはにあられ吹きませ風そうらむる

たまつさの−たよりかかけし−ささのはに−あられふきませ−かせそうらむる


06084
未入力 正徹 (xxx)

風ふかぬ太山のささのひろ葉にもたまらぬ物とちる霰かな

かせふかぬ−みやまのささの−ひろはにも−たまらぬものと−ちるあられかな


06085
未入力 正徹 (xxx)

霜さやきあられ玉ちる山風に柴の実落ちて音そあらそふ

しもさやき−あられたまちる−やまかせに−しはのみおちて−おとそあらそふ


06086
未入力 正徹 (xxx)

山かつの椎のかり柴かれ飯ののこると見るはあられなりけり

やまかつの−しひのかりしは−かれいひの−のこるとみるは−あられなりけり


06087
未入力 正徹 (xxx)

みかりはにふるや霰の玉きはる鳥柴かくれを払ふ木枯

みかりはに−ふるやあられの−たまきはる−としはかくれを−はらふこからし


06088
未入力 正徹 (xxx)

うたたねのおやのいさめになら柴をうつや霰の玉かけりつつ

うたたねの−おやのいさめに−ならしはを−うつやあられの−たまかけりつつ


06089
未入力 正徹 (xxx)

山颪ふもとのならのは柏に霰をはこふ音のはけしさ

やまおろし−ふもとのならの−はかしはに−あられをはこふ−おとのはけしさ


06090
未入力 正徹 (xxx)

音たかく枯はなからにまたちらぬならの葉かしは霰うつなり

おとたかく−かれはなからに−またちらぬ−ならのはかしは−あられうつなり


06091
未入力 正徹 (xxx)

柏木に冬は葉もりの神わさもしけくやぬさと霰ちるらん

かしはきに−ふゆははもりの−かみわさも−しけくやぬさと−あられちるらむ


06092
未入力 正徹 (xxx)

風そよき山もとめくる夕暮をなかめかしはにあられふりきぬ

かせそよき−やまもとめくる−ゆふくれを−なかめかしはに−あられふりきぬ


06093
未入力 正徹 (xxx)

ちりのこる葉をたにもれと棺木の霰や神にぬさ手向くらん

ちりのこる−はをたにもれと−かしはきの−あられやかみに−ぬさたむくらむ


06094
未入力 正徹 (xxx)

ちらぬはのおとろくはかり朝かしはぬるや河へにふるあられかな

ちらぬはの−おとろくはかり−あさかしは−ぬるやかはへに−ふるあられかな


06095
未入力 正徹 (xxx)

旅人のみのの中山くもりきて野上のかたにあられふるなり

たひひとの−みののなかやま−くもりきて−のかみのかたに−あられふるなり


06096
未入力 正徹 (xxx)

野をひろみ日影を分けてささの葉に霰むらむらこほれてそ行く

のをひろみ−ひかけをわけて−ささのはに−あられむらむら−こほれてそゆく


06097
未入力 正徹 (xxx)

散りつもる原のかれのの朝かしはなほ木のもとに霰をそきく

ちりつもる−はらのかれのの−あさかしは−なほこのもとに−あられをそきく


06098
未入力 正徹 (xxx)

白露の玉まきもちし葛かつら霰をよそにかるる野へかな

しらつゆの−たままきもちし−くすかつら−あられをよそに−かるるのへかな


06099
未入力 正徹 (xxx)

いかか行くあられよこきるしの原やしののをふふく野への旅人

いかかゆく−あられよこきる−しのはらや−しののをふふく−のへのたひひと


06100
未入力 正徹 (xxx)

朝あけの野へのかれ芝色消えて霜に霰をしくあらしかな

あさあけの−のへのかれしは−いろきえて−しもにあられを−しくあらしかな


06101
未入力 正徹 (xxx)

かるる野のよもきか杣に宮木をもきらぬとふさのちる霰かな

かるるのの−よもきかそまに−みやきをも−きらぬとふさの−ちるあられかな


06102
未入力 正徹 (xxx)

あさ沢や氷の上にふるあられなかれぬ水につもる雪かな

あささはや−こほりのうへに−ふるあられ−なかれぬみつに−つもるゆきかな


06103
未入力 正徹 (xxx)

軒はにも閨にももらしひまかくす雪より後の今朝の霰は

のきはにも−ねやにももらし−ひまかくす−ゆきよりのちの−けさのあられは


06104
未入力 正徹 (xxx)

軒の草枕の苔に乱れきていたたく霜にふるあられかな

のきのくさ−まくらのこけに−みたれきて−いたたくしもに−ふるあられかな


06105
未入力 正徹 (xxx)

乱れつるしのふはかれて軒はなる松の葉分に散るあられかな

みたれつる−しのふはかれて−のきはなる−まつのはわけに−ちるあられかな


06106
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから霰時雨れて神な月ふりにし宿をしたふ空かな

よもすから−あられしくれて−かみなつき−ふりにしやとを−したふそらかな


06107
未入力 正徹 (xxx)

いくたひそあられの玉をまきの屋のふるき軒うつ木枯のこゑ

いくたひそ−あられのたまを−まきのやの−ふるきのきうつ−こからしのこゑ


06108
未入力 正徹 (xxx)

たえたえに時雨はもりし閨の上の木の葉へたてて聞く霰かな

たえたえに−しくれはもりし−ねやのうへの−このはへたてて−きくあられかな


06109
未入力 正徹 (xxx)

枕ふく板まの風に覚めやらてつれなき夢をうつ霰かな

まくらふく−いたまのかせに−さめやらて−つれなきゆめを−うつあられかな


06110
未入力 正徹 (xxx)

ねぬる夜そ霰もしはし槙の屋にかた枝さしおほふ松に降りおけ

ねぬるよそ−あられもしはし−まきのやに−かたえさしおほふ−まつにふりおけ


06111
未入力 正徹 (xxx)

その原や夜はのふせ屋にふる霰あくれは露と消ゆるはは木木

そのはらや−よはのふせやに−ふるあられ−あくれはつゆと−きゆるははきき


06112
未入力 正徹 (xxx)

閨にもるあられの玉や庵ふかきかやか乱を音にたつらん

ねやにもる−あられのたまや−いほふかき−かやかみたれを−おとにたつらむ


06113
未入力 正徹 (xxx)

霰ふるおとにおとろくね覚かな木の葉や草のやとうつむらん

あられふる−おとにおとろく−ねさめかな−このはやくさの−やとうつむらむ


06114
未入力 正徹 (xxx)

ねやの上にかたへちりしく玉柏うつや霰の音もねられす

ねやのうへに−かたへちりしく−たまかしは−うつやあられの−おともねられす


06115
未入力 正徹 (xxx)

冬こもる庭のささふき九重のあられはしりを太山にそ聞く

ふゆこもる−にはのささふき−ここのへの−あられはしりを−みやまにそきく


06116
未入力 正徹 (xxx)

あり明の庭の木の葉に玉霰ひとつふたつそ落ちてさひしき

ありあけの−にはのこのはに−たまあられ−ひとつふたつそ−おちてさひしき


06117
未入力 正徹 (xxx)

空はれてさゆる嵐に玉そちる夕の星のくたるとやみん

そらはれて−さゆるあらしに−たまそちる−ゆふへのほしの−くたるとやみむ


06118
未入力 正徹 (xxx)

いかなりし夕の雪のさえ分けて雪ともみたれ霰ともちる

いかなりし−ゆふへのゆきの−さえわけて−ゆきともみたれ−あられともちる


06119
未入力 正徹 (xxx)

ふかき夜のたかぬる玉もみかかれて心くもらし霰ふるこゑ

ふかきよの−たかぬるたまも−みかかれて−こころくもらし−あられふるこゑ


06120
未入力 正徹 (xxx)

夜はの窓うつかしもとのかつらきも霰やさます山人の夢

よはのまと−うつかしもとの−かつらきも−あられやさます−やまひとのゆめ


06121
未入力 正徹 (xxx)

明くる夜のあられもぬさや手向けけん夢路旅たち見えし枕に

あくるよの−あられもぬさや−たむけけむ−ゆめちたひたち−みえしまくらに


06122
未入力 正徹 (xxx)

たえてけりあさてこふすまみしかくて氷をわたる夢のかよひち

たえてけり−あさてこふすま−みしかくて−こほりをわたる−ゆめのかよひち


06123
未入力 正徹 (xxx)

すま人や浪のよるよる床さえし海の衾は身にかかれとも

すまひとや−なみのよるよる−とこさえし−うみのふすまは−みにかかれとも


06124
未入力 正徹 (xxx)

白たへのあさてこ衾みしかきに閨もりあかす長き夜の霜

しろたへの−あさてこふすま−みしかきに−ねやもりあかす−なかきよのしも


06125
未入力 正徹 (xxx)

磯まくらあまのぬれ衣風さえて浪に衾をかくるうみかな

いそまくら−あまのぬれきぬ−かせさえて−なみにふすまを−かくるうみかな


06126
未入力 正徹 (xxx)

霜の上に猶そさえ行く板まあらみ月もる閨のまたらこ衾

しものうへに−なほそさえゆく−いたまあらみ−つきもるねやの−またらこふすま


06127
未入力 正徹 (xxx)

をりかへしうたふ榊はかみさひて庭火も白し雪のあけほの

をりかへし−うたふさかきは−かみさひて−にはひもしろし−ゆきのあけほの


06128
未入力 正徹 (xxx)

声声にみたれうたふにしるかりき是やしつ屋のこすけなるらん

こゑこゑに−みたれうたふに−しるかりき−これやしつやの−こすけなるらむ


06129
未入力 正徹 (xxx)

こゑはまたしつ屋のこすけ長き夜の霜おく庭の色そ明行く

こゑはまた−しつやのこすけ−なかきよの−しもおくにはの−いろそあけゆく


06130
未入力 正徹 (xxx)

折りかへしうたふさかきの声のうちにさゆる霜よの袖そ明行く

をりかへし−うたふさかきの−こゑのうちに−さゆるしもよの−そてそあけゆく


06131
未入力 正徹 (xxx)

うたふてふしつ屋のこ菅糸にしてあつまをいつかしらへ初めけん

うたふてふ−しつやのこすけ−いとにして−あつまをいつか−しらへそめけむ


06132
未入力 正徹 (xxx)

うたふてふ弓をならへてそのかみは引きし東のしらへとそきく

うたふてふ−ゆみをならへて−そのかみは−ひきしあつまの−しらへとそきく


06133
未入力 正徹 (xxx)

うけひけは神もねぬ夜のこも枕たかせのよとの声そ明けゆく

うけひけは−かみもねぬよの−こもまくら−たかせのよとの−こゑそあけゆく


06134
未入力 正徹 (xxx)

をりかへす袖にも霜やこほるらんささのこゑする夜はの松かせ

をりかへす−そてにもしもや−こほるらむ−ささのこゑする−よはのまつかせ


06135
未入力 正徹 (xxx)

夜もすからをた巻ならてくり返し磯屋のこ菅うたふ声かな

よもすから−をたまきならて−くりかへし−いそやのこすけ−うたふこゑかな


06136
未入力 正徹 (xxx)

うたふなり賎屋のこすけすかかくも東の声のさゆる夜の霜

うたふなり−しつやのこすけ−すかかくも−あつまのこゑの−さゆるよのしも


06137
未入力 正徹 (xxx)

こも枕たかせの淀に影こほる月の御舟や雲路わくらん

こもまくら−たかせのよとに−かけこほる−つきのみふねや−くもちわくらむ


06138
未入力 正徹 (xxx)

さ乙女のおりたつならぬしめのうちに冬のようたふ湊田の声

さをとめの−おりたつならぬ−しめのうちに−ふゆのようたふ−みなとたのこゑ


06139
未入力 正徹 (xxx)

声に今たつる榊の上つえにかけし鏡そむかふ月かけ

こゑにいま−たつるさかきの−うはつえに−かけしかかみそ−むかふつきかけ


06140
未入力 正徹 (xxx)

雲ゐまて庭火も白し月のうちの宮人さへや袖かへすらん

くもゐまて−にはひもしろし−つきのうちの−みやひとさへや−そてかへすらむ


06141
未入力 正徹 (xxx)

からかみに大和ことのはさえのほる霜夜の庭に御火白くたけ

からかみに−やまとことのは−さえのほる−しもよのにはに−みひしろくたけ


06142
未入力 正徹 (xxx)

白妙の袖にそとくる山のはの日影の糸の長き夜の霜

しろたへの−そてにそとくる−やまのはの−ひかけのいとの−なかきよのしも


06143
未入力 正徹 (xxx)

ひくことそ大和にもきくから荻をかたにとりかけ袖かへすなり

ひくことそ−やまとにもきく−からをきを−かたにとりかけ−そてかへすなり


06144
未入力 正徹 (xxx)

暁の鳥の鳴くまて聞ゆなり雪の太山のささうたふこゑ

あかつきの−とりのなくまて−きこゆなり−ゆきのみやまの−ささうたふこゑ


06145
未入力 正徹 (xxx)

鶴もねし松にも霜を敷浪に嵐ふくよのむしろ田のこゑ

つるもねし−まつにもしもを−しきなみに−あらしふくよの−むしろたのこゑ


06146
未入力 正徹 (xxx)

かつこほるよるへの水を結ふてのあか星うたふこゑもさむけし

かつこほる−よるへのみつを−むすふての−あかほしうたふ−こゑもさむけし


06147
未入力 正徹 (xxx)

河竹やうたふひさこの一ふしも神代くみしる水のみなかみ

かはたけや−うたふひさこの−ひとふしも−かみよくみしる−みつのみなかみ


06148
未入力 正徹 (xxx)

乱れうたふこゑさへ高し雲の上におはぬしつ屋のこ菅なからに

みたれうたふ−こゑさへたかし−くものうへに−おはぬしつやの−こすけなからに


06149
未入力 正徹 (xxx)

きねかふる鈴の下風霜さやき焼く火ともしき杜の明ほの

きねかふる−すすのしたかせ−しもさやき−たくひともしき−もりのあけほの


06150
未入力 正徹 (xxx)

杜のかけ宮も神楽もかたはかりあるかなきかの里のさひしさ

もりのかけ−みやもかくらも−かたはかり−あるかなきかの−さとのさひしさ


06151
未入力 正徹 (xxx)

駅路や杜の社の里かくら過きゆくすすにあらぬこゑかな

うまやちや−もりのやしろの−さとかくら−すきゆくすすに−あらぬこゑかな


06152
未入力 正徹 (xxx)

やとれ月賎屋のこ菅うちみたれうたふ霜よの明くる袂に

やとれつき−しつやのこすけ−うちみたれ−うたふしもよの−あくるたもとに


06153
未入力 正徹 (xxx)

をみ衣庭火をちかみささ竹の夜ふかき霜も朝倉の声

をみころも−にはひをちかみ−ささたけの−よふかきしもも−あさくらのこゑ


06154
未入力 正徹 (xxx)

袖の上の霜夜の月の有明に猶あけ星の影そさむけき

そてのうへの−しもよのつきの−ありあけに−なほあけほしの−かけそさむけき


06155
未入力 正徹 (xxx)

こも枕たかせのよとの戸すなり川たれ時を神やうくらん

こもまくら−たかせのよとの−こゑすなり−かはたれときを−かみやうくらむ


06156
未入力 正徹 (xxx)

立ちいつるをみのま袖の霜の上になひく日影の糸竹の声

たちいつる−をみのまそての−しものうへに−なひくひかけの−いとたけのこゑ


06157
未入力 正徹 (xxx)

白たへにをみもおほえす袖さえぬとよのあかりの暁の霜

しろたへに−をみもおほえす−そてさえぬ−とよのあかりの−あかつきのしも


06158
未入力 正徹 (xxx)

ありなしの外に心のみなもとをみよの仏の名をも忘れて

ありなしの−ほかにこころの−みなもとを−みよのほとけの−なをもわすれて


06159
未入力 正徹 (xxx)

となへこし三世の仏のいつれにか生れあひにし我か身ならまし

となへこし−みよのほとけの−いつれにか−うまれあひにし−わかみならまし


06160
未入力 正徹 (xxx)

しらすわれ三世の仏のいつれにか御名をとなへて生れあはまし

しらすわれ−みよのほとけの−いつれにか−みなをとなへて−うまれあはまし


06161
未入力 正徹 (xxx)

年くるる法の袖にやつつむらんかつくるわたのあつきめくみを

としくるる−のりのそてにや−つつむらむ−かつくるわたの−あつきめくみを


06162
未入力 正徹 (xxx)

となふてふ三世の仏の道はあれとくる春もなくさる年もなし

となふてふ−みよのほとけの−みちはあれと−くるはるもなく−さるとしもなし


06163
未入力 正徹 (xxx)

契りきや三世の仏の母そ原その木のもとの春にあへとは

ちきりきや−みよのほとけの−ははそはら−そのこのもとの−はるにあへとは


06164
未入力 正徹 (xxx)

となへおく三世の仏のその中にわか名やあらんしる人もなし

となへおく−みよのほとけの−そのうちに−わかなやあらむ−しるひともなし


06165
未入力 正徹 (xxx)

一念に三千仏をとなふれはわか身ひとつの名にこそ有りけれ

いちねむに−さむせむふつを−となふれは−わかみひとつの−なにこそありけれ


06166
未入力 正徹 (xxx)

年ふかき煙のうちの塩かまも霞にちかのうら風そふく

としふかき−けふりのうちの−しほかまも−かすみにちかの−うらかせそふく


06167
未入力 正徹 (xxx)

世にふるき年のをたえの橋柱又たつ春にめくりあへとや

よにふるき−としのをたえの−はしはしら−またたつはるに−めくりあへとや


06168
未入力 正徹 (xxx)

門の外に立ちいててみれはみな人そ春くる道にあよみちかつく

かとのほかに−たちいててみれは−みなひとそ−はるくるみちに−あよみちかつく


06169
未入力 正徹 (xxx)

冬の夜のあくるを待ちてくる春に門の柳もまゆねかくらん

ふゆのよの−あくるをまちて−くるはるに−かとのやなきも−まゆねかくらむ


06170
未入力 正徹 (xxx)

手向けともみよの仏を思ふらしとなふる軒の花のむめかえ

たむけとも−みよのほとけを−おもふらし−となふるのきの−はなのうめかえ


06171
未入力 正徹 (xxx)

ふる年に春の立枝は雪なからことわりしるき梅かかそする

ふるとしに−はるのたちえは−ゆきなから−ことわりしるき−うめかかそする


06172
未入力 正徹 (xxx)

有明に年ははつせの梅かかも月影したふ窓の山かせ

ありあけに−としははつせの−うめかかも−つきかけしたふ−まとのやまかせ


06173
未入力 正徹 (xxx)

世はいつそ鴬なきてむめかをる春のこなたに冬はなくして

よはいつそ−うくひすなきて−うめかをる−はるのこなたに−ふゆはなくして


06174
未入力 正徹 (xxx)

新しき年はひらけぬ槙の戸のくるる日ことに匂ふ梅かえ

あたらしき−としはひらけぬ−まきのとの−くるるひことに−にほふうめかえ


06175
未入力 正徹 (xxx)

かた枝さく梅を年木にさしそへて都のつとといつる山人

かたえさく−うめをとしきに−さしそへて−みやこのつとと−いつるやまひと


06176
未入力 正徹 (xxx)

またれすよ梅の匂はさそふともなにうくひすの春ならぬこゑ

またれすよ−うめのにほひは−さそふとも−なにうくひすの−はるならぬこゑ


06177
未入力 正徹 (xxx)

ふる雪の木のまの月の笠にぬふ梅ならなくの冬の一花

ふるゆきの−このまのつきの−かさにぬふ−うめならなくの−ふゆのひとはな


06178
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年のうちの春やうれしき梅かえの今朝はほほゑむ花のかほはせ

としのうちの−はるやうれしき−うめかえの−けさはほほゑむ−はなのかほはせ


06179
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天の下一花さくに春ならは冬ののこりや去年の梅かえ

あめのした−ひとはなさくに−はるならは−ふゆののこりや−こそのうめかえ


06180
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ことしこそ庭ともなして住む庵にあへす花さく冬の梅かえ

ことしこそ−にはともなして−すむいほに−あへすはなさく−ふゆのうめかえ


06181
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開く梅も春まつ枝にこもりかね冬の軒はにうくひすそなく

さくうめも−はるまつえたに−こもりかね−ふゆののきはに−うくひすそなく


06182
未入力 正徹 (xxx)

難波かた芦屋の軒にこの花の冬こもりせす匂ふうらかせ

なにはかた−あしやののきに−このはなの−ふゆこもりせす−にほふうらかせ


06183
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梅かかを末はの風に待ちとらて恨みてかれし軒のくすかな

うめかかを−すゑはのかせに−まちとらて−うらみてかれし−のきのくすかな


06184
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さく菊のこの花の後花なしといふへくもあらぬ梅の匂を

さくきくの−このはなののちは−ななしとい−ふへくもあらぬ−うめのにほひを


06185
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すすみせし松の下風そのままに草を冬のの夏のおもかけ

すすみせし−まつのしたかせ−そのままに−くさをふゆのの−なつのおもかけ


06186
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ふか草や野となる里の冬かれもおなし人めの雪の下庵

ふかくさや−のとなるさとの−ふゆかれも−おなしひとめの−ゆきのしたいほ


06187
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それなから暮行く年を松の戸の雪にそにほふともし火の花

それなから−くれゆくとしを−まつのとの−ゆきにそにほふ−ともしひのはな


06188
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今日そみるとよの御祓も久堅の天つ日嗣のたえぬためしを

けふそみる−とよのみそきも−ひさかたの−あまつひつきの−たえぬためしを


06189
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空に又有明の月の朝くもり光をつきて雪や散るらん

そらにまた−ありあけのつきの−あさくもり−ひかりをつきて−ゆきやちるらむ


06190
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雪の上の影にしられて天の原ふりさけみぬも月そこほれる

ゆきのうへの−かけにしられて−あまのはら−ふりさけみぬも−つきそこほれる


06191
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つもるさへむら立つ竹か影見ゆる月に夜わたる雪の白雲

つもるさへ−むらたつたけか−かけみゆる−つきによわたる−ゆきのしらくも


06192
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さゆる夜の影なき月のうすくもりふりさけみれは落つる白雪

さゆるよの−かけなきつきの−うすくもり−ふりさけみれは−おつるしらゆき


06193
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冬もまたからぬ稲はやを山田にむら雲のこるよそめなるらん

ふゆもまた−からぬいなはや−をやまたに−むらくものこる−よそめなるらむ


06194
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岩まより出場と見るや朝川のこほれる水のけふりなるらん

いはまより−いてゆとみるや−あさかはの−こほれるみつの−けふりなるらむ


06195
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夜をかさね手枕さゆる冬の夢おとろきつくせ春にあふへく

よをかさね−たまくらさゆる−ふゆのゆめ−おとろきつくせ−はるにあふへく


06196
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かつさます梅のにほひもふる年の夢の残も春や待つらん

かつさます−うめのにほひも−ふるとしの−ゆめののこりも−はるやまつらむ


06197
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なれし世の昔の年の暮もにすなすことかはる人にまかせて

なれしよの−むかしのとしの−くれもにす−なすことかはる−ひとにまかせて


06198
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老らくの春をむかふるいとなみはなきをしるしの年の暮かな

おいらくの−はるをむかふる−いとなみは−なきをしるしの−としのくれかな


06199
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うつほ木を立出ててあさるあら熊もみ山の雪に身やかくすらん

うつほきを−たちいててあさる−あらくまも−みやまのゆきに−みやかくすらむ


06200
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ききなれぬ鐘の声にそ都より遠き霜よの嵐をもしる

ききなれぬ−かねのこゑにそ−みやこより−とほきしもよの−あらしをもしる


06201
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置く霜をいかに契りて鐘のこゑうつまぬ雪に遠さかるらん

おくしもを−いかにちきりて−かねのこゑ−うつまぬゆきに−とほさかるらむ


06202
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うつもるる閨の衾に声うすし霜夜ならすや暁のかね

うつもるる−ねやのふすまに−こゑうすし−しもよならすや−あかつきのかね


06203
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しらさりき緑の空にあふきても遠きを冬といへる心を

しらさりき−みとりのそらに−あふきても−とほきをふゆと−いへるこころを


06204
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尾上なる松に入日のかかるより夕霜いそく野への冬かれ

をのへなる−まつにいりひの−かかるより−ゆふしもいそく−のへのふゆかれ


06205
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山高みひま行く駒もつまつかすこえてあゆみをいそく冬かな

やまたかみ−ひまゆくこまも−つまつかす−こえてあゆみを−いそくふゆかな


06206
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あさつくひむかひの岡のもと柏しつくもさやく霜のささ原

あさつくひ−むかひのをかの−もとかしは−しつくもさやく−しものささはら


06207
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朝川やうへとく水の下氷うすきや年の中へたつらん

あさかはや−うへとくみつの−したこほり−うすきやとしの−なかへたつらむ


06208
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草の原朝風立ちて初霜の結ふにのこる露そこほれる

くさのはら−あさかせたちて−はつしもの−むすふにのこる−つゆそこほれる


06209
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里わきていかかふるらん朝あけの時雨にみこす山の白雪

さとわきて−いかかふるらむ−あさあけの−しくれにみこす−やまのしらゆき


06210
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夕時雨ふるやゆつきか下露も氷りておつる冬の山かせ

ゆふしくれ−ふるやゆつきか−したつゆも−こほりておつる−ふゆのやまかせ


06211
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ね屋の上は日比の雪にうつもれて今朝は音なき村時雨かな

ねやのうへは−ひころのゆきに−うつもれて−けさはおとなき−むらしくれかな


06212
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子日して磯辺の小松ひかすとも春まつあまやわかめからまし

ねのひして−いそへのこまつ−ひかすとも−はるまつあまや−わかめからまし


06213
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いとまなみ冬や形見を作るらん磯なつむへき里のあま人

いとまなみ−ふゆやかたみを−つくるらむ−いそなつむへき−さとのあまひと


06214
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うちいつる千尋の海のみるふさも冬かれしらぬ浪のうへかな

うちいつる−ちひろのうみの−みるふさも−ふゆかれしらぬ−なみのうへかな


06215
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夕暮は世をうみわたり行く舟もなたの芦屋にあるる塩かせ

ゆふくれは−よをうみわたり−ゆくふねも−なたのあしやに−あるるしほかせ


06216
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にほの海やむかひの山の雪のかけうかへは遠き雪のま砂ち

にほのうみや−むかひのやまの−ゆきのかけ−うかへはとほき−ゆきのまさこち


06217
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朽ちはてし木の葉もちると雪つもる此比山やなりのほるらん

くちはてし−このはもちると−ゆきつもる−このころやまや−なりのほるらむ


06218
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のこる木は一葉もなくて冬かれぬ松たにあれと思ふ山かな

のこるきは−ひとはもなくて−ふゆかれぬ−まつたにあれと−おもふやまかな


06219
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嶺の松谷のを川にしくれても冬こそなけれ残る木からし

みねのまつ−たにのをかはに−しくれても−ふゆこそなけれ−のこるこからし


06220
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霜雪もふる山のへにのこる木の過きにし友に又やあひみん

しもゆきも−ふるやまのへに−のこるきの−すきにしともに−またやあひみむ


06221
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ちりはてし枝に紅葉を猶見せて山の木の実や色残るらん

ちりはてし−えたにもみちを−なほみせて−やまのこのみや−いろのこるらむ


06222
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篠分けて入る山人や年さむき松も葉たれの霜あさの袖

ささわけて−いるやまひとや−としさむき−まつもはたれの−しもあさのそて


06223
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さひしさやたくひもあらはなからまし庭のすすきの雪の一本

さひしさや−たくひもあらは−なからまし−にはのすすきの−ゆきのひともと


06224
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呉竹の夜のまの霜の朝戸出に葉分の風の身に寒くして

くれたけの−よのまのしもの−あさとてに−はわけのかせの−みにさむくして


06225
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を山田やかりしいなくき朽ちなから雪をならふる水のうへかな

をやまたや−かりしいなくき−くちなから−ゆきをならふる−みつのうへかな


06226
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おなしくは清滝川にね覚してきかはや夜はの水鳥のこゑ

おなしくは−きよたきかはに−ねさめして−きかはやよはの−みつとりのこゑ


06227
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こもり江につれこし鳥の一つかひなきよの水の上そかなしき

こもりえに−つれこしとりの−ひとつかひ−なきよのみつの−うへそかなしき


06228
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いかかねん冬の霜夜の空さえて嵐にわたる村鳥のこゑ

いかかねむ−ふゆのしもよの−そらさえて−あらしにわたる−むらとりのこゑ


06229
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冬かれの山のはこゆるあちむらに声も野分の木の葉をそみる

ふゆかれの−やまのはこゆる−あちむらに−こゑものわきの−このはをそみる


06230
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秋過きし野田の芝生の霜原にむら鳥さわくいねやこくらん

あきすきし−のたのしはふの−しもはらに−むらとりさわく−いねやこくらむ


06231
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霜さむき垣ねつたひにうつるなり山路のしとと行くにまかせて

しもさむき−かきねつたひに−うつるなり−やまちのしとと−ゆくにまかせて


06232
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たかてらす日影をちかみ鳴くつるの霜の上毛や露みたるらん

たかてらす−ひかけをちかみ−なくつるの−しものうはけや−つゆみたるらむ


06233
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三冬つき春の花開きいてはとや虫もくち木の枝にこもれる

みふゆつき−はるのはなさき−いてはとや−むしもくちきの−えたにこもれる


06234
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さむからし雪野にしるき熊の子の此世にやすく生れくる身は

さむからし−ゆきのにしるき−くまのこの−このよにやすく−うまれくるみは


06235
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霜さゆる御牧の草の冬かれにこまのふる毛も色そあせゆく

しもさゆる−みまきのくさの−ふゆかれに−こまのふるけも−いろそあせゆく


06236
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冬こもるふすゐのかるも此比や雪かきませてねん方もなき

ふゆこもる−ふすゐのかるも−このころや−ゆきかきませて−ねむかたもなき


06237
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朝ほらけてかひの犬の跡見えてこゑこゑさむき庭の初雪

あさほらけ−てかひのいぬの−あとみえて−こゑこゑさむき−にはのはつゆき


06238
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冬こもりすむうつほ木も下折れて雪野にしるきくまそ出行く

ふゆこもり−すむうつほきも−したをれて−ゆきのにしるき−くまそいてゆく


06239
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さ夜ふかくきけはいさみし村犬の跡をあまたの庭のしら雪

さよふかく−きけはいさみし−むらいぬの−あとをあまたの−にはのしらゆき


06240
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夜やさむき衣やとたにとふ人はさもかたき世に行合の霜

よやさむき−ころもやとたに−とふひとは−さもかたきよに−ゆきあひのしも


06241
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宮人の衣にすれるささ竹は雪にやさやくをみのうらかせ

みやひとの−ころもにすれる−ささたけは−ゆきにやさやく−をみのうらかせ


06242
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さよ衣うらさひしくや残るらん暁おきのさむきむしろに

さよころも−うらさひしくや−のこるらむ−あかつきおきの−さむきむしろに


06243
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年をへていたくそ霜にすみ染の衣の色そふかくなりぬる

としをへて−いたくそしもに−すみそめの−ころものいろそ−ふかくなりぬる


06244
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冬の夜そきまくもほしき山里のかすみの衣おりもいたさて

ふゆのよそ−きまくもほしき−やまさとの−かすみのころも−おりもいたさて


06245
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くろ髪もさやけかりきやたく櫛のほかけにみえし夜はの乙女こ

くろかみも−さやけかりきや−たくくしの−ほかけにみえし−よはのをとめこ


06246
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長き夜をせんかたなみの床中にをりあはれなるをし碑の声

なかきよを−せむかたなみの−とこなかに−をりあはれなる−をしかものこゑ


06247
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さ莚のちりさへ今朝ははらはれすふかき涙の床のこほりに

さむしろの−ちりさへけさは−はらはれす−ふかきなみたの−とこのこほりに


06248
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おきいてて人なき床の月影にさゆる莚をまくあらしかな

おきいてて−ひとなきとこの−つきかけに−さゆるむしろを−まくあらしかな


06249
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松にはふま葛のかれは吹きはらひうらみなき世にかへる風かな

まつにはふ−まくすのかれは−ふきはらひ−うらみなきよに−かへるかせかな


06250
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かけをたにさそひつくして木の葉なき枝吹きしをる風のはけしさ

かけをたに−さそひつくして−このはなき−えたふきしをる−かせのはけしさ


06251
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荻原やかれは散りしく霜の上にそよきし風そむすほほれ行く

をきはらや−かれはちりしく−しものうへに−そよきしかせそ−むすほほれゆく


06252
未入力 正徹 (xxx)

身にさむき風は昔の冬の夢さめぬる床に結ふはつ霜

みにさむき−かせはむかしの−ふゆのゆめ−さめぬるとこに−むすふはつしも


06253
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霜消えてうき出てし土の夕こりに嵐そかわく山の下みち

しもきえて−うきいてしつちの−ゆふこりに−あらしそかわく−やまのしたみち


06254
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明けて見ん嵐にあるる冬のおくふりかくすかの夜はの白雪

あけてみむ−あらしにあるる−ふゆのおく−ふりかくすかの−よはのしらゆき


06255
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おとろかす鐘もつつみも音絶えて又ふかくなる冬のよの空

おとろかす−かねもつつみも−おとたえて−またふかくなる−ふゆのよのそら


06256
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埋火に枕かたふけ戸もあけす雪のうへなる月はおもへと

うつみひに−まくらかたふけ−ともあけす−ゆきのうへなる−つきはおもへと


06257
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明しかねうちぬる袖の霜氷夜夜の夢路はむすひ絶えつつ

あかしかね−うちぬるそての−しもこほり−よよのゆめちは−むすひたえつつ


06258
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冬の夜をたれつくりてか明けやらてなからにかくる夢のうき檎

ふゆのよを−たれつくりてか−あけやらて−なからにかくる−ゆめのうきはし


06259
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明けぬとは鐘をもきかす置く霜の八度なけとも鳥の空ねに

あけぬとは−かねをもきかす−おくしもの−やたひなけとも−とりのそらねに


06260
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氷りゐる岩まに今夜ととまりて水も旅ねの宿やさむけき

こほりゐる−いはまにこよひ−ととまりて−みつもたひねの−やとやさむけき


06261
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あけぬ夜の入る山のはに消えそゆく月の氷は冬そともなく

あけぬよの−いるやまのはに−きえそゆく−つきのこほりは−ふゆそともなく


06262
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さえいつる太山の月の有明にくもらぬ雪のちる嵐かな

さえいつる−みやまのつきの−ありあけに−くもらぬゆきの−ちるあらしかな


06263
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さえいてし月は夜ことにうとくなりてつれなくのこる有明の山

さえいてし−つきはよことに−うとくなりて−つれなくのこる−ありあけのやま


06264
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霜ふかき樒も水もこほるらし暁おきの峰の山寺

しもふかき−しきみもみつも−こほるらし−あかつきおきの−みねのやまてら


06265
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風さえて暁霜のみちくるに雲の浪なき冬の空かな

かせさえて−あかつきしもの−みちくるに−くものなみなき−ふゆのそらかな


06266
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鵲のわたすはたえし横雲にふりける雪のみねの梯

かささきの−わたすはたえし−よこくもに−ふりけるゆきの−みねのかけはし


06267
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明行くやかひかねならぬ雪の上によこほりふすと見ゆる山かな

あけゆくや−かひかねならぬ−ゆきのうへに−よこほりふすと−みゆるやまかな


06268
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嶺こゆる冬はいつくを別れてかいまよこ雲に時雨れきぬらん

みねこゆる−ふゆはいつくを−わかれてか−いまよこくもに−しくれきぬらむ


06269
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老いにけるたれ手枕にみたるらんくろかみ山のあかつきの霜

おいにける−たれたまくらに−みたるらむ−くろかみやまの−あかつきのしも


06270
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よひのまは時雨れし庭の木枯にこほりてさゆる有明の霜

よひのまは−しくれしにはの−こからしに−こほりてさゆる−ありあけのしも


06271
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明かたの月そかかれる鵲のわたせる橋の霜のふりはに

あけかたの−つきそかかれる−かささきの−わたせるはしの−しものふりはに


06272
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かた敷の袖の氷も夜もすからむすほほれあふ夢の明ほの

かたしきの−そてのこほりも−よもすから−むすほほれあふ−ゆめのあけほの


06273
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冬の夜はいくたひ覚めていく度か遠き夢路に立ちかへるらん

ふゆのよは−いくたひさめて−いくたひか−とほきゆめちに−たちかへるらむ


06274
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面かけのさむる枕にかすむかな夢のかよひち春ふかくして

おもかけの−さむるまくらに−かすむかな−ゆめのかよひち−はるふかくして


06275
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袖こほるうつつの夢の関守はとけてぬる夜のうつみ火のもと

そてこほる−うつつのゆめの−せきもりは−とけてぬるよの−うつみひのもと


06276
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さ夜衣あたたかならぬ冬の夢さむるとはいはしみておとろきぬ

さよころも−あたたかならぬ−ふゆのゆめ−さむるとはいはし−みておとろきぬ


06277
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さそはれぬ袖の氷にねをたえて枕にちかき夢の浮鳥

さそはれぬ−そてのこほりに−ねをたえて−まくらにちかき−ゆめのうきとり


06278
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つねよりもちかく聞くかなさゆる夜の霜こそかねのひひきなりけれ

つねよりも−ちかくきくかな−さゆるよの−しもこそかねの−ひひきなりけれ


06279
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灯はたまらぬ雪そふかく入るあれて戸たてぬ寺のあらしに

ともしひは−たまらぬゆきそ−ふかくいる−あれてとたてぬ−てらのあらしに


06280
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夕まくれ軒はの雪の松風にけふる樒そ匂のこれる

ゆふまくれ−のきはのゆきの−まつかせに−けふるしきみそ−にほひのこれる


06281
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雪の上の緑のしきみかたよりに嵐もまよふかねのこゑかな

ゆきのうへの−みとりのしきみ−かたよりに−あらしもまよふ−かねのこゑかな


06282
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さえ行くやひとつの雲にふり分けて時雨につるる雪の山かせ

さえゆくや−ひとつのくもに−ふりわけて−しくれにつるる−ゆきのやまかせ


06283
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白たへにたなひく空の雪にみつつもらぬ雪の山のすかたを

しろたへに−たなひくそらの−ゆきにみつ−つもらぬゆきの−やまのすかたを


06284
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ゆふま暮かねてしるしも空さえて雪けにちかき雲のふるまひ

ゆふまくれ−かねてしるしも−そらさえて−ゆきけにちかき−くものふるまひ


06285
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天つ風あれ行く雲のみをつくし立ちもさためぬ雪の白なみ

あまつかせ−あれゆくくもの−みをつくし−たちもさためぬ−ゆきのしらなみ


06286
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夕日影なひく木陰にくたりきぬかれのの上の嶺の山人

ゆふひかけ−なひくこかけに−くたりきぬ−かれののうへの−みねのやまひと


06287
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野かひなき毛さへかしけてくる牛のさし入るこやの雪の山里

のかひなき−けさへかしけて−くるうしの−さしいるこやの−ゆきのやまさと


06288
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山里は煙もたてぬ宿の戸をあけとほす冬のおくそさひしき

やまさとは−けふりもたてぬ−やとのとを−あけとほすふゆの−おくそさひしき


06289
未入力 正徹 (xxx)

ととこほる山嵐なくて荒れぬとや木の葉うらむる嶺の松かき

ととこほる−やまあらしなくて−あれぬとや−このはうらむる−みねのまつかき


06290
未入力 正徹 (xxx)

こきいつる時そともなき舟岡やいととあれゆく冬のおひかせ

こきいつる−ときそともなき−ふなをかや−いととあれゆく−ふゆのおひかせ


06291
未入力 正徹 (xxx)

冬こもりうきたをやめか衣手に雪ふる里のあすか川かせ

ふゆこもり−うきたをやめか−ころもてに−ゆきふるさとの−あすかかはかせ


06292
未入力 正徹 (xxx)

塩木つむ磯屋の庭におりかねて軒はの雪になく千鳥かな

しほきつむ−いそやのにはに−おりかねて−のきはのゆきに−なくちとりかな


06293
未入力 正徹 (xxx)

霜をへて松に塩かせさやく日の海のおもてはささ舟もなし

しもをへて−まつにしほかせ−さやくひの−うみのおもては−ささふねもなし


06294
未入力 正徹 (xxx)

しら波もかへる雲ゐのたつそ鳴くねくらやさむき霜のはま松

しらなみも−かへるくもゐの−たつそなく−ねくらやさむき−しものはままつ


06295
未入力 正徹 (xxx)

氷しく沢への松かねにそなく雑のふりほもmやさむけき

こほりしく−さはへのまつか−ねにそなく−しものふりはも−つるやさむけき


06296
未入力 正徹 (xxx)

月落ちてこほる入江の芦のはに鶴のつはさもさやくよの霜

つきおちて−こほるいりえの−あしのはに−つるのつはさも−さやくよのしも


06297
未入力 正徹 (xxx)

寺古りて嵐ふく夜の霜なから木の葉の上もひひく鐘かな

てらふりて−あらしふくよの−しもなから−このはのうへも−ひひくかねかな


06298
未入力 正徹 (xxx)

冬の池のはすの朽はも雪に又にこりにしまぬ花や開くらん

ふゆのいけの−はすのくちはも−ゆきにまた−にこりにしまぬ−はなやさくらむ


06299
未入力 正徹 (xxx)

一もとの松のみ嶺に霜ふりてみなかしけたる山のささはら

ひともとの−まつのみみねに−しもふりて−みなかしけたる−やまのささはら


06300
未入力 正徹 (xxx)

今朝はなけ妻へたて行く鳥の名の山もかかみをかくる雪かな

けさはなけ−つまへたてゆく−とりのなの−やまもかかみを−かくるゆきかな


06301
未入力 正徹 (xxx)

東路の草を冬野にふみからせすすめむ駒の足もととろに

あつまちの−くさをふゆのに−ふみからせ−すすめむこまの−あしもととろに


06302
未入力 正徹 (xxx)

常よりも都にいそく旅人をまつらん年の暮るる家家

つねよりも−みやこにいそく−たひひとを−まつらむとしの−くるるいへいへ


06303
未入力 正徹 (xxx)

おとたかく朝川くたきわたるきぬ氷のまへの宿のまくらに

おとたかく−あさかはくたき−わたるきぬ−こほりのまへの−やとのまくらに


06304
未入力 正徹 (xxx)

立ちそよるしののかり屋のかたはかりのこる野中の雪はらふとて

たちそよる−しののかりやの−かたはかり−のこるのなかの−ゆきはらふとて


06305
未入力 正徹 (xxx)

冬川を夕わたりする火焼屋にたか宿とはて先そ立入る

ふゆかはを−ゆふわたりする−ひたきやに−たかやととはて−まつそたちいる


06306
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから宿にたく火にうれふなりあすの山路の雪はいかにと

よもすから−やとにたくひに−うれふなり−あすのやまちの−ゆきはいかにと


06307
未入力 正徹 (xxx)

跡うつめ世は冬こもる年も猶老いてさまよふ雪の下道

あとうつめ−よはふゆこもる−としもなほ−おいてさまよふ−ゆきのしたみち


06308
未入力 正徹 (xxx)

心ゆく道うつもれて思ふ事跡なき雪のやとの夕くれ

こころゆく−みちうつもれて−おもふこと−あとなきゆきの−やとのゆふくれ


06309
未入力 正徹 (xxx)

またのこる日数はあれとつれなくてことしも過くる老のくれかな

またのこる−ひかすはあれと−つれなくて−ことしもすくる−おいのくれかな


06310
未入力 正徹 (xxx)

くる春を松きる山に開く梅の花のかをしきあさのさ衣

くるはるを−まつきるやまに−さくうめの−はなのかをしき−あさのさころも


06311
未入力 正徹 (xxx)

葉のちりし杜の梢にやとる木の松のみとりそ冬はめに立つ

はのちりし−もりのこすゑに−やとるきの−まつのみとりそ−ふゆはめにたつ


06312
未入力 正徹 (xxx)

山川やなかるる水のもみちはをしからみかけてこほり初めつつ

やまかはや−なかるるみつの−もみちはを−しからみかけて−こほりそめつつ


06313
未入力 正徹 (xxx)

はつせ川はやくのことを忍へはや氷によとむせせの白浪

はつせかは−はやくのことを−しのへはや−こほりによとむ−せせのしらなみ


06314
未入力 正徹 (xxx)

滝の上の岩にかかりてちる浪のこほりてたえすふる霰かな

たきのうへの−いはにかかりて−ちるなみの−こほりてたえす−ふるあられかな


06315
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うき身にも憑む洲あれや冬川の舟なかすへき氷ともなし

うきみにも−たのむすあれや−ふゆかはの−ふねなかすへき−こほりともなし


06316
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行きかへり山の市柴つむ年のくるるなけきもしらぬ民かな

ゆきかへり−やまのいちしは−つむとしの−くるるなけきも−しらぬたみかな


06317
未入力 正徹 (xxx)

宿そなきこほれる霞も玉たれのこすの名におふのへの村萩

やとそなき−こほれるつゆも−たまたれの−こすのなにおふ−のへのむらはき


06318
未入力 正徹 (xxx)

明くるまてねぬ夜の雲の閨の戸を月もおき出てて出つるとそみる

あくるまて−ねぬよのくもの−ねやのとを−つきもおきいてて−いつるとそみる


06319
未入力 正徹 (xxx)

冬のこし暁やみのうつつより雪をさたかにかへるとしかな

ふゆのこし−あかつきやみの−うつつより−ゆきをさたかに−かへるとしかな


06320
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袖さむし道行ふりの辻社ほたきの後の杜の木からし

そてさむし−みちゆきふりの−つしやしろ−ほたきののちの−もりのこからし


06321
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神な月いはふも久ししなか鳥ゐの日の夜はの時しかはらて

かみなつき−いはふもひさし−しなかとり−ゐのひのよはの−ときしかはらて


06322
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鷲の山たききつくれは火も消えていく年冬の雪埋むらん

わしのやま−たききつくれは−ひもきえて−いくとせふゆの−ゆきうつむらむ


06323
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法の道いそかれさりし月日へてかさなる年の暮そかなしき

のりのみち−いそかれさりし−つきひへて−かさなるとしの−くれそかなしき


06324
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過きやすき月日の数も身にとまる老となしてや年の行くらん

すきやすき−つきひのかすも−みにとまる−おいとなしてや−としのゆくらむ


06325
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かくはかり憎む所にととまらて心のままにすくるとしかな

かくはかり−にくむところに−ととまらて−こころのままに−すくるとしかな


06326
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わか心さのみしたはしをしみてもかくこそ去年の年も行きしか

わかこころ−さのみしたはし−をしみても−かくこそこその−としもゆきしか


06327
未入力 正徹 (xxx)

みな人のしたふ心にととまらてめつらしからすくるる年かな

みなひとの−したふこころに−ととまらて−めつらしからす−くるるとしかな


06328
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積りきて雪の下折なき山も松きる年のおくそあれ行く

つもりきて−ゆきのしたをれ−なきやまも−まつきるとしの−おくそあれゆく


06329
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四の時おくると誰か思ひけん春立ちし日のくるる年かな

よつのとき−おくるとたれか−おもひけむ−はるたちしひの−くるるとしかな


06330
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行きめくる月日程なくいや年のはしになるまてくるる年かな

ゆきめくる−つきひほとなく−いやとしの−はしになるまて−くるるとしかな


06331
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暮れて行く年木こるをのおのつからのこすこ松や子日待つらん

くれてゆく−としきこるをの−おのつから−のこすこまつや−ねのひまつらむ


06332
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はつせ川すみえぬ水のうたかたにしつみて年を又やおくらん

はつせかは−すみえぬみつの−うたかたに−しつみてとしを−またやおくらむ


06333
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玉くしけ老のなみのみたたみ置きて衣はうすき年の暮かな

たまくしけ−おいのなみのみ−たたみおきて−ころもはうすき−としのくれかな


06334
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くる春のいとなみ茂き人の世をのとかにみるも暮るる年かな

くるはるの−いとなみしけき−ひとのよを−のとかにみるも−くるるとしかな


06335
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鴬の梅の花もてぬふ笠のいとなみ茂き年のくれかな

うくひすの−うめのはなもて−ぬふかさの−いとなみしけき−としのくれかな


06336
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家家にはらひつくすをあやにくに空はすすけて落つる雪かな

いへいへに−はらひつくすを−あやにくに−そらはすすけて−おつるゆきかな


06337
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ます鏡老いぬる年のくれはとりあやしきまてにおもかはり行く

ますかかみ−おいぬるとしの−くれはとり−あやしきまてに−おもかはりゆく


06338
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いててみよ都のうちも市町のほかにはさのみくれぬ年かな

いててみよ−みやこのうちも−いちまちの−ほかにはさのみ−くれぬとしかな


06339
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あふ坂やはやくも年の行くとくとせきとめかたき山川の水

あふさかや−はやくもとしの−ゆくとくと−せきとめかたき−やまかはのみつ


06340
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夜の程に又わか年となりそせん人のためには老をかさねて

よのほとに−またわかとしと−なりそせむ−ひとのためには−おいをかさねて


06341
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年の暮松を林と見るはかり都の市にたてる商人

としのくれ−まつをはやしと−みるはかり−みやこのいちに−たてるあきひと


06342
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たをやめも身やふりぬらん飛鳥風川なみ早く過くる年かな

たをやめも−みやふりぬらむ−あすかかせ−かはなみはやく−すくるとしかな


06343
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暮ことに年も年こそつもるらめよそけに人の上に越行く

くれことに−としもとしこそ−つもるらめ−よそけにひとの−うへにこえゆく


06344
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七十の春をむかふる年暮れぬあらむ物とは思ひやはせし

ななそちの−はるをむかふる−としくれぬ−あらむものとは−おもひやはせし


06345
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さのみ又老をかなしみ行く年ををしむといふもめつらしけなし

さのみまた−おいをかなしみ−ゆくとしを−をしむといふも−めつらしけなし


06346
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たつ民の市にすすむるあち酒の三冬つきぬる年の暮かな

たつたみの−いちにすすむる−あちさけの−みふゆつきぬる−としのくれかな


06347
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暮るるをも惜むへき程の年ならすいそけ逢ひみん春の初花

くるるをも−をしむへきほとの−としならす−いそけあひみむ−はるのはつはな


06348
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ことわりの老はよのつねひるの子の足たたぬ年の暮そかなしき

ことわりの−おいはよのつね−ひるのこの−あしたたぬとしの−くれそかなしき


06349
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松風の声にも春やかよふらん年のをことの冬のしらへは

まつかせの−こゑにもはるや−かよふらむ−としのをことの−ふゆのしらへは


06350
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をしからすいとなますして一年の暮るるをしらぬ所ともかな

をしからす−いとなますして−ひととせの−くるるをしらぬ−ところともかな


06351
未入力 正徹 (xxx)

つれなしよ七十あまりのこされて今年も年に又やおくれん

つれなしよ−ななそちあまり−のこされて−ことしもとしに−またやおくれむ


06352
未入力 正徹 (xxx)

ふる年のねくらにいそく夕からすねての朝けや春を告くらん

ふるとしの−ねくらにいそく−ゆふからす−ねてのあさけや−はるをつくらむ


06353
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天の戸のあくるも空に声はせぬ春のとなりをたたく松かせ

あまのとの−あくるもそらに−こゑはせぬ−はるのとなりを−たたくまつかせ


06354
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したひつつ春を思はぬ日数とや立つことやすき年のゆくらん

したひつつ−はるをおもはぬ−ひかすとや−たつことやすき−としのゆくらむ


06355
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早川や行く年なみもをしの毛のぬれぬを老の袂ともかな

はやかはや−ゆくとしなみも−をしのけの−ぬれぬをおいの−たもとともかな


06356
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春を待つ心を分けてしたふとや暮れゆく年の猶いそくらん

はるをまつ−こころをわけて−したふとや−くれゆくとしの−なほいそくらむ


06357
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宮こをもひなの長路とみるはかり民ののほるも暮るる年かな

みやこをも−ひなのなかちと−みるはかり−たみののほるも−くるるとしかな


06358
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うらさりき老いたるしつかあはれにももちかへる年のくるる市かな

うらさりき−おいたるしつか−あはれにも−もちかへるとしの−くるるいちかな


06359
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あら玉の春待つ雪や暮れて行く年の光を猶のこすらん

あらたまの−はるまつゆきや−くれてゆく−としのひかりを−なほのこすらむ


06360
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心なくこれそ此世をふる雪のつもれる人に年はくれつつ

こころなく−これそこのよを−ふるゆきの−つもれるひとに−としはくれつつ


06361
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春かけて庭の年木や干しかねんこりつむままに埋む白雪

はるかけて−にはのとしきや−ほしかねむ−こりつむままに−うつむしらゆき


06362
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春ちかくなり行く年の雪よりも老のつもるそ今はけぬへき

はるちかく−なりゆくとしの−ゆきよりも−おいのつもるそ−いまはけぬへき


06363
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年すてに行くとくるとのかた糸は雪のあわをにむすほほれつつ

としすてに−ゆくとくるとの−かたいとは−ゆきのあわをに−むすほほれつつ


06364
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年のをとみるさへ暮れぬ天つ風空に吹きまく雪のめくるを

としのをと−みるさへくれぬ−あまつかせ−そらにふきまく−ゆきのめくるを


06365
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つもるまの雪のふる年先消えて氷にいそく春の川なみ

つもるまの−ゆきのふるとし−まつきえて−こほりにいそく−はるのかはなみ


06366
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春のこん跡たに見えし暮れて行く年の契もうす雪の庭

はるのこむ−あとたにみえし−くれてゆく−としのちきりも−うすゆきのには


06367
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暮れてゆく年やうらむるやとの梅枝に入りたつ春のこころを

くれてゆく−としやうらむる−やとのうめ−かえにいりたつ−はるのこころを


06368
未入力 正徹 (xxx)

鴬の梅の花笠ふる雪にかくれてちかき春やまつらん

うくひすの−うめのはなかさ−ふるゆきに−かくれてちかき−はるやまつらむ


06369
未入力 正徹 (xxx)

年こゆる色やはかへん高砂の松もむかしの興つしらなみ

としこゆる−いろやはかへむ−たかさこの−まつもむかしの−おきつしらなみ


06370
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興つなみかけえぬいその松のはもつもる月日に越ゆる年かな

おきつなみ−かけえぬいその−まつのはも−つもるつきひに−こゆるとしかな


06371
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うす煙春の霞をたて初めてすみやく山もくるる年かな

うすけふり−はるのかすみを−たてそめて−すみやくやまも−くるるとしかな


06372
未入力 正徹 (xxx)

霞にやあけなは春の光みむ年ものこらすうつみ火もなし

かすみにや−あけなははるの−ひかりみむ−としものこらす−うつみひもなし


06373
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山川や谷のなかれ木氷とめて暮行く年を送る浪かな

やまかはや−たにのなかれき−こほりとめて−くれゆくとしを−おくるなみかな


06374
未入力 正徹 (xxx)

峰たかき山のおくとや憑むらんゆふへの雲にかへる年かな

みねたかき−やまのおくとや−たのむらむ−ゆふへのくもに−かへるとしかな


06375
未入力 正徹 (xxx)

いたつらに過くる月日を思ひねのよるの夢ちに年や行くらん

いたつらに−すくるつきひを−おもひねの−よるのゆめちに−としやゆくらむ


06376
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから道行人の松の火に暮れける年の光をそみる

よもすから−みちゆくひとの−まつのひに−くれけるとしの−ひかりをそみる


06377
未入力 正徹 (xxx)

あやふかりし世をうき橋に暮れはてて夢のわたりにかへる年なみ

あやふかりし−よをうきはしに−くれはてて−ゆめのわたりに−かへるとしなみ


06378
未入力 正徹 (xxx)

すめる世ものとけき月の宮人や老せぬ年の暮に合ふらん

すめるよも−のとけきつきの−みやひとや−おいせぬとしの−くれにあふらむ


06379
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影みるも夜ことにうすし行く年の心ほそくや月もなるらん

かけみるも−よことにうすし−ゆくとしの−こころほそくや−つきもなるらむ


06380
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天の川月のこほりの関守はなしとや年もなかれ行くらん

あまのかは−つきのこほりの−せきもりは−なしとやとしも−なかれゆくらむ


06381
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梓弓いるとはなしに年の箭のなと一すちにはやき心そ

あつさゆみ−いるとはなしに−としのやの−なとひとすちに−はやきこころそ


06382
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をた巻やしつか手引のいとなみもこと茂き世に暮るる年かな

をたまきや−しつかてひきの−いとなみも−ことしけきよに−くるるとしかな


06383
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よのつねのねに行く鳥のはつかひも年のくるるを知るかとそみる

よのつねの−ねにゆくとりの−はつかひも−としのくるるを−しるかとそみる


06384
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浪ならぬ年も程なくこゆるきのいそかはしきは都なりけり

なみならぬ−としもほとなく−こゆるきの−いそかはしきは−みやこなりけり


06385
未入力 正徹 (xxx)

暮るるをもいそく年かな老いぬとも春の詞の花やさくとて

くるるをも−いそくとしかな−おいぬとも−はるのことはの−はなやさくとて


06386
未入力 正徹 (xxx)

いくつねて春そと人にとひし比まち遠なりし年そ恋しき

いくつねて−はるそとひとに−とひしころ−まちとほなりし−としそこひしき


06387
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宿ことの春のいとなみ数見えて又豊年のくるる比かな

やとことの−はるのいとなみ−かすみえて−またとよとしの−くるるころかな


06388
未入力 正徹 (xxx)

消えぬ世にありのすさみはうかりきと雪ふる年も思ひたつらん

きえぬよに−ありのすさみは−うかりきと−ゆきふるとしも−おもひたつらむ


06389
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とにかくに暮るる日数をしたふかなわか年程のゆひを折りつつ

とにかくに−くるるひかすを−したふかな−わかとしほとの−ゆひををりつつ


06390
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さやかなる月の有明にならぬ程くれね憑をかくる年かな

さやかなる−つきのありあけに−ならぬほと−くれねたのみを−かくるとしかな


06391
未入力 正徹 (xxx)

後の世を思ふ心のおこたるもかねていそかぬ年にこそしれ

のちのよを−おもふこころの−おこたるも−かねていそかぬ−としにこそしれ


06392
未入力 正徹 (xxx)

もとつえをいまたたをらぬゆつりはのみ山の雪にくるる年かな

もとつえを−いまたたをらぬ−ゆつりはの−みやまのゆきに−くるるとしかな


06393
未入力 正徹 (xxx)

つれなくも行く年のをと玉のをとわか方なかき春日をやみん

つれなくも−ゆくとしのをと−たまのをと−わかかたなかき−はるひをやみむ


06394
未入力 正徹 (xxx)

くる春をくれやすき日そいそき行く人のあよみもたたにやはみる

くるはるを−くれやすきひそ−いそきゆく−ひとのあよみも−たたにやはみる


06395
未入力 正徹 (xxx)

暮れゆくを身にとりとめてふりまさる老こそ年のかたみなりけれ

くれゆくを−みにとりとめて−ふりまさる−おいこそとしの−かたみなりけれ


06396
未入力 正徹 (xxx)

若の浦も老その杜も引くしめやたたなはかけて暮るる年かな

わかのうらも−おいそのもりも−ひくしめや−たたなはかけて−くるるとしかな


06397
未入力 正徹 (xxx)

深けにけり今夜はあかせ家家に春と冬とのあひやとりして

ふけにけり−こよひはあかせ−いへいへに−はるとふゆとの−あひやとりして



草根集 恋

06398
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身のうさを思ひしるとて恨みすは人の心のなきになさまし

みのうさを−おもひしるとて−うらみすは−ひとのこころの−なきになさまし


06399
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なかめわひむなしき空にみつしほやからき恨の行へとふらん

なかめわひ−むなしきそらに−みつしほや−からきうらみの−ゆくへとふらむ


06400
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣猶うらめしきうつつかなかへしてみぬを夢になせとも

さよころも−なほうらめしき−うつつかな−かへしてみぬを−ゆめになせとも


06401
未入力 正徹 (xxx)

山たかみ隔ててし身を心なと霞のうちの花にそむらん

やまたかみ−へたててしみを−こころなと−かすみのうちの−はなにそむらむ


06402
未入力 正徹 (xxx)

身にとまれひなの長路のすゑまては伝へきかれん恋のかせかは

みにとまれ−ひなのなかちの−すゑまては−つたへきかれむ−こひのかせかは


06403
未入力 正徹 (xxx)

うら浪やうき身にかへり入しほのからくもいはぬむねにみちぬる

うらなみや−うきみにかへり−いりしほの−からくもいはぬ−むねにみちぬる


06404
未入力 正徹 (xxx)

むねにたくもしほのけふり消えやらて身を浦風にかへる波かな

むねにたく−もしほのけふり−きえやらて−みをうらかせに−かへるなみかな


06405
未入力 正徹 (xxx)

引きとめよしたふ別のうしろても見えす夜ふかき床の黒かみ

ひきとめよ−したふわかれの−うしろても−みえすよふかき−とこのくろかみ


06406
未入力 正徹 (xxx)

さしこもるむくらの宿の思草はひあふ床はねんかたもなし

さしこもる−むくらのやとの−おもひくさ−はひあふとこは−ねむかたもなし


06407
未入力 正徹 (xxx)

浅からぬ色にそ見ゆる紅の涙ふりいつる袖の初しほ

あさからぬ−いろにそみゆる−くれなゐの−なみたふりいつる−そてのはつしほ


06408
未入力 正徹 (xxx)

思ひつつあかしならはぬ初鳥のねにたてすともしる人もかな

おもひつつ−あかしならはぬ−はつとりの−ねにたてすとも−しるひともかな


06409
未入力 正徹 (xxx)

わか心けにおもふともさためなき袖の時雨にぬれはしめつつ

わかこころ−けにおもふとも−さためなき−そてのしくれに−ぬれはしめつつ


06410
未入力 正徹 (xxx)

初かりのなきても思ひつきせすはこえしよ秋の峰の朝霧

はつかりの−なきてもおもひ−つきせすは−こえしよあきの−みねのあさきり


06411
未入力 正徹 (xxx)

露分けて思ひ入野の初尾花いつしかよそにぬるる袖かな

つゆわけて−おもひいるのの−はつをはな−いつしかよそに−ぬるるそてかな


06412
未入力 正徹 (xxx)

うたたねの袂の露の新結枕まてとはおもひかけすよ

うたたねの−たもとのつゆの−にひむすひ−まくらまてとは−おもひかけすよ


06413
未入力 正徹 (xxx)

またしらぬ心のおくの初を花みたれて露や袖にみゆらん

またしらぬ−こころのおくの−はつをはな−みたれてつゆや−そてにみゆらむ


06414
未入力 正徹 (xxx)

入初むる思ひの煙たえせすは恋の山柴焼きやつくさむ

いりそむる−おもひのけふり−たえせすは−こひのやましは−たきやつくさむ


06415
未入力 正徹 (xxx)

たき初むる思ひの薪いつこりてしらぬ山ちに煙たつらん

たきそむる−おもひのたきき−いつこりて−しらぬやまちに−けふりたつらむ


06416
未入力 正徹 (xxx)

つつめ先高ねの花の雲霞のちに心の色はちるとも

つつめまつ−たかねのはなの−くもかすみ−のちにこころの−いろはちるとも


06417
未入力 正徹 (xxx)

かかりきといははや春の初卯杖心にもまたふりぬ思ひを

かかりきと−いははやはるの−はつうつゑ−こころにもまた−ふりぬおもひを


06418
未入力 正徹 (xxx)

深からむ色ともしらす紅の一はな衣したにそめつつ

ふかからむ−いろともしらす−くれなゐの−ひとはなころも−したにそめつつ


06419
未入力 正徹 (xxx)

こもりゐて恋をもしらぬはしたかを初とやいたす君はうらめし

こもりゐて−こひをもしらぬ−はしたかを−はしめとやいたす−きみはうらめし


06420
未入力 正徹 (xxx)

涙のみふるのの露にまかふらしまた初せちに思ひ入る身は

なみたのみ−ふるののつゆに−まかふらし−またはつせちに−おもひいるみは


06421
未入力 正徹 (xxx)

契あらは初もとゆひの紫に結ふはかりのねをや尋ねん

ちきりあらは−はつもとゆひの−むらさきに−むすふはかりの−ねをやたつねむ


06422
未入力 正徹 (xxx)

思ふ事ほにあらはさむ秋の田も初いねをこそ神もうくらめ

おもふこと−ほにあらはさむ−あきのたも−はついねをこそ−かみもうくらめ


06423
未入力 正徹 (xxx)

したもえにたくとしらすや夕ま暮見そめか崎のあまのいさり火

したもえに−たくとしらすや−ゆふまくれ−みそめかさきの−あまのいさりひ


06424
未入力 正徹 (xxx)

思ふより下に焼く火の色そこき時雨は染めぬ秋の初しほ

おもふより−したにたくひの−いろそこき−しくれはそめぬ−あきのはつしほ


06425
未入力 正徹 (xxx)

をはりとやなしてやみなんほのかにもみるを思ひの今日のはしめに

をはりとや−なしてやみなむ−ほのかにも−みるをおもひの−けふのはしめに


06426
未入力 正徹 (xxx)

秋そいま袖まきかくす初かりの涙も文もつつみやはする

あきそいま−そてまきかくす−はつかりの−なみたもふみも−つつみやはする


06427
未入力 正徹 (xxx)

忘れはやたたこよひこそみすもあらぬ面影はかり新枕すれ

わすれはや−たたこよひこそ−みすもあらぬ−おもかけはかり−にひまくらすれ


06428
未入力 正徹 (xxx)

紅のまた初しほも袖に見しけふそのに出てて花のすゑつむ

くれなゐの−またはつしほも−そてにみし−けふそのにいてて−はなのすゑつむ


06429
未入力 正徹 (xxx)

おもふよりやかてうき身を秋の田のはつほの露の色に出てつつ

おもふより−やかてうきみを−あきのたの−はつほのつゆの−いろにいてつつ


06430
未入力 正徹 (xxx)

煙たてやけとも秋は初しほのうらかにたへぬ島のあま人

けふりたて−やけともあきは−はつしほの−うらかにたへぬ−しまのあまひと


06431
未入力 正徹 (xxx)

それかとよ恋のやつこにこととはんゆけはくるしき心つかひを

それかとよ−こひのやつこに−こととはむ−ゆけはくるしき−こころつかひを


06432
未入力 正徹 (xxx)

末しらぬ恋ちにむかふ一足をふみさためぬも先そくるしき

すゑしらぬ−こひちにむかふ−ひとあしを−ふみさためぬも−まつそくるしき


06433
未入力 正徹 (xxx)

ははきとる袖に初ねの玉そ散るはらひもあへすちりの思ひを

ははきとる−そてにはつねの−たまそちる−はらひもあへす−ちりのおもひを


06434
未入力 正徹 (xxx)

夕まくれ立出ててきけは我か心契田面のはつかりそなく

ゆふまくれ−たちいててきけは−わかこころ−ちきりたのもの−はつかりそなく


06435
未入力 正徹 (xxx)

あらはれし富士の高ねの初けふりたか思ひよりなひき出てけん

あらはれし−ふしのたかねの−はつけふり−たかおもひより−なひきいてけむ


06436
未入力 正徹 (xxx)

秋風に露そこほるる初いねの一ほいてしとつつむおもひは

あきかせに−つゆそこほるる−はついねの−ひとほいてしと−つつむおもひは


06437
未入力 正徹 (xxx)

行末もあらはなとかとあはぬまはをしからぬ身そ思ひなりぬる

ゆくすゑも−あらはなとかと−あはぬまは−をしからぬみそ−おもひなりぬる


06438
未入力 正徹 (xxx)

これはみな夢かとたにももろともにいはぬにつくる夜はのことのは

これはみな−ゆめかとたにも−もろともに−いはぬにつくる−よはのことのは


06439
未入力 正徹 (xxx)

人もまた夢とたとらはたのめおけ今夜ののちにしらんうつつを

ひともまた−ゆめとたとらは−たのめおけ−こよひののちに−しらむうつつを


06440
未入力 正徹 (xxx)

いつれをか先あらはさむねし床のまくらのちりとつもることのは

いつれをか−まつあらはさむ−ねしとこの−まくらのちりと−つもることのは


06441
未入力 正徹 (xxx)

よしさらは初てまけよさ夜衣うらなきまての心くらへに

よしさらは−はしめてまけよ−さよころも−うらなきまての−こころくらへに


06442
未入力 正徹 (xxx)

吉野川よとむ氷を春ときていもせにむすふ中の滝つせ

よしのかは−よとむこほりを−はるときて−いもせにむすふ−なかのたきつせ


06443
未入力 正徹 (xxx)

夢に猶なせとないひそ今夜たに思ひねなりし心ならひに

ゆめになほ−なせとないひそ−こよひたに−おもひねなりし−こころならひに


06444
未入力 正徹 (xxx)

よしさらはあくるもしらしとめかたき人をも身をもなきになしつつ

よしさらは−あくるもしらし−とめかたき−ひとをもみをも−なきになしつつ


06445
未入力 正徹 (xxx)

契ありてあふ夜に成りぬ身のためにけふをよき日と後もおもはん

ちきりありて−あふよになりぬ−みのために−けふをよきひと−のちもおもはむ


06446
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣ぬれにし袖をまきかへしおもひなき身になしてみえぬる

さよころも−ぬれにしそてを−まきかへし−おもひなきみに−なしてみえぬる


06447
未入力 正徹 (xxx)

あふことそくらき夜の夢月の色且の声はねぬになせとも

あふことそ−くらきよのゆめ−つきのいろ−あらしのこゑは−ねぬになせとも


06448
未入力 正徹 (xxx)

をしへおけおもひさむへき道もなしなにと今夜を夢になせとも

をしへおけ−おもひさむへき−みちもなし−なにとこよひを−ゆめになせとも


06449
未入力 正徹 (xxx)

我かために契ありける前の世そ先あふ事にそへてうれしき

わかために−ちきりありける−さきのよそ−まつあふことに−そへてうれしき


06450
未入力 正徹 (xxx)

こよひかつとけて後せの山かつらかさねてかけよ衣衣のそら

こよひかつ−とけてのちせの−やまかつら−かさねてかけよ−きぬきぬのそら


06451
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横雲もひけとそかへるむつこともまた月影の有明の空

よこくもも−ひけとそかへる−むつことも−またつきかけの−ありあけのそら


06452
未入力 正徹 (xxx)

あひ見るは夢かととふもこたへせすたれをしるへに思ひさためん

あひみるは−ゆめかととふも−こたへせす−たれをしるへに−おもひさためむ


06453
未入力 正徹 (xxx)

手枕に我とはかさし今夜たにひかたき袖そぬれしままなる

たまくらに−われとはかさし−こよひたに−ひかたきそてそ−ぬれしままなる


06454
未入力 正徹 (xxx)

夜はふかしはしうちいつるむつこともまた月影の西にならすは

よはふかし−はしうちいつる−むつことも−またつきかけの−にしにならすは


06455
未入力 正徹 (xxx)

入りこすはうき身も見えし槙の戸を我たゆめつと人やおもはん

いりこすは−うきみもみえし−まきのとを−われたゆめつと−ひとやおもはむ


06456
未入力 正徹 (xxx)

中たえし夜夜の涙にむせかへり恨所のあるかひもなし

なかたえし−よよのなみたに−むせかへり−うらみところの−あるかひもなし


06457
未入力 正徹 (xxx)

下ひものとくる玉のは玉ゆらにいつのむかしのえにか結ひし

したひもの−とくるたまのは−たまゆらに−いつのむかしの−えにかむすひし


06458
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おもひねの夢ならすともかはらしな君かくる夜のさめん別は

おもひねの−ゆめならすとも−かはらしな−きみかくるよの−さめむわかれは


06459
未入力 正徹 (xxx)

うつつともおもひもわかぬあふことを夢になせとのことのはもうし

うつつとも−おもひもわかぬ−あふことを−ゆめになせとの−ことのはもうし


06460
未入力 正徹 (xxx)

今夜かく下ものひもにときまする氷やもとの涙なるらん

こよひかく−したものひもに−ときまする−こほりやもとの−なみたなるらむ


06461
未入力 正徹 (xxx)

またれつつ今夜そ心あひのかせ吹くなりよりこ床のうら舟

またれつつ−こよひそこころ−あひのかせ−ふくなりよりこ−とこのうらふね


06462
未入力 正徹 (xxx)

かりそむる見るめにあらき浪なくは磯たちなれて袖やぬらさん

かりそむる−みるめにあらき−なみなくは−いそたちなれて−そてやぬらさむ


06463
未入力 正徹 (xxx)

我かかたによらはそちかのうらなれむつらきみるめのよその浪かせ

わかかたに−よらはそちかの−うらなれむ−つらきみるめの−よそのなみかせ


06464
未入力 正徹 (xxx)

わすられぬ人のすかたをうつしてもめかれぬへくは筆やうらみん

わすられぬ−ひとのすかたを−うつしても−めかれぬへくは−ふてやうらみむ


06465
未入力 正徹 (xxx)

雲まよりさやにも見てしかひかねは雪に思ひをかさねてそふる

くもまより−さやにもみてし−かひかねは−ゆきにおもひを−かさねてそふる


06466
未入力 正徹 (xxx)

我そかる見るめをかりのすかたとも思ひなされぬあまの心を

われそかる−みるめをかりの−すかたとも−おもひなされぬ−あまのこころを


06467
未入力 正徹 (xxx)

よそに見るめもかれかれに成りゆけは契らぬさきにうき身をそしる

よそにみる−めもかれかれに−なりゆけは−ちきらぬさきに−うきみをそしる


06468
未入力 正徹 (xxx)

よそなから宿の秋かせ身にそしむめに立つ雲の峰の夕暮

よそなから−やとのあきかせ−みにそしむ−めにたつくもの−みねのゆふくれ


06469
未入力 正徹 (xxx)

吹く風をめに見ぬ松のさわくにもむねあひかたき中のさ衣

ふくかせを−めにみぬまつの−さわくにも−むねあひかたき−なかのさころも


06470
未入力 正徹 (xxx)

しるへせよ心のおくに分けかねてまよふしのふの山のした道

しるへせよ−こころのおくに−わけかねて−まよふしのふの−やまのしたみち


06471
未入力 正徹 (xxx)

せめてたたひとりにもらす思ひにてなへてをもらす世をはなけかし

せめてたた−ひとりにもらす−おもひにて−なへてをもらす−よをはなけかし


06472
未入力 正徹 (xxx)

宿さへも軒のしのふの草かくれやつれて人にありとしられし

やとさへも−のきのしのふの−くさかくれ−やつれてひとに−ありとしられし


06473
未入力 正徹 (xxx)

ころもへぬしのふのみたれかきりあらは心のおくの露や見えまし

ころもへぬ−しのふのみたれ−かきりあらは−こころのおくの−つゆやみえまし


06474
未入力 正徹 (xxx)

にこるともすむともしらしおく山の岩かき淵のそこの心を

にこるとも−すむともしらし−おくやまの−いはかきふちの−そこのこころを


06475
未入力 正徹 (xxx)

雲うつむ遠山はたのなるこなは心ひくともいかかしられん

くもうつむ−とほやまはたの−なるこなは−こころひくとも−いかかしられむ


06476
未入力 正徹 (xxx)

涙川袖のしからみひまもなしすゑや心のそこくくるらん

なみたかは−そてのしからみ−ひまもなし−すゑやこころの−そこくくるらむ


06477
未入力 正徹 (xxx)

目かるなよ心の色のうつろふもけにはあたなる花のすかたそ

めかるなよ−こころのいろの−うつろふも−けにはあたなる−はなのすかたそ


06478
未入力 正徹 (xxx)

わたつ海のあまのすさみのみるめたに思ひいらすはかれやはてまし

わたつうみの−あまのすさみの−みるめたに−おもひいらすは−かれやはてまし


06479
未入力 正徹 (xxx)

あまをふねさしかへるともかけをたになとか出見のうらに住む月

あまをふね−さしかへるとも−かけをたに−なとかいてみの−うらにすむつき


06480
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浪たかみ入りぬるいそによる草も見るめすくなくかるる中かな

なみたかみ−いりぬるいそに−よるくさも−みるめすくなく−かるるなかかな


06481
未入力 正徹 (xxx)

なにかせん世世の契もあさか山かけたえはてぬ水は有りとも

なにかせむ−よよのちきりも−あさかやま−かけたえはてぬ−みつはありとも


06482
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くるしさをいとははよしやいつきても見るめにあかぬあまのしわさは

くるしさを−いとははよしや−いつきても−みるめにあかぬ−あまのしわさは


06483
未入力 正徹 (xxx)

にほの海や渚の浪にととまるも人のよりくる見るめなりけり

にほのうみや−なきさのなみに−ととまるも−ひとのよりくる−みるめなりけり


06484
未入力 正徹 (xxx)

おもふとてさのみ見るめはつつめとも心のゆくをせくかたそなき

おもふとて−さのみみるめは−つつめとも−こころのゆくを−せくかたそなき


06485
未入力 正徹 (xxx)

うちつけのめをうたかへる心にもあらぬおもひの色そそひゆく

うちつけの−めをうたかへる−こころにも−あらぬおもひの−いろそそひゆく


06486
未入力 正徹 (xxx)

我にうき君は朝日の影なれやさしむかはれぬ涙こほれて

われにうき−きみはあさひの−かけなれや−さしむかはれぬ−なみたこほれて


06487
未入力 正徹 (xxx)

命かもあふことなみのうきなから南の風による名はかりを

いのちかも−あふことなみの−うきなから−みなみのかせに−よるなはかりを


06488
未入力 正徹 (xxx)

めにかかる浪をそいとふあま人のほすひまもなき□□□□□□□

めにかかる−なみをそいとふ−あまひとの−ほすひまもなき−ххххххх


06489
未入力 正徹 (xxx)

しのふれはさたかにむかふ時そとも涙まきれぬ袖そ朽ちゆく

しのふれは−さたかにむかふ−ときそとも−なみたまきれぬ−そてそくちゆく


06490
未入力 正徹 (xxx)

おもひそふ見るめのとかを人になり我にかはりていさめわひぬる

おもひそふ−みるめのとかを−ひとになり−われにかはりて−いさめわひぬる


06491
未入力 正徹 (xxx)

くるるまの花のおもかけ身にそははねても別れし春のよの夢

くるるまの−はなのおもかけ−みにそはは−ねてもわかれし−はるのよのゆめ


06492
未入力 正徹 (xxx)

ほのみゆる霞のうちのにほひゆゑ花におもひの色そそひゆく

ほのみゆる−かすみのうちの−にほひゆゑ−はなにおもひの−いろそそひゆく


06493
未入力 正徹 (xxx)

きり捨てよ見るめはなにのとかかあらむ人に心をつくすきつなを

きりすてよ−みるめはなにの−とかかあらむ−ひとにこころを−つくすきつなを


06494
未入力 正徹 (xxx)

いつよりかつらきおもかけへたたりて涙にむかふ人となりけん

いつよりか−つらきおもかけ−へたたりて−なみたにむかふ−ひととなりけむ


06495
未入力 正徹 (xxx)

つつめとも身をはおもはぬ涙ともおちてしらるる袖の上かな

つつめとも−みをはおもはぬ−なみたとも−おちてしらるる−そてのうへかな


06496
未入力 正徹 (xxx)

なほそせくさては心の行かたもしらぬ忍の山の下水

なほそせく−さてはこころの−ゆくかたも−しらぬしのふの−やまのしたみつ


06497
未入力 正徹 (xxx)

煙たにたてぬ忍のうらさひてやくとな見えそあまのもしほ火

けふりたに−たてぬしのふの−うらさひて−やくとなみえそ−あまのもしほひ


06498
未入力 正徹 (xxx)

いはし猶心のとふを心にてこたへこたへす人ししらすは

いはしなほ−こころのとふを−こころにて−こたへこたへす−ひとししらすは


06499
未入力 正徹 (xxx)

風ふかぬ心の花におほふ袖ありともつつむ色やちらまし

かせふかぬ−こころのはなに−おほふそて−ありともつつむ−いろやちらまし


06500
未入力 正徹 (xxx)

うき中を見しれるさまにいふ人もなきやかへりて忍ひわふらん

うきなかを−みしれるさまに−いふひとも−なきやかへりて−しのひわふらむ


06501
未入力 正徹 (xxx)

おもふより心にしむるつまこめはまた程遠きよその八重かき

おもふより−こころにしむる−つまこめは−またほととほき−よそのやへかき


06502
未入力 正徹 (xxx)

うちわひむとほき忍ふの山ひこはありとも人に声はつたへし

うちわひむ−とほきしのふの−やまひこは−ありともひとに−こゑはつたへし


06503
未入力 正徹 (xxx)

おもふことしれは涙そ袖にもる身にも心を猶やへたてん

おもふこと−しれはなみたそ−そてにもる−みにもこころを−なほやへたてむ


06504
未入力 正徹 (xxx)

つつましよおもふ思ひはいかにとも色そめかたき袖にまかせて

つつましよ−おもふおもひは−いかにとも−いろそめかたき−そてにまかせて


06505
未入力 正徹 (xxx)

いつの世かほす時ならむ紅の袖まきかくす露よ日かけよ

いつのよか−ほすときならむ−くれなゐの−そてまきかくす−つゆよひかけよ


06506
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我か袖の色そつれなき松の葉も下紅葉する秋に時雨れて

わかそての−いろそつれなき−まつのはも−したもみちする−あきにしくれて


06507
未入力 正徹 (xxx)

忍ひわひえそか岩屋にこもるとも心のおくのうみやさわかむ

しのひわひ−えそかいはやに−こもるとも−こころのおくの−うみやさわかむ


06508
未入力 正徹 (xxx)

跡もなくよせてかへるやそれならむ忍のうらにつもる年なみ

あともなく−よせてかへるや−それならむ−しのふのうらに−つもるとしなみ


06509
未入力 正徹 (xxx)

見えやせし思ひ忍ふの山めくりしくるる袖を染めもわたさて

みえやせし−おもひしのふの−やまめくり−しくるるそてを−そめもわたさて


06510
未入力 正徹 (xxx)

思ひせくむねのうちとやなかめまし忍の軒にさわく村鳥

おもひせく−むねのうちとや−なかめまし−しのふののきに−さわくむらとり


06511
未入力 正徹 (xxx)

およひなくかけし忍の山かつら心たかさはきゆるまもなし

およひなく−かけししのふの−やまかつら−こころたかさは−きゆるまもなし


06512
未入力 正徹 (xxx)

思ふよりうつろふ色そかくされぬ袖の時雨に雲はなくして

おもふより−うつろふいろそ−かくされぬ−そてのしくれに−くもはなくして


06513
未入力 正徹 (xxx)

つつむともさそふ風あらはいかかせむ身をうき草の袖のささ波

つつむとも−さそふかせあらは−いかかせむ−みをうきくさの−そてのささなみ


06514
未入力 正徹 (xxx)

いまよりの忍ふのみたれかきりある心をしるは哀なりけり

いまよりの−しのふのみたれ−かきりある−こころをしるは−あはれなりけり


06515
未入力 正徹 (xxx)

春日のの霞の袖にしきかくせみたれにけりな忍もちすり

かすかのの−かすみのそてに−しきかくせ−みたれにけりな−しのふもちすり


06516
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夕なきに浪はかけこて磯屋ふくあしの忍ひのうら風もうし

ゆふなきに−なみはかけこて−いそやふく−あしのしのひの−うらかせもうし


06517
未入力 正徹 (xxx)

めくりあはむ夕を空に契りてもはかなや今朝の月の行末

めくりあはむ−ゆふへをそらに−ちきりても−はかなやけさの−つきのゆくすゑ


06518
未入力 正徹 (xxx)

わすれしの契の末もあやふきはわたりかけつる夢のうきはし

わすれしの−ちきりのすゑも−あやふきは−わたりかけつる−ゆめのうきはし


06519
未入力 正徹 (xxx)

結ひてし人に契の有りなしや此世ひとつにかけてしられん

むすひてし−ひとにちきりの−ありなしや−このよひとつに−かけてしられむ


06520
未入力 正徹 (xxx)

つれなきを世世の契にまかせてもかつうらみすは又やたえまし

つれなきを−よよのちきりに−まかせても−かつうらみすは−またやたえまし


06521
未入力 正徹 (xxx)

猶さりの道行ふりの袖にたにかかる契はのかれなき世を

なほさりの−みちゆきふりの−そてにたに−かかるちきりは−のかれなきよを


06522
未入力 正徹 (xxx)

さりともと契をかけて松山のなきうらたのむ末の白なみ

さりともと−ちきりをかけて−まつやまの−なきうらたのむ−すゑのしらなみ


06523
未入力 正徹 (xxx)

契あり契なしともそのままにうらみしいはし世世のえにこそ

ちきりあり−ちきりなしとも−そのままに−うらみしいはし−よよのえにこそ


06524
未入力 正徹 (xxx)

世世かけて契の程をおもはすは人のつらさになしやはてまし

よよかけて−ちきりのほとを−おもはすは−ひとのつらさに−なしやはてまし


06525
未入力 正徹 (xxx)

いひいててこたへん時そ契あり契なしとも思ひしられん

いひいてて−こたへむときそ−ちきりあり−ちきりなしとも−おもひしられむ


06526
未入力 正徹 (xxx)

今見るもつれなき色そあさからぬ世世の契の末の松山

いまみるも−つれなきいろそ−あさからぬ−よよのちきりの−すゑのまつやま


06527
未入力 正徹 (xxx)

たのめおけそれも契のありなしによよはよるへきをふのうら浪

たのめおけ−それもちきりの−ありなしに−よよはよるへき−をふのうらなみ


06528
未入力 正徹 (xxx)

世世かけてはねをならふる契にも八こゑの鳥の色やうらみん

よよかけて−はねをならふる−ちきりにも−やこゑのとりの−いろやうらみむ


06529
未入力 正徹 (xxx)

かよひきてつくは山風吹きむすへ鹿島の帯のかことはかりに

かよひきて−つくはやまかせ−ふきむすへ−かしまのおひの−かことはかりに


06530
未入力 正徹 (xxx)

玉ほこの道行く袖のすり衣こむ世や恋の心みたれん

たまほこの−みちゆくそての−すりころも−こむよやこひの−こころみたれむ


06531
未入力 正徹 (xxx)

秋の風草のは結ふ契たにうつろふ末は露そこほるる

あきのかせ−くさのはむすふ−ちきりたに−うつろふすゑは−つゆそこほるる


06532
未入力 正徹 (xxx)

前の世の契ならすといふことのありやなしやもいまそしられん

さきのよの−ちきりならすと−いふことの−ありやなしやも−いまそしられむ


06533
未入力 正徹 (xxx)

人心なきたる磯のやとにきぬ契ありそのうみわたる舟

ひとこころ−なきたるいその−やとにきぬ−ちきりありその−うみわたるふね


06534
未入力 正徹 (xxx)

つらしなと世世にかけけん涙ゆゑ袖のみ朽ちてくちぬ契を

つらしなと−よよにかけけむ−なみたゆゑ−そてのみくちて−くちぬちきりを


06535
未入力 正徹 (xxx)

うかりけるみたらし川のせをあさみむすふ契を神もふかめよ

うかりける−みたらしかはの−せをあさみ−むすふちきりを−かみもふかめよ


06536
未入力 正徹 (xxx)

立ちよれはおもふ戸口にまち出つる人の契もふかき夜の月

たちよれは−おもふとくちに−まちいつる−ひとのちきりも−ふかきよのつき


06537
未入力 正徹 (xxx)

さきのよの契はありのすさみにや我かおもふ人にわかうかりけん

さきのよの−ちきりはありの−すさみにや−わかおもふひとに−わかうかりけむ


06538
未入力 正徹 (xxx)

たのむなりいひしことはの末の松まつ夜の袖に浪はこせとも

たのむなり−いひしことはの−すゑのまつ−まつよのそてに−なみはこせとも


06539
未入力 正徹 (xxx)

心をもさのみつくさし先の世に契あらはとうちたのみつつ

こころをも−さのみつくさし−さきのよに−ちきりあらはと−うちたのみつつ


06540
未入力 正徹 (xxx)

おもひ河さかまく水のうたかたも契あれはそめくりあふらん

おもひかは−さかまくみつの−うたかたも−ちきりあれはそ−めくりあふらむ


06541
未入力 正徹 (xxx)

一夜ねて五百度生れかはるとも契くちせぬ枕とそきく

ひとよねて−いほたひうまれ−かはるとも−ちきりくちせぬ−まくらとそきく


06542
未入力 正徹 (xxx)

うき中をなかむる空の契さへ跡なし雲のわたる夕風

うきなかを−なかむるそらの−ちきりさへ−あとなしくもの−わたるゆふかせ


06543
未入力 正徹 (xxx)

たのめつついそく春日のくれかたみさらは長閑にそふ夜はもかな

たのめつつ−いそくはるひの−くれかたみ−さらはのとかに−そふよはもかな


06544
未入力 正徹 (xxx)

たのめつつとはて夜ことに過きぬれはいつれの時をわきてかこたん

たのめつつ−とはてよことに−すきぬれは−いつれのときを−わきてかこたむ


06545
未入力 正徹 (xxx)

かはりきぬやみのうつつの風の声ふけゆく袖の涙たつねて

かはりきぬ−やみのうつつの−かせのこゑ−ふけゆくそての−なみたたつねて


06546
未入力 正徹 (xxx)

戸もささすまた深けぬ夜に人音のしつまるさへや契なるらん

ともささす−またふけぬよに−ひとおとの−しつまるさへや−ちきりなるらむ


06547
未入力 正徹 (xxx)

深けにけりありしに思ひなそらへてまたしとすれは待つ夜とそなる

ふけにけり−ありしにおもひ−なそらへて−またしとすれは−まつよとそなる


06548
未入力 正徹 (xxx)

なほそうき別路におひしくすのはのたちまつ庭にかへる秋風

なほそうき−わかれちにおひし−くすのはの−たちまつにはに−かへるあきかせ


06549
未入力 正徹 (xxx)

あやしとや人の見るらん槙の戸も月なき比にささぬよひゐを

あやしとや−ひとのみるらむ−まきのとも−つきなきころに−ささぬよひゐを


06550
未入力 正徹 (xxx)

たのめつつまつ夜になさぬ心もてみれとも深くるいさよひの月

たのめつつ−まつよになさぬ−こころもて−みれともふくる−いさよひのつき


06551
未入力 正徹 (xxx)

まちわひぬまたしと思ふ偽のまことにあくる鳥の声かな

まちわひぬ−またしとおもふ−いつはりの−まことにあくる−とりのこゑかな


06552
未入力 正徹 (xxx)

月まつと人にはいはし中中にそのことのはそふりてしられん

つきまつと−ひとにはいはし−なかなかに−そのことのはそ−ふりてしられむ


06553
未入力 正徹 (xxx)

まつ夜とほおもひいれしのうたたねもやすくはふけぬ閨の内かな

まつよとほ−おもひいれしの−うたたねも−やすくはふけぬ−ねやのうちかな


06554
未入力 正徹 (xxx)

さちあかす人もねしよの枕かにこかるるむねを猶おさへつつ

まちあかす−ひともねしよの−まくらかに−こかるるむねを−なほおさへつつ


06555
未入力 正徹 (xxx)

たつねくる友もうらめしひとりゐて契さはらすたのむ夕を

たつねくる−とももうらめし−ひとりゐて−ちきりさはらす−たのむゆふへを


06556
未入力 正徹 (xxx)

いひし日をたかへけるかと又そまつたのめてあくる後の夕暮

いひしひを−たかへけるかと−またそまつ−たのめてあくる−のちのゆふくれ


06557
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たのむ夜のしるしはかりに槙の戸をほそめて月に心見えぬる

たのむよの−しるしはかりに−まきのとを−ほそめてつきに−こころみえぬる


06558
未入力 正徹 (xxx)

さたまらぬ世は思はすのこともあれたのめたのますまたぬよそなき

さたまらぬ−よはおもはすの−こともあれ−たのめたのます−またぬよそなき


06559
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立ちぬるるあかつき露の松のはに落ちたる月の袖もうらめし

たちぬるる−あかつきつゆの−まつのはに−おちたるつきの−そてもうらめし


06560
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たのみても深行くほとに身をしるを雨のよならぬ月そあやしき

たのみても−ふけゆくほとに−みをしるを−あめのよならぬ−つきそあやしき


06561
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さりともと心なくさの浜ひさしさすや夕日の松にかかれる

さりともと−こころなくさの−はまひさし−さすやゆふひの−まつにかかれる


06562
未入力 正徹 (xxx)

待ちかねぬ夜のまのこけに鳥もねよきかし深けゆく時のつつみを

まちかねぬ−よのまのこけに−とりもねよ−きかしふけゆく−ときのつつみを


06563
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つれなさをかこつほたより在明の月みぬ空そまつよむなしき

つれなさを−かこつはたより−ありあけの−つきみぬそらそ−まつよむなしき


06564
未入力 正徹 (xxx)

宿いてんたのめぬ夜はのふけ行くになすもなされぬ庭の松風

やといてむ−たのめぬよはの−ふけゆくに−なすもなされぬ−にはのまつかせ


06565
未入力 正徹 (xxx)

君か代を松にもよせしたのめてし一夜も千代をふる身ならすや

きみかよを−まつにもよせし−たのめてし−ひとよもちよを−ふるみならすや


06566
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まつよひの槙の一戸口はあけおかし夏にもあらす月もなき比

まつよひの−まきのとくちは−あけおかし−なつにもあらす−つきもなきころ


06567
未入力 正徹 (xxx)

おくらすよ暁露に立ちぬれてまつを別のあさちふのかせ

おくらすよ−あかつきつゆに−たちぬれて−まつをわかれの−あさちふのかせ


06568
未入力 正徹 (xxx)

うかれゆく玉とたにみよ露はらふ身は白妙の袖の別路

うかれゆく−たまとたにみよ−つゆはらふ−みはしろたへの−そてのわかれち


06569
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もろともにいさなひいてし槙の戸にのこるは月や送らさるらん

もろともに−いさなひいてし−まきのとに−のこるはつきや−おくらさるらむ


06570
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衣衣にかへる心のひかふるや夜のまにおふる葛の下道

きぬきぬに−かへるこころの−ひかふるや−よのまにおふる−くすのしたみち


06571
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きぬきぬの空に見れとも暁の雲に別をゆつるよもなし

きぬきぬの−そらにみれとも−あかつきの−くもにわかれを−ゆつるよもなし


06572
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猶そうき影のこらしと入る月にくらき涙の袖のわかれ路

なほそうき−かけのこらしと−いるつきに−くらきなみたの−そてのわかれち


06573
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かへりこむ葛のはならて露けきは別路におふる道の芝草

かへりこむ−くすのはならて−つゆけきは−わかれちにおふる−みちのしはくさ


06574
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あかさりし袖の別の月よたた我さへ空をゆく心ちして

あかさりし−そてのわかれの−つきよたた−われさへそらを−ゆくここちして


06575
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なからへんもとの別にたへてこそ今夜あひ見る命ともなれ

なからへむ−もとのわかれに−たへてこそ−こよひあひみる−いのちともなれ


06576
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草も木もおもかけならぬ色そなきうき衣衣のしののめの道

くさもきも−おもかけならぬ−いろそなき−うききぬきぬの−しののめのみち


06577
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朝鳥のは風おちくる衣衣に軒の忍の露そ身にしむ

あさとりの−はかせおちくる−きぬきぬに−のきのしのふの−つゆそみにしむ


06578
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しはしとてひかふる衣のうしろ手にとりそへらるる黒かみもうし

しはしとて−ひかふるきぬの−うしろてに−とりそへらるる−くろかみもうし


06579
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衣衣のちかきかたみかねし床の涙もいまたあたたかにして

きぬきぬの−ちかきかたみか−ねしとこの−なみたもいまた−あたたかにして


06580
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たれかねし袖の別の道の露草の袂は猶そしほるる

たれかねし−そてのわかれの−みちのつゆ−くさのたもとは−なほそしほるる


06581
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よしさらは涙かさねよ衣衣のたもと夜ふかき月のやとるに

よしさらは−なみたかさねよ−きぬきぬの−たもとよふかき−つきのやとるに


06582
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の人にかはりてやとるなり袖をまちとる道芝の露

きぬきぬの−ひとにかはりて−やとるなり−そてをまちとる−みちしはのつゆ


06583
未入力 正徹 (xxx)

明けぬまにやらひやりぬと思はれん色さへつらし影かくしてよ

あけぬまに−やらひやりぬと−おもはれむ−いろさへつらし−かけかくしてよ


06584
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の人にかはらぬよこ雲の別れなれたる空もうらめし

きぬきぬの−ひとにかはらぬ−よこくもの−わかれなれたる−そらもうらめし


06585
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したはれぬ人にかはりて衣衣のもすそひかふる道のささ原

したはれぬ−ひとにかはりて−きぬきぬの−もすそひかふる−みちのささはら


06586
未入力 正徹 (xxx)

雲風もわかれよとてとみれはうしなに心なく明くる此夜を

くもかせも−わかれよとてと−みれはうし−なにこころなく−あくるこのよを


06587
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の袖のしつくもかけ見えぬかたみの水や床にかわかん

きぬきぬの−そてのしつくも−かけみえぬ−かたみのみつや−とこにかわかむ


06588
未入力 正徹 (xxx)

夜ふかしとおもはむ露の心をもぬれぬれはつる道のささ原

よふかしと−おもはむつゆの−こころをも−ぬれぬれはつる−みちのささはら


06589
未入力 正徹 (xxx)

きぬきぬの庭の真砂をふむくつも音をたてしとくたく心そ

きぬきぬの−にはのまさこを−ふむくつも−おとをたてしと−くたくこころそ


06590
未入力 正徹 (xxx)

啼くそうきおきて別の庭つ鳥なれも梢の妻とぬるよに

なくそうき−おきてわかれの−にはつとり−なれもこすゑの−つまとぬるよに


06591
未入力 正徹 (xxx)

せめて猶うき別路に朝露のおもはむ後の暮を憑めよ

せめてなほ−うきわかれちに−あさつゆの−おもはむのちの−くれをたのめよ


06592
未入力 正徹 (xxx)

をしむともしたひし心うかりきとたか衣衣に思ひ出つらん

をしむとも−したひしこころ−うかりきと−たかきぬきぬに−おもひいつらむ


06593
未入力 正徹 (xxx)

おきて行く朝の床の山かつら別路にかけよしからみにせん

おきてゆく−あしたのとこの−やまかつら−わかれちにかけよ−しからみにせむ


06594
未入力 正徹 (xxx)

君もさはたかたわつけし朝ねかみみたるととははいかかこたへん

きみもさは−たかたわつけし−あさねかみ−みたるととはは−いかかこたへむ


06595
未入力 正徹 (xxx)

紅の袖の別にふり出てて涙色けつあけくれのあめ

くれなゐの−そてのわかれに−ふりいてて−なみたいろけつ−あけくれのあめ


06596
未入力 正徹 (xxx)

うらむるも又身をしるもかきくらす涙はわかぬ袖の上かな

うらむるも−またみをしるも−かきくらす−なみたはわかぬ−そてのうへかな


06597
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わすらるる身の歌かたの涙とはなされすとても世をはうらみし

わすらるる−みのうたかたの−なみたとは−なされすとても−よをはうらみし


06598
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あた浪のたかしの磯に遠さかり身をうら風の興つ舟人

あたなみの−たかしのいそに−とほさかり−みをうらかせの−おきつふなひと


06599
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しのふそよ心のおくの海山やあらたつ浪に色もかはらて

しのふそよ−こころのおくの−うみやまや−あらたつなみに−いろもかはらて


06600
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君によれこえ行く袖のしきなみに身をうら風はふかぬまもなし

きみによれ−こえゆくそての−しきなみに−みをうらかせは−ふかぬまもなし


06601
未入力 正徹 (xxx)

もえまさり猶そけたれぬ夜をかさね我か身をうらのあまのもしほ火

もえまさり−なほそけたれぬ−よをかさね−わかみをうらの−あまのもしほひ


06602
未入力 正徹 (xxx)

身をかへて此世の後にのこるともいまの恨の末としらすは

みをかへて−このよののちに−のこるとも−いまのうらみの−すゑとしらすは


06603
未入力 正徹 (xxx)

とほさかる契もつらし世中にありとしられぬ宿もとめてん

とほさかる−ちきりもつらし−よのなかに−ありとしられぬ−やともとめてむ


06604
未入力 正徹 (xxx)

つひに又恨の末のとほらすはいとふ恋ちの身にや帰らん

つひにまた−うらみのすゑの−とほらすは−いとふこひちの−みにやかへらむ


06605
未入力 正徹 (xxx)

心から恨みすててはいくたひかわか身にうさのたちかへるらむ

こころから−うらみすてては−いくたひか−わかみにうさの−たちかへるらむ


06606
未入力 正徹 (xxx)

いとせめてうき名はこけの下にたにくちぬ契を代代に残さん

いとせめて−うきなはこけの−したにたに−くちぬちきりを−よよにのこさむ


06607
未入力 正徹 (xxx)

いとふとも此世の後に生れあふその名は心身をやいのらん

いとふとも−このよののちに−うまれあふ−そのなはこころ−みをやいのらむ


06608
未入力 正徹 (xxx)

うらみはて此世にあるを見えむとも身をそ思はぬ名をはかくさし

うらみはて−このよにあるを−みえむとも−みをそおもはぬ−なをはかくさし


06609
未入力 正徹 (xxx)

あまのかるあしたゆくともいかかせん我か身をうらにたきつくす身は

あまのかる−あしたゆくとも−いかかせむ−わかみをうらに−たきつくすみは


06610
未入力 正徹 (xxx)

わすらるるうき身つからのおこたりもことわりしらぬ袖の上かな

わすらるる−うきみつからの−おこたりも−ことわりしらぬ−そてのうへかな


06611
未入力 正徹 (xxx)

猶さりのあまのすさみやかさぬらん松よりこゆる浪ときかすは

なほさりの−あまのすさみや−かさぬらむ−まつよりこゆる−なみときかすは


06612
未入力 正徹 (xxx)

まくすかはなにのうらはもやすからぬ秋の野分は心にそたつ

まくすかは−なにのうらはも−やすからぬ−あきののわきは−こころにそたつ


06613
未入力 正徹 (xxx)

かねてたた我をあしへのしきなみにさはらぬたつのよその諸声

かねてたた−われをあしへの−しきなみに−さはらぬたつの−よそのもろこゑ


06614
未入力 正徹 (xxx)

夕千鳥我か身のかたはあれにきと啼くねつたへてよその浦浪

ゆふちとり−わかみのかたは−あれにきと−なくねつたへて−よそのうらなみ


06615
未入力 正徹 (xxx)

かちをたえむかへは風も早しほに身□うら舟は猶そおち行く

かちをたえ−むかへはかせも−はやしほに−みхうらふねは−なほそおちゆく


06616
未入力 正徹 (xxx)

あまの住むさとのしるへやうきとたにたれとはなくて煙たつらん

あまのすむ−さとのしるへや−うきとたに−たれとはなくて−けふりたつらむ


06617
未入力 正徹 (xxx)

うき中は秋をまさきの同し枝におよはすかかる葛の下風

うきなかは−あきをまさきの−おなしえに−およはすかかる−くすのしたかせ


06618
未入力 正徹 (xxx)

うからすよ見すしらぬ世のよそ人になしておもへはもとの身にして

うからすよ−みすしらぬよの−よそひとに−なしておもへは−もとのみにして


06619
未入力 正徹 (xxx)

とほさかる身をうら風よたかくたてたかかたによる舟もなきまて

とほさかる−みをうらかせよ−たかくたて−たかかたによる−ふねもなきまて


06620
未入力 正徹 (xxx)

はれせしなあひみん月も雲霧に光消えにし秋のうらみは

はれせしな−あひみむつきも−くもきりに−ひかりきえにし−あきのうらみは


06621
未入力 正徹 (xxx)

声たては浪の千ひろに入るあまのためもついきのをもやのはへん

こゑたては−なみのちひろに−いるあまの−ためもついきの−をもやのはへむ


06622
未入力 正徹 (xxx)

身の秋をしるそとことは浦風に葛の下はとかへみ浪かな

みのあきを−しるそとことは−うらかせに−くすのしたはと−かへみなみかな


06623
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恨みしなたたかりそめのこともみな契によると見ゆる此世を

うらみしな−たたかりそめの−こともみな−ちきりによると−みゆるこのよを


06624
未入力 正徹 (xxx)

それもいま朽ちはてけめや浪あらき身をうら舟の捨てし汀に

それもいま−くちはてけめや−なみあらき−みをうらふねの−すてしみきはに


06625
未入力 正徹 (xxx)

此世にて猶も恨をつくさすは人にうき身と又や生れん

このよにて−なほもうらみを−つくさすは−ひとにうきみと−またやうまれむ


06626
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葛ならぬなにの草木か風ふけはうらみぬそれや心なるらん

くすならぬ−なにのくさきか−かせふけは−うらみぬそれや−こころなるらむ


06627
未入力 正徹 (xxx)

こす浪を恨の声になき島や我も袖かすつるの毛衣

こすなみを−うらみのこゑに−なきしまや−われもそてかす−つるのけころも


06628
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こかれてし舟もすにゐるかちをたえ身をうら風も吹きそよわれる

こかれてし−ふねもすにゐる−かちをたえ−みをうらかせも−ふきそよわれる


06629
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かれしなほ雪の冬野のことのはにいてて恨みぬ葛の下根は

かれしなほ−ゆきのふゆのの−ことのはに−いててうらみぬ−くすのしたねは


06630
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ふかからしうきことのはも初草のまたうらわかき水の汀は

ふかからし−うきことのはも−はつくさの−またうらわかき−みつのみきはは


06631
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咲く藤のうらむらさきとおもへとも立ちかへり浪の松にかかれる

さくふちの−うらむらさきと−おもへとも−たちかへりなみの−まつにかかれる


06632
未入力 正徹 (xxx)

すゑとほる恨の心行かたはさそはてしらぬ浪路なるらん

すゑとほる−うらみのこころ−ゆくかたは−さそはてしらぬ−なみちなるらむ


06633
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我か袖のなみもかはらす大淀のうらみしままの松の色かな

わかそての−なみもかはらす−おほよとの−うらみしままの−まつのいろかな


06634
未入力 正徹 (xxx)

散散りにうらみしはてはなりそ行く下葉色つく葛の下風

ちりちりに−うらみしはては−なりそゆく−したはいろつく−くすのしたかせ


06635
未入力 正徹 (xxx)

かすかすにうきは真砂をふみしたき身をうらち行く足たゆくして

かすかすに−うきはまさこを−ふみしたき−みをうらちゆく−あしたゆくして


06636
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心なきて思ふかたほにたれかよる身をうら風はふかぬまもなし

こころなきて−おもふかたほに−たれかよる−みをうらかせは−ふかぬまもなし


06637
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さのみやはつらき心をうつしみんたえね岩木の山の下水

さのみやは−つらきこころを−うつしみむ−たえねいはきの−やまのしたみつ


06638
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身を秋のうら紫の萩原や露も袂のゆかりそふらん

みをあきの−うらむらさきの−はきはらや−つゆもたもとの−ゆかりそふらむ


06639
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祈りおく神のいかきに葛のはのめくみし末は秋風そ吹く

いのりおく−かみのいかきに−くすのはの−めくみしすゑは−あきかせそふく


06640
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人心さもあら塩にかちをたえ浦こく舟そいととたゆたふ

ひとこころ−さもあらしほに−かちをたえ−うらこくふねそ−いととたゆたふ


06641
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又結ふ契を露にみたれふす恨はよその岡のかやはら

またむすふ−ちきりをつゆに−みたれふす−うらみはよその−をかのかやはら


06642
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ま葛原心にあまる草も木もうらはの見えぬ秋風もなし

まくすはら−こころにあまる−くさもきも−うらはのみえぬ−あきかせもなし


06643
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なしはてん心にあまりことのはにつきし恨を松のみさをに

なしはてむ−こころにあまり−ことのはに−つきしうらみを−まつのみさをに


06644
未入力 正徹 (xxx)

面影を人こそしらねますかかみうら見ん鳥の音にたてすとも

おもかけを−ひとこそしらね−ますかかみ−うらみむとりの−ねにたてすとも


06645
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淵に身をなけきのもとに朽ちそせんうら紫のまつとせしまに

ふちにみを−なけきのもとに−くちそせむ−うらむらさきの−まつとせしまに


06646
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身をうらみこしのすかはらあれしより雁のねに啼くねさへ枯れぬる

みをうらみ−こしのすかはら−あれしより−かりのねになく−ねさへかれぬる


06647
未入力 正徹 (xxx)

にくからすかすめなさはや枝枝にうらみいふへきことすくなにて

にくからす−かすめなさはや−えたえたに−うらみいふへき−ことすくなにて


06648
未入力 正徹 (xxx)

此世にてたえなはたえむしつたまき又くり返しなかき恨を

このよにて−たえなはたえむ−しつたまき−またくりかへし−なかきうらみを


06649
未入力 正徹 (xxx)

恋すさをよしやなけかんつらきにもうきにもよわる心なりせは

こひしさを−よしやなけかむ−つらきにも−うきにもよわる−こころなりせは


06650
未入力 正徹 (xxx)

おちまさる袖の涙の玉きはる此身やかきり恋はつきせし

おちまさる−そてのなみたの−たまきはる−このみやかきり−こひはつきせし


06651
未入力 正徹 (xxx)

よし人のほたしともなれあふ事を此世になかくかへぬ玉の緒

よしひとの−ほたしともなれ−あふことを−このよになかく−かへぬたまのを


06652
未入力 正徹 (xxx)

枕より跡よりとたにおもははや身をせめはつる恋のやつこを

まくらより−あとよりとたに−おもははや−みをせめはつる−こひのやつこを


06653
未入力 正徹 (xxx)

さすか身にをしき命のかけものはあふにかへんをかちまけにして

さすかみに−をしきいのちの−かけものは−あふにかへむを−かちまけにして


06654
未入力 正徹 (xxx)

行末の契しられて時のまに先ことのはのつまそかはれる

ゆくすゑの−ちきりしられて−ときのまに−まつことのはの−つまそかはれる


06655
未入力 正徹 (xxx)

うしとみるけふこそあれと人心かはりやすきをたのむ中かな

うしとみる−けふこそあれと−ひとこころ−かはりやすきを−たのむなかかな


06656
未入力 正徹 (xxx)

あすか川かはる淵せに生ふるものなひきし末はみたれはてつつ

あすかかは−かはるふちせに−おふるもの−なひきしすゑは−みたれはてつつ


06657
未入力 正徹 (xxx)

宿かるる契をしれはいなつまのひとりのとけき袖の上かな

やとかるる−ちきりをしれは−いなつまの−ひとりのとけき−そてのうへかな


06658
未入力 正徹 (xxx)

さやかにそ契りて出てしいもせ山かへりみすれはかかるうき雲

さやかにそ−ちきりていてし−いもせやま−かへりみすれは−かかるうきくも


06659
未入力 正徹 (xxx)

年比もさらは夜かれをならはさて心のままに床はなり行く

としころも−さらはよかれを−ならはさて−こころのままに−とこはなりゆく


06660
未入力 正徹 (xxx)

江を浅み此世のうちの契さへみしかきあしによらぬ浪かな

えをあさみ−このよのうちの−ちきりさへ−みしかきあしに−よらぬなみかな


06661
未入力 正徹 (xxx)

さためなき此世中のことわりはかはるそ人のかはらさりけり

さためなき−このよのなかの−ことわりは−かはるそひとの−かはらさりけり


06662
未入力 正徹 (xxx)

つつり行く人の心の水の花さそふよるせは風も吹きあへす

つつりゆく−ひとのこころの−みつのはな−さそふよるせは−かせもふきあへす


06663
未入力 正徹 (xxx)

つつむ名も散りしことのは吹返し又色見せぬ袖の木からし

つつむなも−ちりしことのは−ふきかへし−またいろみせぬ−そてのこからし


06664
未入力 正徹 (xxx)

夢かとよひころうけ引く手のうらをかへすは遅き心かはりは

ゆめかとよ−ひころうけひく−てのうらを−かへすはおそき−こころかはりは


06665
未入力 正徹 (xxx)

風わたる夕の雲のたちとよりかはりやすきをなかめわひつつ

かせわたる−ゆふへのくもの−たちとより−かはりやすきを−なかめわひつつ


06666
未入力 正徹 (xxx)

いまさらにすけなやすかのあら野風心の秋の花もしほれて

いまさらに−すけなやすかの−あらのかせ−こころのあきの−はなもしほれて


06667
未入力 正徹 (xxx)

袖にきえ雲にかくれて程そなきむかひし月の心かはりは

そてにきえ−くもにかくれて−ほとそなき−むかひしつきの−こころかはりは


06668
未入力 正徹 (xxx)

かはるともよしや吉野のみをつくし立つ川波ははやく朽ちにき

かはるとも−よしやよしのの−みをつくし−たつかはなみは−はやくくちにき


06669
未入力 正徹 (xxx)

契あらはかとさせりともさはらめや思ふむくらの宿としらせよ

ちきりあらは−かとさせりとも−さはらめや−おもふむくらの−やととしらせよ


06670
未入力 正徹 (xxx)

とふ人の心もしらぬ宿の犬先とかめぬや契なるらん

とふひとの−こころもしらぬ−やとのいぬ−まつとかめぬや−ちきりなるらむ


06671
未入力 正徹 (xxx)

とははやとおもふ心のしるへかなたれもをしへぬ宿の梢を

とははやと−おもふこころの−しるへかな−たれもをしへぬ−やとのこすゑを


06672
未入力 正徹 (xxx)

行きやらてゆゑ有る庭の木立にもをしへぬ宿はうたかはれつつ

ゆきやらて−ゆゑあるにはの−こたちにも−をしへぬやとは−うたかはれつつ


06673
未入力 正徹 (xxx)

ゆきて我心のおくをかたらはやたとへはえそか千島なりとも

ゆきてわか−こころのおくを−かたらはや−たとへはえそか−ちしまなりとも


06674
未入力 正徹 (xxx)

草の原とへは白玉露落ちて人のゆかりの秋かせそふく

くさのはら−とへはしらたま−つゆおちて−ひとのゆかりの−あきかせそふく


06675
未入力 正徹 (xxx)

をしへこし宿のつまなし名もつらくこたへぬ陰に立ちそわつらふ

をしへこし−やとのつまなし−なもつらく−こたへぬかけに−たちそわつらふ


06676
未入力 正徹 (xxx)

とまやもるまことにあまの子なりともしらはや磯の見るめはかりは

とまやもる−まことにあまの−こなりとも−しらはやいその−みるめはかりは


06677
未入力 正徹 (xxx)

たつねわひ虎のふすともたのまれぬ野へに命を猶やのこさん

たつねわひ−とらのふすとも−たのまれぬ−のへにいのちを−なほやのこさむ


06678
未入力 正徹 (xxx)

思ふことまたいひ出てぬむくらふのさし入のこ屋にはらふ松風

おもふこと−またいひいてぬ−むくらふの−さしいりのこやに−はらふまつかせ


06679
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見し人のをしへし水のなかれよる住む宿ちかき松風そふく

みしひとの−をしへしみつの−なかれよる−すむやとちかき−まつかせそふく


06680
未入力 正徹 (xxx)

しるへする人の門文ひらきみて又おしたてはかひやなからん

しるへする−ひとのかとふみ−ひらきみて−またおしたては−かひやなからむ


06681
未入力 正徹 (xxx)

たのめしをしらぬ里人とかむともまつらんものを杉ならぬ門

たのめしを−しらぬさとひと−とかむとも−まつらむものを−すきならぬかと


06682
未入力 正徹 (xxx)

見し人のすむ里まてはほのききぬ門たかへせぬしるへともかな

みしひとの−すむさとまては−ほのききぬ−かとたかへせぬ−しるへともかな


06683
未入力 正徹 (xxx)

とひかねし門のしるしの岩井つついはぬ思ひやくみしらるらん

とひかねし−かとのしるしの−いはゐつつ−いはぬおもひや−くみしらるらむ


06684
未入力 正徹 (xxx)

はけしくも吹きむかふかなやととはぬ人の心のおくの山かせ

はけしくも−ふきむかふかな−やととはぬ−ひとのこころの−おくのやまかせ


06685
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門ことに立聞く宿はさ夜ふけて人しつまりぬたれにとはまし

かとことに−たちきくやとは−さよふけて−ひとしつまりぬ−たれにとはまし


06686
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しらさりし宿のとなりの人にしもかたらひ行くそ先契なる

しらさりし−やとのとなりの−ひとにしも−かたらひゆくそ−まつちきりなる


06687
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とひあてん哀おもひの家数もおほくはあらぬ山さとにして

とひあてむ−あはれおもひの−いへかすも−おほくはあらぬ−やまさとにして


06688
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逢見んはよしかたそきのしるへせよ住吉のうら住吉のさと

あひみむは−よしかたそきの−しるへせよ−すみよしのうら−すみよしのさと


06689
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とにかくにいとひはつへき中としる我か身や人のうき世なるらん

とにかくに−いとひはつへき−なかとしる−わかみやひとの−うきよなるらむ


06690
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しるはかりいひよれは又うしろ手になしてそ人に遠さかりゆく

しるはかり−いひよれはまた−うしろてに−なしてそひとに−とほさかりゆく


06691
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いく度か身をしる心くり返しいとふにはへる池のねぬ縄

いくたひか−みをしるこころ−くりかへし−いとふにはへる−いけのねぬなは


06692
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なさけなくたれもはかなき世中の命を人のいそく身にして

なさけなく−たれもはかなき−よのなかの−いのちをひとの−いそくみにして


06693
未入力 正徹 (xxx)

わかあるに世はうき物と思ひしれたたいたつらにすまはかひなし

わかあるに−よはうきものと−おもひしれ−たたいたつらに−すまはかひなし


06694
未入力 正徹 (xxx)

いとふとてわか住む里をかふるほとうき世おもはは君やなからん

いとふとて−わかすむさとを−かふるほと−うきよおもはは−きみやなからむ


06695
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くらき夜もさたかにむかふひまもなし人の心やかへのともし火

くらきよも−さたかにむかふ−ひまもなし−ひとのこころや−かへのともしひ


06696
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友そかしかへの灯よなよなにそむけられてもきえぬ命は

ともそかし−かへのともしひ−よなよなに−そむけられても−きえぬいのちは


06697
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そむくとて雲にものらは待ちそ見んかへる夕の人のかたみを

そむくとて−くもにものらは−まちそみむ−かへるゆふへの−ひとのかたみを


06698
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からくわれ人のうき世となるみ野や夜るみつ塩の道をよくらん

からくわれ−ひとのうきよと−なるみのや−よるみつしほの−みちをよくらむ


06699
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うき中と思ひそ捨つる我にたにそむく心は君もゆるさす

うきなかと−おもひそすてつる−われにたに−そむくこころは−きみもゆるさす


06700
未入力 正徹 (xxx)

我そうき月に灯そむくるもあはれむ物と人はしらすや

われそうき−つきにともしひ−そむくるも−あはれむものと−ひとはしらすや


06701
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思ひしれ世中をたに我ゆゑにそむけとてこそ契りそめけめ

おもひしれ−よのなかをたに−われゆゑに−そむけとてこそ−ちきりそめけめ


06702
未入力 正徹 (xxx)

君そ猶我をそむくるうらみわひいははきくへきかへの灯

きみそなほ−われをそむくる−うらみわひ−いははきくへき−かへのともしひ


06703
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うらめしやみるめあはせし通路をわさとちかへてしらすかほなる

うらめしや−みるめあはせし−かよひちを−わさとちかへて−しらすかほなる


06704
未入力 正徹 (xxx)

いく山を人の心にへたつらんわかおもひ入るすゑにまかせて

いくやまを−ひとのこころに−へたつらむ−わかおもひいる−すゑにまかせて


06705
未入力 正徹 (xxx)

かけたえてのちそ袂はぬれまさるいかか結ひし忘井の水

かけたえて−のちそたもとは−ぬれまさる−いかかむすひし−わすれゐのみつ


06706
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あひ見しをになせとは諸ともに思ふもならひいふもためしを

あひみしを−にゆめなせとは−もろともに−おもふもならひ−いふもためしを


06707
未入力 正徹 (xxx)

契りしを忘るるあらぬ空おほれたのまぬ物のたのむとやせん

ちきりしを−わするるあらぬ−そらおほれ−たのまぬものの−たのむとやせむ


06708
未入力 正徹 (xxx)

人そしる雲まの月の空おほれそれとも見えぬ秋の心を

ひとそしる−くもまのつきの−そらおほれ−それともみえぬ−あきのこころを


06709
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みそしらぬ此身なからやあらぬ世に生れて人に面かはりする

みそしらぬ−このみなからや−あらぬよに−うまれてひとに−おもかはりする


06710
未入力 正徹 (xxx)

わすれしとたたいひ捨てしことのはを手に取りいたすならひなくして

わすれしと−たたいひすてし−ことのはを−てにとりいたす−ならひなくして


06711
未入力 正徹 (xxx)

契りしはちかきにつけて猶そうき物忘れする年のほとかは

ちきりしは−ちかきにつけて−なほそうき−ものわすれする−としのほとかは


06712
未入力 正徹 (xxx)

末かけしことのはことの物わすれわすれぬ露は我か袖にのみ

すゑかけし−ことのはことの−ものわすれ−わすれぬつゆは−わかそてにのみ


06713
未入力 正徹 (xxx)

わするるや此世なからに身をかへし人かと見るも面かはりせす

わするるや−このよなからに−みをかへし−ひとかとみるも−おもかはりせす


06714
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あふと見る夢になせとのことのははかれぬ枕の下のかよひち

あふとみる−ゆめになせとの−ことのはは−かれぬまくらの−したのかよひち


06715
未入力 正徹 (xxx)

ことのはもわすれ草こそ生ひかはる契あさちか人の庭とて

ことのはも−わすれくさこそ−おひかはる−ちきりあさちか−ひとのにはとて


06716
未入力 正徹 (xxx)

ともに見て人はその夜に秋の夢おとろかすともおほえやはせん

ともにみて−ひとはそのよに−あきのゆめ−おとろかすとも−おほえやはせむ


06717
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なれし夜の面影もうし忘れ草おふてふ野へにあさき沢水

なれしよの−おもかけもうし−わすれくさ−おふてふのへに−あさきさはみつ


06718
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つらかりし人のことのはひろひおく忘れかたみほ忘れしのため

つらかりし−ひとのことのは−ひろひおく−わすれかたみほ−わすれしのため


06719
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忘水むすひし夢も歌かたにきゆるあさちか野への秋風

わすれみつ−むすひしゆめも−うたかたに−きゆるあさちか−のへのあきかせ


06720
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あま衣袖しほたれて忘貝ひろひつくさぬ磯の浪かな

あまころも−そてしほたれて−わすれかひ−ひろひつくさぬ−いそのなみかな


06721
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今そ猶見ぬ世に忍ふむら雲の空忘せし比の月かけ

いまそなほ−みぬよにしのふ−むらくもの−そらわすれせし−ころのつきかけ


06722
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こし人にわすらるるこそ忘られぬ道たかへにもとふ夜はそなき

こしひとに−わすらるるこそ−わすられぬ−みちたかへにも−とふよはそなき


06723
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我に人見えさりけめや契りしをたとへは夢になす世なりとも

われにひと−みえさりけめや−ちきりしを−たとへはゆめに−なすよなりとも


06724
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草ふかき野中にゆかぬ忘水むすふ契に君そくみしる

くさふかき−のなかにゆかぬ−わすれみつ−むすふちきりに−きみそくみしる


06725
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真砂にもかすやまさらん忘貝かひなきいそにくたく心は

まさこにも−かすやまさらむ−わすれかひ−かひなきいそに−くたくこころは


06726
未入力 正徹 (xxx)

忘れけりわすれんと思ふ心あらは忘れしものを忘れはてつつ

わすれけり−わすれむとおもふ−こころあらは−わすれしものを−わすれはてつつ


06727
未入力 正徹 (xxx)

もとの身をわすれにけりと忘るるや見さりし雲をはらふ秋かせ

もとのみを−わすれにけりと−わするるや−みさりしくもを−はらふあきかせ


06728
未入力 正徹 (xxx)

わすれぬを忘るるよしそ猶つらきたたに忘れてせめて忘れよ

わすれぬを−わするるよしそ−なほつらき−たたにわすれて−せめてわすれよ


06729
未入力 正徹 (xxx)

なれにしを人こそしらめおきなさひかりの契をたつそ啼くなる

なれにしを−ひとこそしらめ−おきなさひ−かりのちきりを−たつそなくなる


06730
未入力 正徹 (xxx)

かひなしやかけはなれぬるうつせみのもぬけのきぬのかたみはかりは

かひなしや−かけはなれぬる−うつせみの−もぬけのきぬの−かたみはかりは


06731
未入力 正徹 (xxx)

契りしもつらき涙にみかくれて身をしつめゆくえをはたのまし

ちきりしも−つらきなみたに−みかくれて−みをしつめゆく−えをはたのまし


06732
未入力 正徹 (xxx)

こととへはなき名のりその磯かくれ立ちわつらふもなみそくるしき

こととへは−なきなのりその−いそかくれ−たちわつらふも−なみそくるしき


06733
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かれしより見えすよさらにかくれぬの下はふぬなはみこもりにして

かれしより−みえすよさらに−かくれぬの−したはふぬなは−みこもりにして


06734
未入力 正徹 (xxx)

なかれにきいさとこたへてせくかたもあらしあふせの床の山河

なかれにき−いさとこたへて−せくかたも−あらしあふせの−とこのやまかは


06735
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ふかしとてなにたのみけん涙川なかれてそこにあらはなる世を

ふかしとて−なにたのみけむ−なみたかは−なかれてそこに−あらはなるよを


06736
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さまかふるその石川のこまう人にひかれて出てし弓張の月

さまかふる−そのいしかはの−こまうとに−ひかれていてし−ゆみはりのつき


06737
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身にもしるそこもあらはになるとよりさしこす塩の跡のひかたを

みにもしる−そこもあらはに−なるとより−さしこすしほの−あとのひかたを


06738
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うき雲のかかるを中の契にてあとの名つらき衣衣の月

うきくもの−かかるをなかの−ちきりにて−あとのなつらき−きぬきぬのつき


06739
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衣衣はなれも忍はしうしろ手をしくるも人に見えてけるかな

きぬきぬは−なれもしのはし−うしろてを−しくるもひとに−みえてけるかな


06740
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さ夜衣中の契のうす物に今朝かくれなき身をそ恨むる

さよころも−なかのちきりの−うすものに−けさかくれなき−みをそうらむる


06741
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あともなき嶺のうき雲いつまてかいもせの山を立ちかくしけん

あともなき−みねのうきくも−いつまてか−いもせのやまを−たちかくしけむ


06742
未入力 正徹 (xxx)

うき名立つほとやはありし衣衣の明けつる道も人はなかりき

うきなたつ−ほとやはありし−きぬきぬの−あけつるみちも−ひとはなかりき


06743
未入力 正徹 (xxx)

ふくる夜の霧にかくれし契さへあさはの野ちの露の秋かせ

ふくるよの−きりにかくれし−ちきりさへ−あさはののちの−つゆのあきかせ


06744
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あさましやうき夕立の雲ならてもすそにかかる二あゐの帯

あさましや−うきゆふたちの−くもならて−もすそにかかる−ふたあゐのおひ


06745
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色見えて人の秋風身にそしむつま吹きかへす下の衣に

いろみえて−ひとのあきかせ−みにそしむ−つまふきかへす−したのころもに


06746
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見る人の目にたつほとはいつのまにむねにもあまる煙なるらん

みるひとの−めにたつほとは−いつのまに−むねにもあまる−けふりなるらむ


06747
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あくる夜のささのかりほにたた一重なにのかくれもなき契かな

あくるよの−ささのかりほに−たたひとへ−なにのかくれも−なきちきりかな


06748
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しのひこし入江の小舟あしまよりこき出てて浪にぬるる袖かな

しのひこし−いりえのをふね−あしまより−こきいててなみに−ぬるるそてかな


06749
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名とり河いかに見えけむ昔たに埋木なりし瀬瀬のみくつは

なとりかは−いかにみえけむ−むかしたに−うもれきなりし−せせのみくつは


06750
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御かりはや草なき床におつる鳥せめくる恋も身はつかれつつ

みかりはや−くさなきとこに−おつるとり−せめくるこひも−みはつかれつつ


06751
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おもひのみ真砂を浜に敷きおきてしのひになしぬよせし浦波

おもひのみ−まさこをはまに−しきおきて−しのひになしぬ−よせしうらなみ


06752
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東屋のあまりにつらししのすたれ心のおくもかくれなき身は

あつまやの−あまりにつらし−しのすたれ−こころのおくも−かくれなきみは


06753
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いかか今朝しとねのはしを身にふれしやみのにしきを立つ名にそかる

いかかけさ−しとねのはしを−みにふれし−やみのにしきを−たつなにそかる


06754
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しるからむあまる思ひのけふりよりやけののききす声たてすとも

しるからむ−あまるおもひの−けふりより−やけののききす−こゑたてすとも


06755
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新枕そのみかの夜のあらはしにいたす匣の身やはこかるる

にひまくら−そのみかのよの−あらはしに−いたすくしけの−みやはこかるる


06756
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あらき浪引きしほ貝もあらはなる渚の玉と身はくたけつつ

あらきなみ−ひきしほかひも−あらはなる−なきさのたまと−みはくたけつつ


06757
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つらしとそ南のうみのおきの石弥生の三かの塩もあらはに

つらしとそ−みなみのうみの−おきのいし−やよひのみかの−しほもあらはに


06758
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あひ見しは霜ののちなる松の葉にあまる雫を散さすもかな

あひみしは−しもののちなる−まつのはに−あまるしつくを−ちらさすもかな


06759
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吹きわくる今朝の嵐そうらめしき今夜そ夢にねしろ高かや

ふきわくる−けさのあらしそ−うらめしき−こよひそゆめに−ねしろたかかや


06760
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いかかして人とよこほりふせるとはさやに見えけんかひのしらねそ

いかかして−ひととよこほり−ふせるとは−さやにみえけむ−かひのしらねそ


06761
未入力 正徹 (xxx)

しるらめや雲にすかたをあらはして我か名はまたき立の市人

しるらめや−くもにすかたを−あらはして−わかなはまたき−たつのいちひと


06762
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ひまそなき山かたつきて思ふともたれ白雲の隔ある身は

ひまそなき−やまかたつきて−おもふとも−たれしらくもの−へたてあるみは


06763
未入力 正徹 (xxx)

思ひ河たたよふ舟のかたのりに身をしつめてや浪にひかれん

おもひかは−たたよふふねの−かたのりに−みをしつめてや−なみにひかれむ


06764
未入力 正徹 (xxx)

あはぬまをまち立ちけりとかけてたに身そ思はれぬかたつ方人

あはぬまを−まちたちけりと−かけてたに−みそおもはれぬ−かたつかたうと


06765
未入力 正徹 (xxx)

つれなさは真砂なかるる瀬とそなる我かかたふちにしつむ思ひを

つれなさは−まさこなかるる−せとそなる−わかかたふちに−しつむおもひを


06766
未入力 正徹 (xxx)

色そめぬ人の心そからあゐのしかまのかちのうらよおもてよ

いろそめぬ−ひとのこころそ−からあゐの−しかまのかちの−うらよおもてよ


06767
未入力 正徹 (xxx)

おきつ舟かたほ心にまかせねは思ふうらにもよらぬ恋かな

おきつふね−かたほこころに−まかせねは−おもふうらにも−よらぬこひかな


06768
未入力 正徹 (xxx)

おもひ川身をかた淵にしつめてもうき名は浪に立ちやのこらん

おもひかは−みをかたふちに−しつめても−うきなはなみに−たちやのこらむ


06769
未入力 正徹 (xxx)

思ひ河水の哀をよもかけしわかかた淵にしつみはつとも

おもひかは−みつのあはれを−よもかけし−わかかたふちに−しつみはつとも


06770
未入力 正徹 (xxx)

ふか草やふしうき床のかたうつらかる人なしの身をもすてなて

ふかくさや−ふしうきとこの−かたうつら−かるひとなしの−みをもすてなて


06771
未入力 正徹 (xxx)

よしさらは忘れぬへしやあはすして過くる月日のたつにまかせん

よしさらは−わすれぬへしや−あはすして−すくるつきひの−たつにまかせむ


06772
未入力 正徹 (xxx)

あひ見てしその世の人のことのはをかたるも我をしらすかほなる

あひみてし−そのよのひとの−ことのはを−かたるもわれを−しらすかほなる


06773
未入力 正徹 (xxx)

つれなしや三とせの外を待ちわひぬ契はかりにのこるいのちは

つれなしや−みとせのほかを−まちわひぬ−ちきりはかりに−のこるいのちは


06774
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣うかりしままにあひ見すて年さへ中にある契かな

さよころも−うかりしままに−あひみすて−としさへなかに−あるちきりかな


06775
未入力 正徹 (xxx)

あかせ猶立ちにし名をも世の人は忘れやすらんことなしにして

あかせなほ−たちにしなをも−よのひとは−わすれやすらむ−ことなしにして


06776
未入力 正徹 (xxx)

行へなくおもふありかをこの国にこよかし問はむかよふまほろし

ゆくへなく−おもふありかを−このくにに−こよかしとはむ−かよふまほろし


06777
未入力 正徹 (xxx)

しるらめやひるの雲まの星のかけ見えんはかたく思ひ消えつつ

しるらめや−ひるのくもまの−ほしのかけ−みえむはかたく−おもひきえつつ


06778
未入力 正徹 (xxx)

庵そうき哀むかしをわすれ草かりふかましを夕暮の雨

いほそうき−あはれむかしを−わすれくさ−かりふかましを−ゆふくれのあめ


06779
未入力 正徹 (xxx)

あはぬまにいくたひ朽ちん契りしはさもかた岡のもりの下なは

あはぬまに−いくたひくちむ−ちきりしは−さもかたをかの−もりのしたなは


06780
未入力 正徹 (xxx)

生れ来てまれの御法にあへるをそかくはおもはめ人はよしなし

うまれきて−まれのみのりに−あへるをそ−かくはおもはめ−ひとはよしなし


06781
未入力 正徹 (xxx)

さをしかのわかまつつまや秋二毛あひ見まほしの稀になり行く

さをしかの−わかまつつまや−あきふたけ−あひみまほしの−まれになりゆく


06782
未入力 正徹 (xxx)

思出てよ三代にみかきし玉さかにあふもうれしき光ならねと

おもひいてよ−みよにみかきし−たまさかに−あふもうれしき−ひかりならねと


06783
未入力 正徹 (xxx)

大井川あふせをまれの御幸にて袖そ紅葉の淵と成りぬる

おほゐかは−あふせをまれの−みゆきにて−そてそもみちの−ふちとなりぬる


06784
未入力 正徹 (xxx)

せり川やわたりてなとか問はさらむまれの御幸は君ひとりこそ

せりかはや−わたりてなとか−とはさらむ−まれのみゆきは−きみひとりこそ


06785
未入力 正徹 (xxx)

たか秋の風のやとりにかけ初めて乱れはつらんささかにの糸

たかあきの−かせのやとりに−かけそめて−みたれはつらむ−ささかにのいと


06786
未入力 正徹 (xxx)

分けすてて出てにしままの春秋の草のみかるる宿のかよひち

わけすてて−いてにしままの−はるあきの−くさのみかるる−やとのかよひち


06787
未入力 正徹 (xxx)

影見えし人のかたみの水たえて水k草かれ行く秋のかなしさ

かけみえし−ひとのかたみの−みつたえて−みくさかれゆく−あきのかなしさ


06788
未入力 正徹 (xxx)

よりかけし人のかた糸たえしまにかよふ心の末もたかひぬ

よりかけし−ひとのかたいと−たえしまに−かよふこころの−すゑもたかひぬ


06789
未入力 正徹 (xxx)

かた糸をよるの契のたえしよりたくひそつらきくめの岩はし

かたいとを−よるのちきりの−たえしより−たくひそつらき−くめのいははし


06790
未入力 正徹 (xxx)

いとせめてうき名を埋むこけならはかよひし庭に跡見えすとも

いとせめて−うきなをうつむ−こけならは−かよひしにはに−あとみえすとも


06791
未入力 正徹 (xxx)

手になれしむかしそつらき中たゆる契のままのしつのをたまき

てになれし−むかしそつらき−なかたゆる−ちきりのままの−しつのをたまき


06792
未入力 正徹 (xxx)

うき中はむなしき空にとふ鳥のあとかと見えし雲も消えつつ

うきなかは−むなしきそらに−とふとりの−あとかとみえし−くももきえつつ


06793
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれて草とも思ひなされぬやうきふし柴のふるき世の露

そてぬれて−くさともおもひ−なされぬや−うきふししはの−ふるきよのつゆ


06794
未入力 正徹 (xxx)

み草ゐぬ水の涙のかたみさへ我かかけのこる床はうらめし

みくさゐぬ−みつのなみたの−かたみさへ−わかかけのこる−とこはうらめし


06795
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契りしはことなし草と成りてたになほ色かはる秋のかよひち

ちきりしは−ことなしくさと−なりてたに−なほいろかはる−あきのかよひち


06796
未入力 正徹 (xxx)

わすらるる此たひ世世のきつなまてきらはや玉のををも知らすて

わすらるる−このたひよよの−きつなまて−きらはやたまの−ををもしらすて


06797
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ささかにの軒の糸すちたえたえに成りにし宿は秋風そふく

ささかにの−のきのいとすち−たえたえに−なりにしやとは−あきかせそふく


06798
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なほたのみこしのすか原枯れはててもとの契はなかくたえにき

なほたのみ−こしのすかはら−かれはてて−もとのちきりは−なかくたえにき


06799
未入力 正徹 (xxx)

人はよも見きともかけしわすれねと我か身もいまはたけくまの松

ひとはよも−みきともかけし−わすれねと−わかみもいまは−たけくまのまつ


06800
未入力 正徹 (xxx)

たのめしは跡なき風の夕は山見えてはかなき夢のうきはし

たのめしは−あとなきかせの−ゆふはやま−みえてはかなき−ゆめのうきはし


06801
未入力 正徹 (xxx)

なかき夜をたえにしままにあひみねはたはふれにくき床の秋かせ

なかきよを−たえにしままに−あひみねは−たはふれにくき−とこのあきかせ


06802
未入力 正徹 (xxx)

おもひ出てて月も嵐もたつぬなよむなしき袖はしくれはててき

おもひいてて−つきもあらしも−たつぬなよ−むなしきそては−しくれはててき


06803
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いてはやななかむる庭のくれ竹にふるきおもひの家鳩の声

いてはやな−なかむるにはの−くれたけに−ふるきおもひの−いへはとのこゑ


06804
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ありとたにしられすかれぬおく山の木の葉にふれる雪の下草

ありとたに−しられすかれぬ−おくやまの−このはにふれる−ゆきのしたくさ


06805
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しるしなき思ひは年をふる川や杉の二本とふかたもかな

しるしなき−おもひはとしを−ふるかはや−すきのふたもと−とふかたもかな


06806
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涙のみふるき枕はしるくともむかしかたりをたれにもらさん

なみたのみ−ふるきまくらは−しるくとも−むかしかたりを−たれにもらさむ


06807
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たへて世に猶もふる野の思ひ草枯れなて種をなとのこすらん

たへてよに−なほもふるのの−おもひくさ−かれなてたねを−なとのこすらむ


06808
未入力 正徹 (xxx)

しのはるることのはもありうしとのみ昔見すてし中の玉礼

しのはるる−ことのはもあり−うしとのみ−むかしみすてし−なかのたまつさ


06809
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いたつらに八しほそくちし捨衣ふるき涙のそめしくれなゐ

いたつらに−やしほそくちし−すてころも−ふるきなみたの−そめしくれなゐ


06810
未入力 正徹 (xxx)

契りしも猶たたいまと水くきの色もかはらぬ跡そのこれる

ちきりしも−なほたたいまと−みつくきの−いろもかはらぬ−あとそのこれる


06811
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いつの世そいそのかみ山色かはる秋風なからたえしことのは

いつのよそ−いそのかみやま−いろかはる−あきかせなから−たえしことのは


06812
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見るそうき其世にもあらぬ紙のかにしみの出行く文はやふれて

みるそうき−そのよにもあらぬ−かみのかに−しみのいてゆく−ふみはやふれて


06813
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今みるもうき身に紙魚のすむ文にのこるかたえし中の秋風

いまみるも−うきみにしみの−すむふみに−のこるかたえし−なかのあきかせ


06814
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わすれはや恋のやつこも孫彦の世につたへきてつらき思ひを

わすれはや−こひのやつこも−まこひこの−よにつたへきて−つらきおもひを


06815
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朽ちせしな涙時雨のふることはよその契にならのはの霜

くちせしな−なみたしくれの−ふることは−よそのちきりに−ならのはのしも


06816
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むねにたく煙もふるき枕かの消行く閨に身はこかれつつ

むねにたく−けふりもふるき−まくらかの−きえゆくねやに−みはこかれつつ


06817
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おちつもる古き枕の苔つたふ雫ににこる床の山川

おちつもる−ふるきまくらの−こけつたふ−しつくににこる−とこのやまかは


06818
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遠つ春契くちきの古柳なひきし風の音つれもせす

とほつはる−ちきりくちきの−ふるやなき−なひきしかせの−おとつれもせす


06819
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うき中をかたりつたふる人やあらんあれてもふるの都なりせは

うきなかを−かたりつたふる−ひとやあらむ−あれてもふるの−みやこなりせは


06820
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ふりにけり人と二はの老木まてまつとしきかは哀とやいはん

ふりにけり−ひととふたはの−おいきまて−まつとしきかは−あはれとやいはむ


06821
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ふりにけり岩にもおふる松のたね有るを憑みし恋はあはすて

ふりにけり−いはにもおふる−まつのたね−あるをたのみし−こひはあはすて


06822
未入力 正徹 (xxx)

かくはかり思ひ初めにし時そうきいつの年とはさたかならねと

かくはかり−おもひそめにし−ときそうき−いつのとしとは−さたかならねと


06823
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うき中はめくりし六の道すからおもひそひ行く此世なりけり

うきなかは−めくりしむつの−みちすから−おもひそひゆく−このよなりけり


06824
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つれなしようき田にかくる下縄の七度くちし杜のときは木

つれなしよ−うきたにかくる−したなはの−ななたひくちし−もりのときはき


06825
未入力 正徹 (xxx)

いとふとてつれなき人もみそきせは恋を哀と神やうけまし

いとふとて−つれなきひとも−みそきせは−こひをあはれと−かみやうけまし


06826
未入力 正徹 (xxx)

あひかたき玉やうかれて貴舟川岩こす浪の影とちるらん

あひかたき−たまやうかれて−きふねかは−いはこすなみの−かけとちるらむ


06827
未入力 正徹 (xxx)

あふせあれやきかすよかみも恋せしの御祓のままにうけしためしを

あふせあれや−きかすよかみも−こひせしの−みそきのままに−うけしためしを


06828
未入力 正徹 (xxx)

行きかへりむなしき年をふる川の杉のしるしもなき契かな

ゆきかへり−むなしきとしを−ふるかはの−すきのしるしも−なきちきりかな


06829
未入力 正徹 (xxx)

たのみきてかくるをうけぬみそきともまた白ゆふのなひく神かき

たのみきて−かくるをうけぬ−みそきとも−またしらゆふの−なひくかみかき


06830
未入力 正徹 (xxx)

しひて猶あふ夜ののちのねきことをうけすは神を又やうらみん

しひてなほ−あふよののちの−ねきことを−うけすはかみを−またやうらみむ


06831
未入力 正徹 (xxx)

いにしへの女神男神のしるしあらは恋にみそきを猶やかけまし

いにしへの−めかみをかみの−しるしあらは−こひにみそきを−なほやかけまし


06832
未入力 正徹 (xxx)

なにゆゑと人やとふとていなり山おもふ社はうちもたたかす

なにゆゑと−ひとやとふとて−いなりやま−おもふやしろは−うちもたたかす


06833
未入力 正徹 (xxx)

神もうけす人もつれなしいく度もうらみ所や身にかへるらん

かみもうけす−ひともつれなし−いくたひも−うらみところや−みにかへるらむ


06834
未入力 正徹 (xxx)

おもひねの枕のちりにましはらはあよみをはこふ神やなからん

おもひねの−まくらのちりに−ましはらは−あよみをはこふ−かみやなからむ


06835
未入力 正徹 (xxx)

後の世を祈るになさは月まつと人にはいひし夕暮の空

のちのよを−いのるになさは−つきまつと−ひとにはいひし−ゆふくれのそら


06836
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我か氏の神に祈らむ子のためにつれなき人の心とも見よ

わかうちの−かみにいのらむ−このために−つれなきひとの−こころともみよ


06837
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いくみそきしてに涙の露さへもむすほほれ行く契なるらん

いくみそき−してになみたの−つゆさへも−むすほほれゆく−ちきりなるらむ


06838
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うき世にはなにかは祈りままならむ恋にかきりて神もうらめし

うきよには−なにかはいのり−ままならむ−こひにかきりて−かみもうらめし


06839
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たのみこし杉の二本はつせめのならふしるしもなき契かな

たのみこし−すきのふたもと−はつせめの−ならふしるしも−なきちきりかな


06840
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貴舟川袖の涙の水かさゆゑ玉たにちらぬ瀬瀬の岩浪

きふねかは−そてのなみたの−みかさゆゑ−たまたにちらぬ−せせのいはなみ


06841
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初せ山尾上の雲のまよふさへ恋ちにつらきしるしをそみる

はつせやま−をのへのくもの−まよふさへ−こひちにつらき−しるしをそみる


06842
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七日ひぬ袖の涙の川社あらはゆかてやしのに祈らん

なぬかひぬ−そてのなみたの−かはやしろ−あらはゆかてや−しのにいのらむ


06843
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あひ見すはわすれん祈り二かたに神も聞入れすなる契かな

あひみすは−わすれむいのり−ふたかたに−かみもききいれす−なるちきりかな


06844
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見すやまつ神のいかきにはふくすのめくむ春あらはかれん恨を

みすやまつ−かみのいかきに−はふくすの−めくむはるあらは−かれむうらみを


06845
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契あれや手にくる玉のををよわみたゆるをいのるしるしとそきく

ちきりあれや−てにくるたまの−ををよわみ−たゆるをいのる−しるしとそきく


06846
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祈りこし道にそかへる初瀬川はやくしるしを三輪の杉村

いのりこし−みちにそかへる−はつせかは−はやくしるしを−みわのすきむら


06847
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年へても契そかたき先の世に祈りおくをややすくうくらん

としへても−ちきりそかたき−さきのよに−いのりおくをや−やすくうくらむ


06848
未入力 正徹 (xxx)

よしたのめ恋こそ人のいのるとも御祓をうけぬ神はしるらん

よしたのめ−こひこそひとの−いのるとも−みそきをうけぬ−かみはしるらむ


06849
未入力 正徹 (xxx)

わたりかねいく度かへり貴舟川玉きはるまて身もよわりつつ

わたりかね−いくたひかへり−きふねかは−たまきはるまて−みもよわりつつ


06850
未入力 正徹 (xxx)

神しうけていもかりゆかむしるしとやみそきかはらに千鳥鳴くなり

かみしうけて−いもかりゆかむ−しるしとや−みそきかはらに−ちとりなくなり


06851
未入力 正徹 (xxx)

世世かけてたえす朽ちせぬ契とや松をむすふの神の下縄

よよかけて−たえすくちせぬ−ちきりとや−まつをむすふの−かみのしたなは


06852
未入力 正徹 (xxx)

小初瀬や仏は恋をいさめおく道にたかふを哀ともしれ

をはつせや−ほとけはこひを−いさめおく−みちにたかふを−あはれともしれ


06853
未入力 正徹 (xxx)

人心あらふる神にいのるともおもひなたむる暮やなからむ

ひとこころ−あらふるかみに−いのるとも−おもひなたむる−くれやなからむ


06854
未入力 正徹 (xxx)

恋せしの御祓をなとかうけさらむ神のまことの道にかなはは

こひせしの−みそきをなとか−うけさらむ−かみのまことの−みちにかなはは


06855
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なかれての末たのめとや御祓河瀬になひくもにかかるゆふして

なかれての−すゑたのめとや−みそきかは−せになひくもに−かかるゆふして


06856
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祈らしよ人に行合のまつことは猶かたそきの千木の社に

いのらしよ−ひとにゆきあひの−まつことは−なほかたそきの−ちきのやしろに


06857
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せめて先涙吹きほせ恋せしのみそき川風袖かろきまて

せめてまつ−なみたふきほせ−こひせしの−みそきかはかせ−そてかろきまて


06858
未入力 正徹 (xxx)

うけひかぬ我かねきことよあひみしとつれなき人やしめをそへけん

うけひかぬ−わかねきことよ−あひみしと−つれなきひとや−しめをそへけむ


06859
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我かかたに心ひけとそ祈りとくゆ槻あまたのを初瀬のやま

わかかたに−こころひけとそ−いのりとく−ゆつきあまたの−をはつせのやま


06860
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あまを舟さしてそたのむ初瀬川誓のうみに入あひのかね

あまをふね−さしてそたのむ−はつせかは−ちかひのうみに−いりあひのかね


06861
未入力 正徹 (xxx)

たのめてもたたよふ浪そよるへなき人のちかひの海わたる舟

たのめても−たたよふなみそ−よるへなき−ひとのちかひの−うみわたるふね


06862
未入力 正徹 (xxx)

貴舟川袖のみぬれて神かけしことはの淵はかはるせそなき

きふねかは−そてのみぬれて−かみかけし−ことはのふちは−かはるせそなき


06863
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夕暮は猶そまたるるかはらしとちかひし鐘の音ならねとも

ゆふくれは−なほそまたるる−かはらしと−ちかひしかねの−おとならねとも


06864
未入力 正徹 (xxx)

涙のみうき木のかめにとふうらのなとあひかたきためしなるらん

なみたのみ−うききのかめに−とふうらの−なとあひかたき−ためしなるらむ


06865
未入力 正徹 (xxx)

君か手を我もとりこのいける世にふかき契の影なかはりそ

きみかてを−われもとりこの−いけるよに−ふかきちきりの−かけなかはりそ


06866
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暮ことにうしともきかす偽を見なれそなれし中の松風

くれことに−うしともきかす−いつはりを−みなれそなれし−なかのまつかせ


06867
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又そふくたれに契をかしは木の宿にならしの岡の松かせ

またそふく−たれにちきりを−かしはきの−やとにならしの−をかのまつかせ


06868
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此国も恋やはかはるとらのこのなれてもなれぬ□の心かな

このくにも−こひやはかはる−とらのこの−なれてもなれぬ−хのこころかな


06869
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うき雲を秋にきなれの山乙女しくるる袖の色もふりにき

うきくもを−あきにきなれの−やまをとめ−しくるるそての−いろもふりにき


06870
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ならしはやなるるそかたきはしたかのと帰る山のあくる別は

ならしはや−なるるそかたき−はしたかの−とかへるやまの−あくるわかれは


06871
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世にふれは恋になるるもかたからす思ふにたかふ我か心かな

よにふれは−こひになるるも−かたからす−おもふにたかふ−わかこころかな


06872
未入力 正徹 (xxx)

世にすむはたれか思ひの家ならぬ猶出てかたき関をすゑつる

よにすむは−たれかおもひの−いへならぬ−なほいてかたき−せきをすゑつる


06873
未入力 正徹 (xxx)

うき中は立ちましれとも身にかへておもふ心もしらぬ市人

うきなかは−たちましれとも−みにかへて−おもふこころも−しらぬいちひと


06874
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身にしめておもふ心の花さかりなほ色そふる袖の春雨

みにしめて−おもふこころの−はなさかり−なほいろそふる−そてのはるさめ


06875
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空にしれ思ひます田のいける身を水なき鳥のねになかすとも

そらにしれ−おもひますたの−いけるみを−みつなきとりの−ねになかすとも


06876
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今朝そ見る初あゐそめの一しほに身をむは玉の夜はの衣手

けさそみる−はつあゐそめの−ひとしほに−みをむはたまの−よはのころもて


06877
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うらもなくおもふ我か身や偽のある世にそむく心なるらん

うらもなく−おもふわかみや−いつはりの−あるよにそむく−こころなるらむ


06878
未入力 正徹 (xxx)

いつはりとさのみ見えすは一度のまことまてともなにか待たれん

いつはりと−さのみみえすは−ひとたひの−まことまてとも−なにかまたれむ


06879
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身をしれはおもふよしなる偽もある世ならすは猶やうからん

みをしれは−おもふよしなる−いつはりも−あるよならすは−なほやうからむ


06880
未入力 正徹 (xxx)

うきかたに思ひしれとも偽のありのすさみそなきにまされる

うきかたに−おもひしれとも−いつはりの−ありのすさみそ−なきにまされる


06881
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いつはりのある世をすくに恨みても時にあはすはかりのことのは

いつはりの−あるよをすくに−うらみても−ときにあはすは−かりのことのは


06882
未入力 正徹 (xxx)

おもひ川くいの八千たひうつたへにいとと浪こす袖のしからみ

おもひかは−くいのやちたひ−うつたへに−いととなみこす−そてのしからみ


06883
未入力 正徹 (xxx)

むつことをのこささりしも遠さかる夜の契の後そくやしき

むつことを−のこささりしも−とほさかる−よるのちきりの−のちそくやしき


06884
未入力 正徹 (xxx)

さても猶契たかへん中そともしらていかなる心見えまし

さてもなほ−ちきりたかへむ−なかそとも−しらていかなる−こころみえまし


06885
未入力 正徹 (xxx)

月たかく星もなかれす猶たのみありしにまされ宿の松風

つきたかく−ほしもなかれす−なほたのみ−ありしにまされ−やとのまつかせ


06886
未入力 正徹 (xxx)

よるとしれたたひたすらにみ吉野の雁の心を契にそかる

よるとしれ−たたひたすらに−みよしのの−かりのこころを−ちきりにそかる


06887
未入力 正徹 (xxx)

今夜又ねぬよの月に成りにけりたた一事のあいな憑に

こよひまた−ねぬよのつきに−なりにけり−たたひとことの−あいなたのめに


06888
未入力 正徹 (xxx)

あつさ弓矢前をふせくたてほこと心たかくもたのむ恋かな

あつさゆみ−やさきをふせく−たてほこと−こころたかくも−たのむこひかな


06889
未入力 正徹 (xxx)

つれなくてめくりあはしの心さへあさ日につるる在明の影

つれなくて−めくりあはしの−こころさへ−あさひにつるる−ありあけのかけ


06890
未入力 正徹 (xxx)

しかまかたのほる小舟にくるしきや人はかちちにかかる川浪

しかまかた−のほるをふねに−くるしきや−ひとはかちちに−かかるかはなみ


06891
未入力 正徹 (xxx)

行きかへり猶我かかたそあしたゆきとはぬ心のなかくみしかき

ゆきかへり−なほわかかたそ−あしたゆき−とはぬこころの−なかくみしかき


06892
未入力 正徹 (xxx)

恋ちにもすすむ心そよわり行く競の馬のあとの足なみ

こひちにも−すすむこころそ−よわりゆく−くらへのうまの−あとのあしなみ


06893
未入力 正徹 (xxx)

はからるる人のことはのつかのまに我もきつねの心をそかる

はからるる−ひとのことはの−つかのまに−われもきつねの−こころをそかる


06894
未入力 正徹 (xxx)

夕まくれあやしの庭のうす霧に待つ人かけや立ちまよふらん

ゆふまくれ−あやしのにはの−うすきりに−まつひとかけや−たちまよふらむ


06895
未入力 正徹 (xxx)

つれなくはいつれの世にもあふことの此うけかたき身にそまさらん

つれなくは−いつれのよにも−あふことの−このうけかたき−みにそまさらむ


06896
未入力 正徹 (xxx)

雨はこふ今夜あひつの山颪こゆへくもなき道くらくして

あめはこふ−こよひあひつの−やまおろし−こゆへくもなき−みちくらくして


06897
未入力 正徹 (xxx)

別れかねまきの戸出つるくろかみをわれとひかふるさ夜の面影

わかれかね−まきのといつる−くろかみを−われとひかふる−さよのおもかけ


06898
未入力 正徹 (xxx)

問ひわひぬ人の詞のはしうくも心なかくてまちやわたらん

とひわひぬ−ひとのことはの−はしうくも−こころなかくて−まちやわたらむ


06899
未入力 正徹 (xxx)

わかれ路の袖のにほひをうつしとる草木もつらしあかつきの露

わかれちの−そてのにほひを−うつしとる−くさきもつらし−あかつきのつゆ


06900
未入力 正徹 (xxx)

うき人の袖やはぬれん世にもりてかかる涙の雨ときくとも

うきひとの−そてやはぬれむ−よにもりて−かかるなみたの−あめときくとも


06901
未入力 正徹 (xxx)

忘れすよ風に声する下荻のほのかたらひし名残ならねと

わすれすよ−かせにこゑする−したをきの−ほのかたらひし−なこりならねと


06902
未入力 正徹 (xxx)

おくふかくかきなす琴ののほりねもおよはぬ中の心しれとや

おくふかく−かきなすことの−のほりねも−およはぬなかの−こころしれとや


06903
未入力 正徹 (xxx)

おともうし露ふく軒の荻のはにしほりなそへそ袖の秋風

おともうし−つゆふくのきの−をきのはに−しほりなそへそ−そてのあきかせ


06904
未入力 正徹 (xxx)

なかれての名はたかくとも我か心うつりなそめそ菊の下水

なかれての−なはたかくとも−わかこころ−うつりなそめそ−きくのしたみつ


06905
未入力 正徹 (xxx)

身にそしむ吹きいたすこすの夕かせも猶おくくらき玉ことの声

みにそしむ−ふきいたすこすの−ゆふかせも−なほおくくらき−たまことのこゑ


06906
未入力 正徹 (xxx)

いつのまに身にしむ声そ松風を聞きおとろかぬ夢も有る世に

いつのまに−みにしむこゑそ−まつかせを−ききおとろかぬ−ゆめもあるよに


06907
未入力 正徹 (xxx)

たれそこの思ふあたりのききしれも猶過きかたき道のへの宿

たれそこの−おもふあたりの−ききしれも−なほすきかたき−みちのへのやと


06908
未入力 正徹 (xxx)

見すしらぬ我になすともいかかせんまつらかおきの遠つ舟人

みすしらぬ−われになすとも−いかかせむ−まつらかおきの−とほつふなひと


06909
未入力 正徹 (xxx)

たたいまの思ひの色をつけやらは花や紅葉の比や隔てむ

たたいまの−おもひのいろを−つけやらは−はなやもみちの−ころやへたてむ


06910
未入力 正徹 (xxx)

わすれすはひとつ涙や思ひやるほとは雲井の月に落つらん

わすれすは−ひとつなみたや−おもひやる−ほとはくもゐの−つきにおつらむ


06911
未入力 正徹 (xxx)

おもひねの夢路を遠み覚めゆけは分けこしむねにさわくささはら

おもひねの−ゆめちをとほみ−さめゆけは−わけこしむねに−さわくささはら


06912
未入力 正徹 (xxx)

君そうきわたらすしらぬもろこしも夢に見るよの秋つ島人

きみそうき−わたらすしらぬ−もろこしも−ゆめにみるよの−あきつしまひと


06913
未入力 正徹 (xxx)

都より遠山とりのおきのうみになみなへたてそこふる関守

みやこより−とほやまとりの−おきのうみに−なみなへたてそ−こふるせきもり


06914
未入力 正徹 (xxx)

うちもねよこふる心の弥つきに行くらむ直の末の関もり

うちもねよ−こふるこころの−いやつきに−ゆくらむみちの−すゑのせきもり


06915
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天地の外に恋ひてもめにちかくくるれはたえぬ雲風の山

あめつちの−ほかにこひても−めにちかく−くるれはたえぬ−くもかせのやま


06916
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おくよいかに春の霞も秋風も白川まての雪のさと人

おくよいかに−はるのかすみも−あきかせも−しらかはまての−ゆきのさとひと


06917
未入力 正徹 (xxx)

日数さへ舟路はいととさたまらすかねて心そうきてこひしき

ひかすさへ−ふなちはいとと−さたまらす−かねてこころそ−うきてこひしき


06918
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣かさねぬ袖の行すりにうたてにほひをふかくそめつつ

さよころも−かさねぬそての−ゆきすりに−うたてにほひを−ふかくそめつつ


06919
未入力 正徹 (xxx)

へたつるもうき中かきのささめこときかしとすれやおくふかくなる

へたつるも−うきなかかきの−ささめこと−きかしとすれや−おくふかくなる


06920
未入力 正徹 (xxx)

わつかなるこすのうちとのこと笛はねにあふさへも猶そくるしき

わつかなる−こすのうちとの−ことふえは−ねにあふさへも−なほそくるしき


06921
未入力 正徹 (xxx)

かはかりの契もつらしふす人の夜はの衣に袖さはるまて

かはかりの−ちきりもつらし−ふすひとの−よはのころもに−そてさはるまて


06922
未入力 正徹 (xxx)

宿をたになりへぬ閨の中の戸をしるや枕のふるき関守

やとをたに−なりへぬねやの−なかのとを−しるやまくらの−ふるきせきもり


06923
未入力 正徹 (xxx)

むねやすむ涙もかなやしほかまにたく火影けつちかの浦浪

むねやすむ−なみたもかなや−しほかまに−たくひかけけつ−ちかのうらなみ


06924
未入力 正徹 (xxx)

我かかたのなけきをたえすそへ恋ひて君こそはやけちかの塩かま

わかかたの−なけきをたえす−そへこひて−きみこそはやけ−ちかのしほかま


06925
未入力 正徹 (xxx)

いかにしてみすにそへたるうす物の一重へたつる人のすかたを

いかにして−みすにそへたる−うすものの−ひとへへたつる−ひとのすかたを


06926
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玉もかる袖ならすして君か手をとりこの池と人やみるらん

たまもかる−そてならすして−きみかてを−とりこのいけと−ひとやみるらむ


06927
未入力 正徹 (xxx)

ほのかなる声聞くはかりいもよれは又引きたつる戸のかためかな

ほのかなる−こゑきくはかり−いもよれは−またひきたつる−とのかためかな


06928
未入力 正徹 (xxx)

やくしほはむねにそちかのうら風にけふりも浪も袖よりそたつ

やくしほは−むねにそちかの−うらかせに−けふりもなみも−そてよりそたつ


06929
未入力 正徹 (xxx)

さしきてもおよはぬ塩そ引きかへる人はま砂にとほきはまゆふ

さしきても−およはぬしほそ−ひきかへる−ひとはまさこに−とほきはまゆふ


06930
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人心よしあしつつの程はかり中にありともなみのよるよる

ひとこころ−よしあしつつの−ほとはかり−なかにありとも−なみのよるよる


06931
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すかむしろ百ふなりせはとふにねて我か床ひろく君や待ちみん

すかむしろ−ももふなりせは−とふにねて−わかとこひろく−きみやまちみむ


06932
未入力 正徹 (xxx)

はれしなほうき身をうらのはまゆふやかさなる霧の下の塩風

はれしなほ−うきみをうらの−はまゆふや−かさなるきりの−したのしほかせ


06933
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袖におちむねにそさわく立ちわかれ又さえわたるあさ川の浪

そてにおち−むねにそさわく−たちわかれ−またさえわたる−あさかはのなみ


06934
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このままに契やさらにあさねかみ下ひもかけてむすほほれゆく

このままに−ちきりやさらに−あさねかみ−したひもかけて−むすほほれゆく


06935
未入力 正徹 (xxx)

たのむ夜のけふのひつしのあよみさへいそけは時のうつる久しさ

たのむよの−けふのひつしの−あよみさへ−いそけはときの−うつるひさしさ


06936
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さ夜中もかくやうかりし今朝のまも夕も遠きひまを恋ひつつ

さよなかも−かくやうかりし−けさのまも−ゆふへもとほき−ひまをこひつつ


06937
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いそくらむ恋の山路をわたる日の影暮れかたき峰の松風

いそくらむ−こひのやまちを−わたるひの−かけくれかたき−みねのまつかせ


06938
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てる日をもうき中空にかけすてつくもる契の末の天雲

てるひをも−うきなかそらに−かけすてつ−くもるちきりの−すゑのあまくも


06939
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見てそしるいまた夕日になひく日の影もつれなき人の心は

みてそしる−いまたゆふひに−なひくひの−かけもつれなき−ひとのこころは


06940
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身を秋の心に春もなきものをくもる契はなかき日のかけ

みをあきの−こころにはるも−なきものを−くもるちきりは−なかきひのかけ


06941
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今朝のまの過くるはかりそたのめつる夕暮とほき日影をそまつ

けさのまの−すくるはかりそ−たのめつる−ゆふくれとほき−ひかけをそまつ


06942
未入力 正徹 (xxx)

夢ならすうちおとろきて恋ひわひぬ心の馬の時のつつみに

ゆめならす−うちおとろきて−こひわひぬ−こころのうまの−ときのつつみに


06943
未入力 正徹 (xxx)

たのめつる夕をとほく思ふまの南の空にかかる日の影

たのめつる−ゆふへをとほく−おもふまの−みなみのそらに−かかるひのかけ


06944
未入力 正徹 (xxx)

まちわひぬ親のいさめのうたたねに夢覚めてたに暮れかたき日を

まちわひぬ−おやのいさめの−うたたねに−ゆめさめてたに−くれかたきひを


06945
未入力 正徹 (xxx)

夕くれは恋をし恋の時そとや人心むる庭の松かせ

ゆふくれは−こひをしこひの−ときそとや−ひとこころむる−にはのまつかせ


06946
未入力 正徹 (xxx)

玉きはる夕にむかふ時すきはむなしき恋のむかしかたりを

たまきはる−ゆふへにむかふ−ときすきは−むなしきこひの−むかしかたりを


06947
未入力 正徹 (xxx)

うき中はたのめすまたぬ夕暮をいかになしてか思ひわふらん

うきなかは−たのめすまたぬ−ゆふくれを−いかになしてか−おもひわふらむ


06948
未入力 正徹 (xxx)

ぬる夜なき夢のかよひちたか方のしらぬ行きに遠さかるらん

ぬるよなき−ゆめのかよひち−たかかたの−しらぬゆききに−とほさかるらむ


06949
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから夢もうつつも恋ひわひてぬるかうちとくわくかたもなし

よもすから−ゆめもうつつも−こひわひて−ぬるかうちとく−わくかたもなし


06950
未入力 正徹 (xxx)

まつにうく別につらきならひかはおもひも恋もふかき夜の月

まつにうく−わかれにつらき−ならひかは−おもひもこひも−ふかきよのつき


06951
未入力 正徹 (xxx)

まつ人はこすもる月に雁鳴きて竹のなる夜のかせそ明れ行く

まつひとは−こすもるつきに−かりなきて−たけのなるよの−かせそあれゆく


06952
未入力 正徹 (xxx)

むは玉の見し黒かみの面かけはやみのうつつそいととさやけき

むはたまの−みしくろかみの−おもかけは−やみのうつつそ−いととさやけき


06953
未入力 正徹 (xxx)

よるそうき伏見の夢のかよひちに人も木はたの関のくきぬき

よるそうき−ふしみのゆめの−かよひちに−ひともこはたの−せきのくきぬき


06954
未入力 正徹 (xxx)

うき物となすもかたみそ在明のつれなく見えしとはかりの月

うきものと−なすもかたみそ−ありあけの−つれなくみえし−とはかりのつき


06955
未入力 正徹 (xxx)

いまそ猶いく世の人の別路もつらきかたみの在明の月

いまそなほ−いくよのひとの−わかれちも−つらきかたみの−ありあけのつき


06956
未入力 正徹 (xxx)

よこ雲の空にしめゆふ夢ちとやまたみぬかたにむすほほるらん

よこくもの−そらにしめゆふ−ゆめちとや−またみぬかたに−むすほほるらむ


06957
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の袖にもこめす手にとりて人ののこさぬ月のかたみは

きぬきぬの−そてにもこめす−てにとりて−ひとののこさぬ−つきのかたみは


06958
未入力 正徹 (xxx)

よりあはん契とまてはかけさりきまたあけまきの年の思ひを

よりあはむ−ちきりとまては−かけさりき−またあけまきの−としのおもひを


06959
未入力 正徹 (xxx)

しらせしなさ夜も我か世も深けはつるおもひは年の廿はかりを

しらせしな−さよもわかよも−ふけはつる−おもひはとしの−はたちはかりを


06960
未入力 正徹 (xxx)

いく夜さてうき面影の旅やつれ人にはなくてしたひきぬらん

いくよさて−うきおもかけの−たひやつれ−ひとにはなくて−したひきぬらむ


06961
未入力 正徹 (xxx)

我そあらぬおもかけとめて古郷をいてにし月はもとの身にして

われそあらぬ−おもかけとめて−ふるさとを−いてにしつきは−もとのみにして


06962
未入力 正徹 (xxx)

やすくなと覚めける夢そ野への草おもはぬかたの床の嵐に

やすくなと−さめけるゆめそ−のへのくさ−おもはぬかたの−とこのあらしに


06963
未入力 正徹 (xxx)

忘れなんおなし都の月にたに思ひたえにしよそのかりふし

わすれなむ−おなしみやこの−つきにたに−おもひたえにし−よそのかりふし


06964
未入力 正徹 (xxx)

浪もかくよしやかけけむ岩枕おもはぬ磯のあまの契に

なみもかく−よしやかけけむ−いはまくら−おもはぬいその−あまのちきりに


06965
未入力 正徹 (xxx)

いもにとひつらきかたみのうら風は袖こす月のおきつ白なみ

いもにとひ−つらきかたみの−うらかせは−そてこすつきの−おきつしらなみ


06966
未入力 正徹 (xxx)

草枕かりにたに見す古郷に思ふ夢をやととめおきけん

くさまくら−かりにたにみす−ふるさとに−おもふゆめをや−ととめおきけむ


06967
未入力 正徹 (xxx)

うらめしく都の人や夢に見んこよひ野上の露の契を

うらめしく−みやこのひとや−ゆめにみむ−こよひのうへの−つゆのちきりを


06968
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれて旅ねの夢に君やこし我や行きけん月そやとれる

そてぬれて−たひねのゆめに−きみやこし−われやゆきけむ−つきそやとれる


06969
未入力 正徹 (xxx)

あさは野やふる郷人のおも影もたつみわこすけ今夜宿かせ

あさはのや−ふるさとひとの−おもかけも−たつみわこすけ−こよひやとかせ


06970
未入力 正徹 (xxx)

かり枕夢にも人はあはすともまとろまはやのうつの山かせ

かりまくら−ゆめにもひとは−あはすとも−まとろまはやの−うつのやまかせ


06971
未入力 正徹 (xxx)

時のまに心は行きてかへる山人はこしちと思ひおくらし

ときのまに−こころはゆきて−かへるやま−ひとはこしちと−おもひおくらし


06972
未入力 正徹 (xxx)

あかさりし袖の別の梅かかに面影かすむ月そのこれる

あかさりし−そてのわかれの−うめかかに−おもかけかすむ−つきそのこれる


06973
未入力 正徹 (xxx)

月もまた思ひけりとやしらさらんやらす霞の袖くちぬ世に

つきもまた−おもひけりとや−しらさらむ−やらすかすみの−そてくちぬよに


06974
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮それかと見えし面影もかすむそかたみ在明の月

ゆふまくれ−それかとみえし−おもかけも−かすむそかたみ−ありあけのつき


06975
未入力 正徹 (xxx)

よもきふやもとの思ひにもえかへりかれんもつらし春の焼原

よもきふや−もとのおもひに−もえかへり−かれむもつらし−はるのやけはら


06976
未入力 正徹 (xxx)

色にそむ身をや愁へむ分けくれは心へたてぬ花のかすみに

いろにそむ−みをやうれへむ−わけくれは−こころへたてぬ−はなのかすみに


06977
未入力 正徹 (xxx)

そてなからかけてそ思ふをとめこか花かつらきの峰の白雲

そてなから−かけてそおもふ−をとめこか−はなかつらきの−みねのしらくも


06978
未入力 正徹 (xxx)

さかり見し花に立ちそふ面影は夢ちにまよふ春の山ふみ

さかりみし−はなにたちそふ−おもかけは−ゆめちにまよふ−はるのやまふみ


06979
未入力 正徹 (xxx)

かたみとやすまの若木の桜花かすみのうちの春のおもかけ

かたみとや−すまのわかきの−さくらはな−かすみのうちの−はるのおもかけ


06980
未入力 正徹 (xxx)

行くほたるあくかれいつる玉ならはつれなき袖の中にととまれ

ゆくほたる−あくかれいつる−たまならは−つれなきそての−うちにととまれ


06981
未入力 正徹 (xxx)

しけれたた冬はよもきか杣かたに思ひこりにし宿のかよひ路

しけれたた−ふゆはよもきか−そまかたに−おもひこりにし−やとのかよひち


06982
未入力 正徹 (xxx)

契りしもその夜のままに夏衣うらなかりつる我さへそうき

ちきりしも−そのよのままに−なつころも−うらなかりつる−われさへそうき


06983
未入力 正徹 (xxx)

蚊遣火のけふりをむねに焼きこめてむせふ心の行かたもなし

かやりひの−けふりをむねに−たきこめて−むせふこころの−ゆくかたもなし


06984
未入力 正徹 (xxx)

おもひつつふすや涙の泉こそし水のぬるき岩枕なれ

おもひつつ−ふすやなみたの−いつみこそ−しみつのぬるき−いはまくらなれ


06985
未入力 正徹 (xxx)

我か門にすすむになして待つよひのふくるはあくるかねの声かな

わかかとに−すすむになして−まつよひの−ふくるはあくる−かねのこゑかな


06986
未入力 正徹 (xxx)

契りしは末はの秋の露にたに霜おきかはる庭のあさちふ

ちきりしは−すゑはのあきの−つゆにたに−しもおきかはる−にはのあさちふ


06987
未入力 正徹 (xxx)

しくれてもつらき心の秋しのや契ると山そ色かはりゆく

しくれても−つらきこころの−あきしのや−ちきるとやまそ−いろかはりゆく


06988
未入力 正徹 (xxx)

草も木もうつろはぬまに秋ふけてうき□かれぬる中の衣手

くさもきも−うつろはぬまに−あきふけて−うきхかれぬる−なかのころもて


06989
未入力 正徹 (xxx)

秋そうき人はのこさぬ衣衣のかたみの月もおもかはりして

あきそうき−ひとはのこさぬ−きぬきぬの−かたみのつきも−おもかはりして


06990
未入力 正徹 (xxx)

いかかねむ人の秋風音もせてむなし衣の身にとほる夜を

いかかねむ−ひとのあきかせ−おともせて−むなしころもの−みにとほるよを


06991
未入力 正徹 (xxx)

身ひとつを其世の秋にうれふれは面影ならぬ在明の月

みひとつを−そのよのあきに−うれふれは−おもかけならぬ−ありあけのつき


06992
未入力 正徹 (xxx)

わすらるるうき身の秋の袖の露かかれとてこそ朽ちのこりけめ

わすらるる−うきみのあきの−そてのつゆ−かかれとてこそ−くちのこりけめ


06993
未入力 正徹 (xxx)

さしもうき秋やは人にかきたらんかけてそわたる雁の玉札

さしもうき−あきやはひとに−かきたらむ−かけてそわたる−かりのたまつさ


06994
未入力 正徹 (xxx)

うきなから鳴きとほさかる雁そあるおもひつきせぬ峰の秋霧

うきなから−なきとほさかる−かりそある−おもひつきせぬ−みねのあききり


06995
未入力 正徹 (xxx)

なかき夜の秋の思ひにまちこひぬ人ともかなや十ふのすかこも

なかきよの−あきのおもひに−まちこひぬ−ひとともかなや−とふのすかこも


06996
未入力 正徹 (xxx)

よもあけしおもはぬ夢も猶覚めてうき身の秋の長き夜の空

よもあけし−おもはぬゆめも−なほさめて−うきみのあきの−なかきよのそら


06997
未入力 正徹 (xxx)

秋きてそ時そともなき恋ならぬ夕も風もかはるうれへに

あききてそ−ときそともなき−こひならぬ−ゆふへもかせも−かはるうれへに


06998
未入力 正徹 (xxx)

たのめおきしことのはよりそ色かはる草木も秋の露にあへとも

たのめおきし−ことのはよりそ−いろかはる−くさきもあきの−つゆにあへとも


06999
未入力 正徹 (xxx)

枕より跡よりとこそしらねとも恋ふてふ上に秋そせめくる

まくらより−あとよりとこそ−しらねとも−こふてふうへに−あきそせめくる


07000
未入力 正徹 (xxx)

枯れてゆく人めはあさし年ふかくおもふ心のみちしはの霜

かれてゆく−ひとめはあさし−としふかく−おもふこころの−みちしはのしも


07001
未入力 正徹 (xxx)

まち深けぬこほれる月のあよみより人のいそかぬ冬のよの空

まちふけぬ−こほれるつきの−あよみより−ひとのいそかぬ−ふゆのよのそら


07002
未入力 正徹 (xxx)

契りけん我か心のみあさちふの霜の下葉になして枯れぬる

ちきりけむ−わかこころのみ−あさちふの−しものしたはに−なしてかれぬる


07003
未入力 正徹 (xxx)

ちりをこそ中中うつめ雪あられあれぬ夜もなき床の嵐に

ちりをこそ−なかなかうつめ−ゆきあられ−あれぬよもなき−とこのあらしに


07004
未入力 正徹 (xxx)

涙川袖の氷の関こえてしのひにかよふあふ坂もかな

なみたかは−そてのこほりの−せきこえて−しのひにかよふ−あふさかもかな


07005
未入力 正徹 (xxx)

やすますよ涙も袖にむすほほれ袖の氷もおもき思ひほ

やすますよ−なみたもそてに−むすほほれ−そてのこほりも−おもきおもひは


07006
未入力 正徹 (xxx)

ひとりなと心とくらむあはぬよの涙にぬるむ袖の氷は

ひとりなと−こころとくらむ−あはぬよの−なみたにぬるむ−そてのこほりは


07007
未入力 正徹 (xxx)

とはれすは雪の色たにふりかくせ契る末ののかるる草はを

とはれすは−ゆきのいろたに−ふりかくせ−ちきるすゑのの−かるるくさはを


07008
未入力 正徹 (xxx)

まつ人も遠さかるなりしかのあまの袖の氷を身になかしつつ

まつひとも−とほさかるなり−しかのあまの−そてのこほりを−みになかしつつ


07009
未入力 正徹 (xxx)

夢にても見ぬ世ふりぬる人こゑもたたそのをりの雪の曙

ゆめにても−みぬよふりぬる−ひとこゑも−たたそのをりの−ゆきのあけほの


07010
未入力 正徹 (xxx)

七車つむへき草も枯れはてて下根にもゆる冬のかよひち

ななくるま−つむへきくさも−かれはてて−したねにもゆる−ふゆのかよひち


07011
未入力 正徹 (xxx)

かたしくもこほれる袖のみなと川涙うきねによる舟もなし

かたしくも−こほれるそての−みなとかは−なみたうきねに−よるふねもなし


07012
未入力 正徹 (xxx)

うき中はかれ行く水にしるものをつかはぬをしの声なをしへそ

うきなかは−かれゆくみつに−しるものを−つかはぬをしの−こゑなをしへそ


07013
未入力 正徹 (xxx)

かれはつる冬の末野を契にて風そうらむる葛のははなし

かれはつる−ふゆのすゑのを−ちきりにて−かせそうらむる−くすのははなし


07014
未入力 正徹 (xxx)

身のうさもつきぬ涙のいつみ川袖そなかるる衣かせやま

みのうさも−つきぬなみたの−いつみかは−そてそなかるる−ころもかせやま


07015
未入力 正徹 (xxx)

うき名さへ立つや夜床の朝日影涙のぬるむ水のけふりに

うきなさへ−たつやよとこの−あさひかけ−なみたのぬるむ−みつのけふりに


07016
未入力 正徹 (xxx)

紅にゆくや涙も河内女か手そめの糸のみたれてそうき

くれなゐに−ゆくやなみたも−かはちめか−てそめのいとの−みたれてそうき


07017
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれぬ床のうら浪かたしきて見るめかりつる夢の名残は

そてぬれぬ−とこのうらなみ−かたしきて−みるめかりつる−ゆめのなこりは


07018
未入力 正徹 (xxx)

かへしつる夜はの衣に心見えてたのむ夢にもあはて覚めぬる

かへしつる−よはのころもに−こころみえて−たのむゆめにも−あはてさめぬる


07019
未入力 正徹 (xxx)

立ちかへりいつかは夢もあひつ山跡まておくる峰の雲風

たちかへり−いつかはゆめも−あひつやま−あとまておくる−みねのくもかせ


07020
未入力 正徹 (xxx)

なみたひつ枕のちりはかろからすうき名をたれかよそに立つらん

なみたひつ−まくらのちりは−かろからす−うきなをたれか−よそにたつらむ


07021
未入力 正徹 (xxx)

山と成る枕のちりの二かみはへたつる雲にむすほほれつつ

やまとなる−まくらのちりの−ふたかみは−へたつるくもに−むすほほれつつ


07022
未入力 正徹 (xxx)

なき名をはむなしき空に立ておきて枕にくもるちりの山風

なきなをは−むなしきそらに−たておきて−まくらにくもる−ちりのやまかせ


07023
未入力 正徹 (xxx)

しるらめやことのはのへておもふとちぬる夜そ法の莚なりけり

しるらめや−ことのはのへて−おもふとち−ぬるよそのりの−むしろなりけり


07024
未入力 正徹 (xxx)

月のゆく南の風にとく帯の一すちのこる雲もうらめし

つきのゆく−みなみのかせに−とくおひの−ひとすちのこる−くももうらめし


07025
未入力 正徹 (xxx)

うれしさをつひにつつまて朽ちはてぬ涙はかりのせはき袂は

うれしさを−つひにつつまて−くちはてぬ−なみたはかりの−せはきたもとは


07026
未入力 正徹 (xxx)

むかひつつわたるを恋の友とみるうらみのかけも我をへたつな

むかひつつ−わたるをこひの−ともとみる−うらみのかけも−われをへたつな


07027
未入力 正徹 (xxx)

あかさりしそのよの人のきつなかはかねのこゑひく峰の横雲

あかさりし−そのよのひとの−きつなかは−かねのこゑひく−みねのよこくも


07028
未入力 正徹 (xxx)

聞くかねも声声たえて初瀬川袖におちくる都とそなる

きくかねも−こゑこゑたえて−はつせかは−そてにおちくる−みやことそなる


07029
未入力 正徹 (xxx)

しほるほと袖やはぬれん我か心うはものなみにかかるはかりは

しほるほと−そてやはぬれむ−わかこころ−うはものなみに−かかるはかりは


07030
未入力 正徹 (xxx)

うき中にある夜はかりやあつからむ契そうすき閨のさころも

うきなかに−あるよはかりや−あつからむ−ちきりそうすき−ねやのさころも


07031
未入力 正徹 (xxx)

たのめすはいかかせんとの涙にも消えゆく鳥のあとの夕くれ

たのめすは−いかかせむとの−なみたにも−きえゆくとりの−あとのゆふくれ


07032
未入力 正徹 (xxx)

こはいかか三輪の山鳥ひるはきて夜はわかるる神ならはこそ

こはいかか−みわのやまとり−ひるはきて−よるはわかるる−かみならはこそ


07033
未入力 正徹 (xxx)

こりつむも道そくるしきさてのみや山のかたそのつらきふし柴

こりつむも−みちそくるしき−さてのみや−やまのかたその−つらきふししは


07034
未入力 正徹 (xxx)

かひやなき人はあれにしとまやなみ我かかた久しかけて待つとも

かひやなき−ひとはあれにし−とまやなみ−わかかたひさし−かけてまつとも


07035
未入力 正徹 (xxx)

身にとほる風さへ思ふかたなれは月に涙をゆるす袖かな

みにとほる−かせさへおもふ−かたなれは−つきになみたを−ゆるすそてかな


07036
未入力 正徹 (xxx)

わすれぬを思ひすててはむかへとも我かゆふくれとしたふ面影

わすれぬを−おもひすてては−むかへとも−わかゆふくれと−したふおもかけ


07037
未入力 正徹 (xxx)

立別れかかるかたなきおもひかな夕の空の雲の一むら

たちわかれ−かかるかたなき−おもひかな−ゆふへのそらの−くものひとむら


07038
未入力 正徹 (xxx)

たのめとや中にある世の衣たになれぬ匂にとまる契を

たのめとや−なかにあるよの−ころもたに−なれぬにほひに−とまるちきりを


07039
未入力 正徹 (xxx)

きぬきぬの後やうからん思ひねにいまた見さりし夢の曙

きぬきぬの−のちやうからむ−おもひねに−いまたみさりし−ゆめのあけほの


07040
未入力 正徹 (xxx)

おもひしれぬれし袂をほす袖になきてかしつる夜はの枕そ

おもひしれ−ぬれしたもとを−ほすそてに−なきてかしつる−よはのまくらそ


07041
未入力 正徹 (xxx)

命をも名をもよしさは捨てはてん今夜ねぬよの夢の契に

いのちをも−なをもよしさは−すてはてむ−こよひねぬよの−ゆめのちきりに


07042
未入力 正徹 (xxx)

行すゑもたた此ままにあひ見まくほしあへぬ袖を枕にそかす

ゆくすゑも−たたこのままに−あひみまく−ほしあへぬそてを−まくらにそかす


07043
未入力 正徹 (xxx)

露かかることのは草も身にそしむ新枕かの木からしの風

つゆかかる−ことのはくさも−みにそしむ−にひまくらかの−こからしのかせ


07044
未入力 正徹 (xxx)

うき身にはいつかはこえむあふ坂の山ちに関のなき世なりとも

うきみには−いつかはこえむ−あふさかの−やまちにせきの−なきよなりとも


07045
未入力 正徹 (xxx)

夢にてもあひ見んことやかた糸のこなたかなたによるの枕は

ゆめにても−あひみむことや−かたいとの−こなたかなたに−よるのまくらは


07046
未入力 正徹 (xxx)

あふことも待つもこよひにかきりなはかへぬ命や月に捨てまし

あふことも−まつもこよひに−かきりなは−かへぬいのちや−つきにすてまし


07047
未入力 正徹 (xxx)

人心わかつれなさをくらへてもなほうとまれぬ恋そくるしき

ひとこころ−わかつれなさを−くらへても−なほうとまれぬ−こひそくるしき


07048
未入力 正徹 (xxx)

とにかくにたのむ夜比はちかひきて契なき身の夕暮の空

とにかくに−たのむよころは−ちかひきて−ちきりなきみの−ゆふくれのそら


07049
未入力 正徹 (xxx)

かきり有る命のほとを思ふにも猶あふことをいそく中かな

かきりある−いのちのほとを−おもふにも−なほあふことを−いそくなかかな


07050
未入力 正徹 (xxx)

うき中に年ふる玉のををよわみみたれはてぬや契なるらん

うきなかに−としふるたまの−ををよわみ−みたれはてぬや−ちきりなるらむ


07051
未入力 正徹 (xxx)

消えやらてあらはあふよのしののめの露にかはらん命をそ待つ

きえやらて−あらはあふよの−しののめの−つゆにかはらむ−いのちをそまつ


07052
未入力 正徹 (xxx)

きえやらぬうき身も世世の契とや恋を命にまかせはてまし

きえやらぬ−うきみもよよの−ちきりとや−こひをいのちに−まかせはてまし


07053
未入力 正徹 (xxx)

うかれとやあふにもかへぬ人のためすてし命の身にのこるらん

うかれとや−あふにもかへぬ−ひとのため−すてしいのちの−みにのこるらむ


07054
未入力 正徹 (xxx)

海士を舟わたらぬ中のさはりとやなるとさしいたすせとの早しほ

あまをふね−わたらぬなかの−さはりとや−なるとさしいたす−せとのはやしほ


07055
未入力 正徹 (xxx)

せせかけよあふを命のうちつけにいそくと見てやつれなかるらん

せせかけよ−あふをいのちの−うちつけに−いそくとみてや−つれなかるらむ


07056
未入力 正徹 (xxx)

石はしる滝つ心の花もうしたをらぬなみは袖にちりつつ

いしはしる−たきつこころの−はなもうし−たをらぬなみは−そてにちりつつ


07057
未入力 正徹 (xxx)

木の葉ふるえにたにぬれす秋かけていひしはかりの袖の春雨

このはふる−えにたにぬれす−あきかけて−いひしはかりの−そてのはるさめ


07058
未入力 正徹 (xxx)

それをたにとふことにせよ恋ひしなぬ身のおこたりはいひしにもにす

それをたに−とふことにせよ−こひしなぬ−みのおこたりは−いひしにもにす


07059
未入力 正徹 (xxx)

世もくたり人もなさけをしらすなる時しもふかき恋そくるしき

よもくたり−ひともなさけを−しらすなる−ときしもふかき−こひそくるしき


07060
未入力 正徹 (xxx)

契りおけあはすはおなし世世を引く思ひもおなししつのをたまき

ちきりおけ−あはすはおなし−よよをひく−おもひもおなし−しつのをたまき


07061
未入力 正徹 (xxx)

身をかへてひとつ心をつくすとも此世ににたる人にあはすは

みをかへて−ひとつこころを−つくすとも−このよににたる−ひとにあはすは


07062
未入力 正徹 (xxx)

あふことをさしも命のあた物とかへんはをしと人やつれなき

あふことを−さしもいのちの−あたものと−かへむはをしと−ひとやつれなき


07063
未入力 正徹 (xxx)

恋ひしなはむなしきからを枕よりあとよりたれか哀ともみん

こひしなは−むなしきからを−まくらより−あとよりたれか−あはれともみむ


07064
未入力 正徹 (xxx)

命にもつひにかへなてあひみすと人にいはれん後の名そうき

いのちにも−つひにかへなて−あひみすと−ひとにいはれむ−のちのなそうき


07065
未入力 正徹 (xxx)

つれなさを思ひやむへき心にも又身はすてつ此世後の世

つれなさを−おもひやむへき−こころにも−またみはすてつ−このよのちのよ


07066
未入力 正徹 (xxx)

人も人我もわれなる後の世にこの心ゐてさらはあひ見よ

ひともひと−われもわれなる−のちのよに−このこころゐて−さらはあひみよ


07067
未入力 正徹 (xxx)

いつとなき恋を命と思ふにはあはすしてこそ世をもつくさめ

いつとなき−こひをいのちと−おもふには−あはすしてこそ−よをもつくさめ


07068
未入力 正徹 (xxx)

まつしれはあふ夜の数にあまたある命なりせはかへやつくさん

まつしれは−あふよのかすに−あまたある−いのちなりせは−かへやつくさむ


07069
未入力 正徹 (xxx)

人ゆゑの涙したふなうき世にもいまはあらしの袖の月かけ

ひとゆゑの−なみたしたふな−うきよにも−いまはあらしの−そてのつきかけ


07070
未入力 正徹 (xxx)

我からのあまのかるもにうつもれてのこる命をうらのすてふね

われからの−あまのかるもに−うつもれて−のこるいのちを−うらのすてふね


07071
未入力 正徹 (xxx)

なにはなる身をつくしてもあはちかたせとこく舟にむかふ早塩

なにはなる−みをつくしても−あはちかた−せとこくふねに−むかふはやしほ


07072
未入力 正徹 (xxx)

何かせむあらはあふ夜と頼む身のなき世の月に袖ぬらすとも

なにかせむ−あらはあふよと−たのむみの−なきよのつきに−そてぬらすとも


07073
未入力 正徹 (xxx)

後の世にかへてもあはんかたやなきうけかたき身は恋にすつとも

のちのよに−かへてもあはむ−かたやなき−うけかたきみは−こひにすつとも


07074
未入力 正徹 (xxx)

よしさらは涙浪こせたのむともあらはあふよの末の松山

よしさらは−なみたなみこせ−たのむとも−あらはあふよの−すゑのまつやま


07075
未入力 正徹 (xxx)

忘れなむ此世のうちは契なきおもひなひきそ生れこん身に

わすれなむ−このよのうちは−ちきりなき−おもひなひきそ−うまれこむみに


07076
未入力 正徹 (xxx)

つれなしなさらに思ひや出てさらむ恋ゆゑしるは命なりけり

つれなしな−さらにおもひや−いてさらむ−こひゆゑしるは−いのちなりけり


07077
未入力 正徹 (xxx)

見し人の心につるる面影のそははあふ夜をさのみいそかし

みしひとの−こころにつるる−おもかけの−そははあふよを−さのみいそかし


07078
未入力 正徹 (xxx)

まち恋ひし松もうらめしつれなしと三津の浜貝忘れたにせて

まちこひし−まつもうらめし−つれなしと−みつのはまかひ−わすれたにせて


07079
未入力 正徹 (xxx)

ぬれそはむ袖をはいかかささ原やしのひにとくるよはの下ひも

ぬれそはむ−そてをはいかか−ささはらや−しのひにとくる−よはのしたひも


07080
未入力 正徹 (xxx)

猶さりに見きとなかけそ思ひねの夢にもあらぬ袖の雫を

なほさりに−みきとなかけそ−おもひねの−ゆめにもあらぬ−そてのしつくを


07081
未入力 正徹 (xxx)

えそしらぬあふ夜も閨のかへに草あるをさはりの末のかねこと

えそしらぬ−あふよもねやの−かへにくさ−あるをさはりの−すゑのかねこと


07082
未入力 正徹 (xxx)

心せよかさぬる衣の音なひはやはらかなるもしるかりぬへし

こころせよ−かさぬるきぬの−おとなひは−やはらかなるも−しるかりぬへし


07083
未入力 正徹 (xxx)

たのむ日のくもる契をよるそへて月さへ雲にあへはあひぬる

たのむひの−くもるちきりを−よるそへて−つきさへくもに−あへはあひぬる


07084
未入力 正徹 (xxx)

結ひおく契を露ももらすなよ今夜忍の山の下草

むすひおく−ちきりをつゆも−もらすなよ−こよひしのふの−やまのしたくさ


07085
未入力 正徹 (xxx)

吹きならす風心なやたたくなと片戸あけ置くさ夜のつま戸を

ふきならす−かせこころなや−たたくなと−かたとあけおく−さよのつまとを


07086
未入力 正徹 (xxx)

あやにくに忘れんと思ふ心より出ててもり行くよよのおもかけ

あやにくに−わすれむとおもふ−こころより−いててもりゆく−よよのおもかけ


07087
未入力 正徹 (xxx)

袖のうへにおつともしらし中中におさへは人の涙とや見ん

そてのうへに−おつともしらし−なかなかに−おさへはひとの−なみたとやみむ


07088
未入力 正徹 (xxx)

朽ちてゆく袖にはかけしくろかみをつたふ涙のおちてみえすは

くちてゆく−そてにはかけし−くろかみを−つたふなみたの−おちてみえすは


07089
未入力 正徹 (xxx)

しほれけりさ夜の莚に今朝もねて猶や涙をしきやほさまし

しほれけり−さよのむしろに−けさもねて−なほやなみたを−しきやほさまし


07090
未入力 正徹 (xxx)

涙せく袂のふちに魚すまはあひてふ名をそ分きて憑まむ

なみたせく−たもとのふちに−うをすまは−あひてふなをそ−わきてたのまむ


07091
未入力 正徹 (xxx)

うかれ行く心そ袖にととまらぬ涙の玉はまきかくせとも

うかれゆく−こころそそてに−ととまらぬ−なみたのたまは−まきかくせとも


07092
未入力 正徹 (xxx)

せきかねぬ滝つ心の岩木にもあへす此比おつるなみたを

せきかねぬ−たきつこころの−いはきにも−あへすこのころ−おつるなみたを


07093
未入力 正徹 (xxx)

つつむともなにかは見えむもろともにみさをに過くる心まさりは

つつむとも−なにかはみえむ−もろともに−みさをにすくる−こころまさりは


07094
未入力 正徹 (xxx)

おさへおく袖の涙のもろ心なほいつかたにつつみかぬらむ

おさへおく−そてのなみたの−もろこころ−なほいつかたに−つつみかぬらむ


07095
未入力 正徹 (xxx)

まきの戸に立ちそふ袖のかやしるきしつまれる夜のすきまもる風

まきのとに−たちそふそての−かやしるき−しつまれるよの−すきまもるかせ


07096
未入力 正徹 (xxx)

つらき江をつつむ涙の玉かしはなつとしもなき袖そくちゆく

つらきえを−つつむなみたの−たまかしは−なつとしもなき−そてそくちゆく


07097
未入力 正徹 (xxx)

つつみきて朽つれはかふる袂にも人の涙の露はなかりき

つつみきて−くつれはかふる−たもとにも−ひとのなみたの−つゆはなかりき


07098
未入力 正徹 (xxx)

もれやせんさしも心にかけし身のことのはにほふ袖のうつりか

もれやせむ−さしもこころに−かけしみの−ことのはにほふ−そてのうつりか


07099
未入力 正徹 (xxx)

こゑたてつ心くみしる人あらはあやなし思ひ忘れ井の水

こゑたてつ−こころくみしる−ひとあらは−あやなしおもひ−わすれゐのみつ


07100
未入力 正徹 (xxx)

露やしる思ふあたりをことくさにうち忘れてもかけぬ日そなし

つゆやしる−おもふあたりを−ことくさに−うちわすれても−かけぬひそなし


07101
未入力 正徹 (xxx)

よる浪にいまそ見そめりさきの世も思ひしられてぬるる袖かな

よるなみに−いまそみそめり−さきのよも−おもひしられて−ぬるるそてかな


07102
未入力 正徹 (xxx)

しけみよりゐくひにすたつかほよ鳥あかす見なから□□□□□□□

しけみより−ゐくひにすたつ−かほよとり−あかすみなから−ххххххх


07103
未入力 正徹 (xxx)

うらなれぬ人のかさしを見るふさに初しほかかる秋の袖かな

うらなれぬ−ひとのかさしを−みるふさに−はつしほかかる−あきのそてかな


07104
未入力 正徹 (xxx)

ほのかなることの葉のつまもあふはかり契あれとそ先たのみつる

ほのかなる−ことのはのつまも−あふはかり−ちきりあれとそ−まつたのみつる


07105
未入力 正徹 (xxx)

あふせあれや春の氷と水からといまそ岩まに恋聞ゆらん

あふせあれや−はるのこほりと−みつからと−いまそいはまに−こひきこゆらむ


07106
未入力 正徹 (xxx)

契りあれやおもひをこめし初よりいまことのはのつまにかけぬる

ちきりあれや−おもひをこめし−はしめより−いまことのはの−つまにかけぬる


07107
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣中にあるまはせく涙いかに染めてか色まさるらむ

さよころも−なかにあるまは−せくなみた−いかにそめてか−いろまさるらむ


07108
未入力 正徹 (xxx)

よをかさねいととなけきをそへそおくちかまさりせし浦のしほかま

よをかさね−いととなけきを−そへそおく−ちかまさりせし−うらのしほかま


07109
未入力 正徹 (xxx)

立ちかへり又関すゆるあふ坂はこえてそたかき山の岩かと

たちかへり−またせきすゆる−あふさかは−こえてそたかき−やまのいはかと


07110
未入力 正徹 (xxx)

別路につれなかりしそ思ひしるのちのなさけにたへぬ命を

わかれちに−つれなかりしそ−おもひしる−のちのなさけに−たへぬいのちを


07111
未入力 正徹 (xxx)

こよひ又露もなみたも袖に入る玉さかならぬ契ともかな

こよひまた−つゆもなみたも−そてにいる−たまさかならぬ−ちきりともかな


07112
未入力 正徹 (xxx)

いつそやも末ののこりしむつことを思ひ出てねはむすはほれつつ

いつそやも−すゑののこりし−むつことを−おもひいてねは−むすはほれつつ


07113
未入力 正徹 (xxx)

いつか又かくは待ちみんおもひやるさかひはるかにめくる月日を

いつかまた−かくはまちみむ−おもひやる−さかひはるかに−めくるつきひを


07114
未入力 正徹 (xxx)

よひよひにわひてうちぬる玉さかにあひ見る夢そわくかたもなし

よひよひに−わひてうちぬる−たまさかに−あひみるゆめそ−わくかたもなし


07115
未入力 正徹 (xxx)

伊せのあまのなきさにひろふ玉さかに袖も塩干と今夜成りねる

いせのあまの−なきさにひろふ−たまさかに−そてもしほひと−こよひなりねる


07116
未入力 正徹 (xxx)

かたれとも去年の此比あひ見てし夜をさたかにも人は覚えす

かたれとも−こそのこのころ−あひみてし−よをさたかにも−ひとはおほえす


07117
未入力 正徹 (xxx)

いそのかみふるき契をたとるまて人の心のおくの中道

いそのかみ−ふるきちきりを−たとるまて−ひとのこころの−おくのなかみち


07118
未入力 正徹 (xxx)

過きこしも年の三とせの新枕あらはあふよをかくやへたてん

すきこしも−としのみとせの−にひまくら−あらはあふよを−かくやへたてむ


07119
未入力 正徹 (xxx)

いまも猶さめてとは見すくらき夜もおなしつらさの遠き夢ちそ

いまもなほ−さめてとはみす−くらきよも−おなしつらさの−とほきゆめちそ


07120
未入力 正徹 (xxx)

契りしも思はすふるきかねことと成りにし中そ今夜うらむる

ちきりしも−おもはすふるき−かねことと−なりにしなかそ−こよひうらむる


07121
未入力 正徹 (xxx)

契のみうす花そめのさ夜衣又もかさねん春そはるけき

ちきりのみ−うすはなそめの−さよころも−またもかさねむ−はるそはるけき


07122
未入力 正徹 (xxx)

たのめしはむかしの秋といふはかり成りてあふ夜の明くるみしかさ

たのめしは−むかしのあきと−いふはかり−なりてあふよの−あくるみしかさ


07123
未入力 正徹 (xxx)

月もうしわかるる比の有明にまち見る夢を残す面影

つきもうし−わかるるころの−ありあけに−まちみるゆめを−のこすおもかけ


07124
未入力 正徹 (xxx)

よのつねの別の鳥にさ夜衣かはす契のあさ烏なく

よのつねの−わかれのとりに−さよころも−かはすちきりの−あさからすなく


07125
未入力 正徹 (xxx)

鳥啼きてのちにあふよの別路を夕のかねになさはうらめし

とりなきて−のちにあふよの−わかれちを−ゆふへのかねに−なさはうらめし


07126
未入力 正徹 (xxx)

人そとふ夢ならすはと思ひねのうつつにまさるさ夜の手枕

ひとそとふ−ゆめならすはと−おもひねの−うつつにまさる−さよのたまくら


07127
未入力 正徹 (xxx)

身にかはる夢なりけりな逢ふ人のうつつにもにぬ心よわさは

みにかはる−ゆめなりけりな−あふひとの−うつつにもにぬ−こころよわさは


07128
未入力 正徹 (xxx)

あふと見る夢もうつつもえそわかぬ恋ひよわる身をさらはなけかし

あふとみる−ゆめもうつつも−えそわかぬ−こひよわるみを−さらはなけかし


07129
未入力 正徹 (xxx)

おもひせぬあふ夜の夢の中に有る衣は床にかへしてそねし

おもひせぬ−あふよのゆめの−なかにある−ころもはとこに−かへしてそねし


07130
未入力 正徹 (xxx)

夜をかさね枕によりし浪なれやあひそめ川の夢のわたりは

よをかさね−まくらによりし−なみなれや−あひそめかはの−ゆめのわたりは


07131
未入力 正徹 (xxx)

人も又いかにねし夜のゆくへにて覚めさらましの夢に見えけん

ひともまた−いかにねしよの−ゆくへにて−さめさらましの−ゆめにみえけむ


07132
未入力 正徹 (xxx)

夢のうちにかけつる橋の板枕ならへし川そ袖にみなきる

ゆめのうちに−かけつるはしの−いたまくら−ならへしかはそ−そてにみなきる


07133
未入力 正徹 (xxx)

夜な夜なの夢にまきれぬつらさかな返してねつる衣衣の空

よなよなの−ゆめにまきれぬ−つらさかな−かへしてねつる−きぬきぬのそら


07134
未入力 正徹 (xxx)

わかるてふ名をたにきかぬ暁のなき世にあひて相見まくほし

わかるてふ−なをたにきかぬ−あかつきの−なきよにあひて−あひみまくほし


07135
未入力 正徹 (xxx)

かたみこそ行くもとまるも在明の袖のわかれに分くる月かけ

かたみこそ−ゆくもとまるも−ありあけの−そてのわかれに−わくるつきかけ


07136
未入力 正徹 (xxx)

あくる夜の袖の別の庭に出ててもすそぬれそふ道芝の露

あくるよの−そてのわかれの−にはにいてて−もすそぬれそふ−みちしはのつゆ


07137
未入力 正徹 (xxx)

衣衣のふかかりし夜のつらさかなむなしき床に帰りぬるまて

きぬきぬの−ふかかりしよの−つらさかな−むなしきとこに−かへりぬるまて


07138
未入力 正徹 (xxx)

二たひの名残もかなしおき出てて別ると見しは夢に別れて

ふたたひの−なこりもかなし−おきいてて−わかるとみしは−ゆめにわかれて


07139
未入力 正徹 (xxx)

紅に涙そおつるくろかみのなかき別のきぬきぬのそて

くれなゐに−なみたそおつる−くろかみの−なかきわかれの−きぬきぬのそて


07140
未入力 正徹 (xxx)

別れよといつへきかたの槙の戸を夜ふかくならす媒もうし

わかれよと−いつへきかたの−まきのとを−よふかくならす−なかたちもうし


07141
未入力 正徹 (xxx)

したふそよ稀なる宿の契のみみしかき軒にあまる月影

したふそよ−まれなるやとの−ちきりのみ−みしかきのきに−あまるつきかけ


07142
未入力 正徹 (xxx)

まてしはしかはかりくらき夜のほとをみよとて明くる槙の戸口そ

まてしはし−かはかりくらき−よのほとを−みよとてあくる−まきのとくちそ


07143
未入力 正徹 (xxx)

ささわくるもすそをいたみ先消えて哀すすむる衣衣の露

ささわくる−もすそをいたみ−まつきえて−あはれすすむる−きぬきぬのつゆ


07144
未入力 正徹 (xxx)

しはしまて月の入るさのやますなく鳥も別をいそく横雲

しはしまて−つきのいるさの−やますなく−とりもわかれを−いそくよこくも


07145
未入力 正徹 (xxx)

恨みすや今夜はかりと別路のあととちめつる槙の戸の月

うらみすや−こよひはかりと−わかれちの−あととちめつる−まきのとのつき


07146
未入力 正徹 (xxx)

あかさりしうき身にしめと朝鳥のおくるは風も袖の別ち

あかさりし−うきみにしめと−あさとりの−おくるはかせも−そてのわかれち


07147
未入力 正徹 (xxx)

我もさそ月も別れてゆく雲をぬきおく衣とたれかしたはん

われもさそ−つきもわかれて−ゆくくもを−ぬきおくきぬと−たれかしたはむ


07148
未入力 正徹 (xxx)

しののめの道のへ遠く行きつれて衣衣よりもうき別かな

しののめの−みちのへとほく−ゆきつれて−きぬきぬよりも−うきわかれかな


07149
未入力 正徹 (xxx)

行末をたのむ契のかはらすはよし一たひの衣衣の空

ゆくすゑを−たのむちきりの−かはらすは−よしひとたひの−きぬきぬのそら


07150
未入力 正徹 (xxx)

身にかへてさらぬ別といふほとはあかぬ此世の明くれのみち

みにかへて−さらぬわかれと−いふほとは−あかぬこのよの−あけくれのみち


07151
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣ならへもあへぬ衣衣に明けぬうつつの夢路をそ行く

さよころも−ならへもあへぬ−きぬきぬに−あけぬうつつの−ゆめちをそゆく


07152
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の袖のうら浪早手川かへるもすそもぬるるしほかせ

きぬきぬの−そてのうらなみ−はやてかは−かへるもすそも−ぬるるしほかせ


07153
未入力 正徹 (xxx)

いつはりの有る世をしらぬ心とや人にも身にも今夜みえまし

いつはりの−あるよをしらぬ−こころとや−ひとにもみにも−こよひみえまし


07154
未入力 正徹 (xxx)

ことのはをまつにかけつる露落ちて色そふ袖にふくる秋風

ことのはを−まつにかけつる−つゆおちて−いろそふそてに−ふくるあきかせ


07155
未入力 正徹 (xxx)

契りしももし思ひねの夢ならはまつ夜明けぬとたれにうらみん

ちきりしも−もしおもひねの−ゆめならは−まつよあけぬと−たれにうらみむ


07156
未入力 正徹 (xxx)

おくことの此ねかはらすあひ見んといひしはしるや宿の松かせ

おくことの−このねかはらす−あひみむと−いひしはしるや−やとのまつかせ


07157
未入力 正徹 (xxx)

まつ人もたのめすつるにあらさりし夕のかねをさたかにそきく

まつひとも−たのめすつるに−あらさりし−ゆふへのかねを−さたかにそきく


07158
未入力 正徹 (xxx)

立ちいつる庭の秋風おと深けてたのむ夜うすくくもる月影

たちいつる−にはのあきかせ−おとふけて−たのむようすく−くもるつきかけ


07159
未入力 正徹 (xxx)

秋かけていひしことのは猶たのむ草葉もおもる露の衣手

あきかけて−いひしことのは−なほたのむ−くさはもおもる−つゆのころもて


07160
未入力 正徹 (xxx)

夕暮をまつのことのはちらさねはさはらし宿のむくらふのかせ

ゆふくれを−まつのことのは−ちらさねは−さはらしやとの−むくらふのかせ


07161
未入力 正徹 (xxx)

あはぬより深けゆく袖に先こえぬ契りて今夜まつの山なみ

あはぬより−ふけゆくそてに−まつこえぬ−ちきりてこよひ−まつのやまなみ


07162
未入力 正徹 (xxx)

たのむ夜を契りし末のまつほとは浪こえぬとも見えぬ袖かな

たのむよを−ちきりしすゑの−まつほとは−なみこえぬとも−みえぬそてかな


07163
未入力 正徹 (xxx)

衣衣はたたかりそめそもろともにさらぬ別の道におくれし

きぬきぬは−たたかりそめそ−もろともに−さらぬわかれの−みちにおくれし


07164
未入力 正徹 (xxx)

なほふかき契を松の二本に枝をならへて色もかはらし

なほふかき−ちきりをまつの−ふたもとに−えたをならへて−いろもかはらし


07165
未入力 正徹 (xxx)

をささはらかれしや遠きいその上ふるき枕もくちぬ契に

をささはら−かれしやとほき−いそのかみ−ふるきまくらも−くちぬちきりに


07166
未入力 正徹 (xxx)

先の世もかくや契ほあさちふの露きえかはる身とそしらるる

さきのよも−かくやちきりは−あさちふの−つゆきえかはる−みとそしらるる


07167
未入力 正徹 (xxx)

契をは初もとゆひに結ひきてかはらぬ中の霜にふりぬる

ちきりをは−はつもとゆひに−むすひきて−かはらぬなかの−しもにふりぬる


07168
未入力 正徹 (xxx)

前の世も契をくちぬあらかねにかけてや土と身は成りにけん

さきのよも−ちきりをくちぬ−あらかねに−かけてやつちと−みはなりにけむ


07169
未入力 正徹 (xxx)

我も又わすれす人もよもきふのもとの契のかれぬ春かな

われもまた−わすれすひとも−よもきふの−もとのちきりの−かれぬはるかな


07170
未入力 正徹 (xxx)

ととまらしたたさはかりのことのはにかかる命の露の玉ゆら

ととまらし−たたさはかりの−ことのはに−かかるいのちの−つゆのたまゆら


07171
未入力 正徹 (xxx)

よそにしてしられすしらす成りそせむかはる心のもとの契は

よそにして−しられすしらす−なりそせむ−かはるこころの−もとのちきりは


07172
未入力 正徹 (xxx)

うつりなむたのめし道の朝くもりいまそ夕の衣衣の空

うつりなむ−たのめしみちの−あさくもり−いまそゆふへの−きぬきぬのそら


07173
未入力 正徹 (xxx)

契れ猶かりそめならぬ宿もみつきゆとも草の原の下露

ちきれなほ−かりそめならぬ−やともみつ−きゆともくさの−はらのしたつゆ


07174
未入力 正徹 (xxx)

いまよりはくへき宿そとたのめおく中にたえすはささかにの糸

いまよりは−くへきやとそと−たのめおく−なかにたえすは−ささかにのいと


07175
未入力 正徹 (xxx)

契りしもたかふしのまにかはるらむはるけき里の道のささ原

ちきりしも−たかふしのまに−かはるらむ−はるけきさとの−みちのささはら


07176
未入力 正徹 (xxx)

三わの山やみのうつつもしるしあるためしに又や賎のをたまき

みわのやま−やみのうつつも−しるしある−ためしにまたや−しつのをたまき


07177
未入力 正徹 (xxx)

露かともいまそとはるる貴舟川□□□□□□□□□□□□□□

つゆかとも−いまそとはるる−きふねかは−ххххххх−ххххххх


07178
未入力 正徹 (xxx)

初瀬山我か夕暮の鐘つひにしるしもつらき衣衣の声

はつせやま−わかゆふくれの−かねつひに−しるしもつらき−きぬきぬのこゑ


07179
未入力 正徹 (xxx)

二本とたのみし三わの杉枕こよひならふるしるしをそみる

ふたもとと−たのみしみわの−すきまくら−こよひならふる−しるしをそみる


07180
未入力 正徹 (xxx)

ゆふかけし神のしるしの帯ならはしたとけ初むる末やたのまん

ゆふかけし−かみのしるしの−おひならは−したとけそむる−すゑやたのまむ


07181
未入力 正徹 (xxx)

祈りこしもとのしるしを三わの山こよひあや杉にかよふ神風

いのりこし−もとのしるしを−みわのやま−こよひあやすきに−かよふかみかせ


07182
未入力 正徹 (xxx)

今そしる神のいさむる道ならぬ世世の契のふかきまことを

いまそしる−かみのいさむる−みちならぬ−よよのちきりの−ふかきまことを


07183
未入力 正徹 (xxx)

つれなくて契ありせは我かいのちしはし此世に神やのはへん

つれなくて−ちきりありせは−わかいのち−しはしこのよに−かみやのはへむ


07184
未入力 正徹 (xxx)

立ちかへりわか身を思ふ心たにそはぬを神に光やいのらむ

たちかへり−わかみをおもふ−こころたに−そはぬをかみに−まつやいのらむ


07185
未入力 正徹 (xxx)

あふことの我かためならぬ恋あらは身を忘れてや猶祈見ん

あふことの−わかためならぬ−こひあらは−みをわすれてや−なほいのりみむ


07186
未入力 正徹 (xxx)

ふる川の杉のゆふしてしるしみむいつ二本のならふ契そ

ふるかはの−すきのゆふして−しるしみむ−いつふたもとの−ならふちきりそ


07187
未入力 正徹 (xxx)

うけすはと祈りすててもいまさらにいつれの神をかへてたのまん

うけすはと−いのりすてても−いまさらに−いつれのかみを−かへてたのまむ


07188
未入力 正徹 (xxx)

神そうき恋にしなとの風たにもふかぬみそきはしてもなひかす

かみそうき−こひにしなとの−かせたにも−ふかぬみそきは−してもなひかす


07189
未入力 正徹 (xxx)

憑みきぬいかきのくす葉かへるとも身をはうらみし神の秋風

たのみきぬ−いかきのくすは−かへるとも−みをはうらみし−かみのあきかせ


07190
未入力 正徹 (xxx)

ふしのねやむなし煙の末つひに神の名たてに成りやはてまし

ふしのねや−むなしけふりの−すゑつひに−かみのなたてに−なりやはてまし


07191
未入力 正徹 (xxx)

憑みこし神もしるしのなき名をはいかかこたへん貴舟川なみ

たのみこし−かみもしるしの−なきなをは−いかかこたへむ−きふねかはなみ


07192
未入力 正徹 (xxx)

祈りこし契も中をへたつとや杉のはとつる布留の川霧

いのりこし−ちきりもなかを−へたつとや−すきのはとつる−ふるのかはきり


07193
未入力 正徹 (xxx)

なひくとはきかぬそたのみかけおくもむなしきしめのよその引く手に

なひくとは−きかぬそたのみ−かけおくも−むなしきしめの−よそのひくてに


07194
未入力 正徹 (xxx)

年月のむなしみそきはかなふともなにせん老のなみのあふせは

としつきの−むなしみそきは−かなふとも−なにせむおいの−なみのあふせは


07195
未入力 正徹 (xxx)

ねきことをあつらへつけし宮人も老いてしるしのみえぬ中かな

ねきことを−あつらへつけし−みやひとも−おいてしるしの−みえぬなかかな


07196
未入力 正徹 (xxx)

玉つしまあふく袂にいまもひけくへきよひしるささかにの糸

たまつしま−あふくたもとに−いまもひけ−くへきよひしる−ささかにのいと


07197
未入力 正徹 (xxx)

朝しほをたのめは後のうら風に吹きなむかひそわたる舟人

あさしほを−たのめはのちの−うらかせに−ふきなむかひそ−わたるふなひと


07198
未入力 正徹 (xxx)

さまさまにたのめおきてし一言もあはぬ心のうらそまさしき

さまさまに−たのめおきてし−ひとことも−あはぬこころの−うらそまさしき


07199
未入力 正徹 (xxx)

あさしともたれかは空にくみしらんちかひの海のふかき契を

あさしとも−たれかはそらに−くみしらむ−ちかひのうみの−ふかきちきりを


07200
未入力 正徹 (xxx)

身をしれは袖ぬれつつもふかき江とちかひしかみの見るめをそかる

みをしれは−そてぬれつつも−ふかきえと−ちかひしかみの−みるめをそかる


07201
未入力 正徹 (xxx)

もしほ火も我かすむかたに立つ煙人をあし屋の里になひくな

もしほひも−わかすむかたに−たつけふり−ひとをあしやの−さとになひくな


07202
未入力 正徹 (xxx)

たち帰りうらみにひまもありぬへしさのみうき身のとかになさすは

たちかへり−うらみにひまも−ありぬへし−さのみうきみの−とかになさすは


07203
未入力 正徹 (xxx)

秋萩のうつろひそめし下はよりひとりそもろき露も涙も

あきはきの−うつろひそめし−したはより−ひとりそもろき−つゆもなみたも


07204
未入力 正徹 (xxx)

よもきふや我か身のうさをもととして末葉の露そ雨にまされる

よもきふや−わかみのうさを−もととして−すゑはのつゆそ−あめにまされる


07205
未入力 正徹 (xxx)

世のうさも人のつらさも身のほかにあらはそさらに思ひわかまし

よのうさも−ひとのつらさも−みのほかに−あらはそさらに−おもひわかまし


07206
未入力 正徹 (xxx)

わすらるる身をうらしまによる浪のかへりて消えしあとの白あわ

わすらるる−みをうらしまに−よるなみの−かへりてきえし−あとのしらあわ


07207
未入力 正徹 (xxx)

忘らるる身を浦島の玉くしけむなしくあけし契のみかは

わすらるる−みをうらしまの−たまくしけ−むなしくあけし−ちきりのみかは


07208
未入力 正徹 (xxx)

をののえの朽ちし契の跡もなし身をうら島か此世なからに

をののえの−くちしちきりの−あともなし−みをうらしまか−このよなからに


07209
未入力 正徹 (xxx)

いつよりのあまのしわさそ袖のなみ身をうら風も衣にそ吹く

いつよりの−あまのしわさそ−そてのなみ−みをうらかせも−ころもにそふく


07210
未入力 正徹 (xxx)

秋風に吹きかへされし下帯のうらはのままにかるる中かな

あきかせに−ふきかへされし−したおひの−うらはのままに−かるるなかかな


07211
未入力 正徹 (xxx)

すゑとほる恨もふりてこよひこし跡こそみえね道芝の霜

すゑとほる−うらみもふりて−こよひこし−あとこそみえね−みちしはのしも


07212
未入力 正徹 (xxx)

契りしはうきたる雲の山風にあとなき嶺の松そつれなき

ちきりしは−うきたるくもの−やまかせに−あとなきみねの−まつそつれなき


07213
未入力 正徹 (xxx)

露霜にかかりしまくすねをたえて秋のうらはの色たにもなし

つゆしもに−かかりしまくす−ねをたえて−あきのうらはの−いろたにもなし


07214
未入力 正徹 (xxx)

ことのはにうらみし秋もむかしにて下はふ草そねさへかれ行く

ことのはに−うらみしあきも−むかしにて−したはふくさそ−ねさへかれゆく


07215
未入力 正徹 (xxx)

かよひこし跡なき宿の道芝にかれす葛はや生ひかはるらん

かよひこし−あとなきやとの−みちしはに−かれすくすはや−おひかはるらむ


07216
未入力 正徹 (xxx)

さのみ身をうらわけ衣しほかせにほさぬま袖に波のかくらん

さのみみを−うらわけころも−しほかせに−ほさぬまそてに−なみのかくらむ


07217
未入力 正徹 (xxx)

あさき江の秋にかれ行くあしへよりみちくるしほそうらをふかむる

あさきえの−あきにかれゆく−あしへより−みちくるしほそ−うらをふかむる


07218
未入力 正徹 (xxx)

いかか見るきのふにかはることくさの末はの露のおもき恨を

いかかみる−きのふにかはる−ことくさの−すゑはのつゆの−おもきうらみを


07219
未入力 正徹 (xxx)

おもひ草ことのはことにさもあらぬ色にかれゆく露もうらめし

おもひくさ−ことのはことに−さもあらぬ−いろにかれゆく−つゆもうらめし


07220
未入力 正徹 (xxx)

たえねたた袖の涙の玉たすきかくるもつらし思ふことのは

たえねたた−そてのなみたの−たまたすき−かくるもつらし−おもふことのは


07221
未入力 正徹 (xxx)

もしほ火のくゆる煙もかひそなき吹きなひかさぬうら風にして

もしほひの−くゆるけふりも−かひそなき−ふきなひかさぬ−うらかせにして


07222
未入力 正徹 (xxx)

おもひかねかへす衣のうらみまて見ぬ世の夢も遠き中かな

おもひかね−かへすころもの−うらみまて−みぬよのゆめも−とほきなかかな


07223
未入力 正徹 (xxx)

いつかたか恨まさるとくらへ見よくすの二本秋かせそふく

いつかたか−うらみまさると−くらへみよ−くすのふたもと−あきかせそふく


07224
未入力 正徹 (xxx)

まつらかた世をうら風にむかふまのなくはそいてん秋の舟人

まつらかた−よをうらかせに−むかふまの−なくはそいてむ−あきのふなひと


07225
未入力 正徹 (xxx)

色かへぬ松のことのはつれなくはかかるもかれね葛の浦風

いろかへぬ−まつのことのは−つれなくは−かかるもかれね−くすのうらかせ


07226
未入力 正徹 (xxx)

夢もみしうき人つての一言にやみのうつつはねてあかせとも

ゆめもみし−うきひとつての−ひとことに−やみのうつつは−ねてあかせとも


07227
未入力 正徹 (xxx)

風つたふ末のの葛よ萩かえにうきもとあらのあらきことのは

かせつたふ−すゑののくすよ−はきかえに−うきもとあらの−あらきことのは


07228
未入力 正徹 (xxx)

おともせし契なき名と今朝いふもよのつね人のためしある世は

おともせし−ちきりなきなと−けさいふも−よのつねひとの−ためしあるよは


07229
未入力 正徹 (xxx)

けふのみの花の陰ともちきらてや立つことやすき名をなけくらん

けふのみの−はなのかけとも−ちきらてや−たつことやすき−なをなけくらむ


07230
未入力 正徹 (xxx)

春過きて心の花のなき名たに夕雲かかる峰のさくらを

はるすきて−こころのはなの−なきなたに−ゆふくもかかる−みねのさくらを


07231
未入力 正徹 (xxx)

聞くそうき玉えの鳥の立つ空もなきにはあらぬ芦の下風

きくそうき−たまえのとりの−たつそらも−なきにはあらぬ−あしのしたかせ


07232
未入力 正徹 (xxx)

しかりとておよはぬ雲にのほるかはうき名を空にたつの市人

しかりとて−およはぬくもに−のはるかは−うきなをそらに−たつのいちひと


07233
未入力 正徹 (xxx)

身はこりぬうき名をたつの市柴をたくや煙の色もまかはて

みはこりぬ−うきなをたつの−いちしはを−たくやけふりの−いろもまかはて


07234
未入力 正徹 (xxx)

恋ならぬ道をまなふにかはかりの我か名きこえはなにかうからん

こひならぬ−みちをまなふに−かはかりの−わかなきこえは−なにかうからむ


07235
未入力 正徹 (xxx)

かくれすようき名もたつの市の日に雲にのほるを人のみるまて

かくれすよ−うきなもたつの−いちのひに−くもにのほるを−ひとのみるまて


07236
未入力 正徹 (xxx)

めにかかる雲のなみまにいつ生ひて立つなのりそのかくれなからむ

めにかかる−くものなみまに−いつおひて−たつなのりその−かくれなからむ


07237
未入力 正徹 (xxx)

ちりならぬ我か名はまたきたち水のなかれての世を床にせかすは

ちりならぬ−わかなはまたき−たちみつの−なかれてのよを−とこにせかすは


07238
未入力 正徹 (xxx)

ととまらしはやくうき名は立水のなかれての世を末にせくとも

ととまらし−はやくうきなは−たちみつの−なかれてのよを−すゑにせくとも


07239
未入力 正徹 (xxx)

さもあらはあれ□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

さもあらはあれ−хххххххх−ххххх−ххххххх−хххххх


07240
未入力 正徹 (xxx)

はま千鳥いつかおりゐし跡かたもみえぬま砂をたつる塩かせ

はまちとり−いつかおりゐし−あとかたも−みえぬまさこを−たつるしほかせ


07241
未入力 正徹 (xxx)

ひきかくす衣のむねもあはぬまにもれいてて名の立つ煙かな

ひきかくす−ころものむねも−あはぬまに−もれいててなの−たつけふりかな


07242
未入力 正徹 (xxx)

晴れかたき心も空にきえねとや跡なし雲にあらしふくらん

はれかたき−こころもそらに−きえねとや−あとなしくもに−あらしふくらむ


07243
未入力 正徹 (xxx)

みたれわひぬうき名をたつの市柴や恋のつかねをたゆる契に

みたれわひぬ−うきなをたつの−いちしはや−こひのつかねを−たゆるちきりに


07244
未入力 正徹 (xxx)

よりきつる我か名のりそのもくつまて磯かくれなくあらふ浪かな

よりきつる−わかなのりその−もくつまて−いそかくれなく−あらふなみかな


07245
未入力 正徹 (xxx)

あけぬまに我か身は雲に立ち出てぬはらはしちりのなれる山風

あけぬまに−わかみはくもに−たちいてぬ−はらはしちりの−なれるやまかせ


07246
未入力 正徹 (xxx)

たつぬなよあまの子なれはやともとはいはぬにしほをたるる袖かな

たつぬなよ−あまのこなれは−やともとは−いはぬにしほを−たるるそてかな


07247
未入力 正徹 (xxx)

草の原とふへき主やたれそとも三重の扇にかすむ月かけ

くさのはら−とふへきぬしや−たれそとも−みへのあふきに−かすむつきかけ


07248
未入力 正徹 (xxx)

たつぬともあまの子なれは宿もりて磯かくれなん名のりそもうし

たつぬとも−あまのこなれは−やともりて−いそかくれなむ−なのりそもうし


07249
未入力 正徹 (xxx)

とはやなこよひの宿の松風も吹きつたふへき末のしるへを

とははやな−こよひのやとの−まつかせも−ふきつたふへき−すゑのしるへを


07250
未入力 正徹 (xxx)

海山をおほくこえきて道もあらし人の心のおくのあよみは

うみやまを−おほくこえきて−みちもあらし−ひとのこころの−おくのあよみは


07251
未入力 正徹 (xxx)

ぬれそ行くとへはあさちか末の露散りてこたふる袖の秋かせ

ぬれそゆく−とへはあさちか−すゑのつゆ−ちりてこたふる−そてのあきかせ


07252
未入力 正徹 (xxx)

宿とはて帰らは思ひ消えぬへし月に舟さす川かみの雲

やととはて−かへらはおもひ−きえぬへし−つきにふねさす−かはかみのくも


07253
未入力 正徹 (xxx)

あけまきもゆく末はしらす法の師の道ひくならぬをのの山陰

あけまきも−ゆくへはしらす−のりのしの−みちひくならぬ−をののやまかけ


07254
未入力 正徹 (xxx)

忘貝かひあるきしによりきてもつらき草はの住吉の里

わすれかひ−かひあるきしに−よりきても−つらきくさはの−すみよしのさと


07255
未入力 正徹 (xxx)

あまを舟ちかきつなてをとり見はやこなたの江にもひかれよるかに

あまをふね−ちかきつなてを−とりみはや−こなたのえにも−ひかれよるかに


07256
未入力 正徹 (xxx)

くり返し猶そ憑まむうりつるの末のたよりとなりもならすも

くりかへし−なほそたのまむ−うりつるの−すゑのたよりと−なりもならすも


07257
未入力 正徹 (xxx)

水上にいさ白淡をよるへとてつたへとふともなかれとほくは

みなかみに−いさしらあわを−よるへとて−つたへとふとも−なかれとほくは


07258
未入力 正徹 (xxx)

きえね露衣衣なりしむかしたにうき道芝の在明のかけ

きえねつゆ−きぬきぬなりし−むかしたに−うきみちしはの−ありあけのかけ


07259
未入力 正徹 (xxx)

露そもる新手沈のすきまたに猶ならはしの袖せはくして

つゆそもる−にひたまくらの−すきまたに−なほならはしの−そてせはくして


07260
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣わか身ひとつの露分けし袖にわかれぬしののめの月

さよころも−わかみひとつの−つゆわけし−そてにわかれぬ−しののめのつき


07261
未入力 正徹 (xxx)

こぬ宿の軒はに立ちて松とたにみすなよさらはくらき朝霧

こぬやとの−のきはにたちて−まつとたに−みすなよさらは−くらきあさきり


07262
未入力 正徹 (xxx)

とはぬ夜のあくれはむねにせきとちて心の道そいととはるけき

とはぬよの−あくれはむねに−せきとちて−こころのみちそ−いととはるけき


07263
未入力 正徹 (xxx)

ほかなしと松も見るらん槙の戸にむかひの山も峰そ明行く

ほかなしと−まつもみるらむ−まきのとに−むかひのやまも−みねそあけゆく


07264
未入力 正徹 (xxx)

まてはこてうらみんとおもふあけほのの空もむなしき雲そたえ行く

まてはこて−うらみむとおもふ−あけほのの−そらもむなしき−くもそたえゆく


07265
未入力 正徹 (xxx)

あた浪にたのめつるかな岩木山こえてこぬみのはまかせもうし

あたなみに−たのめつるかな−いはきやま−こえてこぬみの−はまかせもうし


07266
未入力 正徹 (xxx)

たのむ夜のあくる袂におもりきぬかねことのはの末の白露

たのむよの−あくるたもとに−おもりきぬ−かねことのはの−すゑのしらつゆ


07267
未入力 正徹 (xxx)

月まちてまつ夜と人に見せもせすぬれともつらき鳥の声かな

つきまちて−まつよとひとに−みせもせす−ぬれともつらき−とりのこゑかな


07268
未入力 正徹 (xxx)

まてはうしまたしとおもふ心をも忘れんとすれはたたに恋しき

まてはうし−またしとおもふ−こころをも−わすれむとすれは−たたにこひしき


07269
未入力 正徹 (xxx)

露はらふ衣衣よりも立ちあかす身はひややかにあくる秋かせ

つゆはらふ−きぬきぬよりも−たちあかす−みはひややかに−あくるあきかせ


07270
未入力 正徹 (xxx)

友に見てたのめし夜はをあきらかにしるへき月もこととはすして

ともにみて−たのめしよはを−あきらかに−しるへきつきも−こととはすして


07271
未入力 正徹 (xxx)

契りしをまつはよそにてむなし夜のあけの衣となる涙かな

ちきりしを−まつはよそにて−むなしよの−あけのころもと−なるなみたかな


07272
未入力 正徹 (xxx)

こぬ人をまつとせしまの松の陰おなしときはの里はあれにき

こぬひとを−まつとせしまの−まつのかけ−おなしときはの−さとはあれにき


07273
未入力 正徹 (xxx)

ありふへき末の命をなきになして一夜にかきるあふ事もかな

ありふへき−すゑのいのちを−なきになして−ひとよにかきる−あふこともかな


07274
未入力 正徹 (xxx)

床中も恋はみちぬる閨を出ててたたすめは身をしほる松かせ

とこなかも−こひはみちぬる−ねやをいてて−たたすめはみを−しほるまつかせ


07275
未入力 正徹 (xxx)

しみふかく人のとめてし枕かをこかるるむねにおきあかしつつ

しみふかく−ひとのとめてし−まくらかを−こかるるむねに−おきあかしつつ


07276
未入力 正徹 (xxx)

露きえぬ契あさちはなにかせん命かけてし夕暮の宿

つゆきえぬ−ちきりあさちは−なにかせむ−いのちかけてし−ゆふくれのやと


07277
未入力 正徹 (xxx)

人やもし袖ふれけんと下紐をそなたの風にむかひてそとく

ひとやもし−そてふれけむと−したひもを−そなたのかせに−むかひてそとく


07278
未入力 正徹 (xxx)

身にとまる匂もちかき面影にこよひはひとりぬるとしもなし

みにとまる−にほひもちかき−おもかけに−こよひはひとり−ぬるとしもなし


07279
未入力 正徹 (xxx)

かよひこしふる野のをささいつの世に結ひし露の袖に朽つらん

かよひこし−ふるののをささ−いつのよに−むすひしつゆの−そてにくつらむ


07280
未入力 正徹 (xxx)

とはれつるむかしの夢のたたちたに見えこし人やふみたかへけん

とはれつる−むかしのゆめの−たたちたに−みえこしひとや−ふみたかへけむ


07281
未入力 正徹 (xxx)

まつそうき空ゆくかせの引きすてし雲の糸すちたえん契を

まつそうき−そらゆくかせの−ひきすてし−くものいとすち−たえむちきりを


07282
未入力 正徹 (xxx)

ことしけくかよひし文の墨つきもかるる契の後そ見まうき

ことしけく−かよひしふみの−すみつきも−かるるちきりの−のちそみまうき


07283
未入力 正徹 (xxx)

わたりしは夢のうき橋末たえぬもとより川もなき床の上

わたりしは−ゆめのうきはし−すゑたえぬ−もとよりかはも−なきとこのうへ


07284
未入力 正徹 (xxx)

わすれ貝ひろひ初めてやうら人の我かなのりそをかつたとるらん

わすれかひ−ひろひそめてや−うらひとの−わかなのりそを−かつたとるらむ


07285
未入力 正徹 (xxx)

はかなしとおもひ捨つるをたよりにてしたふかとほき夢の面影

はかなしと−おもひすてつるを−たよりにて−したふかとほき−ゆめのおもかけ


07286
未入力 正徹 (xxx)

さもこそは隙はなくとも思ひなきもとの心をなとわするらん

さもこそは−ひまはなくとも−おもひなき−もとのこころを−なとわするらむ


07287
未入力 正徹 (xxx)

わすれ水此身のならむ野へまては思ひけたれぬ煙とやしる

わすれみつ−このみのならむ−のへまては−おもひけたれぬ−けふりとやしる


07288
未入力 正徹 (xxx)

あやにくに忘れんとすれとわさととふ人やりならぬさよのおもかけ

あやにくに−わすれむとすれと−わさととふ−ひとやりならぬ−さよのおもかけ


07289
未入力 正徹 (xxx)

ふしておもひおきつの浜の松はこて在明の月に残る面影

ふしておもひ−おきつのはまの−まつはこて−ありあけのつきに−のこるおもかけ


07290
未入力 正徹 (xxx)

かくはかりわするる心やす川の水や野中に草かくるらむ

かくはかり−わするるこころ−やすかはの−みつやのなかに−くさかくるらむ


07291
未入力 正徹 (xxx)

契りしは昨日の花の山あらしわすれかたみの雲もかからて

ちきりしは−きのふのはなの−やまあらし−わすれかたみの−くももかからて


07292
未入力 正徹 (xxx)

うき雲のさはるをつくる月影に又ふりいつる袖のむら雨

うきくもの−さはるをつくる−つきかけに−またふりいつる−そてのむらさめ


07293
未入力 正徹 (xxx)

うちいててさもかたかりしことのはの石の火のまにかはる中かな

うちいてて−さもかたかりし−ことのはの−いしのひのまに−かはるなかかな


07294
未入力 正徹 (xxx)

とふ鳥のてる日をさふる影のまに雲のよそにも人そ成行く

とふとりの−てるひをさふる−かけのまに−くものよそにも−ひとそなりゆく


07295
未入力 正徹 (xxx)

浪たかみ水上いててくる川の契あさせはあとかたもなし

なみたかみ−みなかみいてて−くるかはの−ちきりあさせは−あとかたもなし


07296
未入力 正徹 (xxx)

時のまをたのみけるかな我かかたに引く手のうらをかへす心は

ときのまを−たのみけるかな−わかかたに−ひくてのうらを−かへすこころは


07297
未入力 正徹 (xxx)

なにかせんうきことのはを水くきの跡さたかなる世世の契は

なにかせむ−うきことのはを−みつくきの−あとさたかなる−よよのちきりは


07298
未入力 正徹 (xxx)

かすかすに思ひまさこの鳥のあと消えてや見えん中の通ち

かすかすに−おもひまさこの−とりのあと−きえてやみえむ−なかのかよひち


07299
未入力 正徹 (xxx)

思ひ川たつき心をみつくきの跡にもしれとなかしやりつつ

おもひかは−たつきこころを−みつくきの−あとにもしれと−なかしやりつつ


07300
未入力 正徹 (xxx)

かへりきぬかきつる紙のむすひめもとかぬ氷をかさねしもうし

かへりきぬ−かきつるかみの−むすひめも−とかぬこほりを−かさねしもうし


07301
未入力 正徹 (xxx)

身にそははあらしよ夢の面影に枕ならへてあくる別は

みにそはは−あらしよゆめの−おもかけに−まくらならへて−あくるわかれは


07302
未入力 正徹 (xxx)

花の香も此世におはぬ色をみて思ひかさぬる袖の春雨

はなのかも−このよにおはぬ−いろをみて−おもひかさぬる−そてのはるさめ


07303
未入力 正徹 (xxx)

いやましの雲にみるめをかけぬとやうきたる花の浪もちるらん

いやましの−くもにみるめを−かけぬとや−うきたるはなの−なみもちるらむ


07304
未入力 正徹 (xxx)

ほの見ても思ひますほの薄ちる野を秋かせに露そくたくる

ほのみても−おもひますほの−すすきちる−のをあきかせに−つゆそくたくる


07305
未入力 正徹 (xxx)

しらさりきうきて雲ゐる浪の上に見えぬこしまの松の面影

しらさりき−うきてくもゐる−なみのうへに−みえぬこしまの−まつのおもかけ


07306
未入力 正徹 (xxx)

見るめさへなきさのとま屋すみすてはあらしなかねそにほのささ波

みるめさへ−なきさのとまや−すみすては−あらしなかねそ−にほのささなみ


07307
未入力 正徹 (xxx)

いとはれぬほとにもかなやもろ恋になる世はかたき契なりとも

いとはれぬ−ほとにもかなや−もろこひに−なるよはかたき−ちきりなりとも


07308
未入力 正徹 (xxx)

かきやらむおもふ心の下染はなほからあゐのやまとことのは

かきやらむ−おもふこころの−したそめは−なほからあゐの−やまとことのは


07309
未入力 正徹 (xxx)

かひもなし浪まに消えてうきみるのよらぬ渚のよそめはかりは

かひもなし−なみまにきえて−うきみるの−よらぬなきさの−よそめはかりは


07310
未入力 正徹 (xxx)

かけとめよ雲まの月を三かの原袂にわきていつみ川なみ

かけとめよ−くもまのつきを−みかのはら−たもとにわきて−いつみかはなみ


07311
未入力 正徹 (xxx)

うかれてそむねにみちくるまほろしに見えて消行く夕暮の空

うかれてそ−むねにみちくる−まほろしに−みえてきえゆく−ゆふくれのそら


07312
未入力 正徹 (xxx)

久かたの天つ空なる人の世そ見るをあふにて心ゆくとか

ひさかたの−あまつそらなる−ひとのよそ−みるをあふにて−こころゆくとか


07313
未入力 正徹 (xxx)

わすられぬ風はむかしのこゑなからよそにのみしてきくの浜松

わすられぬ−かせはむかしの−こゑなから−よそにのみして−きくのはままつ


07314
未入力 正徹 (xxx)

つれなさもかはらぬものをいそのかみ□□□□□□□□□□□□□□

つれなさも−かはらぬものを−いそのかみ−ххххххх−ххххххх


07315
未入力 正徹 (xxx)

水くきのなかれくるまをまちわひて今朝のなみたの淡と消えぬる

みつくきの−なかれくるまを−まちわひて−けさのなみたの−あわときえぬる


07316
未入力 正徹 (xxx)

わけかへる道のささはら朝露の思はぬさへもけぬかつれなさ

わけかへる−みちのささはら−あさつゆの−おもはぬさへも−けぬかつれなさ


07317
未入力 正徹 (xxx)

ことのはにこの夕暮と契らすは猶引きとかしむすふ玉つさ

ことのはに−このゆふくれと−ちきらすは−なほひきとかし−むすふたまつさ


07318
未入力 正徹 (xxx)

夢とたにいひはるけすはいかかとや今朝は心のとはんともせぬ

ゆめとたに−いひはるけすは−いかかとや−けさはこころの−とはむともせぬ


07319
未入力 正徹 (xxx)

いまそうき別路におふるあさち原契りもおかぬ露の秋風

いまそうき−わかれちにおふる−あさちはら−ちきりもおかぬ−つゆのあきかせ


07320
未入力 正徹 (xxx)

ぬれわひぬ別路に生ふる思ひ草たまたま露の消えしもすそを

ぬれわひぬ−わかれちにおふる−おもひくさ−たまたまつゆの−きえしもすそを


07321
未入力 正徹 (xxx)

衣衣ののちはかひなし帰りふす床の白玉まろひあへとも

きぬきぬの−のちはかひなし−かへりふす−とこのしらたま−まろひあへとも


07322
未入力 正徹 (xxx)

朝日影ほせかし袖をくれなはとわかなくさめて帰る契を

あさひかけ−ほせかしそてを−くれなはと−わかなくさめて−かへるちきりを


07323
未入力 正徹 (xxx)

あらかりし千草の風はこゑ過きてことのはなひく露そ身にしむ

あらかりし−ちくさのかせは−こゑすきて−ことのはなひく−つゆそみにしむ


07324
未入力 正徹 (xxx)

かくはかりぬる夜なき身にぬき川のせせのやはら田末や憑まん

かくはかり−ぬるよなきみに−ぬきかはの−せせのやはらた−すゑやたのまむ


07325
未入力 正徹 (xxx)

ことうらのあまのみるめをへたつやとあしの忍ひにかつく浪かな

ことうらの−あまのみるめを−へたつやと−あしのしのひに−かつくなみかな


07326
未入力 正徹 (xxx)

都鳥身をやくよりもとはかりのなけきのけふり立ちもわかれす

みやことり−みをやくよりも−とはかりの−なけきのけふり−たちもわかれす


07327
未入力 正徹 (xxx)

いさしらす道行ふりの袖のかを中の衣になさむ契は

いさしらす−みちゆきふりの−そてのかを−なかのころもに−なさむちきりは


07328
未入力 正徹 (xxx)

道ふりのこすのまよひに見すもあらぬなけきもかりの宿の秋風

みちふりの−こすのまよひに−みすもあらぬ−なけきもかりの−やとのあきかせ


07329
未入力 正徹 (xxx)

行ふりの袖のにほひも深からぬ思ひのつまにかくる恋かな

ゆきふりの−そてのにほひも−ふかからぬ−おもひのつまに−かくるこひかな


07330
未入力 正徹 (xxx)

あさかほの露のうはさを荻のはのこゑ身にしめし中川の宿

あさかほの−つゆのうはさを−をきのはの−こゑみにしめし−なかかはのやと


07331
未入力 正徹 (xxx)

老ならぬ涙もろさのあやしさを見しれるさまに人そおほめく

おいならぬ−なみたもろさの−あやしさを−みしれるさまに−ひとそおほめく


07332
未入力 正徹 (xxx)

人そとふ涙にたにもしらせしと思ひし袖の色みえぬまを

ひとそとふ−なみたにたにも−しらせしと−おもひしそての−いろみえぬまを


07333
未入力 正徹 (xxx)

おもひ川あたにそ立ちしなかれてもうき名をすすけ袖の上なみ

おもひかは−あたにそたちし−なかれても−うきなをすすけ−そてのうへなみ


07334
未入力 正徹 (xxx)

なほさりにひかへし袖のうつりかも身にしむ色の月なやとりそ

なほさりに−ひかへしそての−うつりかも−みにしむいろの−つきなやとりそ


07335
未入力 正徹 (xxx)

あらためてたきにほはさしなれし夜の人かにそめる中の衣を

あらためて−たきにほはさし−なれしよの−ひとかにそめる−なかのころもを


07336
未入力 正徹 (xxx)

いとふへき衣にもあらぬ一重山中にありても恋ひつつそぬる

いとふへき−きぬにもあらぬ−ひとへやま−なかにありても−こひつつそぬる


07337
未入力 正徹 (xxx)

数しらすつれなき中の我かためにゆきては帰る年やくるしき

かすしらす−つれなきなかの−わかために−ゆきてはかへる−としやくるしき


07338
未入力 正徹 (xxx)

よしさらは我か年つもれつれなきもさすかふりぬと人をみるかに

よしさらは−わかとしつもれ−つれなきも−さすかふりぬと−ひとをみるかに


07339
未入力 正徹 (xxx)

もとかしはもとの思ひの露おちてふるからをのに朽はとふなり

もとかしは−もとのおもひの−つゆおちて−ふるからをのに−くちはとふなり


07340
未入力 正徹 (xxx)

ちりうせぬ名におふ宮のふることも涙時雨にならのはの陰

ちりうせぬ−なにおふみやの−ふることも−なみたしくれに−ならのはのかけ


07341
未入力 正徹 (xxx)

うき中に年をふる野の秋の霜おきてそかれし道のささ原

うきなかに−としをふるのの−あきのしも−おきてそかれし−みちのささはら


07342
未入力 正徹 (xxx)

袖しほる露をつたへよおなし野のゆかりの草の原のゆふかせ

そてしほる−つゆをつたへよ−おなしのの−ゆかりのくさの−はらのゆふかせ


07343
未入力 正徹 (xxx)

つたふるもはかなきほとの年なみをよしくみしれよ中川の水

つたふるも−はかなきほとの−としなみを−よしくみしれよ−なかかはのみつ


07344
未入力 正徹 (xxx)

二かたに思ひひかむるつらさをも中にことわる君しあらすは

ふたかたに−おもひひかむる−つらさをも−なかにことわる−きみしあらすは


07345
未入力 正徹 (xxx)

面影の又やはさのみ身にしまむつま吹きかへすこすの秋かせ

おもかけの−またやはさのみ−みにしまむ−つまふきかへす−こすのあきかせ


07346
未入力 正徹 (xxx)

はかなしや浪まにめくる水の淡のよらむ汀を松の下かせ

はかなしや−なみまにめくる−みつのあわの−よらむみきはを−まつのしたかせ


07347
未入力 正徹 (xxx)

まよふなり君によるへをたのむ江の追手白なみふかぬ夕は

まよふなり−きみによるへを−たのむえの−おひてしらなみ−ふかぬゆふへは


07348
未入力 正徹 (xxx)

あさき江にかつ見る花の貌鳥もうき太山木にかけなならへそ

あさきえに−かつみるはなの−かほとりも−うきみやまきに−かけなならへそ


07349
未入力 正徹 (xxx)

末の松契りし浪はかつこえて庭のよもきは島となるまて

すゑのまつ−ちきりしなみは−かつこえて−にはのよもきは−しまとなるまて


07350
未入力 正徹 (xxx)

とひとはむむくらのかとをならへてもうらはあらはそさしもこもらん

とひとはむ−むくらのかとを−ならへても−うらはあらはそ−さしもこもらむ


07351
未入力 正徹 (xxx)

あはぬまを思ふ涙のもろ恋はやすくや袖もぬれてほすらん

あはぬまを−おもふなみたの−もろこひは−やすくやそても−ぬれてほすらむ


07352
未入力 正徹 (xxx)

猶そ夢あふよと見つるむつことにいもおとろくもうつつとはなし

なほそゆめ−あふよとみつる−むつことに−いもおとろくも−うつつとはなし


07353
未入力 正徹 (xxx)

そへやせむ覚めさらましの夢ならはなかき眠にならぬうらみを

そへやせむ−さめさらましの−ゆめならは−なかきねふりに−ならぬうらみを


07354
未入力 正徹 (xxx)

あけはをしね覚ののちのいねかてに枕ならふるさ夜の面影

あけはをし−ねさめののちの−いねかてに−まくらならふる−さよのおもかけ


07355
未入力 正徹 (xxx)

おとろきし夢の面影よのつねのね覚ならぬをしる涙かな

おとろきし−ゆめのおもかけ−よのつねの−ねさめならぬを−しるなみたかな


07356
未入力 正徹 (xxx)

ほの身えてたえつる夢のうち橋にわたり帰らぬさよの面影

ほのみえて−たえつるゆめの−うちはしに−わたりかへらぬ−さよのおもかけ


07357
未入力 正徹 (xxx)

なにゆゑのさむる涙そ思ひねをたのむ夢なく明くる夜の空

なにゆゑの−さむるなみたそ−おもひねを−たのむゆめなく−あくるよのそら


07358
未入力 正徹 (xxx)

世世かけしことのはひろき影たのむ契を秋の露なもらしそ

よよかけし−ことのはひろき−かけたのむ−ちきりをあきの−つゆなもらしそ


07359
未入力 正徹 (xxx)

みるめかる人の袂やこかれなむ我たくちかのうらのもしほ火

みるめかる−ひとのたもとや−こかれなむ−われたくちかの−うらのもしほひ


07360
未入力 正徹 (xxx)

のこりゐて命をあたに朝露のおもはん袖の別路もうし

のこりゐて−いのちをあたに−あさつゆの−おもはむそての−わかれちもうし


07361
未入力 正徹 (xxx)

我か袖を折りにほはさむあらましもとほ山桜ちるあらしかな

わかそてを−をりにほはさむ−あらましも−とほやまさくら−ちるあらしかな


07362
未入力 正徹 (xxx)

身にそへむあらぬ心に成りゆかぬ其世なからのあかぬ面影

みにそへむ−あらぬこころに−なりゆかぬ−そのよなからの−あかぬおもかけ


07363
未入力 正徹 (xxx)

面影は身をもはなれぬうつつにてうつつそまれの夢の面影

おもかけは−みをもはなれぬ−うつつにて−うつつそまれの−ゆめのおもかけ


07364
未入力 正徹 (xxx)

おもひしれ我かおもかけの人のためうかりしをたに君も忘れし

おもひしれ−わかおもかけの−ひとのため−うかりしをたに−きみもわすれし


07365
未入力 正徹 (xxx)

たのめつつまつま別路とりそへて出入る月にこふる夜はかな

たのめつつ−まつまわかれち−とりそへて−いているつきに−こふるよはかな


07366
未入力 正徹 (xxx)

えそいはぬ心の中をかたはかりまなひかたれとおもふさへこそ

えそいはぬ−こころのうちを−かたはかり−まなひかたれと−おもふさへこそ


07367
未入力 正徹 (xxx)

月まつと人にはいひし夕暮をたた其ままに君や聞きけん

つきまつと−ひとにはいひし−ゆふくれを−たたそのままに−きみやききけむ


07368
未入力 正徹 (xxx)

人そ見む五十につたふる比ならぬこの玉つさを君よ紐とけ

ひとそみむ−いそにつたふる−ころならぬ−このたまつさを−きみよひもとけ


07369
未入力 正徹 (xxx)

契りつつたのめてまつにくもる日は中中おそきゆふ暮の空

ちきりつつ−たのめてまつに−くもるひは−なかなかおそき−ゆふくれのそら


07370
未入力 正徹 (xxx)

くるるまをふるは千とせの山陰に思ひもすてぬ峰の松風

くるるまを−ふるはちとせの−やまかけに−おもひもすてぬ−みねのまつかせ


07371
未入力 正徹 (xxx)

袖にこそ猶せきかぬれむもれ水岩まにもらす声につけても

そてにこそ−なほせきかぬれ−むもれみつ−いはまにもらす−こゑにつけても


07372
未入力 正徹 (xxx)

思ふ事いひてことふる声をたにきかはやむなし恋の山ひこ

おもふこと−いひてことふる−こゑをたに−きかはやむなし−こひのやまひこ


07373
未入力 正徹 (xxx)

松かきのひまありとても恋すてふ人めかるへき山のかけかは

まつかきの−ひまありとても−こひすてふ−ひとめかるへき−やまのかけかは


07374
未入力 正徹 (xxx)

駒おろす木幡の山のささのくまおもかけさわく宇治の川浪

こまおろす−こはたのやまの−ささのくま−おもかけさわく−うちのかはなみ


07375
未入力 正徹 (xxx)

聞くもうし人は思ひもいらぬ世の山路むなしき松の下かせ

きくもうし−ひとはおもひも−いらぬよの−やまちむなしき−まつのしたかせ


07376
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふむくらの宿の思ひよりこもりわつらふ山のおくかな

こひすてふ−むくらのやとの−おもひより−こもりわつらふ−やまのおくかな


07377
未入力 正徹 (xxx)

なきあかす山のしつくは苔ならぬ袂におちてつもる恋かな

なきあかす−やまのしつくは−こけならぬ−たもとにおちて−つもるこひかな


07378
未入力 正徹 (xxx)

今夜ねてかたしくまののかや原に遠きおもかけたつあらしかな

こよひねて−かたしくまのの−かやはらに−とほきおもかけ−たつあらしかな


07379
未入力 正徹 (xxx)

わすれはや人めはたゆる宿なから松のおもはむ夕暮の空

わすれはや−ひとめはたゆる−やとなから−まつのおもはむ−ゆふくれのそら


07380
未入力 正徹 (xxx)

夕まくれ松にいさなふ面影のしつかならぬをとふあらしかな

ゆふまくれ−まつにいさなふ−おもかけの−しつかならぬを−とふあらしかな


07381
未入力 正徹 (xxx)

ゆふ暮は心にもあらぬおもひかなひとり身をおく宿の松風

ゆふくれは−こころにもあらぬ−おもひかな−ひとりみをおく−やとのまつかせ


07382
未入力 正徹 (xxx)

はかなしと岩まの水のおとつれもきけはなかれをつたふ面影

はかなしと−いはまのみつの−おとつれも−きけはなかれを−つたふおもかけ


07383
未入力 正徹 (xxx)

人心あさちか色にかつ見えて契かれ行くふるさとのしも

ひとこころ−あさちかいろに−かつみえて−ちきりかれゆく−ふるさとのしも


07384
未入力 正徹 (xxx)

なには女か里のしるへのけふりにもことうら舟をよするとは見す

なにはめか−さとのしるへの−けふりにも−ことうらふねを−よするとはみす


07385
未入力 正徹 (xxx)

すちことにまたくろかみを宿なから身そふるさるる霜の通ち

すちことに−またくろかみを−やとなから−みそふるさるる−しものかよひち


07386
未入力 正徹 (xxx)

あふもをし夜はにこはたの山川や白浪の名のうちのさと人

あふもをし−よはにこはたの−やまかはや−しらなみのなの−うちのさとひと


07387
未入力 正徹 (xxx)

こぬ人に見ゆらむものをやとの松そのさとならぬ夕なりとも

こぬひとに−みゆらむものを−やとのまつ−そのさとならぬ−ゆふへなりとも


07388
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おもひ川むかひのきしに出てて見よ舟なかしたる水のみかさを

おもひかは−むかひのきしに−いててみよ−ふねなかしたる−みつのみかさを


07389
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ゆく水に思ひのけふりくらへみよをちこち人の中のあさ川

ゆくみつに−おもひのけふり−くらへみよ−をちこちひとの−なかのあさかは


07390
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから浪もろともにうちわひぬみしまかくれにこふるあしたつ

よもすから−なみもろともに−うちわひぬ−みしまかくれに−こふるあしたつ


07391
未入力 正徹 (xxx)

人心あらき波風立ちよわれおもふかたほにしつむうら舟

ひとこころ−あらきなみかせ−たちよわれ−おもふかたほに−しつむうらふね


07392
未入力 正徹 (xxx)

わたつ海の雲のはたてに消えかへる心よせなむ遠の夕浪

わたつうみの−くものはたてに−きえかへる−こころよせなむ−をちのゆふなみ


07393
未入力 正徹 (xxx)

せきとむる岩なみこえてなかれきぬこの川上の人そつれなき

せきとむる−いはなみこえて−なかれきぬ−このかはかみの−ひとそつれなき


07394
未入力 正徹 (xxx)

つまこふる床の玉ものみたれさへよるはます田の池のをし鳥

つまこふる−とこのたまもの−みたれさへ−よるはますたの−いけのをしとり


07395
未入力 正徹 (xxx)

思ふことます田の池にうく鳥の夜もねぬなはの床のくるしさ

おもふこと−ますたのいけに−うくとりの−よもねぬなはの−とこのくるしさ


07396
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我か心ひけはもとすゑあつさ弓よるよるちかき夢の通ち

わかこころ−ひけはもとすゑ−あつさゆみ−よるよるちかき−ゆめのかよひち


07397
未入力 正徹 (xxx)

かへり見る思ひを峰にせく雲もきえね草はを渡る夕露

かへりみる−おもひをみねに−せくくもも−きえねくさはを−わたるゆふつゆ


07398
未入力 正徹 (xxx)

旅の空行くをはるけき恋ちにて夜夜の沈にうすきおもかす

たひのそら−ゆくをはるけき−こひちにて−よよのまくらに−うすきおもかけ


07399
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山かつか又あまの子か忘るなよふもとのうらのこよひ旅ねに

やまかつか−またあまのこか−わするなよ−ふもとのうらの−こよひたひねに


07400
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身にそはぬ心なゆきそ帰りみる雲ちに人も嵐ふくらん

みにそはぬ−こころなゆきそ−かへりみる−くもちにひとも−あらしふくらむ


07401
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露わくるひとりの旅の朝立をうき衣衣ににたりとやせん

つゆわくる−ひとりのたひの−あさたちを−うききぬきぬに−にたりとやせむ


07402
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夜もすからひとつ泊の友舟に見しおも影をよする浪かな

よもすから−ひとつとまりの−ともふねに−みしおもかけを−よするなみかな


07403
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さとの名も我か身のかたの夕波に舟さしとめぬ宇治の川長

さとのなも−わかみのかたの−ゆふなみに−ふねさしとめぬ−うちのかはをさ


07404
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跡ふりぬおほろ月夜の関の戸に恋ひけん人のすまの山里

あとふりぬ−おほろつきよの−せきのとに−こひけむひとの−すまのやまさと


07405
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人の世のおもひや空にあさからむ年に一夜を契るほしかな

ひとのよの−おもひやそらに−あさからむ−としにひとよを−ちきるほしかな


07406
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春なから世や秋かけて色かはるわかはのくすの露のうら風

はるなから−よやあきかけて−いろかはる−わかはのくすの−つゆのうらかせ


07407
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今朝そしる霞かくれのいもせ山あらはに落つる滝つ河かせ

けさそしる−かすみかくれの−いもせやま−あらはにおつる−たきつかはかせ


07408
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うつめとも下もえまさる思草雪まさたかに色やみゆらん

うつめとも−したもえまさる−おもひくさ−ゆきまさたかに−いろやみゆらむ


07409
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かよふなり心のおくの山たかみ雪まをうつむ雲の下みち

かよふなり−こころのおくの−やまたかみ−ゆきまをうつむ−くものしたみち


07410
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くるしともよそには見えし立ちかくす霞のうらのあまのたく縄

くるしとも−よそにはみえし−たちかくす−かすみのうらの−あまのたくなは


07411
未入力 正徹 (xxx)

おもひかねかよふ忍のうらつたひふなかちかくせ雲も霞も

おもひかね−かよふしのふの−うらつたひ−ふなかちかくせ−くももかすみも


07412
未入力 正徹 (xxx)

過きぬるか霞にくまはなほありておも影まよふ花の山さと

すきぬるか−かすみにくまは−なほありて−おもかけまよふ−はなのやまさと


07413
未入力 正徹 (xxx)

花の香もうつろふ月の手枕に覚めさらましの春のよの夢

はなのかも−うつろふつきの−たまくらに−さめさらましの−はるのよのゆめ


07414
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宿やこれ霞のうちの見し花のおも影にほふ色もかはらて

やとやこれ−かすみのうちの−みしはなの−おもかけにほふ−いろもかはらて


07415
未入力 正徹 (xxx)

行く春に夜のまの色やうつろはむ人の心の花のたまくら

ゆくはるに−よのまのいろや−うつろはむ−ひとのこころの−はなのたまくら


07416
未入力 正徹 (xxx)

むすへ草くもる日影に糸ゆふのたえにしのへの春の契を

むすへくさ−くもるひかけに−いとゆふの−たえにしのへの−はるのちきりを


07417
未入力 正徹 (xxx)

名にそふるねしろの柳みかさおちうき川岸の夏のよの雨

なにそふる−ねしろのやなき−みかさおち−うきかはきしの−なつのよのあめ


07418
未入力 正徹 (xxx)

人の名もいかてかくれん夏衣我か身あらはにうすき契は

ひとのなも−いかてかくれむ−なつころも−わかみあらはに−うすきちきりは


07419
未入力 正徹 (xxx)

とふほたるさらはつけこせつつみもつ袖も思ひもかくれなき身を

とふほたる−さらはつけこせ−つつみもつ−そてもおもひも−かくれなきみを


07420
未入力 正徹 (xxx)

夏引のあさほすをふのうらみてもかひなき袖の五月雨の比

なつひきの−あさほすをふの−うらみても−かひなきそての−さみたれのころ


07421
未入力 正徹 (xxx)

身すもあらぬなこりへたつる朝霧に猶袖ほさぬ宿の村雨

みすもあらぬ−なこりへたつる−あさきりに−なほそてほさぬ−やとのむらさめ


07422
未入力 正徹 (xxx)

ゆく道もおもふあたりにまたならす秋の日影そ心みしかき

ゆくみちも−おもふあたりに−またならす−あきのひかけそ−こころみしかき


07423
未入力 正徹 (xxx)

雲霧のまよふ道かは宿ことにたつ面影も猶しるへせよ

くもきりの−まよふみちかは−やとことに−たつおもかけも−なほしるへせよ


07424
未入力 正徹 (xxx)

こかれゆく心の色を猶染めて秋にやまさる宿の紅葉は

こかれゆく−こころのいろを−なほそめて−あきにやまさる−やとのもみちは


07425
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草くきにもすのき鳴きて尾をさすもをしふる宿そある心ちする

くさくきに−もすのきなきて−ををさすも−をしふるやとそ−あるここちする


07426
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むせふとも秋やく塩の初けふりたつなよこやのあしの八重ふき

むせふとも−あきやくしほの−はつけふり−たつなよこやの−あしのやへふき


07427
未入力 正徹 (xxx)

名とり川人の契のあさ霧はたえてあとなきせせの埋木

なとりかは−ひとのちきりの−あさきりは−たえてあとなき−せせのうもれき


07428
未入力 正徹 (xxx)

秋そたつ夏は人めも芦のはにかくれしこやのむねの煙は

あきそたつ−なつはひとめも−あしのはに−かくれしこやの−むねのけふりは


07429
未入力 正徹 (xxx)

友と見やもといひおきしかねこともみちたる月のなかき夜の空

ともとみや−もといひおきし−かねことも−みちたるつきの−なかきよのそら


07430
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たのめおくことのは草の末しれはかならすかれん秋の露霜

たのめおく−ことのはくさの−すゑしれは−かならすかれむ−あきのつゆしも


07431
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うき中の契は秋の末野風かるる草はそかかる夕露

うきなかの−ちきりはあきの−すゑのかせ−かるるくさはそ−かかるゆふつゆ


07432
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恋ひわひぬ秋も心をつくし路のあひそめ川に身をや捨てまし

こひわひぬ−あきもこころを−つくしちの−あひそめかはに−みをやすてまし


07433
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秋の夜の長きをかこつ人もねす枕ならへてことのはもなし

あきのよの−なかきをかこつ−ひともねす−まくらならへて−ことのはもなし


07434
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かけよなほ我か身をうちと見る月にあへる名たのむ暁の雲

かけよなほ−わかみをうちと−みるつきに−あへるなたのむ−あかつきのくも


07435
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床の露ふるき涙に水草ゐて我かおもかけもみえぬ秋かな

とこのつゆ−ふるきなみたに−みくさゐて−わかおもかけも−みえぬあきかな


07436
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思ふより秋の色にやいつみ川このはに月をほのみかの原

おもふより−あきのいろにや−いつみかは−このはにつきを−ほのみかのはら


07437
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吹きはつる木のはをくちし契にて冬もおくなき中の山風

ふきはつる−このはをくちし−ちきりにて−ふゆもおくなき−なかのやまかせ


07438
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わすれなむ霜ふる磯のかみすちもくろかりし世そ思ひみたれし

わすれなむ−しもふるいその−かみすちも−くろかりしよそ−おもひみたれし


07439
未入力 正徹 (xxx)

色もうし散りし木のはの契さへ朝おく霜ののちの松かえ

いろもうし−ちりしこのはの−ちきりさへ−あさおくしもの−のちのまつかえ


07440
未入力 正徹 (xxx)

こよひ人心とけよとさ夜衣袖のこほりをまくらにそかす

こよひひと−こころとけよと−さよころも−そてのこほりを−まくらにそかす


07441
未入力 正徹 (xxx)

わけかぬる袖の氷の衣衣はひややかなりし秋よりもうし

わけかぬる−そてのこほりの−きぬきぬは−ひややかなりし−あきよりもうし


07442
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣なみたのつらら年暮れぬたれにとくらんよその下紐

さよころも−なみたのつらら−としくれぬ−たれにとくらむ−よそのしたひも


07443
未入力 正徹 (xxx)

見てもゆけ関のはしりゐ岩こゆる玉も相坂にくたく心は

みてもゆけ−せきのはしりゐ−いはこゆる−たまもあふさかに−くたくこころは


07444
未入力 正徹 (xxx)

夢にさへ契くちにし袖の香に枕にほはす花の下かせ

ゆめにさへ−ちきりくちにし−そてのかに−まくらにほはす−はなのしたかせ


07445
未入力 正徹 (xxx)

うつせみの身をかへてともいひおかす此世なからに身をや憑まん

うつせみの−みをかへてとも−いひおかす−このよなからに−みをやたのまむ


07446
未入力 正徹 (xxx)

夕暮そ心もしらぬあひ見しはむかしかたりのあり明のまつ

ゆふくれそ−こころもしらぬ−あひみしは−むかしかたりの−ありあけのまつ


07447
未入力 正徹 (xxx)

聞くもうしみし夜の夢の後せ山末ふしわふる椎柴のかせ

きくもうし−みしよのゆめの−のちせやま−すゑふしわふる−しひしはのかせ


07448
未入力 正徹 (xxx)

立ちかへり又あふさかの契をもいさ白川の関のあきかせ

たちかへり−またあふさかの−ちきりをも−いさしらかはの−せきのあきかせ


07449
未入力 正徹 (xxx)

下紐もとく世なくてや朽ちはてん結ひしままの岩代の松

したひもも−とくよなくてや−くちはてむ−むすひしままの−いはしろのまつ


07450
未入力 正徹 (xxx)

友に見し其世の月の幾めくりむなしき袖に哀かくらん

ともにみし−そのよのつきの−いくめくり−むなしきそてに−あはれかくらむ


07451
未入力 正徹 (xxx)

夢なれや夢になせともいはさりしそのかねことのむなしうつつは

ゆめなれや−ゆめになせとも−いはさりし−そのかねことの−むなしうつつは


07452
未入力 正徹 (xxx)

あふ坂をこえし関守こととははたかつれなさの名をかととめん

あふさかを−こえしせきもり−こととはは−たかつれなさの−なをかととめむ


07453
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の空行く月よ幾めくりまたてぬる夜に明けのこるらん

きぬきぬの−そらゆくつきよ−いくめくり−またてぬるよに−あけのこるらむ


07454
未入力 正徹 (xxx)

思ふ江に浪はよりても立ちかへりあふこかたみのうら風そふく

おもふえに−なみはよりても−たちかへり−あふこかたみの−うらかせそふく


07455
未入力 正徹 (xxx)

立帰りたたくもあけす相坂やこえしあとさす関の岩かと

たちかへり−たたくもあけす−あふさかや−こえしあとさす−せきのいはかと


07456
未入力 正徹 (xxx)

遠からしさたかにこえてあはた山いつあふ坂の道たかふらん

とほからし−さたかにこえて−あはたやま−いつあふさかの−みちたかふらむ


07457
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露はらふ我かたもとともよもきふのもとの契は秋風そふく

つゆはらふ−わかたもととも−よもきふの−もとのちきりは−あきかせそふく


07458
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わすられぬ其夜の夢に三とせへぬ我かせしかこと人のことのは

わすられぬ−そのよのゆめに−みとせへぬ−わかせしかこと−ひとのことのは


07459
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時雨れてもかひやはあらむ契りこし末のの山の秋の岩木は

しくれても−かひやはあらむ−ちきりこし−すゑののやまの−あきのいはきは


07460
未入力 正徹 (xxx)

なかれての契やよそに成りぬらんあふくま川の後のせたえは

なかれての−ちきりやよそに−なりぬらむ−あふくまかはの−のちのせたえは


07461
未入力 正徹 (xxx)

あけは見よあひそめ川のかちわたりみかさも色もふかきよの袖

あけはみよ−あひそめかはの−かちわたり−みかさもいろも−ふかきよのそて


07462
未入力 正徹 (xxx)

思ひ川さてもあふせのあさわたり我かかたふちに又しつみぬる

おもひかは−さてもあふせの−あさわたり−わかかたふちに−またしつみぬる


07463
未入力 正徹 (xxx)

草によせ木にもたとへぬかねことの末吹きからす床の秋かせ

くさによせ−きにもたとへぬ−かねことの−すゑふきからす−とこのあきかせ


07464
未入力 正徹 (xxx)

人目せくあふくま川の末つひにたえすはたゆるせをもうらみし

ひとめせく−あふくまかはの−すゑつひに−たえすはたゆる−せをもうらみし


07465
未入力 正徹 (xxx)

限あるならひもつらしあふまての命のきはを又やのはへん

かきりある−ならひもつらし−あふまての−いのちのきはを−またやのはへむ


07466
未入力 正徹 (xxx)

あさき江にさはるを舟も声たててあしの忍にかよふ夜もなし

あさきえに−さはるをふねも−こゑたてて−あしのしのひに−かよふよもなし


07467
未入力 正徹 (xxx)

おもひつつぬる玉さかにあふことも心うかれし行すゑの夢

おもひつつ−ぬるたまさかに−あふことも−こころうかれし−ゆくすゑのゆめ


07468
未入力 正徹 (xxx)

思ひねの夢路に天のうき橋をかけて神代の契をそしる

おもひねの−ゆめちにあめの−うきはしを−かけてかみよの−ちきりをそしる


07469
未入力 正徹 (xxx)

身にそしる玉もかりにとこらか手をとりこの池のそこのみたれを

みにそしる−たまもかりにと−こらかてを−とりこのいけの−そこのみたれを


07470
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なほさりにふりこす人のくろかみを手にかけなからあくるよもなき

なほさりに−ふりこすひとの−くろかみを−てにかけなから−あくるよもなき


07471
未入力 正徹 (xxx)

つれなさはかはらぬ色になひくさへうきなら柴の木からしのかせ

つれなさは−かはらぬいろに−なひくさへ−うきならしはの−こからしのかせ


07472
未入力 正徹 (xxx)

よのつねの人に物いふよしなからおもふ心の色や見ゆらん

よのつねの−ひとにものいふ−よしなから−おもふこころの−いろやみゆらむ


07473
未入力 正徹 (xxx)

いつの世にくつれむ物と君かてをとりこの池の人めつつみほ

いつのよに−くつれむものと−きみかてを−とりこのいけの−ひとめつつみほ


07474
未入力 正徹 (xxx)

をしましな君みなれ木の下紅葉まさる思ひの色にちるとも

をしましな−きみみなれこの−したもみち−まさるおもひの−いろにちるとも


07475
未入力 正徹 (xxx)

をりをりのうき身のほとはしりなからたたよのつねにむかふくるしさ

をりをりの−うきみのほとは−しりなから−たたよのつねに−むかふくるしさ


07476
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たたしはしきかへ衣のうつりかを夜はにかさぬる中となさなん

たたしはし−きかへころもの−うつりかを−よはにかさぬる−なかとなさなむ


07477
未入力 正徹 (xxx)

こよひしもうきはいかなるふしはらやなひかぬ風の身にさわくらん

こよひしも−うきはいかなる−ふしはらや−なひかぬかせの−みにさわくらむ


07478
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣つらしと思初めしよりはひあひかたき野へのむらさき

さよころも−つらしとおもひ−そめしより−はひあひかたき−のへのむらさき


07479
未入力 正徹 (xxx)

からきせを身はこえはてきしほならぬうらみしままのあふ坂の山

からきせを−みはこえはてき−しほならぬ−うらみしままの−あふさかのやま


07480
未入力 正徹 (xxx)

貴舟川さてもあふせはなみそちる手にくる玉のをさへ乱れて

きふねかは−さてもあふせは−なみそちる−てにくるたまの−をさへみたれて


07481
未入力 正徹 (xxx)

はこへ猶人の心のひかれぬもたのむおもひのゆるきしめなは

はこへなほ−ひとのこころの−ひかれぬも−たのむおもひの−ゆるきしめなは


07482
未入力 正徹 (xxx)

うき中にさらぬ別のある世ともしらぬになして身をや祈らん

うきなかに−さらぬわかれの−あるよとも−しらぬになして−みをやいのらむ


07483
未入力 正徹 (xxx)

うけよ神いとと身をしる雨のよも袖のみぬれてはこふあよみを

うけよかみ−いととみをしる−あめのよも−そてのみぬれて−はこふあよみを


07484
未入力 正徹 (xxx)

うきなからあらはあふ夜を松尾の神かせふるき身に時雨れつつ

うきなから−あらはあふよを−まつのをの−かみかせふるき−みにしくれつつ


07485
未入力 正徹 (xxx)

みしめなはなかくとまてはかけおかす思ひや人の命なるらん

みしめなは−なかくとまては−かけおかす−おもひやひとの−いのちなるらむ


07486
未入力 正徹 (xxx)

おもひたつ今よりやかてしるしあれ先つくりもつみしまゆふして

おもひたつ−いまよりやかて−しるしあれ−まつつくりもつ−みしまゆふして


07487
未入力 正徹 (xxx)

祈りきてわかみし年の宮つくりふるのやしろに成る恋路かな

いのりきて−わかみしとしの−みやつくり−ふるのやしろに−なるこひちかな


07488
未入力 正徹 (xxx)

よわらすは猶いくすちの年のをを引くしめなはとなして祈らん

よわらすは−なほいくすちの−としのをを−ひくしめなはと−なしていのらむ


07489
未入力 正徹 (xxx)

かつを木のかつかつよわる心かなゆき合ひかたき千木のかたそき

かつをきの−かつかつよわる−こころかな−ゆきあひかたき−ちきのかたそき


07490
未入力 正徹 (xxx)

人心これや千引の石神もあからすかたき契をそしる

ひとこころ−これやちひきの−いしかみも−あからすかたき−ちきりをそしる


07491
未入力 正徹 (xxx)

我か神のしるしまてをやおさふらんつれなき人のいのる社は

わかかみの−しるしまてをや−おさふらむ−つれなきひとの−いのるやしろは


07492
未入力 正徹 (xxx)

下もえの身をうら風の末つひに煙たえぬるちかの塩かま

したもえの−みをうらかせの−すゑつひに−けふりたえぬる−ちかのしほかま


07493
未入力 正徹 (xxx)

身をうらのもとのもしほ火たきたえぬ煙のなりし雲も残らし

みをうらの−もとのもしほひ−たきたえぬ−けふりのなりし−くもものこらし


07494
未入力 正徹 (xxx)

身をうらのもしほの煙たえはてぬなけきこりつむ日数ふるまに

みをうらの−もしほのけふり−たえはてぬ−なけきこりつむ−ひかすふるまに


07495
未入力 正徹 (xxx)

まくすはも梢の秋のこゑたてて忘れんとすれは松風そ吹く

まくすはも−こすゑのあきの−こゑたてて−わすれむとすれは−まつかせそふく


07496
未入力 正徹 (xxx)

つらき名の立つををしかのむねわけに成りて枯れゆく野への葛風

つらきなの−たつををしかの−むねわけに−なりてかれゆく−のへのかすはら


07497
未入力 正徹 (xxx)

ほに出つる時はありともよもしらしうき身こもりのあしの下根を

ほにいつる−ときはありとも−よもしらし−うきみこもりの−あしのしたねを


07498
未入力 正徹 (xxx)

思ふさへぬるき心のうち海もうら風ふけはさわく浪かな

おもふさへ−ぬるきこころの−うちうみも−うらかせふけは−さわくなみかな


07499
未入力 正徹 (xxx)

身をうらのあまの見るめの絶えんともしらてかるもに乱れつるかな

みをうらの−あまのみるめの−たえむとも−しらてかるもに−みたれつるかな


07500
未入力 正徹 (xxx)

契なきこの身のさきに生れあふその世かたりも人やつたへし

ちきりなき−このみのさきに−うまれあふ−そのよかたりも−ひとやつたへし


07501
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらす浪立ちかへりあまのすむ里にむまれしよをしるもうし

そてぬらす−なみたちかへり−あまのすむ−さとにうまれし−よをしるもうし


07502
未入力 正徹 (xxx)

吹きおくれ身をうら舟のかちをたえ霧にかくるる秋のしほかせ

ふきおくれ−みをうらふねの−かちをたえ−きりにかくるる−あきのしほかせ


07503
未入力 正徹 (xxx)

風さわくいく夕暮の宿の松我に心の末かよふらむ

かせさわく−いくゆふくれの−やとのまつ−われにこころの−すゑかよふらむ


07504
未入力 正徹 (xxx)

たえやせむくるる夜ことの松かせも末吹きよわる木枯の宿

たえやせむ−くるるよことの−まつかせも−すゑふきよわる−こからしのやと


07505
未入力 正徹 (xxx)

うき身しる涙をおもみかへされすまつ夜かさねし中の衣は

うきみしる−なみたをおもみ−かへされす−まつよかさねし−なかのころもは


07506
未入力 正徹 (xxx)

先のよの契あさ衣むなしくはあすの明けなんのちや絶えまし

さきのよの−ちきりあさきぬ−むなしくは−あすのあけなむ−のちやたえまし


07507
未入力 正徹 (xxx)

さ莚にまつ夜はかれぬ契にてうちぬるひまの月をたにみす

さむしろに−まつよはかれぬ−ちきりにて−うちぬるひまの−つきをたにみす


07508
未入力 正徹 (xxx)

まつ人をたのみそめつる三かの夜に在明の月もなりてむなしき

まつひとを−たのみそめつる−みかのよに−ありあけのつきも−なりてむなしき


07509
未入力 正徹 (xxx)

よしさらは吹遠さかれたのみつつねぬ夜あまたの庭の松かせ

よしさらは−ふきとほさかれ−たのみつつ−ねぬよあまたの−にはのまつかせ


07510
未入力 正徹 (xxx)

たのむ暮松下をれて道うつむ雪夜のからすあくと告くなり

たのむくれ−まつしたをれて−みちうつむ−ゆきよのからす−あくとつくなり


07511
未入力 正徹 (xxx)

秋と見ししめちか原のことのははかるる夕をなほ松の風

あきとみし−しめちかはらの−ことのはは−かるるゆふへを−なほまつのかせ


07512
未入力 正徹 (xxx)

まつ人の宿に行きてはかへり立つ我か庭つらくふくる松かせ

まつひとの−やとにゆきては−かへりたつ−わかにはつらく−ふくるまつかせ


07513
未入力 正徹 (xxx)

たのめしは比もすきぬを松風に命かけたるあかつきの露

たのめしは−ころもすきぬを−まつかせに−いのちかけたる−あかつきのつゆ


07514
未入力 正徹 (xxx)

たつねくる所も宿もたかはすはいまかへるとも又やしたはん

たつねくる−ところもやとも−たかはすは−いまかへるとも−またやしたはむ


07515
未入力 正徹 (xxx)

かへる山むなし契の末と見よ夕の雲のかくすさと人

かへるやま−むなしちきりの−すゑとみよ−ゆふへのくもの−かくすさとひと


07516
未入力 正徹 (xxx)

うきかすをひろひつくして忘貝かひなきうらにくたく浪かな

うきかすを−ひろひつくして−わすれかひ−かひなきうらに−くたくなみかな


07517
未入力 正徹 (xxx)

うき出つるいきのをなかし身をうらの□□□□□□□□□□□□□□

うきいつる−いきのをなかし−みをうらの−ххххххх−ххххххх


07518
未入力 正徹 (xxx)

はれかたき袖の涙の川社しのに衣は朽ちやはてまし

はれかたき−そてのなみたの−かはやしろ−しのにころもは−くちやはてまし


07519
未入力 正徹 (xxx)

空に立つ名のみま砂に鳴く鳥の跡なしことをうら風そ吹く

そらにたつ−なのみまさこに−なくとりの−あとなしことを−うらかせそふく


07520
未入力 正徹 (xxx)

聞くそうきあとなき磯に声たてて我か名のりそをかくる白浪

きくそうき−あとなきいそに−こゑたてて−わかなのりそを−かくるしらなみ


07521
未入力 正徹 (xxx)

よそにして見るめからぬを無き名のみ立出ててぬるる袖のうら波

よそにして−みるめからぬを−なきなのみ−たちいててぬるる−そてのうらなみ


07522
未入力 正徹 (xxx)

浪こゆる松のねたくそ草のなのかれすもえ出つる住よしの岸

なみこゆる−まつのねたくそ−くさのなの−かれすもえいつる−すみよしのきし


07523
未入力 正徹 (xxx)

しつみにきなきなたちきるさ夜衣いととなみこす床の涙に

しつみにき−なきなたちきる−さよころも−いととなみこす−とこのなみたに


07524
未入力 正徹 (xxx)

たのみきぬうききたる雲の無き名とやたつの市路を照す月かけ

たのみきぬ−うききたるくもの−なきなとや−たつのいちちを−てらすつきかけ


07525
未入力 正徹 (xxx)

よそにのみなるみのあまのよひつきに身をうら風のこすとしらせよ

よそにのみ−なるみのあまの−よひつきに−みをうらかせの−こすとしらせよ


07526
未入力 正徹 (xxx)

たのみつつ松はこぬみのはま風にからしとつけよよするしほ貝

たのみつつ−まつはこぬみの−はまかせに−からしとつけよ−よするしほかひ


07527
未入力 正徹 (xxx)

枯れにけり秋うき物と葛のはにことつてやりし風もかへらす

かれにけり−あきうきものと−くすのはに−ことつてやりし−かせもかへらす


07528
未入力 正徹 (xxx)

舟てせし風をたよりの浦伝ひ浪あらくてや漕きも帰らぬ

ふなてせし−かせをたよりの−うらつたひ−なみあらくてや−こきもかへらぬ


07529
未入力 正徹 (xxx)

あやしめむ人にいふへきたよりかなこよひは月も立待にして

あやしめむ−ひとにいふへき−たよりかな−こよひはつきも−たちまちにして


07530
未入力 正徹 (xxx)

行きむかひあはむ所を衣衣の床ともなして恋ひやかへらん

ゆきむかひ−あはむところを−きぬきぬの−とこともなして−こひやかへらむ


07531
未入力 正徹 (xxx)

別路のゆくへもしらす雲となり雨と成りにしあとの山かせ

わかれちの−ゆくへもしらす−くもとなり−あめとなりにし−あとのやまかせ


07532
未入力 正徹 (xxx)

くたかけのおくるもつらし別路の野らにすむてふきつにはめなて

くたかけの−おくるもつらし−わかれちの−のらにすむてふ−きつにはめなて


07533
未入力 正徹 (xxx)

朝しほの引きて帰りし松かねによらぬもつらきいそのなみかな

あさしほの−ひきてかへりし−まつかねに−よらぬもつらき−いそのなみかな


07534
未入力 正徹 (xxx)

紙の色にわかれし袖の紅もなみたそめます水くきのあと

かみのいろに−わかれしそての−くれなゐも−なみたそめます−みつくきのあと


07535
未入力 正徹 (xxx)

床にうきなみた身をしる世世の雨はれすます田の池のみかさに

とこにうき−なみたみをしる−よよのあめ−はれすますたの−いけのみかさに


07536
未入力 正徹 (xxx)

思ひ川末せく水のいやたかく消えぬみなわもさかのほるまて

おもひかは−すゑせくみつの−いやたかく−きえぬみなわも−さかのほるまて


07537
未入力 正徹 (xxx)

なにはめかたくひとは見す水くきの心ことはもあし手ならぬに

なにはめか−たくひとはみす−みつくきの−こころことはも−あしてならぬに


07538
未入力 正徹 (xxx)

さのみなとはかなき鳥の跡をさへ見せぬまさこの身をくたくらん

さのみなと−はかなきとりの−あとをさへ−みせぬまさこの−みをくたくらむ


07539
未入力 正徹 (xxx)

うたかたそ又手に帰る書きなかす末せく水のさかのほりつつ

うたかたそ−またてにかへる−かきなかす−すゑせくみつの−さかのほりつつ


07540
未入力 正徹 (xxx)

東路に心つくしの文字消えてえそよみとかぬつほのいし文

あつまちに−こころつくしの−もしきえて−えそよみとかぬ−つほのいしふみ


07541
未入力 正徹 (xxx)

別路の袖にかけしをかきりにて跡みぬもしの関の夕なみ

わかれちの−そてにかけしを−かきりにて−あとみぬもしの−せきのゆふなみ


07542
未入力 正徹 (xxx)

今朝そうき別の庭の通路にまさこの鳥の跡かたも見す

けさそうき−わかれのにはの−かよひちに−まさこのとりの−あとかたもみす


07543
未入力 正徹 (xxx)

水くきのかへしの風にことのはのなひくを見ても袖そぬれそふ

みつくきの−かへしのかせに−ことのはの−なひくをみても−そてそぬれそふ


07544
未入力 正徹 (xxx)

ほしわひて猶そぬれそふもしほ草文かきあへすあまのしわさは

ほしわひて−なほそぬれそふ−もしほくさ−ふみかきあへす−あまのしわさは


07545
未入力 正徹 (xxx)

とけにけり世は冬なれと待ちえたる涙の水の春にあふよは

とけにけり−よはふゆなれと−まちえたる−なみたのみつの−はるにあふよは


07546
未入力 正徹 (xxx)

たつねくる山路の春もとひかねぬゆかり消えにし花のおもかけ

たつねくる−やまちのはるも−とひかねぬ−ゆかりきえにし−はなのおもかけ


07547
未入力 正徹 (xxx)

かねて入るまきの戸口の月にたにしらす心を岡の辺のやと

かねている−まきのとくちの−つきにたに−しらすこころを−をかのへのやと


07548
未入力 正徹 (xxx)

こはた山かちよりかとやとはさらんあひもおもはぬ宇治の里人

こはたやま−かちよりかとや−とはさらむ−あひもおもはぬ−うちのさとひと


07549
未入力 正徹 (xxx)

あけて見る身をうらなみはかすこえて真砂の鳥の跡そすくなき

あけてみる−みをうらなみは−かすこえて−まさこのとりの−あとそすくなき


07550
未入力 正徹 (xxx)

玉つさのひもときしこそ下ひもをむすひはつへき初なりけれ

たまつさの−ひもときしこそ−したひもを−むすひはつへき−はしめなりけれ


07551
未入力 正徹 (xxx)

朝露にぬれてそわけし水くきのなかれこすとて袖やほされん

あさつゆに−ぬれてそわけし−みつくきの−なかれこすとて−そてやほされむ


07552
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の袖におちにし水くきもなかれこぬ名のたつあしたかな

きぬきぬの−そてにおちにし−みつくきも−なかれこぬなの−たつあしたかな


07553
未入力 正徹 (xxx)

雲となり雨と成りにし山をたにをしへしままのかたみとやみぬ

くもとなり−あめとなりにし−やまをたに−をしへしままの−かたみとやみぬ


07554
未入力 正徹 (xxx)

見るほとも波のいつくに成りぬらんうき身かくれの鳰の下道

みるほとも−なみのいつくに−なりぬらむ−うきみかくれの−にほのしたみち


07555
未入力 正徹 (xxx)

枕にそ面影まよふ雲のはにほのあらはれし月のなきよは

まくらにそ−おもかけまよふ−くものはに−ほのあらはれし−つきのなきよは


07556
未入力 正徹 (xxx)

契りこしつらさもとりはかへされす涙や袖の下くくるらん

ちきりこし−つらさもとりは−かへされす−なみたやそての−したくくるらむ


07557
未入力 正徹 (xxx)

袂をはくいの八千しほ染めおきて紅くくるなみたとそなる

たもとをは−くいのやちしほ−そめおきて−くれなゐくくる−なみたとそなる


07558
未入力 正徹 (xxx)

かひそなき玉のをことのををたえて後さへおもふ峰の松風

かひそなき−たまのをことの−ををたえて−のちさへおもふ−みねのまつかせ


07559
未入力 正徹 (xxx)

いく世うき哀この身に山川のくいてもあまる水のしからみ

いくようき−あはれこのみに−やまかはの−くいてもあまる−みつのしからみ


07560
未入力 正徹 (xxx)

身をかへてせにうかふ世もなほやうきもとの心を染川の浪

みをかへて−せにうかふよも−なほやうき−もとのこころを−そめかはのなみ


07561
未入力 正徹 (xxx)

芦の根の心あささをよそにしてかるる入江のしほもうらめし

あしのねの−こころあささを−よそにして−かるるいりえの−しほもうらめし


07562
未入力 正徹 (xxx)

かくやうき雲ゐる浪にもしほ火の煙吹きいたすすまの浦風

かくやうき−くもゐるなみに−もしほひの−けふりふきいたす−すまのうらかせ


07563
未入力 正徹 (xxx)

煙こそのこりてくゆれ思ひさへもゆる末野のねしろ高かや

けふりこそ−のこりてくゆれ−おもひさへ−もゆるすゑのの−ねしろたかかや


07564
未入力 正徹 (xxx)

しつめなほちかひの海にかちをたえわたらぬ舟のよるへなき身は

しつめなほ−ちかひのうみに−かちをたえ−わたらぬふねの−よるへなきみは


07565
未入力 正徹 (xxx)

世にもれは又いひなさんかたなきを心ひとつにとひこたへつつ

よにもれは−またいひなさむ−かたなきを−こころひとつに−とひこたへつつ


07566
未入力 正徹 (xxx)

宿とへはやかてやめつる物のねに我も音せて立ちそわつらふ

やととへは−やかてやめつる−もののねに−われもおとせて−たちそわつらふ


07567
未入力 正徹 (xxx)

人のきて思ふあたりをかたらすはみみのよそにやなしてこたへん

ひとのきて−おもふあたりを−かたらすは−みみのよそにや−なしてこたへむ


07568
未入力 正徹 (xxx)

秋ならぬ忍のもりのかたしくれ露とつらなる枝にもらすな

あきならぬ−しのふのもりの−かたしくれ−つゆとつらなる−えたにもらすな


07569
未入力 正徹 (xxx)

うたたねの夢はかりたにしらすなよ親のいさめし人もたかへし

うたたねの−ゆめはかりたに−しらすなよ−おやのいさめし−ひともたかへし


07570
未入力 正徹 (xxx)

かよひこし道のささ原種たえておもはぬ松そあまたふり行く

かよひこし−みちのささはら−たねたえて−おもはぬまつそ−あまたふりゆく


07571
未入力 正徹 (xxx)

契りつる人のゆくへは天とひし朝の鳥のゆふくれのあと

ちきりつる−ひとのゆくへは−あまとひし−あしたのとりの−ゆふくれのあと


07572
未入力 正徹 (xxx)

都鳥契りし人のありなしをしらすはとはむまはろしもかな

みやことり−ちきりしひとの−ありなしを−しらすはとはむ−まはろしもかな


07573
未入力 正徹 (xxx)

うき中のをたえの橋をふみならし又恋ひわたる道そあやふき

うきなかの−をたえのはしを−ふみならし−またこひわたる−みちそあやふき


07574
未入力 正徹 (xxx)

あとにひく心のつなてたれときて思はぬ岸に舟うつるらん

あとにひく−こころのつなて−たれときて−おもはぬきしに−ふねうつるらむ


07575
未入力 正徹 (xxx)

ぬき川やよとむせならぬ契さへうきたらちねの親さくる妻

ぬきかはや−よとむせならぬ−ちきりさへ−うきたらちねの−おやさくるつま


07576
未入力 正徹 (xxx)

雲したふ友とはなしに篭のうちの鳥の思ひにかよふ恋かな

くもしたふ−ともとはなしに−このうちの−とりのおもひに−かよふこひかな


07577
未入力 正徹 (xxx)

路のへの草の戸さしのおとつれもたとるとしれは立ちそとまらぬ

みちのへの−くさのとさしの−おとつれも−たとるとしれは−たちそとまらぬ


07578
未入力 正徹 (xxx)

あけぬ夜の空をうらむる衣衣にうたてや月のなに心なき

あけぬよの−そらをうらむる−きぬきぬに−うたてやつきの−なにこころなき


07579
未入力 正徹 (xxx)

おのれのみ帰るもしらすむくらふのさす門たたく葛のうら風

おのれのみ−かへるもしらす−むくらふの−さすかとたたく−くすのうらかせ


07580
未入力 正徹 (xxx)

雨そそき立ちぬれつるをその戸なとおしもひらかて又帰るらん

あまそそき−たちぬれつるを−そのとなと−おしもひらかて−またかへるらむ


07581
未入力 正徹 (xxx)

よりゐつつひききるこすのひまなさをいひ置く宿のよひの帰るさ

よりゐつつ−ひききるこすの−ひまなさを−いひおくやとの−よひのかへるさ


07582
未入力 正徹 (xxx)

枯れぬまを松にとひても葛のはのかへるちきりそ末の秋風

かれぬまを−まつにとひても−くすのはの−かへるちきりそ−すゑのあきかせ


07583
未入力 正徹 (xxx)

身をうらのあまのとまやととふ波のとりとめられすかへるいそかな

みをうらの−あまのとまやと−とふなみの−とりとめられす−かへるいそかな


07584
未入力 正徹 (xxx)

契さへふかからぬ色にみえおくや露の末つむ花のかほはせ

ちきりさへ−ふかからぬいろに−みえおくや−つゆのすゑつむ−はなのかほはせ


07585
未入力 正徹 (xxx)

帰るなりぬるや磯らのみるめにもおよはぬ波そかけてくやしき

かへるなり−ぬるやいそらの−みるめにも−およはぬなみそ−かけてくやしき


07586
未入力 正徹 (xxx)

みむろ山をろちにつけしをたまきの末のちきりそたえてやみぬる

みむろやま−をろちにつけし−をたまきの−すゑのちきりそ−たえてやみぬる


07587
未入力 正徹 (xxx)

かねてなとくものふるまひかからすは頼む契りのしるしなりけん

かねてなと−くものふるまひ−かからすは−たのむちきりの−しるしなりけむ


07588
未入力 正徹 (xxx)

せめしめてつなきととめんなかれ木のからくもなみにさかのほり行く

せめしめて−つなきととめむ−なかれきの−からくもなみに−さかのほりゆく


07589
未入力 正徹 (xxx)

頼むよのしるしはいつそいそのかみ都の秋もかけし神杉

たのむよの−しるしはいつそ−いそのかみ−みやこのあきも−かけしかみすき


07590
未入力 正徹 (xxx)

たのめおけつらき此世の後せ川身をかへぬとも立ちやわたらん

たのめおけ−つらきこのよの−のちせかは−みをかへぬとも−たちやわたらむ


07591
未入力 正徹 (xxx)

波ならすたのめ置きしを飛鳥川さても夜のまの淵せかはらは

なみならす−たのめおきしを−あすかかは−さてもよのまの−ふちせかはらは


07592
未入力 正徹 (xxx)

ほと近くたのめおきてもしらさりき明日の命のけふの夕暮

ほとちかく−たのめおきても−しらさりき−あすのいのちの−けふのゆふくれ


07593
未入力 正徹 (xxx)

猶かけよいく国さとの海川もおもひをせかぬ雲のしからみ

なほかけよ−いくくにさとの−うみかはも−おもひをせかぬ−くものしからみ


07594
未入力 正徹 (xxx)

思ひやる袖の涙ももろこしの吉のの風のすすの下露

おもひやる−そてのなみたも−もろこしの−よしののかせの−すすのしたつゆ


07595
未入力 正徹 (xxx)

かくしてもいははやせめてひこほしにこひはまさりぬとはかりをたに

かくしても−いははやせめて−ひこほしに−こひはまさりぬ−とはかりをたに


07596
未入力 正徹 (xxx)

きぬきぬにいとひもなれし光出てんそのあかつきの月やみさらん

きぬきぬに−いとひもなれし−ひかりいてむ−そのあかつきの−つきやみさらむ


07597
未入力 正徹 (xxx)

まてしはし鳥もこゑせす有明もつれなからしと雲かくれ行く

まてしはし−とりもこゑせす−ありあけも−つれなからしと−くもかくれゆく


07598
未入力 正徹 (xxx)

世のうきに涙のみえはなしもせん思ひの色よ袖にあまるな

よのうきに−なみたのみえは−なしもせむ−おもひのいろよ−そてにあまるな


07599
未入力 正徹 (xxx)

さもあらぬ心をかくすことのはも思ふ色にはとりなされつつ

さもあらぬ−こころをかくす−ことのはも−おもふいろには−とりなされつつ


07600
未入力 正徹 (xxx)

よりこぬも猶あたなみのこゑなから心はなきぬ床のうらふね

よりこぬも−なほあたなみの−こゑなから−こころはなきぬ−とこのうらふね


07601
未入力 正徹 (xxx)

分けもみすともに心はつくはねやこのもかのもの人めしけきを

わけもみす−ともにこころは−つくはねや−このもかのもの−ひとめしけきを


07602
未入力 正徹 (xxx)

あやしめきさらに板まももりぬれぬねやの莚を雨になせとも

あやしめき−さらにいたまも−もりぬれぬ−ねやのむしろを−あめになせとも


07603
未入力 正徹 (xxx)

つれなさの面影かくせ三か月のわれて又みる有明のくも

つれなさの−おもかけかくせ−みかつきの−われてまたみる−ありあけのくも


07604
未入力 正徹 (xxx)

おきつなみひろはぬ袖にかかりきて塩干塩みちみるめよるなる

おきつなみ−ひろはぬそてに−かかりきて−しほひしほみち−みるめよるなる


07605
未入力 正徹 (xxx)

いつかさて山田のひたのひたすらにきかぬもつらし秋の音つれ

いつかさて−やまたのひたの−ひたすらに−きかぬもつらし−あきのおとつれ


07606
未入力 正徹 (xxx)

なにことか此世にねかふままならんけにことわりに恋そそむかぬ

なにことか−このよにねかふ−ままならむ−けにことわりに−こひそそむかぬ


07607
未入力 正徹 (xxx)

ふかかりしそこのみるめそたのまるる人の誓のうみあせすして

ふかかりし−そこのみるめそ−たのまるる−ひとのちかひの−うみあせすして


07608
未入力 正徹 (xxx)

面影のさらぬ形見そくもりなき残るかかみはちりつもれとも

おもかけの−さらぬかたみそ−くもりなき−のこるかかみは−ちりつもれとも


07609
未入力 正徹 (xxx)

おき出ててをしみやすらん月の入る山よりをちにこふる里人

おきいてて−をしみやすらむ−つきのいる−やまよりをちに−こふるさとひと


07610
未入力 正徹 (xxx)

身の上にこよひはかけようつろふをおもひしるへの道芝の露

みのうへに−こよひはかけよ−うつろふを−おもひしるへの−みちしはのつゆ


07611
未入力 正徹 (xxx)

しるへする君にそ思ひつき草のうつろふ袖の色なまかへそ

しるへする−きみにそおもひ−つきくさの−うつろふそての−いろなまかへそ


07612
未入力 正徹 (xxx)

宿なからほのみし月のしるへする人こそまされならふ面影

やとなから−ほのみしつきの−しるへする−ひとこそまされ−ならふおもかけ


07613
未入力 正徹 (xxx)

身を宇治と頼みこはたの山越えて白波のなをちきりにそかる

みをうちと−たのみこはたの−やまこえて−しらなみのなを−ちきりにそかる


07614
未入力 正徹 (xxx)

あつまやも戸さしせぬ夜の人妻にいとと頼をかくる雨かな

あつまやも−とさしせぬよの−ひとつまに−いととたのみを−かくるあめかな


07615
未入力 正徹 (xxx)

秋の霜みえんうゑ木のかけにても君しまねかは身をやくたかん

あきのしも−みえむうゑきの−かけにても−きみしまねかは−みをやくたかむ


07616
未入力 正徹 (xxx)

我か思ひすすむる風のたよりたにそなたにゆかぬ夕くれもなし

わかおもひ−すすむるかせの−たよりたに−そなたにゆかぬ−ゆふくれもなし


07617
未入力 正徹 (xxx)

焼初むる思ひの薪朽ちはててきえん夕のけふりをそ待つ

たきそむる−おもひのたきき−くちはてて−きえむゆふへの−けふりをそまつ


07618
未入力 正徹 (xxx)

手にとらてうたてもゆらく玉ははきちりつもりにし年もはつかし

てにとらて−うたてもゆらく−たまははき−ちりつもりにし−としもはつかし


07619
未入力 正徹 (xxx)

都にそ衣かたしくさ莚につもれるちりやうちの橋姫

みやこにそ−ころもかたしく−さむしろに−つもれるちりや−うちのはしひめ


07620
未入力 正徹 (xxx)

明けぬとも憂身の秋をきのふとはおもひなされぬ袖やしほれん

あけぬとも−うきみのあきを−きのふとは−おもひなされぬ−そてやしほれむ


07621
未入力 正徹 (xxx)

梅か香もあかぬ別の袖ふれし人はむかしの春のあけほの

うめかかも−あかぬわかれの−そてふれし−ひとはむかしの−はるのあけほの


07622
未入力 正徹 (xxx)

ま木の戸を出てしやみえす人の名ををりうらめしきしののめの月

まきのとを−いてしやみえす−ひとのなを−をりうらめしき−しののめのつき


07623
未入力 正徹 (xxx)

いそくなり末ものこらぬ年のををあわをによりて結ふ契を

いそくなり−すゑものこらぬ−としのをを−あわをによりて−むすふちきりを


07624
未入力 正徹 (xxx)

我そしくたのめし人のことのははなこやかしたの夜るの衾を

われそしく−たのめしひとの−ことのはは−なこやかしたの−よるのふすまを


07625
未入力 正徹 (xxx)

思ひ草なひくに似たることの葉は身にしむ色にかかる露かな

おもひくさ−なひくににたる−ことのはは−みにしむいろに−かかるつゆかな


07626
未入力 正徹 (xxx)

我か心かたひきもせすを車のもろわなからにめくりあひてん

わかこころ−かたひきもせす−をくるまの−もろわなからに−めくりあひてむ


07627
未入力 正徹 (xxx)

いつれをもかけておもふはかろからてはかりのさをの引く方もなし

いつれをも−かけておもふは−かろからて−はかりのさをの−ひくかたもなし


07628
未入力 正徹 (xxx)

人は猶心もゆかぬ逢坂をこえてまたみぬつほのいしふみ

ひとはなほ−こころもゆかぬ−あふさかを−こえてまたみぬ−つほのいしふみ


07629
未入力 正徹 (xxx)

あかさりし枕の下の水くきにかよふもきゆる鳥のあとかな

あかさりし−まくらのしたの−みつくきに−かよふもきゆる−とりのあとかな


07630
未入力 正徹 (xxx)

とはぬまのしるしもあやな宿に来てみし年月を杉ならぬ松

とはぬまの−しるしもあやな−やとにきて−みしとしつきを−すきならぬまつ


07631
未入力 正徹 (xxx)

衣衣をしたひし夜はは隔りて徒にたつ峰の横雲

きぬきぬを−したひしよはは−へたたりて−いたつらにたつ−みねのよこくも


07632
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さても猶心まよひの山のはにほのみし雲の行へしらはや

さてもなほ−こころまよひの−やまのはに−ほのみしくもの−ゆくへしらはや


07633
未入力 正徹 (xxx)

おきあかしやかてなかむる横雲の心引くより思ひ消えつつ

おきあかし−やかてなかむる−よこくもの−こころひくより−おもひきえつつ


07634
未入力 正徹 (xxx)

夜半にうき衣ならても立つ雲の中にありてや先隔つらん

よはにうき−ころもならても−たつくもの−なかにありてや−まつへたつらむ


07635
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打ちつけに絶まかちなる空の雲そなたをたとる比もうらめし

うちつけに−たえまかちなる−そらのくも−そなたをたとる−ころもうらめし


07636
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消えせすは岩ほともなれもえはてん煙の後の峰のうき雲

きえせすは−いはほともなれ−もえはてむ−けふりののちの−みねのうきくも


07637
未入力 正徹 (xxx)

身にそしむむなしき雲の塵はかりはらふたよりの床の秋かせ

みにそしむ−むなしきくもの−ちりはかり−はらふたよりの−とこのあきかせ


07638
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行へなき何を契りて夕暮の空にも雲のみちいそくらん

ゆくへなき−なにをちきりて−ゆふくれの−そらにもくもの−みちいそくらむ


07639
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たか思ひかかる心の有初めしはしめもつらき峰の白雲

たかおもひ−かかるこころの−ありそめし−はしめもつらき−みねのしらくも


07640
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今そしるうきて思ひは八雲立つ出雲にふるき恋のはしめを

いまそしる−うきておもひは−やくもたつ−いつもにふるき−こひのはしめを


07641
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いかかせん晴れたる空の一村はめにたつ雲の迷ふ恋路を

いかかせむ−はれたるそらの−ひとむらは−めにたつくもの−まよふこひちを


07642
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雨にうき雲は袖ともならなくにさもふり出つる我か涙かな

あめにうき−くもはそてとも−ならなくに−さもふりいつる−わかなみたかな


07643
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思ひ出てよそれも思ひの妻こめにたちし八色の雲の川上

おもひいてよ−それもおもひの−つまこめに−たちしやくさの−くものかはかみ


07644
未入力 正徹 (xxx)

憂き中に思ひ消えしや此世まて残る契りのうす雲の空

うきなかに−おもひきえしや−このよまて−のこるちきりの−うすくものそら


07645
未入力 正徹 (xxx)

空さへに思ふたよりはうす雲の渡るもすそもぬれぬえにして

そらさへに−おもふたよりは−うすくもの−わたるもすそも−ぬれぬえにして


07646
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棚ひきし雲の糸すち中絶えて又よりあはぬ賎のをた巻

たなひきし−くものいとすち−なかたえて−またよりあはぬ−しつのをたまき


07647
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半天にうきてきえぬを身にそ知る猶行く雲のくるる秋風

なかそらに−うきてきえぬを−みにそしる−なほゆくくもの−くるるあきかせ


07648
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茂れ草野中の水に空の雲わするるまなくうかふ面影

しけれくさ−のなかのみつに−そらのくも−わするるまなく−うかふおもかけ


07649
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伊駒山めにみぬ方の浮雲に身を秋しのの里そしくるる

いこまやま−めにみぬかたの−うきくもに−みをあきしのの−さとそしくるる


07650
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暮を待つ思ひやたかくわきのほる雲と成りても日をかくすらん

くれをまつ−おもひやたかく−わきのはる−くもとなりても−ひをかくすらむ


07651
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袖はほせ思ふ方とてわか心行くや雲まの村雨のそら

そてはほせ−おもふかたとて−わかこころ−ゆくやくもまの−むらさめのそら


07652
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おのつから思ひをかくす雲あらは空にみつとも跡やなからん

おのつから−おもひをかくす−くもあらは−そらにみつとも−あとやなからむ


07653
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思ひなき夕の雲のは袖たにぬるるかほなる宿の村雨

おもひなき−ゆふへのくもの−はそてたに−ぬるるかほなる−やとのむらさめ


07654
未入力 正徹 (xxx)

思ふ事うき中空にこる雲のなひかん方をみてや絶えなん

おもふこと−うきなかそらに−こるくもの−なひかむかたを−みてやたえなむ


07655
未入力 正徹 (xxx)

空みれはくへきよひなるささかにのふるまひしるしまたすしもあらす

そらみれは−くへきよひなる−ささかにの−ふるまひしるし−またすしもあらす


07656
未入力 正徹 (xxx)

山のはにとよはた雲をさしあけて恋のやつこのせめくるをみよ

やまのはに−とよはたくもを−さしあけて−こひのやつこの−せめくるをみよ


07657
未入力 正徹 (xxx)

かきくらす涙夜ふかき手枕に独明けゆく鳥の声かな

かきくらす−なみたよふかき−たまくらに−ひとりあけゆく−とりのこゑかな


07658
未入力 正徹 (xxx)

明果つる空さへつらし起きてゆくたか名もしらぬ鳥の八声に

あけはつる−そらさへつらし−おきてゆく−たかなもしらぬ−とりのやこゑに


07659
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暁の八声の鳥の一しきり啼くをもまたすおき別れつつ

あかつきの−やこゑのとりの−ひとしきり−なくをもまたす−おきわかれつつ


07660
未入力 正徹 (xxx)

人たのめあふ夜の鳥はわするともわさとなかせて心みまほし

ひとたのめ−あふよのとりは−わするとも−わさとなかせて−こころみまほし


07661
未入力 正徹 (xxx)

木綿もいな恋ちの関の鳥ならは恨をつけてはなちこそせめ

ゆふもいな−こひちのせきの−とりならは−うらみをつけて−はなちこそせめ


07662
未入力 正徹 (xxx)

啼くとてもわかるる物とならはすは鳥の八声も何かうからん

なくとても−わかるるものと−ならはすは−とりのやこゑも−なにかうからむ


07663
未入力 正徹 (xxx)

数ならぬみ山の鳥の跡なれや名もしらすとて文をたにみす

かすならぬ−みやまのとりの−あとなれや−なもしらすとて−ふみをたにみす


07664
未入力 正徹 (xxx)

かるの子もうきみこもりの思ひにや玉もの床にすたちかぬらん

かるのこも−うきみこもりの−おもひにや−たまものとこに−すたちかぬらむ


07665
未入力 正徹 (xxx)

山かつやさそひもつれんしは鳥の声なしたひそ袖の別ち

やまかつや−さそひもつれむ−しはとりの−こゑなしたひそ−そてのわかれち


07666
未入力 正徹 (xxx)

ゆるさすよ明くる八声の鳥かなく東路ならぬ中の関守

ゆるさすよ−あくるやこゑの−とりかなく−あつまちならぬ−なかのせきもり


07667
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思ふえにいつかはよらむかるのこの芦間かくれにすたち侘ひつつ

おもふえに−いつかはよらむ−かるのこの−あしまかくれに−すたちわひつつ


07668
未入力 正徹 (xxx)

啼く鳥のはね打ちきするかひのこも帰る名つらき暁の空

なくとりの−はねうちきする−かひのこも−かへるなつらき−あかつきのそら


07669
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とふ鳥の跡もうらめしすもりこの帰る世もなき中の契に

とふとりの−あともうらめし−すもりこの−かへるよもなき−なかのちきりに


07670
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あけぬまをねに啼く鳥にゆふ付けてすてはやつらき相坂の関

あけぬまを−ねになくとりに−ゆふつけて−すてはやつらき−あふさかのせき


07671
未入力 正徹 (xxx)

人めのみしけみにみえし鳰鳥の悌残るねこそつきせね

ひとめのみ−しけみにみえし−にほとりの−おもかけのこる−ねこそつきせね


07672
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閨の上に秋のは落ちて待つ人はこすゑの鳥の声そかさなる

ねやのうへに−あきのはおちて−まつひとは−こすゑのとりの−こゑそかさなる


07673
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入ははや軒はのつはめならふさへたた身のためにつらき中かな

ひとははや−のきはのつはめ−ならふさへ−たたみのために−つらきなかかな


07674
未入力 正徹 (xxx)

我もさそかたしや庭の石たたきくたく心はみえん世もなし

われもさそ−かたしやにはの−いしたたき−くたくこころは−みえむよもなし


07675
未入力 正徹 (xxx)

かたらひし夜床を捨てて立つひはり思ひあかるとみるもうらめし

かたらひし−よとこをすてて−たつひはり−おもひあかると−みるもうらめし


07676
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暁をまたねにたてぬ鳥の子のかひ有る夜はの契ともかな

あかつきを−またねにたてぬ−とりのこの−かひあるよはの−ちきりともかな


07677
未入力 正徹 (xxx)

憂き中は秋とたのむの雁かゐるよるの床よも同し契を

うきなかは−あきとたのむの−かりかゐる−よるのとこよも−おなしちきりを


07678
未入力 正徹 (xxx)

いもとあれとねしよそしけき今こそは遠山鳥の岡のやかたに

いもとあれと−ねしよそしけき−いまこそは−とほやまとりの−をかのやかたに


07679
未入力 正徹 (xxx)

事とはむ我そ契は朝鳥のたちさまよふも別れてやうき

こととはむ−われそちきりは−あさとりの−たちさまよふも−わかれてやうき


07680
未入力 正徹 (xxx)

おのれなけ鳥の中にも時しらぬ夕の声を衣衣にして

おのれなけ−とりのうちにも−ときしらぬ−ゆふへのこゑを−きぬきぬにして


07681
未入力 正徹 (xxx)

うつさしな遠くねに行く烏はにかくとも文のありとしらすは

うつさしな−とほくねにゆく−からすはに−かくともふみの−ありとしらすは


07682
未入力 正徹 (xxx)

おなし枝にならはぬ程はなれさへも思ひに身をやこからめの鳴く

おなしえに−ならはぬほとは−なれさへも−おもひにみをや−こからめのなく


07683
未入力 正徹 (xxx)

世世かけてかひこの中に啼く鳥のすくれたるねも誰を恋ふらん

よよかけて−かひこのうちに−なくとりの−すくれたるねも−たれをこふらむ


07684
未入力 正徹 (xxx)

見えさりき契をよそにいそくとも天飛ふ鳥の跡の白くも

みえさりき−ちきりをよそに−いそくとも−あまとふとりの−あとのしらくも


07685
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隔てゆく憂身をよその浜風にくたく涙ややすかたの鳥

へたてゆく−うきみをよその−はまかせに−くたくなみたや−やすかたのとり


07686
未入力 正徹 (xxx)

一方に思ひ入江のす鳥たに浮きてしつまぬ波まあらすや

ひとかたに−おもひいりえの−すとりたに−うきてしつまぬ−なみまあらすや


07687
未入力 正徹 (xxx)

契りしをくゆる心は時過くる鳥のすもりの帰る世もなき

ちきりしを−くゆるこころは−ときすくる−とりのすもりの−かへるよもなき


07688
未入力 正徹 (xxx)

鳰鳥の浮巣に残るかひのこのまたき立つ名そ帰る世もなき

にほとりの−うきすにのこる−かひのこの−またきたつなそ−かへるよもなき


07689
未入力 正徹 (xxx)

ほしやらし憂身の玉の尾長鳥ぬるる草木の露にひかれて

ほしやらし−うきみのたまの−をなかとり−ぬるるくさきの−つゆにひかれて


07690
未入力 正徹 (xxx)

あはぬ夜の積る枕のちり山は鳥のふしとと荒れそ果てぬる

あはぬよの−つもるまくらの−ちりやまは−とりのふしとと−あれそはてぬる


07691
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の憂はしるらん鶏の妻は啼く音もたてぬうらみに

きぬきぬの−うきはしるらむ−にはとりの−つまはなくねも−たてぬうらみに


07692
未入力 正徹 (xxx)

まな鶴のまなく時なき松のはのねくらの霜の下に恋ひつつ

まなつるの−まなくときなき−まつのはの−ねくらのしもの−したにこひつつ


07693
未入力 正徹 (xxx)

川上の夕の雲に飛ふ鳥のあすかたをやめ誰を恋ふらん

かはかみの−ゆふへのくもに−とふとりの−あすかたをやめ−たれをこふらむ


07694
未入力 正徹 (xxx)

庭にきてさかなき事ををしへ鳥苔の筵の露なはらひそ

にはにきて−さかなきことを−をしへとり−こけのむしろの−つゆなはらひそ


07695
未入力 正徹 (xxx)

跡つけよ袖の涙の下くくるならひもしらぬにほの通路

あとつけよ−そてのなみたの−したくくる−ならひもしらぬ−にほのかよひち


07696
未入力 正徹 (xxx)

契りてき波やはこえん白鳥のとはになみえそ末の松山

ちきりてき−なみやはこえむ−しらとりの−とはになみえそ−すゑのまつやま


07697
未入力 正徹 (xxx)

ぬれしよりとてもほされぬ塩風にかけよやせめて袖のうら波

ぬれしより−とてもほされぬ−しほかせに−かけよやせめて−そてのうらなみ


07698
未入力 正徹 (xxx)

かくはかり身にしむ風の心かは吹きつたへてもいかかしられぬ

かくはかり−みにしむかせの−こころかは−ふきつたへても−いかかしられぬ


07699
未入力 正徹 (xxx)

思ふより涙の袖のしからみは風のかけてや露こほるらん

おもふより−なみたのそての−しからみは−かせのかけてや−つゆこほるらむ


07700
未入力 正徹 (xxx)

みしめ縄四手吹く風も我か方になひくはかりのしるしともかな

みしめなは−してふくかせも−わかかたに−なひくはかりの−しるしともかな


07701
未入力 正徹 (xxx)

いかかせんかくこそあれと吹く風をめにみるとても恋しかりせは

いかかせむ−かくこそあれと−ふくかせを−めにみるとても−こひしかりせは


07702
未入力 正徹 (xxx)

さらはこそ閨へもいらめ君か袖ふれけん風の行へしらせよ

さらはこそ−ねやへもいらめ−きみかそて−ふれけむかせの−ゆくへしらせよ


07703
未入力 正徹 (xxx)

袖に吹け君か方へと行く雲の帰りし風はふみならすとも

そてにふけ−きみかかたへと−ゆくくもの−かへりしかせは−ふみならすとも


07704
未入力 正徹 (xxx)

日をかさねほさすよさても涙ゆゑ風をいたまぬ袖は寒くて

ひをかさね−ほさすよさても−なみたゆゑ−かせをいたまぬ−そてはさむくて


07705
未入力 正徹 (xxx)

人心猶かさはやの身をうらに落ちゆく舟の遠さかりつつ

ひとこころ−なほかさはやの−みをうらに−おちゆくふねの−とほさかりつつ


07706
未入力 正徹 (xxx)

見し人のいつの秋風とまりてか夜毎に閨のちりはらふらん

みしひとの−いつのあきかせ−とまりてか−よことにねやの−ちりはらふらむ


07707
未入力 正徹 (xxx)

人心岩木の山に通ふともわかなひかさぬ風はかひなし

ひとこころ−いはきのやまに−かよふとも−わかなひかさぬ−かせはかひなし


07708
未入力 正徹 (xxx)

吹きしほるこよひそ限り難面くて猶こぬ人を松のかさをれ

ふきしほる−こよひそかきり−つれなくて−なほこぬひとを−まつのかさをれ


07709
未入力 正徹 (xxx)

此夕思はぬ方の風そともわきてしらすは袖やぬるらん

このゆふへ−おもはぬかたの−かせそとも−わきてしらすは−そてやぬるらむ


07710
未入力 正徹 (xxx)

たか袖に宿りかねてか過きぬらん空なる風も匂ひ侘ひぬる

たかそてに−やとりかねてか−すきぬらむ−そらなるかせも−にほひわひぬる


07711
未入力 正徹 (xxx)

馴れぬれは手枕うとき真木の戸のすきまの風そもとの身にしむ

なれぬれは−たまくらうとき−まきのとの−すきまのかせそ−もとのみにしむ


07712
未入力 正徹 (xxx)

のかれいる山ともなれと頼み置く床の塵吹く風はうらめし

のかれいる−やまともなれと−たのみおく−とこのちりふく−かせはうらめし


07713
未入力 正徹 (xxx)

さそはれん風の心を先しるやふかぬ梢の花そ散りゆく

さそはれむ−かせのこころを−まつしるや−ふかぬこすゑの−はなそちりゆく


07714
未入力 正徹 (xxx)

をりふせんたよりなきまて中に吹く風の心もあらき浜荻

をりふせむ−たよりなきまて−なかにふく−かせのこころも−あらきはまをき


07715
未入力 正徹 (xxx)

祈りこし神の誓にまかすれは恋にしなとの風もいとはす

いのりこし−かみのちかひに−まかすれは−こひにしなとの−かせもいとはす


07716
未入力 正徹 (xxx)

さそはれていとと思ひの露そもる風のかけたる袖のしからみ

さそはれて−いととおもひの−つゆそもる−かせのかけたる−そてのしからみ


07717
未入力 正徹 (xxx)

積りては山ちと成りぬ辻風のまくとも床の塵はあからし

つもりては−やまちとなりぬ−つしかせの−まくともとこの−ちりはあからし


07718
未入力 正徹 (xxx)

よもいはしそなたの風のたよりにも我か袖ひとつよきて咲けとは

よもいはし−そなたのかせの−たよりにも−わかそてひとつ−よきてさけとは


07719
未入力 正徹 (xxx)

人心吹きあへぬ風の過きぬまにうつろふ色そ草木にもにぬ

ひとこころ−ふきあへぬかせの−すきぬまに−うつろふいろそ−くさきにもにぬ


07720
未入力 正徹 (xxx)

色しるき心の花や世にちらむ思はぬ方の風はよくとも

いろしるき−こころのはなや−よにちらむ−おもはぬかたの−かせはよくとも


07721
未入力 正徹 (xxx)

音よりも人のはけしきうさをのみしののをふふく秋のあはらや

おとよりも−ひとのはけしき−うさをのみ−しののをふふく−あきのあはらや


07722
未入力 正徹 (xxx)

それも猶憂身ふけひのうら風に思ふかたほや遠さかるらん

それもなほ−うきみふけひの−うらかせに−おもふかたほや−とほさかるらむ


07723
未入力 正徹 (xxx)

恋衣身をしる雨のしほるとも色に出てての後やくたさむ

こひころも−みをしるあめの−しほるとも−いろにいてての−のちやくたさむ


07724
未入力 正徹 (xxx)

天つ風雲吹く雨のあしたゆくうきて思ひを何かさぬらん

あまつかせ−くもふくあめの−あしたゆく−うきておもひを−なにかさぬらむ


07725
未入力 正徹 (xxx)

風ませに雨降りあれてさ夜更けぬ待つへきにあらす独かもねん

かせませに−あめふりあれて−さよふけぬ−まつへきにあらす−ひとりかもねむ


07726
未入力 正徹 (xxx)

聞くもうし身をしる雨といふほともなれえぬ中のまやのあまりに

きくもうし−みをしるあめと−いふほとも−なれえぬなかの−まやのあまりに


07727
未入力 正徹 (xxx)

憂身しる袖より外の雨そそきあまり程へぬ中の通ち

うきみしる−そてよりほかの−あまそそき−あまりほとへぬ−なかのかよひち


07728
未入力 正徹 (xxx)

東屋のあまり身をしる雨そそきひたふるまてになる袂かな

あつまやの−あまりみをしる−あまそそき−ひたふるまてに−なるたもとかな


07729
未入力 正徹 (xxx)

頼むなり思ひもかけぬ雨夜にそ契さはらぬ中もしられん

たのむなり−おもひもかけぬ−あまよにそ−ちきりさはらぬ−なかもしられむ


07730
未入力 正徹 (xxx)

はけしかる風にも人をまたせしとしるわさつらき夕暮の雨

はけしかる−かせにもひとを−またせしと−しるわさつらき−ゆふくれのあめ


07731
未入力 正徹 (xxx)

いかてなほたのめてあはぬつらさをは雨夜の品に定めさりけん

いかてなほ−たのめてあはぬ−つらさをは−あまよのしなに−さためさりけむ


07732
未入力 正徹 (xxx)

雨もしれ軒に音する玉水の淡と成りても消えぬおもひを

あめもしれ−のきにおとする−たまみつの−あわとなりても−きえぬおもひを


07733
未入力 正徹 (xxx)

思ひしれねかへはやかていとはしき雨の身にそふ袖の涙を

おもひしれ−ねかへはやかて−いとはしき−あめのみにそふ−そてのなみたを


07734
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣うき名もはやくもりぬれぬ恋やたまらぬあはら屋の雨

さよころも−うきなもはやく−もりぬれぬ−こひやたまらぬ−あはらやのあめ


07735
未入力 正徹 (xxx)

夜半にとふ音はそなたの風なからつらき心をはこふ雨かな

よはにとふ−おとはそなたの−かせなから−つらきこころを−はこふあめかな


07736
未入力 正徹 (xxx)

ほしやせん袖のしくれの雨宿りぬれす立ちよる人にとはれは

ほしやせむ−そてのしくれの−あまやとり−ぬれすたちよる−ひとにとはれは


07737
未入力 正徹 (xxx)

忘れはやさし入の小屋の雨宿りほのみしかほの匂ひはかりを

わすれはや−さしいりのこやの−あまやとり−ほのみしかほの−にほひはかりを


07738
未入力 正徹 (xxx)

浮雲の何にかかれる身ともなしたのめすまたぬ夕暮の雨

うきくもの−なににかかれる−みともなし−たのめすまたぬ−ゆふくれのあめ


07739
未入力 正徹 (xxx)

心たに中にかよはは川波もなとかいもせの山の下道

こころたに−なかにかよはは−かはなみも−なとかいもせの−やまのしたみち


07740
未入力 正徹 (xxx)

いつの世の誰か枕より積りけん我かねし床のちりならぬ山

いつのよの−たかまくらより−つもりけむ−わかねしとこの−ちりならぬやま


07741
未入力 正徹 (xxx)

初瀬路や末吹きよわる山颪はけしかりしそ今は恋しき

はつせちや−すゑふきよわる−やまおろし−はけしかりしそ−いまはこひしき


07742
未入力 正徹 (xxx)

石はしる滝なき山もをり侘ひぬへたつる花の霞はかりに

いしはしる−たきなきやまも−をりわひぬ−へたつるはなの−かすみはかりに


07743
未入力 正徹 (xxx)

枝かはす松も契そ住む鳥のならふはかひの山とたのまん

えたかはす−まつもちきりそ−すむとりの−ならふはかひの−やまとたのまむ


07744
未入力 正徹 (xxx)

衣衣を馴れてもいそく中にみよ帰るいもせの山かつらかは

きぬきぬを−なれてもいそく−なかにみよ−かへるいもせの−やまかつらかは


07745
未入力 正徹 (xxx)

とめおきて山路かへらは俤のよ川の水や袖になかれん

とめおきて−やまちかへらは−おもかけの−よかはのみつや−そてになかれむ


07746
未入力 正徹 (xxx)

涙のみあけの袂も包みえぬ契位の山そ夜ふかき

なみたのみ−あけのたもとも−つつみえぬ−ちきりくらゐの−やまそよふかき


07747
未入力 正徹 (xxx)

絶えはてきあはぬをおほく行く水の山下とよみ名にやたてけん

たえはてき−あはぬをおほく−ゆくみつの−やましたとよみ−なにやたてけむ


07748
未入力 正徹 (xxx)

契のみあさまの嶽の夕煙かれもあせねと山風そ吹く

ちきりのみ−あさまのたけの−ゆふけふり−かれもあせねと−やまかせそふく


07749
未入力 正徹 (xxx)

別ちにけさもならひて横雲の衣衣しらぬ二かみの山

わかれちに−けさもならひて−よこくもの−きぬきぬしらぬ−ふたかみのやま


07750
未入力 正徹 (xxx)

ともしてふ此比もゆる思ひかはさてもあひつの山そはるけき

ともしてふ−このころもゆる−おもひかは−さてもあひつの−やまそはるけき


07751
未入力 正徹 (xxx)

声そせぬもゆるあさまの山ひこもむせふ煙にこたへかぬらん

こゑそせぬ−もゆるあさまの−やまひこも−むせふけふりに−こたへかぬらむ


07752
未入力 正徹 (xxx)

我か心またそ恋ちに帰る山夕の雲になにさそふらん

わかこころ−またそこひちに−かへるやま−ゆふへのくもに−なにさそふらむ


07753
未入力 正徹 (xxx)

分入りし道もけはしき山菅のすけなや人のかりの言の葉

わけいりし−みちもけはしき−やますけの−すけなやひとの−かりのことのは


07754
未入力 正徹 (xxx)

身にそしる神のみ室の山わかれ立行く雲のきゆる思ひを

みにそしる−かみのみむろの−やまわかれ−たちゆくくもの−きゆるおもひを


07755
未入力 正徹 (xxx)

石見潟たつとも波や消えさらん松も高津におろす山風

いはみかた−たつともなみや−きえさらむ−まつもたかつに−おろすやまかせ


07756
未入力 正徹 (xxx)

思ひ入る山もあらはにこり果てぬ遠きなけきのもとの身にして

おもひいる−やまもあらはに−こりはてぬ−とほきなけきの−もとのみにして


07757
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玉かつらかけて恋ひめやほのみえし夕かみ山のよそのうしろて

たまかつら−かけてこひめや−ほのみえし−ゆふかみやまの−よそのうしろて


07758
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せく水もすまはやすまん奥山の岩かきこむる思ひありとも

せくみつも−すまはやすまむ−おくやまの−いはかきこむる−おもひありとも


07759
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我か心たえねけはしき道分けて思ひ入りにし山の岩かと

わかこころ−たえねけはしき−みちわけて−おもひいりにし−やまのいはかと


07760
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神の代に生れし山も心あらは思ふいもせの中なへたてそ

かみのよに−うまれしやまも−こころあらは−おもふいもせの−なかなへたてそ


07761
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契りしは夕の雲の山のはにたえてみえしも猶跡そなき

ちきりしは−ゆふへのくもの−やまのはに−たえてみえしも−なほあとそなき


07762
未入力 正徹 (xxx)

いもせ山中に衣のわかれぬや契りしままの世世のしら雲

いもせやま−なかにころもの−わかれぬや−ちきりしままの−よよのしらくも


07763
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立消えしいなはの峰の山かつら松にかかれる夕暮もなし

たちきえし−いなはのみねの−やまかつら−まつにかかれる−ゆふくれもなし


07764
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いふき山もえて思ひのある世とや峰にも雲の立ちかくすらん

いふきやま−もえておもひの−あるよとや−みねにもくもの−たちかくすらむ


07765
未入力 正徹 (xxx)

さ夜も又をくらか峰にやすらはて別馴れたる雲もうらめし

さよもまた−をくらかみねに−やすらはて−わかれなれたる−くももうらめし


07766
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言の葉もうつろひぬとや水くきの岡の葛原色かはるらん

ことのはも−うつろひぬとや−みつくきの−をかのくすはら−いろかはるらむ


07767
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かへりてや袖にこほれん風のまも心岡への葛のした露

かへりてや−そてにこほれむ−かせのまも−こころをかへの−くすのしたつゆ


07768
未入力 正徹 (xxx)

ことのはにいかはかりかはさわかれんとはは人めの岡のかやはら

ことのはに−いかはかりかは−さわかれむ−とははひとめの−をかのかやはら


07769
未入力 正徹 (xxx)

とはしよも契る岡への松にたに雲ゐるへくもあらし吹くよを

とはしよも−ちきるをかへの−まつにたに−くもゐるへくも−あらしふくよを


07770
未入力 正徹 (xxx)

夕日さすむかひの岡に夕草のとくともほさぬ露な乱れそ

ゆふひさす−むかひのをかに−ゆふくさの−とくともほさぬ−つゆなみたれそ


07771
未入力 正徹 (xxx)

たのむ夜は遠き高ねの岡のまへいく松風の暮へたつらん

たのむよは−とほきたかねの−をかのまへ−いくまつかせの−くれへたつらむ


07772
未入力 正徹 (xxx)

木高くてこむ世にみえよ契置く岡への小松宿のしるしは

こたかくて−こむよにみえよ−ちきりおく−をかへのこまつ−やとのしるしは


07773
未入力 正徹 (xxx)

しらさりし思ひやからき契たにたかしほいとふ岡のへの宿

しらさりし−おもひやからき−ちきりたに−たかしほいとふ−をかのへのやと


07774
未入力 正徹 (xxx)

さりともとことしも心長岡にいよいよみまくほしき暮かな

さりともと−ことしもこころ−なかをかに−いよいよみまく−ほしきくれかな


07775
未入力 正徹 (xxx)

契りしを人こそ忘れやす川にたつ網代木の身をくたくらん

ちきりしを−ひとこそわすれ−やすかはに−たつあしろきの−みをくたくらむ


07776
未入力 正徹 (xxx)

末そうきひとつ思ひを川島に心わけゆく水の契りは

すゑそうき−ひとつおもひを−かはしまに−こころわけゆく−みつのちきりは


07777
未入力 正徹 (xxx)

思ひかねあくかれ出つる玉川をせくなよ君か宿のしからみ

おもひかね−あくかれいつる−たまかはを−せくなよきみか−やとのしからみ


07778
未入力 正徹 (xxx)

たのめてもいまたひかたの川波よ夕暮いそけ春の雲霧

たのめても−いまたひかたの−かはなみよ−ゆふくれいそけ−はるのくもきり


07779
未入力 正徹 (xxx)

かみや川氷の上にかすかかはとけぬ契りやあらはならまし

かみやかは−こほりのうへに−かすかかは−とけぬちきりや−あらはならまし


07780
未入力 正徹 (xxx)

ならふへき人もいつかはこも枕高瀬の淀のむなし川なみ

ならふへき−ひともいつかは−こもまくら−たかせのよとの−むなしかはなみ


07781
未入力 正徹 (xxx)

ひのくまや隙ゆく駒はととむともみし川よとに影やなからん

ひのくまや−ひまゆくこまは−ととむとも−みしかはよとに−かけやなからむ


07782
未入力 正徹 (xxx)

朽ちにけり吉野の川のみをつくしたつき心の末のしるしは

くちにけり−よしののかはの−みをつくし−たつきこころの−すゑのしるしは


07783
未入力 正徹 (xxx)

うかりけり分行く水の二心又たか方に川しまの松

うかりけり−わけゆくみつの−ふたこころ−またたかかたに−かはしまのまつ


07784
未入力 正徹 (xxx)

山川や契浅せのなる声もうき名をたつる波かとそきく

やまかはや−ちきりあさせの−なるこゑも−うきなをたつる−なみかとそきく


07785
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ふかからすみしは程なくせ絶して我かかた淵にあまる川波

ふかからす−みしはほとなく−せたえして−わかかたふちに−あまるかはなみ


07786
未入力 正徹 (xxx)

あさか山沼の浮草方よりてかつみし水のかけも忘れぬ

あさかやま−ぬまのうきくさ−かたよりて−かつみしみつの−かけもわすれぬ


07787
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恋すてふたか世かとめし玉津島袖に入江のあまもひろはて

こひすてふ−たかよかとめし−たまつしま−そてにいりえの−あまもひろはて


07788
未入力 正徹 (xxx)

たえぬとてをしみやはせん玉のをもほそ江の芦のねみぬ思ひに

たえぬとて−をしみやはせむ−たまのをも−ほそえのあしの−ねみぬおもひに


07789
未入力 正徹 (xxx)

かつきせぬ苫屋のあまのぬれ衣を猶きさ潟の秋の塩風

かつきせぬ−とまやのあまの−ぬれきぬを−なほきさかたの−あきのしほかせ


07790
未入力 正徹 (xxx)

波もかくかるるまてやはをりふせん人の心にあらき浜荻

なみもかく−かるるまてやは−をりふせむ−ひとのこころに−あらきはまをき


07791
未入力 正徹 (xxx)

かさねつる契むなしく明石より又うと浜のあまのは衣

かさねつる−ちきりむなしく−あかしより−またうとはまの−あまのはころも


07792
未入力 正徹 (xxx)

契のみ朽ちにし袖の湊江にそれもかよはぬあまの捨舟

ちきりのみ−くちにしそての−みなとえに−それもかよはぬ−あまのすてふね


07793
未入力 正徹 (xxx)

人心さてもやいなの湊舟夜るみつ塩に遠さかるらん

ひとこころ−さてもやいなの−みなとふね−よるみつしほに−とほさかるらむ


07794
未入力 正徹 (xxx)

まとろまぬうきねを夢に湊川名におふ袖の下にせきつつ

まとろまぬ−うきねをゆめに−みなとかは−なにおふそての−したにせきつつ


07795
未入力 正徹 (xxx)

からくなと袖の波こす玉ゆらの湊さしこし塩のほるらん

からくなと−そてのなみこす−たまゆらの−みなとさしこし−しほのほるらむ


07796
未入力 正徹 (xxx)

たきやせんわか身のうらのあまりつむなけきは尽きぬもしほなりとも

たきやせむ−わかみのうらの−あまりつむ−なけきはつきぬ−もしほなりとも


07797
未入力 正徹 (xxx)

何にかはゆかりをよせん紫の上野に生ひぬすまのうらなみ

なににかは−ゆかりをよせむ−むらさきの−うへのにおひぬ−すまのうらなみ


07798
未入力 正徹 (xxx)

すまのあまの身をうら風もほしはつる涙ま遠の衣ともなれ

すまのあまの−みをうらかせも−ほしはつる−なみたまとほの−ころもともなれ


07799
未入力 正徹 (xxx)

袖こえて石はしるとはみえすとも滝つ心の花はをられし

そてこえて−いしはしるとは−みえすとも−たきつこころの−はなはをられし


07800
未入力 正徹 (xxx)

これや此くろきすちなき滝川の老と成るまてあふせ白波

これやこの−くろきすちなき−たきかはの−おいとなるまて−あふせしらなみ


07801
未入力 正徹 (xxx)

おちよとてゆるす涙の滝枕身をなかさすは猶も浅せそ

おちよとて−ゆるすなみたの−たきまくら−みをなかさすは−なほもあさせそ


07802
未入力 正徹 (xxx)

いつよりか沢にさまよふ身と成りてねせりもつまぬ袖ぬらすらん

いつよりか−さはにさまよふ−みとなりて−ねせりもつまぬ−そてぬらすらむ


07803
未入力 正徹 (xxx)

憂き中の水もりやすき契とはなかれての名の立つにてそしる

うきなかの−みつもりやすき−ちきりとは−なかれてのなの−たつにてそしる


07804
未入力 正徹 (xxx)

つるへなは心ふか井におよはすはたれ汲みしらむおもふ水底

つるへなは−こころふかゐに−およはすは−たれくみしらむ−おもふみなそこ


07805
未入力 正徹 (xxx)

おほほえすいつより袖にならひけんかけぬ朽木の杣川のなみ

おほほえす−いつよりそてに−ならひけむ−かけぬくちきの−そまかはのなみ


07806
未入力 正徹 (xxx)

言の葉の色を見せてもみなれ木のめつらしけなき中やいとはん

ことのはの−いろをみせても−みなれきの−めつらしけなき−なかやいとはむ


07807
未入力 正徹 (xxx)

いとせめて消えは共にと契りおけあるをたのまぬはは木木の露

いとせめて−きえはともにと−ちきりおけ−あるをたのまぬ−ははききのつゆ


07808
未入力 正徹 (xxx)

思ひしれつらき心のおく山にたつをたまきのこりぬ心を

おもひしれ−つらきこころの−おくやまに−たつをたまきの−こりぬこころを


07809
未入力 正徹 (xxx)

それもうし恋に捨ててしうち川の森の木玉のけたぬ命は

それもうし−こひにすててし−うちかはの−もりのこたまの−けたぬいのちは


07810
未入力 正徹 (xxx)

我か袖にひろひかくさん山陰や秋の木のみも落つる涙を

わかそてに−ひろひかくさむ−やまかけや−あきのこのみも−おつるなみたを


07811
未入力 正徹 (xxx)

身そつらき君やは思ひとかの木のましるかや原色もかはらて

みそつらき−きみやはおもひ−とかのきの−ましるかやはら−いろもかはらて


07812
未入力 正徹 (xxx)

さのみなとくたく心そ恋の山人にはそはぬたつきなき身を

さのみなと−くたくこころそ−こひのやま−ひとにはそはぬ−たつきなきみを


07813
未入力 正徹 (xxx)

忘れすはたれか心をおく山にたつをたまきの千世もへさらん

わすれすは−たれかこころを−おくやまに−たつをたまきの−ちよもへさらむ


07814
未入力 正徹 (xxx)

いかさまに椎の下葉は秋なから色かはらはそ露もうらみん

いかさまに−しひのしたはは−あきなから−いろかはらはそ−つゆもうらみむ


07815
未入力 正徹 (xxx)

なかれての名取川なる埋木はうき出ててこそしからみもあれ

なかれての−なとりかはなる−うもれきは−うきいててこそ−しからみもあれ


07816
未入力 正徹 (xxx)

まつとなき心に恋や宿木のかれぬ思ひの種と成りけん

まつとなき−こころにこひや−やとりきの−かれぬおもひの−たねとなりけむ


07817
未入力 正徹 (xxx)

色にそむ心なくてはいかかせん人はみ山の岩木ならすは

いろにそむ−こころなくては−いかかせむ−ひとはみやまの−いはきならすは


07818
未入力 正徹 (xxx)

賎かてにくりもかへさぬおく山やたつをたまきのくたけてそうき

しつかてに−くりもかへさぬ−おくやまや−たつをたまきの−くたけてそうき


07819
未入力 正徹 (xxx)

山川に行く流木のとまるせよしはしまてなとからき姿そ

やまかはに−ゆくなかれきの−とまるせよ−しはしまてなと−からきすかたそ


07820
未入力 正徹 (xxx)

憂き中は秋の木のはの木からしに今はの心つくはねの松

うきなかは−あきのこのはの−こからしに−いまはのこころ−つくはねのまつ


07821
未入力 正徹 (xxx)

いつのまに埋木ならて名取川水もまさらぬせにうかひけん

いつのまに−うもれきならて−なとりかは−みつもまさらぬ−せにうかひけむ


07822
未入力 正徹 (xxx)

下露に雨さへもりの木のす玉はかりし恋や宇治の里人

したつゆに−あめさへもりの−きのすたま−はかりしこひや−うちのさとひと


07823
未入力 正徹 (xxx)

あへす世に立つ太山木の名もしらぬたくひとならて身をくたくらん

あへすよに−たつみやまきの−なもしらぬ−たくひとならて−みをくたくらむ


07824
未入力 正徹 (xxx)

名取川あらはれし後は何かせん雨のみかさのせせの埋木

なとりかは−あらはれしのちは−なにかせむ−あめのみかさの−せせのうもれき


07825
未入力 正徹 (xxx)

月はとへ人にはいはて松のはのこけのみたれて嵐ふく夜を

つきはとへ−ひとにはいはて−まつのはの−こけのみたれて−あらしふくよを


07826
未入力 正徹 (xxx)

影移る汀の杉のはつせ川色かはらすは又もあひみん

かけうつる−みきはのすきの−はつせかは−いろかはらすは−またもあひみむ


07827
未入力 正徹 (xxx)

君か住む宿の若木の杉のはもわか思ふたけに生ひはのほらし

きみかすむ−やとのわかきの−すきのはも−わかおもふたけに−おひはのほらし


07828
未入力 正徹 (xxx)

尋ねても思ひははれしあや杉のあやめもみえぬしるしありとは

たつねても−おもひははれし−あやすきの−あやめもみえぬ−しるしありとは


07829
未入力 正徹 (xxx)

行末の色はかはらし憂きなから杉のもと葉そあへす枯行く

ゆくすゑの−いろはかはらし−うきなから−すきのもとはそ−あへすかれゆく


07830
未入力 正徹 (xxx)

人心八度霜おく榊はにつれなき色は猶やまさらん

ひとこころ−やたひしもおく−さかきはに−つれなきいろは−なほやまさらむ


07831
未入力 正徹 (xxx)

神かけてをらはやをらん榊はのかをなつかしみ露をしるへに

かみかけて−をらはやをらむ−さかきはの−かをなつかしみ−つゆをしるへに


07832
未入力 正徹 (xxx)

九重や霜夜にうたふ榊はの袖をりかへし独かもねん

ここのへや−しもよにうたふ−さかきはの−そてをりかへし−ひとりかもねむ


07833
未入力 正徹 (xxx)

野の宮や八重の榊のははかりも忘れね心入かたの月

ののみやや−やへのさかきの−ははかりも−わすれねこころ−いりかたのつき


07834
未入力 正徹 (xxx)

歎きつつ恋に命の長かしは葉を守る神もみるやつれなき

なけきつつ−こひにいのちの−なかかしは−はをもるかみも−みるやつれなき


07835
未入力 正徹 (xxx)

たか秋を峰の尾花か本柏思ひある草と色かはるらん

たかあきを−みねのをはなか−もとかしは−おもひあるくさと−いろかはるらむ


07836
未入力 正徹 (xxx)

有りし世の契りをたれに柏木の落は時雨のふることそなき

ありしよの−ちきりをたれに−かしはきの−おちはしくれの−ふることそなき


07837
未入力 正徹 (xxx)

ちらはちれたのめ馴れにし夕暮をなかめかしはも色かはる秋

ちらはちれ−たのめなれにし−ゆふくれを−なかめかしはも−いろかはるあき


07838
未入力 正徹 (xxx)

暮毎になかめかしはのぬるをみてあはぬ歎の露そこほるる

くれことに−なかめかしはの−ぬるをみて−あはぬなけきの−つゆそこほるる


07839
未入力 正徹 (xxx)

ちらせ風なかむれは又我かむねに三葉柏の色かはる秋

ちらせかせ−なかむれはまた−わかむねに−みつはかしはの−いろかはるあき


07840
未入力 正徹 (xxx)

露もなと清き川原の心なく秋の楸の色にそむらん

つゆもなと−きよきかはらの−こころなく−あきのひさきの−いろにそむらむ


07841
未入力 正徹 (xxx)

月もしれひはらの陰にすむ身かはくもるは袖の涙ならすや

つきもしれ−ひはらのかけに−すむみかは−くもるはそての−なみたならすや


07842
未入力 正徹 (xxx)

暮毎につらしとたれをみわの山桧原もくもる涙をそかる

くれことに−つらしとたれを−みわのやま−ひはらもくもる−なみたをそかる


07843
未入力 正徹 (xxx)

にふの川なかさぬ山に立つ槙もつひにうきせに身をそくたかん

にふのかは−なかさぬやまに−たつまきも−つひにうきせに−みをそくたかむ


07844
未入力 正徹 (xxx)

身にそとふすみこし人はならのはのうつろひ果つる秋の都を

みにそとふ−すみこしひとは−ならのはの−うつろひはつる−あきのみやこを


07845
未入力 正徹 (xxx)

はらへ風ゆるさぬ中のゆかりうきははその森のあらき言の葉

はらへかせ−ゆるさぬなかの−ゆかりうき−ははそのもりの−あらきことのは


07846
未入力 正徹 (xxx)

をられしな月の桂の花の枝は此世に移る心ありとも

をられしな−つきのかつらの−はなのえは−このよにうつる−こころありとも


07847
未入力 正徹 (xxx)

をりをりにかれも茂りも隙なきや我か恋草のならひなるらん

をりをりに−かれもしけりも−ひまなきや−わかこひくさの−ならひなるらむ


07848
未入力 正徹 (xxx)

秋よりも露そこほるる時過きて草を冬野とかれし契に

あきよりも−つゆそこほるる−ときすきて−くさをふゆのと−かれしちきりに


07849
未入力 正徹 (xxx)

通ひこし庭の蓬の仙杣かたやつひになけきのもとと成るらん

かよひこし−にはのよもきの−そまかたや−つひになけきの−もととなるらむ


07850
未入力 正徹 (xxx)

秋ならぬ色にいてめや初草のうらなく物は思ひありとも

あきならぬ−いろにいてめや−はつくさの−うらなくものは−おもひありとも


07851
未入力 正徹 (xxx)

うらみこし草を冬野の契たになへての後の霜の通ち

うらみこし−くさをふゆのの−ちきりたに−なへてののちの−しものかよひち


07852
未入力 正徹 (xxx)

つらき身をしるにつけても我か宿と頼む葎の陰そ露けき

つらきみを−しるにつけても−わかやとと−たのむむくらの−かけそつゆけき


07853
未入力 正徹 (xxx)

人心尾花か本の思ひにもあらぬ契りの末そかれゆく

ひとこころ−をはなかもとの−おもひにも−あらぬちきりの−すゑそかれゆく


07854
未入力 正徹 (xxx)

もらさしよいつまて草の秋の露おふてふかへもきかははつかし

もらさしよ−いつまてくさの−あきのつゆ−おふてふかへも−きかははつかし


07855
未入力 正徹 (xxx)

枯れやらぬ冬野の草の露はかり残す契りの色もうらめし

かれやらぬ−ふゆののくさの−つゆはかり−のこすちきりの−いろもうらめし


07856
未入力 正徹 (xxx)

いかか吹く尾花かもとの野への草しほれしままの袖の秋風

いかかふく−をはなかもとの−のへのくさ−しほれしままの−そてのあきかせ


07857
未入力 正徹 (xxx)

憂身しる涙のち原紅にそめては帰る宿の通ひち

うきみしる−なみたのちはら−くれなゐに−そめてはかへる−やとのかよひち


07858
未入力 正徹 (xxx)

待つ人は梢も高き蓬生に心くたくる露の夕風

まつひとは−こすゑもたかき−よもきふに−こころくたくる−つゆのゆふかせ


07859
未入力 正徹 (xxx)

夜のまにも我か恋草をかりつみて山としなさは雲やかからん

よのまにも−わかこひくさを−かりつみて−やまとしなさは−くもやかからむ


07860
未入力 正徹 (xxx)

露霜の尾花かもとの秋にあふ草はもたへすかるる色かな

つゆしもの−をはなかもとの−あきにあふ−くさはもたへす−かるるいろかな


07861
未入力 正徹 (xxx)

春よたた結ふ契りのかれしより憂き若草のつまなしの花

はるよたた−むすふちきりの−かれしより−うきわかくさの−つまなしのはな


07862
未入力 正徹 (xxx)

尋ねみよ草を冬野の契たに春待つ雪のしたのみとりを

たつねみよ−くさをふゆのの−ちきりたに−はるまつゆきの−したのみとりを


07863
未入力 正徹 (xxx)

たか心あさにひかれて絶えぬらんかれし蓬かもとの契は

たかこころ−あさにひかれて−たえぬらむ−かれしよもきか−もとのちきりは


07864
未入力 正徹 (xxx)

宿にたに草の戸さしのさはりおほみたれ芦分の小舟待つらん

やとにたに−くさのとさしの−さはりおほみ−たれあしわけの−をふねまつらむ


07865
未入力 正徹 (xxx)

露結ふ契りも絶えて朽ちそ行く尾花か本の草を冬野は

つゆむすふ−ちきりもたえて−くちそゆく−をはなかもとの−くさをふゆのは


07866
未入力 正徹 (xxx)

村薄いつまていもか手枕にかしけてたてる野への霜かな

むらすすき−いつまていもか−たまくらに−かしけてたてる−のへのしもかな


07867
未入力 正徹 (xxx)

門近く忍ふ車はととむともここに蓬のまろねをはみし

かとちかく−しのふくるまは−ととむとも−ここによもきの−まろねをはみし


07868
未入力 正徹 (xxx)

此国のいまた芦原なりし世にたれ憂ふしを歎初むらん

このくにの−いまたあしはら−なりしよに−たれうきふしを−なけきそむらむ


07869
未入力 正徹 (xxx)

難波人思ひを小屋にたきあかし芦のいとなき賎のをたまき

なにはひと−おもひをこやに−たきあかし−あしのいとなき−しつのをたまき


07870
未入力 正徹 (xxx)

つれもなき人に心の下折はみたるる萱か霜の明ほの

つれもなき−ひとにこころの−したをれは−みたるるかやか−しものあけほの


07871
未入力 正徹 (xxx)

今はとて身をもかくさすますけよき笠のかりてのとけぬ契に

いまはとて−みをもかくさす−ますけよき−かさのかりての−とけぬちきりに


07872
未入力 正徹 (xxx)

人心からしやにほの浦波にしほつすか原根さへ朽つらん

ひとこころ−からしやにほの−うらなみに−しほつすかはら−ねさへくつらむ


07873
未入力 正徹 (xxx)

しのふ江のみしますかかさ打ちきつつ身をかくしてもよそにたにみむ↓

しのふえの−みしますかかさ−うちきつつ−みをかくしても−よそにたにみむ


07874
未入力 正徹 (xxx)

契のみさて山沢にねを絶えてすけなや人のかれしままなる

ちきりのみ−さてやまさはに−ねをたえて−すけなやひとの−かれしままなる


07875
未入力 正徹 (xxx)

人心こすけかりにもなひかすは袖のみぬれて山沢の水

ひとこころ−こすけかりにも−なひかすは−そてのみぬれて−やまさはのみつ


07876
未入力 正徹 (xxx)

さのみわか心もひかしいへはえに岩もとこ菅乱れ侘ひぬる

さのみわか−こころもひかし−いへはえに−いはもとこすけ−みたれわひぬる


07877
未入力 正徹 (xxx)

憂き数を心にとふのすか筵名のみなき世にちりの秋風

うきかすを−こころにとふの−すかむしろ−なのみなきよに−ちりのあきかせ


07878
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我か門をすけの小車すけなくも前渡りする月白くして

わかかとを−すけのをくるま−すけなくも−まへわたりする−つきしろくして


07879
未入力 正徹 (xxx)

霜よりも人のかよはぬ心こそむすはてからせ宿の道芝

しもよりも−ひとのかよはぬ−こころこそ−むすはてからせ−やとのみちしは


07880
未入力 正徹 (xxx)

朝露も袖のよそにそ消果つる別に分けぬ宿の道芝

あさつゆも−そてのよそにそ−きえはつる−わかれにわけぬ−やとのみちしは


07881
未入力 正徹 (xxx)

一筋に思ひけるかな九重のきり芝広き野への恋ちを

ひとすちに−おもひけるかな−ここのへの−きりしはひろき−のへのこひちを


07882
未入力 正徹 (xxx)

水まさり川への茅原露霜にあはぬねかるる波は越えつつ

みつまさり−かはへのちはら−つゆしもに−あはぬねかるる−なみはこえつつ


07883
未入力 正徹 (xxx)

人はしれ身をうき草にかへつつも柳の花のなひく心を

ひとはしれ−みをうきくさに−かへつつも−やなきのはなの−なひくこころを


07884
未入力 正徹 (xxx)

たのますよにほのかよはぬ萍もねを絶えやすき水の契は

たのますよ−にほのかよはぬ−うきくさも−ねをたえやすき−みつのちきりは


07885
未入力 正徹 (xxx)

涙のみさそふ水あれといなんとも思はぬ中にまよふ浮草

なみたのみ−さそふみつあれと−いなむとも−おもはぬなかに−まよふうきくさ


07886
未入力 正徹 (xxx)

ぬるかうちの涙の水のうき草や枕によりて夢さそふらん

ぬるかうちの−なみたのみつの−うきくさや−まくらによりて−ゆめさそふらむ


07887
未入力 正徹 (xxx)

我か心乱れし果やみくまのの苔地くるしき露を分くらん

わかこころ−みたれしはてや−みくまのの−こけちくるしき−つゆをわくらむ


07888
未入力 正徹 (xxx)

しらし身をうつまは苔の下こかれ露さへかれん野へは問ふとも

しらしみを−うつまはこけの−したこかれ−つゆさへかれむ−のへはとふとも


07889
未入力 正徹 (xxx)

うつもれん苔の下道猶絶えてとはすはありとも松の夕風

うつもれむ−こけのしたみち−なほたえて−とはすはありとも−まつのゆふかせ


07890
未入力 正徹 (xxx)

恋ゆゑと誰かはしらん道のへの岩ほのつかに苔ふりぬとも

こひゆゑと−たれかはしらむ−みちのへの−いはほのつかに−こけふりぬとも


07891
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此世にて恨残さしうつもれん苔の下はふ葛もこそあれ

このよにて−うらみのこさし−うつもれむ−こけのしたはふ−くすもこそあれ


07892
未入力 正徹 (xxx)

玉かつらかけて幾世の秋の色をうらみよとてや下葉染むらん

たまかつら−かけていくよの−あきのいろを−うらみよとてや−したはそむらむ


07893
未入力 正徹 (xxx)

憂ふしも忘れぬ世世を隔てきて篠分くるあさの袖の別ち

うきふしも−わすれぬよよを−へたてきて−ささわくるあさの−そてのわかれち


07894
未入力 正徹 (xxx)

人はこて風のさわかす心さへ同し葉分の道のささはら

ひとはこて−かせのさわかす−こころさへ−おなしはわけの−みちのささはら


07895
未入力 正徹 (xxx)

朝ひこのさすか夕そ頼まるる篠のくまなき心ならひに

あさひこの−さすかゆふへそ−たのまるる−ささのくまなき−こころならひに


07896
未入力 正徹 (xxx)

憂ふしもなきはうらめしかり枕しののを篠の露の明くれ

うきふしも−なきはうらめし−かりまくら−しののをささの−つゆのあけくれ


07897
未入力 正徹 (xxx)

枕とて誰にか袖をかしけたる篠のよませに成る契かな

まくらとて−たれにかそてを−かしけたる−ささのよませに−なるちきりかな


07898
未入力 正徹 (xxx)

うらめしやなひきなからもなよ竹のをるへくもなき人の心は

うらめしや−なひきなからも−なよたけの−をるへくもなき−ひとのこころは


07899
未入力 正徹 (xxx)

とふ人の涙そめおく紫の竹の一もと宿に露けき

とふひとの−なみたそめおく−むらさきの−たけのひともと−やとにつゆけき


07900
未入力 正徹 (xxx)

末終になひきにけりな木にもあらす草にもあらぬ心よわさほ

すゑつひに−なひきにけりな−きにもあらす−くさにもあらぬ−こころよわさは


07901
未入力 正徹 (xxx)

たのめしをまつにもあらぬ竹のよのはしにおき出ててあかしかねつつ

たのめしを−まつにもあらぬ−たけのよの−はしにおきいてて−あかしかねつつ


07902
未入力 正徹 (xxx)

色かへぬ思ひをいかかしの竹の忍ひしふしも遠く成る世に

いろかへぬ−おもひをいかか−しのたけの−しのひしふしも−とほくなるよに


07903
未入力 正徹 (xxx)

契りしもうき名はよそにちりの世の花にあたなる色やまさらん

ちきりしも−うきなはよそに−ちりのよの−はなにあたなる−いろやまさらむ


07904
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣うつりあへぬや紅のうす花染の契なるらむ

さよころも−うつりあへぬや−くれなゐの−うすはなそめの−ちきりなるらむ


07905
未入力 正徹 (xxx)

たのめとやならへる枝の契たにうつろふ花に春の夕風

たのめとや−ならへるえたの−ちきりたに−うつろふはなに−はるのゆふかせ


07906
未入力 正徹 (xxx)

身にしむもことわりしらぬ秋風になにそはつらき桐のはの雨

みにしむも−ことわりしらぬ−あきかせに−なにそはつらき−きりのはのあめ


07907
未入力 正徹 (xxx)

我か心あまのしきものしき波に夜るは乱れてねん方もなし

わかこころ−あまのしきもの−しきなみに−よるはみたれて−ねむかたもなし


07908
未入力 正徹 (xxx)

我からと身をこそくたけ心なきあまのかるもに乱れ侘ひつつ

われからと−みをこそくたけ−こころなき−あまのかるもに−みたれわひつつ


07909
未入力 正徹 (xxx)

思ひ川うき水底に流ものいつねをたえん時そともなく

おもひかは−うきみなそこに−なかれもの−いつねをたえむ−ときそともなく


07910
未入力 正徹 (xxx)

うき枕かへる波にもわきもかもすそ忘れぬ磯の草かな

うきまくら−かへるなみにも−わきもこか−もすそわすれぬ−いそのくさかな


07911
未入力 正徹 (xxx)

思ひ川つひにせによるなひきもをみよかし波にそむきやはする

おもひかは−つひにせによる−なひきもを−みよかしなみに−そむきやはする


07912
未入力 正徹 (xxx)

乱れゆく心の果や渚こくもかり小舟のつなてたゆらん

みたれゆく−こころのはてや−なきさこく−もかりをふねの−つなてたゆらむ


07913
未入力 正徹 (xxx)

衣衣のうき乱れものくろかみに床の涙の川風そふく

きぬきぬの−うきみたれもの−くろかみに−とこのなみたの−かはかせそふく


07914
未入力 正徹 (xxx)

我か心あまの人めも渚こくもかり小舟のみたれてそ行く

わかこころ−あまのひとめも−なきさこく−もかりをふねの−みたれてそゆく


07915
未入力 正徹 (xxx)

絶えすとふ水の心になひきものこそにみたれぬ契をそまつ

たえすとふ−みつのこころに−なひきもの−こそにみたれぬ−ちきりをそまつ


07916
未入力 正徹 (xxx)

しらさりき又たか方になひきもの水底ふかく分くる心を

しらさりき−またたかかたに−なひきもの−みなそこふかく−わくるこころを


07917
未入力 正徹 (xxx)

思ふ江にそことよるへも渚こくもかりを舟そ綱手くるしき

おもふえに−そことよるへも−なきさこく−もかりをふねそ−つなてくるしき


07918
未入力 正徹 (xxx)

とにかくに忍ふはくるし中中に乱れてみよや露のかや原

とにかくに−しのふはくるし−なかなかに−みたれてみよや−つゆのかやはら


07919
未入力 正徹 (xxx)

草の原むすひも果てぬ秋風を誰かしめちか露頼むらん

くさのはら−むすひもはてぬ−あきかせを−たれかしめちか−つゆたのむらむ


07920
未入力 正徹 (xxx)

尋ぬとも草の原をは何かせんいきて有る世のうちにとはすは

たつぬとも−くさのはらをは−なにかせむ−いきてあるよの−うちにとはすは


07921
未入力 正徹 (xxx)

それならぬ露を袂に分来ても身にそしめちか原の秋風

それならぬ−つゆをたもとに−わけきても−みにそしめちか−はらのあきかせ


07922
未入力 正徹 (xxx)

草の原とへと白玉露消えてかはらぬ月にやとる面影

くさのはら−とへとしらたま−つゆきえて−かはらぬつきに−やとるおもかけ


07923
未入力 正徹 (xxx)

草の原尋ねは露も哀とはみゆなよわれを人そいとひし

くさのはら−たつねはつゆも−あはれとは−みゆなよわれを−ひとそいとひし


07924
未入力 正徹 (xxx)

さしも草もゆる思ひのままならはしめちか原やあさまならまし

さしもくさ−もゆるおもひの−ままならは−しめちかはらや−あさまならまし


07925
未入力 正徹 (xxx)

やたののや契と峰の初雪にうつろふ秋の原の浅芽生

やたののや−ちきりとみねの−はつゆきに−うつろふあきの−はらのあさちふ


07926
未入力 正徹 (xxx)

秋風のとへとよる波声もせす契りし草の原の池水

あきかせの−とへとよるなみ−こゑもせす−ちきりしくさの−はらのいけみつ


07927
未入力 正徹 (xxx)

頼みてもうつろふ草をさのみなと思ひしめちか原の下露

たのみても−うつろふくさを−さのみなと−おもひしめちか−はらのしたつゆ


07928
未入力 正徹 (xxx)

思ひのみしけきもしらし昨日たにとはぬ生田の森の下草

おもひのみ−しけきもしらし−きのふたに−とはぬいくたの−もりのしたくさ


07929
未入力 正徹 (xxx)

後とたにかけよやよそにもりの露うき田のみしめ朽ちぬ契に

のちとたに−かけよやよそに−もりのつゆ−うきたのみしめ−くちぬちきりに


07930
未入力 正徹 (xxx)

言の葉にかけしもいさや白波のよする渚の森の秋風

ことのはに−かけしもいさや−しらなみの−よするなきさの−もりのあきかせ


07931
未入力 正徹 (xxx)

思ふとは空吹く風の便にもいかかいはせの森のことのは

おもふとは−そらふくかせの−たよりにも−いかかいはせの−もりのことのは


07932
未入力 正徹 (xxx)

もしほ焼く芦のしの屋の隙をあらみ忍ひにたつる煙たになし

もしほやく−あしのしのやの−ひまをあらみ−しのひにたつる−けふりたになし


07933
未入力 正徹 (xxx)

朝川の水の煙や恋すてふ人の身なけし思ひなるらん

あさかはの−みつのけふりや−こひすてふ−ひとのみなけし−おもひなるらむ


07934
未入力 正徹 (xxx)

消えねたた思ひの煙立つ名にもかへてなひかぬ心なりせは

きえねたた−おもひのけふり−たつなにも−かへてなひかぬ−こころなりせは


07935
未入力 正徹 (xxx)

下絶えすもゆる思ひもはれやらす絶えぬ煙や胸にみつらん

したたえす−もゆるおもひも−はれやらす−たえぬけふりや−むねにみつらむ


07936
未入力 正徹 (xxx)

した絶えぬ思ひを室の八島もる身こそ煙のあるしなりけれ

したたえぬ−おもひをむろの−やしまもる−みこそけふりの−あるしなりけれ


07937
未入力 正徹 (xxx)

もえ初めて煙とならん夕まてむねになけきをたきやそへまし

もえそめて−けふりとならむ−ゆふへまて−むねになけきを−たきやそへまし


07938
未入力 正徹 (xxx)

うらやまし思ひより立つ煙にもあらむ朝けにましる里人

うらやまし−おもひよりたつ−けふりにも−あらむあさけに−ましるさとひと


07939
未入力 正徹 (xxx)

渡らしよ誰か契のあさ川に水の思ひのけふり立つらん

わたらしよ−たれかちきりの−あさかはに−みつのおもひの−けふりたつらむ


07940
未入力 正徹 (xxx)

恋ひしなは人そ煙と身をなさん胸にたててはいそかすもかな

こひしなは−ひとそけふりと−みをなさむ−むねにたてては−いそかすもかな


07941
未入力 正徹 (xxx)

憂名たつ身をあつまのの煙にて又かへりみぬ衣衣の月

うきなたつ−みをあつまのの−けふりにて−またかへりみぬ−きぬきぬのつき


07942
未入力 正徹 (xxx)

立つとてもかひなし室の八島もる神たにしらぬ胸の煙は

たつとても−かひなしむろの−やしまもる−かみたにしらぬ−むねのけふりは


07943
未入力 正徹 (xxx)

身をこかす恋そとことは今は世にふしの煙のたちもたたすも

みをこかす−こひそとことは−いまはよに−ふしのけふりの−たちもたたすも


07944
未入力 正徹 (xxx)

遠き野の煙とならむ夕暮も風吹きしきて人にしらるな

とほきのの−けふりとならむ−ゆふくれも−かせふきしきて−ひとにしらるな


07945
未入力 正徹 (xxx)

今はとてもえん煙のしからみに涙はおとせ雨ならすとも

いまはとて−もえむけふりの−しからみに−なみたはおとせ−あめならすとも


07946
未入力 正徹 (xxx)

鹿やしる山田のあせに立つほくし人もおとろく胸の煙を

しかやしる−やまたのあせに−たつほくし−ひともおとろく−むねのけふりを


07947
未入力 正徹 (xxx)

立ちのほる下の煙をけちやらて衣のむねにふるなみたかな

たちのほる−したのけふりを−けちやらて−ころものむねに−ふるなみたかな


07948
未入力 正徹 (xxx)

尋ねてもとはぬを室の八島もるわれと思ひの煙たてつつ

たつねても−とはぬをむろの−やしまもる−われとおもひの−けふりたてつつ


07949
未入力 正徹 (xxx)

君かみて思ひ消えにし煙とも色しるからはもえてたにたて

きみかみて−おもひきえにし−けふりとも−いろしるからは−もえてたにたて


07950
未入力 正徹 (xxx)

あさま山思ひの煙末の世も我かため立つとみやはとかめぬ

あさまやま−おもひのけふり−すゑのよも−わかためたつと−みやはとかめぬ


07951
未入力 正徹 (xxx)

人はこて風そ更けゆく胸にたく松のけふりに月はくもらて

ひとはこて−かせそふけゆく−むねにたく−まつのけふりに−つきはくもらて


07952
未入力 正徹 (xxx)

いつか又たゆる中ともうらみましまたかけそめぬ夢の浮橋

いつかまた−たゆるなかとも−うらみまし−またかけそめぬ−ゆめのうきはし


07953
未入力 正徹 (xxx)

さもふかき思ひの淵にかけてたにたゆる契りのあさむつのはし

さもふかき−おもひのふちに−かけてたに−たゆるちきりの−あさむつのはし


07954
未入力 正徹 (xxx)

岩橋の夜目にも人やしるからん契はかけし我はみにくき

いははしの−よめにもひとや−しるからむ−ちきりはかけし−われはみにくき


07955
未入力 正徹 (xxx)

相みるもなかははかなく絶えそ行くしはしかけつけ夢の浮橋

あひみるも−なかははかなく−たえそゆく−しはしかけつけ−ゆめのうきはし


07956
未入力 正徹 (xxx)

渡りこはよきては人のよもゆかし心にほそき夢の浮橋

わたりこは−よきてはひとの−よもゆかし−こころにほそき−ゆめのうきはし


07957
未入力 正徹 (xxx)

絶えにけりたのむる中の一言も神をそかけしくめの岩橋

たえにけり−たのむるなかの−ひとことも−かみをそかけし−くめのいははし


07958
未入力 正徹 (xxx)

通ひしも跡なき物はかささきのと渡る橋の秋の初霜

かよひしも−あとなきものは−かささきの−とわたるはしの−あきのはつしも


07959
未入力 正徹 (xxx)

ほと遠く思ひをかけてぬる玉や夜毎に渡る雲のかけはし

ほととほく−おもひをかけて−ぬるたまや−よことにわたる−くものかけはし


07960
未入力 正徹 (xxx)

めくりあへつらきままにて山鳥のを絶の橋も残る柱に

めくりあへ−つらきままにて−やまとりの−をたえのはしも−のこるはしらに


07961
未入力 正徹 (xxx)

ふるき世のなからもかくそ我か中に絶えしをつくれ夢の浮橋

ふるきよの−なからもかくそ−わかなかに−たえしをつくれ−ゆめのうきはし


07962
未入力 正徹 (xxx)

通ひみる夢の渡りの浮橋もさ夜更けぬれはあふ人もなし

かよひみる−ゆめのわたりの−うきはしも−さよふけぬれは−あふひともなし


07963
未入力 正徹 (xxx)

渡りきて俤とめよ内はしの下より出つる水のかかみに

わたりきて−おもかけとめよ−うちはしの−したよりいつる−みつのかかみに


07964
未入力 正徹 (xxx)

我か涙水ゆく川といつ成りてくもてにわたす夢の浮橋

わかなみた−みつゆくかはと−いつなりて−くもてにわたす−ゆめのうきはし


07965
未入力 正徹 (xxx)

隙もなく心そこゆる関守のうちぬる夢に我やみゆらん

ひまもなく−こころそこゆる−せきもりの−うちぬるゆめに−われやみゆらむ


07966
未入力 正徹 (xxx)

うしとたに岩かと高き相坂は越えてそ末の関と成りける

うしとたに−いはかとたかき−あふさかは−こえてそすゑの−せきとなりける


07967
未入力 正徹 (xxx)

あふせなきその川口に関すゑて猶あらかきの隙をもりつつ

あふせなき−そのかはくちに−せきすゑて−なほあらかきの−ひまをもりつつ


07968
未入力 正徹 (xxx)

通ひちとなさぬ翁も神さひぬまもりくきたの関のくきぬき

かよひちと−なさぬおきなも−かみさひぬ−まもりくきたの−せきのくきぬき


07969
未入力 正徹 (xxx)

清見かたかよふ心の関とちて岩しく袖にこゆる波かな

きよみかた−かよふこころの−せきとちて−いはしくそてに−こゆるなみかな


07970
未入力 正徹 (xxx)

いつのまに関のと山になけきこり又相坂の道迷ふらん

いつのまに−せきのとやまに−なけきこり−またあふさかの−みちまよふらむ


07971
未入力 正徹 (xxx)

こえしなほ人のまもりめゆるくとも憂き川口の関のくきぬき

こえしなほ−ひとのまもりめ−ゆるくとも−うきかはくちの−せきのくきぬき


07972
未入力 正徹 (xxx)

ともかくも岩戸の関をかたくとちてゆるさす成りぬ雲のよそ人

ともかくも−いはとのせきを−かたくとちて−ゆるさすなりぬ−くものよそひと


07973
未入力 正徹 (xxx)

一夜とも先あふ坂にあかしてそ契の末もしら川のせき

ひとよとも−まつあふさかに−あかしてそ−ちきりのすゑも−しらかはのせき


07974
未入力 正徹 (xxx)

人もすみ我も都にありてなとこえんとすらん相坂の関

ひともすみ−われもみやこに−ありてなと−こえむとすらむ−あふさかのせき


07975
未入力 正徹 (xxx)

あしたゆくくるそくるしきわたつ海の海士のかるてふみるめはかりに

あしたゆく−くるそくるしき−わたつうみの−あまのかるてふ−みるめはかりに


07976
未入力 正徹 (xxx)

尋ねてはなとあはさらん人すまぬ海の都のありかなりとも

たつねては−なとあはさらむ−ひとすまぬ−うみのみやこの−ありかなりとも


07977
未入力 正徹 (xxx)

終になと舟よせさらん外の海のあら立つ波に風はなすとも

つひになと−ふねよせさらむ−ほかのうみの−あらたつなみに−かせはなすとも


07978
未入力 正徹 (xxx)

沖つ風うしやうしほは弥早になるとの小舟漕きもむかはし

おきつかせ−うしやうしほは−いやはやに−なるとのをふね−こきもむかはし


07979
未入力 正徹 (xxx)

恋の山身は九をこえくとも人こそ八の海をへたてめ

こひのやま−みはここのつを−こえくとも−ひとこそやつの−うみをへたてめ


07980
未入力 正徹 (xxx)

契たえ名をもくたして身を海に心ちしほしむ袖そ難面き

ちきりたえ−なをもくたして−みをうみに−ここちしほしむ−そてそつれなき


07981
未入力 正徹 (xxx)

からくのみ石見の海のことのははかはらぬ磯の松のしほ風

からくのみ−いはみのうみの−ことのはは−かはらぬいその−まつのしほかせ


07982
未入力 正徹 (xxx)

海にます神たにけたぬ思ひとや積りて波の淡とよるらん

うみにます−かみたにけたぬ−おもひとや−つもりてなみの−あわとよるらむ


07983
未入力 正徹 (xxx)

あふ事は波をたたへて年ふれとあする世もなき袖のうみかな

あふことは−なみをたたへて−としふれと−あするよもなき−そてのうみかな


07984
未入力 正徹 (xxx)

君かもし海の都の人ならは千ひろの底に身をやしつめん

きみかもし−うみのみやこの−ひとならは−ちひろのそこに−みをやしつめむ


07985
未入力 正徹 (xxx)

あすも世にしらぬ枕の海に入る涙の川そあふせ絶行く

あすもよに−しらぬまくらの−うみにいる−なみたのかはそ−あふせたえゆく


07986
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬるる身を海松にかくろへて時そともなき色に恋ひつつ

そてぬるる−みをうみまつに−かくろへて−ときそともなき−いろにこひつつ


07987
未入力 正徹 (xxx)

くたきても恋の心そすくならぬ杣の老木と我や成りなん

くたきても−こひのこころそ−すくならぬ−そまのおいきと−われやなりなむ


07988
未入力 正徹 (xxx)

すくならぬ杣の枯木の心とや思ひきる世もなき身なるらん

すくならぬ−そまのかれきの−こころとや−おもひきるよも−なきみなるらむ


07989
未入力 正徹 (xxx)

つくつくときかしよさらにいそかれし入相のかねのむなしひひきを

つくつくと−きかしよさらに−いそかれし−いりあひのかねの−むなしひひきを


07990
未入力 正徹 (xxx)

人めうきよひのまきれの別ちも明くるににたる鐘の声かな

ひとめうき−よひのまきれの−わかれちも−あくるににたる−かねのこゑかな


07991
未入力 正徹 (xxx)

明くるかねくるるひひきもいつのよの人の恋ちをつたひきぬらん

あくるかね−くるるひひきも−いつのよの−ひとのこひちを−つたひきぬらむ


07992
未入力 正徹 (xxx)

聞くかねの声にかかりし契たに又つきはてて更くる夜のそら

きくかねの−こゑにかかりし−ちきりたに−またつきはてて−ふくるよのそら


07993
未入力 正徹 (xxx)

むは玉のかみも一夜の秋の霜独のためにさゆるかねかな

むはたまの−かみもひとよの−あきのしも−ひとりのために−さゆるかねかな


07994
未入力 正徹 (xxx)

隔なくきかはかはらし鐘の声憂き衣衣も待つにこぬよも

へたてなく−きかはかはらし−かねのこゑ−うききぬきぬも−まつにこぬよも


07995
未入力 正徹 (xxx)

せきあへす更けゆく袖に落ちそそふたのめし□□□□□□□□□□

せきあへす−ふけゆくそてに−おちそそふ−たのめしххх−ххххххх


07996
未入力 正徹 (xxx)

おとろかす御法のかねを枕にて恋てふ道の夢そ夜ふかき

おとろかす−みのりのかねを−まくらにて−こひてふみちの−ゆめそよふかき


07997
未入力 正徹 (xxx)

今夜又七ふむなしきすか筵風に声しく暁のかね

こよひまた−ななふむなしき−すかむしろ−かせにこゑしく−あかつきのかね


07998
未入力 正徹 (xxx)

山鳥の初尾のかかみ俤もへたつる中は遠さかりつつ

やまとりの−はつをのかかみ−おもかけも−へたつるなかは−とほさかりつつ


07999
未入力 正徹 (xxx)

はし鷹のかけみぬ恋の積り行く袖や野守のかかみなるらん

はしたかの−かけみぬこひの−つもりゆく−そてやのもりの−かかみなるらむ


08000
未入力 正徹 (xxx)

暮れかたき恨はかけつますかかみくもる契の山鳥の尾に

くれかたき−うらみはかけつ−ますかかみ−くもるちきりの−やまとりのをに


08001
未入力 正徹 (xxx)

みかくれし鵙の草くきあらはさぬ野守のかかみ見るかひもなし

みかくれし−もすのくさくき−あらはさぬ−のもりのかかみ−みるかひもなし


08002
未入力 正徹 (xxx)

忘るなよしらぬ翁と君みすは又やかかみの影にむかはん

わするなよ−しらぬおきなと−きみみすは−またやかかみの−かけにむかはむ


08003
未入力 正徹 (xxx)

影はかり移してそへし形見ともならて影やくもり果つらん

かけはかり−うつしてそへし−かたみとも−ならてかかみや−くもりはつらむ


08004
未入力 正徹 (xxx)

手のうちにかくすはかりのかかみにも憂身にあまる影そくもらぬ

てのうちに−かくすはかりの−かかみにも−うきみにあまる−かけそくもらぬ


08005
未入力 正徹 (xxx)

ますかかみくもるやかたみ見し人はかけもならはぬ涙はかりに

ますかかみ−くもるやかたみ−みしひとは−かけもならはぬ−なみたはかりに


08006
未入力 正徹 (xxx)

我なからむかふかかみのくもらすはうとまれぬへし涙落ちそへ

われなから−むかふかかみの−くもらすは−うとまれぬへし−なみたおちそへ


08007
未入力 正徹 (xxx)

ますかかみ影みぬうらにゐる鳥の音にたてすとも恋ひや渡らん

ますかかみ−かけみぬうらに−ゐるとりの−ねにたてすとも−こひやわたらむ


08008
未入力 正徹 (xxx)

ねにたててをろのはつ尾に影見えは遠山鳥も啼くとつけこせ

ねにたてて−をろのはつをに−かけみえは−とほやまとりも−なくとつけこせ


08009
未入力 正徹 (xxx)

恋そうき鏡のはこにゐる塵の中の心はくもりなき身を

こひそうき−かかみのはこに−ゐるちりの−なかのこころは−くもりなきみを


08010
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふ我か心から朝ことにむかふかかみの影そやつるる

こひすてふ−わかこころから−あさことに−むかふかかみの−かけそやつるる


08011
未入力 正徹 (xxx)

物思ふ我かおとろへをなけくまに鏡の塵の積りはてぬる

ものおもふ−わかおとろへを−なけくまに−かかみのちりの−つもりはてぬる


08012
未入力 正徹 (xxx)

煙立つ思ひはうらもなき恋をかかみにうつせふしの柴山

けふりたつ−おもひはうらも−なきこひを−かかみにうつせ−ふしのしはやま


08013
未入力 正徹 (xxx)

今朝もみつ大和にもあらぬから鏡もろこし人の影は恋ひねと

けさもみつ−やまとにもあらぬ−からかかみ−もろこしひとの−かけはこひねと


08014
未入力 正徹 (xxx)

水草ゐる人の形見の水鏡俤ふりて後そたえ行く

みくさゐる−ひとのかたみの−みつかかみ−おもかけふりて−のちそたえゆく


08015
未入力 正徹 (xxx)

ますかかみうらなる鳥のねにたててなく世なけれは知る人もなし

ますかかみ−うらなるとりの−ねにたてて−なくよなけれは−しるひともなし


08016
未入力 正徹 (xxx)

影やみん鏡の上にゐる塵をあらふ涙の雨はふりきね

かけやみむ−かかみのうへに−ゐるちりを−あらふなみたの−あめはふりきね


08017
未入力 正徹 (xxx)

都をはへたつるすまの山鳥のかかみにうつせさらぬ面影

みやこをは−へたつるすまの−やまとりの−かかみにうつせ−さらぬおもかけ


08018
未入力 正徹 (xxx)

乙女子か鏡の塵やけふりとも立つらんふしの山はもえねと

をとめこか−かかみのちりや−けふりとも−たつらむふしの−やまはもえねと


08019
未入力 正徹 (xxx)

独我かしきてそ頼むあや筵くるよ絶えすは玉のをにせん

ひとりわか−しきてそたのむ−あやむしろ−くるよたえすは−たまのをにせむ


08020
未入力 正徹 (xxx)

立ちよれは待ちこし床のさ筵はわか夜かれにも塵積りつつ

たちよれは−まちこしとこの−さむしろは−わかよかれにも−ちりつもりつつ


08021
未入力 正徹 (xxx)

面影はありて身にそふ言の葉のならふかひなき床のさ筵

おもかけは−ありてみにそふ−ことのはの−ならふかひなき−とこのさむしろ


08022
未入力 正徹 (xxx)

まつかひも七ふ夜ふかき秋の風塵にかすめるさ筵の月

まつかひも−ななふよふかき−あきのかせ−ちりにかすめる−さむしろのつき


08023
未入力 正徹 (xxx)

すか筵こよひは人のねし方に跡なつかしみ我そ方よる

すかむしろ−こよひはひとの−ねしかたに−あとなつかしみ−われそかたよる


08024
未入力 正徹 (xxx)

さ筵に塵ともなして身をおかはそをたに人の打ちやはらはん

さむしろに−ちりともなして−みをおかは−そをたにひとの−うちやはらはむ


08025
未入力 正徹 (xxx)

思ひかね出てにし宿のすか筵我かねぬみふも塵積るらん

おもひかね−いてにしやとの−すかむしろ−わかねぬみふも−ちりつもるらむ


08026
未入力 正徹 (xxx)

白妙の袖のためしは有りなからまきほされぬはさ筵の露

しろたへの−そてのためしは−ありなから−まきほされぬは−さむしろのつゆ


08027
未入力 正徹 (xxx)

柳原なひく契の稲筵しきならへても誰を待つらん

やなきはら−なひくちきりの−いなむしろ−しきならへても−たれをまつらむ


08028
未入力 正徹 (xxx)

待ちあかす人の心の花筵うつろふ夜半は敷くかひそなき

まちあかす−ひとのこころの−はなむしろ−うつろふよはは−しくかひそなき


08029
未入力 正徹 (xxx)

憂き中をうらみさらまし紅のやしほの衣思ひ染めすは

うきなかを−うらみさらまし−くれなゐの−やしほのころも−おもひそめすは


08030
未入力 正徹 (xxx)

かへしてもなににかはせんさ夜衣さむれはつらき夢も程なし

かへしても−なににかはせむ−さよころも−さむれはつらき−ゆめもほとなし


08031
未入力 正徹 (xxx)

いとせめて恋しきままにさ夜衣かへし馴れたる夢や待つらん

いとせめて−こひしきままに−さよころも−かへしなれたる−ゆめやまつらむ


08032
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣中に有りしも昔にてかへすもみえぬ夢の通ち

さよころも−なかにありしも−むかしにて−かへすもみえぬ−ゆめのかよひち


08033
未入力 正徹 (xxx)

紅の八しほの衣染めはててぬき置きし数もいくへなるらん

くれなゐの−やしほのころも−そめはてて−ぬきおきしかすも−いくへなるらむ


08034
未入力 正徹 (xxx)

さめやせん夜半の衣をかへすとも思はぬ夢の契りをそ待つ

さめやせむ−よはのころもを−かへすとも−おもはぬゆめの−ちきりをそまつ


08035
未入力 正徹 (xxx)

思ひかねかへす衣の行へとやそはては人を又かへすらん

おもひかね−かへすころもの−ゆくへとや−そはてはひとを−またかへすらむ


08036
未入力 正徹 (xxx)

夢にたに夜半の衣の涙さへふるき夢路はかよふ夜もなし

ゆめにたに−よはのころもの−なみたさへ−ふるきゆめちは−かよふよもなし


08037
未入力 正徹 (xxx)

あらはさぬ衣の玉も恋ゆゑやかへして夜半に光をもみん

あらはさぬ−ころものたまも−こひゆゑや−かへしてよはに−ひかりをもみむ


08038
未入力 正徹 (xxx)

通ひこはかへす衣のうら伝ひ夢路に人や袖ぬらすらん

かよひこは−かへすころもの−うらつたひ−ゆめちにひとや−そてぬらすらむ


08039
未入力 正徹 (xxx)

夢にさへ猶あひかたみさ夜衣明けなんとするにかへし侘ひつつ

ゆめにさへ−なほあひかたみ−さよころも−あけなむとするに−かへしわひつつ


08040
未入力 正徹 (xxx)

馴れにしも憂き山かつの藤衣はつるる糸のかけはなれつつ

なれにしも−うきやまかつの−ふちころも−はつるるいとの−かけはなれつつ


08041
未入力 正徹 (xxx)

衣さへ中になき夜はかさなりて袖とふ月のうすき横雲

ころもさへ−なかになきよは−かさなりて−そてとふつきの−うすきよこくも


08042
未入力 正徹 (xxx)

月草のうす花衣ぬれぬれすうつろふとたにみえぬ色かな

つきくさの−うすはなころも−ぬれぬれす−うつろふとたに−みえぬいろかな


08043
未入力 正徹 (xxx)

形見とてきかへ衣もよころへて我かかに成りぬ何にかはせん

かたみとて−きかへころもも−よころへて−わかかになりぬ−なににかはせむ


08044
未入力 正徹 (xxx)

数ならぬみとりの衣夜をかさね涙あけなる色もかひなし

かすならぬ−みとりのころも−よをかさね−なみたあけなる−いろもかひなし


08045
未入力 正徹 (xxx)

しられしな衣のうらの玉もかる袖ならなくの露の乱れは

しられしな−ころものうらの−たまもかる−そてならなくの−つゆのみたれは


08046
未入力 正徹 (xxx)

つらしともさのみや思ひいれ紐のとけにし後の心つよさを

つらしとも−さのみやおもひ−いれひもの−とけにしのちの−こころつよさを


08047
未入力 正徹 (xxx)

かかれとて結ひやはせし入紐のとけぬ心となりそ成りぬる

かかれとて−むすひやはせし−いれひもの−とけぬこころと−なりそなりぬる


08048
未入力 正徹 (xxx)

いとふともみすなよせめてうしろてのうはもの海のあらき心を

いとふとも−みすなよせめて−うしろての−うはものうみの−あらきこころを


08049
未入力 正徹 (xxx)

かくはかり袖やはぬれんたをやめか上裳の波に心かけすは

かくはかり−そてやはぬれむ−たをやめか−うはものなみに−こころかけすは


08050
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣もに住む虫とわかなりてなかは涙や床のうら波

さよころも−もにすむむしと−わかなりて−なかはなみたや−とこのうらなみ


08051
未入力 正徹 (xxx)

絵にかける上裳の波にぬれすとも袖行く水に身をやなかさん

えにかける−うはものなみに−ぬれすとも−そてゆくみつに−みをやなかさむ


08052
未入力 正徹 (xxx)

いひしらぬ恋そくるしき下帯の行きめくりてもあふさきるさに

いひしらぬ−こひそくるしき−したおひの−ゆきめくりても−あふさきるさに


08053
未入力 正徹 (xxx)

さしなからよそにやなれん結ひえぬ契を石の帯にかけつつ

さしなから−よそにやなれむ−むすひえぬ−ちきりをいしの−おひにかけつつ


08054
未入力 正徹 (xxx)

色終にまさる方にや引きとらんこなたかなたに二あゐの帯

いろつひに−まさるかたにや−ひきとらむ−こなたかなたに−ふたあゐのおひ


08055
未入力 正徹 (xxx)

人心あらすよ神をかけ帯に涙そめます秋のくれなゐ

ひとこころ−あらすよかみを−かけおひに−なみたそめます−あきのくれなゐ


08056
未入力 正徹 (xxx)

末つひに契あらはのあらましにときては結ふ夜半の下帯

すゑつひに−ちきりあらはの−あらましに−ときてはむすふ−よはのしたおひ


08057
未入力 正徹 (xxx)

うき中は大和にもあらぬから匣あくるま遠き夜そくるしき

うきなかは−やまとにもあらぬ−からくしけ−あくるまとほき−よるそくるしき


08058
未入力 正徹 (xxx)

袖のみか君てなれよとうかれきてたか玉くしけ中に入るらん

そてのみか−きみてなれよと−うかれきて−たかたまくしけ−なかにいるらむ


08059
未入力 正徹 (xxx)

契りしもふるき匣のを絶してたか心はの花うつるらむ

ちきりしも−ふるきくしけの−をたえして−たかこころはの−はなうつるらむ


08060
未入力 正徹 (xxx)

せめていつなるる手箱のををよわみ夜をなかからす明けぬとおもはん

せめていつ−なるるてはこの−ををよわみ−よをなかからす−あけぬとおもはむ


08061
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の身はうつせみのから匣あけすは惜きねをもなかしを

きぬきぬの−みはうつせみの−からくしけ−あけすはをしき−ねをもなかしを


08062
未入力 正徹 (xxx)

さしかくすためしそつらきくろかみも八雲みたれしゆつのつまくし

さしかくす−ためしそつらき−くろかみも−やくもみたれし−ゆつのつまくし


08063
未入力 正徹 (xxx)

かへりみぬ別れのくしのさしなからならひそつらきたゆるくろかみ

かへりみぬ−わかれのくしの−さしなから−ならひそつらき−たゆるくろかみ


08064
未入力 正徹 (xxx)

くろかみにたれとるならてわきもこかゆつのつまくしさしかへすらん

くろかみに−たれとるならて−わきもこか−ゆつのつまくし−さしかへすらむ


08065
未入力 正徹 (xxx)

身にそはんたかかさしとはしらねともおちたるくしのあかぬ匂を

みにそはむ−たかかさしとは−しらねとも−おちたるくしの−あかぬにほひを


08066
未入力 正徹 (xxx)

乱れつつよそにこふてふつまくしはたわつくかみにさすかひもなし

みたれつつ−よそにこふてふ−つまくしは−たわつくかみに−さすかひもなし


08067
未入力 正徹 (xxx)

くろかみもとかて日そふる櫛のはを引くよりしけき恋の乱れに

くろかみも−とかてひそふる−くしのはを−ひくよりしけき−こひのみたれに


08068
未入力 正徹 (xxx)

たく櫛のほかけさやけきくろかみにかをりてかくす夜半の乙女子

たくくしの−ほかけさやけき−くろかみに−かをりてかくす−よはのをとめこ


08069
未入力 正徹 (xxx)

ぬしやたれさしけんかみもおちくしのあかぬ匂のこすの下風

ぬしやたれ−さしけむかみも−おちくしの−あかぬにほひの−こすのしたかせ


08070
未入力 正徹 (xxx)

波は猶たちそ別のくした川こふるいつきは露わくる野へ

なみはなほ−たちそわかれの−くしたかは−こふるいつきは−つゆわくるのへ


08071
未入力 正徹 (xxx)

黒髪はむすほほるともいむくしのなけの契に心とけめや

くろかみは−むすほほるとも−いむくしの−なけのちきりに−こころとけめや


08072
未入力 正徹 (xxx)

いつまてと憂世にめくりあふ事も波のみ分くる水の車そ

いつまてと−うきよにめくり−あふことも−なみのみわくる−みつのくるまそ


08073
未入力 正徹 (xxx)

憂き数を露にそとらんあふ事は蓬か丸ねしちならすとも

うきかすを−つゆにそとらむ−あふことは−よもきかまろね−しちならすとも


08074
未入力 正徹 (xxx)

忍ひつつ月にやり行くむな車いかなる宿に誰をまつらん

しのひつつ−つきにやりゆく−むなくるま−いかなるやとに−たれをまつらむ


08075
未入力 正徹 (xxx)

月そとふ人はこすけのむな車たたやりすくせ門させりてん

つきそとふ−ひとはこすけの−むなくるま−たたやりすくせ−かとさせりてむ


08076
未入力 正徹 (xxx)

小車をたたここもとにやりとめて人は入りこぬ夕暮の宿

をくるまを−たたここもとに−やりとめて−ひとはいりこぬ−ゆふくれのやと


08077
未入力 正徹 (xxx)

うしや猶恋ちは思ひめくらすも糸けの車乱れ侘ひつつ

うしやなほ−こひちはおもひ−めくらすも−いとけのくるま−みたれわひつつ


08078
未入力 正徹 (xxx)

忍ふとも心にもあらし人やりの道芝しるき小車の跡

しのふとも−こころにもあらし−ひとやりの−みちしはしるき−をくるまのあと


08079
未入力 正徹 (xxx)

またよひの月の屋妻をやり出てぬ車のひさしさしも契らて

またよひの−つきのやつまを−やりいてぬ−くるまのひさし−さしもちきらて


08080
未入力 正徹 (xxx)

てにとれはそなたより吹く風車めくりあふへきしるしとそみん

てにとれは−そなたよりふく−かせくるま−めくりあふへき−しるしとそみむ


08081
未入力 正徹 (xxx)

うけひかぬ人の心のけはしさは車をくたく道よりもうし

うけひかぬ−ひとのこころの−けはしさは−くるまをくたく−みちよりもうし


08082
未入力 正徹 (xxx)

道あらし千巻をつめる文車にや方芳しらぬ恋の心は

みちあらし−ちまきをつめる−ふくるまに−やるかたしらぬ−こひのこころは


08083
未入力 正徹 (xxx)

待更けぬ今は蓬の丸ねにも床あまるへきしちの上かな

まちふけぬ−いまはよもきの−まろねにも−とこあまるへき−しちのうへかな


08084
未入力 正徹 (xxx)

しる中のあしよわ車おしけつもあらきせつらきかもの川波

しるなかの−あしよわくるま−おしけつも−あらきせつらき−かものかはなみ


08085
未入力 正徹 (xxx)

我か門にとめつと聞くも小車の夕ととろきは胸そやすまぬ

わかかとに−とめつときくも−をくるまの−ゆふととろきは−むねそやすまぬ


08086
未入力 正徹 (xxx)

立帰りとふへき暮はしらねとも此戸はたてし衣衣の空

たちかへり−とふへきくれは−しらねとも−このとはたてし−きぬきぬのそら


08087
未入力 正徹 (xxx)

かへりみぬ別もつらし真木の戸に休らふ物と思ひ馴れつつ

かへりみぬ−わかれもつらし−まきのとに−やすらふものと−おもひなれつつ


08088
未入力 正徹 (xxx)

さ夜中にうたてなる戸のたてあけをねぬ人あらは聞きやとかめん

さよなかに−うたてなるとの−たてあけを−ねぬひとあらは−ききやとかめむ


08089
未入力 正徹 (xxx)

暁の身にならへとやま木の戸に休らひ出つるいさよひの月

あかつきの−みにならへとや−まきのとに−やすらひいつる−いさよひのつき


08090
未入力 正徹 (xxx)

わかるなよ人をやり戸もあきなから簾にかかる遠の横雲

わかるなよ−ひとをやりとも−あきなから−すたれにかかる−をちのよこくも


08091
未入力 正徹 (xxx)

袖をたにひかへなましをかり初の夜戸出のままの衣衣そ憂き

そてをたに−ひかへなましを−かりそめの−よとてのままの−きぬきぬそうき


08092
未入力 正徹 (xxx)

徒にぬる夜の数もかさなりてかたへ塵はむ床さ筵

いたつらに−ぬるよのかすも−かさなりて−かたへちりはむ−とこのさむしろ


08093
未入力 正徹 (xxx)

ほとあらし日影もる屋にたつ塵のたた一筋に迷ふ憂身は

ほとあらし−ひかけもるやに−たつちりの−たたひとすちに−まよふうきみは


08094
未入力 正徹 (xxx)

ふかかりき心の塵の朝きよめ又夕暮はつもる思ひは

ふかかりき−こころのちりの−あさきよめ−またゆふくれは−つもるおもひは


08095
未入力 正徹 (xxx)

あはぬよの枕の塵をとる玉の身より出ててやさのみつもらぬ

あはぬよの−まくらのちりを−とるたまの−みよりいててや−さのみつもらぬ


08096
未入力 正徹 (xxx)

よもしらし人をみるめに入る塵のくもる涙にまきらはしつる

よもしらし−ひとをみるめに−いるちりの−くもるなみたに−まきらはしつる


08097
未入力 正徹 (xxx)

跡そなき枕の塵のなり併ほる恋の山風塵をはらひて

あとそなき−まくらのちりの−なりのほる−こひのやまかせ−ちりをはらひて


08098
未入力 正徹 (xxx)

こよひしもつらき方より吹きなから枕の塵をはらふ秋かせ

こよひしも−つらきかたより−ふきなから−まくらのちりを−はらふあきかせ


08099
未入力 正徹 (xxx)

篠の屋のかやか苫葺心なと乱れてうすき契なるらん

ささのやの−かやかとまふき−こころなと−みたれてうすき−ちきりなるらむ


08100
未入力 正徹 (xxx)

身をうらの苫屋は荒れて猶ぬる床も枕も沖つ塩かせ

みをうらの−とまやはあれて−ひとりぬる−とこもまくらも−おきつしほかせ


08101
未入力 正徹 (xxx)

身をうらに頼む苫屋も絶えぬとや送る心のあらきなみ風

みをうらに−たのむとまやも−たえぬとや−おくるこころの−あらきなみかせ


08102
未入力 正徹 (xxx)

よる江なき涙の海の苫葺をとる日もしらぬ興つ舟人

よるえなき−なみたのうみの−とまふきを−とるひもしらぬ−おきつふなひと


08103
未入力 正徹 (xxx)

秋過きし契かりほの苫あれて袖に時雨のもらぬまもなし

あきすきし−ちきりかりほの−とまあれて−そてにしくれの−もらぬまもなし


08104
未入力 正徹 (xxx)

道ふりの人のうしろてほのかにもみしますけ笠草かくれ行く

みちふりの−ひとのうしろて−ほのかにも−みしますけかさ−くさかくれゆく


08105
未入力 正徹 (xxx)

陰頼む木の本ならす袖ぬれぬ御笠もからし宮城のの露

かけたのむ−このもとならす−そてぬれぬ−みかさもからし−みやきののつゆ


08106
未入力 正徹 (xxx)

身はつひにかくれはつへき思ひかな笠のかりてのかりの契に

みはつひに−かくれはつへき−おもひかな−かさのかりての−かりのちきりに


08107
未入力 正徹 (xxx)

遠き江の芦かる人にいつなりて身をかくしてもみしま菅笠

とほきえの−あしかるひとに−いつなりて−みをかくしても−みしますけかさ


08108
未入力 正徹 (xxx)

たのめつつ世世にをかけんかたいとをあわをによりし契朽ちすは

たのめつつ−よよにをかけむ−かたいとを−あわをによりし−ちきりくちすは


08109
未入力 正徹 (xxx)

伊駒山雲の手染の糸すちもたゆる契の暮そかなしき

いこまやま−くものてそめの−いとすちも−たゆるちきりの−くれそかなしき


08110
未入力 正徹 (xxx)

結ふてふ神やたたりのいと絶えてつひにあわをによらてみたれん

むすふてふ−かみやたたりの−いとたえて−つひにあわをに−よらてみたれむ


08111
未入力 正徹 (xxx)

浅からす染むる心はもろこしのから紅のいとまなきまて

あさからす−そむるこころは−もろこしの−からくれなゐの−いとまなきまて


08112
未入力 正徹 (xxx)

いつまてとたか捨舟の浅き江に朽ちぬうらみを猶残すらん

いつまてと−たかすてふねの−あさきえに−くちぬうらみを−なほのこすらむ


08113
未入力 正徹 (xxx)

やますうつ波の心のあら磯によする小舟のくたけてそ憂き

やますうつ−なみのこころの−あらいそに−よするをふねの−くたけてそうき


08114
未入力 正徹 (xxx)

袖によれもろこし舟の行末もしらぬ吉ののおくの滝波

そてによれ−もろこしふねの−ゆくすゑも−しらぬよしのの−おくのたきなみ


08115
未入力 正徹 (xxx)

さのみなと身はうき波に行く舟のほ縄くるしく心引くらん

さのみなと−みはうきなみに−ゆくふねの−ほなはくるしく−こころひくらむ


08116
未入力 正徹 (xxx)

おくの海に思ふ心のはし舟もまた打出てぬ波のはけしさ

おくのうみに−おもふこころの−はしふねも−またうちいてぬ−なみのはけしさ


08117
未入力 正徹 (xxx)

頼む夜のあけのそほ舟こき別れ行へむなしき床の波かな

たのむよの−あけのそほふね−こきわかれ−ゆくへむなしき−とこのなみかな


08118
未入力 正徹 (xxx)

よりそへぬうきて思ひは大舟のゆたかに絶えぬ袖のみなとに

よりそへぬ−うきておもひは−おほふねの−ゆたかにたえぬ−そてのみなとに


08119
未入力 正徹 (xxx)

波よりもあらき心のいかり縄よしやつなかぬ舟と成るとも

なみよりも−あらきこころの−いかりなは−よしやつなかぬ−ふねとなるとも


08120
未入力 正徹 (xxx)

漕出てて思ふ江によれわきもこか引くもの色のあけのそほ舟

こきいてて−おもふえによれ−わきもこか−ひくものいろの−あけのそほふね


08121
未入力 正徹 (xxx)

うかれゆく玉ゆらの戸を漕く舟の梶をな絶えそよその波風

うかれゆく−たまゆらのとを−こくふねの−かちをなたえそ−よそのなみかせ


08122
未入力 正徹 (xxx)

よりそひし柱そ形見なれ衣心のはなた色も移りて

よりそひし−はしらそかたみ−なれころも−こころのはなた−いろもうつりて


08123
未入力 正徹 (xxx)

むなしてふうつほ柱にかくれしや猶九重に面影そたつ

むなしてふ−うつほはしらに−かくれしや−なほここのへに−おもかけそたつ


08124
未入力 正徹 (xxx)

水上の石にさはるもまたれてはつひにあふむの流れやはこぬ

みなかみの−いしにさはるも−またれては−つひにあふむの−なかれやはこぬ


08125
未入力 正徹 (xxx)

ま砂とそ波にくたくる石はしる滝つ心のあらき契は

まさことそ−なみにくたくる−いしはしる−たきつこころの−あらきちきりは


08126
未入力 正徹 (xxx)

かひなしやまゆかく筆に玉札の言の葉みせぬすみの乱れは

かひなしや−まゆかくふてに−たまつさの−ことのはみせぬ−すみのみたれは


08127
未入力 正徹 (xxx)

あはぬまの袖の白玉数数に消えてなかるる夜はのさ筵

あはぬまの−そてのしらたま−かすかすに−きえてなかるる−よはのさむしろ


08128
未入力 正徹 (xxx)

うき中は心くたけて玉きはる我そ吉野の滝の岩波

うきなかは−こころくたけて−たまきはる−われそよしのの−たきのいはなみ


08129
未入力 正徹 (xxx)

されはとて清き心かいせの海にひろはぬ玉のおつる袂は

されはとて−きよきこころか−いせのうみに−ひろはぬたまの−おつるたもとは


08130
未入力 正徹 (xxx)

君もしれしのふうつつにならひこは我かぬる玉は身をもはなれし

きみもしれ−しのふうつつに−ならひこは−わかぬるたまは−みをもはなれし


08131
未入力 正徹 (xxx)

うきをしる涙の水をとる玉や袖に乱れて光きゆらん

うきをしる−なみたのみつを−とるたまや−そてにみたれて−ひかりきゆらむ


08132
未入力 正徹 (xxx)

海山もいつくか恋の宿ならぬ身をかくすへき此世ともなし

うみやまも−いつくかこひの−やとならぬ−みをかくすへき−このよともなし


08133
未入力 正徹 (xxx)

まきかくす衾の袖よをしの毛のぬれぬ思ひのあらはなる世に

まきかくす−ふすまのそてよ−をしのけの−ぬれぬおもひの−あらはなるよに


08134
未入力 正徹 (xxx)

ききしらぬ声とないひそ笛のなのこま人うとき程や隔てん

ききしらぬ−こゑとないひそ−ふえのなの−こまひとうとき−ほとやへたてむ


08135
未入力 正徹 (xxx)

忘られぬうき一ふしや笛竹の末のよなかきねに残るらん

わすられぬ−うきひとふしや−ふえたけの−すゑのよなかき−ねにのこるらむ


08136
未入力 正徹 (xxx)

笛のなのこま山颪とほく吹け思ふ都に音をつたふとて

ふえのなの−こまやまおろし−とほくふけ−おもふみやこに−ねをつたふとて


08137
未入力 正徹 (xxx)

音にたててたれを恋ふらん我か方にこま笛遠きよはの里人

ねにたてて−たれをこふらむ−わかかたに−こまふえとほき−よはのさとひと


08138
未入力 正徹 (xxx)

笛竹の夜声やたれと聞きわかは身のうきふしや空にしられん

ふえたけの−よこゑやたれと−ききわかは−みのうきふしや−そらにしられむ


08139
未入力 正徹 (xxx)

あふくなりあまのはは矢をくたしても恋に命をきはめましかは

あふくなり−あまのははやを−くたしても−こひにいのちを−きはめましかは


08140
未入力 正徹 (xxx)

我そ今身をうたふ鳥紅の涙の蓑を君きたれとて

われそいま−みをうたふとり−くれなゐの−なみたのみのを−きみきたれとて


08141
未入力 正徹 (xxx)

みたしおけ涙の雨の蓑代はよるの衣のうへのくろかみ

みたしおけ−なみたのあめの−みのしろは−よるのころもの−うへのくろかみ


08142
未入力 正徹 (xxx)

時のまの程も千里に玉こえぬ君かりゆきしうたたねの夢

ときのまの−ほともちさとに−たまこえぬ−きみかりゆきし−うたたねのゆめ


08143
未入力 正徹 (xxx)

ぬる夢にみすのあみ糸長き夜に契りてあけし宿もたのもし

ぬるゆめに−みすのあみいと−なかきよに−ちきりてあけし−やともたのもし


08144
未入力 正徹 (xxx)

まよふよりあふも別も又さめぬ夢の中なる我そはかなき

まよふより−あふもわかれも−またさめぬ−ゆめのうちなる−われそはかなき


08145
未入力 正徹 (xxx)

あひ別れへたてやは有る真木の戸にぬるかうちとも猶夢にして

あひわかれ−へたてやはある−まきのとに−ぬるかうちとも−なほゆめにして


08146
未入力 正徹 (xxx)

思ひねの夢のうき橋なかすまて涙の川はみかさこえつつ

おもひねの−ゆめのうきはし−なかすまて−なみたのかはは−みかさこえつつ


08147
未入力 正徹 (xxx)

思ひねの夢のうき橋まつ人のくめちにたゆるさ夜の秋風

おもひねの−ゆめのうきはし−まつひとの−くめちにたゆる−さよのあきかせ


08148
未入力 正徹 (xxx)

ねてまたん枕さたかにあふとみる夢のうつつそ命なりける

ねてまたむ−まくらさたかに−あふとみる−ゆめのうつつそ−いのちなりける


08149
未入力 正徹 (xxx)

消えそ行く夢の俤立ちまよふ雲さへ空にうすき契りは

きえそゆく−ゆめのおもかけ−たちまよふ−くもさへそらに−うすきちきりは


08150
未入力 正徹 (xxx)

夢にこし天つ乙女かさむる夜の枕の山は雲そたな引く

ゆめにこし−あまつをとめか−さむるよの−まくらのやまは−くもそたなひく


08151
未入力 正徹 (xxx)

更けぬまに忍ひて通ふ方やあらぬ夢の通ひち相ふ人もなし

ふけぬまに−しのひてかよふ−かたやあらぬ−ゆめのかよひち−あふひともなし


08152
未入力 正徹 (xxx)

身にそしる夜はにかかけぬ灯のみしかくもえてきゆる思ひを

みにそしる−よはにかかけぬ−ともしひの−みしかくもえて−きゆるおもひを


08153
未入力 正徹 (xxx)

命かも消えなんとする灯の光まされる夜夜の思ひは

いのちかも−きえなむとする−ともしひの−ひかりまされる−よよのおもひは


08154
未入力 正徹 (xxx)

限りとや恋ひまさるらん灯も光をまして消かたの夜に

かきりとや−こひまさるらむ−ともしひも−ひかりをまして−きえかたのよに


08155
未入力 正徹 (xxx)

波たかくいかかは思ひかけさらん身こそ下屋にすまのうら人

なみたかく−いかかはおもひ−かけさらむ−みこそしもやに−すまのうらひと


08156
未入力 正徹 (xxx)

匂ひこそ猶もりいつれも屋のみすうこきたにせぬおくの人気に

にほひこそ−なほもりいつれ−もやのみす−うこきたにせぬ−おくのひとけに


08157
未入力 正徹 (xxx)

身にそしる夜をいねかての小田の露涙かりほの床の秋風

みにそしる−よをいねかての−をたのつゆ−なみたかりほの−とこのあきかせ


08158
未入力 正徹 (xxx)

我か袖に庵りあまたとうとまれししての田長の涙をそかる

わかそてに−いほりあまたと−うとまれし−してのたをさの−なみたをそかる


08159
未入力 正徹 (xxx)

かへさしと思ふ隣は火もこはす我か名や立ちしおそのたはれを

かへさしと−おもふとなりは−ひもこはす−わかなやたちし−おそのたはれを


08160
未入力 正徹 (xxx)

年ふれとかたき岩ほの心をもいつあは雪となしてとけまし

としふれと−かたきいはほの−こころをも−いつあはゆきと−なしてとけまし


08161
未入力 正徹 (xxx)

筏おろす杣山川の岩たたみさはる暮のみしけき中かな

いかたおろす−そまやまかはの−いはたたみ−さはるくれのみ−しけきなかかな


08162
未入力 正徹 (xxx)

いととしく恋こそまされあつさ弓ひけは本末よるはおきゐて

いととしく−こひこそまされ−あつさゆみ−ひけはもとすゑ−よるはおきゐて


08163
未入力 正徹 (xxx)

契りしもはてはうき名にたつか弓はかなき舟の跡も残さし

ちきりしも−はてはうきなに−たつかゆみ−はかなきふねの−あとものこさし


08164
未入力 正徹 (xxx)

我か方に心ひかれし行へかは弓きる槻のかけもなつかし

わかかたに−こころひかれし−ゆくへかは−ゆみきるつきの−かけもなつかし


08165
未入力 正徹 (xxx)

憂身にはあつさのまゆみ本末もしらぬ恋ちに引く心かな

うきみには−あつさのまゆみ−もとすゑも−しらぬこひちに−ひくこころかな


08166
未入力 正徹 (xxx)

見るらめや人はなひかすいなふちのほそ川まゆみよわる心を

みるらめや−ひとはなひかす−いなふちの−ほそかはまゆみ−よわるこころを


08167
未入力 正徹 (xxx)

手にふれん弓きる槻の枝たわにかねて心の引く思ひかな

てにふれむ−ゆみきるつきの−えたたわに−かねてこころの−ひくおもひかな


08168
未入力 正徹 (xxx)

心こそ猶もひかるれ三吉ののとつ川まゆみきえぬ契に

こころこそ−なほもひかるれ−みよしのの−とつかはまゆみ−きえぬちきりに


08169
未入力 正徹 (xxx)

うき名のみたつか弓すゑもあらはれて山分出つる紀路の関守

うきなのみ−たつかゆすゑも−あらはれて−やまわけいつる−きちのせきもり


08170
未入力 正徹 (xxx)

我か心ひけはもと末よるもねすうつやゆつるの音をたにきけ

わかこころ−ひけはもとすゑ−よるもねす−うつやゆつるの−おとをたにきけ


08171
未入力 正徹 (xxx)

いつまてかきそのあさ衣をさをあらみむねあふ程の隙を待ちみん

いつまてか−きそのあさきぬ−をさをあらみ−むねあふほとの−ひまをまちみむ


08172
未入力 正徹 (xxx)

山風を薪とるをにふせけとや哀にいそくしつかてつくり

やまかせを−たききとるをに−ふせけとや−あはれにいそく−しつかてつくり


08173
未入力 正徹 (xxx)

侘ひぬれはきそのあさ衣身も寒し山風吹くな独ぬる夜そ

わひぬれは−きそのあさきぬ−みもさむし−やまかせふくな−ひとりぬるよそ


08174
未入力 正徹 (xxx)

行末を契りし事も中のをのたゆるをいかかかけてたのまん

ゆくすゑを−ちきりしことも−なかのをの−たゆるをいかか−かけてたのまむ


08175
未入力 正徹 (xxx)

中のをの絶えてつれなき一ことに思ひつきせぬみねの松風

なかのをの−たえてつれなき−ひとことに−おもひつきせぬ−みねのまつかせ


08176
未入力 正徹 (xxx)

心ひけてなかるることののほりねも中のを高く思ひかけすや

こころひけて−なかるることの−のほりねも−なかのをたかく−おもひかけすや


08177
未入力 正徹 (xxx)

ことわりに我か中のをを先たちて此世さりねと音にも聞えぬ

ことわりに−わかなかのをを−さきたちて−このよさりねと−ねにもきこえぬ


08178
未入力 正徹 (xxx)

忘れしよ声むつましき六のをにおなしあつまと頼むしらへに

わすれしよ−こゑむつましき−むつのをに−おなしあつまと−たのむしらへに


08179
未入力 正徹 (xxx)

露けさの思ひそしける玉琴のひきののつつらをにもなさねと

つゆけさの−おもひそしける−たまことの−ひきののつつら−をにもなさねと


08180
未入力 正徹 (xxx)

あふ坂を尋ねてこえんうき中は遠きあつまのしらへなりとも

あふさかを−たつねてこえむ−うきなかは−とほきあつまの−しらへなりとも


08181
未入力 正徹 (xxx)

手なれしも忘れかたさに琴のををたちし契にねを残すらん

てなれしも−わすれかたさに−ことのをを−たちしちきりに−ねをのこすらむ


08182
未入力 正徹 (xxx)

ことわりや我たちきけはつま引にならすも人の秋風の声

ことわりや−われたちきけは−つまひきに−ならすもひとの−あきかせのこゑ


08183
未入力 正徹 (xxx)

とひかたき宿の軒さへほのみえて思ひくらせるをちの里人

とひかたき−やとののきさへ−ほのみえて−おもひくらせる−をちのさとひと


08184
未入力 正徹 (xxx)

古郷の人にととめし心よりほか行く旅の身はよわりつつ

ふるさとの−ひとにととめし−こころより−ほかゆくたひの−みはよわりつつ


08185
未入力 正徹 (xxx)

夢もし今夜枕をうちあかせ思ふかたほにかかる夕なみ

ゆめもみし−こよひまくらを−うちあかせ−おもふかたほに−かかるゆふなみ


08186
未入力 正徹 (xxx)

草枕思ひおこせは古郷の人もやこよひ旅ねなるらん

くさまくら−おもひおこせは−ふるさとの−ひともやこよひ−たひねなるらむ


08187
未入力 正徹 (xxx)

ねし床のちりもてちりやつくされん心のあたをはらふ心よ

ねしとこの−ちりもてちりや−つくされむ−こころのあたを−はらふこころよ


08188
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふ心のあたのせめくるになとあらそはぬ我か身なるらん

こひすてふ−こころのあたの−せめくるに−なとあらそはぬ−わかみなるらむ


08189
未入力 正徹 (xxx)

したかはん心は我を思はすとしれかしよそのたれ恨むらん

したかはむ−こころはわれを−おもはすと−しれかしよその−たれうらむらむ


08190
未入力 正徹 (xxx)

見し人に心の行くもととまるも我か身を分けて恋そくるしき

みしひとに−こころのゆくも−ととまるも−わかみをわけて−こひそくるしき


08191
未入力 正徹 (xxx)

なくなくそ身をしたかふる恋にひく心を後のあたにしれとも

なくなくそ−みをしたかふる−こひにひく−こころをのちの−あたにしれとも


08192
未入力 正徹 (xxx)

俤もやみなる閨のかへしろにあやなく人や夜を隔つらん

おもかけも−やみなるねやの−かへしろに−あやなくひとや−よをへたつらむ


08193
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣うちもへたてぬ玉札をみつから今朝や袖にこめけん

さよころも−うちもへたてぬ−たまつさを−みつからけさや−そてにこめけむ


08194
未入力 正徹 (xxx)

鳥の跡消えにし道に迷ひきぬ雁の翅のふみたかへつつ

とりのあと−きえにしみちに−まよひきぬ−かりのつはさの−ふみたかへつつ


08195
未入力 正徹 (xxx)

まなふをは物うきままにまきよせて窓にも思ふ文そよまるる

まなふをは−ものうきままに−まきよせて−まとにもおもふ−ふみそよまるる


08196
未入力 正徹 (xxx)

紅の涙をためてするすみの色とやはみん水くきの跡

くれなゐの−なみたをためて−するすみの−いろとやはみむ−みつくきのあと


08197
未入力 正徹 (xxx)

憂き中にととめし文もしみとちて今みんとすれはひらきかねぬる

うきなかに−ととめしふみも−しみとちて−いまみむとすれは−ひらきかねぬる


08198
未入力 正徹 (xxx)

むは玉のやみのうつつにみてもしれ夢にそかきしからすはの文

むはたまの−やみのうつつに−みてもしれ−ゆめにそかきし−からすはのふみ


08199
未入力 正徹 (xxx)

心そむかみの墨つき筆つかひ人のかたちもみるにたかはし

こころそむ−かみのすみつき−ふてつかひ−ひとのかたちも−みるにたかはし


08200
未入力 正徹 (xxx)

くもりなき心のおくの海と成る涙もからき袖のしほ風

くもりなき−こころのおくの−うみとなる−なみたもからき−そてのしほかせ


08201
未入力 正徹 (xxx)

水をたに結ひもいれぬ身のうさになにか涙と成りて落つらん

みつをたに−むすひもいれぬ−みのうさに−なにかなみたと−なりておつらむ


08202
未入力 正徹 (xxx)

朽ちてゆく床の涙よなかれての世に名やたたん山川の波

くちてゆく−とこのなみたよ−なかれての−よになやたたむ−やまかはのなみ


08203
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらすあまの釣棹さしはへてうきたる中そいととくるしき

そてぬらす−あまのつりさを−さしはへて−うきたるなかそ−いととくるしき


08204
未入力 正徹 (xxx)

みなれさを玉もかり初にさし離れ身をうら舟は波も帰らす

みなれさを−たまもかりそめに−さしはなれ−みをうらふねは−なみもかへらす


08205
未入力 正徹 (xxx)

みこしちや雪のしるしに立つ棹のふかき契は末そみしかき

みこしちや−ゆきのしるしに−たつさをの−ふかきちきりは−すゑそみしかき


08206
未入力 正徹 (xxx)

限りとや身をうら舟のほつなたえ人の心のあらち吹くらん

かきりとや−みをうらふねの−ほつなたえ−ひとのこころの−あらちふくらむ


08207
未入力 正徹 (xxx)

つらきにもうきにもたへぬ度毎に天の御空を打ちあふきつつ

つらきにも−うきにもたへぬ−たひことに−あめのみそらを−うちあふきつつ


08208
未入力 正徹 (xxx)

今は身も嵐の前に立つちりのおき所なき名こそかれせね

いまはみも−あらしのまへに−たつちりの−おきところなき−なこそかれせね


08209
未入力 正徹 (xxx)

春秋の時そともなき恋草のかれぬ心にきゆる霜かな

はるあきの−ときそともなき−こひくさの−かれぬこころに−きゆるしもかな


08210
未入力 正徹 (xxx)

さをしかのふしとは露もましるらん涙はかりの独ねの床

さをしかの−ふしとはつゆも−ましるらむ−なみたはかりの−ひとりねのとこ


08211
未入力 正徹 (xxx)

見てもしれ空行く月のうさきたに光にかよふ契ある世を

みてもしれ−そらゆくつきの−うさきたに−ひかりにかよふ−ちきりあるよを


08212
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふ心なくしてけた物の雲にほえけん通ちもかな

こひすてふ−こころなくして−けたものの−くもにほえけむ−かよひちもかな


08213
未入力 正徹 (xxx)

君そうき野へのかせきも此山になるれは人を遠くやはなす

きみそうき−のへのかせきも−このやまに−なるれはひとを−とほくやはなす


08214
未入力 正徹 (xxx)

しのふたにうちの渡りのさ夜中に人もとかむる里のいぬかな

しのふたに−うちのわたりの−さよなかに−ひともとかむる−さとのいぬかな


08215
未入力 正徹 (xxx)

あたら名をかるも乱れて心から思ひふすゐの床そ明けゆく

あたらなを−かるもみたれて−こころから−おもひふすゐの−とこそあけゆく


08216
未入力 正徹 (xxx)

とかむなよ馴れぬる宿の通ちにみしは手かひの犬ならすとも

とかむなよ−なれぬるやとの−かよひちに−みしはてかひの−いぬならすとも


08217
未入力 正徹 (xxx)

波わけてまたみぬ国に住むとらのいかなる野へを恋ちとかしる

なみわけて−またみぬくにに−すむとらの−いかなるのへを−こひちとかしる


08218
未入力 正徹 (xxx)

つなかれぬ心の駒もおとろへき恋ちさかしく遠き月日に

つなかれぬ−こころのこまも−おとろへき−こひちさかしく−とほきつきひに


08219
未入力 正徹 (xxx)

夕暮は恋そうき身をとほりぬる虎のうそふく風ならねとも

ゆふくれは−こひそうきみを−とほりぬる−とらのうそふく−かせならねとも


08220
未入力 正徹 (xxx)

人よりも心おかれてふす犬やつらき門もる関と成るらん

ひとよりも−こころおかれて−ふすいぬや−つらきかともる−せきとなるらむ


08221
未入力 正徹 (xxx)

音をそ啼くなれしもしらぬのらねこのつなたえはつる中の契に

ねをそなく−なれしもしらぬ−のらねこの−つなたえはつる−なかのちきりに


08222
未入力 正徹 (xxx)

身そ残るすてはすつへきもろこしのとらふすのへの恋ちならねと

みそのこる−すてはすつへき−もろこしの−とらふすのへの−こひちならねと


08223
未入力 正徹 (xxx)

やすくぬるふすゐの夢の程はかり心かるもに乱れすもかな

やすくぬる−ふすゐのゆめの−ほとはかり−こころかるもに−みたれすもかな


08224
未入力 正徹 (xxx)

乗りえはや手引の車しはしたにうしてふことをかけ離れなん

のりえはや−てひきのくるま−しはしたに−うしてふことを−かけはなれなむ


08225
未入力 正徹 (xxx)

犬の尾をくいの八千度めくるともめくりあはすは身やつかれまし

いぬのをを−くいのやちたひ−めくるとも−めくりあはすは−みやつかれまし


08226
未入力 正徹 (xxx)

二かたに思ふ心をくらへ馬のきほふをまつる契なれはや

ふたかたに−おもふこころを−くらへうまの−きほふをまつる−ちきりなれはや


08227
未入力 正徹 (xxx)

諸共にふすゐのかるも乱れてはうき名や床のちりと立つらん

もろともに−ふすゐのかるも−みたれては−うきなやとこの−ちりとたつらむ


08228
未入力 正徹 (xxx)

あよむまの命をかきるひつしたに打ちふす程や夢に相みん

あよむまの−いのちをかきる−ひつしたに−うちふすほとや−ゆめにあひみむ


08229
未入力 正徹 (xxx)

ぬれそはん袖の別ちおくりきて先達犬の露はらふなり

ぬれそはむ−そてのわかれち−おくりきて−さきたついぬの−つゆはらふなり


08230
未入力 正徹 (xxx)

とかめつる犬も手かひと成るはかり夜比たたすむ宿ないとひそ

とかめつる−いぬもてかひと−なるはかり−よころたたすむ−やとないとひそ


08231
未入力 正徹 (xxx)

磯の野のあまのかるもにかきそへてふすゐを袖の床のなみかな

いそののの−あまのかるもに−かきそへて−ふすゐをそての−とこのなみかな


08232
未入力 正徹 (xxx)

恋に身を行きても捨てんここになと虎住む野へのなき世なるらん

こひにみを−ゆきてもすてむ−ここになと−とらすむのへの−なきよなるらむ


08233
未入力 正徹 (xxx)

しるらめやおよはすとても妻とみて月のうさきのこふるならひは

しるらめや−およはすとても−つまとみて−つきのうさきの−こふるならひは


08234
未入力 正徹 (xxx)

人心あやふき中と身をそしる尾をふむ虎のねふる契は

ひとこころ−あやふきなかと−みをそしる−ををふむとらの−ねふるちきりは


08235
未入力 正徹 (xxx)

程遠く頼む夕のなるはうし犬のふすたけなかくなる日も

ほととほく−たのむゆふへの−なるはうし−いぬのふすたけ−なかくなるひも


08236
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見し人もかくそえかたき谷の猿てにもとられぬ水の月影

みしひとも−かくそえかたき−たにのさる−てにもとられぬ−みつのつきかけ


08237
未入力 正徹 (xxx)

身を捨てん憂名はたてていはすとも尾をふむとらの口はのかれし

みをすてむ−うきなはたてて−いはすとも−ををふむとらの−くちはのかれし


08238
未入力 正徹 (xxx)

あま人のかるもはそれもあれぬへしよそにふすゐの床のうらなみ

あまひとの−かるもはそれも−あれぬへし−よそにふすゐの−とこのうらなみ


08239
未入力 正徹 (xxx)

われそうき哀ふすゐの床中におきゐてあかす夜はもあらしを

われそうき−あはれふすゐの−とこなかに−おきゐてあかす−よはもあらしを


08240
未入力 正徹 (xxx)

われそかる人の心のいかりゐに猶ますらをかむかふ思ひに

われそかる−ひとのこころの−いかりゐに−なほますらをか−むかふおもひに


08241
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妻こふるふしとはこれも明けそゆく契さ山かおくの鹿の音

つまこふる−ふしとはこれも−あけそゆく−ちきりさやまか−おくのしかのね


08242
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山陰や秋のかのこの星消えて恋ふる心のやみそはるけぬ

やまかけや−あきのかのこの−ほしきえて−こふるこころの−やみそはるけぬ


08243
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夜もやすくねぬかひあらし人心猶あらたかの末はをるとも

よもやすく−ねぬかひあらし−ひとこころ−なほあらたかの−すゑはをるとも


08244
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いつまてかくるしき坂をあらそはん夕付鳥のあふさきるさに

いつまてか−くるしきさかを−あらそはむ−ゆふつけとりの−あふさきるさに


08245
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別なき夕付鳥は一つかひある世になくそ人のため憂き

わかれなき−ゆふつけとりは−ひとつかひ−あるよになくそ−ひとのためうき


08246
未入力 正徹 (xxx)

別よと真木の戸ならぬ羽をたたく鳥の初音にいそくさへうし

わかれよと−まきのとならぬ−はをたたく−とりのはつねに−いそくさへうし


08247
未入力 正徹 (xxx)

ときやらて涙の滝もつららゐぬ身を鴬の春の山かせ

ときやらて−なみたのたきも−つららゐぬ−みをうくひすの−はるのやまかせ


08248
未入力 正徹 (xxx)

鳥も今恋に思ひの火来て身をせむるとや音には啼くらん

とりもいま−こひにおもひの−ひххきて−みをせむるとや−ねにはなくらむ


08249
未入力 正徹 (xxx)

契りしもうきてねになく鴨の足のみしかくあさきえをそうらむる

ちきりしも−うきてねになく−かものあしの−みしかくあさき−えをそうらむる


08250
未入力 正徹 (xxx)

契をはなほあた波にかけそへて水かくれ果てぬ鳰の通ち

ちきりをは−なほあたなみに−かけそへて−みかくれはてぬ−にほのかよひち


08251
未入力 正徹 (xxx)

鳰鳥のうきたる波は袖こえて我か身にしらぬ下のかよひち

にほとりの−うきたるなみは−そてこえて−わかみにしらぬ−したのかよひち


08252
未入力 正徹 (xxx)

いく世まてあふことなみをかつくらん身をうきすより出てし鳰鳥

いくよまて−あふことなみを−かつくらむ−みをうきすより−いてしにほとり


08253
未入力 正徹 (xxx)

かねてうき恋そ身にしむますらをか鳩ふく秋の風はよそにて

かねてうき−こひそみにしむ−ますらをか−はとふくあきの−かせはよそにて


08254
未入力 正徹 (xxx)

子を思ふ道にはあらて夜るのつるのたつてふあしのねをのみそなく

こをおもふ−みちにはあらて−よるのつるの−たつてふあしの−ねをのみそなく


08255
未入力 正徹 (xxx)

恋侘ひてなくねよそなる契かは我もかさねぬ鶴の毛衣

こひわひて−なくねよそなる−ちきりかは−われもかさねぬ−つるのけころも


08256
未入力 正徹 (xxx)

咲く花の匂ひし春の俤を雲ゐのつるのしたひてそなく

さくはなの−にほひしはるの−おもかけを−くもゐのつるの−したひてそなく


08257
未入力 正徹 (xxx)

夜の鶴子を思ふ道もよそならて啼くや恋ちに迷ふやみかな

よるのつる−こをおもふみちも−よそならて−なくやこひちに−まよふやみかな


08258
未入力 正徹 (xxx)

忘れしの世にはすめともかけろふのあるかなきかをとふ人もなし

わすれしの−よにはすめとも−かけろふの−あるかなきかを−とふひともなし


08259
未入力 正徹 (xxx)

人ははや軒はなからに頼むなりしはしな絶えそささかにの糸

ひとははや−のきはなからに−たのむなり−しはしなたえそ−ささかにのいと


08260
未入力 正徹 (xxx)

あら磯の波もわか身をくたくこそもに住む虫のうらみなりけれ

あらいその−なみもわかみを−くたくこそ−もにすむむしの−うらみなりけれ


08261
未入力 正徹 (xxx)

君もしれ虫のねからす秋の霜かかれとてしもおかぬ心を

きみもしれ−むしのねからす−あきのしも−かかれとてしも−おかぬこころを


08262
未入力 正徹 (xxx)

いふせくも親のかふこのまゆねかく夕もあはすいもに恋ひつつ

いふせくも−おやのかふこの−まゆねかく−ゆふへもあはす−いもにこひつつ


08263
未入力 正徹 (xxx)

われからと恋にや捨てんあまのかる玉もかくれの虫の命を

われからと−こひにやすてむ−あまのかる−たまもかくれの−むしのいのちを


08264
未入力 正徹 (xxx)

かきつくす恨をしみのすみかまて残さてくちね玉札のもし

かきつくす−うらみをしみの−すみかまて−のこさてくちね−たまつさのもし


08265
未入力 正徹 (xxx)

いつの世に心ひらかんまゆこもりそれもあひみる親のかふこを

いつのよに−こころひらかむ−まゆこもり−それもあひみる−おやのかふこを


08266
未入力 正徹 (xxx)

文の中にうまれはつらし言の葉を心にしみのすみ所とて

ふみのうちに−うまれはつらし−ことのはを−こころにしみの−すみところとて


08267
未入力 正徹 (xxx)

くたくらんもかり小舟につむ虫のそれもこかれし心心に

くたくらむ−もかりをふねに−つむむしの−それもこかれし−こころこころに


08268
未入力 正徹 (xxx)

涙川君か方にそひを虫のよりてをきゆるあしろきもかな

なみたかは−きみかかたにそ−ひをむしの−よりてをきゆる−あしろきもかな


08269
未入力 正徹 (xxx)

うき中のあしろもしらぬひを虫の命もよるはうらやまれつつ

うきなかの−あしろもしらぬ−ひをむしの−いのちもよるは−うらやまれつつ


08270
未入力 正徹 (xxx)

なほのこる契りはかけきかけろふのおのれ消えても残る夕日に

なほのこる−ちきりはかけき−かけろふの−おのれきえても−のこるゆふひに


08271
未入力 正徹 (xxx)

月草の心の花にぬる蝶の露のまたのむ夢そうつろふ

つきくさの−こころのはなに−ぬるてふの−つゆのまたのむ−ゆめそうつろふ


08272
未入力 正徹 (xxx)

かくるともいかか頼まん軒ふりて板まもあはぬささかにの糸

かくるとも−いかかたのまむ−のきふりて−いたまもあはぬ−ささかにのいと


08273
未入力 正徹 (xxx)

なさけなく夏のさはへをとるくもはくへきよひともいかかしらせん

なさけなく−なつのさはへを−とるくもは−くへきよひとも−いかかしらせむ


08274
未入力 正徹 (xxx)

軒はにも色やはみせんささかにのて染もしらぬ糸の乱れは

のきはにも−いろやはみせむ−ささかにの−てそめもしらぬ−いとのみたれは


08275
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふ袂にかけよささかにの糸を星合の空にかすとも

こひすてふ−たもとにかけよ−ささかにの−いとをほしあひの−そらにかすとも


08276
未入力 正徹 (xxx)

なきたむる涙の水にすむ蛙恋てふ歌のたねと成るかに

なきたむる−なみたのみつに−すむかはつ−こひてふうたの−たねとなるかに


08277
未入力 正徹 (xxx)

猶そうき身にそふ衣のうちなからふところ貝のあふこかたみは

なほそうき−みにそふきぬの−うちなから−ふところかひの−あふこかたみは


08278
未入力 正徹 (xxx)

きりきりす契かれ行く草はたに霜ふる壁の中の秋風

きりきりす−ちきりかれゆく−くさはたに−しもふるかへの−なかのあきかせ


08279
未入力 正徹 (xxx)

憂き中のかはりやすきは石の火の光のまさへ猶そのとけき

うきなかの−かはりやすきは−いしのひの−ひかりのまさへ−なほそのとけき


08280
未入力 正徹 (xxx)

思ひ川うき水底の石の火の打出ててもゆとみえん世もなし

おもひかは−うきみなそこの−いしのひの−うちいててもゆと−みえむよもなし


08281
未入力 正徹 (xxx)

野への鹿たかく思ひをかけよとや峰の思ひのもえてみゆらん

のへのしか−たかくおもひを−かけよとや−みねのおもひの−もえてみゆらむ


08282
未入力 正徹 (xxx)

心からむねに思ひの火やいてん木をもむ程に身をもやすめぬ

こころから−むねにおもひの−ひやいてむ−きをもむほとに−みをもやすめぬ


08283
未入力 正徹 (xxx)

波こゆるう川のかかりもえかねてのほるせくるし思ひ絶えなん

なみこゆる−うかはのかかり−もえかねて−のほるせくるし−おもひたえなむ


08284
未入力 正徹 (xxx)

篝火の影消かたのうち松になけきをそへてもえあかしつつ

かかりひの−かけきえかたの−うちまつに−なけきをそへて−もえあかしつつ


08285
未入力 正徹 (xxx)

身にしめき竹のすい垣隙有りて見し夜の月のうちの川風

みにしめき−たけのすいかき−ひまありて−みしよのつきの−うちのかはかせ


08286
未入力 正徹 (xxx)

しかま川朝市いそくかち人のわたれとぬれぬえにそくるしき

しかまかは−あさいちいそく−かちひとの−わたれとぬれぬ−えにそくるしき


08287
未入力 正徹 (xxx)

うつしみはしろきを後のかほはせも涙くもりてかひやなからん

うつしみは−しろきをのちの−かほはせも−なみたくもりて−かひやなからむ


08288
未入力 正徹 (xxx)

墨染の夕波かけて落葉かく絵島のあまもまつと告けこせ

すみそめの−ゆふなみかけて−おちはかく−えしまのあまも−まつとつけこせ


08289
未入力 正徹 (xxx)

うつすともおよはし筆のかた代に思ひの色の姿ならすは

うつすとも−およはしふての−かたしろに−おもひのいろの−すかたならすは


08290
未入力 正徹 (xxx)

かたみとやなにはの春の芦て絵もみしかき笛の跡のこすらん

かたみとや−なにはのはるの−あしてえも−みしかきふえの−あとのこすらむ


08291
未入力 正徹 (xxx)

にさらましむなし契の朽木かき筆限有る人のかた代

にさらまし−むなしちきりの−くちきかき−ふてかきりある−ひとのかたしろ


08292
未入力 正徹 (xxx)

尋ねきてしほならぬうみにしほたるる袂をとへは海士もならほす

たつねきて−しほならぬうみに−しほたるる−たもとをとへは−あまもならはす


08293
未入力 正徹 (xxx)

袖の上よ思ひしるてふことのはにかからぬ露のなにみたるらん

そてのうへよ−おもひしるてふ−ことのはに−かからぬつゆの−なにみたるらむ


08294
未入力 正徹 (xxx)

結ふへき契もしらぬ寿をそなにそは露のきゆるをもまて

むすふへき−ちきりもしらぬ−いのちをそ−なにそはつゆの−きゆるをもまて


08295
未入力 正徹 (xxx)

けさやみんかたしきけちてまきらはす露のあまりの床の白玉

けさやみむ−かたしきけちて−まきらはす−つゆのあまりの−とこのしらたま


08296
未入力 正徹 (xxx)

色もなしたれかは分けん恋渡る心の花の露よなみたよ

いろもなし−たれかはわけむ−こひわたる−こころのはなの−つゆよなみたよ


08297
未入力 正徹 (xxx)

草の原とはれんこともしら露の消えて又おく命ならすは

くさのはら−とはれむことも−しらつゆの−きえてまたおく−いのちならすは


08298
未入力 正徹 (xxx)

我か命露ときゆとも思ひのみ草の陰にや猶も残らん

わかいのち−つゆときゆとも−おもひのみ−くさのかけにや−なほものこらむ


08299
未入力 正徹 (xxx)

恋草は分けつくすへきみちならて露けき秋の色そ朽行く

こひくさは−わけつくすへき−みちならて−つゆけきあきの−いろそくちゆく


08300
未入力 正徹 (xxx)

うなはらやあまの御ほこの露もうし国とならすは恋やなからん

うなはらや−あまのみほこの−つゆもうし−くにとならすは−こひやなからむ


08301
未入力 正徹 (xxx)

あけはみよ何の草木か染めさらん別ちに生ふる袖のしら露

あけはみよ−なにのくさきか−そめさらむ−わかれちにおふる−そてのしらつゆ


08302
未入力 正徹 (xxx)

消えてたに深くと契れ紅のあさはの野らの後の夕露

きえてたに−ふかくとちきれ−くれなゐの−あさはののらの−のちのゆふつゆ


08303
未入力 正徹 (xxx)

今よりもあさはの露を涙とはから紅の袖の初しほ

いまよりも−あさはのつゆを−なみたとは−からくれなゐの−そてのはつしほ


08304
未入力 正徹 (xxx)

まてしはし契浅茅か末の露かからすとても秋のこからし

まてしはし−ちきりあさちか−すゑのつゆ−かからすとても−あきのこからし


08305
未入力 正徹 (xxx)

ききかねぬ夕の霧のへたてたにつらきこすもる人の盲の葉

ききかねぬ−ゆふへのきりの−へたてたに−つらきこすもる−ひとのことのは


08306
未入力 正徹 (xxx)

中にうき霞も思ひ消侘ひぬ花に契りやかけてかひなき

なかにうき−かすみもおもひ−きえわひぬ−はなにちきりや−かけてかひなき


08307
未入力 正徹 (xxx)

恋侘ふる涙を人にかたらねは枕のしるもかひなかりけり

こひわふる−なみたをひとに−かたらねは−まくらのしるも−かひなかりけり


08308
未入力 正徹 (xxx)

しるへせよ枕はかりをしる人になしてそ夢の契をもまつ

しるへせよ−まくらはかりを−しるひとに−なしてそゆめの−ちきりをもまつ


08309
未入力 正徹 (xxx)

いひやらん物とはなしにうらむとも枕のしるを猶やたのまん

いひやらむ−ものとはなしに−うらむとも−まくらのしるを−なほやたのまむ


08310
未入力 正徹 (xxx)

枕香も我のみつらし床の上のこかの渡りは舟もかよはて

まくらかも−われのみつらし−とこのうへの−こかのわたりは−ふねもかよはて


08311
未入力 正徹 (xxx)

しるといふ枕も人にかたらすは涙もらすな夜夜のくろかみ

しるといふ−まくらもひとに−かたらすは−なみたもらすな−よよのくろかみ


08312
未入力 正徹 (xxx)

あけは又独ぬる夜の枕かにむねのみこかのけふり渡らん

あけはまた−ひとりぬるよの−まくらかに−むねのみこかの−けふりわたらむ


08313
未入力 正徹 (xxx)

人はとへ落つる涙の滝枕音に関もる夢のかよひち

ひとはとへ−おつるなみたの−たきまくら−おとにせきもる−ゆめのかよひち


08314
未入力 正徹 (xxx)

うらめしく枕にゑかく獣やあふ夜の夢の道をたちけん

うらめしく−まくらにゑかく−けたものや−あふよのゆめの−みちをたちけむ


08315
未入力 正徹 (xxx)

たれきてかふみならさまし独ねてあまる枕の夢の板橋

たれきてか−ふみならさまし−ひとりねて−あまるまくらの−ゆめのいたはし


08316
未入力 正徹 (xxx)

あさてあらふたよりにも先あふ事を祈るとなしに打思ひつつ

あさてあらふ−たよりにもまつ−あふことを−いのるとなしに−うちおもひつつ


08317
未入力 正徹 (xxx)

出つる日の契らぬかけそさしも入るまつ夜のままに明けし戸口は

いつるひの−ちきらぬかけそ−さしもいる−まつよのままに−あけしとくちは


08318
未入力 正徹 (xxx)

夜はふかく帰る契は朝鳥の軒の羽風もほさぬ袖かな

よはふかく−かへるちきりは−あさとりの−のきのはかせも−ほさぬそてかな


08319
未入力 正徹 (xxx)

うたかはす今夜と契おく時の日影もすくになひく頼に

うたかはす−こよひとちきり−おくときの−ひかけもすくに−なひくたのみに


08320
未入力 正徹 (xxx)

めくりあふ夜はとはなしに小車のかけしひつしの時も頼ます

めくりあふ−よはとはなしに−をくるまの−かけしひつしの−ときもたのます


08321
未入力 正徹 (xxx)

君かためすすまぬむまの時もなくなと足はやくかよふ心そ

きみかため−すすまぬうまの−ときもなく−なとあしはやく−かよふこころそ


08322
未入力 正徹 (xxx)

うらみしよまたしと思ふ思ひたに夕はあらぬ心かはりを

うらみしよ−またしとおもふ−おもひたに−ゆふへはあらぬ−こころかはりを


08323
未入力 正徹 (xxx)

のかれめや恋と夕の二道にせめくる宿を出てて行くとも

のかれめや−こひとゆふへの−ふたみちに−せめくるやとを−いててゆくとも


08324
未入力 正徹 (xxx)

たのますよとよはた雲の引く手たにあまたになひく中の契は

たのますよ−とよはたくもの−ひくてたに−あまたになひく−なかのちきりは


08325
未入力 正徹 (xxx)

こす近くたそかれ時にたたすむを君しもとははいかかこたへん

こすちかく−たそかれときに−たたすむを−きみしもとはは−いかかこたへむ


08326
未入力 正徹 (xxx)

月なくはせめてもみはやまつはこて夕やみはれぬうたたねの夢

つきなくは−せめてもみはや−まつはこて−ゆふやみはれぬ−うたたねのゆめ


08327
未入力 正徹 (xxx)

たとらはやたそかれ時も誰ならぬ俤はかり猶そさやけき

たとらはや−たそかれときも−たれならぬ−おもかけはかり−なほそさやけき


08328
未入力 正徹 (xxx)

さのみかくおきもあかさし後の世を歎くと人や人にかたらん

さのみかく−おきもあかさし−のちのよを−なけくとひとや−ひとにかたらむ


08329
未入力 正徹 (xxx)

あはぬよのつらさは夢になされぬややみのうつつのまことなるらん

あはぬよの−つらさはゆめに−なされぬや−やみのうつつの−まことなるらむ


08330
未入力 正徹 (xxx)

かけてうき山かつら川たか中にあふせ明けぬと波帰るらん

かけてうき−やまかつらかは−たかなかに−あふせあけぬと−なみかへるらむ


08331
未入力 正徹 (xxx)

思ひつつねし夜の床に朝日さす袖の煙やなみたなるらん

おもひつつ−ねしよのとこに−あさひさす−そてのけふりや−なみたなるらむ


08332
未入力 正徹 (xxx)

夢かさはてる日くもる日限りなき思ひのやみのふかき夜の空

ゆめかさは−てるひくもるひ−かきりなき−おもひのやみの−ふかきよのそら


08333
未入力 正徹 (xxx)

いつまてか憂きみ山木の葉をしけみ日影もらさぬ思ひならまし

いつまてか−うきみやまこの−はをしけみ−ひかけもらさぬ−おもひならまし


08334
未入力 正徹 (xxx)

あかねさす日のたてぬきの恋衣ほさぬ物とやおり初めけん

あかねさす−ひのたてぬきの−こひころも−ほさぬものとや−おりはしめけむ


08335
未入力 正徹 (xxx)

かへりみよもすそもいととあかねさすかけと成る身のけたぬ思ひを

かへりみよ−もすそもいとと−あかねさす−かけとなるみの−けたぬおもひを


08336
未入力 正徹 (xxx)

夕暮に松の嵐やうからまし長き春日の心くらへに

ゆふくれに−まつのあらしや−うからまし−なかきはるひの−こころくらへに


08337
未入力 正徹 (xxx)

いつはりの有るかなきかの夜そしらぬ夕日は袖に消ゆるかけろふ

いつはりの−あるかなきかの−よそしらぬ−ゆふひはそてに−きゆるかけろふ


08338
未入力 正徹 (xxx)

うきにそむ日のたてぬきのさ夜衣影さすけさも氷やはとく

うきにそむ−ひのたてぬきの−さよころも−かけさすけさも−こほりやはとく


08339
未入力 正徹 (xxx)

出つる日にてを合せても恋すてふ我はつかしき涙おちつつ

いつるひに−てをあはせても−こひすてふ−われはつかしき−なみたおちつつ


08340
未入力 正徹 (xxx)

むかはしよ袖の涙の紅はあかねさす日も色やまさらん

むかはしよ−そてのなみたの−くれなゐは−あかねさすひも−いろやまさらむ


08341
未入力 正徹 (xxx)

夜半もうし日影につれて行く星の入りはてんともみえん恋かは

よはもうし−ひかけにつれて−ゆくほしの−いりはてむとも−みえむこひかは


08342
未入力 正徹 (xxx)

なかれての名こそ七の星の影いく夜を空にめくりあへとも

なかれての−なこそななつの−ほしのかけ−いくよをそらに−めくりあへとも


08343
未入力 正徹 (xxx)

せめてみんむかふたらひの涙にもあふよの星の影や移ると

せめてみむ−むかふたらひの−なみたにも−あふよのほしの−かけやうつると


08344
未入力 正徹 (xxx)

頼む夜もうき身のままに明星はみてもさとらん空そはるけき

たのむよも−うきみのままに−あかほしは−みてもさとらむ−そらそはるけき


08345
未入力 正徹 (xxx)

憂名をもたたしかの子の星月夜くらきそたより野への通ち

うきなをも−たたしかのこの−ほしつきよ−くらきそたより−のへのかよひち


08346
未入力 正徹 (xxx)

諸共に契りしままの月まつと人にもいはてむかふ山のは

もろともに−ちきりしままの−つきまつと−ひとにもいはて−むかふやまのは


08347
未入力 正徹 (xxx)

もえ行くを天つ光もてらしみよ星の林の雪のした草

もえゆくを−あまつひかりも−てらしみよ−ほしのはやしの−ゆきのしたくさ


08348
未入力 正徹 (xxx)

こぬ人を待つはむなしく明星の影は夜毎に閨をとへとも

こぬひとを−まつはむなしく−あかほしの−かけはよことに−ねやをとへとも


08349
未入力 正徹 (xxx)

あひみまくほしのまきれもさたまらす頼む契やうす雲の空

あひみまく−ほしのまきれも−さたまらす−たのむちきりや−うすくものそら


08350
未入力 正徹 (xxx)

なくさむる月こそあらまほしの影おほつかなしよ待つにねぬよを

なくさむる−つきこそあらま−ほしのかけ−おほつかなしよ−まつにねぬよを


08351
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふことをやくにてあまたへぬ年のかはれる星の祈は

こひすてふ−ことをやくにて−あまたへぬ−としのかはれる−ほしのいのりは


08352
未入力 正徹 (xxx)

独みていむてふ月にむかへとも憂身を捨つるしるしたになし

ひとりみて−いむてふつきに−むかへとも−うきみをすつる−しるしたになし


08353
未入力 正徹 (xxx)

迷ふ身のうはの空なるしるへをもいつかは月の行へかこたん

まよふみの−うはのそらなる−しるへをも−いつかはつきの−ゆくへかこたむ


08354
未入力 正徹 (xxx)

うれへみる袖の涙もはちぬへし月の都の人の心に

うれへみる−そてのなみたも−はちぬへし−つきのみやこの−ひとのこころに


08355
未入力 正徹 (xxx)

我か涙袖にまてとも三か月の影みぬ暮そぬれてかひなき

わかなみた−そてにまてとも−みかつきの−かけみぬくれそ−ぬれてかひなき


08356
未入力 正徹 (xxx)

思ひなき枕の月のかたほにもふるき涙にやつれやはせぬ

おもひなき−まくらのつきの−かたほにも−ふるきなみたに−やつれやはせぬ


08357
未入力 正徹 (xxx)

恨みても恋ひても空にかこつかな月のしるへき中ならなくに

うらみても−こひてもそらに−かこつかな−つきのしるへき−なかならなくに


08358
未入力 正徹 (xxx)

澄む月もいく世の人のうれへをかうけて恋ちに猶めくるらん

すむつきも−いくよのひとの−うれへをか−うけてこひちに−なほめくるらむ


08359
未入力 正徹 (xxx)

なかれての月待つ夜をやかさぬらん月の残さぬ人の形みを

なかれての−つきまつよをや−かさぬらむ−つきののこさぬ−ひとのかたみを


08360
未入力 正徹 (xxx)

たか方にあふ夜を月もさそふらんさも足早き四方の村雲

たかかたに−あふよをつきも−さそふらむ−さもあしはやき−よものむらくも


08361
未入力 正徹 (xxx)

いつもなと先俤のむかふらん月の残さぬ人のかたみを

いつもなと−まつおもかけの−むかふらむ−つきののこさぬ−ひとのかたみを


08362
未入力 正徹 (xxx)

忘られぬ涙のうちの面影も袖にこほるる有明の月

わすられぬ−なみたのうちの−おもかけも−そてにこほるる−ありあけのつき


08363
未入力 正徹 (xxx)

袖の上に涙もかけもそひそ行くほのかに人を三かのよの月

そてのうへに−なみたもかけも−そひそゆく−ほのかにひとを−みかのよのつき


08364
未入力 正徹 (xxx)

俤は形見の雲に残る月契りし夢そにたる夜もなき

おもかけは−かたみのくもに−のこるつき−ちきりしゆめそ−にたるよもなき


08365
未入力 正徹 (xxx)

人そうき待つと別の二道にうらみられても月そ残れる

ひとそうき−まつとわかれの−ふたみちに−うらみられても−つきそのこれる


08366
未入力 正徹 (xxx)

思ひかねわさとむかへとかひそなきいむてふ月も物忘して

おもひかね−わさとむかへと−かひそなき−いむてふつきも−ものわすれして


08367
未入力 正徹 (xxx)

待出つる夜半の契の頼さへ月の宮古のおくの通ち

まちいつる−よはのちきりの−たのみさへ−つきのみやこの−おくのかよひち


08368
未入力 正徹 (xxx)

俤に又や忘れんそふとても此世の月の後のあけほの

おもかけに−またやわすれむ−そふとても−このよのつきの−のちのあけほの


08369
未入力 正徹 (xxx)

こよひ人月はたれともさしむかふ心をうつせ我もみまほし

こよひひと−つきはたれとも−さしむかふ−こころをうつせ−われもみまほし


08370
未入力 正徹 (xxx)

やとるなよその夜の月のかたみたに袖に朽ちゆくふるき涙を

やとるなよ−そのよのつきの−かたみたに−そてにくちゆく−ふるきなみたを


08371
未入力 正徹 (xxx)

独みていむてふことの偽を月にうれふる秋のふるさと

ひとりみて−いむてふことの−いつはりを−つきにうれふる−あきのふるさと


08372
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふ人のうれへやおはさらん誰もなかむる月そつれなき

こひすてふ−ひとのうれへや−おはさらむ−たれもなかむる−つきそつれなき


08373
未入力 正徹 (xxx)

俤よ月の宮人ならなくになけきあまれは打ちなかむらん

おもかけよ−つきのみやひと−ならなくに−なけきあまれは−うちなかむらむ


08374
未入力 正徹 (xxx)

移り行く空もうらめしこよひしもみし夜の月の心はかりに

うつりゆく−そらもうらめし−こよひしも−みしよのつきの−こころはかりに


08375
未入力 正徹 (xxx)

よしさらは雲たに月のかほかくせみるらん恋の袖のやつれを

よしさらは−くもたにつきの−かほかくせ−みるらむこひの−そてのやつれを


08376
未入力 正徹 (xxx)

我ゆゑの涙と月も思はすはくもる恨を身にやかへさん

われゆゑの−なみたとつきも−おもはすは−くもるうらみを−みにやかへさむ


08377
未入力 正徹 (xxx)

詠めつつ人の面影ならなくに忘れぬ月のかほそ身にしむ

なかめつつ−ひとのおもかけ−ならなくに−わすれぬつきの−かほそみにしむ


08378
未入力 正徹 (xxx)

遠さかる思ひを月にうれふれは契をかりの声そこたふる

とほさかる−おもひをつきに−うれふれは−ちきりをかりの−こゑそこたふる


08379
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれし人そ跡なき休らひにいてにし月の影はとへとも

そてぬれし−ひとそあとなき−やすらひに−いてにしつきの−かけはとへとも


08380
未入力 正徹 (xxx)

むなしよをうらむる空にふる露の月の涙となすそなくさむ

むなしよを−うらむるそらに−ふるつゆの−つきのなみたと−なすそなくさむ


08381
未入力 正徹 (xxx)

世の人のうき中ことをあきらめよくらきをてらす月ならは月

よのひとの−うきなかことを−あきらめよ−くらきをてらす−つきならはつき


08382
未入力 正徹 (xxx)

いかかねん人こそたえめ手枕にやとり馴れにし月も夜かれは

いかかねむ−ひとこそたえめ−たまくらに−やとりなれにし−つきもよかれは


08383
未入力 正徹 (xxx)

見るもうき夕つく夜かな月待つと人にいふへきたよりなくして

みるもうき−ゆふつくよかな−つきまつと−ひとにいふへき−たよりなくして


08384
未入力 正徹 (xxx)

うれへこし月は思ひの初よりしるや契の秋のすゑはを

うれへこし−つきはおもひの−はしめより−しるやちきりの−あきのすゑはを


08385
未入力 正徹 (xxx)

露とたにおちすは月の宿かれん袖も涙を頼む夜にして

つゆとたに−おちすはつきの−やとかれむ−そてもなみたを−たのむよにして


08386
未入力 正徹 (xxx)

月清み思ひをかくる浮雲の乱れ心をはらへあき風

つききよみ−おもひをかくる−うきくもの−みたれこころを−はらへあきかせ


08387
未入力 正徹 (xxx)

こよひわか袂をそへてみし人の俤そへて月そやとれる

こよひわか−たもとをそへて−みしひとの−おもかけそへて−つきそやとれる


08388
未入力 正徹 (xxx)

うき身かは契の末のあさは野に人もこすけの春の乱れは

うきみかは−ちきりのすゑの−あさはのに−ひともこすけの−はるのみたれは


08389
未入力 正徹 (xxx)

てにかけし昔は今そ夏引のいとふもつらし賎のをた巻

てにかけし−むかしはいまそ−なつひきの−いとふもつらし−しつのをたまき


08390
未入力 正徹 (xxx)

昔たか窓より秋を初にてふるき涙の露と成るらん

むかしたか−まとよりあきを−はしめにて−ふるきなみたの−つゆとなるらむ


08391
未入力 正徹 (xxx)

露はらふね覚はかりのうき秋を思ひくらへん袖の上かは

つゆはらふ−ねさめはかりの−うきあきを−おもひくらへむ−そてのうへかは


08392
未入力 正徹 (xxx)

雲風も秋うき比の夕暮や思ひも恋も空にみつらん

くもかせも−あきうきころの−ゆふくれや−おもひもこひも−そらにみつらむ


08393
未入力 正徹 (xxx)

末まては結ふともなき契かなまた初草の枕かほして

すゑまては−むすふともなき−ちきりかな−またはつくさの−まくらかほして


08394
未入力 正徹 (xxx)

とははうし思ひは今そ初草の原のかれ野とならん夕を

とははうし−おもひはいまそ−はつくさの−はらのかれのと−ならむゆふへを


08395
未入力 正徹 (xxx)

夜のまにもたれにか思ひつき草のうつりし袖は今朝の白露

よのまにも−たれにかおもひ−つきくさの−うつりしそては−けさのしらつゆ


08396
未入力 正徹 (xxx)

今はたたかこともかけし庭の松軒の忍ふの露の昔に

いまはたた−かこともかけし−にはのまつ−のきのしのふの−つゆのむかしに


08397
未入力 正徹 (xxx)

移り香も露に消えよと乱るらし帰る朝の袖の下草

うつりかも−つゆにきえよと−みたるらし−かへるあしたの−そてのしたくさ


08398
未入力 正徹 (xxx)

玉ゆらも何にかからん忘草それさへかれし野への夕露

たまゆらも−なににかからむ−わすれくさ−それさへかれし−のへのゆふつゆ


08399
未入力 正徹 (xxx)

思ひ草心のうちのたね絶えてなき世うれしき契ともかな

おもひくさ−こころのうちの−たねたえて−なきようれしき−ちきりともかな


08400
未入力 正徹 (xxx)

とへかしな契を秋の霜にたに尾花かもとはかるるともなし

とへかしな−ちきりをあきの−しもにたに−をはなかもとは−かるるともなし


08401
未入力 正徹 (xxx)

秋の色によもうつろはし思草人こそ露をかけてやむとも

あきのいろに−よもうつろはし−おもひくさ−ひとこそつゆを−かけてやむとも


08402
未入力 正徹 (xxx)

ねを絶えね尾花かもとの契ゆゑもえし煙そ春の焼原

ねをたえね−をはなかもとの−ちきりゆゑ−もえしけふりそ−はるのやけはら


08403
未入力 正徹 (xxx)

契りしを忘るる草の心こそ岩木に生ふる種と成りけめ

ちきりしを−わするるくさの−こころこそ−いはきにおふる−たねとなりけめ


08404
未入力 正徹 (xxx)

契りても忘るる草の種そなき松の名つらき住吉の岸

ちきりても−わするるくさの−たねそなき−まつのなつらき−すみよしのきし


08405
未入力 正徹 (xxx)

うつろふもまた白菊の花心よしやしはしの露なへたてそ

うつろふも−またしらきくの−はなこころ−よしやしはしの−つゆなへたてそ


08406
未入力 正徹 (xxx)

恋すてふ秋の千草の花心乱れやすきや露の夕風

こひすてふ−あきのちくさの−はなこころ−みたれやすきや−つゆのゆふかせ


08407
未入力 正徹 (xxx)

人そうき契浅茅の陰に行く石まの水はすみはつる世に

ひとそうき−ちきりあさちの−かけにゆく−いしまのみつは−すみはつるよに


08408
未入力 正徹 (xxx)

やたののや契浅茅か秋に吹く声もあらちの雪の山風

やたののや−ちきりあさちか−あきにふく−こゑもあらちの−ゆきのやまかせ


08409
未入力 正徹 (xxx)

秋の色のあさちうらやむ霜そうき衣手からす中の契に

あきのいろの−あさちうらやむ−しもそうき−ころもてからす−なかのちきりに


08410
未入力 正徹 (xxx)

玉のをも長き思ひをかけやせん匂ふあやめの袖の行ふり

たまのをも−なかきおもひを−かけやせむ−にほふあやめの−そてのゆきふり


08411
未入力 正徹 (xxx)

見さらましうき身外山におりはててつつらはふ木のあまた心を

みさらまし−うきみとやまに−おりはてて−つつらはふきの−あまたこころを


08412
未入力 正徹 (xxx)

はては又からすそつらきねぬなはのうきにはふ夜の長月の霜

はてはまた−からすそつらき−ねぬなはの−うきにはふよの−なかつきのしも


08413
未入力 正徹 (xxx)

結ふらん露もかはらて宿木のならへる枝の契りともかな

むすふらむ−つゆもかはらて−やとりきの−ならへるえたの−ちきりともかな


08414
未入力 正徹 (xxx)

およひなき思ひや高き梢にも生ふるなけきの種と成りけん

およひなき−おもひやたかき−こすゑにも−おふるなけきの−たねとなりけむ


08415
未入力 正徹 (xxx)

人は猶梢にねさす松のたね思ひをつきて千世なかさねそ

ひとはなほ−こすゑにねさす−まつのたね−おもひをつきて−ちよなかさねそ


08416
未入力 正徹 (xxx)

高くともせめて一夜の宿木よおよはぬ枝にねさすまてこそ

たかくとも−せめてひとよの−やとりきよ−およはぬえたに−ねさすまてこそ


08417
未入力 正徹 (xxx)

たれこひん梢にねさす松の種生行く後の風の夕くれ

たれこひむ−こすゑにねさす−まつのたね−おひゆくのちの−かせのゆふくれ


08418
未入力 正徹 (xxx)

みなれ木の梢に生ふる松の葉のつれなやこれも思ひかけきや

みなれきの−こすゑにおふる−まつのはの−つれなやこれも−おもひかけきや


08419
未入力 正徹 (xxx)

待つ人は梢に根さす宿木のうつろふ秋も色そつれなき

まつひとは−こすゑにねさす−やとりきの−うつろふあきも−いろそつれなき


08420
未入力 正徹 (xxx)

引残す谷のふし木のいつまてかそまのかたやの暮を待つらん

ひきのこす−たにのふしきの−いつまてか−そまのかたやの−くれをまつらむ


08421
未入力 正徹 (xxx)

忘らるる身をの杣木の憂ふしをさなから朽つる袖にかけつつ

わすらるる−みをのそまきの−うきふしを−さなからくつる−そてにかけつつ


08422
未入力 正徹 (xxx)

年をへて憂き言の葉のつきしよりかけの朽木の身をそうらむる

としをへて−うきことのはの−つきしより−かけのくちきの−みをそうらむる


08423
未入力 正徹 (xxx)

数ならぬみ山かくれになしてたによるは朽木のもゆるならひを

かすならぬ−みやまかくれに−なしてたに−よるはくちきの−もゆるならひを


08424
未入力 正徹 (xxx)

朝な夕なからき思ひをなけきにてさもたきそふる海士のもしほ火

あさなゆふな−からきおもひを−なけきにて−さもたきそふる−あまのもしほひ


08425
未入力 正徹 (xxx)

もしほ焼く思ひの薪からく世の山をいく山こりつくすらん

もしほやく−おもひのたきき−からくよの−やまをいくやま−こりつくすらむ


08426
未入力 正徹 (xxx)

煙にもかろくはたてし里のあまのわらぬ塩木のおもき恨を

けふりにも−かろくはたてし−さとのあまの−わらぬしほきの−おもきうらみを


08427
未入力 正徹 (xxx)

名取川みなわなかるるあた波にうかひ出てたるせせの埋木

なとりかは−みなわなかるる−あたなみに−うかひいてたる−せせのうもれき


08428
未入力 正徹 (xxx)

ありてうきみ山の谷の埋水そこにふしきの玉きはりてよ

ありてうき−みやまのたにの−いもれみつ−そこにふしきの−たまきはりてよ


08429
未入力 正徹 (xxx)

なく涙人にもみえよ夜もすから面影さらぬ月のかかみに

なくなみた−ひとにもみえよ−よもすから−おもかけさらぬ−つきのかかみに


08430
未入力 正徹 (xxx)

秋の窓の蛍は絶えて恋すてふ月に思ひを又そ集むる

あきのまとの−ほたるはたえて−こひすてふ−つきにおもひを−またそあつむる


08431
未入力 正徹 (xxx)

ふかき夜の月にぬれたる袖はかり涙の隙とこふる秋かな

ふかきよの−つきにぬれたる−そてはかり−なみたのひまと−こふるあきかな


08432
未入力 正徹 (xxx)

人心猶しら鳥のとはにみは憂身の秋の山やたのまん

ひとこころ−なほしらとりの−とはにみは−うきみのあきの−やまやたのまむ


08433
未入力 正徹 (xxx)

かりにやは契りて分けし色かはる秋にあふ坂の山の下柴

かりにやは−ちきりてわけし−いろかはる−あきにあふさかの−やまのしたしは


08434
未入力 正徹 (xxx)

わすらるる身をおくてもる袖ぬれぬ契かりほの小田の夕露

わすらるる−みをおくてもる−そてぬれぬ−ちきりかりほの−をたのゆふつゆ


08435
未入力 正徹 (xxx)

露そちる人の心の秋に吹く風の宿りやわか身なるらん

つゆそちる−ひとのこころの−あきにふく−かせのやとりや−わかみなるらむ


08436
未入力 正徹 (xxx)

さ筵のつま吹く夜はの秋風に立ちそはん名はちり程もなし

さむしろの−つまふくよはの−あきかせに−たちそはむなは−ちりほともなし


08437
未入力 正徹 (xxx)

忘れしの人の言の葉かれしより身こふる霜に秋風そ吹く

わすれしの−ひとのことのは−かれしより−みこふるしもに−あきかせそふく


08438
未入力 正徹 (xxx)

契をはかけよや葛の玉かつら下葉に秋のかせはありとも

ちきりをは−かけよやくすの−たまかつら−したはにあきの−かせはありとも


08439
未入力 正徹 (xxx)

身を秋に落つる涙の露のぬき思ひのたてにおる物もなし

みをあきに−おつるなみたの−つゆのぬき−おもひのたてに−おるものもなし


08440
未入力 正徹 (xxx)

紬の上に色なき露をわきてみよ秋のしわさよ恋の心よ

そてのうへに−いろなきつゆを−わきてみよ−あきのしわさよ−こひのこころよ


08441
未入力 正徹 (xxx)

しのの屋の忍ひに人の待つはこて虫の音つらきすすの秋風

しののやの−しのひにひとの−まつはこて−むしのねつらき−すすのあきかせ


08442
未入力 正徹 (xxx)

あはぬ夜の秋の夢ちの関守や露霜寒き枕なるらん

あはぬよの−あきのゆめちの−せきもりや−つゆしもさむき−まくらなるらむ


08443
未入力 正徹 (xxx)

夢よりもみしかかりけり猶わかねての朝けの秋の枕は

ゆめよりも−みしかかりけり−ひとりわか−ねてのあさけの−あきのまくらは


08444
未入力 正徹 (xxx)

思ひある葎の宿の秋の月影さへ雲にさしなこもりそ

おもひある−むくらのやとの−あきのつき−かけさへくもに−さしなこもりそ


08445
未入力 正徹 (xxx)

秋になる人の心のあらかねは此国土のほかのかよひち

あきになる−ひとのこころの−あらかねは−このくにつちの−ほかのかよひち


08446
未入力 正徹 (xxx)

身を秋の心空にそうかれ行く夜戸出のままの上土はふめとも

みをあきの−こころそらにそ−うかれゆく−よとてのままの−つちはふめとも


08447
未入力 正徹 (xxx)

見るにこそ緑かはらね恋すてふ空やみさをに物思ふらん

みるにこそ−みとりかはらね−こひすてふ−そらやみさをに−ものおもふらむ


08448
未入力 正徹 (xxx)

憂きなからしひて心は長月も日をへてよわるかけに恋ひつつ

うきなから−しひてこころは−なかつきも−ひをへてよわる−かけにこひつつ


08449
未入力 正徹 (xxx)

月待つと人にいふへき人もなしたのめてふくる秋の夜はかな

つきまつと−ひとにいふへき−ひともなし−たのめてふくる−あきのよはかな


08450
未入力 正徹 (xxx)

こかれ行く思ひの色をつたへやれ紅葉のぬさの秋のかみ風

こかれゆく−おもひのいろを−つたへやれ−もみちのぬさの−あきのかみかせ


08451
未入力 正徹 (xxx)

まきるらん木の葉も秋も時雨れゆく袖の別のしののめの道

まきるらむ−このはもあきも−しくれゆく−そてのわかれの−しののめのみち


08452
未入力 正徹 (xxx)

たか方にうつろふきくの衣衣をそれもかれねと霜結ふらん

たかかたに−うつろふきくの−きぬきぬを−それもかれねと−しもむすふらむ


08453
未入力 正徹 (xxx)

行末や心つくしの色見えんこよひそ思ひそめ川のなみ

ゆくすゑや−こころつくしの−いろみえむ−こよひそおもひ−そめかはのなみ


08454
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の袖なる月のかほにたにかけぬ涙を人のとふまて

きぬきぬの−そてなるつきの−かほにたに−かけぬなみたを−ひとのとふまて


08455
未入力 正徹 (xxx)

思出てよ夢になせとはつひにわれ契らぬものを手枕の月

おもひいてよ−ゆめになせとは−つひにわれ−ちきらぬものを−たまくらのつき


08456
未入力 正徹 (xxx)

忘れのみしけりにけりなみし人の契りし秋の月のかけ草

わすれのみ−しけりにけりな−みしひとの−ちきりしあきの−つきのかけくさ


08457
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれぬ雲の波ちと思ふにも月のみるめをつつむ夜はとは

そてぬれぬ−くものなみちと−おもふにも−つきのみるめを−つつむよはとは


08458
未入力 正徹 (xxx)

たかために涙の露をみかくらん身のうき袖に月はくもらて

たかために−なみたのつゆを−みかくらむ−みのうきそてに−つきはくもらて


08459
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人そ憂き空行く月はわか方によるの袂をとふ涙かな

ひとそうき−そらゆくつきは−わかかたに−よるのたもとを−とふなみたかな


08460
未入力 正徹 (xxx)

月を先心におくれ衣衣は山のあなたにかへる道かは

つきをまつ−こころにおくれ−きぬきぬは−やまのあなたに−かへるみちかは


08461
未入力 正徹 (xxx)

見し人をしはしすませて尋ねはやかたふく峰の月の下庵

みしひとを−しはしすませて−たつねはや−かたふくみねの−つきのしたいほ


08462
未入力 正徹 (xxx)

いかてかも行くへき方をとはさらんおよはぬ月の都にや住む

いかてかも−ゆくへきかたを−とはさらむ−およはぬつきの−みやこにやすむ


08463
未入力 正徹 (xxx)

尋ねても月に心は見えてみつのこらは残れ人の面影

たつねても−つきにこころは−みえてみつ−のこらはのこれ−ひとのおもかけ


08464
未入力 正徹 (xxx)

宿の月村雲はては又そみん簾おろすな人も音せす

やとのつき−むらくもはては−またそみむ−すたれおろすな−ひともおとせす


08465
未入力 正徹 (xxx)

庭の池の月にな告けそ独ゐてふくるををしのやとる松風

にはのいけの−つきになつけそ−ひとりゐて−ふくるををしの−やとるまつかせ


08466
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真木の戸もうつろふ色に明けそ行く人の心の花の手枕

まきのとも−うつろふいろに−あけそゆく−ひとのこころの−はなのたまくら


08467
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たのめ置く中の契も花のかにふかからぬ夜の袖の別ち

たのめおく−なかのちきりも−はなのかに−ふかからぬよの−そてのわかれち


08468
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露なから忍ふもちすり花の香にみたれてみえぬ春風もかな

つゆなから−しのふもちすり−はなのかに−みたれてみえぬ−はるかせもかな


08469
未入力 正徹 (xxx)

思ふ事色にいつとも人とはは花の物いはぬ陰やたのまん

おもふこと−いろにいつとも−ひととはは−はなのものいはぬ−かけやたのまむ


08470
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身にそへてかたまつ花の下紐はとくともしらす人そつれなき

みにそへて−かたまつはなの−したひもは−とくともしらす−ひとそつれなき


08471
未入力 正徹 (xxx)

松の色のいそく夕もつれそなき花のたのめし心しるらん

まつのいろの−いそくゆふへも−つれそなき−はなのたのめし−こころしるらむ


08472
未入力 正徹 (xxx)

かよひきて契りし宿は跡もなし夜のまの花の雪の下道

かよひきて−ちきりしやとは−あともなし−よのまのはなの−ゆきのしたみち


08473
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たか中の朝の露のぬれ衣を花もほしあへす色かすむらん

たかなかの−あしたのつゆの−ぬれきぬを−はなもほしあへす−いろかすむらむ


08474
未入力 正徹 (xxx)

衣衣の跡なしことも世にふりぬ花にかへりし道芝の露

きぬきぬの−あとなしことも−よにふりぬ−はなにかへりし−みちしはのつゆ


08475
未入力 正徹 (xxx)

うき名とや霞のまより桜花契あらはに世にはちるらん

うきなとや−かすみのまより−さくらはな−ちきりあらはに−よにはちるらむ


08476
未入力 正徹 (xxx)

人心うつろふ花に遠さかるうき身や風の姿なるらん

ひとこころ−うつろふはなに−とほさかる−うきみやかせの−すかたなるらむ


08477
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれし昔の花の俤にかすめる雲のよその春風

そてぬれし−むかしのはなの−いもかけに−かすめるくもの−よそのはるかせ


08478
未入力 正徹 (xxx)

跡もみし絶えにし中の庭の花きえすはありともこその白雪

あともみし−たえにしなかの−にはのはな−きえすはありとも−こそのしらゆき


08479
未入力 正徹 (xxx)

さそひゆく風の宿りを契にて心うつろふ花もたのまし

さそひゆく−かせのやとりを−ちきりにて−こころうつろふ−はなもたのまし


08480
未入力 正徹 (xxx)

人そうき花の別は啼く鳥の八声によらぬ宿の春風

ひとそうき−はなのわかれは−なくとりの−やこゑによらぬ−やとのはるかせ


08481
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衣衣の別の庭の花の露人かけつなよ袖におつとも

きぬきぬの−わかれのにはの−はなのつゆ−ひとかけつなよ−そてにおつとも


08482
未入力 正徹 (xxx)

おくれかせ花桜戸の休らひにいてゆく袖のあかぬ匂を

おくれかせ−はなさくらとの−やすらひに−いてゆくそての−あかぬにほひを


08483
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人心みし色かはる初しほの秋のけふりにくゆる浦風

ひとこころ−みしいろかはる−はつしほの−あきのけふりに−くゆるうらかせ


08484
未入力 正徹 (xxx)

ふかき夜を残りて月はをしふともしたひととめしならひなき身は

ふかきよを−のこりてつきは−をしふとも−したひととめし−ならひなきみは


08485
未入力 正徹 (xxx)

契あらは神の御室の山ひこも声をつたへよ祈るねきこと

ちきりあらは−かみのみむろの−やまひこも−こゑをつたへよ−いのるねきこと


08486
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たのめつつくもれけふとも暮をまついつの朝日の影に祈らん

たのめつつ−くもれけふとも−くれをまつ−いつのあさひの−かけにいのらむ


08487
未入力 正徹 (xxx)

恋せしとするにはあらす神風になひけみそきのせせのゆふして

こひせしと−するにはあらす−かみかせに−なひけみそきの−せせのゆふして


08488
未入力 正徹 (xxx)

初せ山雲のゆふして我か方になひかぬ末の秋そしくるる

はつせやま−くものゆふして−わかかたに−なひかぬすゑの−あきそしくるる


08489
未入力 正徹 (xxx)

契りこし枕の塵の成りゆくはわかおきふしや恋の山もり

ちきりこし−まくらのちりの−なりゆくは−わかおきふしや−こひのやまもり


08490
未入力 正徹 (xxx)

我か涙峰にわかるる棟雲の袖はかすとも猶やあまらん

わかなみた−みねにわかるる−よこくもの−そてはかすとも−なほやあまらむ


08491
未入力 正徹 (xxx)

ふみ分けし人は昔の跡そともたれ道芝の庭の霜かれ

ふみわけし−ひとはむかしの−あとそとも−たれみちしはの−にはのしもかれ


08492
未入力 正徹 (xxx)

分けし猶は山しけ山よそにしてつらき心の道芝のつゆ

わけしなほ−はやましけやま−よそにして−つらきこころの−みちしはのつゆ


08493
未入力 正徹 (xxx)

契りしはうき山かつの藤衣へにける年をしらぬ中かな

ちきりしは−うきやまかつの−ふちころも−へにけるとしを−しらぬなかかな


08494
未入力 正徹 (xxx)

やすますよ思ひの薪になひもて花の陰なき春の山人

やすますよ−おもひのたきき−になひもて−はなのかけなき−はるのやまひと


08495
未入力 正徹 (xxx)

憂身しるなけきの中もこり果てぬ立つ名くるしきたつの市柴

うきみしる−なけきのうちも−こりはてぬ−たつなくるしき−たつのいちしは


08496
未入力 正徹 (xxx)

暮るるとも思ひはたえし行方もたのまぬ雲や空に消ゆらん

くるるとも−おもひはたえし−ゆくかたも−たのまぬくもや−そらにきゆらむ


08497
未入力 正徹 (xxx)

みし人の俤はこふ秋風に雲もいく度身にしくるらん

みしひとの−おもかけはこふ−あきかせに−くももいくたひ−みにしくるらむ


08498
未入力 正徹 (xxx)

返しおく夜るの衣のうらさひてみるめもたゆる夢の通ち

かへしおく−よるのころもの−うらさひて−みるめもたゆる−ゆめのかよひち


08499
未入力 正徹 (xxx)

小夜衣袖にみちひのしほ馴れてうきかすはこふ里のあま人

さよころも−そてにみちひの−しほなれて−うきかすはこふ−さとのあまひと


08500
未入力 正徹 (xxx)

真柴とる島の山かつもしほくむあまのめのこの中に恋ひつつ

ましはとる−しまのやまかつ−もしほくむ−あまのめのこの−なかにこひつつ


08501
未入力 正徹 (xxx)

数ならぬ恨をなみにのとめても心くたくるあまのまてかた

かすならぬ−うらみをなみに−のとめても−こころくたくる−あまのまてかた


08502
未入力 正徹 (xxx)

海となる涙のそこのためいきはうかはぬあまにつるるわさかは

うみとなる−なみたのそこの−ためいきは−うかはぬあまに−つるるわさかは


08503
未入力 正徹 (xxx)

おとろふる恋の長ちに猶たえすあまのたくてふなはのうらみは

おとろふる−こひのなかちに−なほたえす−あまのたくてふ−なはのうらみは


08504
未入力 正徹 (xxx)

人そあらぬ千ひろの底の心まて引く手にみゆるあまのたくなは

ひとそあらぬ−ちひろのそこの−こころまて−ひくてにみゆる−あまのたくなは


08505
未入力 正徹 (xxx)

恨みかねあまのさかてをうつなみに消えぬもつらし沖つしら淡

うらみかね−あまのさかてを−うつなみに−きえぬもつらし−おきつしらあわ


08506
未入力 正徹 (xxx)

よるをさへかへす波かなあはぬ江に身をうきみるの色もかはらて

よるをさへ−かへすなみかな−あはぬえに−みをうきみるの−いろもかはらて


08507
未入力 正徹 (xxx)

色みえぬ恨をとはは人心朝けの雪の上にふる霜

いろみえぬ−うらみをとはは−ひとこころ−あさけのゆきの−うへにふるしも


08508
未入力 正徹 (xxx)

紫の色こき時を秋のきくうつろふ中となと恨むらん

むらさきの−いろこきときを−あきのきく−うつろふなかと−なとうらむらむ


08509
未入力 正徹 (xxx)

なほたてんうき里人のむかひ火は思ひけたれぬ宿の煙を

なほたてむ−うきさとひとの−むかひひは−おもひけたれぬ−やとのけふりを


08510
未入力 正徹 (xxx)

憂をしる涙はなにのいつはりかありのすさひに人はなすとも

うきをしる−なみたはなにの−いつはりか−ありのすさひに−ひとはなすとも


08511
未入力 正徹 (xxx)

馴れし夜を秋さり衣旅にきぬ吹きな返しそむこの山風

なれしよを−あきさりころも−たひにきぬ−ふきなかへしそ−むこのやまかせ


08512
未入力 正徹 (xxx)

杯の石にさはるや早からん契りし暮のまへの川舟

さかつきの−いしにさはるや−はやからむ−ちきりしくれの−まへのかはふね


08513
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心から恋そ道なき人やりの水なれはこそ行方もあれ

こころから−こひそみちなき−ひとやりの−みつなれはこそ−ゆくかたもあれ


08514
未入力 正徹 (xxx)

我も又ひかへし袖そよこ雲のかへる後せの山の椎柴

われもまた−ひかへしそてそ−よこくもの−かへるのちせの−やまのしひしは


08515
未入力 正徹 (xxx)

たのめとやしののめ送る松風に夕すすむる袖の別ち

たのめとや−しののめおくる−まつかせに−ゆふへすすむる−そてのわかれち


08516
未入力 正徹 (xxx)

身にそしむ色も匂ひもなほ迷ふ花のかりねの明けし契は

みにそしむ−いろもにほひも−なほまよふ−はなのかりねの−あけしちきりは


08517
未入力 正徹 (xxx)

涙ゆく袖の氷もあつくきる夜半の衣におもる恋かな

なみたゆく−そてのこほりも−あつくきる−よはのころもに−おもるこひかな


08518
未入力 正徹 (xxx)

思ひしれさとは野上の暮毎に身をうる市め立つとみる世を

おもひしれ−さとはのかみの−くれことに−みをうるいちめ−たつとみるよを


08519
未入力 正徹 (xxx)

夢にこれなせとは露もいひおかす人さへかりの草の枕は

ゆめにこれ−なせとはつゆも−いひおかす−ひとさへかりの−くさのまくらは


08520
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まつらめや誰とさためぬ契さへしらぬ野上の宿の夕暮

まつらめや−たれとさためぬ−ちきりさへ−しらぬのかみの−やとのゆふくれ


08521
未入力 正徹 (xxx)

みなれさをうきたる舟の契たにさして夕をまたぬ日もなし

みなれさを−うきたるふねの−ちきりたに−さしてゆふへを−またぬひもなし


08522
未入力 正徹 (xxx)

筏さす袖とそこほるさを竹の憂ふし有りし暮を形みに

いかたさす−そてとそこほる−さをたけの−うきふしありし−くれをかたみに


08523
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よる波の枕ならへは杣川や筏の霜の床ねなりとも

よるなみの−まくらならへは−そまかはや−いかたのしもの−とこねなりとも


08524
未入力 正徹 (xxx)

ねや出つる煙もにこる蓮葉のくゆる匂ひにしむ心かな

ねやいつる−けふりもにこる−はちすはの−くゆるにほひに−しむこころかな


08525
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ささ枕これも忘れぬふし柴の契さわかす風の別ち

ささまくら−これもわすれぬ−ふししはの−ちきりさわかす−かせのわかれち


08526
未入力 正徹 (xxx)

昔にほおほくなさけや送るらん恋する人も恋ひらるる身も

むかしにほ−おほくなさけや−おくるらむ−こひするひとも−こひらるるみも


08527
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啼く雲雀雲のよそなる契たに床によかれす帰る夕を

なくひはり−くものよそなる−ちきりたに−とこによかれす−かへるゆふへを


08528
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いつのよに人をうるまの島伝ひかよふ心は市とさわけと

いつのよに−ひとをうるまの−しまつたひ−かよふこころは−いちとさわけと


08529
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憂き中はまさきのかつら乱れすや山もと結のしもとゆふらん

うきなかは−まさきのかつら−みたれすや−やまもとゆひの−しもとゆふらむ


08530
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いてけるかすのこにおとす本結も匂へるこすのつまそ匂へる

いてけるか−すのこにおとす−もとゆひも−にほへるこすの−つまそにほへる


08531
未入力 正徹 (xxx)

はし鷹を新はをよそにうつたへにをこしの鳥の音をのみそ啼く

はしたかを−あらはをよそに−うつたへに−をこしのとりの−ねをのみそなく


08532
未入力 正徹 (xxx)

ねをや啼くはつをのかかみ心からへたつる鳥のかけもみぬまに

ねをやなく−はつをのかかみ−こころから−へたつるとりの−かけもみぬまに


08533
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末頼む我か恋草の夏かりは袖の別のみしか夜の空

すゑたのむ−わかこひくさの−なつかりは−そてのわかれの−みしかよのそら


08534
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遠き世の心の花にすむてふもこぬを恨のそのの夕暮

とほきよの−こころのはなに−すむてふも−こぬをうらみの−そののゆふくれ


08535
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諸共にみる夜もあらは袖の上にまたさりけりと月やうらみん

もろともに−みるよもあらは−そてのうへに−またさりけりと−つきやうらみむ


08536
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君もしたふ都としれはしほかまの恨なくてもたつ煙かな

きみもしたふ−みやことしれは−しほかまの−うらみなくても−たつけふりかな



草根集 雑

08537
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つりの糸に一たひかかるうろくつのひかるるほとの命をそしる

つりのいとに−ひとたひかかる−うろくつの−ひかるるほとの−いのちをそしる


08538
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いそくらしかたふく月の明かたに天の戸たたくみねの松風

いそくらし−かたふくつきの−あけかたに−あまのとたたく−みねのまつかせ


08539
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あふき見よむなしき空をふもとにてたかき所は心なりけり

あふきみよ−むなしきそらを−ふもとにて−たかきところは−こころなりけり


08540
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おこたるをすすめし世さへくたりにきあはれたえたる朝まつりこと

おこたるを−すすめしよさへ−くたりにき−あはれたえたる−あさまつりこと


08541
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今朝も見よ夕の雨とならぬまの雲とたなひく山のかたみを

けさもみよ−ゆふへのあめと−ならぬまの−くもとたなひく−やまのかたみを


08542
未入力 正徹 (xxx)

いたつらに暮れぬとたにもきかぬかな我か身世にふる入あひのかね

いたつらに−くれぬとたにも−きかぬかな−わかみよにふる−いりあひのかね


08543
未入力 正徹 (xxx)

をしまるる七夜のうちに在明の又ゆふ月となるもほとなし

をしまるる−ななよのうちに−ありあけの−またゆふつきと−なるもほとなし


08544
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あすしらぬ身のうき時を夕暮のならひになして又やすこさん

あすしらぬ−みのうきときを−ゆふくれの−ならひになして−またやすこさむ


08545
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よもしらし風のやとりは尋ぬとも夕の雲のかへるところを

よもしらし−かせのやとりは−たつぬとも−ゆふへのくもの−かへるところを


08546
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入ると見し雲やはのこる峰とほきゆふへの鳥のあとの山風

いるとみし−くもやはのこる−みねとほき−ゆふへのとりの−あとのやまかせ


08547
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石はしる滝なき山の尾上なる白玉つはき千世のかすかも

いしはしる−たきなきやまの−をのへなる−しらたまつはき−ちよのかすかも


08548
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年をへて山に心をかけし世もおもひたえぬる遠の白雲

としをへて−やまにこころを−かけしよも−おもひたえぬる−をちのしらくも


08549
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すかたさへけはしからぬや皇の都のよもの山となりけん

すかたさへ−けはしからぬや−すへらきの−みやこのよもの−やまとなりけむ


08550
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それも猶ゆゑありけめやすへらきの国は日本日の枝の山

それもなほ−ゆゑありけめや−すへらきの−くにはひのもと−ひのえたのやま


08551
未入力 正徹 (xxx)

神もさそけふの手向をまつ山の松の千とせと君まもるらん

かみもさそ−けふのたむけを−まつやまの−まつのちとせと−きみまもるらむ


08552
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吉野山代代の御幸の初よりふみならしけん岩のかけ道

よしのやま−よよのみゆきの−はしめより−ふみならしけむ−いはのかけみち


08553
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明けわたる横雲かけて乙女子かけふも袖ふる山かつらかな

あけわたる−よこくもかけて−をとめこか−けふもそてふる−やまかつらかな


08554
未入力 正徹 (xxx)

ことのはももき木と成りて老いぬれは心あさかの山の井の水

ことのはも−もききとなりて−おいぬれは−こころあさかの−やまのゐのみつ


08555
未入力 正徹 (xxx)

幾世へぬ山となりにしあはちより峰にたえせぬ雲のはしめは

いくよへぬ−やまとなりにし−あはちより−みねにたえせぬ−くものはしめは


08556
未入力 正徹 (xxx)

足ひける山なれはとや世の中のうきを江にしてかけかくすらん

あしひける−やまなれはとや−よのなかの−うきをえにして−かけかくすらむ


08557
未入力 正徹 (xxx)

白浪に命をかけて山ふかく身をかくす人も此比はなし

しらなみに−いのちをかけて−やまふかく−みをかくすひとも−このころはなし


08558
未入力 正徹 (xxx)

さしてくるしほにうかへて宮木引くつなてやかろき浦の杣山

さしてくる−しほにうかへて−みやきひく−つなてやかろき−うらのそまやま


08559
未入力 正徹 (xxx)

うち山のふもとのま柴かりこめていさよふ浪にくたす舟人

うちやまの−ふもとのましは−かりこめて−いさよふなみに−くたすふなひと


08560
未入力 正徹 (xxx)

川浪も山かせなから夕日影さわくふもとの松のした柴

かはなみも−やまかせなから−ゆふひかけ−さわくふもとの−まつのしたしは


08561
未入力 正徹 (xxx)

庵むすふふもとのま柴かりの世をしれとにはあらしはこふ山人

いほむすふ−ふもとのましは−かりのよを−しれとにはあらし−はこふやまひと


08562
未入力 正徹 (xxx)

夕日さすふもとの野へに数しらす柴ふりたててつつく山人

ゆふひさす−ふもとののへに−かすしらす−しはふりたてて−つつくやまひと


08563
未入力 正徹 (xxx)

ゆふ日さすふもとの山路山かつの柴もちつつくかけそ暮行く

ゆふひさす−ふもとのやまち−やまかつの−しはもちつつく−かけそくれゆく


08564
未入力 正徹 (xxx)

杣木引くふもとのま柴からすして根をたえ行くを哀とそみる

そまきひく−ふもとのましは−からすして−ねをたえゆくを−あはれとそみる


08565
未入力 正徹 (xxx)

草たかきふもとの野へのささの庵しるしとたのむ杉の一本

くさたかき−ふもとののへの−ささのいほ−しるしとたのむ−すきのひともと


08566
未入力 正徹 (xxx)

鷲の山薪つくれは火も消えていくとせ冬の空うつむらん

わしのやま−たききつくれは−ひもきえて−いくとせふゆの−そらうつむらむ


08567
未入力 正徹 (xxx)

岩かねのこりしく峰の松の陰われあらましの庵かむすはん

いはかねの−こりしくみねの−まつのかけ−わかあらましの−いほかむすはむ


08568
未入力 正徹 (xxx)

浪に入るみさこそかくるあら磯の岩ねおしまく松のはひえに

なみにいる−みさこそかくる−あらいその−いはねおしまく−まつのはひえに


08569
未入力 正徹 (xxx)

うら風も松かねこえてかへるさや岩ほに落つる滝のしらなみ

うらかせも−まつかねこえて−かへるさや−いはほにおつる−たきのしらなみ


08570
未入力 正徹 (xxx)

松か枝にねてのあさけかをの羽も霜のみをかのやかたをのたか

まつかえに−ねてのあさけか−をのはねも−しものみをかの−やかたをのたか


08571
未入力 正徹 (xxx)

軒ちかく老のねふりをうつす木も身のうきことを夢にやはみん

のきちかく−おいのねふりを−うつすきも−みのうきことを−ゆめにやはみむ


08572
未入力 正徹 (xxx)

日くるれはおのか葉ことに歓を合せてねふの木もうらやまし

ひくるれは−おのかはことに−よろこひを−あはせてねふの−きもうらやまし


08573
未入力 正徹 (xxx)

いつるまの峰のかつらを月のうちに今夜はふしてみるもほとなし

いつるまの−みねのかつらを−つきのうちに−こよひはふして−みるもほとなし


08574
未入力 正徹 (xxx)

十のかす八をの椿友とみん花もふりぬる雪のすかたを

とをのかす−やつをのつはき−ともとみむ−はなもふりぬる−ゆきのすかたを


08575
未入力 正徹 (xxx)

たかね行くたよりにみかく玉椿光あらはせかつらきの雲

たかねゆく−たよりにみかく−たまつはき−ひかりあらはせ−かつらきのくも


08576
未入力 正徹 (xxx)

槙の葉の軒をあらそふ谷の屋とよそけにたてる桧原杉むら

まきのはの−のきをあらそふ−たにのやと−よそけにたてる−ひはらすきむら


08577
未入力 正徹 (xxx)

人はこてあらしそくるる杉のもとあまたふみたる道のささ原

ひとはこて−あらしそくるる−すきのもと−あまたふみたる−みちのささはら


08578
未入力 正徹 (xxx)

たれかすむ尾上にたてる杉のもと松の門さす苔ふかくして

たれかすむ−をのへにたてる−すきのもと−まつのかとさす−こけふかくして


08579
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる三輪山かつらゆふかけて神かきしるし杉たてる門

あけわたる−みわやまかつら−ゆふかけて−かみかきしるし−すきたてるかと


08580
未入力 正徹 (xxx)

松の戸のさし入にたてる杉村に山おくふかきすみかをそしる

まつのとの−さしいりにたてる−すきむらに−やまおくふかき−すみかをそしる


08581
未入力 正徹 (xxx)

軒ちかくならへうゑても友ならしふりぬ高砂住の江の松

のきちかく−ならへうゑても−ともならし−ふりぬたかさこ−すみのえのまつ


08582
未入力 正徹 (xxx)

里に入る門の前なる杉むらにふかさあささもみえぬ山かな

さとにいる−かとのまへなる−すきむらに−ふかさあささも−みえぬやまかな


08583
未入力 正徹 (xxx)

一葉より秋のあらしに散りはてし梢の霧やなをのこすらん

ひとはより−あきのあらしに−ちりはてし−こすゑのきりや−なをのこすらむ


08584
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山とみるひろはもかなや此比のなかめかしはの雪の千枝に

やまとみる−ひろはもかなや−このころの−なかめかしはの−ゆきのちえたに


08585
未入力 正徹 (xxx)

もりかねぬひろはかしはも所せくならふ梢のかけの山かせ

もりかねぬ−ひろはかしはも−ところせく−ならふこすゑの−かけのやまかせ


08586
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ゐる雲の衣のうらの玉かしはかつあらはるる杜の明ほの

ゐるくもの−ころものうらの−たまかしは−かつあらはるる−もりのあけほの


08587
未入力 正徹 (xxx)

柏木のちりしは守もいつくにて森のみとりの春を待つらん

かしはきの−ちりしはもりも−いつくにて−もりのみとりの−はるをまつらむ


08588
未入力 正徹 (xxx)

我か庵はよもきか杣の陰なれは真木の屋ならふ草のかりふき

わかいほは−よもきかそまの−かけなれは−まきのやならふ−くさのかりふき


08589
未入力 正徹 (xxx)

つひにわか身を山菅のかりの世をいつまてよそに思ひみたれん

つひにわか−みをやますけの−かりのよを−いつまてよそに−おもひみたれむ


08590
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涙のみ先立ちけりな四のをの戸にひかるる駒もかへらて

なみたのみ−まつたちけりな−よつのをの−こゑにひかるる−こまもかへらて


08591
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なにかせん煙のうちの面かけの消えてむなしき後の思ひは

なにかせむ−けふりのうちの−おもかけの−きえてむなしき−のちのおもひは


08592
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鳥となり枝ともならむことの葉は星の逢ふ夜や契定めし

とりとなり−えたともならむ−ことのはは−ほしのあふよや−ちきりさためし


08593
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たをやめかつらき心もうつろはて挿むなしき園の白きく

たをやめか−つらきこころも−うつろはて−かさしむなしき−そののしらきく


08594
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きえねたた身は光なき閨のうちにくらき雨きく窓の灯

きえねたた−みはひかりなき−ねやのうちに−くらきあめきく−まとのともしひ


08595
未入力 正徹 (xxx)

人ならぬ身を梁のつはめたに心やすめてならひやはせぬ

ひとならぬ−みをうつはりの−つはめたに−こころやすめて−ならひやはせぬ


08596
未入力 正徹 (xxx)

五十年よ一夜になとかおとろへぬ窓うつくらき雨にふる身は

いそとしよ−ひとよになとか−おとろへぬ−まとうつくらき−あめにふるみは


08597
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夢にたに契むなしき灯の窓うつ色のくらき夜の雨

ゆめにたに−ちきりむなしき−ともしひの−まとうついろの−くらきよのあめ


08598
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月もしれいてすそあらむかつらきの峰のひしりも世の人の為

つきもしれ−いてすそあらむ−かつらきの−みねのひしりも−よのひとのため


08599
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世にいててけふもかしこき人あらはもとのみ山に雲やかへらん

よにいてて−けふもかしこき−ひとあらは−もとのみやまに−くもやかへらむ


08600
未入力 正徹 (xxx)

河上やくるるゆつはの村雲をひとつになして立つけふりかな

かはかみや−くるるゆつはの−むらくもを−ひとつになして−たつけふりかな


08601
未入力 正徹 (xxx)

もよひするさとと見なからかなしきはつひの夕の煙なりけり

もよひする−さととみなから−かなしきは−つひのゆふへの−けふりなりけり


08602
未入力 正徹 (xxx)

ありま山夜ふかき里はもよはねと出湯のかたにあさけをそみる

ありまやま−よふかきさとは−もよはねと−いてゆのかたに−あさけをそみる


08603
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むすひても今はなにせんいよの湯のめくる数にもあまる齢は

むすひても−いまはなにせむ−いよのゆの−めくるかすにも−あまるよはひは


08604
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いつる湯に水の煙そ時しらぬ山はありまの末の川なみ

いつるゆに−みつのけふりそ−ときしらぬ−やまはありまの−すゑのかはなみ


08605
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ありま山仏の身よりいたす湯に清きさとりもなとかなからん

ありまやま−ほとけのみより−いたすゆに−きよきさとりも−なとかなからむ


08606
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此比は伊与の湯けたの五百八十にかそへて人の年を祝へり

このころは−いよのゆけたの−いほやそに−かそへてひとの−としをいはへり


08607
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くま野路や雪のうちにもわきかへる湯の峰かすむ冬の山風

くまのちや−ゆきのうちにも−わきかへる−ゆのみねかすむ−ふゆのやまかせ


08608
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久かたの雪に契りてあらかねの土よりいてしふしの四方山

ひさかたの−ゆきにちきりて−あらかねの−つちよりいてし−ふしのよもやま


08609
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おく霜の我か身にふりぬかささきのわたせる橋もなかき夜のそて

おくしもの−わかみにふりぬ−かささきの−わたせるはしも−なかきよのそて


08610
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はし鷹も久にあひ見ん君かため千世をこめてやと屋かへるらん

はしたかも−ひさにあひみむ−きみかため−ちよをこめてや−とやかへるらむ


08611
未入力 正徹 (xxx)

たえねたたうきて此世を杉舟の身さへ朽ちぬるしるしたになし

たえねたた−うきてこのよを−すきふねの−みさへくちぬる−しるしたになし


08612
未入力 正徹 (xxx)

見しはみな遠山鳥のおろかにも行末なかくたのむ老かな

みしはみな−とほやまとりの−おろかにも−ゆくすゑなかく−たのむおいかな


08613
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心をはそめすよいかかしかまなるかちの衣は身にかかれとも

こころをは−そめすよいかか−しかまなる−かちのころもは−みにかかれとも


08614
未入力 正徹 (xxx)

朽ちねたた苔の衣の身にあるも人の岩木にかかるとそ見ん

くちねたた−こけのころもの−みにあるも−ひとのいはきに−かかるとそみむ


08615
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うは玉の色を衣の袖もひすまよふ心のやみの夜の雨

うはたまの−いろをころもの−そてもひす−まよふこころの−やみのよのあめ


08616
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ちりの世の市にかくれし仙人も昔かたりの年そつもれる

ちりのよの−いちにかくれし−やまひとも−むかしかたりの−としそつもれる


08617
未入力 正徹 (xxx)

年ふれはかしらの霜をこすけゆふ枕の上におかぬ夜もなし

としふれは−かしらのしもを−こすけゆふ−まくらのうへに−おかぬよもなし


08618
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なにかせん魚なき水は清くとも此世に友のとひこさりせは

なにかせむ−うをなきみつは−きよくとも−このよにともの−とひこさりせは


08619
未入力 正徹 (xxx)

いつまてか野中のし水ぬるき世もありしを忍ふうき身なるらん

いつまてか−のなかのしみつ−ぬるきよも−ありしをしのふ−うきみなるらむ


08620
未入力 正徹 (xxx)

うきせにもよも立ちはてし早川に舟なかしたるあまの此身は

うきせにも−よもたちはてし−はやかはに−ふねなかしたる−あまのこのみは


08621
未入力 正徹 (xxx)

あら海の浪に舟木はうすくとものらぬ命をたのみやはせん

あらうみの−なみにふなきは−うすくとも−のらぬいのちを−たのみやはせむ


08622
未入力 正徹 (xxx)

草のかけ苔の下にもうつもれぬ名を思ひしは昔なりけり

くさのかけ−こけのしたにも−うつもれぬ−なをおもひしは−むかしなりけり


08623
未入力 正徹 (xxx)

消えはてぬ露の光と見るはかりかへの草葉に残る灯

きえはてぬ−つゆのひかりと−みるはかり−かへのくさはに−のこるともしひ


08624
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かすみ行く老のひかめの輪のうちに見えぬ夜もなき灯の影

かすみゆく−おいのひかめの−わのうちに−みえぬよもなき−ともしひのかけ


08625
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照すまてかかくることはかたくとも法にそむけぬ灯もかな

てらすまて−かかくることは−かたくとも−のりにそむけぬ−ともしひもかな


08626
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そむけおくかへなる草のことなしに過きてくやしき世世の灯

そむけおく−かへなるくさの−ことなしに−すきてくやしき−よよのともしひ


08627
未入力 正徹 (xxx)

いつまてかこれにもそはむ深けはつるわか影うすき夜はの灯

いつまてか−これにもそはむ−ふけはつる−わかかけうすき−よはのともしひ


08628
未入力 正徹 (xxx)

明けぬまも消ゆれはきゆる灯の中にすむてふ虫の命を

あけぬまも−きゆれはきゆる−ともしひの−うちにすむてふ−むしのいのちを


08629
未入力 正徹 (xxx)

かかくれは消えぬや露にまさるらん壁の草葉にかかる灯

かかくれは−きえぬやつゆに−まさるらむ−かへのくさはに−かかるともしひ


08630
未入力 正徹 (xxx)

いかかねむ窓うつ雨に灯のみしかくもえてなかき夜の空

いかかねむ−まとうつあめに−ともしひの−みしかくもえて−なかきよのそら


08631
未入力 正徹 (xxx)

明けぬまはうつろひ消ゆな月草の花に色かるともし火の露

あけぬまは−うつろひきゆな−つきくさの−はなにいろかる−ともしひのつゆ


08632
未入力 正徹 (xxx)

あけよかし消えなんとして光ます夜はの灯くらきまくらは

あけよかし−きえなむとして−ひかります−よはのともしひ−くらきまくらは


08633
未入力 正徹 (xxx)

ともすてふ窓に光はうすくとも消えやらぬまをしはし友なへ

ともすてふ−まとにひかりは−うすくとも−きえやらぬまを−しはしともなへ


08634
未入力 正徹 (xxx)

かかけてもみしかくもゆる灯にあすの雨しる夜はの窓かな

かかけても−みしかくもゆる−ともしひに−あすのあめしる−よはのまとかな


08635
未入力 正徹 (xxx)

ね屋もあれ窓もふりぬと灯の光にならふほしの影かな

ねやもあれ−まともふりぬと−ともしひの−ひかりにならふ−ほしのかけかな


08636
未入力 正徹 (xxx)

かかけても影そけたれん紙の窓にすきたる月の残る灯

かかけても−かけそけたれむ−かみのまとに−すきたるつきの−のこるともしひ


08637
未入力 正徹 (xxx)

あれにたる窓の北なる星月夜又灯をならへてそみる

あれにたる−まとのきたなる−ほしつきよ−またともしひを−ならへてそみる


08638
未入力 正徹 (xxx)

明けやらぬ雨に窓うつかへに耳きくもかすかにのこるともし火

あけやらぬ−あめにまとうつ−かへにみみ−きくもかすかに−のこるともしひ


08639
未入力 正徹 (xxx)

灯をかへのすきまになひかして影うすくこき窓の北風

ともしひを−かへのすきまに−なひかして−かけうすくこき−まとのきたかせ


08640
未入力 正徹 (xxx)

くらくなり又あかくなる灯の消えまくちかく夜はふかくして

くらくなり−またあかくなる−ともしひの−きえまくちかく−よはふかくして


08641
未入力 正徹 (xxx)

まなふとももとの心のくらき身はかくてや杉の窓の灯

まなふとも−もとのこころの−くらきみは−かくてやすきの−まとのともしひ


08642
未入力 正徹 (xxx)

こぬ人はうき灯の花そめをかへなる草の袂にそみる

こぬひとは−うきともしひの−はなそめを−かへなるくさの−たもとにそみる


08643
未入力 正徹 (xxx)

灯の影もすくにと身をそ思ふ窓のすきまの風ふかねまは

ともしひの−かけもすくにと−みをそおもふ−まとのすきまの−かせふかねまは


08644
未入力 正徹 (xxx)

明けぬるかかへにおふてふ草の名のみなしろくなる灯のもと

あけぬるか−かへにおふてふ−くさのなの−みなしろくなる−ともしひのもと


08645
未入力 正徹 (xxx)

夜やふかきたれにとはまし灯の残りおほくもさむる夢かな

よやふかき−たれにとはまし−ともしひの−のこりおほくも−さむるゆめかな


08646
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おもかけの残る灯夢覚めて古りにし人の玉かとそみる

おもかけの−のこるともしひ−ゆめさめて−ふりにしひとの−たまかとそみる


08647
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槙の戸のすきまの風も灯の影ならはしにのこる夜はかな

まきのとの−すきまのかせも−ともしひの−かけならはしに−のこるよはかな


08648
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かかけてそ閨もにきはふ音なくてあまりしつまる夜はの灯

かかけてそ−ねやもにきはふ−おとなくて−あまりしつまる−よはのともしひ


08649
未入力 正徹 (xxx)

友もあらし油はつきて光そふ閨そ夜ふかき秋のともし火

とももあらし−あふらはつきて−ひかりそふ−ねやそよふかき−あきのともしひ


08650
未入力 正徹 (xxx)

うこかさて心のやとり身をおけはけふの春日に過くる百年

うこかさて−こころのやとり−みをおけは−けふのはるひに−すくるももとせ


08651
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岩かねの苔の雫も木かくれておとに心をすます宿かな

いはかねの−こけのしつくも−こかくれて−おとにこころを−すますやとかな


08652
未入力 正徹 (xxx)

すみあかし山ならすとも心から身をしつかにと思ふやとりは

すみあかし−やまならすとも−こころから−みをしつかにと−おもふやとりは


08653
未入力 正徹 (xxx)

かたるへき人しとはねは思ふことなきにもにたるすみかなりけり

かたるへき−ひとしとはねは−おもふこと−なきにもにたる−すみかなりけり


08654
未入力 正徹 (xxx)

木かくれてすみやははてん絶えすきる杣のかり屋のしはしはかりは

こかくれて−すみやははてむ−たえすきる−そまのかりやの−しはしはかりは


08655
未入力 正徹 (xxx)

庵ちかく鳥の鳴く日もまれにして林あれ行く風の音かな

いほちかく−とりのなくひも−まれにして−はやしあれゆく−かせのおとかな


08656
未入力 正徹 (xxx)

うかるへき軒はの松の風をたにきかぬ日おほくくらす宿かな

うかるへき−のきはのまつの−かせをたに−きかぬひおほく−くらすやとかな


08657
未入力 正徹 (xxx)

たよりありて人すむへくも人やみぬ嵐のおくの苔ふかきそて

たよりありて−ひとすむへくも−ひとやみぬ−あらしのおくの−こけふかきそて


08658
未入力 正徹 (xxx)

ひたすらに山かたつかぬ宿なから里はなれなる竹のおくかな

ひたすらに−やまかたつかぬ−やとなから−さとはなれなる−たけのおくかな


08659
未入力 正徹 (xxx)

すみかかはたたよく心しつかにて身の涼しきそ風にしられぬ

すみかかは−たたよくこころ−しつかにて−みのすすしきそ−かせにしられぬ


08660
未入力 正徹 (xxx)

よるよるそかたらひ明す我か影のあひすみしけるやとの灯

よるよるそ−かたらひあかす−わかかけの−あひすみしける−やとのともしひ


08661
未入力 正徹 (xxx)

身をかくす宿ともたのむうつほ木のむなし心をはらふ山かせ

みをかくす−やとともたのむ−うつほきの−むなしこころを−はらふやまかせ


08662
未入力 正徹 (xxx)

いかてかく我を岩木となす庵は心もなきを人のとふらん

いかてかく−われをいはきと−なすいほは−こころもなきを−ひとのとふらむ


08663
未入力 正徹 (xxx)

みねに出つるほしとや見まし暁の雲にそむくる宿の灯

みねにいつる−ほしとやみまし−あかつきの−くもにそむくる−やとのともしひ


08664
未入力 正徹 (xxx)

なきかけをふたりやとはむ水の音松の嵐の友をのみさは

なきかけを−ふたりやとはむ−みつのおと−まつのあらしの−ともをのみさは


08665
未入力 正徹 (xxx)

花そのは跡こそみえね志賀の浦松に昔のことやとはまし

はなそのは−あとこそみえね−しかのうら−まつにむかしの−ことやとはまし


08666
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ふるさととならのあすかにとふ鳥のこゑも昔の友や恋しき

ふるさとと−ならのあすかに−とふとりの−こゑもむかしの−ともやこひしき


08667
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みかの原郡の都はかりそめに住みこし里も道そのこれる

みかのはら−くにのみやこは−かりそめに−すみこしさとも−みちそのこれる


08668
未入力 正徹 (xxx)

今はとてすめるなにはの宮こ鳥さそうち川の汀こふらん

いまはとて−すめるなにはの−みやことり−さそうちかはの−みきはこふらむ


08669
未入力 正徹 (xxx)

けふまても住めは住むかは古郷とならのあすかのあすしらぬ世に

けふまても−すめはすむかは−ふるさとと−ならのあすかの−あすしらぬよに


08670
未入力 正徹 (xxx)

名そのこるいつくを見るも古郷となれる所は跡かたもなし

なそのこる−いつくをみるも−ふるさとと−なれるところは−あとかたもなし


08671
未入力 正徹 (xxx)

思ひやれなれし都を古郷となして住みうき山の庵を

おもひやれ−なれしみやこを−ふるさとと−なしてすみうき−やまのいほりを


08672
未入力 正徹 (xxx)

たをやめの世世ふる袖のかたみとやならの飛鳥に雲残るらん

たをやめの−よよふるそての−かたみとや−ならのあすかに−くものこるらむ


08673
未入力 正徹 (xxx)

わすれすやいまをひらのの杉し世はありしなにはの古郷のかみ

わすれすや−いまをひらのの−すきしよは−ありしなにはの−ふるさとのかみ


08674
未入力 正徹 (xxx)

むかし今かはるふちせを世にやみぬならのあすかに河はなけれと

むかしいま−かはるふちせを−よにやみぬ−ならのあすかに−かははなけれと


08675
未入力 正徹 (xxx)

あれはてぬ昔そ猶も古郷とならの葉もりの鹿のふしとは

あれはてぬ−むかしそなほも−ふるさとと−ならのはもりの−しかのふしとは


08676
未入力 正徹 (xxx)

住みはつる人のふりにしかすよりはあれさりけりな軒はもる月

すみはつる−ひとのふりにし−かすよりは−あれさりけりな−のきはもるつき


08677
未入力 正徹 (xxx)

あれわたる里はあすかに飛ふ鳥もいく世すたちもこゑのこるらん

あれわたる−さとはあすかに−とふとりも−いくよすたちも−こゑのこるらむ


08678
未入力 正徹 (xxx)

あさちふも道は枕にのこるとやたれに見ゆらん古郷の夢

あさちふも−みちはまくらに−のこるとや−たれにみゆらむ−ふるさとのゆめ


08679
未入力 正徹 (xxx)

すむ人もたえにし秋の古郷とならの落葉のしたの通路

すむひとも−たえにしあきの−ふるさとと−ならのおちはの−したのかよひち


08680
未入力 正徹 (xxx)

ここよりや古郷なりきかし原の宮のあれにし世世のはしめは

ここよりや−ふるさとなりき−かしはらの−みやのあれにし−よよのはしめは


08681
未入力 正徹 (xxx)

ふるさととならのはもりの神さひて山風わくる道のささ原

ふるさとと−ならのはもりの−かみさひて−やまかせわくる−みちのささはら


08682
未入力 正徹 (xxx)

月はとへ見し世はかなくさめぬともたれにかたらん古郷の夢

つきはとへ−みしよはかなく−さめぬとも−たれにかたらむ−ふるさとのゆめ


08683
未入力 正徹 (xxx)

見し人のなきかおほかる古郷にあるははかなき道芝の露

みしひとの−なきかおほかる−ふるさとに−あるははかなき−みちしはのつゆ


08684
未入力 正徹 (xxx)

すむ人もふるの中路いつの世か篠わけさりしちりはらひけん

すむひとも−ふるのなかみち−いつのよか−ささわけさりし−ちりはらひけむ


08685
未入力 正徹 (xxx)

百敷のうてなやあらす高円の尾上の竹の代代の山かせ

ももしきの−うてなやあらす−たかまとの−をのへのたけの−よよのやまかせ


08686
未入力 正徹 (xxx)

ふるさとのこれや柱の跡の石むなしき野へに草かくれつつ

ふるさとの−これやはしらの−あとのいし−むなしきのへに−くさかくれつつ


08687
未入力 正徹 (xxx)

道もせに年年草はたねそひて見し世そかかる古郷の夢

みちもせに−としとしくさは−たねそひて−みしよそかかる−ふるさとのゆめ


08688
未入力 正徹 (xxx)

露そちる浪にあらさぬ磯の上ふるき宮このおくのささ原

つゆそちる−なみにあらさぬ−いそのかみ−ふるきみやこの−おくのささはら


08689
未入力 正徹 (xxx)

うゑさりし松も嵐をやとすなり猶すみすてしあるる古郷

うゑさりし−まつもあらしを−やとすなり−なほすみすてし−あるるふるさと


08690
未入力 正徹 (xxx)

松たてる志かのから崎ふるき世をとひてそかへるにほのうらなみ

まつたてる−しかのからさき−ふるきよを−とひてそかへる−にほのうらなみ


08691
未入力 正徹 (xxx)

尾上にはのこる松のみ高円の宮のふる道あふ人もなし

をのへには−のこるまつのみ−たかまとの−みやのふるみち−あふひともなし


08692
未入力 正徹 (xxx)

これまてやなにほの宮のたかき屋に煙をそへてみつの浜松

これまてや−なにほのみやの−たかきやに−けふりをそへて−みつのはままつ


08693
未入力 正徹 (xxx)

から崎やいく世の人にふりぬらん真木の戸川の明ほのの松

からさきや−いくよのひとに−ふりぬらむ−まきのとかはの−あけほののまつ


08694
未入力 正徹 (xxx)

いつまてか都の風のかよひけんあれにし磯のかみ寺の松

いつまてか−みやこのかせの−かよひけむ−あれにしいその−かみてらのまつ


08695
未入力 正徹 (xxx)

軒の松おち葉をふきて古郷のあれまくをしむ嵐とそみる

のきのまつ−おちはをふきて−ふるさとの−あれまくをしむ−あらしとそみる


08696
未入力 正徹 (xxx)

うらみすや里さへ世世にふるされて山の嵐のとへるはかりは

うらみすや−さとさへよよに−ふるされて−やまのあらしの−とへるはかりは


08697
未入力 正徹 (xxx)

うゑおきし昔の人や古郷の草木になるる雨となりけん

うゑおきし−むかしのひとや−ふるさとの−くさきになるる−あめとなりけむ


08698
未入力 正徹 (xxx)

古郷は思ひはれせぬ雨の底いく世の人の雲おほふらん

ふるさとは−おもひはれせぬ−あめのそこ−いくよのひとの−くもおほふらむ


08699
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから声をそはこふ世世の人雲となりにし古郷の雨

よもすから−こゑをそはこふ−よよのひと−くもとなりにし−ふるさとのあめ


08700
未入力 正徹 (xxx)

古郷の軒もあらはにあれぬれはしのふにたへぬ草そ枯行く

ふるさとの−のきもあらはに−あれぬれは−しのふにたへぬ−くさそかれゆく


08701
未入力 正徹 (xxx)

さひしさを軒端の山の松風にまかせはつれは吹くとしもなし

さひしさを−のきはのやまの−まつかせに−まかせはつれは−ふくとしもなし


08702
未入力 正徹 (xxx)

たれもわれいつまて草の庵とは見るらんものをかへに生ひつつ

たれもわれ−いつまてくさの−いほりとは−みるらむものを−かへにおひつつ


08703
未入力 正徹 (xxx)

草の庵たもとにかかる糸水に音なき雨を今そおとろく

くさのいほ−たもとにかかる−いとみつに−おとなきあめを−いまそおとろく


08704
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嵐山あらしやすきもはかなきは草のおとろの道のへの庵

あらしやま−あらしやすきも−はかなきは−くさのおとろの−みちのへのいほ


08705
未入力 正徹 (xxx)

夜はの雨きかぬを見るも袖ぬれぬ草ふく軒のせはき住居に

よはのあめ−きかぬをみるも−そてぬれぬ−くさふくのきの−せはきすまひに


08706
未入力 正徹 (xxx)

かりにすむ身も朽ちはては苔ふりて庵や草のつかにならまし

かりにすむ−みもくちはては−こけふりて−いほりやくさの−つかにならまし


08707
未入力 正徹 (xxx)

皇もかやふく宮にませあれは猶身におはぬ庵にそ住む

すへらきも−かやふくみやに−ませあれは−なほみにおはぬ−いほりにそすむ


08708
未入力 正徹 (xxx)

もりやすく雨も心に思ふらし草ふく宿のあるる軒はを

もりやすく−あめもこころに−おもふらし−くさふくやとの−あるるのきはを


08709
未入力 正徹 (xxx)

ことの葉の花さくの庵かなさそ雨露もめくみおきけん

ことのはの−はなさくくさの−いほりかな−さそあめつゆも−めくみおきけむ


08710
未入力 正徹 (xxx)

みたれきて身にこそとほれかやか庵もる夜の雨の草の衣は

みたれきて−みにこそとほれ−かやかいほ−もるよのあめの−くさのころもは


08711
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夜の雨にひとり思へはいほふきし千種にうきは此世なりけり

よるのあめに−ひとりおもへは−いほふきし−ちくさにうきは−このよなりけり


08712
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年ふれは庵のかや葺土と成りて又草生ふる雨そもりこぬ

としふれは−いほのかやふき−つちとなりて−またくさおふる−あめそもりこぬ


08713
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陰たのむ松の落葉のふく宿を嵐もしらす人もとひこす

かけたのむ−まつのおちはの−ふくやとを−あらしもしらす−ひともとひこす


08714
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谷かくれおとろか下のささの庵うきふしありと誰にしられん

たにかくれ−おとろかしたの−ささのいほ−うきふしありと−たれにしられむ


08715
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木のみおち木のめたつをもいまたみす林の陰の庵にすめとも

このみおち−このめたつをも−いまたみす−はやしのかけの−いほにすめとも


08716
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岩のほる苔の衣の玉たすき夕霧いとふ山の木からし

いはのほる−こけのころもの−たまたすき−ゆふきりいとふ−やまのこからし


08717
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墨染の夕の山の寺の門たたかぬ袖に月そさしくる

すみそめの−ゆふへのやまの−てらのかと−たたかぬそてに−つきそさしくる


08718
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鐘とほきとよらのつつみ夜をこめて西なる山に雲そかかれる

かねとほき−とよらのつつみ−よをこめて−にしなるやまに−くもそかかれる


08719
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泊瀬川つねに心をあらひつつ御戸の錦にかけし思ひそ

はつせかは−つねにこころを−あらひつつ−みとのにしきに−かけしおもひそ


08720
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灯の影もうかひてうこきなき法の石井の水そふり行く

ともしひの−かけもうかひて−うこきなき−のりのいしゐの−みつそふりゆく


08721
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遠き世の祇の薗ふの四のかねききつたへても夢や覚さん

とほきよの−かみのそのふの−よつのかね−ききつたへても−ゆめやさまさむ


08722
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都にもみなれぬ寺はおほく成りてふりし所そいととあれ行く

みやこにも−みなれぬてらは−おほくなりて−ふりしところそ−いととあれゆく


08723
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うつりきて都も寺もはしまりぬ我か立つ杣とつくる百敷

うつりきて−みやこもてらも−はしまりぬ−わかたつそまと−つくるももしき


08724
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榎のは井に月をやとしてかつらきの寺より西にのこる白玉

えのはゐに−つきをやとして−かつらきの−てらよりにしに−のこるしらたま


08725
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跡そなきゆらく玉のを年をへて浪のみのこる志かの古寺

あとそなき−ゆらくたまのを−としをへて−なみのみのこる−しかのふるてら


08726
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鐘も又こゑやはかはるなにはかた入江のあしの世世の浦かせ

かねもまた−こゑやはかはる−なにはかた−いりえのあしの−よよのうらかせ


08727
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松しをる嵐にしつむ入相のこゑよりたかき峰のふる寺

まつしをる−あらしにしつむ−いりあひの−こゑよりたかき−みねのふるてら


08728
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わすれしな尾上の鐘をぬることも七夜なからの月に聞きつる

わすれしな−をのへのかねを−ぬることも−ななよなからの−つきにききつる


08729
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雨をたかをやましとたに都よりみ山の鐘に思ひおこせん

あめをたか−をやましとたに−みやこより−みやまのかねに−おもひおこせむ


08730
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今も香はのこりやすらん橘の名におふ寺の法のたもとに

いまもかは−のこりやすらむ−たちはなの−なにおふてらの−のりのたもとに


08731
未入力 正徹 (xxx)

人わたす法そのこれるなからなる橋もと寺の橋はたえても

ひとわたす−のりそのこれる−なからなる−はしもとてらの−はしはたえても


08732
未入力 正徹 (xxx)

いててみよ寺の前なる春日野のとふひも法の光ならすや

いててみよ−てらのまへなる−かすかのの−とふひものりの−ひかりならすや


08733
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松さわく峰の嵐も吹きしきて入相のかねをうつむ雲かな

まつさわく−みねのあらしも−ふきしきて−いりあひのかねを−うつむくもかな


08734
未入力 正徹 (xxx)

高根より雲をさそひてを泊瀬や入相の鐘をしく嵐かな

たかねより−くもをさそひて−をはつせや−いりあひのかねを−しくあらしかな


08735
未入力 正徹 (xxx)

いかるかの宮のふる道猶にほふたち花寺の花の下かせ

いかるかの−みやのふるみち−なほにほふ−たちはなてらの−はなのしたかせ


08736
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泊せ川あはれはかけよ七十になほ二本の杉のよはひを

はつせかは−あはれはかけよ−ななそちに−なほふたもとの−すきのよはひを


08737
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いく世へぬ今の都の杉木とりたてしなにはの寺のはしめは

いくよへぬ−いまのみやこの−すききとり−たてしなにはの−てらのはしめは


08738
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浪かけぬ磯の上寺かたはかりふる野にあれて住む人もなし

なみかけぬ−いそのかみてら−かたはかり−ふるのにあれて−すむひともなし


08739
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しなかとりいその上山杉ふりて寺もかるもの床と成りぬる

しなかとり−いそのかみやま−すきふりて−てらもかるもの−とことなりぬる


08740
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なにはかた浦ゆく舟のくらき夜も寺の前けつあまのいさり火

なにはかた−うらゆくふねの−くらきよも−てらのまへけつ−あまのいさりひ


08741
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三国へてわさとうき世のさかののをてらす仏の光をそみる

みくにへて−わさとうきよの−さかののを−てらすほとけの−ひかりをそみる


08742
未入力 正徹 (xxx)

はれくもり雲かつらきの山嵐とよらの寺にかけぬ日もなし

はれくもり−くもかつらきの−やまあらし−とよらのてらに−かけぬひもなし


08743
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かつらきや豊浦の寺井汲みたえてしら玉しつく水もあれにき

かつらきや−とよらのてらゐ−くみたえて−しらたましつく−みつもあれにき


08744
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ともす日もまゆの光も軒うつむ霧に過きたる夕暮の山

ともすひも−まゆのひかりも−のきうつむ−きりにすきたる−ゆふくれのやま


08745
未入力 正徹 (xxx)

名もしるし室の戸ふかき山寺のまへなる寺はつつらをりして

なもしるし−むろのとふかき−やまてらの−まへなるてらは−つつらをりして


08746
未入力 正徹 (xxx)

しもとゆふこやかつらきの峰ならんとよらのかたの西の白雲

しもとゆふ−こやかつらきの−みねならむ−とよらのかたの−にしのしらくも


08747
未入力 正徹 (xxx)

日の影をみのおの山よ雨ならぬ時そともなき滝は音して

ひのかけを−みのおのやまよ−あめならぬ−ときそともなき−たきはおとして


08748
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法なれやみたけのかねも音そへて落つる吉野の滝の岩浪

のりなれや−みたけのかねも−おとそへて−おつるよしのの−たきのいはなみ


08749
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蓑お山滝ふきちらす嵐ゆゑちかき岩木はむら雨そふる

みのおやま−たきふきちらす−あらしゆゑ−ちかきいはきは−むらさめそふる


08750
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峰たかみ岩かきあかの水落ちてしきみをむすふ滝の白糸

みねたかみ−いはかきあかの−みつおちて−しきみをむすふ−たきのしらいと


08751
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久米寺を立出てて遠く見わたせは山かつらきの雲の岩橋

くめてらを−たちいててとほく−みわたせは−やまかつらきの−くものいははし


08752
未入力 正徹 (xxx)

河上の山のかせきやかりにきて笠置を法の水すましけん

かはかみの−やまのかせきや−かりにきて−かさきをのりの−みつすましけむ


08753
未入力 正徹 (xxx)

を初せやくらきゆふはかしたはれてあくる尾上に月そかたふく

をはつせや−くらきゆふはか−したはれて−あくるをのへに−つきそかたふく


08754
未入力 正徹 (xxx)

花さかぬ橘寺のあけほのに袖の香ならてにほふともし火

はなさかぬ−たちはなてらの−あけほのに−そてのかならて−にほふともしひ


08755
未入力 正徹 (xxx)

九の枝の光か玉かさる花のうてなをみかきそへつつ

ここのつの−えたのひかりか−たまかさる−はなのうてなを−みかきそへつつ


08756
未入力 正徹 (xxx)

明けぬれと消えぬ火の影寺にみえてなにはつくらき興のつり舟

あけぬれと−きえぬひのかけ−てらにみえて−なにはつくらき−おきのつりふね


08757
未入力 正徹 (xxx)

法のため住みこし人はかはら屋にのこるもうすき世世のともし火

のりのため−すみこしひとは−かはらやに−のこるもうすき−よよのともしひ


08758
未入力 正徹 (xxx)

はつせ山ともすか上やいたたきの仏のてらす光なるらん

はつせやま−ともすかうへや−いたたきの−ほとけのてらす−ひかりなるらむ


08759
未入力 正徹 (xxx)

夜のみか聖のみこのともしおく難波の寺にきえぬ火の影

よるのみか−ひしりのみこの−ともしおく−なにはのてらに−きえぬひのかけ


08760
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高野山月こそはあれ石の室いてんや遠き暁のかね

たかのやま−つきこそはあれ−いしのむろ−いてむやとほき−あかつきのかね


08761
未入力 正徹 (xxx)

夜そしらぬ鐘はあれとも声きかぬ此古寺のちかきね覚に

よそしらぬ−かねはあれとも−こゑきかぬ−このふるてらの−ちかきねさめに


08762
未入力 正徹 (xxx)

みをつくしたてるはあれと難波江や鐘こそ寺のしるしとはなれ

みをつくし−たてるはあれと−なにはえや−かねこそてらの−しるしとはなれ


08763
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芦の葉はもゆる難波の春の夢かかるもまたぬ鐘のこゑかな

あしのはは−もゆるなにはの−はるのゆめ−かかるもまたぬ−かねのこゑかな


08764
未入力 正徹 (xxx)

紫の寺に金の光さすゆふ日をいそけ入相のこゑ

むらさきの−てらにこかねの−ひかりさす−ゆふひをいそけ−いりあひのこゑ


08765
未入力 正徹 (xxx)

はつせ山江にこもらすほみわ河に夕の鐘のこゑや聞くらん

はつせやま−えにこもらすは−みわかはに−ゆふへのかねの−こゑやきくらむ


08766
未入力 正徹 (xxx)

仏ます前の木のまにともす火ののほれはくたる峰の入相

ほとけます−まへのこのまに−ともすひの−のほれはくたる−みねのいりあひ


08767
未入力 正徹 (xxx)

明ほのにならのあすかは声たえてとよらの鐘そ西にのこれる

あけほのに−ならのあすかは−こゑたえて−とよらのかねそ−にしにのこれる


08768
未入力 正徹 (xxx)

嵐山ふもとの寺のかねのこゑむかしやひとりさひしかりけん

あらしやま−ふもとのてらの−かねのこゑ−むかしやひとり−さひしかりけむ


08769
未入力 正徹 (xxx)

あふ坂にさそ聞えけん足引の山科寺といひし世のかね

あふさかに−さそきこえけむ−あしひきの−やましなてらと−いひしよのかね


08770
未入力 正徹 (xxx)

夜もすからたえぬ御法の声のうちに又うちそふる暁の鐘

よもすから−たえぬみのりの−こゑのうちに−またうちそふる−あかつきのかね


08771
未入力 正徹 (xxx)

きくらめやふる雨の夜の草の庵西にまちかき入相のかね

きくらめや−ふるあめのよの−くさのいほ−にしにまちかき−いりあひのかね


08772
未入力 正徹 (xxx)

はつせ山をのへの雲のおくのかね伏見のくれの嵐をそとふ

はつせやま−をのへのくもの−おくのかね−ふしみのくれの−あらしをそとふ


08773
未入力 正徹 (xxx)

軒はなるしのふにましる松ふりて鐘に苔むす声むもるなり

のきはなる−しのふにましる−まつふりて−かねにこけむす−こゑむもるなり


08774
未入力 正徹 (xxx)

をはつせやをのへの声はむかへともこたへやはするみよしののかね

をはつせや−をのへのこゑは−むかへとも−こたへやはする−みよしののかね


08775
未入力 正徹 (xxx)

すむ人はめつらしけなき声とこそ聞えんかねに心とめつつ

すむひとは−めつらしけなき−こゑとこそ−きこえむかねに−こころとめつつ


08776
未入力 正徹 (xxx)

よさの海や竜のともすと見えそ行く入相ののちのあまのいさり火

よさのうみや−たつのともすと−みえそゆく−いりあひののちの−あまのいさりひ


08777
未入力 正徹 (xxx)

はつせ川岸に柳のかたよりにむすほほれくる鐘のこゑかな

はつせかは−きしにやなきの−かたよりに−むすほほれくる−かねのこゑかな


08778
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鐘のこゑむかひの寺と聞きし夜の宮も跡なきうちの川橋

かねのこゑ−むかひのてらと−ききしよの−みやもあとなき−うちのかははし


08779
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かつらきやとよらの堤風おちてゆく人おくるかねのこゑかな

かつらきや−とよらのつつみ−かせおちて−ゆくひとおくる−かねのこゑかな


08780
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吉野川岩きりとほしきこゆなり鐘のみたけの入相の声

よしのかは−いはきりとほし−きこゆなり−かねのみたけの−いりあひのこゑ


08781
未入力 正徹 (xxx)

さかの山くるるをのへの川音はかねに消行く浪のしらあわ

さかのやま−くるるをのへの−かはおとは−かねにきえゆく−なみのしらあわ


08782
未入力 正徹 (xxx)

声たえぬ此白河に勝りたる寺ありし世の六所のかね

こゑたえぬ−このしらかはに−まさりたる−てらありしよの−むところのかね


08783
未入力 正徹 (xxx)

なにはかた寺もはしめの鐘ならはこれよりさきに聞く声やなき

なにはかた−てらもはしめの−かねならは−これよりさきに−きくこゑやなき


08784
未入力 正徹 (xxx)

水上の笠置のかねも山あひをいつみ河風くれさそふらん

みなかみの−かさきのかねも−やまあひを−いつみかはかせ−くれさそふらむ


08785
未入力 正徹 (xxx)

をはつせや夜ふかき鐘のこゑをみるみ山おろしに在明の月

をはつせや−よふかきかねの−こゑをみる−みやまおろしに−ありあけのつき


08786
未入力 正徹 (xxx)

つくかねの十声一こゑやみはれてうき雲いつる山のはの月

つくかねの−とこゑひとこゑ−やみはれて−うきくもいつる−やまのはのつき


08787
未入力 正徹 (xxx)

はつせ山尾上の鐘も大悲者の世をあはれみの声かとそきく

はつせやま−をのへのかねも−たいひしやの−よをあはれみの−こゑかとそきく


08788
未入力 正徹 (xxx)

なには津に立つや此寺いにしへの法もはしめそ松のことのは

なにはつに−たつやこのてら−いにしへの−のりもはしめそ−まつのことのは


08789
未入力 正徹 (xxx)

色かへぬたねをやなけしもろこしの法も高野の松の生末

いろかへぬ−たねをやなけし−もろこしの−のりもたかのの−まつのおひすゑ


08790
未入力 正徹 (xxx)

ならの葉のふるき都にかはらぬや七の寺の庭の松かせ

ならのはの−ふるきみやこに−かはらぬや−ななつのてらの−にはのまつかせ


08791
未入力 正徹 (xxx)

いく世へん亀井にうつる松のはのちりうせぬ風を法に契りて

いくよへむ−かめゐにうつる−まつのはの−ちりうせぬかせを−のりにちきりて


08792
未入力 正徹 (xxx)

岩こゆる河浪しるし吹きおろす初せの桧原青きあらしに

いはこゆる−かはなみしるし−ふきおろす−はつせのひはら−あをきあらしに


08793
未入力 正徹 (xxx)

難波かた浪の淡路に声消えぬいこま嵐や鐘さそふらん

なにはかた−なみのあはちに−こゑきえぬ−いこまあらしや−かねさそふらむ


08794
未入力 正徹 (xxx)

吉野山雲にかけたる橋つめに嵐吹きこすを泊せの雪

よしのやま−くもにかけたる−はしつめに−あらしふきこす−をはつせのゆき


08795
未入力 正徹 (xxx)

夕浪もたかき初せの川あらし吹きのほる鐘やをのへこゆらん

ゆふなみも−たかきはつせの−かはあらし−ふきのほるかねや−をのへこゆらむ


08796
未入力 正徹 (xxx)

紅葉葉もまちてやちらん嵐山秋はてん日の法の莚に

もみちはも−まちてやちらむ−あらしやま−あきはてむひの−のりのむしろに


08797
未入力 正徹 (xxx)

さきちると見るや初せの河嵐夕花かくるせせの白浪

さきちると−みるやはつせの−かはあらし−ゆふはなかくる−せせのしらなみ


08798
未入力 正徹 (xxx)

寺もふり人もかへらてかつらきやとよらの竹に雲そおりくる

てらもふり−ひともかへらて−かつらきや−とよらのたけに−くもそおりくる


08799
未入力 正徹 (xxx)

寺ありしとよらの跡か今の世のかつらき山の竹の一むら

てらありし−とよらのあとか−いまのよの−かつらきやまの−たけのひとむら


08800
未入力 正徹 (xxx)

とらにのみおきつつ峰の山寺はねにふしまちてをしき月かな

とらにのみ−おきつつみねの−やまてらは−ねにふしまちて−をしきつきかな


08801
未入力 正徹 (xxx)

かけつくるいらかならひて谷ふかみ深山の寺に人音もせす

かけつくる−いらかならひて−たにふかみ−みやまのてらに−ひとおともせす


08802
未入力 正徹 (xxx)

寺の名もいさ白雲のおくの鐘ふもとの杉の門に聞えて

てらのなも−いさしらくもの−おくのかね−ふもとのすきの−かとにきこえて


08803
未入力 正徹 (xxx)

寺あれやあかのしきみの花ふさを枯葉ましりにおろす山かせ

てらあれや−あかのしきみの−はなふさを−かれはましりに−おろすやまかせ


08804
未入力 正徹 (xxx)

今も汲む袖とそ見ゆる寺ふりし雲かつらきの山の井の水

いまもくむ−そてとそみゆる−てらふりし−くもかつらきの−やまのゐのみつ


08805
未入力 正徹 (xxx)

あれてすむ人あれはこそたえさらめ太山の寺の香の煙は

あれてすむ−ひとあれはこそ−たえさらめ−みやまのてらの−かうのけふりは


08806
未入力 正徹 (xxx)

おもはすや峰に声する貝鐘のおよふ里人法を聞くとは

おもはすや−みねにこゑする−かひかねの−およふさとひと−のりをきくとは


08807
未入力 正徹 (xxx)

ひねもすに風ふく雨の夕ま暮むへ山臥もねそなかれぬる

ひねもすに−かせふくあめの−ゆふまくれ−うへやまふしも−ねそなかれぬる


08808
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮鐘つきとむる山陰に声うちいたす法そきこゆる

ゆふまくれ−かねつきとむる−やまかけに−こゑうちいたす−のりそきこゆる


08809
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みかの原此河上のかねの音に国の都も夢やさむらん

みかのはら−このかはかみの−かねのおとに−くにのみやこも−ゆめやさむらむ


08810
未入力 正徹 (xxx)

たらちねのむかひの寺のかねこともつきけん秋やうちの曙

たらちねの−むかひのてらの−かねことも−つきけむあきや−うちのあけほの


08811
未入力 正徹 (xxx)

山陰や時うつる貝の声のうちにつきいたす鐘もまよふ松かせ

やまかけや−ときうつるかひの−こゑのうちに−つきいたすかねも−まよふまつかせ


08812
未入力 正徹 (xxx)

聞きすてていく世の人のふりにけんおなし都の山寺のかね

ききすてて−いくよのひとの−ふりにけむ−おなしみやこの−やまてらのかね


08813
未入力 正徹 (xxx)

寺山のしけきの枝やかれぬらんをのの音して煙たつなり

てらやまの−しけきのえたや−かれぬらむ−をののおとして−けふりたつなり


08814
未入力 正徹 (xxx)

み草ゐてかた山岸の松ふりぬかはらの門のさし入の池

みくさゐて−かたやまきしの−まつふりぬ−かはらのかとの−さしいりのいけ


08815
未入力 正徹 (xxx)

声しつる鳧のかねかな鳥すまぬ深山の池のおくの木陰に

こゑしつる−かものかねかな−とりすまぬ−みやまのいけの−おくのこかけに


08816
未入力 正徹 (xxx)

やへたつと遠くは見ゆる雲はれてすめる横川の水の月影

やへたつと−とほくはみゆる−くもはれて−すめるよかはの−みつのつきかけ


08817
未入力 正徹 (xxx)

よるあわにしきみそましる寺山のふもとの滝のせせの岩なみ

よるあわに−しきみそましる−てらやまの−ふもとのたきの−せせのいはなみ


08818
未入力 正徹 (xxx)

法の雨ふらぬ日もなきしるしにや笠を置きけん峰の山寺

のりのあめ−ふらぬひもなき−しるしにや−かさをおきけむ−みねのやまてら


08819
未入力 正徹 (xxx)

心なく寺の前なる里人や枕やすめぬ鐘うらむらん

こころなく−てらのまへなる−さとひとや−まくらやすめぬ−かねうらむらむ


08820
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契りつつ宮つくりせし都かな我か立つ杣のをののひひきに

ちきりつつ−みやつくりせし−みやこかな−わかたつそまの−をののひひきに


08821
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すますらんたよりもあれや名にたかき寺はよ川の水の心に

すますらむ−たよりもあれや−なにたかき−てらはよかはの−みつのこころに


08822
未入力 正徹 (xxx)

跡しむる此宮寺の年ふりてかはらの松も神さひにけり

あとしむる−このみやてらの−としふりて−かはらのまつも−かみさひにけり


08823
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雲うつむ岩根の苔の道見えて松の戸ふかき峰の山寺

くもうつむ−いはねのこけの−みちみえて−まつのとふかき−みねのやまてら


08824
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すみ染の袖ふりはへて峰たかき夕の寺にかへる雲かな

すみそめの−そてふりはへて−みねたかき−ゆふへのてらに−かへるくもかな


08825
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此寺の七たくひのなきことを見すしらすともあふかさらめや

このてらの−ななつたくひの−なきことを−みすしらすとも−あふかさらめや


08826
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ほとせはき山路の寺の牆うちに松杉ふりて水そ音する

ほとせはき−やまちのてらの−かきうちに−まつすきふりて−みつそおとする


08827
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嵐ふく夕の露もおきあへす松にかかれるかねのこゑかな

あらしふく−ゆふへのつゆも−おきあへす−まつにかかれる−かねのこゑかな


08828
未入力 正徹 (xxx)

おちくるそこゑぬるからぬ谷ふかき出ゆの上の山寺のかね

おちくるそ−こゑぬるからぬ−たにふかき−いてゆのうへの−やまてらのかね


08829
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いかかすむ草の衣も身にたえてかれ行く比の野への古寺

いかかすむ−くさのころもも−みにたえて−かれゆくころの−のへのふるてら


08830
未入力 正徹 (xxx)

さめよ夢送りしのへの草の陰聞くらん鐘のあかつきの声

さめよゆめ−おくりしのへの−くさのかけ−きくらむかねの−あかつきのこゑ


08831
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夕露をうてなの玉のさかりにて野なる草木を仏とやみる

ゆふつゆを−うてなのたまの−さかりにて−のなるくさきを−ほとけとやみる


08832
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鐘遠き末野のあさち露分けてかへる夕の墨染の袖

かねとほき−すゑののあさち−つゆわけて−かへるゆふへの−すみそめのそて


08833
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おとろかぬ夜はのねくらやしめおきて鐘なる山に鳥帰るらん

おとろかぬ−よはのねくらや−しめおきて−かねなるやまに−とりかへるらむ


08834
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静にて夕のかねのことわりをきき入るる人や涙おつらん

しつかにて−ゆふへのかねの−ことわりを−ききいるるひとや−なみたおつらむ


08835
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ちかきより心そとまるをちかたに声しつみ行く入相のかね

ちかきより−こころそとまる−をちかたに−こゑしつみゆく−いりあひのかね


08836
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なへて世に暮るるな告けそ鐘の声身をおとろきて聞く人そなき

なへてよに−くるるなつけそ−かねのこゑ−みをおとろきて−きくひとそなき


08837
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うしやいま峰の雲消え鐘たえて夕のおくのくらき山さと

うしやいま−みねのくもきえ−かねたえて−ゆふへのおくの−くらきやまさと


08838
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そことなき夕のかねの遠きにも先むかしよと思ひいてつつ

そことなき−ゆふへのかねの−とほきにも−まつむかしよと−おもひいてつつ


08839
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夕くれの心の色を染めそおくつきはつる鐘のこゑの匂に

ゆふくれの−こころのいろを−そめそおく−つきはつるかねの−こゑのにほひに


08840
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住む人の衣におちて墨染の色をふかむる夕暮の鐘

すむひとの−ころもにおちて−すみそめの−いろをふかむる−ゆふくれのかね


08841
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たえまなく老いては耳になる鐘の声をもよそになす夕かな

たえまなく−おいてはみみに−なるかねの−こゑをもよそに−なすゆふへかな


08842
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まちそきく寺をいつくの鐘そともしらぬね覚になるるこゑこゑ

まちそきく−てらをいつくの−かねそとも−しらぬねさめに−なるるこゑこゑ


08843
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枕とふ暁の鐘のこゑたえてこたへんかたもなき思ひかな

まくらとふ−あかつきのかねの−こゑたえて−こたへむかたも−なきおもひかな


08844
未入力 正徹 (xxx)

夢の世のあはれつけくる鐘もきけこゑたてて鳴く老のね覚に

ゆめのよの−あはれつけくる−かねもきけ−こゑたててなく−おいのねさめに


08845
未入力 正徹 (xxx)

ね覚めつついつもきく夜に耳なれて身をおとろかぬ鐘の声かな

ねさめつつ−いつもきくよに−みみなれて−みをおとろかぬ−かねのこゑかな


08846
未入力 正徹 (xxx)

山おろす嵐や道にまよふらん枕をめくるかねのこゑかな

やまおろす−あらしやみちに−まよふらむ−まくらをめくる−かねのこゑかな


08847
未入力 正徹 (xxx)

夢路まてむなし枕の山風に鐘さへまよふ明暮のそら

ゆめちまて−むなしまくらの−やまかせに−かねさへまよふ−あけくれのそら


08848
未入力 正徹 (xxx)

淡と消えぬ興つしほあひにうかひ出つる鐘のみさきの夕暮の声

あわときえぬ−おきつしほあひに−うかひいつる−かねのみさきの−ゆふくれのこゑ


08849
未入力 正徹 (xxx)

まよひきてあまたと聞けは山風のおくりおくらぬ鐘のこゑかな

まよひきて−あまたときけは−やまかせの−おくりおくらぬ−かねのこゑかな


08850
未入力 正徹 (xxx)

ききなせは昔と今そちかくなり遠くなる夜のかねはしらねと

ききなせは−むかしといまそ−ちかくなり−とほくなるよの−かねはしらねと


08851
未入力 正徹 (xxx)

風ふけは我かこゑまよふ鐘なからたれかうき世の夢覚すらん

かせふけは−わかこゑまよふ−かねなから−たれかうきよの−ゆめさますらむ


08852
未入力 正徹 (xxx)

いつかたの声そときけは枕より跡より鐘のこゑそまきるる

いつかたの−こゑそときけは−まくらより−あとよりかねの−こゑそまきるる


08853
未入力 正徹 (xxx)

まきらはす鐘はきけとも篭にや心にこゑの色そのこれる

まきらはす−かねはきけとも−こもりにや−こころにこゑの−いろそのこれる


08854
未入力 正徹 (xxx)

さわくなり峰の林の夕まくれつきいたす鐘に鳥も嵐も

さわくなり−みねのはやしの−ゆふまくれ−つきいたすかねに−とりもあらしも


08855
未入力 正徹 (xxx)

鐘の声思ひいれとはさそはねときこゆる山に雲かへるなり

かねのこゑ−おもひいれとは−さそはねと−きこゆるやまに−くもかへるなり


08856
未入力 正徹 (xxx)

山の色もうれふるさまに声消えぬ鐘や夕をしたひかぬらん

やまのいろも−うれふるさまに−こゑきえぬ−かねやゆふへを−したひかぬらむ


08857
未入力 正徹 (xxx)

消えのこる鐘のこゑかななかめやる末野の草の露の山かせ

きえのこる−かねのこゑかな−なかめやる−すゑののくさの−つゆのやまかせ


08858
未入力 正徹 (xxx)

くるるまも又そ恋しき此かねの暁のこゑにさめし夜の夢

くるるまも−またそこひしき−このかねの−あかつきのこゑに−さめしよのゆめ


08859
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行末もこゑそふりせぬ形見なる昔のかねのけふの夕暮

ゆくすゑも−こゑそふりせぬ−かたみなる−むかしのかねの−けふのゆふくれ


08860
未入力 正徹 (xxx)

世のことのしつかなる日のくるるにそ入相のかねもうちはまきれぬ

よのことの−しつかなるひの−くるるにそ−いりあひのかねも−うちはまきれぬ


08861
未入力 正徹 (xxx)

しらさりし此上山に鐘そなる里はなれなる野へのかりねを

しらさりし−このかみやまに−かねそなる−さとはなれなる−のへのかりねを


08862
未入力 正徹 (xxx)

野への風軒の草葉を吹きまよふ夕のかねもこゑかろくして

のへのかせ−のきのくさはを−ふきまよふ−ゆふへのかねも−こゑかろくして


08863
未入力 正徹 (xxx)

枕をもいかかはすすのしのやふく袖の嵐に夢は見すとも

まくらをも−いかかはすすの−しのやふく−そてのあらしに−ゆめはみすとも


08864
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草の庵野への芝生をすきすててわつかに庭の籬をそする

くさのいほ−のへのしはふを−すきすてて−わつかににはの−まかきをそする


08865
未入力 正徹 (xxx)

しととなく冬ののむはらみもたえてさむきさ枝の霜を吹くかせ

しととなく−ふゆののむはら−みもたえて−さむきさえたの−しもをふくかせ


08866
未入力 正徹 (xxx)

かけ見えて一村過くる浮雲に雨打ちそそく野への沢水

かけみえて−ひとむらすくる−うきくもに−あめうちそそく−のへのさはみつ


08867
未入力 正徹 (xxx)

草かくれふるき野沢の水絶えて影なき雲の空にうかへる

くさかくれ−ふるきのさはの−みつたえて−かけなきくもの−そらにうかへる


08868
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主やたれ野沢をわたり過行けは雲の衣をあらふささ浪

ぬしやたれ−のさはをわたり−すきゆけは−くものころもを−あらふささなみ


08869
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人ならぬ野中の水のやせ行くに老のしわみる風のささ浪

ひとならぬ−のなかのみつの−やせゆくに−おいのしわみる−かせのささなみ


08870
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ふるき世の野もりのかかみくたけてや底にのこれる水とみゆらん

ふるきよの−のもりのかかみ−くたけてや−そこにのこれる−みつとみゆらむ


08871
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鳥屋こもり梢の鷹のかけもみす野守のかかみ底はすめとも

とやこもり−こすゑのたかの−かけもみす−のもりのかかみ−そこはすめとも


08872
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はし鷹のとやのの水のかかみさへかけみぬ草にこむる比かな

はしたかの−とやののみつの−かかみさへ−かけみぬくさに−こむるころかな


08873
未入力 正徹 (xxx)

みたれふす末野の千原かやかもとはかなの風のやとり所や

みたれふす−すゑののちはら−かやかもと−はかなのかせの−やとりところや


08874
未入力 正徹 (xxx)

一木立つをのへの松にこたへつつやかて音なきのへの夕かせ

ひときたつ−をのへのまつに−こたへつつ−やかておとなき−のへのゆふかせ


08875
未入力 正徹 (xxx)

夕日さす霞の袖も立ちましり友とそあそふ野への糸ゆふ

ゆふひさす−かすみのそても−たちましり−ともとそあそふ−のへのいとゆふ


08876
未入力 正徹 (xxx)

思ふとちわかなつみてし野へにきて手折りにけりな七種の花

おもふとち−わかなつみてし−のへにきて−たをりにけりな−ななくさのはな


08877
未入力 正徹 (xxx)

をしからし君かたはなす鷹なれは勅にしたかふ鳥の命も

をしからし−きみかたはなす−たかなれは−ちよくにしたかふ−とりのいのちも


08878
未入力 正徹 (xxx)

なら柴やすりかり衣みたれきて御輿のまへのちりはらふなり

ならしはや−すりかりころも−みたれきて−みこしのまへの−ちりはらふなり


08879
未入力 正徹 (xxx)

草の原くるる野飼の駒の毛もいつれは月に契る露かな

くさのはら−くるるのかひの−こまのけも−いつれはつきに−ちきるつゆかな


08880
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わすれすよ内野となれる夕露の芝生に見えし石すゑの跡

わすれすよ−うちのとなれる−ゆふつゆの−しはふにみえし−いしすゑのあと


08881
未入力 正徹 (xxx)

煙ともなさすはいつこつひにわか引きすてられん夕暮ののへ

けふりとも−なさすはいつこ−つひにわか−ひきすてられむ−ゆふくれののへ


08882
未入力 正徹 (xxx)

草よりもたかくさわかす声さひしのへの小松か原の夕風

くさよりも−たかくさわかす−こゑさひし−のへのこまつか−はらのゆふかせ


08883
未入力 正徹 (xxx)

宿とせぬ野への嵐そこゑ過くるさらは露ほせ篠のかりふき

やととせぬ−のへのあらしそ−こゑすくる−さらはつゆほせ−ささのかりふき


08884
未入力 正徹 (xxx)

右になし左になして遠くきぬ苔の上ゆく野への小川を

みきになし−ひたりになして−とほくきぬ−こけのうへゆく−のへのをかはを


08885
未入力 正徹 (xxx)

いくめくり見し世の人を尋ぬともあはし浅茅か原の夕かせ

いくめくり−みしよのひとを−たつぬとも−あはしあさちか−はらのゆふかせ


08886
未入力 正徹 (xxx)

旅人の袖の夕日も影消えて葉分になりぬのちのささ原

たひひとの−そてのゆふひも−かけきえて−はわけになりぬ−のちのささはら


08887
未入力 正徹 (xxx)

吹きもこせ遠かた人の草の原夕露とはむ宿の秋かせ

ふきもこせ−をちかたひとの−くさのはら−ゆふつゆとはむ−やとのあきかせ


08888
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草の原夕日の影にわきてみつ遠かた人の袖の色色

くさのはら−ゆふひのかけに−わきてみつ−をちかたひとの−そてのいろいろ


08889
未入力 正徹 (xxx)

いかかふくひはらのくれに曇り行く遠かた人の袖の夕かせ

いかかふく−ひはらのくれに−くもりゆく−をちかたひとの−そてのゆふかせ


08890
未入力 正徹 (xxx)

雲わかれ遠近人の行くとくと影もとまらぬ原の池水

くもわかれ−をちこちひとの−ゆくとくと−かけもとまらぬ−はらのいけみつ


08891
未入力 正徹 (xxx)

ちかひおくさしもか露に袖ぬらせわくるしめちか原の旅人

ちかひおく−さしもかつゆに−そてぬらせ−わくるしめちか−はらのたひひと


08892
未入力 正徹 (xxx)

うきふしを旅にしあれはしの原やしのはぬ袖そ露も時雨も

うきふしを−たひにしあれは−しのはらや−しのはぬそてそ−つゆもしくれも


08893
未入力 正徹 (xxx)

床出てしおやをやしたふ木のもとの草の糸からつるるゐのこは

とこいてし−おやをやしたふ−このもとの−くさのいとから−つるるゐのこは


08894
未入力 正徹 (xxx)

しつえには名におふ鳥もわたるなりみ山の滝つ川うその声

しつえには−なにおふとりも−わたるなり−みやまのたきつ−かはうそのこゑ


08895
未入力 正徹 (xxx)

これもうし雨くらき夜の道のへにおやなしにしてゑのこ鳴くこゑ

これもうし−あめくらきよの−みちのへに−おやなしにして−ゑのこなくこゑ


08896
未入力 正徹 (xxx)

いはへつつむかふ北風吹かすとも馬やせぬへきこしのなかみち

いはへつつ−むかふきたかせ−ふかすとも−うまやせぬへき−こしのなかみち


08897
未入力 正徹 (xxx)

つなかるる手かひの猿のまなひたに庭の教は有る世ならすや

つなかるる−てかひのさるの−まなひたに−にはのをしへは−あるよならすや


08898
未入力 正徹 (xxx)

岩ねふみならふ木もなき山中の一木の杉にましら鳴くなり

いはねふみ−ならふきもなき−やまなかの−ひときのすきに−ましらなくなり


08899
未入力 正徹 (xxx)

太山木の枝のかつらの谷わたりこなたかなたに猿さけふこゑ

みやまきの−えたのかつらの−たにわたり−こなたかなたに−さるさけふこゑ


08900
未入力 正徹 (xxx)

深けにけり木のまの滝つ岩浪をみ山の月にさるの一声

ふけにけり−このまのたきつ−いはなみを−みやまのつきに−さるのひとこゑ


08901
未入力 正徹 (xxx)

嵐吹く梢のさるのこゑなからみ山の沢におつる月影

あらしふく−こすゑのさるの−こゑなから−みやまのさはに−おつるつきかけ


08902
未入力 正徹 (xxx)

猿さけふ太山の岩屋雲とちて梢にさわく椎のはの雨

さるさけふ−みやまのいはや−くもとちて−こすゑにさわく−しひのはのあめ


08903
未入力 正徹 (xxx)

村猿のをのへおりくる山わたりやすき梢も見えぬ谷かな

むらさるの−をのへおりくる−やまわたり−やすきこすゑも−みえぬたにかな


08904
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おく山の苔の莚の岩枕ふしうくもあるかましら鳴くなり

おくやまの−こけのむしろの−いはまくら−ふしうくもあるか−ましらなくなり


08905
未入力 正徹 (xxx)

雨しほる山の岩屋をふしとにて夢覚めぬらし猿さけふ声

あめしほる−やまのいはやを−ふしとにて−ゆめさめぬらし−さるさけふこゑ


08906
未入力 正徹 (xxx)

冬ふかき峰のたつ木の木の葉さるうち散る枝そ又紅葉する

ふゆふかき−みねのたつきの−このはさる−うちちるえたそ−またもみちする


08907
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猿さけふ夕の山の峡うつむ雲に雨きく木の本の宿

さるさけふ−ゆふへのやまの−かひうつむ−くもにあめきく−このもとのやと


08908
未入力 正徹 (xxx)

猿さけふ山あひみれは雨過きて岩ほより立つ雲そのこれる

さるさけふ−やまあひみれは−あめすきて−いはほよりたつ−くもそのこれる


08909
未入力 正徹 (xxx)

秋もまた木のみむなしき椎かもとおちたる月に猿さけふ声

あきもまた−このみむなしき−しひかもと−おちたるつきに−さるさけふこゑ


08910
未入力 正徹 (xxx)

峰たかみ林の木のみなほ春におのれ色こき猿さけふなり

みねたかみ−はやしのこのみ−なほはるに−おのれいろこき−さるさけふなり


08911
未入力 正徹 (xxx)

岩ほしく峰のときは木雨おちて夕の雲にましら鳴く声

いはほしく−みねのときはき−あめおちて−ゆふへのくもに−ましらなくこゑ


08912
未入力 正徹 (xxx)

高ねゆく雲の糸すち中絶えてたつをたまきにましら鳴くこゑ

たかねゆく−くものいとすち−なかたえて−たつをたまきに−ましらなくこゑ


08913
未入力 正徹 (xxx)

木のまもる月に雨きくおく山の滝の岩やに猿さけふ声

このまもる−つきにあめきく−おくやまの−たきのいはやに−さるさけふこゑ


08914
未入力 正徹 (xxx)

雲ゆけはならへる山の奥の峰月のとなりに猿叫ふこゑ

くもゆけは−ならへるやまの−おくのみね−つきのとなりに−さるさけふこゑ


08915
未入力 正徹 (xxx)

猿さけふみ山嵐はよわく成りて夕の雨を梢にそきく

さるさけふ−みやまあらしは−よわくなりて−ゆふへのあめを−こすゑにそきく


08916
未入力 正徹 (xxx)

たつ木きるをののひひきに峰よきて杣山くたる村猿のこゑ

たつききる−をののひひきに−みねよきて−そまやまくたる−むらさるのこゑ


08917
未入力 正徹 (xxx)

それときくこゑに命を捨ててけりはかなき笛によるのを鹿は

それときく−こゑにいのちを−すててけり−はかなきふえに−よるのをしかは


08918
未入力 正徹 (xxx)

老いにける涙の滝の水上もくろきすちなき峰のよこ雲

おいにける−なみたのたきの−みなかみも−くろきすちなき−みねのよこくも


08919
未入力 正徹 (xxx)

こけの上もかわく世そなき嵐ふくみ山の滝のよその岩木は

こけのうへも−かわくよそなき−あらしふく−みやまのたきの−よそのいはきは


08920
未入力 正徹 (xxx)

音はして太山の滝の色も見すささ分けて落つる谷の夕浪

おとはして−みやまのたきの−いろもみす−ささわけておつる−たにのゆふなみ


08921
未入力 正徹 (xxx)

わきもこか衣にかくす涙とや山ふところに滝の落つらん

わきもこか−ころもにかくす−なみたとや−やまふところに−たきのおつらむ


08922
未入力 正徹 (xxx)

道は猶たえしな滝つ岩浪のかすによみおけ歌の中山

みちはなほ−たえしなたきつ−いはなみの−かすによみおけ−うたのなかやま


08923
未入力 正徹 (xxx)

むす苔のみとりにおちて立つ鳥の鳴くねしたはぬ滝の岩なみ

むすこけの−みとりにおちて−たつとりの−なくねしたはぬ−たきのいはなみ


08924
未入力 正徹 (xxx)

水にゐる雲にまさりて苔ふかき夕の谷に鳥の一声

みつにゐる−くもにまさりて−こけふかき−ゆふへのたにに−とりのひとこゑ


08925
未入力 正徹 (xxx)

静なる峰のときは木陰暮れて雲ゐる谷に鳥の一こゑ

しつかなる−みねのときはこ−かけくれて−くもゐるたにに−とりのひとこゑ


08926
未入力 正徹 (xxx)

立田川ちる紅葉葉を絵かくなり御室の谷の雲の戸ひらに

たつたかは−ちるもみちはを−えかくなり−みむろのたにの−くものとひらに


08927
未入力 正徹 (xxx)

夕暮の雨を契に妻そよふてる日は余所に家鳩のこゑ

ゆふくれの−あめをちきりに−つまそよふ−てるひはよそに−いへはとのこゑ


08928
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こよひねんおのか太山のやとりをやかし鳥なきてくるる木の本

こよひねむ−おのかみやまの−やとりをや−かしとりなきて−くるるこのもと


08929
未入力 正徹 (xxx)

暮れてゆく春の契もあさ明の花のはやしの鳥のこゑかな

くれてゆく−はるのちきりも−あさあけの−はなのはやしの−とりのこゑかな


08930
未入力 正徹 (xxx)

山もとの夕の雨になくはとのならふ梢そ雲かくれゆく

やまもとの−ゆふへのあめに−なくはとの−ならふこすゑそ−くもかくれゆく


08931
未入力 正徹 (xxx)

哀なる林の鳥のむらねにもひとつの枝に二とまるは

あはれなる−はやしのとりの−むらねにも−ひとつのえたに−ふたつとまるは


08932
未入力 正徹 (xxx)

山陰や竹の林になく鳩のこゑはかりする夕暮の雨

やまかけや−たけのはやしに−なくはとの−こゑはかりする−ゆふくれのあめ


08933
未入力 正徹 (xxx)

暮れわたる遠の林は色消えて雪にしつまる鷺の一むら

くれわたる−をちのはやしは−いろきえて−ゆきにしつまる−さきのひとむら


08934
未入力 正徹 (xxx)

ねにけらしくるる林にくる鳥のあまた聞えし声そしつまる

ねにけらし−くるるはやしに−くるとりの−あまたきこえし−こゑそしつまる


08935
未入力 正徹 (xxx)

一枝にかさなりとまるこからめはひろき林も何にかはせむ

ひとえたに−かさなりとまる−こからめは−ひろきはやしも−なににかはせむ


08936
未入力 正徹 (xxx)

さわかしや羽こひし世の聖たにとほき林の夕鳥の声

さわかしや−はねこひしよの−ひしりたに−とほきはやしの−ゆふとりのこゑ


08937
未入力 正徹 (xxx)

哀にも鳥のしつまる林かな夕ととろきの里はのこりて

あはれにも−とりのしつまる−はやしかな−ゆふととろきの−さとはのこりて


08938
未入力 正徹 (xxx)

村からす暮るる林に立ちそゆくひろき川原にしはしおりゐて

むらからす−くるるはやしに−たちそゆく−ひろきかはらに−しはしおりゐて


08939
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鳥のねにつかふる道はしらねとも老いて明くるをまたぬ夜もなし

とりのねに−つかふるみちは−しらねとも−おいてあくるを−またぬよもなし


08940
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八声して近く天とふ鳥ならはあくるをしらぬ里やなからん

やこゑして−ちかくあまとふ−とりならは−あくるをしらぬ−さとやなからむ


08941
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水にすむ鳥ならなくにしたりをの川たれ時の八声をそ鳴く

みつにすむ−とりならなくに−したりをの−かはたれときの−やこゑをそなく


08942
未入力 正徹 (xxx)

待ちなれし八声の鳥も老か身の暁おきにおくれてそなく

まちなれし−やこゑのとりも−おいかみの−あかつきおきに−おくれてそなく


08943
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あふ坂やあくる梢の鳥の毛もしろきそしるき夕付のこゑ

あふさかや−あくるこすゑの−とりのけも−しろきそしるき−ゆふつけのこゑ


08944
未入力 正徹 (xxx)

あふ坂やあけすと見えて鳴く鳥もかへりさすなり関の釘ぬき

あふさかや−あけすとみえて−なくとりも−かへりさすなり−せきのくきぬき


08945
未入力 正徹 (xxx)

ききいたす鳥の初音に夜をしれはまたなかからん老そふしうき

ききいたす−とりのはつねに−よをしれは−またなかからむ−おいそふしうき


08946
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庭つ鳥たかもろこしのから衣此日本におりはへてなく

にはつとり−たかもろこしの−からころも−このひのもとに−おりはへてなく


08947
未入力 正徹 (xxx)

庭鳥の八こゑを八たひ聞きつくすひまたに明けぬ閨の内かな

にはとりの−やこゑをやたひ−ききつくす−ひまたにあけぬ−ねやのうちかな


08948
未入力 正徹 (xxx)

告くるとは鳥も思はすさ夜も又いそかぬもののあくるしののめ

つくるとは−とりもおもはす−さよもまた−いそかぬものの−あくるしののめ


08949
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鳥はたたなに心なきあかつきをつくるになして聞く人そきく

とりはたた−なにこころなき−あかつきを−つくるになして−きくひとそきく


08950
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八こゑなく木のまの月にこれもみつ夕付鳥のをろのかかみを

やこゑなく−このまのつきに−これもみつ−ゆふつけとりの−をろのかかみを


08951
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おのか毛もしろき月夜の庭鳥は明くるさかひをいかて告くらん

おのかけも−しろきつきよの−にはとりは−あくるさかひを−いかてつくらむ


08952
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夢の世を八たひは鳥のなくなくも声いたさねはきく人もなし

ゆめのよを−やたひはとりの−なくなくも−こゑいたさねは−きくひともなし


08953
未入力 正徹 (xxx)

夢さますこゑはおもひもかけ鳥の浪うつ宿の磯の旅ねに

ゆめさます−こゑはおもひも−かけとりの−なみうつやとの−いそのたひねに


08954
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世にいてん天つ光に鳥の声そのあかつきの月をしそ思ふ

よにいてむ−あまつひかりに−とりのこゑ−そのあかつきの−つきをしそおもふ


08955
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しるらめや雪の太山にぬる鳥のその足柄の関の八声

しるらめや−ゆきのみやまに−ぬるとりの−そのあしからの−せきのやこゑх


08956
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白なみのたつたなこえそ関の鳥空音や人のしわさなるらん

しらなみの−たつたなこえそ−せきのとり−そらねやひとの−しわさなるらむ


08957
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あふさかの関もる神の鳥ならは空ねはなかし明けぬこの夜は

あふさかの−せきもるかみの−とりならは−そらねはなかし−あけぬこのよは


08958
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くらふれは八声そなかきあふ坂の山鳥の尾とかけのたれ尾と

くらふれは−やこゑそなかき−あふさかの−やまとりのをと−かけのたれをと


08959
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こゑたかき夕つけ鳥にかかるなり逢坂山の関のよこ雲

こゑたかき−ゆふつけとりに−かかるなり−あふさかやまの−せきのよこくも


08960
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あふ坂や関路の鳥にさとつつく天津のかたのおとそましれる

あふさかや−せきちのとりに−さとつつく−あまつのかたの−おとそましれる


08961
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時しらぬ鳥は庭鳥いつとてか関路日たけてこゑ送るらん

ときしらぬ−とりはにはとり−いつとてか−せきちひたけて−こゑおくるらむ


08962
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秋や又駒のかけ見んあふ坂の清水にうかふ鳥の声かな

あきやまた−こまのかけみむ−あふさかの−しみつにうかふ−とりのこゑかな


08963
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跡ふりて今は関なき立田山夕つけ鳥のこゑはもれとも

あとふりて−いまはせきなき−たつたやま−ゆふつけとりの−こゑはもれとも


08964
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明けわたる遠のさかひのふる柳猶したりをの鳥のこゑかな

あけわたる−をちのさかひの−ふるやなき−なほしたりをの−とりのこゑかな


08965
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鳥の音の遠き木の間をもりくるそ心つくしの月にまされる

とりのねの−とほきこのまを−もりくるそ−こころつくしの−つきにまされる


08966
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冬かれにおちぬ木のみと見るはかり夕付鳥のとほき色かな

ふゆかれに−おちぬこのみと−みるはかり−ゆふつけとりの−とほきいろかな


08967
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月を今のこして見はや鳴く鳥の尾上の里の松そ明行く

つきをいま−のこしてみはや−なくとりの−をのへのさとの−まつそあけゆく


08968
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鳥のこゑに月落ちかかる山のはの木の間の軒そ白く明行く

とりのこゑに−つきおちかかる−やまのはの−このまののきそ−しろくあけゆく


08969
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雲まよふ天つ空ねになく鳥のをのへの里は猶や夜ふかき

くもまよふ−あまつそらねに−なくとりの−をのへのさとは−なほやよふかき


08970
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里あれや夕付鳥のさかこえてなく音きこゆる夜はの山かせ

さとあれや−ゆふつけとりの−さかこえて−なくねきこゆる−よはのやまかせ


08971
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鳴くこゑにたか衣衣もならひなき手かひの鳥は遠つ里人

なくこゑに−たかきぬきぬも−ならひなき−てかひのとりは−とほつさとひと


08972
未入力 正徹 (xxx)

誰か見る八こゑもあくる山鳥のをのへの里の月のかかみを

たれかみる−やこゑもあくる−やまとりの−をのへのさとの−つきのかかみを


08973
未入力 正徹 (xxx)

初声をやかて鳴きつく鳥たにも人のさとにはおくれてそきく

はつこゑを−やかてなきつく−とりたにも−ひとのさとには−おくれてそきく


08974
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明けすくる尾上の里にきこゆなり谷の麓のしは鳥の声

あけすくる−をのへのさとに−きこゆなり−たにのふもとの−しはとりのこゑ


08975
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羽をならす鳥のねくらやいとふらんこゑさへちかしならふ里人

はをならす−とりのねくらや−いとふらむ−こゑさへちかし−ならふさとひと


08976
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とほく引くかけのたれ尾も長岡や里むらつつく暁の雲

とほくひく−かけのたれをも−なかをかや−さとむらつつく−あかつきのくも


08977
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ほととほきこゑかと聞けはこの里につつきの村の夜はの鶏

ほととほき−こゑかときけは−このさとに−つつきのむらの−よはのにはとり


08978
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別路にあらて隣にかふ鳥のこゑをいとはぬあかつきもなし

わかれちに−あらてとなりに−かふとりの−こゑをいとはぬ−あかつきもなし


08979
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旅にしてあなかま宿の庭つ鳥あさはむほとのぬさちらしてん

たひにして−あなかまやとの−にはつとり−あさはむほとの−ぬさちらしてむ


08980
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浪かくるあすか河風飛ふ鳥のみたるるみれはつるのもろ声

なみかくる−あすかかはかせ−とふとりの−みたるるみれは−つるのもろこゑ


08981
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山かつらかけのはつ鳥あふ坂の神に明けぬとこゑたむくなり

やまかつら−かけのはつとり−あふさかの−かみにあけぬと−こゑたむくなり


08982
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時をしる鳥の八こゑに八乙女か八たひうたへはあくる神かき

ときをしる−とりのやこゑに−やをとめか−やたひうたへは−あくるかみかき


08983
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子をおもふつるの林の二千とせ過きにしおやのいさめをもみす

こをおもふ−つるのはやしの−ふたちとせ−すきにしおやの−いさめをもみす


08984
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色くれぬなきたるうらの塩ひかた立行くつるのおるる松原

いろくれぬ−なきたるうらの−しほひかた−たちゆくつるの−おるるまつはら


08985
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みさこゐるあら磯浪にふす松のおなし年ふる鶴のもろこゑ

みさこゐる−あらいそなみに−ふすまつの−おなしとしふる−つるのもろこゑ


08986
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松たてる千とせの宿のありとみて雲井の鶴そここにおりぬる

まつたてる−ちとせのやとの−ありとみて−くもゐのつるそ−ここにおりぬる


08987
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世の中はつると鴨との足をみよ空にのほれは雲にやはたつ

よのなかは−つるとかもとの−あしをみよ−そらにのほれは−くもにやはたつ


08988
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世にすめははかなき鳥もおのつからめくみそあつき鶴の毛衣

よにすめは−はかなきとりも−おのつから−めくみそあつき−つるのけころも


08989
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あら磯にこす白浪も松かねの枕におつる鶴のもろこゑ

あらいそに−こすしらなみも−まつかねの−まくらにおつる−つるのもろこゑ


08990
未入力 正徹 (xxx)

吹上のはまのまさこも白たへの霜になれぬる鶴の毛衣

ふきあけの−はまのまさこも−しろたへの−しもになれぬる−つるのけころも


08991
未入力 正徹 (xxx)

わかのうらに身は老つるのひなの子もかくやはしらぬ道にまとはん

わかのうらに−みはおいつるの−ひなのこも−かくやはしらぬ−みちにまとはむ


08992
未入力 正徹 (xxx)

かよひこよふるき都の雲ゐをは今も忘れし和歌のうらつる

かよひこよ−ふるきみやこの−くもゐをは−いまもわすれし−わかのうらつる


08993
未入力 正徹 (xxx)

和歌の浦に猶ことの葉はあしたつの老いておよはぬねこそなかるれ

わかのうらに−なほことのはは−あしたつの−おいておよはぬ−ねこそなかるれ


08994
未入力 正徹 (xxx)

たかみそきたみのの島にあさるらん夕してかくるつるの毛衣

たかみそき−たみののしまに−あさるらむ−ゆふしてかくる−つるのけころも


08995
未入力 正徹 (xxx)

友つるのしたふはかりの羽をつかれ老いて長居の浜路こし身そ

ともつるの−したふはかりの−はをつかれ−おいてなかゐの−はまちこしみそ


08996
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦にたちなるへくもちきられすひなは千世へんなかの老鶴

わかのうらに−たちなるへくも−ちきられす−ひなはちよへむ−なかのおいつる


08997
未入力 正徹 (xxx)

わかのうらやしのにかくれて鳴くたつのあしのまよひをたれにはるけん

わかのうらや−しのにかくれて−なくたつの−あしのまよひを−たれにはるけむ


08998
未入力 正徹 (xxx)

和かの浦に契もくちし秋の霜ふりにしつるのよよの毛衣

わかのうらに−ちきりもくちし−あきのしも−ふりにしつるの−よよのけころも


08999
未入力 正徹 (xxx)

もえ出つるなこえのこすけ吹くかせにひとりみたるる鶴の毛衣

もえいつる−なこえのこすけ−ふくかせに−ひとりみたるる−つるのけころも


09000
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦に鳴きわたるにもあしへ寺鶴の林の跡したふらん

わかのうらに−なきわたるにも−あしへてら−つるのはやしの−あとしたふらむ


09001
未入力 正徹 (xxx)

和歌のうらの三代の友鶴なくなくも老いて残るそたくひ少き

わかのうらの−みよのともつる−なくなくも−おいてのこるそ−たくひすくなき


09002
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦の江こそふかけれ高砂の雲路の鶴の友を待ちえて

わかのうらの−えこそふかけれ−たかさこの−くもちのつるの−ともをまちえて


09003
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦の我か友つるのすむ磯をけふ問ひくれは千世の松陰

わかのうらの−わかともつるの−すむいそを−けふとひくれは−ちよのまつかけ


09004
未入力 正徹 (xxx)

老鶴のつはさつかれて若浦のたかくひろきをしる道そなき

おいつるの−つはさつかれて−わかのうらの−たかくひろきを−しるみちそなき


09005
未入力 正徹 (xxx)

翁さひすれる衣をたれかきてかりはの沢にたつも鳴くらん

おきなさひ−すれるころもを−たれかきて−かりはのさはに−たつもなくらむ


09006
未入力 正徹 (xxx)

住吉やおなしみとりのあささはに松よりかよふつるのもろ声

すみよしや−おなしみとりの−あささはに−まつよりかよふ−つるのもろこゑ


09007
未入力 正徹 (xxx)

いつまてか世をひろ沢とさまよはん霜のふる葉に老いてなく鶴

いつまてか−よをひろさはと−さまよはむ−しものふるはに−おいてなくつる


09008
未入力 正徹 (xxx)

おきつしほ入江はなきて夕浪もたたぬ洲崎にたつそむれゐる

おきつしほ−いりえはなきて−ゆふなみも−たたぬすさきに−たつそむれゐる


09009
未入力 正徹 (xxx)

みちてこむしほのほととやわつかなるおきの中すにたつねふるらん

みちてこむ−しほのほととや−わつかなる−おきのなかすに−たつねふるらむ


09010
未入力 正徹 (xxx)

なには江の洲にゐるつるもけふや又御法の庭の空にかけけん

なにはえの−すにゐるつるも−けふやまた−みのりのにはの−そらにかけけむ


09011
未入力 正徹 (xxx)

うちむれて立行くつるの跡さひてひとりすにゐるうらのすて舟

うちむれて−たちゆくつるの−あとさひて−ひとりすにゐる−うらのすてふね


09012
未入力 正徹 (xxx)

庭の池のせはきすあまにかふつるの雲井をこふる声そかなしき

にはのいけの−せはきすあまに−かふつるの−くもゐをこふる−こゑそかなしき


09013
未入力 正徹 (xxx)

千世まてとたれかかささむつるのゐる庭の洲崎の松のことのは

ちよまてと−たれかかささむ−つるのゐる−にはのすさきの−まつのことのは


09014
未入力 正徹 (xxx)

いつれ子を思ひますらんにほのすむ水の中すの松か枝のつる

いつれこを−おもひますらむ−にほのすむ−みつのなかすの−まつかえのつる


09015
未入力 正徹 (xxx)

わつかなる庭のすはまに飼ひおかん絵にかくほとのひなつるもかな

わつかなる−にはのすはまに−かひおかむ−えにかくほとの−ひなつるもかな


09016
未入力 正徹 (xxx)

たてるすの白鶴はみの毛衣におのかひく尾の長き夜の霜

たてるすの−しらつるはみの−けころもに−おのかひくをの−なかきよのしも


09017
未入力 正徹 (xxx)

にほの海の浜松かけを秋見はやなひくいなはの雲の上のつる

にほのうみの−はままつかけを−あきみはや−なひくいなはの−くものうへのつる


09018
未入力 正徹 (xxx)

松かえにすたたぬひなの子の浜やうら浪かけてたつそ鳴きよる

まつかえに−すたたぬひなの−このはまや−うらなみかけて−たつそなきよる


09019
未入力 正徹 (xxx)

霜おかぬうらの浜ゆふいくへともいさしら鶴の月の毛衣

しもおかぬ−うらのはまゆふ−いくへとも−いさしらつるの−つきのけころも


09020
未入力 正徹 (xxx)

声もせてさ夜はふけひの浦さひぬしほひの松にたつはすめとも

こゑもせて−さよはふけひの−うらさひぬ−しほひのまつに−たつはすめとも


09021
未入力 正徹 (xxx)

松かねの砂の上につはさしき鶴そいそまのうらの夕なみ

まつかねの−いさこのうへに−つはさしき−つるそいそまの−うらのゆふなみ


09022
未入力 正徹 (xxx)

てる日よきなこえのあまもほこるらしあさしほなきてたつ鳴きわたる

てるひよき−なこえのあまも−ほこるらし−あさしほなきて−たつなきわたる


09023
未入力 正徹 (xxx)

和かのうらや磯松かねのしき浪に名をもあらはせ千代の友鶴

わかのうらや−いそまつかねの−しきなみに−なをもあらはせ−ちよのともつる


09024
未入力 正徹 (xxx)

夕浪に秋の田蓑をうちきつつたてる島人まかふつるかな

ゆふなみに−あきのたみのを−うちきつつ−たてるしまひと−まかふつるかな


09025
未入力 正徹 (xxx)

興つしほ引島しるき跡のなみ立ちけこれともたつそむれゐる

おきつしほ−ひくしましるき−あとのなみ−たちにこれとも−たつそむれゐる


09026
未入力 正徹 (xxx)

雲井にそあかる声せぬふる雨にはれぬ田蓑の島にゐるつる

くもゐにそ−あかるこゑせぬ−ふるあめに−はれぬたみのの−しまにゐるつる


09027
未入力 正徹 (xxx)

此国のいてきしよりや浪なれしおのころ島の鶴の毛衣

このくにの−いてきしよりや−なみなれし−おのころしまの−つるのけころも


09028
未入力 正徹 (xxx)

駕となしてをとほくもろこしの月をも見はや秋津島鶴

のりものと−なしてをとほく−もろこしの−つきをもみはや−あきつしまつる


09029
未入力 正徹 (xxx)

まなつるの世におほひ羽をかさねても民あつくせよ秋つ島守

まなつるの−よにおほひはを−かさねても−たみあつくせよ−あきつしまもり


09030
未入力 正徹 (xxx)

うみ山にねくらとすへき松そある棲やひろき秋つ島つる

うみやまに−ねくらとすへき−まつそある−すみかやひろき−あきつしまつる


09031
未入力 正徹 (xxx)

雲路をはひとりやかよふ仙人となる人かたき秋つ島つる

くもちをは−ひとりやかよふ−やまひとと−なるひとかたき−あきつしまつる


09032
未入力 正徹 (xxx)

磯の松入江の芦にかよひきてしほひしほみちたつそ鳴くなる

いそのまつ−いりえのあしに−かよひきて−しほひしほみち−たつそなくなる


09033
未入力 正徹 (xxx)

身をかくす芦のほ綿のさむき夜もおもひそ出つるつるの毛衣

みをかくす−あしのほわたの−さむきよも−おもひそいつる−つるのけころも


09034
未入力 正徹 (xxx)

あれにけり水の簾をあしのよにかけたる鶴の冬のすみかは

あれにけり−みつのすたれを−あしのよに−かけたるつるの−ふゆのすみかは


09035
未入力 正徹 (xxx)

哀なる世世をおもへは空になくたつもやむかし雲の上人

あはれなる−よよをおもへは−そらになく−たつもやむかし−くものうへひと


09036
未入力 正徹 (xxx)

名のみして月毛の駒は空にみす雲ゐをかける鶴そ鳴くなる

なのみして−つきけのこまは−そらにみす−くもゐをかける−つるそなくなる


09037
未入力 正徹 (xxx)

こゑかはす雲ゐの友も庭にきて手飼にましるつるそ数そふ

こゑかはす−くもゐのともも−にはにきて−てかひにましる−つるそかすそふ


09038
未入力 正徹 (xxx)

我か庵によるはねくらの松の戸をおし明かたの鶴の一こゑ

わかいほに−よるはねくらの−まつのとを−おしあけかたの−つるのひとこゑ


09039
未入力 正徹 (xxx)

毛衣も枕もさらて松かねにこゑする霜の鶴はみのそて

けころもも−まくらもさらて−まつかねに−こゑするしもの−つるはみのそて


09040
未入力 正徹 (xxx)

浜松の梢の鶴のこゑ落ちて舟うつ浪に枕たにせす

はままつの−こすゑのつるの−こゑおちて−ふねうつなみに−まくらたにせす


09041
未入力 正徹 (xxx)

なくつるの声も涙も月やとる袖におちくる松の下ふし

なくつるの−こゑもなみたも−つきやとる−そてにおちくる−まつのしたふし


09042
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦に身は老鶴も千世の友むれゐる宿と松に問ひきぬ

わかのうらに−みはおいつるも−ちよのとも−むれゐるやとと−まつにとひきぬ


09043
未入力 正徹 (xxx)

影ちかくあかれはいとと色妙の日のたてぬきのつるの毛衣

かけちかく−あかれはいとと−いろたへの−ひのたてぬきの−つるのけころも


09044
未入力 正徹 (xxx)

久かたのあまつたふ日にはねかはしたつ鳴きわたる空そはるけき

ひさかたの−あまつたふひに−はねかはし−たつなきわたる−そらそはるけき


09045
未入力 正徹 (xxx)

仙人の手かひの鶴や老いさらん千世を雲路にかさね行くとも

やまひとの−てかひのつるや−おいさらむ−ちよをくもちに−かさねゆくとも


09046
未入力 正徹 (xxx)

年たかきほとをみよとやたとふらん雲井遥にのほるつるかな

としたかき−ほとをみよとや−たとふらむ−くもゐはるかに−のほるつるかな


09047
未入力 正徹 (xxx)

まなつるのまなく時なく立ちなれよおなし千世ふる宿の松陰

まなつるの−まなくときなく−たちなれよ−おなしちよふる−やとのまつかけ


09048
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陰ふかきなこ江の小菅みたれ芦の末葉なひかしたつそ鳴くなる

かけふかき−なこえのこすけ−みたれあしの−すゑはなひかし−たつそなくなる


09049
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年をへん松さへよその数ならぬ千世をあつめて鶴そむれゐる

としをへむ−まつさへよその−かすならぬ−ちよをあつめて−つるそむれゐる


09050
未入力 正徹 (xxx)

白鷺にましる鳥のみたれ碁をおのれうつたへはまちにそゐる

しらさきに−ましるからすの−みたれこを−おのれうつたへ−はまちにそゐる


09051
未入力 正徹 (xxx)

いはほせく滝の前なる松かねに白なみこえて鷺そむれゐる

いはほせく−たきのまへなる−まつかねに−しらなみこえて−さきそむれゐる


09052
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冬かれの休の中の松の葉に雪をさわかす鷺の一つれ

ふゆかれの−はやしのうちの−まつのはに−ゆきをさわかす−さきのひとつれ


09053
未入力 正徹 (xxx)

雨くらき山もとのへをさきひとりとひ行く色にのこるくれかな

あめくらき−やまもとのへを−さきひとり−とひゆくいろに−のこるくれかな


09054
未入力 正徹 (xxx)

たちけるかなにはうら風あらき日の入江の川す鷺そ少き

たちけるか−なにはうらかせ−あらきひの−いりえのかはす−さきそすくなき


09055
未入力 正徹 (xxx)

河きしやとほきみつ野の夕かほはおのれ花なる鷺そむれゐる

かはきしや−とほきみつのの−ゆふかほは−おのれはななる−さきそむれゐる


09056
未入力 正徹 (xxx)

とふさきはさらせる布に色消えて夕日さやけきうちの川島

とふさきは−さらせるぬのに−いろきえて−ゆふひさやけき−うちのかはしま


09057
未入力 正徹 (xxx)

河つらの里立ちわかれ山しろのみつ野の杜にさきそむれゐる

かはつらの−さとたちわかれ−やましろの−みつののもりに−さきそむれゐる


09058
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さかのほる江河の水の白あわをなかして過くるさきの一行

さかのほる−えかはのみつの−しらあわを−なかしてすくる−さきのひとつら


09059
未入力 正徹 (xxx)

山川のふる江の柳かた淵をかくすはひ枝にさきそむれゐる

やまかはの−ふるえのやなき−かたふちを−かくすはひえに−さきそむれゐる


09060
未入力 正徹 (xxx)

あまたたひ入江をめくる白さきのおりゐるみれは松の一本

あまたたひ−いりえをめくる−しらさきの−おりゐるみれは−まつのひともと


09061
未入力 正徹 (xxx)

あまつつみとほき江川のふし柳浪こすなれやさきそむれ行く

あまつつみ−とほきえかはの−ふしやなき−なみこすなれや−さきそむれゆく


09062
未入力 正徹 (xxx)

川そひのなかれ江とほくとふさきの村雨しのくあしの村立

かはそひの−なかれえとほく−とふさきの−むらさめしのく−あしのむらたち


09063
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さはりつるふる江のかれは立ちすてて雨のあしわけ鷺そ飛行く

さはりつる−ふるえのかれは−たちすてて−あめのあしわけ−さきそとひゆく


09064
未入力 正徹 (xxx)

むら雨のふる江をよそに飛ふさきの跡まて白きおもたかの花

むらさめの−ふるえをよそに−とふさきの−あとまてしろき−おもたかのはな


09065
未入力 正徹 (xxx)

雨しほる江川の岸の村柳とひかふ鷺も色そ暮れゆく

あめしほる−えかはのきしの−むらやなき−とひかふさきも−いろそくれゆく


09066
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山本の雨に飛行く鷺の毛のみのにかかるや雪の村立

やまもとの−あめにとひゆく−さきのけの−みのにかかるや−ゆきのむらたち


09067
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みなきはに鷺あつまりて河きしの石にゐる鵜のおるるをそまつ

みなきはに−さきあつまりて−かはきしの−いしにゐるうの−おるるをそまつ


09068
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あさ瀬ゆくいなさとるとや夢にさへ汀の鷺のねふり立つまは

あさせゆく−いなさとるとや−ゆめにさへ−みきはのさきの−ねふりたつまは


09069
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河遠に夕ゐるさきの引別れとふや汀の雪のむらきえ

かはをちに−ゆふゐるさきの−ひきわかれ−とふやみきはの−ゆきのむらきえ


09070
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はや川や汀に波もかへりさす鷺のねふりの夢そしられぬ

はやかはや−みきはになみも−かへりさす−さきのねふりの−ゆめそしられぬ


09071
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松たてる野川のさきの一つれにひとりおくれていそく山本

まつたてる−のかはのさきの−ひとつれに−ひとりおくれて−いそくやまもと


09072
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うちむれてうのゐる川のみなきはにおのれさはしるいさな白鷺

うちむれて−うのゐるかはの−みなきはに−おのれさはしる−いさなしらさき


09073
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むれてゐる鷺のみの毛を吹上の浜洲も白き興つ塩風

むれてゐる−さきのみのけを−ふきあけの−はますもしろき−おきつしほかせ


09074
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なかれすのあやふき浪も白さきのねふりはさませかよふ河かせ

なかれすの−あやふきなみも−しらさきの−ねふりはさませ−かよふかはかせ


09075
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河風にみの毛ふかせて立つ鷺の雨ふらぬ日やみたれわふらん

かはかせに−みのけふかせて−たつさきの−あめふらぬひや−みたれわふらむ


09076
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暮るるまて柳をはらふ川かせにしつまりかぬるさきの一つれ

くるるまて−やなきをはらふ−かはかせに−しつまりかぬる−さきのひとつれ


09077
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さとちかくあくる河戸の水の淡つもるとみれは鷺そ立ちぬる

さとちかく−あくるかはとの−みつのあわ−つもるとみれは−さきそたちぬる


09078
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白鷺はまへの江川にみなおりて山本柳見えぬくれかな

しらさきは−まへのえかはに−みなおりて−やまもとやなき−みえぬくれかな


09079
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枯れのこる汀のちはら色暮れぬ立ちゆくさきの跡の川かせ

かれのこる−みきはのちはら−いろくれぬ−たちゆくさきの−あとのかはかせ


09080
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夕ま暮江河のくひに立つ鷺のひとりならすは哀ともみし

ゆふまくれ−えかはのくひに−たつさきの−ひとりならすは−あはれともみし


09081
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かきとめて煙となしぬもしほ草さても跡なき筆のうみかな

かきとめて−けふりとなしぬ−もしほくさ−さてもあとなき−ふてのうみかな


09082
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老か身もかかる時あれ浪のしわのふると見えてうら風もなし

おいかみも−かかるときあれ−なみのしわ−のふるとみえて−うらかせもなし


09083
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とひとはぬ舟路いくかそわたの原人のすむ島人のなき磯

とひとはぬ−ふなちいくかそ−わたのはら−ひとのすむしま−ひとのなきいそ


09084
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舟人もいかかはしらん山にても世をうみわたる心ひとつを

ふなひとも−いかかはしらむ−やまにても−よをうみわたる−こころひとつを


09085
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山ちかく今朝なりぬらしうな原や遠き浪ちのよこ雲の松

やまちかく−けさなりぬらし−うなはらや−とほきなみちの−よこくものまつ


09086
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心せよ風はなころに立つなみもまた早しほのせとの舟人

こころせよ−かせはなころに−たつなみも−またはやしほの−せとのふなひと


09087
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こきちかふおきつ舟人こととふをこたへんとすれは跡の白浪

こきちかふ−おきつふなひと−こととふを−こたへむとすれは−あとのしらなみ


09088
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はかなしと塩あひとほく見し淡の消えぬにましる小舟かなしも

はかなしと−しほあひとほく−みしあわの−きえぬにましる−をふねかなしも


09089
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いつて舟いつくの人も白浪のうへにともなふ身こそうきたれ

いつてふね−いつくのひとも−しらなみの−うへにともなふ−みこそうきたれ


09090
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大舟のいかりおろしておき中にこよひはさねぬかせ心せよ

おほふねの−いかりおろして−おきなかに−こよひはさねぬ−かせこころせよ


09091
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ひく塩のさなみもぬるき遠あさによらてそとまるおきつ舟人

ひくしほの−さなみもぬるき−とほあさに−よらてそとまる−おきつふなひと


09092
未入力 正徹 (xxx)

なこりたに浪にやぬらせから人の袖のみなとのあけのそほ舟

なこりたに−なみにやぬらせ−からひとの−そてのみなとの−あけのそほふね


09093
未入力 正徹 (xxx)

いてしまはおきの小島と見し雲のしたになるまて舟はきにけり

いてしまは−おきのこしまと−みしくもの−したになるまて−ふねはきにけり


09094
未入力 正徹 (xxx)

もしほ草こよひしきつに明すとやかりてこきつるるあまのはし舟

もしほくさ−こよひしきつに−あかすとや−かりてこきつるる−あまのはしふね


09095
未入力 正徹 (xxx)

興に見し雲こそ跡に成りにけれいかはかりとき舟路なるらん

おきにみし−くもこそあとに−なりにけれ−いかはかりとき−ふなちなるらむ


09096
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とひゆくや浪にむれゐる鳥かちのこゑ遠さかるおきつ舟人

とひゆくや−なみにむれゐる−とりかちの−こゑとほさかる−おきつふなひと


09097
未入力 正徹 (xxx)

おきつ風吹くや浪まに数しらすおなし帆むけの舟そならへる

おきつかせ−ふくやなみまに−かすしらす−おなしほむけの−ふねそならへる


09098
未入力 正徹 (xxx)

心あてやかはるおもかちかりかちのこゑもしけぬくおきつ舟長

こころあてや−かはるおもかち−かりかちの−こゑもしけぬく−おきつふなをさ


09099
未入力 正徹 (xxx)

とるかちのともにはし舟引きそへていく浦過きぬまほの追風

とるかちの−ともにはしふね−ひきそへて−いくうらすきぬ−まほのおひかせ


09100
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こす浪のぬるき磯辺の岩あひにかしふりたててつなく舟人

こすなみの−ぬるきいそへの−いはあひに−かしふりたてて−つなくふなひと


09101
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心せよ舟のともへのいかりなはおろすもこよひあらき浪かな

こころせよ−ふねのともへの−いかりなは−おろすもこよひ−あらきなみかな


09102
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わたの原今朝追風に舟出して浜ち八百日を一日にそこし

わたのはら−けさおひかせに−ふなてして−はまちやほかを−ひとひにそこし


09103
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松浦かたもろこし舟のつなてかもおきの入日の雲まもる影

まつらかた−もろこしふねの−つなてかも−おきのいりひの−くもまもるかけ


09104
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みれは又舟にちかひて行く雲の跡のおもひをせく涙かな

みれはまた−ふねにちかひて−ゆくくもの−あとのおもひを−せくなみたかな


09105
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よせかねぬ山かと見ゆる浪もみな舟のしたこすおきつ塩風

よせかねぬ−やまかとみゆる−なみもみな−ふねのしたこす−おきつしほかせ


09106
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友舟はちかひてはやき朝しほの道行ふりも見えぬ浪かな

ともふねは−ちかひてはやき−あさしほの−みちゆきふりも−みえぬなみかな


09107
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猶もふけ追手のほつなときおろし夕なみをしくとまる舟人

なほもふけ−おひてのほつな−ときおろし−ゆふなみをしく−とまるふなひと


09108
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よる浪の空にもかへる雲くれていその入江にとまる舟人

よるなみの−そらにもかへる−くもくれて−いそのいりえに−とまるふなひと


09109
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友舟のいかりおろすな暮れぬともここはなこ路のしほの八百合

ともふねの−いかりおろすな−くれぬとも−ここはなこちの−しほのやほあひ


09110
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舟おほくならへるおきの帆柱によこ雲かけて風そおひくる

ふねおほく−ならへるおきの−ほはしらに−よこくもかけて−かせそおひくる


09111
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横雲のひくてのつなに出てそめて風に天とふおきつ舟人

よこくもの−ひくてのつなに−いてそめて−かせにあまとふ−おきつふなひと


09112
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やすむらんうきたる雲をほにあけて風のこき行くおきつ舟人

やすむらむ−うきたるくもを−ほにあけて−かせのこきゆく−おきつふなひと


09113
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あすは又舟路の雨と成りやせん海よりのほる雲の一むら

あすはまた−ふなちのあめと−なりやせむ−うみよりのほる−くものひとむら


09114
未入力 正徹 (xxx)

よる浪のなきたるうらを出てし舟もおきになりては風そおほゆる

よるなみの−なきたるうらを−いてしふねも−おきになりては−かせそおほゆる


09115
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うしほ風おきの遠山こす浪を見おろすはかり舟そたゆたふ

うしほかせ−おきのとほやま−こすなみを−みおろすはかり−ふねそたゆたふ


09116
未入力 正徹 (xxx)

大舟もちひさき鳥と見えぬへしおきのかもめは浪に消えつつ

おほふねも−ちひさきとりと−みえぬへし−おきのかもめは−なみにきえつつ


09117
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風よりもあらき舟子のことの葉にしらぬ浪ちをまかせてそ行く

かせよりも−あらきふなこの−ことのはに−しらぬなみちを−まかせてそゆく


09118
未入力 正徹 (xxx)

こよひ又浪のぬるみにとめてけりおきつ島守舟むかへして

こよひまた−なみのぬるみに−とめてけり−おきつしまもり−ふなむかへして


09119
未入力 正徹 (xxx)

おきつかせまほにまかちをとる舟の天とふはかりわたる浪かな

おきつかせ−まほにまかちを−とるふねの−あまとふはかり−わたるなみかな


09120
未入力 正徹 (xxx)

横雲をまほの綱手に引きませて山ちにかかるおきつ舟人

よこくもを−まほのつなてに−ひきませて−やまちにかかる−おきつふなひと


09121
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夕なみもなきさのあまのすて衣くちにし色をそふる雲かな

ゆふなみも−なきさのあまの−すてころも−くちにしいろを−そふるくもかな


09122
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浦にすむあまのみるめや友ならんよこ雲かつくおきの遠山

うらにすむ−あまのみるめや−ともならむ−よこくもかつく−おきのとほやま


09123
未入力 正徹 (xxx)

浪の上にこきゆく舟はしらねとも雲のほおろす興つしほかせ

なみのうへに−こきゆくふねは−しらねとも−くものほおろす−おきつしほかせ


09124
未入力 正徹 (xxx)

声たてて松やしほひのかたはかり昔をのこすわかの浦風

こゑたてて−まつやしほひの−かたはかり−むかしをのこす−わかのうらかせ


09125
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浪よりも松陰たのむはまひさしあやふき岸に鳥そおりゐる

なみよりも−まつかけたのむ−はまひさし−あやふききしに−とりそおりゐる


09126
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すみよしや昔はきしの松かねを打ちけん浪の遠きしら浜

すみよしや−むかしはきしの−まつかねを−うちけむなみの−とほきしらはま


09127
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橋立やはま松風はくらくなりてよさのふけひに月かたふきぬ

はしたてや−はままつかせは−くらくなりて−よさのふけひに−つきかたふきぬ


09128
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さかへつつみとりもつきす諸人のことのはにとる和かのうら松

さかへつつ−みとりもつきす−もろひとの−ことのはにとる−わかのうらまつ


09129
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神の世の木のこのかみと生ふるらん国もはしめのあはち島松

かみのよの−きのこのかみと−おふるらむ−くにもはしめの−あはちしままつ


09130
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うかれ立つすさの入江の夕なみはあとまてさわくあちの村鳥

うかれたつ−すさのいりえの−ゆふなみは−あとまてさわく−あちのむらとり


09131
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浪かくるおきつなきさにゆられよる玉もかなみか遠き一むら

なみかくる−おきつなきさに−ゆられよる−たまもかなみか−とほきひとむら


09132
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人しけく家ゐそおほき朝夕のうらさひしとも何をかもみん

ひとしけく−いへゐそおほき−あさゆふの−うらさひしとも−なにをかもみむ


09133
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身をさへやかくしわふらん須磨のあまの家もまとほの衣なくして

みをさへや−かくしわふらむ−すまのあまの−いへもまとほの−ころもなくして


09134
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夕日さすいそ屋のあまのつりさをにあさてかけほしあひきするみゆ

ゆふひさす−いそやのあまの−つりさをに−あさてかけほし−あひきするみゆ


09135
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もしほやく煙も思ひ消えそ行く世わたりわふるさとのあま人

もしほやく−けふりもおもひ−きえそゆく−よわたりわふる−さとのあまひと


09136
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月そ入るゆらの戸わたる横雲に浪ち夜ふかききちの遠山

つきそいる−ゆらのとわたる−よこくもに−なみちよふかき−きちのとほやま


09137
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わたの原むかひに山のありなしは雲にしらるる浪のうへかな

わたのはら−むかひにやまの−ありなしは−くもにしらるる−なみのうへかな


09138
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わたの原よるみしおきの山もなし雲なりけりな浪のあさなき

わたのはら−よるみしおきの−やまもなし−くもなりけりな−なみのあさなき


09139
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朽ちはててしほくむあまや捨衣なみのみあらふ雲の一むら

くちはてて−しほくむあまや−すてころも−なみのみあらふ−くものひとむら


09140
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見えさりしおきつ塩あひに浮かふ山の淡ときゆるは雲そ棚引く

みえさりし−おきつしほあひに−うかふやまの−あわときゆるは−くもそたなひく


09141
未入力 正徹 (xxx)

明けぬるかみさりし奥にわかれ行く雲間の浪に松そうかへる

あけぬるか−みさりしおきに−わかれゆく−くもまのなみに−まつそうかへる


09142
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あま人のもしほたれぬる袖かともみなとに遠き雲そ残れる

あまひとの−もしほたれぬる−そてかとも−みなとにとほき−くもそのこれる


09143
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月のこる遠のうみきは猶はれてみしかき雲をあらふ白浪

つきのこる−をちのうみきは−なほはれて−みしかきくもを−あらふしらなみ


09144
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宿ことの庭のなかれにせき入れてこの比清き中川の水

やとことの−にはのなかれに−せきいれて−このころきよき−なかかはのみつ


09145
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あまさかる雲に白浪みちもなし舟なかしたるあまの此身は

あまさかる−くもにしらなみ−みちもなし−ふねなかしたる−あまのこのみは


09146
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いたつらに法の衣をたちそきるあひそめ川のなみもはつかし

いたつらに−のりのころもを−たちそきる−あひそめかはの−なみもはつかし


09147
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浪にゐる雲に塩風いかか吹くまほもかたほもおきつふな人

なみにゐる−くもにしほかせ−いかかふく−まほもかたほも−おきつふなひと


09148
未入力 正徹 (xxx)

影やこれたれあけおきて月のさす槙の戸川にあまる白浪

かけやこれ−たれあけおきて−つきのさす−まきのとかはに−あまるしらなみ


09149
未入力 正徹 (xxx)

世の人のかすやはかはる行く河ももとの水にはあらてたえせし

よのひとの−かすやはかはる−ゆくかはも−もとのみつには−あらてたえせし


09150
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秋の夜もおち鮎つきて西川や石にふしたる魚そのこれる

あきのよも−おちあゆつきて−にしかはや−いしにふしたる−うをそのこれる


09151
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水のあわと消えかへるなりたをやめかおもひたえせぬあすか川なみ

みつのあわと−きえかへるなり−たをやめか−おもひたえせぬ−あすかかはなみ


09152
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花そのの花をいく世かなかしけん風よりつらし志賀の山河

はなそのの−はなをいくよか−なかしけむ−かせよりつらし−しかのやまかは


09153
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すみた河岸の柳にたつさきの色にそならぬ宮こ鳥かな

すみたかは−きしのやなきに−たつさきの−いろにそならぬ−みやことりかな


09154
未入力 正徹 (xxx)

うき草は江にかたよりて古川やのこるゐくひにたてる鷺かな

うきくさは−えにかたよりて−ふるかはや−のこるゐくひに−たてるさきかな


09155
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はるかなる洲にゐるたつもたのむらんくれなはなけの川上の松

はるかなる−すにゐるたつも−たのむらむ−くれなはなけの−かはかみのまつ


09156
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すみた川心や花の宮こ鳥都にとほき浪にすめとも

すみたかは−こころやはなの−みやことり−みやこにとほき−なみにすめとも


09157
未入力 正徹 (xxx)

貌鳥の水にかけみぬ夕暮にゐくひをさしてさきそ落ちくる

かほとりの−みつにかけみぬ−ゆふくれに−ゐくひをさして−さきそおちくる


09158
未入力 正徹 (xxx)

おちたきついはてたたにや山川の入江のすとりうきにまかせん

おちたきつ−いはてたたにや−やまかはの−いりえのすとり−うきにまかせむ


09159
未入力 正徹 (xxx)

松かけのなみもともにそ立ちそめん此川上のつるの毛衣

まつかけの−なみもともにそ−たちそめむ−このかはかみの−つるのけころも


09160
未入力 正徹 (xxx)

貌よ鳥ゐくひの上の川風に水のかかみはむかふまもなし

かほよとり−ゐくひのうへの−かはかせに−みつのかかみは−むかふまもなし


09161
未入力 正徹 (xxx)

川音もすさきにたてる鵲のくもるつはさそ雨の色なる

かはおとも−すさきにたてる−かささきの−くもるつはさそ−あめのいろなる


09162
未入力 正徹 (xxx)

むら鷺は山もと遠くとひ消えて柳ちるなりあきの河かせ

むらさきは−やまもととほく−とひきえて−やなきちるなり−あきのかはかせ


09163
未入力 正徹 (xxx)

苔りぬ岩なみしろき山川におつるみさこのかへる松か枝

こけふりぬ−いはなみしろき−やまかはに−おつるみさこの−かへるまつかえ


09164
未入力 正徹 (xxx)

朝川の水のけふりに島つ鳥うは玉の夜の色そ消行く

あさかはの−みつのけふりに−しまつとり−うはたまのよの−いろそきえゆく


09165
未入力 正徹 (xxx)

末せはみひろせにうかふ筏土の一もやひつつおとす川波

すゑせはみ−ひろせにうかふ−いかたしの−ひともやひつつ−おとすかはなみ


09166
未入力 正徹 (xxx)

岩なみのおとそきこえぬ杣川やつつく筏の床にせかれて

いはなみの−おとそきこえぬ−そまかはや−つつくいかたの−とこにせかれて


09167
未入力 正徹 (xxx)

舟つなく堤の上の山風に川音くれて行人もなし

ふねつなく−つつみのうへの−やまかせに−かはおとくれて−ゆくひともなし


09168
未入力 正徹 (xxx)

人心さも早川のせに生ふる玉もかりそめの世にやなひかん

ひとこころ−さもはやかはの−せにおふる−たまもかりそめの−よにやなひかむ


09169
未入力 正徹 (xxx)

たれかきるふもとの雲の上のきぬ小川の石の帯そめくれる

たれかきる−ふもとのくもの−うへのきぬ−をかはのいしの−おひそめくれる


09170
未入力 正徹 (xxx)

月草の花たの帯か末かけて空色うつす山川の水

つきくさの−はなたのおひか−すゑかけて−そらいろうつす−やまかはのみつ


09171
未入力 正徹 (xxx)

清滝やなかれ出てけんそのかみを岩ほもしらぬ水のしらなみ

きよたきや−なかれいてけむ−そのかみを−いはほもしらぬ−みつのしらなみ


09172
未入力 正徹 (xxx)

あふくなりみかく春日の川上にたえぬこと葉の玉もある世を

あふくなり−みかくかすかの−かはかみに−たえぬことはの−たまもあるよを


09173
未入力 正徹 (xxx)

あふ坂や苔の岩かと玉こえて山たちいつる関川のなみ

あふさかや−こけのいはかと−たまこえて−やまたちいつる−せきかはのなみ


09174
未入力 正徹 (xxx)

世をかさねこほる玉もの床せはになくやさ山か池のをし鳥

よをかさね−こほるたまもの−とこせはに−なくやさやまか−いけのをしとり


09175
未入力 正徹 (xxx)

庭ひろき池の心のちりもなし松にや世世の年つもるらん

にはひろき−いけのこころの−ちりもなし−まつにやよよの−としつもるらむ


09176
未入力 正徹 (xxx)

浪の上によりくるかめやあひやすき池の浮草木にもあらすて

なみのうへに−よりくるかめや−あひやすき−いけのうきくさ−きにもあらすて


09177
未入力 正徹 (xxx)

ふりにける池のふし木の苔の上に日影にあたる亀そむれゐる

ふりにける−いけのふしきの−こけのうへに−ひかけにあたる−かめそむれゐる


09178
未入力 正徹 (xxx)

河なみのよとむふし木にすむかめの又淵に入る岸の人かけ

かはなみの−よとむふしきに−すむかめの−またふちにいる−きしのひとかけ


09179
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山川のふちにととまるなかれ木を棲となして亀そ鳴くなる

やまかはの−ふちにととまる−なかれきを−すみかとなして−かめそなくなる


09180
未入力 正徹 (xxx)

山川やせによるこけのうききにもあへるをまれの亀や鳴くらん

やまかはや−せによるこけの−うききにも−あへるをまれの−かめやなくらむ


09181
未入力 正徹 (xxx)

風に見し柳の花のかたよりにおちても水になひく浮草

かせにみし−やなきのはなの−かたよりに−おちてもみつに−なひくうきくさ


09182
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みかきおけ空に水とる玉かしは道たかき世の心をも見ん

みかきおけ−そらにみつとる−たまかしは−みちたかきよの−こころをもみむ


09183
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いく世とも岩まの水にわく玉の数かきりなき光をそ見ん

いくよとも−いはまのみつに−わくたまの−かすかきりなき−ひかりをそみむ


09184
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庭の面にせき入れてみよ松のはの散りうせぬかけそ水のうたかた

にはのおもに−せきいれてみよ−まつのはの−ちりうせぬかけそ−みつのうたかた


09185
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松かけの滝の岩なみ十かへりの花のかかみをみかく山かせ

まつかけの−たきのいはなみ−とかへりの−はなのかかみを−みかくやまかせ


09186
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山もとの雨のなこりの村雲にあらはれきゆる野への沢水

やまもとの−あめのなこりの−むらくもに−あらはれきゆる−のへのさはみつ


09187
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かくしつる雲そすくなきひろせ川わかれて残る峰の一村

かくしつる−くもそすくなき−ひろせかは−わかれてのこる−みねのひとむら


09188
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湊より興中川に行く水のなかれはるかにはるる雲かな

みなとより−おきなかかはに−ゆくみつの−なかれはるかに−はるるくもかな


09189
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一くもりふふき消えつる末の野にしろきをみれは雪の川橋

ひとくもり−ふふききえつる−すゑののに−しろきをみれは−ゆきのかははし


09190
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月いつる山沢とほき水かけもはつかに見ゆる雲の下風

つきいつる−やまさはとほき−みつかけも−はつかにみゆる−くものしたかせ


09191
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おときけはうきか中にも心をは猶やり水のある世なりけり

おときけは−うきかなかにも−こころをは−なほやりみつの−あるよなりけり


09192
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たた一木山さは水にふす松の葉分におふるこすけ村芦

たたひとき−やまさはみつに−ふすまつの−はわけにおふる−こすけむらあし


09193
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河風に又此比や桜谷みそきのぬさも花とちるらん

かはかせに−またこのころや−さくらたに−みそきのぬさも−はなとちるらむ


09194
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浪による玉かと峰の松のはの陰さへふかき谷の下水

なみによる−たまかとみねの−まつのはの−かけさへふかき−たにのしたみつ


09195
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こけふかき谷のふし木をせきとめて山の雫や淵と成るらん

こけふかき−たにのふしきを−せきとめて−やまのしつくや−ふちとなるらむ


09196
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風の上に峰の梯ゆく人のかけのみわたる谷川の水

かせのうへに−みねのかけはし−ゆくひとの−かけのみわたる−たにかはのみつ


09197
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谷川のしからみならぬ埋木にせかれて水のみ草よるなり

たにかはの−しからみならぬ−うもれきに−せかれてみつの−みくさよるなり


09198
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淵青くなるせは白き谷川をめにかけて行くそはのかけはし

ふちあをく−なるせはしろき−たにかはを−めにかけてゆく−そはのかけはし


09199
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あらきなみ風心せよ舟はたのうすき命の隔はかりを

あらきなみ−かせこころせよ−ふなはたの−うすきいのちの−へたてはかりを


09200
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湊出のおほ舟おくるはし舟に玉もかりつみかへるうら人

みなといての−おほふねおくる−はしふねに−たまもかりつみ−かへるうらひと


09201
未入力 正徹 (xxx)

行く舟の追手もあまりつよくしてしはしほおろすせとの塩あひ

ゆくふねの−おひてもあまり−つよくして−しはしほおろす−せとのしほあひ


09202
未入力 正徹 (xxx)

夜はの夢たゆともたゆな大舟におろすはかりの縄のうらなみ

よはのゆめ−たゆともたゆな−おほふねに−おろすはかりの−なはのうらなみ


09203
未入力 正徹 (xxx)

日をへつつ思ひしうらに舟そよるなかくともなくあまのたくなは

ひをへつつ−おもひしうらに−ふねそよる−なかくともなく−あまのたくなは


09204
未入力 正徹 (xxx)

しなかとりふしうきゐなのみなと舟あまのかるもの浪の枕は

しなかとり−ふしうきゐなの−みなとふね−あまのかるもの−なみのまくらは


09205
未入力 正徹 (xxx)

こまとめて舟をやいそく末とほきさののわたりにかかる舟人

こまとめて−ふねをやいそく−すゑとほき−さののわたりに−かかるふなひと


09206
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なかれ行く舟のつなてをなけこして引きとめらるる早川のきし

なかれゆく−ふねのつなてを−なけこして−ひきとめらるる−はやかはのきし


09207
未入力 正徹 (xxx)

八百日行く舟の時のまあつさゆみ引く早しほの矢ほの追風

やほかゆく−ふねのときのま−あつさゆみ−ひくはやしほの−やほのおひかせ


09208
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音あらき浪の手玉もゆらの戸をわたる舟人心くたけて

おとあらき−なみのてたまも−ゆらのとを−わたるふなひと−こころくたけて


09209
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磯たかき岩ほうちこすあら浪のむねにひひきのなたの舟人

いそたかき−いはほうちこす−あらなみの−むねにひひきの−なたのふなひと


09210
未入力 正徹 (xxx)

舟とむる夜はにやかちを枕かのこかの渡に夢をまたまし

ふねとむる−よはにやかちを−まくらかの−こかのわたりに−ゆめをまたまし


09211
未入力 正徹 (xxx)

あるやなき高塩むかふ風はやの身を後の世におきつ舟人

あるやなき−たかしほむかふ−かさはやの−みをのちのよに−おきつふなひと


09212
未入力 正徹 (xxx)

かへりみるあはちはあわそいこま山たかくよりくるせとの早舟

かへりみる−あはちはあわそ−いこまやま−たかくよりくる−せとのはやふね


09213
未入力 正徹 (xxx)

ぬさまつれうき立つ浪も早しほの八百合はやきせとの舟人

ぬさまつれ−うきたつなみも−はやしほの−やほあひはやき−せとのふなひと


09214
未入力 正徹 (xxx)

あまを舟こかの渡のよこ雲にたか枕かのゆくへとふらむ

あまをふね−こかのわたりの−よこくもに−たかまくらかの−ゆくへとふらむ


09215
未入力 正徹 (xxx)

淡路かたせと漕渡る舟人の四の国みやおきつしま山

あはちかた−せとこきわたる−ふなひとの−よつのくにみや−おきつしまやま


09216
未入力 正徹 (xxx)

ひくほとはあまりにしほも早とものわたらし波に舟やなからん

ひくほとは−あまりにしほも−はやともの−わたらしなみに−ふねやなからむ


09217
未入力 正徹 (xxx)

興たかみ浪のあはちの山きえてせとこす舟の落つる早しほ

おきたかみ−なみのあはちの−やまきえて−せとこすふねの−おつるはやしほ


09218
未入力 正徹 (xxx)

あはちかたせと行く雲をまきしほの風むかふ日は舟も渡らす

あはちかた−せとゆくくもを−まきしほの−かせむかふひは−ふねもわたらす


09219
未入力 正徹 (xxx)

浪にしく雲をうきねの枕かはこかれやはするあまのもしほ火

なみにしく−くもをうきねの−まくらかは−こかれやはする−あまのもしほひ


09220
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さしつくるむかひの舟のおりのりに人の心も見ゆる川岸

さしつくる−むかひのふねの−おりのりに−ひとのこころも−みゆるかはきし


09221
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さしむかひ舟くるほとの川きしにむれたつ人のおなし心よ

さしむかひ−ふねくるほとの−かはきしに−むれたつひとの−おなしこころよ


09222
未入力 正徹 (xxx)

河きしにひとりたてるやしるからんよせんともせぬをちの舟長

かはきしに−ひとりたてるや−しるからむ−よせむともせぬ−をちのふなをさ


09223
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舟まてはおそき河原にふす民やさしわたりぬと夢にみるらん

ふねまては−おそきかはらに−ふすたみや−さしわたりぬと−ゆめにみるらむ


09224
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あさき江の契としるも袖ぬれぬきしの上野の草の枕は

あさきえの−ちきりとしるも−そてぬれぬ−きしのうへのの−くさのまくらは


09225
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いつはりの露を涙となすもうし野上の草の枕ならへて

いつはりの−つゆをなみたと−なすもうし−のかみのくさの−まくらならへて


09226
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まつ人はよもきか島も尋ねみぬ身をうき舟に老と成りつつ

まつひとは−よもきかしまも−たつねみぬ−みをうきふねに−おいとなりつつ


09227
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大舟のゆたのたゆたふ浪の上に夢のうきみるみたれ佗ひつつ

おほふねの−ゆたのたゆたふ−なみのうへに−ゆめのうきみる−みたれわひつつ


09228
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河こしに物いひかはす里かよひ舟ならてはのをちこちの岸

かはこしに−ものいひかはす−さとかよひ−ふねならてはの−をちこちのきし


09229
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さと人の朝けにたけと椎のはの嵐そおくるうちの柴舟

さとひとの−あさけにたけと−しひのはの−あらしそおくる−うちのしはふね


09230
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みたれにしかふこの糸か桑原のなりけんにほの海の白なみ

みたれにし−かふこのいとか−くははらの−なりけむにほの−うみのしらなみ


09231
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はやめゆけやかぬしほ津をさす舟にからき浪たつ竹生島山

はやめゆけ−やかぬしほつを−さすふねに−からきなみたつ−ちくふしまやま


09232
未入力 正徹 (xxx)

あまを舟たかきぬきぬのあさ妻や身をうら浪に漕きかへるらん

あまをふね−たかきぬきぬの−あさつまや−みをうらなみに−こきかへるらむ


09233
未入力 正徹 (xxx)

ささ浪も立つとは見えすにほの海のにはよき興をわたる舟人

ささなみも−たつとはみえす−にほのうみの−にはよきおきを−わたるふなひと


09234
未入力 正徹 (xxx)

から崎の松もる神の社にもはまの鳥ゐにゆふかへるなみ

からさきの−まつもるかみの−やしろにも−はまのとりゐに−ゆふかへるなみ


09235
未入力 正徹 (xxx)

和歌のうらや昔の風のすかたにもおよはぬ松のことのはそうき

わかのうらや−むかしのかせの−すかたにも−およはぬまつの−ことのはそうき


09236
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なみならぬ幾代の人のことのはにかけて色こきわかのうら松

なみならぬ−いくよのひとの−ことのはに−かけていろこき−わかのうらまつ


09237
未入力 正徹 (xxx)

老か身のなき世のこけの下にふけこれやかきりの浦の松風

おいかみの−なきよのこけの−したにふけ−これやかきりの−うらのまつかせ


09238
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さ夜ふかきしほひのたつもいもに恋ひ和かの浦わの松に鳴くなり

さよふかき−しほひのたつも−いもにこひ−わかのうらわの−まつになくなり


09239
未入力 正徹 (xxx)

わかの浦や老木も松の花はあれと我かことのはの春そすくなき

わかのうらや−おいきもまつの−はなはあれと−わかことのはの−はるそすくなき


09240
未入力 正徹 (xxx)

わかのうらの松の落葉のちりの世にうつもれはてし名をたにもたて

わかのうらの−まつのおちはの−ちりのよに−うつもれはてし−なをたにもたて


09241
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ことの葉の数か吹上の山おろしまさこをはこふ和かのうら松

ことのはの−かすかふきあけの−やまおろし−まさこをはこふ−わかのうらまつ


09242
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後みれはよさの橋立中絶えて昔にもあらす松そかれにし

のちみれは−よさのはしたて−なかたえて−むかしにもあらす−まつそかれにし


09243
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あまの子もいまやかくらん波そちる松のはよせてうら風そ吹く

あまのこも−いまやかくらむ−なみそちる−まつのはよせて−うらかせそふく


09244
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風しをるよさの浦松夜見えて浪にきえせぬ竜の灯

かせしをる−よさのうらまつ−よるみえて−なみにきえせぬ−たつのともしひ


09245
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須磨の浦やなみも真砂も曇なき晴にいてたる入うみの松

すまのうらや−なみもまさこも−くもりなき−はれにいてたる−いりうみのまつ


09246
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行見はや松か浦島末の世に心あるあまの心なくとも

ゆきみはや−まつかうらしま−すゑのよに−こころあるあまの−こころなくとも


09247
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つもるらし松のこと葉の玉のかすひろひあつめよ和かの浦人

つもるらし−まつのことはの−たまのかす−ひろひあつめよ−わかのうらひと


09248
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はりまちの追風なからともの海の室の木陰に舟はきにけり

はりまちの−おひかせなから−とものうみの−むろのこかけに−ふねはきにけり


09249
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しほかまのうらこき暮るるみをつくしたてる煙によする舟人

しほかまの−うらこきくるる−みをつくし−たてるけふりに−よするふなひと


09250
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吹く風のかはると見えてほの上の日影をおろす興つ舟人

ふくかせの−かはるとみえて−ほのうへの−ひかけをおろす−おきつふなひと


09251
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いつて舟五十年の浪にかかるより日をへてよわるみほのうら風

いつてふね−いそちのなみに−かかるより−ひをへてよわる−みほのうらかせ


09252
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わかの浦や遠つひかたの舟のりもうかへるしほのさすか待つらん

わかのうらや−とほつひかたの−ふなのりも−うかへるしほの−さすかまつらむ


09253
未入力 正徹 (xxx)

うけかたきみほのうらこく五手舟五にこれる浪にしつむな

うけかたき−みほのうらこく−いつてふね−いつつにこれる−なみにしつむな


09254
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おきつ風たつ夕浪にとふ鳥のかへるをみれは舟にいさり火

おきつかせ−たつゆふなみに−とふとりの−かへるをみれは−ふねにいさりひ


09255
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さひしさは夕のおきに雲消えて浪たえぬ江にたななしを舟

さひしさは−ゆふへのおきに−くもきえて−なみたえぬえに−たななしをふね


09256
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遠つうらに友なしを舟あまやこくつかはぬ鳥そ浪ち分行く

とほつうらに−ともなしをふね−あまやこく−つかはぬとりそ−なみちわけゆく


09257
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夕浪に入江のす鳥まかふまて友なしを舟遠さかりゆく

ゆふなみに−いりえのすとり−まかふまて−ともなしをふね−とほさかりゆく


09258
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くるる江の芦間のを舟ふる雨におほへるとまの下の心よ

くるるえの−あしまのをふね−ふるあめに−おほへるとまの−したのこころよ


09259
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和歌の浦の洲にゐし舟のうこく世も有りける浪の江をは出てねと

わかのうらの−すにゐしふねの−うこくよも−ありけるなみの−えをはいてねと


09260
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人の世は根をはなれたる草か江につなかぬ舟の岸による波

ひとのよは−ねをはなれたる−くさかえに−つなかぬふねの−きしによるなみ


09261
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ぬししらぬ入江の夕人なくて蓑と棹との舟にのこれる

ぬししらぬ−いりえのゆふへ−ひとなくて−みのとさをとの−ふねにのこれる


09262
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水たゆる古江の杉のまろ木舟いつうかひてか草に朽つらん

みつたゆる−ふるえのすきの−まろきふね−いつうかひてか−くさにくつらむ


09263
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塩やくやもかりを舟のつなて引く入江の里のくるるけふりは

しほやくや−もかりをふねの−つなてひく−いりえのさとの−くるるけふりは


09264
未入力 正徹 (xxx)

興つ風入江のひかた塩みちてすにゐしを舟又そたゆたふ

おきつかせ−いりえのひかた−しほみちて−すにゐしをふね−またそたゆたふ


09265
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮人なき舟の蓑笠にむら雨かかる入江かなしき

ゆふまくれ−ひとなきふねの−みのかさに−むらさめかかる−いりえかなしき


09266
未入力 正徹 (xxx)

君をこそ憑みますけのみくりなは身をまかせてや江にひかるらん

きみをこそ−たのみますけの−みくりなは−みをまかせてや−えにひかるらむ


09267
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あまを舟島こきめくり笠ぬひの入江のますけからね日もなし

あまをふね−しまこきめくり−かさぬひの−いりえのますけ−からねひもなし


09268
未入力 正徹 (xxx)

ひかれてもいまはなにせむことの葉も古江のみくり世には朽ちにき

ひかれても−いまはなにせむ−ことのはも−ふるえのみくり−よにはくちにき


09269
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まこもかる入江の小舟あまのうけあしてかくともみゆる浪かな

まこもかる−いりえのをふね−あまのうけ−あしてかくとも−みゆるなみかな


09270
未入力 正徹 (xxx)

天の世の初は神もあし牙のすかたなりける江にやつのくむ

あめのよの−はしめはかみも−あしかひの−すかたなりける−えにやつのくむ


09271
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あさ緑あしのねぬなははひめくりせはく成行く沼のささ浪

あさみとり−あしのねぬなは−はひめくり−せはくなりゆく−ぬまのささなみ


09272
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浪風のあやふなからも千世ふるやはなれ小島の松の一本

なみかせの−あやふなからも−ちよふるや−はなれこしまの−まつのひともと


09273
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海わたる鳥も一夜や旅ねせん夕浪こすな興つしま松

うみわたる−とりもひとよや−たひねせむ−ゆふなみこすな−おきつしままつ


09274
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もろこしもかからん種や生ひさらんことのはよする秋津島松

もろこしも−かからむたねや−おひさらむ−ことのはよする−あきつしままつ


09275
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はなれたつ岩ほをたかみ浪こゆる松そひさしきおきつ島守

はなれたつ−いはほをたかみ−なみこゆる−まつそひさしき−おきつしまもり


09276
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浪あらきおきの小島の松のたね天つ空より神やうゑけん

なみあらき−おきのこしまの−まつのたね−あまつそらより−かみやうゑけむ


09277
未入力 正徹 (xxx)

ひとり立つ浪やのとけき世の中をはなれ小島の松の心は

ひとりたつ−なみやのとけき−よのなかを−はなれこしまの−まつのこころは


09278
未入力 正徹 (xxx)

煙をや先たてそめししほかまの神代ふりたるうき島の松

けふりをや−まつたてそめし−しほかまの−かみよふりたる−うきしまのまつ


09279
未入力 正徹 (xxx)

興つなみ磯立ちならしこゆるきの松のかれはや露の玉たれ

おきつなみ−いそたちならし−こゆるきの−まつのかれはや−つゆのたまたれ


09280
未入力 正徹 (xxx)

舟いたす磯松かえのかさまつりよそにたつねぬ手向草かな

ふねいたす−いそまつかえの−かさまつり−よそにたつねぬ−たむけくさかな


09281
未入力 正徹 (xxx)

よもつきし磯松かねにみさこゐてつはさになつる岩の生前

よもつきし−いそまつかねに−みさこゐて−つはさになつる−いはのおひさき


09282
未入力 正徹 (xxx)

岩かねにくたくるなみの玉たれをこかめにかけつこゆるきの磯

いはかねに−くたくるなみの−たまたれを−こかめにかけつ−こゆるきのいそ


09283
未入力 正徹 (xxx)

よりそくるさかなもとめよこゆるきの磯立ちならす浪のうきみる

よりそくる−さかなもとめよ−こゆるきの−いそたちならす−なみのうきみる


09284
未入力 正徹 (xxx)

おきつかせあら磯なから引くしほに又こえのこす松かねのなみ

おきつかせ−あらいそなから−ひくしほに−またこえのこす−まつかねのなみ


09285
未入力 正徹 (xxx)

うこきなき岩ほもさらにこゆるきの磯浪つよくあらふ松かね

うこきなき−いはほもさらに−こゆるきの−いそなみつよく−あらふまつかね


09286
未入力 正徹 (xxx)

いつまてかしほもさしての磯のなみいまは深山の雲そかさなる

いつまてか−しほもさしての−いそのなみ−いまはみやまの−くもそかさなる


09287
未入力 正徹 (xxx)

もののふのあら機なみの岩ね松根をたえぬ世をたれか憑まん

もののふの−あらいそなみの−いはねまつ−ねをたえぬよを−たれかたのまむ


09288
未入力 正徹 (xxx)

さ夜衣さなから浪をきさかたやいそのね覚そ都にもにぬ

さよころも−さなからなみを−きさかたや−いそのねさめそ−みやこにもにぬ


09289
未入力 正徹 (xxx)

よそにしてつはさこえぬとみさこゐる岩ほにかへるいその白浪

よそにして−つはさこえぬと−みさこゐる−いはほにかへる−いそのしらなみ


09290
未入力 正徹 (xxx)

天くたる袖とはなしに磯なみのなつる岩ほや生ひのほるらん

あまくたる−そてとはなしに−いそなみの−なつるいはほや−おひのほるらむ


09291
未入力 正徹 (xxx)

わたの原とほき磯辺の岩こえてこゆるは雲をあらふ白波

わたのはら−とほきいそへの−いはこえて−こゆるはくもを−あらふしらなみ


09292
未入力 正徹 (xxx)

時のまにまさこ吹上の山谷をつくりかへたる紀路の浜風

ときのまに−まさこふきあけの−やまたにを−つくりかへたる−きちのはまかせ


09293
未入力 正徹 (xxx)

入海の磯屋の戸口ひくしほにさしとりけりなあまのまてかた

いりうみの−いそやのとくち−ひくしほに−さしとりけりな−あまのまてかた


09294
未入力 正徹 (xxx)

もしほやくあまの磯屋に立つけふりやかてや雲のなみと成るらん

もしほやく−あまのいそやに−たつけふり−やかてやくもの−なみとなるらむ


09295
未入力 正徹 (xxx)

朝夕はかならす塩をやくとなき煙そましる松かうらしま

あさゆふは−かならすしほを−やくとなき−けふりそましる−まつかうらしま


09296
未入力 正徹 (xxx)

煙をは松におほせていとまなみ又つりたるるなたの塩やき

けふりをは−まつにおほせて−いとまなみ−またつりたるる−なたのしほやき


09297
未入力 正徹 (xxx)

しほかまや煙は名のみたつなみにあれし磯屋もかよひ絶えつつ

しほかまや−けふりはなのみ−たつなみに−あれしいそやも−かよひたえつつ


09298
未入力 正徹 (xxx)

あまやすむこ屋のしほひのかたはかりやくとしもなき煙たてつつ

あまやすむ−こやのしほひの−かたはかり−やくとしもなき−けふりたてつつ


09299
未入力 正徹 (xxx)

もしほ火に煙をそふるゆふけたにうらさひしかるあまのむら里

もしほひに−けふりをそふる−ゆふけたに−うらさひしかる−あまのむらさと


09300
未入力 正徹 (xxx)

いさり火をあとのす崎にたきすてて光おくれとかへるつり舟

いさりひを−あとのすさきに−たきすてて−ひかりおくれと−かへるつりふね


09301
未入力 正徹 (xxx)

夕浪に入江のあまの家家にを舟さしいてけふるいさり火

ゆふなみに−いりえのあまの−いへいへに−をふねさしいて−けふるいさりひ


09302
未入力 正徹 (xxx)

くるる江のなみにうちはへ棹の糸を月にかけたる海士の釣針

くるるえの−なみにうちはへ−さをのいとを−つきにかけたる−あまのつりはり


09303
未入力 正徹 (xxx)

あま人の浪にしつむるつり針の一はうかふ三日月のかけ

あまひとの−なみにしつむる−つりはりの−ひとつはうかふ−みかつきのかけ


09304
未入力 正徹 (xxx)

松陰にやみをそへてやいさり火の光色こき興つ遠しま

まつかけに−やみをそへてや−いさりひの−ひかりいろこき−おきつとほしま


09305
未入力 正徹 (xxx)

あまを舟あかつきしほの弥早にさしおとされてかへるいさり火

あまをふね−あかつきしほの−いやはやに−さしおとされて−かへるいさりひ


09306
未入力 正徹 (xxx)

むろの海やたか別れゆく篝とも浪ち夜ふかきあまのいさり火

むろのうみや−たかわかれゆく−かかりとも−なみちよふかき−あまのいさりひ


09307
未入力 正徹 (xxx)

浪にうく星か川たれ時つかせふけとも消えぬなたのいさり火

なみにうく−ほしかかはたれ−ときつかせ−ふけともきえぬ−なたのいさりひ


09308
未入力 正徹 (xxx)

かけてうきあまのわさかな塩やよりやく火をともす夜はのいさり火

かけてうき−あまのわさかな−しほやより−たくひをともす−よはのいさりひ


09309
未入力 正徹 (xxx)

くれて見し汀の松の煙よりいてける夜はの浪のいさり火

くれてみし−みきはのまつの−けふりより−いてけるよはの−なみのいさりひ


09310
未入力 正徹 (xxx)

うき世をははなれ小島に身はあれと針なき釣にかけし玉のを

うきよをは−はなれこしまに−みはあれと−はりなきつりに−かけしたまのを


09311
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島つたふあしはやを舟名のみしてひま行く駒の影そこえぬる

しまつたふ−あしはやをふね−なのみして−ひまゆくこまの−かけそこえぬる


09312
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夕日影やみを照すや島つ鳥うのむらかれる遠の川きし

ゆふひかけ−やみをてらすや−しまつとり−うのむらかれる−をちのかはきし


09313
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淡路かた絵島の松のこのまより夕日をいたすおきつ白波

あはちかた−えしまのまつの−このまより−ゆふひをいたす−おきつしらなみ


09314
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波の上の夕の色にはなれてそ日影もたかきおきつ島山

なみのうへの−ゆふへのいろに−はなれてそ−ひかけもたかき−おきつしまやま


09315
未入力 正徹 (xxx)

おきつ風松かねあらふ浪もみえてみしまかくれもなきゆふへかな

おきつかせ−まつかねあらふ−なみもみえて−みしまかくれも−なきゆふへかな


09316
未入力 正徹 (xxx)

うらなみは松よりくるる興中のはなれ小島にのこる日の影

うらなみは−まつよりくるる−おきなかの−はなれこしまに−のこるひのかけ


09317
未入力 正徹 (xxx)

ほととほきうら風見えて雲まもる夕日にさわく興つ島松

ほととほき−うらかせみえて−くもまもる−ゆふひにさわく−おきつしままつ


09318
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よそにして暮るる夜ことになにはめかすくも焼く火をいさりとそみる

よそにして−くるるよことに−なにはめか−すくもたくひを−いさりとそみる


09319
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水の面にみゆる難波の宮こ鳥むかしや雲のうへに住みけん

みつのおもに−みゆるなにはの−みやことり−むかしやくもの−うへにすみけむ


09320
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たをやめもいかかすむらんあすか風里吹きあらす川音もうし

たをやめも−いかかすむらむ−あすかかせ−さとふきあらす−かはおともうし


09321
未入力 正徹 (xxx)

民の戸のけふりを見てもなには人なみになこひそさくや此花

たみのとの−けふりをみても−なにはひと−なみになこひそ−さくやこのはな


09322
未入力 正徹 (xxx)

身は夢そうちの橋姫わすれねよむかひの寺の鐘に待つ夜を

みはゆめそ−うちのはしひめ−わすれねよ−むかひのてらの−かねにまつよを


09323
未入力 正徹 (xxx)

水野には舟のみまつを川むかひうらやましきやよとのつき橋

みつのには−ふねのみまつを−かはむかひ−うらやましきや−よとのつきはし


09324
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あさくとも道のこととへ宮こ鳥きたるほり江にちかきさと人

あさくとも−みちのこととへ−みやことり−きたるほりえに−ちかきさとひと


09325
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ならふとて女の子も舟をよくそさすめくれるさとの島のさと人

ならふとて−めのこもふねを−よくそさす−めくれるさとの−しまのさとひと


09326
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とふ鳥のあすか川風さとなれてかはる淵せを枕にそきく

とふとりの−あすかかはかせ−さとなれて−かはるふちせを−まくらにそきく


09327
未入力 正徹 (xxx)

月やとふ里は水のの山かせに川おとまさる秋のねさめを

つきやとふ−さとはみつのの−やまかせに−かはおとまさる−あきのねさめを


09328
未入力 正徹 (xxx)

ね覚めすやあすか川なみ耳なれて雨もあらしもしらぬさと人

ねさめすや−あすかかはなみ−みみなれて−あめもあらしも−しらぬさとひと


09329
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こえ見はや君かあたりの飛鳥川又わきもこかかつらきの山

こえみはや−きみかあたりの−あすかかは−またわきもこか−かつらきのやま


09330
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みこし路の駒の足たつ雪まてや氷にかよふしほつ舟人

みこしちの−こまのあしたつ−ゆきまてや−こほりにかよふ−しほつふなひと


09331
未入力 正徹 (xxx)

ふる雨はけふかあすかにとふ鳥に村雲ましりくもる川かせ

ふるあめは−けふかあすかに−とふとりに−むらくもましり−くもるかはかせ


09332
未入力 正徹 (xxx)

いこま山時そともなくはれくもる雲をみつ野にすめるさと人

いこまやま−ときそともなく−はれくもる−くもをみつのに−すめるさとひと


09333
未入力 正徹 (xxx)

椎の葉の嵐もうちの川おとは旅にしあれや夜はのさと人

しひのはの−あらしもうちの−かはおとは−たひにしあれや−よはのさとひと


09334
未入力 正徹 (xxx)

あしつつの此世はうすき契ともしらぬなにはのあまのいさり火

あしつつの−このよはうすき−ちきりとも−しらぬなにはの−あまのいさりひ


09335
未入力 正徹 (xxx)

さとくもるかた野の雨はきほひきてあまの川すに鵲のこゑ

さとくもる−かたののあめは−きほひきて−あまのかはすに−かささきのこゑ


09336
未入力 正徹 (xxx)

えそとはぬすますやしかの宮こ鳥また見ぬ花のありやなしやを

えそとはぬ−すますやしかの−みやことり−またみぬはなの−ありやなしやを


09337
未入力 正徹 (xxx)

いさりするなにはのあまもにくからす小屋の煙のともしきをみて

いさりする−なにはのあまも−にくからす−こやのけふりの−ともしきをみて


09338
未入力 正徹 (xxx)

たてなからまきの島人いとふらんさらせる布にかかるけふりを

たてなから−まきのしまひと−いとふらむ−さらせるぬのに−かかるけふりを


09339
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮河辺の里に立ちすみし煙こりしくをちの山本

ゆふまくれ−かはへのさとに−たちすみし−けふりこりしく−をちのやまもと


09340
未入力 正徹 (xxx)

あはつ野のを花もいまは浪ならて水うみせはきせたのなかはし

あはつのの−をはなもいまは−なみならて−みつうみせはき−せたのなかはし


09341
未入力 正徹 (xxx)

旅人のさきたつ袖はかつききて夕日そわたる峰のかけはし

たひひとの−さきたつそては−かつききて−ゆふひそわたる−みねのかけはし


09342
未入力 正徹 (xxx)

うかりけむさののわたりのためしをもさそ思ひねのうちのはし姫

うかりけむ−さののわたりの−ためしをも−さそおもひねの−うちのはしひめ


09343
未入力 正徹 (xxx)

長き夜の夢のうきはしもる人のなきにも老そわたりわつらふ

なかきよの−ゆめのうきはし−もるひとの−なきにもおいそ−わたりわつらふ


09344
未入力 正徹 (xxx)

山人のいくたり行くもきこゆるは枕にちかき前のかけはし

やまひとの−いくたりゆくも−きこゆるは−まくらにちかき−まへのかけはし


09345
未入力 正徹 (xxx)

えやはしるうちの橋守川上の海ならさりし水のはしめを

えやはしる−うちのはしもり−かはかみの−うみならさりし−みつのはしめを


09346
未入力 正徹 (xxx)

かつらきや山をもかけてあま雲のとたえもみえすくめの岩はし

かつらきや−やまをもかけて−あまくもの−とたえもみえす−くめのいははし


09347
未入力 正徹 (xxx)

苔ふかき前のたなはし音もせて嵐にいそく雨のあしかな

こけふかき−まへのたなはし−おともせて−あらしにいそく−あめのあしかな


09348
未入力 正徹 (xxx)

河辺より山のはかけてたつ虹のおとせぬ橋をわたる雨かな

かはへより−やまのはかけて−たつにしの−おとせぬはしを−わたるあめかな


09349
未入力 正徹 (xxx)

宇治橋のしたにてとむる柴舟のしはしはかりの雨やとりして

うちはしの−したにてとむる−しはふねの−しはしはかりの−あまやとりして


09350
未入力 正徹 (xxx)

かささきのかけおく橋を雲こめて明けわたる夜もみえぬ雨かな

かささきの−かけおくはしを−くもこめて−あけわたるよも−みえぬあめかな


09351
未入力 正徹 (xxx)

橋柱くちしやいつこなから江に雨こそわたれあしのうらかせ

はしはしら−くちしやいつこ−なからえに−あめこそわたれ−あしのうらかせ


09352
未入力 正徹 (xxx)

ふる雨はぬれてほすへき木の下のしつくに朽つる前の板はし

ふるあめは−ぬれてほすへき−このもとの−しつくにくつる−まへのいたはし


09353
未入力 正徹 (xxx)

こけふかき前のたなはし音もせて嵐にいそく雨の足かな

こけふかき−まへのたなはし−おともせて−あらしにいそく−あめのあしかな


09354
未入力 正徹 (xxx)

松か枝をおつるも苔のみたれはし風のみわたるそはの谷川

まつかえを−おつるもこけの−みたれはし−かせのみわたる−そはのたにかは


09355
未入力 正徹 (xxx)

ともに見むふり行く橋のいたまあらみ世わたる苔の袖もつつかす

ともにみむ−ふりゆくはしの−いたまあらみ−よわたるこけの−そてもつつかす


09356
未入力 正徹 (xxx)

河よくる山の陰みちふみなれてわたらぬ橋そこけにふり行く

かはよくる−やまのかけみち−ふみなれて−わたらぬはしそ−こけにふりゆく


09357
未入力 正徹 (xxx)

苔莚しくともたれかなみこゆる丸木のはしにまろねをもせん

こけむしろ−しくともたれか−なみこゆる−まろきのはしに−まろねをもせむ


09358
未入力 正徹 (xxx)

うはそくか苔の衣を岩橋にぬきかけけりとみゆる色かな

うはそくか−こけのころもを−いははしに−ぬきかけけりと−みゆるいろかな


09359
未入力 正徹 (xxx)

大井川月のわたるをまち見はや木の葉色なる苔の古はし

おほゐかは−つきのわたるを−まちみはや−このはいろなる−こけのふるはし


09360
未入力 正徹 (xxx)

わたのへやなき川橋の跡とては柱のこけをこゆる白なみ

わたのへや−なきかははしの−あととては−はしらのこけを−こゆるしらなみ


09361
未入力 正徹 (xxx)

あやふしなむしけん苔のみたれはしわたる嵐にいとと破れて

あやふしな−むしけむこけの−みたれはし−わたるあらしに−いととやふれて


09362
未入力 正徹 (xxx)

八橋や雲のゆききにみたれふる雨もくもてにまよふ川かせ

やつはしや−くものゆききに−みたれふる−あめもくもてに−まよふかはかせ


09363
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いつの世の谷の川原のなかれ木か水なき橋と人わたすらん

いつのよの−たにのかはらの−なかれきか−みつなきはしと−ひとわたすらむ


09364
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いこま山峰の嵐やおちつらん雲鳥さわく天の河はし

いこまやま−みねのあらしや−おちつらむ−くもとりさわく−あまのかははし


09365
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暮れわたる天の川橋ゆく人も渚の松をとふあらしかな

くれわたる−あまのかははし−ゆくひとも−なきさのまつを−とふあらしかな


09366
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よと河や橋の下行く舟にみつ旅たつ人の心心を

よとかはや−はしのしたゆく−ふねにみつ−たひたつひとの−こころこころを


09367
未入力 正徹 (xxx)

淀川や橋行く人のこととふをこたへもあへす遠さかる舟

よとかはや−はしゆくひとの−こととふを−こたへもあへす−とほさかるふね


09368
未入力 正徹 (xxx)

見すや人夢のわたりのうき橋を此世にかけて過きぬ日もなし

みすやひと−ゆめのわたりの−うきはしを−このよにかけて−すきぬひもなし


09369
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道のへやめくる日影をあふきみてたてる旅人友かまつらん

みちのへや−めくるひかけを−あふきみて−たてるたひひと−ともかまつらむ


09370
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峰たかくのほりてくたる松陰に薪おろしてやすむ山人

みねたかく−のほりてくたる−まつかけに−たききおろして−やすむやまひと


09371
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行すりのをささかや原こゑさわき柴うこきくる山のした道

ゆきすりの−をささかやはら−こゑさわき−しはうこきくる−やまのしたみち


09372
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上めくみ下たのしめる世のこゑをきけは木こりのうたふにもあり

かみめくみ−しもたのしめる−よのこゑを−きけはきこりの−うたふにもあり


09373
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水清きあたりの谷のかけ草に柴たておきてふせる山かつ

みつきよき−あたりのたにの−かけくさに−しはたておきて−ふせるやまかつ


09374
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世をそしるあまたつつける山人の子の子と見えてもてる薪に

よをそしる−あまたつつける−やまひとの−このことみえて−もてるたききに


09375
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引きけるかみしふにそめし山人の衣も柴も色そまかへる

ひきけるか−みしふにそめし−やまひとの−ころももしはも−いろそまかへる


09376
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もちなからしはしなる世のくるしさをしらてやはこふよもの山人

もちなから−しはしなるよの−くるしさを−しらてやはこふ−よものやまひと


09377
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山路わけ薪とるをの藤衣おるやねりその行へなるらん

やまちわけ−たききとるをの−ふちころも−おるやねりその−ゆくへなるらむ


09378
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見し山を誰か柴こりつくすらんつま木とるへき宿もあらはに

みしやまを−たれかしはこり−つくすらむ−つまきとるへき−やともあらはに


09379
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たかすとも光や見えんをののえのくち木こりもちかへる山人

たかすとも−ひかりやみえむ−をののえの−くちきこりもち−かへるやまひと


09380
未入力 正徹 (xxx)

柴つつく都の道もよきあへすいてぬ日もなき四方の山人

しはつつく−みやこのみちも−よきあへす−いてぬひもなき−よものやまひと


09381
未入力 正徹 (xxx)

朝夕になけきこる日も山人はしらぬをよそにくるしくそみる

あさゆふに−なけきこるひも−やまひとは−しらぬをよそに−くるしくそみる


09382
未入力 正徹 (xxx)

岩ねふむそはにつつきてになひもつ柴に杖かしやすむ山人

いはねふむ−そはにつつきて−になひもつ−しはにつゑかし−やすむやまひと


09383
未入力 正徹 (xxx)

賎のめはなつみ水くみおのつから薪こるをそ法にそむかぬ

しつのめは−なつみみつくみ−おのつから−たききこるをそ−のりにそむかぬ


09384
未入力 正徹 (xxx)

あすいてん爪木ゆふらし山かつの手引のつつら長き夜もねす

あすいてむ−つまきゆふらし−やまかつの−てひきのつつら−なかきよもねす


09385
未入力 正徹 (xxx)

つつききてまたいらぬ日を山人のもろ柴かくす峰のかけ橋

つつききて−またいらぬひを−やまひとの−もろしはかくす−みねのかけはし


09386
未入力 正徹 (xxx)

道もせにならひ立つかな山人の手につく杖に柴をやすめて

みちもせに−ならひたつかな−やまひとの−てにつくつゑに−しはをやすめて


09387
未入力 正徹 (xxx)

家家に柴もち入りて山人のかへる夕のさととよむなり

いへいへに−しはもちいりて−やまひとの−かへるゆふへの−さととよむなり


09388
未入力 正徹 (xxx)

ねりそもてゆへるま柴をおとしやる谷や我かいほ峰の山かつ

ねりそもて−ゆへるましはを−おとしやる−たにやわかいほ−みねのやまかつ


09389
未入力 正徹 (xxx)

さむき暮猶火もたかす世わたるや薪もち入りし谷の庵に

さむきくれ−なほひもたかす−よわたるや−たききもちいりし−たにのいほりに


09390
未入力 正徹 (xxx)

せくとなき谷の水おちおとたえてわたりつつける柴ふるひ人

せくとなき−たにのみつおち−おとたえて−わたりつつける−しはふるひひと


09391
未入力 正徹 (xxx)

影くらき道ふみなれて夕つくよたのむともなくかへる山人

かけくらき−みちふみなれて−ゆふつくよ−たのむともなく−かへるやまひと


09392
未入力 正徹 (xxx)

ぬれつつや遠山かつのかへるらん夕ゐる雲の道芝のつゆ

ぬれつつや−とほやまかつの−かへるらむ−ゆふゐるくもの−みちしはのつゆ


09393
未入力 正徹 (xxx)

さととほみこるや爪木のねりそもて入日をつなく峰の山人

さととほみ−こるやつまきの−ねりそもて−いりひをつなく−みねのやまひと


09394
未入力 正徹 (xxx)

山かつの峰もちこえて行く柴の末に入日の影そのこれる

やまかつの−みねもちこえて−ゆくしはの−すゑにいりひの−かけそのこれる


09395
未入力 正徹 (xxx)

雲まより入日をかくるましはもてたかぬ光にかへる山人

くもまより−いりひをかくる−ましはもて−たかぬひかりに−かへるやまひと


09396
未入力 正徹 (xxx)

草のいほもりくる雨も我か上にわさとうかれとかかりける世を

くさのいほ−もりくるあめも−わかうへに−わさとうかれと−かかりけるよを


09397
未入力 正徹 (xxx)

墨染の夕こそあれふる雨に色もかはらぬ袖のうへかな

すみそめの−ゆふへこそあれ−ふるあめに−いろもかはらぬ−そてのうへかな


09398
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらすなけきの衣けふさらに又二月の夕くれの雨

そてぬらす−なけきのころも−けふさらに−またきさらきの−ゆふくれのあめ


09399
未入力 正徹 (xxx)

うかれくる夕の雲は風に見えて木下はらふふるさとの雨

うかれくる−ゆふへのくもは−かせにみえて−このもとはらふ−ふるさとのあめ


09400
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬれてこふるむかしの人はこて夕暮はこふ古郷の雨

そてぬれて−こふるむかしの−ひとはこて−ゆふくれはこふ−ふるさとのあめ


09401
未入力 正徹 (xxx)

袖のみと思ひけるかな涙ふる夕にたへす雨もおちきぬ

そてのみと−おもひけるかな−なみたふる−ゆふへにたへす−あめもおちきぬ


09402
未入力 正徹 (xxx)

行人の笠の日かけよしの原やしのひにぬるる袖の村雨

ゆくひとの−かさのひかけよ−しのはらや−しのひにぬるる−そてのむらさめ


09403
未入力 正徹 (xxx)

くらき夜の窓うつ雨に我か心しつめはうかふ世世の古こと

くらきよの−まとうつあめに−わかこころ−しつめはうかふ−よよのふること


09404
未入力 正徹 (xxx)

風そよく入江の芦も立つ鷺のみの毛かたよる夕暮の雨

かせそよく−いりえのあしも−たつさきの−みのけかたよる−ゆふくれのあめ


09405
未入力 正徹 (xxx)

よるの雨の心のそこにとほるかなふりにし人や袖ぬらすらん

よるのあめの−こころのそこに−とほるかな−ふりにしひとや−そてぬらすらむ


09406
未入力 正徹 (xxx)

袖にもるしの屋の雨のしのをたれふる夜もあけすねんかたもなし

そてにもる−しのやのあめの−しのをたれ−ふるよもあけす−ねむかたもなし


09407
未入力 正徹 (xxx)

ふる雨のそこの心に友はみなあるもむかしのくらきおもかけ

ふるあめの−そこのこころに−ともはみな−あるもむかしの−くらきおもかけ


09408
未入力 正徹 (xxx)

たえまなき雲にとちたる空なから雨の夜あかき望月の比

たえまなき−くもにとちたる−そらなから−あめのよあかき−もちつきのころ


09409
未入力 正徹 (xxx)

しの屋もる雨をは音につくしても山風たえぬ明ほのの松

しのやもる−あめをはおとに−つくしても−やまかせたえぬ−あけほののまつ


09410
未入力 正徹 (xxx)

おのつからおとろかされぬ夢覚めて八声の鳥をまたぬ夜もなし

おのつから−おとろかされぬ−ゆめさめて−やこゑのとりを−またぬよもなし


09411
未入力 正徹 (xxx)

枕うくわか涙かなこの山を又やは見んとおもふね覚に

まくらうく−わかなみたかな−このやまを−またやはみむと−おもふねさめに


09412
未入力 正徹 (xxx)

うれしくも七の社に七夜ねて八こゑの鳥にめをさましつる

うれしくも−ななのやしろに−ななよねて−やこゑのとりに−めをさましつる


09413
未入力 正徹 (xxx)

わか袖をしきみつむよりぬれそふや暁おきの涙なるらん

わかそてを−しきみつむより−ぬれそふや−あかつきおきの−なみたなるらむ


09414
未入力 正徹 (xxx)

老か身はあかつきおきも物うくてまとろむことのかたき夜はかな

おいかみは−あかつきおきも−ものうくて−まとろむことの−かたきよはかな


09415
未入力 正徹 (xxx)

月くもり千さとしつかに音もせす明くるさかひや人もまとろむ

つきくもり−ちさとしつかに−おともせす−あくるさかひや−ひともまとろむ


09416
未入力 正徹 (xxx)

生れこし始やにたる夜はの夢さめんさめしのほとの心は

うまれこし−はしめやにたる−よはのゆめ−さめむさめしの−ほとのこころは


09417
未入力 正徹 (xxx)

老か身は夕の煙あかつきの雲と消ゆへき空そちかつく

おいかみは−ゆふへのけふり−あかつきの−くもときゆへき−そらそちかつく


09418
未入力 正徹 (xxx)

しはしたに月なかくしそ山かつらかけぬ峰とて明けぬ夜はかは

しはしたに−つきなかくしそ−やまかつら−かけぬみねとて−あけぬよはかは


09419
未入力 正徹 (xxx)

かきりあれは天の河戸に山かつらしからみかけぬ浪そ明行く

かきりあれは−あまのかはとに−やまかつら−しからみかけぬ−なみそあけゆく


09420
未入力 正徹 (xxx)

分けきてもあふ人はなき山ちかな峰にふしたる横雲の比

わけきても−あふひとはなき−やまちかな−みねにふしたる−よこくものころ


09421
未入力 正徹 (xxx)

明かたはかひかねならふ雪も見すよこほる雲の山ことにゐて

あけかたは−かひかねならふ−ゆきもみす−よこほるくもの−やまことにゐて


09422
未入力 正徹 (xxx)

わかいほの暁おきの山かつらかくて此世をかけやはなれん

わかいほの−あかつきおきの−やまかつら−かくてこのよを−かけやはなれむ


09423
未入力 正徹 (xxx)

あかつきの雲ひく峰のさと人は見てやはをしむ海に入る月

あかつきの−くもひくみねの−さとひとは−みてやはをしむ−うみにいるつき


09424
未入力 正徹 (xxx)

峰こえてまきるる月の横雲にむかひの山の松そ夜ふかき

みねこえて−まきるるつきの−よこくもに−むかひのやまの−まつそよふかき


09425
未入力 正徹 (xxx)

山かつら雲のしからみかけすてよなかれてあくる夜るやせかれん

やまかつら−くものしからみ−かけすてよ−なかれてあくる−よるやせかれむ


09426
未入力 正徹 (xxx)

明けわたる遠山まゆのかたみたれ一の峰や雲かくすらむ

あけわたる−とほやままゆの−かたみたれ−ひとつのみねや−くもかくすらむ


09427
未入力 正徹 (xxx)

をのへより弓はり月の影すなり山のかせきも夢やおとろく

をのへより−ゆみはりつきの−かけすなり−やまのかせきも−ゆめやおとろく


09428
未入力 正徹 (xxx)

ふけ嵐あかつきいつるほし清くはれたる峰の松の一本

ふけあらし−あかつきいつる−ほしきよく−はれたるみねの−まつのひともと


09429
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明けゆくか在明の月のほそくかく遠山まゆをみたす横雲

あけゆくか−ありあけのつきの−ほそくかく−とほやままゆを−みたすよこくも


09430
未入力 正徹 (xxx)

鳥のねもまた夜ふかしと山のはにふすかと思ふ横雲の空

とりのねも−またよふかしと−やまのはに−ふすかとおもふ−よこくものそら


09431
未入力 正徹 (xxx)

峰の雲ふもとのなみに埋れてなかは明行くおきつしま山

みねのくも−ふもとのなみに−うつもれて−なかはあけゆく−おきつしまやま


09432
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月入りし西なる峰のよこ雲にさらぬ朝日の色そうつろふ

つきいりし−にしなるみねの−よこくもに−さらぬあさひの−いろそうつろふ


09433
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かたちよき人をも見はや山のはの紅うすきよこ雲のかけ

かたちよき−ひとをもみはや−やまのはの−くれなゐうすき−よこくものかけ


09434
未入力 正徹 (xxx)

さとちかき林の鳥はさへつるをあけほのかくす峰の横雲

さとちかき−はやしのとりは−さへつるを−あけほのかくす−みねのよこくも


09435
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あくるまの遠き山路の横雲もひきののつつらをりにあひぬる

あくるまの−とほきやまちの−よこくもも−ひきののつつら−をりにあひぬる


09436
未入力 正徹 (xxx)

山のはの光もいまたほそかりきよこほる雲の色あつくして

やまのはの−ひかりもいまた−ほそかりき−よこほるくもの−いろあつくして


09437
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峰ことにたえていつくに別るらん千さとの山の明ほのの雲

みねことに−たえていつくに−わかるらむ−ちさとのやまの−あけほののくも


09438
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夕暮の心しれとや横雲のわかれをおくる峰の松風

ゆふくれの−こころしれとや−よこくもの−わかれをおくる−みねのまつかせ


09439
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ふもとより又吹きかへす椎の葉のあらしにこゆる峰の白雲

ふもとより−またふきかへす−しひのはの−あらしにこゆる−みねのしらくも


09440
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河内女かそめもおよはすてにまかぬ山かつらきの雲の糸すち

かはちめか−そめもおよはす−てにまかぬ−やまかつらきの−くものいとすち


09441
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空にたに風のままなる雲そある人にしたかふ世をはそむかし

そらにたに−かせのままなる−くもそある−ひとにしたかふ−よをはそむかし


09442
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かへるらむ雲も契やむすひおく鷲の高根の夕暮の空

かへるらむ−くももちきりや−むすひおく−わしのたかねの−ゆふくれのそら


09443
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いこま山なににつなきて嵐吹くみねにはなれぬ雲と成るらん

いこまやま−なににつなきて−あらしふく−みねにはなれぬ−くもとなるらむ


09444
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嵐吹く木の間の夕日あらはれてふもとにくたるみねのうき雲

あらしふく−このまのゆふひ−あらはれて−ふもとにくたる−みねのうきくも


09445
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心をは高ねの八雲八重かきにこえんとおもへ松のことのは

こころをは−たかねのやくも−やへかきに−こえむとおもへ−まつのことのは


09446
未入力 正徹 (xxx)

をちかたに見さりし岡のつつくかな山をなかはや雲かくすらん

をちかたに−みさりしをかの−つつくかな−やまをなかはや−くもかくすらむ


09447
未入力 正徹 (xxx)

吹きのほる時こそ有りけれ風こしの峰に雲ゐるきその御坂路

ふきのほる−ときこそありけれ−かさこしの−みねにくもゐる−きそのみさかち


09448
未入力 正徹 (xxx)

かつらきの峰はいかなる山そともしられぬ雲のまなく時なき

かつらきの−みねはいかなる−やまそとも−しられぬくもの−まなくときなき


09449
未入力 正徹 (xxx)

生ひのほる山やそのかみ雲のちりゐれとも峰の松もかはらて

おひのほる−やまやそのかみ−くものちり−ゐれともみねの−まつもかはらて


09450
未入力 正徹 (xxx)

はれまなき峰の庵のおきふしに半は床をゆつる雲かな

はれまなき−みねのいほりの−おきふしに−なかははとこを−ゆつるくもかな


09451
未入力 正徹 (xxx)

たかこゆる雲にひつめのさわくらんくたるい駒の峰のささ原

たかこゆる−くもにひつめの−さわくらむ−くたるいこまの−みねのささはら


09452
未入力 正徹 (xxx)

白雲の峰よりおつるつくはねにおろす嵐やみなの川なみ

しらくもの−みねよりおつる−つくはねに−おろすあらしや−みなのかはなみ


09453
未入力 正徹 (xxx)

一村の峰たつ雲そ山人のぬきすてけりと見ゆる衣は

ひとむらの−みねたつくもそ−やまひとの−ぬきすてけりと−みゆるころもは


09454
未入力 正徹 (xxx)

人はこて峰の松杉立ちならひ杣山嵐宮木ひくこゑ

ひとはこて−みねのまつすき−たちならひ−そまやまあらし−みやきひくこゑ


09455
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かろけれと松のことの葉かきおくほ世世の契をむすふはかりそ

かろけれと−まつのことのは−かきおくほ−よよのちきりを−むすふはかりそ


09456
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ちらさしよかくつき松のことのはにあらぬさまなるちりをよせぬる

ちらさしよ−かくつきまつの−ことのはに−あらぬさまなる−ちりをよせぬる


09457
未入力 正徹 (xxx)

石清水みなそこきよき高ねより影をうつすや箱崎の松

いはしみつ−みなそこきよき−たかねより−かけをうつすや−はこさきのまつ


09458
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みちふりも松のふりぬる所には庵しめはやとみてそ過きゆく

みちふりも−まつのふりぬる−ところには−いほしめはやと−みてそすきゆく


09459
未入力 正徹 (xxx)

えそにせぬ人の心の色見えは松のみさをにあらまほしきを

えそにせぬ−ひとのこころの−いろみえは−まつのみさをに−あらまほしきを


09460
未入力 正徹 (xxx)

おほよとのなみもうらみす松も又つらからぬ暮にかへる雲かな

おほよとの−なみもうらみす−まつもまた−つらからぬくれに−かへるくもかな


09461
未入力 正徹 (xxx)

住吉の松のねかひはかたそきの行合ふましき古き世の道

すみよしの−まつのねかひは−かたそきの−ゆきあふましき−ふるきよのみち


09462
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ちりうせぬ松とそみゆる人の世にありとある木の中のあるしは

ちりうせぬ−まつとそみゆる−ひとのよに−ありとあるきの−なかのあるしは


09463
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ことの葉の近くもるなと松か枝にかかみをかくる玉つしま山

ことのはの−ちかくもるなと−まつかえに−かかみをかくる−たまつしまやま


09464
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しるかりき千本の小松我すまは一夜に生ひん神の御言は

しるかりき−ちもとのこまつ−われすまは−ひとよにおひむ−かみのみことは


09465
未入力 正徹 (xxx)

あふくらむ山とにはあれとから崎の松に日吉の影やとすなり

あふくらむ−やまとにはあれと−からさきの−まつにひよしの−かけやとすなり


09466
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行くなみをまきの戸川のあくるせもさやかにみゆるから崎の松

ゆくなみを−まきのとかはの−あくるせも−さやかにみゆる−からさきのまつ


09467
未入力 正徹 (xxx)

谷の松春のよそとはたれかいふみとり花さき夏そしけれる

たにのまつ−はるのよそとは−たれかいふ−みとりはなさき−なつそしけれる


09468
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立田川これも神世やきかさらん三室の谷の松の夕風

たつたかは−これもかみよや−きかさらむ−みむろのたにの−まつのゆふかせ


09469
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根をたたん風まつほとそ三輪くむ身谷か下の松と老いにき

ねをたたむ−かせまつほとそ−みつわくむ−みたにかしたの−まつとおいにき


09470
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谷川や陰うく松の手向草いく世の水の玉もなるらん

たにかはや−かけうくまつの−たむけくさ−いくよのみつの−たまもなるらむ


09471
未入力 正徹 (xxx)

はらひかね松も嵐をうらみてや夕ゐる雲の下に消ゆらん

はらひかね−まつもあらしを−うらみてや−ゆふゐるくもの−したにきゆらむ


09472
未入力 正徹 (xxx)

かく山の雲の衣の袖のかや榊葉しをる峰の松かせ

かくやまの−くものころもの−そてのかや−さかきはしをる−みねのまつかせ


09473
未入力 正徹 (xxx)

松たてる高ねはさ夜もふか緑あらそひかぬる明ほのもなし

まつたてる−たかねはさよも−ふかみとり−あらそひかぬる−あけほのもなし


09474
未入力 正徹 (xxx)

峰におふる松はありとも神や猶こと葉の花のかけにやすまん

みねにおふる−まつはありとも−かみやなほ−ことはのはなの−かけにやすまむ


09475
未入力 正徹 (xxx)

とほき世のことをやとはて一松雲ゐるおくの嶺に老いすは

とほきよの−ことをやとはて−ひとつまつ−くもゐるおくの−みねにおいすは


09476
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雲かかる峰をふもとの松となすことのはもかな敷島の歌

くもかかる−みねをふもとの−まつとなす−ことのはもかな−しきしまのうた


09477
未入力 正徹 (xxx)

松しをる峰の嵐のこゑともにささの浪たてくたる柴舟

まつしをる−みねのあらしの−こゑともに−ささのなみたて−くたるしはふね


09478
未入力 正徹 (xxx)

峰たかくおふる松葉をことのはになしてかきとれ和かのうら人

みねたかく−おふるまつはを−ことのはに−なしてかきとれ−わかのうらひと


09479
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かけくらきわしの高ねの松ことは又世にいてんあかつきの月

かけくらき−わしのたかねの−まつことは−またよにいてむ−あかつきのつき


09480
未入力 正徹 (xxx)

後せ山松そ色こき椎の葉のうら吹きかへす峰のあらしに

のちせやま−まつそいろこき−しひのはの−うらふきかへす−みねのあらしに


09481
未入力 正徹 (xxx)

めくりきてたかねの松にいつる月あすの夕やよそにならはん

めくりきて−たかねのまつに−いつるつき−あすのゆふへや−よそにならはむ


09482
未入力 正徹 (xxx)

八幡山おとそうつ浪箱崎やうらなれにける峰の松かせ

やはたやま−おとそうつなみ−はこさきや−うらなれにける−みねのまつかせ


09483
未入力 正徹 (xxx)

いつかたにまちとるこゑそ峰つつきひまなくしをる松の嵐は

いつかたに−まちとるこゑそ−みねつつき−ひまなくしをる−まつのあらしは


09484
未入力 正徹 (xxx)

千とせへん宿やいつこととめくれは軒はの松につるのもろ声

ちとせへむ−やとやいつこと−とめくれは−のきはのまつに−つるのもろこゑ


09485
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池はらふ風そあらひて手向草松はふ庭にしつく水えは

いけはらふ−かせそあらひて−たむけくさ−まつはふにはに−しつくみつえは


09486
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陰ふかき松のふる葉に千世の数つもれる庭のちりなはらひそ

かけふかき−まつのふるはに−ちよのかす−つもれるにはの−ちりなはらひそ


09487
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ことの葉も三代に色そふ宿の松木高き陰に又そ立ちよる

ことのはも−みよにいろそふ−やとのまつ−こたかきかけに−またそたちよる


09488
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いく千世そ庭に真砂をおきかさね木たかく成りぬ松の生末

いくちよそ−にはにまさこを−おきかさね−こたかくなりぬ−まつのおひすゑ


09489
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松ふるきことしの若葉吹きくれは千代のこゑそふ庭の秋風

まつふるき−ことしのわかは−ふきくれは−ちよのこゑそふ−にはのあきかせ


09490
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つくはねのかけ見る庭の松の葉も緑の草やみなの川淵

つくはねの−かけみるにはの−まつのはも−みとりのくさや−みなのかはふち


09491
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片枝さす軒はに遠き松かきもふるき心をへたてやはする

かたえさす−のきはにとほき−まつかきも−ふるきこころを−へたてやはする


09492
未入力 正徹 (xxx)

年のをもゆらく玉松行末の千世をは宿のあるしとそへん

としのをも−ゆらくたままつ−ゆくすゑの−ちよをはやとの−あるしとそへむ


09493
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年もへぬ山も岩ほもむすこけにおなし古木の川上の松

としもへぬ−やまもいはほも−むすこけに−おなしふるきの−かはかみのまつ


09494
未入力 正徹 (xxx)

いはほこる山のすかたも苔ふりて松としたかき風のこゑかな

いはほこる−やまのすかたも−こけふりて−まつとしたかき−かせのこゑかな


09495
未入力 正徹 (xxx)

弥次にこもたる松は老いぬれと千世の若枝そ宿に立ちそふ

いやつきに−こもたるまつは−おいぬれと−ちよのわかえそ−やとにたちそふ


09496
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此庭の松のふるきの手向草神もいく世のしめをゆふらん

このにはの−まつのふるきの−たむけくさ−かみもいくよの−しめをゆふらむ


09497
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命をもいかかのはへん住吉の松のことのは友とならすは

いのちをも−いかかのはへむ−すみよしの−まつのことのは−ともとならすは


09498
未入力 正徹 (xxx)

はつせ山出てて昔をたつね見し鹿の苑生の松も忘るな

はつせやま−いててむかしを−たつねみし−しかのそのふの−まつもわするな


09499
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うゑおきしたか世のかたみ古りはてて我に友なふ古郷の松

うゑおきし−たかよのかたみ−ふりはてて−われにともなふ−ふるさとのまつ


09500
未入力 正徹 (xxx)

ほともなく我か老の末にあひ生の庭の若松あはれとやみる

ほともなく−わかおいのすゑに−あひおひの−にはのわかまつ−あはれとやみる


09501
未入力 正徹 (xxx)

ちりうせぬことの葉もつけ友として年をふる木の陰の若松

ちりうせぬ−ことのはもつけ−ともとして−としをふるきの−かけのわかまつ


09502
未入力 正徹 (xxx)

立ちよらむ若のうら松老いぬれと友とそたのむ陰なをしみそ

たちよらむ−わかのうらまつ−おいぬれと−ともとそたのむ−かけなをしみそ


09503
未入力 正徹 (xxx)

色まさる人のことのは松のはのかすもよはひもいく世つもらん

いろまさる−ひとのことのは−まつのはの−かすもよはひも−いくよつもらむ


09504
未入力 正徹 (xxx)

生ひのほる世世の末葉にわたつうみのおなし千いろを竹にてそしる

おひのほる−よよのすゑはに−わたつうみの−おなしちいろを−たけにてそしる


09505
未入力 正徹 (xxx)

しめおきて十かへり春を契らなん千世ふる松の花のあるしは

しめおきて−とかへりはるを−ちきらなむ−ちよふるまつの−はなのあるしは


09506
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手向草契かけおく浜松のはしめもはてもいさや白波

たむけくさ−ちきりかけおく−はままつの−はしめもはても−いさやしらなみ


09507
未入力 正徹 (xxx)

千とせふる庭の真砂も苔むして松のはひろき緑をそしく

ちとせふる−にはのまさこも−こけむして−まつのはひろき−みとりをそしく


09508
未入力 正徹 (xxx)

春のせし庭のをしへをうけぬとや緑かはらぬ千世の松かえ

はるのせし−にはのをしへを−うけぬとや−みとりかはらぬ−ちよのまつかえ


09509
未入力 正徹 (xxx)

陰ふるき二代ののちの庭の松わか立ちよるを見るやつれなき

かけふるき−ふたよののちの−にはのまつ−わかたちよるを−みるやつれなき


09510
未入力 正徹 (xxx)

杣山に千とせ過きぬと見ゆる松おもひの外にたてる類よ

そまやまに−ちとせすきぬと−みゆるまつ−おもひのほかに−たてるたくひよ


09511
未入力 正徹 (xxx)

たえせしな松の年のを八千ひろにはへても長く結ふ契は

たえせしな−まつのとしのを−やちひろに−はへてもなかく−むすふちきりは


09512
未入力 正徹 (xxx)

緑より猶年ふかき人にあるにほひほうつす庭の若松

みとりより−なほとしふかき−ひとにある−にほひほうつす−にはのわかまつ


09513
未入力 正徹 (xxx)

岩ほにもへにける物そ庭の苔ふりたる松につもる齢は

いはほにも−へにけるものそ−にはのこけ−ふりたるまつに−つもるよはひは


09514
未入力 正徹 (xxx)

年へぬる庭のをしへのことのははけふ松かえにあらはれにけり

としへぬる−にはのをしへの−ことのはは−けふまつかえに−あらはれにけり


09515
未入力 正徹 (xxx)

夕暮は松の陰のみ我か宿そたのむ嵐もこゑそよわれる

ゆふくれは−まつのかけのみ−わかやとそ−たのむあらしも−こゑそよわれる


09516
未入力 正徹 (xxx)

世にしらぬみ山かくれに老いはてきいまは何をか松の風をれ

よにしらぬ−みやまかくれに−おいはてき−いまはなにをか−まつのかさをれ


09517
未入力 正徹 (xxx)

くれにけり山路は杣木きるをののひひきもたえてのこる松風

くれにけり−やまちはそまき−きるをのの−ひひきもたえて−のこるまつかせ


09518
未入力 正徹 (xxx)

さひしさはをちの高ねの夕日影なきにそまさる松の一もと

さひしさは−をちのたかねの−ゆふひかけ−なきにそまさる−まつのひともと


09519
未入力 正徹 (xxx)

よそよりも滝の上なるそなれ松色暮れやらぬ水の白浪

よそよりも−たきのうへなる−そなれまつ−いろくれやらぬ−みつのしらなみ


09520
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく松のみとりのみたれてやとほ山姫のまゆもけふれる

あらしふく−まつのみとりの−みたれてや−とほやまひめの−まゆもけふれる


09521
未入力 正徹 (xxx)

峰たかみ緑の空につくすみは松なりけりな夕暮の山

みねたかみ−みとりのそらに−つくすみは−まつなりけりな−ゆふくれのやま


09522
未入力 正徹 (xxx)

高砂や峰の雲まとめに見るも遠き世かけてたてる松かな

たかさこや−みねのくもまと−めにみるも−とほきよかけて−たてるまつかな


09523
未入力 正徹 (xxx)

見えさりし霞かかれる色なからあさ日にいつる春の遠山

みえさりし−かすみかかれる−いろなから−あさひにいつる−はるのとほやま


09524
未入力 正徹 (xxx)

尾上なる松ともみえす深みとりかたふく枝は根をかくすまて

をのへなる−まつともみえす−ふかみとり−かたふくえたは−ねをかくすまて


09525
未入力 正徹 (xxx)

柴の戸にきかは山風うかれとて松やはたてる我すめはこそ

しはのとに−きかはやまかせ−うかれとて−まつやはたてる−われすめはこそ


09526
未入力 正徹 (xxx)

松ふかきねくらやあくる鳥も出てす□□□□□□□□□□□□□□

まつふかき−ねくらやあくる−とりもいてす−ххххххх−ххххххх


09527
未入力 正徹 (xxx)

松か枝に雲もおりゐて陰くらき夕の谷の鳥の一こゑ

まつかえに−くももおりゐて−かけくらき−ゆふへのたにの−とりのひとこゑ


09528
未入力 正徹 (xxx)

松にさへ老ほきにけりさしこもりあはさらましを谷の岩門

まつにさへ−おいはきにけり−さしこもり−あはさらましを−たにのいはかと


09529
未入力 正徹 (xxx)

衣手のわかすみ染の夕嵐ふけとも山の松青くして

ころもての−わかすみそめの−ゆふあらし−ふけともやまの−まつあをくして


09530
未入力 正徹 (xxx)

日をかさねすすむる雲の入る山に我か夕くれそ遠さかり行く

ひをかさね−すすむるくもの−いるやまに−わかゆふくれそ−とほさかりゆく


09531
未入力 正徹 (xxx)

雲となり雨となる山の暮れやすき袖のひるまの夢の通路

くもとなり−あめとなるやまの−くれやすき−そてのひるまの−ゆめのかよひち


09532
未入力 正徹 (xxx)

いかかすむ世のうき時は心なき山さへ雨にくもる夕は

いかかすむ−よのうきときは−こころなき−やまさへあめに−くもるゆふへは


09533
未入力 正徹 (xxx)

鳥なきて行人もなし嵐ふく夕の雨の山の下みち

とりなきて−ゆくひともなし−あらしふく−ゆふへのあめの−やまのしたみち


09534
未入力 正徹 (xxx)

おもひ入る心の色も暮ことに遠さかるなり山はうこかて

おもひいる−こころのいろも−くれことに−とほさかるなり−やまはうこかて


09535
未入力 正徹 (xxx)

なほそうき世に柴くりの夕嵐身はなきもののきくと思ふを

なほそうき−よにしはくりの−ゆふあらし−みはなきものの−きくとおもふを


09536
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峰の松さわくとみれは夕嵐ふもとの竹のこゑに成行く

みねのまつ−さわくとみれは−ゆふあらし−ふもとのたけの−こゑになりゆく


09537
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四方にちる紅葉を我に吹きませて夕の色にそむ嵐かな

よもにちる−もみちをわれに−ふきませて−ゆふへのいろに−そむあらしかな


09538
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ことわりに山かたつかぬ暮もみす世をうき雲の行くもかへるも

ことわりに−やまかたつかぬ−くれもみす−よをうきくもの−ゆくもかへるも


09539
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もののふの篝焼くらしうねひ山とよはた雲と煙たつなり

もののふの−かかりたくらし−うねひやま−とよはたくもと−けふりたつなり


09540
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ひとりすむ夕の嶺の松の戸になとやうき世の雲かへるらん

ひとりすむ−ゆふへのみねの−まつのとに−なとやうきよの−くもかへるらむ


09541
未入力 正徹 (xxx)

暮れて行く尾上の雲のふもとなる松のはくらき村雨の空

くれてゆく−をのへのくもの−ふもとなる−まつのはくらき−むらさめのそら


09542
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下折の思ひなくてそこゑをきく夕みる雲のうつむ松風

したをれの−おもひなくてそ−こゑをきく−ゆふみるくもの−うつむまつかせ


09543
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をさまりて風もならさぬ御代なれやしつかになひく室の呉竹

をさまりて−かせもならさぬ−みよなれや−しつかになひく−むろのくれたけ


09544
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ひとりたに世はうきものをおや竹の子の生ひたつを哀とやみる

ひとりたに−よはうきものを−おやたけの−このおひたつを−あはれとやみる


09545
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神かきの竹の台も百敷の庭にかはらぬゆゑをしらはや

かみかきの−たけのうてなも−ももしきの−にはにかはらぬ−ゆゑをしらはや


09546
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千いろまて生ひのほるてふ呉竹の代代にさかふる法の門かな

ちいろまて−おひのほるてふ−くれたけの−よよにさかふる−のりのかとかな


09547
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石清水人もかかれとすなほなる心を竹にうつしてそすむ

いはしみつ−ひともかかれと−すなほなる−こころをたけに−うつしてそすむ


09548
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松の門竹の庵のうきふしを此世の外にきく嵐かな

まつのかと−たけのいほりの−うきふしを−このよのほかに−きくあらしかな


09549
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朝夕に生行く竹のかは衣ぬきおくそのと見えて涼しき

あさゆふに−おひゆくたけの−かはころも−ぬきおくそのと−みえてすすしき


09550
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物ことに余所にはきかし竹を打つこゑにも法の心をそ見し

ものことに−よそにはきかし−たけをうつ−こゑにものりの−こころをそみし


09551
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窓の上に南の月そ葉わけもる北なる星の前の村竹

まとのうへに−みなみのつきそ−はわけもる−きたなるほしの−まへのむらたけ


09552
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呉竹のもとたちなから窓の戸にさ枝きりすてむかふ山かな

くれたけの−もとたちなから−まとのとに−さえたきりすて−むかふやまかな


09553
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月のとふ今夜そまとの光をも待ちえてみかく竹の下露

つきのとふ−こよひそまとの−ひかりをも−まちえてみかく−たけのしたつゆ


09554
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呉作のもとつさ枝をきりすてて又窓あかきかみのうちかな

くれたけの−もとつさえたを−きりすてて−またまとあかき−かみのうちかな


09555
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窓のうちに先まなひえよ呉竹の一ふしありといへる体を

まとのうちに−まつまなひえよ−くれたけの−ひとふしありと−いへるすかたを


09556
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山のはのあくるもしらす竹の葉のかけに夜ふかき窓の灯

やまのはの−あくるもしらす−たけのはの−かけによふかき−まとのともしひ


09557
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いつまてそ世のうきふしを身ひとつにあつめてむかふ窓の灯

いつまてそ−よのうきふしを−みひとつに−あつめてむかふ−まとのともしひ


09558
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呉竹を馬となしつるいにしへを思ふもこひし窓の北風

くれたけを−うまとなしつる−いにしへを−おもふもこひし−まとのきたかせ


09559
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うちなひき夜わたる風の灯の光をうつむ窓のくれ竹

うちなひき−よわたるかせの−ともしひの−ひかりをうつむ−まとのくれたけ


09560
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まなひつる道はあさくてひとへみし窓の竹のみふかく成行く

まなひつる−みちはあさくて−ひとへみし−まとのたけのみ−ふかくなりゆく


09561
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人もきてとへかし窓のまへの竹うきふししけき身とはしるらん

ひともきて−とへかしまとの−まへのたけ−うきふししけき−みとはしるらむ


09562
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竹の世の蛍も雪も何かせんみかきつくれる窓の光に

たけのよの−ほたるもゆきも−なにかせむ−みかきつくれる−まとのひかりに


09563
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風そよく竹の葉なからうつる日の影さたまらぬかみの窓かな

かせそよく−たけのはなから−うつるひの−かけさたまらぬ−かみのまとかな


09564
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仙人と今もやなるとさか月にうけはや窓の竹のはの露

やまひとと−いまもやなると−さかつきに−うけはやまとの−たけのはのつゆ


09565
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窓ふりて緑そわかき世世へても竹に苔むす色しみえねは

まとふりて−みとりそわかき−よよへても−たけにこけむす−いろしみえねは


09566
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竹の子の夜ことになかくなるほとは窓の朝戸を開きてそしる

たけのこの−よことになかく−なるほとは−まとのあさとを−ひらきてそしる


09567
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夜はの風草の窓とふしの竹のしのひにきくも夢そおとろく

よはのかせ−くさのまととふ−しのたけの−しのひにきくも−ゆめそおとろく


09568
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夏冬の陰とたのみてうゑおかん千ひろな生ひそ窓のくれ竹

なつふゆの−かけとたのみて−うゑおかむ−ちひろなおひそ−まとのくれたけ


09569
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代代へてもたたすなほなる呉竹の心に庭のをしへをそみる

よよへても−たたすなほなる−くれたけの−こころににはの−をしへをそみる


09570
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まなひつる庭のをしへはありといへとしるへきにあらす竹を打つこゑ

まなひつる−にはのをしへは−ありといへと−しるへきにあらす−たけをうつこゑ


09571
未入力 正徹 (xxx)

友やうき夕の雨におとつるる松の風なき竹のこころは

ともやうき−ゆふへのあめに−おとつるる−まつのかせなき−たけのこころは


09572
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おもふとちねての朝けや霜さむき岡の屋形の窓の呉竹

おもふとち−ねてのあさけや−しもさむき−をかのやかたの−まとのくれたけ


09573
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松の葉に色もかはらぬ呉竹の木にもあらすと思ひ隔つな

まつのはに−いろもかはらぬ−くれたけの−きにもあらすと−おもひへたつな


09574
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いつれこき緑をつつむ竹の子のそのかは淵にうつる葉色は

いつれこき−みとりをつつむ−たけのこの−そのかはふちに−うつるはいろは


09575
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呉竹のよはひにつれてかなはなんみな人ことのねかふふしふし

くれたけの−よはひにつれて−かなはなむ−みなひとことの−ねかふふしふし


09576
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聞きわたす嵐やたえぬ呉竹のふしみの松のかけの里人

ききわたす−あらしやたえぬ−くれたけの−ふしみのまつの−かけのさとひと


09577
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なよ竹のふしなるかはも月しろくなひく霜夜のさとの木からし

なよたけの−ふしなるかはも−つきしろく−なひくしもよの−さとのこからし


09578
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いつる日のまかきをこゆる影きえて緑そなひくそのの呉竹

いつるひの−まかきをこゆる−かけきえて−みとりそなひく−そののくれたけ


09579
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あれわたるまかきもおなし軒の竹たた一村の庭そさひしき

あれわたる−まかきもおなし−のきのたけ−たたひとむらの−にはそさひしき


09580
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たえにけりまかきの竹の下はらふ嵐の窓のくらき夢路は

たえにけり−まかきのたけの−したはらふ−あらしのまとの−くらきゆめちは


09581
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かくて見むかきほの遠の根はひきて庭の中なる竹の一本

かくてみむ−かきほのをちの−ねはひきて−にはのうちなる−たけのひともと


09582
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いつの世の人の薗生の跡ならん田中のくろの竹の一本

いつのよの−ひとのそのふの−あとならむ−たなかのくろの−たけのひともと


09583
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こよひねん舟待つきしのふし竹もしらすいく世かのりおくれけん

こよひねむ−ふねまつきしの−ふしたけも−しらすいくよか−のりおくれけむ


09584
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冬川の岸の上なる藤かつらかかるもさむし雪のくれたけ

ふゆかはの−きしのうへなる−ふちかつら−かかるもさむし−ゆきのくれたけ


09585
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をりかへしうたふとなしの橋けたもふしをならふる竹川のきし

をりかへし−うたふとなしの−はしけたも−ふしをならふる−たけかはのきし


09586
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我か物ときしにつのくむ竹の子を水の牛かふ人や引きとる

わかものと−きしにつのくむ−たけのこを−みつのうしかふ−ひとやひきとる


09587
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岸の上の末葉したりて竹河や緑なみこす橋かとそみる

きしのうへの−すゑはしたりて−たけかはや−みとりなみこす−はしかとそみる


09588
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秋冬もかはらぬそのの春の竹あを葉うつろひちるあらしかな

あきふゆも−かはらぬそのの−はるのたけ−あをはうつろひ−ちるあらしかな


09589
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めくみあれや民の家ゐのそのの竹御代になひかぬ風はなかりき

めくみあれや−たみのいへゐの−そののたけ−みよになひかぬ−かせはなかりき


09590
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山姫のまつ夜むなしき涙かもこけの莚にあまる朝露

やまひめの−まつよむなしき−なみたかも−こけのむしろに−あまるあさつゆ


09591
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太山陰水は音せてこけつたふなかれをふみて路に出てぬる

みやまかけ−みつはおとせて−こけつたふ−なかれをふみて−みちにいてぬる


09592
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松山や浪こすきしの苔莚しきしのへともかへる世そなき

まつやまや−なみこすきしの−こけむしろ−しきしのへとも−かへるよそなき


09593
未入力 正徹 (xxx)

松かもと峰のいはほにむす苔や雲の浪まのもくつなるらん

まつかもと−みねのいはほに−むすこけや−くものなみまの−もくつなるらむ


09594
未入力 正徹 (xxx)

山科や岩ほふるくはのこるらん苔をきさみし人のことのは

やましなや−いはほふるくは−のこるらむ−こけをきさみし−ひとのことのは


09595
未入力 正徹 (xxx)

こす浪の白玉かしは滝川になかれぬこけは下にむしつつ

こすなみの−しらたまかしは−たきかはに−なかれぬこけは−したにむしつつ


09596
未入力 正徹 (xxx)

岩ほにもたれかはさねんあら磯の松の手にまく苔のさむしろ

いはほにも−たれかはさねむ−あらいその−まつのてにまく−こけのさむしろ


09597
未入力 正徹 (xxx)

いかなれは磯の岩ほをこす浪にしほしむ苔のかれぬ緑そ

いかなれは−いそのいはほを−こすなみに−しほしむこけの−かれぬみとりそ


09598
未入力 正徹 (xxx)

苔の下に名をうつまんとうれしきは道しらぬ身の行末の空

こけのしたに−なをうつまむと−うれしきは−みちしらぬみの−ゆくすゑのそら


09599
未入力 正徹 (xxx)

しきしまの道になつまぬ苔の袖されとも後の名をやうつまん

しきしまの−みちになつまぬ−こけのそて−されとものちの−なをやうつまむ


09600
未入力 正徹 (xxx)

雲のみそとふとも余所にみくまのの峰の苔路をはらふ嵐に

くものみそ−とふともよそに−みくまのの−みねのこけちを−はらふあらしに


09601
未入力 正徹 (xxx)

松かねも岩ほも苔の道たえておち葉にむせふ山の下水

まつかねも−いはほもこけの−みちたえて−おちはにむせふ−やまのしたみつ


09602
未入力 正徹 (xxx)

山ふかく分けみぬ末もゆかしきはおとろか下の苔のほそ道

やまふかく−わけみぬすゑも−ゆかしきは−おとろかしたの−こけのほそみち


09603
未入力 正徹 (xxx)

しきしまの道の岩かとつくすまて苔ふみならしいく世問ひこん

しきしまの−みちのいはかと−つくすまて−こけふみならし−いくよとひこむ


09604
未入力 正徹 (xxx)

ことの葉を思ひおきてそ消えぬへきさらぬ別の道芝の露

ことのはを−おもひおきてそ−きえぬへき−さらぬわかれの−みちしはのつゆ


09605
未入力 正徹 (xxx)

かれつつも此たひたえねめくりこし六の道芝跡のなきまて

かれつつも−このたひたえね−めくりこし−むつのみちしは−あとのなきまて


09606
未入力 正徹 (xxx)

かりに行く跡は十方にわかれても一仏のみち芝の草

かりにゆく−あとはとかたに−わかれても−ひとつほとけの−みちしはのくさ


09607
未入力 正徹 (xxx)

万ことたえせすなからたかひきぬ哀昔の道芝の末

よろつこと−たえせすなから−たかひきぬ−あはれむかしの−みちしはのすゑ


09608
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まなひみんやまとことの葉我としりてとふへきにあらぬ道芝の草

まなひみむ−やまとことのは−われとしりて−とふへきにあらぬ−みちしはのくさ


09609
未入力 正徹 (xxx)

まなふへきことは万の道芝をわけみぬかたになとまよふらん

まなふへき−ことはよろつの−みちしはを−わけみぬかたに−なとまよふらむ


09610
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ふみしたく遠かた人にかしけても猶たねたえぬ道のささ原

ふみしたく−をちかたひとに−かしけても−なほたねたえぬ−みちのささはら


09611
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いとへとや峰のをささのかりの世に風もやとらす雲そ別るる

いとへとや−みねのをささの−かりのよに−かせもやとらす−くもそわかるる


09612
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ささわくる嵐をとへは岡のへの露にしほれぬ松のこゑかな

ささわくる−あらしをとへは−をかのへの−つゆにしほれぬ−まつのこゑかな


09613
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あさ露そ夕にわたる松陰の岡のささ屋の軒のした芝

あさつゆそ−ゆふへにわたる−まつかけの−をかのささやの−のきのしたしは


09614
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榊はのかく山嵐神さひていまも衣手ふるき世の空

さかきはの−かくやまあらし−かみさひて−いまもころもて−ふるきよのそら


09615
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かく山の神代のかかみかみつ枝にいまもかけたるま榊の月

かくやまの−かみよのかかみ−かみつえに−いまもかけたる−まさかきのつき


09616
未入力 正徹 (xxx)

大和人たもとやにほふ榊葉のかく山風のふかぬ日もなし

やまとひと−たもとやにほふ−さかきはの−かくやまかせの−ふかぬひもなし


09617
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天の戸の雲さへ八重の榊はのかく山嵐吹きにけらしも

あまのとの−くもさへやへの−さかきはの−かくやまあらし−ふきにけらしも


09618
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ひとりたついつれのうらの浜楸清き河原の友をこふらん

ひとりたつ−いつれのうらの−はまひさき−きよきかはらの−ともをこふらむ


09619
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うら風に楸ちりしく浜つつら下はふ秋の末そかれゆく

うらかせに−ひさきちりしく−はまつつら−したはふあきの−すゑそかれゆく


09620
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をりをりの花や紅葉に春秋をしるはかりなる山のおくかな

をりをりの−はなやもみちに−はるあきを−しるはかりなる−やまのおくかな


09621
未入力 正徹 (xxx)

山にても猶うき時や世中をいとふにそむく心なるらん

やまにても−なほうきときや−よのなかを−いとふにそむく−こころなるらむ


09622
未入力 正徹 (xxx)

かりの庵むすひそへよとおのつから水草きよき山の陰かな

かりのいほ−むすひそへよと−おのつから−みつくさきよき−やまのかけかな


09623
未入力 正徹 (xxx)

世のうきにかへつとたにも思はすよ松の嵐をひとり聞くとも

よのうきに−かへつとたにも−おもはすよ−まつのあらしを−ひとりきくとも


09624
未入力 正徹 (xxx)

よをいとふ山の嵐も住みわひは心にかなふ宿やなからむ

よをいとふ−やまのあらしも−すみわひは−こころにかなふ−やとやなからむ


09625
未入力 正徹 (xxx)

もしもなほうき世いてすは生れきて此山里に住む身とならん

もしもなほ−うきよいてすは−うまれきて−このやまさとに−すむみとならむ


09626
未入力 正徹 (xxx)

山ふかくいほり結ひて住みはてん住みはてしとも思ひさためし

やまふかく−いほりむすひて−すみはてむ−すみはてしとも−おもひさためし


09627
未入力 正徹 (xxx)

たへてきけみ山の鳥と松の風タの雨に猿さけふ声

たへてきけ−みやまのとりと−まつのかせ−ゆふへのあめに−さるさけふこゑ


09628
未入力 正徹 (xxx)

なほもたた宮こをしのふ心にてすむはかひなき山の陰かな

なほもたた−みやこをしのふ−こころにて−すむはかひなき−やまのかけかな


09629
未入力 正徹 (xxx)

しはしこそうきにもたへめのかれきて住みなれぬ山の峰の松風

しはしこそ−うきにもたへめ−のかれきて−すみなれぬやまの−みねのまつかせ


09630
未入力 正徹 (xxx)

閑なる山の心を今はわか友とするまて住みなれにけり

しつかなる−やまのこころを−いまはわか−ともとするまて−すみなれにけり


09631
未入力 正徹 (xxx)

山松のこゑにはあらし世のうきめ見えぬ嵐はいかにふくとも

やままつの−こゑにはあらし−よのうきめ−みえぬあらしは−いかにふくとも


09632
未入力 正徹 (xxx)

静なる太山もそよとささのはの心さわかす風の音かな

しつかなる−みやまもそよと−ささのはの−こころさわかす−かせのおとかな


09633
未入力 正徹 (xxx)

ひまもなきうき世を思ひいつるさへ猶さはりある山のおくかな

ひまもなき−うきよをおもひ−いつるさへ−なほさはりある−やまのおくかな


09634
未入力 正徹 (xxx)

なき世をそ我か身にいそく山にてもなほうき時のありのすさひに

なきよをそ−わかみにいそく−やまにても−なほうきときの−ありのすさひに


09635
未入力 正徹 (xxx)

庵しめていく世の人のおもひ入る山路むなしく雲うつむらん

いほしめて−いくよのひとの−おもひいる−やまちむなしく−くもうつむらむ


09636
未入力 正徹 (xxx)

花のさき葉のおつるにて春秋をしるはかりなる山のおくかな

はなのさき−はのおつるにて−はるあきを−しるはかりなる−やまのおくかな


09637
未入力 正徹 (xxx)

かくてこそあひにあひぬれなかからぬ柴の袖かきあさのさ衣

かくてこそ−あひにあひぬれ−なかからぬ−しはのそてかき−あさのさころも


09638
未入力 正徹 (xxx)

身のうさも昔は山をたのみこしおくの棲そあらす成行く

みのうさも−むかしはやまを−たのみこし−おくのすみかそ−あらすなりゆく


09639
未入力 正徹 (xxx)

山さとに生るる人や中中に物のさひしきこともなからん

やまさとに−うまるるひとや−なかなかに−もののさひしき−こともなからむ


09640
未入力 正徹 (xxx)

柴のいほあるしをとへは戸をとちてうしろの山にをのの一声

しはのいほ−あるしをとへは−とをとちて−うしろのやまに−をののひとこゑ


09641
未入力 正徹 (xxx)

我か庵の前なる峰を梯に月わたらすは夢のかよひち

わかいほの−まへなるみねを−かけはしに−つきわたらすは−ゆめのかよひち


09642
未入力 正徹 (xxx)

ねりそもて柴もかこはぬ石かきの山岸たのむ庵そかりなる

ねりそもて−しはもかこはぬ−いしかきの−やまきしたのむ−いほそかりなる


09643
未入力 正徹 (xxx)

嶺のいほ薪もつをの世かたりはたのますなからさもやとそ聞く

みねのいほ−たききもつをの−よかたりは−たのますなから−さもやとそきく


09644
未入力 正徹 (xxx)

おもかけに猶したひきて世のうきめ見えぬ山とは思ひなされす

おもかけに−なほしたひきて−よのうきめ−みえぬやまとは−おもひなされす


09645
未入力 正徹 (xxx)

峰ふかき軒はあるとも木のもとの露なもらしそ雲の八重ふき

みねふかき−のきはあるとも−このもとの−つゆなもらしそ−くものやへふき


09646
未入力 正徹 (xxx)

いかはかり心すむらん山里をつくりなしたる宿の草木に

いかはかり−こころすむらむ−やまさとを−つくりなしたる−やとのくさきに


09647
未入力 正徹 (xxx)

しるらめやひとりむかひて物いはぬ山の草木にはつる心を

しるらめや−ひとりむかひて−ものいはぬ−やまのくさきに−はつるこころを


09648
未入力 正徹 (xxx)

のかれても山里すみは末の世にいよいよかたく人そなり行く

のかれても−やまさとすみは−すゑのよに−いよいよかたく−ひとそなりゆく


09649
未入力 正徹 (xxx)

つてにきくうき世のことそことかはる嵐はふるき松にこゑして

つてにきく−うきよのことそ−ことかはる−あらしはふるき−まつにこゑして


09650
未入力 正徹 (xxx)

住む世へて吉野の山をかりに出てはもろこし人と誰か見さらん

すむよへて−よしののやまを−かりにいては−もろこしひとと−たれかみさらむ


09651
未入力 正徹 (xxx)

此峰も世のうきことのたつねこは柴の戸さして雲に入らなん

このみねも−よのうきことの−たつねこは−しはのとさして−くもにいらなむ


09652
未入力 正徹 (xxx)

しつかにて山の嵐もふかぬ日やもとのうき世のやととなるらん

しつかにて−やまのあらしも−ふかぬひや−もとのうきよの−やととなるらむ


09653
未入力 正徹 (xxx)

山ふかき谷のかたそのかけつくり四方の梢や宿の庭草

やまふかき−たにのかたその−かけつくり−よものこすゑや−やとのにはくさ


09654
未入力 正徹 (xxx)

二とも見えぬ深山のおくの庵よをふるわさをいかにとかする

ふたつとも−みえぬみやまの−おくのいほ−よをふるわさを−いかにとかする


09655
未入力 正徹 (xxx)

山さとの竹のまろひに行く水のかくれてすむを世になもらしそ

やまさとの−たけのまろひに−ゆくみつの−かくれてすむを−よになもらしそ


09656
未入力 正徹 (xxx)

いく里の雲も嵐にたえぬらん外山か庵は夢のうきはし

いくさとの−くももあらしに−たえぬらむ−とやまかいほは−ゆめのうきはし


09657
未入力 正徹 (xxx)

松の戸を又とちはてん住みわひしうき世中の門出はしつ

まつのとを−またとちはてむ−すみわひし−うきよのなかの−かといてはしつ


09658
未入力 正徹 (xxx)

いまみれは思ひし山もまたさりき八十にかかる雲もわかれて

いまみれは−おもひしやまも−またさりき−やそちにかかる−くももわかれて


09659
未入力 正徹 (xxx)

かりてふくおのかしは屋のしはしなる此世もしらてすめる山賎

かりてふく−おのかしはやの−しはしなる−このよもしらて−すめるやまかつ


09660
未入力 正徹 (xxx)

いとふとも世のうきことはせめきなん山のおくなき比そかなしき

いとふとも−よのうきことは−せめきなむ−やまのおくなき−ころそかなしき


09661
未入力 正徹 (xxx)

いかかせん物のさひしき世中はいまはなるまて山そすみうき

いかかせむ−もののさひしき−よのなかは−いまはなるまて−やまそすみうき


09662
未入力 正徹 (xxx)

心すむ大原山は世のうさをせくやせかゐの水はおとして

こころすむ−おほはらやまは−よのうさを−せくやせかゐの−みつはおとして


09663
未入力 正徹 (xxx)

山さとにもとこしゆゑをかたらすは見し人とたにおもひ出てしを

やまさとに−もとこしゆゑを−かたらすは−みしひととたに−おもひいてしを


09664
未入力 正徹 (xxx)

こたふへきさそ山ひこもあるらめと物いはされは聞くこともなし

こたふへき−さそやまひこも−あるらめと−ものいはされは−きくこともなし


09665
未入力 正徹 (xxx)

家ゐする人そすくなき世中をいとひくるのみすまぬ山陰

いへゐする−ひとそすくなき−よのなかを−いとひくるのみ−すまぬやまかけ


09666
未入力 正徹 (xxx)

陰しめて又すむ人のありなしもしらぬ太山の柴の下庵

かけしめて−またすむひとの−ありなしも−しらぬみやまの−しはのしたいほ


09667
未入力 正徹 (xxx)

我ならぬ人の姿をみすしらていくとせ山にむかふ岩木そ

われならぬ−ひとのすかたを−みすしらて−いくとせやまに−むかふいはきそ


09668
未入力 正徹 (xxx)

鳥花をふくみこし世もあるものをひとりいとなむ山のおくかな

とりはなを−ふくみこしよも−あるものを−ひとりいとなむ−やまのおくかな


09669
未入力 正徹 (xxx)

我かいほの手かひになれて山鳩の杖つく坂におりむかふなり

わかいほの−てかひになれて−やまはとの−つゑつくさかに−おりむかふなり


09670
未入力 正徹 (xxx)

哀をもしらてそすくる鳥の音もきこえぬ山のおくの住ひは

あはれをも−しらてそすくる−とりのねも−きこえぬやまの−おくのすまひは


09671
未入力 正徹 (xxx)

庵むすふ山のかたその呉竹をわか家はとのこゑもはかなし

いほむすふ−やまのかたその−くれたけを−わかいへはとの−こゑもはかなし


09672
未入力 正徹 (xxx)

すむままに我をはしるや名もしらぬみ山の鳥の声そちかつく

すむままに−われをはしるや−なもしらぬ−みやまのとりの−こゑそちかつく


09673
未入力 正徹 (xxx)

さと人は我か名もしらすききなれぬ太山の鳥のこゑもたつねし

さとひとは−わかなもしらす−ききなれぬ−みやまのとりの−こゑもたつねし


09674
未入力 正徹 (xxx)

初霜に竹の葉なひきなく鴿のこゑ朝さむき秋の山さと

はつしもに−たけのはなひき−なくはとの−こゑあささむき−あきのやまさと


09675
未入力 正徹 (xxx)

鳥も又思ひやすらんめになれて我か名もしらぬおくの山人

とりもまた−おもひやすらむ−めになれて−わかなもしらぬ−おくのやまひと


09676
未入力 正徹 (xxx)

いつくにかすむ池ありて此いほのおくの太山に鴛のおつらん

いつくにか−すむいけありて−このいほの−おくのみやまに−をしのおつらむ


09677
未入力 正徹 (xxx)

立ちそよる山のかせきをまねくとも見えぬすくろの庭の小薄

たちそよる−やまのかせきを−まねくとも−みえぬすくろの−にはのをすすき


09678
未入力 正徹 (xxx)

そのままにすきの庵のささの戸をたたあけたつる風にまかせて

そのままに−すきのいほりの−ささのとを−たたあけたつる−かせにまかせて


09679
未入力 正徹 (xxx)

山をたにわすれてすめは吹くたひにきけともきかぬ軒の松風

やまをたに−わすれてすめは−ふくたひに−きけともきかぬ−のきのまつかせ


09680
未入力 正徹 (xxx)

山路行く嵐を松にやとさすはひとりかりほや隣なからん

やまちゆく−あらしをまつに−やとさすは−ひとりかりほや−となりなからむ


09681
未入力 正徹 (xxx)

聞くもうし山の嵐もこゑこゑに入りくる人にあらふものから

きくもうし−やまのあらしも−こゑこゑに−いりくるひとに−あらふものから


09682
未入力 正徹 (xxx)

さましても何にかはせん夜はの嵐うき世もしらぬ山かつの夢

さましても−なににかはせむ−よはのあらし−うきよもしらぬ−やまかつのゆめ


09683
未入力 正徹 (xxx)

山ふかみ嵐は松をやとりにてわか住む軒にならふとそきく

やまふかみ−あらしはまつを−やとりにて−わかすむのきに−ならふとそきく


09684
未入力 正徹 (xxx)

住む人のふもとの嵐□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

すむひとの−ふもとのあらし−ххххх−ххххххх−ххххххх


09685
未入力 正徹 (xxx)

庵しめてわか住む峰にゐる雲のまれなる友は嵐なりけり

いほしめて−わかすむみねに−ゐるくもの−まれなるともは−あらしなりけり


09686
未入力 正徹 (xxx)

忍ひきぬ軒はの松のこゑはかりききしににたる深山嵐を

しのひきぬ−のきはのまつの−こゑはかり−ききしににたる−みやまあらしを


09687
未入力 正徹 (xxx)

峰の庵嵐の上のおきふしもうきて年ふる谷の松かな

みねのいほ−あらしのうへの−おきふしも−うきてとしふる−たにのまつかな


09688
未入力 正徹 (xxx)

おとつつく外山の庵の竹の葉に過くる嵐のおくの松かせ

おとつつく−とやまのいほの−たけのはに−すくるあらしの−おくのまつかせ


09689
未入力 正徹 (xxx)

山路行く夜の嵐のまへわたりさのみなとめそ軒の松か枝

やまちゆく−よるのあらしの−まへわたり−さのみなとめそ−のきのまつかえ


09690
未入力 正徹 (xxx)

軒はなる蛛のいかきはしらねとも山の嵐に夢そやふるる

のきはなる−くものいかきは−しらねとも−やまのあらしに−ゆめそやふるる


09691
未入力 正徹 (xxx)

よしやふけいまはの山の松の風うきもしはやのしはし住む世に

よしやふけ−いまはのやまの−まつのかせ−うきもしはやの−しはしすむよに


09692
未入力 正徹 (xxx)

山かせにかへらぬ雲と人は見よ岩ねこりしく嶺のすみかを

やまかせに−かへらぬくもと−ひとはみよ−いはねこりしく−みねのすみかを


09693
未入力 正徹 (xxx)

夕まくれ松をそしのふ山さへもなこやかならぬ椎のあらしに

ゆふまくれ−まつをそしのふ−やまさへも−なこやかならぬ−しひのあらしに


09694
未入力 正徹 (xxx)

くるる夜の山の岩ねにふす松をおとろかすとや嵐吹くらん

くるるよの−やまのいはねに−ふすまつを−おとろかすとや−あらしふくらむ


09695
未入力 正徹 (xxx)

夕嵐あらしいまはの山や思ふすみこしものを夢の明ほの

ゆふあらし−あらしいまはの−やまやおもふ−すみこしものを−ゆめのあけほの


09696
未入力 正徹 (xxx)

住みすてんさのみ思ひをいたきもつ山ふところの暮のすさひを

すみすてむ−さのみおもひを−いたきもつ−やまふところの−くれのすさひを


09697
未入力 正徹 (xxx)

庵しめてすむにもあらぬ山松の嵐のやとや隣なるらん

いほしめて−すむにもあらぬ−やままつの−あらしのやとや−となりなるらむ


09698
未入力 正徹 (xxx)

世をいとふ我か松の戸の出入もいはふとなしに年はへにけり

よをいとふ−わかまつのとの−いていりも−いはふとなしに−としはへにけり


09699
未入力 正徹 (xxx)

けふそきく宿のあたりの小松原山のたかきにまさる風を

けふそきく−やとのあたりの−こまつはら−やまのたかきに−まさるあらしを


09700
未入力 正徹 (xxx)

雲はゐよ我か世の後□峰のいほゆつらんと思ふ松も老いにき

くもはゐよ−わかよののちх−みねのいほ−ゆつらむとおもふ−まつもおいにき


09701
未入力 正徹 (xxx)

里はあれて風のかたらふ宿もうし此山もりの峰の老松

さとはあれて−かせのかたらふ−やともうし−このやまもりの−みねのおいまつ


09702
未入力 正徹 (xxx)

峰の松むすひしまては種おちす松さへふりて苔ふかき袖

みねのまつ−むすひしまては−たねおちす−まつさへふりて−こけふかきそて


09703
未入力 正徹 (xxx)

かかれとてならふや杉のもと立を便になしてむすふいほかな

かかれとて−ならふやすきの−もとたちを−たよりになして−むすふいほかな


09704
未入力 正徹 (xxx)

住みわひぬ松のかきほの杉の門雲しく閨をはらふあらしに

すみわひぬ−まつのかきほの−すきのかと−くもしくねやを−はらふあらしに


09705
未入力 正徹 (xxx)

たれとはん木たかき山の杉のもとたね生ひかくす陰のいほりを

たれとはむ−こたかきやまの−すきのもと−たねおひかくす−かけのいほりを


09706
未入力 正徹 (xxx)

岩ほこる山もうこかす松の門竹のかきほは千世もへぬへし

いはほこる−やまもうこかす−まつのかと−たけのかきほは−ちよもへぬへし


09707
未入力 正徹 (xxx)

すむもうし山のかけ草いつまてかしらぬ命の露をかけまし

すむもうし−やまのかけくさ−いつまてか−しらぬいのちの−つゆをかけまし


09708
未入力 正徹 (xxx)

松風も窓うちあかす雨はれて軒よりのほる谷のうき雲

まつかせも−まとうちあかす−あめはれて−のきよりのはる−たにのうきくも


09709
未入力 正徹 (xxx)

いかかねん山の木陰や夜の雨あめうつ庵にあらぬしつくは

いかかねむ−やまのこかけや−よるのあめ−あめうついほに−あらぬしつくは


09710
未入力 正徹 (xxx)

おほえつつふりにしことはめの前に太山の雨のくらき夜もなし

おほえつつ−ふりにしことは−めのまへに−みやまのあめの−くらきよもなし


09711
未入力 正徹 (xxx)

閨もりてぬる夜の夢に入る月もさたかにはあらぬ峰の松かせ

ねやもりて−ぬるよのゆめに−いるつきも−さたかにはあらぬ−みねのまつかせ


09712
未入力 正徹 (xxx)

いつくにかさそふ嵐の声すらんわかぬる床の夢の下柴

いつくにか−さそふあらしの−こゑすらむ−わかぬるとこの−ゆめのしたしは


09713
未入力 正徹 (xxx)

さめてきく山の嵐も送らすはひとりや夜はの夢かへるらん

さめてきく−やまのあらしも−おくらすは−ひとりやよはの−ゆめかへるらむ


09714
未入力 正徹 (xxx)

庵をもかけにと結ふ松かねややかて夜床の枕なるらん

いほりをも−かけにとむすふ−まつかねや−やかてよとこの−まくらなるらむ


09715
未入力 正徹 (xxx)

此山のかけの灯きえぬ夜もあらしの窓にすすあめるかき

このやまの−かけのともしひ−きえぬよも−あらしのまとに−すすあめるかき


09716
未入力 正徹 (xxx)

山ふしのわさとは見えす庵しめて久しく成りぬ峰のともし火

やまふしの−わさとはみえす−いほしめて−ひさしくなりぬ−みねのともしひ


09717
未入力 正徹 (xxx)

たよりなき山の朽木をあつめてもよるの光とたのむ窓かな

たよりなき−やまのくちきを−あつめても−よるのひかりと−たのむまとかな


09718
未入力 正徹 (xxx)

雨そそき窓の岩木にともす火の苔まてあをき暁の山

あまそそき−まとのいはきに−ともすひの−こけまてあをき−あかつきのやま


09719
未入力 正徹 (xxx)

いく里になかれぬほしと人のみん木のま庵の峰のともし火

いくさとに−なかれぬほしと−ひとのみむ−このまいほりの−みねのともしひ


09720
未入力 正徹 (xxx)

山ふかみ岩ほを壁になす庵に影ふりのこる窓の灯

やまふかみ−いはほをかへに−なすいほに−かけふりのこる−まとのともしひ


09721
未入力 正徹 (xxx)

柴の屋の窓にかかくる灯のもとつ葉てらす杉のむら立

しはのやの−まとにかかくる−ともしひの−もとつはてらす−すきのむらたち


09722
未入力 正徹 (xxx)

いなり山杉のいほりの過きかたき世にいつまてか在明の月

いなりやま−すきのいほりの−すきかたき−よにいつまてか−ありあけのつき


09723
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あかつきの雲にあへるをかたみにて月やをしまぬうちの里人

あかつきの−くもにあへるを−かたみにて−つきやをしまぬ−うちのさとひと


09724
未入力 正徹 (xxx)

けふりたちもえぬそ思ひあさま山わひてすむ世をわたる里人

けふりたち−もえぬそおもひ−あさまやま−わひてすむよを−わたるさとひと


09725
未入力 正徹 (xxx)

山さともあるかなきかにたく柴の煙をたにも思ひきえめや

やまさとも−あるかなきかに−たくしはの−けふりをたにも−おもひきえめや


09726
未入力 正徹 (xxx)

山里の庭とて生ふる草もなしひまなくむせる苔あつくして

やまさとの−にはとておふる−くさもなし−ひまなくむせる−こけあつくして


09727
未入力 正徹 (xxx)

いりしよりうき世中の通ちはふみたかへたる山の奥かな

いりしより−うきよのなかの−かよひちは−ふみたかへたる−やまのおくかな


09728
未入力 正徹 (xxx)

ふみわけし我か山さとにかはるとも見えぬ都のおくの庵かな

ふみわけし−わかやまさとに−かはるとも−みえぬみやこの−おくのいほかな


09729
未入力 正徹 (xxx)

しきしまの道に心そかよはましいかなる山のおくにすむとも

しきしまの−みちにこころそ−かよはまし−いかなるやまの−おくにすむとも


09730
未入力 正徹 (xxx)

いかかすむ木の本しけき松かねにふむ跡みゆるおくの通路

いかかすむ−このもとしけき−まつかねに−ふむあとみゆる−おくのかよひち


09731
未入力 正徹 (xxx)

山さとは雪かくほとのいとなみもまた時ならぬ冬のさひしさ

やまさとは−ゆきかくほとの−いとなみも−またときならぬ−ふゆのさひしさ


09732
未入力 正徹 (xxx)

草かくれ水のたよりにかたかけて山沢ちかくむすふいほかな

くさかくれ−みつのたよりに−かたかけて−やまさはちかく−むすふいほかな


09733
未入力 正徹 (xxx)

清くこそたれもみるらめ岩かねに水すましやる山の下道

きよくこそ−たれもみるらめ−いはかねに−みつすましやる−やまのしたみち


09734
未入力 正徹 (xxx)

くみたゆる時こそはあれ岸つたふ苔のしつくの山の井の水

くみたゆる−ときこそはあれ−きしつたふ−こけのしつくの−やまのゐのみつ


09735
未入力 正徹 (xxx)

竹の樋にうけてそむすふ山きしの苔の雫のつもる流を

たけのひに−うけてそむすふ−やまきしの−こけのしつくの−つもるなかれを


09736
未入力 正徹 (xxx)

まれにきてみるもさひしき山水を汲みしられすは住みやかへまし

まれにきて−みるもさひしき−やまみつを−くみしられすは−すみやかへまし


09737
未入力 正徹 (xxx)

軒ちかき岩まにつもる山水をすめる心のゆくゆくそみる

のきちかき−いはまにつもる−やまみつを−すめるこころの−ゆくゆくそみる


09738
未入力 正徹 (xxx)

軒端なる山の立□□水からもむすふたよりそさすか住みよき

のきはなる−やまのたちхх−みつからも−むすふたよりそ−さすかすみよき


09739
未入力 正徹 (xxx)

人すまぬ山のかけひの丸木舟たかへてあまる水はおとして

ひとすまぬ−やまのかけひの−まろきふね−たかへてあまる−みつはおとして


09740
未入力 正徹 (xxx)

水の上の山のしつくのつふつふとうき世をかたるこゑかとそきく

みつのうへの−やまのしつくの−つふつふと−うきよをかたる−こゑかとそきく


09741
未入力 正徹 (xxx)

聞きなるる松の嵐も山水もさわけはいととすむこころかな

ききなるる−まつのあらしも−やまみつも−さわけはいとと−すむこころかな


09742
未入力 正徹 (xxx)

苔つたふしつくをうくるしの水の心ほそさもたえぬ山里

こけつたふ−しつくをうくる−しのみつの−こころほそさも−たえぬやまさと


09743
未入力 正徹 (xxx)

谷ふかみ岩ほをたたくみつからとむすふ夢なき峰の松風

たにふかみ−いはほをたたく−みつからと−むすふゆめなき−みねのまつかせ


09744
未入力 正徹 (xxx)

山ふかみ水かけいるる宿に又つま木をなかす嵐ともかな

やまふかみ−みつかけいるる−やとにまた−つまきをなかす−あらしともかな


09745
未入力 正徹 (xxx)

ふみならす人をはいとへさひしともいはのかけ路まへのいたはし

ふみならす−ひとをはいとへ−さひしとも−いはのかけみち−まへのいたはし


09746
未入力 正徹 (xxx)

朽ちはてよ入りにし後は山川や人もわたらぬまへの板はし

くちはてよ−いりにしのちは−やまかはや−ひともわたらぬ−まへのいたはし


09747
未入力 正徹 (xxx)

山川の音に心をすますより世をうき橋はわたりたえにき

やまかはの−おとにこころを−すますより−よをうきはしは−わたりたえにき


09748
未入力 正徹 (xxx)

山ならぬ世に住みけるをくひかきや前の小川の竹あめる橋

やまならぬ−よにすみけるを−くひかきや−まへのをかはの−たけあめるはし


09749
未入力 正徹 (xxx)

さともあせささわくる霜の山かつもかしけ行く冬の末の哀さ

さともあせ−ささわくるしもの−やまかつも−かしけゆくふゆの−すゑのあはれさ


09750
未入力 正徹 (xxx)

あさ夕の身のうき雲に松の葉も我か住む山の色や消ゆらん

あさゆふの−みのうきくもに−まつのはも−わかすむやまの−いろやきゆらむ


09751
未入力 正徹 (xxx)

嶺のいほよせぬ浪こすこゑ□うし山下海の松のあらしに

みねのいほ−よせぬなみこす−こゑхうし−やましたうみの−まつのあらしに


09752
未入力 正徹 (xxx)

住みそめし山のかきほにさし杉のかけになるまて宿そふり行く

すみそめし−やまのかきほに−さしすきの−かけになるまて−やとそふりゆく


09753
未入力 正徹 (xxx)

かすかなる山のかたその宿の竹かきこめて住むたよりたになし

かすかなる−やまのかたその−やとのたけ−かきこめてすむ−たよりたになし


09754
未入力 正徹 (xxx)

たたす川かものは山の垣ほよりみとりそつつく杜の呉竹

たたすかは−かものはやまの−かきほより−みとりそつつく−もりのくれたけ


09755
未入力 正徹 (xxx)

風ふけはおきふす竹のさ枝をも手を合せける山かとそみる

かせふけは−おきふすたけの−さえたをも−てをあはせける−やまかとそみる


09756
未入力 正徹 (xxx)

山陰のいささ村竹吹きのほるあらしを松にをさめてそきく

やまかけの−いささむらたけ−ふきのほる−あらしをまつに−をさめてそきく


09757
未入力 正徹 (xxx)

庵しむるそのの竹原しけからて巌あやふき上の山きし

いほしむる−そののたけはら−しけからて−いはほあやふき−うへのやまきし


09758
未入力 正徹 (xxx)

あらし吹くひまも有りけり灯の星にならへる峰の柴屋は

あらしふく−ひまもありけり−ともしひの−ほしにならへる−みねのしはやは


09759
未入力 正徹 (xxx)

うきわさを柴屋のけふり山陰にたな引くさへもしつのをた巻

うきわさを−しはやのけふり−やまかけに−たなひくさへも−しつのをたまき


09760
未入力 正徹 (xxx)

住む人もあるかなきかの谷かくれのほる煙や春のいとゆふ

すむひとも−あるかなきかの−たにかくれ−のほるけふりや−はるのいとゆふ


09761
未入力 正徹 (xxx)

峰の庵たつる煙を天の川つりする糸をおろすとやみん

みねのいほ−たつるけふりを−あまのかは−つりするいとを−おろすとやみむ


09762
未入力 正徹 (xxx)

山姫の手に引くいとの末見せてふもとのさとに立つけふりかな

やまひめの−てにひくいとの−すゑみせて−ふもとのさとに−たつけふりかな


09763
未入力 正徹 (xxx)

朝夕にたつるけふりを山かつの玉のをとみる末もはかなし

あさゆふに−たつるけふりを−やまかつの−たまのをとみる−すゑもはかなし


09764
未入力 正徹 (xxx)

たれしらむ深山をふかみ木のもとのくもるはかりのいほの煙は

たれしらむ−みやまをふかみ−このもとの−くもるはかりの−いほのけふりは


09765
未入力 正徹 (xxx)

たえすきく嵐も山を出てしとや松にめくりてこゑめくるらん

たえすきく−あらしもやまを−いてしとや−まつにめくりて−こゑめくるらむ


09766
未入力 正徹 (xxx)

見し友を松としきかはうからましいま入る山のあらしなりとも

みしともを−まつとしきかは−うからまし−いまいるやまの−あらしなりとも


09767
未入力 正徹 (xxx)

山にすむ鳥獣を見てそしる人のかたちはうけかたき世を

やまにすむ−とりけたものを−みてそしる−ひとのかたちは−うけかたきよを


09768
未入力 正徹 (xxx)

風なから夜はもあけおく松の戸にぬるる時雨のこけの衣手

かせなから−よはもあけおく−まつのとに−ぬるるしくれの−こけのころもて


09769
未入力 正徹 (xxx)

松もけふ袖にしくれて苔の下になりにし人をとふあらしかな

まつもけふ−そてにしくれて−こけのしたに−なりにしひとを−とふあらしかな


09770
未入力 正徹 (xxx)

住みすててのこる庵もかたふきぬかり田さひしき四方の嵐に

すみすてて−のこるいほりも−かたふきぬ−かりたさひしき−よものあらしに


09771
未入力 正徹 (xxx)

を山田や残るをしねをかりふきのとまもあらはにあるる庵かな

をやまたや−のこるをしねを−かりふきの−とまもあらはに−あるるいほかな


09772
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のあしのまろ屋のとまふきに雨もらぬまてかくるいねかな

あきのたの−あしのまろやの−とまふきに−あめもらぬまて−かくるいねかな


09773
未入力 正徹 (xxx)

秋のたにとまふく庵のささの戸もあらしにうすき賎かさ衣

あきのたに−とまふくいほの−ささのとも−あらしにうすき−しつかさころも


09774
未入力 正徹 (xxx)

秋に見し門田のいなは夢なれやあしの丸屋はぬる人もなし

あきにみし−かとたのいなは−ゆめなれや−あしのまろやは−ぬるひともなし


09775
未入力 正徹 (xxx)

もる民はかりほの床のいねかてに思ひやあかす年のなりほひ

もるたみは−かりほのとこの−いねかてに−おもひやあかす−としのなりはひ


09776
未入力 正徹 (xxx)

かりほせん水のかはつもこゑたてて野田の若草花にさく比

かりほせむ−みつのかはつも−こゑたてて−のたのわかくさ−はなにさくころ


09777
未入力 正徹 (xxx)

今朝そみる芦の丸屋のまろふしにひもとくならぬ小田の初ほは

けさそみる−あしのまろやの−まろふしに−ひもとくならぬ−をたのはつほは


09778
未入力 正徹 (xxx)

露の身は秋の山田をもるほとのささふく草のいほりたになし

つゆのみは−あきのやまたを−もるほとの−ささふくくさの−いほりたになし


09779
未入力 正徹 (xxx)

守りたてぬ豊の年ある民の草なかきぬいほの手向するまて

もりたてぬ−とよのとしある−たみのくさ−なかきぬいほの−たむけするまて


09780
未入力 正徹 (xxx)

鳥たてし人はかへりてしけるなりかりほのまへの春の苗代

とりたてし−ひとはかへりて−しけるなり−かりほのまへの−はるのなはしろ


09781
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庵ふりて門田あれにし忘れ水それも人めはもらてたえにき

いほふりて−かとたあれにし−わすれみつ−それもひとめは−もらてたえにき


09782
未入力 正徹 (xxx)

山とほき田中のむらのかきうちはしけき木竹のあるそふきはふ

やまとほき−たなかのむらの−かきうちは−しけきこちくの−あるそふきはふ


09783
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今朝みれは山田の庵とまふきに初霜ふりぬおくてかるへく

けさみれは−やまたのいほり−とまふきに−はつしもふりぬ−おくてかるへく


09784
未入力 正徹 (xxx)

雨そそく門田の草に花そさくおくてになしてしはしかへすな

あめそそく−かとたのくさに−はなそさく−おくてになして−しはしかへすな


09785
未入力 正徹 (xxx)

山鳥のをろの初いねおきあまりかりほの床になかき夜の霜

やまとりの−をろのはついね−おきあまり−かりほのとこに−なかきよのしも


09786
未入力 正徹 (xxx)

秋の田はかりほむなしきひつちほの身をなき物になして住む世は

あきのたは−かりほむなしき−ひつちほの−みをなきものに−なしてすむよは


09787
未入力 正徹 (xxx)

かり庵に弓たておきて人もなし山田もるをや夜かへりこむ

かりいほに−ゆみたておきて−ひともなし−やまたもるをや−よるかへりこむ


09788
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あれはつる秋田かりほの冬の床もりけん夢をむすふ霜かな

あれはつる−あきたかりほの−ふゆのとこ−もりけむゆめを−むすふしもかな


09789
未入力 正徹 (xxx)

もる人もふもとのを田やひろくみん峰の庵の窓せはくとも

もるひとも−ふもとのをたや−ひろくみむ−みねのいほりの−まとせはくとも


09790
未入力 正徹 (xxx)

小山田や秋のいなはのおもかけをかりほの雲そ夕日色つく

をやまたや−あきのいなはの−おもかけを−かりほのくもそ−ゆふひいろつく


09791
未入力 正徹 (xxx)

冬の田にひとり庵もるそほつさへ我か身あれゆく雨よ嵐よ

ふゆのたに−ひとりいほもる−そほつさへ−わかみあれゆく−あめよあらしよ


09792
未入力 正徹 (xxx)

秋のたのあたりの原にいねほすはからてもるより猶そ隙なき

あきのたの−あたりのはらに−いねほすは−からてもるより−なほそひまなき


09793
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秋をへてすみこし民の古郷や冬田にのこるかりほなるらん

あきをへて−すみこしたみの−ふるさとや−ふゆたにのこる−かりほなるらむ


09794
未入力 正徹 (xxx)

屋かたうつ舟ともよそに見えぬへしほなみにうかふ小田のかりいほ

やかたうつ−ふねともよそに−みえぬへし−ほなみにうかふ−をたのかりいほ


09795
未入力 正徹 (xxx)

むかふ日に庵も庭も所せくいねかけわたすすこか竹かき

むかふひに−いほりもにはも−ところせく−いねかけわたす−すこかたけかき


09796
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門田もる賎かうみそのかたよりになひくいなはの風そ身にしむ

かとたもる−しつかうみその−かたよりに−なひくいなはの−かせそみにしむ


09797
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いなはもる人もわたらすさともなき田中の橋の夕暮の雨

いなはもる−ひともわたらす−さともなき−たなかのはしの−ゆふくれのあめ


09798
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かりてほすいなはそよきて小山田をわたる秋さのおとのさひしさ

かりてほす−いなはそよきて−をやまたを−わたるあきさの−おとのさひしさ


09799
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かる小田のひたもなるこも引きすてておちほにとまる秋の村鳥

かるをたの−ひたもなるこも−ひきすてて−おちほにとまる−あきのむらとり


09800
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なるこをも引きすてし冬の小山田に落ほをさらぬ四方のむら鳥

なるこをも−ひきすてしふゆの−をやまたに−おちほをさらぬ−よものむらとり


09801
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のいなおほせ鳥のくる年もなくてうき世を過くるいほかな

あきのたの−いなおほせとりの−くるとしも−なくてうきよを−すくるいほかな


09802
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のかりほは鳥のふしとともおちほののこるほとやみゆらん

あきのたの−かりほはとりの−ふしととも−おちほののこる−ほとやみゆらむ


09803
未入力 正徹 (xxx)

暮るるまてのこる村鳥むらむらにかり田さひしき秋の山もと

くるるまて−のこるむらとり−むらむらに−かりたさひしき−あきのやまもと


09804
未入力 正徹 (xxx)

秋田もるあまのかりほの湊江にしほみちくらしたつそ鳴くなる

あきたもる−あまのかりほの−みなとえに−しほみちくらし−たつそなくなる


09805
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秋の田のむら鳥たつるなるこ縄もる庵の戸にかけて見えつつ

あきのたの−むらとりたつる−なるこなは−もるいほのとに−かけてみえつつ


09806
未入力 正徹 (xxx)

沢田もる芦の丸屋のまろこすけかりのこしてや鳥は住むらん

さはたもる−あしのまろやの−まろこすけ−かりのこしてや−とりはすむらむ


09807
未入力 正徹 (xxx)

そは田もる庵の上の松山にほの色いそくたうのこかれは

そはたもる−いほりのうへの−まつやまに−ほのいろいそく−たうのこかれは


09808
未入力 正徹 (xxx)

庵あれしかきほのむはら霜さえてふるき山田にしとと鳴くこゑ

いほあれし−かきほのむはら−しもさえて−ふるきやまたに−しととなくこゑ


09809
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行きかへり羽をつかれすやおちほなくなれる門田のあちの村鳥

ゆきかへり−はをつかれすや−おちほなく−なれるかとたの−あちのむらとり


09810
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秋田かりほすやおちほのこほるらんあちのむらはむかり庵のまへ

あきたかり−ほすやおちほの−こほるらむ−あちのむらはむ−かりいほのまへ


09811
未入力 正徹 (xxx)

庵あれし田中の古井くみたえてのこる水草に鷺あさるなり

いほあれし−たなかのふるゐ−くみたえて−のこるみくさに−さきあさるなり


09812
未入力 正徹 (xxx)

なれぬとや稲おほふ鳥のきなくらん待ちとらぬ冬の霜のかり田に

なれぬとや−いなおほせとりの−きなくらむ−まちとらぬふゆの−しものかりたに


09813
未入力 正徹 (xxx)

ほの上にむら鳥さわくもる人はたちいてけりな小田のかりいほ

ほのうへに−むらとりさわく−もるひとは−たちいてけりな−をたのかりいほ


09814
未入力 正徹 (xxx)

すきかへす田中のさとの村竹にあさ風吹きて鴿そ鳴くなる

すきかへす−たなかのさとの−むらたけに−あさかせふきて−はとそなくなる


09815
未入力 正徹 (xxx)

梢よりみな立ちつれて小山田のみしめにならふ秋のむら鳥

こすゑより−みなたちつれて−をやまたの−みしめにならふ−あきのむらとり


09816
未入力 正徹 (xxx)

霜まよふかり田のくろに石たたきおりあへす近き河原にそ行く

しもまよふ−かりたのくろに−いしたたき−おりあへすちかき−かはらにそゆく


09817
未入力 正徹 (xxx)

民の屋にかひおく秋の馬牛もいなおほせ鳥とならぬ日そなき

たみのやに−かひおくあきの−うまうしも−いなおほせとりと−ならぬひそなき


09818
未入力 正徹 (xxx)

秋のほの長鳥の尾の初霜にふさて夜田もるさをしかの声

あきのほの−なかとりのをの−はつしもに−ふさてよたもる−さをしかのこゑ


09819
未入力 正徹 (xxx)

六月をふるのわさ田の一ほたにからぬにきたるいなおほせ鳥

みなつきを−ふるのわさたの−ひとほたに−からぬにきたる−いなおほせとり


09820
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山田もるくろの上なるそなれ松なれぬ日もなくかよふ鶴かな

やまたもる−くろのうへなる−そなれまつ−なれぬひもなく−かよふつるかな


09821
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あへ山や雲のかり屋のかりの戸をあくる田面にたつさわくなり

あへやまや−くものかりやの−かりのとを−あくるたのもに−たつさわくなり


09822
未入力 正徹 (xxx)

秋もりしかりほのぬしや手かひけんかり田の霜につるそおりくる

あきもりし−かりほのぬしや−てかひけむ−かりたのしもに−つるそおりくる


09823
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刈小田のおちほあらそふ里のこに猶むら鳥の面影そたつ

かりをたの−おちほあらそふ−さとのこに−なほむらとりの−おもかけそたつ


09824
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くろの上に円居しつつものむ酒の身のうさしらぬ秋のかり人

くろのうへに−まとゐしつつも−のむさけの−みのうさしらぬ−あきのかりひと


09825
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かるを田におつるほくみをつくる子もこゑこゑうたふ秋の山もと

かるをたに−おつるほくみを−つくるこも−こゑこゑうたふ−あきのやまもと


09826
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山田かるぬきほあみもち里のこの心行くさまにかへるこゑこゑ

やまたかる−ぬきほあみもち−さとのこの−こころゆくさまに−かへるこゑこゑ


09827
未入力 正徹 (xxx)

村鳥をおのれあらそふさとの子のおちほとりもちさわく小山田

むらとりを−おのれあらそふ−さとのこの−おちほとりもち−さわくをやまた


09828
未入力 正徹 (xxx)

むら鳥の立居はなれぬ棲かなかり田につめる秋のいなくら

むらとりの−たちゐはなれぬ−すみかかな−かりたにつめる−あきのいなくら


09829
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消えやらていな葉かり田の夕ま暮なほひつちほの雲そあたなる

きえやらて−いなはかりたの−ゆふまくれ−なほひつちほの−くもそあたなる


09830
未入力 正徹 (xxx)

秋の田のかりほの小萩ほにみゆる花のかさむき村雨の風

あきのたの−かりほのこはき−ほにみゆる−はなのかさむき−むらさめのかせ


09831
未入力 正徹 (xxx)

おくてかるかりほもさむき秋そとや山田のくろに煙たつらん

おくてかる−かりほもさむき−あきそとや−やまたのくろに−けふりたつらむ


09832
未入力 正徹 (xxx)

小山田のかりほのすすきひく糸も煙にのこるしつのをた巻

をやまたの−かりほのすすき−ひくいとも−けふりにのこる−しつのをたまき


09833
未入力 正徹 (xxx)

秋やいつ山田の石井水たえてかるるひつちにむすふ初霜

あきやいつ−やまたのいしゐ−みつたえて−かるるひつちに−むすふはつしも


09834
未入力 正徹 (xxx)

人すまぬかりほこほれて石たたむ田な井は冬そ草かくれ行く

ひとすまぬ−かりほこほれて−いしたたむ−たなゐはふゆそ−くさかくれゆく


09835
未入力 正徹 (xxx)

うつし田ににこりし水のすめる秋月を隣のいねかての庵

うつしたに−にこりしみつの−すめるあき−つきをとなりの−いねかてのいほ


09836
未入力 正徹 (xxx)

庵より田中の井とにおりのほる道もいなはのうつむ秋かな

いほりより−たなかのゐとに−おりのほる−みちもいなはの−うつむあきかな


09837
未入力 正徹 (xxx)

とま莚露もはらはすかるいねのゆひそなからの枕のみして

とまむしろ−つゆもはらはす−かるいねの−ゆひそなからの−まくらのみして


09838
未入力 正徹 (xxx)

山おろす風のかけとやたのむらん田中の竹の前の庵は

やまおろす−かせのかけとや−たのむらむ−たなかのたけの−まへのいほりは


09839
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ひとり猶冬田にたてる人かたのよはひにしらすかたふきにけり

ひとりなほ−ふゆたにたてる−ひとかたの−よはひにしらす−かたふきにけり


09840
未入力 正徹 (xxx)

忍ふらん秋田のいねもまもる身もわかなへなりし霜はふりつつ

しのふらむ−あきたのいねも−まもるみも−わかなへなりし−しもはふりつつ


09841
未入力 正徹 (xxx)

をしかなくわさ田はからし霜はとも庵もる民のかみにてそみる

をしかなく−わさたはからし−しもはとも−いほもるたみの−かみにてそみる


09842
未入力 正徹 (xxx)

鹿もみておとろくらめや山田もる霜の翁はこゑたてすとも

しかもみて−おとろくらめや−やまたもる−しものおきなは−こゑたてすとも


09843
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮煙吹きみたす山風にのこる田中の末のむら雲

ゆふまくれ−けふりふきみたす−やまかせに−のこるたなかの−すゑのむらくも


09844
未入力 正徹 (xxx)

わつかなるくろの村竹あせくぬき田中の里のたのむ陰かも

わつかなる−くろのむらたけ−あせくぬき−たなかのさとの−たのむかけかも


09845
未入力 正徹 (xxx)

秋過きしかり田にたてる人かたも宿はととはぬ庵そあれ行く

あきすきし−かりたにたてる−ひとかたも−やとはととはぬ−いほそあれゆく


09846
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かよひなき田中のさとの一村はいな葉かりての後そさひしき

かよひなき−たなかのさとの−ひとむらは−いなはかりての−のちそさひしき


09847
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ほとあらしひろき田面の杜せはみわら屋かや屋の木隠のさと

ほとあらし−ひろきたのもの−もりせはみ−わらやかややの−こかくれのさと


09848
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春の田をつくらんためのいみあれは里はあれぬといはまくもをし

はるのたを−つくらむための−いみあれは−さとはあれぬと−いはまくもをし


09849
未入力 正徹 (xxx)

わさ田かりいねこきちらす賎のめか門の土居も心ゆくらし

わさたかり−いねこきちらす−しつのめか−かとのつちゐも−こころゆくらし


09850
未入力 正徹 (xxx)

うゑしより秋は田面をもりくらし冬そ我かすむ里のさと人

うゑしより−あきはたのもを−もりくらし−ふゆそわかすむ−さとのさとひと


09851
未入力 正徹 (xxx)

なるこ縄むすへるす戸のあけたてに門田の末は鳥さわくなり

なるこなは−むすへるすとの−あけたてに−かとたのすゑは−とりさわくなり


09852
未入力 正徹 (xxx)

かりのこすいなはをわきてこゑすなりひろき門田の秋の村かせ

かりのこす−いなはをわきて−こゑすなり−ひろきかとたの−あきのむらかせ


09853
未入力 正徹 (xxx)

宿やこれなひくか遠の竹の上にかくれあらはれ煙をそみる

やとやこれ−なひくかをちの−たけのうへに−かくれあらはれ−けふりをそみる


09854
未入力 正徹 (xxx)

おりのほる雲にせたえもさたまらす里の中なる遠の山川

おりのほる−くもにせたえも−さたまらす−さとのうちなる−をちのやまかは


09855
未入力 正徹 (xxx)

おろすらむ峰の嵐の山里によこほりしきて煙ともなし

おろすらむ−みねのあらしの−やまさとに−よこほりしきて−けふりともなし


09856
未入力 正徹 (xxx)

なにをかはうき夕暮の色ならんけふりなみせそ遠の山里

なにをかは−うきゆふくれの−いろならむ−けふりなみせそ−をちのやまさと


09857
未入力 正徹 (xxx)

煙たつ所は見えすたかさとにつつきの原のくもる夕風

けふりたつ−ところはみえす−たかさとに−つつきのはらの−くもるゆふかせ


09858
未入力 正徹 (xxx)

明けわたるとほ山かつらおのつからいまやかくらむ里のをとめこ

あけわたる−とほやまかつら−おのつから−いまやかくらむ−さとのをとめこ


09859
未入力 正徹 (xxx)

山もとの煙か竹かむらむらになひくあたりはさととしもなし

やまもとの−けふりかたけか−むらむらに−なひくあたりは−さととしもなし


09860
未入力 正徹 (xxx)

呉竹のなひくたひにやなかむらん雲まの山のおくの里人

くれたけの−なひくたひにや−なかむらむ−くもまのやまの−おくのさとひと


09861
未入力 正徹 (xxx)

杣山に生ひまかる木ののこるまて身のよしあしそ思ひさためぬ

そまやまに−おひまかるきの−のこるまて−みのよしあしそ−おもひさためぬ


09862
未入力 正徹 (xxx)

深山路やくるるもさひしけふり立つ杣のかりやは斧のおとして

みやまちや−くるるもさひし−けふりたつ−そまのかりやは−をののおとして


09863
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人心まかれる木のみ杣山におほかる末の世をそうらむる

ひとこころ−まかれるきのみ−そまやまに−おほかるすゑの−よをそうらむる


09864
未入力 正徹 (xxx)

うき世□はいつみの杣木たえすなと思ひこりにし身をくたくらん

うきよхは−いつみのそまき−たえすなと−おもひこりにし−みをくたくらむ


09865
未入力 正徹 (xxx)

いかかへんうきはまさきのつなてたえ杣木引くへき力なき世に

いかかへむ−うきはまさきの−つなてたえ−そまきひくへき−ちからなきよに


09866
未入力 正徹 (xxx)

杣山や谷の山ひこたへわひくらせるをののおとそ消行く

そまやまや−たにのやまひこ−こたへわひ−くらせるをのの−おとそきえゆく


09867
未入力 正徹 (xxx)

杣山や直く立つ桧の老木まてあらん物とは身をも思はす

そまやまや−なほくたつひの−おいきまて−あらむものとは−みをもおもはす


09868
未入力 正徹 (xxx)

杣木きる山の桧の木の直きより日ことに人は猶そあやふき

そまききる−やまのひのきの−なほきより−ひことにひとは−なほそあやふき


09869
未入力 正徹 (xxx)

杣人のいる山口の桧原きりもつくさぬおくそしらるる

そまひとの−いるやまくちの−ひのきはら−きりもつくさぬ−おくそしらるる


09870
未入力 正徹 (xxx)

川浪に杣山おろし送らすはつなてやひかんせせの筏士

かはなみに−そまやまおろし−おくらすは−つなてやひかむ−せせのいかたし


09871
未入力 正徹 (xxx)

みかさます雨に蓑笠うちきつつ筏こき行く杣の川長

みかさます−あめにみのかさ−うちきつつ−いかたこきゆく−そまのかはをさ


09872
未入力 正徹 (xxx)

身にそしる杣山川のかたおちにせはき筏の床に住む世を

みにそしる−そまやまかはの−かたおちに−せはきいかたの−とこにすむよを


09873
未入力 正徹 (xxx)

みかさます丸木の柱杣川になかしそへてや筏さすらん

みかさます−まろきのはしら−そまかはに−なかしそへてや−いかたさすらむ


09874
未入力 正徹 (xxx)

山川やみかさますらしさす人も見えぬ筏そひとり落ちくる

やまかはや−みかさますらし−さすひとも−みえぬいかたそ−ひとりおちくる


09875
未入力 正徹 (xxx)

坂こゆるあへの田のものいねをみてうりかふらめや秋の市人

さかこゆる−あへのたのもの−いねをみて−うりかふらめや−あきのいちひと


09876
未入力 正徹 (xxx)

世をみれは心なほきも白浪も立ちましる市そ都なりけり

よをみれは−こころなほきも−しらなみも−たちましるいちそ−みやこなりけり


09877
未入力 正徹 (xxx)

さと人のしかまの市に出てぬ日も浪立ちさわきなる川せかな

さとひとの−しかまのいちに−いてぬひも−なみたちさわき−なるかはせかな


09878
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世中は市のかり屋のたたしはしたれやはとまる夕暮の空

よのなかは−いちのかりやの−たたしはし−たれやはとまる−ゆふくれのそら


09879
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たかためにおのれうちきて帰るらんよふや市めの笠を重ねて

たかために−おのれうちきて−かへるらむ−よふやいちめの−かさをかさねて


09880
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風さむみ旅なる人の道ふりにのみすてて行く市のあち酒

かせさむみ−たひなるひとの−みちふりに−のみすててゆく−いちのあちさけ


09881
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吹きおろす嵐もさわく山本の雲にましはるたつの市人

ふきおろす−あらしもさわく−やまもとの−くもにましはる−たつのいちひと


09882
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道のへや夕の風のこゑすなり市に人なき塵はくもりて

みちのへや−ゆふへのかせの−こゑすなり−いちにひとなき−ちりはくもりて


09883
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月清き鏡はえたり市人のおくりてつるる宿の夜立に

つききよき−かかみはえたり−いちひとの−おくりてつるる−やとのよたちに


09884
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またきより遠近人もせきあへすたたぬ市はのあくる山路に

またきより−をちこちひとも−せきあへす−たたぬいちはの−あくるやまちに


09885
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旅人は立ちましりてもましはらす市庭もよきぬ里の中道

たひひとは−たちましりても−ましはらす−いちはもよきぬ−さとのなかみち


09886
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あさ衣たれにおれとて行きつるる市のをさめも行いそくらん

あさころも−たれにおれとて−ゆきつるる−いちのをさめも−みちいそくらむ


09887
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あき人もまたおほからて行ふりの雲たちましる峰の朝市

あきひとも−またおほからて−ゆきふりの−くもたちましる−みねのあさいち


09888
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我そ行く市場のかりや人たえて夕からすなく森の下道

われそゆく−いちはのかりや−ひとたえて−ゆふからすなく−もりのしたみち


09889
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草の原市に分けきて立つ民に朝露ゆつる野への旅人

くさのはら−いちにわけきて−たつたみに−あさつゆゆつる−のへのたひひと


09890
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ありへんと市にましりし杣人も玉のをはかりえかたきはなし

ありへむと−いちにましりし−そまひとも−たまのをはかり−えかたきはなし


09891
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我かもつもおもきにかけ駄おひつれて朝市いそく村のさと人

わかもつも−おもきにかけた−おひつれて−あさいちいそく−むらのさとひと


09892
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たちくらし帰る市場のおくの屋に又旅人そあまたやとかる

たちくらし−かへるいちはの−おくのやに−またたひひとそ−あまたやとかる


09893
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山かつも旅行く人をかるの池のかけまてつれていつる朝市

やまかつも−たひゆくひとを−かるのいけの−かけまてつれて−いつるあさいち


09894
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旅人も直なる道をよくはかりかきりしられぬ市女ますらを

たひひとも−すくなるみちを−よくはかり−かきりしられぬ−いちめますらを


09895
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あへの坂おも荷待ちこす市人も哀とおもへ老のくるしさ

あへのさか−おもにもちこす−いちひとも−あはれとおもへ−おいのくるしさ


09896
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浪たかみ嵐おちそふ滝の上にうかふ御舟の山はうこかす

なみたかみ−あらしおちそふ−たきのうへに−うかふみふねの−やまはうこかす


09897
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せきやらて袖におつるやそれならむ我か身も世にそふるの滝浪

せきやらて−そてにおつるや−それならむ−わかみもよにそ−ふるのたきなみ


09898
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おとは山滝のなかれも名にたかき清水もきよき法の寺かな

おとはやま−たきのなかれも−なにたかき−しみつもきよき−のりのてらかな


09899
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いつくよりなかれきにけん日の本も南はなちの海の水かみ

いつくより−なかれきにけむ−ひのもとも−みなみはなちの−うみのみなかみ


09900
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白妙になひくいさこの山かせもあまた落ちそふ布引の滝

しろたへに−なひくいさこの−やまかせも−あまたおちそふ−ぬのひきのたき


09901
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雲井より落ちくる滝の行へとや塩まてたかきなちのうら浪

くもゐより−おちくるたきの−ゆくへとや−しほまてたかき−なちのうらなみ


09902
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事とはむかこの駅路くれわたるさとの煙に高砂の松

こととはむ−かこのうまやち−くれわたる−さとのけふりに−たかさこのまつ


09903
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月の舟せかゐに見ゆるし水のみなかれてかけは行かたもなし

つきのふね−せかゐにみゆる−しみつのみ−なかれてかけは−ゆくかたもなし


09904
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あとそなきたえしなからの橋守にそれもむかしや人わたしけん

あとそなき−たえしなからの−はしもりに−それもむかしや−ひとわたしけむ


09905
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木播ちや此比袖をひつ河の橘はわたらし浪そ涼しき

こはたちや−このころそてを−ひつかはの−はしはわたらし−なみそすすしき


09906
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をりふせし荻の葉たゆる旅ねにもなほ浪はかりあらき浜風

をりふせし−をきのはたゆる−たひねにも−なほなみはかり−あらきはまかせ


09907
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見ぬもうしなにのみ菊の長浜よことしも秋を過しける身を

みぬもうし−なにのみきくの−なかはまよ−ことしもあきを−すくしけるみを


09908
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石見かた岩うつ波にまつたてるこゑもたかつのうら風そ吹く

いはみかた−いはうつなみに−まつたてる−こゑもたかつの−うらかせそふく


09909
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和歌の浦のあしへのたつと老いはてて雲井のひなにこゑそ及はぬ

わかのうらの−あしへのたつと−おいはてて−くもゐのひなに−こゑそおよはぬ


09910
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ことのはをつみてそしらん和かの浦のあまのしほ木のよきもあしきも

ことのはを−つみてそしらむ−わかのうらの−あまのしほきの−よきもあしきも


09911
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住吉のうら浪かけてことの葉の松の林の神やすむらん

すみよしの−うらなみかけて−ことのはの−まつのはやしの−かみやすむらむ


09912
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もしほ草神のましはるちりならはつもりの浦をあまもはらはし

もしほくさ−かみのましはる−ちりならは−つもりのうらを−あまもはらはし


09913
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木のもとも人の心のたねちりぬ松葉かきとれ住吉の神

このもとも−ひとのこころの−たねちりぬ−まつはかきとれ−すみよしのかみ


09914
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よさの海や入塩遠き夕なきに松もこゑせぬあまのはしたて

よさのうみや−いりしほとほき−ゆふなきに−まつもこゑせぬ−あまのはしたて


09915
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うけよ神もくつなからもことの葉はさすかつもりの浦によせきぬ

うけよかみ−もくつなからも−ことのはは−さすかつもりの−うらによせきぬ


09916
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仙人のうゑけん竹やおよはまし千尋の海のあまのたくなは

やまひとの−うゑけむたけや−およはまし−ちひろのうみの−あまのたくなは


09917
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風の音もけに神さひてかたそきの行合ちかし住吉の松

かせのおとも−けにかみさひて−かたそきの−ゆきあひちかし−すみよしのまつ


09918
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和かの浦に五十年の老のなみこえぬ心もよせし松のことのは

わかのうらに−いそちのおいの−なみこえぬ−こころもよせし−まつのことのは


09919
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此法の末はをてらす光あれなうつみし三の箱崎のまつ

こののりの−すゑはをてらす−ひかりあれな−うつみしみつの−はこさきのまつ


09920
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秋歌浦の松のことのはちらはうし苔のみたれて色うつむ比

わかのうらの−まつのことのは−ちらはうし−こけのみたれて−いろうつむころ


09921
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なからふるかひもありけりわかの浦に生ひかはる松の陰にあふまて

なからふる−かひもありけり−わかのうらに−おひかはるまつの−かけにあふまて


09922
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大淀の松にうら風袖ふれぬつらくもあらぬなのみ聞えて

おほよとの−まつにうらかせ−そてふれぬ−つらくもあらぬ−なのみきこえて


09923
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浪にうくたよりもあれや住江の神の見るめを松のことのは

なみにうく−たよりもあれや−すみのえの−かみのみるめを−まつのことのは


09924
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あま小舟玉もなかりそ高しほのみつのはま松末うかふらん

あまをふね−たまもなかりそ−たかしほの−みつのはままつ−すゑうかふらむ


09925
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住よしのうら吹く風にこゑ老いぬいつれの世にか岸のひめ松

すみよしの−うらふくかせに−こゑおいぬ−いつれのよにか−きしのひめまつ


09926
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市人もともに坂こえくたりきてあへの田面にさわくかりかね

いちひとも−ともにさかこえ−くたりきて−あへのたのもに−さわくかりかね


09927
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あへの市にたつ民よりも老の坂くたりての世に住むそくるしき

あへのいちに−たつたみよりも−おいのさか−くたりてのよに−すむそくるしき


09928
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数しらぬ市人よりや立ちこえんあへの田面の秋のほなみは

かすしらぬ−いちひとよりや−たちこえむ−あへのたのもの−あきのほなみは


09929
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つもれともかふ人やなき住吉の浜への松場松のことのは

つもれとも−かふひとやなき−すみよしの−はまへのまつは−まつのことのは


09930
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さ夜の山雲を閨ともたのまれすかりねの嵐袖にこたへて

さよのやま−くもをねやとも−たのまれす−かりねのあらし−そてにこたへて


09931
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みなの川せき入れし小田の秋のほやすそわにあまる浪とみゆらん

みなのかは−せきいれしをたの−あきのほや−すそわにあまる−なみとみゆらむ


09932
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水くきの岡のみなとの田草をもたくもにかくやあまのもしほ火

みつくきの−をかのみなとの−たくさをも−たくもにかくや−あまのもしほひ


09933
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かさぬひのみ島かくれに舟そよるあらくおろすなしはつ山風

かさぬひの−みしまかくれに−ふねそよる−あらくおろすな−しはつやまかせ


09934
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いつのまに友神男神もうまさりし山はふしのね生ひのほりけん

いつのまに−めかみをかみも−うまさりし−やまはふしのね−おひのほりけむ


09935
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心せよこよひは夢もをしほ山ふもとの野への花のかりふし

こころせよ−こよひはゆめも−をしほやま−ふもとののへの−はなのかりふし


09936
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草も木も葉をつくしてそあらはなるいく田の小野の杜の川上

くさもきも−はをつくしてそ−あらはなる−いくたのをのの−もりのかはかみ


09937
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身はかくて朽木の杣木引く綱のたえてくるしき世をやつくさん

みはかくて−くちきのそまき−ひくつなの−たえてくるしき−よをやつくさむ


09938
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うら浪もをののひひきも高島やみをの杣山おろす嵐に

うらなみも−をののひひきも−たかしまや−みをのそまやま−おろすあらしに


09939
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ねをたえてきえぬたつ木もあれぬへし水のかねほるにふの杣山

ねをたえて−きえぬたつきも−あれぬへし−みつのかねほる−にふのそまやま


09940
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清見かた岩こす磯の浦風にさらにや夢もなみの関守

きよみかた−いはこすいその−うらかせに−さらにやゆめも−なみのせきもり


09941
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末の世につたへてそきくあふ坂や関のわら屋の四のをの音

すゑのよに−つたへてそきく−あふさかや−せきのわらやの−よつのをのおと


09942
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浪ちもる須磨の関屋の夕霧に駅の鈴の音はかりして

なみちもる−すまのせきやの−ゆふきりに−うまやのすすの−おとはかりして


09943
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昔こそなほゆかしけれこの比の山路をなとか白川の関

むかしこそ−なほゆかしけれ−このころの−やまちをなとか−しらかはのせき


09944
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よせくるや上野の虫ももろこゑを須磨の関路の秋の鈴舟

よせくるや−うへののむしも−もろこゑを−すまのせきちの−あきのすすふね


09945
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たつた山ふるき梢に鳥そなくもえて幾世の関路なるらん

たつたやま−ふるきこすゑに−とりそなく−もえていくよの−せきちなるらむ


09946
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清見かた岩うつ浪にちる玉の光も夜や関路もるらむ

きよみかた−いはうつなみに−ちるたまの−ひかりもよるや−せきちもるらむ


09947
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さねかつらかけのたれをの長路しるあふ坂山の関の行末

さねかつら−かけのたれをの−なかちしる−あふさかやまの−せきのゆくすゑ


09948
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袖ほしぬ名をはたたすの神風や関吹きこえしすまのうら人

そてほしぬ−なをはたたすの−かみかせや−せきふきこえし−すまのうらひと


09949
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こえ見はやあつま筑紫のはてに行く路のなかはの白川のせき

こえみはや−あつまつくしの−はてにゆく−みちのなかはの−しらかはのせき


09950
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さすかなり宿かすき路の関もりもたつかなき世をかたりあかせは

さすかなり−やとかすきちの−せきもりも−たつかなきよを−かたりあかせは


09951
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関守かたておく夜はのたつかゆみ雲そ朝引くき路の遠山

せきもりか−たておくよはの−たつかゆみ−くもそあさひく−きちのとほやま


09952
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須磨の浦の興に舟かとみしほとの雲や渚の関うつむらん

すまのうらの−おきにふねかと−みしほとの−くもやなきさの−せきうつむらむ


09953
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あふさかやたれか手向のぬさのてをあくる関路の雲に引くらん

あふさかや−たれかたむけの−ぬさのてを−あくるせきちの−くもにひくらむ


09954
未入力 正徹 (xxx)

関屋とて夕の雨にとまるともひさしあれたる不破の山風

せきやとて−ゆふへのあめに−とまるとも−ひさしあれたる−ふはのやまかせ


09955
未入力 正徹 (xxx)

よひよひのたかかよひちそすすか姫関もる山は旅人そゆく

よひよひの−たかかよひちそ−すすかひめ−せきもるやまは−たひひとそゆく


09956
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守りあかす関屋はあれと須暦の浦浪の戸さして過くる舟人

もりあかす−せきやはあれと−すまのうら−なみのとさして−すくるふなひと


09957
未入力 正徹 (xxx)

かへすてふよるの衣の関こゆる夢ちはしるや須磨の関守

かへすてふ−よるのころもの−せきこゆる−ゆめちはしるや−すまのせきもり


09958
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あふ坂の新関守やしらさらん杉の嵐のふるき世の声

あふさかの−にひせきもりや−しらさらむ−すきのあらしの−ふるきよのこゑ


09959
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こえてみん河たれ時の川口や関のあらかき月そへたてぬ

こえてみむ−かはたれときの−かはくちや−せきのあらかき−つきそへたてぬ


09960
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浪の上の雪そたみのの島めくり須磨の関屋は雨の中にて

なみのうへの−ゆきそたみのの−しまめくり−すまのせきやは−あめのうちにて


09961
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すすか川関の戸よりもこえわひぬふり出てし雨の八十瀬しらなみ

すすかかは−せきのとよりも−こえわひぬ−ふりいてしあめの−やそせしらなみ


09962
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遠き世のはまの御祓もけふそかし雨をはしるや須磨の関もり

とほきよの−はまのみそきも−けふそかし−あめをはしるや−すまのせきもり


09963
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関屋にはたく火も見えぬ河口の水の煙やあさけたつらん

せきやには−たくひもみえぬ−かはくちの−みつのけふりや−あさけたつらむ


09964
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夕日さす杉村おほふあふ坂の関守くらきかねのこゑかな

ゆふひさす−すきむらおほふ−あふさかの−せきもりくらき−かねのこゑかな


09965
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木の葉吹くおとそなかるる白河に川なき山の関の秋かせ

このはふく−おとそなかるる−しらかはに−かはなきやまの−せきのあきかせ


09966
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夕浪もすまの山柴音たてて関もる庵にわたるうら風

ゆふなみも−すまのやましは−おとたてて−せきもるいほに−わたるうらかせ


09967
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山人のひろふ爪木になりぬへしこよひをりしく峰の椎柴

やまひとの−ひろふつまきに−なりぬへし−こよひをりしく−みねのしひしは


09968
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なさけしる人もあまたにとひくれは七夜を旅と思ひやはせん

なさけしる−ひともあまたに−とひくれは−ななよをたひと−おもひやはせむ


09969
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宮こ出てて関屋へたたる旅なれと友もわかれす道もほとなし

みやこいてて−せきやへたたる−たひなれと−とももわかれす−みちもほとなし


09970
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ほささりき嵐は袖になかれてもぬるる旅ねの山川のこゑ

ほささりき−あらしはそてに−なかれても−ぬるるたひねの−やまかはのこゑ


09971
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かへりみる形見そ残る夜はの夢わかれし峰にかかる横雲

かへりみる−かたみそのこる−よはのゆめ−わかれしみねに−かかるよこくも


09972
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馬いはひ鶏なきて旅人のいて立つこゑそ里にあまれる

うまいはひ−にはとりなきて−たひひとの−いてたつこゑそ−さとにあまれる


09973
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椎の葉のあられをみてもかれ飯をつつまぬ山につかれてやねん

しひのはの−あられをみても−かれいひを−つつまぬやまに−つかれてやねむ


09974
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峰こゆる山風さむし朝明の雲の衣手たちわかれつつ

みねこゆる−やまかせさむし−あさあけの−くものころもて−たちわかれつつ


09975
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宿もなくむかふ山路に雨おちて木下はらふみねの松風

やともなく−むかふやまちに−あめおちて−このもとはらふ−みねのまつかせ


09976
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おきつ風あらき浪ちの磯つたひ舟におりのりいくかきぬらん

おきつかせ−あらきなみちの−いそつたひ−ふねにおりのり−いくかきぬらむ


09977
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里人はちかき湊にいる舟のこきわかれ行くなみのうへかな

さとひとは−ちかきみなとに−いるふねの−こきわかれゆく−なみのうへかな


09978
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やとるなよ月にそゆるす枕とて草引きむすふ野への夕露

やとるなよ−つきにそゆるす−まくらとて−くさひきむすふ−のへのゆふつゆ


09979
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とまるへき里かと見えて夕煙あまた立出つるをちの村竹

とまるへき−さとかとみえて−ゆふけふり−あまたたちいつる−をちのむらたけ


09980
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とほくとも朝立ちわたれ六の道まはるたにあるせたの長橋

とほくとも−あさたちわたれ−むつのみち−まはるたにある−せたのなかはし


09981
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東路やよこほる山にふせるなりさやにも見はや古郷の夢

あつまちや−よこほるやまに−ふせるなり−さやにもみはや−ふるさとのゆめ


09982
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旅衣袖もたえねと吹く風にさもあらぬ山の夢そやふるる

たひころも−そてもたえねと−ふくかせに−さもあらぬやまの−ゆめそやふるる


09983
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雲まよふ峰の嵐のうきねにも世をうみわたる夢そ覚えぬ

くもまよふ−みねのあらしの−うきねにも−よをうみわたる−ゆめそおほえぬ


09984
未入力 正徹 (xxx)

あらき浪舟のとまうつしつくさへ蓑を衣のさぬるまもなし

あらきなみ−ふねのとまうつ−しつくさへ−みのをころもの−さぬるまもなし


09985
未入力 正徹 (xxx)

つかれきていきのをたえをつく橋にしはしやすらふよもの旅人

つかれきて−いきのをたえを−つくはしに−しはしやすらふ−よものたひひと


09986
未入力 正徹 (xxx)

おも荷もつ息をもいまやつき橋の中にはならひたてる旅人

おもにもつ−いきをもいまや−つきはしの−なかにはならひ−たてるたひひと


09987
未入力 正徹 (xxx)

山もとの村雲うかふ川橋にわたりきえくる今朝のたひ人

やまもとの−むらくもうかふ−かははしに−わたりきえくる−けさのたひひと


09988
未入力 正徹 (xxx)

おもふことしはしもいはぬ旅人のわたりならはぬ橋ほそくして

おもふこと−しはしもいはぬ−たひひとの−わたりならはぬ−はしほそくして


09989
未入力 正徹 (xxx)

わたりくる宮このひかし河橋にすかたまかはぬ遠つ旅人

わたりくる−みやこのひかし−かははしに−すかたまかはぬ−とほつたひひと


09990
未入力 正徹 (xxx)

旅人はわたりましるもしるかりき朝立つ市のまへのたなはし

たひひとは−わたりましるも−しるかりき−あさたついちの−まへのたなはし


09991
未入力 正徹 (xxx)

橋板もいま白河につくるなり宮こにわたれ四方のたひ人

はしいたも−いましらかはに−つくるなり−みやこにわたれ−よものたひひと


09992
未入力 正徹 (xxx)

橋のもとに夏はひらくる花のかを袂にとめてわたる旅人

はしのもとに−なつはひらくる−はなのかを−たもとにとめて−わたるたひひと


09993
未入力 正徹 (xxx)

ぬる床に吹きまく雲を枕にてのほるふもとの嵐をそしく

ぬるとこに−ふきまくくもを−まくらにて−のほるふもとの−あらしをそしく


09994
未入力 正徹 (xxx)

かり枕しつくも雨もさひしきは山下いほのね覚なりけり

かりまくら−しつくもあめも−さひしきは−やましたいほの−ねさめなりけり


09995
未入力 正徹 (xxx)

月のもるすすのしの屋のかや莚さすか心をのふる夜半かな

つきのもる−すすのしのやの−かやむしろ−さすかこころを−のふるよはかな


09996
未入力 正徹 (xxx)

しのはしよなれすてすよき古郷と思ふ宮こもつひの旅ねを

しのはしよ−なれすてすよき−ふるさとと−おもふみやこも−つひのたひねを


09997
未入力 正徹 (xxx)

をののえも朽ちなはくちねかけたのむ我かたつ杣の今夜かりねに

をののえも−くちなはくちね−かけたのむ−わかたつそまの−こよひかりねに


09998
未入力 正徹 (xxx)

足をいたみ出行く宿の朝あけに駒引きつれてたてる旅人

あしをいたみ−いてゆくやとの−あさあけに−こまひきつれて−たてるたひひと


09999
未入力 正徹 (xxx)

雲にたた臥すとそみえむ岩かねのこりしく峰の明くるよそ目は

くもにたた−ふすとそみえむ−いはかねの−こりしくみねの−あくるよそめは


10000
未入力 正徹 (xxx)

かりねする宿のあるしもみすしらてあすの道とふ答をそきく

かりねする−やとのあるしも−みすしらて−あすのみちとふ−こたへをそきく


10001
未入力 正徹 (xxx)

こよひ又わたりかへりて古郷を旅ねの夢に峰のかけはし

こよひまた−わたりかへりて−ふるさとを−たひねのゆめに−みねのかけはし


10002
未入力 正徹 (xxx)

たれならむ物へたてたるあひやとりききしににたる人のこゑこゑ

たれならむ−ものへたてたる−あひやとり−ききしににたる−ひとのこゑこゑ


10003
未入力 正徹 (xxx)

草枕露しく月の宮人はみるらん袖をぬるとつけこせ

くさまくら−つゆしくつきの−みやひとは−みるらむそてを−ぬるとつけこせ


10004
未入力 正徹 (xxx)

我や行くかりねの夢にとへはとて人は旅たつすかたともなし

われやゆく−かりねのゆめに−とへはとて−ひとはたひたつ−すかたともなし


10005
未入力 正徹 (xxx)

岩かねに枝をりかけてふし柴のこるはかりなる嵐をそきく

いはかねに−えたをりかけて−ふししはの−こるはかりなる−あらしをそきく


10006
未入力 正徹 (xxx)

かよひてし夢のたたちも旅なれてさぬるこよひは古郷もみす

かよひてし−ゆめのたたちも−たひなれて−さぬるこよひは−ふるさともみす


10007
未入力 正徹 (xxx)

古郷にかりねの月の宮こ人見てたにつけよこふるね覚を

ふるさとに−かりねのつきの−みやこひと−みてたにつけよ−こふるねさめを


10008
未入力 正徹 (xxx)

われや行く旅ねの嵐ふる郷にふかすは今夜夢のかよひち

われやゆく−たひねのあらし−ふるさとに−ふかすはこよひ−ゆめのかよひち


10009
未入力 正徹 (xxx)

かりねして太山嵐をかたしけはささの枕はたゆる夢かな

かりねして−みやまあらしを−かたしけは−ささのまくらは−たゆるゆめかな


10010
未入力 正徹 (xxx)

旅なからまさしく草の枕をはせぬ夜の袖も露そこほるる

たひなから−まさしくくさの−まくらをは−せぬよのそても−つゆそこほるる


10011
未入力 正徹 (xxx)

風ふかは宮この枕ことつけよ哀ときくやさよの中山

かせふかは−みやこのまくら−ことつけよ−あはれときくや−さよのなかやま


10012
未入力 正徹 (xxx)

旅の空けふはおほえす遠くきぬ跡おふ嵐くたる山路に

たひのそら−けふはおほえす−とほくきぬ−あとおふあらし−くたるやまちに


10013
未入力 正徹 (xxx)

嵐ふく枕の山は木ふかくて床あらはなる草のかりふし

あらしふく−まくらのやまは−こふかくて−とこあらはなる−くさのかりふし


10014
未入力 正徹 (xxx)

宿そもるあすの山路の雨つつみぬれすはありとも猶ややつれん

やとそもる−あすのやまちの−あまつつみ−ぬれすはありとも−なほややつれむ


10015
未入力 正徹 (xxx)

雨のため日比まきもつすか蓑をあけてもふらはときや初めまし

あめのため−ひころまきもつ−すかみのを−あけてもふらは−ときやそめまし


10016
未入力 正徹 (xxx)

雨の夜におきゐて思ふ末もうしあすの深山の坂の下庵

あめのよに−おきゐておもふ−すゑもうし−あすのみやまの−さかのしたいほ


10017
未入力 正徹 (xxx)

思ひやるとほき母その秋風に人なき宿のゆふ暮のあめ

おもひやる−とほきははその−あきかせに−ひとなきやとの−ゆふくれのあめ


10018
未入力 正徹 (xxx)

今朝そうき軒はの川の岩なみに山ちの雨をきかぬ旅ねは

けさそうき−のきはのかはの−いはなみに−やまちのあめを−きかぬたひねは


10019
未入力 正徹 (xxx)

いかかねん夕の宿をかし捨てて人はふりきぬ雨はふりきぬ

いかかねむ−ゆふへのやとを−かしすてて−ひとはふりきぬ−あめはふりきぬ


10020
未入力 正徹 (xxx)

君はしれ夜ことの夢に我見えは宮こにねても旅に出てぬと

きみはしれ−よことのゆめに−われみえは−みやこにねても−たひにいてぬと


10021
未入力 正徹 (xxx)

夢やみんあらき浜への浜荻を折りふせさぬるなみの枕は

ゆめやみむ−あらきはまへの−はまをきを−をりふせさぬる−なみのまくらは


10022
未入力 正徹 (xxx)

宮こにも見るらんものを枕よりまくらはかけよ夢の浮橋

みやこにも−みるらむものを−まくらより−まくらはかけよ−ゆめのうきはし


10023
未入力 正徹 (xxx)

椎の葉もしらぬ山路の宿かけて夢そたえ行くうちの河風

しひのはも−しらぬやまちの−やとかけて−ゆめそたえゆく−うちのかはかせ


10024
未入力 正徹 (xxx)

たのむ夜のささの枕の夢覚めて後そふしうきかたしきの袖

たのむよの−ささのまくらの−ゆめさめて−のちそふしうき−かたしきのそて


10025
未入力 正徹 (xxx)

海山もさらに思ひそつつけえぬさめて忘るる夢路のみかは

うみやまも−さらにおもひそ−つつけえぬ−さめてわするる−ゆめちのみかは


10026
未入力 正徹 (xxx)

うつなみの枕うこかしきよみかたいその岩ほにかへる夢かな

うつなみの−まくらうこかし−きよみかた−いそのいはほに−かへるゆめかな


10027
未入力 正徹 (xxx)

まとろむもさこそは旅の空ならめ見る夢なくてさむる床かな

まとろむも−さこそはたひの−そらならめ−みるゆめなくて−さむるとこかな


10028
未入力 正徹 (xxx)

とほくみぬ夢の末野の道たえて枕の草に月そおちくる

とほくみぬ−ゆめのすゑのの−みちたえて−まくらのくさに−つきそおちくる


10029
未入力 正徹 (xxx)

庵ちかき野守のかかみ影すみて明行く山にくもるかねかな

いほちかき−のもりのかかみ−かけすみて−あけゆくやまに−くもるかねかな


10030
未入力 正徹 (xxx)

聞くままに我か里なれし夜半もにす鐘さへひなの声そかはれる

きくままに−わかさとなれし−よはもにす−かねさへひなの−こゑそかはれる


10031
未入力 正徹 (xxx)

松の葉の月やをしまにこゑすなりいその旅ねの明かたのかね

まつのはの−つきやをしまに−こゑすなり−いそのたひねの−あけかたのかね


10032
未入力 正徹 (xxx)

在明のかけもわかれぬたもとかな月もかりねの山ふかくして

ありあけの−かけもわかれぬ−たもとかな−つきもかりねの−やまふかくして


10033
未入力 正徹 (xxx)

したひてや朝立ちきなん古郷の見えこし夢をやとにととめは

したひてや−あさたちきなむ−ふるさとの−みえこしゆめを−やとにととめは


10034
未入力 正徹 (xxx)

太山路やこよひの宿を木の本にかし鳥なきてあくるしののめ

みやまちや−こよひのやとを−このもとに−かしとりなきて−あくるしののめ


10035
未入力 正徹 (xxx)

明けぬるか入江の磯に馬すすみ舟いてうかふ里とよむまて

あけぬるか−いりえのいそに−うますすみ−ふねいてうかふ−さととよむまて


10036
未入力 正徹 (xxx)

露けさを宮こにつけよ野への風草の枕にかかる月影

つゆけさを−みやこにつけよ−のへのかせ−くさのまくらに−かかるつきかけ


10037
未入力 正徹 (xxx)

たたたのめさせもか露の草枕やととしめちか原の松かせ

たたたのめ−させもかつゆの−くさまくら−やととしめちか−はらのまつかせ


10038
未入力 正徹 (xxx)

袖しをる野へのかりほの草莚夢はおもひもかけぬ露かな

そてしをる−のへのかりほの−くさむしろ−ゆめはおもひも−かけぬつゆかな


10039
未入力 正徹 (xxx)

露たにもよもいとはれしかけかくす野守か庵に宿をからすは

つゆたにも−よもいとはれし−かけかくす−のもりかいほに−やとをからすは


10040
未入力 正徹 (xxx)

やとりなき野原を遠み枕ゆふ草葉いかなる契なるらん

やとりなき−のはらをとほみ−まくらゆふ−くさはいかなる−ちきりなるらむ


10041
未入力 正徹 (xxx)

古郷をさやかに見せよかりねする野守のかかみ夢ならすとも

ふるさとを−さやかにみせよ−かりねする−のもりのかかみ−ゆめならすとも


10042
未入力 正徹 (xxx)

いた枕まくらに草はむすはねと野風たまらぬ道のへの宿

いたまくら−まくらにくさは−むすはねと−のかせたまらぬ−みちのへのやと


10043
未入力 正徹 (xxx)

露はらふのへの荻原折りふせて夢路そさらにあらき浜風

つゆはらふ−のへのをきはら−をりふせて−ゆめちそさらに−あらきはまかせ


10044
未入力 正徹 (xxx)

旅ねせむ秋は大野に尾花ふくかりほの袖をかたみなるらん

たひねせむ−あきはおほのに−をはなふく−かりほのそてを−かたみなるらむ


10045
未入力 正徹 (xxx)

袖の露うつろふ夢のやとりさへあたの大野の荻のかりふき

そてのつゆ−うつろふゆめの−やとりさへ−あたのおほのの−をきのかりふき


10046
未入力 正徹 (xxx)

風さやくすすの篠屋に夢覚めて隙もるみれは月かたふきぬ

かせさやく−すすのしのやに−ゆめさめて−ひまもるみれは−つきかたふきぬ


10047
未入力 正徹 (xxx)

宿とはむしるへやそれとあつま野のけふりをみれは松風そ吹く

やととはむ−しるへやそれと−あつまのの−けふりをみれは−まつかせそふく


10048
未入力 正徹 (xxx)

露わけむすすのしの屋のかりの戸をまた明けぬよの袖そしをるる

つゆわけむ−すすのしのやの−かりのとを−またあけぬよの−そてそしをるる


10049
未入力 正徹 (xxx)

旅衣嵐を袖のやとりにて夕こえかかるさやの中やま

たひころも−あらしをそての−やとりにて−ゆふこえかかる−さやのなかやま


10050
未入力 正徹 (xxx)

かへりみる煙のすゑもあつまのの草葉にかかる露の下道

かへりみる−けふりのすゑも−あつまのの−くさはにかかる−つゆのしたみち


10051
未入力 正徹 (xxx)

とほくきて今夜いかなる宿からんひな行く里そみしにまされる

とほくきて−こよひいかなる−やとからむ−ひなゆくさとそ−みしにまされる


10052
未入力 正徹 (xxx)

うちわたす遠かた人の旅衣日も夕くれの宿やとふらん

うちわたす−をちかたひとの−たひころも−ひもゆふくれの−やとやとふらむ


10053
未入力 正徹 (xxx)

雲かへる夕の峰をこえそ行く袖ふれにきと人につけこせ

くもかへる−ゆふへのみねを−こえそゆく−そてふれにきと−ひとにつけこせ


10054
未入力 正徹 (xxx)

袖やひん袖やぬらさむうみ山の旅ねもしらぬ道の夕風

そてやひむ−そてやぬらさむ−うみやまの−たひねもしらぬ−みちのゆふかせ


10055
未入力 正徹 (xxx)

おもはしなたとへは行くもととまるも此世は旅の空のうき雲

おもはしな−たとへはゆくも−ととまるも−このよはたひの−そらのうきくも


10056
未入力 正徹 (xxx)

出ててこし古郷人やしたふらん袖吹きかへす道の山かせ

いててこし−ふるさとひとや−したふらむ−そてふきかへす−みちのやまかせ


10057
未入力 正徹 (xxx)

旅人もけにそまれなる玉ほこの道行ふりも安からぬ世に

たひひとも−けにそまれなる−たまほこの−みちゆきふりも−やすからぬよに


10058
未入力 正徹 (xxx)

空にたつ日数も山もかさなりぬちりつもるらん古郷の床

そらにたつ−ひかすもやまも−かさなりぬ−ちりつもるらむ−ふるさとのとこ


10059
未入力 正徹 (xxx)

ぬれてねん野へは麓そかり衣日も夕露の峰のかけ草

ぬれてねむ−のへはふもとそ−かりころも−ひもゆふつゆの−みねのかけくさ


10060
未入力 正徹 (xxx)

嶺こゆる袖の下よりつき出すかねや千さとの暮おほふらん

みねこゆる−そてのしたより−つきいたす−かねやちさとの−くれおほふらむ


10061
未入力 正徹 (xxx)

いつくまて友なへとてか横雲の朝立つ山に鐘おくるらん

いつくまて−ともなへとてか−よこくもの−あさたつやまに−かねおくるらむ


10062
未入力 正徹 (xxx)

夕ま暮舟はつなきて人もなし此川原にや旅枕せん

ゆふまくれ−ふねはつなきて−ひともなし−このかはらにや−たひまくらせむ


10063
未入力 正徹 (xxx)

日暮れたりいさまちつれん山路より遠かた人の袖のちかつく

ひくれたり−いさまちつれむ−やまちより−をちかたひとの−そてのちかつく


10064
未入力 正徹 (xxx)

わするなよ舟まつほとの川岸にことかたらふも世世の契を

わするなよ−ふねまつほとの−かはきしに−ことかたらふも−よよのちきりを


10065
未入力 正徹 (xxx)

わするなよ旅行く袖の村雨を送る一木のもとの契りは

わするなよ−たひゆくそての−むらさめを−おくるひときの−もとのちきりは


10066
未入力 正徹 (xxx)

こととひてけふまてつれつ古郷にならひの村をいてし旅人

こととひて−けふまてつれつ−ふるさとに−ならひのむらを−いてしたひひと


10067
未入力 正徹 (xxx)

太山路やあらそひつるる雲鳥の友もわかるる夕暮ののへ

みやまちや−あらそひつるる−くもとりの−とももわかるる−ゆふくれののへ


10068
未入力 正徹 (xxx)

露しかは袖にやとかれ草の原ゆふ暮おくるのへの月影

つゆしかは−そてにやとかれ−くさのはら−ゆふくれおくる−のへのつきかけ


10069
未入力 正徹 (xxx)

浪枕うきねの床におもふかな年ふるあまのたゆる心を

なみまくら−うきねのとこに−おもふかな−としふるあまの−たゆるこころを


10070
未入力 正徹 (xxx)

友舟のきしる湊のかり枕浪こそかけねねんかたもなし

ともふねの−きしるみなとの−かりまくら−なみこそかけね−ねむかたもなし


10071
未入力 正徹 (xxx)

みなと舟みつしほたかく磯こえきうきねにもあらぬ松の下ふし

みなとふね−みつしほたかく−いそこえき−うきねにもあらぬ−まつのしたふし


10072
未入力 正徹 (xxx)

舟人もやまとにはあらぬからろをやおしあけかたのとまり出つらん

ふなひとも−やまとにはあらぬ−からろをや−おしあけかたの−とまりいつらむ


10073
未入力 正徹 (xxx)

人の世は朝にむまれ夕暮に命かけたるむしあけのせと

ひとのよは−あしたにうまれ−ゆふくれに−いのちかけたる−むしあけのせと


10074
未入力 正徹 (xxx)

いかかねんなころに成りて大舟の下行く浪は山とこえつつ

いかかねむ−なころになりて−おほふねの−したゆくなみは−やまとこえつつ


10075
未入力 正徹 (xxx)

すみわふる身はうつせみのから泊うきたる舟や此世なるらん

すみわふる−みはうつせみの−からとまり−うきたるふねや−このよなるらむ


10076
未入力 正徹 (xxx)

ならはすよこよひよりもの枕して袖うつ浪にいその丸ねは

ならはすよ−こよひよりもの−まくらして−そてうつなみに−いそのまろねは


10077
未入力 正徹 (xxx)

こよひ猶月にむかひてとるかちの雲の波間に舟やとまらん

こよひなほ−つきにむかひて−とるかちの−くものなみまに−ふねやとまらむ


10078
未入力 正徹 (xxx)

みなと川入江に舟をととむれは月としほとそさしのはり行く

みなとかは−いりえにふねを−ととむれは−つきとしほとそ−さしのはりゆく


10079
未入力 正徹 (xxx)

浪にさへ夜舟たたよふみなと川夢をしみはと松風そふく

なみにさへ−よふねたたよふ−みなとかは−ゆめをしみはと−まつかせそふく


10080
未入力 正徹 (xxx)

大舟のともかちおろせみなと風浪あらからて追手ふくなり

おほふねの−ともかちおろせ−みなとかせ−なみあらからて−おひてふくなり


10081
未入力 正徹 (xxx)

ききなやむはま松風のたゆむまにしひてや夢をみつの浦舟

ききなやむ−はままつかせの−たゆむまに−しひてやゆめを−みつのうらふね


10082
未入力 正徹 (xxx)

声おくれ浪のしらへもからことのとまりし磯にのこる松かせ

こゑおくれ−なみのしらへも−からことの−とまりしいそに−のこるまつかせ


10083
未入力 正徹 (xxx)

苔莚松かね立ちてむしあけのせとのしほせにとまる舟人

こけむしろ−まつかねたちて−むしあけの−せとのしほせに−とまるふなひと


10084
未入力 正徹 (xxx)

ともすへき舟もあふらも夏の日の浜の真砂をむしあけのせと

ともすへき−ふねもあふらも−なつのひの−はまのまさこを−むしあけのせと


10085
未入力 正徹 (xxx)

舟つなくむしあけのせとの松の陰うつなみくらき夜はの塩風

ふねつなく−むしあけのせとの−まつのかけ−うつなみくらき−よはのしほかせ


10086
未入力 正徹 (xxx)

しほさゐにかもめ鳴きたつみなと舟月にそならふあけぬ此夜は

しほさゐに−かもめなきたつ−みなとふね−つきにそならふ−あけぬこのよは


10087
未入力 正徹 (xxx)

浪こゆるうきねの袖のみなと川夢を見るめははやくかれつつ

なみこゆる−うきねのそての−みなとかは−ゆめをみるめは−はやくかれつつ


10088
未入力 正徹 (xxx)

やとりかる湊のさとの川橋にともつなかけておるる舟人

やとりかる−みなとのさとの−かははしに−ともつなかけて−おるるふなひと


10089
未入力 正徹 (xxx)

大舟のうちにもやとをかり屋かたうつ雨せはき床におりゐて

おほふねの−うちにもやとを−かりやかた−うつあめせはき−とこにおりゐて


10090
未入力 正徹 (xxx)

しけぬきしまかちを浪の枕とや夢ちもはやくとほさかるらん

しけぬきし−まかちをなみの−まくらとや−ゆめちもはやく−とほさかるらむ


10091
未入力 正徹 (xxx)

磯まくら浪に月おち鳥なくもまた面影のさ夜中のかね

いそまくら−なみにつきおち−とりなくも−またおもかけの−さよなかのかね


10092
未入力 正徹 (xxx)

舟とむるむしあけのせとの波風にいかなる夢を松のしたかけ

ふねとむる−むしあけのせとの−なみかせに−いかなるゆめを−まつのしたかけ


10093
未入力 正徹 (xxx)

舟にては山にねまほし古郷の夢をほかなみゆられあかして

ふねにては−やまにねまほし−ふるさとの−ゆめをほかなみ−ゆられあかして


10094
未入力 正徹 (xxx)

浪のおと松かえかけてしをるなりいかなる夢をみつのはま風

なみのおと−まつかえかけて−しをるなり−いかなるゆめを−みつのはまかせ


10095
未入力 正徹 (xxx)

興つ舟おろすいかりのいかにねてたゆたふ浪にかへる夢路そ

おきつふね−おろすいかりの−いかにねて−たゆたふなみに−かへるゆめちそ


10096
未入力 正徹 (xxx)

ひとりぬる夢ちはさけし東路のわたりにもあらぬさののさと人

ひとりぬる−ゆめちはさけし−あつまちの−わたりにもあらぬ−さののさとひと


10097
未入力 正徹 (xxx)

心せようきねの夜はに見し夢やあし屋のなたのあらき浜風

こころせよ−うきねのよはに−みしゆめや−あしやのなたの−あらきはまかせ


10098
未入力 正徹 (xxx)

ぬるひまもなみを枕になれきてし磯のうら人しはし夢かせ

ぬるひまも−なみをまくらに−なれきてし−いそのうらひと−しはしゆめかせ


10099
未入力 正徹 (xxx)

古郷にかよふ心のうき枕浪にひかれてかへる夢かな

ふるさとに−かよふこころの−うきまくら−なみにひかれて−かへるゆめかな


10100
未入力 正徹 (xxx)

覚めなるるうきねの夢も牛まとに時しる浪を鼓とやせん

さめなるる−うきねのゆめも−うしまとに−ときしるなみを−つつみとやせむ


10101
未入力 正徹 (xxx)

月そ入るやまとにもあらぬから舟にいまもろこしの夢やみるらん

つきそいる−やまとにもあらぬ−からふねに−いまもろこしの−ゆめやみるらむ


10102
未入力 正徹 (xxx)

みなと舟うきねの夢に入るなみのかへるやぬるる枕なるらん

みなとふね−うきねのゆめに−いるなみの−かへるやぬるる−まくらなるらむ


10103
未入力 正徹 (xxx)

わたりても行へしらなみかけたえぬおき中川の夢の浮橋

わたりても−ゆくへしらなみ−かけたえぬ−おきなかかはの−ゆめのうきはし


10104
未入力 正徹 (xxx)

浪枕たゆたふ磯のとま屋かたこよひやかりて夢を待ちみん

なみまくら−たゆたふいその−とまやかた−こよひやかりて−ゆめをまちみむ


10105
未入力 正徹 (xxx)

山陰に入りし小舟のうき枕やかてかちちにかかる夢かな

やまかけに−いりしをふねの−うきまくら−やかてかちちに−かかるゆめかな


10106
未入力 正徹 (xxx)

松風はさやけき浪の沈にてとほさかり行くむしあけの夢

まつかせは−さやけきなみの−まくらにて−とほさかりゆく−むしあけのゆめ


10107
未入力 正徹 (xxx)

かちとらむかたやいつこも白なみの立ちくる磯に夜を重ねつつ

かちとらむ−かたやいつこも−しらなみの−たちくるいそに−よをかさねつつ


10108
未入力 正徹 (xxx)

いく夜さてとまる小舟そ追風にならすはおもふ袖のなみかは

いくよさて−とまるをふねそ−おひかせに−ならすはおもふ−そてのなみかは


10109
未入力 正徹 (xxx)

興つ風追手まつまの湊舟梶こそふるき枕なりけれ

おきつかせ−おひてまつまの−みなとふね−かちこそふるき−まくらなりけれ


10110
未入力 正徹 (xxx)

在明の月をそくたくうき枕夢をはかなみよする渚に

ありあけの−つきをそくたく−うきまくら−ゆめをはかなみ−よするなきさに


10111
未入力 正徹 (xxx)

浪枕おろすいかりも大舟のなほもたゆたふ有明の月

なみまくら−おろすいかりも−おほふねの−なほもたゆたふ−ありあけのつき


10112
未入力 正徹 (xxx)

むしあけの松のけふりを見あてにて浪のぬるみによする舟人

むしあけの−まつのけふりを−みあてにて−なみのぬるみに−よするふなひと


10113
未入力 正徹 (xxx)

淡路かたもとの追手にかへるまて舟にまへほのうら風もうし

あはちかた−もとのおひてに−かへるまて−ふねにまへほの−うらかせもうし


10114
未入力 正徹 (xxx)

あひおもふ中にそしらぬ浦風のかはるをまつは舟路なりけり

あひおもふ−なかにそしらぬ−うらかせの−かはるをまつは−ふなちなりけり


10115
未入力 正徹 (xxx)

舟の中をおき出ててきけは音あらきむしあけの浪に松風そ吹く

ふねのうちを−おきいててきけは−おとあらき−むしあけのなみに−まつかせそふく


10116
未入力 正徹 (xxx)

こよひ身はもにすむ虫そあまふねのとまこす浪に心くたけて

こよひみは−もにすむむしそ−あまふねの−とまこすなみに−こころくたけて


10117
未入力 正徹 (xxx)

みなと風おろすいかりやかろからむ枕の浪に舟そたゆたふ

みなとかせ−おろすいかりや−かろからむ−まくらのなみに−ふねそたゆたふ


10118
未入力 正徹 (xxx)

室の戸や数かきりなく入る舟に夕なみきかぬいその松かせ

むろのとや−かすかきりなく−いるふねに−ゆふなみきかぬ−いそのまつかせ


10119
未入力 正徹 (xxx)

大船のつかふはし舟いとまなみみなとの里にいくかへりせん

おほふねの−つかふはしふね−いとまなみ−みなとのさとに−いくかへりせむ


10120
未入力 正徹 (xxx)

入江なみまた漕きさらぬ山本の松にわかれてあけのそほ舟

いりえなみ−またこきさらぬ−やまもとの−まつにわかれて−あけのそほふね


10121
未入力 正徹 (xxx)

いかりなはこよひおろさしなこり浪なきたる興にとまる舟人

いかりなは−こよひおろさし−なこりなみ−なきたるおきに−とまるふなひと


10122
未入力 正徹 (xxx)

塩風も心はなきぬ舟にこそおろすいかりの縄のうら人

しほかせも−こころはなきぬ−ふねにこそ−おろすいかりの−なはのうらひと


10123
未入力 正徹 (xxx)

くる舟に火をあはすとやむしあけの松のけふりも暮れてみゆらん

くるふねに−ひをあはすとや−むしあけの−まつのけふりも−くれてみゆらむ


10124
未入力 正徹 (xxx)

興かけて夕なみくらし湊風舟ことにたく煙みたれて

おきかけて−ゆふなみくらし−みなとかせ−ふねことにたく−けふりみたれて


10125
未入力 正徹 (xxx)

友君の思ひのけふりたく柴にしはしもよすな室の舟人

ともきみの−おもひのけふり−たくしはに−しはしもよすな−むろのふなひと


10126
未入力 正徹 (xxx)

うちもねぬあかせは明けぬ湊舟とまもる雨に蓑をかさねて

うちもねぬ−あかせはあけぬ−みなとふね−とまもるあめに−みのをかさねて


10127
未入力 正徹 (xxx)

しられまし音せぬ苫の雨そそき窓うつなみのあらくもらすは

しられまし−おとせぬとまの−あまそそき−まとうつなみの−あらくもらすは


10128
未入力 正徹 (xxx)

かへらめやさかしき山に日比へておとろへまさるひなの長路を

かへらめや−さかしきやまに−ひころへて−おとろへまさる−ひなのなかちを


10129
未入力 正徹 (xxx)

ゆかすともひなの長路に事よせておとろふる身をとははこたへん

ゆかすとも−ひなのなかちに−ことよせて−おとろふるみを−とははこたへむ


10130
未入力 正徹 (xxx)

こえわひぬ夜ふかき雲の足柄や行末くらき竹の下道

こえわひぬ−よふかきくもの−あしからや−ゆくすゑくらき−たけのしたみち


10131
未入力 正徹 (xxx)

峰の雲ふもとの浪に袖ふれていく関こえぬき路の遠山

みねのくも−ふもとのなみに−そてふれて−いくせきこえぬ−きちのとほやま


10132
未入力 正徹 (xxx)

分けつくす山おりくたり磯つたひかくても旅の道やはるけき

わけつくす−やまおりくたり−いそつたひ−かくてもたひの−みちやはるけき


10133
未入力 正徹 (xxx)

ととまらん行くをかきりの宿かさは思はすしらぬ野山なりとも

ととまらむ−ゆくをかきりの−やとかさは−おもはすしらぬ−のやまなりとも


10134
未入力 正徹 (xxx)

友とのみ松の柱に竹の恒心ある宿はたひねともなし

ともとのみ−まつのはしらに−たけのかき−こころあるやとは−たひねともなし


10135
未入力 正徹 (xxx)

宿そなき峰の椎柴行ふりにいさ折りかけんこん人のため

やとそなき−みねのしひしは−ゆきふりに−いさをりかけむ−こむひとのため


10136
未入力 正徹 (xxx)

おりのほる雲やくるしき道ならぬ岩さく峰の袖の夕露

おりのほる−くもやくるしき−みちならぬ−いはさくみねの−そてのゆふつゆ


10137
未入力 正徹 (xxx)

しるかりき里かよひしてましれとも旅行く人のあよむ姿は

しるかりき−さとかよひして−ましれとも−たひゆくひとの−あよむすかたは


10138
未入力 正徹 (xxx)

行く舟のとほき浪路にちりくるや日も夕塩のぬさの追風

ゆくふねの−とほきなみちに−ちりくるや−ひもゆふしほの−ぬさのおひかせ


10139
未入力 正徹 (xxx)

物いはて行くも都の旅人はあまたの中にかはりやはせぬ

ものいはて−ゆくもみやこの−たひひとは−あまたのなかに−かはりやはせぬ


10140
未入力 正徹 (xxx)

をりかけし真柴の上に雲そふす立ちかへりみる峰や夜ふかき

をりかけし−ましはのうへに−くもそふす−たちかへりみる−みねやよふかき


10141
未入力 正徹 (xxx)

さともなく椎のはたのむかれ飯もたよりすくなき野への夕暮

さともなく−しひのはたのむ−かれいひも−たよりすくなき−のへのゆふくれ


10142
未入力 正徹 (xxx)

かはらしな行くもとまるも旅たつになりぬる宿の床のまろねは

かはらしな−ゆくもとまるも−たひたつに−なりぬるやとの−とこのまろねは


10143
未入力 正徹 (xxx)

あさゆくもくるしき民のかまと山煙たててそ哀をも見る

あさゆくも−くるしきたみの−かまとやま−けふりたててそ−あはれをもみる


10144
未入力 正徹 (xxx)

跡になす古郷人はうらむらんのる駒いはふ山の北かせ

あとになす−ふるさとひとは−うらむらむ−のるこまいはふ−やまのきたかせ


10145
未入力 正徹 (xxx)

山のはにまた日はたかし此里を杉たつ遠に宿やからまし

やまのはに−またひはたかし−このさとを−すきたつをちに−やとやからまし


10146
未入力 正徹 (xxx)

羽をよわみ真砂におつる鳥の子のひなの長浜足もつかれて

はをよわみ−まさこにおつる−とりのこの−ひなのなかはま−あしもつかれて


10147
未入力 正徹 (xxx)

磯つたひとほき日をふる浪あれていととぬれますかたつ袖かな

いそつたひ−とほきひをふる−なみあれて−いととぬれます−かたつそてかな


10148
未入力 正徹 (xxx)

東よりつくし過くるも日本ははなれこしまそもろこしの国

あつまより−つくしすくるも−ひのもとは−はなれこしまそ−もろこしのくに


10149
未入力 正徹 (xxx)

木の下は笠うつ雨のしつくさへたかくそこゆるみのの中山

このもとは−かさうつあめの−しつくさへ−たかくそこゆる−みののなかやま


10150
未入力 正徹 (xxx)

わするらんもとの覚の都をは立たすよ六の道の旅人

わするらむ−もとのさとりの−みやこをは−たたすよむつの−みちのたひひと


10151
未入力 正徹 (xxx)

宿あらはたれまちとらむくるるよの嵐も月も送る山ちに

やとあらは−たれまちとらむ−くるるよの−あらしもつきも−おくるやまちに


10152
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらす夕の雨に宿なくはいなのかるもの枕はかりや

そてぬらす−ゆふへのあめに−やとなくは−いなのかるもの−まくらはかりや


10153
未入力 正徹 (xxx)

たかせ山坂こえはてて見くたせははてなき海にふしのしら雪

たかせやま−さかこえはてて−みくたせは−はてなきうみに−ふしのしらゆき


10154
未入力 正徹 (xxx)

こととひてこよひ旅ねの山みれはくれぬたかねに雲そまつゐる

こととひて−こよひたひねの−やまみれは−くれぬたかねに−くもそまつゐる


10155
未入力 正徹 (xxx)

夢もゆけ宮この人のことのねに関もる松の風もかよはは

ゆめもゆけ−みやこのひとの−ことのねに−せきもるまつの−かせもかよはは


10156
未入力 正徹 (xxx)

かり枕涙のうちに見るとつけて都にくもれたたいまの月

かりまくら−なみたのうちに−みるとつけて−みやこにくもれ−たたいまのつき


10157
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つもる日をすみた河原にかそへても遠きそ宮こ鳥は思はす

つもるひを−すみたかはらに−かそへても−とほきそみやこ−とりはおもはす


10158
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日にそむるおもひの色をそれとみよ夕の雲の下の宮こに

ひにそむる−おもひのいろを−それとみよ−ゆふへのくもの−したのみやこに


10159
未入力 正徹 (xxx)

松陰のいそのかりねを立ちゆけは朝しほむかひたつ鳴きわたる

まつかけの−いそのかりねを−たちゆけは−あさしほむかひ−たつなきわたる


10160
未入力 正徹 (xxx)

こしほとの道をは末にのこしおきてかたふかぬ日にむかふかれ飯

こしほとの−みちをはすゑに−のこしおきて−かたふかぬひに−むかふかれいひ


10161
未入力 正徹 (xxx)

まなひえてくらからぬ人も名はかりは問ひてそこえん文字の関もり

まなひえて−くらからぬひとも−なはかりは−とひてそこえむ−もしのせきもり


10162
未入力 正徹 (xxx)

関こえきこよひ枕をそはたてて嵐をききし須磨の浦なみ

せきこえき−こよひまくらを−そはたてて−あらしをききし−すまのうらなみ


10163
未入力 正徹 (xxx)

日をへつつ旅なる宿をとふ友のなさけそあつき春のさ衣

ひをへつつ−たひなるやとを−とふともの−なさけそあつき−はるのさころも


10164
未入力 正徹 (xxx)

いく世まて野山の露の古郷をしのふの衣みたれつつねん

いくよまて−のやまのつゆの−ふるさとを−しのふのころも−みたれつつねむ


10165
未入力 正徹 (xxx)

旅衣しほれきにけり行末にこえはそほさんあまのかく山

たひころも−しほれきにけり−ゆくすゑに−こえはそほさむ−あまのかくやま


10166
未入力 正徹 (xxx)

いもにこひ秋さり衣ひもとかて旅ねやせましむこの山かせ

いもにこひ−あきさりころも−ひもとかて−たひねやせまし−むこのやまかせ


10167
未入力 正徹 (xxx)

岩ねふみ木下わけし山風に夢も衣もやふれてそぬる

いはねふみ−このもとわけし−やまかせに−ゆめもころもも−やふれてそぬる


10168
未入力 正徹 (xxx)

さととほみたつや煙をしをりにてくたる山ちの暮そまよはね

さととほみ−たつやけふりを−しをりにて−くたるやまちの−くれそまよはね


10169
未入力 正徹 (xxx)

くれぬまにきの川長かみなれさをさしてや末の山路いそかん

くれぬまに−きのかはをさか−みなれさを−さしてやすゑの−やまちいそかむ


10170
未入力 正徹 (xxx)

わたりてもくるしかるらんになひもつこや旅人のひつ川のはし

わたりても−くるしかるらむ−になひもつ−こやたひひとの−ひつかはのはし


10171
未入力 正徹 (xxx)

八橋やわたらぬ川も袖ぬれぬくもてにとほきみち芝の露

やつはしや−わたらぬかはも−そてぬれぬ−くもてにとほき−みちしはのつゆ


10172
未入力 正徹 (xxx)

旅人の行きちかはれぬ一はしわたりかへりて渡るをそまつ

たひひとの−ゆきちかはれぬ−ひとつはし−わたりかへりて−わたるをそまつ


10173
未入力 正徹 (xxx)

しる人そおもひもかけすのりましるまちしむかひの川岸の舟

しるひとそ−おもひもかけす−のりましる−まちしむかひの−かはきしのふね


10174
未入力 正徹 (xxx)

枕とも袖折りふせむ下もゆる春の旅ねのいせのはま荻

まくらとも−そてをりふせむ−したもゆる−はるのたひねの−いせのはまをき


10175
未入力 正徹 (xxx)

坂くたる前の入うみ舟もなし浪よるそはや浜路なるらん

さかくたる−まへのいりうみ−ふねもなし−なみよるそはや−はまちなるらむ


10176
未入力 正徹 (xxx)

いかかねん枕むすはん下草もなきさの杜はまさこ路にして

いかかねむ−まくらむすはむ−したくさも−なきさのもりは−まさこちにして


10177
未入力 正徹 (xxx)

枕とも結ひてこよひなみなれんさとはなきさのもりの下草

まくらとも−むすひてこよひ−なみなれむ−さとはなきさの−もりのしたくさ


10178
未入力 正徹 (xxx)

夜の雨にきそちのふせやもりぬれてあさ衣さむし哀此旅

よるのあめに−きそちのふせや−もりぬれて−あさきぬさむし−あはれこのたひ


10179
未入力 正徹 (xxx)

老か世は旅のかり屋に駒いはへ庭鳥なきて門ひらくまそ

おいかよは−たひのかりやに−こまいはへ−にはとりなきて−かとひらくまそ


10180
未入力 正徹 (xxx)

いはひつつすてに夜ふかく旅立ちぬこれそまことの馬のはなむけ

いはひつつ−すてによふかく−たひたちぬ−これそまことの−うまのはなむけ


10181
未入力 正徹 (xxx)

行きかへりまつともつけよ立別れいなはの山は関路ともなし

ゆきかへり−まつともつけよ−たちわかれ−いなはのやまは−せきちともなし


10182
未入力 正徹 (xxx)

行末のしらぬ別も宿いてし袖にかさなる峰のよこ雲

ゆくすゑの−しらぬわかれも−やといてし−そてにかさなる−みねのよこくも


10183
未入力 正徹 (xxx)

のこる日も松を隔てて入るうみの浪にたゆたふおきつ舟人

のこるひも−まつをへたてて−いるうみの−なみにたゆたふ−おきつふなひと


10184
未入力 正徹 (xxx)

紙屋川枕の浪に夢覚めて西なる山の月をみるかな

かみやかは−まくらのなみに−ゆめさめて−にしなるやまの−つきをみるかな


10185
未入力 正徹 (xxx)

浪にゐる雲にそきゆるわたの原おきつ塩合の淡路島山

なみにゐる−くもにそきゆる−わたのはら−おきつしほあひの−あはちしまやま


10186
未入力 正徹 (xxx)

おちかかる入日の下の山のはをこえてまちとるおきつ白浪

おちかかる−いりひのしたの−やまのはを−こえてまちとる−おきつしらなみ


10187
未入力 正徹 (xxx)

年年の春の草葉はかはるとも忘れしものを住吉の岸

としとしの−はるのくさはは−かはるとも−わすれしものを−すみよしのきし


10188
未入力 正徹 (xxx)

わすれめや峰の入日も立ちのほり雲ふみならす山のくれ橋

わすれめや−みねのいりひも−たちのほり−くもふみならす−やまのくれはし


10189
未入力 正徹 (xxx)

興遠き雲まの小舟浪路にも夕の鳥の帰るとそみる

おきとほき−くもまのをふね−なみちにも−ゆふへのとりの−かへるとそみる


10190
未入力 正徹 (xxx)

かささきのわたすやいつこ行く雲のしろきをみれは峰のかけはし

かささきの−わたすやいつこ−ゆくくもの−しろきをみれは−みねのかけはし


10191
未入力 正徹 (xxx)

入海の松のむかひの岡のへにならひてたかき杉の村立

いりうみの−まつのむかひの−をかのへに−ならひてたかき−すきのむらたち


10192
未入力 正徹 (xxx)

うら風にさくや此浜から崎の松かけちかき花のしらなみ

うらかせに−さくやこのはま−からさきの−まつかけちかき−はなのしらなみ


10193
未入力 正徹 (xxx)

淡路かたあまのすさひか筆の海うかふ絵島の松の村立

あはちかた−あまのすさひか−ふてのうみ−うかふえしまの−まつのむらたち


10194
未入力 正徹 (xxx)

くるすのの草葉なみよるかさとりの山風なから雨はふりきぬ

くるすのの−くさはなみよる−かさとりの−やまかせなから−あめはふりきぬ


10195
未入力 正徹 (xxx)

冬なから宮こを春とふり消ちてめくれる山につもる初雪

ふゆなから−みやこをはると−ふりけちて−めくれるやまに−つもるはつゆき


10196
未入力 正徹 (xxx)

夕霞うら山かけてみるめかるあまのたく火や薪なるらん

ゆふかすみ−うらやまかけて−みるめかる−あまのたくひや−たききなるらむ


10197
未入力 正徹 (xxx)

藤代のみ坂のほれは吹上のまさこにけふるわかのうら松

ふちしろの−みさかのほれは−ふきあけの−まさこにけふる−わかのうらまつ


10198
未入力 正徹 (xxx)

影消えて興の夕日は入海の松の一むらたつけふりかな

かけきえて−おきのゆふひは−いりうみの−まつのひとむら−たつけふりかな


10199
未入力 正徹 (xxx)

入うみや見おろす山のふもと寺里の前なる千船松はら

いりうみや−みおろすやまの−ふもとてら−さとのまへなる−ちふねまつはら


10200
未入力 正徹 (xxx)

おとききて坂こえはつる山もとのいその岩ほにあまる白浪

おとききて−さかこえはつる−やまもとの−いそのいはほに−あまるしらなみ


10201
未入力 正徹 (xxx)

影おちて夕日のわたる松原を柱と見なす峰のかけ橋

かけおちて−ゆふひのわたる−まつはらを−はしらとみなす−みねのかけはし


10202
未入力 正徹 (xxx)

露やほす峰のかけはしわたり行く遠かた人の袖の夕日は

つゆやほす−みねのかけはし−わたりゆく−をちかたひとの−そてのゆふひは


10203
未入力 正徹 (xxx)

わたの原夕のめちにかかるなり入江の山の猶おくのなみ

わたのはら−ゆふへのめちに−かかるなり−いりえのやまの−なほおくのなみ


10204
未入力 正徹 (xxx)

たかし山夕こえのほるこなたより見えぬ浪きく峰のうら風

たかしやま−ゆふこえのほる−こなたより−みえぬなみきく−みねのうらかせ


10205
未入力 正徹 (xxx)

末とほき岡のまへなる秋の田のほなみをせくとみゆる河岸

すゑとほき−をかのまへなる−あきのたの−ほなみをせくと−みゆるかはきし


10206
未入力 正徹 (xxx)

うちいてて国見をすれは大和路やさとも村山いくへともなし

うちいてて−くにみをすれは−やまとちや−さともむらやま−いくへともなし


10207
未入力 正徹 (xxx)

志賀の浦やなきたる雲の浪まよりみゆる小島にいそく舟人

しかのうらや−なきたるくもの−なみまより−みゆるこしまに−いそくふなひと


10208
未入力 正徹 (xxx)

面影にみぬをみるかな箱根路や坂の上なるにほの水うみ

おもかけに−みぬをみるかな−はこねちや−さかのうへなる−にほのみつうみ


10209
未入力 正徹 (xxx)

にほの海のおきの小島の岩とひはあまの羽袖をおろす山風

にほのうみの−おきのこしまの−いはとひは−あまのはそてを−おろすやまかせ


10210
未入力 正徹 (xxx)

かち野行く遠かた人も見えみえす猶たか島によするうら波

かちのゆく−をちかたひとも−みえみえす−なほたかしまに−よするうらなみ


10211
未入力 正徹 (xxx)

こゑこゑそ入江のなみにたか島のみをの杣木や山くたすらん

こゑこゑそ−いりえのなみに−たかしまの−みをのそまきや−やまくたすらむ


10212
未入力 正徹 (xxx)

たか世にか浪ちはなれしから崎や松もひとりの竹生島山

たかよにか−なみちはなれし−からさきや−まつもひとりの−ちくふしまやま


10213
未入力 正徹 (xxx)

にほの海のあまの小舟そ浪にちる木のはの浜を風なあらしそ

にほのうみの−あまのをふねそ−なみにちる−このはのはまを−かせなあらしそ


10214
未入力 正徹 (xxx)

明けわたるよさのうちとの海松をへたててつつくあまのはしたて

あけわたる−よさのうちとの−うみまつを−へたててつつく−あまのはしたて


10215
未入力 正徹 (xxx)

浪たかき竹生島風むかひきてわたるやからきしほつ舟人

なみたかき−ちくふしまかせ−むかひきて−わたるやからき−しほつふなひと


10216
未入力 正徹 (xxx)

見そあかぬ真砂なかるる浜川の松の陰行く末のしらなみ

みそあかぬ−まさこなかるる−はまかはの−まつのかけゆく−すゑのしらなみ


10217
未入力 正徹 (xxx)

芦ふかきこやのたはれめ立出てよみしま江口はに舟あまたみゆ

あしふかき−こやのたはれめ−たちいてよ−みしまえくちに−ふねあまたみゆ


10218
未入力 正徹 (xxx)

いつるより日影そかかる朝つまや浪のむかひのしかの浜松

いつるより−ひかけそかかる−あさつまや−なみのむかひの−しかのはままつ


10219
未入力 正徹 (xxx)

海山に日影をつれてめくりあひぬ朝みし雲のかへる夕暮

うみやまに−ひかけをつれて−めくりあひぬ−あさみしくもの−かへるゆふくれ


10220
未入力 正徹 (xxx)

西の海や日影そおつる夕なみにたかきを近き山のはにして

にしのうみや−ひかけそおつる−ゆふなみに−たかきをちかき−やまのはにして


10221
未入力 正徹 (xxx)

磯に見し松のむら立みなふして夕塩たかき浦の八十島

いそにみし−まつのむらたち−みなふして−ゆふしほたかき−うらのやそしま


10222
未入力 正徹 (xxx)

海山はたた面影そ見しかたの暮行くままにめちはたゆれと

うみやまは−たたおもかけそ−みしかたの−くれゆくままに−めちはたゆれと


10223
未入力 正徹 (xxx)

峰とほき末の野山はみなたえて夕を軒につくす松かな

みねとほき−すゑののやまは−みなたえて−ゆふへをのきに−つくすまつかな


10224
未入力 正徹 (xxx)

水しろき夕日の前の山本にとたえて橋をわたるうき雲

みつしろき−ゆふひのまへの−やまもとに−とたえてはしを−わたるうきくも


10225
未入力 正徹 (xxx)

宮こより南の山のふもと川くるる千里の梢むら竹

みやこより−みなみのやまの−ふもとかは−くるるちさとの−こすゑむらたけ


10226
未入力 正徹 (xxx)

もろこしといふはかりにそほのみゆる舟路の西のおきつ島山

もろこしと−いふはかりにそ−ほのみゆる−ふなちのにしの−おきつしまやま


10227
未入力 正徹 (xxx)

目にそみぬ心の行くはかへされす水なき遠の雲のしからみ

めにそみぬ−こころのゆくは−かへされす−みつなきをちの−くものしからみ


10228
未入力 正徹 (xxx)

行末の里をあまたにわかれけりはるるふもとの雲のした道

ゆくすゑの−さとをあまたに−わかれけり−はるるふもとの−くものしたみち


10229
未入力 正徹 (xxx)

おきつなみくれぬとみれは帆の上に日影をみせて舟そいてくる

おきつなみ−くれぬとみれは−ほのうへに−ひかけをみせて−ふねそいてくる


10230
未入力 正徹 (xxx)

興辺行く舟人きわき帆おろしつあらきしほ風今むかふらし

おきへゆく−ふなひときわき−ほおろしつ−あらきしほかせ−いまむかふらし


10231
未入力 正徹 (xxx)

のこるともみえぬ入日をほにあけてつなてさやけき興つ舟人

のこるとも−みえぬいりひを−ほにあけて−つなてさやけき−おきつふなひと


10232
未入力 正徹 (xxx)

紙のかのふるきはかりそつく墨は筆もまたひぬ水くきの跡

かみのかの−ふるきはかりそ−つくすみは−ふてもまたひぬ−みつくきのあと


10233
未入力 正徹 (xxx)

よむ文の古きこと葉の末の世にあはぬをみても涙おちけり

よむふみの−ふるきことはの−すゑのよに−あはぬをみても−なみたおちけり


10234
未入力 正徹 (xxx)

水くきのあととはしるき旦付に筆もかよはぬ昔をそみる

みつくきの−あととはしるき−すみつきに−ふてもかよはぬ−むかしをそみる


10235
未入力 正徹 (xxx)

老か身のへにける年にくらへても長き夜あまるさ月六月

おいかみの−へにけるとしに−くらへても−なかきよあまる−さつきみなつき


10236
未入力 正徹 (xxx)

七十にいけるはまれの身をもちてあれはある世の何をうれへん

ななそちに−いけるはまれの−みをもちて−あれはあるよの−なにをうれへむ


10237
未入力 正徹 (xxx)

染色の山の四おもてめくりこし心のはてもあけぬ夜の空

そめいろの−やまのよおもて−めくりこし−こころのはても−あけぬよのそら


10238
未入力 正徹 (xxx)

むかしたに見ぬ世の人の面影をおもひさためぬ夢に別れて

むかしたに−みぬよのひとの−おもかけを−おもひさためぬ−ゆめにわかれて


10239
未入力 正徹 (xxx)

明けにけり行きてはなとかあはさらむ遠の所のむかしなりせは

あけにけり−ゆきてはなとか−あはさらむ−をちのところの−むかしなりせは


10240
未入力 正徹 (xxx)

心ゆく思ひのあとになりにけり夜や明けぬらんもろこしの岸

こころゆく−おもひのあとに−なりにけり−よやあけぬらむ−もろこしのきし


10241
未入力 正徹 (xxx)

ね覚してかきりしられす心ゆくむかししのふの山路いくへそ

ねさめして−かきりしられす−こころゆく−むかししのふの−やまちいくへそ


10242
未入力 正徹 (xxx)

いまそなくかねのこゑせぬ暁も我かね覚をや鳥は待ちけん

いまそなく−かねのこゑせぬ−あかつきも−わかねさめをや−とりはまちけむ


10243
未入力 正徹 (xxx)

よわるらん老行くままにね覚めてもおきゐることのかたくくるしき

よわるらむ−おいゆくままに−ねさめても−おきゐることの−かたくくるしき


10244
未入力 正徹 (xxx)

いくたひか床の夢ちのたえぬらん音せぬ老のなみにひかれて

いくたひか−とこのゆめちの−たえぬらむ−おとせぬおいの−なみにひかれて


10245
未入力 正徹 (xxx)

まき柱よりそふ老のかたねふり夢かうつつかたれにとほまし

まきはしら−よりそふおいの−かたねふり−ゆめかうつつか−たれにとほまし


10246
未入力 正徹 (xxx)

よわり行く老のねふりのあへすさめさむるもねふる夢のはかなさ

よわりゆく−おいのねふりの−あへすさめ−さむるもねふる−ゆめのはかなさ


10247
未入力 正徹 (xxx)

ふさぬまの老をたすくるつら杖にかかりてさむる夢のみしかさ

ふさぬまの−おいをたすくる−つらつゑに−かかりてさむる−ゆめのみしかさ


10248
未入力 正徹 (xxx)

おきあかしかりによりそふ槙柱さむるか夢のおもかけそたつ

おきあかし−かりによりそふ−まきはしら−さむるかゆめの−おもかけそたつ


10249
未入力 正徹 (xxx)

老いぬれは先おとろきて又むかふかかみのかけに涙おちつつ

おいぬれは−まつおとろきて−またむかふ−かかみのかけに−なみたおちつつ


10250
未入力 正徹 (xxx)

なかきよの袖のしつくを結ひてや夢もたえたえ身にあまるらん

なかきよの−そてのしつくを−むすひてや−ゆめもたえたえ−みにあまるらむ


10251
未入力 正徹 (xxx)

夜もすから昔をおもふ涙とや遠くなかれて袖にのこれる

よもすから−むかしをおもふ−なみたとや−とほくなかれて−そてにのこれる


10252
未入力 正徹 (xxx)

世にすめは人の心のよしあしを身そしらぬ身となしてやみぬる

よにすめは−ひとのこころの−よしあしを−みそしらぬみと−なしてやみぬる


10253
未入力 正徹 (xxx)

なには人よしあしひのみたくこ屋のむねのけふりをけつ嵐かな

なにはひと−よしあしひのみ−たくこやの−むねのけふりを−けつあらしかな


10254
未入力 正徹 (xxx)

うかふ淡水の心による花もきえてとまらぬ早川のなみ

うかふあわ−みつのこころに−よるはなも−きえてとまらぬ−はやかはのなみ


10255
未入力 正徹 (xxx)

いまそしるゆるき心のおこたりも玉のをなかきたよりなりとは

いまそしる−ゆるきこころの−おこたりも−たまのをなかき−たよりなりとは


10256
未入力 正徹 (xxx)

うきなから年はへにけりなくさむる心をゆらく玉のをにして

うきなから−としはへにけり−なくさむる−こころをゆらく−たまのをにして


10257
未入力 正徹 (xxx)

しつかなる心をもては時うつりことかさなりてゆらく玉のを

しつかなる−こころをもては−ときうつり−ことかさなりて−ゆらくたまのを


10258
未入力 正徹 (xxx)

閑なる心に身をはやとすまにいく世の月の影めくるらん

しつかなる−こころにみをは−やとすまに−いくよのつきの−かけめくるらむ


10259
未入力 正徹 (xxx)

くり返し昔にもあらぬ夕暮の色に思ひをしつのをたまき

くりかへし−むかしにもあらぬ−ゆふくれの−いろにおもひを−しつのをたまき


10260
未入力 正徹 (xxx)

かねもたえ風も音せぬ夕くれの心にやとをかる心かな

かねもたえ−かせもおとせぬ−ゆふくれの−こころにやとを−かるこころかな


10261
未入力 正徹 (xxx)

すむ庵もあるかなきかの心かな我か夕暮や春のいとゆふ

すむいほも−あるかなきかの−こころかな−わかゆふくれや−はるのいとゆふ


10262
未入力 正徹 (xxx)

うかりしもなさけありしもふることをしのふやひとつ涙なるらん

うかりしも−なさけありしも−ふることを−しのふやひとつ−なみたなるらむ


10263
未入力 正徹 (xxx)

見しことのかはるにつけて忍ふかなむかしを夢とおもひなせとも

みしことの−かはるにつけて−しのふかな−むかしをゆめと−おもひなせとも


10264
未入力 正徹 (xxx)

身そのこるよとの河舟さしくたし手向せし世の友はなくして

みそのこる−よとのかはふね−さしくたし−たむけせしよの−ともはなくして


10265
未入力 正徹 (xxx)

老か身にむかしかたりはおほくとも見ぬ世の人はうたかひやせん

おいかみに−むかしかたりは−おほくとも−みぬよのひとは−うたかひやせむ


10266
未入力 正徹 (xxx)

なからへき三度七日を仕へしも十とせ七とせ神やうけけん

なからへき−みたひなぬかを−つかへしも−ととせななとせ−かみやうけけむ


10267
未入力 正徹 (xxx)

面かけに見し世のありて何かせむ忘れぬ夢をはらへ松風

おもかけに−みしよのありて−なにかせむ−わすれぬゆめを−はらへまつかせ


10268
未入力 正徹 (xxx)

遠き世と今をや見まし思はすにいそちの老の残あるよは

とほきよと−いまをやみまし−おもはすに−いそちのおいの−のこりあるよは


10269
未入力 正徹 (xxx)

ましろはむ人こそなけれ老いぬるを昔いとひし心ならひに

ましろはむ−ひとこそなけれ−おいぬるを−むかしいとひし−こころならひに


10270
未入力 正徹 (xxx)

おもひいてて心みたれぬ面影の一にもあらぬ世世の故人

おもひいてて−こころみたれぬ−おもかけの−ひとつにもあらぬ−よよのふるひと


10271
未入力 正徹 (xxx)

敷島の道とほくして日は暮れぬこしかたほとの我か身ともかな

しきしまの−みちとほくして−ひはくれぬ−こしかたほとの−わかみともかな


10272
未入力 正徹 (xxx)

しれるをはしるといふへき古をしらぬをしらてとふ人もなし

しれるをは−しるといふへき−いにしへを−しらぬをしらて−とふひともなし


10273
未入力 正徹 (xxx)

見しもみなかはり行く世になからふる老やむかしのかたみなるらん

みしもみな−かはりゆくよに−なからふる−おいやむかしの−かたみなるらむ


10274
未入力 正徹 (xxx)

身はふりてあやふき淵を忘るるやわらは心のままのつきはし

みはふりて−あやふきふちを−わするるや−わらはこころの−ままのつきはし


10275
未入力 正徹 (xxx)

しのはすよ人のおほゆるむかしをは猶ちかき世に思ひなされて

しのはすよ−ひとのおほゆる−むかしをは−なほちかきよに−おもひなされて


10276
未入力 正徹 (xxx)

忍ふへきこととも哀其時はしらぬむかしの涙そふらん

しのふへき−ことともあはれ−そのときは−しらぬむかしの−なみたそふらむ


10277
未入力 正徹 (xxx)

おもひつつかたりいたさぬ古をひとりしのふとしる人もなし

おもひつつ−かたりいたさぬ−いにしへを−ひとりしのふと−しるひともなし


10278
未入力 正徹 (xxx)

むかしよりきても堺にいらさりき老いてもとほき道はこの道

むかしより−きてもさかひに−いらさりき−おいてもとほき−みちはこのみち


10279
未入力 正徹 (xxx)

いつもそひいつもあるへきことと見し人にも世にもとほくはなれて

いつもそひ−いつもあるへき−こととみし−ひとにもよにも−とほくはなれて


10280
未入力 正徹 (xxx)

なにことも哀むかしのそのをりはしのふへしとも思ひやはせし

なにことも−あはれむかしの−そのをりは−しのふへしとも−おもひやはせし


10281
未入力 正徹 (xxx)

物ことに哀むかしを見しめには涙うかはぬ時のまもなし

ものことに−あはれむかしを−みしめには−なみたうかはぬ−ときのまもなし


10282
未入力 正徹 (xxx)

たかき世をおもひしのへは心よりのほる涙の又やなかれん

たかきよを−おもひしのへは−こころより−のほるなみたの−またやなかれむ


10283
未入力 正徹 (xxx)

老いぬれはちかきむかしそ忘らるるいとけなかりしことはおほえて

おいぬれは−ちかきむかしそ−わすらるる−いとけなかりし−ことはおほえて


10284
未入力 正徹 (xxx)

ふりはてむしるしを庭にのこすとも哀むかしと見ん人やなき

ふりはてむ−しるしをにはに−のこすとも−あはれむかしと−みむひとやなき


10285
未入力 正徹 (xxx)

いつまてとむかししのふの草衣かかるうき世の露にみたれん

いつまてと−むかししのふの−くさころも−かかるうきよの−つゆにみたれむ


10286
未入力 正徹 (xxx)

古の世に見しことをかたるとも我か偽にききそなされん

いにしへの−よにみしことを−かたるとも−わかいつはりに−ききそなされむ


10287
未入力 正徹 (xxx)

くり返し世世の昔をしのふれは冬の日なかし賎のをた巻

くりかへし−よよのむかしを−しのふれは−ふゆのひなかし−しつのをたまき


10288
未入力 正徹 (xxx)

いそのかみさのみふるくはなき人もいま世にあちはすまし都に

いそのかみ−さのみふるくは−なきひとも−いまよにあちは−すましみやこに


10289
未入力 正徹 (xxx)

こととへは見し世の人の庵にてその孫彦となのるほとなさ

こととへは−みしよのひとの−いほりにて−そのまこひこと−なのるほとなさ


10290
未入力 正徹 (xxx)

竹の馬のりならへにし人はみな忘れす夢のよそに先立つ

たけのうま−のりならへにし−ひとはみな−わすれすゆめの−よそにさきたつ


10291
未入力 正徹 (xxx)

跡ふりし後の小松の千世の陰あふきし比の人そこひしき

あとふりし−のちのこまつの−ちよのかけ−あふきしころの−ひとそこひしき


10292
未入力 正徹 (xxx)

わすれすよ我かたらちねと立ちなれし鹿苑世の露のめくみを

わすれすよ−わかたらちねと−たちなれし−しかのそのよの−つゆのめくみを


10293
未入力 正徹 (xxx)

つくつくと昔の人を思ふまの我かつら杖にかかる夢かな

つくつくと−むかしのひとを−おもふまの−わかつらつゑに−かかるゆめかな


10294
未入力 正徹 (xxx)

いたつらに老行くままに跡しのふことの数さへつもるとしかな

いたつらに−おいゆくままに−あとしのふ−ことのかすさへ−つもるとしかな


10295
未入力 正徹 (xxx)

昔おもふ露なこほれそ竹の子の一二のふしならはこそ

むかしおもふ−つゆなこほれそ−たけのこの−ひとつふたつの−ふしならはこそ


10296
未入力 正徹 (xxx)

身にそそふ古き涙のおち所いまたかはらぬ袖のかたみは

みにそそふ−ふるきなみたの−おちところ−いまたかはらぬ−そてのかたみは


10297
未入力 正徹 (xxx)

とほき世にもよほされつる袂かな涙にふるき色は見えねと

とほきよに−もよほされつる−たもとかな−なみたにふるき−いろはみえねと


10298
未入力 正徹 (xxx)

わすられぬ心そさらにへたてなきなみたは昔袖はいまの身

わすられぬ−こころそさらに−へたてなき−なみたはむかし−そてはいまのみ


10299
未入力 正徹 (xxx)

世世をへし古き涙にあたらしきいく年のをか朽ちて行くらん

よよをへし−ふるきなみたに−あたらしき−いくとしのをか−くちてゆくらむ


10300
未入力 正徹 (xxx)

我かなみた秋を哀といひおきしむかしの人の袂をそかる

わかなみた−あきをあはれと−いひおきし−むかしのひとの−たもとをそかる


10301
未入力 正徹 (xxx)

あかさりし世世の涙そおちまさる夕やふるきかたみなるらん

あかさりし−よよのなみたそ−おちまさる−ゆふへやふるき−かたみなるらむ


10302
未入力 正徹 (xxx)

まきほさしむかしの人や涙ともなりて袂にいまかかるらん

まきほさし−むかしのひとや−なみたとも−なりてたもとに−いまかかるらむ


10303
未入力 正徹 (xxx)

古寺のむかしをとへは見しはなき人をあまたに涙おちつつ

ふるてらの−むかしをとへは−みしはなき−ひとをあまたに−なみたおちつつ


10304
未入力 正徹 (xxx)

友千鳥あととふ浜のまさこ山身を年たかきねをのみそ鳴く

ともちとり−あととふはまの−まさこやま−みをとしたかき−ねをのみそなく


10305
未入力 正徹 (xxx)

とかむなよ哀むかしとおきふしに老いての後の枕ことをは

とかむなよ−あはれむかしと−おきふしに−おいてののちの−まくらことをは


10306
未入力 正徹 (xxx)

身の上にかたりし年をしらぬまて老いはてぬれは古もなし

みのうへに−かたりしとしを−しらぬまて−おいはてぬれは−いにしへもなし


10307
未入力 正徹 (xxx)

かちにてそ此坂こえしありま山むかしも年は老の身なから

かちにてそ−このさかこえし−ありまやま−むかしもとしは−おいのみなから


10308
未入力 正徹 (xxx)

月やあらぬ昔の人の面影とすめる宿とふ軒の松かせ

つきやあらぬ−むかしのひとの−おもかけと−すめるやととふ−のきのまつかせ


10309
未入力 正徹 (xxx)

雨そうきこまかに世世のふることも面影うかふ閨のたもとに

あめそうき−こまかによよの−ふることも−おもかけうかふ−ねやのたもとに


10310
未入力 正徹 (xxx)

遠き世にかよふ心や送るらん夕の雨のふるさとの雲

とほきよに−かよふこころや−おくるらむ−ゆふへのあめの−ふるさとのくも


10311
未入力 正徹 (xxx)

我か心よせしそむかし寺ふるき山の尾崎の松のことのは

わかこころ−よせしそむかし−てらふるき−やまのをさきの−まつのことのは


10312
未入力 正徹 (xxx)

山寺の御法の箱をひらきても見ぬ世かしこき跡をしそ思ふ

やまてらの−みのりのはこを−ひらきても−みぬよかしこき−あとをしそおもふ


10313
未入力 正徹 (xxx)

寺はあれと昔のままのかきりなき仏となりて山そあせ行く

てらはあれと−むかしのままの−かきりなき−ほとけとなりて−やまそあせゆく


10314
未入力 正徹 (xxx)

さきたつはゆひををりても数しらす鴫よなにその夜はの羽かき

さきたつは−ゆひををりても−かすしらす−しきよなにその−よはのはねかき


10315
未入力 正徹 (xxx)

昔見しあまたの人の面影もせはき夜床に在明の月

むかしみし−あまたのひとの−おもかけも−せはきよとこに−ありあけのつき


10316
未入力 正徹 (xxx)

忘られぬふる野の真葛ふるき世にかへるもかるる暁の夢

わすられぬ−ふるののまくす−ふるきよに−かへるもかるる−あかつきのゆめ


10317
未入力 正徹 (xxx)

つれなしや我よりとほき昔をはしる人まれに年そ老行く

つれなしや−われよりとほき−むかしをは−しるひとまれに−としそおいゆく


10318
未入力 正徹 (xxx)

しるへなき哀万の道道にむかしの人のひとりともかな

しるへなき−あはれよろつの−みちみちに−むかしのひとの−ひとりともかな


10319
未入力 正徹 (xxx)

せめてわかいとけなくしてみつる世に老いてあふ身となとや生れぬ

せめてわか−いとけなくして−みつるよに−おいてあふみと−なとやうまれぬ


10320
未入力 正徹 (xxx)

夜もすからうちまもらるる灯にいく世のことのうかひきぬらん

よもすから−うちまもらるる−ともしひに−いくよのことの−うかひきぬらむ


10321
未入力 正徹 (xxx)

松ほとやこたへさらましつたへきくむかしの風を花にとふとも

まつほとや−こたへさらまし−つたへきく−むかしのかせを−はなにとふとも


10322
未入力 正徹 (xxx)

尋ねても昔こそあれ我か身世にふるの山さとしる人もなし

たつねても−むかしこそあれ−わかみよに−ふるのやまさと−しるひともなし


10323
未入力 正徹 (xxx)

とし月もさかまく水の上の淡いくめくりをか忍ひかへさむ

としつきも−さかまくみつの−うへのあわ−いくめくりをか−しのひかへさむ


10324
未入力 正徹 (xxx)

はかりなき千ひろの海にかつきてもかりに昔をみるめともかな

はかりなき−ちひろのうみに−かつきても−かりにむかしを−みるめともかな


10325
未入力 正徹 (xxx)

のこすなよ昔の筆の海よりはあれのみまさる水くきのあと

のこすなよ−むかしのふての−うみよりは−あれのみまさる−みつくきのあと


10326
未入力 正徹 (xxx)

うゑてこそさくにあひぬれ昔せし我か兼ことの春の初花

うゑてこそ−さくにあひぬれ−むかしせし−わかかねことの−はるのはつはな


10327
未入力 正徹 (xxx)

おろかなることのはなからなほうけは神に手向も世にはもらさし

おろかなる−ことのはなから−なほうけは−かみにたむけも−よにはもらさし


10328
未入力 正徹 (xxx)

神しうけはぬさもとりあへす手向けおく此ことのはも色や見えまし

かみしうけは−ぬさもとりあへす−たむけおく−このことのはも−いろやみえまし


10329
未入力 正徹 (xxx)

ひまもなくいそけはいととしきしまの道のたたちにまよふけふかな

ひまもなく−いそけはいとと−しきしまの−みちのたたちに−まよふけふかな


10330
未入力 正徹 (xxx)

しきしまの道はいのらす神しうけは法の言のは玉となせとて

しきしまの−みちはいのらす−かみしうけは−のりのことのは−たまとなせとて


10331
未入力 正徹 (xxx)

こよひかく百のことのはかさねても一ものこす色やなからん

こよひかく−もものことのは−かさねても−ひとつものこす−いろやなからむ


10332
未入力 正徹 (xxx)

此世にはほまれある名も何かせん花に春風月にうき雲

このよには−ほまれあるなも−なにかせむ−はなにはるかせ−つきにうきくも


10333
未入力 正徹 (xxx)

あきらけき昔そ鏡あふき見ん人こそ人をくらくなすとも

あきらけき−むかしそかかみ−あふきみむ−ひとこそひとを−くらくなすとも


10334
未入力 正徹 (xxx)

和歌のうらを思捨つれと身にそふはなみもや老のわさとなるらん

わかのうらを−おもひすつれと−みにそふは−なみもやおいの−わさとなるらむ


10335
未入力 正徹 (xxx)

芦の屋のなたの塩やくあまよりも身はいとまなき賎のをたまき

あしのやの−なたのしほやく−あまよりも−みはいとまなき−しつのをたまき


10336
未入力 正徹 (xxx)

まなひこし風のすかたもいかならんしらす老木の松のことのは

まなひこし−かせのすかたも−いかならむ−しらすおいきの−まつのことのは


10337
未入力 正徹 (xxx)

こととへは身ほうきふしの竹の庵宮こをとほく住みはてぬまに

こととへは−みはうきふしの−たけのいほ−みやこをとほく−すみはてぬまに


10338
未入力 正徹 (xxx)

なに年も老いては思ひ捨てやすきことわりしらぬしきしまの道

なにとしも−おいてはおもひ−すてやすき−ことわりしらぬ−しきしまのみち


10339
未入力 正徹 (xxx)

ことの葉の色なきちりをよもすてしとてもましはる神の恵は

ことのはの−いろなきちりを−よもすてし−とてもましはる−かみのめくみは


10340
未入力 正徹 (xxx)

ことのははむすほほれつる敷島の道さまたけになる心かな

ことのはは−むすほほれつる−しきしまの−みちさまたけに−なるこころかな


10341
未入力 正徹 (xxx)

わかのうらは家にもあらす人なみに名をかけすともよしやうらみし

わかのうらは−いへにもあらす−ひとなみに−なをかけすとも−よしやうらみし


10342
未入力 正徹 (xxx)

おろかなる身のうからすはことのはになるへき草の種やなからん

おろかなる−みのうからすは−ことのはに−なるへきくさの−たねやなからむ


10343
未入力 正徹 (xxx)

いそけ人いつれの道をまなふとも老は心のつきてかひなし

いそけひと−いつれのみちを−まなふとも−おいはこころの−つきてかひなし


10344
未入力 正徹 (xxx)

しきしまやすくなる中つ道あるをしらてやつひに大和ことのは

しきしまや−すくなるなかつ−みちあるを−しらてやつひに−やまとことのは


10345
未入力 正徹 (xxx)

老のなみさのみかさなるわかの浦に猶ととまらていつる舟かな

おいのなみ−さのみかさなる−わかのうらに−なほととまらて−いつるふねかな


10346
未入力 正徹 (xxx)

うかふせも人はある世の老のなみこゆるにつけて身そしつみ行く

うかふせも−ひとはあるよの−おいのなみ−こゆるにつけて−みそしつみゆく


10347
未入力 正徹 (xxx)

敷島の道なれはこそ六十あまり老いてさかりの友もありけれ

しきしまの−みちなれはこそ−むそちあまり−おいてさかりの−とももありけれ


10348
未入力 正徹 (xxx)

玉のをもよをへてほそくなる月の在明の影に身はよわりつつ

たまのをも−よをへてほそく−なるつきの−ありあけのかけに−みはよわりつつ


10349
未入力 正徹 (xxx)

なくなくもわれと心をなくさめて袂やすむるうき世ならすは

なくなくも−われとこころを−なくさめて−たもとやすむる−うきよならすは


10350
未入力 正徹 (xxx)

老やしる人にも世にもうらみなき涙をとへは猶そ落ちそふ

おいやしる−ひとにもよにも−うらみなき−なみたをとへは−なほそおちそふ


10351
未入力 正徹 (xxx)

まもれ神人の心の末の世にあはすなり行くしきしまの道

まもれかみ−ひとのこころの−すゑのよに−あはすなりゆく−しきしまのみち


10352
未入力 正徹 (xxx)

春日山おとろかしたのことのはも露の契をむすふはかりそ

かすかやま−おとろかしたの−ことのはも−つゆのちきりを−むすふはかりそ


10353
未入力 正徹 (xxx)

ふる雨のはるる日もなき浦のあまのほこらしき世もなき我か身かな

ふるあめの−はるるひもなき−うらのあまの−ほこらしきよも−なきわかみかな


10354
未入力 正徹 (xxx)

おもふこと岩うつ浪のせかれては心にかへるわかのうらかせ

おもふこと−いはうつなみの−せかれては−こころにかへる−わかのうらかせ


10355
未入力 正徹 (xxx)

人心さらになほらん世そかたき上におきてす下におそれす

ひとこころ−さらになほらむ−よそかたき−かみにおきてす−しもにおそれす


10356
未入力 正徹 (xxx)

かたはれぬ門こそなけれ仕ふるはにをもつよりもくるしかるらん

かたはれぬ−かとこそなけれ−つかふるは−にをもつよりも−くるしかるらむ


10357
未入力 正徹 (xxx)

古をまなははやこそはかなけれ時世にあはぬ心ことのは

いにしへを−まなははやこそ−はかなけれ−ときよにあはぬ−こころことのは


10358
未入力 正徹 (xxx)

いかはかり子あらは我にそむかまし親のいさめし道ならぬ道

いかはかり−こあらはわれに−そむかまし−おやのいさめし−みちならぬみち


10359
未入力 正徹 (xxx)

もろこしの人になしてそいとはるる大和こと葉と思ひこしかと

もろこしの−ひとになしてそ−いとはるる−やまとことはと−おもひこしかと


10360
未入力 正徹 (xxx)

四方のうみにみな名のりそをかけおきて民は独もなき世なりけり

よものうみに−みななのりそを−かけおきて−たみはひとりも−なきよなりけり


10361
未入力 正徹 (xxx)

御使や仰とも又さたあれとしろしめさすといふはまことか

みつかひや−おほせともまた−さたあれと−しろしめさすと−いふはまことか


10362
未入力 正徹 (xxx)

ことの葉もいつれの時をまなはなん夢路につけよ風月の神

ことのはも−いつれのときを−まなはなむ−ゆめちにつけよ−かせつきのかみ


10363
未入力 正徹 (xxx)

くみしらぬ和かの浦人大海を一貝ほともうる道そなき

くみしらぬ−わかのうらひと−おほうみを−ひとかひほとも−うるみちそなき


10364
未入力 正徹 (xxx)

おくれてそ老はうらやむわかの浦に足はやく行く年のさかりを

おくれてそ−おいはうらやむ−わかのうらに−あしはやくゆく−としのさかりを


10365
未入力 正徹 (xxx)

くれにけりわかのうら舟漕きさらすことしも老のなみにうかへて

くれにけり−わかのうらふね−こきさらす−ことしもおいの−なみにうかへて


10366
未入力 正徹 (xxx)

世をはへんさかふる人をうらやますおとろへ行くをかなしますして

よをはへむ−さかふるひとを−うらやます−おとろへゆくを−かなしますして


10367
未入力 正徹 (xxx)

歌はたた人の物いふことの葉にのこるはかりの末の世もうし

うたはたた−ひとのものいふ−ことのはに−のこるはかりの−すゑのよもうし


10368
未入力 正徹 (xxx)

和歌の浦にひろひもちても何かせん磯の塩貝玉もえぬ身に

わかのうらに−ひろひもちても−なにかせむ−いそのしほかひ−たまもえぬみに


10369
未入力 正徹 (xxx)

老いはてぬいかてか人にましはらん此敷島の道にいらすは

おいはてぬ−いかてかひとに−ましはらむ−このしきしまの−みちにいらすは


10370
未入力 正徹 (xxx)

今はわれ老いたる人の数にたに入るへき年かさのみつれなき

いまはわれ−おいたるひとの−かすにたに−いるへきとしか−さのみつれなき


10371
未入力 正徹 (xxx)

若のうらはそこふかしともさとりえぬ老の浪ちにまよひはてぬる

わかのうらは−そこふかしとも−さとりえぬ−おいのなみちに−まよひはてぬる


10372
未入力 正徹 (xxx)

うきことそもとのままなるさしもみな物わすれする老の心に

うきことそ−もとのままなる−さしもみな−ものわすれする−おいのこころに


10373
未入力 正徹 (xxx)

忍ふへき人は此世にかたかりき身をなき物になして思へは

しのふへき−ひとはこのよに−かたかりき−みをなきものに−なしておもへは


10374
未入力 正徹 (xxx)

しらかみのくろきすちなきことにのみひまこそなけれ哀いつまて

しらかみの−くろきすちなき−ことにのみ−ひまこそなけれ−あはれいつまて


10375
未入力 正徹 (xxx)

なに事をさらになけかむ後前の仏にあはぬ世にも住む身は

なにことを−さらになけかむ−のちさきの−ほとけにあはぬ−よにもすむみは


10376
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のこりなく老いはててこそ哀てふことをあまたの浮世ともしれ

のこりなく−おいはててこそ−あはれてふ−ことをあまたの−うきよともしれ


10377
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おもほえす身のうきたひにおち初めて老の涙と今そなり行く

おもほえす−みのうきたひに−おちそめて−おいのなみたと−いまそなりゆく


10378
未入力 正徹 (xxx)

老いて世になくさむ夢やなからましみな見し事のうつつならねは

おいてよに−なくさむゆめや−なからまし−みなみしことの−うつつならねは


10379
未入力 正徹 (xxx)

老いなはと思ひけるかなかくはかり命の後もましる此世に

おいなはと−おもひけるかな−かくはかり−いのちののちも−ましるこのよに


10380
未入力 正徹 (xxx)

老のなみたえすこえくる浜ひさし久しくなとかありてつれなき

おいのなみ−たえすこえくる−はまひさし−ひさしくなとか−ありてつれなき


10381
未入力 正徹 (xxx)

なからふる身をそうらむる末の世に生れてしかも老いはつるまて

なからふる−みをそうらむる−すゑのよに−うまれてしかも−おいはつるまて


10382
未入力 正徹 (xxx)

忘れてそ人にましはるいとけなき心かはらぬ老のすかたを

わすれてそ−ひとにましはる−いとけなき−こころかはらぬ−おいのすかたを


10383
未入力 正徹 (xxx)

たれかくてすみよかるらんこととへはひとりひとりのためにうき世を

たれかくて−すみよかるらむ−こととへは−ひとりひとりの−ためにうきよを


10384
未入力 正徹 (xxx)

身のうさの人にこえたる名にもたてさてそ此世にあるもしられん

みのうさの−ひとにこえたる−なにもたて−さてそこのよに−あるもしられむ


10385
未入力 正徹 (xxx)

こととはむそれも昔の友ならす行きてたに見ぬ高砂の松

こととはむ−それもむかしの−ともならす−ゆきてたにみぬ−たかさこのまつ


10386
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ほとあらしよしさは命世中にひとりうき身と思ひはつとも

ほとあらし−よしさはいのち−よのなかに−ひとりうきみと−おもひはつとも


10387
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身をいとひ世をうしといふことの葉もめつらしけなしかくてやみなん

みをいとひ−よをうしといふ−ことのはも−めつらしけなし−かくてやみなむ


10388
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いつまてそ老の浪こす身をつくししはし此世の江には立つとも

いつまてそ−おいのなみこす−みをつくし−しはしこのよの−えにはたつとも


10389
未入力 正徹 (xxx)

しきしまや此道芝は分けそえぬ人のことのはからぬならひに

しきしまや−このみちしはは−わけそえぬ−ひとのことのは−からぬならひに


10390
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身にまさる年はあれともうき数の人にこえたる老のなみかな

みにまさる−としはあれとも−うきかすの−ひとにこえたる−おいのなみかな


10391
未入力 正徹 (xxx)

人やあらぬ我やむかしの身をかへておなしうき世に年もへぬらん

ひとやあらぬ−われやむかしの−みをかへて−おなしうきよに−としもへぬらむ


10392
未入力 正徹 (xxx)

たくひなくわか思ふことの二人とも世にあるへくは何かうらみん

たくひなく−わかおもふことの−ふたりとも−よにあるへくは−なにかうらみむ


10393
未入力 正徹 (xxx)

くたりしはのほりけるかな老の坂おほえすこよひ峰の月影

くたりしは−のほりけるかな−おいのさか−おほえすこよひ−みねのつきかけ


10394
未入力 正徹 (xxx)

ね覚にも心をよせてあかさなんこれも誠の道のことのは

ねさめにも−こころをよせて−あかさなむ−これもまことの−みちのことのは


10395
未入力 正徹 (xxx)

さ夜枕はらひもあへす声しけし我か涙をや鳥の鳴くらん

さよまくら−はらひもあへす−こゑしけし−わかなみたをや−とりのなくらむ


10396
未入力 正徹 (xxx)

世にのこる我かつれなさをくらふれは在明の月のよひの山のは

よにのこる−わかつれなさを−くらふれは−ありあけのつきの−よひのやまのは


10397
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いくほとそ玉ににるまてみかきても身は夕露の消えんことのは

いくほとそ−たまににるまて−みかきても−みはゆふつゆの−きえむことのは


10398
未入力 正徹 (xxx)

身をそおく夕暮かけて朝露ののこるはかたき山のした柴

みをそおく−ゆふくれかけて−あさつゆの−のこるはかたき−やまのしたしは


10399
未入力 正徹 (xxx)

老の浪よりくる袖のみなと川さてもなかれをせくしほはなし

おいのなみ−よりくるそての−みなとかは−さてもなかれを−せくしほはなし


10400
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千世をふる名をやたのまんいたつらにいきの松原いきうからすは

ちよをふる−なをやたのまむ−いたつらに−いきのまつはら−いきうからすは


10401
未入力 正徹 (xxx)

いかか見ん七とせをへて楠木の千枝も色なき杜のしのたを

いかかみむ−ななとせをへて−くすのきの−ちえもいろなき−もりのしのたを


10402
未入力 正徹 (xxx)

猶てらせ此世のやみののちの影我か消かたの夜夜のともし火

なほてらせ−このよのやみの−のちのかけ−わかきえかたの−よよのともしひ


10403
未入力 正徹 (xxx)

あしからの木に伐りかけし舟木とやこき出つる世もなくて朽つらん

あしからの−きにきりかけし−ふなきとや−こきいつるよも−なくてくつらむ


10404
未入力 正徹 (xxx)

我も世にかくてたてらむそなれ松なれすはしらしつらきはま風

われもよに−かくてたてらむ−そなれまつ−なれすはしらし−つらきはまかせ


10405
未入力 正徹 (xxx)

古をしのふはかれて物ことにわするる草そ宿にしけれる

いにしへを−しのふはかれて−ものことに−わするるくさそ−やとにしけれる


10406
未入力 正徹 (xxx)

我か風のすかたを世にそいとふなる松のことのは人なまなひそ

わかかせの−すかたをよにそ−いとふなる−まつのことのは−ひとなまなひそ


10407
未入力 正徹 (xxx)

いつかたになひくも道にそむかねは風のままなる和かのうら松

いつかたに−なひくもみちに−そむかねは−かせのままなる−わかのうらまつ


10408
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老いぬれはかはる鏡をいとふ身にもとの面影なとしたふらん

おいぬれは−かはるかかみを−いとふみに−もとのおもかけ−なとしたふらむ


10409
未入力 正徹 (xxx)

見もあへす鏡のかけをおほふかな我か年なみのしわをいとひて

みもあへす−かかみのかけを−おほふかな−わかとしなみの−しわをいとひて


10410
未入力 正徹 (xxx)

さすしほのからかのしまを此世にてしつみうかふと身をなうらみそ

さすしほの−からかのしまを−このよにて−しつみうかふと−みをなうらみそ


10411
未入力 正徹 (xxx)

しつみにき此敷島の大和川わか歌かたを世になのこしそ

しつみにき−このしきしまの−やまとかは−わかうたかたを−よになのこしそ


10412
未入力 正徹 (xxx)

おのつから年へて後も見しことのあふにそ夢はたのまれにける

おのつから−としへてのちも−みしことの−あふにそゆめは−たのまれにける


10413
未入力 正徹 (xxx)

ぬるかうちも此世の夢のほかならてまことにさむる暁もなし

ぬるかうちも−このよのゆめの−ほかならて−まことにさむる−あかつきもなし


10414
未入力 正徹 (xxx)

世世を見し夢の面影たつちりのいそちの床をはらふ松かせ

よよをみし−ゆめのおもかけ−たつちりの−いそちのとこを−はらふまつかせ


10415
未入力 正徹 (xxx)

たれもありやいつそや夢に見てしこと思ひあはせてたとるうつつは

たれもありや−いつそやゆめに−みてしこと−おもひあはせて−たとるうつつは


10416
未入力 正徹 (xxx)

まとろまぬ今朝の枕をおのつからきのふの夢のさむるとやせん

まとろまぬ−けさのまくらを−おのつから−きのふのゆめの−さむるとやせむ


10417
未入力 正徹 (xxx)

思ひつつぬれとも見えぬことそある夢や心のみちたかふらん

おもひつつ−ぬれともみえぬ−ことそある−ゆめやこころの−みちたかふらむ


10418
未入力 正徹 (xxx)

老いぬれはうつつも夢も夢のうちにまきれてあかしくらすはかりそ

おいぬれは−うつつもゆめも−ゆめのうちに−まきれてあかし−くらすはかりそ


10419
未入力 正徹 (xxx)

見えけりな夢路は閨のうちなから大和もろこし後前の世は

みえけりな−ゆめちはねやの−うちなから−やまともろこし−のちさきのよは


10420
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行末も神をしるへの夢のつけさたかに見せよあかつきの空

ゆくすゑも−かみをしるへの−ゆめのつけ−さたかにみせよ−あかつきのそら


10421
未入力 正徹 (xxx)

なからへてたえぬる夢のうき橋をかけのたれ尾のこゑそつれなき

なからへて−たえぬるゆめの−うきはしを−かけのたれをの−こゑそつれなき


10422
未入力 正徹 (xxx)

月はなほ山のはつらしあかつきの夢にいりしはさめてのこれる

つきはなほ−やまのはつらし−あかつきの−ゆめにいりしは−さめてのこれる


10423
未入力 正徹 (xxx)

もろこしの野へにさめつる枕かな夢さへいほの時過くる夜に

もろこしの−のへにさめつる−まくらかな−ゆめさへいほの−ときすくるよに


10424
未入力 正徹 (xxx)

夕まとひ老のやくとやさたかにもねられぬ夢のみえて覚むらん

ゆふまとひ−おいのやくとや−さたかにも−ねられぬゆめの−みえてさむらむ


10425
未入力 正徹 (xxx)

夢覚めてのこる鐘かなまとろまて声のはしめもききし枕に

ゆめさめて−のこるかねかな−まとろまて−こゑのはしめも−ききしまくらに


10426
未入力 正徹 (xxx)

まとろみきいかなる夢を見つとたにおほえすさすかうつつともかな

まとろみき−いかなるゆめを−みつとたに−おほえすさすか−うつつともかな


10427
未入力 正徹 (xxx)

さぬる夜のみしかき夢のたひたひにさむるも老はうつつとそなき

さぬるよの−みしかきゆめの−たひたひに−さむるもおいは−うつつとそなき


10428
未入力 正徹 (xxx)

あととめてさむるか夢の中空に孤の雲の残るをそ見る

あととめて−さむるかゆめの−なかそらに−ひとつのくもの−のこるをそみる


10429
未入力 正徹 (xxx)

いかかしるむかしをいまと見る夢のたえて人なき床の秋かせ

いかかしる−むかしをいまと−みるゆめの−たえてひとなき−とこのあきかせ


10430
未入力 正徹 (xxx)

竹の葉のうたていさときさ夜枕風をかきりの夢をうきたる

たけのはの−うたていさとき−さよまくら−かせをかきりの−ゆめをうきたる


10431
未入力 正徹 (xxx)

松風もかねもきこえて夢のうちに見えつる人やおとろかしけん

まつかせも−かねもきこえて−ゆめのうちに−みえつるひとや−おとろかしけむ


10432
未入力 正徹 (xxx)

床中に思ふもさらにあとそなき見えつる夢のはしめをはりは

とこなかに−おもふもさらに−あとそなき−みえつるゆめの−はしめをはりは


10433
未入力 正徹 (xxx)

ひとりわか見はてぬ夢を又見るもさめこそわたれ夢のつきはし

ひとりわか−みはてぬゆめを−またみるも−さめこそわたれ−ゆめのつきはし


10434
未入力 正徹 (xxx)

数しらすひとりそ思ふ明けくらし人にかたらぬ夢とうつつと

かすしらす−ひとりそおもふ−あけくらし−ひとにかたらぬ−ゆめとうつつと


10435
未入力 正徹 (xxx)

ふりにけるそこらの人にましはりし夢ちかへれはもとの身にして

ふりにける−そこらのひとに−ましはりし−ゆめちかへれは−もとのみにして


10436
未入力 正徹 (xxx)

うたたねをいさめしおやの老ほとになるこそ夢の枕なりけれ

うたたねを−いさめしおやの−おいほとに−なるこそゆめの−まくらなりけれ


10437
未入力 正徹 (xxx)

月にとふなけきを須磨の海に入るなきさに見えし夢の名残を

つきにとふ−なけきをすまの−うみにいる−なきさにみえし−ゆめのなこりを


10438
未入力 正徹 (xxx)

いかかしれはふりぬる人の夢のうちに此比の世のことかはすらん

いかかしれは−ふりぬるひとの−ゆめのうちに−このころのよの−ことかはすらむ


10439
未入力 正徹 (xxx)

いときなき年にかへりてたらちねのいさめし夢そ老を忘るる

いときなき−としにかへりて−たらちねの−いさめしゆめそ−おいをわするる


10440
未入力 正徹 (xxx)

うかふせもしつむも夢のわたり川結ひさためぬ浪のうたかた

うかふせも−しつむもゆめの−わたりかは−むすひさためぬ−なみのうたかた


10441
未入力 正徹 (xxx)

ささかにのくもてにわたる此世かな一すちとほき夢のうきはし

ささかにの−くもてにわたる−このよかな−ひとすちとほき−ゆめのうきはし


10442
未入力 正徹 (xxx)

さたかにも何をしのはんとにかくに昔の夢のむすほほれつつ

さたかにも−なにをしのはむ−とにかくに−むかしのゆめの−むすほほれつつ


10443
未入力 正徹 (xxx)

ふしてみぬ夢のひまゆく駒とてやおとろく時のなくて過きけん

ふしてみぬ−ゆめのひまゆく−こまとてや−おとろくときの−なくてすきけむ


10444
未入力 正徹 (xxx)

おもへ猶昔をぬれは見る夢の夢にさめたるかりのうつつそ

おもへなほ−むかしをぬれは−みるゆめの−ゆめにさめたる−かりのうつつそ


10445
未入力 正徹 (xxx)

かへすへき夢にもあらすさ夜衣遠きむかしの世世のうつつは

かへすへき−ゆめにもあらす−さよころも−とほきむかしの−よよのうつつは


10446
未入力 正徹 (xxx)

しのはるるむかしをさめぬ夢そともおもひあはする時そなくさむ

しのはるる−むかしをさめぬ−ゆめそとも−おもひあはする−ときそなくさむ


10447
未入力 正徹 (xxx)

夜のまにもわするるものを古の夢はさたかになとのこるらん

よのまにも−わするるものを−いにしへの−ゆめはさたかに−なとのこるらむ


10448
未入力 正徹 (xxx)

いにしへをなににたとへん過きこしは夢そといふもなにかたちある

いにしへを−なににたとへむ−すきこしは−ゆめそといふも−なにかたちある


10449
未入力 正徹 (xxx)

すめる世のもとよりさめぬ夢ならはいにしへ今もなにかはるらん

すめるよの−もとよりさめぬ−ゆめならは−いにしへいまも−なにかはるらむ


10450
未入力 正徹 (xxx)

ぬるかうちにみるはさむるをかきりにて覚めての夢にねても忘れぬ

ぬるかうちに−みるはさむるを−かきりにて−さめてのゆめに−ねてもわすれぬ


10451
未入力 正徹 (xxx)

数しらぬ昔をきけは見しほともすたれたる世の今はこひしき

かすしらぬ−むかしをきけは−みしほとも−すたれたるよの−いまはこひしき


10452
未入力 正徹 (xxx)

かすかにも思ひいつるはことわりのむかしのさきそしらてこひしき

かすかにも−おもひいつるは−ことわりの−むかしのさきそ−しらてこひしき


10453
未入力 正徹 (xxx)

見しやいま夢もうつつもわかぬまてよわり行く身に思ふふること

みしやいま−ゆめもうつつも−わかぬまて−よわりゆくみに−おもふふること


10454
未入力 正徹 (xxx)

みしこともわすれ忘れぬいにしへのつつかぬ夢そみなあともなき

みしことも−わすれわすれぬ−いにしへの−つつかぬゆめそ−みなあともなき


10455
未入力 正徹 (xxx)

なかれ行くふるき涙もいやつきにいまの哀をおくる袖かな

なかれゆく−ふるきなみたも−いやつきに−いまのあはれを−おくるそてかな


10456
未入力 正徹 (xxx)

なかれゆく袖の涙の水上に見しよの人の影やみゆらん

なかれゆく−そてのなみたの−みなかみに−みしよのひとの−かけやみゆらむ


10457
未入力 正徹 (xxx)

朝夕におくれさきたつ人の世を哀ときくもあはれいつまて

あさゆふに−おくれさきたつ−ひとのよを−あはれときくも−あはれいつまて


10458
未入力 正徹 (xxx)

袖ぬらす野への草はの末の露もとのしつくをさのみとふかな

そてぬらす−のへのくさはの−すゑのつゆ−もとのしつくを−さのみとふかな


10459
未入力 正徹 (xxx)

夕暮はたれともしらぬけふりたにさき立つ人とおもふ哀を

ゆふくれは−たれともしらぬ−けふりたに−さきたつひとと−おもふあはれを


10460
未入力 正徹 (xxx)

あととへは十の三とせにみし夢は覚めてもさめぬ涙おつらん

あととへは−とをのみとせに−みしゆめは−さめてもさめぬ−なみたおつらむ


10461
未入力 正徹 (xxx)

これも猶あさけの風の末の露もとあらの桜一花もなし

これもなほ−あさけのかせの−すゑのつゆ−もとあらのさくら−ひとはなもなし


10462
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早瀬川花も紅葉もなかれにしかたみの水のあわそ消行く

はやせかは−はなももみちも−なかれにし−かたみのみつの−あわそきえゆく


10463
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おろかなる我にかへりてたつねみよとくより外の法の心を

おろかなる−われにかへりて−たつねみよ−とくよりほかの−のりのこころを


10464
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へたてつる十のさかひそおのつからひとつ心のうちにひらくる

へたてつる−とをのさかひそ−おのつから−ひとつこころの−うちにひらくる


10465
未入力 正徹 (xxx)

世にいてし四十年あまりのみことのり一もとかぬ仏とをしれ

よにいてし−よそちあまりの−みことのり−ひとつもとかぬ−ほとけとをしれ


10466
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あさけれと此百種の言葉も皆我か国の法をとくなり

あさけれと−このももくさの−ことのはも−みなわかくにの−のりをとくなり


10467
未入力 正徹 (xxx)

おもほえす仏や神につかふとて此一度そいまた旅なる

おもほえす−ほとけやかみに−つかふとて−このひとたひそ−いまたたひなる


10468
未入力 正徹 (xxx)

見てもしれつひに一木そまことなるかりにならひし三の浜松

みてもしれ−つひにひときそ−まことなる−かりにならひし−みつのはままつ


10469
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めくりこし三の界を此たひやいてて仏を友とたのまん

めくりこし−みつのさかひを−このたひや−いててほとけを−ともとたのまむ


10470
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仏とも法ともしらぬ人にこそもとのさとりはふかくみえけれ

ほとけとも−のりともしらぬ−ひとにこそ−もとのさとりは−ふかくみえけれ


10471
未入力 正徹 (xxx)

一かたにうつりうつらす久かたの中なる法の花のかかみは

ひとかたに−うつりうつらす−ひさかたの−うちなるのりの−はなのかかみは


10472
未入力 正徹 (xxx)

しるしらす人の心にてる月や鷲の高根にあり明の空

しるしらす−ひとのこころに−てるつきや−わしのたかねに−ありあけのそら


10473
未入力 正徹 (xxx)

おのつからつくりなしぬる続歌は百の仏のみそきなりけり

おのつから−つくりなしぬる−つつけうたは−もものほとけの−みそきなりけり


10474
未入力 正徹 (xxx)

あふきみる鷲の高ねの春の花人の心にひらけてそ行く

あふきみる−わしのたかねの−はるのはな−ひとのこころに−ひらけてそゆく


10475
未入力 正徹 (xxx)

いまもこし一日一夜にときおきし法のかきりの望月の雲

いまもこし−ひとひひとよに−ときおきし−のりのかきりの−もちつきのくも


10476
未入力 正徹 (xxx)

露おつる一の音を色色にきくの心の花やひらけん

つゆおつる−ひとつのおとを−いろいろに−きくのこころの−はなやひらけむ


10477
未入力 正徹 (xxx)

誰かきく三世の仏もいてぬまにときをはりての後にとく法

たれかきく−みよのほとけも−いてぬまに−ときをはりての−のちにとくのり


10478
未入力 正徹 (xxx)

心よりすみのほるかな山のはにいつへき月をまねく庵は

こころより−すみのほるかな−やまのはに−いつへきつきを−まねくいほりは


10479
未入力 正徹 (xxx)

かのきしにうかへる月の舟よせよいてては西にゆかぬよもなし

かのきしに−うかへるつきの−ふねよせよ−いててはにしに−ゆかぬよもなし


10480
未入力 正徹 (xxx)

聞きかたくうけかたき身にたもちおかむ四十の後の法の実を

ききかたく−うけかたきみに−たもちおかむ−よそちののちの−のりのまことを


10481
未入力 正徹 (xxx)

こゑそせぬ三世の仏の名をとへはたれそ心のおくにこたふる

こゑそせぬ−みよのほとけの−なをとへは−たれそこころの−おくにこたふる


10482
未入力 正徹 (xxx)

たれかとくとかるる程そ説きおきしとかれぬ法の時そともなき

たれかとく−とかるるほとそ−ときおきし−とかれぬのりの−ときそともなき


10483
未入力 正徹 (xxx)

我か仏たふとしといふことのはのあへるをしらぬ人もこそあれ

わかほとけ−たふとしといふ−ことのはの−あへるをしらぬ−ひともこそあれ


10484
未入力 正徹 (xxx)

二ある手をむなしくはよもなさし三の宝の山にいる人

ふたつある−てをむなしくは−よもなさし−みつのたからの−やまにいるひと


10485
未入力 正徹 (xxx)

さとりえぬなけきの本と思ひこし我か身に法の花咲きにけり

さとりえぬ−なけきのもとと−おもひこし−わかみにのりの−はなさきにけり


10486
未入力 正徹 (xxx)

おのつから法のなかれと成りぬらん我か水くきのつもることのは

おのつから−のりのなかれと−なりぬらむ−わかみつくきの−つもることのは


10487
未入力 正徹 (xxx)

いまそ猶三の衣につつみおく光あらはに御代を照さん

いまそなほ−みつのころもに−つつみおく−ひかりあらはに−みよをてらさむ


10488
未入力 正徹 (xxx)

をしへおく法の心をさとらすはつたへぬ道や更になからん

をしへおく−のりのこころを−さとらすは−つたへぬみちや−さらになからむ


10489
未入力 正徹 (xxx)

山もみなもとの仏のすかたにてたえす御法をとく嵐かな

やまもみな−もとのほとけの−すかたにて−たえすみのりを−とくあらしかな


10490
未入力 正徹 (xxx)

さとるをもひらくか法の庭の松つらなる枝も雪の初花

さとるをも−ひらくかのりの−にはのまつ−つらなるえたも−ゆきのはつはな


10491
未入力 正徹 (xxx)

草木かは生きとしいける物はみな仏のなれるすかたをそかる

くさきかは−いきとしいける−ものはみな−ほとけのなれる−すかたをそかる


10492
未入力 正徹 (xxx)

大空に目をとちひらく度ことに身のはれくもる月日をそしる

おほそらに−めをとちひらく−たひことに−みのはれくもる−つきひをそしる


10493
未入力 正徹 (xxx)

まよふとも我より外にもとむへき法しなけれは心にそとふ

まよふとも−われよりほかに−もとむへき−のりしなけれは−こころにそとふ


10494
未入力 正徹 (xxx)

ときとかぬ法の二の道たえてもとのさとりは悟りともなし

ときとかぬ−のりのふたつの−みちたえて−もとのさとりは−さとりともなし


10495
未入力 正徹 (xxx)

あふ事は四十あまりの法なからさらにときたる一もしもなし

あふことは−よそちあまりの−のりなから−さらにときたる−ひともしもなし


10496
未入力 正徹 (xxx)

たつね見るふかき心にやとりきていく夜の月の胸にみつらん

たつねみる−ふかきこころに−やとりきて−いくよのつきの−むねにみつらむ


10497
未入力 正徹 (xxx)

さりともな三の宝の世にまさはおろかなる身も其数そかし

さりともな−みつのたからの−よにまさは−おろかなるみも−そのかすそかし


10498
未入力 正徹 (xxx)

さくこともちる事もなしかかれはやしきみの花を仏うくらん

さくことも−ちることもなし−かかれはや−しきみのはなを−ほとけうくらむ


10499
未入力 正徹 (xxx)

尋ねてもあひみんものか法の師のかくれし鷲の山にありとも

たつねても−あひみむものか−のりのしの−かくれしわしの−やまにありとも


10500
未入力 正徹 (xxx)

あやふくもあやふからすもおもふなよわたす仏のままのつきはし

あやふくも−あやふからすも−おもふなよ−わたすほとけの−ままのつきはし


10501
未入力 正徹 (xxx)

くらき夜は松ふりたてて行く賎の光にあふもさそなうれしき

くらきよは−まつふりたてて−ゆくしつの−ひかりにあふも−さそなうれしき


10502
未入力 正徹 (xxx)

しつかなる我かむね分けていつる月ふりさけみれは村雲の月

しつかなる−わかむねわけて−いつるつき−ふりさけみれは−むらくものつき


10503
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老か身の□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

おいかみの−ххххххх−ххххх−ххххххх−ххххххх


10504
未入力 正徹 (xxx)

もとよりもにこらさりける身をなせる四の一の水清くして

もとよりも−にこらさりける−みをなせる−よつのひとつの−みつきよくして


10505
未入力 正徹 (xxx)

おのつからあへる時かなやとれとは水も思はす月もたつねす

おのつから−あへるときかな−やとれとは−みつもおもはす−つきもたつねす


10506
未入力 正徹 (xxx)

すますなり此一度の花すすく水より清きもとの心を

すますなり−このひとたひの−はなすすく−みつよりきよき−もとのこころを


10507
未入力 正徹 (xxx)

おのつから法の衣を清むなりちらせる杖の水のしら玉

おのつから−のりのころもを−きよむなり−ちらせるつゑの−みつのしらたま


10508
未入力 正徹 (xxx)

めくみをもけにもらさすはおろかなることのはまても神やうけまし

めくみをも−けにもらさすは−おろかなる−ことのはまても−かみやうけまし


10509
未入力 正徹 (xxx)

千はやふる神の御国に生れあふ我か行末を猶たのむなり

ちはやふる−かみのみくにに−うまれあふ−わかゆくすゑを−なほたのむなり


10510
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すみ吉のかみの心にかよははやおろかなる身のしきしまの道

すみよしの−かみのこころに−かよははや−おろかなるみの−しきしまのみち


10511
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いま祈る心の道の一すちそ神もまことにうけは引くへき

いまいのる−こころのみちの−ひとすちそ−かみもまことに−うけはひくへき


10512
未入力 正徹 (xxx)

調七日七夜こもりぬ春日山此のちの世を神にまかせて

ххなぬか−ななよこもりぬ−かすかやま−こののちのよを−かみにまかせて


10513
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此山のあらゆる神に手向くなりみよことのはのぬさの追風

このやまの−あらゆるかみに−たむくなり−みよことのはの−ぬさのおひかせ


10514
未入力 正徹 (xxx)

いにしへのわか父母そ神となる此世にすくへめくりあひにき

いにしへの−わかちちははそ−かみとなる−このよにすくへ−めくりあひにき


10515
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手向をはそこともささし日本にあらゆる神の見るにまかせて

たむけをは−そこともささし−ひのもとに−あらゆるかみの−みるにまかせて


10516
未入力 正徹 (xxx)

言葉の玉をみかきて大内の神の鏡もてらしそふらし

ことのはの−たまをみかきて−おほうちの−かみのかかみも−てらしそふらし


10517
未入力 正徹 (xxx)

神垣やしめの内外のゆふしてにけふはぬきほをかけやそふらん

かみかきや−しめのうちとの−ゆふしてに−けふはぬきほを−かけやそふらむ


10518
未入力 正徹 (xxx)

神となり人と生れて此国にきたれはまなふしきしまの道

かみとなり−ひととうまれて−このくにに−きたれはまなふ−しきしまのみち


10519
未入力 正徹 (xxx)

身にそしる七の社の七夜まて契なくてはかくはつかへし

みにそしる−ななのやしろの−ななよまて−ちきりなくては−かくはつかへし


10520
未入力 正徹 (xxx)

よそに見る神のいかきを思ひねの宮この夢に夜や越えまし

よそにみる−かみのいかきを−おもひねの−みやこのゆめに−よるやこえまし


10521
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住吉の神もしるらん石清水生ひそふ竹の世世の言のは

すみよしの−かみもしるらむ−いはしみつ−おひそふたけの−よよのことのは


10522
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みかけ人万の神のやはらくる光そやかてやまとことのは

みかけひと−よろつのかみの−やはらくる−ひかりそやかて−やまとことのは


10523
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にこる世の我等かために神となり仏としれは涙おちつつ

にこるよの−われらかために−かみとなり−ほとけとしれは−なみたおちつつ


10524
未入力 正徹 (xxx)

此国にあとをそたるる敷島の道をしらきの神もうくらん

このくにに−あとをそたるる−しきしまの−みちをしらきの−かみもうくらむ


10525
未入力 正徹 (xxx)

狩人の矢さきの鹿もうれふなよ神そすくはんすはのみさ山

かりひとの−やさきのしかも−うれふなよ−かみそすくはむ−すはのみさやま


10526
未入力 正徹 (xxx)

あふけ猶物いひかはすことのはは神代の歌そしきしまの道

あふけなほ−ものいひかはす−ことのはは−かみよのうたそ−しきしまのみち


10527
未入力 正徹 (xxx)

芦原はもとより神の国なれはいつくもいかてめくみなからん

あしはらは−もとよりかみの−くになれは−いつくもいかて−めくみなからむ


10528
未入力 正徹 (xxx)

神や又神のしをりの跡しめて右の馬場にひかりならへし

かみやまた−かみのしをりの−あとしめて−みきのうまはに−ひかりならへし


10529
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ことの葉のかけを社と松しめてつくりみかかぬ玉津島守

ことのはの−かけをやしろと−まつしめて−つくりみかかぬ−たまつしまもり


10530
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神ませは草の庵とは心見す軒はは萱の宮はしらかも

かみませは−くさのいほとは−こころみす−のきははかやの−みやはしらかも


10531
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あふくへき万社はおほけれと我か庵の神にまつそつかふる

あふくへき−よろつやしろは−おほけれと−わかいほのかみに−まつそつかふる


10532
未入力 正徹 (xxx)

法そこれ此日本の神の国に仏も出ては歌をときてん

のりそこれ−このひのもとの−かみのくにに−ほとけもいては−うたをときてむ


10533
未入力 正徹 (xxx)

百かすは神の見るめにかなふてふ心のうみのことのはそこれ

ももかすは−かみのみるめに−かなふてふ−こころのうみの−ことのはそこれ


10534
未入力 正徹 (xxx)

まもるへき神のまことは有りなから人のいつはり世そしるしなき

まもるへき−かみのまことは−ありなから−ひとのいつはり−よそしるしなき


10535
未入力 正徹 (xxx)

思ふことたれかのこらむ日本の神をつくして手向する世に

おもふこと−たれかのこらむ−ひのもとの−かみをつくして−たむけするよに


10536
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ことのはに神やましはる朝きよめちりをさまれる宿に通ひて

ことのはに−かみやましはる−あさきよめ−ちりをさまれる−やとにかよひて


10537
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住吉の我か君とせし八幡山あふかさらめや世をはすつとも

すみよしの−わかきみとせし−やはたやま−あふかさらめや−よをはすつとも


10538
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ましはりしちりをはらひて八幡山君にあひみん日をや待つらん

ましはりし−ちりをはらひて−やはたやま−きみにあひみむ−ひをやまつらむ


10539
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宮人もあふひかささん酉の日を神やまつらんかものみつかき

みやひとも−あふひかささむ−とりのひを−かみやまつらむ−かものみつかき


10540
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天くたる神のいたせしことの葉の初を歌とたれかしらさる

あまくたる−かみのいたせし−ことのはの−はしめをうたと−たれかしらさる


10541
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いちはやき荒人かみそあらかねの此国土のかためとはなる

いちはやき−あらひとかみそ−あらかねの−このくにつちの−かためとはなる


10542
未入力 正徹 (xxx)

我ならぬ神こそなけれ神や又人の心を神としるらん

われならぬ−かみこそなけれ−かみやまた−ひとのこころを−かみとしるらむ


10543
未入力 正徹 (xxx)

住吉に年ふる霜の翁さひ道なたやしそ行すゑの空

すみよしに−としふるしもの−おきなさひ−みちなたやしそ−ゆくすゑのそら


10544
未入力 正徹 (xxx)

跡たるる神も仏も影なれは身をはなれたる光やはある

あとたるる−かみもほとけも−かけなれは−みをはなれたる−ひかりやはある


10545
未入力 正徹 (xxx)

ことの葉のつもるにつけて日本の神をもらさす手向けつるかな

ことのはの−つもるにつけて−ひのもとの−かみをもらさす−たむけつるかな


10546
未入力 正徹 (xxx)

住吉の神や生れて世のために行ををしへし和歌のうら人

すみよしの−かみやうまれて−よのために−みちををしへし−わかのうらひと


10547
未入力 正徹 (xxx)

八雲たつ遠山かつらゆふかけて出雲の宮になひく神風

やくもたつ−とほやまかつら−ゆふかけて−いつものみやに−なひくかみかせ


10548
未入力 正徹 (xxx)

天下きよき春かな神社あまたまつりて年そくれにし

あめかした−きよきはるかな−かみやしろ−あまたまつりて−としそくれにし


10549
未入力 正徹 (xxx)

住吉の神の見るめにかなふ浪ことしよせはや松のことのは

すみよしの−かみのみるめに−かなふなみ−ことしよせはや−まつのことのは


10550
未入力 正徹 (xxx)

手向歌天つ国つの社よりかすをつくして神やうくらん

たむけうた−あまつくにつの−やしろより−かすをつくして−かみやうくらむ


10551
未入力 正徹 (xxx)

道まもる神のすかたにあふくなり住吉の松玉津しま山

みちまもる−かみのすかたに−あふくなり−すみよしのまつ−たまつしまやま


10552
未入力 正徹 (xxx)

あたらしきことのはもかな廿とせに社はかはるすみよしの松

あたらしき−ことのはもかな−はたとせに−やしろはかはる−すみよしのまつ


10553
未入力 正徹 (xxx)

社あれて神やいつこと見えなからゆゑあるへくもふしをかみつつ

やしろあれて−かみやいつこと−みえなから−ゆゑあるへくも−ふしをかみつつ


10554
未入力 正徹 (xxx)

みたらしや神のいもひにかくこりの水にこるとも心清くは

みたらしや−かみのいもひに−かくこりの−みつにこるとも−こころきよくは


10555
未入力 正徹 (xxx)

ましりても塵なき神の御心をたれくみしれとすみの江の水

ましりても−ちりなきかみの−みこころを−たれくみしれと−すみのえのみつ


10556
未入力 正徹 (xxx)

秋をまつ星も影をやうつすらん神の手あらふ水のたらひに

あきをまつ−ほしもかけをや−うつすらむ−かみのてあらふ−みつのたらひに


10557
未入力 正徹 (xxx)

影うつす神のよるへの水のこと清くすめるを心ともかな

かけうつす−かみのよるへの−みつのこと−きよくすめるを−こころともかな


10558
未入力 正徹 (xxx)

かたそきの神もろ人のことの葉を玉くしの枝とけふやうくらん

かたそきの−かみもろひとの−ことのはを−たまくしのえと−けふやうくらむ


10559
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七日ふる宮こを旅のかり宮にたつる榊そ神の八重山

なぬかふる−みやこをたひの−かりみやに−たつるさかきそ−かみのやへやま


10560
未入力 正徹 (xxx)

御戸ちかく神のみつしや袖ふれてたつる榊もかににほふらん

みとちかく−かみのみつしや−そてふれて−たつるさかきも−かににほふらむ


10561
未入力 正徹 (xxx)

宮柱めくる月日もかきりなきしたつ岩ねの榊はのかけ

みやはしら−めくるつきひも−かきりなき−したついはねの−さかきはのかけ


10562
未入力 正徹 (xxx)

二柱四重のみかきの八重榊ゆゑあるへしとあふくはかりそ

ふたはしら−よへのみかきの−やへさかき−ゆゑあるへしと−あふくはかりそ


10563
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くもらしな松を宮ゐに鏡かけつくりみかかぬ玉つしま山

くもらしな−まつをみやゐに−かかみかけ−つくりみかかぬ−たまつしまやま


10564
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人もみなもとのさとりをひらけとやをさめし三の箱崎の松

ひともみな−もとのさとりを−ひらけとや−をさめしみつの−はこさきのまつ


10565
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すよしの松にとははやありふへき身はかたそきの神やうくらん

すみよしの−まつにとははや−ありふへき−みはかたそきの−かみやうくらむ


10566
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色をしる人こそさらにかたそきの神の見るめの松のことのは

いろをしる−ひとこそさらに−かたそきの−かみのみるめの−まつのことのは


10567
未入力 正徹 (xxx)

古の風をあふかんしきしまや道のひしりの廟の松はら

いにしへの−かせをあふかむ−しきしまや−みちのひしりの−へうのまつはら


10568
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さかゆけと民のかまとや思ふらし平野の杉のもとのちかひは

さかゆけと−たみのかまとや−おもふらし−ひらののすきの−もとのちかひは


10569
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紙屋川北野平野の神杉をなかれわけたる水の白なみ

かみやかは−きたのひらのの−かみすきを−なかれわけたる−みつのしらなみ


10570
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世ををさめ国をしつむるしるしとや神の社に鉾杉たつらん

よををさめ−くにをしつむる−しるしとや−かみのやしろに−むすきたつらむ


10571
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神路山四重の御かきに八重のしめたつる榊になひくゆふして

かみちやま−よへのみかきに−やへのしめ−たつるさかきに−なひくゆふして


10572
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神社我か庵の園の竹の世もすみよかれとや跡をしめけん

かみやしろ−わかいほのそのの−たけのよも−すみよかれとや−あとをしめけむ


10573
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岸ちかくいま住吉の宮つくりはまにかすそふ人の家家

きしちかく−いますみよしの−みやつくり−はまにかすそふ−ひとのいへいへ


10574
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玉の戸も光くもらすみつかきの久しくちりにましはれる神

たまのとも−ひかりくもらす−みつかきの−ひさしくちりに−ましはれるかみ


10575
未入力 正徹 (xxx)

神風も四重のみかきの世にこえて君にふれよとさそ祈るらん

かみかせも−よへのみかきの−よにこえて−きみにふれよと−さそいのるらむ


10576
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吹くかせも昔に似たるのとけさやなほかたそきの行あひの松

ふくかせも−むかしににたる−のとけさや−なほかたそきの−ゆきあひのまつ


10577
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うれしくも神のみ山の松風を七夜の苔の袖の聞きつる

うれしくも−かみのみやまの−まつかせを−ななよのこけの−そてのききつる


10578
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こく船のかとりの崎の岩の上によせてちる浪の又手向くなり

こくふねの−かとりのさきの−いはのうへに−よせてちるなみの−またたむくなり


10579
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住吉の四の社は四の時万かへりの年やまもらん

すみよしの−よつのやしろは−よつのとき−よろつかへりの−としやまもらむ


10580
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契りおかむいまは宮こにかへるさに又行合の住よしの松

ちきりおかむ−いまはみやこに−かへるさに−またゆきあひの−すみよしのまつ


10581
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神もさそまことの道とみつかきの久しき法の末まもるらん

かみもさそ−まことのみちと−みつかきの−ひさしきのりの−すゑまもるらむ


10582
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手向していのるしるしをみつかきのひさしく君や御代につかへん

たむけして−いのるしるしを−みつかきの−ひさしくきみや−みよにつかへむ


10583
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うれしくも七夜をかけてみつかきの春の霞にこもりぬるかな

うれしくも−ななよをかけて−みつかきの−はるのかすみに−こもりぬるかな


10584
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ことの葉を手向けし数も瑞霞の久しく成りぬ神やうけけん

ことのはを−たむけしかすも−みつかきの−ひさしくなりぬ−かみやうけけむ


10585
未入力 正徹 (xxx)

あふくてふ人の心にまかせつつ千とせ万代君はかきらし

あふくてふ−ひとのこころに−まかせつつ−ちとせよろつよ−きみはかきらし


10586
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十かへりの花やにほはん和歌の浦の二葉の松の春のことのは

とかへりの−はなやにほはむ−わかのうらの−ふたはのまつの−はるのことのは


10587
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おしなへてたれも心にかなふをや君か代いのることふきにせん

おしなへて−たれもこころに−かなふをや−きみかよいのる−ことふきにせむ


10588
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しきしまや此ことの葉の末の世をかけしはしめそ天のうきはし

しきしまや−このことのはの−すゑのよを−かけしはしめそ−あめのうきはし


10589
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なかくさせ八千世ませとのくりことも老いてそいととしつのをたまき

なかくさせ−やちよませとの−くりことも−おいてそいとと−しつのをたまき


10590
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つたへくる御法もひろき天地を祈るままにや猶さかへまし

つたへくる−みのりもひろき−あめつちを−いのるままにや−なほさかへまし


10591
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万代と跡たれそめし敷島の国のさかへは神のまにまに

よろつよと−あとたれそめし−しきしまの−くにのさかへは−かみのまにまに


10592
未入力 正徹 (xxx)

宮柱神のさためし五百年ののちのさかへにめくりあはなん

みやはしら−かみのさためし−いほとせの−のちのさかへに−めくりあはなむ


10593
未入力 正徹 (xxx)

ありへんは心のままを人ことにさしてないひそ千とせ万世

ありへむは−こころのままを−ひとことに−さしてないひそ−ちとせよろつよ


10594
未入力 正徹 (xxx)

かきりなき君か八千世の有数をつもりの浦の砂にそみる

かきりなき−きみかやちよの−ありかすを−つもりのうらの−いさこにそみる


10595
未入力 正徹 (xxx)

諸人の心のままにいははなん千代万代はいひなれてけり

もろひとの−こころのままに−いははなむ−ちよよろつよは−いひなれてけり


10596
未入力 正徹 (xxx)

国民もやすかれと祈ること草よ君は千世ませいのるなりけり

くにたみも−やすかれといのる−ことくさよ−きみはちよませ−いのるなりけり


10597
未入力 正徹 (xxx)

法の師の契結ひし都とて御代もさかへは寺もさかえん

のりのしの−ちきりむすひし−みやことて−みよもさかへは−てらもさかえむ


10598
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ねかはくは生きとしいける物ともに本の覚をはやくひらかん

ねかはくは−いきとしいける−ものともに−もとのさとりを−はやくひらかむ


10599
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名もたかく国をかさねて我か君のめくみをうけよふしの山守

なもたかく−くにをかさねて−わかきみの−めくみをうけよ−ふしのやまもり


10600
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神の代のあまてる日次月次にたえせぬ道そしきしまの歌

かみのよの−あまてるひなみ−つきなみに−たえせぬみちそ−しきしまのうた


10601
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世ををさめ民をめくむも君と臣身を合せたる時そかしこき

よををさめ−たみをめくむも−きみとひと−みをあはせたる−ときそかしこき


10602
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しつかにて身と心とをよくしれは神と仏の二なりけり

しつかにて−みとこころとを−よくしれは−かみとほとけの−ふたつなりけり


10603
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神路山行末とほきかちあよみ千とせの数やはこひ置きけん

かみちやま−ゆくすゑとほき−かちあよみ−ちとせのかすや−はこひおきけむ


10604
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神やしる百の手向も年年につもれはつもる君かよはひを

かみやしる−もものたむけも−としとしに−つもれはつもる−きみかよはひを


10605
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あふけ猶これも都にかへりなは君かめくみを三輪の神杉

あふけなほ−これもみやこに−かへりなは−きみかめくみを−みわのかみすき


10606
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いかかしる君にむかはすかけに居て世をいはふ人そ実なりける

いかかしる−きみにむかはす−かけにゐて−よをいはふひとそ−まことなりける


10607
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秋津すは人のつくらぬ国なれは代代のさかへも神のまにまに

あきつすは−ひとのつくらぬ−くになれは−よよのさかへも−かみのまにまに


10608
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ねかふことあまりおほきはなきににて春の初のことふきもせす

ねかふこと−あまりおほきは−なきににて−はるのはしめの−ことふきもせす


10609
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君か代は白雲かかる塵山の山をつくしてちりとなるまて

きみかよは−しらくもかかる−ちりやまの−やまをつくして−ちりとなるまて


10610
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御熊野や浜ゆふならぬしめ縄もいくへにかけて君を祈らん

みくまのや−はまゆふならぬ−しめなはも−いくへにかけて−きみをいのらむ


10611
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世にふれは一木の陰もあし原の国つ社の数そそひゆく

よにふれは−ひときのかけも−あしはらの−くにつやしろの−かすそそひゆく


10612
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神垣の松のよはひもかきりなく久しかるへき法の行末

かみかきの−まつのよはひも−かきりなく−ひさしかるへき−のりのゆくすゑ


10613
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ことの葉の種をそ神はうゑおきし松に生ひたつ住吉の岸

ことのはの−たねをそかみは−うゑおきし−まつにおひたつ−すみよしのきし


10614
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家家の風はあれとも君か代のちりをさまれる時そかしこき

いへいへの−かせはあれとも−きみかよの−ちりをさまれる−ときそかしこき


10615
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さかふなりとよあし原の世のために神のはしめし道の言葉

さかふなり−とよあしはらの−よのために−かみのはしめし−みちのことのは


10616
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あふくなり道のまもりにならのはの其世にいてし若の浦人

あふくなり−みちのまもりに−ならのはの−そのよにいてし−わかのうらひと


10617
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たつねみよむかしの人の跡つけし此しきしまの道にあふまて

たつねみよ−むかしのひとの−あとつけし−このしきしまの−みちにあふまて


10618
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しきしまの道行く人も玉ほこの玉みかくへき憑ある世に

しきしまの−みちゆくひとも−たまほこの−たまみかくへき−たのみあるよに


10619
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尋ねみよ神をしるへに敷島のふるき道あるおくの光を

たつねみよ−かみをしるへに−しきしまの−ふるきみちある−おくのひかりを


10620
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すむ鶴のつはさの霜も年ふるき松に契りて幾世へぬらん

すむつるの−つはさのしもも−としふるき−まつにちきりて−いくよへぬらむ


10621
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うれしさを空にもつつめ毛衣の袂かひろき鶴のつはさは

うれしさを−そらにもつつめ−けころもの−たもとかひろき−つるのつはさは


10622
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くもりなきたた大空にむかひても君をは千世と祈るはかりそ

くもりなき−たたおほそらに−むかひても−きみをはちよと−いのるはかりそ


10623
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わたつ海の浪をそのまま敷島の国と成りにし土そ久しき

わたつうみの−なみをそのまま−しきしまの−くにとなりにし−つちそひさしき


10624
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天の世の豊あし原の国となり人と生れしのちそさかふる

あめのよの−とよあしはらの−くにとなり−ひととうまれし−のちそさかふる


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あつさ弓やそ氏神のまもります我か国国のいやさかへ行く

あつさゆみ−やそうちかみの−まもります−わかくにくにの−いやさかへゆく


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さりともと神をそあふく此国のあらんかきりの大和ことのは

さりともと−かみをそあふく−このくにの−あらむかきりの−やまとことのは


10627
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こととはむしるや雲ゐの都鳥我かおもふ友の千世の行末

こととはむ−しるやくもゐの−みやことり−わかおもふともの−ちよのゆくすゑ


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世にこえて猶そさかへんことの葉を神のさためし出雲八重垣

よにこえて−なほそさかへむ−ことのはを−かみのさためし−いつもやへかき


10629
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まなへたた神の代よりのことわさは此道のみのやまと言葉

まなへたた−かみのよよりの−ことわさは−このみちのみの−やまとことのは


10630
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いく世へぬ女神をかみの二はしらあひ見しままの天の浮橋

いくよへぬ−めかみをかみの−ふたはしら−あひみしままの−あめのうきはし


10631
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年そよき神の生れしむ月立つけふの一日の初ねにそあふ

としそよき−かみのうまれし−むつきたつ−けふのひとひの−はつねにそあふ


10632
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ましはるも君か代のため八幡山ふもとの塵の年つもるまて

ましはるも−きみかよのため−やはたやま−ふもとのちりの−としつもるまて


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いまもさそ神世のままにもろ人の物いふことはみな歌にして

いまもさそ−かみよのままに−もろひとの−ものいふことは−みなうたにして


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天にます神のうみてし国なれは此秋津洲とけにそいふなる

あめにます−かみのうみてし−くになれは−このあきつすと−けにそいふなる


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神風の吹くにまかせてことのはの花そ常はの色そまされる

かみかせの−ふくにまかせて−ことのはの−はなそときはの−いろそまされる


10636
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八幡山民をなつとや大ぬさの手ことに君か世になひくらん

やはたやま−たみをなつとや−おほぬさの−てことにきみか−よになひくらむ


10637
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ならへ見よ神路の山のかたそきに行合のぬしのしむる社を

ならへみよ−かみちのやまの−かたそきに−ゆきあひのぬしの−しむるやしろを


10638
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住吉や松の林にあとしめてさかへきにける世世のことの葉

すみよしや−まつのはやしに−あとしめて−さかへきにける−よよのことのは


10639
未入力 正徹 (xxx)

なからへて猶幾たひか宮柱たてかふる年に行合の松

なからへて−なほいくたひか−みやはしら−たてかふるとしに−ゆきあひのまつ


10640
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万代を契りそそむるすみ吉の神もこよひや松のことのは

よろつよを−ちきりそそむる−すみよしの−かみもこよひや−まつのことのは


10641
未入力 正徹 (xxx)

玉にぬく糸を百たひすけかへて君をいのりの千とせ万世

たまにぬく−いとをももたひ−すけかへて−きみをいのりの−ちとせよろつよ


10642
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しきしまの歌をまもりの神の世にあらむかきりの宿そさかへん

しきしまの−うたをまもりの−かみのよに−あらむかきりの−やとそさかへむ


10643
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をさまれる世はしきしまの道ひろしせきあへぬまてたれも入りたて

をさまれる−よはしきしまの−みちひろし−せきあへぬまて−たれもいりたて